(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】動物細胞の細胞賦活剤
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20230904BHJP
A61K 8/49 20060101ALI20230904BHJP
A61K 31/53 20060101ALI20230904BHJP
A61P 17/18 20060101ALI20230904BHJP
A61P 17/16 20060101ALI20230904BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230904BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20230904BHJP
A61Q 19/02 20060101ALI20230904BHJP
【FI】
C12N5/071
A61K8/49
A61K31/53
A61P17/18
A61P17/16
A61P43/00 107
A61Q19/00
A61Q19/02
(21)【出願番号】P 2021524859
(86)(22)【出願日】2020-06-02
(86)【国際出願番号】 JP2020021787
(87)【国際公開番号】W WO2020246468
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2021-11-11
(31)【優先権主張番号】P 2019106031
(32)【優先日】2019-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503272483
【氏名又は名称】ビタミンC60バイオリサーチ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(74)【代理人】
【識別番号】100126653
【氏名又は名称】木元 克輔
(72)【発明者】
【氏名】河岸 洋和
(72)【発明者】
【氏名】青島 央江
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/136508(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/147750(WO,A1)
【文献】Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 2016, Vol.80, No.10, pp.2045-2050
【文献】Scientific Reports, 2016.12.19, Vol.6, No.39087, pp.1-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
C12N 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3H-イミダゾ[4,5-d][1,2,3]トリアジン-4,6(5H,7H)-ジオンを含有する、ケラチノサイト
における、CLDN1、DSC1、DSG1、CDH1、KLK5、KLK7、SPINK5、KRT1、KRT10、TGM1、IVL、SPRR1B及びHAS3からなる群より選択される少なくとも一種の遺伝子の発現増強剤又は
ケラチノサイトの細胞増殖剤。
【請求項2】
皮膚用保湿剤及び皮膚用美白剤からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1に記載の遺伝子の発現増強剤又は細胞増殖剤。
【請求項3】
皮膚用保湿剤である、請求項1に記載の遺伝子の発現増強剤又は細胞増殖剤。
【請求項4】
化粧品である、請求項1~3のいずれか一項に記載の遺伝子の発現増強剤又は細胞増殖剤。
【請求項5】
医薬品又は医薬部外品である、請求項1~3のいずれか一項に記載の遺伝子の発現増強剤又は細胞増殖剤。
【請求項6】
外用剤である、請求項1~5のいずれか一項に記載の遺伝子の発現増強剤又は細胞増殖剤。
【請求項7】
試薬である、請求項1に記載の遺伝子の発現増強剤又は細胞増殖剤。
【請求項8】
細胞培養用又は組織培養用の試薬である、請求項7に記載の遺伝子の発現増強剤又は細胞増殖剤。
【請求項9】
3H-イミダゾ[4,5-d][1,2,3]トリアジン-4,6(5H,7H)-ジオンを培養細胞又は培養組織に添加する工程を含む、ケラチノサイト又はケラチノサイトが存在する皮膚組織の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物細胞の細胞賦活剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、表皮と真皮から構成される組織であり、外界からの物理的・化学的ストレスから身体を守るバリア機能を果たしている。表皮と真皮とは基底膜で仕切られ、表皮は外界と接している。表皮は、基底膜側から、基底層、有棘層、顆粒層、角質層の4層からなり、主に表皮角化細胞(ケラチノサイト)から構成されている。基底層で分裂した表皮角化細胞は、分化・成熟を経て外層に移行し、最外層の角質層まで達した後、脱落し、ターンオーバーを繰り返している。表皮には、最外層の角質層によるバリア機能と、角質層の内側の顆粒層のタイトジャンクションによるバリア機能がある。表皮のターンオーバーは、皮膚のバリア機能や水分量の保持等に関与している。したがって、老化や外部ストレスにより表皮角化細胞の分化、成熟、移行、脱落のターンオーバーが滞ると、肌荒れや乾燥肌などの原因となる。
【0003】
表皮の内側にある真皮は、毛細血管、分泌腺(汗腺、皮脂腺)、毛包、神経が存在し、表皮に栄養を与えたり、表皮からの情報を受け取ったりする役割を果たしている。真皮は、乳頭層と網状層に分けられる。真皮の大部分を占める網状層においては、コラーゲン繊維が密な編目を形成しており、弾性繊維網が伴行している。コラーゲン繊維と弾性線維の組み合わせにより、皮膚に強度、伸びやすさ、弾力性が与えられる。線維束の間には、コラーゲン繊維及び弾性繊維を産生する繊維芽細胞、マクロファージ、肥満細胞、形質細胞、真皮樹状細胞等が存在する。真皮はゲル状の基質を含み、その中にプロテオグリカン(ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸等)、タンパク、及びミネラルが存在する。プロテオグリカンは水との結合能を有する。
【0004】
従来、皮膚用化粧品及び皮膚用医薬品の分野において、皮膚の細胞自体を賦活し、皮膚症状の改善や抗炎症効果又は創傷治療効果を生ぜしめる研究が多くなされており、種々の皮膚細胞賦活剤が提供されている(例えば、特許文献1~4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-148742号公報
【文献】特開2013-194008号公報
【文献】国際公開第2015/015816号
【文献】特開2016-37470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、動物細胞、特に皮膚の細胞を賦活化することができる、新たな細胞賦活剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明者らが鋭意検討した結果、3H-イミダゾ[4,5-d][1,2,3]トリアジン-4,6(5H,7H)-ジオン(別名:2-アザ-8-オキソ-ヒポキサンチン、以下、場合により「AOH」と称する)が、動物細胞、特に皮膚の細胞を賦活化する作用を有することを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]
3H-イミダゾ[4,5-d][1,2,3]トリアジン-4,6(5H,7H)-ジオンを含有する、動物細胞の細胞賦活剤。
[2]
動物細胞が皮膚の細胞である、[1]に記載の細胞賦活剤。
[3]
皮膚の新陳代謝促進剤、皮膚創傷治癒促進剤、皮膚の老化防止剤、皮膚の老化改善剤、皮膚のしわ防止剤、皮膚のバリア機能改善剤、皮膚用保湿剤、皮膚の弾力改善剤、皮膚のくすみ改善剤、肌荒れ改善剤及び皮膚用美白剤からなる群から選択される少なくとも一種、好ましくは皮膚用保湿剤である、[2]に記載の細胞賦活剤。
[4]
化粧品である、[1]~[3]のいずれかに記載の細胞賦活剤。
[5]
医薬品又は医薬部外品である、[1]~[3]のいずれかに記載の細胞賦活剤。
[6]
外用剤である、[1]~[5]のいずれかに記載の細胞賦活剤。
[7]
試薬である、[1]又は[2]に記載の細胞賦活剤。
[8]
細胞培養用又は組織培養用の試薬である、[7]に記載の細胞賦活剤。
[9]
請求項[8]に記載の細胞賦活剤を培養細胞又は培養組織に添加する工程を含む、動物細胞又は動物組織の培養方法。
[10]
3H-イミダゾ[4,5-d][1,2,3]トリアジン-4,6(5H,7H)-ジオンを対象に投与することを含む、動物細胞の賦活方法。
[11]
皮膚の細胞の賦活方法である、[10]に記載の方法。
[12]
3H-イミダゾ[4,5-d][1,2,3]トリアジン-4,6(5H,7H)-ジオンを対象に投与することを含む、皮膚の新陳代謝促進方法、皮膚創傷治癒促進方法、皮膚の老化防止方法、皮膚の老化改善方法、皮膚のしわ防止方法、皮膚のバリア機能改善方法、皮膚の保湿方法、皮膚の弾力改善方法、皮膚のくすみ改善方法、肌荒れ改善方法又は皮膚の美白方法、好ましくは皮膚の保湿方法。
[13]
動物細胞の細胞賦活剤の製造における、3H-イミダゾ[4,5-d][1,2,3]トリアジン-4,6(5H,7H)-ジオンの使用。
[14]
動物細胞が皮膚の細胞である、[13]に記載の使用。
[15]
皮膚の新陳代謝促進剤、皮膚創傷治癒促進剤、皮膚の老化防止剤、皮膚の老化改善剤、皮膚のしわ防止剤、皮膚のバリア機能改善剤、皮膚用保湿剤、皮膚の弾力改善剤、皮膚のくすみ改善剤、肌荒れ改善剤及び皮膚用美白剤からなる群から選択される少なくとも一種、好ましくは皮膚用保湿剤の製造における、3H-イミダゾ[4,5-d][1,2,3]トリアジン-4,6(5H,7H)-ジオンの使用。
[16]
動物細胞の賦活方法に使用するための、3H-イミダゾ[4,5-d][1,2,3]トリアジン-4,6(5H,7H)-ジオン。
[17]
動物細胞が皮膚の細胞である、[16]に記載の3H-イミダゾ[4,5-d][1,2,3]トリアジン-4,6(5H,7H)-ジオン。
[18]
皮膚の新陳代謝促進方法、皮膚創傷治癒促進方法、皮膚の老化防止方法、皮膚の老化改善方法、皮膚のしわ防止方法、皮膚のバリア機能改善方法、皮膚の保湿方法、皮膚の弾力改善方法、皮膚のくすみ改善方法、肌荒れ改善方法又は皮膚の美白方法、好ましくは皮膚の保湿方法に使用するための、3H-イミダゾ[4,5-d][1,2,3]トリアジン-4,6(5H,7H)-ジオン。
【発明の効果】
【0009】
本発明の細胞賦活剤によれば、動物細胞、特に皮膚の細胞を賦活化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(AOH)
本発明の動物細胞の細胞増殖促進剤には、AOH、すなわち、3H-イミダゾ[4,5-d][1,2,3]トリアジン-4,6(5H,7H)-ジオン(別名:2-アザ-8-オキソ-ヒポキサンチン)が含有される。AOHは、下記式(I)で表される化合物である。
【0011】
【0012】
AOHは、植物生長調節作用があることが知られている化合物である(国際公開第2012/147750号、以下、「参考文献1」と称する)。AOHは、例えば、参考文献1に記載の方法により製造することができる。具体的には、AOHの前駆物質である植物ホルモン、7H-イミダゾ[4,5-d][1,2,3]トリアジン-4(3H)-オン(別名:2-アザヒポキサンチン、以下場合により「AHX」と称する)に、キサンチンオキシダーゼを作用させることにより、AOHを得ることができる。また、AHXを植物に施用して、AHX代謝産物として産生されたAOHを植物体から単離することにより、AOHを得ることもできる。
【0013】
(動物細胞)
本発明の細胞賦活剤が対象とする細胞は、動物細胞である。本発明の細胞賦活剤は、生きている動物に対して直接適用することが好ましい。対象となる動物としては、ヒト及びヒト以外の哺乳類を挙げることができるが、ヒトが好ましい。ヒト以外の哺乳類としては、例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、サルが挙げられる。
【0014】
動物細胞が存在する組織又は器官としては、例えば、皮膚、筋肉、骨、関節、脂肪、脳、脊髄、消化器官、生殖器官、内分泌器官、呼吸器官、循環器系、免疫系、骨、関節及び脂肪組織等が挙げられるが、この中でも皮膚であることが好ましい。特に皮膚の細胞に対して、本発明の細胞賦活剤は効果を発揮する。皮膚の細胞としては、表皮及び真皮を構成する細胞が挙げられ、この中でも表皮を構成する細胞であることが好ましい。表皮を構成する細胞としては、例えば、表皮角化細胞(ケラチノサイト)、色素細胞(メラノサイト)、ランゲルハンス細胞、メルケル細胞が挙げられ、この中でも表皮角化細胞であることが好ましい。表皮を構成する細胞は、表皮の基底層、有棘層、顆粒層又は角質層に存在する細胞であることが好ましい。
真皮を構成する細胞としては、例えば、繊維芽細胞、マクロファージ、肥満細胞、形質細胞、真皮樹状細胞が挙げられ、この中でも繊維芽細胞であることが好ましい。真皮を構成する細胞は、真皮の乳頭層又は網状層に存在する細胞であることが好ましい。
【0015】
本発明の細胞賦活剤を皮膚に適用する場合、適用する部位としては、例えば、頭皮、顔(額、頬、口唇、鼻、耳)、首、肩、背、胸部、腹部、性器、腕、手、下肢、足、爪、毛髪を含む、身体のあらゆる体表面に適用することができる。
【0016】
(細胞賦活剤の作用、機能、用途)
本発明の細胞賦活剤は、AOHを含有することにより、細胞賦活作用を有する。すなわち、本発明の細胞賦活剤の有効成分はAOHである。本発明の細胞賦活剤の細胞賦活作用として具体的には、細胞増殖作用及び各種遺伝子発現の増強作用が挙げられる。一方で、本発明の細胞賦活剤は、細胞毒性が低い。したがって、本発明の細胞賦活剤は、安全性が高く、生体への適用にも適している。
【0017】
本発明の細胞賦活剤は、動物の皮膚に適用する場合、表皮及び/又は真皮を構成する細胞に作用し、細胞増殖作用及び各種遺伝子発現増強作用を示す。本発明の細胞賦活剤を皮膚に適用する場合、発現が増強される遺伝子群の中には、細胞間接着機能、バリア機能、角質層剥離機能、分化機能、保湿機能、美白機能に関連する遺伝子が含まれる。したがって、本発明の細胞賦活剤は、皮膚の新陳代謝促進、皮膚の創傷治癒促進、皮膚の老化防止、皮膚の老化改善、皮膚のしわ防止、皮膚のバリア機能改善、皮膚の保湿、皮膚の弾力改善、皮膚のくすみ改善、肌荒れ改善、皮膚の美白等の用途に用いることができる。すなわち、本発明の細胞賦活剤は、皮膚の新陳代謝促進剤、皮膚創傷治癒促進剤、皮膚の老化防止剤、皮膚の老化改善剤、皮膚のしわ防止剤、皮膚のバリア機能改善剤、皮膚保湿剤、皮膚の弾力改善剤、皮膚のくすみ改善剤、肌荒れ改善剤及び皮膚用美白剤からなる群から選択される少なくとも一種として使用することができる。
【0018】
本発明の細胞賦活剤の形状は、特に限定されず、固体、液体(溶液又は懸濁液)、乳液やクリーム等の乳化状、ペースト、ジェル、ムース状等のいずれの形状であってもよい。本発明の細胞賦活剤は、化粧品、医薬品又は医薬部外品として使用することができる。
【0019】
(医薬品)
医薬品としての細胞賦活剤の剤型は特に限定されず、例えば、エアゾール剤、液剤、懸濁剤、乳剤、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、リニメント剤、ローション剤、パップ剤、テープ剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、坐剤、エリキシル剤、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、散在、錠剤、シロップ剤、注射剤、トローチ剤等が挙げられる。皮膚用の医薬品として用いる場合は、外用剤であることが好ましい。外用剤とすることにより、皮膚の細胞にAOHが直接作用し、より強く効果を発揮することができる。外用剤としては、エアゾール剤、液剤、懸濁剤、乳剤、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、リニメント剤、ローション剤、パップ剤、テープ剤等の剤型であることが好ましい。
【0020】
(医薬部外品、化粧品)
医薬部外品又は化粧品としての細胞賦活剤の形態は特に限定されず、例えば、化粧水、乳液、クリーム、ジェル、美容液、日焼け止め用化粧料、パック、ハンドクリーム、フットクリーム、ボディローション、ボディークリーム等の基礎化粧料;洗顔料、メイク落とし、石鹸、ボディーシャンプー、シャンプー、リンス、コンディショナー、除光液等の洗浄用化粧料;ファンデーション、化粧下地、リップクリーム、口紅、チークカラー、アイカラー、眉墨、マニキュア、ヘアカラー等のメークアップ化粧料;制汗剤;入浴剤;香水;栄養機能食品、機能性表示食品、特定保健用食品、特別用途食品等の飲食品等が挙げられる。皮膚用の医薬部外品又は化粧品として用いる場合も、医薬品同様、外用剤であることが好ましい。外用剤とすることにより、皮膚の細胞にAOHが直接作用し、より強く効果を発揮することができる。外用剤としての医薬部外品又は化粧品は、上記挙げた中で飲食品を除く形態の医薬部外品及び化粧品であることが好ましい。
【0021】
(基剤、担体、添加剤)
本発明の細胞賦活剤には、化粧品、医薬品又は医薬部外品に通常使用される基剤又は担体、及び必要に応じて各種添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、例えば、賦形剤、油剤類、粉体類、緩衝材、溶解補助剤、酸化防止剤、界面活性剤、増粘剤、保存剤、pH調整剤、キレート剤、安定化剤、刺激軽減剤、防腐剤、顔料、着色剤、香料、光沢付与剤、ゲル化剤、アルコール類、水溶性高分子、皮膜形成剤、樹脂、角質溶解剤等を挙げることができる。基剤、担体及び各種添加剤は、必要に応じて、一種又は複数種を組み合わせて用いることができる。
【0022】
(その他の有効成分)
本発明の細胞賦活剤は、細胞賦活剤としての効果を損なわない範囲で、AOH以外の有効成分を含むことができる。AOH以外の有効成分の具体例としては、例えば、保湿成分、抗炎症成分、抗菌成分、細胞賦活化成分、老化防止成分、血行促進成分、紫外線防御成分、美白成分、ビタミン類、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、アルコール類等が挙げられる。これらの有効成分は必要に応じて、一種又は複数種を組み合わせて用いることができる。
【0023】
本発明の細胞賦活剤は、AOHと、必要に応じて、上述した他の成分とを配合することにより、当業者によく知られた方法で製造することができる。また、本発明の細胞賦活剤に含まれるAOHの濃度及び含有量は、細胞賦活剤の投与対象、剤型、用途、目的とする効果等に応じて、当業者が適宜設定できる。例えば、本発明の細胞賦活剤には、AOHが0.0001~5質量%、好ましくは0.001~1質量%、より好ましくは0.01~0.5質量%含まれていてもよい。また、本発明の細胞賦活剤の投与回数、投与量、投与方法も、細胞賦活剤の投与対象、剤型、用途、目的とする効果等に応じて、当業者が適宜設定できる。ただし、本発明の細胞賦活剤の対象が皮膚の細胞である場合は、投与方法は、皮膚に塗布、貼付する等の皮膚上投与であることが好ましい。
【0024】
本発明の細胞賦活剤は、上述のように、それ自体が細胞賦活作用を有する化粧品、医薬品又は医薬部外品として使用されてもよいが、化粧品、医薬品又は医薬部外品に、本発明の細胞賦活剤が有する機能を附加することを目的として添加されていてもよい。すなわち、本発明の細胞賦活剤は、化粧品、医薬品又は医薬部外品原料として使用することもできる。例えば、皮膚に直接適用する外用剤、例えば、虫除け剤等に本発明の細胞賦活剤が配合されていてもよい。
【0025】
また、本発明の細胞賦活剤は、試薬であってもよい。本発明の細胞賦活剤は、動物細胞を有効に賦活化させることができるので、動物細胞を用いる実験又は研究のための試薬として使用することができる。そのような実験又は研究は、インビトロであってもよく、インビボであってもよい。
【0026】
そのような実験又は研究のための試薬として、例えば、細胞培養用試薬又は組織培養用試薬を挙げることができる。該細胞培養試薬が対象とする細胞としては、上で説明した動物細胞を同様に挙げることができる。また、該組織培養用試薬が対象とする組織又は器官としては、上で説明した、動物細胞が存在する組織又は器官を同様に挙げることができる。
【0027】
例えば、本発明の細胞賦活剤は、上述のように、生きている動物に対して直接適用する他に、動物から単離された細胞もしくは動物由来の培養細胞に対してインビトロで適用することもできる。そのような細胞は、正常細胞、がん細胞、幹細胞、ハイブリドーマ等の融合細胞であってもよい。本発明の細胞賦活剤が有する細胞増殖作用及び遺伝子発現増強作用により、それらの細胞を賦活化させることができる。
【0028】
本発明は、上述の細胞賦活剤を培養細胞又は培養組織に添加する工程を含む、動物細胞又は動物組織の培養方法も提供する。培養時に本発明の細胞賦活剤を細胞又は組織に添加することによって、細胞増殖作用及び遺伝子発現増強作用により、培養細胞又は培養組織を効率的に賦活化させることができる。培養細胞又は培養組織としては上述した細胞、組織、器官を同様に挙げることができる。培養条件、細胞賦活剤の添加のタイミング及び添加量等は、当業者が適宜決定できる。
【実施例】
【0029】
(実施例1.皮膚刺激性試験)
皮膚刺激性試験を、OECDテストガイドライン(No.439)及びEuropean Centre for the Validation of Alternative Methods(ECVAM)により公開されているプロトコルである、SKINETHIC SKIN IRRITATION TEST、TEST METHOD FOR THE PREDICTION OF ACUTE SKIN IRRITATION OF CHEMICALSに準じて実施した。この皮膚刺激性試験は、ヒトの表皮に、生化学的・生理学的特性に極めて類似するよう設計された再生ヒト表皮(RhE)モデル(ヒト由来の非形質転換表皮角化細胞を細胞源として使用し、組織化された基底層、有棘層、顆粒層、角質層から構成される。)を用い、被検物質を局所塗布したRhEモデルの細胞生存率を、被検物質の皮膚刺激性の指標とするものである。RhEモデルの細胞生存率は、MTT法により測定した。MTT法では、生体染色色素であるMTT(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド、チアゾリルブルー)が生細胞の酵素反応によりブルーホルマザンへ還元される性質を利用して、ブルーホルマザンを定量することにより細胞生存率を測定する。RhEモデルの細胞生存率が所定の値より高ければ、塗布した被検物質は非刺激性と判断できる。
【0030】
SkinEthicTM-RHEを、増殖培地にて24時間インキュベーションし、維持培地に移した。10μLの滅菌精製水を表皮側から滴下し、均一にした後、その上から16mgの試験試料を添加した。
また、陰性(非刺激性)コントロールとしてPBS(-)、陽性(刺激性)コントロールとして5%SDS水溶液を用い、それぞれ表皮側から16μLを暴露し、上からナイロン膜を適用した。
【0031】
試験試料を42分間暴露した後、速やかに試験試料を洗浄操作により表皮モデルから除去し、新鮮な増殖培地にてさらに42時間培養した。培養後、表皮モデルを1.0mg/mLのMTTを含有する維持培地に移し、3時間培養した。その後、表皮モデルをイソプロパノールに2時間浸漬することにより、表皮モデル中のブルーホルマザンを抽出し、抽出液の570nmにおける吸光度をマイクロプレートリーダーにて測定した。陰性コントロール及び陽性コントロールに暴露した表皮モデルに対しても同様の処理を行い、吸光度を測定した。
【0032】
(結果)
細胞生存率は、陰性コントロールを暴露した皮膚モデルの吸光度に対する試験試料を曝露した皮膚モデルの吸光度の百分率で表した。結果は、陰性コントロールであるPBS(-)を処理した皮膚モデルの細胞生存率を100%として、陽性コントロールである5%SDSを処理した皮膚モデルの細胞生存率が1.2%、AOHを処理した皮膚モデルの細胞生存率は100%であった。したがって、AOHは非刺激性と判定された。
【0033】
(実施例2.表皮細胞賦活作用)
正常ヒト表皮角化細胞をHuMedia KG2培地(KG2)を用いて、5.0×103細胞/ウェルの密度にて96穴プレートに播種した。播種24時間後、試験試料を含有するHuMedia KB2培地(KB2)に交換した。試験試料として、AOH及びAHX(2-アザヒポキサンチン)を用い、細胞賦活作用の陽性コントロール(P.C.)として試験試料の代わりにKG2を処理し、陰性コントロールとして試料未処理細胞を用いた。48時間培養後、0.2mg/mLのMTTを含有するKB2に交換し、1時間培養した。培地を除去したのち、2-プロパノールを添加して細胞を溶解させた細胞溶解液の550nmおよび650nmにおける吸光度を測定した。550nmにおける吸光度から細胞濁度に由来する650nmにおける吸光度を差し引き、MTTがブルーホルマザンへ還元される量を求めた。表皮角化細胞賦活作用を、MTT還元量を指標とし、試料未処理細胞(陰性コントロール)の吸光度に対する試験試料処理細胞の吸光度の百分率、Index(%)として示した。
【0034】
(結果)
試験結果を表1に示した。表1中、AOH処理細胞は、7.8から31.3μg/mLの濃度において、Indexの有意な増加を示し、生細胞が増殖することが示唆された。一方、AHX処理細胞は、AOH処理細胞のような増殖効果がなく、31.3μg/mL以上の濃度においては有意に減少し、Indexの減少の割合もAOH処理細胞に比べて大きかった。これらの結果より、AOHはAHXより細胞毒性が低く、細胞賦活作用があることが判明した。
【0035】
【0036】
(実施例3.マイクロアレイ試験)
実施例1及び2から、AOHがAHXとは異なり、細胞に対して毒性が低く、むしろ細胞増殖を促進する効果が認められたことから、実施例3ではマイクロアレイにて細胞増殖を促す要因を検証した。
【0037】
正常ヒト表皮角化細胞をHuMedia-KG2培地を用いて、1.5×105細胞/ウェルの細胞密度にて6穴プレートに播種した。24時間培養後、0、30、100、300μg/mLの濃度のAOHを含有するHuMedia-KB2培地3mLと交換した。交換後24時間培養し、細胞をQIAzol reagentに浸漬し、溶解した。溶解液からmiRNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用いて精製したRNAを回収し、mRNA発現解析チップ(DNAチップジェノパール(登録商標))を用いて、DNAマイクロアレイを実施した。得られた結果を解析し、各種遺伝子発現をコントロールの補正値を1とした比で表し、Student t検定を用いて有意差検定を行った(有意水準5%)。
【0038】
(結果)
マイクロアレイの解析結果において、遺伝子発現の変化を示した代表的なものを表2に示した。表2中、値が1より大きければ遺伝子発現が上昇しており、p値が0.05より小さければコントロールに対して有意な変化があると判定できる(表中に*で示した。)。AOH処理により、いくつかの遺伝子発現が濃度依存的に変動した。細胞間接着・バリア機能に関わるクローディン1(CLDN1)、デスモコリン1(DSC1)、デスモグレイン1(DSG1)及びEカドヘリン(CDH1)の有意な遺伝子発現の上昇を示した。
また、角質層剥離に関わるプロテアーゼカリクレイン5(KLK5)及びカリクレイン7(KLK7)並びにその制御剤であるセリンプロテアーゼインヒビター(SPIMK5)の有意な遺伝子発現の上昇を示した。
また、一般的な分化指標とされるケラチン1(KRT1)、ケラチン10(KRT10)、トランスグルタミナーゼ1(TGM1)及びインボルクリン(IVL)、並びにコーニファイドエンベロープ(角質細胞膜)構成タンパクであるSPRR1Bの有意な遺伝子発現の上昇を示した。
また、ヒアルロン酸合成酵素(HAS3)遺伝子発現の有意な上昇が確認された。
細胞外マトリックス関連の遺伝子群においては、フィブロネクチン(FN1)遺伝子発現の軽微な上昇が認められた。
これらの結果から、細胞へのAOH処理は、表皮のターンオーバーを促進し、分化・成熟を促し、古い角質の新陳代謝を促進し、保湿作用を高める等、広く表皮機能に作用する可能性が示唆された。
【0039】
メラニン産生を惹起する遺伝子群である、プロスタグランジンE合成酵素(PTGES)、シクロオキシゲナーゼ(PTGS2)の遺伝子発現が有意な減少を示した一方で、エンドセリン1(EDN1)遺伝子は有意な上昇を示した。これらのことから、美白作用にも効果がある可能性が示唆された。
【0040】
【0041】
(実施例4.化粧水の作製)
表3の組成で、以下のとおりに化粧水を作製した。
【0042】
【0043】
表3のA成分の原料を混合して溶解した。B成分の原料を混合し、加温して分散させ、C成分中に添加した。B成分が添加されたC成分と、A成分とを混合し、化粧水を作製した。
【0044】
この化粧水を顔と頭皮に適用したところ、刺激感はなく肌が潤った。
【0045】
(実施例5.長期連用試験)
実施例4の0.1重量%のAOHを含む化粧水(化粧水B)及びAOHを含まない以外は実施例4の化粧水と同じ組成のプラセボ化粧水(化粧水A)を用いて長期連用試験(ダブルブラインド試験)を行い、角質水分量及び経表皮水分蒸散量(TEWL)の評価を行った。22名の被験者(女性、平均年齢48.4±4.68歳)に対して、朝晩2回の洗顔後に、半顔に化粧水Aを、半顔に化粧水Bを塗布してもらうことを8週間続けた。試験開始時、4週間後及び8週間後に角質水分量及びTEWLを測定した。被験者の左右頬部の角層水分量及びTEWLは、それぞれ、SKICON-200EX(株式会社ヤヨイ)及びサイクロン水分蒸散計AS-CT1(日本アッシュ株式会社)を用いて測定した。試験開始時の角質水分量の左右差が150μS以上であった2名の被験者を除外し、20名を有効被験者として試験結果の解析を行った。
【0046】
使用開始前の角質水分量及びTEWLを100として、4週間後及び8週間後における相対値の平均値を表4に示す。
【0047】
【0048】
対応のあるt検定により統計解析した結果、AOHを含む化粧水の塗布群では、4週間後の角質水分量は、使用開始前の角質水分量と比較して有意に増加しており(p<0.05)、AOHを含む化粧水の塗布群では、8週間後のTEWLは、使用開始前のTEWLと比較して有意に減少していた(p<0.05)。これらの結果から、AOHに皮膚の保湿効果があることが確認された。
【0049】
(実施例6.安全性試験)
AOHに関して以下の安全性試験を行ったところ、いずれも毒性は認められなかった。
変異原性試験(Ames試験)(OECD TG471)
インビトロ皮膚感作性試験(DPRA法)(OECD TG442C)
インビトロ光毒性試験(OECD TG432)
ヒトパッチテスト