(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】印褥具およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B41K 1/54 20060101AFI20230904BHJP
【FI】
B41K1/54 J
(21)【出願番号】P 2019182605
(22)【出願日】2019-10-03
【審査請求日】2022-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】518351045
【氏名又は名称】一般社団法人未来ものづくり振興会
(74)【代理人】
【識別番号】100078101
【氏名又は名称】綿貫 達雄
(74)【代理人】
【識別番号】100085523
【氏名又は名称】山本 文夫
(74)【代理人】
【識別番号】230117259
【氏名又は名称】綿貫 敬典
(72)【発明者】
【氏名】歌代 悟
【審査官】大浜 登世子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-104972(JP,A)
【文献】特開平08-302259(JP,A)
【文献】実開昭61-077268(JP,U)
【文献】特開2001-219632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41K 1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印褥体と、この印褥体を収納する容器と、この容器を覆う蓋体を有する印褥具であって、前記印褥体には、異なった領域に異なった色のインキが含浸される2色以上のインキ含浸領域が形成されているとともに、隣接するインキ含浸領域の境界部には色調が連続的に変化するグラデーション領域が形成されて
おり、
前記インキは、疎水性インキと親水性インキの2種類を少なくとも含み、疎水性インキを含浸させたインキ含浸領域と親水性インキを含浸させたインキ含浸領域とが隣接するように配置されていることを特徴とする印褥具。
【請求項2】
インキは、剪断減粘性(チキソトロピック性)を有するものである請求項1に記載の印褥具。
【請求項3】
少なくとも溶剤と着色剤から成る2種以上の異なった色のインキを、印褥体の異なった領域に含浸して2種以上のインキ含浸領域を形成する工程と、
含浸したインキを毛細管現象により移動させて、隣接するインキ含浸領域の境界部に色調が連続的に変化するグラデーション領域を形成する工程と、
前記インキの溶剤を蒸発させて高粘度のインキとする工程からなることを特徴とする印褥具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラデーションで彩られた個性的な印影を実現供することができる印褥具およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、朱肉入れやスタンプ台等の印褥具は広く利用されている。このような印褥具は、基本的な構造として少なくとも印褥体と、この印褥体を収納する容器と、この容器を覆う蓋体を有しているのが一般的である。
【0003】
しかし、前記印褥体は単色が基本であるため、異なる色の捺印をするには必要な色のスタンプ台等を個別に購入・準備して、各々を利用していた。このため、多数個のスタンプ台を保管しなければならないという煩わしさがあり、また購入費も高くなるという問題があった。更に、携帯する場合には多数個を所持する必要があり、持ち歩きに不便であるという問題もあった。
【0004】
そこで、特許文献1に示されるように、インキパッドを複数個所に区画し、これら各個所に異なる色のインキを含浸させたスタンプ台が提案されて、前記問題の解決を図っている。しかしながら、特許文献1に記載のスタンプ台は、単色の捺印が原則であって多色の捺印については考慮されていなかった。また、仮に多色の捺印に利用したとしても、色調が段階的に変化するワンパターンの印影が得られるのみで、表現方法には限界があり個性的な印影を実現することはできないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記のような従来の問題点を解決して、色調が段階的に変化するワンパターンの印影ではなく、グラデーションで彩られており色彩が豊かで、かつ自分だけしか持っていない個性的な印影を捺印することができる印褥具およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明の印褥具は、印褥体と、この印褥体を収納する容器と、この容器を覆う蓋体を有する印褥具であって、前記印褥体には、異なった領域に異なった色のインキが含浸される2色以上のインキ含浸領域が形成されているとともに、隣接するインキ含浸領域の境界部には色調が連続的に変化するグラデーション領域が形成されており、前記インキは、疎水性インキと親水性インキの2種類を少なくとも含み、疎水性インキを含浸させたインキ含浸領域と親水性インキを含浸させたインキ含浸領域とが隣接するように配置されていることを特徴とするものであり、これを請求項1に係る発明とする。
【0008】
好ましい実施形態によれば、前記インキは、剪断減粘性(チキソトロピック性)を有するものであるものが好ましく、これを請求項2に係る発明とする。
【0010】
また、本発明の印褥具の製造方法は、少なくとも溶剤と着色剤から成る2種以上の異なった色のインキを、印褥体の異なった領域に含浸して2種以上のインキ含浸領域を形成する工程と、含浸したインキを毛細管現象により移動させて、隣接するインキ含浸領域の境界部に色調が連続的に変化するグラデーション領域を形成する工程と、前記インキの溶剤を蒸発させて高粘度のインキとする工程からなることを特徴とするものであり、これを請求項3に係る発明とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明では、印褥体と、この印褥体を収納する容器と、この容器を覆う蓋体を有する印褥具であって、前記印褥体には、異なった領域に異なった色のインキが含浸される2色以上のインキ含浸領域が形成されているとともに、隣接するインキ含浸領域の境界部には色調が連続的に変化するグラデーション領域が形成されているものとしたので、色調の変化が独特であり、またグラデーション領域も画一的でなく自由に形成されていて、二つとして同じものがない個性的なマイスタンプを得ることができる。また、請求項1に係る発明では、前記インキは、疎水性インキと親水性インキの2種類を少なくとも含み、疎水性インキを含浸させたインキ含浸領域と親水性インキを含浸させたインキ含浸領域とが隣接するように配置されているものとしたので、疎水性と親水性の反発性を利用して疎水性インキと親水性インキの混合を回避させることができ、形成したグラデーション領域の初期状態をより維持することができる。
【0012】
また、請求項2に係る発明では、前記インキは、剪断減粘性(チキソトロピック性)を有するものとしたので、印褥体にインキを含浸させる際はインキが低粘度で毛細管現象が働きやすく、隣接した異なる色のインキ同士が多量に接触・混合して色調が連続的に変化するグラデーション領域が容易に形成される。一方、静置状態においては、インキが高粘度で毛細管現象が働かないので、インキ同士がそれ以上に混ざり合わず先に形成したグラデーション領域をそのまま維持することになる。
【0014】
また、請求項3に係る発明では、少なくとも溶剤と着色剤から成る2種以上の異なった色のインキを、印褥体の異なった領域に含浸して2種以上のインキ含浸領域を形成する工程と、含浸したインキを毛細管現象により移動させて、隣接するインキ含浸領域の境界部に色調が連続的に変化するグラデーション領域を形成する工程と、前記インキの溶剤を蒸発させて高粘度のインキとする工程からなるものとしたので、インキ含浸時には低粘度のインキが毛細管現象で動きやすく、隣接するインキ含浸領域の境界部に色調が連続的に変化するグラデーション領域を簡単に形成することとなり、一方、インキの溶剤を蒸発させて高粘度のインキとした後は、インキ同士がそれ以上に混ざり合わず先に形成したグラデーション領域をそのまま維持することとなって、個性的なグラデーション領域を有するマイスタンプを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】本発明の実施の形態を示す中央縦断面図である。
【
図3】本発明の印褥具を用いて得られる印影を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、図面を参照しつつ本発明の好ましい実施の形態を示す。
図1は、本発明に係る印褥具の斜視図で、1は印褥体、2はこの印褥体1を収納する容器、3はこの容器3を覆う蓋体である。なお、前記印褥体1はインキ吸蔵体(図示せず)とその表面を覆う表布(図示せず)で構成された一般的なものである。
【0017】
前記印褥体1には、異なった領域に異なった色のインキが含浸される2色以上のインキ含浸領域が形成されているとともに、隣接するインキ含浸領域の境界部には色調が連続的に変化するグラデーション領域が形成されている。
例えば、
図1~
図2に示されるように、印褥体1の3つの異なった領域に異なった色のインキが含浸されて3色のインキ含浸領域4a、4b、4cが形成されている。このインキ含浸領域4a、4b、4cは、各々が離れた位置において、任意の色のインキを滴下して形成することができ、広さや形状も任意のものとすることができる。なお、インキ含浸領域の上から別の色のインキを重ねて含浸して、各インキ含浸領域4a、4b、4cを形成しても良い。
【0018】
そして、前記インキ含浸領域4aとインキ含浸領域4bの境界部には色調が連続的に変化するグラデーション領域5aが形成され、また、インキ含浸領域4bとインキ含浸領域4cの境界部には色調が連続的に変化するグラデーション領域5bが形成され、また、インキ含浸領域4cとインキ含浸領域4aの境界部には色調が連続的に変化するグラデーション領域5cが形成されている。更に、インキ含浸領域4a、4b、4cが寄り添う中央部には、3色の色調が連続的、かつより複雑に変化するグラデーション領域5dが形成されている。
なお、前記の説明は3色のインキ含浸領域4a、4b、4cを形成した場合であるが、2色あるいは4色以上のインキ含浸領域であってもよいことは勿論である。
【0019】
前記グラデーション領域は、印褥体1に含浸させたインキが、含浸時や含浸当初の低粘度の状態であるときに、毛細管現象によって印褥体1のインキが含浸していない部分に向けて移動することで、連続的に色合いが変化する状態のグラデーション領域が形成される。また、このグラデーション領域は、インキの粘度特性や、前記インキ含浸領域の広さや形状、あるいは距離間隔等によって様々な色調に形成されるため、同じものが二つとない個性的な模様が形成されることとなる。なお、グラデーション領域の形成後は、インキが高粘度となって毛細管現象によるインキの移動・混合がなくなりグラデーション領域の色調が固定されることとなる。
【0020】
前記インキは、含浸時は低粘度で毛細管現象により移動・混合を行い、その後は高粘度となって移動・混合がなく色調が固定される必要がある。このため、インキは剪断減粘性(チキソトロピック性)を有するものであることが好ましい。
剪断減粘性は、かき混ぜたり振り混ぜたりすることにより力を加え続けることで粘度が下がり、一定時間放置すると粘度が上がって固定される性質であり、このような剪断減粘性(チキソトロピック性)を有するインキを用いることにより、個性的なグラデーション領域を容易に形成することができる。
【0021】
インキの主な成分は、溶剤と着色剤であり、剪断減粘性(チキソトロピック性)を有するインキは前記主成分にチキソ性付与剤を加えて得ることができる。
チキソ性付与剤としては、例えば、キサンタンガム、ローカストビーンガム、ウェランガム、ジェランガム、グァガム、ペクチン、カラギーナン、カルボキシビニルポリマー、アラビアガム、トラガカントガム、ラムザンガム、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
インキに剪断減粘性(チキソトロピック性)を付与するその他の方法として、例えば、HLB値が8~18の範囲のノニオン系界面活性剤と相乗的に剪断減粘性を発現させるためのケトン樹脂、アルキルフェノール樹脂、マレイン酸樹脂等の添加が考えられる。
【0022】
また、前記インキは、疎水性インキと親水性インキの2種類を少なくとも含み、疎水性インキを含浸させたインキ含浸領域と親水性インキを含浸させたインキ含浸領域とが隣接するように配置されているのが好ましい。
疎水性インキとは、主溶剤として非極性溶剤を含有するインキである。非極性溶剤としては、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、トルエン、キシレン、ジメチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、デカリン、テトラリン、ドデシルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、メチルナフタレン、ジアルキルアリールメタン、などが挙げられる。
親水性インキとは、主溶剤として極性溶剤を含有するインキである。極性溶剤としては、水、アルコール系溶剤、グリコールエーテル系溶剤などが使用できる。極性溶剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。アルコール系溶剤には、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ノルマルブチルアルコール、イソブチルアルコール、ターシャルブチルアルコールなどが含まれる。グリコールエーテル系溶剤としては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブメチルエーテルアセテートなどが挙げられる。
疎水性インキを含浸させたインキ含浸領域と親水性インキを含浸させたインキ含浸領域とが隣接するように配置されているものとすれば、疎水性と親水性の反発性を利用して疎水性インキと親水性インキの混合を回避させることができるため、形成したグラデーション領域の初期状態をより維持することができることとなる。
【0023】
次に、前記の印褥具の製造方法について簡単に説明する。
先ず、2種以上の異なった色のインキを、印褥体の異なった領域(離れた領域)に滴下して2種以上のインキ含浸領域を形成する。この場合、領域の色の選択や位置選択、また領域の広さや外形状等は任意のものとできるため、様々な配色パターンの個性的な模様を形成できることとなる。
次いで、含浸したインキを毛細管現象により移動させて、隣接するインキ含浸領域の境界部に色調が連続的に変化するグラデーション領域を形成する。含浸当初のインキは低濃度であるため、毛細管現象によって印褥体内を自然に拡散移動しグラデーション模様を形成する。このグラデーション領域の出現により色調の変化が独特の印褥体を得ることができる。
次いで、前記インキの溶剤を蒸発させて高粘度のインキとする。ここで、溶剤として揮発性溶剤を使用した場合は、特別な処置を施さなくても時間とともに自然に揮発させることができる。これにより、インキが高濃度となって毛細管現象による拡散移動がなくなるため、色彩模様が固定されることとなる。
得られた印褥体は、色調の変化が独特であり、またグラデーション領域も画一的でなく自由に形成されていて、二つとして同じものがない個性的な図柄となり、自分だけの特有の図柄を有したマイスタンプを得ることができる。
【0024】
以上のようにして得られた印褥具を用いて捺印した場合は、
図3に示されるように、印影10が単一色彩部11a、11bと、その境界部に色調が連続的に変化するグラデーション色彩部12とで構成される色彩豊かなものとなり、他人の印影とは異なった自分だけの個性的な印影が得られることとなる。
【符号の説明】
【0025】
1 印褥体
2 容器
3 蓋体
4a インキ含浸領域
4b インキ含浸領域
4c インキ含浸領域
5a グラデーション領域
5b グラデーション領域
5c グラデーション領域
5d グラデーション領域
10 印影
11a 単一色彩部
11b 単一色彩部
12 グラデーション色彩部