(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】摺動開閉装置の充填材の充填構造及び鋳片の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 41/46 20060101AFI20230904BHJP
B22D 11/10 20060101ALI20230904BHJP
【FI】
B22D41/46
B22D11/10 320E
(21)【出願番号】P 2022510103
(86)(22)【出願日】2021-10-11
(86)【国際出願番号】 JP2021037594
(87)【国際公開番号】W WO2022113543
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2022-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2020196248
(32)【優先日】2020-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391062333
【氏名又は名称】山川産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】細川 晃平
(72)【発明者】
【氏名】松本 卓也
(72)【発明者】
【氏名】杉原 吏彦
(72)【発明者】
【氏名】井戸 洋晴
(72)【発明者】
【氏名】横山 英樹
(72)【発明者】
【氏名】加茂 百紀
(72)【発明者】
【氏名】原田 昌明
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2010-0096831(KR,A)
【文献】特開2005-088020(JP,A)
【文献】特開2006-297426(JP,A)
【文献】特開昭57-139466(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 33/00 - 47/02
B22D 11/00 - 11/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鋼用の取鍋の摺動開閉装置に用いられる充填材の充填構造であって、
上部層と、中部層と、下部層とで構成される3層構造を有し、
前記上部層は、珪砂を主成分とする第1の充填材からなり、
前記中部層は、クロマイトサンドと珪砂とを主成分とする第2の充填材からなり、
前記下部層は、クロマイトサンドと珪砂とを主成分とする第3の充填材からなり、
前記第2の充填材は、前記第3の充填材よりも粒度が粗い粒子が少ない、摺動開閉装置の充填材の充填構造。
【請求項2】
前記第2の充填材を構成する粒子のうち最も粒子径が大きい粒子の粒子径は、前記第3の充填材を構成する粒子のうち最も粒子径が大きい粒子の粒子径よりも小さい、請求項1に記載の摺動開閉装置の充填材の充填構造。
【請求項3】
前記第2の充填材を構成する粒子の99質量%以上が通過可能な篩目のうち最も細かい篩目である第1の篩目が、前記第3の充填材を構成する粒子の99質量%以上が通過可能な篩目のうち最も細かい篩目である第2の篩目よりも小さい、請求項1に記載の摺動開閉装置の充填材の充填構造。
【請求項4】
前記第2の充填材は、粒子径が53μm以上600μm未満の粒子を99質量%以上含み、
前記第3の充填材は、粒子径が53μm以上850μm未満の粒子を99質量%以上含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の摺動開閉装置の充填材の充填構造。
【請求項5】
前記中部層に用いられる前記第2の充填材の質量と前記下部層に用いられる前記第3の充填材の質量との和に対する、前記中部層に用いられる前記第2の充填材の質量の比は、0.4以上0.6以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の摺動開閉装置の充填材の充填構造。
【請求項6】
摺動開閉装置を有する製鋼用の取鍋を用いた鋳片の製造方法であって、
請求項1~5のいずれか1項に記載の摺動開閉装置の充填剤の充填構造を有する前記取鍋に溶鋼を受鋼し、
前記取鍋に収容された前記溶鋼に二次精錬処理を施し、
連続鋳造設備にて前記摺動開閉装置を開いて、前記二次精錬処理を施された前記溶鋼を前記取鍋から前記連続鋳造設備に注入することで、鋳片を製造する、鋳片の製造方法。
【請求項7】
前記溶鋼を前記取鍋に受鋼してから前記摺動開閉装置を開くまでの時間を8時間以内とする、請求項6に記載の鋳片の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動開閉装置の充填材の充填構造及び鋳片の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶鋼を受鋼する取鍋の底部には、連続鋳造時に溶鋼をタンディッシュに注入する場合等に使用する摺動開閉装置(「スライディングノズル」または「ロータリーノズル」ともいう。)が設けられている。このような摺動開閉装置を備えた取鍋では、摺動開閉装置のノズル内で溶鋼が凝固することを防止するために、溶鋼を取鍋に受鋼する前に摺動開閉装置のノズル内に耐火性の充填材である詰砂が充填される。取鍋内に溶鋼が充填された後にノズルを開くと、ノズル内の詰砂が自重で落下するのに続いて溶鋼が流出し、注入開始となる。ノズル開の操作のみで注入開始できる場合を自然開孔と呼ぶ。
【0003】
従来、この種の詰砂としては、一般的に珪砂(SiO2:90質量%~99質量%)が用いられている。また、溶融温度の高いクロム鉱石を原料とし、乾燥、分級等を行って製造されたクロマイトサンドが詰砂として用いられる場合もある。しかしながら、珪砂は溶融温度が低く、クロマイトサンドは溶鋼保持中に焼結しやすいという欠点がある。このため、従来の詰砂では、溶鋼により焼結層が形成され、孔が開かなくなる不開孔が生じることがある。連続鋳造においてこのような不開孔が生じると、ロングノズルを取外し、下部から酸素を吹き込んで強制的に開孔しなければならず、溶鋼が空気に触れて品質に悪影響を与え、鋳片の格落ちやスクラップとなって多大な損害を生じる。したがって、このような不開孔がほとんど生じないこと、すなわち自然開孔率がほぼ100%であることが望まれている。
【0004】
特許文献1には、ノズル孔の下層にクロマイトサンドを、上層にシリカ砂を充填する技術が開示されている。また、特許文献2には、溶湯貯留容器(取鍋)の溶湯流出口の上層にシリカ砂と長石との混合物を、下層にシリカ砂とクロマイト砂との混合物などの難溶融性の砂をそれぞれ配する技術が開示されている。これらの技術は、溶鋼(溶湯)が注入された際に、上層に配した砂と溶鋼との界面部分に緻密な溶融物を形成させて、溶鋼の浸入を防止する。そして、下層に配した砂は難溶融性であるため、上層の砂が溶解して下層の砂が溶鋼に直接接触しても溶融浮上せず、高温長時間の処理であっても高い自然開孔率が得られると記載されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、特定の粒度分布及び配合割合を有する充填材を使用することにより、比重の異なる粒体をほぼ均一に混合すれば、満足できる開孔率を得ることができるとして、クロマイト砂が70重量%~90重量%、シリカ砂が10重量%~30重量%からなり、クロマイト砂が500μm~1000μmの粒度分布の砂を実質的に含むスライディングノズル充填材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭57-139466号公報
【文献】特開2005-88020号公報
【文献】国際公開第97/05978号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1~3の技術を用いた場合でも、依然として不開孔は発生しており、自然開孔率のさらなる向上が望まれている。特に、ノズル使用回数が多い取鍋の場合、自然開孔率が低くなることが問題となっていた。
そこで、本発明は、上記の課題に着目してなされたものであり、ノズル使用回数の多い取鍋を用いる場合において、高い自然開孔率が得られる、摺動開閉装置の充填材の充填構造及び鋳片の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、製鋼用の取鍋の摺動開閉装置に用いられる充填材の充填構造であって、上部層と、中部層と、下部層とで構成される3層構造を有し、上記上部層は、珪砂を主成分とする第1の充填材からなり、上記中部層は、クロマイトサンドと珪砂とを主成分とする第2の充填材からなり、上記下部層は、クロマイトサンドと珪砂とを主成分とする第3の充填材からなり、上記第2の充填材は、上記第3の充填材よりも粗い粒子が少ない、摺動開閉装置の充填材の充填構造が提供される。
本発明の一態様によれば、摺動開閉装置を有する製鋼用の取鍋を用いた鋳片の製造方法であって、上記の摺動開閉装置の充填剤の充填構造を有する上記取鍋に溶鋼を受鋼し、上記取鍋に収容された上記溶鋼に二次精錬処理を施し、連続鋳造設備にて上記摺動開閉装置を開いて、上記二次精錬処理を施された上記溶鋼を上記取鍋から上記連続鋳造設備に注入することで、鋳片を製造する、鋳片の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、ノズル使用回数の多い取鍋を用いる場合において、高い自然開孔率が得られる、摺動開閉装置の充填材の充填構造及び鋳片の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る充填材の充填構造を示す断面図である。
【
図2】ノズル使用回数が多い場合における、充填材の充填構造を示す断面図である。
【
図3】実施例における自然開孔率指数を比較例と比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下の詳細な説明では、本発明の完全な理解を提供するように、本発明の実施形態を例示して多くの特定の細部について説明する。しかしながら、かかる特定の細部の説明がなくても1つ以上の実施態様が実施できることは明らかである。また、図面は、簡潔にするために、周知の構造及び装置が略図で示されている。
【0012】
図1を参照して、製鋼用の取鍋1の摺動開閉装置2と充填材3の充填構造を説明する。
図1に示すように、摺動開閉装置2は、取鍋1の溶鋼流出口に設けられ、上ノズル21と、上ノズル21を下方から支持する固定プレート22と、固定プレート22に対して摺動可能に設けられた摺動プレート23と、摺動プレート23の下に取り付けられた下部ノズル24とを備えている。上ノズル21は、溶鋼流出口側方から取鍋の耐火物に嵌め込まれたノズル受けレンガ11に支持されている。摺動開閉装置2は、摺動プレート23が
図1の左右方向に摺動することで、閉位置と開位置との2つの状態をとる。摺動開閉装置2において閉位置とは、
図1のように摺動プレート23の開口部が、固定プレート22の開口部と重畳していない状態である。一方、摺動開閉装置2において開位置とは、
図1の状態から摺動プレート23が左方向に移動し、摺動プレート23の開口部の少なくとも一部と固定プレート22の開口部とが重畳する状態である。摺動開閉装置2が開位置となる状態では、取鍋1に溶鋼が収容されていると、この溶鋼が摺動開閉装置2を介して取鍋1から排出される状態となる。
【0013】
取鍋1は、溶鋼を受鋼する前の状態において、摺動開閉装置2に充填材3が充填される。この際、摺動開閉装置2を閉位置とした状態で、取鍋1の溶鋼流出口に充填材が投入されることで、摺動開閉装置2に充填材3が充填される。摺動開閉装置2へ充填された状態で、充填材3は、鉛直方向の上側から順に、上部層41と、中部層42と、下部層43とからなる3層の充填構造を有する。
【0014】
上部層41は、第1の充填材31からなる。第1の充填材31は、珪砂を主成分とする詰砂であり、95質量%以上の珪砂を有することが好ましい。また、第1の充填材31は、成分として、SiO2が95質量%以上含まれることが好ましい。また、上部層41として用いられる第1の充填材31は、取鍋1への投入後に、中部層42の上面を覆う量が必要であり、投入方法や溶鋼流出口の大きさ、溶鋼の保持時間等から設定される上部層41に必要な厚み等に応じて使用量が設定される。
【0015】
中部層42及び下部層43は、第2の充填材32及び第3の充填材33からそれぞれなる。第2の充填材32及び第3の充填材33は、クロマイトサンドに珪砂を混合した詰砂であり、クロマイトサンドと珪砂とを主成分とする。第2の充填材32及び第3の充填材33における、クロマイトサンドと珪砂との混合比は特に限定されないが、クロマイサンドに対する珪砂の質量比を15質量%以上25質量%以下とすることが好ましい。また、第2の充填材32及び第3の充填材33の成分として、Cr2O3が32質量%以上38質量%以下、SiO2が14質量%以上28質量%以下含まれることが好ましい。
【0016】
また、第2の充填材32の粒度は、第3の充填材33の粒度よりも粗い粒子が少ない。ここで、第2の充填材32の実質的な粒度は、53μm以上600μm未満であることが好ましく、第3の充填材33の実質的な粒度は、53μm以上850μm未満であることが好ましい。なお、実質的な粒度とは、粒子径が上記の範囲となる充填材の粒子の比率が99質量%以上であることをいう。さらに、中部層42の第2の充填材32の質量と下部層43の第3の充填材33の質量との和に対する、中部層42の第2の充填材32の質量の比は、0.4以上0.6以下であることが好ましい。
【0017】
さらに、中部層42及び下部層43は、溶鋼流出口の上下方向に対して、摺動プレート23の上面からノズル受けレンガ11の上端まで形成されることが好ましい。そして、上部層41は、ノズル受けレンガ11の上端から、溶鋼流出口を中心に盛り上がるように形成される。なお、中部層42の上面の上部層41の厚みは、10mm以上とすることが好ましい。
充填材3のこのような構造は、摺動開閉装置2が閉位置の状態で、溶鋼流出口に、第3の充填材33、第2の充填材32及び第1の充填材31が順に投入され、充填されることで形成される。
【0018】
上述のように充填材3が充填された取鍋1は、一例として、以下の方法で運用され、これにより鋳片が製造される。まず、充填材3を充填した取鍋1に溶鋼を受鋼し、取鍋1に収容された溶鋼に対して必要な二次精錬処理が施される。溶鋼は、転炉や電気炉等で製造され、各種の精錬炉から取鍋1へと受鋼される。この際、溶鋼にアルミニウムなどの脱酸剤を添加することで、溶鋼中の酸素を低減してもよい(脱酸、弱脱酸)。二次精錬処理は、鋼種や操業条件等に応じて適宜選択される二次精錬設備にて、溶鋼の成分や温度、品質等の調整を目的に行われる。例えば、二次精錬処理では、RH真空脱ガス装置にて真空脱ガス処理が行われてもよい。次いで、連続鋳造機にて溶鋼を連続鋳造する。連続鋳造では、取鍋1からタンディッシュに注入するが、その際、摺動開閉装置2を作動させて溶鋼を取鍋1から排出させる開孔処理が行われる。開口処理では、摺動プレート23を摺動させ、閉位置から開位置とすること(摺動開閉装置2を開くこと)で、摺動プレート23及び下部ノズル24の孔の位置と、上ノズル21及び固定プレート22の孔の位置とが一致し、溶鋼の重さによって充填材3が落下する。そして、充填材3の落下とともに、溶鋼が落下・流出する。このように、摺動開閉装置2を開位置とすることで自然に溶鋼が流出する現象を、自然開孔という。一方、摺動開閉装置2を開位置としても溶鋼が流出しない現象を、不開孔という。万一、不開孔が生じた場合には、ノズル内を酸素洗浄して開孔させる処理が行われる。
【0019】
取鍋1に溶鋼を受鋼してから、タンディッシュに溶鋼を注入するまでの期間、溶鋼は取鍋1内に保持されることになる。その際、充填材3の上部層41の表面は、溶鋼と接触した状態となる。本実施形態では、上部層41は比較的融点の低い珪砂を主成分とする第1の充填材31で構成されるので、上部層41の表面の溶鋼と接触している部位はわずかに溶融し、その直下には固体の充填材3の充填層に溶融層がしみ込んだ緻密な層が形成される。この緻密な層が形成されることで、充填材3内の下方への溶鋼の浸入が抑えられる。また、取鍋1内に溶鋼を保持する期間中、充填材3の上部層は徐々に溶融し、上部層の厚みは徐々に減少する。その結果、溶鋼と上部層41の表面との界面位置が下降していく。そして、上部層41がすべて溶融すると、中部層42が溶鋼に直接接触するようになる。上部層41が適度に溶融することで、中部層42や下部層43が溶鋼に暴露されるまでの時間を遅らせるとともに、中部層42や下部層43に配した充填材3の焼結の進行も抑えられる。なお、溶鋼を取鍋1に受鋼してから摺動開閉装置2を開くまでの時間が長くなると、充填材3の焼結が進行するため、この時間を短くすることで自然開孔率をより高めることができる。溶鋼を取鍋1に受鋼してから摺動開閉装置2を開くまでの時間が8時間を超えると不開孔が生じる可能性があるため、この時間を8時間以内とすることが好ましい。
【0020】
本実施形態では、中部層42及び下部層43には、クロマイトサンドに珪砂を混合して配した充填材3が用いられる。クロマイトサンドと珪砂との混合物を使用することで、溶融温度は高いものの、単体で使用した場合に焼結しやすいというクロマイトサンドの欠点、及び溶融温度が低いという珪砂の欠点の両方を補うことができる。すなわち、上部層41がすべて溶融して中部層42が溶鋼に直接接触するようになっても、充填材3が溶融しにくくなり、かつ接触時間が延びた場合でも焼結厚と焼結強度とが小さくなる。その結果、自然開孔率を高めることができる。
【0021】
さて、本実施形態では、中部層42に充填する第2の充填材32について、下部層43に充填する第3の充填材33よりも粗い粒子が少なくなるようにする。発明者は、まず上記のように充填材にクロマイトサンドと珪砂との混合物を配する工夫をしたが、それだけでは自然開孔率が100%に至らず、不開孔が発生した。不開孔が発生した操業の条件を調査したところ、不開孔はノズル使用回数の多い取鍋の場合に多いことがわかった。そして、本発明者は、ノズル使用回数が詰砂に及ぼす影響を鋭意検討し、本発明をするに至ったものである。なお、ノズル使用回数とは、取鍋1にノズル受けレンガ11を設けた後、溶鋼を受鋼してから鋳造時に排出するまでの製鋼処理を1回として計数した回数であり、ノズル受けレンガ11を製鋼処理で使用した回数である。
【0022】
図2には、ノズル使用回数が多い取鍋1の断面模式図を示す。ノズル使用回数が多い取鍋1では、
図1のようにノズル受けレンガ11を設けた直後の状態と比較して、ノズル受けレンガ11が溶損し、その高さが上ノズル21の上端に近いレベルにまで減少していることがわかる。このような状態になると、中部層42に相当する位置に充填される第2の充填材32は、上ノズル21の上面を覆うように広がって充填されるようになる。このため、第2の充填材32と溶鋼との接触面積が増加し、充填材3の温度が上昇して焼結を助長するように作用する可能性がある。さらに、不開孔が発生した取鍋から焼結した充填材3を採取し、SEM-EDS(走査型電子顕微鏡によるエネルギー分散型X線分光分析)にて分析した。その結果、地金の浸透(つまり、溶鋼浸透)は確認されなかった一方で、充填材3の構成物質である珪砂やクロマイトサンドの粒子の間隙にCaOやSiO
2、FeO、Al
2O
3などのスラグ成分が確認された。これらのことより、充填材3の焼結は、ノズル受けレンガ11等に付着・残留したスラグが、取鍋1中に溶鋼を保持する期間中に溶解し、比較的温度が高くなった充填材3内に浸透することで発生すると推定された。
【0023】
ノズル受けレンガ11等に、多少のスラグが付着・残留することは操業上避けられない。このため、不開孔を防止する観点からは、付着・残留したスラグが溶解しても、詰砂内に浸透しないようにできればよい。具体的な対策としては、スラグが浸透しにくい充填材3の組成や配合の検討が挙げられるが、スラグや充填材3の成分組成によっては、低融点層を形成したり、逆に焼結を促進させたりする場合があるので、実施にはリスクがある。一方、充填材3内に浸透する溶融スラグは、溶鋼に比べて低融点で、高粘性である場合が多い。従って、詰砂内で溶融スラグを凝固させることによってその浸透を停止させるよりも、流動抵抗を大きくしてスラグの浸透を抑える対策が有効と考えられる。
【0024】
すなわち、本実施形態のように、中部層42に充填する第2の充填材32について、第3の充填材33よりも粗い粒子が少なくなるようにし、充填材3の粒子間隙を小さくすることで、充填材3内におけるスラグの流動抵抗を大きくして浸透しないようにすることができる。ただし、クロマイトサンドを含む充填材3の粒度を細かくすると、スラグの浸透の有無にかかわらずクロマイトサンドの焼結自体は起こりやすくなる。このため、本実施形態では、スラグと接触する可能性が高い部分である中部層42の第2の充填材32のみ粒度を細かくし、下部層43の第3の充填材33の粒度は粗くする。これにより、仮に中部層42でクロマイトサンドの焼結が起こったとしても、焼結する範囲が中部層42内に限られるため焼結層厚が厚くならず、不開孔までには至らない。
【0025】
また、上述のように、第2の充填材32は、実質的な粒度を53μm以上600μm未満とすることが好ましく、第3の充填材33は、実質的な粒度を53μm以上850μm未満とすることが好ましい。第2の充填材32及び第3の充填材33を、それぞれこのような粒度分布とすることにより、均一充填性を高めることができ、過剰な焼結層の生成が抑制され、熱膨張による棚吊りを防止でき、スラグや地鉄の浸透を低減することができる。このため、自然開孔率を向上させることができる。中部層42及び下部層43ともに、53μm未満の粒子が含まれると、スラグの浸透の有無にかかわらずクロマイトサンドが焼結しやすくなるので、粒径は53μm以上とすることが望ましい。また、下部層43の第3の充填材33に粒径が850μm以上の粒子が含まれると、クロマイトサンドと珪砂とが均一に混合されにくくなるため、部分的に溶鋼が浸透しやすい箇所が形成される可能性がある。万一その箇所に溶鋼が浸透すると、溶鋼は充填材3の内部で凝固して強固な焼結層が生成し、不開孔の原因になる場合がある。さらに、中部層42においては、上部層41の溶融後、溶鋼に直接接触するようになると、ノズル受けレンガ11等に付着・残留したスラグが溶融して詰砂内に浸透する。中部層42の第2の充填材32の粒径を、下部層43の第3の充填材33よりも小さい600μm未満とすることで、より効果的にスラグの浸透を防ぎ、かつスラグが浸透しない部位の焼結も防止できる。
【0026】
ここで、本実施形態における粒度は、JISの鋳物砂の試験方法(Z2601)に準じて測定した値をいう。この方法を概略説明すると、第3の充填材33用のクロマイトサンドの場合、例えば、ふるいの呼び寸法が53μmのふるいの上に850μmのふるいを重ね、850μmのふるいの上に原料クロマイトサンドを載せ、ロータップ型ふるい機等のふるい分け機械を使用し、2つのふるい間に残ったクロマイトサンドを、粒度分布が53μm~850μmのクロマイトサンドとする。そして、珪砂についても同様にふるいい分けして粒度分布が53μm~850μmの珪砂とし、得られたクロマイトサンドと珪砂を所定の比率で混合して第3の充填材33を得る。第2の充填材32は、使用するふるいの呼び寸法を、53μmと600μmに変えること以外は、第3の充填材33と同様にして得られる。
【0027】
さらに、上述のように、中部層42の第2の充填材32の質量と下部層43の第3の充填材33の質量との和に対する、中部層42の第2の充填材32の質量の比を、0.4以上0.6以下とすることが好ましい。上述の第2の充填材32の比が0.4よりも小さい場合には、中部層42の厚みが薄くなり、スラグの浸透が下部層43まで進行してしまう場合がある。また、上述の第2の充填材32の比が0.6よりも大きい場合には、中部層42の厚みが厚くなり、スラグの浸透に依らない焼結層が形成した場合、中部層42の層厚が厚いことに伴って焼結層も厚くなり、不開孔の原因となる場合がある。
【0028】
<変形例>
以上で、特定の実施形態を参照して本発明を説明したが、これら説明によって発明を限定することを意図するものではない。本発明の説明を参照することにより、当業者には、開示された実施形態とともに種々の変形例を含む本発明の別の実施形態も明らかである。従って、特許請求の範囲に記載された発明の実施形態には、本明細書に記載したこれらの変形例を単独または組み合わせて含む実施形態も網羅すると解すべきである。
【0029】
例えば、上記実施形態では、摺動開閉装置2が、固定プレート22と摺動プレート23とを有する2層式の開閉機構であるとしたが、本発明は係る例に限定されない。例えば、摺動開閉装置2は、上記の開閉機構の構成に加えて、摺動プレート23の下面に設けられ、固定プレート22に対して固定される下部プレートを有する3層式の開閉機構であってもよい。この場合、下部ノズル24は、下部プレートに取り付けられる。
【0030】
さらに、上記実施形態では、第2の充填材32の実質的な粒度が、53μm以上600μm未満であることが好ましく、第3の充填材33の実質的な粒度が、53μm以上850μm未満であることが好ましいとしたが本発明はかかる例に限定されない。例えば、第2の充填材32を構成する粒子の99質量%以上が通過可能な篩目のうち最も細かい篩目である第1の篩目が、第3の充填材33を構成する粒子の99質量%以上が通過可能な篩目のうち最も細かい篩目である第2の篩目よりも小さいとしてもよい。この場合、第2の充填材32及び第3の充填材33は、粒度分布が同じ粒子を、篩目の異なる篩でそれぞれ振り分けられたものとすることが好ましい。例えば、同じ原料の砂を、呼び寸法0.6mmの篩目を通らなかったものを除いて、呼び寸法0.6mmの篩下のものを第2の充填材32とし、呼び寸法0.85mmの篩目を通らなかったものを除いて、呼び寸法0.85mmの篩下のものを第3の充填材33としてもよい。また、第2の充填材32を構成する粒子のうち最も粒子径が大きい粒子の粒子径は、第3の充填材33を構成する粒子のうち最も粒子径が大きい粒子の粒子径よりも小さいとしてもよい。
【0031】
<実施形態の効果>
(1)本発明の一態様に係る摺動開閉装置2の充填材3の充填構造は、製鋼用の取鍋1の摺動開閉装置2に用いられる充填材3の充填構造であって、上部層41と、中部層42と、下部層43とで構成される3層構造を有し、上部層41は、珪砂を主成分とする第1の充填材31からなり、中部層42は、クロマイトサンドと珪砂とを主成分とする第2の充填材32からなり、下部層43は、クロマイトサンドと珪砂とを主成分とする第3の充填材33からなり、第2の充填材32は、第3の充填材33よりも粒度が粗い粒子が少ない。
【0032】
上記(1)の構成によれば、第2の充填材32が第3の充填材33よりも粒度が粗い粒子が少ないため、中部層42においては、溶融スラグの充填材3への浸透を抑制することができ、下部層43においては、焼結する範囲を小さくすることができる。このため、ノズル使用回数の多い取鍋1であっても、充填材3が焼結しにくく、かつ溶鋼やスラグが浸透しにくいものとなる。また、上記(1)の構成によれば、第1の充填材31について珪砂を主成分とすることで、上部層41において、上述のように珪砂が溶融することで緻密な層が形成されて、充填材3の下方への溶鋼の侵入を抑えることができる。これにより、取鍋1で溶鋼を長時間保持することができる。以上のことから、上記(1)の構成によれば、極めて高い自然開孔率が得られる。
【0033】
(2)上記(1)の構成において、第2の充填材を構成する粒子のうち最も粒子径が大きい粒子の粒子径は、第3の充填材を構成する粒子のうち最も粒子径が大きい粒子の粒子径よりも小さい。
(3)上記(1)の構成において、第2の充填材を構成する粒子の99質量%以上が通過可能な篩目のうち最も細かい篩目である第1の篩目が、第3の充填材を構成する粒子の99質量%以上が通過可能な篩目のうち最も細かい篩目である第2の篩目よりも小さい。
【0034】
(4)上記(1)~(3)のいずれかの構成において、第2の充填材32は、粒子径が53μm以上600μm未満の粒子を99質量%以上含み、第3の充填材33は、粒子径が53μm以上850μm未満の粒子を99質量%以上含む。
上記(4)の構成によれば、粒子径を53μm以上とすることで、中部層42及び下部層43がより焼結しにくくなる。また、第2の充填材32の粒子径を600μm未満とすることで、溶融スラグの浸透がより抑制される。さらに、第3の充填材33の粒子径を850μm未満とすることで、クロマイトサンドと珪砂とをより均一に混合させることができる。
【0035】
(5)上記(1)~(4)のいずれかの構成において、中部層42に用いられる第2の充填材32の質量と下部層43に用いられる第3の充填材33の質量との和に対する、中部層42に用いられる第2の充填材32の質量の比は、0.4以上0.6以下である。
上記(5)の構成によれば、溶融スラグの浸透の抑制と、焼結層の厚みの抑制とを両立させることができ、自然開孔率をより向上させることができる。
【0036】
(6)摺動開閉装置2を有する製鋼用の取鍋1を用いた鋳片の製造方法であって、上記(1)~(5)のいずれかの構成に記載の摺動開閉装置2の充填剤3の充填構造を有する取鍋1に溶鋼を受鋼し、取鍋1に収容された溶鋼に二次精錬処理を施し、連続鋳造設備にて摺動開閉装置2を開いて、二次精錬処理を施された溶鋼を取鍋1から連続鋳造設備に注入することで、鋳片を製造する。
上記(6)の構成によれば、上記(1)~(5)の構成と同様な効果が得られる。
(7)上記(6)の構成において、溶鋼を取鍋1に受鋼してから摺動開閉装置2を開くまでの時間を8時間以内とする。
上記(7)の構成によれば、自然開孔率をより高めることができる。
【実施例】
【0037】
本発明者らが行った実施例について説明する。実施例では、200tの取鍋1の底に設けられた摺動開閉装置2に充填材3を充填し、2か月間操業を行ない、自然開孔率を比較した。
実施例では、上記実施形態と同様に、充填材3の構造を、上部層41と、中部層42と、下部層43とからなる3層構造とした。また、実施例では、上部層41には、第1の充填材31として、10kgの珪砂を用いた。中部層42には、第2の充填材32として、実質的な粒度が53μm以上600μm未満のクロマイトサンドと珪砂とを、質量比で75:25(クロマイトサンド:珪砂)で混合させた詰砂を10kg用いた。下部層43には、第3の充填材33として、実質的な粒度が53μm以上850μm未満のクロマイトサンドと珪砂とを、質量比で75:25(クロマイトサンド:珪砂)で混合させた詰砂を10kg用いた。
【0038】
また、実施例及び比較例の第2の充填材32及び第3の充填材33として用いた詰砂の粒度分布の測定結果を表1に示す。表1において、試料Aで示す詰砂は、実施例における第2の充填材32として用いたものであり、試料Bで示す詰砂は、実施例における第3の充填材33並びに比較例における第2の充填材32及び第3の充填材33として用いたものである。なお、表1において、ふるい呼び寸法に対応した質量比は、JISの鋳物砂の試験方法(Z2601)に準じて測定される粒度分布を示すものである。また、表1において、ふるい呼び寸法が「pan」で示される質量比は、最終的に0.053mmのふるいを通過する、粒径が0.053mm未満の粒子を示すものである。
【0039】
【0040】
比較例では、上部層41には、第1の充填材31として、10kgの珪砂を用い、中部層42及び下部層43には、第2の充填材32及び第3の充填材33として、実質的な粒度が53μm以上850μm未満のクロマイトサンドと珪砂とを、質量比で75:25(クロマイトサンド:珪砂)で混合させた詰砂を各10kg用いた。つまり、比較例では、第2の充填材32と第3の充填材33とは同じものが用いられ、充填材3の充填構造を実質的に2層構造とした。
実施例及び比較例の結果を
図3に示す。
図3において、縦軸は、実施例の自然開孔率を100.0として指数化したものである。
図3に示すように、充填材3の充填構造を上記実施形態と同様にすることで、自然開孔率が向上することが確認できた。
【符号の説明】
【0041】
1 取鍋
11 ノズル受けレンガ
2 摺動開閉装置
21 上ノズル
22 固定プレート
23 摺動プレート
24 下部ノズル
3 充填材
31 第1の充填材
32 第2の充填材
33 第3の充填材
41 上部層
42 中部層
43 下部層