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  • 特許-窒化ケイ素繊維の製造方法 図1
  • 特許-窒化ケイ素繊維の製造方法 図2
  • 特許-窒化ケイ素繊維の製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】窒化ケイ素繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 9/10 20060101AFI20230901BHJP
【FI】
D01F9/10 Z
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019212377
(22)【出願日】2019-11-25
(65)【公開番号】P2021085101
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小坂 祐輔
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特公平07-018056(JP,B2)
【文献】国際公開第2014/141783(WO,A1)
【文献】特開昭63-129005(JP,A)
【文献】特開平04-243906(JP,A)
【文献】特開平04-209705(JP,A)
【文献】特開昭53-133600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/068
D01F 9/08 - 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)ケイ素アルコキシド溶液を用意する工程、
(ii)前記ケイ素アルコキシド溶液中のケイ素アルコキシドを加水分解させ縮重合させることにより、曳糸性ゾル溶液を調製する工程、
(iii) 前記曳糸性ゾル溶液を用いて、静電紡糸法により繊維化し、また、熱処理することで酸化ケイ素繊維を調製する工程、
(iv)前記酸化ケイ素繊維を、アンモニアガス又は窒素ガス雰囲気下、焼成する工程、
を含む、窒化ケイ素繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は窒化ケイ素繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ケイ素は高熱伝導性を有する材料であることが知られている。そのため、窒化ケイ素からなる組成物(例えば繊維や粒子など)は放熱材などの様々な産業用途に使用されている。
【0003】
このような窒化ケイ素組成物の製造方法として、例えば、特開平9-30900号公報(特許文献1)には、窒化ケイ素ウイスカーの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-30900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の窒化ケイ素ウイスカーの製造方法は、有機ケイ素高分子化合物と固体炭素を混合して得られた成形体を加熱処理することで有機ケイ素高分子化合物の分解ガスが発生し、この分解ガスと窒素ガスが反応することでウイスカーを得ていることから、ガス同士の反応時の環境によってウイスカーの繊維径がばらつきやすく、結果としてウイスカーを放熱フィラーとして樹脂に複合した時に分散性が悪く、熱伝導率のばらつきが大きく十分な性能が発揮できないものであった。
【0006】
本発明はこのような状況下においてなされたものであり、繊維径が均一な窒化ケイ素繊維の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、「(i)ケイ素アルコキシド溶液を用意する工程、(ii)前記ケイ素アルコキシド溶液中のケイ素アルコキシドを加水分解させ縮重合させることにより、曳糸性ゾル溶液を調製する工程、(iii)前記曳糸性ゾル溶液を用いて、静電紡糸法により酸化ケイ素繊維を調製する工程、(iv)前記酸化ケイ素繊維を、アンモニアガス又は窒素ガス雰囲気下、焼成する工程、を含む、窒化ケイ素繊維の製造方法。」である。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る窒化ケイ素繊維の製造方法は、曳糸性ゾル溶液を用いて、また静電紡糸法により酸化ケイ素繊維を調製していることから、酸化ケイ素繊維の繊維径が均一になりやすく、また、前記酸化ケイ素繊維をアンモニアガス又は窒素ガス雰囲気下で焼成することで生成する窒化ケイ素繊維の繊維径も均一になりやすい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】静電紡糸装置の模式的断面図
図2】静電紡糸法により形成した酸化ケイ素繊維シートにおける酸化ケイ素繊維の配置状態を模式的に表す平面図
図3】静電紡糸以外の方法により形成した酸化ケイ素繊維シートにおける酸化ケイ素繊維の配置状態を模式的に表す平面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の窒化ケイ素繊維の製造方法について、以下に詳細を説明する。
【0011】
まず、(i)ケイ素アルコキシド溶液を用意する工程、について説明する。
【0012】
前記ケイ素アルコキシド溶液は、溶媒[例えば、有機溶媒(例えば、エタノールなどのアルコール類、ジメチルホルムアミド)]、前記ケイ素アルコキシド溶液に含まれるケイ素アルコキシドを加水分解するための水、及び触媒(例えば、塩酸など)を含んでいることができる。
【0013】
その他、前記ケイ素アルコキシド溶液には、酸化ケイ素繊維と反応するヒドラジン、ジエタノールアミンなどの窒化物、柔軟性調整などの各種機能を付与するための有機化合物(例えば、ポリビニルピロリドン)、ヒドロキシアパタイトなどの無機成分、あるいは染料等の添加剤を含んでいてもよい。なお、これらの添加剤は、後述する加水分解を行う前、加水分解を行う際、あるいは加水分解後に添加することができる。
【0014】
さらに、前記ケイ素アルコキシド溶液は、無機系又は有機系の微粒子を含んでいてもよい。前記無機系微粒子としては、例えば、酸化イットリウム、酸化チタン、二酸化マンガン、酸化銅、活性炭、金属(例えば、白金)を挙げることができ、有機系微粒子としては、色素又は顔料などを挙げることができる。また、微粒子の平均粒径は特に限定されるものではないが、好ましくは0.001~1μm、より好ましくは0.002~0.1μmである。
【0015】
次に、(ii)前記ケイ素アルコキシド溶液中のケイ素アルコキシドを加水分解させ縮重合させることにより、曳糸性ゾル溶液を調製する工程、について説明する。
【0016】
ケイ素アルコキシド溶液に含まれるケイ素アルコキシドを加水分解するための水の量は、ケイ素アルコキシドの分子構造によって異なり、特に限定するものではないが、例えば、テトラエトキシシラン場合、曳糸性ゾル溶液とすることができるように、水の量はアルコキシドの2倍モル以下であるのが好ましい。
【0017】
なお、「曳糸性」の有無は、以下の(判定法)に示す条件で判断できる。
(判定法)
アースした金属板に対し、水平方向に配置した金属ノズル(内径:0.4mm)から紡糸溶液(固形分濃度:10~50wt%)を吐出する(吐出量:0.5~1.0g/hr)と共に、ノズルに電圧を印加(電界強度:1~3kV/cm、極性:プラス印加又はマイナス印加)し、ノズルの先端に溶液の固化を生じさせることなく、1分間以上連続して紡糸し、金属板上に繊維を集積させる。
この集積した繊維の走査電子顕微鏡写真を撮り、観察し、液滴がなく、繊維の平均繊維径(50点の算術平均値)が5μm以下、アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)が100以上の繊維を製造できる条件が存在する場合、その紡糸溶液は「曳糸性あり」と判断する。これに対して、前記条件(すなわち、濃度、押出量、電界強度、及び/又は極性)を変え、いかに組み合わせても、液滴がある場合、オイル状で一定した繊維形態でない場合、平均繊維径が5μmを超える場合、あるいは、アスペクト比が100未満の場合(例えば、粒子状)で、前記繊維を製造できる条件が存在しない場合、その紡糸溶液は「曳糸性なし」と判断する。なお、本発明の平均繊維径は50本の繊維断面の繊維径の平均値をいい、繊維断面が真円でない場合は、繊維の断面積から断面が真円であるときの直径に換算し、繊維径とする。また、平均繊維長は50本の繊維の繊維長の平均値をいう。
【0018】
次に、(iii)前記曳糸性ゾル溶液を用いて、静電紡糸法により酸化ケイ素繊維を調製する工程、について説明する。
【0019】
この静電紡糸法は紡糸原液に対して電界を作用させることにより、紡糸原液を延伸し、繊維化する方法である。
【0020】
静電紡糸法について、特開2005-194675号公報に開示の静電紡糸装置の模式的断面図である図1をもとに、簡単に説明する。
【0021】
図1の静電紡糸装置は、紡糸原液をノズル2へ供給できる紡糸原液供給装置1、紡糸原液供給装置1から供給された紡糸原液を吐出するノズル2、ノズル2から吐出され、電界によって延伸された酸化ケイ素繊維を捕集するアースされた捕集体3、ノズル2とアースされた捕集体3との間に電界を形成するために、ノズル2に電圧を印加できる電圧印加装置4、ノズル2と捕集体3とを収納した紡糸容器6、紡糸容器6へ所定相対湿度の気体を供給できる気体供給装置7、及び紡糸容器6内の気体を排気できる排気装置8を備えている。
【0022】
このような静電紡糸装置の場合、紡糸原液は紡糸原液供給装置1によってノズル2へ供給される。この供給された紡糸原液はノズル2から吐出されるとともに、アースされた捕集体3と電圧印加装置4によって印加されたノズル2との間の電界による延伸作用を受け、繊維化しながら捕集体3へ向かって飛翔する。そして、この飛翔した酸化ケイ素繊維は直接、捕集体3上に集積する。
【0023】
紡糸原液の一種である曳糸性ゾル溶液を静電紡糸法により紡糸する際の曳糸性ゾル溶液の粘度は、効率よく静電紡糸できるように、0.01~10Pa・sであるのが好ましく、0.05~5Pa・sであるのがより好ましく、0.1~3Pa・sであるのが更に好ましい。粘度が10Pa・sを超えると、静電紡糸を行う際に細い繊維を紡糸しにくく、0.01Pa・s未満になると繊維形状自体が得られなくなる傾向があるためである。なお、曳糸性ゾル溶液の紡糸を、ノズルを用いて行う場合には、ノズル先端部分における雰囲気をケイ素アルコキシド溶液の溶媒と同様の溶媒ガス雰囲気とすることにより、粘度が10Pa・sを超える曳糸性ゾル溶液であっても紡糸可能な場合がある。
【0024】
なお、紡糸原液供給装置1としては、例えば、シリンジポンプ、チューブポンプ、ディスペンサ等を使用することができる。また、ノズル2に替えて、ノコギリ状歯車、ワイヤー、スリットなどを使用することもできる。更に、図1における捕集体3はドラム形態であるが、コンベア形態であっても良い。更に、図1においては、捕集体3がアースされているが、ノズル2をアースし、捕集体3に対して電圧を印加しても良いし、ノズル2と捕集体3のいずれに対しても電圧を印加するものの、電位差を有するように電圧を印加しても良い。
【0025】
更に、電圧印加装置4としては、例えば、直流高電圧発生装置やヴァン・デ・グラフ起電機を用いることができ、空気の絶縁破壊を生じることなく、紡糸原液を紡糸して繊維化できるように、電界強度が0.2~5kV/cmとなるように印加するのが好ましい。また、印加する電圧の極性はプラスとマイナスのいずれであっても良いが、捕集体における酸化ケイ素繊維の拡がりを抑制できるように、紡糸原液の特性に合わせて適宜、極性を選択する。
【0026】
図1の静電紡糸装置においては、紡糸容器6に気体供給装置7(例えば、プロペラファン、シロッコファン、エアコンプレッサー、温湿度調整機能を備えた送風機など)及び排気装置8(例えば、ファン)が接続されているため、紡糸容器6内の雰囲気を一定にすることができるため、繊維径が均一な酸化ケイ素繊維シートを製造することができる。
【0027】
このように静電紡糸法により形成した酸化ケイ素繊維シートは、酸化ケイ素ゾル溶液がゲル化した酸化ケイ素ゲル状繊維の状態にある。酸化ケイ素繊維シートの剛性や強度を高めるため、また、酸化ケイ素繊維シートの取り扱い性を高めるため、更には、繊維長が均一な酸化ケイ素繊維を製造しやすいように、熱処理を実施して、酸化ケイ素乾燥ゲル状繊維又は酸化ケイ素焼結繊維とするのが好ましい。この熱処理は、例えば、オーブン、焼結炉等を用いて実施することができる。
【0028】
また、酸化ケイ素繊維を調製する際は、繊維長が短く、また繊維長が均一な酸化ケイ素繊維を得られ、結果的に繊維長が短く、また繊維長が均一な窒化ケイ素繊維を得ることができることから、静電紡糸法により酸化ケイ素繊維シートを形成し、その後、酸化ケイ素繊維シートをプレス機で加圧して、酸化ケイ素繊維を調製するのが好ましい。
【0029】
繊維長が短く、また繊維長が均一な酸化ケイ素繊維を得られる理由を以下に説明する。静電紡糸法によって酸化ケイ素繊維シートを形成すると、酸化ケイ素繊維シートの平均孔径が小さく、しかも孔径が揃っている。つまり、平均孔径が小さく、しかも孔径が揃っているということは、酸化ケイ素繊維同士の交差点間の距離が短く、かつ交差点間の距離が揃っていることを意味する。
【0030】
この点について、静電紡糸法により形成した酸化ケイ素繊維シートにおける酸化ケイ素繊維の配置状態を模式的に表す平面図である図2と、静電紡糸法以外の方法により形成した酸化ケイ素繊維シートにおける酸化ケイ素繊維の配置状態を模式的に表す平面図である図3をもとに説明すると、静電紡糸法によれば、図2に示すように、平均孔径が小さく、かつ孔径の揃った酸化ケイ素繊維シートを形成できるため、酸化ケイ素繊維同士の交差点間の距離が短く、かつ交差点間の距離が揃っている。例えば、繊維同士の交差点であるc5を基準として見た場合、c5に隣接する酸化ケイ素繊維同士の交差点であるb5、c4、c6及びd4との距離は比較的短く、しかも距離がほぼ同じである。これに対して、静電紡糸法以外の方法により形成した酸化ケイ素繊維シートは、図3に示すように、孔径のバラツキが大きい。例えば、繊維同士の交差点であるC5を基準として見た場合、C5に隣接する酸化ケイ素繊維同士の交差点であるB5、C4、C6及びD4との距離はバラツキが大きい。
【0031】
次いで、この酸化ケイ素繊維シートをプレス機により加圧し、粉砕する。静電紡糸法により形成した酸化ケイ素繊維シートは、前述の通り、平均孔径が小さく、しかも孔径の揃った、酸化ケイ素繊維同士の交差点間の距離が短く、かつ交差点間の距離が均一な状態にあるため、この状態の酸化ケイ素繊維シートに対して、酸化ケイ素繊維の配向を変動させないように、プレス機により加圧すると、酸化ケイ素繊維同士の交差点が強く加圧され、酸化ケイ素繊維は剛性が高く、変形しにくいことも相俟って、酸化ケイ素繊維同士の交差点で破断されやすいため、繊維長が短く、また繊維長が均一な酸化ケイ素繊維を製造できる。つまり、酸化ケイ素繊維同士の交差点は酸化ケイ素繊維同士が重なって、微視的には、酸化ケイ素繊維シートの厚さが厚くなった箇所に相当するため、プレス機による圧力は酸化ケイ素繊維同士の交差点に対して優先的に作用する。したがって、繊維長が短く、かつ繊維長が均一な酸化ケイ素繊維を製造できる。
【0032】
この点について、静電紡糸法により形成した酸化ケイ素繊維シートにおける酸化ケイ素繊維の配置状態を模式的に表す平面図である図2と、静電紡糸法以外の方法により形成した酸化ケイ素繊維シートにおける酸化ケイ素繊維の配置状態を模式的に表す平面図である図3をもとに説明すると、例えば、図2における、繊維同士の交差点a1~a3、b1~b5、c1~c6、d1~d6及びe1~e5では、2本の酸化ケイ素繊維が交差した状態にあるため、交差していない箇所と比較すると、約2倍の厚さを有する。そのため、図2の酸化ケイ素繊維シートに対してプレス機により加圧すると、繊維同士の交差点a1~a3、b1~b5、c1~c6、d1~d6及びe1~e5に対して優先的に圧力が加わり、酸化ケイ素繊維の剛性も相俟って、繊維同士の交差点a1~a3、b1~b5、c1~c6、d1~d6及びe1~e5で酸化ケイ素繊維が破断する。そのため、繊維長が短く、繊維長が均一な酸化ケイ素繊維を製造することができる。
【0033】
これに対して、図3における、静電紡糸法以外の方法により形成した酸化ケイ素繊維シートも同様に、繊維同士の交差点A1~A3、B1~B5、C1~C7、D1~D6及びE1~E5では、2本の酸化ケイ素繊維が交差した状態にあるため、交差していない箇所と比較すると、約2倍の厚さを有する。そのため、図3の酸化ケイ素繊維シートに対してプレス機により加圧すると、繊維同士の交差点A1~A3、B1~B5、C1~C7、D1~D6及びE1~E5に対して優先的に圧力が加わり、酸化ケイ素繊維の剛性も相俟って、繊維同士の交差点A1~A3、B1~B5、C1~C7、D1~D6及びE1~E5で酸化ケイ素繊維が破断する。そのため、繊維長が均一な酸化ケイ素繊維を製造することができない。
【0034】
なお、プレス機によりプレスする際の加圧力は、特に限定するものではなく、実験により、加圧力と繊維長及び繊維長のCV値を確認し、適切な加圧力を選択する。
【0035】
最後に、(iv)前記酸化ケイ素繊維を、アンモニアガス又は窒素ガス雰囲気下、焼成する工程、について説明する。
【0036】
この焼成は、例えば、オーブン、焼成炉を用いて実施することができる。焼成温度が低いと窒化ケイ素の結晶の成長を抑制でき、柔軟で取り扱い性の良い窒化ケイ素繊維が実現できることから、焼成温度は1600℃以下が好ましく、1500℃以下がより好ましく、1400℃以下が更に好ましい。焼成温度の下限は、窒化ケイ素が生成できれば特に限定されるものではないが、酸化ケイ素繊維に含まれる有機成分が分解されるように、1000℃以上が好ましい。焼成時間は、十分に窒化ケイ素を生成させ、優れた熱伝導性を発揮できるように、また、窒化ケイ素の結晶が成長しすぎ、柔軟性の低い窒化ケイ素にならないように適宜調整するが、具体的には、1~5時間であるのが好ましい。この焼成工程の際に、酸化ケイ素と反応する窒化物や、酸化ケイ素から窒化ケイ素への反応を促進することを目的としたカーボンなどの触媒を含んでいてもよい。
【実施例
【0037】
以下、実施例によって本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
オルトケイ酸テトラエチル、水及び塩酸を1:2:0.0025のモル比で混合し、温度80℃で15時間加熱撹拌した。そして、エバポレータにより、酸化ケイ素濃度が44wt%になるまで濃縮した後、粘度が200~300mPa・sになるまで増粘させて、酸化ケイ素ゾル溶液を得た。
その後、前記酸化ケイ素ゾル溶液を用い、次の紡糸条件で紡糸した後、次の脱脂条件で脱脂して、平均繊維径1μmの酸化ケイ素繊維シート(目付:26.0g/m)を得た。
(紡糸条件)
・ノズルからの吐出量:1g/時間
・ノズル先端とドラム捕集体との距離:10cm
・紡糸容器内の温湿度:25℃/30%RH
・ノズルへの印加電圧:+10kV
(脱脂炉での脱脂条件)
・500℃/2時間
次いで、この酸化ケイ素繊維シートを約1g量取り、酸化ケイ素繊維シートを重ねて1.5cmの厚さとした後、プレス機により、2MPaの圧力で30秒間加圧することにより粉砕して、平均繊維径1.0μm、繊維径のCV値0.189、平均繊維長99.2μm、繊維長のCV値0.186、アスペクト比99.0の酸化ケイ素短繊維を調製した。
更に、この酸化ケイ素短繊維と触媒としてカーボンを焼成炉で、窒素雰囲気下、1400℃で5時間焼成を行い、更にカーボンを除去するために大気雰囲気下、650℃で5時間焼成を行い、平均繊維径0.8μm、繊維径のCV値0.189、平均繊維長92.3μm、繊維長のCV値0.223、アスペクト比116の窒化ケイ素繊維を作製した。
なお、この繊維長及び繊維径のCV値は、繊維長又は繊維径の標準偏差を平均繊維長または平均繊維径で除した値である。なお、「標準偏差」は繊維50本の繊維長及び繊維径から得られる値である。
【0039】
(実施例2)
実施例1と同様に作製した酸化ケイ素繊維シート(目付:26.0g/m)を約1g量取り、酸化ケイ素繊維シートを重ねて1.5cmの厚さとした後、プレス機により、10MPaの圧力で30秒間加圧することにより粉砕して、平均繊維径1.0μm、繊維径のCV値0.192、平均繊維長12.0μm、繊維長のCV値0.247、アスペクト比12.0の酸化ケイ素短繊維を調製した。
更に、この酸化ケイ素短繊維と触媒としてカーボンを焼成炉で、窒素雰囲気下、1400℃で5時間焼成を行い、更にカーボンを除去するために大気雰囲気下、650℃で5時間焼成を行い、平均繊維径0.8μm、繊維径のCV値0.208、平均繊維長10.0μm、繊維長のCV値0.286、アスペクト比12.5の窒化ケイ素繊維を作製した。
【0040】
(実施例3)
実施例1と同様に作製した酸化ケイ素繊維シート(目付:26.0g/m)を約1g量取り、酸化ケイ素繊維シートを重ねて1.5cmの厚さとした後、プレス機により、5MPaの圧力で30秒間加圧することにより粉砕して、平均繊維径1.0μm、繊維径のCV値0.178、平均繊維長42.3μm、繊維長のCV値0.297、アスペクト比49.0の酸化ケイ素短繊維を調製した。
更に、この酸化ケイ素短繊維を焼成炉で、アンモニア雰囲気下、1400℃で5時間焼成を行い、平均繊維径0.8μm、繊維径のCV値0.252、平均繊維長39.1μm、繊維長のCV値0.293、アスペクト比49.0の窒化ケイ素繊維を作製した。
【0041】
実施例の結果から、本願発明の構成を満たす製造方法で製造した窒化ケイ素繊維は、繊維径のCV値が低く、繊維径が均一な窒化ケイ素繊維が実現できることが分かった。また、静電紡糸法により酸化ケイ素繊維シートを形成し、その後、酸化ケイ素繊維シートをプレス機で加圧して酸化ケイ素繊維を調製すると、繊維長のCV値が低く、繊維長が均一な酸化ケイ素繊維、及び窒化ケイ素繊維が実現できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の窒化ケイ素繊維は、繊維径が均一な窒化ケイ素繊維であり、また、窒化ケイ素は熱伝導性に優れる物質であることから、例えば窒化ケイ素を樹脂に含むフィラーとして用いることで熱伝導性に優れる樹脂複合体を実現でき、前記樹脂複合体は例えば熱を放熱する熱伝導性シートに用いることができる。
【符号の説明】
【0043】
1 紡糸原液供給装置
2 ノズル
3 捕集体
4 電圧印加装置
5 紡糸空間
6 紡糸容器
7 気体供給装置
8 排気装置
a1~a3、b1~b5、c1~c6、d1~d6、e1~e5 繊維同士の交差点
A1~A3、B1~B5、C1~C7、D1~D6、E1~E5 繊維同士の交差点
図1
図2
図3