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特許7341252プラスティック熱分解油のアルカリ促進水熱精製
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】プラスティック熱分解油のアルカリ促進水熱精製
(51)【国際特許分類】
   C10G 67/10 20060101AFI20230901BHJP
   C10G 19/02 20060101ALI20230901BHJP
   C10G 45/02 20060101ALI20230901BHJP
【FI】
C10G67/10
C10G19/02
C10G45/02
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021569285
(86)(22)【出願日】2020-05-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-27
(86)【国際出願番号】 EP2020064512
(87)【国際公開番号】W WO2020239729
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-02-14
(31)【優先権主張番号】20195446
(32)【優先日】2019-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】505081261
【氏名又は名称】ネステ オサケ ユキチュア ユルキネン
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パーシカッリオ、ビッレ
(72)【発明者】
【氏名】トウコニーッテュ、ブランカ
(72)【発明者】
【氏名】パサネン、ユッカ-ペッカ
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-507287(JP,A)
【文献】特開2003-034794(JP,A)
【文献】国際公開第2014/001632(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/016400(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃熱分解油(WPO)から燃料成分を調製するための方法であって、
a)主成分として、例えば少なくとも75wt%の、プラスティック熱分解油(PPO)および/またはタイヤ熱分解油(TPO)を含む廃熱分解油を提供する工程であって、前記廃熱分解油が、主成分として炭化水素を含み、かつ、以下の形状:
前記WPOに対して20mg/kgから2000mg/kgまでのシリコンを含む、シリコン化合物
前記WPOに対して20mg/kgから3500mg/kgまでの塩素を含む、塩素化合物、
前記WPOに対して50mg/kgから10000mg/kgまでの窒素を含む、窒素化合物、
前記WPOに対して10mg/kgから15000mg/kgまでの硫黄を含む、硫黄化合物、
である不純物を含む工程、
b)水と共に、または7より大きいpHをもつ水と共に、150~450℃で水熱処理に付すことによって前記廃熱分解油を精製する工程であって、油対水の比が、9:1~1:9(重量/重量)、例えば4:1~1:1である工程、
c)前記水熱処理された廃熱分解油を水相から分離する工程、
d)前記水熱処理された廃熱分解油から本質的に構成される、または
前記水熱処理された廃熱分解油と、50mg/kg未満の塩素および1mg/kg未満のシリコンを有する酸素含有生物学的オイルならびに50mg/kg未満の塩素および1mg/kg未満のシリコンを有する炭化水素からなるリストから選択される一またはそれ以上のフィードと、の混合物から本質的に構成される
水素化処理フィードを調製する工程、
e)水素化を引き起こすための、200~450℃のあいだの温度での、および、1MPa~25MPaのあいだの圧力での、前記水素化処理フィードを水素と共に触媒的に水素化処理する工程、
f)液体燃料範囲で沸騰する少なくとも一つの炭化水素留分を前記水素化処理された生成物から回収する工程
を含み、
前記工程b)において、前記水熱処理が、前記WPOの前記シリコン化合物のうちの少なくとも50%の減少を引き起こすように行われる
方法。
【請求項2】
前記WPOが、前記WPOに対して10mg/kgの臭素から2000mg/kgまでの臭素を含む、臭素化合物の形状である不純物をさらに含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
記工程b)における前記水熱処理が、前記WPOの塩素化合物のうちの少なくとも50%の減少を引き起こすように行われ、任意には、前記水熱処理されたWPO中のシリコンは20mg/kgより少なく、および/または、前記水熱処理されたWPO中の酸素は20mg/kgより多い請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記工程b)における7より大きいpHを有する水が、例えばLi、Na、K、Rb、Csなどのアルカリ金属、例えばMg、Ca、Sr、Baなどのアルカリ土類金属からなるリストから選択される一またはそれ以上のカチオンを含む請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記水素化処理フィードが、前記水熱処理された廃熱分解油と、50mg/kg未満の塩素および1mg/kg未満のシリコンを含む酸素含有生物学的オイルならびに50mg/kg未満の塩素および1mg/kg未満のシリコンを含む炭化水素からなるリストから選択される一または複数のフィードとの混合物から本質的に構成される請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記水素化処理フィードが、前記水熱処理された廃熱分解油と、50mg/kg未満の塩素および1mg/kg未満のシリコンを含む酸素含有生物学的オイルと、50mg/kg未満の塩素および1mg/kg未満のシリコンを含む炭化水素との混合物から本質的に構成される請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記水素化処理フィードが、
1~100wt%の前記水熱処理された廃熱分解油と、
0~40wt%の、50mg/kg未満の塩素および1mg/kg未満のシリコンを含む前記酸素含有生物学的オイルと、
0~99wt%の、50mg/kg未満の塩素および1mg/kg未満のシリコンを含む前記炭化水素と
の混合物から本質的に構成される請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記水素化処理フィードが、
1~10wt%の前記水熱処理された廃熱分解油と、
1~40wt%の、50mg/kg未満の塩素および1mg/kg未満のシリコンを含む前記酸素含有生物学的オイルと、
50~98wt%の、50mg/kg未満の塩素および1mg/kg未満のシリコンを含む前記炭化水素と
の混合物から本質的に構成される請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記工程d)において、50mg/kg未満の塩素および1mg/kg未満のシリコンを含む前記炭化水素の少なくとも80wt%が、前記工程f)から得られるリサイクルされた生成物である請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記工程d)において、50mg/kg未満の塩素および1mg/kg未満のシリコンを含む前記炭化水素がさらにまた、1wt%未満のオレフィンを含む請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記工程e)において、前記水素化処理することがさらに、一またはそれ以上の水素化脱酸素(HDO)、水素化脱硫(HDS)、水添脱窒素(HDN)、水素化脱塩素(HDCl)、水素化脱芳香族反応(HDAr)および水素異性化(HI)を引き起こす請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記工程f)において、液体燃料範囲で沸騰する少なくとも一つの炭化水素留分が、ディーゼルおよび/またはガソリンおよび/またはナフサである請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記工程e)において、前記水素化処理が、固定床リアクター内で行われる請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記水素化処理の反応条件が、270~390℃の範囲の温度、2MPa~8MPaの範囲の圧力、0.1~10h-1の範囲のWHSV、および、50~2000nl H2/l フィードのH2フローを含む請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記反応条件が、アルミナ担体に担持されたNiMoなどの水素化脱酸素触媒の存在を含む請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記水素化処理の反応条件が、異性化に適切な条件を含み、前記反応条件は、任意にはアルミナおよび/またはシリカ担体に担持された、第8族元素およびモレキュラーシーブを含む触媒などの異性化触媒の存在下の、250~450℃の範囲の温度、1MPa~6MPaの範囲の圧力、0.1~10h-1の範囲のWHSV、および、50~2000nl H2/l フィードのH2フローを含む請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記WPOが少なくとも75wt%の、プラスティック熱分解油(PPO)および/またはタイヤ熱分解油(TPO)を含む請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃熱分解油(waste pyrolysis oil)(WPO)から燃料成分を調製するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
より持続性な精製フィードストックを見出すという要求が高まってきている。したがって、従来の化石フィードと一緒に既存の精製ユニットで再生可能なまたは再生型(recycled-type)原料を共処理すること、または、これらの新しい原料のみを処理するための既存のユニットの改造さえもがますます注目を集めている。
【0003】
再生型原料または低炭素フィードストックは、化石ベースの廃棄物、例えば廃プラスティックまたは耐用年数を過ぎたタイヤなどの処理によって生成されるフィードである。精製という観点からのこれら原料の魅力的な特徴は、それらが、非常に少量の酸素しか含まず、かつ、炭化水素から構成されているという点で、従来の精製フィードに相当していることである。
【0004】
廃熱分解油(WPO)は、水素化処理における精製流として一般的なフィードストックではない。それは、植物由来のオイルおよび脂肪酸をベースとするフィードストックからの成分とは実質的に異なり、および、一般的な従来技術における水素化リアクターは、廃熱分解油の特性をもつフィードストックを取り扱うための能力は有していない。例えばプラスティック熱分解油などの廃熱分解油は、元の原材料に大部分依存はするが、適応される熱分解技術にも依存する異なる元素の不純物を含んでいる。廃熱分解油中の3つの主な不純物は、窒素、硫黄、および塩素であり、これらは熱分解油の利用において弊害をもたらす。これらの不純物は、基本的に有機形態で存在し、これは、それらが様々なサイズおよび複雑性を有する炭化水素鎖と構造的に関連していることを意味している。塩化炭化水素などの有機不純物の効率的な除去は、水洗や吸着といった単純な方法を用いては不可能である。これらのような化合物の除去は、熱分解油からの溶離に分離する形状に塩素を遊離させる反応性アプローチの使用を必要とする。このような形状の一つは、塩化水素(HCl)であり、これは、塩化炭化水素が触媒的に水素化処理される場合に生成される。この種の触媒的プロセスは、触媒の不活性化を回避するために少ない元素の不純物しか含んでいないことが必要であり、そうでない場合、プラスティック熱分解油などの複雑な材料を処理する場合に問題となり得る。
【0005】
具体的には、窒素、硫黄、および塩素を含む炭化水素鎖の水素化は、HCl、NH3、およびH2Sの精製を結果としてもたらすであろう。水素化生成物の冷却後、生成されたHClは、水と接触した場合水素化反応のためのインレットパイプに対して腐食性であり得る。HClはまた、NH3と反応して、NH4Clを生成し得、これは、触媒床を見詰まりさせ得る。NH4Clはまた、熱交換機の汚れを引き起こし得る。
【0006】
結果的に、異なる技術が精製のためのフィードストックを調製するために必要とされ、そして、フィードストックを水素化処理へと付す前に塩素化炭化水素などの汚染物質を取り除ける効率的かつ強固な精製方法を開発する差し迫った必要がある。
【0007】
一般的に、従来技術は、有害な元素不純物、特には例えば塩素および臭素などのハロゲン、しかし時にはまた窒素および硫黄を、水素化処理に先んじて除去するという挑戦を解決することをそれぞれ目的とする、精製の設定においてプラスティック熱分解油を処理するための4つの異なる概念を教示している:
固体のプラスティック原材料のソーティングを通じた有害な不純物の除去、
非常にしばしばいわゆる予備分解を使用する熱分解のあいだの有害な不純物の除去、
水素化処理専用ユニットにおける有害な不純物の除去、
従来の精製水素化処理の前に液体熱分解油のための前処理ステップを使用する有害な不純物の除去。
【0008】
本発明は、これらの概念のうちの最後に記載されている概念の原則に基づいているが、本発明による解法は、従来技術におけるその概念の教示とは異なっている。特に、プラスティック熱分解油からの不純物の除去を開示している文献は、ほとんどなく、水素化処理のための精製ユニットの前のプラスティック熱分解油の前処理は議論していない。
【0009】
特許文献1は、液-液抽出、プラスティック熱分解油として使用されるために特定される精製方法を開示している。
【0010】
特許文献2は、プラスティック熱分解油の接触水素化処理を開示している。
【0011】
特許文献3は、ハロゲン含有酸性イオン性液体触媒を使用する炭化水素変換プロセスによって生成される、有機ハロゲン化物含有物を含む炭化水素生成物中のハロゲン濃度を低下させるための方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】国際公開第2017/088015号
【文献】米国特許出願公開第2016/0264874号明細書
【文献】米国特許第7,955,498号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、従来の精製水素化処理の前の廃熱分解油における有害な不純物、特には塩素および窒素の除去のための方法を提供することである。
【0014】
別の目的は、不均一触媒および外部の水素を使用することなく精製水素化処理の前に不純物を除去するより複雑性の少ない前処理ステップを提供することである。
【0015】
さらに別の目的は、燃料成分を調製するために、既存の水素化処理ユニットにおいて使用され得る廃熱分解油を提供することである。
【0016】
これらの目的は、本発明の方法で満たされる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
したがって、本発明は、廃熱分解油(WPO)から燃料成分を調製するための方法であって、
a)主成分として、例えば少なくとも75wt%の、プラスティック熱分解油(PPO)および/またはタイヤ熱分解油(TPO)を含む廃熱分解油を提供する工程であって、該廃熱分解油が、主成分として炭化水素を含み、かつ、以下の形状:
WPOに対して少なくとも20mg/kgおよび任意には3500mg/kgまでの塩素を含む、塩素化合物、
WPOに対して少なくとも50mg/kgおよび任意には10000mg/kgまでの窒素を含む、窒素化合物、
WPOに対して少なくとも10mg/kgおよび任意には15000mg/kgまでの硫黄を含む、硫黄化合物、
である不純物を含む工程、
b)水と共に、または7より大きいpHをもつ水と共に、150~450℃で水熱処理に付すことによって廃熱分解油を精製する工程であって、油対水の比が、9:1~1:9(重量/重量)、例えば4:1~1:1である工程、
c)水熱処理された廃熱分解油を水相から分離する工程、
d)水熱処理された廃熱分解油から本質的に構成される、または
水熱処理された廃熱分解油と、50mg/kg未満の塩素および1mg/kg未満のシリコンを有する酸素含有生物学的オイルならびに50mg/kg未満の塩素および1mg/kg未満のシリコンを有する炭化水素からなるリストから選択される一またはそれ以上のフィードと、の混合物から本質的に構成される
水素化処理フィードを調製する工程、
e)水素化、ならびに、任意には、一またはそれ以上の水素化脱酸素(HDO)、水素化脱硫(HDS)、水添脱窒素(HDN)、水素化脱塩素(HDCl)、水素化脱芳香族反応(HDAr)および水素異性化(HI)を引き起こすための、200~450℃のあいだの温度での、および、1MPa~25MPaのあいだの圧力での、水素化処理フィードを水素と共に触媒的に水素化処理する工程、
f)液体燃料範囲で沸騰する少なくとも一つの炭化水素留分を水素化処理された生成物から回収する工程
を含む方法を提供する。
【0018】
したがって、本発明は、水素化処理の前の加水分解ステップと水素化処理ステップとを既存の水素化処理装置内で結びつける。本発明によれば、廃熱分解油は、水または7より大きいpHを有する水溶液の存在下において150℃~450℃の温度まで加熱することによって前処理される。本発明によって、不均一触媒および外部の水素を使用することなく廃熱分解油から有機塩素および他の元素不純物を少なくとも部分的に除去することができる。この生成された廃熱分解油はまだそのまま燃料成分としては使用できないが、他の手段を用いて除去される必要があるかもしれない、より少量の不純物しか残っていない。したがって、この精製方法は、例えばプラスティック熱分解油(PPO)およびタイヤ熱分解油(TPO)などの廃熱分解油の、例えば既存の精製水素化処理ユニットのための有用性を実質的に向上させる。理論的には、本発明による方法を用いて水素化処理の前に精製された廃熱分解油は、フィードストックを水素化処理リアクターにフィードするより先に精製が行われなかった場合に可能であったであろう、より高品質なブレンドを利用する精製水素化処理ユニットへとフィードされ得る。
【0019】
反応は、混合を含む加圧されたシステム中で行われてもよい。一定の反応時間後、混合物は、冷却され得、そして、油相と水相とが例えば遠心分離などによって分離され得る。塩素は、HClの形状で遊離され、これは、塩基性成分、例えばNaOHなどが水溶液中に存在する場合、続いて中和されると考えられる。結果的に、水溶液のpHは反応中に低下する。元のプラスティック熱分解油と比較して、本方法において処理された熱分解は、より少ない量の塩素、窒素、および硫黄を含有し、および、いくつかの実施形態において、より少ない量の臭素およびシリコンも含有し得る。いくつか実施形態において、固体の沈殿物がまた形成される。したがって熱分解油から除去される不純物は、水相および沈殿物の両方へと移動されると考えられる。
【0020】
従来技術における水素処理のアプローチと比較して、本発明のプロセスは、水素または触媒を必要とすることがないのではるかに単純であり、そして、それはまた、塩素、窒素および硫黄を除去する以外にも、いくつかの実施形態において臭素およびシリコンを除去し得る。
【0021】
したがって、本発明の方法の好ましい一実施形態において、WPOはさらに、WPOに対して少なくとも20mg/kgのシリコンを含む、シリコン化合物の形状の不純物、および/または、WPOに対して少なくとも10mg/kgの臭素を含む、臭素化合物の形状の不純物を含んでいてもよい。特には、驚くべきことに、本発明の方法によってシリコンがまた除去され得、そして、これは、廃熱分解油の適用分野を広げることになる。
【0022】
定義
水素化処理フィード
本発明の文脈において、水素化処理フィードは、請求項において定義されているように、プラスティック熱分解油(PPO)および/またはタイヤ熱分解油(TPO)由来の、水熱処理された廃熱分解油と混合された酸素含有の生物学的オイルであり得る。酸素含有の生物学的オイルは、典型的には、遊離脂肪酸および例えばエステルなどの脂肪酸誘導体、例えば、グリセリド、網戸、アルコール、無水物、金属塩、またはそれらの混合物など、4またはそれ以上の炭素元素、例えば4~24の炭素元素を有する脂肪酸であり、そして、脂肪酸は、飽和であっても、不飽和であってもよい。
【0023】
水素化処理
本発明の文脈において、水素化処理は、フィード中の炭化水素の水素化を引き起こす触媒的処理、および、任意には、請求項において定義されているプロセスのもう一つであり、そして、それは、フィード中の炭化水素に水素を添加する、および/またはそこから酸素、硫黄、窒素、塩素および/または芳香族化合物を除去する、および/またはそれらの水素化異性化を引き起こす。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態を記載するにあたり、特定の用語が明確性を目的として用いられるであろう。しかしながら、発明は、そのように選択された特定の用語に限定されるものではなく、そして、特定の用語それぞれが、同様の目的を達成するために同様な方法で行われ得る技術的な等価物のすべてを含んでいるということが理解されるべきである。
【0025】
本発明の実施形態を記載している際に、すべての可能性のある実施形態の組み合わせおよび変形が明示的に記載されているわけではない。ある手段が互いに異なる従属請求項に記載されている、または異なる実施形態に記載されているという単なる事実は、それらの手段の組み合わせが有利に使用され得ないということを示しているわけではない。本発明は、記載された実施形態のすべての可能な組み合わせおよび変形を想定している。
【0026】
本明細書中の用語「含む(comprising)」、「含む(comprise)」、および「含む(comprises)」は、発明者らにより、任意には、いかなる場合も、用語「からなる(consisting of)」、「からなる(consist of)」および「からなる(consists of)」とそれぞれ置換可能であることが意図されている。
【0027】
本発明の方法において、WPOは、主成分として炭化水素を含むPPOおよび/またはTPOを主成分として含む。例えば主成分は、WPO中少なくとも75wt%のPPOおよびTPO、例えば少なくとも80wt%、例えば少なくとも85wt%、少なくとも90wt%、少なくとも95wt%、または少なくとも98wt%で構成される。炭化水素は例えば、WPOの少なくとも75wt%、例えば少なくとも80wt%、例えばWPOの少なくとも85wt%、少なくとも90wt%、少なくとも95wt%、または少なくとも98wt%を構成している。
【0028】
塩素化合物の形状であるWPO中の不純物は、WPOに対して少なくとも20mg/kgの塩素、例えば少なくとも50mg/kg、例えば少なくとも100mg/kg、少なくとも200mg/kg、少なくとも300mg/kg、少なくとも400mg/kg、少なくとも500mg/kg、少なくとも1000mg/kg、少なくとも1500mg/kg、少なくとも2000mg/kg、少なくとも2500mg/kg、少なくとも3000mg/kg、および3500mg/kgまでの塩素を構成する。
【0029】
窒素化合物の形状であるWPO中の不純物は、WPOに対して少なくとも50mg/kgの窒素、例えば少なくとも100mg/kg、少なくとも200mg/kg、少なくとも300mg/kg、少なくとも400mg/kg、少なくとも500mg/kg、少なくとも1000mg/kg、少なくとも2000mg/kg、少なくとも3000mg/kg、少なくとも5000mg/kg、少なくとも7000mg/kg、および10000mg/kgまでの窒素を構成する。
【0030】
硫黄化合物の形状であるWPO中の不純物は、WPOに対して少なくとも10mg/kgの塩素、例えば少なくとも20mg/kg、例えば少なくとも50mg/kg、少なくとも100mg/kg、少なくとも200mg/kg、少なくとも300mg/kg、少なくとも400mg/kg、少なくとも500mg/kg、少なくとも1000mg/kg、少なくとも2000mg/kg、少なくとも3000mg/kg、少なくとも5000mg/kg、少なくとも7000mg/kg、少なくとも10000mg/kg、および15000mg/kgまでの硫黄を構成する。
【0031】
水熱処理のあいだ、水中のpHは、例えばNaOH、KOH、LiOH、Ca(OH)2、Mg(OH)2、Ba(OH)2などの任意の好適な塩基、好ましくはNaOHを添加することによって7より大きくなるように調整され得る。
【0032】
水熱処理のあいだ、温度は150~450℃、例えば175~425℃、例えば200~400℃、225~375℃、250~350℃、275~325℃、または250~300℃である。
【0033】
水熱処理のあいだ、油対水比(重量/重量)は、9:1~1:9、例えば4:1~1:1、例えば2:1である。
【0034】
本発明の第1の実施形態において、WPOはさらに、WPOに対して少なくとも20mg/kgのシリコン、例えば少なくとも30mg/kg、少なくとも40mg/kg、少なくとも50mg/kg、少なくとも60mg/kg、少なくとも70mg/kg、少なくとも80mg/kg、少なくとも90mg/kg、少なくとも100mg/kg、少なくとも150mg/kg、少なくとも200mg/kg、少なくとも300mg/kg、少なくとも400mg/kg、少なくとも500mg/kg、少なくとも600mg/kg、少なくとも700mg/kg、少なくとも800mg/kg、少なくとも900mg/kg、少なくとも100mg/kg、少なくとも1500mg/kg、および2000mg/kgまでのシリコンを含む、シリコン化合物の形状である不純物、および/または、WPOに対して少なくとも10mg/kgの臭素、例えば少なくとも20mg/kg、少なくとも30mg/kg、少なくとも40mg/kg、少なくとも50mg/kg、少なくとも60mg/kg、少なくとも70mg/kg、少なくとも80mg/kg、少なくとも90mg/kg、少なくとも100mg/kg、少なくとも150mg/kg、少なくとも200mg/kg、少なくとも300mg/kg、少なくとも400mg/kg、少なくとも500mg/kg、少なくとも600mg/kg、少なくとも700mg/kg、少なくとも800mg/kg、少なくとも900mg/kg、少なくとも1000mg/kg、少なくとも1500mg/kg、および2000mg/kgまでの臭素を含む、臭素化合物の形状である不純物を含み得る。
【0035】
本発明の任意の実施形態において、WPOはさらに、少なくとも20mg/kgおよび2000mg/kgまでのシリコンを含む、シリコン化合物の形状である不純物を含んでいてもよく、ならびに、工程b)における水熱処理は、廃熱分解油のシリコン化合物のうちの少なくとも50%の減少、および、塩素化合物のうちの少なくとも50%の減少を引き起こすように行われ得、任意には、これによって水熱処理された廃熱分解油中のシリコンは20mg/kgより少なく、および/または、これによって水熱処理された廃熱分解油中の酸素は20mg/kgより多い。
【0036】
本発明の任意の実施形態において、7より大きいpHを有する工程b)において使用される水は、例えばLi、Na、K、Rb、Csなどのアルカリ金属および例えばMg、Ca、SrおよびBaなどのアルカリ土類金属からなるリストから選択される一またはそれ以上のカチオンを含んでいてもよい。
【0037】
本発明の任意の実施形態において、水素化処理フィードは、水熱処理された廃熱分解油と、50mg/kg未満の塩素および1mg/kg未満のシリコンを含む酸素含有生物学的オイルならびに5mg/kg未満の塩素および1mg/kg未満のシリコンを含む炭化水素からなるリストのうちの一または複数との混合物から本質的に構成され得る。
【0038】
本発明の任意の実施形態において、水素化処理フィードは、水熱処理された廃熱分解油と、50mg/kg未満の塩素および1mg/kg未満のシリコンを含む酸素含有生物学的オイルと、5mg/kg未満の塩素および1mg/kg未満のシリコンを含む炭化水素との混合物から本質的に構成され得る。
【0039】
本発明の任意の実施形態において、水素化処理フィードは、
1~100wt%の、例えば5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、または95wt%などの水熱処理された廃熱分解油と、
0~40wt%の、例えば1~30wt%、例えば5~25wt%など、または10~20wt%の、50mg/kg未満の塩素および1mg/kg未満のシリコンを含む酸素含有生物学的オイルと、
0~99wt%の、例えば2、5、10、15、20、25、30、35、40、50、60、70、80、90、または95wt%などの、5mg/kg未満の塩素および1mg/kg未満のシリコンを含む炭化水素と
の混合物から本質的に構成され得る。
【0040】
本発明の任意の実施形態において、水素化処理フィードは、
1~10wt%の、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、または10wt%などの水熱処理された廃熱分解油と、
1~40wt%の、例えば5~30wt%、例えば10~25wt%など、または15~20wt%の、50mg/kg未満の塩素および1mg/kg未満のシリコンを含む酸素含有生物学的オイルと、
50~98wt%の、例えば55~95wt%、例えば60~90wt%など、または70~80wt%の、5mg/kg未満の塩素および1mg/kg未満のシリコンを含む炭化水素と
の混合物から本質的に構成され得る。
【0041】
本発明の任意の実施形態において、工程d)において、5mg/kg未満の塩素および1mg/kg未満のシリコンを含む炭化水素の少なくとも80wt%、例えば少なくとも85wt%、例えば少なくとも90wt%など、または少なくとも95wt%は、工程f)から得られるリサイクルされた生成物であり得る。
【0042】
本発明の任意の実施形態において、工程d)において、5mg/kg未満の塩素および1mg/kg未満のシリコンを含む炭化水素はさらにまた、1wt%未満のオレフィンを含んでいてもよい。
【0043】
本発明の任意の実施形態において、工程f)において、液体燃料範囲で沸騰する少なくとも一つの炭化水素留分は、ディーゼルおよび/またはガソリンおよび/またはナフサであってもよい。
【0044】
本発明の任意の実施形態において、工程e)において、水素化処理は、固定床リアクター内で行われてもよい。
【0045】
本発明の任意の実施形態において、水素化処理の反応条件は、例えばアルミナ担体に担持されたNiMoなどの水素化脱酸素触媒の存在下の、混合物中の炭化水素および生物学的オイルの性質に依存して、270~390℃の範囲の温度、例えば280℃、290℃、300℃、310℃、320℃、330℃、340℃、350℃、360℃、370℃、または380℃などの温度、2~8MPaの範囲の圧力、および、0.1~10h-1、好ましくは0.5~5h-1の範囲のWHSV、および、50~2000nl H2/l フィードの、好ましくは100~900nl H2/l フィードのH2フローを含み得る。
【0046】
本発明の任意の実施形態において、水素化処理の反応条件は、異性化に適切な条件を含み得、該反応条件は、例えば任意にはアルミナおよび/またはシリカ担体に担持された、第8族元素およびモレキュラーシーブを含む触媒などの異性化触媒の存在下の、
250~450℃の範囲、例えば300~400℃などの範囲の温度、1~6MPaの範囲、例えば2~5MPaなどの範囲の圧力、および、0.1~10h-1、好ましくは0.5~5h-1の範囲のWHSV、および、50~2000nl H2/l フィードの、好ましくは100~900nl H2/l フィードの、より好ましくは100~800nl H2/l フィードのH2フローを含み得る。
【実施例
【0047】
実施例1
廃プラスティック熱分解油ナフサ留分の高温NaOH処理
以下の実験は、1リットルバッチオートクレーブリアクター内で行われた。廃プラスティック熱分解油(340g)から得られた蒸留ナフサ留分(5~95wt%蒸留温度範囲は85~174℃)および2wt%NaOH水溶液(227g)が、一緒にリアクター容器中に秤取された。封止および圧力試験の後、500rpmで攪拌されたリアクターは、240℃の望ましい反応温度まで加熱され、その後30分維持された。リアクターは、続いて、生成物の回収前に室温まで冷却された。含有物は、リアクター容器から遠心分離チューブへと傾斜法で移され、そして、液体が20℃および4300rpmで30分間遠心分離された。遠心分離後、精製された熱分解油が、分離相として回収され、そして、そのCl、Br、S、およびN含有量に関して分析された。Cl、Br、およびS含有量は、蛍光X線スペクトルを用いて測定され、そして、N含有量は、ASTM D 5762規格に基づいて測定された。表1に表されている結果は、ClおよびBrの両方の含有量が90%を超えて減少されていることを示している。
【0048】
【表1】
【0049】
実施例2
廃プラスティック熱分解油ナフサ留分の高温NaOH処理
以下の実験は、1リットルバッチオートクレーブリアクター内で行われた。廃プラスティック熱分解油(340g)(Ecomation社から市販で入手された)から得られた蒸留ナフサ留分(5~95wt%蒸留温度範囲は85~174℃)および2wt%NaOH水溶液(227g)が、一緒にリアクター容器中に秤取された。封止および圧力試験の後、500rpmで攪拌されたリアクターは、240℃の望ましい反応温度まで加熱され、その後30分維持された。リアクターは、続いて、生成物の回収前に室温まで冷却された。含有物は、リアクター容器から遠心分離チューブへと傾斜法で移され、そして、液体が20℃および4300rpmで30分間遠心分離された。遠心分離後、精製された熱分解油が、分離相として回収され、そして、そのCl、Br、S、NおよびSi含有量に関して分析された。Cl、Br、およびS含有量は、蛍光X線スペクトルを用いて測定され、そして、N含有量は、ASTM D 5762規格に基づいて測定された。シリコン含有量は、誘導結合プラズマ質量分析を用いて分析された。表2に表されている結果は、Cl、BrおよびSiの含有量が90%を超えて減少したことを明確に示している。
【0050】
【表2】
【0051】
実施例3
廃プラスティック熱分解油中間蒸留物留分の溶媒抽出
本実験では、不純物が、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を用いた溶媒抽出を使用して廃プラスティック熱分解油中間蒸留物留分(5~95wt%蒸留温度範囲は172~342℃)から除去された。廃プラスティック熱分解油(100g)が、始めに、常温で、ガラス製分離ロート中で2wt%の水を含むNMP(196g NMP、4g 水)と混合された。混合後、ラフィネートおよび抽出物が分離された。ラフィネート(本実験では、精製された廃プラスティック熱分解油に相当する)は、さらに2回の同じ抽出処理へと付された(総計で3回の抽出ステップ)。3回目の抽出ステップの後、ラフィネートは、常温でガラス製分離ロート中、水で、2:1の水対油比(w/w)を用いて洗浄された。水洗されたラフィネート、すなわち、精製された廃プラスティック熱分解油が、そのCl、Br、SおよびN含有量に関して分析された。Cl、Br、およびS含有量は、蛍光X線スペクトルを用いて測定され、そして、N含有量は、ASTM D 5762規格に基づいて測定された。表3の結果は、ClおよびBrの含有量が、溶媒抽出処理の結果、共に90%を超えて減少されたことを示している。
【0052】
【表3】