(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】水性ボールペン用インキ組成物、水性ボールペンレフィル及び水性ボールペン
(51)【国際特許分類】
C09D 11/18 20060101AFI20230904BHJP
B43K 7/01 20060101ALI20230904BHJP
【FI】
C09D11/18
B43K7/01
(21)【出願番号】P 2020002479
(22)【出願日】2020-01-09
【審査請求日】2022-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】390039734
【氏名又は名称】株式会社サクラクレパス
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100214363
【氏名又は名称】安藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】作村 武志
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-119253(JP,A)
【文献】特開2008-201970(JP,A)
【文献】特開2019-116576(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/18
B43K 7/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インキ収容筒を構成する金属に対する接触角が59.0~80.0°である、金属レフィルへの充填に用いられる、水性ボールペン用インキ組成物
であって、
前記インキ収容筒が、SUS304系ステンレス鋼、SUS430系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、快削ステンレス鋼、真鍮、アルミニウム、洋白及びリン青銅合金のいずれかにより構成されるインキ収容筒であり、
前記水性ボールペン用インキ組成物が、着色剤、水、及び、一般式(II);
【化1】
(式中:
R
2
はM又は-(CH
2
CH
2
O)
n
-R
3
である。
n=0の場合、R
1
は炭素数10以下のアルキル基、炭素数6以上のアリール基又は炭素数4以上の不飽和炭化水素基のいずれかであり、R
3
は炭素数10以下のアルキル基、炭素数6以上のアリール基又は炭素数4以上の不飽和炭化水素基のいずれかである。
nが1~20の整数の場合、R
1
は炭素数12以上のアルキル基、炭素数6以上のアリール基又は炭素数4以上の不飽和炭化水素基のいずれかであり、R
3
は炭素数12以上のアルキル基、炭素数6以上のアリール基又は炭素数4以上の不飽和炭化水素基のいずれかである。
Mは水素原子、アルカリ金属原子、アンモニウム基、有機アンモニウム基又は有機アミン基のいずれかであり、Mが2つある場合はそれぞれ異なっていてもよい。)
で表されるHLBが9.0以上のリン酸エステル系界面活性剤を含有する、前記水性ボールペン用インキ組成物。
【請求項2】
着色剤、水、及び、一般式(II)
;
【化2】
(式中:
R
2
はM又は-(CH
2
CH
2
O)
n
-R
3
である。
n=0の場合、R
1
は炭素数10以下のアルキル基、炭素数6以上のアリール基又は炭素数4以上の不飽和炭化水素基のいずれかであり、R
3
は炭素数10以下のアルキル基、炭素数6以上のアリール基又は炭素数4以上の不飽和炭化水素基のいずれかである。
nが1~20の整数の場合、R
1
は炭素数12以上のアルキル基、炭素数6以上のアリール基又は炭素数4以上の不飽和炭化水素基のいずれかであり、R
3
は炭素数12以上のアルキル基、炭素数6以上のアリール基又は炭素数4以上の不飽和炭化水素基のいずれかである。
Mは水素原子、アルカリ金属原子、アンモニウム基、有機アンモニウム基又は有機アミン基のいずれかであり、Mが2つある場合はそれぞれ異なっていてもよい。)
で表されるHLBが9.0以上のリン酸エステル系界面活性剤を含有する、水性ボールペン用インキ組成物
であって、
SUS304系ステンレス鋼、SUS430系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、快削ステンレス鋼、真鍮、アルミニウム、洋白及びリン青銅合金のいずれかにより構成されるインキ収容筒を有する金属レフィルへの充填に用いられる、前記水性ボールペン用インキ組成物。
【請求項3】
金属製インキ収容筒の先端部に、ボールを回転自在に抱持したボールペンチップが直接又は接続部材を介して装着されており、
前記金属製インキ収容筒が、SUS304系ステンレス鋼、SUS430系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、快削ステンレス鋼、真鍮、アルミニウム、洋白及びリン青銅合金のいずれかにより構成される金属製インキ収容筒であり、前記金属製インキ収容筒内に請求項
1又は2に記載の水性ボールペン用インキ組成物が充填されてなる水性ボールペンレフィル。
【請求項4】
SUS304系ステンレス鋼、SUS430系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、快削ステンレス鋼、真鍮、アルミニウム、洋白及びリン青銅合金のいずれかにより構成される金属製インキ収容筒の先端部に、ボールを回転自在に抱持したボールペンチップが直接又は接続部材を介して装着された水性ボールペンレフィルの前記金属製インキ収容筒に、金属製インキ収容筒を構成する金属に対する接触角が59.0~80.0°である水性ボールペン用インキ組成物を充填する工程を含む、水性ボールペンレフィルの製造方法。
【請求項5】
請求項
3に記載の水性ボールペンレフィルを軸筒内に配設した水性ボールペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属レフィルに充填して用いるのに好適な水性ボールペン用インキ組成物、この水性ボールペンインキ組成物が金属製インキ収容筒に充填された水性ボールペンレフィル、及び、この水性ボールペンレフィルを軸筒内に配設した水性ボールペンに関する。
【背景技術】
【0002】
水性ボールペンレフィルとしては、インキ充填筒がプラスチックであるプラスチックレフィルが主として用いられている。しかし、レフィルに必要な強度を確保するためには、プラスチック管部分の肉厚を増やす必要がある。このため、ボールペン本体を細くするデザインとする場合や、1本で複数の色が使える多色ボールペンを構成する場合には、プラスチックレフィルに代えて、インキ充填筒が金属である金属レフィルが用いられる場合があった。また、近年の脱プラスチックの流れから、将来的には、金属レフィルの需要が増えることも予測できる。
【0003】
しかし、これまでは、金属レフィルに特化して水性ボールペン用インキ組成物を設計することは知られておらず、プラスチックレフィルに充填する水性ボールペン用インキ組成物を金属レフィルに充填していた。
特許文献1、2には、リン酸エステル系界面活性剤を含有する水性ボールペン用インキ組成物が記載されている。このインキ組成物は、金属製のインキ収容筒に充填してもよいとされているが、具体的には、樹脂製のインキ収容筒に充填することでレフィルを構成するものである。
これらの特許文献に記載されている水性ボールペン用インキ組成物は、プラスチックレフィルに充填することを前提に作製されたものであり、実際に金属レフィルに充填するものではなく、インキ収容筒を構成する金属に対する水性ボールペン用インキ組成物の接触角については何ら明らかにされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-42733号公報
【文献】特開2016-216622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、プラスチックレフィル用の水性ボールペン用インキ組成物を金属レフィル等に充填して長期保存や高温環境下に置いた場合、インキ追従体(逆流止め)から離油した基油がインキ中に引き込まれ、これにより、インキが残っているにもかかわらず、基油がボールペンチップから流出し、筆記距離が大幅に短くなってしまうという問題が生じると推察できることを見出した。同じ水性ボールペン用インキ組成物をプラスチックレフィルに充填した場合には、このような現象が生じにくいことも見出した。
本発明は、長期保存や高温環境下に置いた場合であっても、逆流止めから離油した基油がインキ中に引き込まれてボールペンチップから流出することを防ぎ、所期の筆記距離が筆記可能である金属レフィルを作製できる、水性ボールペン用インキ組成物を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、インキ収容筒を構成する金属に対する接触角が特定の範囲にある水性ボールペン用インキ組成物及び/又は特定のリン酸エステル系界面活性剤を含有する水性ボールペン用インキ組成物により、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には以下のとおりである。
[1] インキ収容筒を構成する金属に対する接触角が59.0~80.0°である、金属レフィルへの充填に用いられる、水性ボールペン用インキ組成物。
[2] 着色剤、水、及び、下記一般式(I)で表されるリン酸エステル系界面活性剤を含有する、[1]に記載の水性ボールペン用インキ組成物。
【化1】
(式中:nは0~20の整数、R
1は炭素数1以上のアルキル基、炭素数6以上のアリール基又は炭素数4以上の不飽和炭化水素基のいずれかであり、R
2はM又は-(CH
2CH
2O)
n-R
3であり、R
3は炭素数1以上のアルキル基、炭素数6以上のアリール基又は炭素数4以上の不飽和炭化水素基のいずれかであり、Mは水素原子、アルカリ金属原子、アンモニウム基、有機アンモニウム基又は有機アミン基のいずれかである。Mが2つある場合はそれぞれ異なっていてもよい。)
[3] 着色剤、水、及び、HLBが9.0以上のリン酸エステル系界面活性剤を含有する、[1]又は[2]に記載の水性ボールペン用インキ組成物。
[4] 着色剤、水、及び、一般式(II)で表されるHLBが9.0以上のリン酸エステル系界面活性剤を含有する、水性ボールペン用インキ組成物。
【化2】
(式中:
R
2はM又は-(CH
2CH
2O)
n-R
3である。
n=0の場合、R
1は炭素数10以下のアルキル基、炭素数6以上のアリール基又は炭素数4以上の不飽和炭化水素基のいずれかであり、R
3は炭素数10以下のアルキル基、炭素数6以上のアリール基又は炭素数4以上の不飽和炭化水素基のいずれかである。
nが1~20の整数の場合、R
1は炭素数12以上のアルキル基、炭素数6以上のアリール基又は炭素数4以上の不飽和炭化水素基のいずれかであり、R
3は炭素数12以上のアルキル基、炭素数6以上のアリール基又は炭素数4以上の不飽和炭化水素基のいずれかである。
Mは水素原子、アルカリ金属原子、アンモニウム基、有機アンモニウム基又は有機アミン基のいずれかであり、Mが2つある場合はそれぞれ異なっていてもよい。)
[5] オーステナイト系ステンレス、真鍮、アルミニウム、洋白のいずれかにより構成されるインキ収容筒を有するレフィルへの充填に用いられる、[1]~[4]いずれかの水性ボールペン用インキ組成物。
[6] 金属製インキ収容筒の先端部に、ボールを回転自在に抱持したボールペンチップが直接又は接続部材を介して装着されており、前記金属製インキ収容筒内に[1]~[5]いずれかの水性ボールペン用インキ組成物が充填されてなる水性ボールペンレフィル。
[7] [6]に記載の水性ボールペンレフィルを軸筒内に配設した水性ボールペン。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、長期保存や高温環境下に置いた場合であっても、逆流止めから離油した基油がインキ中に引き込まれることがなく、所期の筆記距離が筆記可能である金属レフィルを作製できる、水性ボールペン用インキ組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の水性ボールペン用インキ組成物について、以下に説明する。
以下において、「インキ収容筒を構成する金属に対する接触角が59.0~80.0°である、金属レフィルへの充填に用いられる、水性ボールペン用インキ組成物」を「第1の態様の水性ボールペン用インキ組成物」とする。
また、「着色剤、水、及び、一般式(II)で表されるHLBが9.0以上のリン酸エステル系界面活性剤を含有する、水性ボールペン用インキ組成物。
【化3】
(式中:
R
2はM又は-(CH
2CH
2O)
n-R
1である。
n=0の場合、R
1は炭素数10以下のアルキル基、炭素数6以上のアリール基又は炭素数4以上の不飽和炭化水素基のいずれかであり、R
3は炭素数10以下のアルキル基、炭素数6以上のアリール基又は炭素数4以上の不飽和炭化水素基のいずれかである。
nが1~20の整数の場合、R
1は炭素数12以上のアルキル基、炭素数6以上のアリール基又は炭素数4以上の不飽和炭化水素基のいずれかであり、R
3は炭素数12以上のアルキル基、炭素数6以上のアリール基又は炭素数4以上の不飽和炭化水素基のいずれかである。
Mは水素原子、アルカリ金属原子、アンモニウム基、有機アンモニウム基又は有機アミン基のいずれかであり、Mが2つある場合はそれぞれ異なっていてもよい。)」を、「第2の態様の水性ボールペン用インキ組成物」とする。
【0009】
[第1の態様の水性ボールペン用インキ組成物]
第1の態様の水性ボールペン用インキ組成物は、インキ収容筒を構成する金属に対する接触角は、59.0~80.0°であればよく、その組成等については特に限定されない。例えば、着色剤、水、及び、界面活性剤を含有するものがあげられる。好ましくは、着色剤、水、及び、リン酸エステル系界面活性剤を含有するものであり、より好ましくは、リン酸エステル系界面活性剤が、下記一般式(I)
【化4】
(式中:nは0~20の整数、R
1は炭素数1以上のアルキル基、炭素数6以上のアリール基又は炭素数4以上の不飽和炭化水素基のいずれかであり、R
2はM又は-(CH
2CH
2O)
n-R
3であり、R
3は炭素数1以上のアルキル基、炭素数6以上のアリール基又は炭素数4以上の不飽和炭化水素基のいずれかであり、Mは水素原子、アルカリ金属原子、アンモニウム基、有機アンモニウム基又は有機アミン基のいずれかである。Mが2つある場合はそれぞれ異なっていてもよい。)
で表される化合物であるか、HLBが9.0以上のものである。
【0010】
<接触角>
第1の態様の水性ボールペン用インキ組成物の、インキ収容筒を構成する金属に対する接触角は、59.0~80.0°である。接触角の下限値として、好ましくは、59.1°、より好ましく59.2°である。また、接触角の上限値として、好ましくは、76.0°、より好ましくは75.0°である。接触角が59.0~80.0°の範囲を外れると、所期の筆記距離の水性ボールペンレフィルを構成することが困難となる。
インキ収容筒を構成する金属に対する接触角は、市販の接触角測定器を用いることで、容易に測定することができる。本発明においては、例えば、協和界面科学社製CA-X型を用いることができる。
【0011】
本発明は、インキ収容筒を構成する金属に対する水性ボールペン用インキ組成物の接触角を、特定の範囲とすることで、インキ収容筒を構成する金属に対する、インキの濡れやすさと、逆流止めから離油した基油の濡れやすさとを制御していると考えられる。前記接触角を特定の範囲とすることにより、筆記の際に、逆流止めから離油した基油がインキ中に引き込まれることがなくなり、逆流止めから離油した基油がインキ収容筒の壁面に沿って移動することが可能となると推察される。
したがって、本発明において、第1の態様の水性ボールペン用インキ組成物は、インキ収容筒を構成する金属の種類等に応じて、接触角が所定の範囲となるように作製すればよい。
好ましくは、インキ組成物に含有させる界面活性剤、粘度調整剤、湿潤剤、水溶性有機溶剤等の種類及び量を調整することで、接触角を調整することができる。
【0012】
接触角の測定対象となるインキ収容筒を構成する金属としては、インキ収容筒の強度、加工性、耐久性、コスト等を考慮して、任意のものを用いることできる。
本発明においては、ニッケルクロム合金鋼(SUS304系ステンレス鋼)、クロム合金鋼(SUS430系ステンレス鋼)、オーステナイト系ステンレス鋼、快削ステンレス鋼、真鍮、アルミニウム、洋白及びリン青銅合金等のいずれかが用いられる。好ましくは、ニッケルクロム合金鋼(SUS304系ステンレス鋼)、クロム合金鋼(SUS430系ステンレス鋼)、オーステナイト系ステンレス鋼、快削ステンレス鋼、真鍮及び洋白であり、より好ましくは、ニッケルクロム合金鋼(SUS304系ステンレス鋼)、クロム合金鋼(SUS430系ステンレス鋼)、オーステナイト系ステンレス鋼及び快削ステンレス鋼である。
【0013】
<界面活性剤>
第1の態様の水性ボールペン用インキ組成物が含有していてもよい界面活性剤は、アニオン性、カチオン性、ノニオン性及び両性界面活性剤の少なくとも1種である。
好ましくは、リン酸エステル系界面活性剤である。
好ましくは、筆記具用の水性インキ組成物として、書き味やボール受座の摩耗の抑制、潤滑性などを向上するために用いられている、HLB値が5~17のリン酸エステル系界面活性剤を用いることができる。例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸モノエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸ジエステル、リン酸トリエステル、或いはその誘導体から選ばれる1種以上を用いることができる。
リン酸エステル系界面活性剤として、特に好ましくは、下記一般式(I)
【化5】
(式中:nは0~20の整数、R
1は炭素数1以上のアルキル基、炭素数6以上のアリール基又は炭素数4以上の不飽和炭化水素基のいずれかであり、R
2はM又は-(CH
2CH
2O)
n-R
3であり、R
3は炭素数1以上のアルキル基、炭素数6以上のアリール基又は炭素数4以上の不飽和炭化水素基のいずれかであり、Mは水素原子、アルカリ金属原子、アンモニウム基、有機アンモニウム基又は有機アミン基のいずれかである。Mが2つある場合はそれぞれ異なっていてもよい。)
で表される化合物及び/又はHLBが9.0以上のものを用いることができる。
なお、HLBは、川上法〔HLB=7+11.7log(MW/MO)、MW:親水部分の式量の総和、MO:親油部分の式量の総和〕により算出することができる。また、実験等により求めたものでもよい。
【0014】
このようなリン酸エステル系界面活性剤としては、市販のものを用いることができる。例えば、第一工業製薬社製のプライサーフシリーズ(A212C、A215C、A219B、AL、A208B、A208F、A212C、A215C、A219B)、東邦化学工業社製のフォスファノールシリーズ(ML-220、ML-240、RS-410、ED-200、RA-600、ML-200、SM-172、GF-339、GF-199、GF-185、RL-310、RL-210、BH-650、RS-710、RD-720N、PE-510、RB-410、RD-510Y、RD-720N、RS-610、ML-200等)、日光ケミカルズ社製のニッコールシリーズ(DOP-8N、DDP-4、DDP-6、DDP-8、DDP-10、TDP-10、DLP-10、DDP-2等)等及びそれらの塩から選ばれる1種以上を用いることができる。
好ましくは、HLBが9以上のものであり、例えば、プライサーフA212C、同A215C、同A219B、フォスファノールML-220、同ML-240、同RS-410、同ED-200、同SM-172、同GF-339、同RD-720N、同PE-510、同RA-600、同ML-200、ニッコールDLP-10、同TDP-10及びそれらの塩から選ばれる1種以上を用いることができる。
【0015】
界面活性剤としては、HLBが9以上、特に、HLBが9以上のリン酸エステル系界面活性剤を使用することが好ましい。HLBの低い親油性の界面活性剤を含有する場合、油成分の分離が引き起こされやすく、また、インキ組成物に対する溶解性が低いため、インキ組成物が不安定になる傾向がある。
HLBの上限は特に限定されないが、例えば18以下、好ましくは17以下、より好ましくは16.5以下である。
【0016】
第1の態様の水性ボールペン用インキ組成物に界面活性剤が含まれる場合、その含有量は特に限定されず、インキ収容筒を構成する金属に応じて適切な接触角となるように含有量を調整することができる。例えば、インキ組成物全量に対して、0.01~10質量%、好ましくは0.05~5質量%、より好ましくは0.1~5質量%、さらに好ましくは0.1~1質量%である。
界面活性剤の含有量が、0.01質量%未満であると、書き味が悪くなる恐れがある。10質量%を超えると、逆流止めと混ざりやすくなり、また、インキ組成物の経時安定性等の点で問題が生じるおそれがある。
リン酸エステル系界面活性剤の塩を含有する場合には、当該塩の割合が上記範囲内にあることが好ましく、あるいは当該塩とリン酸エステル系界面活性剤の両方を含有する場合には、それらを合わせた質量の割合が上記範囲内にあることが好ましい。
【0017】
<着色剤>
第1の態様の水性ボールペン用インキ組成物に含まれていてもよい着色剤は、水性ボールペン用インキ組成物による筆跡を、美感を有し所望の色調とするために用いるられる。着色剤は、カスレ等がなく筆記性が良好であり、乾燥性、キャップオフ性がいずれも良好であり、インキ中の成分の沈降安定性が良好で保存安定性に優れる等の性質を備える範囲において、水性インキ組成物に含有され得る。
着色剤としては、水性インキ組成物、特に、水性ボールペン用インキ組成物に用いられるものであれば特に限定されない。任意の色調を呈する無機顔料、有機顔料、着色樹脂球、染料等からなる群より選ばれる1種以上を用いることができる。
【0018】
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛、赤色酸化鉄、黄色酸化鉄、群青、紺青、アルミニウム粉やブロンズ粉等の金属粉、蛍光顔料、ガラスフレーク、パール顔料、光輝性顔料等からなる群より選ばれる1種以上を用いることができる。
有機顔料としては、例えば、フタロシアニン系、アゾ系、キナクリドン系、アンスラキノン系、ジオキサン系、インジゴ系、チオインジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、インドリノン系、アゾメチン系等の公知の着色顔料、蛍光顔料からなる群より選ばれる1種以上を用いることができる。
着色樹脂球としては、球状、不定形、中空、扁平状等の樹脂球を、任意の色調を呈する無機顔料、有機顔料又は染料の1種以上で着色したものである。着色樹脂球を形成する樹脂材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリメタクリレート、ベンゾグアナミン、メラミン樹脂、ナイロン等があげられる。
染料としては、水溶性のものが好ましく、直接染料、酸性染料、食用染料、塩基性染料のいずれも使用できる。例えば、アントラキノン系、メチン系、カルボニウム系、金属錯塩系等の着色染料・蛍光染料からなる群より選ばれる1種以上を用いることができる。
【0019】
第1の態様の水性ボールペン用インキ組成物が着色剤を含有する場合、所望の色調となるように適宜調整すればよい。例えばインキ組成物全量に対して0.01~20質量%、好ましくは0.05~15質量%、より好ましくは1~10質量%、さらに好ましくは0.1~8質量%である。着色剤の含有量が0.01質量%未満であると、十分な発色効果が得られない(色が薄い)ことがある。20質量%を超えると、固形分が増加してしまい、流動性、粘度、取扱性、沈降安定性、筆跡のカスレ、製造コスト等で悪影響が生じることがある。なお、着色剤の含有量は、これらの範囲に限定されず、使用する着色剤の種類に応じて、適宜選択してよい。本発明の水性インキ組成物は、光輝剤を含有する場合には、光輝剤の量は特に限定されないが、例えば、0.5質量%~20質量%であってよい。
【0020】
<水>
第1の態様の水性ボールペン用インキ組成物は、構成成分を分散及び/又は溶解させるため、分散媒及び/又は溶剤として機能する水を含有することができる。水としては、例えば、水道水、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水を使用することができる。好ましくは、イオン交換水および蒸留水等が使用される。
水の含有量は特に限定されず、インキ組成物中の各成分の含有量、インキ組成物の粘度等に応じて適宜調整することができる。例えば、第1の態様の水性ボールペン用インキ組成物が水を含有する場合には、例えば1~90質量%であり、好ましくは10~80質量%、より好ましくは20~80質量%、さらに好ましくは50~70質量%である。水の含有量が1質量%未満であると、筆記時のカスレ発生や保存性低下のおそれがある。90質量%を超えると、十分な発色効果が得られない(色が薄い)ことがある。
【0021】
<その他の添加剤>
第1の態様の水性ボールペン用インキ組成物には、必要に応じて、その他の添加剤を添加してもよい。その他の添加剤としては、水性インキ組成物、特に、水性ボールペン用インキ組成物に用いられるものであれば特に限定されない。
代表的なものとして、粘度調整剤(増粘剤)、湿潤剤、分散剤があげられる。
また、防腐防黴剤(ベンゾイソチアゾリン系防腐防黴剤、ペンタクロロフェノール系防腐防黴剤、クレゾール系防腐防黴剤、プロピレングリコール系防腐防黴剤、ヨウ素系防腐防黴剤等の防腐防黴剤等)、防錆剤(ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトレート等)、pH調整剤(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物(水溶液)、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、モルホリン、トリエチルアミン等のアミン化合物、アンモニア(水)等)から選ばれる1種以上を用いることができる。
その他、必要に応じて、分散剤、消泡剤、レベリング剤、凝集防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、酸化防止剤、非熱変色性顔料、非熱変色性染料、蛍光増白剤等を、適宜の量で用いることができる。
【0022】
(粘度調整剤(増粘剤))
粘度の調整等のために粘度調整剤(増粘剤)を含んでいてもよい。粘度調整剤(増粘剤)としては、水性インキ組成物、特に、水性ボールペン用水性インキ組成物に用いられるものであれば特に限定されない。例えば、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン(レオザン)、ダイユータンガム、グアーガム、ローカストビーンガム及びそれらの誘導体等の多糖類、それらの誘導体、セルロース系高分子、架橋性アクリル酸重合体、アルカリ増粘型アクリル系樹脂、ウレタン会合型増粘剤、N-ビニルアセトアミド系樹脂、無機質微粒子等からなる群より選ばれる1種以上を用いることができる。
第1の態様の水性ボールペン用インキ組成物が粘度調整剤(増粘剤)を含有する場合、その含有量は、水性インキ組成物が用途に応じた適当な粘度となるように適宜設定される。例えばインキ組成物全量に対して0~20質量%、好ましくは0.1~10質量%の範囲とすることができる。
【0023】
(湿潤剤)
乾燥性等の調整のために湿潤剤を含んでいてもよい。湿潤剤としては、水性インキ組成物、特に、水性ボールペン用インキ組成物に用いられるものであれば特に限定されない。例えば、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類、糖類、尿素類、これらの誘導体等からなる群より選ばれる1種以上を用いることができる。
第1の態様の水性ボールペン用インキ組成物が湿潤剤を含有する場合、インキ組成物の乾燥性等の特性が所望のものとなるように適宜設定される。例えばインキ組成物全量に対して0.1~30質量%、好ましくは1~20質量%の範囲とすることができる。
【0024】
(分散剤)
含有する着色剤等の顔料の分散を安定化させることを目的として、分散剤を含んでいてもよい。分散剤は、分散後の顔料を安定化させることにより顔料の沈殿を防止する作用を有し、同時にインキ組成物の塗膜を形成するためのビヒクル・結着剤としても機能する。分散剤としては、インキ組成物、特に、水性ボールペン用インキ組成物に用いられるものであれば特に限定されず、市販のものを用いることができる。例えば、スチレン-(メタ)アクリル系樹脂(エマルジョン)、スチレン-マレイン酸系樹脂(エマルジョン)、スチレン-マレイン酸エステル系樹脂(エマルジョン)、(メタ)アクリル系樹脂(エマルジョン)、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂(エマルジョン)、カルボキシメチルセルロースナトリウム等のセルロース系化合物等からなる群より選ばれる1種以上を用いることができる。
第1の態様の水性ボールペン用インキ組成物が分散剤を含有する場合、例えばインキ組成物全量に対して0.1~30質量%、好ましくは1~10質量%の範囲とすることができる。含有量が30質量%を超えると、分散剤が凝集剤として働き、顔料凝集を引き起こすおそれがある。含有量が0.1質量%未満であると、顔料分散が十分に行えず顔料凝集を引き起こすおそれがある。顔料凝集を引き起こすと、インキ中で顔料の沈降が発生し、レフィルからのインキ流出性が悪化するおそれもある。
【0025】
<粘度>
第1の態様の水性ボールペン用インキ組成物の粘度は、適宜設定すればよく、例えば1~100,000mPa・s、好ましくは100~20,000mPa・s、より好ましくは1,000~10,000mPa・s(E型回転粘度計(例えば、東機産業(株)製、TVE型粘度計、3゜R14コーン、0.5rpm))の範囲とすることができる。水性インキ組成物の粘度が1mPa・s未満であると、筆記具先端からのインキの流出性(筆記時に水性インキ組成物が過剰に流出し的確に筆跡を形成できない)、沈降安定性等の点で問題となるおそれがある。水性インキ組成物の粘度が100,000mPa・sを超えると、粘度が高くなりすぎ、筆記具先端からのインキの流出性(インキが流出しない)、インキの取扱性、沈降安定性、筆跡のカスレ、製造コスト等の点で問題となるおそれがある。
【0026】
<pH値>
第1の態様の水性ボールペン用インキ組成物のpHは、特に限定されないが、6~10であることが好ましい。pH値が6未満の酸性側に近づくと、インキ組成物の経時安定性が劣化することがあり、インキ組成物が接触する金属部材の腐食がおこりやすくなる。pH値が10を超えて強アルカリ側に近づくと、インキ組成物の褪色や変色が起きやすい傾向があり、良好な筆跡が得られなくなるおそれがある。
インキ組成物の経時安定性、発色性、筆記性等を特に考慮すると、pH値は7~9であることが好ましい。pH値は、例えば、市販のpHメーターを用いて、20℃にて測定した値を用いることができる。
【0027】
[第2の態様の水性ボールペン用インキ組成物]
第2の態様の水性ボールペン用インキ組成物が含有する着色剤及び水、任意に含んでいてもよい「その他の添加剤」としては、第1の態様の水性ボールペン用インキ組成物において説明した、着色剤、水及び「その他の添加剤」と同様のものとすることができる。さらに、これらの含有量についても、第1の態様の水性ボールペン用インキ組成物における、これらの成分が含有される場合の含有量と同様のものとすることができる。
また、第2の態様の水性ボールペン用インキ組成物の粘度、pHについては、第1の態様の水性ボールペン用インキ組成物であげられた粘度範囲及びpH範囲とすることができる。
【0028】
第2の態様の水性ボールペン用インキ組成物が含有する、下記一般式(II)で表されるHLBが9.0以上のリン酸エステル系界面活性剤としては、第1の態様の水性ボールペン用インキ組成物において用いることができるリン酸エステル系界面活性剤であって、HLB、R
1、R
2、R
3、n及びMがそれぞれ所定の要件を満たすものが用いられる。
【化6】
(式中:
R
2はM又は-(CH
2CH
2O)
n-R
3である。
n=0の場合、R
1は炭素数10以下のアルキル基、炭素数6以上のアリール基又は炭素数4以上の不飽和炭化水素基のいずれかであり、R
3は炭素数10以下のアルキル基、炭素数6以上のアリール基又は炭素数4以上の不飽和炭化水素基のいずれかである。
nが1~20の整数の場合、R
1は炭素数12以上のアルキル基、炭素数6以上のアリール基又は炭素数4以上の不飽和炭化水素基のいずれかであり、R
3は炭素数12以上のアルキル基、炭素数6以上のアリール基又は炭素数4以上の不飽和炭化水素基のいずれかである。
Mは水素原子、アルカリ金属原子、アンモニウム基、有機アンモニウム基又は有機アミン基のいずれかであり、Mが2つある場合はそれぞれ異なっていてもよい。)
【0029】
このようなリン酸エステル系界面活性剤としては、例えば、フォスファノールML-220(R1=R3=C12H25、n=2、モノ(R2=H):ジ(R2=R3(OCH2CH2)n)=7:3、HLB=12.5)、同ML-240(R1=R3=C12H25、n=4、HLB=13.1)、同RS-410(R1=R3=C13H27、n=3、モノ:ジ=1:1、HLB=9.0)、同ED-200(R1=R3=C8H17、n=1、モノ:ジ=1:1、HLB=11.4)、同SM-172(R1=R3=C8H17、n=0、モノ:ジ=1:1、HLB=10.5)、
同GF-339(R1=R3=C6H13~C10H21混合、n=0、モノ:ジ=1:1、HLB=10.0)、同RD-720N(R1=R3=オレイル(不飽和C18)、n=7、HLB14.4、ナトリウム塩)、同PE-510(R1=R3=アリール、 HLB10.5)、プライサーフA212C(R1=R3=トリデシル、n=6、HLB値:9.4)、同A215C(R1=R3=トリデシル、n=10、HLB値=11.5)、同A219B(R1=R3=ラウリル、n=20、HLB値=16.2)等から選ばれる1種以上を用いることができる。
HLBの上限は特に限定されないが、例えば18以下、好ましくは17以下、より好ましくは16.5以下である。
HLBが9以下のリン酸エステル系界面活性剤を用いると、筆記距離が顕著に低下してしまう。また、HLBが18を超えるものは、界面活性剤の入手が困難となり、また、インキ組成物の流出が不安定になりやすくなり、好ましくない。
リン酸エステル系界面活性剤を添加することで、書き味の向上、ボール受座の摩耗の抑制、潤滑性等の特性を向上させることもできる。
【0030】
第2の態様の水性ボールペン用インキ組成物において、リン酸エステル系界面活性剤の含有量は特に限定されない。例えば、インキ組成物全量に対して、0.01~10質量%、好ましくは0.05~5質量%、より好ましくは0.1~5質量%、さらに好ましくは0.1~1質量%である。
【0031】
第2の態様の水性ボールペン用インキ組成物は、金属製インキ収容筒に充填することができ、また、プラスチック製インキ収容筒に充填することもできる。例えば、第1の態様の水性ボールペン用インキ組成物が充填される金属製インキ充填筒に充填することができ、また、ポリプロピレン等のプラスチック製インキ収容筒に充填することができる。
【0032】
[水性ボールペン用インキ組成物の製造方法]
本発明の水性ボールペン用インキ組成物の製造方法は、格別限定されるものではなく、公知の水性インキ組成物の作製方法いずれも用いることができる。
例えば、すべての成分を容器に投入し、ボールミル、ビーズミル、ロールミル、ヘンシェルミキサー、ホモミキサー、プロペラ撹拌機、ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ニーダー、ディゾルバー等の装置により混合・撹拌して分散させることにより、インキを作製することができる。
例えば、水、着色剤、リン酸エステル系界面活性剤等のうちの一部の成分を容器に投入し、前記装置により混合・撹拌して分散させることにより分散液を製造した後に、その余の成分を投入し混合・撹拌して、インキを作製することができる。
水性ボールペン用インキ組成物の作製に際しては、濾過、遠心分離、脱泡等の操作を行い粗大粒子、気体、気泡を除いてもよい。水性インキ組成物の作製時に加熱、冷却、加圧、減圧、不活性ガス置換等の手段を採用することもできる。さらに、インキ作製後にエージング工程を行ってもよい。
【0033】
[レフィル]
本発明の水性ボールペンレフィルは、水性ボールペン用インキ組成物が充填される金属製インキ収容筒と、金属製インキ収容筒の先端部に直接又は接続部材を介して装着された、ボールを回転自在に抱持したボールペンチップを備えている。筆記時には水性ボールペン用インキ組成物が前記インキ収納管から流出し、前記ボールの表面に付着し、ボールの回転によって紙等の被筆記面に転写されることにより、筆記が行われるものである。
【0034】
金属製インキ収容筒を構成する金属としては、第1の態様の水性ボールペン用インキ組成物に係る説明において、インキ収容筒を構成する金属としてあげられた金属を用いることができる。好ましくは、ニッケルクロム合金鋼(SUS304系ステンレス鋼)、クロム合金鋼(SUS430系ステンレス鋼)、オーステナイト系ステンレス鋼、快削ステンレス鋼、真鍮及び洋白であり、より好ましくは、ニッケルクロム合金鋼(SUS304系ステンレス鋼)、クロム合金鋼(SUS430系ステンレス鋼)、オーステナイト系ステンレス鋼及び快削ステンレス鋼である。
【0035】
本発明のボールペンレフィルのボールペンチップにおいて用いられるボールの材質は、一般的に硬度の高いものが使用される。具体的には、WC-Co系、WC-Cr3C2-Co系、WC-TiC-Co系等の炭化タングステンを主要成分とするタングステン系超硬合金、炭化タングステン(WC)、炭化ケイ素(SiC)、窒化チタン(TiN)、ジルコニア(ZrO2)、アルミナ(Al2O3)等の1種以上からなるセラミック等があげられる。本発明においては、炭化ケイ素系のセラミックからなるボールを用いることが好ましい。
ボールのボール径(直径)としては通常0.1mmから2.0mm程度のものが使用され、目的等に併せて適宜調整することができる。
【0036】
本発明のボールペンレフィルにおいて、ボールペンチップに用いられるボール受座の材質は、前記ボールよりも硬度の低いものが用いられる。具体的には洋泊、真鍮、ステンレス等の金属材料の他、ポリオキシメチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、ナイロン、ポリフェニレンエーテル、ポリアクリレート等の樹脂材料を例示することができる。
本発明のボールペンレフィルにおいて、ボール及びボール受座の具体的な組み合わせとしては、例えば、タングステン系超硬合金ボール/ステンレス鋼ボール受座、炭化ケイ素ボール/洋白ボール受座、ジルコニアボール/ポリオキシメチレンボール受座の組み合わせ等があげられる。
【0037】
本発明のボールペンレフィルにおいて、インキ流出量は適宜調整することができる。これにより、筆跡のカスレを抑制でき良好な筆跡を得ることができる。
また、ボールペンチップ中のボールの縦軸方向の移動可能量(クリアランス)は、インキ流出量に応じて適宜調整することができ、例えば、20~50μmとすることができる。
【0038】
本発明のボールペンレフィルは、水性ボールペン用インキ組成物を金属製インキ収容筒に収容し、その後端に逆流止めの基油からなるインキ追従体を備えたものである。インキ追従体の粘度は、例えば、1000~10000mPa・sである。
インキ追従体は、レフィルに収容することができ、インキ収容筒内に充填された水性ボールペン用インキ組成物と相溶性がなく、かつ、インキ組成物に対して比重が小さい物質であり、公知のものを特に制限なく使用できる。また、基油に増粘剤等を含有したものでもよい。
インキ追従体に用いる基油としては、水に不溶もしくは難溶の、例えば、ポリブテン、鉱油、シリコーンオイル等から選ばれる1種以上を用いることができる。基油に含有する増粘剤としては、例えば、微粒子シリカ、リン酸エステルのカルシウム塩、熱可塑性エラストマー等から選ばれる1種以上を用いることができる。さらに、必要に応じて、例えば、増粘助剤(粘土増粘剤、金属石鹸など)、インキ追従体の追従性向上剤(界面活性剤など)、酸化防止剤等を含有させることができる。好ましくは、ポリブテン又は鉱油と金属石鹸の混合物、シリコーンオイルとシリカの混合物があげられる。
【0039】
[水性ボールペン]
本発明の水性ボールペンは、前記水性ボールペンレフィルを軸筒内に配設したもので、ボールペン本体の構造、形状は特に限定されるものではなく、従来より汎用なものが適用できる。
水性ボールペンとしては、ノック式、回転式、スライド式等の軸筒内にペン先を収容可能な出没式ボールペンであって、単色式、2色式、3色式、4色式等のもの、ボールペン以外の筆記具と組み合わせた多機能式とすることができる。また、ペン先を覆うキャップを備えたキャップ式ボールペンであってもよい。
水性ボールペンの軸筒等の部材は、公知の部材を使用すればよい。
【実施例】
【0040】
以下に実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を、「部」は質量部を意味する。
【0041】
[水性インキ組成物構成成分]
水性インキ組成物を構成する成分として以下のものを用意した。
(溶媒)
・水:イオン交換水
(着色剤)
・Pigment Red 267:C.I.Pigment Red 267(赤色顔料)
(増粘剤)
・ケルザン:キサンタンガム(三昌社製商品名)
(防腐剤)
・プロクセル XL-2:(ロンザジャパン社製商品名)
(防かび剤)
・コートサイド PH2:(大阪ガスケミカル社製商品名)
(湿潤剤)
・Gly:グリセリン
・PG:プロピレングリコール
(防錆剤)
・BTA:ベンゾトリアゾール
【0042】
(リン酸エステル系界面活性剤)
・RS-410:フォスファノール RS-410(東邦化学工業社製商品名)
HLB=9.0、n=3、R1=C13アルキル
・A210B:プライサーフ A210B(第一工業製薬社製商品名)
HLB=9.0、n≧1、R1=C12アルキル
・ML-200:フォスファノール ML-200(東邦化学工業社製商品名)
HLB=10.0、n=0、R1=C12アルキル
・PE-510:フォスファノール PE-510(東邦化学工業社製商品名)
HLB=10.5、R1=フェニル
・RA-600:フォスファノール RA-600(東邦化学工業社製商品名)
HLB=11.7、n=4、R1=C6~C10アルキル混合
・ML-240:フォスファノール ML-240(東邦化学工業社製商品名)
HLB=13.1、n=4、R1=C12アルキル
・ML-220:フォスファノール ML-220(東邦化学工業社製商品名)
HLB=12.5、n=2、R1=C12アルキル
・A219B:プライサーフ A219B(第一工業製薬社製商品名)
HLB=16.2、n=20、R1=C12アルキル
【0043】
[実施例1~14、比較例1~2]
上記の成分を、表1に示す量(質量部)用いて水性インキ組成物を下記の方法で作製した。
また、得られた水性インキ組成物を用い水性ボールペンを下記の方法で作製した。
(水性インキ組成物の作製方法)
水及び顔料を含有する混合液をビーズミルにより分散し、顔料ベースを得た。
その後、溶媒、顔料ベース、潤滑剤等の成分を撹拌機を用いて混合し、メッシュによる濾過を行って水性インキ組成物を作製した。
(水性ボールペンの作製方法)
ステンレスボールペンチップ(ボール:超硬合金製・直径1mm)を一端に取り付けたSUS304製インキ収容管を複数本用意し、それぞれに得られた水性インキ組成物を一定量充填した後に、インキ逆流止め(ポリブテンをゲル化したもの)を充填して、ボールペンレフィルを作製した。次に、本体にボールペンレフィルを取り付け、キャップを装着した後、遠心分離機により管中の空気を除去し、それから尾栓を装着して、各水性インキ組成物を用いた水性ボールペンを作製した。
これらの水性ボールペンを用いて、以下のようにして水性インキ組成物の評価を行った。結果を表1に併せて記載する。
【0044】
<接触角>
接触角測定器(協和界面科学社製CA-X型)を用い、SUS304にインキを滴下した1秒後の接触角を測定した。
【0045】
<筆記距離>
水性ボールペンを50℃で4週間横置きで保管した後に、筆記試験機を使用して、筆記線がかすれるまで上質紙に筆記する。かすれた時点を筆記距離として記録した。
筆記試験機:WRITING TESTER MODEL TS-4C-10 SEIKI KOGYO LAB.
筆記条件 :速度 7rpm、荷重 100g、筆記角度 65°
【0046】
<減衰率>
作製した直後の水性ボールペンの筆記距離と、50℃で4週間横置きで保管した後の水性ボールペンの筆記距離とを、それぞれ測定し、保管前後の筆記距離の減衰を、下記式により求めた。
減衰率(%)=(保管後の筆記距離/保管前の筆記距離)×100
【0047】
【0048】
各実施例・比較例の結果からみて明らかなように、インキ収容筒を構成する金属に対する接触角が59~80°である水性ボールペン用インキ組成物は、金属製のインキ収容筒からのインキ流出性が良好であって、筆記距離が十分であって長期に亘って良好な筆跡を形成できることがわかる。