(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】段積みされた箱のハンドリング方法及び装置
(51)【国際特許分類】
B65G 59/02 20060101AFI20230904BHJP
B25J 15/08 20060101ALI20230904BHJP
【FI】
B65G59/02 Z
B25J15/08 C
(21)【出願番号】P 2020133079
(22)【出願日】2020-08-05
【審査請求日】2022-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】393011038
【氏名又は名称】リョーエイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西川 昌司
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 孝
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 達郎
【審査官】三宅 達
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-200803(JP,A)
【文献】特開平07-069450(JP,A)
【文献】特開2014-050904(JP,A)
【文献】実開平04-065219(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65G 59/00-59/12
B25J 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
段積みされた上面開放形の箱を、ロボットアームに取り付けたハンドリング装置により把持して移動させる箱のハンドリング方法であって、
段積みされた最上段の箱の上方に
、一対の逆L字状の押さえパッドが箱の上端面に位置するようハンドリング装置を移動させ、
前記押さえパッドを用いて箱の対向する2辺の上側及び内側を押さえたうえ、最上段の箱の外側面に沿って平板状のくさび部材を差し込み、このくさび部材に設けた爪を箱に近接する方向に回転させて箱の外側フランジの下面に係合させ、箱を垂直上方に持ち上げたうえで箱の下側に落下防止用ハンガーを打ち込んで箱をハンドリング装置に把持させ、その後にロボットアームによって移動させることを特徴とする段積みされた箱のハンドリング方法。
【請求項2】
箱の対向する2辺を
一対の逆L字状の押さえパッドで押さえることで、箱を傾けたりズラシ易くし、隣接する箱との間に微小な隙間を形成したうえで、平板状のくさび部材を差し込むことを特徴とする請求項1に記載の段積みされた箱のハンドリング方法。
【請求項3】
ロボットアームに取り付けて、段積みされた上面開放形の箱を把持し移動させる段積みされた箱のハンドリング装置であって、
最上段の箱の対向する2辺の上端面
及び内側を押さえる
一対の逆L字状の押さえパッドと、
最上段の箱の対向する2辺の外側面に沿って差し込まれる平板状のくさび部材と、
このくさび部材に設けられ、箱に近接する方向に回転されて箱の外側フランジの下面に係合される爪と、
これらの爪に引っ掛けて持ち上げられた箱の下側に打ち込まれる落下防止用ハンガーとを備えたことを特徴とする段積みされた箱のハンドリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、段積みされた上面開放形の箱を、ロボットアームを利用して移動させるための、段積みされた箱のハンドリング方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
段ボール箱のような上面が閉鎖された箱をロボットアームを利用してハンドリングするには、特許文献1に示されたように箱の上面を吸着するハンドリング装置が広く用いられている。しかし工場において部品などの通い箱として多用されている樹脂製の箱は上面開放形の箱であるから、上面を吸着することができない。このため多くの場合には人手によるハンドリングが行われている。しかし、重量が重くしかも箱が多段に段積みされている場合には、人手によるハンドリングは容易ではない。
【0003】
そのような場合、フォークリフトのフォークを箱の下面に差し込み、持ち上げて移動させる方法がある。しかしこの方法は、段積みされた箱の側面に広く開放された空間がある場合にしか利用できない。また、最上段の箱であっても、内側に位置する箱を移動させたい場合には、先ず手前にある箱を取り除かねばならない。
【0004】
また特許文献2には、爪を箱の片側の上部フランジの下向き屈曲片に引っ掛け、外側に引っ張って隣接する箱との間にスペースを形成し、そのスペースを利用して箱の反対側に爪を引っ掛けて持ち上げるハンドリング装置が開示されている。しかしこの装置は、下向き屈曲片のある上部フランジを持つ箱にしか用いることができず、水平方向にのみ延びるフランジを持つ多くの箱には適用できない。
【0005】
またこの装置は、同一高さの箱が並んでいる場合にしか利用できない。しかし、サイズの異なる箱が
図13のように段積みされている場合でも、上段の小さい箱を図示のようにどちらかの方向に傾斜させることで、下の箱に落下することがなくなる。これは箱の底面に段積み用(スタッキング用)の凸部が形成されているためである。箱を傾斜させる方向は、
図14のX方向又はY方向を選択することができる。しかしターゲットとなる箱の位置によっては、傾斜させることができない場合がある。
【0006】
また
図15のように背の高い箱が混在している場合には、斜めにずらしたときに隣接する箱を崩してしまうおそれがある。さらに
図16のように大きさの異なる箱が複雑に組み合わされて段積みされている場合には、A、B、C、D、Eの箱が互いに干渉するため、目的とする箱を直接ずらして引き出したり、傾斜させることができないことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-176926号公報
【文献】特開平6-206634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って本発明の目的は、段積みされた上面開放形の箱を、垂直上方に引き上げて取り出すことができる段積みされた箱のハンドリング方法及びハンドリング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するためになされた本発明の段積みされた箱のハンドリング方法は、段積みされた上面開放形の箱を、ロボットアームに取り付けたハンドリング装置により把持して移動させる箱のハンドリング方法であって、段積みされた最上段の箱の上方に、一対の逆L字状の押さえパッドが箱の上端面に位置するようハンドリング装置を移動させ、前記押さえパッドを用いて箱の対向する2辺の上側及び内側を押さえたうえ、最上段の箱の外側面に沿って平板状のくさび部材を差し込み、このくさび部材に設けた爪を箱に近接する方向に回転させて箱の外側フランジの下面に係合させ、箱を垂直上方に持ち上げたうえで箱の下側に落下防止用ハンガーを打ち込んで箱をハンドリング装置に把持させ、その後にロボットアームによって移動させることを特徴とするものである。
【0010】
なお、箱の対向する2辺を一対の逆L字状の押さえパッドで押さえることで、箱を傾けたりズラシ易くし、隣接する箱との間に微小な隙間を形成したうえで、平板状のくさび部材を差し込むことが好ましい。
【0011】
また上記の課題を解決するためになされた本発明の段積みされた箱のハンドリング装置は、ロボットアームに取り付けて、段積みされた上面開放形の箱を把持し移動させる段積みされた箱のハンドリング装置であって、最上段の箱の対向する2辺の上端面及び内側を押さえる一対の逆L字状の押さえパッドと、最上段の箱の対向する2辺の外側面に沿って差し込まれる平板状のくさび部材と、このくさび部材に設けられ、箱に近接する方向に回転されて箱の外側フランジの下面に係合される爪と、これらの爪に引っ掛けて持ち上げられた箱の下側に打ち込まれる落下防止用ハンガーとを備えたことを特徴とするものである。
【0012】
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、箱の対向する2辺の上側及び内側を一対の逆L字状の押さえパッドで押さえたうえ、、その外側面に沿って平板状のくさび部材を差し込み、このくさび部材に設けた爪を箱に近接する方向に回転させて箱の外側フランジの下面に係合させ、箱を垂直上方に持ち上げるので、従来のように把持具を差し込むために箱を横方向に大きくずらす必要がない。このため目的とする箱を容易に取り出すことができる。また、箱の外側フランジに下向き屈曲片がない場合にも、支障なくハンドリングが可能であるから、汎用性に優れる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図3】実施形態でハンドリングされる箱の斜視図である。
【
図5】箱のサイズに応じてスライダを移動させた状態を示す説明図である。
【
図8】押さえパッドが箱の上端部を押さえた状態を示す説明図である。
【
図9】くさび部材を打ち込んだ状態を示す説明図である。
【
図10】落下防止用ハンガーを打ち込んだ状態を示す説明図である。
【
図11】ハンドリング動作手順を示す要部の拡大図である。
【
図12】ハンドリング動作手順を示す全体図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施形態を説明する。
図1は実施形態の全体の概念図であり、パレット上に上面開放形の箱10が段積みされており、その近傍に配置されたロボット11のアームの先端に本発明のハンドリング装置12が取り付けられている。13は支柱14に取り付けられたカメラである。
図2に示すようにカメラ13は複数方向から段積みされた箱10を撮影できるように配置され、最上部の箱10の座標を演算して、ハンドリング装置12を目的とする箱10の直上位置に動かす。このためには、各カメラ13の画像から最上段の箱の長方形の形状を認識し、次に箱の角を見つけ出し、3つ以上の角が長方形に構成されるところを箱として定義する。次に各辺の中心点を求めて箱の対辺の中心2か所を計算し、3次元の位置座標を演算する。このようにして各カメラ画像から最上部の箱10の座標を演算できるが、この技術は画像を利用したロボットの制御技術として既に公知であり、本発明の要部ではないので説明を省略する。
【0016】
図3に本実施形態のハンドリング対象となる箱10を示す。この箱10は樹脂製で上面開放形であり、上面の周囲に外側フランジ15が設けられている。外側フランジ15は下向き屈曲片を持たず、水平方向だけに張り出している。その突出量は10~20mm程度であるものが一般的である。なお、外側フランジに下向き屈曲片を持つ箱であっても、支障なくハンドリング可能である。
【0017】
図4に実施形態のハンドリング装置12の全体を示す。20はロボットアームの先端に装着される本体であり、21は本体20に設けられた水平レールである。水平レール21の下部には、一対のスライダ22が水平レール21に沿って走行可能に支持されている。走行用のアクチュエータとしては例えば油圧シリンダを用いることができるが、水平レール21に沿ってモータで走行する機構や、ボールねじによる移動機構など、適宜のアクチュエータを採用することができる。一対のスライダ22は箱10のサイズに応じて拡縮される。
図5はその状態を示す。
【0018】
図5、
図6に示すように、各スライダ22の下部には駆動ボックス23が設けられている。この駆動ボックス23の底面には一対の押さえパッド26が下向きに設けられている。一対の押さえパッド26は垂下片27を備えた逆L字状であり、垂下片27が目的とする最上段の箱10の上端面の内側に入るようにスライダ22が拡縮移動される。後述するように、この押さえパッド26で箱10の対向する2辺を押さえることで、箱10を傾けたりズラシ易くし、隣接する箱との間に微小な隙間を形成することができる。
【0019】
駆動ボックス23の外側面には、略平板状のくさび部材28が昇降手段29によって昇降可能に設けられている。
図6に示されるように、くさび部材28は下端が尖っているがその上部は中空であり、その内部に
図7のように一対の爪30が収納されている。爪30はリンク機構により垂直軸31の回りに回転し、くさび部材28の裏面(箱10側の面)に飛び出すことができるようになっている。24はリンク機構の駆動源である。
【0020】
また
図6に示すように、駆動ボックス23のくさび部材28の両側位置には、水平軸32を中心として略180度回転する落下防止用ハンガー33が設けられている。軸32と駆動軸34との間には中間軸35が設けられ、ベルト36により落下防止用ハンガー33を回転させる。
図4には落下防止用ハンガー33が上方位置にある状態が示され、
図10には落下防止用ハンガー33が振り下ろされた状態が示されている。落下防止用ハンガー33の先端はL字状に屈曲されており、箱10の外側フランジ15の下面を確実に支えるようになっている。
【0021】
以下に本発明のハンドリング装置を用いたハンドリング方法を順を追って説明する。
まず前記したように、段積みされた上面開放形の箱10のうち、目的とする最上段の箱10の上方にロボットアームによりハンドリング装置12を移動させる。
図1に示すように、隣接する箱どうしは略密着状態で段積みされているのが普通である。
図4に示すようにハンドリング装置を箱10の中心上に位置させたのち、
図5に示すように箱10のサイズに合わせて水平レール21に沿ってスライダ22を移動させる。なお、目的とする箱10の位置及びサイズは、複数のカメラ13の画像に基づき予め演算されている。また、箱10の対向する2辺は長辺側と短辺側の2組存在するが、何れの対向辺を保持するかを予め演算しておき、ハンドリング装置12の向きを合わせる。
【0022】
次に
図8のようにロボットハンドによりハンドリング装置12を箱10に向かって下降させ、一対の押さえパッド26を箱10の上端面に密着させる。そして隣接する箱10との間に3~10mm程度の微小な隙間ができるように、ロボットハンドにより箱10を横方向にずらす。そしてこのわずかな隙間に向かってくさび部材28を
図9のように打ち込む。この動作は箱10の片側で行い、次に反対側で行う。隣接する箱10どうしは略密着しているが、ロボットハンドにより強制的に微小距離だけずらすことは可能である。このずらしはくさび部材28の尖った下端が割り込むことができるようにするためであり、隣接する箱10のない側では行う必要はない。
図11の(A)(B)(C)と
図12の(A)(B)(C)に上記の動作を詳しく図示した。
【0023】
くさび部材28を打ち込むときには、爪30は打ち込みの障害とならないようにくさび部材28の内部に収納されている。箱10の両側にくさび部材28が打ち込まれた後、
図11の(C)に示すように、爪30は垂直軸31の回りに回転し、くさび部材28の裏面側に飛び出す。爪30の飛び出し量は例えば10mm程度である。飛び出した爪30は、箱10の外側フランジ15よりも下方位置にある。そこでロボットアームによりハンドリング装置全体を真上に上昇させると、飛び出した爪30の上面が箱10の外側フランジ15の下面に係合し、
図11(D)のように箱10は両側の爪30によって垂直上方に引き上げられる。このとき、箱10の側板は押さえパッド26により内側から保持され、くさび部材28により外側を拘束されているので、爪30の飛び出し量がわずかであっても爪30が箱10の外側フランジ15から外れることはない。
【0024】
なお、
図3に示した箱10の外側フランジ15は上端面のみに存在するので、爪30は
図9の(C)(D)に示すように上端面の外側フランジ15に引っ掛かる。しかし箱によっては上端面のみならず、その下方にも外側フランジ15が形成されているものもあり、その場合には爪30は一番下の外側フランジ15に係合することとなる。
【0025】
このようにして最上段の箱10を垂直上方に持ち上げたうえで、
図11の(E)に示すようにそれまで上方位置にあった落下防止用ハンガー33を下方に振り下ろし、箱10の外側フランジ15の下面を支える。落下防止用ハンガー33は爪30よりも3mm程度下側に振り込まれる。このようにして箱10の両側に落下防止用ハンガー33を下方に振り下ろして箱10の外側フランジ15を両側で確実に保持し、ロボットアームにより箱10を目的位置まで移動させる。箱10は対向する2辺を落下防止用ハンガー33により確実に拘束されているので、移動中に落下することはない。なお
図12(C)では落下防止用ハンガー33は右側のみが振り下され、隣接する箱10がある左側は振り下されていない。
図12(D)に示すように、左側は落下防止用ハンガー33を振り下せるスペースが形成された後に、振り下される。箱10を目的位置まで搬送し、落下防止用ハンガー33を解放するときに、爪30を後退させる。
【0026】
以上に説明したように、本発明の段積みされた箱のハンドリング方法及び装置によれば、隣接する箱10どうしがぴったりと段積みされている場合にも、目的とする箱10を容易に垂直上方に抜き出して取り出すことができる。このため従来のように隣接する箱10に影響を及ぼすことがない。また、箱の外側フランジに下向き屈曲片がない場合にも、支障なくハンドリングが可能であるから、汎用性に優れる。さらに、搬送中に箱を落下させることがなく、安全性に優れる利点がある。
【符号の説明】
【0027】
10 箱
11 ロボット
12 ハンドリング装置
13 カメラ
14 支柱
15 外側フランジ
20 本体
21 水平レール
22 スライダ
23 駆動ボックス
24 リンク機構の駆動源
26 押さえパッド
27 垂下片
28 くさび部材
29 昇降手段
30 爪
31 垂直軸
32 軸
33 落下防止用ハンガー
34 駆動軸
35 中間軸
36 ベルト