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特許7341089ビーライトクリンカ、およびその製造方法
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  • 特許-ビーライトクリンカ、およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】ビーライトクリンカ、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/02 20060101AFI20230901BHJP
   C04B 7/36 20060101ALI20230901BHJP
【FI】
C04B7/02
C04B7/36
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020045756
(22)【出願日】2020-03-16
(65)【公開番号】P2021147248
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141966
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 範彦
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(72)【発明者】
【氏名】多田 真人
(72)【発明者】
【氏名】黒川 大亮
(72)【発明者】
【氏名】中口 歩香
(72)【発明者】
【氏名】内田 俊一郎
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-281394(JP,A)
【文献】特開昭57-158420(JP,A)
【文献】特開平7-144941(JP,A)
【文献】特開2018-16504(JP,A)
【文献】特開2015-63422(JP,A)
【文献】国際公開第2012/105102(WO,A1)
【文献】特開2016-175833(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0118384(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0259247(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポルトランドセメントクリンカ中のビーライト(CS)の含有率が80質量%以上であって、該ビーライト中のPの含有率が0.8~1.3質量%、SOの含有率が0.8~2.0質量%、KOの含有率が0.1~0.6質量%、およびCaOの含有率が63~64質量%である、ビーライトクリンカ。
【請求項2】
前記ビーライト中のCa/Siモル比が2.05~2.3である、請求項1に記載のビーライトクリンカ。
【請求項3】
水硬率(HM)が1.8~2.0、けい酸率(SM)が20~30、および鉄率(IM)が0.5~0.8であって、Pの含有率が1.0~1.5質量%、SOの含有率が4~9質量%、およびKOの含有率が0.8~1.5質量%である原料を、1250~1500℃で焼成して請求項1または2に記載のビーライトクリンカを製造する、ビーライトクリンカの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強度発現性に優れたビーライトクリンカと、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ポルトランドセメントの製造では、早強ポルトランドセメント、普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、および低熱ポルトランドセメントが別々に造られている。これでは、これらのセメントを需要に応じて製造するには頻繁に調合の切り替えを行う煩雑さがあり、また、品質の異なるセメントの切り替え時には多くの不良品が生じる。端成分のクリンカを製造し、それらを調合して、前記セメントと同じ強度発現性を有するセメントが製造できれば、少ない品種でセメントクリンカの製造工程が簡略できるほか、前記ポルトランドセメント以外のセメントでも、要求される強度発現性に応じて製造できると期待される。また、端成分の候補となるビーライトクリンカ自体の強度発現性を高め、汎用的なコンクリートの原料として用いることができれば、他のクリンカ鉱物と比べ製造時の消費エネルギーや二酸化端炭素の排出量を削減できる。しかし、ビーライトクリンカは易焼成性が低く、また強度発現性を高めることは困難であった。
【0003】
そこで、特許文献1では、フリーライム等が特定量であるセメントクリンカと、特定量の半水石膏を含む石膏を特定量含有することにより、良好な短期材齢の強度発現性を有しつつ、凝結時間を短縮できる高ビーライト系セメント組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-016504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記特許文献1に記載の発明とは異なり、ビーライトクリンカ自体が強度発現性に優れ、ポルトランドセメントの基材として該クリンカを用いたセメントの材齢28日の強度が高いビーライトクリンカと、その製造方法を提供することを目的とずる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記目的にかなうビーライトクリンカを検討したところ、P、SO、KO、およびCaOの含有率が特定の範囲にあるビーライトを含むクリンカは、前記目的を達成できることを見い出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の構成を有するビーライトクリンカ等である。
【0007】
[1]ポルトランドセメントクリンカ中のビーライト(鉱物、CS)の含有率が80質量%以上であって、該ビーライト中のPの含有率が0.8~1.3質量%、SOの含有率が0.8~2.0質量%、KOの含有率が0.1~0.6質量%、およびCaOの含有率が63~64質量%である、ビーライトクリンカ。
[2]前記ビーライト中のCa/Siモル比が2.05~2.3である、前記[1]に記載のビーライトクリンカ。
[3]水硬率(HM)が1.8~2.0、けい酸率(SM)が20~30、および鉄率(IM)が0.5~0.8であって、Pの含有率が1.0~1.5質量%、SOの含有率が4~9質量%、およびKOの含有率が0.8~1.5質量%である原料を、1250~1500℃で焼成して前記[1]または[2]に記載のビーライトクリンカを製造する、ビーライトクリンカの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のビーライトクリンカは、強度発現性に優れ、ポルトランドセメントの基材として用いたセメントの材齢28日の強度が高い。また、本発明のビーライトクリンカの製造方法は、消費エネルギーが少ない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】材齢28日の圧縮強さの実測値と、後記の(3)式を用いて算出した材齢28日の圧縮強さの予測値の相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のビーライトクリンカとその製造方法について詳細に説明する。
1.ビーライトクリンカ
本発明のビーライトクリンカは、ポルトランドセメントクリンカであって、ビーライトの含有率が80質量%以上であり、また、該ビーライト中のPの含有率が0.8~1.3質量%、SOの含有率が0.8~2.0質量%、KOの含有率が0.1~0.6質量%、およびCaOの含有率が63~64質量%である。クリンカ中のビーライトの含有率が80質量%未満では、材齢28日の強度発現性が充分ではなく、また、P、SO、KO、およびCaOの含有率が前記範囲を外れると、後掲の表4の比較例に示すように、材齢28日の圧縮強さは低くなる。なお、前記ビーライトの含有率は、好ましくは85質量%以上である。また、前記ビーライトクリンカ中のビーライトの含有率は、易焼成性の観点から、好ましく95質量%以下、より好ましくは90質量%以下である。
ビーライトクリンカ中のビーライト(CS)の含有率は、蛍光X線分析を用いてビーライトクリンカの化学組成を求め、該化学組成に基づき下記(1)式および(2)式のボーグ式を用いて算出する。
S(質量%)=2.87×SiO(質量%)-0.754×CS(質量%) ・・・(1)
S=4.07×CaO-7.6×SiO-6.72×Al-1.43×Fe-2.85×SO ・・・(2)
ただし、(1)式および(2)式中の化学式は、ビーライトクリンカ中の各化学式が表す化合物の含有率を表す。
前記ビーライト中のPの含有率は、高強度の観点から、0.8~1.3質量%、好ましくは0.9~1.2質量%、より好ましくは0.95~1.15質量%である。前記ビーライト中のSOの含有率は、高強度の観点から、0.8~2.0質量%、好ましくは0.9~1.8質量%、より好ましくは1.0~1.2質量%である。前記ビーライト中のKOの含有率は、高強度の観点から、0.1~0.6質量%、好ましくは0.12~0.5質量%、より好ましくは0.15~0.4質量%である。また、前記ビーライト中のCaOの含有率は、高強度の観点から、63~64質量%、好ましくは63.2~63.9質量%、より好ましくは63.4~63.8質量%である。
前記ビーライト中のCa/Siモル比は、高強度の観点から、好ましくは2.05~2.3、より好ましくは2.1~2.25、さらに好ましくは2.15~2.2である。
前記ビーライトの化学組成の測定装置は、鉱物粒子ごとに微小領域の化学組成を測定できる装置であればよく、例えば、波長分散型X線分光器(WDS)、エネルギー分散型X線分光器(EDS)等が挙げられる。好ましくは5個以上の異なるクリンカ粒子中のビーライト、より好ましくは10個以上の異なるクリンカ粒子中のビーライトを測定する。
また、ビーライトの化学組成はビーライト粒子ごとに異なる場合や、ビーライト粒子の中心部から周辺部にかけて異なる場合がある。そこで、好ましくは5個以上のビーライト粒子、より好ましくは10個以上のビーライト粒子を、ビーライトの1粒子につき好ましくは5点以上、より好ましくは10点以上の化学組成を測定し、これらの平均値を算出する。
【0011】
2.ビーライトクリンカの製造方法
本発明のビーライトクリンカの製造方法は、水硬率が1.8~2.0、けい酸率が20~30、および鉄率が0.5~0.8であって、Pの含有率が1.0~1.5質量%、SOの含有率が4~9質量%、およびKOの含有率が0.8~1.5質量%である原料を、1250~1500℃で焼成して前記ビーライトクリンカを製造する方法である。
原料の水硬率、けい酸率、および鉄率、並びに、原料中のP、SO、およびKOの含有率が前記範囲を外れると、後掲の表4の比較例に示すように、材齢28日の圧縮強さは低くなる。また、原料中のP、SO、およびKOの前記含有率の他に、好ましくは、原料中のSiOの含有率は25~33質量%、CaOの含有率は57~64質量%、MgOの含有率は0.5~1.0質量%である。
また、焼成温度は1250~1500℃である。焼成温度が1250℃未満では、ビーライトクリンカの強度発現性が小さくなり、1500℃を超えると原料が溶融するおそれがある。なお、焼成温度は、好ましくは1300~1450℃である。なお、焼成炉は、トンネル炉、ロータリーキルン、および流動床炉等の加熱炉が挙げられる。
【0012】
本発明のビーライトクリンカの製造方法では、下記(3)式を用いれば、ビーライトクリンカをポルトランドセメントの基材として用いたセメント組成物の材齢28日の圧縮強さが、後掲の表4に示すように、精度よく予測できる。
セメント組成物の材齢28日の圧縮強さの予測値(N/mm)=174.214×P(質量%)+7.289×SO(質量%)-17.010×KO(質量%)-2.07×CaO(質量%) ・・・(3)
ただし、(3)式中の化学式は、ビーライトクリンカ中のビーライトの各化学式が表す成分の含有率を表す。なお、前記セメント組成物は、普通ポルトランドセメントの50質量%(半分の量)をビーライトクリンカで置換したセメント組成物である。
【0013】
また、セメント組成物の圧縮強さの目標値(T28)、前記(3)式を用いて算出したセメント組成物の圧縮強さの予測値(P28)、および、本発明のビーライトクリンカを用いて置換する対象となるポルトランドセメントの圧縮強さの実測値(C)を下記(4)式に代入すれば、目標とする強度を発現するセメント組成物中に必要なビーライトクリンカの含有率(置換率、B)を算出できる。これらにより、セメント組成物の圧縮強さを精度よく管理できる。
28=[((P28-R28)/50]×B+C ・・・(4)
ただし、(4)式中のT28はセメント組成物の材齢28日の圧縮強さの目標値(N/mm)、P28はセメント組成物の材齢28日の圧縮強さの予測値(N/mm)、R28はポルトランドセメントの材齢28日の圧縮強さの実測値(N/mm)、Bはビーライトクリンカの含有率(質量%)、および、Cはビーライトクリンカを用いて置換する対象となるポルトランドセメントの材齢28日の圧縮強さの実測値(N/mm)を表す。
【実施例
【0014】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
1.ビーライトクリンカとセメントの製造
クリンカ原料として、石灰石、粘土、および鉄滓を用いて、該原料を調合して表1に記載の化学組成および水硬率の調合原料を得た。次に、ロータリーキルンを用いて、表1に記載の焼点温度で焼成して、ビーライトクリンカを製造した。表2に、蛍光X線分析により測定したビーライトクリンカの化学組成、ボーグ式により算出したビーライトクリンカ中の各種セメント鉱物(CS、CS、CA、およびCAF)の含有率、および、リートベルト法により求めたビーライト(鉱物)中の各相(α-CS、αH-CS、αL-CS、β-CS、およびγ-CS)の鉱物組成を示す。なお、表2中の前記ビーライトクリンカの化学組成等は、JIS R 5204:2019「セメントの蛍光X線分析方法」に準拠して、蛍光X線分析装置(商品名「ZSX PrimusII」、リガク社製)を用いて測定した。また、前記ビーライト中の各相の鉱物組成は、X線回折装置(商品名「D8 ADVANCE」、ブルカージャパン社製)、および、解析ソフトウェア(商品名「DIFFRAC plus TOPAS(Ver3.0)」、ブルカージャパン社製)を用いて、リードベルト法によって解析した。具体的には、CS、CS(各相)、CA、CAF、およびカルサイトの各鉱物の理論プロファイルを、粉末X線回折の結果から得られた実測プロファイルにフィッティングして各晶質相の含有率を求めた。
また、表3に、エネルギー分散型X線分光器を備えた走査型電子顕微鏡を用いて求めたビーライトの化学組成、およびCaO/SiOのモル比を示す。なお、前記ビーライトの化学組成等の測定は、加速電圧を15keV、照射電流を1000pAに設定したエネルギー分散型X線分光器(EDS)を用いて、分析時間が1分析点につき10秒、観察倍率は2500または5000倍で、15視野からビーライト粒子を1つ選択し、一粒子ごとに15点、計225点を測定し、その平均値を求めた。
次に、前記ビーライトクリンカと普通ポルトランドセメントを、質量比で1:1で混合した後、ボールミルで粉砕してセメント組成物を製造した。セメント組成物を100質量%として、SO換算で2.0質量%になるよう石膏を添加して、ブレーンが3300cm/gになるよう粉砕してセメント組成物を調製した。
【0015】
【表1】
【0016】
【表2】
【0017】
【表3】
【0018】
2.セメントの圧縮強さの実測と予測
前記セメント組成物を用いて、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に準拠してモルタル供試体を作製し、その圧縮強さを実測した。また、前記(3)式と表3のビーライトの化学組成(P、SO、KO、およびCaOの含有率)を用いて、材齢28日の圧縮強さを予測した。得られた圧縮強さの実測値と予測値を表4と図1に示す。
【0019】
【表4】
【0020】
表4に示すように、圧縮強さは、比較例1~5の27.0~34.3N/mmと比べ、実施例1~5では35.7~39.1N/mmと高い。また、表4と図1に示すように、すべての実施例と比較例において、圧縮強さの実測値と予測値は高い精度で一致した。
図1