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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】ウェビング巻取装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 22/46 20060101AFI20230901BHJP
【FI】
B60R22/46 142
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020022771
(22)【出願日】2020-02-13
(65)【公開番号】P2021127003
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003551
【氏名又は名称】株式会社東海理化電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内堀 隼人
(72)【発明者】
【氏名】坂口 善輝
(72)【発明者】
【氏名】永峰 征典
(72)【発明者】
【氏名】三浦 健伍
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/026426(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/026463(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第102015000203(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 22/00-22/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻取方向へ回転されることによってシートベルト装置のウェビングが巻取られるスプールと、
一側への回転によって前記スプールが巻取方向へ回転される回転部材と、
軸方向先端側が開口された筒状のシリンダと、
前記シリンダの軸方向基端側に設けられ、車両緊急時に前記シリンダの内側に流体を供給する流体供給手段と、
前記シリンダの内側に設けられ、前記流体の圧力によって前記シリンダの軸方向先端側へ移動されて前記回転部材へ係合されることによって前記回転部材を一側へ回転させる移動部材と、
前記回転部材との係合が解消されて前記回転部材から離脱された前記移動部材によって動され、動されることによって前記回転部材の外周部へ係合されて前記回転部材の一側への回転を抑制する抑制部材と、
を備えるウェビング巻取装置。
【請求項2】
巻取方向へ回転されることによってシートベルト装置のウェビングが巻取られるスプールと、
一側への回転によって前記スプールが巻取方向へ回転される回転部材と、
軸方向先端側が開口された筒状のシリンダと、
前記シリンダの軸方向基端側に設けられ、車両緊急時に前記シリンダの内側に流体を供給する流体供給手段と、
前記シリンダの内側に設けられ、前記流体の圧力によって前記シリンダの軸方向先端側へ移動されて前記回転部材へ係合されることによって前記回転部材を一側へ回転させる移動部材と、
前記回転部材との係合が解消されて前記回転部材から離脱された前記移動部材によって移動され、移動されることによって前記移動部材の前記回転部材との係合部分よりも前記移動部材の移動方向側で前記移動部材へ係合して前記移動部材の移動を抑制する抑制部材と、
を備えるウェビング巻取装置。
【請求項3】
前記移動部材の剛性は、前記回転部材の剛性よりも低い請求項1又は請求項2に記載のウェビング巻取装置。
【請求項4】
前記移動部材の外周部へ当接可能に設けられ、前記移動部材の外周部が当接されることによって前記移動部材の移動方向側へ前記移動部材を案内するガイド手段を備え、前記抑制部材は、前記移動部材の移動軌跡を挟んで前記ガイド手段とは反対側に設けられ、前記移動部材によって移動された状態では、前記ガイド手段との間隔を前記移動部材よりも狭くする請求項1から請求項3の何れか1項に記載のウェビング巻取装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転部材が回転されることによってスプールが巻取方向へ回転されるウェビング巻取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、下記特許文献1に開示されているウェビング巻取装置は、ストッパを備えている。ストッパは、移動部材の長手方向先端側へ移動された移動部材の長手方向先端側部分を停止させる。この状態で、移動部材がガスの圧力を受けると移動部材が長手方向先端側へ移動したり変形が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-39345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事実を考慮して、移動部材の移動を抑制するに際して移動部材の長手方向基端側での変形を抑制できるウェビング巻取装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様のウェビング巻取装置は、巻取方向へ回転されることによってシートベルト装置のウェビングが巻取られるスプールと、一側への回転によって前記スプールが巻取方向へ回転される回転部材と、軸方向先端側が開口された筒状のシリンダと、前記シリンダの軸方向基端側に設けられ、車両緊急時に前記シリンダの内側に流体を供給する流体供給手段と、前記シリンダの内側に設けられ、前記流体の圧力によって前記シリンダの軸方向先端側へ移動されて前記回転部材へ係合されることによって前記回転部材を一側へ回転させる移動部材と、前記回転部材との係合が解消されて前記回転部材から離脱された前記移動部材によって移動され、移動されることによって前記回転部材の外周部へ係合されて前記回転部材の一側への回転を抑制する抑制部材と、を備えている。
【0006】
本発明の第1の態様のウェビング巻取装置によれば、回転部材との係合が解消されて回転部材から離脱された移動部材によって抑制部材は、移動される。このようにして抑制部材が移動されると、抑制部材が回転部材の外周部へ係合され、これによって回転部材の一側への回転が抑制される。回転部材は、移動部材が回転部材に係合された状態で移動されることによって回転される。
【0007】
したがって、回転部材の回転が抑制部材によって抑制されると、移動部材における回転部材との係合部分よりもシリンダとは反対側(すなわち、流体供給手段からの流体の圧力による移動部材の移動方向側)の部分の流体供給手段からの流体の圧力による移動や圧縮変形が抑制される。これによって、移動部材の移動又は圧縮変形される部分が短くなる。このように、移動部材の移動又は圧縮変形される部分が短くなると、移動部材のシリンダ側の基端部のシリンダとは反対側への移動が抑制される。
【0008】
本発明の第2の態様のウェビング巻取装置は、巻取方向へ回転されることによってシートベルト装置のウェビングが巻取られるスプールと、一側への回転によって前記スプールが巻取方向へ回転される回転部材と、軸方向先端側が開口された筒状のシリンダと、前記シリンダの軸方向基端側に設けられ、車両緊急時に前記シリンダの内側に流体を供給する流体供給手段と、前記シリンダの内側に設けられ、前記流体の圧力によって前記シリンダの軸方向先端側へ移動されて前記回転部材へ係合されることによって前記回転部材を一側へ回転させる移動部材と、前記回転部材との係合が解消されて前記回転部材から離脱された前記移動部材によって移動され、移動されることによって前記移動部材の前記回転部材との係合部分よりも前記移動部材の移動方向側で前記移動部材へ係合して前記移動部材の移動を抑制する抑制部材と、を備えている。
【0009】
本発明の第2の態様のウェビング巻取装置によれば、回転部材との係合が解消されて回転部材から離脱された移動部材によって抑制部材は、移動される。このようにして抑制部材が移動されると、移動部材の回転部材との係合部分よりも移動部材の移動方向側で抑制部材が移動部材へ係合される。
【0010】
このように、抑制部材が移動部材へ係合されると、移動部材における抑制部材との係合部分よりも移動部材の移動方向側の部分で流体供給手段からの流体の圧力による移動や圧縮変形が抑制される。これによって、移動部材の移動又は圧縮変形される部分が短くなり、移動部材のシリンダ側の基端部のシリンダとは反対側への移動が抑制される。
【0011】
特に、この第2の態様のウェビング巻取装置及び上述した第1の態様のウェビング巻取装置の一方が他方に従属するような構成であると、移動部材における回転部材との係合部分と抑制部材との係合部分との間の部分流体供給手段からの流体の圧力によって移動したり圧縮変形されたりすることを効果的に抑制できる。このため、移動部材のシリンダ側の基端部のシリンダとは反対側への移動がさらに抑制される。
【0012】
本発明の第3の態様のウェビング巻取装置は、上記の第1の態様又は第2の態様において、前記移動部材の剛性は、前記回転部材の剛性よりも低く設定されている。
【0013】
本発明の第3の態様のウェビング巻取装置によれば、移動部材の剛性は、回転部材の剛性よりも低く設定されている。このような構成であっても、抑制部材が作動されることによって移動部材における回転部材との係合部分よりもシリンダ側の部分で移動部材の変形が生じることを抑制できる。このため、移動部材における回転部材との係合部分よりもシリンダ側の部分での移動部材の移動を効果的に抑制できる。
【0014】
本発明の第4の態様のウェビング巻取装置は、上記の第1の態様から第3の態様の何れか1つにおいて、前記移動部材の外周部へ当接可能に設けられ、前記移動部材の外周部が当接されることによって前記移動部材の移動方向側へ前記移動部材を案内するガイド手段を備え、前記抑制部材は、前記移動部材の移動軌跡を挟んで前記ガイド手段とは反対側に設けられ、前記移動部材によって移動された状態では、前記ガイド手段との間隔を前記移動部材よりも狭くする。
【0015】
本発明の第4の態様のウェビング巻取装置によれば、移動部材の移動状態で移動部材の外周部がガイド手段へ当接されることによって移動部材は、移動方向側へ案内される。ここで、抑制部材は、移動部材の移動軌跡を挟んでガイド手段とは反対側に設けられ、抑制部材が移動部材によって移動された状態では、抑制部材とガイド手段との間隔が移動部材よりも狭くされる。これによって、移動部材が抑制部材とガイド手段との間を通ることを抑制でき、移動部材における回転部材との係合部分よりもシリンダ側の部分で移動部材の変形が生じることを抑制しつつ移動部材の移動を抑制できる。
【発明の効果】
【0016】
以上、説明したように、本発明に係るウェビング巻取装置では、移動部材の移動を抑制するに際して移動部材の長手方向基端側での変形を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施の形態に係るウェビング巻取装置の分解斜視図である。
図2図3の2-2線に沿って切った断面図である。
図3】移動部材がシリンダの軸方向先端から出た状態を示す車両前側からカバープレートの内側を見た側面図である。
図4】移動部材の円錐部が回転部材の第2回転部の第2歯へ当接された状態を示す図3に対応する側面図である。
図5】回転部材の第1歯及び第2歯が移動部材に食込み又は突刺さった状態を示す図3に対応する側面図である。
図6】移動部材の長手方向先端側部分がレバーの第1係合部へ当接した状態を示す図3に対応する側面図である。
図7】レバーが矢印C方向側へ回動された状態を示す図3に対応する側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、図1から図7の各図に基づいて本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において矢印FRは、本ウェビング巻取装置10が適用された車両の前側を示し、矢印OUTは、車幅方向外側を示し、矢印UPは、車両上側を示す。また、各図において矢印Aは、スプール18がウェビング20を巻取る際のスプール18の回転方向である巻取方向を示し、矢印Bは、巻取方向とは反対の引出方向を示す。さらに、矢印Cは、抑制部材としてのレバー90の回動方向一側を示す。
【0019】
<本実施の形態の構成>
図1に示されるように、本実施の形態に係るウェビング巻取装置10は、フレーム12を備えている。フレーム12は、車両の車体としてのセンターピラー(図示省略)の車両下側部分に固定されている。
【0020】
また、フレーム12にはスプール18が設けられている。スプール18は、略円筒形状に形成されており、中心軸線周り(図1の矢印A方向及び矢印B方向)に回転可能とされている。スプール18には、長尺帯状のウェビング20の長手方向基端部が係止されており、スプール18が巻取方向(図1等の矢印A方向)へ回転されると、ウェビング20は、長手方向基端側からスプール18に巻取られる。また、ウェビング20の長手方向先端側は、スプール18から車両上側へ延び、フレーム12の車両上側でセンターピラーに支持されたスルーアンカ(図示省略)に形成されたスリット孔を通って車両下側へ折返されている。
【0021】
さらに、ウェビング20の長手方向先端部は、アンカプレート(図示省略)に係止されている。アンカプレートは、鉄等の金属板材によって形成されており、車両の床部(図示省略)又は本ウェビング巻取装置10に対応するシート(図示省略)の骨格部材等に固定されている。
【0022】
また、本ウェビング巻取装置10が適用された車両用のシートベルト装置は、バックル装置(図示省略)を備えている。バックル装置は、本ウェビング巻取装置10が適用されるシート(図示省略)の車幅方向内側に設けられている。シートに着座した乗員の身体にウェビング20が掛回された状態で、ウェビング20に設けられたタング(図示省略)がバックル装置に係合されることによって、ウェビング20が乗員の身体に装着される。
【0023】
また、図1に示されるように、フレーム12の車両後側には、スプリングハウジング22が設けられている。スプリングハウジング22の内側には、ぜんまいばね等のスプール付勢手段(図示省略)が設けられている。スプール付勢手段は、スプール18に直接又は間接的に係合され、スプール18は、スプール付勢手段の付勢力によって巻取方向(図1の矢印A方向)へ付勢されている。
【0024】
さらに、本ウェビング巻取装置10は、フォースリミッタ機構を構成するトーションバー24を備えている。トーションバー24の車両後側部分は、スプール18の内側に配置され、スプール18に対する相対回転が制限された状態でスプール18に繋がっている。これに対して、トーションバー24の車両前側部分は、フレーム12に形成された孔を通ってフレーム12の外側(車両前側)へ延びている。
【0025】
フレーム12の車両前側には、プリテンショナ26の回転部材28が設けられている。図1及び図2に示されるように、回転部材28は、第1回転部30を備えている。第1回転部30は、スプール18に対する同軸上に配置されている。第1回転部30には、トーションバー24の車両前側部分が連結されており、回転部材28は、トーションバー24の車両前側部分に対する相対回転が制限されている。また、回転部材28の第1回転部30は、第1フランジ32を備えている。第1フランジ32は、円板状に形成されており、第1フランジ32の厚さ方向は、車両前後方向(図1の矢印FR方向及びその反対方向)側とされている。第1フランジ32の車両前側(図1の矢印FR方向側)には、複数の第1歯34が設けられている。これらの第1歯34は、第1フランジ32の中心軸線周り(すなわち、第1回転部30の中心軸線周り)に所定の間隔をおいて配置されており、第1フランジ32と一体に形成されている。
【0026】
さらに、第1回転部30の車両前側には、第1回転部30と共に回転部材28を構成する第2回転部36が設けられている。第2回転部36は、第2フランジ38を備えている。第2フランジ38は、円板状に形成されている。第2フランジ38は、第1フランジ32と同一形状とされており、第1回転部30の車両前側における第1フランジ32に対する同軸上で第1フランジ32に対向配置されている。
【0027】
第2フランジ38の車両後側(図1等の矢印FR方向とは反対側)で第1回転部30の第1歯34の車両前側には、複数の第2歯40が設けられている。これらの第2歯40は、第2フランジ38と一体にされている。また、これらの第2歯40は、第2回転部36の中心軸線周りに所定の間隔をおいて形成されており、第2歯40の各々は、回転部材28の中心軸線方向に見て、回転部材28の第1回転部30の中心軸線周りに隣合う第1回転部30の第1歯34の間の略中央に配置される。この状態で、第2回転部36は、第1回転部30に連結され、第2回転部36の第1回転部30に対する相対移動が制限されている。
【0028】
また、第2回転部36の車両前側部分は、ロック機構42のロックベース44とされている。ロックベース44は、ロックパウル48を備えている。ロックパウル48は、ロックベース44に形成されたボス46によって支持されており、ボス46を中心に回動可能とされている。
【0029】
一方、フレーム12の車両前側の脚板12Aには、ロック機構42及びプリテンショナ26の双方を構成するカバープレート50が固定されている。カバープレート50は、車両後側へ開口されており、カバープレート50の底板52は、フレーム12から車両前側へ離れた状態でフレーム12に対向されている。底板52には、ラチェット孔54が形成されている。ラチェット孔54の内周部には、ラチェット歯が形成されており、ロックベース44のロックパウル48がボス46周りの一方へ回動されると、ロックパウル48の先端部がラチェット孔54のラチェット歯に噛合う。これによって、ロックベース44の引出方向(図1等の矢印B方向)への回転が制限され、スプール18の引出方向への回転が間接的に制限される。
【0030】
また、カバープレート50の車両前側には、ロック機構42のセンサホルダ56が設けられている。センサホルダ56は、車両後側へ開口されており、直接又はカバープレート50を介して間接的にフレーム12に固定されている。センサホルダ56の内側には、車両の緊急状態を検出するセンサ機構を構成する各部品が収容されており、車両緊急時にセンサホルダ56内のセンサ機構が作動されると、ロック機構42のロックベース44の引出方向へ回転に連動してロックベース44のロックパウル48がボス46周りの一方へ回動される。
【0031】
一方、ウェビング巻取装置10は、プリテンショナ26を構成する筒状部材としてのシリンダ58を備えている。シリンダ58は、円筒形状に形成されており、シリンダ58の軸方向基端部は、フレーム12の車両後上側に配置されている。シリンダ58の軸方向基端部には、流体供給手段としてのマイクロガスジェネレータ60(以下、マイクロガスジェネレータ60を「MGG60」と称する)が挿入されている。MGG60は、制御手段としてのECUを介して車両に設けられた衝突検知センサ(何れも図示省略)に電気的に接続されており、車両衝突時の衝撃が衝突検知センサによって検知されると、MGG60がECUによって作動され、MGG60において発生された流体の一態様であるガスが、シリンダ58の内側へ供給される。
【0032】
プリテンショナ26のシリンダ58の内側には、ピストンとしてのシールボール62が配置されている。シールボール62は、合成樹脂材によって形成されており、シールボール62に荷重が付与されていない状態でのシールボール62の形状は、略球形状とされている。シリンダ58の内部空間は、シールボール62によってシールボール62よりも軸方向基端側とシールボール62よりも軸方向先端側とに仕切られている。MGG60が作動されると、MGG60で発生されたガスがシリンダ58におけるMGG60とシールボール62との間に供給される。これによって、シリンダ58におけるMGG60とシールボール62との間で内圧が上昇されると、シールボール62は、シリンダ58の軸方向先端側へ移動されると共にシリンダ58の軸方向に圧縮されて変形される。
【0033】
また、プリテンショナ26のシリンダ58の内側には、移動部材64が配置されている。移動部材64は、回転部材28の第1回転部30の第1歯34及び第2回転部36の第2歯40よりも剛性が低い合成樹脂材によって形成されており、外力を受けることによって変形可能とされている。移動部材64は、シールボール62よりもシリンダ58の軸方向先端側に配置されており、シールボール62がシリンダ58の軸方向先端側へ移動されると、移動部材64は、シールボール62に押圧されてシリンダ58の軸方向先端側へ移動される。さらに、移動部材64は、円柱の棒状に形成されている。
【0034】
一方、プリテンショナ26のシリンダ58は、軸方向中間部で曲がっており、シリンダ58の軸方向先端部は、フレーム12の車両前側における車両前上側に配置され、カバープレート50とフレーム12とに挟まれて保持されている。シリンダ58の軸方向先端は、略車両下側(更に言えば、車両下側に対して車幅方向外側へ傾斜した方向側)へ開口されている。
【0035】
移動部材64がシリンダ58の軸方向先端に到達した状態で移動部材64がシールボール62によって更に押圧されて移動されると、図3に示されるように、移動部材64は、シリンダ58の軸方向先端から車両下側へ出て、カバープレート50の内側に入る。この状態で移動部材64が更に車両下側へ移動されると、図4に示されるように、移動部材64の長手方向先端側部分は、回転部材28の第1回転部30の第1歯34又は第2回転部36の第2歯40に当接される。この状態で、第1歯34又は第2歯40が移動部材64によって車両下側へ押圧されることによって、回転部材28は、移動部材64からの巻取方向(図4等の矢印A方向)への回転力が付与される。これによって、回転部材28は、巻取方向へ回転され、移動部材64は、シールボール62からの圧力によって更に車両下側へ移動される。
【0036】
このように、移動部材64が車両下側へ移動され、回転部材28が巻取方向へ回転されることによって、図5に示されるように、回転部材28の第1回転部30の第1歯34及び第2回転部36の第2歯40の一方は、移動部材64に食込み又は突刺さる。この状態で、移動部材64が更に車両下側へ移動されることにより、回転部材28には、更に巻取方向への回転力が付与され、回転部材28は、更に巻取方向へ回転される。
【0037】
一方、図1及び図2に示されるように、カバープレート50は、レバー支持部(抑制部材支持部)としての底板52を備えている。底板52は、板状とされ、底板52の厚さ方向は、概ね、車両前後方向(図1の矢印FR方向及びその反対方向)側とされている。また、カバープレート50は、ガイド手段を構成する側壁72を備えている。側壁72は、カバープレート50の底板52の外周部に沿って設けられており、図2に示されるように、回転部材28は、側壁72の内側に配置される。
【0038】
また、図1に示されるように、カバープレート50の内側には、側壁72と共にガイド手段を構成するガイド部材82が設けられている。ガイド部材82は、側壁72の内側における車幅方向外側端部における車両下側端部に設けられている。ガイド部材82は、ガイド面82Aを備えている。ガイド面82Aは、ガイド面82Aよりも車両上側で且つ車幅方向内側を曲率中心として湾曲されている。図7に示されるように、移動部材64がシリンダ58の軸方向先端から所定長さ延び出ると、移動部材64は、カバープレート50の側壁72におけるカバープレート50の内側の面及びガイド部材82のガイド面82Aに案内されて移動する。
【0039】
また、図1及び図3に示されるように、カバープレート50の内側には、抑制部材としてのレバー90が設けられている。レバー90は、一対の軸部92(図1では、一方の軸部92のみを図示)を備えている。両軸部92の中心軸方向は、車両前後方向(図1の矢印FR方向及びその反対方向)側とされており、両軸部92は、互いに同軸上に配置されている。一方の軸部92は、レバー90の車両前側の面から車両前側へ突出されており、カバープレート50の底板52に軸部92の中心軸周りに回動可能に支持されている。これに対して、他方の軸部92は、レバー90の車両後側の面から車両後側へ突出されており、フレーム12の車両前側の脚板12Aに軸部92の中心軸周りに回動可能に支持されている。
【0040】
また、図3に示されるように、レバー90には、制限孔94が形成されている。制限孔94は、レバー90の車両前側の面で開口されている。また、制限孔94は、車両前側から見て軸部92を曲率の中心として湾曲されている。この制限孔94には、ストッパ軸96が入っている。ストッパ軸96は、カバープレート50の底板52から車両後側へ突出されている。このため、レバー90の軸部92周りの回動範囲は、制限孔94の長手方向一端にストッパ軸96が当接された状態と制限孔94の長手方向他端にストッパ軸96が当接された状態との間に制限されている。
【0041】
さらに、レバー90は、第1係合部98を備えている。レバー90の初期状態(図3図示状態)で、第1係合部98は、カバープレート50内での移動部材64の移動軌跡上に配置されている。このため、図6に示されるように、カバープレート50内を移動する移動部材64の軸方向先端がレバー90の第1係合部98へ当接して、第1係合部98が移動部材64によって押圧されると、レバー90は、軸部92の中心軸周りの一側(図3の矢印C方向側)へ回動される。図7に示されるように、このようにして、レバー90が回動されレバー90の制限孔94の長手方向他端へストッパ軸96が当接されると、それ以上のレバー90の矢印C方向側への回動が制限される。このレバー90の回動制限状態で、移動部材64の軸方向先端よりも移動部材64の移動方向側での第1係合部98とカバープレート50の側壁72との間隔Lは、移動部材64の直径寸法よりも狭くされる。
【0042】
このため、図7に示されるように、レバー90の矢印C側への回動がストッパ軸96によって制限された状態で移動部材64の長手方向先端側部分がレバー90の第1係合部98へ当接された状態では、移動部材64の長手方向先端側への移動が制限される。また、図7に示されるように、このように移動部材64の長手方向先端側への移動が制限された状態では、移動部材64の長手方向基端は、シリンダ58の軸方向先端部においてシリンダ58の内側に配置される。
【0043】
また、図3に示されるように、レバー90は、圧接部100を備えている。レバー90の初期状態で、圧接部100は、回転部材28の第1フランジ32及び第2フランジ38の各々の外周部から離れて配置されている。レバー90が軸部92周りに図3の矢印C方向へ所定角度回動されると、圧接部100は、第1フランジ32及び第2フランジ38の各々の外周部へ接近され、図7に示されるように、第1フランジ32及び第2フランジ38の各々の外周部へ圧接される。このように、回転部材28の回転状態で圧接部100が第1フランジ32及び第2フランジ38の各々の外周部へ圧接されると、圧接部100と第1フランジ32及び第2フランジ38の各々の外周部との間の摩擦が回転部材28の回転の抵抗になる。これによって、回転部材28の回転が抑制される。
【0044】
また、図3に示されるように、レバー90は、第2係合部102を備えている。レバー90の初期状態で、第2係合部102は、カバープレート50内での移動部材64の移動軌跡よりも更にカバープレート50の内側に配置されている。したがって、カバープレート50内を移動する移動部材64は、第2係合部102の側方を通過する。移動部材64が第2係合部102の側方を通過した状態で、レバー90が軸部92の中心軸周りに図3の矢印C方向側へ所定角度以上回動されると、図7に示されるように、第2係合部102は、移動部材64に食込み又は突刺さるように移動部材64に係合される。この状態で、レバー90の矢印C方向側への回動が制限されていると、第2係合部102によって移動部材64の長手方向側への移動部材64の移動が抑制される。
【0045】
<本実施の形態の作用、効果>
次に、本実施の形態の作用並びに効果について説明する。
【0046】
本ウェビング巻取装置10では、車両緊急時の一態様である車両衝突時に、ECUによってプリテンショナ26のMGG60が作動されると、MGG60からシリンダ58の内側へ高圧のガスが瞬時に供給される。このガスの圧力によってシールボール62がシリンダ58の軸方向先端側へ移動されると、移動部材64がシールボール62に押圧されて移動部材64がシリンダ58の軸方向先端側へ移動される。
【0047】
移動部材64が軸方向先端側へ移動されることによって、移動部材64の長手方向先端側部分がシリンダ58の軸方向先端から車両下側へ出て、回転部材28の第1歯34又は第2歯40が移動部材64の長手方向先端側部分へ当接される(図4参照)。これによって、回転部材28の第1歯34又は第2歯40が移動部材64の長手方向先端側部分によって車両下側へ押圧されると、回転部材28は、移動部材64からの巻取方向(図4等の矢印A方向)への回転力が付与される。これによって、回転部材28が巻取方向へ回転される。
【0048】
さらに、回転部材28の複数の第1歯34又は第2歯40のうち、移動部材64に押圧された第1歯34又は第2歯40よりも引出方向側(図2等の矢印B方向側)の第1歯34又は第2歯40は、図5に示されるように、回転部材28の巻取方向への回転によって移動部材64の外周面から移動部材64の径方向中央側へ食込み又は突刺さる。
【0049】
このように、第1歯34又は第2歯40が食込み又は突刺さった移動部材64が車両下側へ移動されることによって、回転部材28には、更に巻取方向への回転力が付与され、回転部材28は、回転部材28が更に巻取方向(図5等の矢印A方向)へ回転される。回転部材28の巻取方向への回転は、トーションバー24を介してスプール18に伝わり、スプール18が巻取方向へ回転される。これによって、ウェビング20がスプール18に巻取られて、ウェビング20による乗員の拘束力が増加される。
【0050】
一方、移動部材64がシールボール62に押圧されることによって、移動部材64の長手方向先端側部分が回転部材28よりも車両下側へ移動されると、移動部材64は、カバープレート50の側壁72、ガイド部材82のガイド面82Aに案内され、レバー90の第2係合部102の側方を通過する。このように移動部材64がカバープレート50の内側を移動すると、図6に示されるように、移動部材64の長手方向先端側部分は、レバー90の第1係合部98へ当接される。
【0051】
これによって、レバー90の第1係合部98は、移動部材64の長手方向先端側部分によって押圧され、移動部材64からの押圧力を受けたレバー90は、図6等の矢印C方向側へ回動される。このようにしてレバー90が回動されることによって、図7に示されるように、制限孔94の他端にストッパ軸96が当接すると、それ以上のレバー90の回動が制限される。
【0052】
この状態では、レバー90の圧接部100が回転部材28の第1フランジ32及び第2フランジ38の各々の外周部へ圧接される。このように、回転部材28の回転状態で圧接部100が第1フランジ32及び第2フランジ38の各々の外周部へ圧接されると、圧接部100と第1フランジ32及び第2フランジ38の各々の外周部との間の摩擦が回転部材28の巻取方向(図7等の矢印C方向)への回転の抵抗になる。
【0053】
これによって、回転部材28の巻取方向への回転が抑制される。回転部材28は、移動部材64の第1歯34や第2歯40が移動部材64に食込み又は突刺さった状態で移動部材64が長手方向先端側へ移動されることによって回転される。このため、上記のように、回転部材28の巻取方向への回転が抑制されると、移動部材64において回転部材28の第1歯34や第2歯40が食込み又は突刺さった部分よりも移動部材64の長手方向先端側部分における移動部材64の長手方向先端側への移動や移動部材64の長手方向への圧縮変形が抑制される。
【0054】
このように、移動部材64における第1歯34や第2歯40が食込み又は突刺さった部分よりも移動部材64の長手方向先端側部分での移動や圧縮変形が抑制されることによって、移動部材64においてMGG60からのガスの圧力によって移動又は圧縮変形される部分は、主に、移動部材64の長手方向基端と移動部材64における第1歯34や第2歯40が食込み又は突刺さった部分との間になる。
【0055】
このように、移動部材64においてMGG60からのガスの圧力によって移動又は圧縮変形される部分が短くなることにより、移動部材64の長手方向基端が移動部材64の長手方向先端側へ移動することを抑制できる。
【0056】
一方、上記のように、ストッパ軸96がレバー90の制限孔94の他端に当接するまでレバー90が回動した状態では、レバー90の第2係合部102が移動部材64に食込み又は突刺さるように移動部材64に係合される。ストッパ軸96がレバー90の制限孔94の他端に当接した状態では、レバー90の矢印C方向側への回動が制限される。このため、この状態では、移動部材64に食込み又は突刺さったレバー90の第2係合部102によって移動部材64において第2係合部102が食込み又は突刺さった部分よりも長手方向先端側部分の長手方向先端側への移動や長手方向への圧縮変形が抑制される。
【0057】
このように、移動部材64において第2係合部102が食込み又は突刺さった部分よりも長手方向先端側部分の移動や圧縮変形が抑制されることで、移動部材64においてMGG60からのガスの圧力によって移動又は圧縮変形される部分は、主に、移動部材64の長手方向基端と移動部材64における第2係合部102が食込み又は突刺さった部分との間になる。
【0058】
このように、移動部材64においてMGG60からのガスの圧力によって移動又は圧縮変形される部分が短くなることにより、移動部材64の長手方向基端が移動部材64の長手方向先端側へ移動することを抑制できる。
【0059】
以上のように、本実施の形態では、ストッパ軸96が制限孔94の他端に当接するまで回動したレバー90の圧接部100、第2係合部102、第1係合部98によって移動部材64の長手方向先端側への移動を効果的に抑制できる。このようにして、移動部材64の長手方向先端側部分がレバー90の第1係合部98へ当接された状態では、移動部材64の長手方向基端は、シリンダ58の軸方向先端部においてシリンダ58の内側に配置される。このように、本実施の形態では、移動部材64の長手方向基端が、シリンダ58の軸方向先端から抜けるまで移動部材64が移動することを抑制できる。これによって、MGG60からシリンダ58内に供給されたガスが、シリンダ58の軸方向先端から抜けることを抑制できる。
【0060】
また、本実施の形態では、移動部材64において回転部材28の第1歯34及び第2歯40が食い込み又は突き刺さった部分よりも移動部材64の長手方向基端側の部分では、レバー90によって特に変形されることがない。このため、上記のように、レバー90の第1係合部98によって移動部材64の移動が抑制された状態で、移動部材64の長手方向基端が、シリンダ58の軸方向先端から抜けることを効果的に抑制できる。このため、移動部材64の長手方向基端のシリンダ58の軸方向先端からの抜けを抑制するために、移動部材64の全長を長くしなくてもよい。すなわち、本実施の形態では、移動部材64の全長が長くなることを抑制でき。このように、移動部材64の全長が長くなることを抑制できることによってシリンダ58の全長が長くなることを抑制でき、ウェビング巻取装置10の体積が大きくなることを抑制できる。
【0061】
さらに、本実施の形態では、回転部材28の第1歯34及び第2歯40との係合位置よりも移動部材64の移動方向先端側でレバー90の第1係合部98が移動部材64によって押圧される。すなわち、本実施の形態では、回転部材28の第1歯34及び第2歯40から離脱した移動部材64によってレバー90を押圧される。したがって、移動部材64がレバー90を押圧するまでは、MGG60からシリンダ58内に供給されたガス圧を移動部材64の移動に供することができる。このため、MGG60からシリンダ58内に供給されたガス圧を回転部材28の巻取方向への回転に効率よく供することができる。
【0062】
なお、本実施の形態では、圧接部100及び第2係合部102を1つのレバー90に設けた構成であった。しかしながら、レバー90は、圧接部100又は第2係合部102を備える構成であってもよい。
【0063】
また、本実施の形態では、1つのレバー90に第1係合部98、圧接部100、第2係合部102を設けた構成であったが、第1係合部98、圧接部100、第2係合部102の少なくとも1つを他とは別体で構成してもよい。
【0064】
さらに、本実施の形態では、抑制部材としてのレバー90は、移動部材64に押圧されることによって軸部92周りに回動される構成であった。しかしながら、移動部材64による抑制部材の移動は、例えば、直線的な移動であってもよい。すなわち、抑制部材の移動の態様は、回動に限定されるものではない。
【0065】
また、本実施の形態では、レバー90の圧接部100が回転部材28の第1フランジ32及び第2フランジ38へ圧接されることによって回転部材28の回転を抑制する構成であった。しかしながら、レバー90の圧接部100が第1フランジ32及び第2フランジ38の一方へのみ圧接される構成であってもよい。
【0066】
さらに、本実施の形態では、抑制部材としてのレバー90は、圧接部100が回転部材28の第1フランジ32及び第2フランジ38へ圧接することで回転部材28の回転を抑制している。しかしながら、例えば、第1フランジ32及び第2フランジ38の少なくとも一方の外周部に外歯を形成して、この外歯に係合する歯を抑制部材に形成し、抑制部材の歯と第1フランジ32及び第2フランジ38の少なくとも一方の外歯とを噛合させることで回転部材28の回転を抑制する構成であってもよい。すなわち、抑制部材による回転部材28の回転の抑制は、圧接による構成以外にも広く適用できる。
【符号の説明】
【0067】
10 ウェビング巻取装置
18 スプール
20 ウェビング
28 回転部材
64 移動部材
72 側壁(ガイド手段)
90 レバー(抑制部材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7