(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】焼結成形体用組成物、グリーン成形体及び焼結成形体
(51)【国際特許分類】
B22F 3/02 20060101AFI20230904BHJP
B22F 1/103 20220101ALI20230904BHJP
C08K 3/00 20180101ALI20230904BHJP
C08L 23/00 20060101ALI20230904BHJP
C08L 59/00 20060101ALI20230904BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20230904BHJP
【FI】
B22F3/02 M
B22F1/103
C08K3/00
C08L23/00
C08L59/00
C08L63/00 Z
(21)【出願番号】P 2023535271
(86)(22)【出願日】2023-02-15
(86)【国際出願番号】 JP2023005333
【審査請求日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2022022462
(32)【優先日】2022-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】719007350
【氏名又は名称】合同会社モルージ
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】深井 基裕
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 久遠
(72)【発明者】
【氏名】寒川 喜光
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特表平08-509196(JP,A)
【文献】特開2006-265659(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 3/02
C04B 35/634
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結可能な無機粉末と、有機バインダーと、を含む焼結成形体用組成物であって、
前記有機バインダーは、少なくとも、ポリアセタール樹脂、ポリオレフィン樹脂及びエポキシ樹脂を含み、
前記ポリアセタール樹脂の、全ポリオキシメチレンユニットに対する総末端量が、0.1mol%以上0.75mol%以下であることを特徴とする、焼結成形体用組成物。
【請求項2】
前記ポリアセタール樹脂の、全ポリオキシメチレンユニットに対するヘミホルマール末端量が、0.05mol%以上0.20mol%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の焼結成形体用組成物。
【請求項3】
前記ポリアセタール樹脂の、全ポリオキシメチレンユニットに対する総末端量が、0.31mol%以上0.50mol%以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の焼結成形体用組成物。
【請求項4】
前記ポリアセタール樹脂の、全ポリオキシメチレンユニットに対するヘミホルマール末端量が、0.14mol%以上0.20mol%以下であることを特徴とする、請求項2に記載の焼結成形体用組成物。
【請求項5】
前記ポリアセタール樹脂のメルトフローインデックスが、80~200g/10分であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の焼結成形体用組成物。
【請求項6】
前記有機バインダーが、少なくとも一種のホルムキャッチャー剤を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の焼結成形体用組成物。
【請求項7】
前記エポキシ樹脂が、オレフィンと、グリシジル基を有する不飽和化合物との共重合体であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の焼結成形体用組成物。
【請求項8】
前記エポキシ樹脂中の前記グリシジル基を有する不飽和化合物が、全エポキシ樹脂重量に対して1~25重量%である事を特徴とする、請求項
7に記載の焼結成形体用組成物。
【請求項9】
前記エポキシ樹脂のメルトフローインデックスが、3~400g/10分であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の焼結成形体用組成物。
【請求項10】
相溶化剤をさらに含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の焼結成形体用組成物。
【請求項11】
前記焼結可能な無機粉末と前記有機バインダーの総体積のうち、前記有機バインダーの比率が40体積%未満である事を特徴とする、請求項1又は2に記載の焼結成形体用組成物。
【請求項12】
請求項1又は2に記載の焼結成形体用組成物を成形してなることを特徴とする、グリーン成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結成形体用組成物、グリーン成形体及び焼結成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
金属、セラミックス、サーメット等の焼結可能な無機粉体を材料として用いた燒結体のうち、精密な焼結体や複雑形状の燒結体については、燒結可能な無機粉体と、バインダーと、を含有する焼結成形体製造用組成物を用いた技術が知られている。この焼結成形体製造用組成物を、加熱、混練した焼結成形体用原料を射出成形することによって、グリーン成形体を成形し、その後、該グリーン成形体に脱脂工程を行い、続いてこれを焼結する方法によって製造される。
【0003】
上記のような焼結成形体製造用組成物を用いた焼結体の製造については、ひび割れ、膨れ、変形等の、欠陥のない品質の良好な焼結体を得るために最も重要な工程は、脱脂工程であるといえる。この脱脂工程は、焼結成形体製造用組成物の成形体であるグリーン成形体中からバインダーを除去する工程であり、グリーン成形体を加熱することによってバインダーを加熱分解してガス化する方法や、グリーン成形体を溶媒処理することによってグリーン成形体中の可溶性バインダー成分を溶出・除去した後、残りのバインダーを加熱分解してガス化する方法等、が利用されている。
ただし、上述のようなグリーン成形体を加熱して脱脂する加熱脱脂方法においては、グリーン成形体中に含まれるバインダーの熱分解及びガス化が短時間で集中して起こると、脱脂工程中の成形体にひび割れや膨れが発生するおそれがあることから、長時間の加熱によって脱脂を行なわなければならなかった。
【0004】
そのため、上述した脱脂工程中の成形体のひび割れや膨れを抑えるため、解重合型ポリマーをバインダーとして用いる技術が知られている。例えば、解重合型ポリマーであるポリアセタール樹脂を他樹脂と共にバインダーとして使用することにより、ポリアセタール樹脂が具備する剛性に基づくグリーン成形体の形状保持性を高め、加熱による脱脂工程での成形体の形状保持性を向上させることができる。
このような技術としては、例えば特許文献1及び2に、バインダーとしてポリアセタール樹脂とエポキシ樹脂を併用することで、バインダー樹脂成分の相溶性を高め、均一化を促すことで、グリーン成形体や脱脂体、焼結体の品位を高め、脱脂速度の向上を図った技術が開示されている。させる研究も行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2021-109994号公報
【文献】特開2021-080350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術では、有機バインダーとしてポリアセタール樹脂及びエポキシ樹脂を含む樹脂成分を用いることにより、脱脂・焼成後においても、変形並びに膨れを抑制できると記載されているものの、グリーン成形体製造時の金型汚染(モールドデポジット)を抑制する点や、寸法精度を高める具体的な方法は開示されておらず、これらの点についてさらなる改善が望まれていた。
【0007】
また、特許文献2の技術では、有機バインダーを構成する成分として融点が100℃以下である有機化合物とビカット軟化点が130℃以下である熱可塑性樹脂を含むことにより、加熱脱脂及び焼結時間を短縮し、欠陥のない焼結体を得られることが記載されているものの、この有機バインダーの脱脂工程は、100℃以上600℃以下の過熱水蒸気中で行うことが不可欠となっており、不活性ガス雰囲気下で行われる通常の脱脂工程に比べて、特殊な設備を必要とし、製造工程が煩雑となるという問題があった。
【0008】
そのため、本発明は、特殊な設備や工程を必要とすることなく有機バインダーを短時間で脱脂でき、成形時の金型汚染を起こさず、成形時及び焼結後のひび割れや膨れを抑制できる、焼結成形体用組成物、グリーン成形体及び焼結成形体を提供とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、焼結可能な無機粉末と、有機バインダーと、を含む焼結成形体用組成物について、上述した課題を解決するべく鋭意検討を重ねた結果、有機バインダーとして、ポリアセタール樹脂、ポリオレフィン樹脂及びエポキシ樹脂を用いるとともに、ポリアセタール樹脂の、全ポリオキシメチレンユニットに対する総末端量について適正化を図ることで、有機バインダーを構成する成分の相溶性が高まり、成形時に樹脂成分が金型に付着しにくくなるため、特殊な設備や工程を必要とすることなく有機バインダーを短時間で脱脂できるとともに、金型汚染や、成形体のひび割れや膨れについても抑制が可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、以上の知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
〔1〕焼結可能な無機粉末と、有機バインダーと、を含む焼結成形体用組成物であって、
前記有機バインダーは、少なくとも、ポリアセタール樹脂、ポリオレフィン樹脂及びエポキシ樹脂を含み、
前記ポリアセタール樹脂の、全ポリオキシメチレンユニットに対する総末端量が、 0.1mol%以上0.75mol%以下であることを特徴とする、焼結成形体用組成物。
〔2〕前記ポリアセタール樹脂の、全ポリオキシメチレンユニットに対するヘミホルマール末端量が、0.05mol%以上0.2mol%以下であることを特徴とする、前記〔1〕に記載の焼結成形体用組成物。
〔3〕前記ポリアセタール樹脂の、全ポリオキシメチレンユニットに対する総末端量が、 0.31mol%以上0.5mol%以下であることを特徴とする、前記〔1〕又は〔2〕に記載の焼結成形体用組成物。
〔4〕前記ポリアセタール樹脂の、全ポリオキシメチレンユニットに対するヘミホルマール末端量が、0.14mol%以上0.20mol%以下であることを特徴とする、前記〔2〕に記載の焼結成形体用組成物。
〔5〕前記ポリアセタール樹脂のメルトフローインデックスが、80~200g/10分であることを特徴とする、前記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の焼結成形体用組成物。
〔6〕前記有機バインダーが、少なくとも一種のホルムキャッチャー剤を含むことを特徴とする、前記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の焼結成形体用組成物。
〔7〕前記エポキシ樹脂が、オレフィンと、グリシジル基を有する不飽和化合物との共重合体であることを特徴とする、前記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の焼結成形体用組成物。
〔8〕前記エポキシ樹脂中の前記グリシジル基を有する不飽和化合物が、全エポキシ樹脂重量に対して1~25重量%である事を特徴とする、前記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の焼結成形体用組成物。
〔9〕前記エポキシ樹脂のメルトフローインデックスが、3~400g/10分であることを特徴とする、前記〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の焼結成形体用組成物。
〔10〕前記有機バインダーに相溶化剤を含むことを特徴とする、前記〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の焼結成形体用組成物。
〔11〕前記焼結可能な無機粉末と前記有機バインダーの総体積のうち、前記有機バインダーの比率が40体積%未満である事を特徴とする、前記〔1〕~〔10〕のいずれかに記載の焼結成形体用組成物。
〔12〕前記〔1〕~〔12〕のいずれかに記載の焼結成形体用組成物を成形してなることを特徴とする、グリーン成形体。
〔13〕前記〔12〕に記載のグリーン成形体を焼結してなることを特徴とする、焼結成形体。
〔14〕焼結可能な無機粉末と、有機バインダーと、を含む焼結成形体用組成物であって、
前記有機バインダーは、少なくとも、ポリアセタール樹脂、ポリオレフィン樹脂及びエポキシ樹脂を含み、
混練後の前記焼結成形体用組成物に含まれるポリアセタール樹脂の、全ポリオキシメチレンユニットに対するヘミホルマール末端量が、0.14mol%以上0.20mol%以下であることを特徴とする、焼結成形体用組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、特殊な設備や工程を必要とすることなく有機バインダーを短時間で脱脂でき、成形時の金型汚染を起こさず、成形時及び焼結後のひび割れや膨れを抑制できる、焼結成形体用組成物、並びに、該焼結成形体用組成物を用いたグリーン成形体及び焼結成形体、を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその実施の形態のみに限定されるものではない。すなわち、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0013】
<焼結成形体用組成物>
本実施形態の焼結成形体用組成物は、焼結可能な無機粉末と、有機バインダーと、を含む。また、本実施形態の焼結成形体用組成物は、前記無機粉末及び前記有機バインダーに加えて、後述するようにその他の添加物を含むことができる。
【0014】
(焼結可能な無機粉末)
本実施形態の焼結成形体用組成物は、焼結可能な無機粉末を含む。
なお、焼結可能な無機粉末は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いることもできる。
【0015】
本実施形態において、前記焼結可能な無機粉末は、公知の適当な焼結可能な無機粉末の全ての中から選択することができる。例えば、金属粉末、合金粉末、金属カルボニル粉末、及びこれらの混合物から選択することができる。これらの中でも、機能性を付与するために、金属粉末やセラミックス粉末を用いることが特に好ましい。
【0016】
前記金属粉末としては、例えば、アルミニウム、マグネシウム、バリウム、カルシウム、コバルト、亜鉛、銅、ニッケル、鉄、ケイ素、チタン、タングステン、並びに、これらをベースとする金属化合物及び金属合金の粉末が挙げられる。ここで、前記金属粉末は、既に完成された合金のみならず、個々の合金成分の混合物を使用することもできる。
【0017】
前記セラミックス粉末としては、例えば、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、ジルコニア等の酸化物;ハイドロキシアパタイト等の水酸化物;炭化ケイ素等の炭化物;窒化ケイ素や窒化ホウ素等の窒化物;蛍石等のハロゲン化物;ステアライト等のケイ酸塩;チタン酸バリウムやチタン酸ジルコン酸鉛等のチタン酸塩;炭酸塩;リン酸塩;フェライト;高温超伝導物質;等が挙げられる。
【0018】
なお、前記焼結可能な無機粉末は、1種単独で用いてもよく、種々の金属や金属合金、又はセラミックス等、幾つかの無機物質を組み合わせて用いることも可能である。
特に好ましい金属や合金金属としては、チタン合金やステンレス鋼が挙げられ、セラミックとしては、Al2O3、ZrO2が挙げられる。例えば、チタン合金としてチタン-6アルミニウム-4バナジウム合金、ステンレス鋼としてSUS316Lを好適に用いることができる。
【0019】
(有機バインダー)
本実施形態の焼結成形体用組成物は、焼結可能な無機粉末に加えて、有機バインダーを含む。
そして、前記有機バインダーは、少なくとも、ポリアセタール樹脂、ポリオレフィン樹脂及びエポキシ樹脂を含み、前記ポリアセタール樹脂の、全ポリオキシメチレンユニットに対する総末端量が、0.1mol%以上0.75mol%以下であることを要する。
前記エポキシ樹脂は、前記ポリアセタール樹脂と前記ポリオレフィン樹脂の相溶性を高めることができる。加えて、ポリアセタール樹脂の全ポリオキシメチレンユニットに対する総末端量が特定の範囲(0.31mol%以上0.5mol%以下)であることにより、有機バインダー中の樹脂成分同士の相溶性を一層向上できる。
【0020】
本実施形態の焼結成形体用組成物における前記有機バインダーの体積割合としては、特に限定はされないが、前記焼結成形体用組成物100体積%に対して、25~60体積%であることが好ましく、30~55体積%であることがより好ましく、35~50体積%であることが特に好ましい。
前記有機バインダーが、上述した範囲内で含有されることで、射出成形に適した溶融粘度を有した焼結成形体用組成物を得ることができ、且つ、収縮率を抑え、寸法精度の良い焼結品を得ることができる。
【0021】
・ポリアセタール樹脂
前記ポリアセタール樹脂としては、ポリアセタールホモポリマー、ポリアセタールコポリマー、又は、その混合物が挙げられる。中でも、前記ポリアセタール樹脂として、熱安定性の観点から、ポリアセタールコポリマーを用いることが好ましい。
なお、前記ポリアセタール樹脂は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
また、前記ポリアセタールは通常提供されるペレット以外にも、粉末で使用しても良い。粉末の粒径はD50=500μm以下のものが好ましく、D50=300μ以下のものが更に好ましい。
【0022】
前記ポリアセタールホモポリマーとしては、オキシメチレン単位を主鎖に有するポリマーが挙げられ、重合体の両末端をエステル基又はエーテル基により封鎖することができる。前記ポリアセタールホモポリマーは、ホルムアルデヒド及び公知の分子量調節剤を原料として得ることができ、それら原料から、公知のオニウム塩系重合触媒を用いて炭化水素等を溶媒として公知のスラリー法、例えば特公昭47-6420号公報や特公昭47-10059号公報に記載の重合方法で得ることができる。
なお、前記ポリアセタールホモポリマーは、両末端を除く主鎖の99.8mol%以上がオキシメチレン単位で構成されることが好ましく、両末端を除く主鎖がオキシメチレン単位のみで構成されるポリアセタールホモポリマーであることがより好ましい。
【0023】
前記ポリアセタールコポリマーとしては、オキシメチレンユニットとオキシエチレンユニットとを主鎖に有するポリマーが挙げられ、例えばトリオキサンと、環状エーテル及び/又は環状ホルマールとを重合触媒の存在下で共重合して得ることができる。
前記トリオキサンとは、ホルムアルデヒドの環状3量体であり、一般的には酸性触媒の存在下でホルマリン水溶液を反応させることにより得られる。
前記環状エーテル及び/又は環状ホルマールは、前記トリオキサンと共重合可能な成分であり、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、エピクルロルヒドリン、エピブロモヒドリン、スチレンオキサイド、オキサタン、1,3-ジオキソラン、エチレングリコールホルマール、プロピレングリコールホルマール、ジエチレングリコールホルマール、トリエチレングリコールホルマール、1,4-ブタンジオールホルマール、1,5-ペンタンジオールホルマール、1,6-ヘキサンジオールホルマール等が挙げられる。特に、エチレンオキサイド、1,3-ジオキソランが好ましい。これらは、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
なお、前記ポリアセタールコポリマーの製造に用いる重合触媒としては、特に限定はされないが、ルイス酸に代表されるホウ酸、スズ、チタン、リン、ヒ素、アンチモン化物等が挙げられる。これらの中でも、特に、三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素系水和物、及び、酸素原子又は硫黄原子を含む有機化合物と三フッ化ホウ素との配位錯化合物のうちの一種以上を用いることが好ましい。より具体的には、例えば、三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素ジエチルエーテラート、三フッ化ホウ素-ジ-n-ブチルエーテラート、を好適例として挙げることができる。これらは、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
また、前記ポリアセタールコポリマーの製造における重合触媒の失活は、重合反応によって得られたポリアセタール樹脂を、アンモニア、トリエチルアミン、トリ-n-ブチルアミン等のアミン類、又はアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の水酸化物、無機酸塩、有機酸塩等の触媒中和失活剤を少なくとも一種含む水溶液、又は、有機溶剤液中に投入し、スラリー状態で一般的には数分~数時間攪拌することにより行うことができる。
触媒中和失活後のスラリーは濾過、洗浄により、未反応モノマーや触媒中和失活剤、触媒中和塩が除去された後、乾燥される。
【0026】
さらに、前記重合触媒の失活としては、アンモニア、トリエチルアミン等の蒸気とポリアセタール共重合体とを接触させて重合触媒を失活させる方法や、ヒンダードアミン類、トリフェニルホスフィン及び水酸化カルシウム等のうち少なくとも一種とポリアセタール樹脂とを混合機で接触させて触媒失活させる方法も用いることができる。
【0027】
さらにまた、前記重合触媒の失活を行わず、ポリアセタールコポリマーの融点以下の温度で、不活性ガス雰囲気下において加熱することで、重合触媒が揮発低減されたポリアセタールコポリマーを用いて後述の末端安定化処理を行うこともできる。
【0028】
なお、上述した重合触媒の失活操作及び重合触媒の揮発低減操作は、必要に応じて、重合反応によって得られたポリアセタール樹脂を粉砕した後で行うことができる。
【0029】
得られたポリアセタール樹脂の末端安定化処理としては、次のように、不安定末端部分を分解除去することができる。例えば、ベント付き単軸スクリュー式押出機やベント付き2軸スクリュー式押出機を用い、切欠剤としてアンモニアやトリエチルアミン、トリブチルアミン等の脂肪酸アミン、水酸化カルシウムに代表されるアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、無機弱酸塩、有機弱酸塩等の公知の不安定末端部を分解することのできる塩基性物質の存在下において、ポリアセタール樹脂を溶融し、不安定末端部を分解除去することができる。
【0030】
なお、前記ポリアセタール樹脂は、リサイクルされたポリアセタール樹脂を使用することもできる。前記マテリアルリサイクルにおいては、製品として使用されたポリアセタール樹脂を回収し、グリスなどの不純物があれば取り除いた後に、粉砕したポリアセタール樹脂を使用することができる。また、マテリアルリサイクルに限らず、ケミカルリサイクルなどの製品として使用されたポリアセタール樹脂をモノマーへリサイクルし、そのモノマーから生成されたポリアセタール樹脂を使用してもよい。
前記リサイクルされたポリアセタール樹脂は、単独で用いてもよいし、リサイクルされていないポリアセタール樹脂と混ぜて用いることもできる。
【0031】
また、前記ポリアセタール樹脂は、変性ポリアセタールであってもよい。一般に変性ポリアセタールとは、ポリアセタール中に変性セグメントを有するブロック共重合体である。ポリアセタールセグメントは、オキシメチレン単位のみからなるホモポリマー残基である場合と、オキシメチレン単位とオキシアルキレン単位とがランダムに共重合したコポリマー残基の場合がある。変性セグメントとは、ポリアセタールセグメントに該当しない成分であり、例えば、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリアクリル酸アルキル等が挙げられる。
【0032】
前記ポリアセタールセグメントとしては、好ましくはオキシメチレン単位とオキシアルキレン単位とがランダム共重合したポリアセタールコポリマー残基であり、変性セグメントとしては、好ましくはポリオレフィン、ポリウレタンである。
【0033】
前記変性ポリアセタールの変性セグメントは、脱脂工程での有機バインダー由来の残渣を低減する観点から、ポリオレフィンであることが好ましい。具体的にはポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリイソプレン、ポリブタジエン、水素添加ポリブタジエン等が挙げられる。
同様の観点から、前記変性ポリアセタールの変性セグメントは、ポリエチレン、ポリプロピレン、水素添加ポリブタジエンであることがより好ましく、脱脂工程における形状保持性、脱脂工程におけるひび割れ及び膨れの抑制の観点から、水素添加ポリブタジエンであることが特に好ましい。
なお、前記変性ポリアセタール樹脂は、単独で用いることもできるが、二種以上の変性ポリアセタール樹脂を用いることもでき、さらに、未変性のポリアセタール樹脂と混ぜて使用することもできる。
【0034】
そして、本実施形態の焼結成形体用組成物では、前記ポリアセタール樹脂の全ポリオキシメチレンユニットに対する総末端量が、0.1mol%以上であることを要する。全ポリオキシメチレンユニットに対する総末端量が、多いほど他樹脂(ポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂等)との相互作用点が多くなると考えられ、特に0.31mol%以上とすることで、優れた相溶性を実現できる。同様の観点から、前記ポリアセタール樹脂の、全ポリオキシメチレンユニットに対する総末端量は、0.1mol%以上であることが好ましく、0.31mol%以上であることがより好ましい。
前記ポリアセタール樹脂の全ポリオキシメチレンユニットに対する総末端量が0.1mol%以上であると、エポキシ樹脂とポリオレフィン樹脂の相溶性に優れる傾向がある。各樹脂の相溶性が高くなると均質化しやすく、樹脂成分の偏りが減るため、それに起因する焼結体のひび割れや膨れなどの外観不良を減らし、寸法精度を向上させることに寄与する。また、各樹脂の相溶性に優れると、成形時に樹脂成分が金型に付着しにくくなり、金型汚染も減らすこともできる。これは推測であるが、エポキシ樹脂は金属との接着力が強く、エポキシ樹脂の偏在が多いと、金型に付着しやすくなるが、樹脂成分同士の相溶性を上げることで、エポキシ樹脂単体の接着力を緩和し、金型への付着を抑制し得るものと考えられる。
【0035】
なお、前記ポリアセタール樹脂の全ポリオキシメチレンユニットに対する総末端量は、熱安定性の観点から、全ポリオキシメチレンユニットに対する総末端量が0.75mol%以下であることを要し、同様の観点から、0.5mol%以下であることが好ましい。
【0036】
ここで、前記ポリアセタール樹脂の全ポリオキシメチレンユニットに対する総末端量は、NMR測定機器を用いて測定できる。
例えば、観測周波数900MHzで、積算回数128回、測定温度25℃で測定した際に、主鎖-OCH2-構造に対するアセチル末端、ホルミル末端、メトキシ末端、ヘミホルマール末端の合計量(mol%)を、全ポリオキシメチレンユニットに対する総末端量として算出することができる。
【0037】
フィードストック等に加工した前記ポリアセタール樹脂の全ポリオキシメチレンユニットに対するヘミホルマール末端量は、例えば以下の手順でポリアセタール樹脂のみを分離し、測定することができる。
まず、サンプルを凍結粉砕処理した後に、得られた粉砕試料にHFIP(ヘキサフルオロイソプロパノール)を添加してポリアセタール樹脂等を抽出する。
さらにポリオレフィン等のオリゴマー成分を取り除くために、得られたHFIP溶液を濃縮し、クロロホルムとメタノールを添加し再沈殿処理を施し、濾別したのちに風乾後、真空乾燥機にて50℃で1晩乾燥し、ポリアセタール樹脂固形物を得る。
得られたポリアセタール樹脂固形物を、上述した測定方法で測定する。
【0038】
なお、前記ポリアセタール樹脂の全ポリオキシメチレンユニットに対する総末端量については、ポリアセタール樹脂の重合時に添加する分子量調節剤(例えば、メチラール、メタノール、ギ酸、ギ酸メチル等)の量を調整することにより、全ポリオキシメチレンユニットに対する総末端量を制御することができる。
また、前記ポリアセタール樹脂の全ポリオキシメチレンユニットに対する総末端量の制御は、総末端量の異なる樹脂を混練することや、分岐構造を有するポリアセタール樹脂の使用によっても調整することができる。その際、リサイクルされポリアセタール樹脂のような、熱経時変化等により分子鎖が切断されたポリアセタール樹脂も使用することもできる。
【0039】
本実施形態の焼結成形体用組成物では、前記ポリアセタール樹脂の全ポリオキシメチレンユニットに対する総末端量について規定しており、末端の種類については、アセチル末端、ホルミル末端、メトキシ末端、ヘミホルマール末端等が挙げられる。
そして、本実施形態の焼結成形体用組成物では、全ポリオキシメチレンユニットに対するヘミホルマール末端量が、0.05mol%以上0.2mol%以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.14mol%以上0.2mol%以下である。全ポリオキシメチレンユニットに存在する末端のうち、ヘミホルマール末端は、特に他の樹脂成分との相互作用が強く、相溶性をより高めることができる。
【0040】
前記ポリアセタール樹脂の全ポリオキシメチレンユニットに対するヘミホルマール末端量は、上述した前末端量と同様の測定方法で測定できる。
【0041】
なお、前記ポリアセタール樹脂の分子鎖が切断された場合、切断箇所の末端はヘミホルマール末端になるため、ヘミホルマール末端を調節する手段としては、熱分解されたポリアセタール樹脂やリサイクルされポリアセタール樹脂のような経時変化したものを混ぜる方法が簡便である。
ここで、前記ポリアセタール樹脂の全ポリオキシメチレンユニットに対するヘミホルマール末端量は、分岐構造を有するポリアセタール樹脂の使用や、ヘミホルマール末端量の異なる樹脂を混練することで制御することができる。
【0042】
・ポリオレフィン樹脂
前記有機バインダーは、上述したポリアセタール樹脂に加えて、ポリオレフィン樹脂をさらに含む。
ここで、前記ポリオレフィン樹脂は、炭素原子2~8個、好ましくは炭素原子2~4個を有するアルケンに由来する構造単位を有する、単独重合体又は共重合体である。
【0043】
前記ポリオレフィン樹脂としては、具体的にはポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリイソプレン、ポリブタジエン等が挙げられる。好ましくは、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びこれらの混合物であり、脱脂工程における形状保持性、脱脂工程におけるひび割れ及び膨れの抑制の観点から、ポリエチレン又はポリプロピレンであることがより好ましい。ポリエチレンとして市販のものの中で好適に使用し得るものは、例えば、サンテックHDシリーズ(旭化成製)、サンテックLDシリーズ(旭化成製)、サンテックEVAシリーズ(旭化成製)、ネオゼックス、ウルトゼックス、エボリュー(以上プライムポリマー製)等が挙げられ、ポリプロピレンとして住友ノーブレン(住友化学製)、ノバテックPP(日本ポリプロ製)、サンアロマーPMシリーズ(サンアロマー社製)、プライムポリプロ(プライムポリマー製)等が挙げられる。
【0044】
また、前記ポリオレフィン樹脂は、焼結可能な無機粉末との混練性、射出成形性の観点から、メルトフローインデックスが、40g/10分以上であることが好ましい。
ここで、前記ポリオレフィン樹脂のメルトフローインデックスは、190℃、2.16kgの条件で測定することができる。
【0045】
・エポキシ樹脂
前記有機バインダーは、上述したポリアセタール樹脂及びポリオレフィン樹脂に加えて、エポキシ樹脂をさらに含む。前記エポキシ樹脂を含むことで、前記ポリアセタール樹脂及び前記ポリオレフィン樹脂との相溶性を高め、同時に金属粉末との相互作用(接着性)が高くなり、金属粉末の分散性と焼結密度を向上させることができる。
前記エポキシ樹脂は、複数のエポキシ化合物の集合体から構成される樹脂を意味し、該エポキシ化合物とは、分子中にエポキシ基を有する化合物を意味する。ここで、前記エポキシ樹脂を構成する複数のエポキシ化合物は、分子構造が同じであっても異なっていてもよい。
【0046】
また、前記エポキシ樹脂は、焼結可能な無機粉末との混練性、射出成形性の観点から、メルトフローインデックスが、40g/10分以上であることが好ましい。
ここで、前記ポリオレフィン樹脂のメルトフローインデックスは、ASTM-D-1238-57Tを参照し、190℃、2.16kgの条件で測定することができる。
【0047】
ここで、前記エポキシ樹脂の種類については、特に限定はされないが、ビスフェノールA型エポキシ、ビスフェノールF型エポキシ、ノボラック型エポキシ、脂肪族型エポキシ、そして後述するグリシジルを有するエポキシ樹脂等を用いることができる。
好適な前記エポキシ樹脂としては、不飽和酸のグリシジルエステルとオレフィンの共重合体であり、特に好ましくはエチレンーグリシジルメタクリレート共重合体(EGMA)である。
【0048】
ここで、前記飽和酸グリシジルエステルは、一般式(1):
【化1】
・・・(1)
(式中、Rは炭素数2~18のアルケニル基、Xはカルボニルオキシ基を表す。)
で示される化合物であり、不飽和酸と、グルシジル基を有するアルコール化合物とのエステル形成された構造を有する。具体的な化合物としては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジルなどが例示される。これらの中では、メタクリル酸グリシジルが好適に使用できる。
【0049】
また、任意成分である不飽和酸及び/又はその誘導体としては、前記グリシジルエステル以外に、カルボン酸基を1以上有する不飽和化合物、無水カルボン酸基を1以上有する不飽和化合物、カルボン酸基を有する化合物とアルキルアルコールとのエステル等を挙げることができる。具体的な化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸などの不飽和カルボン酸、無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸無水物、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル等の飽和カルボン酸のビニルエステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル等の不飽和カルボン酸のアルキルエステルなどが挙げられる。これらの中では、酢酸ビニル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチルが好ましい。
【0050】
さらに、前記不飽和酸のグリシジルエステルと共重合されるオレフィンとしては、炭素数2~10のα-オレフィンを挙げることができ、これらの中では特に、エチレン、プロピレン及び1-ブテンが好ましい。また、不飽和酸のグリシジルエステルとオレフィンの共重合方法は、特に限定されず、従来周知の方法により行うことができる。
【0051】
また、前記不飽和酸のグリシジルエステルとオレフィンの共重合体の中でも、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体(EGMA)であることが好ましい。EGMAは、市販のものを使用することができ、好適例として、ダイセル化学社製 セロキサイド、住友化学社製 ボンドファースト等があげられる。
【0052】
さらに、前記EGMAは種々の方法で合成することもできる。例えばフリーラジカル開始剤による塊状重合、乳化重合、溶液重合などによって製造することができる。なお、代表的な重合方法は、特公昭46-45085号公報、特開昭61-127709号公報などに記載された方法、フリーラジカルを生成する重合開始剤の存在下、圧力500kg/cm2以上、温度40~300℃の条件により製造することができる。また、エチレン、エチレン以外のオレフィン系不飽和化合物から選ばれる少なくとも1種の単量体からなる樹脂に不飽和エポキシ化合物及びラジカル発生剤を混合し、押出機の中で溶融グラフト共重合させる方法、あるいは不飽和エポキシ化合物とオレフィン系不飽和化合物とを水または有機溶剤等の不活性媒体中、ラジカル発生剤の存在下共重合させる方法が挙げられる。
【0053】
前記不飽和酸グリシジルエステルと前記オレフィン樹脂との共重合体は、不飽和酸グリシジルエステル単位が1~25重量%、好ましくは3~20重量%、より好ましくは13~20重量%である。前記不飽和酸グリシジルエステル単位が1%以上であることで、他樹脂成分や金属粉末との相互作用が強くなり分散性が高くなる。また、不飽和酸グリシジルエステル単位が25%以下であることで、混練・射出成形時の熱安定性に優れる。
【0054】
前記不飽和酸グリシジルエステルの含有量については、前記エポキシ基を有するエチレン系重合体のプレスシートの赤外吸収スペクトルを測定することができる。赤外吸収スペクトルの特性吸収の吸光度を測定に使用したシートの厚さで補正して、得られた補正吸光度に基づいて検量線法によりグリシジル基を有する不飽和化合物の含有量を決定する方法で求めることができる。
なお、特性吸収のピークは、910cm-1の付近に現れることが多いため、これを指標とできる。
【0055】
また、前記エポキシ樹脂としてEGMAを用いる場合、EGMAのメルトフローインデックスは、好ましくは3g/10分以上400g/10分以下であり、より好ましくは10g/10分以上400g/10分未満、さらに好ましくは50g/10分以上400g/10分未満である。EGMAのメルトフローインデックスが上記範囲内にあることで、射出成形時に起こる他樹脂との分離を抑え、脱脂時間を短縮できる傾向にある。
ここで、前記EGMAのメルトフローインデックスは、ASTM-D-1238を参照し、190℃、2.16kgの条件で測定することができる。
【0056】
・ホルムキャッチャー剤
また、前記有機バインダーは、上述したポリアセタール樹脂、ポリオレフィン樹脂及びエポキシ樹脂に加えて、ホルムキャッチャー剤をさらに含むことが好ましい。
前記ホルムキャッチャー剤とは、前記ポリアセタール樹脂を用いた成形体を生産する上で、残留するホルムアルデヒドやこれが変性して生じる蟻酸等の、生産性や外観に悪影響を与える生成物を捕捉又はその影響を抑制する機能を有するものである。
前記有機バインダーがホルムキャッチャー剤を含むことにより、本実施形態のポリアセタール樹脂を含む組成物は、ホルムアルデヒド捕捉機能による成形体の外観や質感を向上するのみならず、ホルムキャッチャー剤が金属粉末と優先的に相互作用して反応点を無くすことで、ポリアセタール樹脂の解重合を阻止することでき、想定以上の成形性の外観・質感の改善ならびに、生産性を維持し品位を高める事ができる。
【0057】
前記ホルムキャッチャー剤としては、例えば、窒素含有化合物、無機酸の金属塩、金属酸化物、有機酸の金属塩等が挙げられる。これらのなかでも、ホルムキャッチャー剤は、不純物として酸を極力含まない及び/又は酸を発生し難い化合物であることが好ましい。
なお、前記ホルムキャッチャー剤は、1種類のみを単独で使用してもよいが、2種類以上を併用してもよい。
【0058】
前記窒素含有化合物としては、例えば、ポリアミド樹脂、アミド化合物、アミノ置換トリアジン化合物、アミノ置換トリアジン化合物とホルムアルデヒドの付加物、アミノ置換トリアジン化合物とホルムアルデヒドの縮合物、尿素、尿素誘導体、ヒドラジン誘導体、イミダゾール化合物、イミド化合物等が挙げられる。
【0059】
前記ポリアミド樹脂としては、例えば、ナイロン4-6、ナイロン6、ナイロン6-6、ナイロン6-10、ナイロン6-12、ナイロン12等が挙げられる。また、前記ポリアミド樹脂は、例えば、ナイロン6/6-6/6-10、ナイロン6/6-12等の共重合体であってもよい。さらに、前記ポリアミド樹脂は、アクリルアミド及びその誘導体、アクリルアミド及びその誘導体と他のビニルモノマーとの共重合体などが挙げられ、例えば、アクリルアミド及びその誘導体と他のビニルモノマーとを金属アルコラートの存在下で重合して得られるポリ-β-アラニン共重合体であってもよい。
【0060】
前記アミド化合物としては、例えば、イソフタル酸ジアミド等の多価カルボン酸アミド、アントラニルアミドなどが挙げられる。
【0061】
前記アミノ置換トリアジン化合物としては、例えば、2,4-ジアミノ-sym-トリアジン、2,4,6-トリアミノ-sym-トリアジン、N-ブチルメラミン、N-フェニルメラミン、N,N-ジフェニルメラミン、N,N-ジアリルメラミン、ベンゾグアナミン(2,4-ジアミノ-6-フェニル-sym-トリアジン)、アセトグアナミン(2,4-ジアミノ-6-メチル-sym-トリアジン)、2,4-ジアミノ-6-ブチル-sym-トリアジン等が挙げられる。
【0062】
前記アミノ置換トリアジン化合物とホルムアルデヒドの付加物としては、例えば、N-メチロールメラミン、N,N’-ジメチロールメラミン、N,N’,N”-トリメチロールメラミン等が挙げられる。
【0063】
前記アミノ置換トリアジン化合物とホルムアルデヒドの縮合物の具体例としては、例えば、メラミン・ホルムアルデヒド縮合物等が挙げられる。
【0064】
前記尿素誘導体としては、例えば、N-置換尿素、尿素縮合体、エチレン尿素、ヒダントイン化合物、ウレイド化合物等が挙げられる。N-置換尿素の具体例としては、アルキル基等の置換基が置換したメチル尿素、アルキレンビス尿素、アリール置換尿素等が挙げられる。尿素縮合体の具体例としては、尿素とホルムアルデヒドの縮合体等が挙げられる。ヒダントイン化合物の具体例としては、ヒダントイン、5,5-ジメチルヒダントイン、5,5-ジフェニルヒダントイン等が挙げられる。ウレイド化合物の具体例としては、アラントイン等が挙げられる。
【0065】
前記ヒドラジン誘導体としては、例えば、ヒドラジド化合物を挙げることができる。ヒドラジド化合物の具体例としては、ジカルボン酸ジヒドラジド等が挙げられ、より具体的には、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スペリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバチン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド、2,6-ナフタレンジカルボジヒドラジド等が挙げられる。
【0066】
前記イミダゾール化合物としては、例えば、イミダゾール、1‐メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール等が挙げられる。
また、前記イミド化合物としては、例えば、スクシンイミド、グルタルイミド、フタルイミド等が挙げられる。
【0067】
なお、上述した以外のホルムアルデヒド捕捉剤としては、無機酸の金属塩、金属酸化物及び有機酸の金属塩等が挙げられる。例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムもしくはバリウム等の水酸化物、上記金属の炭酸塩、リン酸塩、珪酸塩、ホウ酸塩、カルボン酸塩、さらには層状複水酸化物などが挙げられる。
【0068】
前記カルボン酸塩のカルボン酸としては、10~36個の炭素原子を有する飽和又は不飽和脂肪族カルボン酸であることが好ましく、これらのカルボン酸は水酸基で置換されていてもよい。前記飽和又は不飽和脂肪族カルボン酸塩の具体例としては、ジミリスチン酸カルシウム、ジパルミチン酸カルシウム、ジステアリン酸カルシウム、(ミリスチン酸-パルミチン酸)カルシウム、(ミリスチン酸-ステアリン酸)カルシウム、(パルミチン酸-ステアリン酸)カルシウム等が挙げられ、好ましくは、ジパルミチン酸カルシウム、ジステアリン酸カルシウムである。
【0069】
前記層状複水酸化物としては、例えば、下記式(4)で表されるハイドロタルサイト類が挙げられる。
[(M2+)1-x(M3+)x(OH)2]x+[(An-)x/n・mH2O]x- ・・・(4)
(式(4)中、M2+は2価金属、M3+は3価金属、An-はn価(nは1以上の整数)のア
ニオンを示し、xは、0<x≦0.33の範囲にあり、mは正数を示す。)
式(4)において、M2+の例としてはMg2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+などが挙げられ、M3+の例としては、Al3+、Fe3+、Cr3+、Co3+、In3+などが挙げられ、An-の例としては、OH-、F-、Cl-、Br-、NO3
-、CO3
2-、SO4
2-、Fe(CN)6
3-、CH3COO-、シュウ酸イオン、サリチル酸イオンなどが挙げられる。An-の例としては、OH-、CO3
2-が好ましい。
ハイドロタルサイト類の具体例としては、Mg0.75Al0.25(OH)2(CO3)0.125・0.5H2Oで示される天然ハイドロタルサイト、Mg4.5Al2(OH)13CO3・3.5H2O、Mg4.3Al2(OH)12.6CO3等で示される合成ハイドロタルサイト等が挙げられる。
【0070】
(流動性付与剤)
本実施形態の焼結成形体用組成物は、上述した焼結可能な無機粉末及び有機バインダーに加えて、さらに流動性付与剤を含むことが好ましい。前記流動性付与剤を含むことにより、焼結成形体用組成物の流動性をさらに向上できる。
【0071】
上記流動性付与剤は、上述したポリアセタール樹脂、ポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂以外の化合物であり、例えばワックス類が挙げられる。なお、本件明細書中では、融点100℃以下のものを「ワックス」、100℃を超えるものを「樹脂」として便宜上区別している。
前記ワックス類としては、例えば、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、カルバナワックス、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリテトラエチレングリコール、ポリイソブチレン、マイクロクリスタリンワックス、モンタン系ワックス、蜜ロウ、木ロウ、合成ワックス、ポリ-1,3-ジオキソラン、ポリ-1,3-ジオキセパン等が挙げられる。これらの中でも、射出成形での焼結成形体用組成物の流動性に一層優れる観点から、パラフィンワックス、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールを用いることが好ましい。
【0072】
・相溶化剤
本実施形態の焼結成形体用組成物は、上述した、焼結可能な無機粉末、有機バインダー及び流動性付与材に加えて、さらに相溶化剤を含むことが好ましい。前記相溶化剤を含むことにより、焼結成形体用組成物の品位をさらに向上できる。
【0073】
前記相溶化剤は、上述の樹脂およびワックスとは異なる性質を持ち、例えば界面活性剤のような効果により、金属と樹脂およびワックスの相溶性を更に高くする効果がある。
前記相溶化剤としては、例えば、サンニックス(三洋化成)、サンフレックス(三洋化成)、タフマーDF&A(三井化学)、タフマーXM(三井化学)、タフマーBL(三井化学)、タフマーM(三井化学)、タフマーPN(三井化学)、マリコン(大阪ガスケミカル)等が挙げられる。
【0074】
なお、本実施形態の焼結成形体用組成物の製造方法は、特に限定されなく、公知の方法により製造することができる。例えば、上述した焼結可能な無機粉末と有機バインダーと、その他任意成分と、を、例えば、ヘンシェルミキサー、タンブラー、V字型ブレンダー等で混合した後、単軸押出し機、或いは2軸押出し機、加熱ロール、ニーダー、バンバリーミキサー等の混練機を用いて半溶融状態で溶融混練することにより製造することができ、ストランド状、ペレット状等、種々の形態の製品として得ることができる。
加圧型ニーダーを用いた混練の場合、混練温度は160℃~210℃に設定するのが好ましく、更に好ましくは170℃~190℃である。また、ブレードの回転数は10rpm~50rpmが好ましく、更に好ましくは15rpm~40rpmである。混練時間は45分以上、2時間以内が好ましい。上記条件の範囲内で混練加工する事で、樹脂同士の相溶性を向上させ、また、熱分解による有機バインダー現象を抑えることが可能である。
【0075】
<グリーン成形体>
本実施形態のグリーン成形体は、上述した本実施形態の焼結成形体用組成物を原料として用いたものである。
得られたグリーン成形体は、金型汚染がなく、ひび割れや膨れについても抑制されている。
【0076】
本実施形態のグリーン成形体は、焼結成形体用組成物をスクリュー式及びピストン式射出成形機を使用することで得られる。
前記射出成形では、シリンダー温度を160~210℃に設定するのが好ましく、より好ましくは170~190℃である。温度を160℃以上にする事で、樹脂の流動性を向上させることができ、200℃以下にすることで、樹脂の分解による金型汚染を低減することができる。
また金型温度は、30~90℃であることが好ましく、より好ましくは50~70℃である。金型温度を30℃以上にすることで、成形時の寸法安定性が向上し、90℃以下にすることで、100℃以下の融点を持つようなワックス類によるグリーン成形体の外観不良を抑制することができる。
【0077】
<焼結成形体>
本実施形態の焼結成形体は、上述した本実施形態のグリーン成形体を、焼結することで得られる。
得られた焼結成形体は、金型汚染がなく、ひび割れや膨れについても抑制されている。
【0078】
グリーン成形体は、密閉された脱脂・焼結炉に収容され所望の条件で脱脂・焼結され、脱脂体、焼結体とすることができる。
加熱により脱脂する方法の場合、窒素またはアルゴン雰囲気の下、常温より500~600℃程度に昇温することで脱脂される。加熱の前に溶剤中に流動性付与剤を溶出させてもよい。
次いで焼結可能な無機粉末の焼結温度まで昇温させることで焼結成形体を得ることができる。
【0079】
酸により脱脂する方法の場合、窒素雰囲気の下、硝酸ガスを流通させ、常温から110~120℃まで昇温することで脱脂される。
次いで焼結可能な無機粉末の焼結温度まで昇温させることで焼結成形体を得ることができる。
【実施例】
【0080】
以下、具体的な実施例、比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0081】
(各サンプルの構成成分)
実施例及び比較例の各サンプルが含む成分を以下に示す。
【0082】
(A)ポリアセタール樹脂
(A-1)ポリアセタール樹脂
熱媒を通すことのできるジャケット付き2軸パドル型連続重合反応機((株)栗本鐵工所製、径2B、L/D=14.8)を温度80℃に調整した。重合触媒として三フッ化ホウ素-ジ-n-ブチルエーテラートをシクロヘキサンにて0.26質量%に希釈した触媒調合液69g/hrと、トリオキサン3500g/hr、1,3-ジオキソラン121g/hr、分子量調節剤としてメチラール5.41g/hrを、重合反応機に連続的に供給し重合を行った。
重合反応機から排出されたものは、0.5質量%のトリエチルアミン水溶液中に投入し重合触媒の失活を行った後、濾過、洗浄、乾燥を行った。
次に、200℃に設定されたベント付の2軸押出し機(L/D=40)に供給し、末端安定化ゾーンに、0.8質量%トリエチルアミン水溶液を、窒素の量に換算して20ppmになるように液添し、90kPaで減圧脱気しながら安定化させ、ペレタイザーにてペレット化した。その後100℃で2hr乾燥を行い、(A-1)のポリアセタール樹脂を得た。
得られた(A-1)のポリアセタール樹脂は、融点164℃、メルトフローインデックス10g/10分であった。
(A-2)ポリアセタール樹脂
分子量調節剤としてのメチラールの流量を5.72g/hrとした以外は、(A-1)のポリアセタール樹脂の製造方法と同様に、(A-2)のポリアセタール樹脂を製造した。得られた(A-2)ポリアセタール樹脂は、融点164℃、メルトフローインデックス20g/10分であった。
(A-3)ポリアセタール樹脂
分子量調節剤としてのメチラールの流量を7.1g/hrとした以外は、(A-1)のポリアセタール樹脂の製造方法と同様に(A-3)のポリアセタール樹脂を製造した。得られた(A-3)ポリアセタール樹脂は、融点164℃、メルトフローインデックス71g/10分であった。
(A-4)ポリアセタール樹脂
分子量調節剤としてのメチラールの流量を7.62g/hrとした以外は、(A-1)のポリアセタール樹脂の製造方法と同様に(A-4)のポリアセタール樹脂を製造した。得られた(A-4)ポリアセタール樹脂は、融点164℃、メルトフローインデックス81g/10分であった。
(A-5)ポリアセタール樹脂
分子量調節剤としてのメチラールの流量を9.4g/hrとした以外は、(A-1)のポリアセタール樹脂の製造方法と同様に(A-5)のポリアセタール樹脂を製造した。得られた(A-5)ポリアセタール樹脂は、融点164℃、メルトフローインデックス121g/10分であった。
(A-6)ポリアセタール樹脂
分子量調節剤としてのメチラールの流量を10.6g/hrとした以外は、(A-1)のポリアセタール樹脂の製造方法と同様に(A-6)のポリアセタール樹脂を製造した。得られた(A-6)ポリアセタール樹脂は、融点164℃、メルトフローインデックス200g/10分であった。
【0083】
(B)ポリオレフィン樹脂
(B-1)ポリプロピレン:住友化学株式会社製 住友ノーブレン UH501E1
(B-2)ポリエチレン:旭化成株式会社製 サンテックTM LDPE M6555
【0084】
(C)エポキシ樹脂
(C-1)脂肪族型エポキシ:ダイセル化学社製 セロキサイド 2021P
(C-2)EGMA:住友化学社製 ボンドファースト CG5001
GMA比率19重量% メルトフローインデックス380g/10分
(C-3)EGMA:住友化学社製 ボンドファースト BF-30C
GMA比率19重量% メルトフローインデックス30g/10分
(C-4)EGMA:住友化学社製 ボンドファースト BF-E
GMA比率12重量% メルトフローインデックス3g/10分
(C-5)EGMA:住友化学社製 ボンドファースト BF-2C
GMA比率6重量% メルトフローインデックス3g/10分
(C-6)EGMA:住友化学社製 ボンドファースト BF-7B
GMA比率12重量% メルトフローインデックス7g/10分
(C-7)EGMA:住友化学社製 ボンドファースト BF-7M
GMA比率6重量% メルトフローインデックス7g/10分
【0085】
(D)流動性付与剤
パラフィンワックス:日本精蝋株式会社製 Paraffin wax-145
【0086】
(E)ホルムキャッチャー剤
セバシン酸ジヒドラジド:日本ファインケム株式会社製
【0087】
(F)相溶化剤
(F―1)三井化学社製 タフマー PN―2070
(F―2)三洋化成製 サンニックス GL―30000
(F―2)三井化学社製 タフマー XM―7070S
【0088】
(メルトフローインデックス)
なお、(A)ポリアセタール樹脂、(B)ポリオレフィン樹脂、(C)エポキシ樹脂のメルトフローインデックスは、ASTM-D-1238を参照し、東洋精機製のMELT INDEXERを用いて、190℃、2160gの条件下で測定を行った。
【0089】
(全ポリオキシメチレンユニットに対する総末端量)
・実施例1~19、比較例1~5
(A)ポリアセタール樹脂の全ポリオキシメチレンユニットに対する総末端量については、Burker製のAVANCE III 900MHz+5mm TCI CryoProbeを用いて、観測周波数900MHzで、積算回数128回、測定温度25℃で測定し、主鎖-OCH2-構造に対するアセチル末端、ホルミル末端、メトキシ末端、ヘミホルマール末端の合計量(mol%)を算出した。
また測定する試料は、0.4wt%TFA-Na/HFIP-d2溶液に、0.03wt%の試料濃度となるように溶解し、40℃/2h加熱振とうし、無濾過にて5mmφのNMR試料管(Wilmad社製535-PP-7、長さ7inch)に液高40mmになるように調整し、測定用試料とした。
得られたポリアセタール樹脂の全ポリオキシメチレンユニットに対する総末端量は、(A-1)、(A-2)、(A-3)、(A-4)、(A-5)、(A-6)を、加圧ニーダーによって190℃で20分混合することで、表1、表2に示す総末端量となるように調整した。
【0090】
・実施例20
実施例20に関してのみ、焼結可能な無機粉末としては、SUS316L(平均粒子径10μm)を用い、表2に記載の配合割合になるよう(A)~(F)の各材料と混合した後、加圧型ニーダーにて温度175℃、ブレードの回転数30rpmで1時間混練し、焼結成形体用組成物の各サンプルを作製した。
その後、得られた焼結成形体用組成物について、凍結粉砕処理した後に、得られた粉砕試料にHFIP(ヘキサフルオロイソプロパノール)を添加してポリアセタール樹脂等を抽出した。
さらに、ポリオレフィン等のオリゴマー成分を取り除くため、得られたHFIP溶液を濃縮し、クロロホルムとメタノールを添加し再沈殿処理を施し、濾別したのちに風乾後、真空乾燥機にて50℃で1晩乾燥し、得られたポリアセタール樹脂固形物を測定試料とした。
このポリアセタール樹脂固形物の総末端量は、Burker製のAVANCE III 900MHz+5mm TCI CryoProbeを用いて、観測周波数900MHzで、積算回数128回、測定温度25℃で測定し、主鎖-OCH2-構造に対するアセチル末端、ホルミル末端、メトキシ末端、ヘミホルマール末端の合計量(mol%)を算出した。
【0091】
(全ポリオキシメチレンユニットに対するヘミホルマール末端量)
・実施例1~19、比較例1~5
(A)ポリアセタール樹脂の全ポリオキシメチレンユニットに対するヘミホルマール末端量については、Burker製のAVANCE III 900MHz+5mm TCI CryoProbeを用いて、観測周波数900MHzで、積算回数128回、測定温度25℃で測定し、主鎖-OCH2-構造に対するヘミホルマール末端の量(mol%)を算出した。
また測定する試料は、0.4wt%TFA-Na/HFIP-d2溶液に、0.03wt%の試料濃度となるように溶解し、40℃/2h加熱振とうし、無濾過にて5mmφのNMR試料管(Wilmad社製535-PP-7、長さ7inch)に液高40mmになるように調整し、測定用試料とした。
得られたポリアセタール樹脂の全ポリオキシメチレンユニットに対する総末端量は、(A-1)、(A-2)、(A-3)、(A-4)、(A-5)、(A-6)を、加圧ニーダーによって190℃で20分混合することで、表1、表2に示すヘミホルマール末端量となるように調整した
【0092】
・実施例20
実施例20に関してのみ、焼結可能な無機粉末としては、SUS316L(平均粒子径10μm)を用い、表2に記載の配合割合になるよう(A)~(F)の各材料と混合した後、加圧型ニーダーにて温度175℃、ブレードの回転数30rpmで1時間混練し、焼結成形体用組成物の各サンプルを作製した。
その後、得られた焼結成形体用組成物について、凍結粉砕処理した後に、得られた粉砕試料にHFIP(ヘキサフルオロイソプロパノール)を添加してポリアセタール樹脂等を抽出した。
さらに、ポリオレフィン等のオリゴマー成分を取り除くため、得られたHFIP溶液を濃縮し、クロロホルムとメタノールを添加し再沈殿処理を施し、濾別したのちに風乾後、真空乾燥機にて50℃で1晩乾燥し、得られたポリアセタール樹脂固形物を測定試料とした。
このポリアセタール樹脂固形物の総末端量は、Burker製のAVANCE III 900MHz+5mm TCI CryoProbeを用いて、観測周波数900MHzで、積算回数128回、測定温度25℃で測定し、主鎖-OCH2-構造に対するヘミホルマール末端の量(mol%)を算出した。
【0093】
[実施例1~20、比較例1~5]
焼結可能な無機粉末としては、SUS316L(平均粒子径10μm)を用い、表1及び2に記載の配合割合になるよう各材料と混合した後、加圧型ニーダーにて温度175℃、ブレードの回転数30rpmで1時間混練し、焼結成形体用組成物の各サンプルを作製した。
その後、得られた焼結成形体用組成物の各サンプルを冷却、破砕して得た射出成形用原料を、射出成形機(Fanuc社製 ROBOSHOT α-50iA)を用いて、成形温度175~190℃にて成形し、グリーン成形体試験片を複数作製した。なお、このグリーン成形体試験片のサイズは、いずれも横10mm、縦60mm、厚さ3mmである。
【0094】
[評価]
以下の評価(1)~(6)を行った。評価結果を表1及び2に示す。
(1)グリーン成形体の外観
作製した各サンプルのグリーン成形体試験片について、無作為に10個取り出し、以下の基準で外観を観察して評価した。
〇(良好):割れ、欠けが見られない
×(不良):割れ、欠け等が見られる
【0095】
(2)金型の汚れ
各サンプルのグリーン成形体試験片の作製について、500ショット成形を行い、それぞれ10ショット、100ショット、500ショット終了時に金型に付着している汚れを目視で観察した。
金型の汚れに関しては、金型の色に対して白色や虹彩を放っているものや、固形物が付着しているものなど、金型表面に異常をきたしているものを汚れとし、以下の基準で評価を行った。
◎:500ショットまでに金型に汚れがない
〇:100ショットまでに金型に汚れがない
×:10ショットまでに金型に汚れがある
【0096】
(3)脱脂体の外観
作製した各サンプルのグリーン成形体試験片の加熱脱脂を行った。作製した各サンプルのグリーン成形体試験片を50mmの間隔で2点支持し、脱脂炉の中にセットした。
(3-1)第一の条件として、脱脂炉内を窒素ガスでパージし、50℃/hrで150℃まで昇温した。以降、150~200℃までを昇温速度30℃/hrで昇温し1時間保持し、200~400℃までを30℃/hrで昇温後、400~600℃まで120℃/hrで昇温し、炉冷して脱脂体の各サンプルを得た。(脱脂工程の合計:約15hr)
得られた各サンプルの脱脂体について、10個の外観を目視にて観察し、以下の基準で評価した。
〇(優れる):割れ・膨れ等の外観異常が見られない
×(不良):割れ・膨れが見られる
(3-2)また、第一の条件にて割れ・膨れ等の外観以上が見られない各サンプルの脱脂体に対して、第二の条件として、グリーン成形体を50mmの間隔で2点支持し、脱脂炉の中にセットした後、脱脂炉内を窒素ガスでパージし、50℃/hrで150℃まで昇温した。以降、150~200℃までを昇温速度30℃/hrで昇温し1時間保持し、200~300℃までを50℃/hrで昇温後、300~400℃までを100℃/hrで昇温し、400~600℃まで120℃/hrで昇温し、炉冷して脱脂体の各サンプルを得た。(脱脂工程の合計:約12hr)
得られた各サンプルの脱脂体について、10個の外観を目視にて観察し、以下の基準で評価した。
〇(優れる):割れ・膨れ等の外観異常が見られない
×(不良):割れ・膨れが見られる
なお、第二条件で〇(優れるもの)は、第一条件も〇(優れるもの)であり、記載を省いている。
【0097】
(4)焼結体の外観
得られた各サンプルの脱脂体について、アルゴン雰囲気下で、室温から200℃/hrで徐々に昇温し、最高温度1350℃で2時間保持することで焼結を行い、焼結体の各サンプルを得た。
各サンプルの焼結体について、10個の外観を目視にて観察し、以下の基準で評価した。
〇(優れる):割れ・膨れ等の外観異常が見られない
×(不良):割れ・膨れが見られる
【0098】
(5)焼結体の密度
各サンプルの焼結体について、10個をJIS Z 8807に準じて、電子比重計(アルファ―ミラージュ社製)を用いて水温25℃の条件下で密度(g/cm3)測定した。
【0099】
(6)焼結体の寸法精度
各サンプルの焼結体について、30個の直径をマイクロメーターで測定した。そして、測定値をJIS B 0411に規定の「幅の普通許容差」に基づき、以下の評価基準に基づいて評価した。
◎:等級が精級である(許容差±0.05mm以下)
〇:等級が中級である(許容差±0.05mm超±0.1mm以下)
△:等級が低級である(許容差±0.1mm超±0.2mm以下)
×:許容外である
【0100】
【0101】
表1及び表2の結果から、実施例1~20では、いずれの評価項目についてもバランスよくすぐれた結果を示していることがわかる。一方、比較例1~5は、少なくとも1つの評価項目で実施例よりも劣る結果を示している。特に、金型の汚染や、焼結体の寸法精度が、いずれも実施例に比べて劣る結果となっている。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明によれば、特殊な設備や工程を必要とすることなく有機バインダーを短時間で脱脂でき、成形時の金型汚染を起こさず、成形時及び焼結後のひび割れや膨れを抑制できる、焼結成形体用組成物、並びに、該焼結成形体用組成物を用いたグリーン成形体及び焼結成形体、を提供できる。
【要約】
特殊な設備や工程を必要とすることなく有機バインダーを短時間で脱脂でき、成形時の金型汚染を起こさず、成形時及び焼結後のひび割れや膨れを抑制できる、焼結成形体用組成物を提供することを目的とする。
上記目的を達成するべく、本発明は、焼結可能な無機粉末と、有機バインダーと、を含む焼結成形体用組成物であって、前記有機バインダーは、少なくとも、ポリアセタール樹脂、ポリオレフィン樹脂及びエポキシ樹脂を含み、前記ポリアセタール樹脂の、全ポリオキシメチレンユニットに対する総末端量が、0.1mol%以上0.75mol%以下であることを特徴とする。