(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】レーダー横断面の決定のための方法及び装置、相互作用モデルのトレーニング方法、レーダー目標エミュレータ、及び、試験台
(51)【国際特許分類】
G01S 7/41 20060101AFI20230901BHJP
G01M 17/007 20060101ALI20230901BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20230901BHJP
【FI】
G01S7/41
G01M17/007 Z
G06N20/00
(21)【出願番号】P 2020555809
(86)(22)【出願日】2019-04-12
(86)【国際出願番号】 AT2019060125
(87)【国際公開番号】W WO2019195872
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2022-03-28
(32)【優先日】2018-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】513131176
【氏名又は名称】アーファオエル・リスト・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】フランツ・ミヒャエル・マイヤー
(72)【発明者】
【氏名】ヴァムシ・プラカシュ・マッカパティ
【審査官】梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-032420(JP,A)
【文献】特開2008-241321(JP,A)
【文献】特開2005-181153(JP,A)
【文献】特開2012-230102(JP,A)
【文献】特表2018-507385(JP,A)
【文献】特表2001-524676(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0274506(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/42
G01S 13/00 - 13/95
G01N 21/00 - 21/01
G01N 21/17 - 21/61
G06T 1/00 - 1/40
G06T 3/00 - 5/50
G01M 17/007
G06N 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シミュレーションされたレーダー目標(Z)のレーダー横断面(σ)を決定するた
めの方法(1a)であって、
-シミュレーションされた前記レーダー目標(Z)を含む、シミュレーションされた環境シナリオにおける相互作用モデル(W)に基づいて、仮想レーダー信号(V)の伝搬をシミュレーションする作業ステップであって、前記仮想レーダー信号(V)とシミュレーションされた前記レーダー目標(Z)との相互作用は、前記仮想レーダー信号(V)を特徴付ける物理量が、前記仮想レーダー信号(V)の指向性散乱に対応する指向性成分(Ga)と、前記仮想レーダー信号(V)の等方散乱に対応する拡散成分(Gb)とに区分されるようにモデル化され、サブステップ(S1a)では、前記指向性成分(Ga)の伝搬がシミュレーションされ、後続のサブステップ(S1b)では、前記指向性成分(Ga)とさらなるシミュレーションされたレーダー目標との相互作用が算出される作業ステップ(S1);
-シミュレーションされた前記環境シナリオ内での受信機点(E)における物理量の値(G)を、前記指向性成分(Ga)及び前記拡散成分(Gb)を考慮して決定する作業ステップ(S2);及び、
-シミュレーションされた前記レーダー目標(Z)の前記レーダー横断面(σ)を、前記受信機点(E)における物理量の決定された値(G)から導出する作業ステップ(S3)、
を有している方法(1a)。
【請求項2】
前記サブステップ(S1a、S1b)が、前記指向性成分(Ga)がもはやレーダー目標に当たらなくなるまで繰り返される、請求項1に記載の方法(1a)。
【請求項3】
前記仮想レーダー信号(V)の、前記環境シナリオにおける送信機点(S)から、シミュレーションされた前記レーダー目標(Z)までの伝搬が、レーダー信号の伝搬の分析的記述に基づい
てシミュレーションされる、請求項1又は2に記載の方法(1a)。
【請求項4】
-前記仮想レーダー信号(V)が、複数の部分信号を含み、前記仮想レーダー信号(V)とシミュレーションされた前記レーダー目標(Z)との相互作用が、前記部分信号のそれぞれに関してモデル化され、
-前記レーダー横断面(σ)が、前記受信機点(E)における物理量の、複数の決定された値(G)に基づいて導出される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法(1a)。
【請求項5】
前記物理量が、シミュレーションされた前記レーダー目標(Z)の物理的特性を特徴付ける少なくとも1つのモデルパラメータ(k
d、k
s、n
s)に依存して、前記指向性成分(Ga)と前記拡散成分(Gb)とに区分される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法(1a)。
【請求項6】
Phongの式を用いた、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法(1a)。
【請求項7】
相互作用モデル(W)のトレーニング方法(1b)であって、前記相互作用モデル(W)を用いて、仮想レーダー信号(V)とシミュレーションされたレーダー目標(Z)との相互作用は、前記仮想レーダー信号(V)を特徴付ける物理量が、前記仮想レーダー信号(V)の指向性散乱に対応する指向性成分(Ga)と、前記仮想レーダー信号(V)の等方散乱に対応する拡散成分(Gb)とに区分されるように、モデル化可能であり、
-前記仮想レーダー信号(V)と参照ターゲットとの相互作用を、前記参照ターゲットでのレーダー信号(V)の反射の分析的記述に基づいてシミュレーションする作業ステップであって、前記参照ターゲットで反射する前記仮想レーダー信号(V)を特徴付ける物理量の少なくとも1つの値(G)が決定される作業ステップ、又は、レーダー実信号と前記参照ターゲットの現実の複製との相互作用をモデル化する作業ステップであって、前記参照ターゲットの現実の模倣で反射する前記レーダー実信号を特徴付ける物理量の少なくとも1つの値(G)が測定される作業ステップ(S4);及び、
-前記相互作用モデル(W)の少なくとも1つのモデルパラメータ(k
d、k
s、n
s)を、前記物理量の少なくとも1つの決定された値(G)に基づいて決定する作業ステップ(S5)、
を有している方法(1b)。
【請求項8】
少なくとも1つの前記モデルパラメータ(k
d、k
s、n
s)が、曲線あてはめ、特に回帰分析に基づいて決定される、請求項7に記載の方法(1b)。
【請求項9】
前記参照ターゲットが球体である、請求項7又は8に記載の方法(1b)。
【請求項10】
-前記仮想レーダー信号(V)又は前記レーダー実信号(V)の伝搬が、複数の異なる参照対象物に関してシミュレーションされるか、又は、モデル化され、
-それぞれ少なくとも1つのモデルパラメータ(k
d、k
s、n
s)が、その際決定された物理量の値(G)に基づいて決定され、
-決定された前記モデルパラメータ(k
d、k
s、n
s)は、複数の異なる前記参照対象物の対象物特性に依存して保存される、請求項7から9のいずれか一項に記載の方法(1b)。
【請求項11】
シミュレーションされたレーダー目標(Z)のレーダー横断面(σ)を決定するための装置(4)であって、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法(1a、1b)を実行するように設定された装置(4)。
【請求項12】
車両(2)、特に自動車によって出力されるレーダー実信号(R)の操作のためのレーダー目標エミュレータ(10)であって、
-環境シナリオをシミュレーションし、前記環境シナリオを特徴付けるシミュレーションデータ(D)を出力するように設定されたシミュレーション装置(3)と、
-前記シミュレーションデータ(D)に基づいて、少なくとも1つの刺激点(P)を出力するように設定された、請求項11に記載の、シミュレーションされたレーダー目標(Z)のレーダー横断面(σ)を決定するための装置(4)と、
-前記レーダー実信号(R)を受容、特に受信し、前記レーダー実信号(R)を少なくとも1つの前記刺激点(P)に基づいて操作し、そのように操作されたレーダー信号(R‘)を出力、特に送信するように設定された刺激装置(5)と、
を有しているレーダー目標エミュレータ(10)。
【請求項13】
請求項12に記載のレーダー目標エミュレータ(10)を備えた
試験台(100)であって、車両(2)、特に自動車のための試験台(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シミュレーションされたレーダー目標のレーダー横断面を決定するため、特にレーダー目標エミュレータ内のレーダー実信号を刺激するための方法及び装置と、相互作用モデルのトレーニング方法と、車両、特に自動車から出力されるレーダー実信号を操作するためのレーダー目標エミュレータと、当該レーダー目標エミュレータを備えた車両、特に自動車のための試験台と、に関する。
【背景技術】
【0002】
最新の車両における様々な環境センサの中でも、レーダーセンサは、その様々な気象条件に対するロバスト性ゆえに、中心的な役割を担っている。従って、様々な運転者支援システムが、しばしば、レーダーセンサによって供給されたセンサデータにアクセスしている。
【0003】
運転者支援システムを試験するために、いわゆるVIL試験台が知られており、当該試験台では、車両の環境センサ、特にレーダーセンサが、環境シミュレーションによって作成された試験シナリオに従って刺激される。その後、生成された運転者支援システムの制御信号は、動的試験を可能にするために、リアルタイムで環境シミュレーションに戻される。
【0004】
レーダーセンサの刺激は、一般的に、レーダーセンサによって発信されるレーダー信号の操作、特に変調を有しており、当該操作は、試験シナリオによって特徴付けられている。このように変調された、試験シナリオを表現するレーダー信号は、次に、レーダーセンサに返送される。
【0005】
レーダー信号を試験シナリオに従って操作するためには、いわゆる刺激点が必要であり、当該刺激点は、実施されるべき操作に関する情報を含んでいる。刺激点は、特に、試験シナリオに含まれる対象物と、試験されるべき運転者支援システムを備えた試験車両との間の距離と、当該対象物の試験車両に対する方位角と、試験車両の対象物の相対運動ゆえに生じるドップラー偏移と、当該対象物のレーダー横断面と、を含み得る。
【0006】
レーダー横断面を、環境シミュレーションによって供給されるシミュレーションデータから算出するために、様々なアプローチが知られている。特に、(試験車両に対する)位置及び大きさのような対象物の特性に依存する統計モデルが作成され、ノイズが付加され得る。代替的に、対象物は、仮想の散乱中心によって表され得る。同じく、対象物の材料特性も考慮するレイトレーシングアプローチが知られている。しかしながら、これらのアプローチは、リアルタイムでは不可能であり、従って、VIL試験台での動的試験には適していない。
【0007】
例えば、特許文献1は、電磁気学に関するシミュレーション手法について記載しており、当該シミュレーション手法は、単一周波数の状況において導体で散乱した電磁波の算出を可能にする。従って、特に、その幾何学的スケールが知られている、対象物のレーダー散乱断面積が算出され得る。このために、相互作用マトリックスMの前処理行列と、共役勾配法を表現する反復アルゴリズムとを用いて、電磁閉曲線積分方程式が解かれる。そこから、波の放射によって形成される、対象物上の表層流が生じ、当該表層流を基に、散乱波が決定される。
【0008】
特許文献2は、双方向の反射率分布機能に関する、自動で因数分解される近似の形成に関するものである。その際、投影の初期量に関する内部サイクルにおいて、テクスチャ因子が、探索領域において探索され、当該テクスチャ因子は、投影との組み合わせにおいて、双方向の反射率分布機能に最も近づく。その際に生じる近似誤差は、外部サイクルにおいて、誤差が最小になる投影量が探索されることによって最小化される。双方向の反射率分布機能の完全な近似から、様々な視角に関する反射率値が算出される。
【0009】
特許文献3は、レーダーシステム全体のコンピュータ支援によるシミュレーション方法を開示しており、信号として、送信機の目下のパワースペクトルが用いられ、当該信号は、伝搬経路及び目標の特性に対応して変えられる。当該方法は、加工された信号の統計学的モーメントを供給する。送信機シミュレータ内では、送信機信号の振幅応答及び位相応答が予め設定され、パワースペクトルが形成される。目標シミュレータ内では、幾何学的因子、目標特性、伝搬損失及びアンテナ利得が、一般化されたレーダー方程式において、受信機信号に変換される。当該シミュレーション方法は、分析的に一括して、蓄積エネルギーの形成と表現され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】米国特許出願公開第2002/0198670号明細書
【文献】米国特許出願公開第2003/0234786号明細書
【文献】欧州特許出願公開第0157153号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、レーダー目標のエミュレーションを改善することにある。特に、レーダー目標をリアルタイムにエミュレーションすることが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本課題は、独立請求項に記載された、シミュレーションされたレーダー目標のレーダー横断面を決定するための方法及び装置と、相互作用モデルのトレーニング方法と、車両から出力されるレーダー実信号の刺激のためのレーダー目標エミュレータと、当該レーダー目標エミュレータを備えた車両に関する試験台と、によって解決される。本発明の好ましい実施形態は、従属請求項の対象である。
【0013】
本発明の第1の態様は、シミュレーションされたレーダー目標のレーダー横断面を決定するための方法に関するものであり、当該レーダー横断面は特に、レーダー目標エミュレータ内でのレーダー実信号の刺激に使用可能であり、当該方法は、好ましくは以下の作業ステップを有している:
【0014】
(i)シミュレーションされたレーダー目標を含む、シミュレーションされた環境シナリオにおける相互作用モデルに基づいて、仮想レーダー信号の伝搬をシミュレーションするステップであって、仮想レーダー信号とシミュレーションされたレーダー目標との相互作用は、仮想レーダー信号を特徴付ける物理量が、仮想レーダー信号の指向性散乱に対応する指向性成分と、仮想レーダー信号の等方散乱に対応する拡散成分とに区分されるようにモデル化される作業ステップ;
【0015】
(ii)シミュレーションされた環境シナリオでの受信機点における物理量の値を、指向性成分及び拡散成分を考慮して決定する作業ステップ;及び、
【0016】
(iii)シミュレーションされたレーダー目標のレーダー横断面を、受信機点における物理量の決定された値から導出する作業ステップ。
【0017】
本発明に係るレーダー信号は、特に電磁波であり、好ましくは、振幅、位相、周波数及び/又は伝搬方向によって特徴付けられる。その際、レーダー信号は、好ましくは立体角領域内で、いわゆる視野(FoV)内で、伝搬方向に沿って伝搬する。
【0018】
本発明に係るシミュレーションされた環境シナリオは、特に、少なくとも1つのシミュレーションされたレーダー目標、例えば車両、歩行者、建物又はその他の周囲の物体が、試験されるべき車両に対して、特定の関係、特に間隔、方向付け及び/又は動きにある状況である。当該環境シナリオは、特に交通状況であり得る。
【0019】
本発明に係る仮想レーダー信号を特徴付ける物理量は、特に、レーダー信号を記述する量である。当該物理量は、例えばレーダー信号の振幅及び/又は位相に関する情報を含み得る。好ましくは、当該物理量は、レーダー信号の出力密度又は電界強度である。従って、物理量の値は、例えば受信機点において決定されるように、例えば散乱角に依存する出力であり得る。
【0020】
本発明に係る指向性散乱は、特に立体角領域内での出力又は電界強度の散乱である。このように散乱したレーダー信号又はこのように散乱したレーダー信号の成分は、シミュレーションされたレーダー目標から、好ましくはいわゆる反射円錐内部、例えば特定の立体角領域内部で伝搬する。
【0021】
本発明の第2の態様は、シミュレーションされたレーダー目標の、特にレーダー目標エミュレータ内でのレーダー実信号の刺激に使用可能であるレーダー横断面を、Phongの式を用いて、好ましくは本発明の第1の態様に係る方法に従って決定するための方法に関する。
【0022】
本発明の第1の態様及び第2の態様は、特に、好ましくはレーダービームとしてシミュレーションされるレーダー信号と対象物との相互作用を、環境シナリオから、好ましくは、相互作用に従うレーダー信号の一方の部分が、対象物での鏡面散乱、例えば反射に応じて伝搬し、レーダー信号の他方の部分が、対象物での散漫散乱、特に等方散乱に応じて伝搬するようにモデル化するというアプローチに基づいている。シミュレーションされた環境シナリオ内部の、好ましくはレーダー信号の始点にも相当する受信機点におけるレーダー信号の全ての部分の分析によって、対象物のレーダー横断面が決定され得る。
【0023】
相互作用モデルが、好ましい方法で、環境シナリオ内で伝搬するレーダービームと、シミュレーションされたレーダー目標との相互作用の基礎を成している。その際、相互作用モデルは、好ましくは、特に正規化可能である指向性の項が付加され得るPhongの式によって表現される。それによって、シミュレーションされた環境シナリオ内でのそれぞれのレーダービームに関して、出力密度又は場合によっては電界強度が、指向性成分と拡散成分とに区分され得る。指向性成分に基づいて、複数のシミュレーションされたレーダー目標におけるレーダー信号の多重散乱も、わずかな計算の負担で、シミュレーションされ得る。従って、シミュレーションされたレーダー目標のレーダー横断面の導出は、受信機点における出力密度全体を用いて、少なくとも略リアルタイムに可能である。その際、出力密度全体は、背景部分、すなわちレーダー信号の拡散成分と、指向性部分、すなわち受信機点に(戻って)反射した、又は、受信機点の方向に散乱したレーダー信号の指向性成分と、から構成されている。
【0024】
シミュレーションされたレーダー目標のレーダー横断面を決定するための本発明に係る方法は、柔軟に、例えばいわゆる仮想検証において用いられ得る。例えば、特に数学的なレーダーセンサモデルの刺激のために用いられ得る。
【0025】
総じて本発明は、シミュレーションされたレーダー目標のレーダー横断面の、多重反射を考慮した、リアルタイムでの決定を可能にする。
【0026】
好ましい実施形態において、環境シナリオにおける送信機点から、シミュレーションされたレーダー目標までの仮想レーダー信号の伝搬は、レーダー信号の伝搬の分析的記述に基づいてシミュレーションされる。特に、仮想レーダー信号の伝搬が、分析的記述に基づく数値計算によって決定され得る。伝搬は、例えばレイトレーシングを用いてシミュレーションされ得る。それによって、シミュレーションされたレーダー目標に当たるまでの仮想レーダー信号の伝搬の、特に正確かつ現実的な決定が可能になる。このレーダー信号の伝搬は、好ましくは少なくとも略直線状にモデル化されるので、リアルタイムでシミュレーションすることも可能である。
【0027】
好ましくは、シミュレーションされたレーダー目標との相互作用に従う、特に指向性成分によって特徴付けられているレーダー信号の少なくとも一部の伝搬も、レーダー信号の伝搬の分析的な記述に基づいて、特にレイトレーシングによってシミュレーションされる。特に、シミュレーションされたレーダー目標との相互作用に従う、仮想レーダー信号の、シミュレーションされたレーダー目標から受信機点への伝搬は、レーダー信号の伝搬の分析的記述に基づいてシミュレーションされ得る。物理量の指向性成分によって特徴付けられているレーダー信号の一部は、例えば略直線状に伝搬する複数の部分信号を含み得る。その際、当該部分信号の伝搬方向は、好ましくは反射円錐内に存在する。
【0028】
本発明において、部分信号とは、特に各レーダービームである。
【0029】
その後、部分信号の少なくとも一部が、シミュレーションされたレーダー目標に再び当たる場合、部分信号の一部と、シミュレーションされたレーダー目標との相互作用は、再び、相互作用モデルに基づいて記述される。従って、送信機点から伝搬するレーダー信号の多重反射も、正確かつ現実的にシミュレーション可能であり、それによって、特に現実的なレーダー横断面の導出が可能になる。
【0030】
従って、好ましくは、シミュレーションされた環境シナリオにおける仮想レーダー信号は、2つのプロセスに基づいて記述される:一方では、送信機点と少なくとも1つのシミュレーションされたレーダー目標との間、又は、複数のシミュレーションされたレーダー目標の間におけるレーダー信号の少なくとも一部の少なくとも略直線状の伝搬が、レーダー信号の伝搬の分析的記述に基づいて、特にレイトレーシングに基づいてシミュレーションされ得る。他方では、レーダー信号又はレーダー信号の少なくとも一部と、シミュレーションされたレーダー目標との相互作用が、相互作用モデルに基づいてシミュレーションされ得る。全体では、これによって、1つ又は複数のレーダー横断面の、特に高速かつ正確な決定が可能になる。
【0031】
別の好ましい実施形態では、仮想レーダー信号は、複数の部分信号を含んでおり、仮想レーダー信号とシミュレーションされたレーダー目標との相互作用は、部分信号のそれぞれに関してモデル化される。その際、好ましくは、レーダー横断面は、受信機点における物理量の複数の決定された値に基づいて導出される。それによって、シミュレーションされた環境シナリオにおけるレーダー信号の特に現実的な伝搬が、シミュレーションされ得る。
【0032】
好ましくは、受信機点において、部分信号の全ての拡散成分に関する物理量の値と、受信機点の方向に散乱する部分信号を特徴付ける指向性成分の物理量の値とが、合計される。この合計に基づいて、レーダー横断面が決定され得る。
【0033】
部分信号の伝搬は、好ましくは略直線状であると見なされる。その際、好ましくは、部分信号は、異なる伝搬方向を有している。それによって、レーダー信号には、レーダー信号が伝搬する立体角領域が割り当てられ得る。レーダー横断面の算出の際、対応して、レーダー信号と、割り当てられた立体角領域の外側に位置するシミュレーションされたレーダー目標との相互作用は、考慮されないままでいてよく、それによって、レーダー横断面の決定が加速する。
【0034】
別の好ましい実施形態では、物理量が、シミュレーションされたレーダー目標の物理的特性を特徴付ける少なくとも1つのモデルパラメータに依存して、指向性成分と拡散成分とに区分される。それによって、シミュレーションされたレーダー目標の物理的特性が、レーダー横断面の算出の際に考慮され得る。例えば、レーダー目標の表面特性、レーダー目標の材料及び/又はそのようなものが考慮され得る。
【0035】
好ましくは、少なくとも1つのモデルパラメータは、Phongの式のパラメータである。特に、少なくとも1つのモデルパラメータは、レーダー信号の散漫散乱した分を示す前因子であり得る。代替的又は付加的に、少なくとも1つのモデルパラメータは、レーダー信号の指向性散乱した分を示す前因子であり得る。代替的又は付加的に、少なくとも1つのモデルパラメータは、レーダー信号の指向性散乱した分がその内部で伝搬する反射円錐の幅を示す指数でもあり得る。その際、モデルパラメータの内の少なくとも2つは、互いに対して依存関係を有している。
【0036】
本発明の第3の態様は、相互作用モデルのトレーニング方法に関するものであり、当該相互作用モデルを用いて、仮想レーダー信号とシミュレーションされたレーダー目標との相互作用が、仮想レーダー信号を特徴付ける物理量が、仮想レーダー信号の指向性散乱に対応する指向性成分と、仮想レーダー信号の等方散乱に対応する拡散成分とに区分されるように、モデル化可能である。
【0037】
当該方法は、以下の作業ステップを有している:(i)仮想レーダー信号と参照ターゲットとの相互作用を、参照ターゲットにおけるレーダー信号の反射の分析的記述に基づいてシミュレーションする作業ステップであって、参照ターゲットで反射する仮想レーダー信号を特徴付ける物理量の少なくとも1つの値が決定される作業ステップ、又は、レーダー実信号と参照ターゲットの現実の複製との相互作用をモデル化する作業ステップであって、参照ターゲットの現実の模倣で反射するレーダー実信号を特徴付ける物理量の少なくとも1つの値が測定される作業ステップ;及び、(ii)相互作用モデルの少なくとも1つのモデルパラメータを、物理量の少なくとも1つの決定された値に基づいて決定する作業ステップ。
【0038】
本発明において、相互作用モデルのトレーニングとは、特に、好ましくは現象学的な相互作用モデル、特にPhongの式の、仮想レーダー信号とシミュレーションされたレーダー目標との相互作用の分析的記述への適応、又は、レーダー実信号の反射に関する実験結果への適応である。相互作用の分析的記述は、例えば、いわゆるRCS理論によって与えられてよく、当該理論は、レーダー信号の伝搬に関する叙述と、特にレーダー信号と対象物との相互作用に関する叙述とを可能にする。分析的記述は、特に、レーダー信号の伝搬、特にレーダー信号の対象物での反射に関する分析的モデルに基づき得る。レーダー実信号と現実の対象物、例えば参照ターゲットとの相互作用のモデル化を可能にする実験は、例えば仮想レーダー信号のシミュレーションされたレーダー目標、特に参照ターゲットでの反射を模倣する実験装置で実施され得る。好ましくは、相互作用モデルの少なくとも1つのモデルパラメータは、物理量の少なくとも1つの決定された値と、物理量の分析又は実験によって決定された値、特に分析的記述に基づいて数的に決定された物理量の値との比較によって決定される。
【0039】
本発明において、物理量の少なくとも1つの値は、特にシミュレーションされたレーダー目標で散乱するレーダー信号の散乱角に依存する出力を示している。この物理量の少なくとも1つの値は、特に散乱特性を形成し得る。
【0040】
少なくとも1つのモデルパラメータの決定は、特に、相互作用モデルの前因子の正規化である。例えば、少なくとも1つのモデルパラメータの決定は、レーダー信号の指向性散乱した分を示すPhongの式の前因子の正規化であり得る。
【0041】
本発明の第3の態様は、特に、仮想レーダー信号又はレーダー実信号と、その特性、特に大きさ、位置、表面特性及び/又は材料が知られている参照ターゲットとの相互作用を、分析的記述に基づいて、例えば対応する方程式を数値的に解くことを通じて、シミュレーションする、又は、実験に基づいてモデル化し、その際に物理量、例えばレーダー信号の出力密度及び/又は電界強度の少なくとも1つの値を決定するというアプローチに基づいている。トレーニングされるべき相互作用モデルを、続いて、物理量の少なくとも1つの決定された値に関連付けることが可能であり、そこから、好ましくは、相互作用モデルの少なくとも1つのモデルパラメータが生じる。特に、相互作用モデルの少なくとも1つのモデルパラメータが、このような方法で正規化され得る。それによって、シミュレーションされた環境シナリオにおける受信機点で相互作用モデルを適用する際に、物理量に関して、相互作用の分析的記述に基づいてより複雑な計算を行った場合と同じ値が得られることが確実化され得る。
【0042】
分析的記述に基づいて、例えば出力を散乱角に依存して示す、参照ターゲットの散乱特性が決定される。例えばPhongの式等の相互作用モデルは、少なくとも1つのモデルパラメータの適切な選択によって、相互作用モデルを用いて決定された散乱特性が、分析的記述に基づいて決定された放射特性に対応するように調整され得る。
【0043】
代替的に、参照ターゲットの現実の模倣で反射されるレーダー実信号の伝搬を、物理量の少なくとも1つの値の測定を通じて決定することが考えられる。少なくとも1つのモデルパラメータは、物理量の少なくとも1つの測定された値に基づいて決定され得る。
【0044】
好ましくは、少なくとも1つの決定されたモデルパラメータが保存される。それによって、仮想レーダー信号とシミュレーションされたレーダー目標との相互作用は、いつでも正確に記述され得る。
【0045】
好ましい一実施形態では、少なくとも1つのモデルパラメータが、曲線あてはめ、特に回帰分析に基づいて決定される。特に、少なくとも1つのモデルパラメータは、物理量の決定された値をフィッティングするためのパラメータを形成し得る。好ましくは、少なくとも1つのモデルパラメータが、曲線あてはめの範囲内で、分析的記載に基づいて算出された物理量の値と、相互作用モデルに基づいて算出された物理量の値との間の差が最小になるまで調整される。それによって、少なくとも1つのモデルパラメータが、特に確実かつ正確に決定され得る。
【0046】
別の好ましい一実施形態では、参照ターゲットは球体である。これは特に有利である。なぜなら、球体に関しては、レーダー信号との相互作用の確実な分析的記述が知られているからである。
【0047】
別の好ましい実施形態では、仮想レーダー信号又はレーダー実信号の伝搬が、複数の異なる参照対象物に関してシミュレーションされるか、又は、モデル化される。好ましくは、それぞれ少なくとも1つのモデルパラメータが、その際決定された物理量の値に基づいて決定され、決定されたモデルパラメータは、複数の異なる参照対象物の対象物特性に依存して保存される。保存されたモデルパラメータへのアクセスを通じて、例えば異なる表面特性を有し、異なる材料から成り、及び/又は、そのようなものである様々なシミュレーションされたレーダー目標に関して、確実に、受信機点における物理量に関する値と、従って作用横断面とが、正確に決定され得る。
【0048】
このような方法で、特に、それぞれ異なる表面特性を有する、及び/又は、それぞれ異なる材料から成る様々な参照対象物に関する相互作用モデルが、トレーニングされ得る。決定されたモデルパラメータに基づいて、例えばいわゆる参照テーブルが作成され得る。当該参照テーブルは、相互作用モデルを用いる際、様々なレーダー目標に関して、相互作用モデルの容易な構成を可能にする。
【0049】
本発明の第4の態様は、シミュレーションされたレーダー目標のレーダー横断面を決定するための装置に関するものであり、当該装置は、本発明の第1、第2及び/又は第3の態様に係る方法を実施するように設定されている。それによって、現実のレーダー横断面が、高速に、特に少なくとも略リアルタイムに、かつ、正確に決定され得る。
【0050】
好ましくは、レーダー横断面を決定するための装置は、シミュレーションされた環境シナリオを特徴付けるシミュレーション装置のシミュレーションデータを受容し、当該シミュレーションデータに基づき、相互作用モデルを用いて、環境シナリオに含まれるシミュレーションされたレーダー目標のレーダー横断面を決定するように設定されている。その際、シミュレーションデータは、例えばシミュレーションされたレーダー目標の対象物のタイプ、レーダー目標の形状、環境シナリオにおけるレーダー目標の位置、環境シナリオにおけるレーダー目標の方向性、及び/又は、そのようなものに関する情報を含んでいる。当該装置は、好ましくは、レーダー横断面の他に、レーダー実信号の操作に必要なさらなるデータも出力するように設定されている。特に、当該装置は、シミュレーションデータ及び相互作用モデルに基づいて、刺激点を出力するように設定されていてよい。
【0051】
本発明の第5の態様は、車両、特に自動車によって出力されるレーダー実信号の操作のためのレーダー目標エミュレータに関するものである。レーダー目標エミュレータは、好ましくはシミュレーション装置を有しており、当該シミュレーション装置は、環境シナリオをシミュレーションし、当該環境シナリオを特徴付けるシミュレーションデータを出力するように設定されている。さらに、レーダー目標エミュレータは、好ましくは、本発明の第4の態様に係るシミュレーションされたレーダー目標のレーダー横断面を決定するための装置を有しており、当該装置は、シミュレーションデータに基づいて、少なくとも1つの刺激点を出力するように設定されている。さらに、レーダー目標エミュレータは、好ましくは刺激装置を有しており、当該刺激装置は、レーダー実信号を受容、特に受信し、当該レーダー実信号を少なくとも1つの刺激点に基づいて操作し、そのように操作されたレーダー信号を出力、特に送信するように設定されている。その際、シミュレーション装置は、好ましくは、運転者支援システムによって予め設定されている境界条件に基づいて、環境シナリオをシミュレーションするように構成されている。
【0052】
本発明の第6の態様は、本発明の第5の態様に係るレーダー目標エミュレータを有する、車両、特に自動車のための試験台である。それによって、VIL試験台が実現可能であり、VIL試験台を用いて、車両の運転者支援システムの動的試験を行うことが可能である。
【0053】
本発明の第1の態様とその有利な構成に関して記載された特徴及び利点は、少なくとも技術的に有意義である場合、本発明の第2、第3、第4、第5及び第6の態様とその有利な構成にも有効であり、その逆も然りである。
【0054】
以下において、本発明を、図示された限定的ではない実施例を用いて詳細に説明する。図面には、少なくとも部分的に概略的に、以下が示されている:
【図面の簡単な説明】
【0055】
【
図1】本発明に係る試験台の好ましい実施例を示す図である。
【
図2】レーダー横断面を決定するための本発明に係る方法の好ましい実施例を示す図である。
【
図3】仮想レーダー信号とシミュレーションされたレーダー目標との相互作用のモデル化のための相互作用モデルの好ましい実施例を示す図である。
【
図4】相互作用モデルのトレーニング方法の好ましい実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
図1は、レーダーセンサ2aを備えた車両2、特に自動車のための、本発明に係る試験台100の好ましい実施例を示している。試験台100は、レーダーセンサ2aによって出力されたレーダー実信号Rを操作するためのレーダー目標エミュレータ10を有しており、レーダー目標エミュレータ10は、シミュレーション装置3と、シミュレーションされたレーダー目標のレーダー横断面を決定するための装置4と、刺激装置5と、を有している。
【0057】
シミュレーション装置3は、好ましくは、環境シナリオをシミュレーションし、環境シナリオを特徴付けるシミュレーションデータDを出力するように設定されている。当該環境シナリオは、例えばシミュレーションされたレーダー目標を含んでいる。シミュレーションデータDを基に、装置4は、好ましい方法で、特に少なくとも1つのシミュレーションされたレーダー目標のレーダー横断面を含む、少なくとも1つの刺激点Pを出力することが可能である。少なくとも1つの刺激点Pに基づいて、刺激装置5は、受信されたレーダー実信号Rを操作し、操作されたレーダー信号R‘として、レーダーセンサ2aに返送することができる。
【0058】
車両2、特に、レーダーセンサ2aのセンサデータに基づいて動作する車両2の運転者支援システムは、好ましくは、シミュレーション装置3に接続されている。それによって、環境シナリオのシミュレーションの範囲内で、車両2の入力データ、特に運転者支援システムによって引き起こされる車両2の挙動が考慮され得る。言い換えると、車両2とシミュレーション装置3との接続は、車両2の反応とシミュレーションされた環境シナリオとの間におけるフィードバックを可能にし、フィードバックを用いて、車両2又は運転者支援システムは、動的に試験され得る。
【0059】
シミュレーション装置3は、例えば、CarMaker(C)等の、環境シナリオをシミュレーションするためのソフトウェアを実行するように設定されたコンピュータであり得る。シミュレーション装置3は、好ましくは、その前後関係において車両2が運転可能であるような状況をシミュレーションする。例えば、車両の走行は、他の交通参加者、天気、時刻又は道路状況等の環境条件、及び/又は、そのようなものを考慮してシミュレーションされ得る。当該状況は、特に、位置、方向付け、及び/又は、他の交通参加者のタイプ又は障害物によって特徴付けられていてよい。この情報は、好ましくはシミュレーションデータDに含まれている。
【0060】
シミュレーションされたレーダー信号のレーダー横断面を決定するための装置4は、好ましくは、レーダーセンサ2aによって発信されたレーダー信号Rが、シミュレーションされた環境シナリオに従って操作され得る、すなわち、発信されたレーダー信号Rに基づいて、環境シナリオを特徴付ける、操作されたレーダー信号R‘が生じ得るように、シミュレーションデータDを処理するように設定されている。このために、装置4は、好ましくはレーダーセンサ2aによって発信されたレーダー信号Rに対応する仮想レーダー信号の伝搬を、シミュレーションされた環境シナリオ内で、すなわちシミュレーションデータDを考慮して、シミュレーションすることができる。
図2に関連して詳細に記載したように、仮想レーダー信号のシミュレーションされた伝搬を基に、シミュレーションされたレーダー目標のレーダー横断面がシミュレーションされた環境シナリオから、例えば別の車両又は障害物のレーダー横断面が、場合によっては環境条件の影響下で、導出され得る。このように決定されたレーダー横断面は、装置4によって、場合によってはシミュレーションされたレーダー目標の車両2からの距離、シミュレーションされたレーダー目標の車両2に対する方位角、シミュレーションされたレーダー目標で反射するレーダー信号のドップラー偏移、及び/又は、そのようなもの等の他の情報と共に、出力される。
【0061】
刺激装置5は、好ましくは、レーダー信号Rの操作を、時間的な遅延及び/又は信号の変調を通じてもたらすように設定されている。このために、刺激装置5は、好ましい方法で、少なくとも部分的にアナログ回路を有しており、例えば受信アンテナを用いて受信されたレーダー信号Rは、例えば送信アンテナを用いてレーダーセンサ2aに送信される前に、当該アナログ回路を通って平滑化される。しかしまた、代替的又は付加的に、刺激装置5は、計算装置を有することも可能であり、当該計算装置は、レーダー信号Rの操作を、少なくとも部分的にデジタルに実行するように設定されている。
【0062】
図2は、シミュレーションされたレーダー目標のレーダー横断面σを決定するため、特に、レーダー目標エミュレータ内のレーダー実信号を刺激するための、本発明に係る方法1aの好ましい実施例を示している。
【0063】
方法ステップS1では、特に、供給されたシミュレーションデータDを基に、好ましくはシミュレーションデータDによって特徴付けられ、例えばシミュレーションされたレーダー目標を含んでいるシミュレーションされた環境シナリオにおける仮想レーダー信号の伝搬が、相互作用モデルWに基づいてシミュレーションされる。その際、当該相互作用モデルWは、先行する方法ステップにおいて、場合によっては別個の方法においても、トレーニングされていてよい(
図4を参照)。例えば、相互作用モデルWは、レーダー信号の伝搬の分析的記述、又は、レーダー信号の伝搬に関する実験との比較を通じて、例えば相互作用モデルWのモデルパラメータが決定されることによって、調整され得る。
【0064】
環境シナリオ内での仮想レーダー信号の伝搬は、例えば2つのサブステップS1a、S1bにおいてシミュレーションされ得る。第1のサブステップS1aでは、複数の部分信号の、例えば少なくとも略直線状の、例えばビーム形状の伝搬が、1つ又は複数の部分信号が仮想レーダー目標に当たり、仮想レーダー目標と相互作用を生じさせるまで受け入れられ得る。その際、当該部分信号は、好ましくは、送信機点から所定の立体角領域内部で伝搬し、当該送信機点は、環境シナリオ内で、好ましくは、仮想レーダー信号を発信する車両の位置に対応している。仮想レーダー信号又は部分信号の伝搬は、例えばレイトレーシングを用いて、特に、レーダー信号又は少なくとも1つの部分信号が、シミュレーションされたレーダー目標に当たるまでシミュレーションされ得る。
【0065】
仮想レーダー信号、特に少なくとも1つの部分信号とシミュレーションされたレーダー目標との相互作用は、第2のサブステップS1bにおいて、好ましくは、例えば出力密度又は電界強度等の、仮想レーダー信号を特徴付ける物理量が区分されるようにモデル化される。レーダー信号の一方の部分は、例えば仮想レーダー信号の指向性散乱に対応する指向性成分Gaによって表現され得る。それに対して、レーダー信号の他方の部分は、仮想レーダー信号の等方散乱に対応する拡散成分Gbによって表現され得る。従って、レーダー信号の一方の部分は、受信機点における相互作用に従って、シミュレーションされたレーダー目標と受信機点との間の区間によって決定される方向とは無関係に検出可能である。それに対して、レーダー信号の他方の部分は、指向性成分Gaが散乱する特定の立体角領域内に位置する受信機点においてのみ検出可能である。
【0066】
好ましくは、1つの又はさらなるシミュレーションされたレーダー目標との相互作用が、仮想レーダー信号の全ての部分信号に関して算出されるので、方法ステップS1の後では、少なくともシミュレーションされたレーダー目標と相互作用を有する部分信号の数に相当する数の指向性成分及び拡散成分が存在している。
【0067】
仮想レーダー信号の伝搬は、特に多重反射を考慮するために、サブステップS1a、S1bの繰り返しを用いて、反復式にもシミュレーションされ得る。その際、後続のサブステップS1aでは、指向性成分Ga、すなわちシミュレーションされた元のレーダー信号の指向性散乱した部分の伝搬がシミュレーションされ、後続のサブステップS1bでは、指向性成分Gaとさらなるシミュレーションされたレーダー目標との相互作用が算出される。これは、指向性成分Gaがもはやレーダー目標に当たらなくなるまで実施され得る。
【0068】
さらなる方法ステップS2では、受信機点における物理量の値Gが決定される。その際、例えば受信機点における元のレーダー信号の様々な部分に関する物理量が合計されることによって、好ましくは指向性成分Gaと拡散成分Gbとが考慮される。それによって、受信機点が、1つ又は複数の指向性成分Gaが散乱する立体角領域内に位置する場合に、物理量に関して特に高い値Gが生じ得る。
【0069】
受信機点は、環境シナリオ内の任意の位置に配置されていてよい。しかしながら、受信機点は、好ましくは、元の仮想レーダー信号の始点である送信機点に対応している。
【0070】
物理量の決定された値Gを基に、さらなる方法ステップS3では、シミュレーションされたレーダー目標のレーダー横断面σが決定され、出力され得る。
【0071】
図3は、仮想レーダー信号Vとシミュレーションされたレーダー目標Zとの相互作用のモデル化に関する相互作用モデルWの好ましい実施例を示しており、仮想レーダー信号Vは、送信機点Sから、少なくとも略直線状に伝搬する。仮想レーダー信号Vがシミュレーションされたレーダー目標Zに当たる場合、相互作用モデルWに従って、仮想レーダー信号Vの一方の部分は等方散乱し、他方の部分は指向性散乱する。シミュレーションされたレーダー目標Zを始点として、少なくとも略あらゆる空間方向に均等に伝搬する、等方散乱する部分は、拡散成分Gbと呼ばれる。シミュレーションされたレーダー目標Zを始点として、略立体角領域Ω内部で伝搬する、指向性散乱する部分は、指向性成分Gaと呼ばれる。
【0072】
相互作用は、好ましくは、仮想レーダー信号Vを特徴付ける、例えば仮想レーダー信号Vの出力密度又は電界強度等の物理量を基に記述される。相互作用モデルWに従って、物理量は、拡散成分Gbと指向性成分Gaとに区分される。相互作用モデルWに基づいてレーダー横断面を決定するために、仮想レーダー信号Vの異なって散乱した分の、受信機点Eにおける信号に対する寄与が決定される。例えば、拡散成分Gbと指向性成分Gaとが合計され、合計が、レーダー横断面を決定するために、元の物理量と比較され得る。
【0073】
相互作用は、好ましくは、Phongの式Pscat=kd+ks・cosnsΦsを用いて記述される。このとき、kdは、仮想レーダー信号Vの等方散乱した分を示し、ksは、仮想レーダー信号Vの指向性散乱した分を示し、いわゆるPhong指数nsは、立体角領域Ωの幅を示している。kd、ks、nsは、モデルパラメータとも呼ばれる。いわゆる散乱角Φsは、仮想レーダー信号Vの指向性散乱した分の伝搬方向と、シミュレーションされたレーダー目標Zと受信機点Eとの接続線との間における角度を示しており、当該角度の方向に、出力Pが散乱する。
【0074】
Phongの式は経験的なものであるものの、当該式を用いて、特に指向性の項α=2π/(ns+1)を有する、修正されたPhongの式を用いることによって、レーダー信号の現実的な散乱が記述され得る。シミュレーションされたレーダー目標Zで、仮想レーダー信号Vが出力Pinで散乱する場合に、受信機点Eで、シミュレーションされたレーダー目標Zから距離Rをおいて決定され得る出力密度P‘に関しては、P‘=Pin[kd/(4πR2)+ks・cosnsΦs/(2πR2(n+1))]が生じる。従って、拡散成分Gbは、項Pin・kd/(4πR2)として、指向性成分Gaは、項Pin・ks・cosnsΦs/(2πR2(n+1))として、理解され得る。
【0075】
区分の程度、すなわち仮想レーダー信号Vがシミュレーションされたレーダー目標Zに当たった後、拡散成分Gbと指向性成分Gaとによって表される仮想レーダー信号Vの割合は、特に、例えば送信機点Sに対するシミュレーションされたレーダー目標Zの方向付け、特に試験車両、すなわち送信機点S(図示せず)に対する、シミュレーションされたレーダー目標Zの面法線の方向付けに依存する。しかしながら、特に好ましくは、区分の程度は、例えばレーダー目標Zに割り当てられた表面特性、材料及び/又はそのようなもの等の、シミュレーションされたレーダー目標Zの特性に依存する。
【0076】
この依存関係は、特に、モデルパラメータkd、ks、nsの適切な選択を通じて表現され得る。以下に、Phongの式の、様々な散乱状況に対する適応について言及する。
【0077】
図4は、相互作用モデルのトレーニング方法1bの好ましい実施例を示しており、当該相互作用モデルを用いて、仮想レーダー信号とシミュレーションされたレーダー目標との相互作用が、仮想レーダー信号を特徴付ける物理量が、仮想レーダー信号の指向性散乱に対応する指向性成分と、仮想レーダー信号の等方散乱に対応する拡散成分とに区分されるように、モデル化され得る。
【0078】
方法ステップS4では、仮想レーダー信号又はレーダー実信号と参照ターゲットとの相互作用が、レーダー信号の参照ターゲットでの反射の分析的記述に基づいてシミュレーションされるか、又は、実験を用いてモデル化される。その際、好ましくは、参照ターゲットで反射する仮想レーダー信号を特徴付ける物理量の少なくとも1つの値Gが決定される。
【0079】
対象物で散乱した出力Pscatの、散乱角Φsに依存した分配を決定するために、例えば電磁ビームと対象物との相互作用を分析的に記述する方程式が、数値的に解かれ得る。代替的に、その範囲内でレーダー実信号が現実の対象物で反射又は散乱する、対応する実験装置を用いて、当該分配を実験によって決定してもよい。
【0080】
さらなる方法ステップS5では、相互作用モデル、例えば必要に応じて修正されたPhongの式の、少なくとも1つのモデルパラメータkd、ks、nsが、物理量の少なくとも1つの決定された値Gに基づいて決定される。
【0081】
例えば、対象物で散乱した出力Pscatの、散乱角Φsに依存する分配は、相互作用モデル、特にPhongの式を用いてフィッティングされ得る。特に、分析的記述に基づいて決定された物理量の少なくとも1つの値Gと、相互作用モデルを用いて決定された物理量の少なくとも1つの値Gとの間の差異が決定されるモデルパラメータkd、ks、nsのセットmが、用いられ得る。
【0082】
その際、好ましくは、モデルパラメータkd、ks、nsの間に、少なくとも部分的に依存関係が存在することが利用される。特に、kd+ks=1であることが利用される。
【0083】
方法ステップS4、S5の実行によって、相互作用モデル、特に、必要に応じて修正されたPhongの式が、レーダー信号とレーダー目標との相互作用を、現実的に、すなわち物理的に、少なくとも概ね正確に描写することが確実化され得る。言い換えると、相互作用モデル、特にPhongの式に付加される指向性の項は、正規化され得る。
【0084】
その際、参照ターゲットとして、好ましくは球体が用いられる。なぜなら、レーダー信号と球体との相互作用は、特に正確かつ現実的にシミュレーションされ得るからである。
【0085】
方法ステップS4、S5は、参照ターゲットの様々な表面特性及び/又は材料に関して、複数回実行することも可能であり、その際に決定されたモデルパラメータk
d、k
s、n
sは、特に、対応する表面特性及び/又は材料と関連付けられて、データバンク内に保存され得る。この、相互作用モデルの特徴付けと表現されるプロセスは、相互作用モデルを使用する際に(
図2を参照)、シミュレーションされた環境シナリオにおける、シミュレーションされたレーダー目標の特性に依存して、相互作用の特に現実的な記述を可能にするモデルパラメータk
d、k
s、n
sを用いることを可能にする。
【符号の説明】
【0086】
1a レーダー横断面を決定するための方法
1b 相互作用モデルのトレーニング方法
2 車両
2a レーダーセンサ
3 シミュレーション装置
4 レーダー横断面を決定するための装置
5 刺激装置
10 レーダー目標エミュレータ
100 システム
S1-S5 方法ステップ
S1a、S1b サブステップ
D シミュレーションデータ
P 刺激点
R レーダー実信号
R’ 修正されたレーダー実信号
W 相互作用モデル
G 物理量の値
Ga 指向性成分
Gb 拡散成分
σ 散乱横断面
S 送信機点
E 受信機点
V 仮想レーダー信号
Z シミュレーションされたレーダー目標
Φs 散乱角
Ω 立体角領域
R 距離
P‘ 散乱した出力密度
Pscat 散乱した出力
Pin レーダー信号の出力
kd、ks、ns モデルパラメータ
m モデルパラメータのセット