(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】六方晶構造の二次元膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/02 20060101AFI20230901BHJP
C30B 23/08 20060101ALI20230901BHJP
C30B 25/18 20060101ALI20230901BHJP
C30B 29/64 20060101ALI20230901BHJP
【FI】
C30B29/02
C30B23/08 M
C30B25/18
C30B29/64
(21)【出願番号】P 2019541704
(86)(22)【出願日】2018-01-31
(86)【国際出願番号】 FR2018050217
(87)【国際公開番号】W WO2018142061
(87)【国際公開日】2018-08-09
【審査請求日】2020-12-16
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-24
(32)【優先日】2017-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】500361216
【氏名又は名称】ソワテク
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】ブリュノ、ギスレン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-マルク、ベトゥー
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】立木 林
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-502050(JP,A)
【文献】特開2012-1432(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B29/02
C30B23/08
C30B25/18
C30B29/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
六方晶構造を有する第IV族材料の二次元膜(3)を製造する方法であって、
-支持基板(2)上での前記二次元膜の成長に適合した単結晶金属膜(1
)を含んでなる、成長基板(100)の形成、および
-前記成長基板(100)の単結晶金属膜(1)上での二次元膜(3)のエピタキシャル成長を含んでなり、
金属膜(1)が、1μm以下、好ましくは0.1μm以下の厚さを有し、かつ
成長基板(100)の形成が、
-単結晶金属膜(1)を含んでなるドナー基板(11)の提供、
-支持基板(2)を用いたドナー基板(11)の組み立て
であって、支持基板(2)が単結晶金属膜(1)の表面上に配されている組み立て、
-
ドナー基板の少なくとも一部を除去して前記支持基板上の前記単結晶金属膜を曝露し、それにより支持基板(2)に単結晶金属膜(1)を転写させるためのドナー基板(11)の薄化を含んでなる、方法。
【請求項2】
金属膜(1)が、以下の金属:ニッケル、銅、白金、コバルト、クロム、鉄、亜鉛、アルミニウム、イリジウム、ルテニウム、銀のうちの少なくとも1つを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
支持基板(2)が、石英、グラファイト、シリコン、サファイア、セラミック、窒化物、炭化物、アルミナまたは金属の基板である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
支持基板(2)が、二次元膜の材料に関して、金属膜と前記二次元膜との間よりも小さい熱膨張係数の差を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ドナー基板(11)が、インゴットを引っ張り、かつインゴットにおいて前記ドナー基板(11)を切断することにより得られる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
転写される単結晶金属膜(1、10)の境界を定めるために、ドナー基板(11)中に脆化域(12)を形成する工程をさらに含んでなり、ドナー基板(11)の薄化が、脆化域(12)に沿ったドナー基板(11)の分離を含んでなる、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
脆化域(12)が、ドナー基板(11)における原子種の埋め込みにより形成される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ドナー基板(11)および支持基板(2)の組み立てが、結合により行われる、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
支持基板(2)を用いたドナー基板(11)の組み立てが、ドナー基板(11)上での支持基板(2)の成膜により行われる、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
単結晶金属膜(1)が、各々支持基板(2)に転写される複数のブロック(10)の形態である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
各ブロック(10)がドナー基板(11)と同じ表面積を有し、該表面積が、支持基板(2)の表面積よりも小さい、請求項8と組み合わせた請求項10に記載の方法。
【請求項12】
成長基板(100)が、分解されて成長基板(100)が2つの部分に分離されるように設計されている界面(I)を含んでなる、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記界面(I)が、レーザーリフトオフにより分解されるように設計されている、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記界面(I)が、化学的エッチングにより分解されるように設計されている、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記界面(I)が、機械的負荷により分解されるように設計されている、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
二次元膜(3)の成長後、成長基板(100)から該二次元膜(3)を分離する工程を含んでなる、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記分離が、単結晶金属膜(1)と支持基板(2)との間の界面の層間剥離を含んでなる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記分離が、脆化域を形成するための支持基板(2)における原子種の埋め込みと、次いで、該脆化域に沿った成長基板(100)の分離とを含んでなる、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記分離後、新たな成長基板(100)を形成するための、支持基板(2)への新たな単結晶金属膜(1)の転写と、次いで、該新たな成長基板(100)上での六方晶構造を有する第IV族材料の新たな二次元膜(3)の成長とを含んでなる、請求項16~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記分離が、二次元膜(3)と成長基板(100)の単結晶金属膜(1)との間の界面の層間剥離を含んでなる、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
前記分離後、成長基板(100)を再利用して、該基板上での六方晶構造を有する第IV族材料の新たな二次元膜を成長させることを含んでなる、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
二次元膜(3)の成長後、新たな基板に前記二次元膜(3)を転写するための金属膜(1)のエッチングをさらに含んでなる、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
二次元膜(3)がグラフェン膜である、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、六方晶構造を有する元素周期表の第IV族の材料、特にグラフェンの二次元膜の成長、および前記膜を含んでなる構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェン膜は、種々の技術、特に、電子工学、光電子工学、エネルギー、センサー、バイオテクノロジー、複合材料において関心が高まっている。グラフェン膜は、二次元六方晶構造の形態に配列された炭素原子からなる。グラフェンの特に興味深い特性は、電荷担体の移動度、膜面における熱伝導率、光透過性、高い凝集強さまたは引張強さなどの優れた機械的特性、可撓性、および生体適合性である。
【0003】
支持基板上での単原子層または数原子層の形態のグラフェン膜の成長に関しては、既に方法が存在する。
【0004】
第1の技法は、金属箔、特に銅またはニッケルを支持基板として用いるものであり、前記支持基板上にグラフェン層を成長させる化学蒸着(CVD)法を用いるものである。所望により、このように形成されたグラフェン膜を、次に他の支持体に転写することができる。
【0005】
この技法の最初の不利点は、グラフェンおよび銅またはニッケル支持基板の熱膨張係数(CTE)は、非常に異なっているという点である。
【0006】
しかしながら、グラフェン膜の成長は、高温(一般に、1000~1100℃の範囲)で行われるため、室温に戻した際、この熱膨張係数の差は、グラフェン膜における高い応力を生み出す。
【0007】
グラフェン膜は、数枚以下の原子層からなるため、これらの応力は、冷却中、変形およびグラフェンに対する損傷を引き起こす。これらの作用は、グラフェン膜の後の工程段階において悪化し得る。
【0008】
上記の技法の第2の不利点は、(特に、さらなる層が形成し始める領域の形成を回避することにより)成膜されるグラフェン原子層の数を完全にかつ再現性よく制御するために、炭素原子の唯一の源は、成膜雰囲気に由来するものであり、成長基板自体に由来するものではないことを保証できなければならない点である。
【0009】
しかしながら、金属箔は、成膜雰囲気においても故意に強く存在する炭素原子を吸収し、成長または冷却中にそれらを意図せず放出する傾向がある。銅の場合は、この吸収は、主に粒界および多結晶である銅箔の他の欠陥を介して、限局すると考えられている。ニッケルの場合は、その全厚まで、または少なくとも、炭素雰囲気に曝露した表面から数マイクロメートルを超えるところまで、炭素を一時的に吸収する傾向がある。しかしながら、ニッケルにおける炭素の限界溶解度は、温度とともに減少し、グラフェン膜の成長後の冷却中に、炭素が放出されることとなる。
【0010】
最後に、グラフェンの成長を正確にかつ再現性よく制御するためには、(モザイクのように)異なる粒子の配列は、グラフェン膜の特性に大きく影響を及ぼすため、銅箔を(例えば、配向粒子(111)のみを提示することにより)十分にテクスチャー処理および/または配向することは十分ではない。
【0011】
従って、第2の技法は、上記の金属箔を、シリコンまたはサファイア基板上に成膜された銅層からなる複合基板と置き換えることを目的とする[Miller 2012] [Miller 2013] [Ismach 2010] [Rahimi 2014] [Tao 2012]。
【0012】
しかしながら、銅層の成膜が、基板に対する正常軸に沿った配向(111)を促進するように最適化された場合であっても、前記層は、面(双晶)における配向変形の存在によりテクスチャー処理(多結晶)されたままである。同様に、高温(およそ950℃)での銅層のアニーリングは、いくつかの粒子の成長を可能とするが、それらの大きさは、ミリメートルを十分下回ったままである。
【0013】
これらの複合基板上に成膜されたグラフェン膜は、銅箔上に得られたものと品質が同等である。
【0014】
銅の多結晶性の不利点を克服するため、天然的に粒界がない小単結晶の銅結晶上にグラフェンを成膜することにより、試験が実施された[Gao 2010]。
【0015】
しかしながら、この第3の技法は、熱膨張係数の差という問題を解決していない。さらに、非常に高価で小さすぎる銅単結晶の使用は、産業上の利用に適したものではない。最後に、この技法は、ニッケルによる体積吸収という問題を解決していない。
【0016】
文献US8,501,531は、CVDによりグラフェンの成膜を回避することを提案しており、定められた炭素濃度を有する金属層が、基板上で成膜された後、金属層内の炭素を拡散させる加熱工程と、その後の、十分に急速冷却し、炭素を金属層から移動させ、それ自体を前記金属層の表面上でグラフェンとして組織化させる工程とを含んでなる熱処理を受ける方法を記載している。しかしながら、この技法は、特定の不利点を有する。第1に、グラフェン形成温度の定義が不十分であることに留意すべきである。実際に、この技法は、炭素を金属層に組み込むために、構造体を高温に曝す必要があり、炭素の過飽和のために、冷却中にグラフェンが形成される。従って、グラフェン膜にしわが認められる。さらに、成膜によって得られる金属層は、多結晶である。成膜された膜の粗さは、一般に高く、10ナノメートル程度以上であり得る。従って、成膜された膜の厚さ調節は、小さい厚さ、すなわち10nm未満に対しては注意を要する。
【発明の概要】
【0017】
本発明の目的の1つは、上記の不利点を克服すること、および、1以上の原子層の成長を正確に制御することを可能とし、かつ、現在入手可能な膜よりも優れた品質の膜を提供する、六方晶構造を有する第IV族材料、特にグラフェンの二次元膜の製造方法を設計することである。
【0018】
そのために、本発明は、六方晶構造を有する第IV族材料の二次元膜を製造する方法であって、
- 支持基板上での前記二次元膜の成長に適合した単結晶金属膜の転写を含んでなる、成長基板の形成、および
- 前記基板の金属膜上での二次元膜のエピタキシャル成長
を含んでなる方法を提案する。
【0019】
有利には、金属膜は、以下の金属:ニッケル、銅、白金、コバルト、クロム、鉄、亜鉛、アルミニウム、イリジウム、ルテニウム、銀のうち少なくとも1つを含んでなる。
【0020】
好ましくは、金属膜は、1μm以下、好ましくは0.1μm以下の厚さを有する。
【0021】
支持基板は、石英、グラファイト、シリコン、サファイア、セラミック、窒化物、炭化物、アルミナまたは金属の基板であり得る。
【0022】
本発明の一つの実施態様によれば、支持基板は、二次元膜の材料に関して、金属膜と前記二次元膜との間よりも小さい熱膨張係数の差を有する。
【0023】
本発明の一つの実施態様によれば、金属膜の転写は、
- 単結晶金属ドナー基板の提供、
- ドナー基板および支持基板の組み立て、
- 支持基板に金属膜を転写させるためのドナー基板の薄化
を含んでなる。
【0024】
前記単結晶金属ドナー基板は、有利には、インゴットを引っ張ることにより得られる。
【0025】
一つの実施態様によれば、前記方法は、転写される単結晶金属膜の境界を定めるために、ドナー基板中に脆化域を形成する工程をさらに含んでなり、ドナー基板の薄化は、脆化域に沿ったドナー基板の分離を含んでなる。
【0026】
一つの実施態様によれば、脆化域は、ドナー基板における原子種の埋め込みにより形成される。
【0027】
一つの実施態様によれば、ドナー基板および支持基板の組み立ては、結合により行われる。
【0028】
あるいは、ドナー基板および支持基板の組み立ては、ドナー基板上での支持基板の成膜により行われる。
【0029】
特定の実施態様では、単結晶金属膜は、各々支持基板に転写される複数のブロックの形態である。
【0030】
各ブロックは、有利には、ドナー基板と同じ表面積を有し、前記表面積は、支持基板の表面積未満である。
【0031】
一つの実施態様によれば、成長基板は、除去可能な界面を含んでなる。
【0032】
前記界面は、レーザーリフトオフ、化学的エッチング、または機械的負荷により分解されるように設計され得る。
【0033】
さらに、前記方法は、二次元膜の成長後、成長基板から前記二次元膜を分離する工程を含んでなってもよい。
【0034】
一つの実施態様によれば、前記分離は、単結晶金属膜と支持基板との間の界面の層間剥離を含んでなってもよい。
【0035】
あるいは、前記分離は、脆化域を形成するための支持基板における原子種の埋め込みと、次いで、前記脆化域に沿った成長基板の分離とを含んでなってもよい。
【0036】
特定の実施態様では、前記方法は、前記分離後、新たな成長基板を形成するための、支持基板上への新たな単結晶金属膜の転写と、次いで、前記新たな成長基板上での六方晶構造を有する第IV族材料の新たな二次元膜の成長とを含んでなる。
【0037】
他の実施態様によれば、前記分離は、二次元膜と成長基板の単結晶金属膜との間の界面の層間剥離を含んでなる。
【0038】
特定の実施態様では、前記方法は、前記分離後、成長基板を再利用して、前記基板上での六方晶構造を有する第IV族材料の新たな二次元膜を成長させることを含んでなる。
【0039】
所望により、前記方法は、二次元膜の成長後、支持基板に前記二次元膜を転写するための金属膜のエッチングを含んでなってもよい。
【0040】
本発明の有利な実施態様によれば、二次元膜はグラフェン膜である。
【0041】
本発明の他の目的は、上記の方法により得られる構造体に関する。前記構造体は、支持基板と、単結晶金属膜と、金属膜上の六方晶構造を有する第IV族材料の二次元膜とを順次含んでなる。
【0042】
一つの実施態様によれば、金属膜は、支持基板の表面上に分布する複数のブロックの形態である。
【0043】
有利には、前記二次元膜は、1以上の単原子層からなる。
【0044】
一つの実施態様によれば、二次元膜はグラフェン膜である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して、以下の詳細な説明を読むことによりさらに理解されるであろう。
【0046】
【
図1】
図1は、本発明の一つの実施態様によるグラフェン膜の成長用基板を例示する図である。
【
図2】
図2は、本発明の変形例によるグラフェン膜の成長用基板を例示する図である。
【
図3】
図3A~3Bは、本発明の一つの実施態様による
図1の基板の製造方法の主要特徴を例示する図である。
【
図4】
図4A~4Bは、本発明の一つの実施態様による
図2の基板の製造方法の主工程を例示する図である。
【
図5】
図5A~5Bは、本発明の変形実施態様による
図2の基板の製造方法の主工程を例示する図である。
【
図6】
図6は、
図1の基板上にエピタキシャル成長により形成されるグラフェン膜を含んでなる構造体を例示する図である。
【
図7】
図7は、除去可能な界面を含んでなる成長基板上のグラフェン膜を含んでなる構造体を例示する図である。
【
図8】
図8は、グラフェン膜の成長後に、成長基板の金属膜がエッチングされている構造体を例示する図である。
【0047】
図を読みやすくするため、異なる層は、必ずしも一定尺度で表されたものではない。
【発明の具体的説明】
【0048】
簡潔にするために、以下の説明は、グラフェン膜の成長を指すが、本発明は、六方晶構造の二次元膜を形成する元素周期表の他の第IV族元素、すなわち、シリコン(膜材料は、「シリセン」という)、ゲルマニウム(膜材料は、「ゲルマネン」という)およびスズ(膜材料は、「スタネン」という)にも適用される。
【0049】
図1は、本発明の一つの実施態様によるグラフェン膜の成長用基板100を例示している。
【0050】
前記基板は、支持基板2上にグラフェンの成長に適合した単結晶金属膜1を含んでなる。
【0051】
前記基板は、ドナー基板から支持基板上への金属膜の転写により得られる。この転写は、下記のスマートカット(商標)法により行うことができるが、支持基板上でのドナー基板の組み立ての後、金属膜の所望の厚さが得られるまでドナー基板の薄化を行う他の転写法を実施することができる。
【0052】
金属膜1は、以下の金属:ニッケル、銅、白金、コバルト、クロム、鉄、亜鉛、アルミニウム、イリジウム、ルテニウム、銀のうち少なくとも1つを含んでなる。所望により、前記膜は、前記金属の合金、または前記金属の少なくとも1つと少なくとも1つの他の金属とを含んでなる合金からなってもよい。
【0053】
単結晶膜の厚さは、有利には、1μm以下、好ましくは0.1μm以下である。
【0054】
この厚さは一般に、グラフェンの成長に従来使用される金属箔の厚さより少なくとも10倍低い。よって、特に、膜の厚さ全体にわたって吸収現象が生じるニッケルの場合において、上記の原子の吸収効果は、相当に減少する。
【0055】
しかしながら、このような厚さは、グラフェンの成長のためにシード層を形成することになる金属膜の主要機能を果たすには十分である。実際に、金属膜の単結晶の特徴は、結晶品質が優れたグラフェン膜の形成を可能とする。
【0056】
最後に、その薄さのために、金属膜は、グラフェン膜の成長中の基板の熱膨張に対してほとんど影響を及ぼさず、前記熱膨張は、基本的に支持基板の熱膨張に起因する。
【0057】
支持基板2の主要機能は、グラフェン膜の成長中に金属膜を機械的に支持することである。
【0058】
従って、支持基板2の材料は、選択される成膜法に応じて変わり得るグラフェン膜の成長の条件(特に、温度および化学的環境)に耐えられなければならない。よって、化学蒸着(CVD)は、分子線エピタクシー(MBE)より高い温度で実施される。
【0059】
有利であるが強制的ではない実施態様によれば、支持基板2の材料は、グラフェンに関して、金属膜とグラフェンとの間よりも小さい熱膨張係数の差を有するように選択される。好ましくは、グラフェンと支持基板の材料との間の熱膨張係数の差は最小化されるが、グラフェンと支持基板の材料との間の熱膨張係数の差は、グラフェンの成長温度が低い場合、いっそう許容されるものであることが想起される。
【0060】
支持基板2は、有利には単結晶であり、その理由は、この構造は、金属膜の転写前(この転写が結合と関係する場合)における前記基板の表面の研磨にとってより好ましいからであるが、この特性は強制的なものではない。下記に示すように、支持基板は、所望により、成膜により形成することができる。
【0061】
有利には、支持基板の好ましい材料は、特に、石英、グラファイト、シリコン、サファイア、セラミック、窒化物、炭化物、アルミナ、および金属である。
【0062】
所望により、支持基板は、金属膜と支持基板との間の接着を促進するための、かつ/または支持基板の元素によるグラフェンの汚染を防ぐための拡散バリアを形成するための封入層(図示せず)を、金属膜との界面において有していてもよい。逆に、支持基板の材料は、特定の場合において、グラフェン膜の成長雰囲気に直接曝露した場合、または金属膜の組み立て条件に曝露した場合に、分解または劣化の徴候を有し得る。拡散バリアは、この場合において、これらの作用を除去または制限することも可能とする。前記封入層は、例えば、以下の材料、酸化物、窒化物、炭化物のうちの1つからなり得る。
【0063】
グラフェン膜を得た後、それを、その成長のために使用される基板から分離することができる。
【0064】
金属膜は、必ずしも支持基板の表面上で連続している必要はないことに留意すべきである。反対に、
図2に示されるように、金属膜1は、支持基板2の表面にわたって分布する一連の単結晶金属ブロック10により形成され得、前記ブロック10は、近接していてもよいし、互いに離れていてもよい。後述するように、これらのブロックは、支持基板の大きさに関して、小さな金属単結晶の使用を可能とする。ここで使用される大きさとは、ブロックおよび支持基板と接触する表面の表面積を意味する。ブロックは、有利には矩形であるが、この形状は限定するものではない。他の例として、これらのブロックは、条片、円板、六角形などの形態でもあり得る。当業者ならば、任意のドナー基板の幾何学および形成されるグラフェン膜の表面積に応じて、ブロックの形状および支持基板の表面上でのそれらの分布を決定できる。
【0065】
本発明の実施態様による成長基板の実施例
実施例1
この実施例では、単結晶金属膜1は銅であり、支持基板2は、0.4μmのSiO2膜と、支持基板2と金属膜1との間の直接Cu/Cu金属結合を提供するための0.1μm銅膜とで順次被覆されたシリコン基板である。
【0066】
実施例2
この実施例では、単結晶金属膜1はニッケルであり、支持基板2はモリブデン基板であり、各々が、支持基板2と金属膜1との間の直接Cu/Cu金属結合を提供するための0.2μm銅膜で被覆されている。
【0067】
実施例3
この実施例では、単結晶金属膜1はニッケルであり、支持基板2は、0.3μmのSi3N4膜と0.5μmのSiO2膜とで順次被覆された多結晶AlNセラミックである。
【0068】
実施例4
この実施例では、単結晶金属膜1は銅であり、支持基板2は、0.3μmのSiO2膜で被覆されたサファイアである。
【0069】
実施例5
この実施例では、単結晶金属膜1は銅であり、支持基板2は、その中での埋め込みによる脆化域形成後のドナー基板上での直接Cu/Cu金属結合により組み立てられた20μm厚の多結晶銅膜である。
【0070】
実施例5
この実施例では、単結晶金属膜1は銅であり、支持基板2は、その中での埋め込みによる脆化域形成後のドナー基板上に、厚さ15μmまで電着により直接成膜されたニッケル膜である。
【0071】
実施例6
この実施例では、単結晶金属膜は銅であり、支持基板2は、その中での埋め込みによる脆化域形成後のドナー基板上に、厚さ15μmまで電着により直接成膜されたニッケル銅合金膜である。
【0072】
実施例7
この実施例では、単結晶金属膜1はニッケル銅合金であり、支持基板2は、その中での埋め込みによる脆化域形成後のドナー基板上に、厚さ15μmまで電着により直接成膜されたニッケル膜である。
【0073】
実施例8
この実施例では、単結晶金属膜1は、平面支持体上に近接して位置する複数の単結晶ニッケルブロック10の形態であり、支持基板2は、複数のブロックの水素埋め込みにより脆化された側に直接成膜されたニッケル膜であり、前記ニッケル膜の成膜は、厚さ10μmまで電着により行われる。
【0074】
本発明の一つの実施態様による
図1に示される基板の製造方法を、以下に説明する。
【0075】
図3Aを参照すると、金属単結晶からなるドナー基板11が提供される。
【0076】
原子種の埋め込み(矢印により図示される)により、ドナー基板において脆化域12が形成され、前記脆化域は、ドナー基板11の表面上で、支持基板に転写される単結晶金属膜の境界を定める。前記原子種は、特に水素を含み得る。ヘリウムが、水素の代わりとして、または水素と組み合わせて、この観点から特に関心が持たれる他の種である。
【0077】
図3Bを参照すると、ドナー基板11は、支持基板2上に組み立てられ、転写される金属膜が、結合界面に位置している。
【0078】
一つの実施態様によれば、この組み立ては、基板2と11とを結合することにより達成される。
【0079】
他の実施態様によれば、この組み立ては、支持基板の性質に応じて、いずれかの適当な成膜法による、ドナー基板11上での支持基板2の成膜により達成される。
【0080】
次に、ドナー基板は、脆化域12に沿って分離され、前記分離は、例えば、機械的、化学的、および/または熱的応力により開始することができる。この分離は、支持基板2への単結晶金属膜1への転写をもたらす。その結果、
図1に示す構造体が得られる。
【0081】
所望により、単結晶金属膜の表面上で仕上げ処理を行い、グラフェン膜のその後の成膜に好適なものとする。これは、例えば、研磨、アニーリングおよび/またはエッチング作業であり得る。
【0082】
当然ながら、当業者ならば、ドナー基板の材料および転写される膜の厚さに従って、手順を定義することができる。
【0083】
この金属膜転写法は、変形例を含んでなる。
【0084】
第1の変形例は、ドナー基板および支持基板の組み立てに関する。よって、支持基板へのドナー基板の結合による組み立ての代わりに、組み立ては、転写される膜が、成膜が行われるドナー基板の側に位置している、ドナー基板上での支持基板の成膜からなってもよい。所望により、拡散バリア層をドナー基板と支持基板との間に形成させ、その成長中の支持基板からグラフェン層への望まれない種の拡散を防ぐ。
【0085】
第2の変形例―所望により、第1の変形例と組み合わせることができる―は、金属膜を支持基板に転写するためのドナー基板を薄化する方法に関する。よって、脆化域に沿ったドナー基板の分離による薄化の代わりに、転写される金属膜にとって所望の厚さが得られるまで、支持基板との界面の反対側まで、ドナー基板から材料を(特に、エッチング、または研削もしくは研磨などの機械的除去により)除去することが可能である。
【0086】
【0087】
一つの実施態様によれば、ブロックは、順次組み立てられた後、支持基板にまとめて転写される。そのために、金属単結晶からなるドナー基板11が提供され、その表面積は、それを受けることを意図した支持基板2の表面積よりも小さい。
【0088】
図3Aを参照して既に説明したように、ドナー基板11において脆化域12が形成される。
【0089】
図4Aを参照すると、第1のドナー基板11が、次に支持基板2に結合される。
【0090】
図4Bを参照すると、第2のドナー基板11が支持基板2に結合され、この組み立て作業は、支持基板2上の総てのブロックを得るのに必要な総てのドナー基板が結合されるまで、連続して行われる。
【0091】
次に、総ての単結晶金属ブロック10を支持基板2に転写するために、総てのドナー基板11が、各脆化域12に沿って分離される。
【0092】
支持基板上での連続する金属膜の転写に関する上記の手順は、当業者の能力の範囲内で、支持基板上への1以上の金属ブロックの転写に場合により改変して適用可能である。
【0093】
この方法の一変形例(図示せず)によれば、支持基板への第1のドナー基板の結合後、第1の単結晶金属ブロックを支持基板に転写するために、前記ドナー基板は、脆化域に沿って分離され、この順序は、総てのブロック10が支持基板2に転写されるまで、その後のドナー基板を用いて繰り返される。
【0094】
ドナー基板は、所望により、ブロック10が回収されるドナー基板と同じであってもよく、よって、ブロックを同じ支持基板2に転写するために数回用いてもよい。
【0095】
あるいは、ドナー基板は、ブロック10が回収されたドナー基板と異なっていてもよい。総ての金属ブロック10の転写作業の最後に、総てのドナー基板11を再利用して、新たなサイクルを行うことができる。再利用作業は、望ましいものであってもよいし、必要なものであってもよい。例えば、研磨作業は、十分な表面粗さから良質の組み立てまで開始することを可能とするであろう。
【0096】
さらに、新たなドナー基板11は、既に転写されたブロック10から離れた位置に示されているが、既に転写されたブロック10に隣接して位置することができる。
【0097】
よって、複数のブロック10が支持基板2に順次転写されることで、
図2に例示される構造体を得ることができる。
【0098】
他の実施態様によれば、ブロック10は、支持基板2上にまとめて組み立ておよび転写される。
【0099】
そのために、
図5Aに示されるように、複数のドナー基板11が、中間基板13上に組み立てられ、前記中間基板は、基本的に、ドナー基板11に対する機械的支持体またはハンドリングツールとしての役割を果たす。ドナー基板11は、互いに離れた位置に示されているが、結合された様式で並置することもできる。
【0100】
支持基板を転写するためにブロック10の境界を定めるため、中間基板13上への組み立ての前後に、各ドナー基板において脆化域12が形成される。
【0101】
図5Bを参照すると、ドナー基板11を保持する中間基板13は、支持基板2に結合され、ドナー基板11の自由表面が、結合界面に位置している。
【0102】
次に、総てのブロック10を支持基板2に転写するために、総てのドナー基板11が、各脆化域12に沿って分離される。その結果、
図2に示す構造体が得られる。
【0103】
好ましくは、分離工程は、総てのドナー基板に対してまとめて実施される。
【0104】
変形例によれば、分離工程は、各ドナー基板に対して順次実施することができる。
【0105】
所望により、残りのドナー基板を保持する中間基板13を、ブロックを新たにまとめて転写するために再利用することができる。そのために、ドナー基板の自由表面は、分離に関連する欠陥を除去するために処理され、総てのドナー基板において新たな脆化域が形成され、脆化されたドナー基板を保持する中間基板が、新たな支持基板に結合される。
【0106】
有利には、ブロックの調製は、成長基板の製造方法の上流で組織化される。そのために、例えば、金属インゴットは、ドナー基板を形成するためにまとめて切断される前に、まとめて組み立てられ、その後、支持基板に組み立てられる前に、まとめて埋め込まれる。
【0107】
次に、連続したまたは不連続の(ブロック)単結晶金属膜を有する成長基板は、グラフェン膜の成長に使用される。
【0108】
グラフェンの成長に既知のいずれかの技法を使用することができる。
【0109】
限定されない例として、化学蒸着(CVD)および分子線エピタクシー(MBE)に言及することができる。グラフェン層の成長を可能とするこれらの方法のパラメーターは、当業者に既知であるか、または当業者により決定されるため、本明細書において詳細に説明しない。
【0110】
図6は、成長基板100上に形成されたグラフェン3膜を示している。
【0111】
グラフェン膜は、有利には、グラフェンの1以上の単原子層から構成され、前記層は、完全であってもよいし(すなわち、金属膜の表面全体にわたり連続する)、なくてもよい。
【0112】
グラフェン膜が標的とする用途および前記膜に要求される品質に応じて、グラフェンの単一原子層、またはグラフェンの2以上の単原子層積層体を形成して、各単原子層が完全であることを確実にし、完全な単原子層上での新たな(不完全な)層の形成の開始を避けることに関心が持たれ得る。
【0113】
グラフェン膜のこの品質管理は、グラフェン成膜法のパラメーターだけでなく、グラフェン成長用のシードとしての役割を果たす金属膜の優れた結晶品質および/または薄さにより可能となる。
【0114】
一方、実際に、形成される単原子層の数の正確な制御は、グラフェン層を構成する炭素原子は、成膜雰囲気にのみ由来し、成長基板自体に由来するものではないという事実に基づいている。
【0115】
よって、銅の場合、本発明において使用される単結晶膜は、多結晶である従来技術において使用される銅箔よりも品質が優れている。よって、粒界またはその他の結晶欠陥の存在が、本発明による銅膜において最小化される程度まで、炭素原子の吸収部位が最小化される。
【0116】
ニッケルの場合、本発明において使用される単結晶膜の優れた品質は、通常用いられる箔と比較して単結晶膜の厚さが相当に減少していることから、炭素原子の吸収に対して最小量が加えられる銅の場合と同じ利点を有する。
【0117】
従って、単結晶金属膜への炭素原子の吸収は最小化されるため、グラフェン膜の成長中またはその後のその冷却中のこのような原子の放出は、回避されるか、または、少なくとも相当に減少する。
【0118】
他方、支持基板2が、グラフェン膜に関して小さい熱膨張係数の差を有するように選択される場合(単結晶金属膜は、影響が無視できる程十分薄い)、その冷却中にグラフェン膜にかけられる機械的応力が、最小化される。これにより、緩和またはグラフェン膜に対する損傷が防止または減少される。これはまた、グラフェン膜の優れた品質にも寄与する。
【0119】
最後に、多結晶銅膜が支持基板上に成膜される従来技術の複合基板とは対照的に、本発明の金属膜は単結晶であるという事実は、金属膜の表面全体にわたり制御されるグラフェン膜の配向(例えば、111)を可能とする。
【0120】
グラフェン膜が形成された後、所望により、他の支持体に転写させるために、成長基板から分離することができる。
【0121】
この分離は、異なる様式で行うことができる。
【0122】
一つの実施態様によれば、成長基板は、除去可能な界面、すなわち、応力(または処理)の適用により、基板の2つの部分を分離させる界面を含んでなる。ここで使用される用語「界面」とは、広義では、特に、ゼロ以外の厚さの1以上の層を含有し得る。
【0123】
この面において、マイクロエレクトロニクスの分野におけるいずれかの既知の分離法を用いてよく、当業者ならば、選択した技法に従って、適当な材料を選択することができる。
【0124】
考えられる技法としては、(所望により、組み合わせて)
- 機械的応力の適用、
- 化学的侵食、
- 分解、
- 融合、
- レーザーリフトオフ
が挙げられる。
【0125】
前記除去可能な界面は、単結晶金属膜と支持基板との間に位置することができ、または、支持基板内に位置することができる。
【0126】
よって、
図7は、除去可能な界面Iが支持基板2内に位置している実施態様を例示している。
【0127】
例えば、前記界面Iは、結合界面、機械的破壊を限定するように適合された材料の領域、例えば、多孔質層(例えば、シリコン)、他に対する選択的エッチングを可能とする層、支持基板における埋め込みにより形成される脆化域などからなってもよい。
【0128】
あるいは、成長基板からのグラフェン膜の分離は、グラフェンドメインにおけるいずれかの既知の分解法に基づくことができる。
【0129】
一つの実施態様によれば、グラフェン膜の分解は、金属膜と支持基板との間の界面の層間剥離と、その後、所望により、金属膜の化学的エッチングとを含んでなる。この場合、グラフェン成長用の新たな基板を形成するために、支持基板を新たな金属膜の転写のために再利用することができる。
【0130】
他の実施態様によれば、グラフェン膜の分解は、グラフェン膜と金属膜との間の界面の層間剥離を含んでなる。銅箔からなる成長基板の場合、このような層間剥離法は[Wang 2011]に記載されている。このような層間剥離の後、成長基板を新たなグラフェン膜の成長のために再利用することができる。
【0131】
グラフェン膜と支持基板との間に位置する単結晶金属膜をエッチングすることにより、グラフェン膜を支持基板に直接転写することも可能である。その結果、
図8に示す構造体が得られる。成長基板が、熱酸化物で被覆されたシリコン基板上での蒸発により形成された銅膜を含んでなる場合、このような方法は、特に[Levendorf 2009]に記載されている。
【0132】