(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】干渉電力推定装置および干渉電力推定プログラムおよび情報収集局
(51)【国際特許分類】
H04B 1/715 20110101AFI20230904BHJP
H04B 17/345 20150101ALI20230904BHJP
H04L 27/26 20060101ALI20230904BHJP
【FI】
H04B1/715
H04B17/345
H04L27/26 410
(21)【出願番号】P 2020033360
(22)【出願日】2020-02-28
【審査請求日】2022-06-23
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、総務省、戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(72)【発明者】
【氏名】田久 修
(72)【発明者】
【氏名】小林 岳
【審査官】川口 貴裕
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-518760(JP,A)
【文献】中国特許第1148024(CN,C)
【文献】特開2007-088856(JP,A)
【文献】特開2019-021964(JP,A)
【文献】阿部 京華ほか,LoRaWAN CSS変調方式におけるシミュレーションおよび実験による伝送特性評価とその応用事例について,電子情報通信学会技術研究報告,2018年12月13日,第118巻,第372号,pp.83~87
【文献】竹内 嘉彦ほか,LPWA(CSS変調方式)の復調方法とマルチホップ方法の検討,電子情報通信学会技術研究報告,2017年07月12日,第117巻,第130号,pp.179~184
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/715
H04B 17/345
H04L 27/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
任意の無線端末からの信号であって送信データが所定の集合に属するシンボルごとに所定の拡散率でチャープ変調されている信号を含む電波を受信し、前記電波から干渉電波の電力を推定する干渉電力推定装置であって、
前記シンボルのそれぞれは
2ビット以上の構成であり、
前記電波を受信した信号を受信スペクトラム信号に変換するユニットと、
前記シンボルごとにチャープパターンが用意され、前記受信スペクトラム信号とそれぞれのチャープパターンとの相関値を比較することにより、前記送信データに含まれるシンボルを最尤推定するユニットと、
最尤推定されたシンボル以外のチャープパターンに係る相関値を平均化処理するか、または前記最尤推定されたシンボル以外のチャープパターンに係る相関値の最大値を選択して、前記干渉電波の強度を推定するユニットを備えた、干渉電力推定装置。
【請求項2】
さらに、最尤推定されたシンボルのチャープパターンに係る相関値から信号電波の強度を推定するユニットを備えた、請求項1に記載の干渉電力推定装置。
【請求項3】
前記送信データは前記シンボルをそれぞれ所定数含む複数のパケットにより構成されることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の干渉電力推定装置。
【請求項4】
前記相関値の演算処理は前記チャープパターンごと並列
に実行されることを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の干渉電力推定装置。
【請求項5】
信号対干渉電力比が所定の閾値以上のときに干渉電波の強度の推定を有効とするユニットをさらに備えた、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の干渉電力推定装置。
【請求項6】
任意の無線端末からの信号であって送信データが所定の集合に属するシンボルごとに所定の拡散率でチャープ変調されている信号を含む電波を受信し、前記電波から干渉電波の電力を推定することを行わせるための干渉電力推定プログラムであって、
前記シンボルのそれぞれは
2ビット以上の構成であり、
前記電波を受信した信号を受信スペクトラム信号に変換するステップと、
前記シンボルごとにチャープパターンが用意され、前記受信スペクトラム信号とそれぞれのチャープパターンとの相関値を比較することにより、前記送信データに含まれるシンボルを最尤推定するステップと、
最尤推定されたシンボル以外のチャープパターンに係る相関値を平均化処理するか、または前記最尤推定されたシンボル以外のチャープパターンに係る相関値の最大値を選択して、前記干渉電波の強度を推定するステップを実行させるための干渉電力推定プログラム。
【請求項7】
さらに、最尤推定されたシンボルのチャープパターンに係る相関値から信号電波の強度を推定するステップを
実行させるための、請求項6に記載の干渉電力推定プログラム。
【請求項8】
前記送信データは前記シンボルをそれぞれ所定数含む複数のパケットにより構成されることを特徴とする請求項6または請求項7のいずれかに記載の干渉電力推定プログラム。
【請求項9】
前記相関値の演算処理は前記チャープパターンごと1シンボルの伝送時間内に実行されることを特徴とする、請求項6から請求項8のいずれか1項に記載の干渉電力推定プログラム。
【請求項10】
信号対干渉電力比が所定の閾値以上のときに干渉電波の強度の推定を有効とするステップをさらに
実行させるための、請求項6から請求項9のいずれか1項に記載の干渉電力推定プログラム。
【請求項11】
請求項1から請求項5に記載の干渉電力推定装置または請求項6から10に記載の干渉電力推定プログラムを備えた情報収集局。
【請求項12】
前記干渉電波の強度が所定値を超えたとき、前記無線端末に対して前記拡散率を拡大する指示を送信することを特徴とする、請求項11に記載の情報収集局。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同じ周波数帯を複数の規格が利用する環境においてスペクトラムの拡散率を最適化するための干渉電力推定装置および干渉電力推定プログラムおよび情報収集局に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LPWA(Low Power Wide Area)がIoT(Internet of Things)の活用に適しているとして注目を集めている(非特許文献1)。LPWAは低消費電力で長距離通信が可能な通信規格である。電源が確保しにくい環境であっても、バッテリーで長時間の使用が可能なためIoTのニーズに合致し活用されることが多い。
【0003】
しかし、LPWAに分類される無線通信システムはそれぞれ独立に提案されているため(例えば、LoRa、SIGFOX、Wi-SUN)、同一周波数を使用する他の無線通信システムから干渉(CCI:Co-Channel Interference)を受けてしまう可能性がある。LPWAの代表例であるLoRaはスペクトラム拡散技術の一種であるチャープ変調を使用している(特許文献1)。この方式では信号の拡散率を大きくすることで干渉電力への耐性を高めることができる。例えば、他の無線通信システムから干渉の周波数帯域が比較的狭い場合は、周波数マスクによって干渉波を除去する方法がある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-193049号公報
【文献】特開2009- 58308号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】総務省、“LPWAに関する無線システムの動向について”、平成30年3月7日(https://www.soumu.go.jp/main_content/000543715.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、干渉に対する耐性を高めようとすればスペクトラムをさらに拡げる必要があり、チャープ変調の場合、スペクトラムの拡大は同時に伝送レートの低下につながる。そのため、干渉の電力を正確に見積もり、干渉に合わせた適切な拡散率の設計が必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る干渉電力推定装置は、任意の無線端末からの信号であって送信データが所定の集合に属するシンボルごとに所定の拡散率でチャープ変調されている信号を含む電波を受信し、前記電波から干渉電波の電力を推定する干渉電力推定装置であって、前記シンボルのそれぞれは2ビット以上の構成であり、前記電波を受信した信号を受信スペクトラム信号に変換するユニットと、前記シンボルごとにチャープパターンが用意され、前記受信スペクトラム信号とそれぞれのチャープパターンとの相関値を比較することにより、前記送信データに含まれるシンボルを最尤推定するユニットと、最尤推定されたシンボル以外のチャープパターンに係る相関値を平均化処理するか、または前記最尤推定されたシンボル以外のチャープパターンに係る相関値の最大値を選択して、前記干渉電波の強度を推定するユニットを備える。
【0008】
前記干渉電力推定装置において、さらに、最尤推定されたシンボルのチャープパターンに係る相関値から信号電波の強度を推定するユニットを備えてもよい。
【0009】
前記干渉電力推定装置において、前記送信データは前記シンボルをそれぞれ所定数含む複数のパケットにより構成されてもよい。
【0010】
前記干渉電力推定装置において、前記相関値の演算処理は前記チャープパターンごと並列に実行されてもよい。
【0011】
前記干渉電力推定装置において、信号対干渉電力比が所定の閾値以上のときに干渉電波の強度の推定を有効とするユニットをさらに備えてもよい。
【0012】
本開示の一態様に係る干渉電力推定プログラムは、任意の無線端末からの信号であって送信データが所定の集合に属するシンボルごとに所定の拡散率でチャープ変調されている信号を含む電波を受信し、前記電波から干渉電波の電力を推定することを行わせるための干渉電力推定プログラムであって、前記シンボルのそれぞれは2ビット以上の構成であり、前記電波を受信した信号を受信スペクトラム信号に変換するステップと、前記シンボルごとにチャープパターンが用意され、前記受信スペクトラム信号とそれぞれのチャープパターンとの相関値を比較することにより、前記送信データに含まれるシンボルを最尤推定するステップと、最尤推定されたシンボル以外のチャープパターンに係る相関値を平均化処理するか、または前記最尤推定されたシンボル以外のチャープパターンに係る相関値の最大値を選択して、前記干渉電波の強度を推定するステップを実行させる。
【0013】
前記干渉電力推定プログラムにおいて、さらに、最尤推定されたシンボルのチャープパターンに係る相関値から信号電波の強度を推定するステップを実行させてもよい。
【0014】
前記干渉電力推定プログラムにおいて、前記送信データは前記シンボルをそれぞれ所定数含む複数のパケットにより構成されていてもよい。
【0015】
前記干渉電力推定プログラムにおいて、前記相関値の演算処理は前記チャープパターンごと1シンボルの伝送時間内に実行されてもよい。
【0016】
前記干渉電力推定プログラムにおいて、信号対干渉電力比が所定の閾値以上のときに干渉電波の強度の推定を有効とするステップをさらに実行させてもよい。
【0017】
本開示の一態様に係る情報収集局は、前記干渉電力推定装置または前記干渉電力推定プログラムを備えた。
【0018】
前記情報収集局において、前記干渉電波の強度が所定値を超えたとき、前記無線端末に対して前記拡散率を拡大する指示を送信してもよい。
【発明の効果】
【0019】
本開示の一態様によれば、チャープ変調の性質を利用することにより、干渉の影響を正確に把握することができ、その結果、必要最小限の拡散率を設定することができ、効率的なLPWA通信を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本開示の一態様に係る実施の形態(本実施の形態)のブロック図である。
【
図2】本実施の形態における電力推定ユニットのブロック図である。
【
図5】本実施の形態の動作を示すフローチャートである。
【
図6】チャープ変調信号に対する干渉波モデルを示した概念図である。
【
図7】拡散率を高めたチャープ変調信号の概念図である。
【
図8】本開示の実施例のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図9】本開示の実施例のシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本開示の一態様に係る実施の形態(以下、本実施の形態)における干渉電力推定装置について図面を参照しながら詳細に説明する。本実施の形態においては、任意の無線端末(図示せず)から送信される電波を干渉電力推定装置を備えた情報収集局が受信しているとする。さらに前記無線端末以外の無線端末から電波干渉を受けているとする。
図1に本実施の形態の干渉電力推定装置のブロック図を、
図2に要部のブロック図を示す。併せて本実施の形態の動作のフローチャートを
図5に示す。
【0022】
本実施の形態の説明においては、装置のブロック図である
図1および
図2を用いるが、
図5で示されるフローチャートを実行できるものであれば、その実現手段はASICやFPGAのようなハードウェアで構成されるものに限られなくてもよい。例えば、装置の一部または全部をマイクロプロセッサ上に設けられたプログラムモジュールで構築されてもよい。またプログラムは予め装置内に組み込まれていてもよいが、外部のサーバーなどからダウンロードするものであってもよい。
【0023】
図1において、1はアンテナであり、前記無線端末(図示せず)からの信号と他端末からの干渉電波を同時に受信している。アンテナ1の出力はヘッドアンプ2で所定の振幅まで増幅された後、受信信号としてFFTユニット3に送られる。以降の動作は
図5のフローチャート(S101~S105)にも示す。FFTユニット3は、この受信信号を逐次フーリエ変換する。その結果、受信信号の周波数スペクトラムがリアルタイムに検出され、周波数成分が時間的に変化する受信スペクトラム信号f(t)として出力される(S101)。
【0024】
ここで、前記無線端末は送信データを所定の拡散率でシンボルごとにチャープ変調を行い、順次無線送信しているものする。送信データ中のすべてのシンボルは所定の集合(s
1、s
2、・・・、s
k)に属しているとする。k=2の場合のチャープ変調された信号の周波数スペクトラム信号の一例を
図3に示す。すべてのシンボルは1ビットで表記される集合(s
1、s
2)に属し、ここではシンボルs
1はデータ0で、シンボルs
2はデータ1でそれぞれ構成されているとする。対応するチャープパターンC(s
1)(アップチャープ)、C(s
2)(ダウンチャープ)をそれぞれ割り当てることで、任意のパケットにおける送信データ(例えば1100)を同図のように周波数が段階的にアップ/ダウンする信号として送信することができる。本実施の形態では、アップチャープおよびダウンチャープの段数(拡散率)は4としているが、この拡散率は任意に設定することができる。拡散率が高いほど信号対雑音電力比(SNR)や信号対干渉電力比(SIR)は改善されるが、通信速度は拡散率に反比例して低下する。
【0025】
k=4の場合のチャープ変調の例を
図4に示す。この例では各シンボルは2ビットで構成されるすべてのパターンの集合に属する(∈00、01、11、10)とする。すなわち2ビットデータ00、01、11、10をシンボルs
1、s
2、s
3、s
4とし、さらに、それぞれに対応するチャープパターンC(s
1)、C(s
2)、C(s
3)、C(s
4)を割り当てる。各チャープパターンは基本パターンであるC(s
1)を1段階ずつ循環シフトさせたパターンとなっている。なお、チャープパターンは互いに相関の無いものであれば上記2例に限られず、また周波数を段階的に変えたものでなくても(例えばホッピングしたものであっても)よい。
【0026】
図1において、メモリ5a、5b、5cは所定の集合に属する(∈s
1、s
2、・・・、s
k)シンボルの数(k)だけ設けられ、それぞれシンボルに対応するチャープパターンが登録されている。これらのチャープパターン(C(s
1)、C(s
2)・・・C(s
k))に対し、相関器4a、4b、4cは、それぞれ受信スペクトラム信号f(t)との相関演算を実行し、それぞれ相関値(r
1、r
2、・・、r
k)として出力する(S102)。相関演算の方法としては、例えば、周波数軸上でf(t)×C(s
i)(i=1、2、・・k)をそれぞれ演算し、各演算値を時間軸上で積分する方法であってもよい。このとき積分時間は1シンボル期間内であればよい。
【0027】
なお、相関演算処理はチャープパターン(C(s1)、C(s2)・・・C(sk))ごと並列に実行されることが好ましい。並列かつ同時に実行されるとより好ましいが、プログラム処理等の場合、無視できる程度の間隔であれば時分割処理されてもよい。いずれにせよ1シンボルの伝送時間内に実行されるものであればよい。
【0028】
無線端末以外からの干渉が無いとすると、受信スペクトラム信号f(t)といずれかのチャープパターンが一致している場合、対応する相関器からは、相関値として受信スペクトラム信号f(t)の二乗すなわち信号電力のディメンジョンを持つ値が出力される。一方、チャープパターンが一致していない積分器からはゼロ(ノイズレベルの値)が出力される。
【0029】
そこで、最尤推定ユニット6は各相関器の出力(r1、r2、・・、rk)を相互に比較し、送信データに含まれるシンボルを最尤推定し最も確からしい推定シンボルsMLEとして出力する(S103)。最尤推定の方法としては、例えば、相関値が最大となるチャープパターンに係るシンボルを選び出す。推定されたシンボルは順次出力され、パケットごとに一旦区切られる。各パケットの最後尾はパリティとなっていて、CRCユニット7によりエラーチェックが実行される。
【0030】
各相関器の出力(r
1、r
2、・・、r
k)は電力推定ユニット8にも供給される。本実施の形態において、電力推定ユニット8は最尤推定されたシンボルs
MLE以外のチャープパターンに係る相関値から前記干渉電波の強度を推定する(S104)。また、最尤推定されたシンボルs
MLEのチャープパターンに係る相関値から前記信号電波の強度を推定する(S105)。電力推定ユニット8の詳細なブロック図を
図2に示す。
【0031】
図2においてデコーダ83a~83cの各入力には最尤推定されたシンボルs
MLE(mビット)が供給され、各デコーダの正論理出力は、ゲート81a~81c(計k個)の制御入力に、負論理出力はゲート82a~82c(計k個)の制御入力に、それぞれ供給される。各デコーダは、それぞれシンボルs
1、s
2、・・、s
kに対応するラベルを有し、当ラベルと一致するmビットコードが入力されたときにのみ反応し、正論理出力が0→1(負論理出力は1→0)と変化するように設計されている。例えば、シンボルs
MLEが電力推定ユニット8に供給されたとき、シンボルs
MLEに対応するラベルを有するゲート83bのみが反応し、ゲート81b(正論理側)を開く。その結果、積算器84にその相関値(r
MSE=P
D)が送られる。これについては後述する。
【0032】
一方、反応したデコーダ83bの負論理出力により、ゲート82a~82c(計k個)のうちシンボルs
MLE以外の系統のゲートが開き、干渉電力推定ユニット85にこれらk-1個の相関値(r
MSE以外)が送られる。干渉電力推定ユニット85の動作について以下、説明する。先ずk=2の場合について説明する。
図6の上段に、
図2の受信スペクトラム信号、すなわち(s
1、s
2)=(0、1)の場合、それぞれのシンボルに対してアップチャープおよびダウンチャープした信号に、干渉が重畳された受信スペクトラム信号を模式的に示す。この受信スペクトラム信号からシンボルs
2、s
2、s
1、s
1(データ表記で1100)が推定されたとすると(同図二段目)、干渉電力推定ユニット85には、推定された以外のシンボルが送られる。K=2の場合“推定された以外のシンボル”は1通りしかなく、すなわちそれぞれのシンボルの反転値であるs
1、s
1、s
2、s
2(データ表記で0011)が送られる(同図三段目)。
【0033】
さらに干渉電力推定ユニット85には、これらの反転シンボルに対応するチャープパターン(
図6最下段)との相関演算結果が送られてくる。上述のように、干渉が無く、受信データにエラーが無いときは、この値はゼロ(またはノイズレベル)である。しかし、干渉がある場合、干渉成分はチャープしていないため信号成分のチャープとの交差が発生し、よって相関値はゼロにはならない。このときの相関値は干渉成分の強度と相関があることは言うまでもない。
【0034】
1シンボルが多ビット(m(≧2)ビット)構成である場合、K=2
m>2となり、“推定された以外のシンボル”は複数(K-1)存在し、干渉電力推定ユニット85には複数(K-1)の相関値が送られる。これらの相関値はチャープパターンごとに異なる場合があるので、干渉電力推定ユニット85はこれらの値を平均化処理して出力してもよい。また、最大値となる相関値を選択して出力してもよい。干渉電力推定ユニット85の出力P
Iは積算器86によりパケットごとに集積され、推定結果は干渉推定電力P
I^(
図2および式(1)では上線で表示)として出力される。
【数1】
【0035】
積算器84には推定されたシンボルs
MLEに係る相関値r
MSEのみが供給される。この相関値は、干渉やノイズが無いときは受信信号の二乗のディメンジョンを有し、信号電力を示す値(P
D)となる。積算器84は、信号電力P
Dをパケットごとに集積し、信号推定電力P
D^(
図2および式(2)では上線で表示)として出力する。
【数2】
ここでNはパケットを構成するシンボルの数である。なお、上式(1)、(2)における1/Nの演算手段については
図2では記載を省略している。
【0036】
受信信号に重畳した干渉がある程度大きくなると、シンボルの最尤推定に誤差が生じることがある。有効判定ユニット87は信号対干渉電力比(SIR:Signal to Intereference Ration)が所定の閾値以上のときに干渉電波の強度の推定を有効とする(S106)。言い換えれば、それ以外の場合は干渉推定電力PI^の出力を停止する。あるいは推定不可を表す識別可能なコードを出力してもよい。信号対干渉電力比(SIR)は信号推定電力PD^と干渉推定電力PI^の比率計算によって求めてもよい。前記閾値の値は誤差目標によって異なる。またパケット長によっても変わるので、適宜変えられる状態にしておくのが好ましい。信号対干渉電力比と誤差の関係、および閾値については、後の実施例で改めて説明する。
【0037】
なお、有効判定ユニット87の動作は干渉推定電力PI^が確定する前に完了している必要がある。したがって、図示はしていないが、積算器86との間には何らかの時間調整が必要である。また、CRCユニット7の結果を用いても推定結果の無効化処理を行うことができる。これについては後述の実施例の中で比較例として改めて説明する。
【0038】
以上のように得られた干渉推定電力P
I^は、次のパケットのチャープの拡散率の決定に用いることができる。例えば、干渉推定電力P
I^が所定値を超えたとき、情報収集局は無線端末に対して拡散率を拡大する指示を送信してもよい。このとき、
図7に示すように、チャープの段数を増やす(4→8)ことにより、拡散率を拡大させてもよい。この操作により、SIRは改善し他システムからの干渉による通信エラーの発生を低減することができる。しかし、拡散率の拡大に応じて転送速度は低下する。
【0039】
なお、1シンボル当たりのビット数mが多い場合、k=2m種類のチャープパターンが必要となるため、各チャープパターンは複雑化する。このとき、チャープパターンごとに推定値が異なる場合が生じ得る。このような場合、パターン別に干渉電力を推定し、拡散率を決定してもよい。
【実施例】
【0040】
以下、本開示の実施例について説明する。本実施例では、パケット数は10000とし、1パケットあたりのシンボル数(N)は1024とした。またチャープ変調の拡散率は1とした。推定誤差(推定した干渉電力と真の干渉電力と間の平均二乗誤差(RMSE:Root Mean Square Error))と信号対干渉電力比(SIR)との関係をシミュレーションし、それらの比較を行った。比較例としてCRCで誤りなしと判定されたパケットのみを用いる場合についても検討した。
【0041】
図8にシミュレーション結果を示す。図中RMSEは推定誤差を示し、小さい値ほど良好な推定精度を達成している。記号“+”はCRCによらずすべてのパケットからSIRを推定した場合、記号“◇”はCRCに成功した場合においてのみ(エラーが無い場合においてのみ)推定処理を行った場合、記号“・”は受信機側で送信ビットが既知である場合の結果であり、今回のSIR推定の下界となる。同図より、CRCを用いたとき、SIRが10dBより大きければ、下界と同等の推定精度を達成していることが確認された。しかしSIRが10dB以下になると、殆どのパケットでエラーが発生するため推定に用いることができるパケットが激減し、推定困難となった。
【0042】
図9に各SIRに対するパケット誤り率の結果を示す。同図よりSIRが10dBを下回る場合、PERはほぼ1.0(全部エラー)となり、ほぼすべてのパケットがSIR推定に用いることができないことになる。その結果、CRCを用いた場合には、SIRが低いときの推定が困難になる。一方、CRCを用いなかった場合には、SIRが7dB以上あれば、RMSE0.1以下を達成している。
【0043】
そこで、本実施例においては、CRCの結果を用いるよりも、推定したSIRが閾値(7dB)以上であるかどうかでRMSE(誤差)が大きい推定値を除去するようにした方が、より好ましいと考えられる。それゆえ、低SIR環境での推定が求められる場合には、推定SIRと所定の閾値との比較によりSIR推定値として採用するかどうかの判断をすることで、大きな推定誤差を回避できることがわかる。なお、本実施例において閾値を7dBとしたが、閾値の値は目標とするRMSEによって異なり、またパケット長によっても変わるので、適宜変更できるようにしておくのが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、LPWAに限らず、5G以降の通信システム、特にIoTが関わる分野、例えば、コネクテッドカー、スマートメータ、ウェラブルモニター、等に利用することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 アンテナ
2 ヘッドアンプ
3 FFTユニット
4a~4c 相関器
5a~5c メモリ
6 最尤推定ユニット
7 CRCユニット
8 電力推定ユニット
81a~81c ゲート
82a~82c ゲート
83a~83c デコーダ
85 干渉電力推定ユニット
87 有効判定ユニット