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特許7341248ヒト脂肪由来間葉幹細胞から毛乳頭細胞への分化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】ヒト脂肪由来間葉幹細胞から毛乳頭細胞への分化方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20230901BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20230901BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20230901BHJP
   A61K 35/36 20150101ALI20230901BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20230901BHJP
   A61K 8/98 20060101ALI20230901BHJP
   A61Q 7/00 20060101ALI20230901BHJP
   A61K 35/28 20150101ALN20230901BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12N5/0775
C12N5/077
A61K35/36
A61P17/14
A61K8/98
A61Q7/00
A61K35/28
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021553341
(86)(22)【出願日】2020-09-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-27
(86)【国際出願番号】 KR2020013108
(87)【国際公開番号】W WO2021153876
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2021-09-07
(31)【優先権主張番号】10-2020-0011970
(32)【優先日】2020-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521402387
【氏名又は名称】レディアン カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】RADIANT.CO.LTD
【住所又は居所原語表記】31, Geodudanji 1-gil, Dongnae-myeon, Chuncheon-si, Gangwon-do 24398, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】イ,ス ヨン
【審査官】藤山 純
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-518812(JP,A)
【文献】特表2010-534072(JP,A)
【文献】国際公開第2017/051912(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2007-0018738(KR,A)
【文献】Veraitch O, et al.,Induction of hair follicle dermal papilla cell properties in human induced pluripotent stem cell-derived multipotent LNGFR(+) THY-1(+) mesenchymal cells.,Sci Rep.,vol.7,2017年02月21日,e42777
【文献】Jurek, S et al.,Optimizing adipogenic transdifferentiation of bovine mesenchymal stem cells: a prominent role of ascorbic acid in FABP4 induction,Adipocyte,9(1),2020年01月29日,pp.35-50
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 3/00
C12N 5/0775
C12N 5/077
A61K 35/28
A61K 35/36
A61P 17/14
A61K 8/98
A61Q 7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレート内部にゼラチンがコーティングされているプレートと、
動物細胞培養用培地にレチノイン酸(retinoic acid)、ウシ胎児血清(FBS)、ペニシリン(penicillin)及びストレプトマイシン(streptomycin)が添加されて組成された1次分化用培地と、
動物細胞培養用培地に線維芽細胞成長因子-2(fibroblast growth factor-2;bFGF)、骨形成タンパク質2(human recombinant BMP2)、グリコーゲン合成キナーゼ3α/β抑制剤(6-bromoindirubin-3’-oxime)、ウシ胎児血清(FBS)、ペニシリン(penicillin)及びストレプトマイシン(streptomycin)が添加されて組成された2次分化用培地と、
を含むことを特徴とする、ヒト脂肪由来幹細胞から毛乳頭細胞への分化を誘導するための、毛乳頭細胞分化誘導用キット
【請求項2】
前記プレートは、ポリスチレンプレートである請求項1に記載の毛乳頭細胞分化誘導用キット
【請求項3】
内部にゼラチンがコーティングされているプレートに動物細胞培養用培地を添加し、ヒト脂肪由来間葉幹細胞をローディングして、ヒト脂肪由来間葉幹細胞を培養し前記プレートに付着させる段階(a)、
前記プレートに付着した、前記段階(a)の動物細胞培養用培地で培養されたヒト脂肪由来間葉幹細胞を、1次分化用培地に交替して培養する段階(b)、
前記プレートに付着した、前記段階(b)の1次分化用培地で培養されたヒト脂肪由来間葉幹細胞を、2次分化用培地に交替して培養する段階(c)を含み、
前記段階(b)の1次分化用培地は、動物細胞培養用培地にレチノイン酸(retinoic acid)、ウシ胎児血清(FBS)、ペニシリン(penicillin)及びストレプトマイシン(streptomycin)が添加されて組成されたものであり、
前記段階(c)の2次分化用培地は、動物細胞培養用培地に線維芽細胞成長因子-2(fibroblast growth factor-2;bFGF)、骨形成タンパク質2(human recombinant BMP2)、グリコーゲン合成キナーゼ3α/β抑制剤(6-bromoindirubin-3’-oxime)、ウシ胎児血清(FBS)、ペニシリン(penicillin)及びストレプトマイシン(streptomycin)が添加されて組成されたことを特徴とする、ヒト脂肪由来幹細胞の毛乳頭細胞への分化誘導方法。
【請求項4】
請求項の方法によってヒト脂肪由来幹細胞から分化させた毛乳頭細胞を含むことを特徴とする、毛髪成長促進又は脱毛防止用化粧料組成物。
【請求項5】
請求項の方法によってヒト脂肪由来幹細胞から分化させた毛乳頭細胞を含むことを特徴とする、毛髪成長促進又は脱毛防止用薬学組成物。
【請求項6】
前記薬学組成物は、皮膚外用剤である請求項に記載の毛髪成長促進又は脱毛防止用薬学組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼラチンを含む分化誘導用細胞培養プレートにおいてヒト脂肪由来間葉幹細胞から毛乳頭細胞へと分化誘導培地組成物を用いて分化させる方法及び前記培地組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
脱毛の種類は、男性型、女性型、中止型、円形脱毛に区分できる。様々な要因により、毛嚢を構成する毛乳頭細胞が毛嚢近傍の細胞と相互作用しながら毛髪の形成と成長に影響を及ぼし、成長周期を調節する役割を担当するが、脱毛の原因となる諸要因によって毛嚢が退化して毛髪が育たず、毛が脱落する脱毛が発生する。
【0003】
近年、韓国国民健康保険公団の統計によれば、脱毛で病院を訪れる患者は年に21万人であり、その約44%が20~30代で、女性患者も全患者の45%に達しており、年齢や性別を問わずに脱毛が発生している。また、10代以下の脱毛患者の比率も増加しつつあり、脱毛はもう中壮年層に限る問題とは言えず、社会全般にわたって脱毛は疾病であるとの認識が広がっている。
【0004】
脱毛を治療するために主に、自己毛髪移植、薬物治療を行っており、自己毛髪移植は、永久的な治療が可能であるという長所があるが、費用が高く、脱毛部位が広い場合には数回にわたって手術しなければならないという短所がある。また、薬物治療は、服用及び投与は簡易であるが、脱毛の進行を遅延させたり現在状態を維持するように手伝う用途であって、永久的な治療方法とは言えず、薬物による副作用も存在するという限界がある。その他にも遺伝子治療などの様々な方法が開発されているが、未だ安全性とその効果に対する立証が完了しておらず、臨床的適用までは時間がかかると思われる。
【0005】
最近では、脱毛の治療に幹細胞を応用及び適用する技術が脚光を浴びている。頭皮のあちこちに脂肪由来幹細胞を注入する方式、幹細胞の多分化能を用いて毛乳頭細胞への分化を誘導した後、移植によって体内で毛嚢を形成する方式などが試みらている。しかし、注入した脂肪由来幹細胞は、脱毛の根本的な治療である新しい毛嚢を形成するものでなく、毛乳頭細胞への分化を誘導する場合、遺伝子操作によって分化された細胞の安定性、遺伝子操作に対する心理的拒否感、及び経済性を解決する必要がある。したがって、安全性を確保しつつ経済的であり、且つ遺伝子操作無しで効果的に脱毛治療ができる方案を開発する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、経済的に体外で効率よく大量培養を可能にする効果を発揮できる、ゼラチンを含む分化誘導用細胞培養プレートにおいて、ヒト脂肪由来間葉幹細胞から毛乳頭細胞への分化誘導培地組成物を用いた分化方法及び前記培地組成物を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、プレートの内部にゼラチンがコーティングされていることを特徴とする毛乳頭細胞分化誘導用プレートを提供する。
【0008】
本発明において、前記プレートは、好ましくは、ポリスチレンプレートであってよい。
【0009】
本発明において、前記プレートは、好ましくは、ヒト脂肪由来幹細胞から毛乳頭細胞への分化を誘導するためのものであってよい。
【0010】
また、本発明は、内部にゼラチンがコーティングされているプレートに、動物細胞培養用培地を添加し、ヒト脂肪由来間葉幹細胞をローディングして、ヒト脂肪由来間葉幹細胞を培養する段階(a)、前記段階(a)の動物細胞培養用培地で培養されたヒト脂肪由来間葉幹細胞を、1次分化用培地に交替して培養する段階(b)、前記段階(b)の1次分化用培地で培養されたヒト脂肪由来間葉幹細胞を、2次分化用培地に交替して培養する段階(c)を含み、前記段階(b)の1次分化用培地は、動物細胞培養用培地にレチノイン酸(retinoic acid)、ウシ胎児血清(FBS)、ペニシリン(penicillin)及びストレプトマイシン(streptomycin)が添加されて組成されたものであり、前記段階(c)の2次分化用培地は、動物細胞培養用培地に、線維芽細胞成長因子-2(fibroblast growth factor-2;bFGF)、骨形成タンパク質2(human recombinant BMP2)、グリコーゲン合成キナーゼ3α/β抑制剤(6-bromoindirubin-3’-oxime)、ウシ胎児血清(FBS)、ペニシリン(penicillin)及びストレプトマイシン(streptomycin)が添加されて組成されたことを特徴とする、ヒト脂肪由来幹細胞の毛乳頭細胞への分化誘導方法を提供する。
【0011】
本発明は、前記分化誘導方法によってヒト脂肪由来幹細胞から分化させた毛乳頭細胞を含むことを特徴とする、毛髪成長促進又は脱毛防止用化粧料組成物を提供する。
【0012】
本発明は、前記分化誘導方法によってヒト脂肪由来幹細胞から分化させた毛乳頭細胞を含むことを特徴とする、毛髪成長促進又は脱毛防止用薬学組成物を提供する。
【0013】
本発明において、前記薬学組成物は、好ましくは皮膚外用剤である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のゼラチンを含むプレートは、ヒト脂肪由来間葉幹細胞から毛乳頭細胞への直接交差分化を誘導する効果が発揮でき、経済的な素材を使用することにより、低費用で効率的に体外で大量培養可能にする効果が発揮できる。
【0015】
本発明のヒト脂肪由来間葉幹細胞から分化された毛乳頭細胞は、脱毛予防又は治療のための細胞治療剤組成物として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の分化させたヒト脂肪由来間葉幹細胞(dADSC)に対して毛乳頭細胞特異的遺伝子の遺伝子発現様相を確認した実験結果グラフである。比較のために、毛乳頭細胞(DPC)と分化させていないヒト脂肪由来間葉幹細胞(ADSC)を使用した。
図2】本発明の本発明の分化させたヒト脂肪由来間葉幹細胞(dADSC)に対して毛乳頭細胞特異的遺伝子に対する流細胞分析(FACS)を行った実験結果である。比較のために、毛乳頭細胞(DPC)と分化させていないヒト脂肪由来間葉幹細胞(ADSC)を使用した。a)は流細胞分析結果であり、これを数値化してb)のグラフで示した。
図3】マイクロアレイを用いたサンプル間グループ化データ(Hierarchical clustring & MDS plot)を示す結果である。
図4】マイクロアレイを用いた各細胞間毛乳頭細胞様遺伝子発現パターン(Wnt signal)を確認した結果である。
図5】マイクロアレイ結果連係の類似信号伝達予想経路を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、プレートの内部にゼラチンがコーティングされていることを特徴とする毛乳頭細胞分化誘導用プレートを提供する。本発明の「ゼラチン」のコーティングされているプレートを用いる場合、ヒト脂肪由来間葉幹細胞から毛乳頭細胞への直接交差分化を誘導する効果が発揮でき、経済的な素材を使用することにより、低費用で効率よく体外で大量培養可能にする効果が発揮できる。
【0018】
本発明において、前記プレートは、好ましくはポリスチレンプレートである。
【0019】
本発明において、前記プレートは、幹細胞の分化及び増殖のために、適切な細胞外基質分子を使用しなければならない。使用可能な細胞外基質分子には、コラーゲン(collagen)、フィブロネクチン(Fibronectin)、マトリゲル(Matrigel)、ゼラチン(Gelatin)などがあり、本発明では、好ましくは、細胞の分化及び増殖率が最も高かったゼラチンを使用しており、フィーダー細胞(feeder cell)を含まず、ゼラチンのコーティングされている培養プレートを使用している。これにより、増殖及び分化のための共培養段階が省かれ、分化にかかる時間を短縮して患者への迅速な適用が可能であり、フィーダー細胞(feeder cell)の培養過程での汚染による疾病伝染可能性を下げ、分化細胞の安全性を高める効果が得られる。
【0020】
本発明において、前記プレートに含まれるゼラチンは、様々な濃度で使用することができ、好ましくは0.1~0.2重量%である。
【0021】
前記プレートは、好ましくはヒト脂肪由来幹細胞から毛乳頭細胞への分化を誘導するためのものであってよい。
【0022】
本発明は、内部にゼラチンがコーティングされているプレートに動物細胞培養用培地を添加し、ヒト脂肪由来間葉幹細胞をローディングして、ヒト脂肪由来間葉幹細胞を培養する段階(a)、前記段階(a)の動物細胞培養用培地で培養されたヒト脂肪由来間葉幹細胞を、1次分化用培地に交替して培養する段階(b)、前記段階(b)の1次分化用培地で培養されたヒト脂肪由来間葉幹細胞を、2次分化用培地に交替して培養する段階(c)を含む。前記段階(b)の1次分化用培地は、動物細胞培養用培地にレチノイン酸(retinoic acid)、ウシ胎児血清(FBS)、ペニシリン(penicillin)及びストレプトマイシン(streptomycin)が添加されて組成されたものであり、前記段階(c)の2次分化用培地は、動物細胞培養用培地に線維芽細胞成長因子-2(fibroblast growth factor-2;bFGF)、骨形成タンパク質2(human recombinant BMP2)、グリコーゲン合成キナーゼ3α/β抑制剤(6-bromoindirubin-3’-oxime)、ウシ胎児血清(FBS)、ペニシリン(penicillin)及びストレプトマイシン(streptomycin)が添加されて組成されたものであることを特徴とする、ヒト脂肪由来幹細胞の毛乳頭細胞への分化誘導方法を提供する。
【0023】
前記本発明のヒト脂肪由来幹細胞の毛乳頭細胞への分化誘導方法は、「ゼラチン」のコーティングされているプレートにヒト脂肪由来幹細胞をローディングした後、動物細胞培養用培地、1次分化用培地、2次分化用培地へと順に交換することにより、毛乳頭細胞への分化を誘導する方法であるが、前記動物細胞培養用培地は、当業界で動物細胞培養のために用いられる如何なるものも使用可能である。ただし、好ましくは、ウシ胎児血清(FBS)、ペニシリン(penicillin)及びストレプトマイシン(streptomycin)が添加されて組成されたものを使用する。より好ましくは、市販されているDMEM/高グルコース(HIGH GLUCOSE)培地に、ウシ胎児血清(FBS)、ペニシリン(penicillin)及びストレプトマイシン(streptomycin)が添加されて組成されたものを使用することである。
【0024】
本発明の動物細胞培養用培地において、前記ウシ胎児血清は、好ましくは5~15%であり、より好ましくは10%である。
【0025】
本発明の1次分化用培地において、前記レチノイン酸は、好ましくは0.001~1mMであり、より好ましくは0.001~0.1mMである。
【0026】
本発明の2次分化用培地において、前記線維芽細胞成長因子-2は、好ましくは1~1000ng/mlであり、より好ましくは1~40ng/mlである。本発明の2次分化用培地において、前記骨形成タンパク質2は、好ましくは1~1000ng/mlであり、より好ましくは1~400ng/mlである。また、本発明の2次分化用培地において、前記グリコーゲン合成キナーゼ3α/β抑制剤は、好ましくは1~100uMであり、より好ましくは1~10uMである。
【0027】
本発明の分化誘導方法において、前記段階(a)~(c)は、好ましくは3~7% CO及び35~39℃の温度で培養することであり、本発明では5% CO及び37℃の温度で培養した。このとき、細胞培養のための最適温度は、主に、細胞が分離された宿主の体温に依存する条件であり、5% COは、細胞代謝と生長をモニタリングするために、養分の限定された培地において養分の消耗時期を把握するために添加したpH指示薬であるフェノールレッド(Phenol red)の正常作用のために、細胞代謝過程で発生した培地中のCOがインキュベーター(Incubator)内に気化することを防ぐための条件である。
【0028】
本発明の分化誘導方法において、前記段階(a)は、細胞付着を安定化させる段階であって、好ましくは1~2日間培養することであり、本発明では1日培養した。また、前記段階(b)は、細胞分化促進因子を処理する段階であって、好ましくは1~7日間培養ことであり、本発明では3日間培養した。また、前記段階(c)は、毛乳頭細胞特性誘発因子を処理する段階であって、好ましくは、1~14日間培養することであり、本発明では4日間培養した。
【0029】
本発明の分化誘導方法において、前記段階(b)及び(c)で使用する培地は、毎日1回ずつ交替した。これは、培地の新鮮さ(fresh)を維持するための目的であり、分化培地に共に処理する因子は、高い温度で長く保持されると活性が低下するため、培地を交替して使用することがよい。
【0030】
本発明において、前記ヒト脂肪由来幹細胞は、好ましくはヒト脂肪由来間葉幹細胞であるとよい。前記間葉幹細胞は、好ましくは、骨髄、脂肪組織又は臍帯から由来したものである。
【0031】
既存の研究では、他の起原の細胞をIPS細胞(IPS cell)に誘導した後、分化させる方法を用いていた。これに対し、本発明は、前記ヒト脂肪由来幹細胞から毛乳頭細胞への分化誘導方法において、間葉幹細胞から毛乳頭細胞に直接交差分化(Direct conversion、Trans-differentiation)させるという点に特長がある。
【0032】
本発明において、前記毛乳頭細胞に分化された間葉幹細胞は、好ましくは毛乳頭細胞特異的遺伝子であるLEF-1、Corin、Wnt5aからなる群から選択されるいずれか一つ以上を発現するものである。
【0033】
本発明は、前記分化誘導方法によってヒト脂肪由来幹細胞から分化させた毛乳頭細胞を含むことを特徴とする、毛髪成長促進又は脱毛防止用化粧料組成物を提供する。
【0034】
本発明の化粧料組成物は、例えば、ヘアセラム、ヘアトニック、ヘアエッセンス、ヘアトリートメント、ヘアシャンプー、ヘアリンス、ヘアローション、頭皮毛髪兼用トリートメントから選ばれるいずれか一つであってよいが、これは、頭皮及び毛髪用化粧分野において通常使用可能なものであり、前記剤形に限定されるものではなく、その他、外用剤の種類又は使用目的に応じて、通常の技術者が容易に適宜選定して配合することができる。
【0035】
本発明の化粧料組成物は、化粧料分野で通常用いられる補助剤、例えば、親水性又は親油性活性剤、保存剤、抗酸化剤、溶媒、芳香剤、充填剤、遮断剤、顔料、吸臭剤、染料などを含有できる。これらの様々な補助剤の量は、当該分野で通常用いられる量であり、例えば、組成物の全重量に対して0.001~30重量%である。ただし、いかなる場合でも、補助剤及びその比率は、本発明に係る化粧料組成物の好ましい性質に悪影響を及ぼさないように選択されるであろう。
【0036】
本発明の化粧料組成物は、本発明に加えて他の化粧料組成物も共に使用することができる。また、本発明に係る化粧料組成物は、通常の使用方法によって使用することができ、使用者の皮膚状態又は好みによってその使用回数が異なってもよい。
【0037】
本発明は、前記分化誘導方法によってヒト脂肪由来幹細胞から分化させた毛乳頭細胞を含むことを特徴とする毛髪成長促進又は脱毛予防用薬学組成物を提供する。
【0038】
本発明の薬学組成物は、例えば、経口型剤形、皮膚外用剤、坐剤及び滅菌注射溶液の形態でよく、好ましくは皮膚外用剤である。
【0039】
本発明の薬学組成物において、前記経口型剤形が固形製剤である場合、例えば、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤であってよい。また、前記経口型剤形が液状製剤である場合、例えば、懸濁剤、耐溶液剤、乳剤、シロップ剤であってよい。
【0040】
本発明の薬学組成物において、前記皮膚外用剤は、例えば、液状、クリーム状、ペースト状、固体状などの剤形とすることができる。
【0041】
本発明の薬学組成物は、例えば、1日に0.00001~100mg/kg(体重)で投与することがよい。ただし、必ずしもこれに限定されるものではなく、投与方法、服用者の年齢、性別及び体重、及び疾患の重症度などを考慮して決定するとよい。
【0042】
本発明の薬学組成物は、有効成分の他に、薬剤学的に許容可能な担体、希釈剤又は賦形剤もさらに含むことができる。使用可能な担体、賦形剤又は希釈剤には、例えば、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアガム、アルギネート、ゼラチン、カルシウムホスフェート、カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、ステアリン酸マグネシウム及び鉱物油があり、これらのいずれか1種以上を用いることができる。また、予防及び治療剤が薬剤である場合、充填剤、抗凝集剤、潤滑剤、湿潤剤、香料、乳化剤又は防腐剤などがさらに含まれてよい。
【0043】
下記実験によれば、本発明の分化させたヒト脂肪由来間葉幹細胞は、ヒト脂肪由来間葉幹細胞と比較して、毛乳頭細胞の特異的遺伝子であるLEF-1、Corin、Wnt5aの遺伝子発現様相が増加し、流細胞分析においても、毛乳頭細胞の特異的遺伝子であるLEF-1、Corin、Wnt5aに対して陽性である細胞の比率が90%以上であることが確認された。これは、毛乳頭細胞と類似な結果であった。また、本発明の分化させたヒト脂肪由来間葉幹細胞と毛乳頭細胞との類似性を確認するために、マイクロアレイ及びqPCRを用いて分析した結果、本発明の分化させたヒト脂肪由来間葉幹細胞は、毛乳頭細胞と類似に、毛乳頭細胞の代表信号伝達経路であるWnt信号伝達を活性化させることから、類似信号伝達を有することを確認した。
【0044】
したがって、本発明は、ヒト脂肪由来間葉幹細胞から毛乳頭細胞への直接交差分化をさせるための分化用培地組成物及びこれを用いた分化方法により、低費用で効率よく体外で大量培養可能にする効果が発揮できる、毛乳頭細胞の代替素材を提供することができる。また、このような代替素材を用いて、脱毛予防及び治療に優れた細胞治療剤組成物を提供することができる。
【0045】
以下、本発明について下記の実施例及び実験例を用いてより詳細に説明する。ただし、本発明の権利範囲が下記の実施例及び実験例に限定されるものではなく、それらと等価の技術的思想の変形を全て含む。
【0046】
[実施例1:ヒト脂肪由来間葉幹細胞から毛乳頭細胞への分化及び特性確認]
本実施例では、ヒト脂肪由来間葉幹細胞から毛乳頭細胞への分化誘導及び毛乳頭細胞の特性を確認した。
1)ヒト脂肪由来間葉幹細胞から毛乳頭細胞への分化誘導
ヒト脂肪由来間葉幹細胞を、既存6ウェルプレート(costar社)とゼラチンコーティングされたポリスチレン(polystyrene,PS)プレート(6 well clear TC-treated Multiple Well Plates,3516,Costar,Corning,NY,USA)(1×10cells/well)に培養した。このとき、使用された培地は、10%ウシ胎児血清(FBS)及び1×ペニシリン(penicillin)/ストレプトマイシン(streptomycin)が含まれたDMEM/高グルコース培地((Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium-High Glucose Liquid media(SH30243,Hyclone,UT,USA)、詳細培地組成は、次表1参照)とし、5% CO及び37℃の温度条件で細胞を1日培養した。
【0047】
【表1】
【0048】
既存及びゼラチンコーティングされたプレート(plate)で培養された細胞を毛乳頭細胞へと分化誘導するために、0.01mMレチノイン酸、10%ウシ胎児血清及び1×ペニシリン/ストレプトマイシンなどが添加されたDMEM/高グルコース分化培地を、5% CO及び37℃の温度で6ウェルプレート基準で2ml取って3日間培養した。このとき、3日にわたって毎日1回ずつ交換し、既存培養培地を除去(suction)した後、ピペットを用いてDMEM/高グルコース分化培地2mlに交換した。
【0049】
その後、20ng/ml線維芽細胞成長因子-2(fibroblast growth factor-2;bFGF)、200ng/ml骨形成タンパク質2(human recombinant BMP2)、1μMグリコーゲン合成キナーゼ3α/β抑制剤(6-bromoindirubin-3’-oxime)、10%ウシ胎児血清及び1×ペニシリン/ストレプトマイシンなどが添加されたDMEM/高グルコース分化培地を、5% CO及び37℃の温度で6ウェルプレート基準で2ml取って4日間培養した。このとき、4日にわたって毎日1回ずつ交換し、既存培養培地を除去(suction)した後、ピペットを用いてDMEM/高グルコース分化培地2mlに交換して分化を誘導した。
【0050】
2)遺伝子発現様相を用いたヒト脂肪由来間葉幹細胞由来毛乳頭細胞の特性確認
前記方法によって分化させたヒト脂肪由来間葉幹細胞に対して、特性が毛乳頭細胞と類似するかを確認するために、逆転写重合酵素連鎖反応(RT-PCR)を用いて毛乳頭細胞の特異的遺伝子であるLEF-1、Corin、Wnt5aの遺伝子発現様相を検証した。
ヒト脂肪由来間葉幹細胞、毛乳頭細胞及び分化させたヒト脂肪由来間葉幹細胞を、クロロホルム(Chloroform)、イソプロパノール(Isopropanol)を用いて、全RNAを分離した。前記RNAを鋳型としてMaxima First Strand cDNA合成キット(Thermo Fisher)を用いてcDNAを合成した。その後、EmeraldAmp(R) GT PCR Master Mix(Takara Bio)を用いて定量的逆転写重合酵素連鎖反応分析を行った。使用したプライマー配列を、表2に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
その結果、図1に示すように、ヒト脂肪由来間葉幹細胞(ADSC)と比較して、毛乳頭細胞(DPC)及び前記方法で分化させたヒト脂肪由来間葉幹細胞(dADSC)において、毛乳頭細胞の特異的遺伝子であるLEF-1、Corin、Wnt5aの遺伝子発現様相が増加していることを確認した。
【0053】
3)流細胞分析(FACS)を用いたヒト脂肪由来間葉幹細胞由来毛乳頭細胞の特性確認
前記方法によって分化させたヒト脂肪由来間葉幹細胞に対して、毛乳頭細胞の特異的遺伝子であるLEF-1、Corin、Wnt5aを用いて分化能を確認した。
分化させたヒト脂肪由来間葉幹細胞(dADSC)及び毛乳頭細胞(DPC)を、0.05%トリプシン/0.02% EDTAを処理して細胞を剥がした後、2×10細胞/mlの濃度にし、細胞溶液をFc受容体遮断(Fc receptors blocking)した。その後、固定/透過溶液キット(Fixation/Permeabilization solution kit)(BDCytofix/CytopermTM社)の固定溶液(Fixation solution)を用いて細胞を固定させ、毛乳頭細胞特異的遺伝子であるLEF-1、Corin、Wnt5aを浸透性溶液(Permeabilization solution)を用いて染色させた。染色させた細胞を着色溶液(Staining solution)で洗浄し、新しい着色溶液(Staining solution)で細胞を懸濁させた後、流細胞測定機(FACScalibur,BD science)及びセルクエスト(CELLQUEST software;BD science)で細胞を分析した。
【0054】
その結果、図2に示すように、分化させたヒト脂肪由来間葉幹細胞(dADSC)が、元来のヒト脂肪由来間葉幹細胞(ADSC)と比較して、毛乳頭細胞特異的遺伝子であるLEF-1、Corin、Wnt5aに対して陽性である細胞の比率が90%以上と確認されており、これは、毛乳頭細胞と類似であった。
【0055】
[実験例1:ヒト脂肪由来間葉幹細胞から分化された細胞と毛乳頭細胞との類似性確認]
本実験例では、前記方法によって分化させたヒト脂肪由来間葉幹細胞と毛乳頭細胞との類似性の確認のために、一次的に、マイクロアレイ(Microarray)を用いた細胞のデータベース確保によって遺伝体プロファイリングを進行して有意の遺伝子を選別した後、最終的に、qPCR(real-time PCR)検証によって目的細胞である毛乳頭細胞との類似信号伝達を確保することにより類似性を検証した。
【0056】
マイクロアレイは、一生物体の遺伝子全体又は一部に対して遺伝子発現量を測定できるツールであり、細胞の生物学的情報に関する統合的データベース構築によって様々な結果が得られるので、本方法によって本発明の分化させたヒト脂肪由来間葉幹細胞と毛乳頭細胞遺伝子間の発現パターン確認により、分化させたヒト脂肪由来間葉幹細胞のデータベースを構築した。
【0057】
分化させたヒト脂肪由来間葉幹細胞、元来のヒト脂肪由来間葉幹細胞、毛乳頭細胞のRNAを分離し、RNA品質管理(RNA quality control)によって検証されたサンプルに対してマイクロアレイ(affymetrix社、genome U133 plus 2.0 chip)を行い、GCS 3000スキャナー(Affymetrix)で結果をスキャニングした。スキャニング後に、結果値はAPT(Affymetrix Power Tools)ソフトウェアを用いて、RMA分析(RMA Analysis)(バックグラウンド補正、サマラゼイション、正規化)によって結果を抽出した。実験条件は、表3の通りであった。
【0058】
【表3】
【0059】
上記のようにマイクロアレイを用いて毛乳頭細胞(HFDPC)と分化させたヒト脂肪由来間葉幹細胞から、関心のある遺伝子グループ、すなわち、類似発現遺伝子グループを導出する作業を行った。その結果、図3に示すように、分化させたヒト脂肪由来間葉幹細胞(Sample)は、元来のヒト脂肪由来間葉幹細胞(ADSC)と異なるグループに分類されることは確認したが、平均リンケージ(average linkage)が一部含まれることが見られ、分化させたヒト脂肪由来間葉幹細胞は、元来のヒト脂肪由来間葉幹細胞とは異なる性格を帯びる細胞に変形されていると判断された。
【0060】
また、各細胞別発現パターン(pattern)変化と類似性を確認するために、合計53,617遺伝子に‘HFDPC VS Sample結果においてcut-offを満たさず、ADSC vs Sample結果においてcut-offを満たすプローブリスト(probe list)に対するGO/KEGG分析結果(cut-off:|fc|≧2 & lpe.p<0.05)’数式を適用して遺伝子分析を行った時、毛乳頭細胞と類似な発現パターンを示す遺伝子は85個と確認され、類似遺伝子関連信号伝達は21個と確認された。そのうち、最も関連した遺伝子が密集しており、毛髪分化/再生に関連した信号伝達は、「Wnt信号伝達経路」と確認された。Wnt信号伝達は、毛髪成長と毛髪再生に必須な毛嚢幹細胞の活性化及び毛髪生殖細胞(hair germ cell)の増殖などの過程に重要な役割を担うものと知られており、当該信号伝達は、毛乳頭細胞への分化機序にも関与すると知られている。
【0061】
毛乳頭細胞と類似性が確認された遺伝子のうち、Wnt信号伝達に関連した因子は、SMAD3、LEF1、WISP1、ROR1、DAAM1、TCF7L2、WNT2、FZD4、NFATC2、FZD3であり、元来のヒト脂肪由来間葉幹細胞(ADSC)、毛乳頭細胞(HFDPC)と分化させたヒト脂肪由来間葉幹細胞(Sample)間の遺伝子発現の相違を確認したとき、図4に示すように、毛乳頭細胞と分化させたヒト脂肪由来間葉幹細胞とにおいて遺伝子発現パターンが類似していた。このような結果から、分化させたヒト脂肪由来間葉幹細胞は、毛乳頭細胞と類似にWnt信号伝達を活性化させることができると想定し、これに対する検証を行った。
そこで、マイクロアレイ結果から確認された類似発現遺伝子と元来のヒト脂肪由来間葉幹細胞より、分化させたヒト脂肪由来間葉幹細胞又は毛乳頭細胞において優位と確認された遺伝子を含めて予想類似信号伝達及び分化機序経路を作成し、各機序別関連遺伝子を選別し、qPCRによって毛乳頭細胞との類似機序確保及びマイクロアレイ結果を検証した。
【0062】
元来のヒト脂肪由来間葉幹細胞、毛乳頭細胞及び分化させたヒト脂肪由来間葉幹細胞をクロロホルム(chloroform)、イソプロパノール(isopropanol)を用いて全RNAを分離した。前記RNAを鋳型としてMaxima First Strand cDNA合成キット(Thermo Fisher)を用いてcDNAを合成した。その後、Lightcycler 480 SYBR Green I Master(2x conc.)(Roche)を用いて定量的逆転写重合酵素連鎖反応(qPCR)分析を行った。使用したプライマー配列は、表4の通りであった。
【0063】
【表4】
【0064】
その結果、表5及び図5のように、類似信号伝達のターゲット遺伝子であるFZD3、BAMBI、TCF7、PLCB4、Wnt5a、LEF-1の発現パターンが、マイクロアレイと類似のパターンを示すことが確認され、元来のヒト脂肪由来間葉幹細胞と比較して、毛乳頭細胞及び分化させたヒト脂肪由来間葉幹細胞の遺伝子発現が増加していることを確認した。このことから、毛髪再生/成長と関連し、毛乳頭細胞の代表信号伝達であるWnt信号伝達を、分化させたヒト脂肪由来間葉幹細胞においても活性化できることを確認し、毛乳頭細胞と類似な信号伝達を有することを確認した。
【0065】
【表5】

図1
図2
図3
図4
図5