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  • 特許-全粒粉パン及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】全粒粉パン及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 13/02 20060101AFI20230901BHJP
【FI】
A21D13/02
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019206296
(22)【出願日】2019-11-14
(65)【公開番号】P2021078364
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-08-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年12月1日に株式会社木村屋総本店の直営店にて販売
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年12月30日に株式会社木村屋総本店のウェブサイトにて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和元年9月5日に株式会社木村屋総本店がオイシックス・ラ・大地株式会社の定期宅配サービスのウェブサイトにて公開及び販売
(73)【特許権者】
【識別番号】595125018
【氏名又は名称】株式会社木村屋総本店
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】小森谷 立男
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 裕貴
【審査官】川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/072501(WO,A1)
【文献】特開2010-148487(JP,A)
【文献】特開平11-346643(JP,A)
【文献】特開2017-079702(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0073240(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉、糖類、乳製品、酵母、卵、油脂、酢、および塩を含有し、前記小麦粉の90重量%以上が全粒粉であり、前記乳製品の90重量%以上が生クリームである全粒粉パン。
【請求項2】
前記油脂の90重量%以上がオリーブオイルである請求項1に記載の全粒粉パン。
【請求項3】
前記酵母が酒種を含む請求項1又は2に記載の全粒粉パン。
【請求項4】
前記小麦粉が100重量部、前記糖類が10~35重量部、前記乳製品が8~30重量部、前記酵母が4~45重量部、前記卵が3~20重量部、前記油脂が2~15重量部、前記酢が1~5重量部、前記塩が0.5~3重量部である請求項1~3のいずれか一項に記載の全粒粉パン。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の全粒粉パンによって餡が包まれている菓子パン。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の全粒粉パンに、クルミ、レーズン又はゴマが分散している菓子パン。
【請求項7】
小麦粉、糖類、乳製品、酵母、卵、油脂、酢、塩、及び水を含む生地の各材料を混合し、捏ねて生地を作る工程と、
前記生地を一次発酵させる工程と、
前記一次発酵させた生地を、分割、成型する工程と、
前記成型した生地を二次発酵させる工程と、
前記二次発酵させた生地を焼成する工程とを含み、
前記小麦粉の90重量%以上が全粒粉であり、前記乳製品の90重量%以上が生クリームである全粒粉パンの製造方法。
【請求項8】
前記生地を作る工程が、前記生地の各材料のうち、小麦粉の一部、糖類の一部、酢の一部、及び塩の一部、並びに湯を混合し、捏ねて湯種生地を作る工程と、前記湯種生地と、前記生地の各材料のうちの残りの各材料を混合し、捏ねて本捏生地を作る工程とを更に含む請求項7に記載の全粒粉パンの製造方法。
【請求項9】
前記生地を作る工程において、前記小麦粉が100重量部、前記糖類が10~35重量部、前記乳製品が8~30重量部、前記酵母が4~45量部、前記卵が3~20重量部、前記油脂が2~15重量部、前記酢が1~5重量部、前記塩が0.5~3重量部、前記水が25~45重量部である請求項7に記載の全粒粉パンの製造方法。
【請求項10】
前記湯種を作る工程において、前記小麦粉の一部が100重量部、前記糖類の一部が7~30重量部、前記酢の一部が1~5重量部、前記塩の一部が0.5~3重量部、前記湯が50~80重量部であり、
前記本捏生地を作る工程において、前記小麦粉の残りが100重量部、前記糖類の一部が10~35重量部、前記乳製品が10~30重量部、前記酵母が8~50重量部、前記卵が5~20重量部、前記油脂が3~15重量部、前記酢の残りが1~5重量部、前記塩の残りが0.5~3重量部、前記湯種生地が40~60重量部、前記水が20~35重量部である請求項8に記載の全粒粉パンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全粒粉パン及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パンに一般的に用いられる強力粉などの小麦粉は、製粉工程で小麦の皮部(ふすま)や胚芽が取り除かれている。一方、全粒粉の小麦粉は、小麦まるごとを粉状にしたものであり、ふすまや胚芽を含むため、食物繊維や、ビタミン、ミネラル類が豊富であり、健康意識の高まりから、全粒粉の小麦粉を用いたパンも現在、市販されている。
【0003】
しかしながら、全粒粉はビタミン、ミネラル、食物繊維などが豊富ではあるが、ふすまや胚芽を含み、ふすま特有の臭みやエグミがあることから、全粒粉を用いたパンは、硬くざらついた食感があり、また、臭みやエグミも残り、美味しさに欠けていた。市販されている全粒粉のパンの多くは、小麦粉の一部に全粒粉を用いたものであり、小麦粉の90重量%以上等のほとんど全部を全粒粉にして美味しいパンを焼くことは非常に難しいという問題があった。
【0004】
一方で、ふすま特有の臭みやエグミを低減させた全粒粉の製造方法が開発されている。例えば、特許文献1には、小麦全粒粉を使用したベーカリー食品の風味や食感を改良するために、小麦全粒粉を品温145~180℃で5~20分間、乾熱処理した粒度100μm以下の体積頻度が70%以上で体積頻度50%の粒度が30μm以上80μm以下である焙焼小麦全粒粉が記載されている。また、特許文献2には、全粒粉を用いた二次加工品の風味及び食感を良好にするために、穀類を粉砕して得られた穀類全粒粉の全体に加熱処理、好ましくは湿熱処理を施す工程を有する、熱処理穀類全粒粉の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-050937号公報
【文献】特開2015-181463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これら特許文献に記載されているように、乾熱処理または湿熱処理した全粒粉によれば、ベーカリー食品などの二次加工品の風味や食感を良好にできると記載されているものの、このような処理をした全粒粉であっても、パンに配合される小麦粉のうちの90重量%以上等のほとんど全部を全粒粉とすると、依然として硬くパサつきがあり、食感や歯切れが良くないという問題があった。
【0007】
そこで本発明は、上記の問題点に鑑み、パンに配合される小麦粉のうちの90重量%以上を全粒粉としても、柔らかく、しっとりして、食感や歯切れの良い全粒粉パン及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、その一態様として、小麦粉、糖類、乳製品、酵母、卵、油脂、酢、および塩を含有する全粒粉パンであって、前記小麦粉の90重量%以上は全粒粉であり、前記乳製品の90重量%以上は生クリームであるものである。
【0009】
前記油脂の90重量%以上はオリーブオイルが好ましい。前記酵母は酒種を含むことが好ましい。前記小麦粉100重量部に対して、前記糖類を10~35重量部、前記乳製品を8~30重量部、前記酵母を4~45重量部、前記卵を3~20重量部、前記油脂を2~15重量部、前記酢を1~5重量部、前記塩を0.5~3重量部とすることが好ましい。
【0010】
本発明は、別の態様として、菓子パンであって、上述した全粒粉パンによって餡子が包まれているか、又は上述した全粒粉パンに、クルミ、レーズン又はゴマが分散しているものである。
【0011】
本発明は、また別の態様として、全粒粉パンの製造方法であって、この方法は、小麦粉、糖類、乳製品、酵母、卵、油脂、酢、塩、及び水を含む生地の各材料を混合し、捏ねて生地を作る工程と、前記生地を一次発酵させる工程と、前記一次発酵させた生地を、分割、成型する工程と、前記成型した生地を二次発酵させる工程と、前記二次発酵させた生地を焼成する工程とを含み、前記小麦粉の90重量%以上は全粒粉であり、前記乳製品の90重量%以上は生クリームである。
【0012】
前記生地を作る工程において、前記小麦粉100重量部に対して、前記糖類は10~35重量部、前記乳製品は8~30重量部、前記酵母は4~45重量部、前記卵は3~20重量部、前記油脂は2~15重量部、前記酢は1~5重量部、前記塩は0.5~3重量部、前記水は25~45重量部とすることが好ましい。
【0013】
前記生地を作る工程は、前記生地の各材料のうち、小麦粉の一部、糖類の一部、酢の一部、及び塩の一部、並びに湯を混合し、捏ねて湯種生地を作る工程と、前記湯種生地と、前記生地の各材料のうちの残りの各材料を混合し、捏ねて本捏生地を作る工程とを更に含むことが好ましい。
【0014】
前記湯種を作る工程において、前記小麦粉の一部を100重量部として、前記糖類の一部は7~30重量部、前記酢の一部は1~5重量部、前記塩の一部は0.5~3重量部、前記湯は50~80重量部とすることが好ましく、前記本捏生地を作る工程において、前記小麦粉の残りを100重量部として、前記糖類の一部は15~35重量部、前記乳製品は10~30重量部、前記酵母は8~50重量部、前記卵は5~20重量部、前記油脂は3~15重量部、前記酢の残りは1~5重量部、前記塩の残りは0.5~3重量部、前記湯種生地は40~60重量部、前記水は20~35重量部とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
このように本発明によれば、全粒粉パンの配合を、小麦粉、糖類、乳製品、酵母、卵、油脂、酢、および塩を含有するものとし、乳製品の90重量%以上を生クリームとすることで、小麦粉のうちの90重量%以上を全粒粉としても、柔らかく、しっとりして、食感や歯切れの良い全粒粉パンを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る全粒粉パンの製造方法の一実施の形態を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る全粒粉パン及びその製造方法の実施の形態について説明する。
【0018】
本実施の形態の全粒粉パンの製造方法は、図1に示すように、全粒粉パンの生地の各材料を混合し、捏ねて生地を作る生地作製工程1と、この生地を一次発酵させる一次発酵工程2と、一次発酵後の生地を分割、成型する分割・成型工程3と、この成型した生地を二次発酵させる二次発酵工程4と、この二次発酵させた生地を焼成する焼成工程5とを含むものである。本実施の形態では、生地作製工程1は、全粒粉パンの生地の各材料のうち、湯種生地の各材料を混合し、捏ねて湯種生地を作る湯種生地作製工程1Aと、この湯種生地と、残りの各材料とを混合し、本捏して本捏生地を作る本捏生地作製工程1Bとを含むものである。各工程について詳細に説明する。
【0019】
[1A.湯種生地作製工程]
湯種生地の材料として、小麦粉、糖類、酢、塩、および湯を用いる。湯種生地に配合される小麦粉の90重量%以上、好ましくは95重量%以上、より好ましくは100重量%を、全粒粉とする。全粒粉としては、平均粒径が60~320μmであり、品温が80~120℃で、3~5秒の湿熱処理された全粒粉を用いることが好ましい。このような湿熱処理された全粒粉は、市販されているものを使用でき、例えば、日清製粉株式会社の商品名スーパーファインハードがある。小麦粉の100重量%未満を全粒粉とする場合、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉などの他の小麦粉を加える。
【0020】
湯種生地に配合される糖類としては、例えば、ブドウ糖(グルコース)、果糖(フルクトース)、アラビノースなどの単糖類、ショ糖(スクロース)、異性化ショ糖(イソマルツロース)、還元イソマルツロース、麦芽糖(マルロース)、乳糖(ラクトース)、トレハロース、セロビオースなどの二糖類、オリゴ糖、キシリトール、マルチトール、ソルビトールなどの糖アルコールを用いてよい。ショ糖は、砂糖として市販されているものを使用でき、砂糖としては、例えば、素焚糖などの含蜜糖や、グラニュー糖、上白糖などの分蜜糖を使用することができる。異性化ショ糖は、市販されているものを使用でき、例えば、三井製糖株式会社の商品名パラチノース(登録商標)がある。還元イソマルツロースは、市販されているものを使用でき、三井製糖株式会社の商品名パラチニット(登録商標)がある。上記の糖類のうち、二糖類が好ましく、更に、全粒粉パンを食べた際の消化吸収速度が緩やかであるという観点から、異性化ショ糖を用いることが特に好ましく、また、ミネラル分を比較的に豊富に含み、さとうきび本来の風味が残る含蜜糖を用いることも特に好ましい。含蜜糖は、茶色い色合いのために強力粉100%などの白色のパンに加えると、パンの色が悪くなるが、全粒粉パンではパンの色が元々茶色いための問題にならない。
【0021】
湯種生地に配合される酢としては、殺菌効果と味、香りの観点から、リンゴ酢、ブドウ酢、梅酢、カキ酢などの果物酢が好ましい。これら果物酢の中でも、全粒粉のふすま特有の臭みを緩和できることから、アップルビネガーが特に好ましい。
【0022】
湯種生地に配合される塩としては、特に限定されず、市販されている塩を用いる。
【0023】
湯種生地を作る際に用いる湯は、60℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、沸騰した状態の湯が更に好ましい。温度が高い湯を用いることで、全粒粉の小麦粉の殺菌をより効果的に行うことができる。
【0024】
湯種生地の各材料の配合量は、小麦粉100重量部に対し、糖類を7~30重量部、酢を1~5重量部、塩を0.5~3重量部、湯を50~80重量部とすることが好ましい。このような配合量とすることで、全粒粉の小麦粉に含まれるデンプンを十分にアルファ化できるとともに、全粒粉の殺菌も十分に行うことができる。糖類は10~25重量部がより好ましい。酢は1~3重量部がより好ましい。塩は0.5~2重量部がより好ましい。湯は60~75重量部がより好ましい。このように湯種生地の各材料を計量して混合し、捏ねて湯種生地を作る。なお、糖類として、含蜜糖を用いる場合、糖類の配合量を少なくすることができ、例えば、7~17重量部が好ましく、10~14重量部がより好ましい。
【0025】
このように湯種生地の各材料を計量して混合し、捏ねて湯種生地を作る。混捏の条件は、特に限定されず、全粒粉ではない小麦粉で湯種生地を作る際の条件と同様でよく、例えば、湯種生地の温度は30~60℃に保ち、捏ね時間は2~10分でよい。また、混捏にミキサー等の機器を用いる場合、全粒粉ではない小麦粉で湯種生地を作る際に用いる機器と同様のものを使用できる。なお、湯種生地の作製は、一般的に本捏生地を作る前日に行われるが、本発明では、細菌の増殖を制御するため、本捏生地を作る当日に行うことが好ましい。
【0026】
[1B.本捏生地作製工程]
本捏生地の材料として、小麦粉、糖類、乳製品、酵母、卵、油脂、酢、塩、上述した湯種生地および水を用いる。本捏生地に配合される小麦粉の90重量%以上、好ましくは95重量%以上、より好ましくは100重量%を、全粒粉の小麦粉とする。全粒粉は、湯種生地の小麦粉と同様に、所定の湿熱処理された全粒粉を用いることが好ましい。小麦粉の100重量%未満を全粒粉とする場合、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉などの他の小麦粉を加える。
【0027】
本捏生地に配合される糖類としては、例えば、ブドウ糖(グルコース)、果糖(フルクトース)、アラビノースなどの単糖類、ショ糖(スクロース)、異性化ショ糖(イソマルツロース)、還元イソマルツロース、麦芽糖(マルロース)、乳糖(ラクトース)、トレハロース、セロビオースなどの二糖類、オリゴ糖、キシリトール、マルチトール、ソルビトールなどの糖アルコールを用いてよい。これら糖類のうち、二糖類が好ましく、全粒粉パンを食べた際の消化吸収速度が緩やかであるとともに、全粒粉パンの保水性を向上させるという観点から、異性化ショ糖とトレハロースの2つを用いることが特に好ましく、また、ミネラル分やさとうきび本来の風味を付与するとともに、全粒粉パンの保水性を向上させるという観点から、含蜜糖とトレハロースの2つを用いることが特に好ましい。糖類は、全粒粉の小麦粉と混ぜ合わせてから、他の材料と混合することが好ましい。
【0028】
本捏生地に配合される乳製品としては、本捏生地に配合される乳製品の90重量%以上、好ましくは95重量%以上、より好ましくは100重量%を生クリームとする。このように生クリームを使用することで、全粒粉の苦み、エグミを抑えるとともに、全粒粉を用いたパンを柔らかく、しっとりした焼き上がりにでき、食感や歯切れを改良することができる。生クリームの乳脂肪分は35~50%でよい。生クリームは、殺菌のため、沸騰させてから使用する。生クリームを乳製品の100重量%未満で使用する場合、例えば、牛乳(生乳)、加工乳などの乳製品を加える。
【0029】
本捏生地に配合される酵母としては、例えば、パン酵母や、酒種を用いることができる。特に、本捏生地のpHを下げたり、全粒粉の小麦粉の殺菌に寄与する観点から、酒種を用いることが好ましい。パン酵母と酒種の両方を用いてもよい。パン酵母は、市販されているものを広く使用することができる。酒種は、米と麹を発酵させて作った清酒酵母であれば広く使用することができる。酒種は、常温よりも20~30℃温めてから使用する。
【0030】
本捏生地に配合される卵としては、全卵を用いることが好ましい。市販されている全卵を割卵した液卵を使用してもよい。液卵は、卵黄の形状が維持されたホールタイプでもよいし、全卵が均一に裏ごしされた濾過タイプでもよい。液卵は、殺菌されたものが好ましい。
【0031】
本捏生地に配合される油脂としては、オリーブオイル、グレープシードオイル、ベニバナ油、アマニ油、エゴマ油などの植物性油脂や、バターなどの動物性油脂を用いることができる。これら油脂のうち、植物性油脂が好ましく、不飽和脂肪酸であるオレイン酸が比較的に多く含まれているとともに、味、香りの観点から、オリーブオイルが特に好ましい。バターは、パンの味、香りに大きく寄与する重要な油脂であるが、飽和脂肪酸が比較的に多く含まれていることから、このバターに替えてオリーブオイルを用いることで、飽和脂肪酸の摂取量を大幅に下げることができるとともに、全粒粉に合った風味の良い全粒粉パンにすることができる。オリーブオイルを用いる場合、本捏生地に配合される油脂の90重量%以上、好ましくは95重量%以上、より好ましくは100重量%をオリーブオイルとすることが好ましい。オリーブオイルを油脂の100重量%未満で使用する場合、動物性油脂を加えることは避け、また、植物性油脂でも、トランス脂肪酸が比較的に多く含まれているマーガリンやショートニングなどの常温で固形または半固形のものを加えることは避け、オリーブオイル以外の常温で液体の植物性油脂を加えることが好ましい。
【0032】
本捏生地に配合される酢としては、湯種生地で配合する場合と同様に、殺菌効果と味、香りの観点から、リンゴ酢、ブドウ酢、梅酢、カキ酢などの果物酢が好ましい。これら果物酢の中でも、全粒粉のふすま特有の臭み、苦みを特に抑えることができることから、アップルビネガーが好ましい。
【0033】
本捏生地に配合される塩としては、特に限定されず、市販されている塩を用いる。
【0034】
本捏生地を作製する際に用いる水としては、特に限定されず、水道水または天然水を用いる。水の温度は常温でよい。
【0035】
本捏生地の各材料の配合量は、小麦粉100重量部に対し、糖類を10~35重量部、乳製品を10~30重量部、酵母を8~50重量部、卵を5~20重量部、油脂を3~15重量部、酢を1~5重量部、塩を0.5~3重量部、湯種生地を40~60重量部、水を20~35重量部とすることが好ましい。このような配合量とすることで、小麦粉の90重量%以上を全粒粉にしても、柔らかく、しっとりした全粒粉パンを焼き上げることができる。
【0036】
糖類は、例えば、15~35重量部がより好ましく、20~30重量部が更に好ましい。糖類として、異性化ショ糖とトレハロースの2つを用いる場合、異性化ショ糖12~28重量部、トレハロース3~7重量部とすることが好ましく、異性化ショ糖16~24重量部、トレハロース4~6重量部とすることがより好ましい。また、糖類は、例えば、10~24重量部がより好ましく、14~20重量部が更に好ましい。含蜜糖とトレハロースの2つを用いる場合、含蜜糖7~17重量部、トレハロース3~7重量部とすることが好ましく、含蜜糖10~14重量部、トレハロース4~6重量部とすることがより好ましい。乳製品は15~25重量部がより好ましい。酵母は10~30重量部がより好ましく、15~25重量部が更に好ましい。酵母として、酒種とパン酵母の2つを用いる場合、酒種8~24重量部、パン酵母2~6重量部とすることが好ましく、酒種12~20重量部、パン酵母3~5重量部とすることがより好ましい。卵は5~15重量部がより好ましい。油脂は3~12重量部がより好ましい。酢は1~3重量部がより好ましい。塩は0.5~2重量部がより好ましい。湯種生地は45~55重量部がより好ましい。水は23~32重量部がより好ましい。
【0037】
このように湯種生地の各材料を計量して混合し、本捏して本捏生地を作製する。本捏の条件は、全粒粉ではない小麦粉で本捏生地を作る際の条件と同様でよく、例えば、本捏生地の温度は室温から30℃に保ち、時間は5~15分でよい。また、本捏にミキサー等の機器を用いる場合、全粒粉ではない小麦粉で本捏生地を作る際に用いる機器と同様のものを使用できる。
【0038】
なお、全粒粉パンに種実類やドライフルーツが分散した菓子パンを製造する場合は、上述した本捏生地の他の各材料とともに、種実類やドライフルーツを混合、練り込んで本捏生地を作製する。種実類としては、例えば、クルミ、ゴマ、アーモンド、ヘーゼルナッツなどがあり、特に、全粒粉の小麦粉との風味の相性から、クルミ、ゴマが特に好ましい。ドライフルーツとしては、例えば、レーズンや、イチジク、アプリコットなどを乾燥させたものがあり、特に、全粒粉の小麦粉との風味の相性から、レーズンが特に好ましい。種実類およびドライフルーツは、粒状またはスライス状のものを用いることが好ましい。
【0039】
[2.一次発酵工程]
一次発酵工程2は、上記によって得られた本捏生地中の糖分を酵母が分解することによってガスを発生させ、これによって本捏生地を膨らませる工程である。一次発酵の条件は、全粒粉ではない小麦粉で作った本捏生地を一次発酵させる際の条件と同様でよいが、本実施の形態の一次発酵工程2では、例えば、一次発酵室の温度を室温から30℃、湿度を70~80%とし、時間を50~90分とすることが好ましい。
【0040】
[3.分割・成型工程]
分割・成型工程3は、上記によって一次発酵させた生地を、所定の重量に分割し、丸める等の形を整え、ベンチタイムを経てから所定の形状に成型する工程である。分割する重量は、全粒粉ではない小麦粉で作る際の条件と同様でよいが、本実施の形態の分割・成型工程3では、例えば、作製するパンの種類によるが、30から200gとすることが好ましい。ベンチタイムの時間は、全粒粉ではない小麦粉で作る際の条件と同様でよいが、本実施の形態の分割・成型工程3では、例えば、20~30分とすることが好ましい。成型は、全粒粉ではない小麦粉で作る際と同様でよく、本実施の形態の分割・成型工程3では、例えば、ガス抜きをした後、作製するパンの種類に合わせて、角型などの所定の形状の型に生地を入れたり、型を用いずに所定の形状に成形したり、つぶ餡などの詰め物(フィリング)を生地で包んだりする。
【0041】
詰め物としては、例えば、つぶ餡、こし餡などの餡子の他、クリーム、ジャム、チョコレート、チーズ、カレーなどを用いてもよい。餡子の材料として、例えば、小豆と糖類を配合する。糖類としては、上述したパンの生地に配合する糖類と同様の各種糖類を用いることができるが、これら糖類のうち、二糖類が好ましく、餡子を食べた際の消化吸収速度が緩やかであるという観点から、異性化ショ糖を用いたり、ミネラル分やさとうきび本来の風味を付与するという観点から、含蜜糖を用いることが特に好ましい。餡子の各材料の配合量は、餡子全体を100重量%として、小豆を60~80重量%、糖類を20~40重量%とすることが好ましい。餡子には、更にグリシンを配合してもよく、その場合の配合量は、例えば、0.2~0.8重量%とする。
【0042】
[4.二次発酵工程]
二次発酵工程4は、上記によって成型された生地を再び発酵させる工程である。二次発酵の条件は、全粒粉ではない小麦粉で作る際の二次発酵の条件と同様でよく、一次発酵よりも高い温度とする。本実施の形態の二次発酵工程4では、例えば、生地をホイロに収納して、ホイロの温度を30~40℃、湿度を80~90%とし、時間を50~60分とすることが好ましい。また、二次発酵工程4の途中で、生地をホイロから取り出し、生地表面をカットする等してから、更に生地をホイロに収納して二次発酵を続けてもよい。
【0043】
[5.焼成工程]
焼成工程5は、上記によって二次発酵させた生地をオーブンや窯などで焼成して、全粒粉パンを焼き上げる工程である。焼成の条件は、全粒粉ではない小麦粉で作る際の条件と同様でよいが、本実施の形態の焼成工程5では、例えば、温度を190~220℃とし、時間を10~15分とすることが好ましい。
【0044】
全粒粉パンとしては、例えば、角食パン、山型パン、ちぎりパンなどの食パンの他、既に説明したように、つぶ餡などの詰め物がパンに包まれている菓子パンや、種実類またはドライフルーツがパンに分散されている菓子パンを製造してもよい。また、このように製造した全粒粉パンは、そのまま食べる以外に、更に調理を加えることもできる。例えば、全粒粉パンで具材を挟み、サンドウィッチなどの調理パンにしてもよい。
【0045】
上述してきた実施の形態は、図1に示すように、生地作製工程1として、湯種生地作製工程1Aと本捏生地作製工程2Aとを行う湯種法と呼ばれる全粒粉パンの製造方法であるが、本発明はこれに限定されず、全ての材料を一度にミキシングするストレート法(直捏法)でも全粒粉パンを製造することもできる。この場合、生地の各材料の配合量は、小麦粉100重量部に対し、糖類を10~35重量部、乳製品を8~30重量部、酵母を4~45重量部、卵を3~20重量部、油脂を2~15重量部、酢を1~5重量部、塩を0.5~3重量部とすることが好ましい。特に、小麦粉100重量部に対し、糖類を14~30重量部、乳製品を12~22重量部、酵母を10~25重量部、卵を5~15重量部、油脂を3~12重量部、酢を1~3重量部、塩を0.5~2重量部とすることがより好ましい。糖類として、異性化ショ糖とトレハロースの2つを用いる場合、異性化ショ糖12~28重量部、トレハロース3~7重量部とすることが好ましく、異性化ショ糖16~24重量部、トレハロース4~6重量部とすることがより好ましい。また、糖類として、含蜜糖とトレハロースの2つを用いる場合、含蜜糖7~17重量部、トレハロース3~7重量部とすることが好ましく、含蜜糖10~14重量部、トレハロース4~6重量部とすることがより好ましい。酵母として、酒種とパン酵母の2つを用いる場合、酒種4~20重量部、パン酵母1~5重量部とすることが好ましく、酒種8~16重量部、パン酵母2~4重量部とすることがより好ましい。なお、湯種法を採用することで、ストレート法に比べて、全粒粉パンを更にもっちりした食感にすることができるとともに、全粒粉パンの日持ちをより長くすることができる。
【実施例
【0046】
以下、本発明の実施例および比較例について説明する。
[実施例1、2:全粒粉のちぎりパン]
表1に示す実施例1、2の各湯種生地の材料の配合、および表2に示す実施例1、2の各本捏生地の材料の配合に基づき、以下に説明する手順で実施例1、2の全粒粉のちぎりパンを作製した。なお、表中の配合量は、小麦粉の重量を100とした場合の各材料の重量比で示す(すなわち重量部)。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
表1及び表2中の全粒粉の小麦粉として、日清製粉株式会社の商品名スーパーファインハードを使用した。表1及び表2中の異性化ショ糖として、三井製糖株式会社の商品名パラチノース(登録商標)を使用した。表1及び表2中の含蜜糖として、大東製糖株式会社の素焚糖を使用した。表1及び表2中の酢として、市販されているアップルビネガーを使用した。表2中のパン酵母として、市販されているイーストを使用した。表2中の卵として、市販されている全卵を均一に裏ごし殺菌処理された液卵を使用した。表2中の生クリームとして、乳脂肪分35%の市販品を使用した。表2中の実施例1、2の湯種生地は、表1の配合で作った実施例1、2のそれぞれの湯種生地である。
【0050】
先ず、表1に示す実施例1、2の湯種生地の各材料をミキサー(ケンパー社製)にそれぞれ投入し、約5分にわたりミキシングを行った(湯種生地作製工程)。湯は沸騰した状態のものを使用した。湯種生地は、作製中および作製後も温度を30℃以上に維持した。次に、表2に示す本捏生地の各材料のうち、全粒粉の小麦粉と異性化ショ糖または含蜜糖をミキサー(ケンパー社製)に投入し、混ぜ合わせた後、その他の材料を更に投入し、約8分にわたってミキシングを行った(本捏生地作製工程)。生クリームは一度沸騰させたものを使用した。酒種は約30℃に温めて使用した。本捏生地は、作製中および作製後も温度を室温から28℃の間に維持した。なお、湯種生地の作製と本捏生地の作製は同日に行った。
【0051】
得られた本捏生地を、一次発酵室に収納して一次発酵を行った(一次発酵工程)。一次発酵室の温度は27℃、湿度は75%に保ち、時間は80分とした。一次発酵させた生地を、40gずつに分割し、ベンチタイムを25分とった後、1つの角型に生地を4つずつ入れて成型した(分割・成型工程)。そして、成型した生地をホイロに収納して二次発酵を行った(二次発酵工程)。ホイロの温度は38℃、湿度は85%に保ち、時間は60~80分とした。その後、ラックオーブンで200℃、14分間焼成して、全粒粉100%のちぎりパンを得た(焼成工程)。なお、焼成中に、水蒸気を吹き込んだ。
【0052】
得られた実施例1、2の全粒粉100%のちぎりパンのうち、実施例1のちぎりパンを10名のパネラーが検食して、「しっとり感」、「ソフト感」、「風味」、「食感(食べ口)」、「歯切れ」の5つの項目について、それぞれ5段階で評価した。各項目の評価基準を以下に示す。
【0053】
<しっとり感>
5点 しっとりしている
4点 ややしっとりしている
3点 しっとりしているともパサついているともいえない
2点 ややパサついている
1点 パサついている
【0054】
<ソフト感>
5点 柔らかい
4点 やや柔らかい
3点 柔らかいとも硬いともいえない
2点 やや硬い
1点 硬い
【0055】
<風味>
5点 良い
4点 やや良い
3点 良いとも悪いともいえない
2点 やや悪い
1点 悪い
【0056】
<食感(食べ口)>
5点 良い
4点 やや良い
3点 良いとも悪いともいえない
2点 やや悪い
1点 悪い
【0057】
<歯切れ>
5点 良い
4点 やや良い
3点 良いとも悪いともいえない
2点 やや悪い
1点 悪い
【0058】
実施例1の全粒粉100%のちぎりパンの評価結果を表3に示す。なお、比較例1として、生クリームを使用しなかった点を除き、実施例1と同様にして作った全粒粉100%のちぎりパンについての評価結果も表3に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
表3の評価結果が示すように、生クリームを使用しなかった比較例1の全粒粉100%のちぎりパンに比べて、実施例1の全粒粉100%のちぎりパンは、しっとり感およびソフト感が向上した。また、食感(食べ口)は、パン内層の気泡膜が厚いものから薄いものとなり良好になり、歯切れも、外皮クラストが厚い膜から良好な薄い膜となり改善された。風味も、エグミが軽減されて若干の向上がみられた。
【0061】
[実施例3:全粒粉のあんパン]
実施例3として、分割・成型工程で30gずつに分割し、ベンチタイム後、小豆70.85重量%、パラチノース(登録商標)28.65重量%、グリシン0.5重量%の配合で作ったつぶ餡25gを生地で包み、表面中央に桜の塩漬けを押し入れた点、二次発酵工程でホイロの時間を50~60分にした点、および焼成工程で210℃、10~12分間焼成した点を除き、実施例1と同様にして全粒粉100%のあんパンを作製した。この全粒粉100%のあんパンについても実施例1と同様に検食を行った。その評価結果を表4に示す。なお、比較例2として、生クリームを使用しなかった点を除き、実施例3と同様にして作った全粒粉100%のあんパンについての評価結果も表4に示す。
【0062】
【表4】
【0063】
表4の評価結果が示すように、生クリームを使用しなかった比較例2の全粒粉100%のあんパンに比べて、実施例3の全粒粉100%のあんパンは、食感(食べ口)が、内相の気泡膜が厚いものから薄いものとなり改善され、歯切れも、外皮クラストが厚い膜から薄い膜となり良好なものとなった。しっとり感およびソフト感は、あんパンのようにパン部分の向上がみられた。
【0064】
[実施例4:全粒粉のゴマパン]
実施例4として、本捏生地作製工程で、洗いゴマ白および黒をそれぞれ10重量部、他の材料とともにミキサーに投入して本捏する点、分割・成型工程で80gずつに分割する点、二次発酵工程でホイロに先ず60分間収納した後、生地表面を2箇所カットし、更にホイロに10分間収納した点、および焼成工程で10~12分間焼成した点を除き、実施例1と同様にして全粒粉100%のゴマパンを作製した。この全粒粉100%のゴマパンについても実施例1と同様に検食を行った。その評価結果を表5に示す。なお、比較例3として、生クリームを使用しなかった点を除き、実施例4と同様にして作った全粒粉100%のゴマパンについての評価結果も表5に示す。
【0065】
【表5】
【0066】
表5の評価結果が示すように、生クリームを使用しなかった比較例3の全粒粉100%のゴマパンに比べて、実施例4の全粒粉100%のゴマパンは、しっとり感およびソフト感が向上した。また、食感(食べ口)は、パン内層の気泡膜が厚いものから薄いものとなり良好になり、歯切れも、外皮クラストが厚い膜から良好な薄い膜となり改善された。風味も、エグミが軽減されて若干の向上がみられた。
【符号の説明】
【0067】
1 生地作製工程
1A 湯種生地作製工程
1B 本捏生地作製工程
2 一次発酵工程
3 分割・成型工程
4 二次発酵工程
5 焼成工程
図1