(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】抗体バリアント
(51)【国際特許分類】
C07K 16/24 20060101AFI20230901BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20230901BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230901BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230901BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20230901BHJP
【FI】
C07K16/24 ZNA
C12N15/13
A61K39/395 Y
A61K39/395 N
A61P29/00
A61P1/04
(21)【出願番号】P 2020515974
(86)(22)【出願日】2018-09-11
(86)【国際出願番号】 EP2018074523
(87)【国際公開番号】W WO2019057565
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-07-05
(32)【優先日】2017-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518330316
【氏名又は名称】ティロッツ ファーマ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】TILLOTTS PHARMA AG
【住所又は居所原語表記】Baslerstrasse 15,4310 Rheinfelden Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】フラー,エステル マリア
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/158092(WO,A1)
【文献】1 Introduction: Antibody Structure and Function,Therapeutic Fc-Fusion Proteins,pp.1-43,Wiley-VCH Verlag GmbH & Co. KGaA,2014年
【文献】mAbs,2011年,Vol.3, No.5, pp.422-430
【文献】The Journal of Immunology,2009年,Vol.182, pp.7663-7671
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH6で500nM未満の解離平衡定数(K
D)を特徴とするヒトFcRnへの高親和性を有し、さらに、pH7.4で10μMより大きいK
Dを特徴とするヒトFcRnへの無親和性または低親和性を有する、TNFα結合ドメインおよびFcRn結合部位を含
むヒト化抗体であって、
抗体のアミノ酸配列が、
アミノ酸380A(EUナンバリング)および434A(EUナンバリング)を含み、
前記抗体が、
(i)配列番号3に示されるアミノ酸配列を有するCDR1領域、配列番号4に示されるアミノ酸配列を有するCDR2領域、および配列番号5に示されるアミノ酸配列を有するCDR3領域を含むV
Lドメイン
、
(ii)配列番号6に示されるアミノ酸配列を有するCDR1領域、配列番号7に示されるアミノ酸配列を有するCDR2領域、および配列番号8に示されるアミノ酸配列を有するCDR3領域を含むV
Hドメイン
、ならびに
(iii)ヒトIgG1由来のFc領域
を含む、抗体。
【請求項2】
前記抗体の前記アミノ酸配列が、アミノ酸307T(EUナンバリング)をさらに含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
インフリキシマブの親和性より大きいpH6でのヒトFcRnに対する親和性を有する、請求項1または2に記載の抗体。
【請求項4】
ヒトFcRnに対する前記高親和性が、300nM未満の解離定数K
Dを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項5】
ヒトTNFαに100pM未満のK
Dで結合する、請求項1~4のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項6】
インフリキシマブより多くの量で、頂端側から側底側へ分極細胞単層を横切って輸送される、請求項1~5のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項7】
前記分極細胞単層を横切って輸送される抗体の量が、前記分極細胞単層を横切って輸送される親免疫グロブリンの量の2倍より大きく、前記親免疫グロブリンが、前記抗体とは、前記親免疫グロブリンがアミノ酸380E(EUナンバリング)および434N(EUナンバリング)を含むという点のみで異なる、請求項6に記載の抗体。
【請求項8】
10倍過剰量の競合免疫グロブリンの存在下で、インフリキシマブよりも大きなパーセンテージの抗体が頂端側から側底側へ分極細胞単層を横切って輸送され、前記パーセンテージが前記分極細胞単層を横切って輸送される免疫グロブリンの総質量を意味する、請求項1~7のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項9】
非フコシル化抗体である、請求項1~8のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の抗体をコードする核酸。
【請求項11】
炎症状態の治療に使用するための請求項1~9のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項12】
前記炎症状態が胃腸管の炎症性疾患である、請求項11に記載の抗体。
【請求項13】
前記治療が、有効量の前記抗体を経口投与することを含む、請求項11に記載の抗体。
【請求項14】
前記抗体が局所的に適用される、請求項11または12に記載の抗体。
【請求項15】
請求項1~9のいずれか1項に記載の抗体を含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善されたエフェクター機能および/または薬物動態学的特性を有する改変抗体に関する。この抗体は、種々の障害、特に炎症状態の治療的処置に有用である。
【背景技術】
【0002】
モノクローナル抗体は、この20年にわたり、臨床医学における治療用の薬剤として重要性がますます増大している。長年にわたり、抗体の潜在的免疫原性を減らすように改善する努力に注力され、ヒト化あるいは完全ヒト抗体に繋がった。別の手法は、エフェクター機能を改善することにより抗体を最適化することを目指している。直接的効果は、抗体の可変抗原結合領域により媒介され、間接的効果は、定常Fc領域により媒介される。エフェクター機能を改善する努力は、主として、Fc領域の調節に対し集中的に行われている。さらに、治療抗体の血清半減期の改善が望ましく、これは、必要な抗体の量を減らし、治療間隔を延ばすことにより、患者の利便性を高め得る。
【0003】
治療用途に対しては、免疫グロブリンG(IgG)は、いくつかの理由で好ましい選択のクラスとなっている;IgGは精製が容易で、保存時に比較的安定であり、静脈内投与可能であり、インビボで長い生物学的半減期を有し、補体依存性細胞障害(CDC)の活性化および種々のFc受容体相互作用(抗体依存性細胞傷害;ADCC)を介したエフェクター細胞の動員などの一連の生物学的エフェクター機能に関与できる。5つの免疫グロブリンクラス中で、IgGは、IgGリサイクリング受容体の新生児Fc受容体(FcRn)との独特な相互作用に起因して、最長の生物学的半減期を示す。受容体の既知の機能の1つは、触媒分解からIgGを救出することである。溶解したFcRn-Fc共結晶構造体は、Fcとの相互作用がIgGヒンジ-CH2-CH-3領域で起こることを示した。この相互作用は、厳密にpH依存性方式であり、エンドソーム中、6.0~6.5の酸性pHで起こる。結合IgG分子は、細胞表面に戻され、そこで、7.4の生理学的pHで循環中に放出され、一方、複合体化していないIgG分子は、リソソーム分解に向かう運命にある。このリサイクルは、IgGの半減期延長の機序であり;従って、FcRn-IgG相互作用の調節は、ガンマ免疫グロブリンおよびFc融合タンパク質の血清半減期の特異的制御を可能とする。
【0004】
用途によっては、IgGの血清中滞留時間を延長するまたは短縮することが望ましい場合がある。治療用途に対しては、少ない用量およびより少ない回数の注射でよいので、より長い半減期が望ましい。半減期を延長するためのいくつかの手法が研究されてきており、それらには、ポリエチレングリコール(PEG)の使用、アルブミンまたはFc融合タンパク質の生成、およびFcRn-IgG相互作用の強化が含まれる。ペグ化医薬品は、1990年以来既に医院に存在し、ペグ化は血液中の薬物滞留時間の延長のための確立された技術である。ヒト血清アルブミン(HSA)はまた、pH依存性相互作用を介してFcRnによりリサイクルされるので、安定性および半減期を向上させるいくつかのアルブミン融合タンパク質も作製された。さらに、アルブミンまたはアルブミン結合ドメインに融合した抗体フラグメントは、前臨床試験で血清中滞留時間の延長を実証した。Fc融合タンパク質の生成は、タンパク質またはペプチドに対し、無処理の抗体と類似の特性を与えるための別の方策である。
【0005】
研究されているFc領域の改変については、Saxena(2016)Frontiers in Immunology,Vol.7,Article 580にまとめられている。種々のFc変異は、国際公開第1998/023289A1号、同第2000/042072A2号、同第2010/106180A2号および同第2014/108198A1号にさらに記載されている。
【0006】
改善されたエフェクター機能および/または薬物動態学を有する抗体に対し、現在も継続したニーズがある。
【発明の概要】
【0007】
本出願の発明者らは、抗体Fc領域中のある特定の変異が、pH6でのFcRnに対する抗体の親和性を高め、一方で、pH7.4での親和性は低いままであるということを見出した。変異を有する抗体は、薬物動態学的特性を改善した。さらに、本発明の好ましい抗体バリアントは、それらそれぞれの親野性型抗体よりも良好なT細胞増殖阻害作用を有する。
【0008】
従って、本発明は、下記項目[1]~[91]で定義の主題に関する:
[1]pH6で500nM未満の解離平衡定数(KD)を特徴とするヒトFcRnへの高親和性を有し、さらに、pH7.4で1μMより大きいKDを特徴とするヒトFcRnへの低親和性を有する、TNFα結合ドメインおよびFcRn結合部位を含む抗体であって、抗体のアミノ酸配列が、アミノ酸380Aおよび434Aを含む、抗体。
[2]抗体が、位置434でアスパラギンをアラニンで置換(N434A)することにより得られる、項目[1]に記載の抗体。
[3]抗体が、位置380でグルタミン酸をアラニンで置換(E380A)することにより得られる、項目[1]または[2]に記載の抗体。
[4]抗体のアミノ酸配列の位置307のアミノ酸がアラニンとは異なる、項目[1]~[3]のいずれか1項に記載の抗体。
[5]抗体のアミノ酸配列が、アミノ酸307Tをさらに含む、項目[1]~[4]のいずれか1項に記載の抗体。
[6]配列番号13で示されるアミノ酸配列を含む重鎖を含む、項目[1]~[5]のいずれか1項に記載の抗体。
[7]インフリキシマブ(IFX)の親和性より大きいpH6でのヒトFcRnに対する親和性を有する、項目[1]~[6]のいずれか1項に記載の抗体
[8]pH6でのヒトFcRnに対する前記高親和性が、400nM未満の解離定数KDを特徴とする、項目[1]~[7]のいずれか1項に記載の抗体。
[9]pH6でのヒトFcRnに対する前記高親和性が、300nM未満の解離定数KDを特徴とする、項目[1]~[8]のいずれか1項に記載の抗体。
[10]pH6でのヒトFcRnに対する前記高親和性が、200nM未満の解離定数KDを特徴とする、項目[1]~[9]のいずれか1項に記載の抗体。
[11]pH6でのヒトFcRnに対する前記高親和性が、150nM未満の解離定数KDを特徴とする、項目[1]~[10]のいずれか1項に記載の抗体。
[12]pH6でのヒトFcRnに対する前記高親和性が、5nM~500nM、または10nM~400nM、または25nM~300nM、または50nM~200nM、または75nM~150nMの範囲の解離定数KDを特徴とする、項目[1]~[11]のいずれか1項に記載の抗体。
[13]pH6での高親和性を特徴付ける前記KDが、表面プラズモン共鳴法(SPR)により測定される、項目[1]~[12]のいずれか1項に記載の抗体。
[14]pH7.4でのヒトFcRnに対する前記低親和性が、10μMよりKDを特徴とする、項目[1]~[13]のいずれか1項に記載の抗体。
[15]pH7.4でのヒトFcRnに対する低親和性を特徴付ける前記KDが、SPRにより測定される、項目[1]~[14]のいずれか1項に記載の抗体。
[16]pH7.4でのヒトFcRnに対する親和性が非常に低いため、KD値がSPRにより測定できない、項目[1]~[13]のいずれか1項に記載の抗体。
[17]ヒトTNFαに200pM未満のKDで結合する、項目[1]~[16]のいずれか1項に記載の抗体。
[18]ヒトTNFαに100pM未満のKDで結合する、項目[1]~[17]のいずれか1項に記載の抗体。
[19]ヒトTNFαに50pM未満のKDで結合する、項目[1]~[18]のいずれか1項に記載の抗体。
[20]ヒトTNFαに25pM未満のKDで結合する、項目[1]~[19]のいずれか1項に記載の抗体。
[21]ヒトTNFαに10pM未満のKDで結合する、項目[1]~[20]のいずれか1項に記載の抗体。
[22]頂端側から側底側へ分極細胞単層を横切って輸送される、項目[1]~[21]のいずれか1項に記載の抗体。
[23]配列番号1で示されるアミノ酸配列を有する軽鎖および配列番号2で示されるアミノ酸配列を有する重鎖を含む対照抗体より多くの量で頂端側から側底側へ分極細胞単層を横切って輸送される、項目[1]~[22]のいずれか1項に記載の抗体。
[24]インフリキシマブより多くの量で、頂端側から側底側へ分極細胞単層を横切って輸送される、項目[1]~[23]のいずれか1項に記載の抗体。
[25]分極細胞単層を横切って輸送される抗体の量が、分極細胞単層を横切って輸送されるインフリキシマブの量の2倍より大きい、項目[24]に記載の抗体。
[26]前記量が、4時間以内に分極細胞単層を横切って輸送される抗体の質量を意味する、項目[23]~[25]のいずれか1項に記載の抗体。
[27]分極細胞単層を横切って輸送される抗体の量が、分極細胞単層を横切って輸送される親免疫グロブリンの量の2倍より大きく、前記親免疫グロブリンが、前記抗体とは、そのFc領域が野生型アミノ酸のみを有するという点のみで異なる、項目[22]~[26]のいずれか1項に記載の抗体。
[28]分極細胞単層を横切って輸送される抗体の量が、分極細胞単層を横切って輸送される親免疫グロブリンの量の2倍より大きく、前記親免疫グロブリンが、前記抗体とは、前記親免疫グロブリンがアミノ酸380Eおよび434Nを含むという点のみで異なる、項目[22]~[27]のいずれか1項に記載の抗体。
[29]10倍過剰の競合免疫グロブリンの存在下で、インフリキシマブよりも大きなパーセンテージの抗体が頂端側から側底側へ分極細胞単層を横切って輸送され、このパーセンテージが分極細胞単層を横切って輸送される免疫グロブリンの総質量を意味する、項目[1]~[28]のいずれか1項に記載の抗体。
[30]分極細胞単層を横切って輸送される抗体のパーセンテージが、分極細胞単層を横切って輸送される親免疫グロブリンのパーセンテージの2倍より大きく、前記親免疫グロブリンが、前記抗体とは、前記親免疫グロブリンのFc領域が野生型アミノ酸のみを有するという点のみで異なる、項目[29]に記載の抗体。
[31]分極細胞単層を横切って輸送される抗体のパーセンテージが、分極細胞単層を横切って輸送される親免疫グロブリンのパーセンテージの2倍より大きく、前記親免疫グロブリンが、前記抗体とは、前記親免疫グロブリンがアミノ酸380Eおよび434Nを含むという点のみで異なる、項目[29]または[30]に記載の抗体。
[32]前記分極細胞単層が分極T84細胞の単層である、項目[22]~[31]のいずれか1項に記載の抗体。
[33]CD64に100nM未満、好ましくは10nM未満のKDで結合する、項目[1]~[32]のいずれか1項に記載の抗体。
[34]CD32a(H)に10μM未満のKDで結合する、項目[1]~[33]のいずれか1項に記載の抗体。
[35]CD32a(R)に10μM未満のKDで結合する、項目[1]~[34]のいずれか1項に記載の抗体。
[36]CD32bに10μM未満のKDで結合する、項目[1]~[35]のいずれか1項に記載の抗体。
[37]CD16a(V)に1000nM未満、好ましくは100nM未満のKDで結合する、項目[1]~[36]のいずれか1項に記載の抗体。
[38]CD16a(F)に10μM未満、好ましくは1μM未満のKDで結合する、項目[1]~[37]のいずれか1項に記載の抗体。
[39]CD16b(NA2)に10μM未満、好ましくは1μM未満のKDで結合する、項目[1]~[38]のいずれか1項に記載の抗体。
[40]ヒトC1qに結合できる、項目[1]~[39]のいずれか1項に記載の抗体。
[41]ウサギ補体の補体依存性細胞傷害(CDC)を有する、項目[1]~[40]のいずれか1項に記載の抗体。
[42]抗体依存性細胞傷害(ADCC)を有する、項目[1]~[41]のいずれか1項に記載の抗体。
[43]CD14+CD206+マクロファージを誘導できる、項目[1]~[42]のいずれか1項に記載の抗体。
[44]インフリキシマブ以上のレベルでCD14+CD206+マクロファージを誘導できる、項目[1]~[43]のいずれか1項に記載の抗体。
[45]T細胞増殖を抑制できる、項目[1]~[44]のいずれか1項に記載の抗体。
[46]インフリキシマブ以上の程度でT細胞増殖を抑制できる、項目[1]~[45]のいずれか1項に記載の抗体。
[47]非フコシル化抗体またはフコシル化が低減した抗体である、項目[1]~[46]のいずれか1項に記載の抗体。
[48](i)配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するCDR1領域、配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するCDR2領域、および配列番号5で示されるアミノ酸配列を有するCDR3領域を含むVLドメイン、および(ii)配列番号6で示されるアミノ酸配列を有するCDR1領域、配列番号7で示されるアミノ酸配列を有するCDR2領域、および配列番号8で示されるアミノ酸配列を有するCDR3領域を含むVHドメインを含む、項目[1]~[47]のいずれか1項に記載の抗体。
[49]配列番号9で示されるアミノ酸配列を有するVHドメインおよび配列番号10で示されるアミノ酸配列を有するVLドメインを含む、項目[1]~[48]のいずれか1項に記載の抗体。
[50]配列番号1で示されるアミノ酸配列を有する軽鎖および配列番号11で示されるアミノ酸配列を有する重鎖を含む、項目[1]~[49]のいずれか1項に記載の抗体。
[51]前記抗体が、(i)配列番号14で示されるアミノ酸配列を有するCDR1領域、配列番号15で示されるアミノ酸配列を有するCDR2領域、および配列番号16で示されるアミノ酸配列を有するCDR3領域を含むVLドメイン、および(ii)配列番号17で示されるアミノ酸配列を有するCDR1領域、配列番号18で示されるアミノ酸配列を有するCDR2領域、および配列番号19で示されるアミノ酸配列を有するCDR3領域を含むVHドメインを含む、項目[1]~[47]のいずれか1項に記載の抗体。
[52]配列番号20で示されるアミノ酸配列を有するVHドメインおよび配列番号21または配列番号22で示されるアミノ酸配列を有するVLドメインを含む、項目[51]に記載の抗体。
[53]配列番号23または配列番号24で示されるアミノ酸配列を有する軽鎖および配列番号12で示されるアミノ酸配列を有する重鎖を含む、項目[51]または[52]に記載の抗体。
[54]前記抗体がヒトTNFαに特異的に結合する、項目[1]~[53]のいずれか1項に記載の抗体。
[55]前記抗体がTNFβに有意に結合しない、項目[1]~[54]のいずれか1項に記載の抗体。
[56]前記抗体が、
(i)ヒトTNFαに125pM未満の解離定数(KD)で結合する;
(ii)アカゲザルTNFαおよびカニクイザルTNFαと交差反応性である;
(iii)L929アッセイで測定して、インフリキシマブよりもより強力な効力を有する;および/または
(iv)少なくとも2の化学量論比(抗体:TNFαTrimer)でヒトTNFαTrimerに結合できる、項目[1]~[55]のいずれか1項に記載の抗体。
[57]アカゲザル由来のTNFαに1nM未満のKDで結合する、項目[1]~[56]のいずれか1項に記載の抗体。
[58]カニクイザル由来のTNFαに1nM未満のKDで結合する、項目[1]~[57]のいずれか1項に記載の抗体。
[59]L929アッセイで決定されたインフリキシマブの効力(相対効力)に比べて、TNFα誘導アポトーシスを抑制する抗体の効力(相対効力)が3より高く、前記相対効力が、L929アッセイにおいて、インフリキシマブのIC50値(ng/mL)の、L929アッセイにおける抗体のIC50値(ng/mL)に対する比である、項目[1]~[58]のいずれか1項に記載の抗体。
[60]示差走査蛍光定量法により決定されたscFvフォーマットの抗体の可変ドメインの融解温度が少なくとも65℃である、項目[1]~[59]のいずれか1項に記載の抗体。
[61]示差走査蛍光定量法により決定されたscFvフォーマットの抗体の可変ドメインの融解温度が少なくとも68℃である、項目[1]~[60]のいずれか1項に記載の抗体。
[62]示差走査蛍光定量法により測定される融解温度が少なくとも70℃である、項目[1]~[61]のいずれか1項に記載の抗体。
[63]ヒトTNFαとTNF受容体I(TNFRI)との間の相互作用を遮断できる、項目[1]~[62]のいずれか1項に記載の抗体。
[64]ヒトTNFαとTNF受容体II(TNFRII)との間の相互作用を遮断できる、項目[1]~[63]のいずれか1項に記載の抗体。
[65]CD14+単球由来のインターロイキン-1βのLPS誘導分泌を抑制できる、項目[1]~[64]のいずれか1項に記載の抗体。
[66]インターロイキン-1βのLPS誘導分泌を抑制するためのIC50値が1nM未満である、項目[65]に記載の抗体。
[67]モル基準で、インターロイキン-1βのLPS誘導分泌を抑制するためのIC50値が、アダリムマブのIC50値より低い、項目[66]に記載の抗体。
[68]CD14+単球由来のTNFαのLPS誘導分泌を抑制できる、項目[1]~[67]のいずれか1項に記載の抗体。
[69]TNFαのLPS誘導分泌を抑制するためのIC50値が1nM未満である、項目[68]に記載の抗体。
[70]モル基準で、TNFαのLPS誘導分泌を抑制するためのIC50値が、アダリムマブのIC50値より低い、項目[69]に記載の抗体。
[71]免疫グロブリンG(IgG)、好ましくはIgG1である、項目[1]~[70]のいずれか1項に記載の抗体。
[72]項目[1]~[71]のいずれか1項に記載の抗体をコードする核酸。
[73]項目[72]の核酸を含むベクターまたはプラスミド。
[74]項目[72]の核酸、または項目[73]のベクターもしくはプラスミドを含む細胞。
[75]抗体をコードする核酸の発現を可能とする条件下で、項目[74]に記載の細胞を培地中で培養すること、およびその抗体を細胞または培地から回収することを含む、項目[1]~[71]のいずれか1項に記載の抗体を作製する方法。
[76]炎症性疾患またはTNFα関連障害を治療する方法に使用するための項目[1]~[71]のいずれか1項で定義されている抗体。
[77]前記炎症性疾患が、以下の「治療対象障害」のセクションに列挙される疾患および障害のリストから選択される、項目[76]に記載の使用するための抗体。
[78]前記炎症性疾患が、消化管の炎症性疾患である、項目[76]に記載の使用するための抗体。
[79]前記消化管の炎症性疾患が、炎症性腸疾患である、項目[78]に記載の使用するための抗体。
[80]前記消化管の炎症性疾患が、クローン病である、項目[78]または[79]に記載の使用するための抗体。
[81]前記クローン病が、回腸、結腸、回腸結腸、および/または孤立性上部クローン病(isolated upper Crohn’s disease)(胃、十二指腸、および/または空腸)からなる群から選択され、非狭窄性/非浸透性、狭窄性、浸透性および肛門周囲疾患の挙動などを含み、局在化および上記のいずれかの疾患挙動の任意の組合せを可能とする、項目[80]に記載の使用するための抗体。
[82]前記消化管の炎症性疾患が、潰瘍性大腸炎である、項目[78]または[79]に記載の使用するための抗体。
[83]前記潰瘍性大腸炎が、潰瘍性直腸炎、S状結腸炎、直腸S状結腸炎、左側大腸炎、全大腸型潰瘍性大腸炎、および回腸嚢炎からなる群から選択される、項目[82]に記載の使用するための抗体。
[84]前記消化管の炎症性疾患が、顕微鏡的大腸炎である、項目[78]または[79]に記載の使用するための抗体。
[85]前記炎症性疾患が、関節炎である、項目[76]に記載の使用するための抗体。
[86]前記炎症性疾患が、関節リウマチである、項目[76]または[85]に記載の使用するための抗体。
[87]前記方法が、対象に抗体を経口投与することを含む、項目[76]~[86]のいずれか1項に記載の使用するための抗体。
[88]前記方法が、抗体を局所適用することを含む、項目[76]~[87]のいずれか1項に記載の使用するための抗体。
[89]項目[1]~[71]のいずれか1項に記載の抗体を含む医薬組成物。
[90]TNFαに対する抗体のトランスサイトーシスを改善する方法であって、抗体のアミノ酸配列中に置換E380AおよびN434Aを導入することを含む、方法。
[91]TNFαに対する抗体の血漿中半減期を延長する方法であって、抗体のアミノ酸配列中に置換E380AおよびN434Aを導入することを含む、方法。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】L929アッセイにおける抗TNFα抗体バリアントのヒトTNFαを中和する効力。TNFα抗体特異的TP抗体および基準インフリキシマブの用量反応曲線が示されている。
【
図2】分極T84細胞を横切る抗TNFα IgGバリアントの輸送。添加4時間後の頂端側から基底外側リザーバーへの抗TNFα抗体バリアントおよびIFXの量。ng/cm
2として表される。エラーバーは、2~4つの個別の単分子膜のSDを示す。
【
図3】過剰量の骨髄腫IgGの存在下での分極T84細胞を横切る抗TNFα IgGバリアントの輸送。10倍過剰量のヒト骨髄腫IgGの存在下の、添加4時間後の頂端側から基底外側リザーバーへ輸送された抗TNFα抗体 IFXおよび抗体バリアントの量。ng/cm
2として表される。エラーバーは、3~4つの個別の単分子膜のSDを示す。
【
図4】ADCC活性。抗TNFα抗体バリアントおよび野生型抗体によるADCCの誘導。
【
図5】ヒトC1qへの結合。IFXおよび抗TNFα抗体バリアントのヒトC1qへの結合。各濃度は、2回繰り返してアッセイされた。エラーバーはSDを示す。
【
図6】IFXと比較した各化合物によるCD14
+CD206
+マクロファージの誘導。独立した4種の実験をまとめたデータ。バーは平均を表し、エラーバーはSEMを表す。
【
図7】IFXと比較した各化合物によるT細胞増殖の抑制。独立した3種の実験をまとめたデータ。バーは平均を表し、エラーバーはSEMを表す。
【
図9】抗TNFα抗体バリアントのN297に結合した主要なN-グリカン型の模式図。試験した抗TNFα抗体のパネル中で優位を占める2つのN-グリカンプロファイルは、4GlcNac-1Fuc-3Manおよび4GlcNac-1Fuc-3Man-1Galであり、一方、2FFの存在下で生成されたIgGバリアントに対しては、フコースを欠くものを除いて、同じ二分岐構造が発生した。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、TNFαに結合でき、FcRn結合部位を含む抗体に関する。本出願によれば、抗体は、pH6でFcRn、好ましくはヒトFcRnに結合できる場合には、FcRn結合部位を含む。pH6でのFcRnへの結合は、例えば、本出願の実施例4に記載のように、SPRにより測定できる。pH6で、抗体のFcRnへの結合がSPRにより検出できる場合には、このような抗体はFcRn結合部位を有する。本発明の抗体は、500nM未満の解離平衡定数(KD)を特徴とする、pH6でヒトFcRnに対する高親和性を有する。抗体は、1μMより大きいKDを特徴とする、pH7.4でのヒトFcRnに対し低親和性をさらに有する。抗体のアミノ酸配列は、位置380および位置434(EUナンバリング)にアミノ酸アラニンを含む。
【0011】
本明細書全体を通して、可変ドメイン(ほぼ、軽鎖の残基1~107および重鎖の残基1~113)中の残基を参照する場合、Kabatナンバリングシステムが通常使用される(Kabatら,Sequences of Immunological Interest.5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991))。免疫グロブリン重鎖定常領域中の残基を参照する場合、「EUナンバリングシステム」または「EUインデックス」が通常使用される(例えば、KabatらのSequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991)(参照により本明細書に明示的に組み込まれる)で報告されたEUインデックス)。特に断りのない限り、抗体の可変ドメイン中の残基番号への参照は、Kabatナンバリングシステムによる残基ナンバリングを意味する。特に断りのない限り、抗体の定常ドメイン中の残基番号への参照は、EUナンバリングシステム(例えば、国際公開第2006/073941号を参照されたい)による残基ナンバリングを意味する。
【0012】
抗体
本出願の場合、用語の「抗体」は、IgG、IgM、IgE、IgA、またはIgDクラス(またはその任意のサブクラス)に属する、その全ての従来から既知の抗体およびそれらの機能性断片を含むタンパク質として定義される「免疫グロブリン」(Ig)の同義語として用いられる。本発明の場合、抗体/免疫グロブリンの「機能性断片」は、抗原結合断片、またはこのような親抗体の1つまたは複数の特性を本質的に維持する親抗体の他の誘導体として定義される。抗体/免疫グロブリンの「抗原結合断片」または「抗原結合ドメイン」は、抗原結合領域を保持する断片(例えば、IgGの可変領域)として定義される。抗体の「抗原結合領域」は、典型的には抗体の1つまたは複数の超可変領域、すなわち、CDR-1、-2および/または-3領域に見出される。本発明の抗体は、二官能性または多官能性構築物の一部であってもよい。
【0013】
好ましくは、抗体はモノクローナル抗体である。本明細書で使用される場合、用語の「モノクローナル抗体」は、ハイブリドーマ技術により産生される抗体に限定されない。用語の「モノクローナル抗体」は、それが産生される方法ではなく、任意の真核生物、原核生物またはファージクローンを含む単一のクローンに由来する抗体を意味する。モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ、組換え、およびファージ提示技術、またはこれらの組み合わせの使用など、当技術分野で公知の多種多様な技術を用いて作製できる(Harlow and Lane,「Antibodies,A Laboratory Manual」CSH Press 1988年、Cold Spring Harbor N.Y.)。
【0014】
ヒトにおける抗TNFα抗体のインビボ使用に関する実施形態を含む他の実施形態では、キメラ抗体、霊長類化抗体、ヒト化抗体、またはヒト抗体を使用できる。好ましい実施形態では、抗体はヒト抗体またはヒト化抗体であり、より好ましくはモノクローナルヒト抗体またはモノクローナルヒト化抗体である。
【0015】
別の特定の実施形態では、本発明の抗体は免疫グロブリン、好ましくは免疫グロブリンG(IgG)である。本発明のIgGのサブクラスは、限定されないが、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4が挙げられる。好ましくは、本発明のIgGは、サブクラス1、2または4、すなわち、それぞれ、IgG1、IgG2、またはIgG4分子である。最も好ましくは、本発明のIgGはサブクラス1、すなわち、IgG1分子である。
【0016】
TNFα結合ドメイン
本発明の抗体のTNFα結合ドメインは、特に限定されない。それは、TNFαに結合できる任意の抗体由来であり得る。
【0017】
好ましくは、本発明の抗体は、TNFαに特異的に結合する。本明細書で使用される場合、抗体が、ヒトTNFαと1つまたは複数の参照分子とを識別できる場合、抗体は、ヒトTNFαを「特異的に認識する」またはヒトTNFαに「特異的に結合する」。好ましくは、参照分子の各々への結合に対するIC50値は、TNFαへの結合に対するIC50値よりも少なくとも1,000倍大きい。最も一般的な形態(および定義された参照が記載されていない場合)では、「特異的結合」とは、例えば、当技術分野で既知の特異性アッセイ法により測定して、ヒトTNFαと非関連生体分子とを区別する抗体の能力を意味する。このような方法には、限定されないが、ウェスタンブロットおよびELISA試験が含まれる。例えば、標準的なELISAアッセイを実施できる。通常、結合特異性の決定は、単一の参照生体分子ではなく、ミルクパウダー、BSA、トランスフェリンなどの約3~5種の非関連生体分子のセットを使用することにより行われる。一実施形態では、特異的結合は、ヒトTNFαとヒトTNFβとを区別する抗体の能力を意味する。
【0018】
本発明の抗体は、VLドメインおよびVHドメインを含む。VLドメインは、CDR1領域(CDRL1)、CDR2領域(CDRL2)、CDR3領域(CDRL3)、およびフレームワーク領域を含む。VHドメインは、CDR1領域(CDRH1)、CDR2領域(CDRH2)、CDR3領域(CDRH3)、およびフレームワーク領域を含む。
【0019】
用語の「CDR」は、主に抗原結合に寄与する抗体の可変ドメイン内の6つの高頻度可変領域の内の1つを意味する。6つのCDRの最も一般的に使用される定義の1つは、Kabat E.A.ら(1991)(Sequences of proteins of immunological interest.NIH Publication 91-3242)により提供された。本明細書で使用される場合、KabatのCDRの定義は、軽鎖可変ドメインのCDR1、CDR2およびCDR3(CDRL1、CDRL2、CDRL3、またはL1、L2、L3)、ならびに重鎖可変ドメインのCDR2およびCDR3(CDRH2、CDRH3、またはH2、H3)のみに適用される。しかし、本明細書で使用される場合、重鎖可変ドメインのCDR1(CDRH1またはH1)は、以下の残基(Kabatナンバリング)により定義される:それは、位置26で始まり、位置36の前で終わる。
【0020】
本発明の一実施形態では、本発明の抗体は、出願時の国際出願:PCT/EP2017/056218、PCT/EP2017/056246、PCT/EP2017/056237およびPCT/EP2017/056227のいずれか1件に開示の抗TNFα抗体である。本発明のさらに別の実施形態では、抗体は、出願時の国際出願:PCT/EP2017/056218、PCT/EP2017/056246、PCT/EP2017/056237およびPCT/EP2017/056227で開示のアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)を含む軽鎖可変ドメインおよび/または重鎖可変ドメインを有する抗TNFα抗体である。
【0021】
本発明の好ましい実施形態では、抗体は、PCT/EP2017/056218、PCT/EP2017/056246、PCT/EP2017/056237またはPCT/EP2017/056227で開示のアミノ酸配列を有する1つまたは複数のCDRを含む軽鎖可変ドメインおよび/または重鎖可変ドメインを有する抗TNFα抗体である。本発明の別の好ましい実施形態では、抗体は、PCT/EP2017/056218の請求項2、PCT/EP2017/056246の請求項2、PCT/EP2017/056237の請求項2またはPCT/EP2017/056227の請求項2で開示のアミノ酸配列を有するCDRを含む軽鎖可変ドメインおよび重鎖可変ドメインを有する抗TNFα抗体である。本発明のさらに別の好ましい実施形態では、抗TNFα抗体は、PCT/EP2017/056218の請求項4、PCT/EP2017/056246の請求項5および6、PCT/EP2017/056237の請求項5および6、PCT/EP2017/056227の請求項4、およびこれらの組み合わせによる重鎖可変ドメインアミノ酸配列および/または軽鎖可変ドメインアミノ酸配列を含む抗TNFα抗体からなる群より選択される。国際特許出願PCT/EP2017/056218、PCT/EP2017/056246、PCT/EP2017/056237およびPCT/EP2017/056227のそれぞれの開示は、その全体が本明細書に組み込まれる。それらは、本出願の一部を形成する。
【0022】
特定の実施形態では、本発明の抗体は、(i)配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するCDR1領域、配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するCDR2領域、および配列番号5で示されるアミノ酸配列を有するCDR3領域を含むVLドメイン、および(ii)配列番号6で示されるアミノ酸配列を有するCDR1領域、配列番号7で示されるアミノ酸配列を有するCDR2領域、および配列番号8で示されるアミノ酸配列を有するCDR3領域を含むVHドメインを含む。
【0023】
より好ましい実施形態では、本発明の抗体は、配列番号9で示されるアミノ酸配列を有するVHドメインを含む。別のより好ましい実施形態では、抗体は、配列番号10で示されるアミノ酸配列を有するVLドメインを含む。最も好ましくは、本発明の抗体は、(i)配列番号9で示されるアミノ酸配列を有するVHドメイン、および(ii)配列番号10で示されるアミノ酸配列を有するVLドメインを含む。
【0024】
別の特定の実施形態では、本発明の抗体は、(i)配列番号14で示されるアミノ酸配列を有するCDR1領域、配列番号15で示されるアミノ酸配列を有するCDR2領域、および配列番号16で示されるアミノ酸配列を有するCDR3領域を含むVLドメイン、および(ii)配列番号17で示されるアミノ酸配列を有するCDR1領域、配列番号18で示されるアミノ酸配列を有するCDR2領域、および配列番号19で示されるアミノ酸配列を有するCDR3領域を含むVHドメインを含む。
【0025】
より好ましい実施形態では、本発明の抗体は、配列番号20で示されるアミノ酸配列を有するVHドメインを含む。別のより好ましい実施形態では、抗体は、配列番号21または配列番号22で示されるアミノ酸配列を有するVLドメインを含む。最も好ましくは、本発明の抗体は、(i)配列番号20で示されるアミノ酸配列を有するVHドメイン、および(ii)配列番号21または配列番号22で示されるアミノ酸配列を有するVLドメインを含む。
【0026】
本発明の抗体は、ヒトTNFαに対して高い親和性を有する。用語の「KD」は、特定の抗体-抗原相互作用の解離平衡定数を意味する。通常、本発明の抗体は、BIACORE装置で表面プラズモン共鳴(SPR)技術を使用して測定して、約2x10-10M未満、好ましくは1.5x10-10M未満、好ましくは1.25x10-10M未満、より好ましくは1x10-10M未満、最も好ましくは7.5x10-11M未満、あるいは5x10-11M未満の解離平衡定数(KD)でヒトTNFαに結合する。特に、KDの測定は、実施例1に記載のように実施される。
【0027】
FcRnに対する親和性に影響を与える改変
本発明の抗体は、本明細書で定義の少なくとも1個の「アミノ酸改変」のために、野性型抗体の天然配列とは異なるアミノ酸配列を含む。少なくとも1個のアミノ酸改変は、ヒトFcRnに対する抗体の親和性に影響を与える。通常、少なくとも1個のアミノ酸改変は、pH6で、ヒトFcRnに対する抗体の親和性を高める。一実施形態では、少なくとも1個のアミノ酸改変は、pH6でのヒトFcRnに対する抗体の親和性を高め、pH7.4でのヒトFcRnに対する親和性を実質的に変えない。好ましくは、改変抗体は、野性型抗体または親抗体のアミノ酸配列に比べて、少なくとも1個のアミノ酸置換、例えば、約1~約10個のアミノ酸置換、および好ましくは、約1~約5個のアミノ酸置換を有する。好ましくは、少なくとも1個のアミノ酸改変は、抗体のFcRn結合部位内にある。抗体は、抗体のFcRn結合部位の外側に、1個または複数のアミノ酸改変を有し得、これは、例えば、構造変化によりFcRn結合に影響を及ぼす。アミノ酸改変は、それ自体既知の方法により、例えば、“Antibody Engineering-Methods and Protocols”,edited by Patrick Chames,2nd ed.,2012,Chapter 31(ISBN 978-1-61779-973-0)に記載の部位特異的変異誘発により生成できる。
【0028】
本発明の抗体は、位置380および位置434(EUナンバリング)にアミノ酸アラニンを含む。これは、本明細書では、「380A」および「434A」と呼ばれる。非改変ヒトIgG抗体の位置380の天然のアミノ酸は、グルタミン酸(E)である。非改変ヒトIgG抗体の位置434の天然のアミノ酸は、アスパラギン(N)である。従って、本発明の抗体は、変異E380AおよびN434Aを抗体中に導入することにより得ることができる。好ましくは、本発明の抗体は、位置380でグルタミン酸のアラニンによる置換、および位置434のアスパラギンのアラニンによる置換により、得ることができる、または得られる。
【0029】
Fcドメインの残りのアミノ酸配列は、典型的なヒトIgGの天然のアミノ酸配列と同じであり得る。しかし、抗体が次に示す改変の後でも、TNFα結合活性、pH6.0でのFcRn結合活性および1つまたは複数のエフェクター機能を有する限りにおいて、抗体のアミノ酸配列が、天然の抗体のFc領域の天然のアミノ酸配列に対して、1個または複数の変異または置換を含むことは可能である。
【0030】
好ましい実施形態では、ヒンジ領域を含む本発明の抗体のFc領域は、配列番号13で示されるアミノ酸配列を含むまたはそれからなる。
【0031】
一実施形態では、本発明の抗体の重鎖は、配列番号11で示されるアミノ酸配列を有する。好ましくは、この抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有する軽鎖をさらに含む。
【0032】
別の実施形態では、本発明の抗体の重鎖は、配列番号12で示されるアミノ酸配列を有する。好ましくは、この抗体は、配列番号23または配列番号24で示されるアミノ酸配列を有する軽鎖をさらに含む。
【0033】
本発明の好ましい態様では、本発明の抗体は、非フコシル化抗体またはフコシル化が低減した抗体である。
【0034】
本明細書で使用される場合、用語の「フコシル化の低減した抗体」は、抗体のN-グリカンの90%未満がフコシル化されている抗体を意味する。フコシル化のパーセンテージを測定する方法は、当技術分野において既知である。好ましくは、フコシル化のパーセンテージは、本出願の実施例10に記載のように測定される。
【0035】
一実施形態では、抗体のN-グリカンの75%未満、または50%未満、または25%未満がフコシル化されている。最も好ましくは、抗体のN-グリカンの10%未満がフコシル化されている。特定の実施形態では、本発明の抗体のN-グリカンは、フコースを何ら含まない。
【0036】
好ましくは、抗体のN297(EUナンバリング)のN-グリカンの90%未満がフコシル化されている。別の実施形態では、抗体のN297(EUナンバリング)位置のN-グリカンの75%未満、または50%未満、または25%未満がフコシル化されている。最も好ましくは、抗体のN297(EUナンバリング)のN-グリカンの10%未満がフコシル化されている。
【0037】
別の実施形態では、抗体のN297位置のN-グリカンは、フコースを何ら含まない。
【0038】
非フコシル化(afucosylated)抗体と呼ばれることもある、非フコシル化抗体は、各種方法により作製できる。例えば、CHO細胞中のα1,6-フコシルトランスフェラーゼ(FUT8)およびGDP-マンノース4,6-デヒドラターゼ(GMD)に対する遺伝子の相乗的ノックダウンを用いて、完全に非フコシル化され、ADCC強化されたモノクローナル抗体バリアントを産生できる(例えば、Imai-Nishiya ら(2007)BMC Biotechnol.7,84を参照されたい)。α1,6-フコシルトランスフェラーゼの触媒的コアをコードする領域中のFUT8遺伝子を切断し、それにより、CHO細胞中の対応する酵素機能を破壊するジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)を用いる方法を使用して、コアフコースを完全に欠くモノクローナル抗体を産生できる(例えば、Malphettesら(2010)Biotechnol.Bioeng.106,774-783を参照されたい)。
【0039】
フコシル化の低減した抗体は、2-デオキシ-2-フルオロ-2-フコースなどのデコイ基質を培地へ添加し、IgG-Fcグリカン中へのフコースの取り込みを減らすことにより作製できる(例えば、Dekkerら(2016)Sci Rep 6:36964を参照されたい)。
【0040】
別の実施形態では、本発明の抗体は、高いシアル酸含量を有する。シアル化の増加は、例えば、シチジン一リン酸-シアル酸シンターゼ(CMP-SAS)、シチジン一リン酸-シアル酸トランスポーター(CMP-SAT)、および2,3-シアル酸転移酵素の同時遺伝子導入により達成できる(例えば、Son et al.(2011)Glycobiology 21,1019-1028を参照されたい)。
【0041】
FcRnに対する親和性
pH6でのヒトFcRnに対する本発明の抗体の親和性は高い。pH6での抗体のヒトFcRnに対する高親和性結合は、500nM未満のKD値を特徴とする。好ましくは、pH6での高親和性結合のKD値は、400nM未満、または300nM未満、または200nM未満である。例えば、pH6での親和性を特徴付けるKD値は、5~500nM、または10~400nM、または25~300nM、または50~200nM、または100~150nMの範囲であり得る。
【0042】
好ましい実施形態では、pH6でのヒトFcRnに対する本発明の抗体の親和性は、pH6.0でのヒトFcRnに対するインフリキシマブの親和性よりも大きい。
【0043】
本発明の抗体のヒトFcRnに対する親和性は、好ましくは、例えば、本出願の実施例4に記載のような表面プラズモン(plasma)共鳴法(SPR)により測定される。
【0044】
本発明の抗体は通常、pH7.4でヒトFcRnに対する低い親和性を有する。低い親和性は、1μMより大きいKD値により特徴付けられる。好ましくは、pH7.4でのヒトFcRnに対する低い親和性は、2μMより大きい、または5μMより大きい、または10μMより大きいKD値により特徴付けられる。
【0045】
特定の実施形態では、pH7.4での低い親和性は、KD値がSPRにより測定できないほど低い。
【0046】
特定の実施形態では、(i)pH7.4でのヒトFcRnに対する本発明の抗体の結合のKDの、(ii)pH6.0でのヒトFcRnに対する結合のKDに対する比率は、少なくとも50である。好ましくは、この比率は、少なくとも100、または少なくとも150、または少なくとも200である。
【0047】
抗体の機能特性
本発明の抗体は、頂端側から側底側へ分極細胞単層を横切って効率的に輸送される。通常、分極細胞単層を横切る輸送は、インフリキシマブの場合よりも大きい量であり、インフリキシマブの抗体の量は、分極細胞単層の質量/cm2を意味する。分極細胞単層を横切って輸送されるインフリキシマブの量に対して、分極細胞単層を横切って輸送される抗体の量は、少なくとも110%、好ましくは少なくとも120%、より好ましくは少なくとも130%、または少なくとも140%、または少なくとも150%である(輸送されたインフリキシマブの量を100%とする)。
【0048】
さらに、抗体は、過剰な競合免疫グロブリンの存在下で、頂端側から側底側へ分極細胞単層を横切って、特異的に輸送される。これは、本明細書では、特異的輸送と呼ばれる。
【0049】
分極細胞単層を横切って輸送される免疫グロブリンの総質量のパーセンテージは、10倍過剰の競合免疫グロブリンの存在下で、頂端側から側底側へ分極細胞単層を横切って輸送されるインフリキシマブのパーセンテージよりも大きい。10倍過剰量の無関係の免疫グロブリンの存在下での分極細胞単層を横切って輸送される本発明の抗体のパーセンテージは、10倍過剰量の無関係の免疫グロブリンの存在下での分極細胞単層を横切って輸送されるインフリキシマブのパーセンテージに対して、少なくとも120%、または少なくとも130%、または少なくとも140%、または少なくとも150%である(インフリキシマブの量を100%とする)。
【0050】
好ましくは、分極細胞単層は、分極T84細胞の単層である。トランスサイトーシスの輸送アッセイ模倣プロセスは、本出願の実施例5に記載のように実施できる。
【0051】
本発明の抗体は、CD64、CD32a(H)、CD32a(R)、CD32b、CD16a(V)、CD16a(F)およびCD16b(NA2)に結合する。
【0052】
本発明の抗体は通常、CD64に100nM未満、好ましくは10nM未満のKDで結合する。
【0053】
本発明の抗体は通常、CD32a(H)に10μM未満のKDで結合する。
【0054】
本発明の抗体は通常、CD32a(R)に10μM未満のKDで結合する。
【0055】
本発明の抗体は通常、CD32bに10μM未満のKDで結合する。
【0056】
本発明の抗体は通常、CD16a(V)に、例えば、1μM未満、好ましくは500nM未満、より好ましくは100nM未満のKDで結合する。
【0057】
本発明の抗体は通常、CD16a(F)に、例えば、10μM未満、好ましくは1μM未満のKDで結合する。
【0058】
本発明の抗体は通常、CD16b(NA2)に、例えば、10μM未満、好ましくは1μM未満のKDで結合する。
【0059】
本発明の抗体は、ヒトC1qにさらに結合する。好ましくは、本発明の抗体のヒトC1qに対するこの結合の強度は、ヒトC1qに対するインフリキシマブの結合と少なくとも同等の強度である。
【0060】
本発明の抗体は、ウサギ補体の補体依存性細胞傷害(CDC)をさらに有する。
【0061】
本発明の抗体は、さらに、CD14+CD206+マクロファージを誘導できる。誘導のレベルは、好ましくは、インフリキシマブのレベルと同等、それと同じ、またはそれより大きい。
【0062】
本発明の抗体は、さらに、T細胞増殖を抑制できる。T細胞増殖抑制の程度は、好ましくは、インフリキシマブのレベルと同等、それと同じ、またはそれより大きい。
【0063】
医薬組成物および治療
疾患の治療は、いずれかの臨床段階または症状のなんらかの形態の疾患を有すると既に診断された患者の治療;疾患の症状もしくは兆候の発症、または進展、または憎悪、または悪化の遅延;および/または疾患の重症度の予防および/または軽減、を包含する。
【0064】
抗TNFα抗体が投与される「対象」または「患者」は、非霊長類(例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ネコ、イヌ、ラット等)などの哺乳動物、または霊長類(例えば、サルまたはヒト)であり得る。特定の態様では、ヒトは小児患者である。他の態様では、ヒトは成人患者である。
【0065】
抗TNFα抗体、および必要に応じ、1種または複数の追加の治療薬、例えば、以下に記載の第2の治療薬を含む組成物が本明細書で記載される。組成物は通常、薬学的に許容可能な担体を含む無菌の医薬組成物の一部として供給される。この組成物は、(患者に投与する所望の方法に応じて)任意の好適な形態であり得る。
【0066】
抗TNFα抗体は、経口、経皮、皮下、鼻腔内、静脈内、筋肉内、くも膜下腔内、局所に(topically)または局所に(locally)、例えば、経粘膜などの様々な経路によって、患者に投与できる。任意の所定の場合の投与のための最も好適な経路は、特定の抗体、対象、および疾患の性質および重症度、ならびに対象の身体的状態に依存するであろう。通常、抗TNFα抗体は静脈内に投与であろう。
【0067】
特に好ましい実施形態では、本発明の抗体は経口投与される。投与が経口経路によるものである場合、抗体は、好ましくはIgG、最も好ましくはIgG1である。
【0068】
典型的な実施形態では、抗TNFα抗体は、0.5mg/kg体重~20mg/kg体重の静脈内投与を可能にするのに十分な濃度で医薬組成物中に存在する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の組成物および方法での使用に好適な抗体の濃度としては、限定されないが、0.5mg/kg、0.75mg/kg、1mg/kg、2mg/kg、2.5mg/kg、3mg/kg、4mg/kg、5mg/kg、6mg/kg、7mg/kg、8mg/kg、9mg/kg、10mg/kg、11mg/kg、12mg/kg、13mg/kg、14mg/kg、15mg/kg、16mg/kg、17mg/kg、18mg/kg、19mg/kg、20mg/kg、または、例えば1mg/kg~10mg/kg、5mg/kg~15mg/kg、もしくは10mg/kg~18mg/kgなどのいずれかの前述の値の間の範囲の濃度が挙げられる。
【0069】
抗TNFα抗体の有効用量は、単回(例えば、ボーラス)投与、複数回投与または連続投与当たり約0.001~約750mg/kgの範囲であるか、または単回(例えば、ボーラス)投与、複数回投与または連続投与当たり0.01~5000μg/mLの血清濃度を達成するための範囲であるか、または治療される状態、投与経路、ならびに対象の年齢、体重、および状態に応じて、任意の有効な範囲またはその中の値であり得る。経口投与の場合には、血清中濃度は、非常に低いか、あるいは検出限界未満であり得る。特定の実施形態では、各用量は、約0.5mg/kg体重~約50mg/kg体重または約3mg/kg体重~約30mg/kg体重の範囲であり得る。抗体は、水溶液として処方し得る。
【0070】
特に好ましい実施形態では、本発明の抗体は経口投与される。投与が経口経路によるものである場合、抗体は、好ましくはIgG、最も好ましくはIgG1である。抗体が経口投与される場合、抗体の一日量は通常、約0.01mg/kg体重~約100mg/kg体重、または約0.05mg/kg体重~約50mg/kg体重、または約0.1mg/kg体重~約25mg/kg体重、または約0.15mg/kg体重~約10mg/kg体重、または約0.16mg/kg体重~約5mg/kg体重、または約0.2mg/kg体重~約2mg/kg体重、または約0.2mg/kg体重~約1mg/kg体重の範囲である。通常、好都合な投与量は、1~200mg/日、好ましくは5~100mg/日または10~50mg/日の投与量である。
【0071】
医薬組成物は、用量当たり所定量の抗TNFα抗体を含有する単位投与形態で簡便に提供できる。このような単位は、0.5mg~5g、例えば、限定されないが、1mg、10mg、20mg、30mg、40mg、50mg、100mg、200mg、300mg、400mg、500mg、750mg、1000mg、または前述の値の任意の2つの間の任意の範囲、例えば、10mg~1000mg、20mg~50mg、または30mg~300mgを含み得る。薬学的に許容可能な担体は、例えば、治療される状態または投与経路に応じて、多種多様な形態をとることができる。
【0072】
抗TNFα抗体の有効投与量、総投与回数および治療期間の長さの決定は、十分に当業者の能力の範囲内であり、また標準用量漸増試験を用いて決定できる。
【0073】
本明細書に記載の方法に好適な抗TNFα抗体の治療用配合物は、所望の純度を有する抗体を、当該技術分野で通常使用される任意の薬学的に許容可能な担体、賦形剤または安定化剤(本明細書では、それらのすべてを「担体」と称する)、すなわち、緩衝剤、安定化剤、防腐剤、等張剤、非イオン性界面活性剤、抗酸化剤、および他の種々添加物などと混合することによって、凍結乾燥配合物または水溶液として保存するために調製できる。Remington’s Pharmaceutical Sciences,16th edition(Osol,ed.1980)を参照されたい。このような添加剤は、使用される投与量および濃度でレシピエントに対して無毒でなければならない。
【0074】
緩衝剤は、生理学的条件に近い範囲のpHを維持するのに役立つ。これらは、約2mM~約50mMの範囲の濃度で存在できる。好適な緩衝剤は、有機、無機両方の酸およびその塩、例えば、クエン酸緩衝剤(例えば、クエン酸一ナトリウム-クエン酸二ナトリウム混合物、クエン酸-クエン酸三ナトリウム混合物、クエン酸-クエン酸一ナトリウム混合物など)、クエン酸-リン酸緩衝液、コハク酸緩衝剤(例えば、コハク酸-コハク酸一ナトリウム混合物、コハク酸-水酸化ナトリウム混合物、コハク酸-コハク酸二ナトリウム混合物など)、酒石酸緩衝剤(例えば、酒石酸-酒石酸ナトリウム混合物、酒石酸-酒石酸カリウム混合物、酒石酸-水酸化ナトリウム混合物など)、フマル酸緩衝剤(例えば、フマル酸-フマル酸一ナトリウム混合物、フマル酸-フマル酸二ナトリウム混合物、フマル酸一ナトリウム-フマル酸二ナトリウム混合物など)、グルコン酸緩衝剤(例えば、グルコン酸-グルコン酸ナトリウム混合物、グルコン酸-水酸化ナトリウム混合物、グルコン酸-グルコン酸カリウム混合物など)、シュウ酸緩衝剤(例えば、シュウ酸-シュウ酸ナトリウム混合物、シュウ酸-水酸化ナトリウム混合物、シュウ酸-シュウ酸カリウム混合物など)、乳酸緩衝剤(例えば、乳酸-乳酸ナトリウム混合物、乳酸-水酸化ナトリウム混合物、乳酸-乳酸カリウム混合物など)および酢酸緩衝剤(例えば、酢酸-酢酸ナトリウム混合物、酢酸-水酸化ナトリウム混合物など)などを含む。さらに、リン酸緩衝液、ヒスチジン緩衝液、およびトリスなどのトリメチルアミン塩を使用できる。
【0075】
本発明の医薬組成物は、少なくとも1種の塩、例えば、塩化ナトリウムをさらに含み得る。塩濃度は、好ましくは、100mM~200mMの範囲、例えば、約150mMである。
【0076】
防腐剤は、微生物増殖を遅らせるために添加することができ、0.2%~1%(w/v)の範囲の量で添加できる。好適な防腐剤としては、フェノール、ベンジルアルコール、メタクレゾール、メチルパラベン、プロピルパラベン、塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム、ベンザルコニウムハロゲン化物(例えば、塩化物、臭化物およびヨウ化物)、塩化ヘキサメトニウム、およびメチルまたはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール、3-ペンタノールなどが挙げられる。場合により「安定剤」として知られる等張剤は、液体組成物の等張性を確実にするために添加することができ、多価糖アルコール、好ましくはグリセリン、エリスリトール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール、およびマンニトールなどの3価以上の糖アルコールが挙げられる。安定化剤は、増量剤から、治療薬を可溶化する添加剤、または変性もしくは容器壁への付着を防ぐのに役立つ添加剤まで、さまざまな機能となり得る賦形剤の幅広いカテゴリーを指す。典型的な安定剤は、多価糖アルコール(上記に列挙);アルギニン、リジン、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アラニン、オルニチン、L-ロイシン、2-フェニルアラニン、グルタミン酸、スレオニンなどのアミノ酸;ラクトース、トレハロース、スタキオース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、リビトール、ミオイニシトール、ガラクチトール、グリセロールなどの有機糖または糖アルコール(イノシトールなどのシクリトール):ポリエチレングリコール;アミノ酸ポリマー;尿素、グルタチオン、チオクト酸、チオグリコール酸ナトリウム、チオグリセロール、α-モノチオグリセロールおよびチオ硫酸ナトリウムなどの硫黄含有還元剤;低分子量ポリペプチド(例えば、10残基以下のペプチド)、ヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;キシロース、マンノース、フルクトース、グルコースなどの単糖類;ラクトース、マルトース、スクロースなどの二糖類;ラフィノースなどの三糖類;およびデキストランなどの多糖類などであり得る。安定化剤は、活性タンパク質1重量部当たり0.1~10,000重量の範囲で存在し得る。
【0077】
非イオン性界面活性剤(surfactant)または合成洗剤(detergent)(「湿潤剤」としても知られている)を添加して、治療薬の可溶化を助けるとともに、撹拌誘発凝集から治療用タンパク質を保護することができ、また、タンパク質の変性を引き起こすことなく、応力が加えられた剪断面に配合物を曝露可能とする。適切な非イオン性界面活性剤には、ポリソルベート(20、80、など)、ポロクサマー(polyoxamer)(184、188など)、プルロン酸ポリオール、ポリオキシエチレンソルビタンモノエーテル(ツイーン(登録商標)-20、ツイーン(登録商標)-80、など)が挙げられる。非イオン性界面活性剤は、約0.05mg/ml~約1.0mg/mlの範囲、または約0.07mg/ml~約0.2mg/mlの範囲で存在できる。
【0078】
追加の種々の賦形剤としては、増量剤(例えばデンプン)、キレート剤(例えばEDTA)、抗酸化剤(例えばアスコルビン酸、メチオニン、ビタミンE)、プロテアーゼ阻害剤、および共溶媒が挙げられる。
【0079】
本明細書の配合物はまた、抗TNFα抗体に加えて、第2の治療薬を含み得る。好適な第2の治療薬の例を以下に示す。
【0080】
投与スケジュールは、疾患のタイプ、疾患の重症度、および抗TNFα抗体に対する患者の感受性などの多くの臨床因子に応じて、月1回から毎日まで変化し得る。特定の実施形態では、抗TNFα抗体は、毎日1回、週に2回、週に3回、隔日、5日ごと、週1回、10日ごと、2週間ごと、3週間ごと、4週間ごともしくは月1回、または、上記の値の任意の2つの間の任意の範囲内、例えば、4日ごとから月1回、10日ごとから2週間ごと、もしくは週に2~3回など、で投与される。
【0081】
投与される抗TNFα抗体の投薬量は、特定の抗体、対象、ならびに疾患の性質および重症度、対象の健康状態、治療法(例えば、第2の治療薬が使用されるか否か)、および選択された投与経路によって、異なり、適切な投薬量は、当業者によって、容易に決定され得る。
【0082】
当業者であれば、抗TNFα抗体の個々の投薬量の最適な量および間隔は、治療される状態の性質および程度、投与形態、投与経路、および投与部位、ならびに治療される特定の対象の年齢および状態により決定され、医師が、使用する適切な投薬量を最終的に決定することは分かるであろう。この投薬は、必要な回数繰り返すことができる。副作用が発現する場合、投与の量および/または頻度は、通常の臨床診療に従って、変更または減少させることができる。
【0083】
治療対象障害
本発明は、本明細書で定義される抗体を対象に投与することを含む、対象におけるヒトTNFα関連疾患を治療または予防する方法に関する。用語「TNFα関連障害」または「TNFα関連疾患」は、TNFαの関与を必要とする症状または疾患状態の障害、発症、進行または持続のいずれかを意味する。例示的なTNFα関連障害には、限定されないが、炎症の慢性および/または自己免疫状態全般、免疫媒介性の炎症性疾患全般、炎症性CNS疾患、眼、関節、肌、粘膜、中枢神経系、消化管、尿路、または肺に影響を及ぼす炎症性疾患、ブドウ膜炎の状態全般、網膜炎、HLA-B27+ブドウ膜炎、ベーチェット病、ドライアイ症候群、緑内障、シェーグレン症候群、真性糖尿病(糖尿病性神経障害を含む)、インスリン抵抗性、関節炎の状態全般、リウマチ性関節炎、変形性関節症、反応性関節炎およびライター症候群、若年性関節炎、強直性脊椎炎、多発性硬化症、ギランバレー症候群、重症筋無力症、筋萎縮性側索硬化症、サルコイドーシス、糸球体腎炎、慢性腎臓病、膀胱炎、乾癬(乾癬性関節炎を含む)、化膿性汗腺炎、皮下脂肪組織炎、壊疽性膿皮症、SAPHO症候群(滑膜炎、座瘡、膿疱症、骨化過剰症および骨炎)、座瘡、スイート症候群、天疱瘡、クローン病(腸外症状を含む)、潰瘍性大腸炎、気管支喘息、過敏性肺炎、総合アレルギー、アレルギー性鼻炎、アレルギー性副鼻腔炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺線維症、ウェゲナー肉芽腫症、川崎症候群、巨細胞性動脈炎、チャーグ-ストラウス血管炎、結節性多発動脈炎、火傷、移植片対宿主病、宿主対移植片反応、臓器移植または骨髄移植後の拒絶エピソード、血管炎の全身および局所状態全般、全身性及び皮膚性エリテマトーデス、多発性筋炎および皮膚筋炎、強皮症、子癇前症、急性および慢性膵炎、ウイルス性肝炎、アルコール性肝炎、眼の手術後(例えば、白内障(眼球レンズ置換)または緑内障手術)などの手術後の炎症、関節手術(関節鏡視下手術を含む)、関節関連構造(例えば、靭帯)での手術、口腔および/または歯科手術、低侵襲性心血管手順(例えば、PTCA、アテレクトミー、ステント配置)、腹腔鏡下および/または内視鏡内腹腔内および婦人科的処置、内視鏡泌尿器科処置(例えば、前立腺手術、尿管鏡検査、膀胱鏡検査、間質性膀胱炎)、または、手術前後の炎症(予防)全般、水疱性皮膚炎、好中球性皮膚炎、毒性表皮壊死症、膿疱性皮膚炎、脳マラリア、溶血性尿毒症症候群、同種移植片拒絶反応、中耳炎、ヘビ咬傷、結節性紅斑、骨髄異形成症候群、原発性硬化性胆管炎、血清陰性脊椎関節症、自己免疫性溶血性貧血、口腔顔面肉芽腫症、増殖性化膿性口内炎、アフタ性口内炎、地図状舌、移動性口内炎、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、ベル麻痺、クロイツフェルト・ヤコブ病、ならびに神経変性状態全般が挙げられる。
【0084】
癌関連骨溶解、癌関連炎症、癌関連疼痛、癌関連悪液質、骨転移、TNFαの中枢作用または末梢作用に起因するかどうか、およびそれらが炎症に分類されるかどうかにかかわらず急性および慢性型の痛み、侵害受容性または神経障害性型の痛み、坐骨神経痛、腰痛、手根管症候群、複合性局所疼痛症候群(CRPS)、痛風、ヘルペス後神経痛、線維筋痛、局所疼痛状態、転移性腫瘍に起因する慢性疼痛症候群、月経困難症。
【0085】
治療される特定の障害としては、関節炎の状態全般、リウマチ性関節炎、変形性関節炎、反応性関節炎、若年性関節炎、乾癬性関節炎などの乾癬、クローン病などの炎症性腸疾患、直腸炎などの潰瘍性大腸炎、S状結腸炎、直腸S状結腸炎、左側大腸炎、広範な大腸炎および全結腸炎、未確定大腸炎、コラーゲンおよびリンパ球性大腸炎などの顕微鏡的大腸炎、結合組織疾患における大腸炎、転流性大腸炎、憩室疾患の大腸炎、好酸球性大腸炎、および回腸嚢炎が挙げられる。
【0086】
最も好ましくは、本発明の抗体は、炎症性腸疾患、特にクローン病、潰瘍性大腸炎、または顕微鏡的大腸炎を治療するために使用される。クローン病は、非狭窄性/非浸透性、狭窄性、浸透性および肛門周囲疾患の挙動などを含む、回腸、結腸、回腸結腸、または孤立性上部クローン病(胃、十二指腸、および/または空腸)であり得、上記のいずれかの局在化および疾患の挙動の任意の組合せが可能である。潰瘍性大腸炎は、潰瘍性直腸炎、直腸S状結腸炎、左側大腸炎、全大腸型潰瘍性大腸炎、および回腸嚢炎であり得る。
【0087】
併用療法および他の態様
好ましくは、抗TNFα抗体で治療されている患者は、別の従来の薬剤でも治療される。例えば、炎症性腸疾患患者、特に中等度から重度の疾患を有する場合には通常、メサラジンもしくはその誘導体、またはプロドラッグ、ブデソニド、またはプレドニゾロンなどのコルチコステロイド(経口または静脈内)、免疫抑制剤、例えば、アザチオプリン/6-メルカプトプリン(6-MP)もしくはメトトレキセート、シクロスポリンもしくはタクロリムスでも治療される。患者に同時投与できる他の薬物には、他の抗TNFα抗体(例えば、インフリキシマブ、アダリムマブ、エタネルセプト、セルトリズマブペゴル、ゴリムマブ)、インテグリン拮抗薬(例えば、ナタリズマブ、ベドリズマブ)、抗IL-23抗体(例えば、MEDI2070)、抗β7抗体(例えば、エトロリズマブ)、JAK/STAT経路のJAK阻害剤(例えば、トファシチニブ)などが挙げられる。患者に同時投与できるさらなる薬剤としては、安定で、より長期の寛解を維持するために、免疫抑制剤(例えば、アザチオプリン/6-MPまたはメトトレキセートまたは経口シクロスポリン)が挙げられる。本発明のさらに別の態様は、炎症を減少させるための本明細書の上記で定義されている抗TNFα抗体の使用である。
【0088】
本発明のさらに別の態様は、炎症状態に罹患している患者の炎症の減少に使用するための、本明細書の上記で定義されている抗TNFα抗体である。
【0089】
本発明のさらなる態様は、炎症状態を治療する方法であって、それを必要とする患者に、本明細書の上記で定義されている抗TNFα抗体の有効量を投与することを含む方法である。炎症状態は、好ましくは上記の状態のうちの1つである。
【0090】
本発明のさらなる態様は、炎症状態を防止する方法であって、それを必要とする患者に、本明細書の上記で定義されている抗TNFα抗体の有効量を投与することを含む方法である。炎症状態は、好ましくは上記の状態のうちの1つである。
【0091】
本発明のさらに別の態様は、TNFαに対する抗体のトランスサイトーシスを改善する方法であって、改善されたトランスサイトーシスを有する改変抗体を得るために、抗体のアミノ酸配列中に置換E380AおよびN434Aを導入することを含む、方法である。改変抗体は、好ましくは、本明細書で前述の抗体である。
【0092】
本発明のさらに別の態様は、TNFαに対する抗体の血漿中半減期を延長する方法であって、延長された血漿中半減期を有する改変抗体を得るために、抗体のアミノ酸配列中に置換E380AおよびN434Aを導入することを含む、方法である。改変抗体は、好ましくは、本明細書で前述の抗体である。血漿中半減期は、非改変抗体(すなわち、置換E380AおよびN434A変異を欠く親抗体)の血漿中半減期に対して、少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%延長され得る。
【表1】
【0093】
実施例
抗体バリアント
抗TNFα抗体のいくつかのバリアントを、抗体アミノ酸配列のFc領域中に置換を導入することにより生成した。確立された方法の部位特異的変異誘発により変異を導入した。要するに、変異をPCRにより導入した。順方向プライマーを目的の変異を含むように設計し、同時に、逆方向プライマーを、2つのプライマーの5’末端が背中合わせに(しかし、重なり合わないで)アニーリングされるように設計した(
図8)。PCRを25サイクル実施した(98℃で10秒、64℃で30秒、72℃で3分)。PCR産物をアガロースゲルに供する前に、非変異導入したPCRテンプレートをPCR産物のプールから制限酵素DpnIを用いて取り除いた。PCR産物のゲル精製後、平滑末端を連結して環状化プラスミドを得て、これをコンピテント大腸菌細胞中に形質転換した。一晩インキュベーション後、いくつかのコロニーを採取し、プラスミドDNAを単離し、配列決定して、変異が組み込まれたことを確認した。
【0094】
0.15mMのデコイ基質2-デオキシ-2-フルオロ-2-フコースの添加により、非フコシル化バリアントを生成した(Dekkersら(2016)Sci Rep 6:36964)。以下の実施例10に示すように、これにより、IgG-Fcグリカン中のフコースの組み込みを有意に低減させた。
【表2】
【0095】
実施例1.TNFαに対する親和性
方法:
TNFαに対する親和性をBiacoreにより測定した。標準的なアミン固定化Biacore手順を用いてCM5チップを作製した。CM5チップの挿入時に、システムをプライミングし、その後、BIA正規化溶液(Biacore Preventative Maintenance Kit 2)で正規化した。チップをPBS-Tランニング緩衝液と共にシステムに加え;固定化の前に、チップ表面を50mMのNaOHの3回の注入によりプライミングした。プロテインAをチップ表面上に固定した。このために、タンパク質をpH4.5で10mMの酢酸緩衝液中で5μg/mLに希釈し、注入して、全て4つのフローセル中で約1000RUの結合応答を生成した。全てのチップフローセルから非共有結合物質を除去するために、50mMのNaOHによる3回の15秒間の洗浄を実施した。プロテインAチップ上の、フローセル2および4中で抗体が捕捉され、フローセル1および3は、基準値の減算のために使用した。試行抗体をPBS-T中で10nMに希釈し、2.5~7.5uLを注入して、120RUの捕捉抗体を得た。供給業者の指示に従い、分析物TNFαを水中で500μg/mLで作製し、ランニング緩衝液リン酸緩衝食塩水ツイーン-20(PBS-T)中でさらに希釈した。単一サイクル動力学を用いて、定常状態親和性を推定した。各単一サイクルの解析サイクルに対し、5種の分析物濃度の滴定液をリガンド上に注入した後、複合体の解離を測定した。グリシンpH1.7を用いて表面を再生した。二重基準法を採用し、リガンド結合捕捉表面(fc2および4)のデータをリガンドが捕捉されていない基準表面(それぞれ、fc1および3)から差し引いた。緩衝液のブランク注入を3~4サイクル毎に実施した後、分析物注入サイクルから差し引いて、リガンド捕捉表面中の小さい変化を補正した。各分析実行の開始と終了時の分析物の反復注入を用いて、試料分解、または装置性能の変化を調べた。全ての分析を25℃で実施し、実験の実施中、試料ラックを10℃でインキュベートした。各実験を少なくとも3回実施した。1対1結合モデルを用いて、得られた動的データに当てはめた。
【0096】
結果:
全ての抗体は、TNFαに対し類似の結合動力学を示し、いずれの導入された改変も、抗原結合領域中の大きな変化をもたらさなかった。
【表3】
【0097】
実施例2.効力
方法:
L929細胞を、段階希釈の抗TNFα抗体バリアントの存在下、0.25ng/mLのTNFαおよび1μg/ウェルのアクチノマイシンDと共にインキュベートした。37℃/5%CO2下で20時間のインキュベーション後、増殖性応答をMTS(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-5-(3-カルボキシメトキシフェニル)-2-(4-スルホフェニル)-2H-テトラゾリウムおよび電子カップリング試薬(フェナジンエトスルフェート、PES)を用いて測定した。MTSは、代謝的に活性細胞中に存在する脱水素酵素によりホルマザン生成物に変換された。492nmの吸光度で測定したホルマザン生成物の量は、培養物中の生存細胞の数に正比例した。
【0098】
結果:
結果を、
図1に示す。抗TNFα抗体のFc領域中への変異の導入は、効力に影響を与えなかった。
【0099】
実施例3.Fcγ受容体(CD64、CD32a、CD32b、CD16a、CD16b)に対する親和性
方法:
FcγRに対する親和性をBiacoreにより測定した。標準的なアミン固定化Biacore手順を用いてCM5チップを作製した。CM5チップの挿入時に、システムをプライミングし、その後、BIA正規化溶液(Biacore Preventative Maintenance Kit 2)で正規化した。チップをPBS-Tランニング緩衝液と共にシステムに加え;固定化の前に、チップ表面を50mMのNaOHの3回の注入によりプライミングした。Hisタグ捕捉システムを用いて、FcγRをチップ表面上に固定した。Biacoreキット説明書に従って抗Hisタグチップを作製し、4つ全てのフローセル上に約12000RUの抗体が堆積した。全てのチップフローセルから非共有結合物質を除去するために、10mMのグリシン:pH1.5による3回の30秒間の洗浄を実施した。Fcγ受容体をPBS-T中で、0.5~2μg/mLの範囲に希釈し、2.5~5.0μLをチップ上に注入し、60~200RUのレベルの捕捉を生成した。分析の前に、抗体をPBS-T中に希釈した。単一サイクル動力学を用いて、定常状態親和性を推定した。各単一サイクルの解析サイクルに対し、5種の抗体濃度の滴定液をFcγRリガンド上に注入した後、複合体の解離を測定した。推奨溶液の、10mMのグリシンpH1.5を用いて、抗His捕捉表面用として表面を再生した。二重基準法を採用し、リガンド結合捕捉表面(fc2および4)のデータをリガンドが捕捉されていない基準表面(それぞれ、fc1および3)から差し引いた。緩衝液のブランク注入を抗体用量設定サイクル毎に実施した後、分析物注入サイクルから差し引いて、リガンド捕捉表面中の小さい変化を補正した。全ての分析を25℃で実施し、実験の実施中、試料ラックを10℃でインキュベートした。各実験を少なくとも3回実施した。
【0100】
結果:
CD64に対する結合は、遺伝子改変抗TNFα抗体の影響を受けなかった。変異の導入は、CD32a(H)、CD32a(R)およびCD32bに対する親和性に影響を与えなかった。しかし、抗体Ab-AA-2FFは、CD16a(V)に対する親和性の4.7倍の増加を示した。特に、非フコシル化抗体Ab-AA-2FFは、低親和性CD16a受容体およびCD16bに対する結合も改善した。
【表4】
【表5】
【0101】
実施例4.FcRnに対する親和性
方法:
製造業者により記載されているように、アミンカップリング化学を使って抗TNFα IgG1抗体(約500共鳴単位(RU))と結合したCM5センサーチップを用いて、Biacore3000装置でSPRを実施した。アミンカップリングキット(GE Healthcare)を用いて、10mMの酢酸ナトリウム、pH4.5中の2.0ug/mLのそれぞれのタンパク質を注入することにより、カップリングを実施した。HBS-P緩衝液pH7.4(10mMのHEPES、150mMのNaCl、0.005%の界面活性剤P20)またはリン酸緩衝液pH6.0(67nMのリン酸緩衝液、150mMのNaCl、0.005%のツイーン20)をランニング緩衝液および希釈緩衝液として用いた。単量体Hisタグ付きヒトFcRn(hFCRn)の滴定量(1000~31.2nM)を、pH7.4またはpH6.0で固定化抗体上に注入することにより結合動力学を決定した。全てのSPR実験を25℃、流速40ul/分で実施した。結合データをゼロ調節し、基準セル値を減算した。BIAevaluationソフトウェア(バージョン4.1)により提供されたラングミュア1:1リガンド結合モデルを用いて、結合動力学を決定した。
【0102】
結果:
結果は、野性型抗体Ab-wtは、厳密にpH依存的にhFcRnに結合することを示した。遺伝子改変抗体バリアントは、pH6.0でFcRnに対するより高い親和性を有するが、それらのpH依存性を保持し、pH7.4では、受容体に結合しなかった。全ての抗体バリアントは、野生型IgG1 Fc領域を含有するインフリキシマブに比べて、FcRnに対し改善された結合を示した。
【表6】
【0103】
実施例5.トランスサイトーシス
方法:
0.4μmサイズのコラーゲンコートポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜を備えたトランスウェルフィルター(1.12cm2)を完全増殖培地中で一晩インキュベートし、続けて、ウェル当たり1.0x106個のT84細胞を播種した。Millicell-ERS-2ボルト-オームメーターを用いて、経上皮電気抵抗値(TEER)を毎日監視した。培養物を4~5日間増殖させた後、約1000~1300Ωxcm2のTEER値を有するコンフルエンスに達した。実験の前に、単層をハンクス平衡塩類溶液(HBSS)中で1時間にわたり欠乏させた。その後、400nMの抗体バリアントまたはIFX単独を、または無関係の特異性を有する4000nMのヒト骨髄腫IgGと一緒に、頂端トランスウェルチャンバーに加えた。添加の0および4時間後に、基底外側リザーバーから試料を収集した。基底外側リザーバー中の抗体濃度をELISAで測定した。手短に説明すると、96ウェルMaxisorpプレートを組換えTNFαまたはヤギ由来の抗ヒトFc特異的抗体(両方ともPBS中で1μg/mlに希釈)で一晩コートした。その後、プレートを4%脱脂乳含有PBSを用いて室温で2時間ブロッキングし、続けて、0.05%ツイーン20含有PBSで4回洗浄した。トランスサイトーシス実験中に収集した試料をウェルに加え、室温で2時間インキュベートした後、上記のように洗浄した。アルカリフォスファターゼ(ALP)標識ヤギ由来抗ヒトFc特異的抗体を用いて、捕捉抗体バリアント、IFXまたは総IgGを検出した。100μlのALP-基質の添加により結合を可視化し、405nm吸収スペクトルを記録した。輸送された抗体バリアント、IFXおよび総IgGの量を、それぞれ個別の抗体バリアントの検量線から計算した。
【0104】
分極ヒト上皮細胞を横切る抗体バリアントのトランスサイトーシス
結果:
遺伝子改変抗TNFα抗体バリアントの、細胞単層を横切るトランスサイトーシスの試験を行い、別のヒトIgG1抗TNFα抗体としてIFXと比較した。この結果は
図2に示されている。IFXに比べて、wt Fc領域を有するIgG1抗体、Ab-AAは、約1.8倍高い効率で輸送された。Ab-AAの輸送に類似の有意な増加が、非フコシル化バージョンのAb-AA-2FFに対しても同様に観察された。
【0105】
競合IgGの存在下での分極ヒト上皮細胞を横切る抗体バリアントのトランスサイトーシス
結果:
抗TNFα抗体バリアントを添加4時間後に10倍過剰量のヒト骨髄腫IgGと共にインキュベートした場合、頂端側から基底外側リザーバーへ分極T84細胞単層を横切って輸送された免疫グロブリンの合計量は、全ての抗体で同等であった。しかし、pH6.0でのFcRnへの増加した親和性は、無関係の特異性を有する過剰の競合ヒトIgGの存在下でも、有意により高いパーセンテージの特異的抗TNFαの細胞単層を横切る輸送をもたらした。この結果は
図3に示されている。
【0106】
実施例6.ADCC
方法:
PromegaのADCCレポーターバイオアッセイコアキットを使用した。手短に説明すると、mTNFα CHO-K1標的細胞を1x105/mLで白色(透明底)組織培養皿に、ウェル当たり100μLを播種した。プレートを37℃/5%CO2下、一晩インキュベートした。2日目に、95μLのアッセイ媒体を取り出し、25μLの3x106/mLの遺伝子改変ジャーカットエフェクター細胞と置換した。その後、プレートを37℃/5%CO2下で、6時間インキュベートした。インキュベーションの終わりに近づくと、BioGlo(商標)試薬を作製した。プレートを室温で、10~20分間平衡化した後、ウェル当たり75μLのBioGlo(商標)試薬を加えた。インキュベーションの5~10分後、暗所で発光を測定した。4-PLモデルを用いて、データに当てはめた。
【0107】
結果:
結果(
図4参照)は、全ての抗TNFα抗体がADCCを誘導したが、強度は異なっていた。野生型抗体Ab-wtに比較して、Ab-AAは、類似のADCC活性を示したが、非フコシル化抗体バリアントAb-AA-2FFは、有意に改善されたADCCを有した。
【0108】
実施例7.C1q結合
方法:
ウェルをPBS中で1μg/mLに希釈したヒトTNFαでコートした96ウェルMaxisorpプレートを用いてELISAを実施した。4℃で一晩インキュベーションした後、プレートを4%脱脂乳含有PBSを用いて1時間ブロッキングし、0.05%ツイーン20含有PBS(PBS-T)で4回洗浄した。その後、滴定量の抗TNFα IgG抗体をPBS-T中で希釈し、添加して、室温で1時間インキュベートした。PBS-Tを用いて洗浄後、ヒトC1q(0.5μg/mL)を0.1Mのベロナール緩衝液(0.25mMのCaCl2および0.8mMのMgCl2、pH7.2)中で希釈し、ウェルに添加し、1時間インキュベートした。続けて、ウェルを上述のように洗浄後、PBS-T中で1:5000に希釈したウサギ抗ヒトC1qをウェルに加え、1時間インキュベートした。洗浄後、PBS-T中で1:5000に希釈したロバ由来のHRP標識抗ウサギIgGを添加した。続けて、ウェルを洗浄し、100μLの3,3’、5,5’-テトラメチルベンジジン基質を各ウェルに加えた。Sunrise分光光度計を用いて、620nmで吸光度を測定した。
【0109】
結果:
抗TNFα抗体バリアントは、ヒトC1qが加えられる前に、ヒトTNFαに捕捉された。結果(
図5参照)は、抗体はC1qに結合したが、結合強度はそれぞれ異なっていた。最強から最低までの結合の序列は次の通りであった:
Ab-AA=IFX>Ab-AA-2FF。
【0110】
実施例8.制御性マクロファージの誘導
方法:
健康なバフィーコートから末梢血単核球(PBMC)を単離した。フィコール密度勾配遠心分離により細胞を単離した。2人の個別のドナーの細胞を等しい数で混合し、混合物の2x105細胞を96ウェルプレートに100μL/ウェルの合計体積で播種した。細胞を37℃/5%CO2下で、48時間インキュベートした。48時間後、抗TNFα抗体バリアントまたはIFXを、最終濃度10μg/mLに達するまで加えた。各化合物を5または6回反復して加えた。最終体積は、150μL/ウェルであった。ヒト血清IgG1(Sigma #I5154)を対照として用いた。化合物の添加後、混合リンパ球反応(MLR)を37℃/5%CO2下で、さらに4日間培養した。後で、プレートをPBS/5mM EDTA(PBS/EDTA)を用いて洗浄し、50μL/ウェルのPBS/EDTAと共に、室温で20分間インキュベートした。プレートを遠心分離し、液体を飛散させた。抗体をPBS/EDTA(抗CD14-PE、抗CD206-APC、両方1:10に希釈)で希釈した。細胞を50μLの抗体溶液に再懸濁し、室温で20分間インキュベートした。後で、細胞をPBS/EDTAで洗浄し、50μLのPBS/EDTAに再懸濁した。染色した試料をFACSDivaソフトウェアを用いて、FACS Fortessaで分析した。FlowJoソフトウェアを用いて分析を実施した。
【0111】
結果:
制御性マクロファージの誘導を4種の独立したMLRで分析し、全ての実験で成功した(IgG対照に対しIFXを比較)。結果を、
図6に示す。IFXによる誘導のレベルは、各実験が個体間変動を有する異なるドナーを使って実施されたという事実のために、実験間で異なり得る。全ての試験抗TNFα抗体バリアントは、CD14
+CD206
+制御性マクロファージを誘導し、化合物間で僅かな変動があった。Ab-AA-2FFは、IFXより有意に多くの制御性マクロファージを誘導した。
【0112】
実施例9.T細胞増殖の阻害
方法:
健康なバフィーコートからPBMCを単離した。フィコール密度勾配遠心分離により細胞を単離した。2人の個別のドナーの細胞を等しい数で混合し、混合物の2x105細胞を96ウェルプレートに100μL/ウェルの合計体積で播種した。細胞を37℃/5%CO2下で、48時間インキュベートした。48時間後、抗TNFα抗体バリアントまたはIFXを、最終濃度10μg/mLに達するまで加えた。各化合物を5または6回反復して加えた。最終体積は、150μL/ウェルであった。ヒト血清IgG1(Sigma #I5154)を対照として用いた。化合物の添加後、混合リンパ球反応(MLR)を37℃/5%CO2下で、さらに2日間培養した。後で、トリチウム標識チミジン(3H チミジン、0.5マイクロキュリー/ウェル)を培養物に加えた。培養物を37℃/5%CO2下で、18時間さらにインキュベートした。Microbeta Filtermat96セルハーベスターを用いて試料を回収し、単一検出器を備えたMicrobeta MicroplateCounterを用いて分析した。試料を10秒間/ウェルで計数し、分当たりのカウント数(cpm)に変換した。
【0113】
結果:
T細胞増殖の阻害を3種の独立したMLRで測定し、陽性対照としてのIFXが抑制を誘導した場合に成功と定義した。個別の実験でのIFXによる抑制のレベルは、おそらく制御性マクロファージ誘導の変動性により、異なる可能性がある。各実験では、抗TNFα抗体バリアントのT細胞増殖を抑制する可能性を陽性対照IFXに対して計算した。抗体Ab-AA-2FFは、IFXに比べて抑制を有意に高めることを示し、一方、Ab-AAは、IFXより有意に少ないT細胞増殖の抑制を示した(
図7参照)。
【0114】
実施例10.N-グリカンの分析
方法:
50μlの各IgGバリアント(1mg/ml)を13,000xgで10分間遠心沈降させた後、100μlの50mMの重炭酸アンモニウム(pH7.8)中に溶解した1μgのトリプシンを加えて、37℃で一晩インキュベートした。遠心装置で13,000xgで10分間遠心沈降させ、通過画分をエッペンドルフチューブに移し、SpeedVac(Heto Maxi dry)中で乾燥させた。乾燥試料を20μlの1%ギ酸中に溶解し、30秒間超音波処理して、16,100xgで10分間遠心分離した。その後、各試料を新しいバイアルに移し、タンパク分解性ペプチドの逆相(C18)ナノオンライン液体クロマトグラフィー-タンデム型質量分析(LC-MS/MS)を、Dionex Ultimate 3000 UHPLC systems(Thermo Fisher Scientific,USA)を用いて実施した。5μlのペプチド溶液を抽出カラムに注入し、バックフラッシュモードで、抽出カラムから分析カラムにペプチドを溶出した。移動相は、アセトニトリルおよび質量分析グレード水(両方共0.1%のギ酸を含有)から構成された。クロマトグラフ分離は、0.3μl/分の流速で、60分間の水中3~50%のアセトニトリルからのバイナリ勾配法を用いて行った。LCシステムをナノエレクトロスプレーイオン源を介してQ exactiveハイブリッド四重極オービトラップ質量分析計(Thermo Fisher Scientific,USA)に連結した。ペプチド試料を、20の正規化衝突エネルギーを用いて高エネルギー衝突解離(HCD)フラグメント化法で分析し、m/z 300~2000の質量範囲で1つのオービトラップサーベイスキャンを取得し、続けて、オービトラップ中の10個の最強イオンのMS/MSを取得した。
【0115】
データ解析をXcalibur v2.0で実施した。全てのN-グリコペプチドのMS/MSスペクトルをオキソニウムイオンサーチにより抽出した;204.086(N-アセチルヘキソサミン)および366.1388(N-アセチルヘキソサミン-ヘキソース)。20の正規化衝突エネルギー有するHCDフラグメント化を用いることにより、IgGのグリカン構造およびペプチド質量が検出された。標的グリコールペプチド(IgG1のEEQYNSTYR)の抽出イオンクロマトグラムは、10ppmの精度で抽出され、対応するMS/MSスペクトルは、マニュアルで検証された。35の正規化衝突エネルギーを有するHCDフラグメント化を用いて、ペプチド配列を検出し、ペプチド質量が正確なペプチド配列に対応していたことを検証した。全ての抽出したグリコールペプチドの曲線下面積を計算し、各グリコフォームのパーセンテージ比率を決定した。
【0116】
結果:
Ab-AAの場合、2種のN-グリカン型、すなわち、4GlcNac-1Fuc-3Manおよび4GlcNac-1Fuc-3Man-1Galが優位を占め、総N-グリカンプールの90%超に相当する。優位を占める両方のN-グリカン型は、コアフコースを含有していた。Ab-AA(Ab-AA-2FF)の「非フコシル化」バージョンを生成するために、デコイ基質2-デオキシ-2-フルオロ-1-フコース(2FF)を用いた。この抗体のMSマッピングにより、この戦略が、フコースの組み込みを成功裏に大きく低減させ、90%超から10%未満までのフコース含量の低下が検出されたことが明らかとなった。処理後の優位を占めるN-グリカン型は、これらの構造がフコースを欠くこと以外は、2FFの非存在下で生成されたバリアントと同じであった(
図9も参照)。
【表7】
【配列表】