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特許7341039雑草発芽防止構造及びその設置方法、並びに雑草発芽防止シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】雑草発芽防止構造及びその設置方法、並びに雑草発芽防止シート
(51)【国際特許分類】
   E01H 11/00 20060101AFI20230901BHJP
【FI】
E01H11/00 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019214093
(22)【出願日】2019-11-27
(65)【公開番号】P2021085202
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】張ヶ谷 竜一
(72)【発明者】
【氏名】井澤 哲
【審査官】亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-267036(JP,A)
【文献】特開2002-061143(JP,A)
【文献】特開2000-170107(JP,A)
【文献】特開2008-069527(JP,A)
【文献】特開2014-037720(JP,A)
【文献】特開2001-342615(JP,A)
【文献】特開2019-173465(JP,A)
【文献】特開2009-024348(JP,A)
【文献】登録実用新案第3196472(JP,U)
【文献】特開2019-190078(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1506972(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 1/00-17/00
E01H 11/00
A01M 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路の舗装面と、その他の構造物との境界を覆うように設置された、雑草発芽防止構造であって、前記雑草発芽防止構造は、前記舗装面から、プライマー層、未硬化の硬化型シリコーンが塗布後に硬化した下地処理材、未硬化の硬化型シリコーンからなるシートが貼付後に硬化したシート、の順に積層された構造を有し、
前記構造を上方から見て、前記プライマー層の面積>前記シートの面積>前記下地処理材の面積の関係である、雑草発芽防止構造。
【請求項2】
前記境界には滞留部が形成されており、
前記滞留部は、土埃が溜まり得る溝、窪み、段差、隙間又は目地からなり、
前記滞留部及びその周囲を構成する面は、アスファルト面、コンクリート面又はモルタル面からなる、請求項1記載の雑草発芽防止構造。
【請求項3】
前記下地処理材及び前記シートのうち少なくとも一方が遮光材を含有する、請求項1に記載の雑草発芽防止構造。
【請求項4】
前記下地処理材及び前記シートのうち少なくとも一方の全光線透過率が30%以下である、請求項1~3の何れか一項に記載の雑草発芽防止構造。
【請求項5】
前記下地処理材及び前記シートのうち少なくとも一方が、黒色もしくは灰色である、請求項1~4の何れか一項に記載の雑草発芽防止構造。
【請求項6】
前記その他の構造物が、縁石または柱である、請求項1~5の何れか一項に記載の雑草発芽防止構造。
【請求項7】
前記下地処理材および前記シートの少なくとも一方に発芽防止剤または防草剤を含有する請求項1~6何れか一項に記載の雑草発芽防止構造。
【請求項8】
道路の舗装面と、その他の構造物との境界にある滞留部に、請求項1~7の何れか一項に記載の雑草発芽防止構造を設置する方法であって、
前記滞留部は、土埃が溜まり得る溝、窪み、段差、隙間又は目地からなり、
前記滞留部及びその周囲を構成するアスファルト面、コンクリート面又はモルタル面の表面を清浄にする工程と、
前記表面にプライマー剤を塗布し、乾燥することによりプライマー層を形成する工程と、
前記プライマー層が形成された前記滞留部に未硬化シリコーンからなるペーストを塗布し、前記滞留部の少なくとも一部を充填することにより下地処理材を形成する工程と、
前記下地処理材及び前記プライマー層の少なくとも一部を覆う、未硬化シリコーンからなるシートを貼付する工程と、
を有することを特徴とする雑草発芽防止構造の設置方法。
【請求項9】
前記プライマー剤の塗布量が、100g/m~500g/mである、請求項8に記載の雑草発芽防止構造の設置方法。
【請求項10】
前記舗装面を上方から見て、前記プライマー剤を塗布する領域が湾曲または屈曲している、請求項8または9に記載の雑草発芽防止構造の設置方法。
【請求項11】
未硬化の硬化型シリコーンからなるシートであり、
請求項8~10の何れか一項に記載の雑草発芽防止構造の設置方法にて、
前記下地処理材及び前記プライマー層の少なくとも一部を覆う用途で使用される、雑草発芽防止シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雑草発芽防止構造及びその設置方法、並びに雑草発芽防止シートに関する。
【背景技術】
【0002】
車道や歩道の舗装面と、縁石や中央分離帯のコンクリートブロックとの境界(目地)に生えている雑草の除草作業が道路の維持業務として行われている。除草作業を怠ると運転者の視界を遮る恐れがあり、また、雨天時には道路脇の排水溝への速やかな排水を阻害することもある。これらは交通事故の原因になり得るので、除草作業は欠かさずに行われているが、コストがかかる問題がある。
【0003】
上記問題に対して、特許文献1には、樹脂フィルムに接着剤層が積層された雑草抑止テープが提案されている。舗装面とそれ以外の構造物との間隙に土、砂、埃等が溜まり、雑草が発生し得る箇所に対して、この箇所を覆うように雑草抑止テープを貼付すると、雑草の発生を抑止できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-210906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の雑草抑止テープは以下の問題を有する。貼付する面が平滑面であるとは限らず、例えば、2~5mm程度の凸凹がある粗面の場合がある。このような粗面の複雑な表面形状に対して雑草抑止テープは追随できないため、その貼付が困難である。また、辛うじて貼付できたとしても、実質的な接着面積が小さいため、充分な接着力が得られない。さらに、アクリル系感圧接着剤層による接着を提案しているが、四季を通して風雨や直射日光に曝される屋外環境における耐候性は、必ずしも満足できるものではない。
【0006】
本発明は、道路の舗装面とその他の構造物との境界に固着させることが容易であり、耐候性に優れた雑草発芽防止構造及びその設置方法、並びに雑草発芽防止シートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1] 道路の舗装面と、その他の構造物との境界に設置された、雑草発芽防止構造であって、前記雑草発芽防止構造は、プライマー層、硬化型シリコーンからなる下地処理材、及び、硬化型シリコーンからなるシートから選択される少なくとも一つであることを特徴とする雑草発芽防止構造。
[2] 前記境界には滞留部が形成されており、前記滞留部は、土埃が溜まり得る溝、窪み、段差、隙間又は目地からなり、前記滞留部及びその周囲を構成する面は、アスファルト面、コンクリート面又はモルタル面からなる、[1]記載の雑草発芽防止構造。
[3] 前記下地処理材及び前記シートのうち少なくとも一方が遮光材を含有する、[1]に記載の雑草発芽防止構造。
[4] 前記下地処理材及び前記シートのうち少なくとも一方の全光線透過率が30%以下である、[1]~[3]の何れか一項に記載の雑草発芽防止構造。
[5] 前記下地処理材及び前記シートのうち少なくとも一方が、黒色もしくは灰色である、[1]~[4]の何れか一項に記載の雑草発芽防止構造。
[6] 前記その他の構造物が、縁石または柱である、[1]~[5]の何れか一項に記載の雑草発芽防止構造。
[7] 前記下地処理材および前記シートの少なくとも一方に発芽防止剤または防草剤を含有する[1]~[6]何れか一項に記載の雑草発芽防止構造。
[8] 道路の舗装面と、その他の構造物との境界にある滞留部に、雑草発芽防止構造を設置する方法であって、前記滞留部は、土埃が溜まり得る溝、窪み、段差、隙間又は目地からなり、前記滞留部及びその周囲を構成するアスファルト面、コンクリート面又はモルタル面の表面を清浄にする工程と、前記表面にプライマー剤を塗布し、乾燥することによりプライマー層を形成する工程と、前記プライマー層が形成された前記滞留部に未硬化シリコーンからなるペーストを塗布し、前記滞留部の少なくとも一部を充填することにより下地処理材を形成する工程と、前記下地処理材及び前記プライマー層の少なくとも一部を覆う、未硬化シリコーンからなるシートを貼付する工程と、を有することを特徴とする雑草発芽防止構造の設置方法。
[9] 前記プライマー剤の塗布量が、100g/m~500g/mである、[8]に記載の雑草発芽防止構造の設置方法。
[10] 前記舗装面を上方から見て、前記プライマー剤を塗布する領域が湾曲または屈曲している、[8]または[9]に記載の雑草発芽防止構造の設置方法。
[11] 未硬化の硬化型シリコーンからなるシートであり、[8]~[10]の何れか一項に記載の雑草発芽防止構造の設置方法にて、前記下地処理材及び前記プライマー層の少なくとも一部を覆う用途で使用される、雑草発芽防止シート。
[X] 道路の舗装面と、その他の構造物との境界にある滞留部に設置された、雑草発芽防止構造であって、前記滞留部は、土埃が溜まり得る溝、窪み、段差、隙間又は目地からなり、前記滞留部及びその周囲を構成するアスファルト面、コンクリート面又はモルタル面の表面に形成されたプライマー層と、前記プライマー層に接し、前記滞留部の少なくとも一部を充填する硬化型シリコーンからなる下地処理材と、前記下地処理材及び前記プライマー層の少なくとも一部を覆う硬化型シリコーンからなるシートと、を備えることを特徴とする雑草発芽防止構造。
【発明の効果】
【0008】
本発明の雑草発芽防止構造によれば、滞留部の少なくとも一部を下地処理材が充填し、さらに硬化型シリコーンからなるシート(雑草発芽防止シート)が覆えば、滞留部に土埃が溜まり難くなり、雑草の発芽に適さない環境となり、雑草の発芽を防止することができる。下地処理材は、設置する箇所が粗面であったとしてもほぼ完全に追従することができる。また、下地処理材が粗面を埋めて比較的平滑な表面を形成することができる。さらに、下地処理材を覆うように設置された雑草発芽防止シートは、同じく硬化型シリコーンからなる下地処理材に対する接着性が優れる。この結果、本発明の雑草発芽防止構造は、滞留部に対して充分に固着している。
また、本発明の雑草発芽防止構造にあっては、耐候性に優れる硬化型シリコーンからなる下地処理材及びシートを備えれば、それらは充分な厚みを有しており、設置面に対する接着性も温度変化や湿度変化に対して安定して高いので、優れた耐候性を発揮し得る。
本発明の雑草発芽防止構造の設置方法によれば、上述の優れた効果を奏する雑草発芽防止構造を容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】雑草発芽防止構造を二カ所に設置した様子の一例を示す斜視図である。
図2図1のX-X線で切断した断面図である。
図3図1の雑草発芽防止構造10Aを部分拡大した断面図の一例である。
図4図1の雑草発芽防止構造10Bを部分拡大した断面図の一例である。
図5】雑草発芽防止構造を設置する前の縁石と舗装面の一例を示す斜視図である。
図6】雑草発芽防止構造を設置せず、縁石と舗装面の境界の滞留部から雑草が発芽し、生育した様子の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
《雑草発芽防止構造》
本発明の第一態様は、道路の舗装面と、その他の構造物との境界にある滞留部に設置された、雑草発芽防止構造である。
本態様の雑草発芽防止構造は、プライマー層、硬化型シリコーンからなる下地処理材、及び、硬化型シリコーンからなるシートから選択される少なくとも一つである。
【0011】
以下、図面を参照して本発明にかかる好適な実施形態を例示する。
図1~4には、車道の舗装面1と、縁石2と、歩道の舗装面3が描かれている。
車道や歩道等の道路の舗装面は、アスファルト面、コンクリート面又はモルタル面からなる。ここで、アスファルト面はアスファルトを含む表面を意味し、コンクリート面はコンクリートを含む表面を意味し、モルタル面はモルタルを含む表面を意味する。コンクリート面はモルタル面でもあるが、粗骨材を含む点でモルタル面とは相違する。
縁石2の側面2a及び上面2bはともにコンクリート面からなる。
【0012】
車道の舗装面1と縁石2の境界において、舗装面1から縁石2の側面2aが立ち上がっている。舗装面1と側面2aの境界に沿って土埃が溜まり得る窪みからなる滞留部Aがある。また、歩道の舗装面3と縁石2の上面2bとの境界に沿って土埃が溜まり得る溝からなる滞留部Bがある。
【0013】
図1~2は、滞留部Aを覆う雑草発芽防止構造10Aと、滞留部Bを覆う雑草発芽防止構造10Bが設置された様子を示す。
図3~4は、雑草発芽防止構造10A,10Bを部分拡大した断面図の一例を示す。
【0014】
[プライマー層4]
滞留部A、Bとその周囲を構成するアスファルト面及びコンクリート面の表面は、予め土埃等が除去された清浄な表面とされており、この表面をプライマー層4がコーティングしている。
【0015】
プライマー層4は、滞留部に対する下地処理材や雑草発芽防止シートの接着性を向上させるための表面改質層であり、市販のプライマー剤を表面に塗布して乾燥してなる硬化層である。
プライマー層4の厚さは、0.05mm~1mmが好ましく、0.1mm~0.5mmがより好ましく、0.15mm~0.3mmがさらに好ましい。
上記範囲であると、下地処理材や雑草発芽防止シートの接着性をより向上させることができる。ここで例示したプライマー層の好適な厚さは、一般的な接着用途で使用されるプライマー層の厚さよりも厚い。プライマー層4を形成する道路の舗装面は一般的な接着面(例えば、タイルや瓦の表面)よりも粗いので、プライマー層が厚い方が強力な接着性を得られ易い。
【0016】
好適なプライマー層4を形成するプライマー剤の具体例として、例えば、信越化学工業社製のプライマーMT等が挙げられる。
【0017】
[下地処理材5]
滞留部A,Bには、それぞれ硬化型シリコーンからなる下地処理材5が設置されている。
下地処理材5は、未硬化の段階ではペースト状のシリコーンであり、滞留部A,Bの窪みや溝の少なくとも一部を充填するように塗布され、その後硬化されてなる弾性部材であり、予め形成されたプライマー層4を介して滞留部A,Bに強固に接着している。下地処理材5が滞留部A,Bの窪みや溝を埋めているので、下地処理材5の表面は比較的平滑な面となり得る。
下地処理材5の厚さは、滞留部A,Bを埋められる厚さであることが好ましく、例えば、1mm~20mmが好ましく、5mm~10mmがより好ましい。ここで、下地処理材5の厚さは、無作為に選択される5箇所について、舗装面1から上方に見た方向の厚さを測定した値の平均値とする。
下地処理材5の長手方向の長さは、滞留部A,Bの長さに応じて適宜設定され、例えば、10cm~1000cmとすることができる。下地処理材5は一続きに設置されていてもよいし、途中で分断されて複数に分けて設置されたものであってもよい。なお、滞留部の凸凹が5mm以下の場合は、下地処理材を有しない構造であってもよい。
【0018】
下地処理材5を形成する硬化型シリコーンは、縮合硬化型でもよいし、付加硬化型でもよい。付加硬化型は、未使用時には低温で保存し、使用時には常温以上に加熱することによって硬化させる。縮合硬化型は、未使用時には乾燥環境(防湿環境)で保存し、使用時には空気中の水分を吸湿させることによって硬化させる。施工の容易さの観点から、縮合硬化型のシリコーンが好ましい。
【0019】
硬化型シリコーンは未硬化時には所望の形状に成形可能であり、硬化後にはその形状を保持する。下地処理材5の設置に用いる硬化型シリコーンの未硬化時のウイリアム可塑度(25℃)は、5~45が好ましく、5~30がより好ましい。ウイリアム可塑度が前記範囲内にあると、未硬化の状態で流動性を有し、所望の形状に成形することが容易である。
ここで、ウイリアム可塑度は、JIS K 6249:1997の「未硬化及び硬化シリコーンゴムの試験方法」に準じて測定して算出された値である。すなわち、25℃において硬化型シリコーンゴム2gの略球状の試験片を準備し、この試験片をセロハン紙に挟んでダイヤルゲージの付いた平行板可塑度計(上島製作所製「ウイリアムプラスとメータ」)中にセットし、5kgの荷重を加えて3分間放置した後、ダイヤルゲージの目盛をミリメートルで読み取り、試験片の厚さを記録して、この数値を100倍した値である。
【0020】
雑草発芽防止構造の耐候性を高める観点から、下地処理材5を構成する硬化型シリコーンゴムの硬化後の硬度を、JIS K 6253:2012の「第3部:デュロメータ硬さ(タイプA)」に基づいて評価した場合、A 40以上であることが好ましい。上限値は特に限定されないが、経年劣化(例えば交通による路面沈下、地震等)により滞留部A,Bの形状が変化したときに、下地処理材5がその変化に追随することを考慮して、例えば、A90程度が上限として挙げられる。
【0021】
下地処理材5としての好適なウイリアム可塑度や硬度を呈する好適な硬化型シリコーンとなる、未硬化シリコーンのペーストは、公知方法により製造され得る。
【0022】
[シート6]
各滞留部に設けられた下地処理材5及びプライマー層4の少なくとも一部は、硬化型シリコーンからなるシート(雑草発芽防止シート)6によって覆われている。各滞留部を覆うシート6の表面は平滑であるので、シート6の表面に土埃や雨水が滞留することを防止することができる。
【0023】
シート6は、未硬化の段階でシート状に成形されており、下地処理材5及びプライマー層4を覆うように貼付され、その後硬化されてなる弾性部材である。シート6は下地処理材5の全体を覆い、さらに、下地処理材5に覆われずに露出した領域のプライマー層4に接していることが好ましい。この構造であると、シート6の接着面積が広くなるので、シート6は強力に固着する。また、この構造であると、雑草発芽防止構造の外面全体をシート6の平滑な表面で覆うので、土埃や雨水が滞留し難くなり、雑草の発芽を確実に防止することができる。
上記の好適な構造とするためには、図1に示すように雑草発芽防止構造10A,10Bをそれぞれ上方から見て、プライマー層4の面積>シート6の面積>下地処理材5の面積の関係であることが好ましい。
【0024】
シート6の厚さは、風雨に曝されたり、車からの飛び石が当たったりすることに耐え得る厚さであることが好ましく、例えば、0.5mm~8mmが好ましく、1mm~6mmがより好ましく、2mm~4mmがさらに好ましい。ここで、シート6の厚さは、無作為に選択される5箇所について、その断面の厚さを測定した値の平均値とする。
シート6のたて×よこの長さは、滞留部A,Bの面積に応じて適宜設定され、例えば、たて1cm~10cm×よこ10cm~1000cmとすることができる。シート6は一続きの一枚が設置されていてもよいし、途中で分断されて複数枚に分かれて設置されていてもよい。
【0025】
シート6を形成する硬化型シリコーンは、縮合硬化型でもよいし、付加硬化型でもよい。施工の容易さの観点から、縮合硬化型のシリコーンが好ましい。
シート6を構成する硬化型シリコーンの未硬化時のウイリアム可塑度(25℃)は、50~450が好ましく、50~300がより好ましい。ウイリアム可塑度が前記範囲内にあると、未硬化の状態で下地処理材5の形状に沿って貼付することが容易である。ここで、ウイリアム可塑度は、上述の方法により求められた値である。
ウイリアム可塑度が前記下限値以上であれば、シート形状が充分に維持され、前記上限値以下であれば、設置箇所に容易になじませることができる。
【0026】
雑草発芽防止構造の耐候性を高める観点から、シート6を構成する硬化型シリコーンゴムの硬化後の硬度を、JIS K 6253:2012の「第3部:デュロメータ硬さ(タイプA)」に基づいて評価した場合、A 40以上であることが好ましい。上限値は特に限定されないが、経年劣化(例えば交通による地盤沈下、地震等)により滞留部A,Bの形状が変化したときに、下地処理材5がその変化に追随することを考慮して、例えば、A90程度が上限として挙げられる。
【0027】
シート6としての好適なウイリアム可塑度や硬度を呈する好適な硬化型シリコーンとなる、未硬化シリコーンのシートとしては、例えば、信越ポリマー社製の「ポリマエース」として販売されている、HR-2388S(付加硬化型、常温硬化)、HR-120S(付加硬化型、加熱硬化)、HR-120NP(付加硬化型、加熱硬化)、HJ-14S(縮合硬化型)、HJ-1588L(縮合硬化型)、ポリマエースPA等が挙げられる。
【0028】
[遮光材]
雑草発芽防止構造10A,10Bを構成する下地処理材5及びシート6の少なくとも一方が遮光材を含有していてもよい。遮光材が含まれていれば、日光が雑草発芽防止構造を透過することを抑制し、滞留部A,Bに雑草の種子や地下茎が残留していた場合にも、それらから雑草が発芽することをより確実に防止することができる。なお、遮光材を含有していなくても、雑草発芽防止構造は滞留部を覆っているので、滞留部における雑草の発芽や生育を物理的に防止することができる。
前記遮光材は、日光を散乱、反射または吸収する物質である。具体例として、金属、炭素材料、色素、顔料等の微粒子が挙げられる。遮光材は下地処理材5及びシート6に均一に分散されていることが好ましい。
【0029】
[全光線透過率]
上述の目的で日光を遮る観点から、下地処理材5及びシート6のうち少なくとも一方の全光線透過率は30%以下が好ましく、20%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。当然ながら、0%であってもよい。
ここで、上記部材の全光線透過率は、照度計の光センサーを各部材で覆ったときに光センサーが受光する白色光の照度LX1と、その光センサーを各部材で覆っていないときに光センサーが受光する白色光の照度LX2との比率(LX1/LX2×100%)により算出されたものである。
【0030】
[色]
上述の目的で日光を遮る観点から、下地処理材5及びシート6のうち少なくとも一方は黒色または灰色であることが好ましい。なお、下地処理材5及びシート6の色は、これらの部材に含有させる色素や顔料の色や配合量によって調整することができる。例えば、カーボンブラック等の炭素材料を配合することにより、黒色のシリコーン部材が得られる。
【0031】
[発芽防止剤、防草剤]
雑草発芽防止構造10A,10Bを構成する下地処理材5及びシート6の少なくとも一方が発芽防止剤または防草剤を含有していてもよい。下地処理材5またはシート6から周囲へ発芽防止剤または防草剤が拡散することにより、滞留部A,Bに雑草の種子や地下茎が残留していた場合にも、それらから雑草が発芽することをより確実に防止することができる。発芽防止剤または防草剤は、雑草に対して使用される市販品が用いられる。下地処理材5の総質量に対する発芽防止剤または防草剤の含有量は、例えば0.1~5質量%程度とすることができる。シート6の総質量に対する発芽防止剤または防草剤の含有量も同様とすることができる。
【0032】
[他の実施形態]
上述の説明では、「その他の構造物」が車道と歩道を隔てる縁石である場合を例示したが、本発明の「その他の構造物」はこの例に限定されず、中央分離帯を構成する境界ブロック、U字溝を構成するコンクリートブロック、電柱、壁等であってもよい。
また、上述の説明では、「滞留部」が溝や窪みである場合を例示したが、本発明の「滞留部」はこの例に限定されず、数ミリから数センチ程度の段差、隙間、目地等であってもよい。
【0033】
《雑草発芽防止構造の設置方法》
本発明の第二態様は、道路の舗装面と、その他の構造物との境界にある滞留部に、第一態様の雑草発芽防止構造を設置する方法であり、少なくとも次の工程A~工程Dを有する。
【0034】
[工程A]
工程Aは、前記滞留部及びその周囲を構成するアスファルト面、コンクリート面又はモルタル面の表面を清浄にする工程である。清掃前の滞留部A,Bの様子を図4に示す。雑草発芽防止構造を設置していないので、縁石2と舗装面1,3の境界にある滞留部A,Bから雑草Gが発芽し、生育している。これらの雑草を刈り取り、滞留部Aに堆積していた土埃を箒やブラシで掻き出すことにより、滞留部A,Bとその周囲を清浄な表面とした後の様子を図3に示す。
【0035】
[工程B]
工程Bは、滞留部A,Bおよびその周囲の清浄にした表面にプライマー剤を塗布し、乾燥することによりプライマー層4を形成する工程である。
好適なプライマー剤は前述の通りである。前述した好適な厚さのプライマー層4を形成するために、プライマー剤の塗布量は、50g/m~1000g/mが好ましく、100g/m~500g/mがより好ましく、150g/m~300g/mがさらに好ましい。
プライマー剤を塗布した後の乾燥方法は、自然に乾燥するのを待つのが好ましい。
【0036】
本工程の後で設置する硬化型のシリコーン部材は、湾曲した箇所や屈曲した箇所に対してもその形状に対して完全に追随させて接着することができる。このため、本工程でプライマー剤を塗布する領域は湾曲または屈曲していても何ら問題はない。これに対して、特許文献1で提案されている雑草抑止テープを湾曲又は屈曲した領域に貼る場合、その湾曲のRが大きかったり、屈曲の折れ曲がり具合が大きかったりすると、貼付する雑草抑止テープに皺が生じ易く、充分に密着させることが困難である。
なお、本工程でプライマー剤を塗布する領域が湾曲または屈曲しているとは、舗装面1又は舗装面3を上方から見下ろしたときに、前記領域が湾曲または屈曲していることをいう。従って、図1~4の滞留部A,Bは両方とも湾曲または屈曲した領域ではない。図示しないが、例えば、カーブした道路に沿って設置された縁石は、湾曲または屈曲した滞留部を有することがある。
【0037】
[工程C]
工程Cは、プライマー層4が形成された滞留部A,Bに未硬化シリコーンからなるペーストを塗布し、滞留部A,Bの少なくとも一部を充填することにより下地処理材5を形成する工程である。
好適な未硬化シリコーンのペーストは前述の通りである。縮合硬化型のシリコーンを使用する場合、カートリッジから押し出されたペーストを滞留部A,Bに塗布し、ヘラ等で軽く塗り込めることにより、滞留部A,Bおよびその周囲の粗面に対して、ペーストを充分に充填することができる。
その後、塗布したペーストからなる下地処理材5が硬化するまで待ってもよいし、硬化するのを待たずに次の工程Dに進んでもよい。
【0038】
[工程D]
工程Dは、下地処理材5及びプライマー層4の少なくとも一部を覆う、未硬化シリコーンからなるシート(雑草発芽防止シート)6を貼付する工程である。
未硬化シリコーンを貼付し、その後に硬化させることにより、シート6を下地処理材5及びプライマー層4に対して充分に接着することができる。
貼付前のシート6を構成する好適な未硬化シリコーンは前述の通りである。
以上の工程で設置した下地処理材5及びシート6を構成する硬化型のシリコーンは、しばらく放置すると完全に硬化する。
【0039】
《雑草発芽防止シート》
本発明の第三態様は、未硬化の硬化型シリコーンからなるシートであり、第二態様の雑草発芽防止構造の設置方法において、前記下地処理材及び前記プライマー層の少なくとも一部を覆う用途で使用される、雑草発芽防止シートである。シート自体は、従来の未硬化シリコーンシートと同じであるが、その用途は従来とは異なる新規なものである。
【実施例
【0040】
[実施例1]
信越ポリマー株式会社の東京工場の敷地内において、アスファルト舗装された路面と、この路面に沿って設置されたコンクリート製の縁石との境界の窪みに、土埃が溜まり、雑草が生えている箇所(長さ約40cm)を見つけた。
この雑草を引き抜き、箒で土や砂を除去し、前記境界の窪みとその周囲の表面を清浄化した。ここに、プライマー剤(信越化学工業社製、プライマーMT)を約200g/mの厚さで塗り、自然に乾燥させ、プライマー層(厚さ約0.2mm)を形成した。
次に、前記窪みを中心として、未硬化の縮合硬化型シリコーンからなる市販のペーストを厚さ約5mm以上となるように塗布し、スポンジのヘラで表面を均した。これにより、前記窪みと、周囲のアスファルト面の凹凸を充填する下地処理材を形成した。
続いて、下地処理材とそれよりも広範囲に形成されたプライマー層の一部を覆うように、未硬化の縮合硬化型シリコーンからなるシート(信越ポリマー社製、ポリマエースPA)を貼付し、設置面に対してなじませるように押し付けた。
以上の方法で、図1~2の雑草発芽防止構造10Aと同様な雑草発芽防止構造を設置した。この雑草発芽防止構造を構成するシリコーン部材(下地処理材及びシート)は、設置後、表面からゴム状になり完全に硬化した。
以上で設置した雑草発芽防止構造を6ヶ月間に亘り観察したところ、風雨に曝され、直射日光を受けていたにも関わらず、何の変化も生じず、安定に維持された。
【0041】
[実施例2]
実施例1において、未硬化の縮合硬化型シリコーンからなるペーストに、遮光材としてカーボンブラックを数グラム添加し、よく混ぜ合わせて黒色のペーストにしてから使用したこと以外は、実施例1と同様に雑草発芽防止構造を設置した。この下地処理材5の全光線透過率は約20%であった。
【0042】
[比較例1]
アクリル樹脂系粘着剤層を有する市販の透明粘着テープを、実施例1の雑草発芽防止構造の近傍に貼付した。すなわち、アスファルト面と縁石の境界にある雑草が生えた窪みを掃除し、土や砂を除去して清浄化した後、この表面に透明粘着テープ(幅約5cm、長さ約30cm)を貼付した。しかし、貼付する表面が粗く、実質的に接着している面積は少なかった。
以上で設置した透明粘着テープを観察したところ、風雨に曝され、直射日光を受ける時間が長引くほど、容易に劣化していることが明らかであり、2週間が経過するまでに剥離した。
【符号の説明】
【0043】
10A,10B 雑草発芽防止構造
1 車道の舗装面
2 縁石
3 歩道の舗装面
4 プライマー層
5 下地処理材
6 シート(雑草発芽防止シート)
図1
図2
図3
図4
図5
図6