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特許7341084メタンスリップ抑制システム並びに該メタンスリップ抑制システムを備える船舶および洋上浮体設備
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】メタンスリップ抑制システム並びに該メタンスリップ抑制システムを備える船舶および洋上浮体設備
(51)【国際特許分類】
   F02D 19/02 20060101AFI20230901BHJP
   B63H 21/08 20060101ALI20230901BHJP
   B63H 21/14 20060101ALI20230901BHJP
   B63H 21/38 20060101ALI20230901BHJP
   B63H 21/32 20060101ALI20230901BHJP
   B63B 83/40 20200101ALI20230901BHJP
   F02B 43/00 20060101ALI20230901BHJP
   F01N 5/02 20060101ALI20230901BHJP
【FI】
F02D19/02
B63H21/08
B63H21/14
B63H21/38 C
B63H21/32 Z
B63B83/40
F02B43/00 A
F01N5/02 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020033621
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021134773
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】518131296
【氏名又は名称】三菱重工マリンマシナリ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中村 龍太
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 英司
(72)【発明者】
【氏名】金星 隆之
(72)【発明者】
【氏名】松下 浩市
(72)【発明者】
【氏名】森 匡史
(72)【発明者】
【氏名】永山 加奈子
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特許第6337213(JP,B1)
【文献】特開2018-001059(JP,A)
【文献】特開2006-297210(JP,A)
【文献】特開2003-120440(JP,A)
【文献】特開2001-193562(JP,A)
【文献】特開2018-135809(JP,A)
【文献】特開2003-247420(JP,A)
【文献】特開2002-309979(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0377108(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 19/02
B63H 21/08
B63H 21/14
B63H 21/38
B63H 21/32
B63B 83/40
F02B 43/00
F01N 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶又は洋上浮体設備に搭載される動力プラントであって、ボイラおよびガスエンジンを備える動力プラントのメタンスリップを抑制するためのメタンスリップ抑制システムであって、
前記ガスエンジンから排出されるメタンを含有する排ガスを、前記ボイラの燃焼用気体として前記ボイラに供給するための排ガスラインと、
前記ボイラに燃焼用気体を供給するための気体供給ラインであって、前記排ガスラインに一端側が接続された気体供給ラインと、
前記排ガスを排出するための排ガス排出ラインであって、前記排ガスラインの前記気体供給ラインとの接続部よりも上流側に位置する分岐部で前記排ガスラインから分岐する排ガス排出ラインと、
前記排ガスラインの前記分岐部と前記接続部との間に設けられる第1のダンパと、
前記排ガス排出ラインに設けられる第2のダンパと、を備える、
メタンスリップ抑制システム。
【請求項2】
前記気体供給ラインは、他端側が押込ファンに接続された、
請求項1に記載のメタンスリップ抑制システム。
【請求項3】
前記ボイラのバーナ装置の入口と出口の差圧を取得するように構成された差圧取得装置と、
少なくとも前記差圧取得装置で取得された前記差圧に基づいて、前記第1のダンパの開度を制御するように構成された制御装置と、をさらに備える、
請求項1又は2に記載のメタンスリップ抑制システム。
【請求項4】
前記気体供給ラインに設けられる第3のダンパと、
前記ガスエンジンから排出される前記排ガス中の酸素量を取得するように構成された酸素量取得装置と、さらに備え、
前記制御装置は、少なくとも前記差圧取得装置で取得された前記差圧および前記酸素量取得装置で取得された前記排ガス中の酸素量に基づいて、前記第3のダンパの開度を制御するように構成された、
請求項に記載のメタンスリップ抑制システム。
【請求項5】
前記排ガス排出ラインを流れる前記排ガスから熱を回収するように構成された第1のエコノマイザをさらに備える、
請求項1乃至4の何れか1項に記載のメタンスリップ抑制システム。
【請求項6】
前記排ガスラインの前記分岐部よりも上流側を流れる前記排ガスから熱を回収するように構成された第2のエコノマイザをさらに備える、
請求項1乃至4の何れか1項に記載のメタンスリップ抑制システム。
【請求項7】
請求項1乃至の何れか1項に記載のメタンスリップ抑制システムを備える船舶。
【請求項8】
前記ボイラを主機用ボイラとするように構成された、
請求項に記載の船舶。
【請求項9】
請求項1乃至の何れか1項に記載のメタンスリップ抑制システムを備える洋上浮体設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ボイラおよびガスエンジンを備える動力プラントのメタンスリップを抑制するためのメタンスリップ抑制システム、並びに該メタンスリップ抑制システムを備える船舶および洋上浮体設備に関する。
【背景技術】
【0002】
LNG船には、液化天然ガス(以下、「LNG」という)を燃料として利用するボイラと、ボイラの燃焼熱により発生した蒸気により駆動する蒸気タービンと、を備える動力プラントが搭載されており、この動力プラントをLGN船の主機とするものがある。LNGの貯蔵時や移送時にLNGが気化してボイルオフガス(以下、「BOG」という)が生じる。BOGは、LNGと共にボイラの燃料として利用することが効率的であるため、従来のLNG船のボイラには、BOGおよびLNGを燃料として利用する混焼ボイラが採用されていた。
【0003】
近年、LNG船の燃料消費の改善を図るため、ガス焚き可能なガスエンジン(ガス焚きおよび油焚きの両方が可能な二元燃料焚きエンジンを含む)がLNG船の主機として採用されている。また、LNG船には、上記蒸気タービンと上記ガスエンジンの両方を主機とするものも知られている。このガスエンジンから未燃のメタンが排出されることがある(メタンスリップ)。例えば、ガスエンジンに対して低圧でメタンが供給され、予混合されるオットーサイクルのガスエンジンでは、ガスエンジンに供給されたメタンの一部が未燃のまま排気されるメタンスリップが発生する。メタンは温暖化係数がCOの25倍程度であるため、温室効果ガスの排出量削減を図るためには、メタンスリップの抑制が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-360559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
未燃メタンを処理する技術としては、メタンが反応するガス温度(約800℃)までメタンを加熱する加熱処理方法や、メタン酸化触媒によりメタンを酸化させる触媒処理方法などが知られている。上記加熱処理方法では、特許文献1に示されるように、未燃メタンを加熱するための燃焼機器を別途用意して動力プラントに設置する必要がある。また、燃焼機器に投入する燃料も必要となる。上記触媒処理方法では、メタン酸化触媒を別途用意して動力プラントに設置する必要がある。このため、LNG船などの浮体に搭載される動力プラントは、その有効スペースの確保が困難となる虞や、その設置や運用にかかるコストの増大化を招く虞がある。
【0006】
上述した事情に鑑みて、本開示の少なくとも一実施形態の目的は、ボイラおよびガスエンジンを備える動力プラントのメタンスリップを抑制できるメタンスリップ抑制システム、並びに該メタンスリップ抑制システムを備える船舶および洋上浮体設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示にかかるメタンスリップ抑制システムは、
船舶又は洋上浮体設備に搭載される動力プラントであって、ボイラおよびガスエンジンを備える動力プラントのメタンスリップを抑制するためのメタンスリップ抑制システムであって、
前記ガスエンジンから排出されるメタンを含有する排ガスを、前記ボイラの燃焼用気体として前記ボイラに供給するための排ガスラインを備える。
【0008】
本開示にかかる船舶は、前記メタンスリップ抑制システムを備える。
【0009】
本開示にかかる洋上浮体設備は、前記メタンスリップ抑制システムを備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示の少なくとも一実施形態によれば、ボイラおよびガスエンジンを備える動力プラントのメタンスリップを抑制できるメタンスリップ抑制システム、並びに該メタンスリップ抑制システムを備える船舶および洋上浮体設備が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の一実施形態にかかるメタンスリップ抑制システムを備える動力プラントの構成を概略的に示す概略構成図である。
図2】本開示の一実施形態にかかるメタンスリップ抑制システムを備える動力プラントの構成を概略的に示す概略構成図である。
図3】本開示の一実施形態におけるボイラの構成を概略的に示す概略構成図である。
図4】本開示の一実施形態における制御装置の機能を示すブロック図である。
図5】ボイラのバーナ装置の入口と出口の差圧とボイラ負荷との関係を説明するための説明図である。
図6】本開示の一実施形態におけるダンパ開度の調整方法の一例を示すフロー図である。
図7】本開示の一実施形態にかかるメタンスリップ抑制システムを備える船舶の構成を概略的に示す概略構成図である。
図8】本開示の一実施形態にかかるメタンスリップ抑制システムを備える洋上浮体設備の構成を概略的に示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本開示の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
なお、同様の構成については同じ符号を付し説明を省略することがある。
【0013】
(動力プラント)
図1および図2の夫々は、本開示の一実施形態にかかるメタンスリップ抑制システムを備える動力プラントの構成を概略的に示す概略構成図である。
幾つかの実施形態にかかるメタンスリップ抑制システム1は、図1および図2に示されるように、ガスエンジン3およびボイラ4を備える動力プラント2に搭載されるものである。この動力プラント2は、船舶10A又は洋上浮体設備10Bに搭載されるものである。動力プラント2は、例えば、LNG船や浮体式生産貯蔵積出設備(FPSO)、浮体式貯蔵積出設備(FSO)などに搭載される。本明細書中において、船舶10Aは、推進設備を備え、該推進設備により航行可能なものを意味し、洋上浮体設備10Bは、推進設備を備えておらず、自力で航行できないものを意味している。以下、船舶10Aや洋上浮体設備10Bの内部を単に船内ということがある。
【0014】
(ガスエンジン)
本開示におけるガスエンジン3は、メタンを含むガスを燃料として利用可能(ガス焚き可能)に構成されたエンジンを意味し、燃料としてガスだけでなく油も利用可能(油焚き可能)に構成された二元燃料焚きエンジンなどを含むものである。ガスエンジン3は、ガスエンジン3内における燃料の燃焼により生じる排ガスを排出するための排出口31を有する。排出口31から排出される排ガスには、未燃メタンが含まれることがある。また、排出口31から排出される排ガスには、酸素が含まれる。或る実施形態では、ガスエンジン3は、低圧で供給されたメタンが予混合されるように構成されたオットーサイクルのガスエンジンからなる。
【0015】
(ボイラ)
図3は、本開示の一実施形態におけるボイラの構成を概略的に示す概略構成図である。
ボイラ4は、図3に示されるように、火炉41と、火炉41の炉壁部42に設けられ、燃焼用燃料及び燃焼用気体を火炉41内に噴射するように構成されたバーナ装置43と、火炉41の炉壁部42に設けられ、バーナ装置43に燃焼用気体を供給するための風箱44と、火炉41内に存在する燃焼領域410よりも下流に配置された加熱器45と、を備える。
【0016】
火炉41は、燃焼用燃料と燃焼用気体とを反応させて燃焼させるための中空体であり、例えば、円筒形状や箱型等、種々の形態をとり得る。火炉41は、その外部と内部とを区画する炉壁部42を含む。炉壁部42は、冷媒としての流体が通過可能な複数の炉壁管を含んで構成される。
【0017】
火炉41の内部は、バーナ装置43から噴射された燃焼用燃料および燃焼用空気により生成される燃焼火炎411が形成される燃焼領域410と、燃焼領域410での燃焼により生じた燃焼ガスが流れる燃焼ガス流路412と、が形成されている。
【0018】
図示される実施形態では、ボイラ4は、燃焼領域410の下流側に位置する燃焼ガス流路412に配置された蒸発管群46と、蒸発管群46の下方に設けられた水ドラム47と、蒸発管群46の上方に設けられた蒸気ドラム48と、を備える。ボイラ4の燃焼ガスの流れ方向の下流側には、上述した蒸発管群46が配置され、さらに下流側である火炉41の上部には燃焼ガス出口49が設けられている。なお、蒸気ドラム48の上部には蒸気出口481が設けられている。
【0019】
ボイラ4は、船舶を推進させる動力として用いられる蒸気を発生させる主ボイラであってもよいし、船舶に搭載される駆動装置の駆動源となる蒸気を発生させる補助ボイラであってもよい。また、ボイラ4は、発電用などの他の用途に用いられるボイラであってもよい。
【0020】
バーナ装置43は、火炉41内に主燃料である燃焼用燃料(例えば、気体燃料又は液体燃料を含む)、および風箱44により供給された燃焼用気体(例えば、空気)を噴射する。図示される実施形態では、バーナ装置43は、火炉41の天井部413に配置され、燃焼用燃料と燃焼用気体とを下方に向けて噴射することで、燃焼火炎411を形成するように構成されている。
【0021】
風箱44の内部にバーナ装置43が配置されている。風箱44には、その内部にボイラ4の外部から燃焼用気体を供給するための供給口441が開口している。加熱器45は、燃焼領域410の下流側に位置する燃焼ガス流路412に配置される。加熱器45は、燃焼ガス流路412を流れる燃焼ガスとの熱交換により、燃焼ガス流路412内に配置された配管内を流れる水又は蒸気を加熱するように構成されている。
【0022】
(排ガスライン)
メタンスリップ抑制システム1は、図1、2に示されるように、ガスエンジン3から排出されるメタンを含有する排ガスを、ボイラ4の燃焼用気体としてボイラ4に供給するための排ガスライン5を備える。
【0023】
図示される実施形態では、排ガスライン5は、その一端側がガスエンジン3の排出口31に接続され、その他端側がボイラ4の供給口441に接続されている。ガスエンジン3の排出口31から排出された排ガスは、排ガスライン5を通過した後に、ボイラ4の供給口441からボイラ4の内部に供給される。
【0024】
上記の構成によれば、メタンスリップ抑制システム1は、ガスエンジン3から排出されるメタンを含有する排ガスを、ボイラ4の燃焼用気体としてボイラ4に供給するための排ガスライン5を備える。ガスエンジン3から排出されるメタンを含有する排ガスを、排ガスライン5を介してボイラ4の燃焼用気体としてボイラ4に供給することで、ボイラ4の燃焼領域410での燃焼により、メタンが反応するガス温度(約800℃)まで排ガス中のメタンを加熱することができる。排ガス中のメタンをボイラ4で加熱処理することで、動力プラント2から排出されるメタンの量を削減できるので、動力プラント2のメタンスリップを抑制できる。
【0025】
また、上記の構成によれば、従来のようにメタンを処理するための燃焼機器やメタン酸化触媒を別途用意して動力プラント2に設置したり、上記燃焼機器に投入される燃料を用意したりすることなく、メタンの処理が可能である。これにより、動力プラント2のスペースを確保でき、動力プラント2の設置や運用にかかるコストを低減できる。また、船舶10Aや洋上浮体設備10Bの有効スペースを減じることなく、動力プラント2を設置できる。また、ガスエンジン3から排出されるメタンを含有する排ガスを、ボイラ4の燃焼用気体として利用することで、ボイラ燃料の削減や窒素酸化物(NOx)の低減が図れる。
【0026】
(気体供給ライン)
幾つかの実施形態では、上述したメタンスリップ抑制システム1は、図1、2に示されるように、ボイラ4に燃焼用気体(例えば、大気中の空気)を供給するための気体供給ライン6をさらに備える。気体供給ライン6は、排ガスライン5に一端側が接続され、他端側が押込ファン61に接続されている。排ガスライン5と気体供給ライン6とが合流する部分を接続部51とする。押込ファン61は、気体供給ライン6の他端側から一端側に気体を送風するように構成されている。燃焼用気体は、押込ファン61により気体供給ライン6の他端側から気体供給ライン6内に導かれた後に、気体供給ライン6および排ガスライン5の接続部51よりも下流側(供給口441側)をこの順に流れた後に、ボイラ4の供給口441からボイラ4の内部に供給される。
【0027】
上記の構成によれば、ボイラ4の燃焼用気体として、ガスエンジン3から排出された排ガスだけでなく、押込ファン61により気体供給ライン6からボイラ4に送られる燃焼用気体を利用できる。このため、ガスエンジン3からボイラ4に送られる排ガス中の酸素量が、ボイラ4の必要空気量(ボイラで燃焼用燃料を完全燃焼させるために必要な空気量)に満たない場合であっても、気体供給ライン6から燃焼用気体をボイラ4に供給することで、ボイラ4の不完全燃焼を抑制できるため、ボイラ4での燃焼により排ガス中のメタンを確実に加熱処理することができる。
【0028】
また、上記の構成によれば、ガスエンジン3が停止し、ガスエンジン3からボイラ4に排ガスが供給されない場合であっても、気体供給ライン6から燃焼用気体をボイラ4に供給することで、ボイラ4の運転が可能である。これにより、ボイラ4の運転安定性を向上させることができる。
【0029】
(ボイラへの排ガスの供給量の調整方法)
幾つかの実施形態では、上述したメタンスリップ抑制システム1は、図1、2に示されるように、排ガスを排出するための排ガス排出ライン7であって、排ガスライン5の気体供給ライン6との接続部51よりも排ガスの流れ方向の上流側(ガスエンジン3側)に位置する分岐部52で排ガスライン5から分岐する排ガス排出ライン7と、排ガスライン5の分岐部52と接続部51との間に設けられる第1のダンパ53と、排ガス排出ライン7に設けられる第2のダンパ71と、をさらに備える。
【0030】
排ガス排出ライン7は、その一端側が排ガスライン5の分岐部52に接続され、他端側が不図示の煙突に接続されている。第1のダンパ53および第2のダンパ71の夫々は、開閉機構部を有し、開閉機構部の開度を調整することで、開閉機構部を通過する気体の量を調整可能に構成されている。例えば、第1のダンパ53の開度を大きくすることで、ボイラ4に供給される排ガスの量を増加させることができる。また、第1のダンパ53の開度を小さくすることで、ボイラ4に供給される排ガスの量を減少させることができる。なお、「ダンパの開度を小さくする」には、ダンパを全閉することも含まれる。ボイラ4の停止時には、第1のダンパ53を全閉し、第2のダンパ71を開くことにより、排ガス排出ライン7の第2のダンパ71よりも下流側に排ガスを導くことができる。
【0031】
上記の構成によれば、排ガスライン5に設けられる第1のダンパ53の開度を調整することで、排ガスライン5を介してガスエンジン3からボイラ4に送られる排ガスの量を精度良く調整可能である。ボイラ4に送られる排ガスの量を調整することで、ボイラ4の不完全燃焼を抑制できるため、ボイラ4の燃焼効率の低下を抑制できる。また、排ガスライン5から分岐する排ガス排出ライン7に設けられる第2のダンパ71の開度を調整することで、排ガス排出ライン7を通じてガスエンジン3からの排ガスを外部に排出することができるため、ボイラ4の停止時においてもガスエンジン3の運転が可能となる。
【0032】
幾つかの実施形態では、上述したメタンスリップ抑制システム1は、図1、2に示されるように、ボイラ4のバーナ装置43の入口と出口の差圧を取得するように構成された差圧取得装置8と、少なくとも差圧取得装置8で取得された差圧に基づいて、第1のダンパ53の開度を制御するように構成された制御装置9と、をさらに備える。
【0033】
図示される実施形態では、差圧取得装置8は、風箱44内の圧力をバーナ装置43の入口の圧力とし、火炉41の燃焼領域410内の圧力をバーナ装置43の出口の圧力としており、これらの差圧を計測するように構成された差圧計8Aからなる。
なお、他の幾つかの実施形態では、排ガスライン5の接続部51よりも排ガスの流れ方向の下流側の圧力をバーナ装置43の入口の圧力として上記差圧を計測してもよい。また、他の幾つかの実施形態では、差圧取得装置8は、バーナ装置43の入口の圧力を測定する入口側圧力計と、バーナ装置43の出口の圧力を測定する出口側圧力計と、入口側圧力計の測定値と出口側圧力計の測定値から差圧を算出する算出装置と、を含んでいてもよい。
【0034】
制御装置9は、ダンパの開度を制御するための電子制御ユニットであり、図示しないCPU(プロセッサ)や、ROMやRAMといったメモリ、外部記憶装置などの記憶装置、I/Oインターフェース、通信インターフェースなどからなるマイクロコンピュータとして構成されていてもよい。そして、例えば上記メモリの主記憶装置にロードされたプログラムの命令に従ってCPUが動作(例えばデータの演算など)することで、後述する各機能部を実現するようになっていてもよい。
【0035】
図4は、本開示の一実施形態における制御装置の機能を示すブロック図である。図示される実施形態では、制御装置9は、図4に示されるように、データベース部91と、ダンパ開度決定部92と、ダンパ開度指示部93と、を備える。制御装置9は、差圧取得装置8に対して信号の送受信(少なくとも受信)が可能に構成されている。ダンパ開度決定部92は、少なくとも差圧取得装置8に基づいて、第1のダンパ53に対して指示する開度である指示開度を決定するように構成されている。
【0036】
ボイラ4のボイラ負荷BLが大きくなると、ボイラ4に投入されるボイラ燃料の量が増大し、ボイラ燃料の投入量の増大に応じて、ボイラ4においてボイラ燃料を完全燃焼させるために必要な空気量であるボイラ4(バーナ装置43)の必要空気量RAや、ボイラ4のバーナ装置43の入口と出口の差圧DPが増大する。つまり、ボイラ4のバーナ装置43の入口と出口の差圧DPに応じて、ボイラ4のボイラ負荷BLや必要空気量RAが定まる対応関係がある。例えば、図5は、ボイラのバーナ装置43の入口と出口の差圧とボイラ負荷との関係を説明するための説明図である。図5に示されるように、ボイラ4のバーナ装置43の入口と出口の差圧DPは、ボイラ4のボイラ負荷BLの二乗に比例している。なお、図5における差圧DPは、大気中の酸素量(酸素濃度)AOに基づくものである。
【0037】
或る実施形態では、データベース部91は、上述した差圧DPとボイラ4の必要空気量RAとを関連付ける第1の関連付け情報と、ボイラ4の必要空気量RAと第1のダンパ53への指示開度とを関連付ける第2の関連付け情報と、を予め記憶している。関連付け情報(第1の関連付け情報や第2の関連付け情報など)は、差圧DPや必要空気量RAなどのパラメータの対応関係を示すリストや表、マップ、関数、機械学習のモデルなどが含まれる。また、関連付け情報は、過去の実績値や実験値、数値解析結果などから求められる。ダンパ開度決定部92は、データベース部91に記憶された第1関連付け情報を参照し、差圧取得装置8が取得した差圧DPに対応するボイラ4の必要空気量RAを取得する。その後に、データベース部91に記憶された第2の関連付け情報を参照し、取得したボイラ4の必要空気量RAに対応する第1のダンパ53への指示開度を取得する。
【0038】
また、ダンパ開度決定部92は、少なくともボイラ4の運転状態に基づいて、第2のダンパ71に対して指示する開度である指示開度を決定するように構成されている。ダンパ開度指示部93は、ダンパ開度決定部92で決定された指示開度となるようにダンパ(第1のダンパ53、第2のダンパ71および気体供給ライン6に設けられる第3のダンパ62)に対して指示する。第1のダンパ53、第2のダンパ71および第3のダンパ62の夫々は、ダンパ開度指示部93(制御装置9)から送られる信号により電気的に制御され、該信号に応じて、指示された開度になるように構成されている。
【0039】
上記の構成によれば、差圧取得装置8で取得されたバーナ装置43の入口と出口の差圧DPから、ボイラ4の必要空気量RAを求めることができる。制御装置9は、上記差圧DPに基づいて、第1のダンパ53の開度を調整することで、ボイラ4に適切な量の酸素を供給できるので、ボイラ4の燃焼効率の低下を効果的に抑制できる。また、ボイラ4に適切な量の酸素を供給することで、ボイラ4への供給酸素量の不足によるボイラ4の失火を抑制できる。
【0040】
幾つかの実施形態では、上述したメタンスリップ抑制システム1は、図1、2に示されるように、排ガスライン5に設けられる吸引ファン54をさらに備える。吸引ファン54は、吸引ファン54よりも排ガスライン5の上流側における気体を吸引し、吸引ファン54よりも排ガスライン5の下流側に圧送するように構成されている。図示される実施形態では、吸引ファン54は、排ガスライン5の分岐部52よりも下流側、且つ接続部51よりも上流側に配置されている。
【0041】
上記の構成によれば、メタンスリップ抑制システム1は、排ガスライン5に設けられる吸引ファン54を備える。このため、仮に排ガスライン5内における排ガスの圧力損失が大きく、排ガスライン5を排ガスが流れ難い場合であっても、吸引ファン54により排ガスの圧力を上昇させることで、排ガスをボイラ4へ送ることができるため、ガスエンジン3から排出された排ガスを安定的にボイラ4に供給することができる。
【0042】
幾つかの実施形態では、上述したメタンスリップ抑制システム1は、図1、2に示されるように、気体供給ライン6に設けられる第3のダンパ62と、ガスエンジン3から排出される排ガス中の酸素量を取得するように構成された第1の酸素量取得装置55と、さらに備える。上述した制御装置9は、少なくとも差圧取得装置8で取得された差圧DPおよび第1の酸素量取得装置55で取得された排ガスの酸素量EOに基づいて、第3のダンパ62の開度を制御するように構成された。
【0043】
ダンパ開度決定部92は、差圧取得装置8で取得された差圧DPからボイラ4の必要空気量RAを求め、第1の酸素量取得装置55で取得された排ガスの酸素量EOに基づいて、ボイラ4へ送られる排ガスにより、ボイラ4の必要空気量を満足するか否かを判定する。ボイラ4へ送られる排ガスのみでは、ボイラ4の必要空気量を満たすことができない場合には、ボイラ4の必要空気量を満たすように、第3のダンパ62に対する指示開度を調整する。
【0044】
データベース部91は、上述した差圧DPおよび酸素量EOと、第3のダンパ62への指示開度とを関連付ける第3の関連付け情報を予め記憶している。ダンパ開度決定部92は、データベース部91に記憶された第3の関連付け情報を参照し、取得した差圧DPおよび酸素量EOに対応する第3のダンパ62への指示開度を取得する。
【0045】
上記の構成によれば、制御装置9が、少なくとも差圧取得装置8で取得された差圧DPおよび第1の酸素量取得装置55で取得された排ガス中の酸素量EOに基づいて、第3のダンパ62の開度を制御する。このため、仮にボイラ4へ送られる排ガス中の酸素量では、ボイラの必要空気量RAに満たない場合には、第3のダンパ62の開度を大きくして、気体供給ライン6からボイラ4に適切な量の燃焼用気体を供給することで、ボイラの必要空気量を充足することができる。よって、上記の構成によれば、ボイラ4の燃焼効率の低下やボイラ4への供給酸素量の不足によるボイラ4の失火を効果的に抑制できる。
【0046】
幾つかの実施形態では、上述したメタンスリップ抑制システム1は、図1、2に示されるように、排ガスライン5の吸引ファン54よりも上流側(図示例では排ガスライン5の吸引ファン54と接続部51との間)における圧力(以下、排ガスライン側圧力とする)と、気体供給ライン6の押込ファン61よりも下流側(図示では押込ファン61と第3のダンパ62との間)における圧力(以下、気体供給ライン側圧力とする)と、を取得するように構成された圧力取得装置94をさらに備える。
【0047】
圧力取得装置94で取得された圧力に基づいて、排ガスが気体供給ライン6を逆流(気体供給ライン6の他端側に向かって流れる)することを防止することが行なわれる。例えば、気体供給ライン側圧力が排ガスライン側圧力以下とならないような出力で押込ファン61を運転させることが行なわれる。押込ファン61の出力の制御は、制御装置9により行われてもよい。この場合には、押込ファン61が既に運転状態にあるため、ボイラ4の必要空気量が増加し、空気不足となった際に、速やかに押込ファン61からボイラ4へ空気を供給できる。
【0048】
気体供給ライン6における接続部51と第3のダンパ62との間に設けられたバルブ63、又は第3のダンパ62を閉じることでも、排ガスが気体供給ライン6を逆流することを防止できる。この場合には、バルブ63や第3のダンパ62によって、気体供給ライン6が押込ファン61よりも接続部51側において閉鎖されるので、押込ファン61の運転が不要であり、押込ファン61の運転に必要なエネルギー(電力)の消費を低減できる。
【0049】
上記の構成によれば、圧力取得装置94で取得された圧力に基づいて、排ガスが気体供給ライン6を逆流しないような措置を取ることで、排ガスが気体供給ライン6の他端側から流出することを防止できる。押込ファン61が船内に配置されている場合には、有害な排ガスが船内に漏洩することを防止できる。
【0050】
幾つかの実施形態では、上述したメタンスリップ抑制システム1は、図1~3に示されるように、バーナ装置43の入口(図示例では風箱44の内部)における排ガスを含む燃焼用気体中の酸素量を取得するように構成された第2の酸素量取得装置95をさらに備える。上述した制御装置9は、第1の酸素量取得装置55で取得された排ガス中の酸素量EO又は第2の酸素量取得装置95で取得された燃焼用気体中の酸素量COの何れかと、差圧取得装置8で取得された差圧DPに基づいて、第1のダンパ53および第3のダンパ62の夫々の開度を制御するように構成されている。
【0051】
図6は、本開示の一実施形態におけるダンパ開度の調整方法の一例を示すフロー図である。まず、制御装置9は、差圧取得装置8、第1の酸素量取得装置55および第2の酸素量取得装置95からセンサ信号を取得する(S201)。該センサ信号には、上述した差圧DP、排ガス中の酸素量EOおよび燃焼用気体中の酸素量COなどの情報が含まれる。ダンパ開度決定部92は、排ガス中の酸素量EOが規定値SV(例えば15%)以上であるか否かを判定する(S202)。仮に排ガス中の酸素量EOが規定値SVに満たない場合には、ボイラ4において不完全燃焼を生じる虞がある。
【0052】
排ガス中の酸素量EOが規定値SV以上である場合には(S202で「YES」)、排ガス中の酸素量EOにより差圧DPを補正する(S203)。排ガス中の酸素量EOによる差圧DPの補正は、例えば以下の式により行われる。
RDP1=DP×(21/EO)・・・(C1)
上記式C1における「RDP1」は上述した差圧DPの補正値であり、「21」は大気中の酸素量を示している。制御装置9は、差圧DPを補正するように構成された差圧補正部96を含む。ステップS203および後述するステップS205は、差圧補正部96により行われる。
【0053】
ダンパ開度決定部92は、差圧DPの代わりに補正後の差圧RDP1により、ボイラ4の必要空気量RAや第1のダンパ53および第3のダンパ62の夫々の開度を決定する(S204)。ダンパ開度指示部93は、ダンパ開度決定部92で決定された指示開度となるように第1のダンパ53および第3のダンパ62に対して指示する。
【0054】
排ガス中の酸素量EOが規定値SVに満たない場合には(S202で「NO」)、燃焼用気体中の酸素量COにより差圧DPを補正する(S205)。燃焼用気体中の酸素量COによる差圧DPの補正は、例えば以下の式により行われる。
RDP2=DP×(21/CO)・・・(C2)
上記式C2における「RDP2」は上述した差圧DPの補正値であり、「21」は大気中の酸素量を示している。
【0055】
ダンパ開度決定部92は、差圧DPの代わりに補正後の差圧RDP2により、ボイラ4の必要空気量RAや第1のダンパ53および第3のダンパ62の夫々の開度を決定する(S206)。ダンパ開度決定部92では、燃焼用気体中の酸素量COが規定値SV(例えば15%)以上となるように、第3のダンパ62に対する指示開度が決定される。
【0056】
上記の構成によれば、差圧DPだけでなく、排ガス中の酸素量EO又は燃焼用気体中の酸素量COに基づいてダンパ(第1のダンパ53、第3のダンパ62)の開度を調整することで、ボイラ4に適切な量の酸素を供給できるため、ボイラ4の燃焼効率の低下を効果的に抑制できる。
【0057】
幾つかの実施形態では、上述したメタンスリップ抑制システム1は、図1、2に示されるように、排ガスライン5の接続部51に設けられる混合器56を備える。混合器56は、排ガスライン5の上流側から混合器56に流入した排ガスと、気体供給ライン6から混合器56に流入した燃焼用気体と、を攪拌し、これらの気体を均一に混合するように構成されている。この場合には、混合器56により、ボイラ4に送られる燃焼用気体内の酸素が不均一に分散することを抑制できるため、ボイラ4における不完全燃焼を抑制できる。
【0058】
幾つかの実施形態では、上述したメタンスリップ抑制システム1は、図1に示されるように、排ガス排出ライン7を流れる排ガスから熱を回収するように構成された第1のエコノマイザ72を備える。図示される実施形態では、第1のエコノマイザ72は、排ガス排出ライン7の第2のダンパ71よりも下流側に設けられ、第1のエコノマイザ72を通る排ガスから熱を回収する。排ガスから回収した熱により蒸気を生成し、この蒸気を船内で雑用蒸気として使用してもよいし、排ガスから回収した熱によりボイラ4に供給されるボイラ給水を加熱してもよい。排ガスライン5には、排ガスから熱を回収する熱交換器が配置されておらず、ガスエンジン3から排出された排ガスをその熱を保持したまま、ボイラ4に送ることができる。
【0059】
上記の構成によれば、第1のエコノマイザ72により排ガスから回収した熱を利用することで、ボイラ4の効率を向上させることができる。また、上記の構成によれば、排ガスライン5により、第1のエコノマイザ72において熱が回収されていない高温状態に保持された排ガスをボイラ4に供給できるため、ボイラ4における燃焼効率を向上させることができる。
【0060】
幾つかの実施形態では、上述したメタンスリップ抑制システム1は、図2に示されるように、排ガスライン5の分岐部52よりも上流側を流れる排ガスから熱を回収するように構成された第2のエコノマイザ57を備える。第2のエコノマイザ57は、排ガスライン5の分岐部52よりも上流側に設けられ、第2のエコノマイザ57を通る排ガスから熱を回収する。排ガスから回収した熱により蒸気を生成し、この蒸気を船内で雑用蒸気として使用してもよいし、排ガスから回収した熱によりボイラ4に供給されるボイラ給水を加熱してもよい。ガスエンジン3から排出された排ガスは、第2のエコノマイザ57を通過する。このため、排ガスライン5の分岐部52よりも下流側や排ガス排出ライン7には、第2のエコノマイザ57により熱が回収後の排ガスが流れる。
【0061】
上記の構成によれば、第2のエコノマイザ57は、排ガスライン5の分岐部52よりも上流側に設けられているので、ガスエンジン3から排出された排ガスの全量が第2のエコノマイザ57を通過する。このため、第2のエコノマイザ57により、ガスエンジン3から排出された排ガスの全量から熱を回収することができるので、排ガスからの排熱の回収効率を向上させることができる。
【0062】
幾つかの実施形態では、上述したメタンスリップ抑制システム1は、図2に示されるように、排ガスライン5の第2のエコノマイザ57よりも下流側を流れる気体を加熱するように構成されたヒータ58をさらに備える。図2に示される実施形態では、ヒータ58は、排ガスライン5の分岐部52よりも下流側に設けられて、蒸気で気体を加熱するように構成されたスチームエアヒータからなる。この場合には、ヒータ58により、第2のエコノマイザ57より熱が回収されて温度が低下した気体を加熱することで、ボイラ4へ供給される気体の温度低下を抑制できるため、ボイラ4における燃焼効率の低下を抑制できる。
【0063】
図7は、本開示の一実施形態にかかるメタンスリップ抑制システムを備える船舶の構成を概略的に示す概略構成図である。
幾つかの実施形態では、例えば図7に示されるように、船舶10Aに搭載される上述した動力プラント2は、動力プラント2で生成した動力を推進力として船舶10Aを航行させるように構成された船舶用の推進装置2Aからなる。
【0064】
船舶用の推進装置2Aは、上述したメタンスリップ抑制システム1と、上述したガスエンジン3と、上述したボイラ4と、ボイラ4で生成された蒸気によって駆動されるように構成された蒸気タービン20と、を少なくとも備える。図示される実施形態では、船舶用の推進装置2Aは、ボイラ4から蒸気タービン20に蒸気を送るための蒸気供給ライン22をさらに備える。蒸気供給ライン22は、ボイラ4の加熱器45と蒸気を流通可能に構成されており、一端側が蒸気タービン20の蒸気供給口23に接続されている。船舶10Aは、蒸気タービン20に蒸気を供給するボイラ4を主機用ボイラとするように構成されている。
【0065】
図示される実施形態では、船舶10Aは、蒸気タービン20およびガスエンジン3の夫々を船舶10Aの推進力を発生させる主機とするように構成されている。すなわち、蒸気タービン20の主軸24およびガスエンジン3の主軸32の夫々は、直接的に又は間接的にプロペラ25、26に機械的に連結されている。蒸気タービン20に送られた蒸気の熱エネルギーを動力とし、主軸24およびプロペラ25が回転する。また、ガスエンジン3内の燃料の燃焼により得られたエネルギーを動力とし、主軸32およびプロペラ26が回転する。
【0066】
上記の構成によれば、船舶10Aは、ボイラ4を主機用ボイラとするように構成されている。仮にボイラ4が補助ボイラである場合には、船内の蒸気需要によりその運転状態が変化する。例えば、船内の蒸気需要が少ない場合には、排ガス(スリップメタン)を処理するために、ボイラ燃料の追加投入やボイラ4により生成した蒸気のダンプ(廃棄)が必要となり、燃料コストの増大やエネルギーのロスを招く虞がある。これに対して、ボイラ4が主機用ボイラである場合には、船舶10Aの運転中、すなわちガスエンジン3の稼働中にボイラ4は常時稼働しているため、ボイラ4が補助ボイラである場合に生じる虞がある、ボイラ燃料の追加投入やボイラ4により生成した蒸気のダンプ(廃棄)を抑制できる。よって、上記の構成によれば、燃料コストの増大やエネルギーのロスを抑制できる。
【0067】
図8は、本開示の一実施形態にかかるメタンスリップ抑制システムを備える洋上浮体設備の構成を概略的に示す概略構成図である。
幾つかの実施形態では、例えば図8に示されるように、洋上浮体設備10Bに搭載される上述した動力プラント2は、動力プラント2で生成した動力が推進力以外に利用されるように構成された動力プラント2Bからなる。動力プラント2Bは、上述したメタンスリップ抑制システム1と、上述したガスエンジン3と、上述したボイラ4と、を少なくとも備える。図示される実施形態では、動力プラント2Bは、直接的に又は間接的にガスエンジン3の主軸32に機械的に連結された発電機27をさらに備える。発電機27は、ガスエンジン3の主軸32の回転力を動力とし、発電するように構成されている。また、動力プラント2Bは、主機の蒸気タービン20を備えておらず、ボイラ4は主機用のボイラではない。換言すると、洋上浮体設備10Bは、図8に示されるように、ボイラ4を補助ボイラとし、ガスエンジン3を発電用などの主機以外のガスエンジンとするように構成されている。
【0068】
なお、他の幾つかの実施形態では、船舶10Aは、ボイラ4を主機用ボイラ以外のボイラ、すなわち補助ボイラとするように構成されていてもよい。このときに、ガスエンジン3を主機としてもよいし、発電用などの主機以外のガスエンジンとしてもよい。また、船舶10Aは、ボイラ4を主機用ボイラとし、ガスエンジン3を発電用などの主機以外のガスエンジンとしてもよい。
【0069】
本開示は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0070】
上述した幾つかの実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握されるものである。
【0071】
1)本開示の少なくとも一実施形態にかかるメタンスリップ抑制システム(1)は、
船舶(10A)又は洋上浮体設備(10B)に搭載される動力プラント(2)であって、ボイラ(4)およびガスエンジン(3)を備える動力プラント(2)のメタンスリップを抑制するためのメタンスリップ抑制システム(1)であって、
前記ガスエンジン(3)から排出されるメタンを含有する排ガスを、前記ボイラ(4)の燃焼用気体として前記ボイラ(4)に供給するための排ガスライン(5)を備える。
【0072】
上記1)の構成によれば、メタンスリップ抑制システム(1)は、ガスエンジン(3)から排出されるメタンを含有する排ガスを、ボイラ(4)の燃焼用気体としてボイラ(4)に供給するための排ガスライン(5)を備える。ガスエンジン(3)から排出されるメタンを含有する排ガスを、排ガスライン(5)を介してボイラ(4)の燃焼用気体としてボイラ(4)に供給することで、ボイラ(4)の燃焼領域(410)での燃焼により、メタンが反応するガス温度まで排ガス中のメタンを加熱することができる。排ガス中のメタンをボイラ(4)で加熱処理することで、動力プラント(2)から排出されるメタンの量を削減できるので、動力プラント(2)のメタンスリップを抑制できる。
【0073】
また、上記1)の構成によれば、従来のようにメタンを処理するための燃焼機器やメタン酸化触媒を別途用意して動力プラント(2)に設置したり、上記燃焼機器に投入される燃料を用意したりすることなく、メタンの処理が可能である。これにより、動力プラント(2)のスペースを確保でき、動力プラント(2)の設置や運用にかかるコストを低減できる。また、船舶(10A)や洋上浮体設備(10B)の有効スペースを減じることなく、動力プラント(2)を設置できる。また、ガスエンジン(3)から排出されるメタンを含有する排ガスを、ボイラ(4)の燃焼用気体として利用することで、ボイラ燃料の削減や窒素酸化物(NOx)の低減が図れる。
【0074】
2)幾つかの実施形態では、上記1)に記載のメタンスリップ抑制システム(1)であって、
前記ボイラ(4)に燃焼用気体を供給するための気体供給ライン(6)であって、前記排ガスライン(5)に一端側が接続され、他端側が押込ファン(61)に接続された気体供給ライン(6)をさらに備える。
【0075】
上記2)の構成によれば、ボイラ(4)の燃焼用気体として、ガスエンジン(3)から排出された排ガスだけでなく、押込ファン(61)により気体供給ライン(6)からボイラ(4)に送られる燃焼用気体を利用できる。このため、ガスエンジン(3)からボイラ(4)に送られる排ガス中の酸素量が、ボイラ(4)の必要空気量(ボイラで燃焼用燃料を完全燃焼させるために必要な空気量)に満たない場合であっても、気体供給ライン(6)から燃焼用気体をボイラ(4)に供給することで、ボイラ(4)の不完全燃焼を抑制できるため、ボイラ(4)での燃焼により排ガス中のメタンを確実に加熱処理することができる。
【0076】
また、上記2)の構成によれば、ガスエンジン(3)が停止し、ガスエンジン(3)からボイラ(4)に排ガスが供給されない場合であっても、気体供給ライン(6)から燃焼用気体をボイラ(4)に供給することで、ボイラ(4)の運転が可能である。これにより、ボイラ(4)の運転安定性を向上させることができる。
【0077】
3)幾つかの実施形態では、上記2)に記載のメタンスリップ抑制システム(1)であって、
前記排ガスを排出するための排ガス排出ライン(7)であって、前記排ガスライン(5)の前記気体供給ライン(6)との接続部(51)よりも上流側に位置する分岐部(52)で前記排ガスライン(5)から分岐する排ガス排出ライン(7)と、
前記排ガスライン(5)の前記分岐部(52)と前記接続部(51)との間に設けられる第1のダンパ(53)と、
前記排ガス排出ライン(7)に設けられる第2のダンパ(71)と、をさらに備える。
【0078】
上記3)の構成によれば、排ガスライン(5)に設けられる第1のダンパ(53)の開度を調整することで、排ガスライン(5)を介してガスエンジン(3)からボイラ(4)に送られる排ガスの量を精度良く調整可能である。ボイラ(4)に送られる排ガスの量を調整することで、ボイラ(4)の不完全燃焼を抑制できるため、ボイラ(4)の燃焼効率の低下を抑制できる。また、排ガスライン(5)から分岐する排ガス排出ライン(7)に設けられる第2のダンパ(71)の開度を調整することで、排ガス排出ライン(7)を通じてガスエンジン(3)からの排ガスを外部に排出することができるため、ボイラ(4)の停止時においてもガスエンジン(3)の運転が可能となる。
【0079】
4)幾つかの実施形態では、上記3)に記載のメタンスリップ抑制システム(1)であって、
前記ボイラ(4)のバーナ装置(43)の入口と出口の差圧(DP)を取得するように構成された差圧取得装置(9)と、
少なくとも前記差圧取得装置(9)で取得された前記差圧(DP)に基づいて、前記第1のダンパ(53)の開度を制御するように構成された制御装置(9)と、をさらに備える。
【0080】
上記4)の構成によれば、差圧取得装置(8)で取得されたバーナ装置(43)の入口と出口の差圧(DP)から、ボイラ(4)の必要空気量(RA)を求めることができる。制御装置(9)は、上記差圧(DP)に基づいて、第1のダンパ(53)の開度を調整することで、ボイラ(4)に適切な量の酸素を供給できるので、ボイラ(4)の燃焼効率の低下を効果的に抑制できる。また、ボイラ(4)に適切な量の酸素を供給することで、ボイラ(4)への供給酸素量の不足によるボイラ(4)の失火を抑制できる。
【0081】
5)幾つかの実施形態では、上記4)に記載のメタンスリップ抑制システム(1)であって、
前記気体供給ライン(6)に設けられる第3のダンパ(62)と、
前記ガスエンジン(3)から排出される前記排ガス中の酸素量を取得するように構成された酸素量取得装置(55)と、さらに備え、
前記制御装置(9)は、少なくとも前記差圧取得装置(8)で取得された前記差圧(DP)および前記酸素量取得装置(55)で取得された前記排ガス中の酸素量(EO)に基づいて、前記第3のダンパの開度(62)を制御するように構成された。
【0082】
上記5)の構成によれば、制御装置(9)が、少なくとも差圧取得装置(8)で取得された差圧(DP)および酸素量取得装置(55)で取得された排ガス中の酸素量(EO)に基づいて、第3のダンパの開度(62)を制御する。このため、仮にボイラ(4)へ送られる排ガス中の酸素量では、ボイラの必要空気量(RA)に満たない場合には、第3のダンパの開度(62)を大きくして、気体供給ライン(6)からボイラ(4)に適切な量の燃焼用気体を供給することで、ボイラの必要空気量を充足することができる。よって、上記5)の構成によれば、ボイラ(4)の燃焼効率の低下やボイラ(4)への供給酸素量の不足によるボイラ(4)の失火を効果的に抑制できる。
【0083】
6)幾つかの実施形態では、上記3)に記載のメタンスリップ抑制システム(1)であって、
前記排ガス排出ライン(7)を流れる前記排ガスから熱を回収するように構成された第1のエコノマイザ(72)をさらに備える。
【0084】
上記6)の構成によれば、第1のエコノマイザ(72)により排ガスから回収した熱を利用することで、ボイラ(4)の効率を向上させることができる。また、上記の構成によれば、排ガスライン(5)により、第1のエコノマイザ(72)において熱が回収されていない高温状態に保持された排ガスをボイラ(4)に供給できるため、ボイラ(4)における燃焼効率を向上させることができる。
【0085】
7)幾つかの実施形態では、上記3)に記載のメタンスリップ抑制システム(1)であって、
前記排ガスライン(5)の前記分岐部(52)よりも上流側を流れる前記排ガスから熱を回収するように構成された第2のエコノマイザ(57)をさらに備える。
【0086】
上記7)の構成によれば、第2のエコノマイザ(57)は、排ガスライン(5)の分岐部(52)よりも上流側に設けられているので、ガスエンジン(3)から排出された排ガスの全量が第2のエコノマイザ(57)を通過する。このため、第2のエコノマイザ(57)により、ガスエンジン(3)から排出された排ガスの全量から熱を回収することができるので、排ガスからの排熱の回収効率を向上させることができる。
【0087】
8)本開示の少なくとも一実施形態にかかる船舶(10A)は、
上記1)~7)の何れかに記載のメタンスリップ抑制システム(1)を備える。
【0088】
上記8)の構成によれば、船舶(10A)に搭載した動力プラント(2)のメタンスリップを抑制できる。
【0089】
9)幾つかの実施形態では、上記8)に記載の船舶(10A)であって、
前記ボイラ(4)を主機用ボイラとするように構成された。
【0090】
上記9)の構成によれば、船舶(10A)は、ボイラ(4)を主機用ボイラとするように構成されている。仮にボイラ(4)が補助ボイラである場合には、船内の蒸気需要によりその運転状態が変化する。例えば、船内の蒸気需要が少ない場合には、排ガス(スリップメタン)を処理するために、ボイラ燃料の追加投入やボイラ(4)により生成した蒸気のダンプ(廃棄)が必要となり、燃料コストの増大やエネルギーのロスを招く虞がある。これに対して、ボイラ(4)が主機用ボイラである場合には、船舶(10A)の運転中、すなわちガスエンジン(3)の稼働中にボイラ(4)は常時稼働しているため、ボイラ(4)が補助ボイラである場合に生じる虞がある、ボイラ燃料の追加投入やボイラ(4)により生成した蒸気のダンプ(廃棄)を抑制できる。よって、上記の構成によれば、燃料コストの増大やエネルギーのロスを抑制できる。
【0091】
10)本開示の少なくとも一実施形態にかかる洋上浮体設備(10B)は、
上記1)~7)の何れかに記載のメタンスリップ抑制システム(1)を備える。
【0092】
上記10)の構成によれば、洋上浮体設備(10B)に搭載した動力プラント(2)のメタンスリップを抑制できる。
【符号の説明】
【0093】
1 メタンスリップ抑制システム
2,2B 動力プラント
2A 船舶用の推進装置
20 蒸気タービン
22 蒸気供給ライン
23 蒸気供給口
24 主軸
25,26 プロペラ
27 発電機
3 ガスエンジン
31 排出口
32 主軸
4 ボイラ
41 火炉
410 燃焼領域
411 燃焼火炎
412 燃焼ガス流路
413 天井部
42 炉壁部
43 バーナ装置
44 風箱
441 供給口
45 加熱器
46 蒸発管群
47 水ドラム
48 蒸気ドラム
481 蒸気出口
49 燃焼ガス出口
5 排ガスライン
51 接続部
52 分岐部
53 第1のダンパ
54 吸引ファン
55 第1の酸素量取得装置
56 混合器
57 第2のエコノマイザ
58 ヒータ
6 気体供給ライン
61 押込ファン
62 第3のダンパ
63 バルブ
7 排ガス排出ライン
71 第2のダンパ
72 第1のエコノマイザ
8 差圧取得装置
8A 差圧計
9 制御装置
91 データベース部
92 ダンパ開度決定部
93 ダンパ開度指示部
94 圧力取得装置
95 第2の酸素量取得装置
96 差圧補正部
10A 船舶
10B 洋上浮体設備
BL ボイラ負荷
CO 燃焼気体中の酸素量
EO 排ガス中の酸素量
DP 差圧
RDP1,RDP2 補正後の差圧
RA ボイラの必要空気量
SV 規定値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8