(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】磁気粒子画像化システムのキャリブレーション方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/0515 20210101AFI20230901BHJP
G01R 33/02 20060101ALI20230901BHJP
G01R 35/00 20060101ALI20230901BHJP
G01N 27/72 20060101ALI20230901BHJP
【FI】
A61B5/0515
G01R33/02 X
G01R35/00 M
G01N27/72
(21)【出願番号】P 2021513751
(86)(22)【出願日】2018-05-11
(86)【国際出願番号】 TR2018050225
(87)【国際公開番号】W WO2019216839
(87)【国際公開日】2019-11-14
【審査請求日】2021-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】514023586
【氏名又は名称】アセルサン・エレクトロニク・サナイ・ヴェ・ティジャレット・アノニム・シルケティ
【氏名又は名称原語表記】Aselsan Elektronik Sanayi ve Ticaret Anonim Sirketi
(73)【特許権者】
【識別番号】520440685
【氏名又は名称】イフサン ドグラマジ ビルケント ユニベルシテシ
【氏名又は名称原語表記】IHSAN DOGRAMACI BILKENT UNIVERSITESI
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【氏名又は名称】福井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】チャン バリス トップ
(72)【発明者】
【氏名】セルハト イルベイ
(72)【発明者】
【氏名】アルペル ギュンゴエル
(72)【発明者】
【氏名】ヒューセイン エムレ ギューヴェン
(72)【発明者】
【氏名】トルガ チュクール
(72)【発明者】
【氏名】エミーネ ユルキュ サリタス チュクール
【審査官】外山 未琴
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0020407(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0221103(US,A1)
【文献】特開2009-056232(JP,A)
【文献】特表2012-519865(JP,A)
【文献】Serhat Ilbey et al.,CODED SCENES FOR FAST SYSTEM CALIBRATION IN MAGNETIC PARTICLE IMAGING,2018 IEEE 15th International Symposium on Biomedical Imaging (ISBI 2018),2018年04月,pp.315-318
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/0515
G01R 33/00-33/64
G01N 27/72-27/9093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
視野の磁気粒子の画像化を実行する磁気粒子画像化システムのためのキャリブレーション方法であって、
機械的システムによって前記視野よりも大きなキャリブレーションシーンを1または複数の方向に直線的に動かす、および/または1または複数の軸の周りに回転させるステップであって、前記キャリブレーションシーンは複数のナノ粒子サンプルを含み、前記ナノ粒子サンプルは画像ボクセルボリューム以下のナノ粒子のボリュームを有する、ステップと、
前記視野における無磁場領域をスキャンして、前記キャリブレーションシーンの複数の位置にてキャリブレーション測定データを取得するステップと、
前記測定データおよびデータ取得中の前記キャリブレーションシーンの位置情報を用いることによって、圧縮センシング方法でシステム行列を再構成するステップと、
を含み、
以下の不等式を条件とする最適化問題を用いて、前記システム行列を再構成するステップを含む、方法。
【数1】
ここで、Pは各測定位置での前記視野におけるナノ粒子の密度分布、Aは前記システム行列、Dは前記Aに対するスパース化変換に関連する行列、A
pは符号化キャリブレーションシーンの各測定位置に対してフーリエ空間に変換された測定行列、ε
pはシステムノイズに起因する誤差に関する定数を表す。
【請求項2】
前記キャリブレーションシーンは連続的に移動または回転される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記キャリブレーションシーンにおける前記ナノ粒子は、ランダムまたは擬似ランダムに分布している、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記キャリブレーションシーンにおける前記複数のナノ粒子サンプルは、2つの端部から充填および空にするために互いに接続的に分布している、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
追跡装置を用いて前記キャリブレーションシーンの位置を連続的にモニターして、データ取得中の前記キャリブレーションシーンの位置を測定する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
請求項1に記載されたキャリブレーション方法を実行す
る、磁気粒子画像化システムのためのキャリブレーション装置であって、
MPIシステムの視野よりも大きく、そのボリューム内に分布する複数のナノ粒子サンプルを有するキャリブレーションシーンであって、前記ナノ粒子サンプルは画像ボクセルボリューム以下のナノ粒子のボリュームを含む、キャリブレーションシーンと、
前記キャリブレーションシーンの1または複数の方向の直線的な移動および/または前記キャリブレーションシーンの1または複数の軸の周りの回転運動を実行する機械的システムと、
を含み、
前記キャリブレーションシーンは、ナノ粒子で充填または空にするための、前記キャリブレーションシーンを行き交う任意の経路の少なくとも1つのチューブを備える、装置。
【請求項7】
前記キャリブレーションシーンの外形は、直方体プリズム、円筒状、球状である、請求項6
に記載の装置。
【請求項8】
前記キャリブレーションシーンの移動を追跡するために、1以上のリフレクターが前記キャリブレーションシーンに取り付けられている、請求項6に記載の装置。
【請求項9】
前記キャリブレーションシーンは、ナノ粒子で前記
キャリブレーションシーンを充填または空にする1または複数の開口部を有す
る、請求項6に記載の装置。
【請求項10】
前記キャリブレーションシーンの位置は、追跡装置によって追跡される、請求項6に記載の装置。
【請求項11】
前記機械的システムは、前記MPIシステムと通信して請求項1の前記キャリブレーション方法に対する操作を実行する制御ユニットを含む、請求項6に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、そのボリューム内に分布する複数のナノ粒子サンプルを含む符号化キャリブレーションシーンであって、前記キャリブレーションシーンは1または複数の方向に直線状に移動する、および/または1または複数の軸にて回転する視野よりも大きいキャリブレーションシーン、および前記符号化キャリブレーションシーンを移動させるための機械的システムを提案することによる磁気粒子画像化システムのキャリブレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性ナノ粒子は、血管造影、幹細胞追跡、癌細胞や標的薬の画像化など、医療の様々な目的に使用できる。磁性ナノ粒子は、磁気粒子画像法(MPI)を使用して非侵襲的に画像化できる。磁気粒子画像化方法における画像再構成の標準として、2つの異なる方法が使用されている。
【0003】
第1の方法は、特許文献1に記載されているシステムキャリブレーション方法である。この方法では、少量のナノ粒子サンプルを視野内においてシステム解像度ステップにて機械的にスキャンして、システムのキャリブレーションデータを取得する(非特許文献1)。画像は、このキャリブレーションデータ(システム行列とも呼ばれる)を使用して生成される。標準的なシステムキャリブレーション方法においては、視野内の全てのグリッドポイントでサンプルナノ粒子を機械的にスキャンして測定する必要があるため、キャリブレーション測定は非常に長く続く。あるポイントから別のポイントへの機械的スキャン時間と測定データの取得には約1.3秒かかる(非特許文献2)。30×30×30グリッドポイントの小さな視野に対して、キャリブレーション時間は9.75時間続く。臨床診療では、より大きな画像化ボリュームのキャリブレーションは数ヶ月続きうる。ナノ粒子の特性はバッチごとに異なることが知られており、画像化シーケンスの影響も受けるため、システムを頻繁にキャリブレーションする必要がある。このため、標準的なシステムキャリブレーション方法は、より広い視野を有するシステムには実際には採用できない。また、スキャンされるナノ粒子は、画像のボクセルサイズ以下でなければならないため、スキャンされるサンプル内のナノ粒子の数は制限され、信号対雑音比は小さくなる。信号対雑音比を高める方法は、同じ位置での複数のデータ取得および平均化である。したがって、機械的動作を継続することはできず、スキャナーは全てのグリッドポイントで停止し、目的の信号ノイズレベルに到達するのに十分な測定を行った後、次のポイントに移動する必要がある。これにより、キャリブレーション測定の速度が制限される。
【0004】
最近、特許文献2においてキャリブレーション方法が提案され、その方法では、ナノ粒子サンプルは、視野内のボクセルの総数よりもはるかに少ないランダムな位置でスキャンされる。これは、システム行列が特定の変換ドメイン(離散フーリエ、コサイン、またはチェビシェフ)で希薄(スパース)であるため、圧縮センシング理論(非特許文献3)に従って可能である。この方法では、スキャンされるポイントの数を80~90%削減できることが示されている。視野内の全てのボクセル(N)から測定を行う代わりに、圧縮センシング技術を使用してランダムなM(<N)ボクセル位置で測定数を減らすことによって、システムキャリブレーションを行うこともできる。Mをどれだけ小さくすべきかを解析的に計算することはできないため、画質に応じてM/N比を選択する必要がある。実験画像は上記の文献で得られている。M/N=0.1の場合、画質は許容範囲内であるが、M/N比がそれよりも低い場合には、画質は大幅に低下した。この方法では、キャリブレーション時間を10分の1に短縮できるが、サンプルが機械的にスキャンされるため、非常に長いキャリブレーション時間が必要になり、つまり、200×200×200ポイントの測定領域は、測定に10日以上かかる。
【0005】
第2の再構成方法は、特許文献3において使用されるX空間アプローチである。この方法では、キャリブレーションステップはない。すなわち、画像は、磁気粒子画像化の信号方程式モデルを使用して生成される。画像の再構成は、MPI信号方程式を使用して時間ドメインで行われる。この方法では、MPIハードウェアの理想からのずれは考慮されず、解像度はシステムキャリブレーション法よりも低い。
【0006】
特許文献4は、キャリブレーションおよび測定ボリュームを決定する磁気粒子画像化(MPI)方法を示しており、キャリブレーションボリュームは測定ボリュームよりも大きく、全体の測定ボリュームはキャリブレーションボリューム内に配置される。提案されたキャリブレーション領域は、測定領域よりも数ボクセル大きい領域である。下線を引く理由は、磁性粒子の応答が測定領域の端で急激に消えないためである。測定領域外の磁性粒子サンプルを測定することによって、測定領域外の粒子によって引き起こされる不要なアーチファクトが低減される。
【0007】
イルビーら(非特許文献9)は、MPI画像を再構成するために、全変動とI1ノルム最小化を備えた乗数の交互方向法(拡張ラグランジュ法のサブセット、ADMM)に基づく新しい方法を提案している。この方法は、フィールドフリーラインMPIシステム用にシミュレートされたデータで実証され、その性能が従来の代数的再構成手法と比較されている。ADMMは、構造の類似性が高いことで示されるように、信号対雑音比の低いデータセットに対して画質を向上させ、計算時間を大幅に短縮します。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第8355771号
【文献】米国特許出願公開第2015/0221103号
【文献】欧州特許第3143929号
【文献】米国特許出願公開第20170020407号
【非特許文献】
【0009】
【文献】Weizenecker J, Gleich B, Rahmer J, Dahnke H, Borgert J (2009), Three-dimensional real time in vivo magnetic particle imaging, Phys Med Biol. 2009;54: L1-L10.
【文献】A. von Gladiss, M. Graeser, P. Szwargulski, T. Knopp and T. M. Buzug, Hybrid system calibration for multidimensional magnetic particle imaging, Phys. Med. Biol., vol. 62, no. 9, pp. 3392, 2017.
【文献】Compressed Sensing Theory and Applications, Ed. By Y. C. Eldar, G. Kutyniok, Cambridge University Press, New York, 2012.
【文献】B. Gleich and J. Weizenecker, Tomographic imaging using the nonlinear response of magnetic particles, Nature, 435(7046):1217-1217, 2005. doi: 10.1038/nature03808.
【文献】T. Knopp, J. Rahmer, T. F. Sattel, S. Biederer, J. Weizenecker, B. Gleich, J. Borgert, and T. M. Buzug, Weighted iterative reconstruction for magnetic particle imaging, Phys. Med. Biol., vol. 55, no. 6, pp. 1577-1589, 2010. doi:10.1088/0031 -9155/55/6/003.
【文献】G. R. Arce, D. J. Brady, L. Carin, H. Arguello, and D. S. Kittle, “Compressive Coded Aperture Spectral Imaging,” IEEE Signal Processing Magazine, vol. 31, no. 1, pp. 105-1 15, 2014.
【文献】S. Ilbey et al., “Comparison of system-matrix-based and projection-based reconstructions for field free line magnetic particle imaging,” International Journal on Magnetic Particle Imaging, vol. 3, no. 1, 2017.
【文献】H. E Guven, A. Gungor, and M. Cetin,“An Augmented Lagrangian Method for Complex- Valued Compressed SAR Imaging,” IEEE Trans. Comput. Imaging, 2(3):235-250, 2016.
【文献】S. Ilbey et al., “Image reconstruction for Magnetic Particle Imaging using an Augmented Lagrangian Method”, IEEE 14th International Symposium on Biomedical Imaging, pp. 64-47, 2017, doi: 10.1109/ISBI.2017.7950469.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
フォングラディスら(非特許文献2)は、キャリブレーション手続を加速するための電子キャリブレーション法を開示している。ナノ粒子サンプルは別のキャリブレーションユニットに配置され、これによりMPIシステムにおいてナノ粒子サンプルが晒される磁場を模倣した任意の方向の均一な磁場を生成することができる。この方法は、標準的な方法よりも高速なキャリブレーションを提供するが、別のキャリブレーションユニットを使用する必要がある。MPIシステムの磁場分布は、視野内で個別に測定する必要がある。キャリブレーションユニットの測定値は、MPIシステムの測定値に関連している必要がある。MPIシステムの磁場分布測定では、標準のシステムキャリブレーション測定の場合と同様に、視野内の各ボクセルにて機械的スキャンが必要になるため、電子キャリブレーションの利点は限定される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明においては、符号化キャリブレーションシーンとして参照される大きなキャリブレーション装置が、MPIシステムのキャリブレーションのために提案される。符号化キャリブレーションシーンは、複数の位置にあるナノ粒子サンプルを含む。ナノ粒子サンプルは、1つまたは複数の方向に直線的に移動するか、1つまたは複数の軸の周りを回転する。この移動中に、符号化キャリブレーションシーンの特定の位置にてキャリブレーション測定データが取得される。システムマトリックスは、圧縮センシング法を用いてこの測定データを使用して生成される。この方法を他の利用可能な方法と区別する利点を以下に示す。
【0012】
最先端技術、すなわち特許文献2においては、単一のナノ粒子サンプルが、MPIシステムキャリブレーションのために視野内のボクセルの総数(N)からランダムまたは疑似ランダムに選択されたMボクセルについて、機械的にスキャンされます。本発明においては、複数のナノ粒子サンプルを含み、少なくとも一方向において画像化システムの視野よりも大きいキャリブレーション装置が提案される。その結果、受信信号のレベルは、単一のナノ粒子サンプルから受信した信号のレベルと比較してはるかに高い。これにより、キャリブレーションシーンの連続移動中に測定を行うことができ、キャリブレーション手続を著しくスピードアップできる。また、異なる位置でのナノ粒子サンプルが1回の測定において同時に測定されるため、各測定の情報量が増加する。したがって、システムキャリブレーションマトリックスは、より少ない測定値を使用して形成できる。これは、広い視野を持つシステムに利点を提供する。
【0013】
フォングラディスら(非特許文献2)によって提案された方法では、ナノ粒子の特性付けには別のキャリブレーションユニットが使用される。したがって、MPIシステムの視野内の磁場の測定が必要である。本発明においては、単一のキャリブレーションスキャンにおいて全ての効果(磁場の不均一性、ナノ粒子応答)が考慮される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】磁気粒子画像化設定のボアの断面、2つのゾーンを有する不均一な一次磁場、均一な二次磁場および視野を示す図である。
【
図2】仮想的に小さなボクセルに分割された全視野、およびナノ粒子を含むサンプルを使用したキャリブレーション設定を示す図である。
【
図3】複数のナノ粒子サンプルがボリューム内にランダムまたは疑似ランダムに分布している符号化キャリブレーションシーンを示す図である。
【
図4】シミュレーションモデルを使用した、同じノイズレベルに対する標準の圧縮センシング法と提案された方法との比較を示す図である。本発明の方法は、より少ない測定回数(M)でよりよい画質示している。
【
図5】0度での球状キャリブレーションシーンのナノ粒子の位置を示す図である。
【
図6】45度での球状キャリブレーションシーンのナノ粒子の位置を示す図である。
【
図7】ある軸で回転し、別の軸でスライドする球状キャリブレーションシーンを示す図である。
【
図8】キャリブレーションステージと回転メカニズムが異なる回転軸の周りに回転することを示しています。
【
図9】球状キャリブレーションシーンおよび球状キャリブレーションシーンの直線運動および回転運動の外部メカニズムを上面図である。
【
図10】球状キャリブレーションシーンおよび球面キャリブレーションシーンの直線運動および回転運動の外部メカニズムを示す側面図である。
【
図11】細いチャネルで相互に接続されたナノ粒子チャンバー、および充填または排出するための1つ以上のポイントを含むキャリブレーションシーンを示す図である。
【
図12】ロッド状ナノ粒子サンプルを含む球状シーンを示す図である。
【
図13】スライドベルト上で直線運動をする長い直方体プリズムとして設計されたキャリブレーションシーンを示す図である。
【
図14】円筒状キャリブレーションシーン、およびそのシーンの直線運動および回転運動させるための外部メカニズムを示す上面図である。
【
図15】円筒状キャリブレーションシーン、およびそのシーンの直線運動および回転運動させるための外部メカニズムを示す側面図である。
【
図16】ナノ粒子サンプルの円柱状キャビティを備えた円筒状キャリブレーションシーンを示しています。
【
図17】キャリブレーションシーン内の磁性ナノ粒子を充填するための単一の入力(27)および排出するための出力(28)を備えた3次元の複雑な曲線の形態の細いチューブ(29)を含む実施形態を示す。キャリブレーションシーンは、ナノ粒子でチューブを充填または空にするためにキャリブレーションシーンを行き交う任意の経路の単一または複数のチューブを含みうる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に示すような磁場発生器と測定装置とからなるMPIシステム(1)においては、磁性ナノ粒子の分布は、2つのゾーンを有する不均一な一次磁場(2)を使用して画像化される(非特許文献4)。これら2つのゾーンのうちの第1のゾーン(3)は、磁場強度が非常に低く、無磁場領域(FFR)と呼ばれる。FFRの磁性ナノ粒子は、二次外部磁場(5)の方向に磁化されうる。第2のゾーン(4)では、磁場強度が高く、この領域の磁性ナノ粒子は飽和状態にある。したがって、それらは二次外部磁場(5)に対してわずかに反応する。二次外部磁場(5)は、時間変化する磁場として視野(6)全体に印加される。FFR内の磁性ナノ粒子の時間依存磁化は、受信コイルによって測定される。測定された信号の振幅は、FFR内のナノ粒子の数に正比例する。FFRは、視野(6)全体にわたって電子的または機械的にスキャンされ、視野(6)内のナノ粒子分布を取得する。磁性ナノ粒子は非線形の磁化曲線を有しているため、FFRの粒子からの受信信号には、送信信号の周波数の高調波成分が含まれている。受信信号の特性は、ナノ粒子の特性(サイズ、形状、材料など)、ナノ粒子環境(粘度、温度)、および画像化システムの磁場の特性に依存する。MPIにおいては、システムキャリブレーション法に基づく画像再構成法で最高の画質が得られ、この方法はこれら全ての影響を考慮している(非特許文献5)。
【0016】
システムキャリブレーション画像再構成法では、最初に視野(6)全体が仮想的に小さなボクセル(7)に分割される。システム行列は、ボクセル(7)のサイズを有する磁性ナノ粒子で満たされたサンプル(8)を使用して形成される。このために、ナノ粒子を含むサンプル(8)は、機械式スキャナー(9)を使用して全てのボクセル位置までスキャンされる。
【0017】
二次磁場信号が印加され、受信コイルによって受信されたナノ粒子信号は、デジタル記憶装置(例えば、ハードディスク)に記憶される。実際には、測定データは同じボクセルポイントで複数回取得され、測定データを平均化することによって信号対雑音比が向上する。単一のボクセルからの測定信号は、フーリエ変換を使用して周波数領域に変換され、システム行列(A)の列を形成する。システム行列全体は、全てのボクセル位置にて測定を行うことによって生成される。このプロセスは、キャリブレーションステップと呼ばれる。
【0018】
画像化のために、測定データはオブジェクト内のFFRをスキャンすることによって取得され、画像はこの測定データおよびシステムマトリックスを使用して再構成される。この目的のために、線形方程式セットAx=bが解かれる。この方程式セットにおいて、Aはシステム行列、Bはオブジェクトから取得した測定ベクトル、xはオブジェクト内のナノ粒子分布である。システム行列キャリブレーション法の主な欠点は、その持続時間が長いことである(ボクセル当たり約1.3秒に、ボクセル数が掛けられる)(非特許文献2)。また、ナノ粒子のサンプルサイズが非常に小さいため、信号レベルが低く、複数の測定を行うことによって信号対雑音比を上げる必要がある。これにより、連続的な機械的スキャンを妨げ、測定期間が長くなる。
【0019】
本発明は、従来技術の問題を解決するために、符号化キャリブレーションシーン(10)の使用を提案する。符号化キャリブレーションシーン(10)は、そのボリューム内に分散された複数のナノ粒子サンプルを含む装置として定義できる。この方法には次の利点がある。信号レベルは、キャリブレーションスキャンにおいて使用される粒子の数に比例して増加し、圧縮センシング問題の状態が増加する(非特許文献6)。その結果、グリーディ再構成アルゴリズム、近似メッセージパッシング、最適化ベースの手法などの圧縮センシングアルゴリズムを使用して、より少ない数の測定でキャリブレーションが可能となる(非特許文献3)。
【0020】
圧縮センシング理論によれば、キャリブレーションシーンの相互の相関を最小限に抑える必要がある。このため、ナノ粒子は各キャリブレーションシーンにランダムまたは疑似ランダムに分布する可能性があります。
【0021】
この方法の実装は次のとおりである。すなわち、まず、測定されるキャリブレーションシーンの数Mが事前に決定される。このために、画像化システムのシミュレーションモデルを使用することができるか、あるいは生成された画像化システムのシステムテスト中に多数のキャリブレーションシーンが生成される。新しいシーンは、臨床的な観点から画質が十分なレベルに達するまで測定される。M符号化キャリブレーションシーンのために、測定データが収集されて記録される。これらの測定が一旦行われると、以下の最適化問題を使用してシステム行列Aが再構築される。
【数1】
ここで、Pは測定された符号化キャリブレーションシーンのナノ粒子密度行列、Dは離散フーリエ変換、離散チェビシェフ変換、離散コサイン変換、またはベクトルを元のドメインよりも少ない係数で表すことができるその他の変換などのスパース化変換に関連付けられた変換行列、A
pは各測定位置のフーリエ空間に変換された測定行列、ε
pは、システムノイズによって引き起こされるエラーに関連する定数を表す。文献中の様々なアルゴリズムを使用して、上記の最適化問題を解くことができる(例えば、高速反復収縮しきい値アルゴリズム(FISTA)、乗数交互方向法(ADMM))(非特許文献7)。さらに、同様の正則化関数を追加したり、束縛条件のない形式を使用したりしても、本発明の説明された利点は変わらない。
【0022】
図4に示すシミュレーションモデルを使用して、本発明の方法が、同じノイズレベルの標準圧縮センシング方法と比較されている。N=3200ピクセルのオブジェクトは、M=2560キャリブレーションポイントと標準圧縮センシングキャリブレーション法、およびM=320の符号化キャリブレーションシーンを用いて画像化された。得られた画質は、標準圧縮センシング法では劣っていたが、符号化キャリブレーションシーンを用いて高品質の画像が得られた。
【0023】
一実施形態では、Pによって表されるランダムポイントは、不等式で与えられる問題の解決時間を短縮するために、ハダマード行列などの迅速に変換できるドメインから選択することができる。この場合、P行列は、マスクされたユニタリ変換として表すことができる。最適化問題は、マスクされユニタリ変換された空間を含む状況で効率的に解決できることが以前に示されている(非特許文献8)。このようにして、解決時間の問題をさらに減らすことができる。
【0024】
実際には、符号化キャリブレーションシーンを切り替える時間は、単一の符号化キャリブレーションシーンの測定時間よりもはるかに長いだろう。したがって、合計キャリブレーション期間は、使用される符号化キャリブレーションシーンの総数と、符号化キャリブレーションシーンの変更(置換)に必要な時間によって決まるだろう。この問題を軽減するために、本発明では、少なくとも一方向において視野よりも大きいキャリブレーションシーンが提案される。キャリブレーションシーンを1つずつ変更する代わりに、シーンを1つまたは複数の方向に直線的に移動したり、1つまたは複数の中心の周りで回転させたりする。キャリブレーション測定は、連続動作中の特定の位置で行われる。画像化視野内のナノ粒子分布は、時間の関数として変化する。したがって、異なる時点で、キャリブレーションシーンの異なる部分が視野に存在する。好ましい実施形態では、測定は、キャリブレーションシーンの連続動作中に行われる。これは、キャリブレーションシーンにおいて使用されるナノ粒子の数が多い結果、信号対雑音比が高い場合に可能である。その結果、測定を繰り返して平均化する必要はない。このようにして、測定時間を大幅に短縮することができる。その結果、システムを頻繁にキャリブレーションして、高画質を得ることができる。
【0025】
キャリブレーションシーンでのナノ粒子サンプルの位置を正確に知る必要がある。キャリブレーションシーンは、高精度の作成方法で作成することができる、および/またはX線画像化などの高解像度の画像化方法を用いた作成後に測定することができる。
【0026】
キャリブレーションシーンは、直線的および/または円状に移動できる。例示的な実施形態では、球状キャリブレーションシーンが1つの軸を中心に回転され、測定がK度間隔で行われる。キャリブレーションシーンでのナノ粒子サンプル(8)の位置は、回転角の関数として変化する。例えば、0度と45度の角度での球状キャリブレーションシーン(11)のナノ粒子の位置をそれぞれ
図5および
図6にそれぞれ示す。回転角ごとに、視野グリッド内のナノ粒子の新しい位置、および新しい位置の各グリッドポイントでのナノ粒子密度が計算される。この計算の誤差は、回転機構の回転測定の精度に依存する。この精度が十分でない場合は、レーザートラッカーや同様の目的のデバイスなど、高感度の位置トラッカーを使用して新しい位置を正確に測定できる。システムマトリックスを高精度で取得するために、このプロセスを幾つか(L)の異なる回転中心(12)で繰り返して、測定データの量を増やすことができる。この場合、測定の総数はm=(360/K)×Lである。これらの測定が行われると、上記の不等式で与えられた最適化問題を解くことにより、システム行列が再構築される。不等式では、Pは各測定位置での視野内のナノ粒子密度分布を含むマトリックスである。
【0027】
キャリブレーションシーンを1つの軸(13)を中心に並進および回転させるメカニズムを使用して、キャリブレーションシーンを移動および/または回転させることができる。キャリブレーションシーンを回転させるために必要なメカニズム(13)は、統合ユニットとして、またはMPIシステム(1)に対する外部ユニットとして設計できる。例示的な実施形態を
図7に示す。ここで、球状キャリブレーションシーン(11)は、1つの軸で回転し、別の軸でスライドする。このように、視野中心に関して異なる回転中心にてキャリブレーションシーンを測定することができ、キャリブレーションシーン測定の多様性を高めることができる。直線的なスライド運動および回転運動は、キャリブレーション中に連続的でありえ、ステップ運動と比較してキャリブレーション時間を短縮する。
【0028】
図8に示すように、2つの軸(14)の周りにキャリブレーションシーンを並進および回転させるメカニズムを設計して、異なる回転軸の周りに回転させることもできる。この場合、P行列の自己相関の調整を改善することができ、これは最適化問題の解決に有用である。この方法の実装において、MPIシステムの機械的要件に従って、キャリブレーションシーンおよび回転メカニズムを外部ユニットとして設計することもできる。このような実装を
図9および
図10に示す。
図9においては、球状キャリブレーションシーン(11)が上面図で示されており、レール付きスライド(16)での直線的なスライド運動およびリールシステムによる回転軸(17)の周りでの回転運動をさせる。
図10は、このキャリブレーションシステムの側面図を示している。キャリブレーションシーン(15)を並進および回転させるための補助機械システムは、キャリブレーションシーンの直線および回転運動を実行するために必要な機器(モーター、エンコーダ、運動伝達要素、およびコンピューター制御インターフェース)を含む。好ましい実施形態では、機械システムは、MPIシステム(1)と通信して、キャリブレーションシーンを使用してキャリブレーション手続を実行する制御ユニットを含む。この目的のために、制御ユニットは、電子的手段によってMPIシステムからキャリブレーションシーンの必要な位置を受信し、キャリブレーションシーンを必要な位置に移動させ、機械システムのエンコーダから得られたキャリブレーションシーンの位置情報を出力し、および/またはキャリブレーションシーンの位置を測定するデバイスを追跡する。
【0029】
キャリブレーションシーンは、異なるナノ粒子の速やかな充填(および排出)を可能とする必要がある。一実施形態では、3次元符号化キャリブレーションシーンは、ナノ粒子サンプルを変更することを可能にする複数の機械的に分離可能な層によって形成することができる。別の実施形態では、単層キャリブレーションシーンを2次元でのキャリブレーションに使用することができる。3次元で機械的にスキャンして、3次元の視野をキャリブレーションすることができる。
図11は、別の実施形態、すなわち、細いチャネル(18)によって互いに接続されたナノ粒子チャンバーと、キャリブレーションシーン内の磁性ナノ粒子を充填または排出するための開口部(19)とを含むキャリブレーションシーンを示している。キャリブレーションシーンは、ナノ粒子で構造を充填または空にするための1つまたは複数の開口部を備えた中空構造である。
【0030】
キャリブレーションシーンに存在するナノ粒子サンプルは、単一のボクセル(10)に適合する必要はない。シーンは、異なるサイズおよび形状のナノ粒子サンプルを含むことができる。例えば、ナノ粒子サンプルは、球状、楕円状、または直方体のプリズムなどの任意の形状であり、多くのボクセルをカバーすることができる。一実施形態では、
図12に示されるようなロッド状のナノ粒子サンプル(20)を備えた球形のシーンが考慮される。ロッドは、容易に取り出してシーンに挿入することができる。キャリブレーションシーンは、球状、円柱状、立方体、直方体のプリズムなど、任意の形状で作成できる。
【0031】
図13に示される別の実施形態では、長い直方体のプリズムとして設計されたキャリブレーションシーン(21)は、スライドベルト(22)上での直線運動のみを行わせる。キャリブレーション測定は、視野内の特定の位置で行われる。
図13は、移動中の位置を正確に測定するための光学リフレクター(23)およびレーザートラッカー(24)も示している。1つまたは複数のリフレクターをキャリブレーションシーンに取り付けて、その動きを追跡することができる。
【0032】
図14および15に示された実施形態では、円筒状のキャリブレーションシーン(25)が採用されている。キャリブレーションシーンのボリュームが広いため、
図9および10に示されたキャリブレーションシーンで必要とされる回転数よりも少ない回転数でキャリブレーションを実行することができる。しかしながら、このようなキャリブレーションシーンは大きな開口部を必要とし、これはオープンボアMPIシステムに適しているかもしれない。
【0033】
図16は、速やかに充填および空にすることができるナノ粒子サンプル用の柱状キャビティ(26)を含む実施形態を示している。
【0034】
図17は、キャリブレーションシーン内の磁性ナノ粒子を充填するための単一の入力(27)および排出するための出力(28)を備えた3次元の複雑な曲線の形状の細いチューブ(29)を含む実施形態を示している。キャリブレーションシーンは、ナノ粒子でチューブを充填または空にするためにキャリブレーションシーンを行き交う任意の経路の単一または複数のチューブを含みうる。
【符号の説明】
【0035】
1 MPIシステム
2 一次磁場
3 一次磁場の第1ゾーン
4 一次磁場の第2ゾーン
5 二次磁場
6 視野
7 ボクセル
8 磁性ナノ粒子サンプル
9 機械的スキャナー
10 符号化キャリブレーションシーン
11 球状キャリブレーションシーン
12 回転中心
13 1つの軸の周りでキャリブレーションシーンを並進および回転させるメカニズム
14 2つの軸の周りでキャリブレーションシーンを並進および回転させるメカニズム
15 キャリブレーションシーンを並進および回転させるための補助メカニズム
16 レール付きスライド
17 回転軸
18 細いチャネル
19 開口部
20 ロッド状ナノ粒子サンプル
21 直方体プリズムキャリブレーションシーン
22 スライドベルト
23 光学リフレクター
24 レーザートラッカー
25 円筒状キャリブレーションシーン
26 柱状キャビティ
27 磁性ナノ粒子をキャリブレーションシーンの内部に充填するための入力
28 磁性ナノ粒子をキャリブレーションシーンの内部から排出するための出力
29 細いチューブ