(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】点眼用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 36/52 20060101AFI20230904BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230904BHJP
A61K 31/80 20060101ALI20230904BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20230904BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20230904BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230904BHJP
A61K 131/00 20060101ALN20230904BHJP
【FI】
A61K36/52
A61K9/08
A61K31/80
A61K47/02
A61P27/02
A61P43/00 121
A61K131:00
(21)【出願番号】P 2019226723
(22)【出願日】2019-12-16
【審査請求日】2022-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【氏名又は名称】大杉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】近藤 聖奈
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】土田 衛
(72)【発明者】
【氏名】原田 英治
(72)【発明者】
【氏名】石田 実咲
【審査官】梅田 隆志
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-025698(JP,A)
【文献】特開2018-080120(JP,A)
【文献】特開2004-196744(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00-36/9068
A61K 31/00-31/80
A61K 9/00-9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペカンの
種子殻熱水抽出物から選ばれる少なくとも一種を固形分として0.00005~2.0質量%と、無機塩を0.001~1.5質量%とを含有する点眼用組成物。
【請求項2】
さらに、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位を10~90モル%と、アルキル(メタ)アクリレートに基づく構成単位を90~10モル%とを含み、重量平均分子量が10,000~5,000,000である共重合体(P)を0.001~5.0質量%を含有する、請求項1に記載の点眼用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクルミ科ペカン属に属する植物から抽出される抽出物及び無機塩を含有する点眼用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタル機器の普及やコンタクトレンズ装用者数の増加に伴いドライアイ患者が増加してきており、国内の潜在的なドライアイ患者数は800万人とも言われる。ドライアイにより蒸発亢進が及んで、眼の乾燥感や角膜障害が引き起こると言われている。従来、目の乾きに対しては、人工涙液を点眼する方法等がとられてきた。しかし、単に人工涙液を点眼する方法では、角膜への保水効果が十分でなく、眼の乾燥を感じやすかった。
【0003】
乾燥感を低減するため、点眼液に対して増粘剤等を配合し湿潤性を向上するアプローチがなされている。実際にヒアルロン酸ナトリウムを含有する人工涙液(特許文献1)等が開発されているが角膜への保水効果は十分でなかった。また、点眼液に対して増粘剤を多量に配合することによって、液の粘度が高くなり、点眼時に角膜への広がりが悪く、装用感が好ましくないといった問題点があった。
【0004】
そこで、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)を含む重合体(MPCポリマー)を含有する眼科用製剤が提案されている。特許文献2では、涙液油層を安定化させ、角膜表面上の涙液水層の蒸散を防止することにより、蒸発亢進型ドライアイ症状の予防、緩和、改善、または治療に好適な点眼剤が提案されている。この場合、十分な乾燥感緩和効果を発揮するが、より早く広がり、角膜への保水効果が高く、装用感の良い点眼剤が求められていた。
【0005】
上記の通り、点眼剤がより早く角膜表面等へ均一に広がり、高い保水効果が求められていたが、従来の点眼剤では、乾燥感及びうるおい感の改善と角膜表面への広がり易さを両立することが出来なかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO1989/000044
【文献】WO2017/110874
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、クルミ科ペカン属に属する植物から抽出された抽出物及び無機塩を含有する点眼用組成物により、角膜表面上の広がり易く、さらに、うるおい感にも優れる点眼用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、クルミ科ペカン属に属する植物から抽出される抽出物を特定割合で含有し、かつ、無機塩を特定割合で含有する点眼用組成物を用いることで、角膜表面上に広がり易く、さらに、うるおい感にも優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の点眼用組成物とは以下の通りである。
1.クルミ科ペカン属に属する植物の種子抽出物及び種子殻抽出物から選ばれる少なくとも一種を固形分として0.00005~2.0質量%と、無機塩を0.001~1.5質量%とを含有する点眼用組成物。
2.さらに、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位を10~90モル%と、アルキル(メタ)アクリレートに基づく構成単位を90~10モル%とを含み、重量平均分子量が10,000~5,000,000である共重合体(P)を0.001~5.0質量%を含有する、前項1に記載の点眼用組成物。
3.前記無機塩が塩化ナトリウムである、前項1に記載の点眼用組成物。
4.前記無機塩が塩化ナトリウムであり、前記2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンが2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンであり、前記アルキル(メタ)アクリレートがメタクリル酸ブチルである、前項2に記載の点眼用組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の点眼用組成物は、点眼用組成物に含まれる成分が角膜表面上に均一に広がることができ、さらにうるおい感にも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の構成について説明する。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート又はメタクリレート」を意味し、他の類似用語についても同様である。
また、本明細書において、好ましい数値範囲(例えば、濃度や重量平均分子量の範囲など)を段階的に記載した場合、各下限値及び上限値は、それぞれ独立して組合せることができる。例えば、「好ましくは10以上、より好ましくは20以上、そして、好ましくは100以下、より好ましくは90以下」という記載において、「好ましい下限値:10」と「より好ましい上限値:90」とを組合せて、「10以上90以下」とする事ができる。例えば、「好ましくは10~100、より好ましくは20~90」という記載においても、同様に「10~90」とすることができる。
【0012】
〔クルミ科ペカン属に属する植物の種子抽出物及び種子殻抽出物〕
本発明の点眼用組成物には、クルミ科ペカン属に属する植物の種子抽出物及び種子殻抽出物から選ばれる少なくとも一種が含有される。これらの抽出物の製造方法については、特に制限はなく、例えば、クルミ科(Juglandaceae)ペカン属(Carya)に属する植物、具体的にはヒッコリー(Carya tomentosa (Poir.) Nutt.)やペカン(Carya illinoensis (Wang) K. Koch)等の種子及び/又は種子殻をそのまま/もしくは乾燥後に、炭化水素化合物類、エステル類、ケトン類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素化合物類、アルコール類及び/もしくは水から選ばれる一種または二種以上の溶媒とおもに加熱還流あるいは浸漬することにより目的の抽出物を得ることができる。好ましい抽出物は、クルミ科ペカン属ペカンの種子殻を用い、水または低級アルコールの一種または二種以上で抽出したものであり、更に好ましくは水で抽出したものである。
【0013】
抽出方法の具体例としては以下に示す方法がある。
まず、被処理種子及び/又は種子殻をそのままあるいは乾燥処理後粉砕し、その重量の5~100倍量程度の抽出溶媒により抽出処理を行う。抽出温度は、使用する抽出溶媒の種類に応じて適宜選定される。例えば、抽出溶媒が水である場合には抽出温度は通常20~120度程度であり、抽出溶媒が低級アルコールである場合には通常20~50度程度、好ましくは室温で抽出を行う。また、抽出時間は、抽出溶媒が水である場合には5~60分間程度でよく、低級アルコールである場合には24~96時間程度が良い。
抽出処理後、ろ過などの手段により固液分離して抽出液を取り出し、常法に従って抽出溶媒を留去し、必要に応じて乾燥処理を行うことにより目的の抽出物が得られる。
【0014】
本発明の前記抽出物の含有量は、固形分(固形分量)として点眼用組成物全量に対して、0.00005~2.0質量%の範囲である。この量が0.00005質量%未満のとき、十分な効果が得られない恐れがある。一方で、2.0質量%を超えると、経時安定性が悪くなるだけでなく、コスト的にも不利となる恐れがある。当該抽出物成分の好ましい含有量は、固形分(固形分量)として、0.0001~1.5質量%、さらに好ましくは、0.0005~1.0質量%である。
【0015】
なお、本発明において、当該抽出物は、抽出物そのもの、またはその濃縮物、乾固物として含有することができる。したがって、当該抽出物が抽出溶媒を含む場合には、ガスクロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィーなどにより溶媒量を分析、定量し、固形分量を算出して、補正して含有する。
【0016】
〔無機塩〕
本発明の点眼用組成物には、無機塩が含有される。より具体的には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等の中性塩が挙げられ、好ましくは塩化ナトリウムである。好ましくは、日本薬局方グレードであり、市販の製品としては、大塚製薬株式会社製の塩化ナトリウム「オーツカ」、日医工株式会社製の塩化カリウム「日医工」、富士フイルム和光純薬株式会社製の塩化カルシウム水和物「製造専用」が挙げられる。
【0017】
本発明の前記無機塩の含有量は、固形分として点眼用組成物全量に対して、0.001~1.5質量%の範囲である。この量が0.001質量%未満のとき、十分な効果が得られない恐れがある。一方で、1.5質量%を超えると、場合によっては刺激感として感じる恐れがある。当該無機塩の好ましい含有量は、0.005~1.2質量%、さらに好ましくは、0.01~1質量%である。
【0018】
〔共重合体(P)〕
本発明の点眼用組成物には、好ましくは、以下に記載する共重合体(P)を含有することができる。
本発明の点眼用組成物に含有することができる共重合体(P)としては、ホスホリルコリン構造を有する単量体(以下、「親水性単量体」という。)に基づく構成単位と疎水性単量体に基づく構成単位を含む共重合体が挙げられる。
【0019】
〔親水性単量体に基づく構成単位〕
親水性単量体に基づく構成単位は、下記の式(1)で表される2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位である。なお、本明細書において、「(メタ)アクリロイル」とは、「アクリロイルまたはメタクリロイル」を意味する。親水性単量体としては、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンが好ましい。
【0020】
【0021】
式(1)中、R1は水素原子又はメチル基を表す。
【0022】
〔疎水性単量体に基づく構成単位〕
疎水性単量体に基づく構成単位は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに基づく構成単位である。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルに基づく構成単位は、下記の式(2)で表される。ここで、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸またはメタアクリル酸」を意味する。
【0023】
【0024】
式(2)中、R2は水素原子又はメチル基であり、メチル基が好ましい。
式(2)中、R3は炭素数1~24の炭化水素基であり、炭素数1~24の直鎖飽和炭化水素基が好ましく、炭素数1~24の直鎖飽和炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ドコシル基等が挙げられる。
【0025】
式(2)で表される(メタ)アクリル酸アルキルエステルに基づく構成単位として、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル(ラウリル)、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル(ステアリル)、(メタ)アクリル酸ドコシル(ベヘニル)等に基づく構成単位が挙げられる。
疎水性単量体のなかで、(メタ)アクリル酸ブチルまたは(メタ)アクリル酸オクタデシル(ステアリル)が好ましく、(メタ)アクリル酸ブチルがさらに好ましく、メタクリル酸ブチルが特に好ましい。
【0026】
共重合体(P)中の親水性単量体に基づく構成単位の含有量は、10~90モル%であり、好ましくは50~90モル%であり、75~85モル%が特に好ましい。この範囲であれば、親水性及び親油性バランスが良好で、本発明の効果が十分に得られやすい。
【0027】
共重合体(P)中の疎水性単量体に基づく構成単位の含有量は、10~90モル%であり、好ましくは10~50モル%、15~25モル%が特に好ましい。
【0028】
本発明の共重合体(P)の好ましい例示は以下の通りである。
R1:メチル基、R2:メチル基、R3:ブチル基、親水性単量体に基づく構成単位の含有量:80モル%、疎水性単量体に基づく構成単位の含有量:20モル%
【0029】
〔その他の構成単位〕
共重合体(P)は、本発明の効果を損なわない範囲において、前記親水性単量体に基づく構成単位、及び疎水性単量体に基づく構成単位以外のその他の構成単位を含んでいてもよいが、親水性単量体に基づく構成単位及び疎水性単量体に基づく構成単位のみからなることが好ましい。
【0030】
その他の構成単位としては、例えば、グリセリルモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有単量体、アミノエチル(メタ)アクリレート等の窒素含有基含有単量体、及び2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド等のカチオン性基含有単量体等の重合性単量体に基づく構成単位が挙げられる。
【0031】
〔共重合体(P)の重量平均分子量〕
共重合体(P)の重量平均分子量は10,000~1,000,000であり、好ましくは20,000~900,000、より好ましくは30,000~800,000、更に好ましくは50,000~700,000、より更に好ましくは80,000~600,000である。この範囲であれば、本発明の効果が得られやすく、取り扱い性にも優れている。
【0032】
共重合体(P)の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による値をいう。具体的には、溶離液としてクロロホルム、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、メタノール及びこれらの溶媒を組み合わせた液のいずれかを用いて測定したポリエチレングリコール換算の分子量をいう。
【0033】
〔共重合体(P)の製造方法〕
共重合体(P)は、公知の方法に従って前記単量体の共重合を行うことにより調製することができる。
【0034】
<共重合体(P)の濃度>
本発明の点眼用組成物が共重合体(P)を含有する場合の含有量は、好ましくは0.001~5.0質量%、より好ましくは0.002~4.0質量%、更に好ましくは0.003~3.5質量%、より更に好ましくは0.005~2.0質量%、特に好ましくは0.01~1.0質量%である。
【0035】
なお、本発明において、「質量%」は、100gの溶液中のある成分の質量をグラム(g)で表したものである。例えば、「本発明の溶液が1.0質量%の共重合体(P)を含有する」とは、100gの溶液が1.0gの共重合体(P)を含有していることを意味する。
【0036】
<溶媒>
本発明の点眼用組成物は溶媒として水を用いることが好ましく、水のほか、エタノール、n-プロパノール、及び、イソプロパノール等のアルコールを用いることができる。
【0037】
本発明の点眼用組成物に用いる水は、通常、医薬品や医療機器等の製造に用いられる水を用いることができる。具体的には、イオン交換水、精製水、滅菌精製水、蒸留水、注射用水などを用いることができる。
【0038】
<その他の成分>
本発明の点眼用組成物は、クルミ科ペカン属に属する種子抽出物及び種子殻抽出物、無機塩、共重合体(P)、水に加えて、更に必要に応じて、添加剤を含有しても良い。
添加剤としては、従来の点眼用組成物用途などに使用されているものを挙げることができ、ビタミン類、アミノ酸類、糖類、清涼化剤、酸化防止剤、安定化剤、防腐剤、キレート剤、緩衝剤などが挙げられる。
本発明の点眼用組成物が添加剤を含有する場合の含有量は、点眼用組成物全量に対して、0.001~5質量%が好ましく、さらに好ましくは0.01~1質量%である。
【0039】
<点眼用組成物の製造方法>
本発明の点眼用組成物は、クルミ科ペカン属に属する種子抽出物及び種子殻抽出物、無機塩、必要に応じて共重合体(P)、必要に応じて水、及び必要に応じてその他の成分を混合して攪拌する、一般的な点眼用組成物の製造方法により製造することができる。なお、得られた点眼用組成物は必要に応じて無菌ろ過等の操作を行っても良い。
【0040】
<点眼用組成物のpH>
本発明の点眼用組成物のpHは、点眼時の広がり易さを向上させる観点から、好ましくは、3.0~9.0、より好ましくは3.0~8.0、更に好ましくは4.0~8.0、より好ましくは4.0~7.4である。
なお、本明細書における点眼用組成物のpHは、第17改正日本薬局方一般試験法2.54pH測定法に従って測定した値をいう。
【0041】
<点眼用組成物の浸透圧、及び、浸透圧比>
本発明の点眼用組成物の浸透圧は、点眼時の広がり易さを向上させる観点から、好ましくは200~400mOsm、より好ましくは210~350mOsm、更に好ましくは220~340mOsmであり、浸透圧比は好ましくは0.7~1.4、より好ましくは0.8~1.3、更に好ましくは0.8~1.2である。
なお、本明細書における点眼用組成物の浸透圧は、第17改正日本薬局方一般試験法2.47浸透圧測定法(オスモル濃度測定法)に従って測定した値である。
【0042】
<点眼用組成物の使用態様>
本発明の点眼用組成物の具体的な製品形態としては、例えば、一般用点眼剤、抗菌用点眼剤、人工涙液、洗眼液、コンタクトレンズ装着液、などが挙げられる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明について実施例および比較例により、本発明の点眼用組成物を具体的に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。なお、本実施例および比較例に用いた抽出物、共重合体は次の通りである。
【0044】
特開2004-196745号公報に記載の方法を参考に抽出物を製造した。
【0045】
製造例
クルミ科ペカン属ペカンの種子(ペカンナッツ)を種子殻付きのまま粉砕し、その粉砕物100gに蒸留水500mLを加えて110度、10分間加熱還流して抽出物を得た。この抽出物より溶媒(水)を減圧留去して、ペカン種子殻抽出物(淡褐色粉体6.5g)を製造した。
【0046】
共重合体(P)
2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ブチル共重合体(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン/メタクリル酸ブチル=80/20(モル比)、重量平均分子量600,000)を用いた。
【0047】
実施例1
精製水約80gを量り、これにホウ酸0.4g、水酸化ナトリウム0.0072g、塩化ナトリウム0.65g、20%塩酸ポリヘキサニド液(商品名:CosmocilCQ)0.0004g(20%溶液であるため、塩酸ポリヘキサニドとしては、0.00008gを含む)、及び、製造例のペカン種子殻抽出物0.001gを加えて、攪拌した。下記表1に示す成分を共通添加成分(添加剤)とした。この後、全量100gとなるように精製水を加えた。さらに種子殻類の除去、及び、無菌化のためにろ過を行い、点眼用組成物を製造した。得られた点眼用組成物のうるおい感評価及び広がり易さ評価を行った。結果を表2に示す。
【0048】
[実施例2、3]
表2に示す含有成分および量を使用した以外は、実施例1と同様の手順に従って製造し、無菌の点眼用組成物とした。得られた点眼用組成物のうるおい感評価及び広がり易さ評価を行った。結果を表2に示す。尚、共通添加成分(添加剤)として表1に示す成分を使用した。
【0049】
[比較例1、2]
下記表3に示す含有成分および量の成分を使用した以外は、実施例と同様の手順に従って製造し、無菌の点眼用組成物とした。得られた点眼用組成物のうるおい感評価及び広がり易さ評価を行った。結果を表3に示す。尚、共通添加成分(添加剤)として表1に示す成分を使用した。
【0050】
<点眼後のうるおい感評価>
実施例及び比較例の点眼用組成物を1滴、点眼し、点眼後のうるおい感について、以下の3段階の基準を用いて評価した。評価は10名で実施し、10名の累計を求め、累計20点以上をうるおい感の良好な点眼用組成物であると評価した。
3:うるおいを感じる。
2:ややうるおいを感じる。
1:うるおいを感じない。
【0051】
<点眼時の広がり易さ評価>
実施例及び比較例の点眼用組成物を1滴点眼し、2回瞬目後に、点眼用組成物に含まれる成分の広がり易さについて、以下の3段階の基準を用いて評価した。評価は10名で実施し、10名の累計を求め、累計20点以上を広がり易さの良好な点眼用組成物であると評価した。
3:十分に点眼用組成物が眼表面に均一に広がったと感じる。
2:点眼用組成物が眼表面に均一に広がったと感じる。
1:点眼用組成物が眼表面に均一に広がらなかったと感じる。
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
比較例2ではペカン種子殻抽出物を含まないため、及び比較例1の点眼用組成物では無機塩を含まないため、点眼後のうるおい感評価及び広がり易さ評価のすべてを満足する点眼用組成物とすることはできなかった。
一方、実施例1~実施例3の点眼用組成物では、うるおい感評価、広がり易さ評価のいずれも基準点を満たしており、広がり易さに優れ、乾燥感を抑制する点眼用組成物であった。さらに、共重合体(P)を所定の濃度で含む実施例3の点眼用組成物では、うるおい感評価、広がり易さ評価のいずれも特に優れた評価結果となり、乾燥感の抑制及び広がり易さに極めて優れた点眼用組成物であった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の点眼用組成物を用いることで、乾燥感を抑制し、使用感とドライアイ治療効果に有効である。