(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】エチレン系重合体組成物およびその用途
(51)【国際特許分類】
C08L 23/04 20060101AFI20230901BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20230901BHJP
【FI】
C08L23/04
C08K3/04
(21)【出願番号】P 2022543327
(86)(22)【出願日】2021-07-16
(86)【国際出願番号】 JP2021026764
(87)【国際公開番号】W WO2022038941
(87)【国際公開日】2022-02-24
【審査請求日】2023-02-10
(31)【優先権主張番号】P 2020138248
(32)【優先日】2020-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021034411
(32)【優先日】2021-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小松 千紘
(72)【発明者】
【氏名】中野 誠
(72)【発明者】
【氏名】深川 克正
(72)【発明者】
【氏名】藤村 太
(72)【発明者】
【氏名】山田 孝裕
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 啓輔
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-084024(JP,A)
【文献】特開2014-193976(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103980595(CN,A)
【文献】特開2009-067864(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103044754(CN,A)
【文献】特開2014-193974(JP,A)
【文献】国際公開第2015/050263(WO,A1)
【文献】特開昭61-218648(JP,A)
【文献】特開2015-146259(JP,A)
【文献】国際公開第2018/147250(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン系重合体(A)および炭素系フィラー(C)を含有するエチレン系重合体組成物であって、
エチレン系重合体組成物のMFRが、JIS K7210-1:2014に準拠し、測定温度230℃、10kgfの荷重で測定したメルトフローレート(MFR:Melt Flow Rate)が、0.1~20g/10分の範囲にあ
り、
前記エチレン系重合体(A)が、エチレン系重合体組成物(A-I)10~90質量%およびエチレン系重合体組成物(A-II)90~10質量%〔但し、(A-I)+(A-II)の合計量を100質量%とする。〕を含んでなるエチレン系重合体組成物であり、
エチレン系重合体組成物(A-I)が、
極限粘度[η]が10~40dl/gの超高分子量エチレン系重合体(成分(a-1))と
極限粘度[η]が0.1~9dl/gの低分子量ないし高分子量エチレン系重合体(成分(a-2))とを含んでなるエチレン重合体組成物であって、
成分(a-1)と成分(a-2)との合計質量を基準として、
成分(a-1)が35質量%を超え90質量%以下であり、
成分(a-2)が10質量%以上65質量%未満であり、
エチレン系重合体組成物(A-I)の密度が930~980kg/m
3
であり、かつ、
極限粘度[η]が3.0~10.0dl/gであり、
エチレン系重合体組成物(A-II)が、少なくとも極限粘度[η]が0.1~2.9dl/gのエチレン(共)重合体を含む
ことを特徴とするエチレン系重合体組成物。
【請求項2】
エチレン系重合体(A)の含有量が70~99.9質量%および炭素系フィラー(C)の含有量が0.1~30質量%〔(A)+(C)の合計量を100質量%とする。〕である請求項1に記載のエチレン系重合体組成物。
【請求項3】
前記炭素系フィラー(C)が、カーボンナノチューブである、請求項1または2に記載のエチレン系重合体組成物。
【請求項4】
エチレン系重合体(A)および炭素系フィラー(C)を含有するエチレン系重合体組成物であって、
エチレン系重合体組成物のMFRが、JIS K7210-1:2014に準拠し、測定温度230℃、10kgfの荷重で測定したメルトフローレート(MFR:Melt Flow Rate)が、0.1~20g/10分の範囲にあり、
エチレン系重合体組成物が、さらにポリアミドを30質量%以下の量〔(A)+(C)+ポリアミドの合計量を100質量%とする。〕含む
エチレン系重合体組成物。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のエチレン系重合体組成物を含む成形体。
【請求項6】
成形体が、射出成形体である請求項
5に記載の成形体。
【請求項7】
成形体が、被覆材である請求項
5に記載の成形体。
【請求項8】
成形体が、摺動材である請求項
5に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性が良好で、かつ、優れた摺動性を有する成形体の材料となるエチレン系重合体組成物およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
分子量が極めて高いエチレン系重合体、所謂超高分子量エチレン系重合体は、汎用のエチレン系重合体に比して耐衝撃性、耐摩耗性、耐薬品性、強度に優れており、エンジニアリングプラスチックとして優れた特徴を有している。
【0003】
このような超高分子量エチレン系重合体は、ハロゲン含有遷移金属化合物と有機金属化合物とからなる所謂チーグラー触媒やマグネシウム化合物担持型触媒などの公知の触媒によって得られることが知られている。
【0004】
超高分子量エチレン系重合体はその分子量の高さ故に、一般的な樹脂の成形法である溶融成形を行うことが困難とされている。超高分子量エチレン系重合体の成形体作製法としてラム押出法はすでに一般的に使用されている方法である(特許文献1)。
【0005】
また、エチレン系重合体の摺動性および機械的物性を改良する方法として、エチレン系重合体にセルロース繊維を分散させることが提案されている(特許文献2)。
一方、用途によっては、更に導電性が改良されたエチレン系重合体組成物が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭55-28896号公報
【文献】特開2019-35005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、表面抵抗率及び体積抵抗率が低く、かつ、優れた摺動性を有する成形体の材料となるエチレン系重合体組成物を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、エチレン系重合体(A)および炭素系フィラー(C)を含有するエチレン系重合体組成物であって、エチレン系重合体組成物のMFRが、JIS K7210-1:2014に準拠し、測定温度230℃、10kgfの荷重で測定したメルトフローレート(MFR:Melt Flow Rate)が、0.1~20g/10分の範囲にあることを特徴とするエチレン系重合体組成物に係る。
【発明の効果】
【0009】
本発明のエチレン系重合体組成物は、炭素系フィラー(C)を含むので、表面抵抗率及び体積抵抗率が低く、また、良好な熱伝導性を有している。当該エチレン系重合体組成物から得られる成形体は、良好な摺動性を有し、また、剛性を有している。従って、各種機械部品や摺動材料に使用し得る。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<エチレン系重合体(A)>
本発明のエチレン系重合体組成物を構成する成分の一つであるエチレン系重合体(A)は、エチレンの単独重合体、およびエチレンとα-オレフィンとの共重合体であり、一般に高圧法低密度ポリエチレン(HP-LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、超高分子量ポリエチレンと呼称されているエチレンを主体とする重合体である。
【0011】
本発明に係るエチレン系重合体(A)は、共重合体である場合は、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよい。
エチレンと共重合されるα-オレフィンは、好ましくは炭素数3~20のα-オレフィンであり、具体的には、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、9-メチル-1-デセン、11-メチル-1-ドデセンおよび12-エチル-1-テトラデセンなどが挙げられる。これらα-オレフィンは、単独で、または2種以上組み合わせて用いられる。
【0012】
本発明に係るエチレン系重合体(A)は、単一の重合体であっても二種以上のエチレン系重合体の組成物(混合物)であってもよい。
また、本発明に係るエチレン系重合体(A)は、エチレン系重合体(A)の一部が極性化合物で変性されていても良く、また、極性化合物で変性されたエチレン系重合体を含んでいてもよい。
【0013】
本発明に係るエチレン系重合体(A)を変性する方法としては、種々公知の方法、例えば、エチレン系重合体(A)を有機溶媒に溶解し、次いで得られた溶液に不飽和カルボン酸またはその誘導体などの極性化合物および必要に応じて有機過酸化物などのラジカル開始剤を加え、通常、60~350℃、好ましくは80~190℃の温度で、0.5~15時間、好ましくは1~10時間反応させる方法、あるいは、押出機などを使用して、無溶媒で、エチレン系重合体(A)と、不飽和カルボン酸もしくはその誘導体及び必要に応じて有機過酸化物などのラジカル開始剤を加え、通常、エチレン系重合体(A)の融点以上、好ましくは160~350℃、0.5~10分間反応させる方法を採り得る。
【0014】
本発明に係るエチレン系重合体(A)が変性されたエチレン系重合体を含む場合は、その量は、通常、0.5質量%~6質量%の範囲であり、後述のエチレン系重合体組成物全体に対しては、好ましくは0.5質量%~4質量%の範囲である。
【0015】
後述の本発明のエチレン系重合体組成物が、変性されたエチレン系重合体を含むと、エチレン系重合体(A)と炭素系フィラー(C)との濡れ性が向上し、引張破断強度、曲げ強度、曲げ弾性率、動摩擦係数、比摩耗量がさらに向上する。
【0016】
本発明に係るエチレン系重合体(A)は、より好ましくは、135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度[η](以下、単に「極限粘度[η]」と呼称する場合がある。)が10~40dl/gの超高分子量ポリエチレンである。
【0017】
本発明に係るエチレン系重合体(A)として、上記超高分子量ポリエチレンを用いる場合は、極限粘度[η]が0.1~9dl/gの低分子量ないし高分子量のエチレン系重合体を含む二種以上のエチレン系重合体の組成物であってもよい。
【0018】
さらに本発明に係るエチレン系重合体(A)は、下記二種以上のエチレン系重合体を含む組成物(混合物)であってもよい。
エチレン系重合体組成物(A-I)10~90質量%およびエチレン系重合体組成物(A-II)90~10質量%〔但し、(A-I)+(A-II)の合計量を100質量%とする。〕を含んでなるエチレン系重合体組成物であって、
エチレン系重合体組成物(A-I)が、
極限粘度[η]が10~40dl/gの超高分子量エチレン系重合体(成分(a-1))と
極限粘度[η]が0.1~9dl/gの低分子量ないし高分子量エチレン系重合体(成分(a-2))とを含んでなるエチレン重合体組成物であって、
成分(a-1)と成分(a-2)との合計質量を基準として、
成分(a-1)が35質量%を超え90質量%以下であり、
成分(a-2)が10質量%以上65質量%未満であり、
であり、
エチレン系重合体組成物(A-I)の密度が930~980kg/m3であり、かつ、極限粘度[η]が3.0~10.0dl/gであり、
エチレン系重合体組成物(A-II)が、少なくとも極限粘度[η]が0.1~2.9dl/gのエチレン(共)重合体を含むことを特徴とするエチレン系重合体樹脂組成物である。
【0019】
さらに、上記エチレン系重合体組成物(A-II)が、密度が820~980kg/m3であり、かつ、極限粘度[η]が0.1~2.9dl/gであるエチレン系重合体であることがより好ましい。
【0020】
上記エチレン系重合体組成物(A-I)と上記エチレン系重合体組成物(A-II)との配合割合は、エチレン系重合体組成物(A-I)15~90質量%に対し、エチレン系重合体組成物(A-II)85~10質量%、好ましくはエチレン系重合体組成物(A-I)20~80質量%に対し、エチレン系重合体組成物(A-II)80~20質量%、より好ましくはエチレン系重合体組成物(A-I)26.7~49質量%に対し、エチレン系重合体組成物(A-II)73.3~51質量%である。
【0021】
〈エチレン系重合体組成物(A-I)〉
成分(a-1)と成分(a-2)とを含んでなるエチレン系重合体組成物(A-I)を構成する超高分子量エチレン系重合体(成分(a-1))は、135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]が、10~40dl/g、好ましくは15~35dl/g、より好ましくは20~35dl/gの範囲内にあるエチレン系重合体であり、第1段階の重合にて得ることができる。
【0022】
他方、低分子量ないし高分子量のエチレン系重合体(成分(a-2))は、同様に135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]が、0.1~9dl/g、好ましくは0.1~5dl/g、より好ましくは0.5~3dl/g、さらにより好ましくは1.0~2.5dl/gの範囲内にあるエチレン系重合体であり、上記超高分子量エチレン系重合体の重合後、第2段階の重合にて得ることができる。この成分(a-1)と成分(a-2)とを含んでなるエチレン系重合体組成物(A-I)は、触媒の存在下に、エチレンおよび所望に応じてα-オレフィンを多段階で重合させることにより製造することができるが、多段階で重合させる方法については、特開平2-289636号公報に記載の重合方法と同様な方法で行うことができる。
【0023】
極限粘度[η]が上記範囲内にある超高分子量エチレン系重合体(成分(a-1))を使用することにより、耐摩耗性、自己潤滑性、衝撃強度、耐薬品性などに優れた成形体が得られる。
【0024】
また、このような超高分子量エチレン系重合体(成分(a-1))とともに、極限粘度[η]が上記範囲内にある低分子量ないし高分子量のエチレン系重合体(成分(a-2))を後重合することにより、エチレン系重合体組成物(A-II)との相溶性が向上することから、結果的に超高分子量エチレン系重合体が均一に分散、結合することになり、耐摩耗性、自己潤滑性、衝撃強度、耐薬品性、外観および成形性などの特性のバランスに優れ、とりわけ耐摩耗性、外観と成形性のバランスに優れたエチレン系重合体組成物が得られる。
【0025】
また、極限粘度の高い成分(a-1)とともに、極限粘度[η]が上記範囲内にある低分子量ないし高分子量のエチレン系重合体〔成分(a-2)〕を有することで、炭素系フィラー(C)が分散しやすくなり、導電性を得るのに十分な量の炭素系フィラー(C)を含有させることができる。
【0026】
本発明において成分(a-1)と成分(a-2)とを含んでなるエチレン系重合体組成物(A-I)は、上記超高分子量エチレン系重合体(成分(a-1))と、低分子量ないし高分子量のエチレン系重合体(成分(a-2))とを特定の割合で含有する。
【0027】
すなわち、成分(a-1)と成分(a-2)とを含んでなるエチレン系重合体組成物(A-I)は、超高分子量エチレン系重合体(成分(a-1))を、35質量%を超え90質量%以下の量で含有し、低分子量ないし高分子量のエチレン系重合体(成分(a-2))を10質量%以上65質量%未満の量で含有する。
【0028】
超高分子量エチレン系重合体(成分(a-1))と、低分子量ないし高分子量のエチレン系重合体(成分(a-2))との割合を上記の範囲内にすることにより、超高分子量エチレン系重合体の大きな粒子状のものが得られるほか、エチレン系重合体組成物(A-II)との相溶性が向上し、特に耐摩耗性や外観と成形性に優れたエチレン系重合体組成物が得られる。
【0029】
成分(a-1)と成分(a-2)とを含んでなるエチレン系重合体組成物(A-I)は、成分(a-1)を、より好ましくは40質量%を超え80質量%以下、さらに好ましくは41~75質量%の量で含有し、成分(a-2)をより好ましくは20質量%以上60質量%未満、さらに好ましくは25~59質量%の量で含有する。
【0030】
成分(a-1)と成分(a-2)とを含んでなるエチレン系重合体組成物(A-I)は、実質的に超高分子量ポリエチレン(成分(a-1))と、低分子量ないし高分子量ポリエチレン(成分(a-2))とを含んでなる。
【0031】
したがって、成分(a-1)と成分(a-2)とを含んでなるエチレン系重合体組成物(A-I)中における超高分子量ポリエチレン(成分(a-1))の含有率と、低分子量ないし高分子量ポリエチレン(成分(a-2))との含有率の和は、通常100質量%になるが、これらに加えて、本発明の目的を損ねない範囲であれば、通常のポリオレフィンに添加される添加剤(例えば、耐熱安定剤、耐候安定剤などの安定剤、架橋剤、架橋助剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、染料、顔料、フィラー、鉱物油系軟化剤、石油樹脂、ワックス、相溶化剤など)を含有していてもよい。
【0032】
このように実質的に超高分子量エチレン系重合体と低分子量ないし高分子量エチレン系重合体とからなる、成分(a-1)と成分(a-2)とを含んでなるエチレン系重合体組成物(A-I)は、ASTM D1505に準拠して測定される密度が930~980kg/m3、好ましくは940から980kg/m3の範囲である。
【0033】
また、成分(a-1)と成分(a-2)とを含んでなるエチレン系重合体組成物(A-I)の135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]は、3.0~10.0dl/g、好ましくは3.0~8.0dl/g、より好ましくは3.0~7.0dl/gの範囲内にある。
【0034】
成分(a-1)と成分(a-2)とを含んでなるエチレン系重合体組成物(A-I)が、上記のような密度を有することにより、成形体の動摩擦係数が小さくなるので自己潤滑性に優れた成形体が得られる。
【0035】
また、成分(a-1)と成分(a-2)とを含んでなるエチレン系重合体組成物(A-I)が、上記の範囲内の極限粘度[η]を有することにより、この成分(a-1)と成分(a-2)とを含んでなるエチレン系重合体組成物(A-I)とエチレン系重合体組成物(A-II)との分散状態が良好になる。
【0036】
すなわち、成分(a-1)と成分(a-2)とを含んでなるエチレン系重合体組成物(A-I)に含有される低分子量ないし高分子量エチレン系重合体と、押出機などでメルトブレンドするエチレン系重合体組成物(A-II)との両成分が相互に微細に分散することにより分散状態が均一になるので、このエチレン系重合体組成物を用いることにより、耐摩耗性、自己潤滑性、衝撃強度、耐薬品性、外観および成形性などに優れた成形体が得られる。
【0037】
エチレン系重合体組成物(A-I)は、他の重合体とブレンドすることにより耐摩耗性、自己潤滑性などを高めることができ樹脂改質材として好適に用いられる。改質する重合体に限定はないがエチレン系重合体組成物(A-II)が好適である。
【0038】
〈エチレン系重合体組成物(A-II)〉
本発明に係るエチレン系重合体組成物(A-II)は、少なくとも極限粘度[η]が0.1~2.9dl/gであるエチレン系重合体を含む組成物であれば、特に限定されない。該エチレン系重合体としては、高圧法ポリエチレン(HP-LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、エチレン・α-オレフィン共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体ケン化物、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン・α-オレフィン・ジエン(トリエン、ポリエン)三元共重合体などが挙げられる。ここでα-オレフィンとしては、炭素数3~20のプロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、4-メチル-1-ペンテンおよび3-メチル-1-ペンテンなどが例示でき、またジエン(トリエン、ポリエン)としては、共役もしくは非共役ジエン、トリエン、ポリエンを含む、5-エチリデン-2-ノルボルネン、ビニルノルボルネンなどを例示できる。
【0039】
該エチレン系重合体は、単独で用いても、あるいは2種以上のエチレン系重合体の組成物であってもよく、またエチレン系重合体と、ポリプロピレン、ポリブテンなどのその他のポリオレフィンとの組成物であってもよい。
【0040】
本発明に係るエチレン系重合体組成物(A-II)はその密度は820~980kg/m3、好ましくは850~970kg/m3、より好ましくは860~960kg/m3であり、極限粘度[η]は0.1~2.9dl/g、好ましくは0.3~2.8dl/g、より好ましくは0.5~2.5dl/gである。
【0041】
本発明に係るエチレン系重合体組成物(A-II)に含有される好ましい重合体としては、上記の密度が820~980kg/m3、極限粘度[η]が0.1~2.9dl/gであるエチレン系重合体の他、ポリプロピレンとエチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体との組成物およびエチレン・ビニルアルコール共重合体などを挙げることができる。
【0042】
本発明に係るエチレン系重合体組成物(A-II)が、少なくとも極限粘度[η]0.1~2.9dl/gであるエチレン系重合体を含む組成物であることにより、成分(a-1)と成分(a-2)とを含んでなるエチレン系重合体組成物(A-I)との分散状態が良好になる。すなわち、押出機などでのメルトブレンド時、エチレン系重合体組成物(A-II)と、成分(a-1)と成分(a-2)とを含んでなるエチレン系重合体組成物(A-I)に含まれる低分子量ないし高分子量エチレン系重合体との両成分が相互に微細に分散することにより分散状態が均一になるので、この重合体組成物を用いることにより、耐摩耗性、自己潤滑性、衝撃強度、耐薬品性、外観、柔軟性および成形性などに優れた成形体が得られる。
【0043】
本発明に係るエチレン系重合体組成物(A-II)は、本発明の目的を損ねない範囲であれば、通常のポリオレフィンに添加される添加剤(例えば、耐熱安定剤、耐候安定剤などの安定剤、架橋剤、架橋助剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、染料、顔料、フィラー、鉱物油系軟化剤、石油樹脂、ワックス、相溶化剤など)を含有していてもよい。
【0044】
<炭素系フィラー(C)>
本発明のエチレン系重合体組成物を構成する成分の一つである炭素系フィラー(C)としては、例えば、カーボンナノチューブ(CNT)、導電性カーボンブラック(CB)、炭素繊維が挙げられる。炭素系フィラー(C)としては導電性を有するこれらの材料であれば特に制限されないが、これらの中でも、成形体の表面電気抵抗率を下げる効果に優れていることから、カーボンナノチューブが好ましい。
【0045】
カーボンナノチューブは、炭素からなる円筒状の中空繊維状物質であり、多層カーボンナノチューブおよび単層カーボンナノチューブのいずれでもよい。
カーボンナノチューブの平均直径は、好ましくは1nm以上、より好ましくは5nm以上、さらに好ましくは7nm以上であり、好ましくは20nm以下である。また、カーボンナノチューブの平均長さは、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは0.6μm以上であり、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下、さらに好ましくは15μm以下である。平均直径が1nm以上であれば混練時に切れにくくすることができ、20nm以下であれば導電性を高めることができる傾向にある。また、平均長さが0.5μm以上であれば導電性を高めることができ、50μm以下であれば混練時の粘度上昇を抑制し、混練および成形をしやすくすることができる傾向にある。
【0046】
カーボンナノチューブの平均直径および平均長さは、カーボンナノチューブを電子顕微鏡(SEM、TEM)で観察し、算術平均することにより求めることができる。
カーボンナノチューブは、例えば、アーク放電法、化学気相成長法(CVD法)、レーザー・アブレーション法によって製造することができる。カーボンナノチューブの市販品を用いてもよい。
【0047】
カーボンナノチューブは、例えばカーボンブラックに比べて、比較的少量で高い導電性を示す傾向にあるが、高価であるためより少量で使用できればコスト面の観点から有利である。本実施形態では、炭素系フィラー(C)およびエチレン系重合体(A)含有するエチレン系重合体組成物を用いることで、優れた導電性を得ることができることから、少量のカーボンナノチューブでも高い導電性が得られる傾向にある。
【0048】
導電性カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックが挙げられる。具体的には、HAF-LS、HAF、HAF-HS、FEF、GPF、APF、SRF-LM、SRF-HM、MTが挙げられる。
【0049】
導電性カーボンブラックの1次粒子径は、好ましくは0.005μm以上、より好ましくは0.01μm以上であり、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.2μm以下である。1次粒子径とは、電子顕微鏡などで測定された粒子径を平均したものである。
【0050】
炭素繊維としては、公知の種々の炭素繊維を使用することができ、例えば、ポリアクリロニトリル系、レーヨン系、ピッチ系、ポリビニルアルコール系、再生セルロース系、メゾフェーズピッチから製造されたピッチ系等の炭素繊維が挙げられる。炭素繊維は、比強度に優れている点で、軽量性と強度とが重視される用途、例えば航空機用において優位にある。
【0051】
炭素繊維は汎用繊維でよく、高強度繊維でもよい。また、炭素繊維は、長繊維、短繊維、チョップドファイバー、リサイクル繊維であってもよい。
炭素繊維の集束剤(サイズ剤)としては、例えば、ウレタン系エマルション、エポキシ系エマルション、ナイロン系エマルション、オレフィン系エマルションのいずれの集束剤も使用することができる。
【0052】
炭素繊維の平均長さ、すなわち平均繊維長は、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.3mm以上、さらに好ましくは0.5mm以上であり、好ましくは15.0mm以下、より好ましくは13.0mm以下である。平均繊維長が0.1mm以上である場合には、炭素繊維による機械物性の補強効果が充分発現される傾向にある。平均繊維長が15.0mm以下である場合には、エチレン系重合体組成物中の炭素繊維の分散性、よって外観が良好となる傾向にある。
【0053】
炭素繊維の平均直径は、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上であり、好ましくは30μm以下、より好ましくは21μm以下、さらに好ましくは19μm以下である。炭素繊維の平均直径が3μm以上である場合には、成形時に炭素繊維が破損し難くなり、また、得られる成形体の衝撃強度が高くなる傾向にある。炭素繊維の平均直径が30μm以下である場合には、成形体の外観が良好となり、また、炭素繊維のアスペクト比が低下せず、成形体の剛性、耐熱性などの機械的物性に十分な補強効果が得られる傾向にある。
【0054】
炭素系フィラー(C)は1種または2種以上用いることができる。
<エチレン系重合体の組成物>
本発明のエチレン系重合体組成物は、上記エチレン系重合体(A)および上記炭素系フィラー(C)を含有する組成物であって、好ましくは上記エチレン系重合体(A)の含有量が70~99.9質量%、より好ましくは85.0~99.9質量%および炭素系フィラー(C)の含有量が0.1~30質量%、好ましくは0.1~15.00質量%〔(A)+(C)の合計量を100質量%とする。〕の範囲にある。
【0055】
本発明のエチレン系重合体組成物は上記炭素系フィラー(C)を含むので、得られる成形体は、摺動性を有し、さらに、高い導電性を有する。
本発明に係るエチレン系重合体組成物は、通常、JIS K 7210-1:2014に準拠し、230℃で10kgfの荷重で測定したMFRが0.1~20g/10分、好ましくは1~20g/10分の範囲にある。
【0056】
本発明のエチレン系重合体組成物は、上記炭素系フィラー(C)に加え、必要に応じてさらにポリアミドを含んでも良い。
<ポリアミド>
本発明に係るポリアミドとしては、例えば、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド614、ポリアミド6T、ポリアミド6I、ポリアミド9T、ポリアミドM5T、ポリアミド1010、ポリアミド1012、ポリアミド10T、ポリアミドMXD6、ポリアミド6T/66、ポリアミド6T/6I、ポリアミド6T/6I/66、ポリアミド6T/2M-5T、ポリアミド9T/2M-8Tが挙げられる。
【0057】
ポリアミドとしては、ポリアミド成分を含有するブロックコポリマーを用いてもよい。ポリアミド成分を含有するブロックコポリマーとしては、例えば、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオールを用いたブロックコポリマーであるポリアミドエラストマーが挙げられる。ポリエーテルジオールとしては、例えば、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリオキシプロピレングリコールが挙げられる。
【0058】
ポリアミドは1種または2種以上用いることができる。
本発明のエチレン系重合体組成物がポリアミドを含むと、エチレン系重合体(A)中に炭素系フィラー(C)が分散しやすくなり、耐摩耗性、導電性がさらに向上する。
【0059】
本発明のエチレン系重合体組成物がポリアミドを含む場合は、その量は、1.0~30質量%の範囲にあることが好ましい。ポリアミドの含有割合は、より好ましくは5質量%以上である。また、ポリアミドの含有割合はより好ましくは20質量%以下である。
【0060】
本発明のエチレン系重合体組成物は、必要に応じて、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、タルク、炭酸カルシウム、金属粉、酸化チタン、酸化亜鉛などの無機充填剤(ただし、炭素系フィラー(C)を除く)、ワックス、滑剤、スリップ剤、核剤、ブロッキング防止剤、帯電防止剤、防曇剤、顔料、染料、分散剤、難燃剤、難燃助剤、可塑剤、相溶化剤等の通常ポリオレフィンに用いる各種添加剤、あるいはエラストマーなどの衝撃強度改質剤など他の重合体を本発明の目的を損なわない範囲で添加しておいてもよい。
【0061】
本発明のエチレン系重合体組成物が上記添加剤あるいは重合体を含む場合は、その量は特に限定されないが、通常、0.01~30質量%の範囲である。
本発明のエチレン系重合体組成物は、その他の成分として、ワックスを含むことが好ましい。ワックスの種類は特に限定されないが、ポリエチレン系ワックス、ポリプロピレン系ワックスが好ましい。
【0062】
本発明のエチレン系重合体組成物がワックスを含むとエチレン系重合体(A)中での炭素系フィラー(C)の凝集が抑制されるので混練するのが容易になり、エチレン系重合体(A)中に炭素系フィラーが分散しやすいと考えられる。そのため、高い導電性を有するエチレン系重合体組成物が得られる。また、エチレン系重合体(A)に高い含有率の炭素系フィラー(C)を混練するのが容易になると考えられる。
【0063】
本発明のエチレン系重合体組成物がワックスを含む場合は、その量は通常、0.01~10質量%の範囲である。
<エチレン系重合体組成物の製造方法>
本発明のエチレン系重合体組成物は、従来公知の製造方法、例えば、エチレン系重合体(A)、炭素系フィラー(C)および必要に応じて、ポリアミドあるいは上記各種添加剤などをドライブレンドし、続いて一軸または二軸押出機で溶融混練し、ストランド状に押出しペレットに造粒することにより得ることができる。なお、炭素系フィラー(C)や無機充填剤などの成分は、エチレン系重合体(A)等の重合体成分と予め混合してマスターバッチの形態で用いてもよい。
【0064】
<成形体>
本発明の成形体は、上記エチレン系重合体組成物を含む。成形体の製造方法(成形方法)としては、具体的には、従来公知のポリオレフィンの成形方法、例えば、押出成形、射出成形、フィルム成形、インフレーション成形、ブロー成形、押出ブロー成形、射出ブロー成形、プレス成形、真空成形、パウダースラッシュ成形、カレンダー成形、発泡成形等の公知の熱成形方法が挙げられる。好ましくは射出成形によって、上記エチレン系重合体組成物を加工することで、上記エチレン系重合体組成物を含む成形体を得ることが可能である。成形体としては、炭素系フィラー(C)としてカーボンナノチューブを含有するエチレン系重合体組成物を含む成形体が好ましい。
【0065】
エチレン系重合体組成物の成形体の密度は、JIS Z8807:2012に準拠し、液中秤量法により23℃、水中にて測定した。
一般的には、射出成形体はプレス成形体よりも導電性が低い(表面電気抵抗率が高い)傾向にある。本発明のエチレン系重合体組成物は、射出成形であっても充分高い導電性を得ることができる。このように、本発明のエチレン系重合体組成物は、成形加工方法によらず優れた導電性を有する成形体を形成することができる。
【0066】
上記成形体は、上記エチレン系重合体組成物から形成された成形体であってもよく、また、上記エチレン系重合体組成物から形成された部分、例えば表層、を有する成形体であってもよい。
【0067】
さらに、本発明のエチレン系重合体組成物からなる成形体は、機械物性にも優れている。
成形体の具体例としては、日用品やレクリエーション用途などの家庭用品から、一般産業用途、工業用品に至る広い用途で用いられる。例えば、家電材料部品、通信機器部品、電気部品、電子部品、自動車部品、その他の車両の部品、船舶、航空機材料、機械機構部品、建材関連部材、土木部材、農業資材、電動工具部品、食品容器、フィルム、シート、繊維が挙げられる。
【0068】
また、本発明の成形体は、従来公知のポリエチレン用途に広く使用できるが、特に耐摩耗性、自己潤滑性、衝撃強度、薄肉成形などの特性のバランスに優れているので、これらが要求される用途として、例えば、鋼管、電線、自動車スライドドアレールなどの金属の被覆材(積層)、耐圧ゴムホース、自動車ドア用ガスケット、クリーンルームドア用ガスケット、自動車グラスランチャンネル、自動車ウエザストリップなどの各種ゴムの被覆材(積層)、ホッパー、シュートなどのライニング用、ギアー、軸受、ローラー、テープリール、各種ガイドレールやエレベーターレールガイド、各種保護ライナー材などの摺動材などに使用される。
【0069】
本発明の成形体は、導電性に優れるため、各種機械部品や摺動部材の帯電性を抑制することが可能であり、帯電防止を要求される用途に好適に使用できる。
【実施例】
【0070】
以下、本発明を実施例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。以下の実施例等の記載において、特に言及しない限り、「部」は「質量部」を示す。
【0071】
本発明の実施例および比較例では下記のエチレン系重合体(A)および炭素系フィラー(C)を用いた。
(1)エチレン系重合体(A)
(1.1)エチレン系共重合体組成物(A-1)
極限粘度[η]が30dl/gの超高分子量ポリエチレン(成分(a-1))と極限粘度[η]が1.5dl/gの低分子量ポリエチレン(成分(a-2))との質量比を41/59の割合で2段重合にて生成させて得たエチレン系重合体組成物(A-I-1)(極限粘度[η]4.4dl/g)に、エチレン系重合体組成物(A-1)中の超高分子量ポリエチレン(成分(a-1))濃度が20質量%となるように、極限粘度[η]が1.1dl/g、で密度965kg/m3の高密度低分子量ポリエチレン((株)プライムポリマー社製、商品名ハイゼックス1700JP)をエチレン系重合体組成物(A-II-1)として49/51の質量比で配合し、池貝鉄工製・PCM二軸押出機を用いてメルトブレンドすることにより、ペレット状にしてエチレン系共重合体組成物(A-1)を得た。
【0072】
エチレン系重合体(A)として、上記製造方法で得た極限粘度[η]が3.0dl/gのエチレン系共重合体組成物(A-1)を用いた。
(1.2)エチレン系共重合体(B-1)
極限粘度[η]が1.1dl/g、密度965kg/m3の高密度低分子量ポリエチレン((株)プライムポリマー社製、商品名ハイゼックス1700J)を使用した。
【0073】
(2)炭素系フィラー(C)
(2.1)炭素系フィラー(C-1)
炭素系フィラー(C-1)として、カーボンナノチューブの平均直径:9.5nm、平均長さ:1.5μmのナノシル社製 商品名 カーボンナノチューブNC7000を用いた。
【0074】
(2.2)炭素系フィラー(C-1)含有マスターバッチ(1)の作製
炭素系フィラー(C-1)を15質量%、エチレン系共重合体組成物(A-1)を75質量%およびワックスを10質量%混合し、マスターバッチ(1)を作製した。
【0075】
(2.3)炭素系フィラー(C-1)含有マスターバッチ(2)の作製
炭素系フィラー(C-1)を15質量%、エチレン系共重合体(B-1)を75質量%およびワックスを10質量%混合し、マスターバッチ(2)を作製した。
【0076】
上記エチレン系重合体組成物の物性は以下の方法で測定した。
[極限粘度[η]の測定方法]
ASTM D4020に準拠して、上記エチレン系重合体組成物をデカリンに溶解させ、135℃で測定した極限粘度を[η]とした。
[密度の測定方法]
炭素系フィラーを加える前のエチレン系共重合体組成物の密度は、ASTM D1505に準拠して、密度勾配法で測定した。
【0077】
〔実施例1〕
上記エチレン系共重合体組成物(A-1):90質量%と上記炭素系フィラー(C-1)含有マスターバッチ(1):10質量%とをドライブレンドした後、株式会社プラスチック工学研究所社製BT30二軸押出機のホッパー部にドライブレンド物を投入し、230℃で溶融混錬し、エチレン系重合体組成物のペレットを作成した。
【0078】
得られたエチレン系重合体組成物のMFRを以下の方法で測定した。
JIS K7210-1:2014に準拠し、測定温度230℃、10kgfの荷重で測定したメルトフローレート(MFR:Melt Flow Rate)は16.2g/10分であった。
【0079】
東芝機械株式会社製の射出成型機 東芝75トンのホッパー部に上記エチレン系重合体組成物のペレットを投入し、230℃で溶融させ、30℃の金型に射出圧90MPa、保圧75MPaで射出成形し、ISO3167:93に準拠した多目的試験片A型、ならびに300mm×300mm×3mm厚の平板成形体を作製した。
【0080】
別途、エチレン系重合体組成物のペレットを用いて、230℃に設定した神藤金属工業社製油圧式熱プレス機を用い、予熱を8分とし、10MPaで3分間加圧したのち、20℃に設定した別の神藤金属工業社製油圧式プレス機を用い、5分間圧縮冷却を行い、1mm厚のプレスシート試験片を作成した。熱板として5mm厚の真鍮板を用いた。
【0081】
得られたエチレン系重合体組成物の物性を以下の方法で測定した。
結果を表1に示す。
〔密度〕
エチレン系重合体組成物の成形体の密度は、JIS Z8807:2012に準拠し、液中秤量法により23℃、水中にて測定した。
【0082】
〔引張破断強度、引張破断伸び〕
ISO 527-1,2に準拠し、試験片形状をJIS K7162 1Aに記載の形状とし、引張速度50mm/分として、引張破断強度、引張破断伸びを求めた。
【0083】
〔曲げ強度・曲げ弾性率〕
ISO 178に準拠し、試験片形状を80mm(長さ)、10mm(幅)、4mm(厚み)でスパン間距離64mm、試験速度2mm/分として、曲げ強度、曲げ弾性率を求めた。
【0084】
〔動摩擦係数、比摩耗量〕
JIS K7218「プラスチックの滑り摩耗試験A法」に準拠して、松原式摩擦摩耗試験機を使用して動摩擦係数及び比摩耗量を測定し、滑り性評価及び耐摩耗性を評価した。
【0085】
試験条件は、相手材:S45C,速度:50cm/秒、距離:3km、荷重:15kg、測定環境温度:23℃とした。
〔表面抵抗率、体積抵抗率〕
エチレン系重合体組成物の前記1mm厚のプレスシートを用い、株式会社エーディーシー社製デジタル超高抵抗/微粒電流計8340Aを用いて、2重リング法により23℃、湿度:50%、印加電圧:500V、印加時間:60秒の条件で測定した。
【0086】
なお、上記測定における表面抵抗率が1.0×107以下の水準については、JIS K7194:1994に準拠し、株式会社日東精工アナリテック社製 ロレスタ-GX-MCP-T700 低抵抗抵抗率計を用いて、印加電流:1mA、印加時間:10秒、23℃、湿度:50%の条件で測定した。
【0087】
〔実施例2、3〕
実施例1で用いたエチレン系重合体組成物に替えて、上記エチレン系共重合体組成物(A-1)および上記炭素系フィラー(C-1)含有マスターバッチ(1)の量を表1に示す量に変更したエチレン系重合体組成物を用いる以外は、実施例1と同様に行いエチレン系重合体組成物を得た。得られたエチレン系重合体組成物を、実施例1と同様の方法で評価した。
【0088】
結果を表1に示す。
〔実施例4〕
実施例1で用いたエチレン系重合体組成物に替えて、上記エチレン系共重合体組成物(A-1)および上記炭素系フィラー(C-1)含有マスターバッチ(1)の量を表1に示す量に変更したエチレン系重合体組成物を用いる以外は、実施例1と同様に行いエチレン系重合体組成物を得た。得られたエチレン系重合体組成物を、実施例1と同様の方法で評価した。
【0089】
結果を表1に示す。
〔実施例5〕
上記エチレン系共重合体組成物(A-1):50質量%、上記炭素系フィラー(C-1)含有マスターバッチ(1):40質量%、およびポリアミド6(東レ社製 商品名 アミラン CM1007):10質量%とをドライブレンドした後、株式会社プラスチック工学研究所社製BT30二軸押出機のホッパー部にドライブレンド物を投入し、240℃で溶融混錬し、エチレン系重合体組成物のペレットを作成した。
【0090】
得られたエチレン系重合体組成物のMFRを以下の方法で測定した。
JIS K7210-1:2014に準拠し、測定温度230℃、10kgfの荷重で測定したメルトフローレート(MFR:Melt Flow Rate)は7.6g/10分であった。
【0091】
次いで、東芝機械株式会社製の射出成型機 東芝75トンのホッパー部に上記エチレン系重合体組成物のペレットを投入し、230℃で溶融させ、30℃の金型に射出圧90MPa、保圧75MPaで射出成型し、ISO3167:93に準拠した多目的試験片A型、ならびに300mm×300mm×3mm厚の平板成形体を作製した。
【0092】
別途、エチレン系重合体組成物のペレットを用いて、240℃に設定した神藤金属工業社製油圧式熱プレス機を用い、予熱を8分とし、10MPaで3分間加圧したのち、20℃に設定した別の神藤金属工業社製油圧式プレス機を用い、5分間圧縮冷却を行い、1mm厚のプレスシート試験片を作成した。熱板として5mm厚の真鍮板を用いた。
【0093】
結果を表1に示す。
〔実施例6〕
上記エチレン系共重合体組成物(A-1):40質量%、上記炭素系フィラー(C-1)含有マスターバッチ(1):40質量%、およびポリアミド6:20質量%を用いた以外は実施例1と同様にしてエチレン系重合体組成物を得た。得られたエチレン系重合体組成物を、実施例1と同様の方法で評価した。
【0094】
結果を表1に示す。
〔実施例7〕
〈変性エチレン重合体組成物の製造〉
上記エチレン系共重合体組成物(A-1):100質量部、無水マレイン酸:0.8質量部、および有機過酸化物[日本油脂(株)商品名 パーヘキシン-25B]:0.07質量部とをヘンシェルミキサーで混合し、250℃に設定した65mmφの一軸押出機で溶融グラフト変性することによって、変性エチレン系共重合体組成物を得た。得られた変性ポリオレフィン組成物の無水マレイン酸グラフト量をIR分析で測定したところ、0.8質量%であった。
【0095】
〈エチレン系重合体組成物の製造〉
上記エチレン系共重合体組成物(A-1):38質量%と、上記変性エチレン系共重合体組成物:2質量%と、上記炭素系フィラー(C-1)含有マスターバッチ(1):40質量%、およびポリアミド6:20質量%とを実施例1と同様にしてドライブレンドし、エチレン系重合体組成物を得た。得られたエチレン系重合体組成物を、実施例1と同様の方法で評価した。
【0096】
結果を表1に示す。
〔実施例8〕
上記エチレン系共重合体組成物(A-1):40質量%と、上記炭素系フィラー(C-1)含有マスターバッチ(1):60質量%とをドライブレンドした後、株式会社プラスチック工学研究所社製BT30二軸押出機のホッパー部にドライブレンド物を投入し、250℃で溶融混錬し、エチレン系重合体組成物のペレットを作成した。得られたエチレン系重合体組成物を、実施例1と同様の方法で評価した。
【0097】
〔比較例1〕
実施例1で用いたエチレン系重合体組成物に替えて、炭素系フィラー(C-1)含有マスターバッチ(1)を使用しないエチレン系重合体組成物を用いる以外は実施例1と同様に行いエチレン系重合体組成物を得た。得られたエチレン系重合体組成物を、実施例1と同様の方法で評価した。
【0098】
結果を表1に示す。
〔比較例2〕
エチレン系共重合体組成物(A-1):80質量%と上記炭素系フィラー(C-1)含有マスターバッチ(2):20質量%とをドライブレンドした後、株式会社プラスチック工学研究所社製BT30二軸押出機のホッパー部にドライブレンド物を投入し、230℃で溶融混錬し、エチレン系重合体組成物のペレットを作成した。得られたエチレン系重合体組成物を、実施例1と同様の方法で評価した。
【0099】
結果を表1に示す。
〔比較例3〕
エチレン系共重合体(B-1):80質量%と上記炭素系フィラー(C-1)含有マスターバッチ(2):20質量%とをドライブレンドした後、株式会社プラスチック工学研究所社製BT30二軸押出機のホッパー部にドライブレンド物を投入し、200℃で溶融混錬し、エチレン系重合体組成物のペレットを作成した。得られたエチレン系重合体組成物を、実施例1と同様の方法で評価した。
【0100】
結果を表1に示す。
〔比較例4〕
比較例3で用いたエチレン系重合体組成物に替えて、上記エチレン系共重合体(B-1)および上記炭素系フィラー(C-1)含有マスターバッチ(2)の量を表1に示す量に変更したエチレン系重合体組成物を用いる以外は、比較例3と同様に行いエチレン系重合体組成物を得た。得られたエチレン系重合体組成物を、実施例1と同様の方法で評価した。
【0101】
結果を表1に示す。
【0102】