(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】損傷度予測装置、学習済モデル、及び学習済モデルの生成方法
(51)【国際特許分類】
E01D 22/00 20060101AFI20230904BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20230904BHJP
【FI】
E01D22/00 A
G06N20/00 130
(21)【出願番号】P 2020044696
(22)【出願日】2020-03-13
【審査請求日】2022-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】弁理士法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白 可
(72)【発明者】
【氏名】宇野 州彦
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】岩波 光保
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-207128(JP,A)
【文献】特開2013-195354(JP,A)
【文献】国際公開第2017/043275(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/179376(WO,A1)
【文献】特開2017-117147(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 22/00
G06N 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
桟橋又は橋梁の梁構造における劣化度分布又は健全性判定分布のマップ、当該梁構造の平面形状、及び前記梁構造に与えられる外力を入力データとし、前記梁構造に前記外力が与えられたときの構造解析結果から得られる前記梁構造の損傷状態を示す情報を出力データとする教師データを与えて機械学習をさせた学習済モデルを用いた予測手段に対する入力データとして、対象となる構造物の点検結果から得られた梁構造における劣化度分布又は健全性判定分布のマップ、当該対象となる構造物における梁構造の平面形状、及び当該対象となる構造物に与えられる想定外力の入力を受け付ける入力手段と、
前記学習済モデルから得られる、前記対象となる構造物に対し前記想定外力が与えられたときに予測される損傷状態を示す情報を出力する出力手段と
を有する損傷度予測装置。
【請求項2】
前記出力手段は、前記損傷状態を示す情報として、当該損傷の範囲、当該損傷の度合い、及び当該損傷の割合の少なくとも一つ以上の情報を出力する
請求項1に記載の損傷度予測装置。
【請求項3】
前記出力手段は、前記損傷状態を示す情報として、前記梁構造における損傷区分に基づく損傷度分布のマップを出力し、
前記損傷度分布のマップが前記梁構造を示す図上にマッピングされる
請求項2に記載の損傷度予測装置。
【請求項4】
前記梁構造に関し、前記劣化度分布又は健全性判定分布を用いて確率モデルに従い将来の時点における劣化度分布又は健全性判定分布を予測する予測手段を有し、
前記出力手段は、前記
予測された劣化度分布又は健全性判定分布を前記学習済モデルに入力して得られた、前記想定外力が与えられたときに予測される損傷状態を示す情報を出力する
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の損傷度予測装置。
【請求項5】
前記劣化度分布又は健全性判定分布のマップは、複数の梁構造に対して共通の空間的サイズを有する
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の損傷度予測装置。
【請求項6】
桟橋又は橋梁の梁構造における劣化度分布又は健全性判定分布のマップ、当該梁構造の平面形状、及び当該梁構造に与えられる外力が入力される入力層と、
前記梁構造に前記外力が与えられたときの構造解析結果から得られる当該梁構造の損傷状態を示す情報を出力する出力層と、
前記梁構造における劣化度分布又は健全性判定分布のマップ、当該梁構造の平面形状、及び当該梁構造に与えられる外力を入力データとし、当該梁構造に前記外力が与えられたときの構造解析結果から得られる当該梁構造の損傷状態を示す情報を出力データとする教師データを用いてパラメータが学習された中間層と
を有し、
対象となる構造物の点検結果から得られた梁構造における劣化度分布又は健全性判定分布のマップ、当該梁構造の平面形状、及び当該梁構造に与えられる想定外力を示すデータを取得し、
前記対象となる構造物の梁構造における劣化度分布又は健全性判定分布のマップ、当該梁構造の平面形状、及び当該梁構造に与えられる想定外力を示すデータを前記入力層に入力し、前記中間層にて演算し、当該梁構造に当該想定外力が与えられたときの当該梁構造の損傷状態を示す情報を前記出力層から出力する
ようコンピュータを機能させるための学習済モデル。
【請求項7】
梁構造を有する桟橋又は橋梁の損傷度の予測をする損傷度予測装置に適用するための学習済モデルを生成するモデル生成方法であって、
前記梁構造における劣化度分布又は健全性判定分布のマップ、当該梁構造の平面形状、及び当該梁構造に与えられる外力、当該梁構造に前記外力が与えられたときの構造解析結果から得られる当該梁構造の損傷状態を示す情報を含む教師データを取得するステップと、
前記教師データを用いて、前記梁構造における劣化度分布又は健全性判定分布のマップ、当該梁構造の平面形状、及び当該梁構造に与えられる外力を入力し、当該梁構造に当該外力が与えられたときの構造解析結果から得られる当該梁構造の損傷状態を示す情報を出力する学習済モデルを生成するステップと
を有する学習済モデルの生成方法。
【請求項8】
前記梁構造の損傷状態を示す情報は、前記劣化度分布又は健全性判定分布のマップに対応する、損傷区分に基づく損傷度の分布を前記梁構造を示す図上に示す画像を含む
請求項7に記載の学習済モデルの生成方法。
【請求項9】
前記劣化度分布又は健全性判定分布のマップは、複数の梁構造に対して共通の空間的サイズを有する
請求項
7乃至8のいずれか一項に記載の学習済モデルの生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、桟橋又は橋梁の梁構造に対し外力が与えられたときの損傷を予測する技術に関する。なお、本明細書に於いて橋梁とは、水面上または陸上部を道路交通法第2条で定義される車両が通過するための架空構造物をいう。
【背景技術】
【0002】
構造物の施工又は保守点検に機械学習を適用する技術が知られている。例えば特許文献1には、地山の強度、風化変質、割れ目間隔、割れ目状態、割れ目の走向傾斜、湧水の有無及び湧水量、並びに劣化状況等を監視し、これらを入力として支保パターンを決定し、この支保パターンを出力することが記載されている。
【0003】
特許文献1に記載の技術は、構造物の施工管理を行うためのものであり、桟橋又は橋梁の損傷を予測できるものではない。一般に、桟橋又は橋梁の梁構造に対し外力が与えられたときの損傷を予測又は評価するためには、非特許文献1に記載された詳細定期点検診断を実施し、その結果に基づいた構造解析が行われる。詳細定期点検診断及びその結果に基づいた構造解析にはコストがかかるため、一般点検診断から得られる劣化度判定結果から比較的簡易に残存耐力を評価する手法が提案されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】国土交通省港湾局監修、「港湾の施設の維持管理技術マニュアル(改訂版)」一般財団法人沿岸技術研究センター、2018年7月、p.296、p.317
【文献】宇野州彦・岩波光保“劣化度判定結果を活用した残存耐力評価手法の実桟橋への適用”土木学会論文集B3(海洋開発),第74巻第2号、pp.I_55-I_60、2018.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献2に記載の技術においては、劣化度の影響を考慮しつつ桟橋の損傷を予測するには、対象となる桟橋の構造解析をその都度、行わなければならなかった。
【0007】
これに対し本発明は、対象となる構造物に外力が与えられたときの損傷を、その都度構造解析を行うことなく予測する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、桟橋又は橋梁の梁構造における劣化度分布又は健全性判定分布のマップ、当該梁構造の平面形状、及び前記梁構造に与えられる外力を入力データとし、前記梁構造に前記外力が与えられたときの構造解析結果から得られる前記梁構造の損傷状態を示す情報を出力データとする教師データを与えて機械学習をさせた学習済モデルを用いた予測手段に対する入力データとして、対象となる構造物の点検結果から得られた梁構造における劣化度分布又は健全性判定分布のマップ、当該対象となる構造物における梁構造の平面形状、及び当該対象となる構造物に与えられる想定外力の入力を受け付ける入力手段と、前記学習済モデルから得られる、前記対象となる構造物に対し前記想定外力が与えられたときに予測される損傷状態を示す情報を出力する出力手段とを有する損傷度予測装置を提供する。
【0009】
前記出力手段は、前記損傷状態を示す情報として、当該損傷の範囲、当該損傷の度合い、及び当該損傷の割合の少なくとも一つ以上の情報を出力してもよい。
【0010】
前記出力手段は、前記損傷状態を示す情報として、前記梁構造における損傷区分に基づく損傷度分布のマップを出力し、前記損傷度分布のマップが前記梁構造を示す図上にマッピングされてもよい。
【0011】
前記損傷度予測装置は、前記梁構造に関し、前記劣化度分布又は健全性判定分布を用いて確率モデルに従い将来の時点における劣化度分布又は健全性判定分布を予測する予測手段を有し、前記出力手段は、前記予測された劣化度分布又は健全性判定分布を前記学習済モデルに入力して得られた、前記想定外力が与えられたときに予測される損傷状態を示す情報を出力してもよい。
【0012】
前記劣化度分布又は健全性判定分布のマップは、複数の梁構造に対して共通の空間的サイズを有してもよい。
【0013】
また、本発明は、桟橋又は橋梁の梁構造における劣化度分布又は健全性判定分布のマップ、当該梁構造の平面形状、及び当該梁構造に与えられる外力が入力される入力層と、前記梁構造に前記外力が与えられたときの構造解析結果から得られる当該梁構造の損傷状態を示す情報を出力する出力層と、前記梁構造における劣化度分布又は健全性判定分布のマップ、当該梁構造の平面形状、及び当該梁構造に与えられる外力を入力データとし、当該梁構造に前記外力が与えられたときの構造解析結果から得られる当該梁構造の損傷状態を示す情報を出力データとする教師データを用いてパラメータが学習された中間層とを有し、対象となる構造物の点検結果から得られた梁構造における劣化度分布又は健全性判定分布のマップ、当該梁構造の平面形状、及び当該梁構造に与えられる想定外力を示すデータを取得し、前記対象となる構造物の梁構造における劣化度分布又は健全性判定分布のマップ、当該梁構造の平面形状、及び当該梁構造に与えられる想定外力を示すデータを前記入力層に入力し、前記中間層にて演算し、当該梁構造に当該想定外力が与えられたときの当該梁構造の損傷状態を示す情報を前記出力層から出力するようコンピュータを機能させるための学習済モデルを提供する。
【0014】
さらに、本発明は、梁構造を有する桟橋又は橋梁の損傷度の予測をする損傷度予測装置に適用するための学習済モデルを生成するモデル生成方法であって、前記梁構造における劣化度分布又は健全性判定分布のマップ、当該梁構造の平面形状、及び当該梁構造に与えられる外力、当該梁構造に前記外力が与えられたときの構造解析結果から得られる当該梁構造の損傷状態を示す情報を含む教師データを取得するステップと、前記教師データを用いて、前記梁構造における劣化度分布又は健全性判定分布のマップ、当該梁構造の平面形状、及び当該梁構造に与えられる外力を入力し、当該梁構造に当該外力が与えられたときの構造解析結果から得られる当該梁構造の損傷状態を示す情報を出力する学習済モデルを生成するステップとを有する学習済モデルの生成方法を提供する。
【0015】
前記梁構造の損傷状態を示す情報は、前記劣化度分布又は健全性判定分布のマップに対応する、損傷区分に基づく損傷度の分布を前記梁構造を示す図上に示す画像を含んでもよい。
【0016】
前記劣化度分布又は健全性判定分布のマップは、複数の梁構造に対して共通の空間的サイズを有してもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、対象となる構造物に外力が与えられたときの損傷を、都度、構造解析を行う場合と比較してより短時間で予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】一実施形態に係る損傷度予測装置1の機能構成を例示する図。
【
図3】損傷度予測装置1のハードウェア構成を例示する図。
【
図4】一実施形態に係る機械学習モデル9の構造を例示する図。
【
図5】教師データを準備する処理を例示するフローチャート。
【
図12】機械学習モデル9の学習処理を例示するフローチャート。
【
図13】損傷度の予測処理を例示するシーケンスチャート。
【
図14】予測される損傷状態を示す情報を例示する図。
【
図15】変形例に係る劣化度分布及び平面形状のデータを例示する図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.構成
図1は、一実施形態に係る損傷度予測装置1の機能構成を例示する図である。損傷度予測装置1は、対象となる構造物に対し外力が与えられたときの損傷を予測するシステムである。対象となる構造物は、桟橋又は橋梁の梁構造体である。損傷度予測装置1は、対象となる構造物の損傷を、その構造物の構造解析によらずに機械学習を用いて予測する。
【0020】
損傷度予測装置1は、ユーザから指示又はデータの入力を受け付け、入力された指示又はデータに応じた情報を出力するクライアント装置又はユーザ端末である。損傷度予測装置1は、記憶手段11、入力手段12、予測手段13、及び出力手段14を有する。記憶手段11は、種々のデータ及びプログラムを記憶する。この例において、記憶手段11に記憶されるデータには学習済モデルMが含まれる。学習済モデルMは、教師データを与えて機械学習をさせた機械学習モデルである。学習済モデルMは、例えば、ニューラルネットワーク、ランダムフォレスト、決定木、サポートベクターマシン、又は深層学習を用いたモデルである。この教師データは、入力データ(又は説明変数)として
(1)桟橋又は橋梁の梁構造における劣化度分布又は健全性判定分布のマップ、
(2)その梁構造の平面形状、及び
(3)その梁構造に与えられる外力
を少なくとも含む。またこの教師データは、出力データ(又は目的変数)としてその梁構造にその外力が与えられたときの構造解析結果から得られるその梁構造の損傷状態を示す情報を少なくとも含む。この教師データは、少なくとも1つの桟橋又は橋梁に関するデータである。学習済モデルMは、学習装置2により生成される。
【0021】
図2は、学習装置2の機能構成を例示する図である。学習装置2は、モデルに教師データを与えて機械学習をさせ、学習済モデルMを得る。学習装置2は、記憶手段21及び学習手段22を有する。記憶手段21は、教師データ及び学習済モデル(又は学習前のモデル)を記憶する。学習手段22は、モデルに教師データを与えて機械学習をさせ、学習済モデルを得る。学習装置2は、学習済モデルMを損傷度予測装置1に出力する。
【0022】
再び
図1を参照する。入力手段12は、学習済モデルMに入力するための説明変数の入力を受け付ける。予測手段13は、入力手段12を介して入力された説明変数を学習済モデルMに与え、対応する目的変数を得る。学習済モデルMに入力される説明変数は、
(a)対象となる構造物の点検結果から得られた梁構造における劣化度分布又は健全性判定分布のマップ、
(b)対象となる構造物における梁構造の平面形状、及び
(c)対象となる構造物に与えられる想定外力
を少なくとも含む。これらの説明変数に対し学習済モデルMから得られる目的変数(すなわち予測の結果)は、対象となる構造物の損傷状態を示す情報を少なくとも含む。出力手段14は、予測手段13が得た、構造物の損傷状態を示す情報を出力する。
【0023】
図3は、損傷度予測装置1のハードウェア構成を例示する図である。損傷度予測装置1は、CPU(Central Processing Unit)101、メモリ102、ストレージ103、入力装置104、表示装置105を有するコンピュータ装置、例えば、パーソナルコンピュータである。CPU101は、プログラムを実行して各種演算を行い、損傷度予測装置1における他のハードウェア要素を制御する制御装置である。メモリ102は、CPU101がプログラムを実行する際にワークエリアとして機能する主記憶装置であり、例えばRAMを含む。ストレージ103は、各種プログラム及びデータを記録する不揮発性の記憶装置であり、例えばSSD(Solid State Drive)又はHDD(Hard Disk Drive)を含む。入力装置104は、ユーザが損傷度予測装置1に対し指示又はデータを入力するための装置であり、例えば、タッチスクリーン、キーボード、及びマイクロフォンのうち少なくとも一種を含む。表示装置105は、ユーザに対し情報を提示する装置であり、例えば、OLED(Organic Light Emitting Diode)ディスプレイ又はLCD(Liquid Crystal Display)を含む。
【0024】
この例において、ストレージ103に記憶されるプログラムには、コンピュータ装置を損傷度予測装置1として機能させるためのプログラム(以下「クライアントプログラム」という)が記憶される。CPU101がクライアントプログラムを実行することにより、コンピュータ装置に損傷度予測装置1としての機能が実装される。CPU101がクライアントプログラムを実行している状態において、メモリ102及びストレージ103の少なくとも一方が記憶手段11の一例である。CPU101が予測手段13の一例である。入力装置104が入力手段12の一例である。表示装置105が出力手段14の一例である。
【0025】
学習装置2のハードウェア構成については図示を省略するが、損傷度予測装置1と同様のハードウェア構成を有するコンピュータ装置である。なお、学習装置2は、損傷度予測装置1と同一のコンピュータ装置に実装されてもよいし、損傷度予測装置1とは別のコンピュータ装置、例えばネットワーク上のサーバ装置に実装されてもよい。
【0026】
2.動作
損傷度予測装置1の動作説明に先立ち、本実施形態において用いられる機械学習モデルの概要を説明する。
【0027】
図4は、一実施形態に係る機械学習モデル9の構造を例示する図である。この例において、機械学習モデルは、入力層91、中間層92、及び出力層93を有する。入力層91には、桟橋又は橋梁の梁構造における劣化度分布又は健全性判定分布のマップ、その梁構造の平面形状、及びその梁構造に与えられる外力が入力される。出力層93は、その梁構造にその外力が与えられたときの構造解析結果から得られるその梁構造の損傷状態を示す情報を出力する。損傷状態を示す情報は、損傷の範囲、損傷の度合い、及び損傷の割合の少なくとも一つ以上の情報を含む。より詳細には、損傷状態を示す情報は、損傷度分布のマップを含む。中間層92は、入力層91と出力層93との間に位置する層であり、入力層91を介して入力されたデータから出力層93を介して出力するデータを得るためのパラメータを含む。中間層92において、その梁構造における劣化度分布又は健全性判定分布のマップ、その梁構造の平面形状、及びその梁構造に与えられる外力を入力データとし、その梁構造にその外力が与えられたときの構造解析結果から得られるその梁構造の損傷状態を示す情報を出力データとする教師データを用いてそのパラメータが学習される。
【0028】
以下、損傷度予測装置1及び学習装置2の動作を説明する。損傷度予測装置1及び学習装置2の動作は、概ね、教師データの準備、学習済モデルMの生成(すなわち学習)、及び学習済モデルMを用いた予測の三段階に分けられる。以下、教師データの準備、学習、及び予測のそれぞれの処理を説明する。以下において、学習手段22等の機能要素を処理の主体として記載することがあるが、これは、CPU101等のハードウェア要素がプログラムに従って他のハードウェア要素と協働して処理を実行することを意味する。また、以下では対象となる構造物として桟橋を例として説明する。
【0029】
2-1.教師データの準備
図5は、教師データを準備する処理を例示するフローチャートである。ここでは、様々なサイズの桟橋を対象として、その各々に複数の解析条件(例えば、劣化度分布及び外力に関する条件)を与えて構造解析が実施される。構造解析には既知の構造解析ソフトウェア(例えば、株式会社フォーラムエイト製の「Engineer's Studio」など)が用いられる。構造解析の結果として損傷の範囲、損傷の度合い、及び損傷の割合のデータが得られる。これらのデータが教師データとして用いられる。
【0030】
ステップS101において、学習装置2(の学習手段22)は、桟橋の劣化度分布を示す情報を取得する。ここで、劣化度を示す情報のデータ形式はどのようなものでもよい。一例において、劣化度を示す情報は、対象となる桟橋の梁構造における部分梁を特定する情報(例えば、部分梁の識別子又は部分梁の相対的位置を示す情報)と、その梁の劣化度を示す情報との組み合わせである。一例において、劣化度分布の情報は、この組み合わせを示す文字列のデータである。劣化度とは、その梁の劣化の程度を示す情報であり、この例では、検査員が実際の桟橋を所定の検査基準に従って検査した結果、又は検査装置による自動判定により得られる情報である。
【0031】
図6は、桟橋劣化度の判定基準を例示する図である(非特許文献1より引用)。この例においては、梁の側面部及び下面部のそれぞれについて基準が設けられている。側面部及び下面部のいずれについても、劣化度としてはa、b、c、及びdの四区分が定義される。劣化度aが一番劣化の程度が重い状態(又は劣化の程度が高い)であり、劣化度dが一番劣化の程度が軽い又は劣化がない状態(又は劣化の程度が低い)である。梁構造は複数の部分梁に区分され、各部分梁について劣化度が判定される。検査員は、梁構造のうち対象となる部分梁の下面部及び側面部を観察し、判定基準と照らし合わせてその部分梁の劣化度を判定する。この例において、検査員は、その部分梁の下面部の劣化度及び側面部の劣化度をそれぞれ判定し、より程度が重い劣化度を、その部分梁の劣化度として採用する。例えば、下面の劣化度がcであり、2つある側面のうち一歩の劣化度がb、他方がdであった場合、その部分梁の劣化度はbである。
【0032】
なお対象となる構造物が桟橋ではなく橋梁(すなわち道路橋)であった場合、劣化度に代わり健全性という指標が用いられる。
【0033】
図7は、健全性の判定基準を例示する図である(道路橋定期点検要領「国土交通省 道路局2019.2」より引用)。この例において、道路橋の健全性としては、区分I、II、III、及びIVの四区分が定義される。区分Iが最も健全(又は劣化の程度が軽い)状態であり、区分IVが最も劣化の程度が重い状態である。検査員は、梁構造のうち対象となる部分梁を観察し、判定基準と照らし合わせてその部分梁の健全性を判定する。なお、
図6及び
図7において例示した劣化度及び健全性の判定基準はあくまで例示であり、これ以外の基準が用いられてもよい。劣化度及び健全性の区分は4つに限られず、5つ以上に区分されてもよい。
【0034】
再び
図5を参照する。ステップS102において、学習手段22は、ステップS101において取得した劣化度分布をマップ(すなわち画像)に変換する。このマップは、規格化された梁の配列を示す画像、及びその画像上において対応する梁の劣化度を示す情報を含む。
【0035】
図8は、劣化度分布のマップを例示する図である。この例において、マップは、縦及び横方向に複数の梁を組み合わせた梁構造を有する。例えば、横方向は岸に平行な方向を、縦方向は岸に垂直な方向を示す。以下、右向きをx方向、上向きをy方向と定義する。この図において、灰色の部分は梁接合部(すなわち2本の梁が交わる部分)又は杭頭部(すなわち下から杭により支えられる部分)を示す。梁接合部、杭頭部に挟まれた部分、又は(梁接合部でない)梁の端部(すなわち2つの灰色塗り部分に挟まれた部分、又は(梁接合部でない)梁の端部)がそれぞれ、部分梁である。このマップにおいて、全ての部分梁は共通のサイズを有する。すなわち、このマップは、梁構造の実際のサイズを示す情報は含んでいない。これが「規格化された梁の配列を示す」の趣旨である。
【0036】
このマップにおいて、各部分梁の劣化度が色で表される(この図では色を表現できないので代わりにハッチングで区別する)。例えば、劣化度aの部分は赤、劣化度bの部分は黄、劣化度cの部分は緑、劣化度dの部分は青で表される。
【0037】
大きさの異なる様々な桟橋を共通の画像サイズで処理できるようにするため、このマップは複数の梁構造に対して共通の空間的サイズを有する。例えば、このマップは、世界で最大の桟橋の劣化度を記録できる空間的サイズを有する。一例として、岸に垂直な方向において世界最大の桟橋が岸に平行な方向に1,000本の梁を有し、岸に平行な方向において世界最大の桟橋が岸に垂直な方向に500本の梁を有する場合、このマップは、1,000行×500列の梁構造に相当する画像を有する。
【0038】
例えば、5行×7列の梁構造を有する桟橋が対象である場合、学習手段22は、この梁構造のうち基準となる部分(例えば、左上の部分梁)がマップ上の基準位置(例えば、左上の部分梁)と対応するように、部分梁を着色する。マップにおいて対象となる梁構造よりも外側の部分は着色されず無色のままである。なお、劣化度分布のマップが複数の梁構造に対して共有の空間的サイズを有する代わりに、各梁構造に対して個別の空間的サイズを有してもよい。
【0039】
再び
図5を参照する。ステップS103において、学習手段22は、対象となる梁構造の平面形状を示す情報を取得する。ここで、梁構造の平面形状を示す情報のデータ形式はどのようなものでもよい。一例において、平面形状を示す情報は、対象となる桟橋の梁構造における部分梁を特定する情報と、その梁のサイズを示す情報との組み合わせである。
【0040】
図9は、梁構造の平面形状を示す情報を例示する図である。ここで、
図9(A)は部分梁の識別番号を示す。縦方向及び横方向の部分梁にそれぞれ識別番号が振られている。
図9(B)の表は、対象となる梁構造のサイズ(縦横それぞれの部分梁の数)を示す情報、及び各部分梁の寸法を示す情報を含む。この梁構造はx方向に80本、y方向に60本の部分梁から構成される。例えば、梁番号101の梁は、x方向の長さが0.95m、y方向の長さが0.50mである。
【0041】
再び
図5を参照する。ステップS104において、学習手段22は、対象となる梁構造に与える外力条件を取得する。
【0042】
図10は、桟橋における外力条件を例示する図である。なお、橋梁における外力条件はこれとは別に定義されてもよい(例示は省略する)。この表の行は外力条件を、列は説明変数を示す。この例では、説明変数として、静的(海←陸)、静的(海→陸)、L1、L2-1、及びL2-2の5種が用いられる。「静的(海←陸)」は、所定の船舶の牽引力を表す。「静的(海→陸)」は、所定の船舶の接岸力を示す。「L1」はレベル1地震動、すなわち供用期間中に発生する確率が高い地震を示す。「L2」はレベル2地震動、すなわち供用期間中に発生する確率が低いが、大きなエネルギーを放出する地震を示し、L2-1は、タイプI:プレート境界型のレベル2地震動(例えば東北地方太平洋沖地震など)を示す。L2-2は、タイプII:内陸直下型のレベル2地震動(例えば兵庫県南部地震など)を示す。なお、外力条件として記載している静的(海←陸)、静的(海→陸)、については、所定の船舶の牽引力・接岸力としてだけではなく、設計荷重としても作用させ、健全な桟橋で発生するはずのない損傷が発生するかどうかを確認するためにも用いられる。
【0043】
この表において、各セルの値は「0」又は「1」のいずれかである。値「0」は、その外力が与えられないことを、値「1」はその外力が与えられることを、それぞれ示す。例えば、外力条件「静的(海←陸)」は、対称となる梁構造に船舶の牽引力のみが与えられ、他の外力は与えられないことを示す。なおこの例では単一の種類の外力が与えられる外力条件のみが示されているが、複数種類の外力が与えられる外力条件が用いられてもよい。具体的には、例えば船舶の牽引力とレベル1地震動とが同時に与えられる外力条件が用いられてもよい。
【0044】
再び
図5を参照する。ステップS105において、学習手段22は、ステップS103において取得した平面形状を有しかつステップS101において取得した劣化度分布を有する梁構造に対し、ステップS104において取得した外力条件により示される外力が与えられたと仮定した場合の構造解析結果を取得する。構造解析は、学習手段22自身により行われてもよいし、学習装置2以外の他の装置により行われてもよい。
【0045】
図11は、構造解析の結果を例示する図である。この例においては、構造解析の結果として損傷度分布及び損傷面積率のデータが得られる。一例において、構造解析の結果は、規格化された梁構造の画像上にマッピングされる。このマップにおいて、全ての部分梁は共通のサイズを有する。すなわち、このマップは、
図8の例と同様に、梁構造の実際のサイズを示す情報は含んでいない。
【0046】
このマップにおいて、各部分梁の損傷が色で表される(この図では色を表現できないので代わりにハッチングで区別する)。例えば、ひび割れ損傷は黄色で、降伏損傷は赤で、終局損傷は黒で表される。これらの損傷が梁構造のマップ上に表示させているので、この図は損傷の範囲及び度合いを示していると言える。
【0047】
学習装置2は、様々な形状及びサイズを有する複数の桟橋の各々についてステップS101~S105の処理を繰り返し行い、データを蓄積する。こうして蓄積されたデータが、以下で説明する学習処理において教師データとして用いられる。この教師データにおいて、ステップS102において取得した劣化度分布のマップ、ステップS103において取得した平面形状、及びステップS104において取得した外力条件が入力データであり、ステップS105において得られた構造解析結果が出力データである。学習装置2は、これらの教師データを記憶手段21に記憶する。
【0048】
2-2.学習
図12は、機械学習モデル9の学習処理を例示するフローチャートである。
図12のフローは、例えば、損傷度予測装置1の管理者又はユーザから学習の指示が与えられたことを契機として開始される。あるいは、
図12のフローは、所定量の教師データが蓄積されたことを契機として開始されてもよい。
【0049】
ステップS201において、学習手段22は、学習に用いる教師データを取得する。この例において、学習手段22は、損傷度予測装置1とは別の外部装置において準備された教師データを取得する。
【0050】
ステップS202において、学習手段22は、機械学習モデル9に対し、教師データを与えて機械学習をさせる。この教師データは、入力データ及び出力データを含む。一例において、入力データは、ステップS102において取得した劣化度分布のマップ、ステップS103において取得した平面形状、及びステップS104において取得した外力条件である。
【0051】
ステップS203において、学習手段22は、機械学習により中間層92のパラメータが学習された機械学習モデル9を、学習済モデルMとして記憶手段21に記憶する。学習装置2は、学習済モデルMを損傷度予測装置1に出力する。損傷度予測装置1は、学習済モデルMを記憶手段11に記憶する。こうして、損傷度予測装置1は学習済モデルMを得る。
【0052】
2-3.予測
図13は、損傷度の予測処理を例示するシーケンスチャートである。損傷度の予測は、ユーザからの要求に応じて行われる。
【0053】
ユーザは、損傷度予測装置1において損傷度の予測を指示する。具体的には、ユーザは、対象となる構造物について、説明変数を入力する。入力手段12は、説明変数、具体的には以下の(ア)~(ウ)のデータの入力を受け付ける(ステップS301)。
(ア)対象となる構造物の点検結果から得られた梁構造における劣化度分布又は健全性判定分布。
(イ)対象となる構造物における梁構造の平面形状。
(ウ)対象となる構造物に与えられる想定外力。
【0054】
一例において、構造物の点検結果を入力するためのユーザインターフェースを損傷度予測装置1自身が提供する。ユーザは、点検結果を損傷度予測装置1に入力する。あるいは、損傷度予測装置1は、対象となる構造物の点検結果を記録する装置から、劣化度分布又は健全性判定分布のデータの提供を受けてもよい。劣化度分布又は健全性判定分布のデータは、教師データの場合と同様に、どのようなデータ形式を有していてもよい。
【0055】
対象となる構造物の平面形状のデータ(例えば画像データ)については、ユーザが損傷度予測装置1に入力する。あるいは、構造物の平面形状のデータは、サーバ等の外部装置においてデータベースに記録されており、損傷度予測装置1は、このデータベースから、ユーザの指示に応じて対象となる構造物の平面形状のデータを取得してもよい。
【0056】
想定外力については、例えば、教師データにおいて用いられたのと同じ条件が用いられる。あるいは、損傷度予測装置1は、
図10の表のうちユーザにより指定された条件のみを説明変数として用いてもよい。
【0057】
ステップS302において、入力手段12は、損傷度を予測する要求を生成する。この要求は、ステップS301において入力、取得、又は指定された説明変数を含む。ステップS303において、入力手段12は、予測手段13に対し損傷度の予測を要求する。
【0058】
ステップS304において、予測手段13は予測の要求を受け付ける。この例において、予測手段13は、要求に含まれる劣化度分布のデータを、マップ(すなわち画像)に変換する。このマップは、規格化された梁の配列を示す画像、及びその画像上において対応する梁の劣化度を示す情報を含む。なお、劣化度分布のデータをマップに変換する処理は、サーバ等の外部装置において行われてもよい。マップへの変換が外部装置において行われる場合、損傷度予測装置1は劣化度分布のマップを外部装置に送信する。
【0059】
なおこの例においては損傷度予測装置1に入力される情報は学習済モデルMに入力される説明変数とは完全に同一ではない(劣化度分布のデータがマップに変換されるため)が、劣化度分布のデータから劣化度分布のマップが得られることを考えると、入力手段12は、実質的に以下の3種の説明変数を学習済モデルMに入力していると言える。
(a)対象となる構造物の点検結果から得られた梁構造における劣化度分布又は健全性判定分布のマップ、
(b)対象となる構造物における梁構造の平面形状、及び
(c)対象となる構造物に与えられる想定外力。
【0060】
ステップS305において、予測手段13は、梁の劣化度のマップ、梁構造の平面形状、及び想定外力を説明変数として学習済モデルMに入力する。学習済モデルMは、入力された説明変数に応じて目的変数、すなわち損傷状態を示す情報を出力する。損傷状態を示す情報は、一例において、
図11で例示した、教師データとして用いられる損傷分布のマップと同じ形式のデータである。ステップS306において、予測手段13は、学習済モデルMから出力された目的変数を取得する。予測手段13は、取得した目的変数を、要求の送信元の装置に送信する(ステップS307)。ステップS308において、出力手段14は、学習済モデルMから出力された目的変数に応じて、予測される損傷状態を示す情報を出力する。出力手段14は、学習済モデルMから出力された情報をそのままユーザに対し出力してもよいし、学習済モデルMから出力された情報に対し何らかの加工がされた後で出力してもよい。
【0061】
図14は、出力手段14から出力される、予測される損傷状態を示す情報を例示する図である。この例では、各部分梁の損傷度(すなわち損傷の度合い)が複数に区分(すなわち損傷区分)され、各区分が視覚的に(例えば異なる色で)表現される。ここで用いられる区分は
図11において例示されたものと共通であり、例えば、ひび割れ損傷は黄色で、降伏損傷は赤で、終局損傷は黒で表される。
【0062】
また、出力手段14から出力される情報には、損傷の割合が含まれる。ここで損傷の割合とは、対象となる梁構造が有する部分梁のうち、所定の損傷を有する部分梁の面積の割合をいう。例えば対象となる梁構造における部分梁の総面積が5,000m2である場合において、少なくとも一部にひび割れ損傷がある部分梁の総面積が3,000m2であったときは、ひび割れ面積率は60%である。あるいは、損傷の割合は面積率ではなく、損傷のある部分梁の数の割合で示されてもよい。
【0063】
なお、予測される損傷状態を示す情報の形式は
図14の例に限定されない。損傷状態を示す情報は、損傷の範囲、損傷の度合い、及び損傷の割合の少なくとも一つ以上の情報を含んでいればよい。例えば、出力手段14は損傷の区分を区別せず、損傷の有無を2値(すなわち損傷あり/損傷無し)で表してもよい。あるいは、出力手段14は、損傷状態をマップで出力せず、損傷の割合のみを出力してもよい。
【0064】
このように、損傷度予測装置1によれば、対象となる構造物の構造解析をその都度実施することなく、損傷状態を示す情報を得ることができる。
【0065】
3.変形例
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。以下、変形例をいくつか説明する。以下の変形例に記載された事項のうち2つ以上のものが組み合わせて用いられてもよい。
【0066】
3-1.劣化度分布のデータ形式
実施形態においては、劣化度分布のデータが、部分梁の識別子とその部分梁の劣化度との組を複数含む文字列のデータである例を説明した。しかし劣化度分布のデータ形式はこれに限定されない。例えば、
図8に例示したような劣化度分布のマップ(すなわち画像)データが、劣化度分布のデータとして学習装置2に入力されてもよい。これは、学習及び予測のいずれの処理においても適用できる。なおこの場合、劣化度分布のデータをマップに変換する処理は省略されてもよい。
【0067】
あるいは、劣化度分布のデータがマップとして学習装置2に入力される場合、マップにおける梁の配列は規格化されていなくてもよい。すなわち、劣化度分布のマップが、劣化度分布又及び梁構造の平面形状の両方の情報を含んでいてもよい。
【0068】
図15は、この変形例に係る劣化度分布及び平面形状のデータを例示する図である。この図は、
図8の例と異なり、梁の配列は規格化されていない。すなわち、この図における部分梁のサイズは、実際の部分梁のサイズを反映している。例えばこの図における2つの部分梁の長さの比は、実際の部分梁の長さの比に相当する。
図15に示されるようにこのデータは縮尺を示す情報を含んでいる。
【0069】
なお、劣化度分布のデータがマップとして学習装置2に入力される場合、学習手段22が、劣化度分布のマップと梁構造の平面形状とから、
図15に相当する(実際の部分梁のサイズを反映した)マップを生成し、これを機械学習モデル9又は学習済モデルMに入力してもよい。また、出力手段14が出力する損傷度分布のマップが、劣化度の分布のマップと同様に部分梁のサイズを反映又は縮尺したものであってもよい。
【0070】
3-2.確率モデル
予測手段13は、所定の確率モデルを用いて将来の劣化度又は健全性を予測してもよい。この確率モデルは、過去の状態推移に基づく確率により将来の状態推移を推定するモデルであり、一例としてはマルコフ連鎖モデルである。この例において、予測手段13は、学習済モデルMと確率モデルとを組み合わせて予測を行う。より具体的には、予測手段13は、学習済モデルMからの出力を確率モデルに入力する。予測手段13は、さらに、現在時刻及び予測の対象となる将来時刻を確率モデルに入力する。これらの時刻は、例えば入力手段12を介してユーザにより入力される。
【0071】
3-3.その他
対象となる梁構造物が複数層の梁構造を有している場合、予測の対象となる梁構造はどれか単一の層に限定されない。複数の層に対して学習及び予測の処理が適用されてもよい。
【0072】
教師データの準備、学習、及び予測における処理の順序は
図5、
図12、及び
図13において例示したものに限定されない。例えば、説明変数の入力順序はどのようなものであってもよい。
【0073】
損傷度予測装置1のハードウェア構成は実施形態において例示されたものに限定されない。要求される機能を実装できるものであれば、損傷度予測装置1はどのようなハードウェア構成を有してもよい。例えば、損傷度予測装置1の機能の一部、一例としては予測手段13及び学習済モデルMをサーバ装置等の外部装置に実装してもよい。この場合、入力手段12及び出力手段14を有するコンピュータ装置がこの外部装置と協働し、全体として実施形態に係る損傷度予測装置1として機能する。
【0074】
プログラム及び学習済モデル等のソフトウェア要素は、CD-ROM(Compact Disc Read only memory)等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録された状態で提供されてもよいし、インターネット等の通信網を介してダウンロードされてもよい。
【符号の説明】
【0075】
1…損傷度予測装置、2…学習装置、9…機械学習モデル、11…記憶手段、12…入力手段、13…予測手段、14…出力手段、21…記憶手段、22…学習手段、91…入力層、92…中間層、93…出力層、101…CPU、102…メモリ、103…ストレージ、104…入力装置、105…表示装置