(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】安全車間距離推定システム及び推定方法
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20230901BHJP
B60W 30/16 20200101ALI20230901BHJP
【FI】
G08G1/16 E
B60W30/16
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021210665
(22)【出願日】2021-12-24
【審査請求日】2022-02-21
(32)【優先日】2021-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】390023582
【氏名又は名称】財團法人工業技術研究院
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】No.195,Sec.4,ChungHsingRd.,Chutung,Hsinchu,Taiwan 31040
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100169823
【氏名又は名称】吉澤 雄郎
(72)【発明者】
【氏名】胡 振▲フエイ▼
(72)【発明者】
【氏名】許 修▲ウェイ▼
(72)【発明者】
【氏名】古 昆隴
(72)【発明者】
【氏名】▲チャン▼ 巧同
【審査官】増子 真
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-060935(JP,A)
【文献】特開2019-139441(JP,A)
【文献】特表2019-506324(JP,A)
【文献】特表2016-514317(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00 - 99/00
B60W 10/00 - 10/30
B60W 30/00 - 60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自律走行車に適した安全車間距離推定システムであって、
センサと、
前記センサに結合されたプロセッサとを具え、
前記センサは、隣接車両を計測して第1センシングデータを生成し、前記自律走行車を計測して第2センシングデータを生成し、前記隣接車両は前記自律走行車に隣接し、
前記プロセッサは、舗装材料データに応じて前記隣接車両の車輪と舗装道路との間の第1摩擦パラメータを推定し、前記第2センシングデータに応じて前記自律走行車の車輪と前記舗装道路との間の第2摩擦パラメータを推定し、前記第1センシングデータ、前記第2センシングデータ、前記第1摩擦パラメータ、及び前記第2摩擦パラメータに応じて、前記自律走行車と前記隣接車両との間の安全車間距離を計算
し、
前記プロセッサが、前記第1センシングデータ、前記第2センシングデータ、前記第1摩擦パラメータ、及び前記第2摩擦パラメータに応じて、前記自律走行車と前記隣接車両との間の安全車間距離を計算することが、
前記第1センシングデータに応じて前記隣接車両の動的仕様を識別することであって、該動的仕様は前記隣接車両の最大減速度を含むことと、
前記隣接車両の前記動的仕様及び前記第1摩擦パラメータに応じて、前記隣接車両の第1最大減速度を推定することと、
前記自律走行車の前記第2摩擦パラメータに応じて、前記自律走行車の第2最小減速度を推定することと、
前記自律走行車の転がり摩擦パラメータに応じて、前記自律走行車の第3最大加速度を推定することと、
前記第1最大減速度、前記第2最小減速度、及び前記第3最大加速度に応じて、前記安全車間距離を計算することと
を含む、安全車間距離推定システム。
【請求項2】
前記第1センシングデータが、前記隣接車両の縦速度、横速度、画像データ、及びLiDARデータを含む、請求項1に記載の安全車間距離推定システム。
【請求項3】
前記第2センシングデータが、前記自律走行車の縦速度、横速度、車輪速度、車輪偏角、ヨーレート、及び傾斜角を含む、請求項1に記載の安全車間距離推定システム。
【請求項4】
前記プロセッサが高精度マップを調べることにより、あるいは前記センサが前記舗装道路を計測することにより、前記舗装材料データを生成する、請求項1に記載の安全車間距離推定システム。
【請求項5】
前記舗装材料データをルックアップテーブルに入力して、前記第1摩擦パラメータに相当する第1摩擦係数を生成し、前記ルックアップテールが舗装材料と前記第1摩擦係数との対応を含む、請求項1に記載の安全車間距離推定システム。
【請求項6】
前記プロセッサが、前記隣接車両の複数の特徴を前記第1センシングデータから抽出して、該複数の特徴を車両分類器に提供して前記動的仕様を生成する、請求項
1に記載の安全車間距離推定システム。
【請求項7】
上面図を表示するために使用される表示装置をさらに具え、該上面図は、前記自律走行車、前記隣接車両、及び前記自律走行車と前記隣接車両との間の第1距離を含む、請求項1に記載の安全車間距離推定システム。
【請求項8】
前記プロセッサが前記第1距離を前記安全車間距離と比較し、前記上面図が、異なる比較結果に対応する異なる色で前記第1距離を示す、請求項
7に記載の安全車間距離推定システム。
【請求項9】
前記プロセッサが、前記第1距離を前記安全車間距離と比較して、前記自律走行車が安全確認に合格するか否かを判定し、前記安全車間距離が縦距離及び横距離を含む、請求項
7に記載の安全車間距離推定システム。
【請求項10】
自律走行車に適した安全車間距離推定方法であって、
隣接車両を計測して第1センシングデータを生成し、前記自律走行車を計測して第2センシングデータを生成するステップであって、前記隣接車両が前記自律走行車に隣接するステップと、
舗装材料データに応じて、前記隣接車両の車輪と舗装道路との間の第1摩擦パラメータを推定するステップと、
前記第2センシングデータに応じて、前記自律走行車の車輪と前記舗装道路との間の第2摩擦パラメータを推定するステップと、
前記第1センシングデータ、前記第2センシングデータ、前記第1摩擦パラメータ、及び前記第2摩擦パラメータに応じて、前記自律走行車と前記隣接車両との間の安全車間距離を計算するステップと
を含
み、
前記第1センシングデータ、前記第2センシングデータ、前記第1摩擦パラメータ、及び前記第2摩擦パラメータに応じて、前記自律走行車と前記隣接車両との間の安全車間距離を計算するステップが、
前記第1センシングデータに応じて前記隣接車両の動的仕様を識別するステップであって、該動的仕様は前記隣接車両の最大減速度を含むステップと、
前記隣接車両の前記動的仕様及び前記第1摩擦パラメータに応じて、前記隣接車両の第1最大減速度を推定するステップと、
前記自律走行車の前記第2摩擦パラメータに応じて、前記自律走行車の第2最小減速度を推定するステップと、
前記自律走行車の転がり摩擦パラメータに応じて、前記自律走行車の第3最大加速度を推定するステップと、
前記第1最大減速度、前記第2最小減速度、及び前記第3最大加速度に応じて、前記安全車間距離を計算するステップと
を含む、安全車間距離推定方法。
【請求項11】
前記第1センシングデータが、前記隣接車両の縦速度、横速度、画像データ、及びLiDARデータを含む、請求項
10に記載の安全車間距離推定方法。
【請求項12】
前記第2センシングデータが、前記自律走行車の縦速度、横速度、車輪速度、車輪偏角、ヨーレート、及び傾斜角を含む、請求項
10に記載の安全車間距離推定方法。
【請求項13】
プロセッサが高精度マップを調べることにより、あるいはセンサが前記舗装道路を計測することにより、前記舗装材料データを生成する、請求項
10に記載の安全車間距離推定方法。
【請求項14】
前記舗装材料データをルックアップテーブルに入力して、前記第1摩擦パラメータに相当する第1摩擦係数を生成し、前記ルックアップテールが、舗装材料と前記第1摩擦係数との対応を含む、請求項
10に記載の安全車間距離推定方法。
【請求項15】
前記第1センシングデータに応じて前記隣接車両の前記動的仕様を識別するステップが、
前記隣接車両の複数の特徴を前記第1センシングデータから抽出して、該複数の特徴を車両分類器に提供して前記動的仕様を生成するステップを含む、請求項
10に記載の安全車間距離推定方法。
【請求項16】
上面図を表示するステップをさらに含み、該上面図は、前記自律走行車、前記隣接車両、及び前記自律走行車と前記隣接車両との間の第1距離を含む、請求項
10に記載の安全車間距離推定方法。
【請求項17】
前記第1距離を前記安全車間距離と比較するステップをさらに含み、前記上面図が、異なる比較結果に対応する異なる色で前記第1距離を示す、請求項
16に記載の安全車間距離推定方法。
【請求項18】
前記第1距離を前記安全車間距離と比較して、前記自律走行車が安全確認に合格するか否かを判定するステップを更に含み、前記安全車間距離が縦距離及び横距離を含む、請求項
16に記載の安全車間距離推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全車間距離推定システム及び安全車間距離推定方法に関するものであり、特に自律走行車において使用される安全車間距離推定システム及び安全車間距離推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
関連技術の説明
急ブレーキによって生じる衝突を避けるための最も効果的な方策のうちの1つは、走行中に自律走行車と周囲の車両及び物体との間の適切な安全車間距離を維持することである。自律走行車の安全確認及び監視に関しては、米国電気電子技術者標準化協会(IEEE-SA:Electrical and Electronics Engineers Standards Association)が、自律走行車についての安全仕様、IEEE P2846(Formal Model for Safety Considerations in Automated Vehicle Decision Making(自動運転車の意思決定における安全性考察用の形式モデル))を刊行している。IEEE P2846は、責任感知型安全論(RSS:responsibility-sensitive safety)モデルを含む。RSSモデルは、自律走行車の安全状況を規定して測定可能なパラメータを提供する。RSSモデルは、特定の安全車間距離、即ち、異なるシナリオにおいて最悪条件下で衝突を回避して交通事故を回避するための周囲車両からの距離を保つ共通ルールを含む。
【0003】
しかし、異なる交通環境において異なる動的パフォーマンスで自律走行車と周囲車両との間の適切な安全車間距離を維持することは、自律走行車技術の開発にとって挑戦である。例えば、貨物を積載した大型トラックは大きな減速度を有することができ、従って、大型トラックの背後の自律走行車は、より長い安全車間距離をとる必要がある。水または雪が存在する舗装道路上を自律走行車が走行中である際には、車輪と舗装道路との間の摩擦係数が、舗装道路が乾燥した状態における摩擦係数よりも低く、自律走行車のブレーキ能力の大幅な低下を生じさせる。従って安全車間距離を増加させる必要がある。他方では、適切な安全車間距離により、先行車と後続車との間の過度の距離を回避することができ、交通網の効率を維持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
技術課題
本発明は、安全車間距離推定システム及び安全車間距離推定方法を提供し、これらの安全車間距離推定システム及び安全車間距離推定方法は、隣接車両の動的仕様を識別し、隣接車両の車輪及び自律走行車の車輪と舗装道路との間の摩擦パラメータを推定することにより、隣接車両と自律走行車との間の距離を計算する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
課題の解決策
本発明の好適例は、自律走行車に適した安全車間距離推定システムを提供する。この安全車間距離推定システムはセンサ及びプロセッサを含み、但しこれらを含むことに限定されない。センサは、隣接車両を計測して第1センシングデータを生成し、自律走行車を計測して第2センシングデータを生成し、隣接車両は自律走行車に隣接している。プロセッサは、舗装材料データに応じて隣接車両の車輪と舗装道路との間の第1摩擦パラメータを推定し、第2センシングデータに応じて自律走行車の車輪と舗装道路との間の第2摩擦パラメータを推定し、第1センシングデータ、第2センシングデータ、第1摩擦パラメータ、及び第2摩擦パラメータに応じて、自律走行車と隣接車両との間の安全車間距離を計算する。
【0007】
本発明の好適例は、自律走行車に適した安全車間距離推定方法を提供する。この安全車間距離推定方法は次のことを含む。隣接車両を計測して第1センシングデータを生成し、自律走行車を計測して第2センシングデータを生成し、隣接車両は自律走行車に隣接している。舗装材料データに応じて、隣接車両の車輪と舗装道路との間の第1摩擦パラメータを推定する。第2センシングデータに応じて、自律走行車の車輪と舗装道路との間の第2摩擦パラメータを推定する。第1センシングデータ、第2センシングデータ、第1摩擦パラメータ、及び第2摩擦パラメータに応じて、自律走行車と隣接車両との間の安全車間距離を計算する。
【発明の効果】
【0008】
以上のことに基づいて、本発明の一部の好適例では、隣接車両の車輪及び自律走行車の車輪と舗装道路との間の摩擦係数を推定することにより、自律走行車及び隣接車両の最大加速度/減速度のリアルタイム推定精度が向上し、安全車間距離を適用することができるシナリオが増加し、自律走行車の信頼性及び安全性が向上する。
【0009】
本発明の以上の特徴及び利点のさらなる理解をもたらすために、図面を伴う実施形態を以下に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態による安全車間距離推定システムのブロック図である。
【
図2】本発明の一実施形態による安全車間距離推定方法のフローチャートである。
【
図3】本発明の一実施形態による、安全車間距離を計算して安全確認を実行するフローチャートである。
【
図4】本発明の一実施形態による、動的仕様を生成するフローチャートである。
【
図5】本発明の一実施形態による、車両間の距離の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施形態の説明
本願の(特許請求の範囲を含めた)明細書の全文中で用いる「結合(または接続)」とは、あらゆる直接または間接的な接続方法を参照し得る。例えば、第1装置が第2装置に結合(または接続)されているという文章中に記載されている場合、第1装置を第2装置に直接接続することができ、あるいは第1装置を他の装置またはある種の接続方法により第2装置に間接的に接続することができることとして解釈するべきである。それに加えて、可能な限り、図面及び実施形態中で同じ参照番号を有する要素/構成要素/ステップは同一または同様な部分を表す。異なる実施形態中で同じ参照番号または同じ用語を有する要素/構成要素/ステップは、関連する説明用に参照することがある。
【0012】
図1に、本発明の一実施形態による安全車間距離推定システムのブロック図を示す。
図2に、本発明の一実施形態による安全車間距離推定方法のフローチャートを示す。
図1及び2を参照すれば、安全車間距離推定システム10がセンサ110及びプロセッサ120を含み、但しこれらを含むことに限定されず、プロセッサ120はセンサ110に結合されている。本発明の一実施形態では、安全車間距離推定システム10が自律走行車に適し、安全車間距離推定システム10は、複数のセンシングデータ及び高精度マップを、自律走行車のセンサ110及び通信システム(図示せず)を通して受信することができ、複数のセンシングデータ及び高精度マップに応じて、自律走行車と隣接車両との間の安全車間距離DMINを責任感知型安全論モデル(RSSモデル)により生成する。安全車間距離DMINは、プロセッサ120が、事故を回避するために自律走行車に対する補助的な制御を実行する必要があるか否かをさらに判定することを可能にし、自律走行車上の表示装置(図示せず)により上面図を運転者の参考用に表示することができる。
【0013】
一実施形態では、センサ110が、カメラ、LiDAR(ライダー:laser intensity direction and ranging:レーザー強度方向検出及び測距、光による検知と測距)、レーダー、加速度計、ジャイロスコープ、気象センサ、車輪速度計、温度計、等を含むことができ、これらの個数及び種類は限定されない。プロセッサ120は、例えば、中央処理装置(CPU:central processing unit)、マイクロプロセッサ、デジタルシグナルプロセッサ(DSP:digital signal processor)、プログラマブル・コントローラ、プログラマブル・ロジックデバイス(PLD:programmable logic device)、または他の同様な装置、あるいはこれらの装置の組合せを含み、但しこれらに限定されない。
【0014】
ステップS210では、センサ110が、隣接車両を計測して第1センシングデータS1を生成し、自律走行車を計測して第2センシングデータS2を生成し、隣接車両は自律走行車に隣接している。第1センシングデータS1は、隣接車両の縦速度Vf、横速度、画像データ、及びLiDARデータを含み、但しこれらを含むことに限定されず、第2センシングデータは、自律走行車の縦速度Vr、横速度、車輪速度、車輪偏角、及びヨーレート(ヨー角変化速度)、及び舗装道路の傾斜角度を含み、但しこれらを含むことに限定されない。
【0015】
ステップS220では、プロセッサ120が高精度マップを調べることにより、あるいはセンサ110が舗装道路を計測することにより、舗装材料データPMを生成し、舗装材料データPMに応じて、隣接車両と舗装道路との間の第1摩擦係数μ1を推定する。高精度マップは、センチメートルレベルの非常に高い精度を有し、勾配、曲率、道路境界、舗装構造、交通標識、等のような舗装道路の複合情報を含む。プロセッサ120は、通信システム/電気通信網を通して高精度マップを受信し、高精度マップを調べて、隣接車両が現在位置する舗装道路の舗装材料データPM、例えばアスファルト舗装、セメント舗装、または未舗装等を生成することができる。次に、通信システム/電気通信網を通して局地気象を取得し、あるいは車外温度及び舗装道路を覆う材料をセンサ110によって計測して、アスファルト舗装(乾燥)、アスファルト道路(濡れ)、表面凍結、積雪した舗装道路、等のように舗装材料データをさらに更新する。他方では、センサ110によって舗装を計測し、プロセッサ120によってデータベースと比較して舗装材料データを生成することもでき、本発明はこのことに限定されない。舗装材料データを生成した後に、プロセッサ120は、舗装材料データPMをルックアップテーブル(早見表)(表1)に入力して、隣接車両と舗装道路との間の摩擦係数μ1を生成することができる。なお、第1摩擦係数μ1は、舗装材料データPMに対応する摩擦係数の最大値である。例えば、舗装材料がアスファルト舗装(乾燥)である際には、対応する最大摩擦係数は0.8~0.9である。
【0016】
【0017】
ステップS230では、プロセッサ120が、第2センシングデータS2に応じて、自律走行車と舗装道路との間の第2摩擦係数μ2及び転がり摩擦係数μrを推定することができる。一実施形態では、プロセッサ120が高精度マップを調べることにより、あるいはセンサ110が舗装道路を計測することにより、プロセッサ120が舗装道路の傾斜角及び計画経路のカーブを生成する。次に、第2センシングデータ中の自律走行車の縦速度Vr、車輪速度、車輪偏角、ヨーレート、舗装道路の傾斜角度、及び計画経路のカーブにより、自律走行車と舗装道路との間の第2摩擦係数μ2を計算する。具体的計算方法については欧州特許出願公開第3106360号(特許文献1)を参照することができる。舗装材料データPMを生成した後に、プロセッサ120は、舗装材料データPMをルックアップテーブル(表2)に入力して、自律走行車と舗装道路との間の転がり摩擦係数μrを生成することができる。このルックアップテーブルは、舗装材料PMと転がり摩擦係数μrとの対応を含む。
【0018】
【0019】
次に、ステップS240では、プロセッサ120が、第1センシングデータS1、第2センシングデータS2、第1摩擦係数μ1、第2摩擦係数μ2、及び転がり摩擦係数μrに応じて、自律走行車と隣接車両との間の安全車間距離DMINを計算する。安全車間距離DMINは
図3中に詳細に説明する。
【0020】
図3に、本発明の一実施形態による、安全車間距離を計算して安全確認を実行するフローチャートを示す。
図3を参照すれば、ステップS310では、センサ110が隣接車両を計測して第1センシングデータS1を生成する。次に、ステップS320では、プロセッサ120が、第1センシングデータS1を受信し、第1センシングデータS1を識別して隣接車両の車両型式を識別し、識別した車両型式に応じて、対応する動的仕様DSを調べる。動的仕様DSは、少なくとも隣接車両の仕様中の最大減速度、即ち、隣接車両の最大の制動減速度を含む。自律走行車に隣接した隣接車両は走行プロセスを絶えず変化させ得るので、センサ110によって計測した第1センシングデータも変化することは言及に値する。従って、動的仕様も相応に変化する。ステップS320における識別の詳細は
図4中に詳細に説明する。
【0021】
ステップS330では、プロセッサ120が舗装材料データPMを取得する。具体的には、舗装材料データPMは、プロセッサ120が高精度マップを調べることにより、あるいはセンサ110が舗装道路を計測することにより取得することができ、本発明はこれらのことに限定されない。次に、ステップS340では、プロセッサ120が舗装材料データPMをルックアップテーブル(表1参照)に入力して、隣接車両と舗装道路との間の第1摩擦係数μ1を生成する。
【0022】
ステップS350では、センサ110が自律走行車を計測して第2センシングデータS2を生成する。次に、ステップS360では、プロセッサ120が、第2センシングデータS2を受信し、第2センシングデータS2に応じて第2摩擦係数μ2及び転がり摩擦係数μrを推定する。一実施形態では、プロセッサ120が、自律走行車と舗装道路との間の摩擦係数μ2を、第2センシングデータ中の自律走行車の縦速度Vr、車輪速度、車輪偏角、ヨーレート、及び舗装道路の傾斜角度により計算する。舗装材料データPMをルックアップテーブル(表2参照)に入力して、自律走行車と舗装道路との間の転がり摩擦係数μrを生成する。詳細についてはステップS230を参照することができ、本明細書中では繰り返さない。
【0023】
ステップS370では、プロセッサ120が、動的仕様DS、第1摩擦係数μ1、第2摩擦係数μ2、及び転がり摩擦係数μrに応じて、隣接車両の第1最大減速度A1、及び自律走行車の第2最小減速度A2と第3最大加速度A3を推定する。一実施形態では、プロセッサ120が、動的仕様DS中の隣接車両の最大減速度、及び隣接車両と舗装道路との間の第1摩擦係数μ1をルックアップテーブル(表3)中に代入して、隣接車両の第1最大減速度A1を推定することができる。第1最大減速度A1は、第1摩擦係数μ1を考慮した後の隣接車両の最大減速度である。例えば、積雪した舗装道路上を走行中の隣接車両を識別した後に、隣接車両の最大減速度7.5m/s2を生成することができる。積雪した舗装道路に対応する第1摩擦係数μ1は0.2である。隣接車両の最大減速度及び第1摩擦係数μ1をルックアップテーブル中に代入した後の、対応する第1最大減速度A1は1.67m/s2である。表3は例示用に過ぎず、本発明は表3に限定されない。動的仕様DS中の隣接車両の最大減速度に比べれば、第1最大減速度A1は、隣接車両のブレーキ性能に対する舗装道路の摩擦係数の影響をさらに含むことは言及に値する。
【0024】
【0025】
一実施形態では、プロセッサ120が、第2摩擦係数μ2に応じて自律走行車の最小減速度A2を推定し、転がり摩擦係数μrに応じて第3最大加速度A3を推定することができる。具体的には、自律走行車の仕様中のこれらの最大加速度及び最小減速度は既知の固定値であり、プロセッサ120は、第2摩擦係数μ2及び転がり摩擦係数μrをルックアップテーブル(表4及び表5)中に代入して、それぞれ、自律走行車の第2摩擦係数μ2に対応する第2最小減速度A2及び転がり摩擦係数μrに対応する最大加速度A3を生成することができる。第2最小減速度A2は、第2摩擦係数μ2を考慮した後の自律走行車の最小減速度であり、第3最大加速度A3は、転がり摩擦係数を考慮した後の自律走行車の最大加速度である。第2最小減速度A2に関しては、例えば、自律走行車の第2摩擦係数μ2が0.2であるものと仮定すれば、自律走行車の第2最小減速度A2は、表4をチェックした後に0.89m/s2として得られる。表4は例示用に過ぎず、本発明は表4に限定されない。第3最大加速度A3に関しては、プロセッサ120は、舗装材料データPMを、舗装材料データPMと転がり摩擦係数μrとのルックアップテーブル(表2)中に入力して、舗装材料データPMに対応する転がり摩擦係数μrを導出することができる。転がり摩擦係数μrは、具体的には、加速中の自律走行車と舗装道路との間の摩擦係数を参照する。例えば、自律走行車が良好なアスファルト舗装道路上を走行中である場合、その転がり摩擦係数μrは、表をチェックした後に0.0068とすることができる。次に、0.0068の転がり摩擦係数μrを表5中に代入し、この表をチェックした後に、自律走行車に対応する第3最大加速度A3を4.98m/s2として得ることができる。表5は例示用に過ぎず、本発明は表5に限定されない。自律走行車の仕様中の最小減速度及び最大加速度に比べれば、第2最小減速度A2及び第3最大加速度A3は、自律走行車のブレーキ性能及び加速性能に対する舗装道路の摩擦係数及び転がり摩擦係数の影響をさらに含むことは、言及に値する。
【0026】
【0027】
【0028】
ステップS380では、プロセッサ120が、第1センシングデータS1、第2センシングデータS2、第1最大減速度A1、第2最小減速度A2、及び第3最大加速度A3をRSSモデルに代入して、安全車間距離DMINを計算する。以下の式(1)を参照することができる。”max”は{}内の最大値を表す:
【数1】
【0029】
式(1)では、Vrは自律走行車の縦速度であり、ρはブレーキを開始する前の反応時間であり、Vfは隣接車両の縦速度であり、第1センシングデータS1はVfを含み、第2センシングデータS2はVrを含む。
【0030】
ステップS390では、プロセッサ120が、第1センシングデータS1に応じて、隣接車両と自律走行車との間の距離D1を取得することができる。一実施形態では、センサ110内のLiDAR及びレーダーを用いて隣接車両までの距離を測定して、隣接車両と自律走行車との間の第1距離D1を導出することができる。プロセッサ120は、第1距離D1を安全車間距離DMINと比較して、自律走行車が安全確認に合格するか否かを判定することができる。第1距離D1が安全車間距離DMIN以上であると、プロセッサ120は自律走行車が安全確認に合格するものと判定する。第1距離D1が安全車間距離DMIN未満であると、プロセッサ120は自律走行車が安全確認に合格しないものと判定する。プロセッサ120が、自律走行車が安全確認に合格していないものと判定すると、プロセッサ120は自律走行車を適切に減速させて、第1距離D1が安全車間距離DMINよりも大きくなるまで、隣接車両と自律走行車との間の第1距離D1を増加させる。
【0031】
図4に、本発明の一実施形態による、動的仕様を生成するフローチャートを示す。ステップS405では、プロセッサ120が第1センシングデータS1を受信する。次に、ステップS410では、プロセッサ120が隣接車両の複数の特徴を第1センシングデータS1から抽出する。第1センシングデータS1は隣接車両の画像及びLiDARデータを含み、プロセッサ120は、ナンバープレートのナンバー、商標、外観、サイズ、ランプ形状、車輪の数、等のような複数の特徴を、隣接車両の画像及びLiDARデータから抽出し、本発明はこれらに限定されない。ステップS420では、プロセッサ120が隣接車両の複数の特徴を車両分類器に提供する。一実施形態では、車両分類器がモジュール式ソフトウェアを含み、このモジュール式ソフトウェアは、画像及びLiDARの特徴に応じて車両カテゴリを識別し、車両分類器は種々の車両仕様をさらに含む。次に、ステップS430では、車両分類器が、上述した複数の特徴に応じて、隣接車両が識別可能な車両型式であるか否かを判定する。「いいえ」であればステップS440に進み、「はい」であればステップS450に進む。
【0032】
ステップS440では、隣接車両が識別可能な車両型式でないものと車両分類器が判定しているので、車両分類器は、隣接車両が属する車両カテゴリの一般仕様、例えば乗用車、RV(recreation vehicle:レクリエーション・ビークル)、バス、トラックについての一般仕様をさらに調べ、この一般仕様は少なくとも隣接車両の最大減速度を含む。ステップS450では、隣接車両が識別可能な車両型式であるものと車両分類器が判定しているので、車両分類器は、隣接車両が属する車両カテゴリの具体的仕様、例えばトヨタ(登録商標)XXXまたはホンダ(登録商標)YYYの具体的仕様をさらに調べ、この具体的仕様は少なくとも隣接車両の最大減速度を含む。次に、ステップS460では、調べた一般仕様または具体的仕様に応じて、車両分類器は、隣接車両の最大減速度を含む動的仕様を出力する。
【0033】
図5に、本発明の一実施形態による車両間の距離の上面図を示す。一実施形態では、安全車間距離推定システム10が表示装置をさらに含む。この表示装置を用いて車両間の距離の上面図を表示する。この表示装置は、ダッシュボード、フロントガラス、バックミラー、またはモバイル機器上に配置することができ、但しこれらに限定されない。
図5を参照すれば、この表示装置は車両間の距離の3つの表示シナリオを提供することができる。具体的には、センサ110が自律走行車と隣接車両との間の第1距離D1を生成することにより、プロセッサ120は第1距離D1を安全車間距離DMINと比較する。3つの比較結果に対応して、自律走行車と隣接車両との間の距離指示線(第1距離を表す)を異なる色で表示装置上に表示する。例えば、第1距離D1が安全車間距離DMINよりも大きい際には、自律走行車と隣接車両との間の距離指示線が緑色線として表示される。第1距離D1が安全車間距離DMINに等しい際には、自律走行車と隣接車両との間の距離指示線が黄色線として表示される。第1距離D1が安全車間距離DMIN未満である際には、自律走行車と隣接車両との間の距離指示線が赤色線として表示される。このようにして、運転者は、表示装置上の文字または数字を詳細に識別しなければならない代わりに、隣接車両までの距離が安全車間距離を満足するか否かを距離指示線の色により迅速に判定するだけでよく、これによりユーザ体験を改善する。
【0034】
なお、本文中の隣接車両は、自律走行車の周囲の車両を参照する。自律走行車の周囲の車両は、自律走行車からの縦方向距離及び/または横方向距離を有する車両とすることができる。即ち、自律走行車の周囲の車両は、自律走行車の進路の前方、斜め前方、または横方向に位置し得る。自律走行車の周囲の車両の数は2台以上であり得る。但し本発明はこのことに限定されない。
【0035】
RSSモデルは縦方向の安全車間距離及び横方向の安全車間距離を含むので、自律走行車は縦方向の安全車間距離及び横方向の安全車間距離を共に考慮することができる。一実施形態では、縦方向の距離が第1距離D1であり、横方向の距離が第2距離D2である場合、縦方向の安全車間距離は例えば縦方向の安全車間距離DMIN_Vであり、横方向の安全車間距離は例えば横方向の安全車間距離DMIN_Sである。自律走行車と当該自律走行車の周囲の車両との間の第1距離D1が縦方向の安全車間距離DMIN_Vよりも大きく、第2車間距離D2が横方向の安全車間距離DMIN_Sよりも大きい際に、プロセッサ120は、自律走行車と当該自律走行車の周囲の車両との間の縦距離及び横距離が安全確認に合格しており、自律走行車は安全な状態であるものと判定する。他のシナリオでは、自律走行車と当該自律走行車の周囲の車両との間の第1距離D1が縦方向の安全車間距離DMIN_V未満であり、第2距離D2が横方向の安全車間距離DMIN_S未満である際に、プロセッサ120は、自律走行車と当該自律走行車の周囲の車両との間の縦距離及び横距離が安全確認に合格しておらず自律走行車が当該自律走行車の周囲の車両に衝突し得るものと判定する。他のシナリオでは、自律走行車と当該自律走行車の周囲の車両との間の第1距離D1が縦方向の安全車間距離DMIN_V未満であり、第2距離D2が横方向の安全車間距離DMIN_Sよりも大きい場合、あるいは自律走行車と当該自律走行車の付近の車両との間の第1距離D1が縦方向の安全車間距離DMIN_Vよりも大きく、第2距離D2が横方向の安全車間距離DMIN_S未満である際に、プロセッサ120は、自律走行車と当該自律走行車の周囲の車両との間の縦距離及び横距離の一方が安全確認に合格しておらず、自律走行車が当該自律走行車の周囲の車両に衝突する差し迫った危険はないものと判定する。しかし、警告メッセージを運転者に提供して、自律走行車と当該自律走行車の周囲の車両との間の縦距離も横距離も安全確認に合格していない状況を回避することを運転者に気付かせることができる。
【0036】
なお、本発明における摩擦係数、例えば第1摩擦係数μ1、第2摩擦係数μ2、及び転がり摩擦係数μrは例に過ぎない。摩擦の特性に相当する他の摩擦パラメータ、例えば第1摩擦パラメータ、第2摩擦パラメータ、及び転がり摩擦パラメータを処理することができる。
【0037】
要約すれば、本発明では、隣接車両の動的仕様を識別して、自律走行車の周囲の車両の車輪及び当該自律走行車の車輪と舗装道路との間の摩擦係数を推定することにより、自律走行車と当該自律走行車の周囲の車両との間の最大加速度/減速度のリアルタイム推定精度を向上させることができ、安全車間距離を適用することができるシナリオを増加させることができ、自律走行車の信頼性及び安全性を向上させることができる。他方では、表示装置を用いて、安全車間距離と比較した車両間の距離の異なるシナリオを異なる色で表示して、車両間の距離が安全車間距離を満足するか否かを運転者が迅速に判断することを可能にし、これによりユーザ体験を改善する。
【0038】
以上では実施形態により本発明を開示してきたが、これらの実施形態は本発明を限定することを意図していない。この技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の精神及び範囲から逸脱することなしに、種々の変更及び変形を加えることができる。従って、本発明の保護範囲は、添付した特許請求の範囲に支配される。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の安全車間距離推定システム及び安全車間距離推定方法は、自律走行車に適用することができる。
【符号の説明】
【0040】
参照符号リスト
10:安全車間距離推定システム
110:センサ
120:プロセッサ
S210、S220、S230、S240、S310、S320、S330、S340、S350、S360、S370、S380、S390、S405、S410、S420、S430、S440、S450、S460:ステップ