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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】圧電プラズマ発生器の動作方法
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/24 20060101AFI20230901BHJP
【FI】
H05H1/24
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022536974
(86)(22)【出願日】2020-12-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-20
(86)【国際出願番号】 EP2020086771
(87)【国際公開番号】W WO2021122995
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】102019135497.8
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】518379278
【氏名又は名称】テーデーカー エレクトロニクス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】メルシェニヒ,アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】パフ,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】クルンファルス,ロバート
(72)【発明者】
【氏名】ラム,アムノン
(72)【発明者】
【氏名】フックス,エリエゼル
(72)【発明者】
【氏名】レチャフ,ベッツアレル
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-500743(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0098739(US,A1)
【文献】国際公開第2016/093269(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電プラズマ発生器を動作させる方法であって、
前記圧電プラズマ発生器の圧電トランスに入力信号を印加するステップを含み、
前記入力信号のピーク振幅の絶対値は、プラズマの発生が周期的に崩壊するように、前記圧電プラズマ発生器の点火電圧より小さいレベル及び大きいレベルに周期的に減少及び増加され
前記入力信号の前記ピーク振幅の前記絶対値は、高レベルと低レベルとの間で切り替わり、前記ピーク振幅の前記絶対値の前記低レベルは0より大きく、
前記ピーク振幅の前記絶対値は、連続した包絡線に従って振動する、
方法。
【請求項2】
前記ピーク振幅の前記絶対値の振動の1周期中で前記ピーク振幅の前記絶対値が前記点火電圧より大きいオン時間の割合であるデューティサイクルが、前記圧電プラズマ発生器の動作中に調整される、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
プラズマ処理されるべき基板におけるエネルギー入力に相関するパラメータが、前記圧電プラズマ発生器の動作中に測定され、前記デューティサイクルが、前記測定されたエネルギー入力に応じて調整される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記入力信号の前記ピーク振幅の前記絶対値は、高レベルと低レベルとの間で切り替わり、前記ピーク振幅の前記絶対値の前記低レベルは0である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ピーク振幅の前記絶対値が前記点火電圧より小さいオフ時間中の前記ピーク振幅の前記絶対値は、少なくとも前記オフ時間の大部分にわたって0より大きい、
請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記入力信号は、第1の周波数を有するベース信号に基づき、前記ベース信号は、第2の周波数を有する変調信号によって変調され、前記第2の周波数は、前記第1の周波数より低い、
請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第2の周波数は、最大でも、前記第1の周波数の1/20である、
請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記ピーク振幅の前記絶対値が前記点火電圧より小さいオフ時間の後に、前記第1の周波数が前記圧電プラズマ発生器の振周波数に調整される、
請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
圧電プラズマ発生器であって、
圧電トランスと、
請求項1からのいずれか一項に記載の方法に従って前記圧電プラズマ発生器を動作させるための制御回路と、
を備える、圧電プラズマ発生器。
【請求項10】
前記制御回路は、前記圧電トランスに入力信号を供給するように構成され、
前記制御回路は、第1の周波数を有するベース信号を生成するためのベース信号生成器と、前記第1の周波数より小さい第2の周波数を有する変調信号を生成するための変調信号生成器と、
入力信号のピーク振幅の絶対値が前記圧電プラズマ発生器の点火電圧より小さいレベル及び大きいレベルに周期的に減少及び増加するような前記入力信号が供給されるように、前記ベース信号と前記変調信号とを混合するための信号ミキサとを備える、
請求項に記載の圧電プラズマ発生器。
【請求項11】
前記制御回路は、プラズマ処理される基板に前記圧電プラズマ発生器によって供給されるエネルギー入力に関連するパラメータを測定するための測定装置をさらに備え、前記変調信号は、前記測定されたエネルギー入力に応じて調整される
請求項10に記載の圧電プラズマ発生器。
【請求項12】
前記制御回路は、前記ピーク振幅の前記絶対値の振動の1周期中で前記ピーク振幅の前記絶対値が前記点火電圧より大きいオン時間の割合であるデューティサイクルを、前記圧電プラズマ発生器の動作中に調整するように構成される、
請求項又は11に記載の圧電プラズマ発生器。
【請求項13】
前記圧電プラズマ発生器の共振周波数からの前記第1の周波数のシフトに関連するパラメータを測定するための測定装置を備える、
請求項10に記載の圧電プラズマ発生器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電プラズマ発生器を動作させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特に、プラズマ発生器は非熱プラズマを発生させる。プラズマは大気条件下で発生させられ得る。プラズマ発生器は、例えば薄い布地又は皮膚などの敏感な表面の処理に使用され得る。
【0003】
特許出願DE102017105415A1には、トランスの出力領域における電界強度が最大化されるように入力信号が最適化される、非熱プラズマを発生させるための圧電プラズマ発生器が開示されている。特許出願DE102015119574A1には、制御回路がインダクタンスを含み、トランスの入力周波数を制御するために平均電流が測定される、非熱プラズマを発生させる方法が開示されている。特許出願DE102015112410A2には、入力インピーダンスの位相情報が決定され、この位相情報に応じて入力信号の周波数が制御される、圧電プラズマ発生器を動作させる方法が開示されている。DE102017105401A1には、プラズマを発生させることに加えて超音波信号が生成されるように入力電圧が変調される圧電プラズマ発生器が開示されている。
【0004】
特許出願WO2015/083155A1には、高周波(RF)電磁(EM)場によって非熱プラズマが発生する高周波(RF)プラズマ発生器が開示されている。望ましくない電気アークを防止するために、RF電力は、動作中に短時間オフにされ得る。
【0005】
DE102016110141A1には、プラズマ放電が維持されるレベルまで入力電圧が周期的に下げられる、HFプラズマ発生器を動作させるための方法が開示されている。EP3662854A1には、プラズマを維持すると同時に光及び雑音の生成などの望ましくない副作用を最小限に抑えるために入力電圧が動的に適合される、HFプラズマ発生器を動作させるための方法が開示されている。DE19616187A1には、入力電圧に短い電圧パルスが印加される、プラズマを発生させるためにトランスを動作させる方法が開示されている。
【0006】
本発明の目的は、圧電プラズマ発生器を動作させる改善された方法を提供することである。
【発明の概要】
【0007】
一態様では、本発明は、圧電プラズマ発生器を動作させる方法に関する。このような圧電プラズマ発生器は、入力側と出力側とを備える圧電トランスを備える。入力側には、入力信号、すなわち入力電圧が印加される。圧電効果により、出力側の端部に高い出力電圧を発生させることができる。
【0008】
入力信号は、第1の周波数を有するベース信号に基づき得る。ベース信号の信号形状は、例えば正弦波形状であり得る。ベース信号は、一定の第1の周波数を有し得る。第1の周波数は、圧電トランスの共振周波数に対応し得る。共振周波数は、例えば、約50kHzであり得る。「対応する」とは、第1の周波数が共振周波数に近いか又は同じであることを意味する。プラズマ発生器をその共振周波数で動作させると、プラズマの発生効率が最適化される。
【0009】
ベース信号は、第1の周波数より小さい第2の周波数を有する変調信号によって変調され得る。
【0010】
入力信号は、入力信号のピーク振幅の絶対値が、プラズマ発生器の点火電圧より小さいレベル及び大きいレベルに周期的に減少及び増加するようなものである。点火電圧より小さいレベルとは、プラズマの発生が崩壊するようなものである。従って、より低いレベルは、プラズマの発生を維持するのに十分ではない。従って、ベース信号は、包絡線によって区切られ得る。ピーク振幅の振動の1周期中でピーク振幅の絶対値が点火電圧より大きい時間長が「オン時間」であり、ピーク振幅の振動の1周期中でピーク振幅の絶対値が点火電圧より小さい時間長が「オフ時間」である。
【0011】
プラズマを発生させるために必要とされる圧電トランスの出力端での電界強度を点火電界強度とする。点火電界強度を発生するために必要とされる入力電圧を点火電圧とする。
【0012】
ピーク入力電圧の絶対値を点火電圧より下に周期的に減少させることによって、基板への平均エネルギー入力を低減させることができるという効果がある。それに加えて、いわゆるストリーマの発生が防止又は低減され得る。これらのストリーマが、敏感な基板、例えば薄い布地又は皮膚の表面に当たると、局所的な焼け跡が発生し得る。従って、敏感な基板が損傷を受ける可能性があり、これは望ましくない影響である。さらに、熱出力により基板の温度が過度に上昇する場合があり、これにより、基板が損傷する可能性がある。
【0013】
ストリーマの発生及び平均エネルギー入力を制御することは、静電放電に非常に敏感な電子部品をプラズマ処理するときに特に重要である。プラズマ処理は、例えば、表面の洗浄及び/又は活性化を含み得る。さらに、平均エネルギー入力が低減されると、薄い絶縁ポリマー箔又は導電性金属経路などの繊細で敏感な構造の活性化が可能になる。
【0014】
動作のためのさらなる例は、活性化されることが困難な基板、例えば、煤けたプラスチック材料などの金属/導電性表面である。高電流が存在する場合、大規模に及び温度上昇なしに表面を活性化することはできない。これは、基板の低い電位によりプラズマ雲の体積が減少することが原因であり得る。点火電圧を下回る入力信号を周期的に供給する場合、電流の流れが中断され、温度上昇なしに大規模な活性化が可能である。
【0015】
さらなる例は、熱放散が低い環境、例えば真空中での動作である。この場合、プラズマ発生器の自己発熱を放熱することができず、プラズマ発生器の信頼性が低下する。ピーク電圧の絶対値を点火電圧より下に周期的に減少させると、オンサイクル中のプラズマの発生を同じレベルに維持しながら内部温度を低下させることができる。
【0016】
動作のさらなる例は、N2、SF6など、イオン化のために高電圧を必要とする媒体を用いた動作である。このような媒体の場合、一般に、高電力入力での自己発熱により、プラズマ発生器の信頼性が低下する。自己発熱は、ベース電圧を周期的にオフ及びオンにし、適切なデューティサイクルを選択することによって低減され得る。これにより、信頼性を高めることができる。
【0017】
変調信号は、ベース信号をスケーリングする変調関数であり得る。変調信号は、例えば、1と0の間の値を有し得る。
【0018】
変調信号は、パルス状であり得る。特に、変調信号は、高レベルと低レベルとの間で周期的に切り替わり得る。
【0019】
高レベルは1であり得る。この場合、変調信号は、高レベル時間の間、ベース信号に対応し得る。低レベルは0であり得る。この場合、入力電圧は、低レベル時間の間に、0に切り替えられる。
【0020】
さらなる実施形態では、低レベルは、0より大きくてもよい。一例として、高レベルは1.0であり得、低レベルは0.5であり得る。この場合、部品の振動が維持され得、部品への機械的応力が低減され得る。
【0021】
さらなる実施形態では、変調信号は、例えば正弦波信号などの連続的に振動する信号であり得る。この場合、入力信号も連続的に振動し、これは部品への機械的応力を低減する。特に、変調信号は、正弦波信号の絶対値の形状を有し得る。
【0022】
一実施形態によれば、入力信号のデューティサイクルは、プラズマ発生器の動作中に調整され得る。デューティサイクルは、ピーク振幅の絶対値の振動の1周期及びピーク振幅の絶対値の振動の1周期中でピーク振幅の絶対値が点火電圧より大きい「オン時間」の割合である。ピーク振幅の絶対値の振動の1周期は、変調信号の振動の1周期に対応し得る。
【0023】
全ての実施形態において、ピーク振幅の絶対値が点火電圧より小さいオフ時間中のピーク振幅の絶対値は、少なくともオフ時間の大部分にわたって0より大きくてもよい。これにより、オフ時間の間、圧電トランスの振動を維持することができる。特に、オフ時間中のピーク振幅は、オン時間とオン時間との間のオフ時間全体にわたって振動が維持されるようなものであり得る。これは、プラズマ発生とプラズマ発生の崩壊との間の遷移がより滑らかであり、トランスに課される機械的応力がより少ないという利点を有する。
【0024】
プラズマ発生器から放出される平均エネルギーは、デューティサイクルと変調信号の周波数とに依存する。デューティサイクルが高いとき、平均放出エネルギーは高い。デューティサイクルが低いとき、平均放出エネルギーは低い。
【0025】
デューティサイクルはほぼ無段階に調整することができ、エネルギー入力の微調整が可能になる。これは、敏感な基板にとって又は化粧品及び医療用途にとって特に重要である。デューティサイクルは、変調信号の周波数が固定値に維持されている間に調整され得る。
【0026】
一実施形態によれば、ピーク振幅が点火電圧より下であるオフ時間の持続時間は、最大でも10ms又は最大でも5msである。ピーク振幅の絶対値を周期的に減少させることによって、点火チャネル、すなわちトランスの出力側から延びるイオン化ガスの経路は、強制的に何度も破壊される。
【0027】
ピーク振幅の絶対値を減少させた後、高い出力電圧は減衰する。出力電圧が点火電圧を下回ると、点火チャネル内の電流の流れが崩壊する。しかしながら、このエリアにおける電荷キャリアのより高い濃度は、短時間の間維持される。この期間中にベース信号が再びオンにされると、プラズマの新たな点火は著しく容易になり、より低い電圧で点火が起こる。点火電圧が低いため、部品に対する機械的応力が低減され、それにより信頼性が高まる。
【0028】
一実施形態によれば、第2の周波数、すなわち変調信号の周波数は、最大でも、第1の周波数、すなわちベース信号の周波数の1/20である。これは、圧電トランスの所与の不活性においてさえプラズマの発生が停止することを保証し得る。
【0029】
ピーク振幅の絶対値が点火電圧より小さいオフ時間の後、第1の周波数、すなわちベース信号の周波数は、プラズマ発生器の共振周波数に調整され得る。この目的のために、共振周波数からの第1の周波数のシフトに対応するパラメータが取得され得、ベース信号の周波数は、共振周波数に対応するように再調整される。
【0030】
これは、例えば、様々な基板特性、ガス混合物、材料、又は作業距離による、変動する負荷での最適な動作モードを可能にする。
【0031】
さらなる態様によれば、圧電トランスを備える圧電プラズマ発生器が開示される。プラズマ発生器は、入力信号を圧電トランスに供給するための制御回路を備える。制御回路は、上述した方法に従ってプラズマ発生器を動作させるように構成され得る。
【0032】
制御回路は、第1の周波数を有するベース信号を生成するためのベース信号生成器と、第1の周波数より低い第2の周波数を有する変調信号を生成するための変調信号生成器とを備え得る。制御回路は、入力信号が供給されるように、ベース信号を変調信号と混合するための信号ミキサをさらに備え得、入力信号のピーク振幅の絶対値は、プラズマ発生器の点火電圧より小さい及び大きいレベルに周期的に減少及び増加される。
【0033】
制御回路は、プラズマ処理された基板にプラズマ発生器によって供給されるエネルギー入力に関連するパラメータを測定するための測定装置をさらに備え得、変調信号は、測定されたエネルギー入力に応じて調整される。
【0034】
制御回路は、動作中にデューティサイクルを調整するように構成され得、デューティサイクルは、ピーク振幅の絶対値の振動の1周期において、ピーク振幅の絶対値が点火電圧より大きいオン時間の割合である。
【0035】
制御回路は、プラズマ発生器の共振周波数からの第1の周波数のシフトに関連するパラメータを測定するための測定装置をさらに備え得る。測定装置は、基板内のエネルギー入力を測定するために使用される同じ測定装置であるか、又はさらなる測定装置であり得る。適切な測定装置は、冒頭で引用した特許出願に開示されている。
【0036】
測定されたシフトに応じて、制御回路は、共振周波数に対応するように第1の周波数を再調整するように構成され得る。
【0037】
本開示は、発明のいくつかの態様を含む。態様のうちの1つに関して説明される全ての特徴はまた、それぞれの特徴が特定の態様の文脈において明示的に言及されていない場合であっても、他の態様に関して本明細書に開示される。
【0038】
さらなる特徴、改良及び便宜性は、図に関連する例示的な実施形態の以下の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】圧電プラズマ発生器のための圧電トランスの概略図である。
図2図2A図2B図2C図2Dは、異なるベース信号の例を示す。
図3図3A図3B図3Cは、異なる変調信号の例を示す。
図4】第1の実施形態による圧電トランスを動作させるための入力信号を示す。
図5】変調信号のさらなる例を示す。
図6】さらなる実施形態による圧電トランスを動作させるための入力信号を示す。
図7】変調信号のさらなる例を示す。
図8】さらなる実施形態による圧電トランスを動作させるための入力信号を示す。
図9】一実施形態による圧電プラズマ発生器の概略回路図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図において、同じ構造及び/又は機能の要素は、同じ参照番号によって参照され得る。図に示される実施形態は、例示的な表現であり、必ずしも一定の縮尺で描かれていないことを理解されたい。
【0041】
図1は、圧電トランス1を斜視図で示す。圧電トランス1は、プラズマ、特に非熱的低圧プラズマ又は大気圧プラズマ又は高圧プラズマを生成するためのプラズマ発生器において使用され得る。圧電トランス1は、圧電性に基づく共振トランスの実施形態であり、従来の磁気トランスとは対照的に、電気機械システムを形成する。圧電トランス1は、例えば、ローゼン型トランスである。代替的に、他のタイプの圧電トランスが使用され得る。
【0042】
圧電トランス1は、入力領域である第1の領域2と、出力領域である第2の領域3とを有しており、第1の領域2から第2の領域3への方向が長手方向zを規定する。第1の領域2は入力側端部領域4を含み、第2の領域3は出力側端部領域5を含む。
【0043】
第1の領域2において、圧電トランス1は、交流電圧を印加することができる内部電極6,7を含む。内部電極6,7は、圧電トランス1の長手方向zに延在する。内部電極6,7は、長手方向zに対して垂直な積層方向xに、圧電材料8と交互に積層されている。圧電材料8は、積層方向xに分極されている。
【0044】
内部電極6,7は、圧電トランス1の内部で圧電材料8の層間に配置されており、内部電極とも呼ばれる。圧電トランス1は、第1の側面9と、この第1の側面9の反対側の第2の側面10とを含む。第1の側面9及び第2の側面10には、外部電極11,12が配置されている。内部電極6,7は、外部電極11,12の一方に交互に接続されている。
【0045】
第2の領域3は、圧電材料13を含み、内部電極を含まない。第2の領域3における圧電材料13は、長手方向zに分極されている。第2の領域3の圧電材料13は、第1の領域2の圧電材料8と同じ材料であってもよい。
【0046】
圧電材料8及び13は、それぞれの分極方向が異なる。特に、第2の領域3において、圧電材料13は、長手方向zに完全に分極された単一のモノリシック層に形成される。従って、第2の領域3における圧電材料13は、単一の分極方向のみを有する。
【0047】
外部電極11,12を介して、第1の領域2内の隣接する内部電極6,7間に低い交流電圧を印加することができる。圧電材料8の圧電効果により、入力側に印加された交流電圧は、機械的振動に変換される。従って、第1の領域2内の電極6に交流電圧が印加されると、圧電効果によって第2の領域3において出力電圧を発生させる機械波が圧電材料8,13内に形成される。
【0048】
出力側端部領域5と第1の領域2の電極6,7の端部との間に高電圧が発生する。これはまた、出力側端部領域5と圧電トランス1の周囲との間に、周囲の媒体をイオン化してプラズマの発生を引き起こす強電界を発生させるのに十分な高電位差を作り出す。周囲の媒体における原子もしくは分子のイオン化のために、又はラジカル、励起分子、もしくは原子の生成のために必要とされる電界強度は、プラズマの点火電界強度と呼ばれる。圧電トランス1の表面上の電界強度がプラズマの点火電界強度を超えると、イオン化が生じる。点火電界強度が達成される電圧は、以下では点火電圧と呼ばれる。
【0049】
圧電トランス1は、様々な適用分野においてプラズマを発生させるために使用され得る。特に、圧電トランス1は、表面のプラズマ処理に使用され得る。表面は、指などの人体の一部であり得る。代替的に、処理対象物は、例えばプラズマ処理によって洗浄及び/又は修正されるべき材料を含む表面を有する任意の物体であり得る。特に、圧電トランス1は、ガスチャンバ内に処理対象物と共に配置される必要がないハンドヘルド装置の一部であり得る。
【0050】
図2A図2B図2C及び図2Dは、異なるベース信号Sbase、すなわち、プラズマを生成するために外部電極11,12に供給される時間tにわたる電圧Uの基本信号形状を示す。
【0051】
ベース信号Sbaseの周波数fbaseは、圧電トランスの共振周波数に対応し得る。共振周波数は、トランスの幾何形状などのトランスの内部要因だけでなく、点火されたプラズマが基板と相互作用することによって確立される負荷などの外部要因にも依存する。さらに、共振周波数は、例えば、トランスの温度にも依存し得る。
【0052】
制御回路は、電流と電圧との間のシフトを記録し、電流及び電圧がほぼ0°の位相シフトを示すようにベース信号を変更し得る。代替的に又は追加的に、出力領域における電界強度は、電界プローブによって測定され得、最大電界強度が達成されるように入力信号の周波数が調整され得る。この場合、ベース信号Sbaseの周波数は共振周波数に対応する。
【0053】
共振周波数は、100kHz未満であってもよい。一例として、共振周波数は、99kHz以下であってもよい。共振周波数は、少なくとも10kHzであってもよい。共振周波数は、例えば、10kHz~90kHzの範囲であってもよい。特定の実施形態では、共振周波数は約50kHzであってもよい。
【0054】
ベース信号Sbaseは、図2Aに示されるような鋸歯形状、図2Bに示されるような矩形形状、図2Cに示されるような三角形形状、又は図2Dに示されるような正弦波形状を有し得る。ベース信号Sbaseの他の形状も可能である。
【0055】
入力電圧は、数ボルトの範囲内であり得、トランスの先端における出力電圧は数キロボルトの範囲内であり得る。一例として、ピークツーピーク入力電圧Upp、すなわち、正と負のピーク振幅Apeak間の距離は、12~24Vの範囲内であってもよく、出力電圧は、例えば、最大で30kVであってもよい。ピーク振幅の絶対値|Apeak|は一定レベルである。
【0056】
トランスの動作中に、点火されたプラズマのエリアにおいて、出力側端部領域の角部にいわゆるストリーマが発生し得る。これらのストリーマが、薄い布地又は皮膚などの敏感な基板の表面に当たると、局所的な焼け跡が発生し得る。従って、敏感な基板が損傷を受ける可能性があり、これは望ましくない影響である。さらに、熱出力により基板の温度が過度に上昇する場合があり、これにより、基板が損傷する可能性がある。
【0057】
このようなストリーマによって引き起こされる局所的な高温を回避するために、トランスに供給される入力信号のピーク振幅Apeakの絶対値は、プラズマ発生器の点火電圧より小さいレベル及び大きいレベルに周期的に減少及び増加され得る。ピーク振幅Apeakの絶対値の減少は、損傷につながる局所的な高電力密度が低減されるという効果を有する。特に、DIN規格DIN EN 60601-1[3]も満たす漏れ電流を達成することができる。
【0058】
結果として得られる変調入力信号は、ベース信号、例えば図2A図2Dに示すベース信号Sbaseのうちの1つを変調信号で変調することによって達成され得る。
【0059】
図3A図3B、及び図3Cは、パルス形状を有する変調信号Smodの異なる実施形態を示す。パルス信号の形状は、それらのデューティサイクルDCが異なる。デューティサイクルDCは、結果として得られる変調された入力信号について、ピーク振幅の振動の1周期において、ピーク振幅の絶対値が点火電圧より大きい「オン時間」Tonの割合である。パルス信号の形状は、1と0のレベルの間で振動する。レベル1のパルスの長さは「オン時間」に対応し、そのようなパルス間の時間は「オフ時間」に対応する。
【0060】
変調信号Smodの周波数は、ベース信号Sbaseの周波数より小さい。変調信号の最大周波数は、プラズマ発生器の共振周波数の1/20であり得る。従って、10kHz~100kHzの範囲の共振周波数では、変調信号Smodの最大周波数は0.5kHz~5kHzである。
【0061】
プラズマ発生器の共振周波数に近くなるようにベース信号Sbaseの周波数を動的に調整するために、デューティサイクルDCは、ベース信号の十分な数の周期を得るために十分に大きくなければならない。0.5kHzの変調信号Smodの周波数では、デューティサイクルDCは、少なくとも0.5%であり得、5kHzの周波数では少なくとも5%であり得る。この場合、各デューティサイクルDC内には、50kHzの周波数を有するベース信号Sbaseの全周期が少なくとも10個存在する。
【0062】
図3Aでは、変調信号Smodは20%のデューティサイクルDCを有し、図3Bでは、変調信号Smodは50%のデューティサイクルを有し、図3Cでは、変調信号Smodは80%のデューティサイクルを有する。ベース信号Sbaseは、例えば、周期的に開閉されるスイッチによって、このようなパルス変調信号Smodによって変調され得る。一例として、電圧を切り替えるためにトランジスタが使用され得る。
【0063】
図4は、図2Dに示すような正弦波形状を有するベース信号Sbaseが、図3Cに示すような変調信号Smodに従って周期的にオン及びオフに切り替えられたことで生じる入力信号Sinを示す。従って、ピーク振幅の絶対値|Apeak|は、ベース信号のピーク振幅の絶対値と0の値との間で切り替わる。
【0064】
結果として得られる変調信号Smodは、例えば、ベース信号Sbaseに変調信号Smodを乗算することによって計算され得る。変調信号Smodが常に0電圧から増加することを保証するために、位相シフトが適用され得る。
【0065】
オフ時間Toff後のプラズマの点火をより容易にするために、オフ時間Toffは長すぎてはならない。一例として、オフ時間の適切な持続時間は10ms以下である。いくつかの実施形態では、5msがオフ時間の上限であってもよい。
【0066】
プラズマ発生器は、基板への所望の量のエネルギー入力を達成することができるようにデューティサイクルDCが調整されるように動作され得る。このような調整は、デューティサイクルが動作中に変化するように、動作中に動的に行われ得る。
【0067】
プラズマ発生器から放出される平均エネルギーは、デューティサイクルと変調信号Smodの周波数とに依存する。デューティサイクルが高いとき、放出されるエネルギーは高い。デューティサイクルが低いとき、放出されるエネルギーは低い。
【0068】
デューティサイクルを調整することで、例えば、幾何学的距離を変更すること、さらなる誘電体バリアを追加すること、及び/又はプロセス媒体を変更することなく、最大エネルギー伝達及び最大患者漏れ電流を制御することができる。
【0069】
一実施形態によれば、基板又は基板表面におけるエネルギー入力に対応するパラメータが決定される。決定された値に応じて、デューティサイクルは、経時的に平均エネルギーが増加又は減少するように調整され得る。
【0070】
ベース信号を再びオンに切り替えると、ベース信号Sbaseの周波数fbaseを共振周波数に再調整することができる。この目的のために、共振周波数からの周波数のシフトに対応するパラメータが取得され得、共振周波数に対応するようにベース信号の周波数が再調整される。このような再調整は、ベース信号が再びオンに切り替えられたときに各サイクルで行われ得る。従って、5kHzの変調信号の周波数では、再調整は200μsごとに行われる。
【0071】
図5は、パルス状の変調信号Smodのさらなる実施形態を示す。この実施形態では、変調信号Smodは、1と0.5のレベルの間で振動する。
【0072】
図6は、正弦波ベース信号Sbaseが図5の変調信号Smodによって変調されたことによって結果として得られる入力信号Sinを示す。オフ時間Toffの間、ピーク振幅の絶対値|Apeak|は0ではなく、オン時間Tonの間の絶対値|Apeak|の振幅の半分である。オフ時間Toffの間、ピーク振幅の絶対値|Apeak|は点火電圧Vigより小さく、プラズマの発生は停止される。
【0073】
パルス状の変調信号Smodの他のレベルも可能である。しかしながら、低レベルは、入力電圧が点火電圧より低く、プラズマが崩壊する程度に十分低くなければならない。低レベルは、次の点火がより低い点火電圧で開始し、入力電圧のわずかな増加のみによって到達され得るように、部品の振動を維持するのに十分高く選択され得る。このような「ウォーム」再始動によって、部品への機械的応力を低減することができ、信頼性を大幅に高めることができる。
【0074】
このような変調は、圧電トランスの振動運動がハイパルス間で維持されるという利点を有する。
【0075】
図7は、図3A図3C及び図5に示すような固定レベル間の切り替えとは異なり、信号が連続的に振動する変調信号Smodのさらなる例を示す。変調信号Smodは、正弦波振動の絶対値の形状を有する。示された連続振動は、圧電トランスの連続振動を維持するのに適している。
【0076】
図8は、ピーク振幅の絶対値|Apeak|が連続的に振動する入力信号Sinの一実施形態を示す。入力信号Sinは、図7に示される変調信号Smodによって変調された正弦波ベース信号に基づく。ピーク振幅|Apeak|の推移は、変調信号Smodの形状を有する包絡線に従う。
【0077】
結果として得られる振幅変調された入力信号SinのデューティサイクルDCは、ここでも、ピーク振幅の絶対値の振動の全周期の長さ、すなわち、入力信号Sinのピーク振幅の絶対値|Apeak|が点火電圧より大きくプラズマが発生する「オン時間」Tonと、ピーク電圧の絶対値が点火電圧Vigより小さい「オフ時間」Toffとの合計に対する「オン時間」Tonである。
【0078】
また、この実施形態では、オフ時間中のピーク振幅|Apeak|は、オフ時間中にプラズマの発生が崩壊するが、同時に、オフ時間中に圧電トランスの振動が維持されるようなものであり得る。ピーク振幅|Apeak|は、オフ時間の大部分にわたって0より大きくてもよい。特に、入力電圧U(t)は、オフ時間の間にいくつかの振動の周期を有し、それらの周期の大部分において、ピーク振幅|Apeak|は0より大きい。示された実施形態では、ピーク振幅|Apeak|は、オフ時間中の単一の期間のみ0の近傍にある。
【0079】
図9は、制御回路15と圧電トランス1とを備える圧電プラズマ発生器14を示す。
【0080】
制御回路15は、ベース信号、例えば図2A図2Dに示されるベース信号のうちの1つを供給するベース信号生成器16を備える。制御回路15は、変調信号が規定される変調信号生成器17と、変調された入力信号が生成されるように、ベース信号を変調信号と混合する、例えばスケーリングする信号ミキサ18とをさらに備える。
【0081】
制御回路15は、動作中にプラズマ発生器14のパラメータを決定する測定装置19をさらに備える。測定装置19は、ベース信号の周波数からの共振周波数のシフトを決定し得る。測定装置19は、代替的又は追加的に、基板へのエネルギー入力及び/又は電流の流れを決定し得る。
【0082】
測定装置の測定結果は、ベース信号の周波数が周期的に共振周波数に調整され得るように、ベース信号生成器16に提供され得る。
【0083】
さらに、測定装置19の測定結果は、変調信号生成器17に提供され得る。変調信号生成器17は、基板へのエネルギー入力又は電流の流れを動的に低下又は増加させるために、変調信号のデューティサイクルを調整し得る。
【0084】
いくつかの実施形態では、入力信号は、測定結果に応じて完全に遮断され得る。
【0085】
一例として、入力信号は、基板へのエネルギー入力が高すぎる及び/又は低すぎるときに遮断され得る。
【0086】
参照符号
1 圧電トランス
2 第1の領域
3 第2の領域
4 入力側端部領域
5 出力側端部領域
6 第1の内部電極
7 第2の内部電極
8 圧電材料
9 第1の側面
10 第2の側面
11 第1の外部電極
12 第2の外部電極
13 圧電材料
14 圧電プラズマ発生器
15 制御回路
16 ベース信号生成器
17 変調信号生成器
18 信号ミキサ
19 測定装置
20 基板
z 長手方向
x 積層方向
Sin 入力信号
Sbase ベース信号
Smod 変調信号
fbase ベース信号の周波数(第1の周波数)
fmod 変調信号の周波数(第2の周波数)
Apeak ピーク振幅
|Apeak| ピーク振幅の絶対値
Upp ピークツーピーク電圧
Vig 点火電圧
Ton オン時間
Toff オフ時間
Tcycle サイクル時間
DC デューティサイクル
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A-4】
図5-6】
図7
図8
図9