(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】水溶性塩粒子を含有する組成物およびそれから作製される多孔性材料
(51)【国際特許分類】
A61L 27/56 20060101AFI20230904BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20230904BHJP
C08J 9/26 20060101ALI20230904BHJP
C08J 9/40 20060101ALI20230904BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20230904BHJP
A61L 27/18 20060101ALI20230904BHJP
A61L 27/48 20060101ALI20230904BHJP
【FI】
A61L27/56
A61L27/54
C08J9/26 101
C08J9/40 CFD
A61L27/38
A61L27/18
A61L27/48
(21)【出願番号】P 2020528405
(86)(22)【出願日】2018-11-27
(86)【国際出願番号】 US2018062595
(87)【国際公開番号】W WO2019108531
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-11-25
(32)【優先日】2017-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500041019
【氏名又は名称】ノースウェスタン ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】ジャクス、アダム イー.
(72)【発明者】
【氏名】シャー、ラミール エヌ.
(72)【発明者】
【氏名】ゲイセンドルファー、ニコラス アール.
【審査官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103910901(CN,A)
【文献】特開平05-098576(JP,A)
【文献】特開昭64-089486(JP,A)
【文献】特表2002-514253(JP,A)
【文献】特表2017-523252(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/00
C08J 9/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性材料を形成する方法であって、
固体含有物を有する組成物を形成する工程であって、前記固体含有物が、
少なくとも一部が水溶性塩粒子である固体粒子と、
前記固体粒子を一緒に保
つための結合剤として機能するポリマーとを含み、
前記固体粒子が前記固体含有物の少なくとも20体積%である、形成工程;
前記形成工程の後に、前記組成物を塩水和溶液に曝露することにより前記水溶性塩粒子を水和する工程であって、前記水溶性塩粒子は溶解されずに水和によって体積が増大する、水和工程;および
前記水和工程の後に、前記水和した水溶性塩粒子の少なくとも一部を水に溶解させて前記多孔性材料を形成する、溶解工程を備える方法。
【請求項2】
前記形成工程が、室温で実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記組成物が生物活性因子を含む場合、前記形成工程が、前記生物活性因子が熱に誘発される分解を受けない十分に低い室温で実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記形成工程の後で且つ前記水和工程の前に、前記組成物をノズルを通して押し出す工程であって、前記押し出された組成物が、急速に乾燥して繊維を形成する、押出工程をさらに備える、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記組成物が生物活性因子を含む場合、前記形成工程および前記押出工程が、前記生物活性因子が熱に誘発される分解を受けない十分に低い室温で実行される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記押出工程が、前記押し出された繊維をプリントされた層に堆積させる、堆積工程をさらに備える、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記堆積工程を繰り返して実行することにより、垂直に積み重ねられた複数のプリント層を含むプリントされた3次元物体を形成する工程をさらに備え、
前記堆積工程を繰り返すことが、前に形成されたプリント層の上に次のプリント層を形成することを含むとともに、
前記次のプリント層の各々は、前のプリント層における前記次のプリント層が堆積される面に接着する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記溶解工程の後に、前記多孔性材料を乾燥させて湿気を除去する乾燥工程をさらに備える、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記溶解工程の後に、前記多孔性材料を焼結する焼結工程をさらに備える、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記多孔性材料中の空孔を液体溶液またはヒドロゲルで埋め戻す工程をさらに備える、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記液体溶液または前記ヒドロゲルが、その中に分散された生体細胞、生物活性因子、またはそれらの組合せを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記多孔性材料に生体細胞を播種する工程と、前記生体細胞が播種された多孔性材料を、細胞培養培地中で培養する工程をさらに備える、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
多孔性材料の形成に使用するための組成物であって、固体含有物を含み、
前記固体含有物が、
固体粒子であって、前記固体粒子の少なくとも一部が拡大可能な水溶性塩粒子であるとともに前記固体粒子の少なくとも一部が水に溶解しない、固体粒子と、
前記固体粒子を一緒に保つための結合剤として機能するポリマーとを含み、
前記固体粒子が、前記固体含有物の少なくとも20体積%であり、
前記拡大可能な水溶性塩粒子が、前記固体粒子の20~80体積%であり、
前記拡大可能な水溶性塩粒子が、塩水和溶液に溶解せず
に、前記塩水和溶液に曝露されるときに
水和されて、最初の体積と比較して少なくとも10%の体積拡大が可能であ
り、
拡大した水溶性塩粒子の少なくとも一部が水に溶解することにより前記材料に多孔を残すことが可能である、組成物。
【請求項14】
前記拡大可能な水溶性塩粒子が、前記塩水和溶液に曝露されるときに、最初の体積と比較して少なくとも20%の体積拡大が可能である、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記拡大可能な水溶性塩粒子が、前記塩水和溶液に曝露されるときに、最初の体積と比較して少なくとも30%の体積拡大が可能である、請求項13に記載の組成物。
【請求項16】
前記拡大可能な水溶性塩粒子が、前記塩水和溶液に曝露されるときに、最初の体積と比較して少なくとも36%の体積拡大が可能である、請求項13に記載の組成物。
【請求項17】
前記拡大可能な水溶性塩粒子が、前記固体粒子
の40
~60体積%である、請求項13に記載の組成物。
【請求項18】
水に溶解しない前記固体粒子が、共有結合性固体、イオン性固体、および金属性固体からなる群から選択される、請求項13に記載の組成物。
【請求項19】
前記
拡大可能な水溶性塩粒子がCuSO
4を含む、請求項
13に記載の
組成物。
【請求項20】
前記ポリマーがポリ乳酸-co-グリコール酸
(PLGA)を含む、請求項
13に記載の
組成物。
【請求項21】
前記固体含有物
の70体積%がCuSO
4
である、請求項13に記載の組成物。
【請求項22】
前記固体含有物が、
30体積%のPLGAと、
35体積%のCuSO
4と、
ニッケル(Ni)金属、イットリアで安定化されたジルコニア(YSZ)セラミック、およびグラフェン(Gr)からなる群から選択され
た35体積%の材料とを含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項23】
請求項13に記載の組成物を作成する方法であって、
前記固体粒子および前記ポリマーを溶媒と混合する工程であって、前記ポリマーが前記溶媒に実質的に可溶であり、前記固体粒子が前記溶媒に溶解しない、混合工程を備える、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水溶性塩粒子を含有する組成物およびそれから作製される多孔性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
材料系-金属、セラミック、ポリマー、生物系、複合体、その他-に関係なく、空孔率は、材料またはデバイスの機械的、物理的、化学的、および生物学的特性および性能に実質的に影響し得る、主要な、決定的な構造特徴である。例えば、材料における上昇した空孔率は、その完全に密な対応物と比較して剛性が低下し得るが、同時に重量当たりの強度は増大し得る。空孔率が増大するにつれて単位重量当たりの合計表面積も増大し、これは、バッテリー、固体酸化物燃料電池、および、表面に媒介される触媒作用および反応に依存する追加の用途などの、触媒系または電気化学系のために望ましい可能性がある。生物学的見地から、ポリマーまたは生体材料などのバイオマテリアル中において、空孔率は、対象の組織または器官にかかわらず、適切な組織の組込み、インプラントの受容、および全体的な生体機能性にとって決定的に重要であることが立証されている。これらの例は、空孔率が役立つ多くの用途のうちのごく少数例に過ぎず、多様な範囲の用途および分野にわたって多くのタイプの材料の特性および性能に影響を及ぼすことにおけるこの特徴の重要性を立証する。
【0003】
空孔率のこの重要な役割は、研究者を、数十年を費やして研究し、階層的空孔率としばしば称される種々の長さのスケールにわたる、画定され操作された空孔率を有する材料および構造を製造する、効果的な製造およびモデル化手法並びに方法論を開発するように導いた。科学的または工学的分野によって、特定の空孔形成プロセスおよび生じた構造に与えられた名称はいろいろであり得るが(「スキャフォールド」、「多孔性の固体(cellular solid)」、「フォーム(foam)」など)、幾つかの主要な方法には、発泡、凍結キャスティング、フリーズドライ(凍結乾燥としても知られている)、溶解に基づく溶脱、および固体状態のポロゲン(porogen)熱分解が含まれる。種々のプロセスに特異的なパラメーターの変化によって、合計空孔率、空孔サイズ、サイズ分布、および形状などの操作される空孔率の性質は影響され得るが、生じる物体の全体にわたって精密に制御されることはない。材料および製作された構造内により大きいスケール(ミリメートルからセンチメートル)の制御された空孔率を導入するために、たとえば、押出し、ならびにより最近では、付加製造(additive manufacturing)および3D-プリンティングなどの付加的プロセスが利用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多孔性の3次元(3D)材料、ならびに、繊維、フィルムおよびコーティングを含む、該材料から形成された物体を形成する方法が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
多孔性材料を形成する方法の1つの実施形態は、(a)ポリマー結合剤および固体粒子を含む材料を形成する工程であって、組成物がその固体含有物に基づいて少なくとも約20体積%の固体粒子を含み、固体粒子の少なくとも一部が水溶性塩粒子である、工程;(b)前記材料をアルコール水溶液などの塩を水和する溶液に曝露する工程であって、前記水溶性塩粒子は水和するが溶解されずに体積が増大する、工程;および(c)前記水和した水溶性塩粒子の少なくとも一部を水に溶解させて、それにより材料中に空孔を残す工程を備える。
【0006】
塩粒子の水和は、実質的な溶解がなく、材料の元の形態を保ちながら、塩粒子および材料自体に大きな体積増大をもたらす。水和した塩粒子は、その後、水中への溶解により除去されることが可能で、材料中に元の塩粒子よりも大きな開放空孔を残す。結果として、多孔性材料中における空孔の体積は、水和を経ていない塩粒子が使用された場合よりも大きくなる。
【0007】
本発明の他の主な特徴および利点は、以下の図面、詳細な説明、および添付の特許請求の範囲を参照すれば、当業者には明らかになるであろう。
本発明の例示の実施形態を、この後で、添付の図面を参照して説明することにする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1-1】
図1A)は、以前報告された、直接押出しで3Dプリントされた関係のあるFe
2O
3、超弾性の「骨」(HB)、3D-グラフェン(3DG)、および火星表土(Martian)組成物と比較した、本開示による多孔性材料の1つの実施形態である、70体積%(vol.%)CuSO
4組成物の剪断応力の関数としての粘度の図。(エー、イー、ジェイクスら(A.E.Jakus,et al.),Advanced Functional Materials 2015,25,6985;エー、イー、ジェイクスら(A.E.Jakus,et al.),Science translational medicine 2016,8,358ral27;エー、イー、ジェイクスら(A.E.Jakus,et al.),ACS Nano 2015,9,4636;およびエー、イー、ジェイクスら(A.E.Jakus,et al.),Scientific Reports 2017.を参照されたい)。
図1B)は、直接室温押出し3D-プリンティングによる70体積%CuSO
4組成物から3Dプリントされた4×4×4cmの立方体の像の図。
【
図1-2】
図1C)は、3DプリントされたCuSO
4から高空孔率のポリ乳酸-co-グリコール酸(「PLGA」;ポリラクチド-co-グリコリド、「PLG」としても知られている)を創出するプロセスおよび段階の概略を説明する模式的例示の図であり、
図1D)は、対応する像の図。溶脱/洗浄の前に、材料は、25、50、および70%CuSO
4と称されて、ここで、%は体積%のことである。洗浄した後、材料は25、50、および70%F-PLGAとそれぞれ称される。プリントされたままでは、CuSO
4材料は灰色/淡青色であるが、水に曝露され、CuSO
4を含む塩が解離すると、鮮明な青色に遷移する。材料からCuSO
4塩が周囲の水性媒体中に完全に溶解したことは、青色から鮮明な白色への色の遷移により示される。
【
図1-3】
図1E)は、受け入れたままのPLGA顆粒ならびに溶脱および凍結乾燥後の3Dプリントされた70%CuSO
4からの同等質量のF-PLGA構造の像の図。
【
図2-1】
図2A)は、受け入れたまま(左)および-325メッシュを通して篩われた後(右)のCuSO
4粉末の走査電子顕微鏡写真の図。
図2B)は、塩溶脱前の0、25、50、および70%CuSO
4組成物から3Dプリントされた単繊維の内部断面(上)および外部表面(下)の走査電子顕微鏡写真の図。
【
図2-2】
図2C)は、切断された、70%CuSO
4の塩が溶脱された繊維の、その独特の多孔性微細構造を示す走査電子顕微鏡写真の図。
【
図3】
図3A)は、塩溶脱、洗浄(水の前に70%エタノールで)および凍結乾燥される前(CuSO
4;プリントされたまま)、および後(F-PLGA)の3Dプリントされた25、50、および70%の5cmの正方形のシートを示す像のシリーズの図。目盛りのバーは全ての像について等しいこと(1cm)に注意されたい。
図3B)は、溶脱/洗浄(最初にエタノールで洗浄)後に、25、50、および70%のF-PLGAの3Dプリント試料に残る銅の平均濃度の図。
図3C)は、直線状の寸法変化の平均の図。
図3D)は、70%エタノールに続いて水で(エタノールが最初)または水に続いて70%エタノールで(水が最初)溶脱/洗浄された後における3Dプリントされた25、50、および70%CuSO
4構造の質量損失の図。D)は、各材料を創出するために使用されたCuSO
4に対するPLGAの質量比に基づく各材料群の理論的最大質量損失も表す。誤差バーは、平均からの標準偏差を表す。B)およびC)における
*:同じ洗浄条件による組成群間でp≦0.05。C)における
**:同じ組成群および異なる洗浄条件間においてp≦0.05。D)における
*;p≦0.05。
【
図4-1】
図4A)は、3Dプリントされた25、50、および70%F-PLGA(エタノール洗浄が最初)の断面の代表的走査電子顕微鏡写真の図。A)における構造は、90°オフセットしたデザインで3Dプリントされたこと;同じデザインがインビトロにおける研究のために利用されたことに注意されたい。
図4B)は、25、50、および70%F-PLGA(エタノール洗浄が最初)の3Dプリントされた繊維の内部断面(低倍率および高倍率)および外部表面の走査電子顕微鏡写真の図。
【
図4-2】
図4C)は、プリントされたままの、並びに溶脱されて洗浄された(エタノール洗浄が最初)25、50、および70%の繊維の測定された材料空孔率の図。
図4D)は、最初に70%エタノールで、続いて水で(エタノールが最初)洗浄された、または最初にH
2Oで、続いて70%エタノールで(水が最初)洗浄された25、50、および70%のF-PLGAの3Dプリントされた材料の平均相対吸収率の図。誤差バーは、平均からの標準偏差を表す。C)およびD)における
*:異なる洗浄条件下における同じ組成群についてp≦0.05。
【
図5-1】
図5A)は、25、50、および70%のプリントされたままの試料(CuSO
4)、溶脱/洗浄されて凍結乾燥された(乾燥された)試料、ならびに溶脱/洗浄されて凍結乾燥されて再水和した試料についての代表的引張り応力対歪み曲線の図。挿入図は、機械的特徴づけのために利用された典型的な3Dプリントされた引張り検体(20mmゲージ長さ)の像を示す。
【
図5-2】
図5B)は、プリントされたままの、乾燥された、水和した条件下における各組成群についての平均引張りモジュラスの図。誤差バーは、平均からの標準偏差を表す。B)における
*:同じ処理条件での組成群中でp≦0.05。
図5C)は、プリントされたままの、乾燥された、水和した条件下における各組成群についての破断歪のパーセントの図。誤差バーは、平均からの標準偏差を表す。C)における
*:同じ処理条件での組成群中でp≦0.05。
【
図6】
図6A)は、最初の細胞播種の1、7、14、および28日後の、0、25、50、および70%F-PLGAにおけるhMSCの生死走査蛍光共焦点3次元再構成を上から見た図。0%の像はJakusらによって以前発表された研究からのものである(エー、イー、ジェイクスら(A.E.Jakus、et al.),Acs Nano 2015,9,4636.を参照されたい)。
図6B)は、最初の播種の1、7、14、および28日後に、各材料群内に見いだされる二本鎖DNA(dsDNA)の平均量の図。
【
図7】播種の1、7、14、および28日後における25、50、および70%F-PLGAのhMSCの代表的走査電子顕微鏡写真の図。
【
図8】アテロコラーゲンまたはペプチド両親媒性物質溶液が注入されてそれがその後ゲル化した70%F-PLGAスキャフォールドの内部の走査電子顕微鏡写真(SEM)の図。
【
図9-1】
図9A)は、グラフェン+CuSO
4、ニッケル金属+CuSO
4、およびYSZ+CuSO
4で構成される化合物の組成物から3Dプリントされた、より大きい正方形から打ち抜かれた試料の像の図。
図9B)は、洗浄(エタノール洗浄が最初)後の化合物、グラフェン、ニッケル金属、およびYSZの3Dプリントされた材料中における残存銅イオン濃度の図。
図9C)は、プリントされたまま、洗浄/溶脱された後(エタノールが最初)、および焼結された後の化合物、グラフェン、ニッケル金属、およびYSZの3Dプリントされた繊維の内部断面の走査電子顕微鏡写真の図。化合物ニッケル金属およびYSZ検体のみが焼結されたことに注意されたい。焼結は、グラフェンに対して意味がない。
図9D)は、プリントされたままの、溶脱/洗浄後、および焼結後の化合物ニッケル試料の色およびサイズを例示する写真の図。
【
図9-2】
図9E)は、洗浄(エタノール)およびそれに続く焼結から生じた化合物、グラフェン(Gr)、ニッケル金属(Ni)、およびYSZ試料の直線状の寸法変化の図。グラフェンは焼結されなかったことに注意されたい;したがって、焼結されたグラフェンについて直線状の寸法変化は適用されない。
【発明を実施するための形態】
【0009】
多孔性材料を形成する組成物、および該材料から作製される繊維、フィルムおよびコーティングを含む3D物体が提供される。該組成物から材料および多孔性3D物体を形成する方法も提供される。該多孔性材料から作製される細胞培養のスキャフォールド、組織および器官成長のスキャフォールドも提供される。加えて、液体およびヒドロゲルを多孔性材料中に組み込む方法も提供される。
【0010】
該組成物は、溶媒;溶媒に可溶なポリマー結合剤;および溶媒に不溶性の固体粒子を含有し、固体粒子は水溶性塩粒子を含む。水溶性塩粒子は、組成物から作製された物体から選択的に溶出されることが可能で、生じた構造を多孔性にする。多孔性構造は、組織成長および工学、熱電性、生物電子工学、バッテリーおよび燃料電池、触媒作用、光学ガイド、ならびにフィルターを含む、高度に多孔性の材料が望ましい広範囲の用途において使用される。
【0011】
方法の幾つかの実施形態において、水溶性塩粒子は、水-アルコール溶液の存在下で水和することが可能で、その結果それらの体積は、それらが水に溶解する前に、水和により増大する。塩が除去されると、生じたポリマー構造は、ほぼ完全に多孔性であり、体積で非常に僅かしか固体材料を含有しない。
【0012】
組成物の幾つかは、それらが、室温の押出しにより、自己支持3D物体および構造物を形成する自己支持繊維に3Dプリントされ得ることを特徴とする。組成物を3Dプリンティングすることにより形成された自己支持ストランドおよび構造は、それらが、押出しプロセスによりそれらに付与された3D形状を実質的に保持することを特徴とする。この理由で、該組成物は、「3Dプリント可能な組成物」と称されてもよい。加えて、3Dプリントされた物体は、上にそれらが3Dプリントされた基材から、構造的に完全なままで、取り外されることが可能である。したがって、該組成物は、テキストまたはパターンの非常に薄いフィルムを基材の表面上に形成する2次元の(2D)プリンティング(例えば、インクジェットプリンティング)で使用されるインク組成物とは異なる。繊維が押し出されると、水溶性塩粒子は、水または水溶液への溶解により除去されることが可能で、繊維中に開放空孔を残す。
【0013】
該組成物は、小さい体積分率のポリマー結合剤を一般的に含む。組成物の幾つかの実施形態において、ポリマー結合剤は、弾性ポリマー(エラストマー)である。弾性ポリマー結合剤の使用は、組成物から形成された物体、フィルムおよびコーティングの堅牢性を促進する。加えて、組成物が押し出されるときに、弾性ポリマー結合剤は、連続した、可撓性のおよび強い押し出されたストランドの形成を提供する。これは、複雑な支持されない特徴を有する構造物、ならびに生体細胞および/または成長する生体組織を培養することに使用するために非常に適するようにする機械的特性を有するスキャフォールド構造の3Dプリンティングを可能にする。その上、該組成物から形成された3D構造は、少なくとも部分的に、弾性ポリマー結合剤の弾性特性を取り入れることができる。したがって、該組成物から形成された材料および物体の幾つかの実施形態は、それらが負荷(例えば、圧縮または張力)を受けた後で、それらの元の形状に「回復する」ことを可能にする強弾性的な機械的特性を有する。例示として、弾性ポリマー結合剤を使用する組成物から作製された繊維、コーティング、フィルムまたは他の物体は、少なくとも2MPa、少なくとも50MPa、および少なくとも100MPaの引張り弾性モジュラスを有することができる。
【0014】
ポリマーは、プリントされたかまたは堆積された最終の繊維、フィルムまたはコーティング中で、粒子を一緒に保つことに役立つ結合剤を提供する。ポリマーは、意図されるプリンティング温度で溶媒中に可溶または実質的に可溶であるべきであるが、意図されるプリンティング温度でまたはより高い温度で、水中に、望ましくは不溶性または実質的に不溶性である。組成物から形成されるべき材料および物体の意図される用途に依存して、ポリマー結合剤は、生分解性および/または生体適合性の弾性ポリマーであることもある。弾性ポリマーは、例えば、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリエチレングリコール、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン、またはそれらの2種以上の組合せを含むことができる。組成物中に含まれ得る適当なポリエステルポリマーの例は、ポリ乳酸(PLA)、グリコール酸、PLAとグリコール酸とのコポリマー(即ち、ポリ乳酸-co-グリコール酸(PLGA))、およびポリカプロラクトン(PCL)である。組成物の幾つかの実施形態は、これらのポリエステルの1種または複数と他のポリエステルとまたは1種もしくは複数の非ポリエステル弾性体のポリマーとのブレンドを含む。生体適合性および/または生分解性を必要としない用途のためには、ポリスチレンなどの他のポリマーを使用することができる。
【0015】
組成物の幾つかでは、水溶性塩粒子は、組成物中における唯一の固体粒子であるが、他の組成物では、水溶性塩粒子は、水に不溶性の固体粒子と混合される。水溶性塩は、繊維、コーティング、またはフィルムの他の成分(例えば、ポリマー結合剤および他の固体粒子)が可溶化されない時間および温度範囲にわたって、それらが選択的に可溶化され得る水に十分可溶であるべきである。例示として、室温で少なくとも100g/Lの水溶解度を有する塩が使用され得る。しかしながら、水溶解度がより低い塩も使用され得る。組成物中に含まれ得る水溶性塩の例は、銅を含有する塩などの無機金属塩を含む。他の水溶性塩は、水溶性の硝酸塩および硫酸塩(硫酸銅を含む)、塩化物、臭化物、およびヨウ化物;ならびに水溶性炭酸塩(炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、および炭酸アンモニウムを含む)および水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化アンモニウムを含む)を含む。塩成分は、上記の塩の2種以上のいずれかの混合物であることもできる。
【0016】
水溶性塩粒子に加えて、組成物中の固体粒子は、溶媒および水に不溶性または実質的に不溶性である広い範囲の他のタイプの粒子を、任意選択で含むことができる。追加の固体粒子は、共有結合性の固体、イオン性の固体、および金属の固体を含む。例えば、固体粒子は、セラミック粒子(例えば、金属酸化物および非金属元素の酸化物または非水溶性金属化合物、例えば、非水溶性の金属塩など)、金属粒子、金属合金粒子、有機(例えば、ポリマー)粒子、磁性粒子、炭素粒子(例えば、炭素ナノチューブ、グラフェン薄片または粉末およびグラファイト)、水不溶性塩の粒子(例えば、水不溶性の硫酸塩、フッ素酸塩、塩素酸塩、炭酸塩)、天然の土壌粒子(例えば、地球の土壌粒子)、および生物学的資源由来の天然に生じる粒子(例えば、脱細胞した細胞外基質(ECM)粒子ならびに哺乳動物および植物タンパク質の粒子)または無機粒子と有機粒子の混合物を含むこれらの任意の組合せであってもよい。幾つかのそのような粒子は、起源が生物学的であることもある(例えば、脱細胞した細胞外基質、タンパク質、または薬剤)。セラミック粒子は、複合体セラミックスであってもよい。本開示の目的のためには、複合体セラミックは、任意の与えられた条件下で単一の結晶構造を有するイオン性固体であり、複数のカチオン性、アニオン性、またはカチオン性およびアニオン性の種からなる。バイオセラミックは、生物学的用途にとって適当なセラミック(即ち、それは無毒性および生体適合性である)かまたは生きている生物体により自然に産生される組成物を有するセラミックと定義される。
【0017】
材料の幾つかの実施形態において、組成物は、生物活性セラミック粒子を含む。本明細書において使用する場合、用語、生物活性セラミックは、新しい組織、例えば、骨の、軟骨の、または骨軟骨の組織などの成長を促進することができる材料を指す。生物活性材料を含むことに加えて、セラミック粒子は、望ましくは、比較的硬く、細胞の接着を促進することもでき、骨誘導性、骨伝導性および/または軟骨形成活性である。生物活性セラミックスの幾つかの実施形態は、特定の分化媒体条件下で骨形成および軟骨形成を支持する。即ち、それらは、軟骨形成および骨形成の両方に活性であることができる。ヒドロキシアパタイト(HAp)は、生物活性セラミック粒子を構成し得る適当な生物活性セラミックの例である。HApは、生物活性セラミックおよび天然の骨の自然のミネラル成分である。HApは、骨伝導性の特性を有し、それは、材料上およびその周囲で新しい天然の骨の成長を誘発する、ならびに新しい骨形成を生化学的に促進する能力をHApに提供する。三リン酸カルシウム(TCP)などの他のリン酸カルシウムは、組成物中に含まれ得る生物活性セラミックスの追加の例である。他の例は、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、ケイ酸塩、およびケイ素化合物を含む。
【0018】
材料、それ故、組成物から形成される繊維、コーティング、フィルム、および他の物体は、高い粒子装荷により特徴づけられる。例えば、組成物の幾つかの実施形態は、組成物の固体含有物に基づいて少なくとも50体積%の固体粒子含有物を有する。ポリマー結合剤、水溶性塩粒子、および、任意選択で、他の固体粒子以外の固体を含まない組成物について、固体含有物は、組成物中におけるポリマー結合剤および粒子の合計量により決定され、溶媒は考慮しない。これは、組成物の固体含有物に基づいて少なくとも60体積%、少なくとも80体積%および少なくとも90体積%の固体粒子含有物を有する組成物の実施形態を含む。組成物中における水溶性塩粒子の他の粒子に対する比は、組成物から作製された物体中における空孔率の所望の程度に依存するであろう。単なる例示として、組成物の種々の実施形態において、固体粒子の1%から99%が水溶性塩粒子であり、固体粒子の99%から1%が非水溶性粒子である。これは、固体粒子の20%から80%が水溶性塩粒子であり、固体粒子の80%から20%が非水溶性粒子である実施形態を含み、固体粒子の40%から60%が水溶性塩粒子であり、固体粒子の60%から40%が非水溶性粒子である実施形態をさらに含む。
【0019】
固体粒子は、規則的な対称的形状および不規則な形状の両方を含む広い範囲のサイズおよび形状を有することができる。例えば、それらは、10nm(またはそれより小さい)から1mm(またはそれより大きい)範囲内の寸法を有する、実質的に球形(即ち、球形または若干の不完全を許容して球形に非常に近い;例えば、ナノスフェアまたはある不規則な形状の顆粒)、伸びた円柱状(例えば、繊維、ナノワイア、およびナノロッド)、プレート様(例えば、シート、薄片および小板)であることができる。例えば、水溶性塩粒子および/または他の粒子は、少なくとも約10nm、少なくとも約20nm、少なくとも約100nm、少なくとも約0.5μm、および少なくとも約1μmの直径を有することができる。水溶性塩粒子のサイズは、材料中の空孔のサイズに、およびそれ故、材料から作製された繊維、コーティング、フィルムおよび他の物体中の空孔のサイズにも影響するであろう。それ故、選択される粒子サイズは、物体の意図される用途に依存するであろう。例示として、細胞培養のスキャフォールドを作製するために使用される組成物のためには、約1μmから5μmの範囲内を含む約0.5μmから約10μmの範囲内に寸法を有する水溶性塩粒子が使用され得る。本明細書において使用する場合、用語「固体粒子」とは、液体(例えば液滴)と対立する固体材料を含む粒子を指す。しかしながら、「固体粒子」は、それらの内部全体にわたって完全に固体である必要はない。例えば、「固体粒子」は、多孔性粒子および中空粒子を含む。
【0020】
溶媒は、2種以上の有機共溶媒の混合物であることができ、その場合には、溶媒は溶媒系と称される。溶媒系は、高い蒸気圧を有して、それ故、室温(23℃)および大気圧(101.3kPa)で急速に蒸発する主要な有機溶媒を含む規格化された溶媒を含む。規格化された溶媒系は、室温で主要な溶媒より低い蒸気圧を有する1種または複数の追加の有機溶媒をさらに含む。室温および大気圧で適当に高い蒸気圧は、約20kPaから約60kPaの範囲内の蒸気圧を含み、その蒸気圧は、約25kPaから約55kPaの範囲内の蒸気圧を含む。その上、プリンティングが、大気圧より低い圧で実施される場合、他の揮発性のより低い溶媒が使用され得る。
【0021】
溶媒系の幾つかの実施形態は、1種または複数の追加の有機溶媒と組み合わせて使用され得る主要な溶媒として、ジクロロメタン(DCM)を含む。DCMの使用は有利であり、その理由は、組成物の押出し時に、揮発性の非常に高い溶媒であるDCMは、非常に急速に蒸発して、固体の連続した繊維を残すからである。クロロホルムは、適当な主要な有機溶媒の別の例である。主要な溶媒は、溶媒系中の大部分の溶媒である。即ち、それは、溶媒系中において溶媒の少なくとも50体積%(vol.%)を占める。幾つかの実施形態において、主要な有機溶媒は、溶媒系の少なくとも70体積%を占める。これは、主要な有機溶媒が溶媒系の少なくとも90体積%を占める実施形態を含む。
【0022】
追加の有機溶媒は、所望のプリンティングまたは堆積温度(例えば、室温~約23℃)で、望ましくは、DCMの蒸気圧より低い蒸気圧を有する。結果として、追加の有機溶媒は、時間をかけてよりゆっくり蒸発するが、隣接層が堆積中に合同して一緒になることを可能にして、強い層間の接着および忠実性を有する単一の一体構造を生じる。溶媒系の幾つかの実施形態は、界面活性剤である追加の溶媒、可塑剤である追加の溶媒、または少なくとも2種の追加の溶媒の組合せ(そのうち1種は界面活性剤であり、他方は可塑剤である)を含む。2-ブトキシエタノール(2-Bu)、ジブチルフタレート(DBP)、およびグリセリルトリアセテート(トリアセチンとしても知られている)は、溶媒系中に含まれてもよい追加の有機溶媒の例である。DBPを含む溶媒系では、DBPは可塑剤として作用する。しかしながら、グリセリルトリアセテートなどの他の有機可塑剤が、DBPの代わりに、またはそれと組み合わせて使用され得る。2-Buを含む溶媒系では、2-Buは界面活性剤として作用する。しかしながら、他の有機界面活性剤が、2-Buの代わりに、またはそれと組み合わせて使用され得る。組成物の幾つかは、主要な溶媒、可塑剤として作用する第2の溶媒および界面活性剤として作用する第3の溶媒から本質的になり、またはそれらのみからなる。例えば、組成物の幾つかは、DCM、2-BuおよびDBPからなり、または本質的にそれらからなる。可塑剤および界面活性剤の両方を含む組成物について、可塑剤の界面活性剤に対する好ましい質量比は、少なくとも部分的に、プリンティングまたはコーティング条件および使用される装置に依存するであろう。単なる例示として、溶媒系の幾つかの実施形態において、可塑剤の界面活性剤に対する(例えば、DBPの2-Buに対する)モル比は、約1:1から約4:1の範囲内である。これは、モル比が約1:2から約2:1の範囲内である実施形態を含む。
【0023】
組成物は、溶媒、結合剤ポリマー、水溶性塩粒子および、任意選択で、他の固体粒子を混合して組成物を形成することにより簡単に作製することができる。組成物は、種々の堆積方法を使用して、種々の3次元物体、フィルムおよびコーティングを形成するために使用することができる。プリンティングおよび他の堆積方法は、室温および周囲圧でまたはその付近で実施することができる。典型的には、プリンティング温度は、約20℃から約40℃までであろう。しかしながら、プリンティングは、より高いかまたはより低い温度で実施することができるが、一般的に溶媒の沸点未満の温度で実施されるべきである。組成物中における溶媒の量は、意図される堆積方法のために適当な粘度を組成物に提供するべきである。ポリマーを可溶化するために、過剰な溶媒が必要であれば、過剰な溶媒は、組成物が堆積のために適当な粘度に達するまで、蒸発させることができる。したがって、組成物は、最初に粘稠な液体の形態をとってもよい。適当な粘度は、意図される堆積方法および堆積装置(例えば、3Dプリンティングの場合にはノズルの直径)に依存するであろう。例えば、組成物は、3Dプリント可能な組成物として使用されることを意図されていれば、プリントノズルを通る押出しによる3Dプリンティングのために適当な粘度を有するべきである。単なる例示として、3Dプリンティングのために適当な組成物の幾つかの実施形態は、室温で約25Pa・sから約50Pa・sの範囲内を含む、室温で約25Pa・sから約100Pa・sの範囲内に粘度を有する。スピンコーティングおよびディップコーティングなどのコーティング用途のためには、粘度は、室温で一般的により低い、典型的には、約1Pa・sから約5Pa・sの範囲内である。その簡単なことが理由で、この組成物配合プロセスは、高度にスケーラブルである。例えば、2~3ミリリットルのような少量、または例えば、多くのガロンまたはトンのような大量を製造することができる。
【0024】
組成物は、3Dプリンターおよび層状堆積を使用して物体をプリントするために使用することができ、ここで、3Dプリンターは、室温でまたはその付近で組成物に圧を(例えば、機械的または空気式の圧により)かけたときに、ノズルと流体連結されている容器(例えば、注入器またはプリントヘッド)に保持されている組成物を、ノズルを通して直接押し出すことができるプリンターである。このタイプのプリンティングは、時により「ダイレクトインクライティング(Direct Ink Writing)」(DIW)と称される。プリンティングプロセスの1つの実施形態において、組成物は、3Dプリンターの注入器または注入器様の貯蔵器中に搭載されて、空気式または機械的圧により1つまたは複数のプリントノズルの開口部を通して基材上に押し出される。押し出されると、溶媒系中の溶媒は蒸発して、固体の連続した繊維が形成される。重層されてプリントされた物体の構造物全体は、コンピューター援用のデザイン(CAD)または他の3次元ディジタルデータにより、前もって画定することができる。物体がその上にプリントされ得る基材は、プリントされる物体の性質およびその意図される用途によって限定されないが、それらに依存し得る。適当な基材の材料の例示の例は、ガラス、金属、プラスチック、紙、サンドペーパー、半導体、誘電体およびセラミックスを含む。
【0025】
組成物を堆積するための他の押出しに基づかない方法は、組成物を基材上にコーティングする工程、および溶媒系中の溶媒を蒸発させる工程を含む。適当なコーティングプロセスは、組成物を基材上に塗ること、および基材に、例えば、ディップコーティングまたはスピンコーティングにより組成物をコーティングすることを含む。例えば、組成物は、ディップコーティングにより粒子を含む薄いフィルムを創出するために使用することができ、または既存の嵩張った物体をコーティングするために使用することができる。より厚いコーティングは、複数のディップコーティング工程を使用して基材上に構築することができ、多層のコーティングを形成する。これらのコーティングは、同じ組成物からまたは異なる組成物から形成された複数の層を含むことができる。組成物のドクターブレーディングおよび鋳型成形も使用することができる。
【0026】
繊維、コーティング、フィルム、または他の物体が形成されたら、水溶性塩粒子は、水溶液で可溶化することにより、物体から溶脱することができる。このことは、例えば、物体を、水または水溶液中に単に漬けることにより成し遂げられ得る。水溶性塩粒子が、物体から完全に除去される必要はない。しかしながら、それらは物体を多孔性にする空孔を後に残す。
【0027】
方法の幾つかの実施形態において、水溶性塩粒子を水で可溶化する前に、材料は、水およびアルコールを含む溶液などの、塩を水和する溶液で洗浄することができる。塩粒子を有意に可溶化しないこの塩を水和する溶液が、塩を水和して、塩の体積を増大させて、結果として、実施例でより詳細に論じるように、中間のアルコール-水洗浄工程なしで得られた構造と比較して、構造の体積の膨張を生じさせる。エタノール、イソプロピルアルコール、およびそれらの混合物は、塩を水和する溶液中で使用することができる。他のアルコールは、選ばれた塩粒子が水に対して高度に可溶であるが、アルコール-水溶液には低い溶解度を有するという条件で使用することができる。例示として、塩を水和する溶液に対する曝露は、塩粒子体積の10%以上の増大を生じさせる時間および/または温度で継続することができる。これは、塩粒子の体積の20%以上の増大を含む方法の実施形態を含み、塩粒子の体積の30%以上の増大を含む方法の実施形態をさらに含む。
【0028】
目的のために水溶性塩粒子が完全には除去されない方法の実施形態において、多孔性物体の機能性または性能に対して負の効果を有しない構成要素(例えば、カチオンおよび/またはアニオン)を有する塩粒子を使用することが有利であることもある。例えば、組織工学または他の医学的用途のために、生体適合性の塩粒子を使用することができる。幾つかの実施形態において、塩は、残存カチオンおよび/またはアニオンが最終の多孔性物体に対して有益な効果を有するように選択することができる。例示として、水溶性金属塩粒子からの銅イオンなどの残存する金属イオンは、物体の抗細菌特性および/または血管新生を強化することができる。したがって、水溶性の銅を含有する塩を使用して作製された組織成長スキャフォールドなどの物体の幾つかの実施形態において、物体は、約1から約200μg/dLの範囲内の残存銅の含有量を有する。これは、約1から約100μg/dLの範囲内および約5から約60μg/dLの範囲内の残存銅の含有量を有する物体を含む。材料の銅含有量を測定する方法は、実施例1に記載されている。
【0029】
最終的に、多孔性物体は、例えば、凍結乾燥により乾燥され得る。最終の物体が固体粒子を含有しており、最終の物体からポリマー結合剤の一部または全部を除去することが所望であれば、物体を焼結して固体粒子を結合してポリマー結合剤の一部または全部を除去することができる。
【0030】
方法を使用して作製された繊維、コーティング、またはフィルムの空孔率は、それらが作製される組成物の水溶性塩粒子含有量および水溶性塩粒子の溶脱の程度に依存するであろう。しかしながら、高度に水溶性の塩および高い塩粒子濃度を使用することにより、空孔率の高い物体を製作することができる。例示として、該方法により作製された繊維、コーティングおよび/またはフィルムは、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも80%、少なくとも90%、および少なくとも95%の空孔率を有することができる。これは、60%から98%および80%から95%の範囲内の空孔率を含む。空孔率を測定する方法は実施例で論じる。
【0031】
任意選択で、水溶性塩粒子の溶解後に残る高度に多孔性の構造中における空孔の一部または全部は、液体溶液で埋め戻され得る。幾つかの実施形態において、液体溶液はゲル前駆体溶液であり、その前駆体溶液は、多孔性構造内に支持されたヒドロゲルを提供するために、多孔性構造内のその場でゲル化することができる。ゲル化プロセスの性質は、形成されるゲルの性質に依存するであろう。例えば、このプロセスの種々の実施形態において、物理的架橋、イオン性架橋、または化学的/共有結合架橋を含む熱的ゲル化または架橋ゲル化が使用され得る。幾つかの実施形態において、ゲル前駆体溶液は、モノマー、オリゴマー、および/またはポリマー、架橋剤および、任意選択で、架橋開始剤を含む水溶液である。ヒドロゲルが医学的または組織工学的用途で使用されることになっていれば、モノマー、オリゴマー、および/またはポリマーは生体適合性であるべきであり、前駆体溶液も、任意選択で細胞および/または生物活性因子を含むことができる。埋め戻しは、液体溶液を多孔性材料中に注入するかまたは多孔性材料を液体溶液に漬けることにより実施され得る。
【0032】
組織工学的用途のためには、組成物は、細胞培養のスキャフォールドまたは組織成長スキャフォールドを製作するために使用することができ、スキャフォールドは、細胞の組込み、組織の内部成長、および/または血管新生を可能にする多孔性構造である。スキャフォールドの製作のために3Dプリンティングの使用は有利であり、その理由は、それがスキャフォールドを構成する層の規則的な幾何学的模様を提供して、そのことがスキャフォールドの空孔率、空孔サイズおよび空孔の相互接続性を制御および調整することを可能にするからである。例えば、プリントされた層は、複数のプリントされた繊維を備えることができる。幾つかの実施形態において、各層中の繊維は実質的に互いに平行であるが、所与の層中の繊維は、他の層中の繊維に平行に配向していない。
【0033】
多孔性のスキャフォールドは、スキャフォールドに、組織形成細胞、または組織形成細胞の前駆体である細胞を播種することにより、組織成長スキャフォールドとして使用することができる。組織は、細胞成長培養培地中に播種されたスキャフォールドを培養することにより成長させることができる。間葉系幹細胞、造血性幹細胞、胚幹細胞、および人工多能性幹細胞は組織形成細胞の前駆体の例である。組織形成細胞の例は、骨芽細胞、軟骨芽細胞、線維芽細胞、内皮細胞、および単球を含む。生体細胞も、それらに組織特異的生物活性を提供するために、多孔性材料を埋め戻すために使用される液体溶液またはゲルに含まれることが可能である。
【0034】
細胞培養または組織成長のスキャフォールドのプリンティングまたはキャスティングで使用するための組成物は、例えば、細胞分化を誘発することにより細胞および組織の成長を促進する、1種または複数の生物活性因子、例えば、遺伝子、タンパク質、ペプチド、成長因子、薬学的化合物、抗生物質等を任意選択で含むことができる。組成物は、比較的低い温度(例えば室温)で配合およびプリントされ得るので、生物活性因子は、配合物に添加することができ、その後、組成物から作製された構造中に、熱に誘発される分解を受けずに組み込まれ得る。遺伝子、タンパク質、ペプチド、成長因子、薬学的化合物、および抗生物質などの生物活性因子も、それらに組織特異的生物活性を提供するために、多孔性材料を埋め戻すために使用される液体溶液またはゲル中に含まれ得る。
【0035】
(実施例1)
臨床的に関係する規模の構造物中に迅速に3Dプリントされ得る塩粒子含有組成物を例示することを超えて、組成物中におけるCuSO4とPLGAとの比を制御することにより、生じる材料構造の機械的、物理的、およびインビトロの生物学的特性を調整することができることが立証された。さらに、成人ヒト間葉系幹細胞(hMSC)が播種されたときに、材料の空孔率が低い3DプリントされたPLGAは貧弱な性能を示したが;一方、高い空孔率のPLGAは、同じ条件下で培養された厳密に同じ細胞系の付着、生存能力、増殖、およびマトリックス合成を高度に支持することが立証されたので、この研究は材料の加工処理および生物学的用途における最終の空孔率の価値を際立たせる。最終的に、このプロセスは、金属、セラミックス、およびグラフェンを含む他の3Dプリントされた機能性材料系中に追加の空孔率を導入することに適用することができることが立証された。
【0036】
結果と考察
塩組成物の合成および材料の選択
CuSO
4のPLGAに対する固体含有物体積比により規定された3種の別個のCuSO
4-PLGA組成物を、70:30(70%)、50:50(50%)、および25:75(25%)のCuSO
4:PLGAで合成した。明瞭性および命名法の目的のために、今後、25、50、または70%CuSO
4と称される、生じた組成物および3Dプリントされたままの材料は、最終的に、塩溶脱(CuSO
4の除去)後に、25、50、または70%の「ふわふわした」PLGA(F-PLGA)を生じ、そのことは下に記載される。簡単に説明すると、無水CuSO
4粉末を、前に溶解された医学的規格ポリラクチド-co-グリコリド(PLGA;82:18ラクチド対グリコリド)に加えて、ジクロロメタン(DCM;急速に蒸発するもの)、2-ブトキシエタノール(2-Bu;界面活性剤)、およびジブチルフタレート(DBP;可塑剤)を含有する3種溶媒混合物中に懸濁した。受け入れたままの粉末中のCuSO
4粒子の大部分は約1~5μmのサイズであったが、より大きい粒子および粒子の凝集塊が存在して(
図2A)、そのことは3D-プリンティング中におけるノズル詰まりの尤度を増大させたであろう。詰まりの可能性を軽減するために、受け入れたままのCuSO
4粉末を-325メッシュに通して篩い、大きい粒子および凝集塊を除去すると(
図2A)、約1~5μm粒子からなる粉末が得られ、粒子の凝集塊は典型的には直径が10μm以下であった。生じた懸濁液を、3D-プリンティングのために適切な低剪断応力粘度(30~35Pa・s)に達するまで、化学用のドラフトチャンバー中で、周期的に手動で撹拌して、周囲条件または穏やかな加熱(<45℃)で過剰のDCMの蒸発により濃縮した。70%CuSO
4の組成物は、室温における押出しのために適切な剪断が弱まる挙動を示した(
図1A)。合成後、組成物は、直ちに使用されるかまたは必要になるまで、気密なガラス容器中に4℃で貯蔵することができた。
【0037】
多種多様な塩の化学物質が、このプロセスのために利用され得るが、多くの理由で、CuSO4がこの例示の例のために特に選択された。第1に、CuSO4は高度に水溶性であり(20℃で320g/L)、溶脱中に3Dプリントされた構造からの塩の急速な除去が可能である。第2に、CuSO4は水に曝露されたときに水和して、その成分イオン、Cu2+およびSO4
2-に解離して、オフホワイトから鮮明な青色(溶液中のCu2+による)への急速なおよび劇的な色変化がある。この明らかな色変化は、視覚的インジケーターとして利用され、リアルタイムの進行および3Dプリントされた材料からの塩除去の程度を確認することができる。第3に、この例は、生じるF-PLGA材料の生物学的用途を目標とするので、およびPLGAからの塩およびその成分イオンの完全な除去を確実にすることは困難であり得るので、材料中の残存イオンが、有益な生物系の効果を有すれば、それは有利である。この場合には、低濃度のCu2+は、材料の抗細菌特性を強化することができるだけでなく、血管新生および創傷治癒を促進することもできる。最終的に、CuSO4は、広く利用可能である。
【0038】
3DプリントされたCuSO
4からF-PLGAへ
CuSO
4組成物は、簡単な室温押出しにより急速に3Dプリントされ得て固体物体となり、製作後直ちに扱うことができ、それらを機械的に安定にするために、乾燥する時間も、いかなる追加の化学的、物理的、または熱的処理も必要とせず(
図1B)、任意の他の3D塗料系材料とともに同時3Dプリントされることが可能である。この研究は材料特性を特徴づけることに焦点を当てていたので、
図1Bに示されたものと同様な比較的単純な幾何学的形状が、試験するために創出された。しかしながら、これよりもはるかに複雑な幾何学的形状が、直径が200から1000μmの範囲のノズルから100mm/秒を超える直線状の堆積速度で容易に製作され得る。液体様のCuSO
4組成物がノズルを離れたときに、大部分の溶媒成分、DCMは、殆ど瞬間的に蒸発して、急速な液体から固体への遷移が起こった。このことが起こったときに、少量の残存DCM、ならびに蒸気圧の非常に低い微量の界面活性剤および可塑剤が、そのときには固体の材料中に残り、新しく堆積された材料が前に堆積された層と接触したときに、PLGAの局所的溶解および急速な沈殿を引き起こした。その結果、3Dプリントされた層の間に殆ど継ぎ目のない融合体が生成した。
【0039】
3DプリントされたCuSO
4物体は、図式的におよび写真で
図1Cおよび1Dでそれぞれ例示されたプロセスを通して、それらのF-PLGA対応物に変換された。水洗工程はCuSO
4を水和して(CuSO
4・5H
2O)、CuSO
4塩およびその成分イオンを解離して可溶化し、その結果、Cu
2+イオンが塩から解離したが、未だ周囲の水性環境へ溶出していないので、物体の中間の鮮明な青色変換が生じた。70%エタノール工程は、生物学的用途のための材料をさらに滅菌するだけでなく、そうしなければ細胞傷害性であった残存有機溶媒を除去した。洗浄工程の順序は、後で詳細に論じるように、生じる材料の特性に対して実質的な影響を有し得る。十分な溶脱および洗浄の後に、材料を凍結乾燥して湿気を除去すると、高度に多孔性のPLGAフレームワーク、F-PLGAが生じた。このプロセスを通じて、比較的小さい体積の粗PLGA材料が、体積は大きいが高度に多孔性の整って3Dプリントされた構造を生じることができた(
図1E)。3DプリントされたCuSO
4物体、ならびにF-PLGA対応物は、必要に応じて、切る、巻く、折りたたむこと等ができた。
【0040】
CuSO
4成分ならびに残存溶媒を3Dプリントされた物体から除去するために、それらを、70%エタノールの形態の水性媒体に、続いて滅菌脱イオン水に曝露した。CuSO
4含有量が増大するにつれて、塩溶脱の速度ならびに塩溶脱の程度の合計も増大することが、定性的に観察された。
図3Aで見ることができるように、25、50、および70%CuSO
4の5×5cmシートは、元はオフホワイト色であった。70%エタノール洗浄に続いて脱イオン水による洗浄を受けた後、CuSO
4物体はそれらのそれぞれのF-PLGA対応物に変換された。50および70%F-PLGAシートは、鮮明な白色になったが、25%F-PLGAシートは淡青色の色相を保持して、有意でない量のCu
2+が該構造を含むPLGAマトリックス内に保持されていることを示した。これは、Cu
2+アッセイでさらに定量的に検証された(
図3B)。平均で、25%F-PLGA材料は、50%(59.3±5.4μg/dL)および70%の(9.7±1.3μg/dL)F-PLGA材料より、それぞれ6.5および39倍多い残存銅イオン濃度(390.2±4.5μg/dL)を有した。
【0041】
洗浄前および後の物理的特性および微細構造
より大きい3Dプリントされた物体を含む、0、25、50、および70%CuSO
4の単回3Dプリントされた繊維の断面および表面の走査電子顕微鏡写真を
図2Bに表示する。このシリーズの顕微鏡写真は、CuSO
4含有量が増大するにつれて、3Dプリントされた材料の内部および外部の微細構造は、CuSO
4粒子による占有が増大して、ポリマーと塩とを視覚で見分けることが益々困難になったことを示す。しかしながら、全ての事例で、材料の外部の表面は、PLGAの薄い層により占有されているようであり、70%CuSO
4組成物では、該層は輪郭が不明確になった。
図2Cは、70%CuSO
4の切断された、塩が溶脱された繊維の、その独特の多孔性構造を示すSEM像を示す。
【0042】
材料内の初期塩濃度が高ければ高いほど、塩溶脱はより速くより完全になることは、最初、直観に反するように思われるかもしれない。しかしながら、CuSO
4およびその成分イオンが、3Dプリントされた材料から除去される機構は、拡散に基づいており、水が材料中に拡散して、CuSO
4粒子/結晶を溶解して解離させなければならず(
図2)、その後、水和したCuSO
4イオン性種は、拡散して材料から出なければならない。この系における拡散に対する主要な障壁はPLGA壁であった。全体として、材料のプリントされたままのCuSO
4の含有量が減少するにつれて、PLGAの相対量および体積が増大する。PLGA含有量におけるこの増大は、水が材料の内部に拡散して、水和したイオン性種が拡散して出る能力を阻害して、その結果、PLGAのCuSO
4に対する比が高いほど試料中における残存塩含有量も高くなる。
【0043】
驚くべきことに、洗浄プロセスの順序(エタノールが最初か、または水が最初)が、CuSO
4の溶解速度に実質的に影響するだけでなく、生じたF-PLGA物体の最終のサイズにも影響することが見いだされた。大きい体積の水に漬けた2つの、直径1cmの70%CuSO
4試料について、70%エタノールで先に洗浄された試料は、エタノールで洗浄されていないその対応物よりも速く溶脱することが観察された。
図3Aは、3Dプリントされた25、50、および70%CuSO
4ならびに70%エタノールで最初に洗浄された結果として生じたF-PLGAシートのサイズにおける変化を明確に例示しており、そのことは、
図3Cでさらに定量されて、最初に70%エタノールで洗浄された0、25、50、および70%CuSO
4物体では、それぞれ、平均して0、2.3、10.4、および17.3%の直線状の寸法の膨張があった。一方、最初に水で洗浄された対応する試料では、それぞれ、平均で0、1.0、3.1、および5.0%の直線状の寸法の減少があった。この体積の変化は、
図3Dに例示したように合計質量損失と独立であった。組成物のいずれについても、合計質量損失に関して2つの洗浄群の間で統計的な差はない。
【0044】
Urreloaらは、CuSO4を含む2価の塩のエタノール-水中への溶解度について、経験的に測定して数的モデルを開発した(ウレジョラら(Urrejola, et al.),Journal of Chemical & Engineering Data 2011,56,2687.を参照されたい)。彼らは、CuSO4の溶解度、または飽和重量モル濃度(m)が、エタノールの重量分率が増大するとともに対数的に減少することを決定した。彼らの結果を、70%エタノールからなるエタノール-水溶液に外挿して、CuSO4溶解度は、0.001m/(mol・kg-1)未満または、事実上非可溶であると予測する。これは、最初の工程としての70%エタノールによる洗浄が、色変化として観察され得たはずのCuSO4塩の周囲の培地中への可溶化を実質的に起こさないという観察と対応する。したがって、CuSO4は、3Dプリントされた構造内に残ったと思われる。CuSO4は、周囲の液体培地中に可溶化しないが、最初に70%エタノールで洗浄された3Dプリントされた構築体は、色がオフホワイトから鮮明な青色に変換されて、CuSO4塩が、溶液の30%の水成分と相互作用して、水和してCuSO4・5H2O、硫酸銅5水和物を形成したことを示す。
【0045】
この水和の結果、約36%の密度の減少、または塩体積増大が生じた(ρ
CuSO4=3.6g/cm
3、ρ
CuSO4・5H2O=2.3g/cm
3)。3つの25、50、および70%CuSO
4材料の各々のCuSO
4の体積分率(
図4Cに示した固有の空孔率を含む)が36%増大したとすれば、その場合には、3Dプリントされた材料は、それぞれ対応する8、14.5、および17.5%の膨張を生じると予想される。70%CuSO
4について、予測される17.5%膨張は、経験的に測定された平均値の17.3%に近かった。しかしながら、CuSO
4含有量が減少したときに、測定と予測の膨張の間の差が増大した。本発明のいかなる理論にも束縛されることは意図せず、この食い違いの理由は、CuSO
4含有量が減少したときに、材料を含むPLGAマトリックスの壁厚さが増大して(
図4B)、そのことが相対的に、マトリックス剛性における局所的増大を生じさせて、一方で、同時に、CuSO
4の水和の結果としてのPLGAマトリックスの体積の膨張を阻害した反対に働く力が生じたからであると考えられる。PLGAマトリックスの反対向きの収縮力の性質は、最初に水で洗浄された試料で観察された直線状の寸法減少から間接的に明らかであった(
図3C)。最初に水で洗浄された試料の事例で、CuSO
4の周囲の培地中への急速な溶解は、周囲の弾性PLGAマトリックスが、僅かに収縮することを可能にして、25、50、および70%CuSO
4の3Dプリントされた材料における、それぞれ1.0、3.1、および5.0%の直線状の寸法減少を生じさせる。最終的に、これらの結果は、洗浄および溶脱溶液の組成は、最終材料の微細構造に影響し得て、3Dプリントされた物体の体積ならびに空孔率を増大させることにさえ利用され得ることを示す。
【0046】
洗浄された(エタノールが最初)および凍結乾燥されたF-PLGAの走査電子顕微鏡写真(
図4Aおよび4B)は、全ての材料群の3Dプリントされた構造全体が保存されたことを立証する(
図4A)。F-PLGA断面のより高い倍率の顕微鏡写真は、25%F-PLGAは有意の量のCuSO
4を保持したという以前観察されて定量された結果(
図3Aおよび3B)をさらに確認した。CuSO
4結晶(鮮明な白色)は、25%F-PLGA材料の内部断面および表面内で観察することができた。視覚的検査では、50%または70%F-PLGA材料のいずれにおいてもCuSO
4結晶の明らかな存在はなかった。これらの顕微鏡写真は、元のCuSO
4含有量が増大したときに、F-PLGA対応物における合計空孔率も増大したことをさらに確認した。加えて、F-PLGA内部を画定する平均PLGA壁厚さは、CuSO
4含有量が増大すると減少したので、前に記載されたように、CuSO
4溶脱を増強すると思われる。興味深いことに、70%F-PLGAの内部の微細構造の無秩序な多孔性の性質は、組織および器官に由来する脱細胞した細胞外マトリックスの微細構造-直径1~10μmの空孔をとり巻く薄い、繊維状の壁(厚さ≦1μm)に似ていた。プリントされたままのCuSO
4試料で観察された薄いPLGAの外層(
図2)は、25、50、および70%F-PLGA試料群全体にわたって完全なままであり、比較的非多孔性であるように思われた;しかしながら、ミクロおよびサブミクロンスケールの表面多孔性が70%F-PLGA内で観察された。
【0047】
空孔率は、それが、細胞および組織が材料と相互作用して一体化することを可能にするだけでなく、材料が周囲の液体および媒体を取込み(インビトロまたはインビボにおける)、組込み、血管新生、および生体機能性をさらに増強することを可能にするので、材料の生物学的用途にとって格別に重要である。興味深いことに、それらのプリントされたままのCuSO
4の形態で、25、50、および70%群の間で、固有の空孔率が、大きく異なることはなく(
図4C)約42%と55%の間にあった。しかしながら、洗浄されて溶脱されたら、F-PLGA群間における空孔率の差は有意となり、25%F-PLGAが最小の空孔率増大を示し(43.6%から66.6%;Δ23.0%)、70%F-PLGAが最大を示した(56.7%から94.4%;Δ37.7%)。94.4±4.3%の平均空孔率で、3Dプリントされた70%F-PLGAは格別に多孔性であった。
【0048】
この高い空孔率は、高い吸収率、または液体保持能力(この場合には水性ベース)に直接転換される。エタノールとそれに続く水による洗浄を経た25%F-PLGA構造は、液体の水でそれら自体の固体重量の平均195.6%を吸収することができるが、それに対して、70%F-PLGAは、平均で742.2%を吸収することができる(
図4D)。エタノールに続いて水で洗浄された50%および70%F-PLGA材料の吸収率は、最初水で、続いてエタノールで洗浄された同じ3Dプリントされた材料の吸収率より有意に高い。前に記載された(
図3)、最初にエタノールで洗浄された結果としての材料の大きい寸法の膨張に基づいて、これは、驚くことではない。エタノールで最初に洗浄されたこれらの材料は、体積がより大きく、したがって、材料の単位質量当たりより多くの液体を保持することができる。
【0049】
機械的特性
それらの微細構造および物理的特性と同様に、3DプリントされたCuSO
4およびそれらのF-PLGA対応物の機械的特性は、実質的に、組成に基づいて変化する。
図5Aは、乾燥された(洗浄されて凍結乾燥された)および水和した(洗浄されて凍結乾燥されて再水和した)両方の条件における、25、50、および70%CuSO
4およびF-PLGA対応物の代表的引張り応力対歪みのプロファイルを示す。
図5Aの詳細に示されたものなどの引張り検体は、直接3Dプリントされたものである。総合的な圧縮試験は、これらの材料では実施されなかったが、その主たる理由は、生じるデータおよび分析は、材料自体ではなく、特定の3Dプリントされた幾何学的形状に高度に依存するからである。しかしながら、所望の圧縮試験は、より大きい3Dプリントされたブロックから打ち抜かれた材料の円柱で実施され得る。
【0050】
注目に値することとして、水和した条件は、最終の使用状態-水で飽和したインビトロまたはインビボ、の環境を最も綿密に表す。破断引張りモジュラス、引張り歪みを
図5Bおよび5Cに示し、前に論じた物理的特性と一緒に表1にまとめる。一般的に、CuSO
4含有量が低いほど(PLGA含有量が高いほど)、材料の最終の引張り強度および引張りモジュラスは高い。25%および70%F-PLGAについて、水和した状態における最終の引張り強度(ultimate tensile strength)が、それぞれ、9.5MPaから0.8MPaの範囲にある場合、25%および70%F-PLGAについて、同じ条件下で、弾性モジュラス(elatsic moduli)は、それぞれ112.6MPaから2.7MPaの範囲にある。生物学的比較の目的のために、これらのモジュラスは、耳の軟骨と石灰化前の骨のモジュラスの間の範囲であった。3種の材料群の破断歪特徴は、明確な傾向に従わず、25%および50%F-PLGAについては、水和した状態における値は、それぞれ、75.1%から46.8%に減少するが、一方、水和した条件における70%F-PLGAは、破断前に平均で95.2%の引張り歪みが可能であった。全体として、このプロセスを通じて、水和した状態について、0.8~9.5MPaの範囲の最終の強度、2.7から112.6MPaの範囲の弾性モジュラス、および46.8から95.2%の破断歪みが立証された。
【0051】
加えて、試験した3種の組成物は、塩含有量と弾性モジュラスとの間で、強い経験的直線関係を立証する。この直線関係の、所望の弾性モジュラスを有するF-PLGAを製造するために必要とされる組成物を予測する能力を調べるために、目標モジュラスとして15および87MPaを無作為に選択して、対応する、計算されたCuSO4製剤(それぞれ、63.6%および34.6%CuSO4)を創出し、3D-プリントして、洗浄し、溶脱して、凍結乾燥し、張力下で機械的に試験した。結果は13.6±2.3および83.9±6.6MPaの弾性モジュラスを有するF-PLGA材料と出て、この簡単な直線状外挿は、目標のモジュラスを有するF-PLGAを創出するために利用できることが示された。
【0052】
バイオマテリアルの機械的特性は、それらのインビトロおよびインビボにおける効力全般に大きく影響する。細胞および組織の相互作用および組込みに関するバイオマテリアルの機械的特性の影響は、効力および安全性の両方に関して絶大であるが、バイオマテリアルの機械的および取り扱い特性は、外科的使用ならびに効果的なおよび効率的な臨床的実施に関しても同様である。したがって、臨床的転用を意図されるバイオマテリアルは、生物学的に安全な組成物および上昇した空孔率を有することでは不十分である。バイオマテリアルは、肯定的な細胞および組織応答を促進するだけでなく、それらが臨床的環境内で効果的に利用されることも可能にする適切な機械的特性も有しなければならない。材料がどのようなものであるかの説明なしで、水和した70%F-PLGAが、訓練された臨床的形成外科医に手渡されたときに、外科医は、それが、耳または鼻の軟骨と非常に同様に感じられ、かつ挙動することに気づいた。
【0053】
表1.乾燥したおよび水和した(太字)条件下における、25、50、および70%の3DプリントされたF-PLGA(エタノール洗浄が最初)の物理的および機械的特性のまとめ。測定の要件および測定の対象に基づき、空孔率および吸収率は、水和した条件についてのみ与えられていることに注意されたい。
【0054】
【0055】
ヒト間葉系幹細胞の付着、生存能力および増殖
最終的に、材料が生物学的用途を意図されているならば、材料は、細胞の接着、生存能力、増殖、およびマトリックス沈着を支持しなければならない。この目的のために、25、50、および70%F-PLGA(およびそれらを0%、純PLGAの歴史的対照と比較する)の細胞適合性を、女性のヒト間葉系幹細胞(hMSC)を、各材料の3Dプリントされたスキャフォールド上に播種することにより試験して、1、7、14、および28日後の細胞の生存能力および数を検査した。hMSCは、それらが、臨床的に重要な細胞のタイプであり、患者骨髄から単離された後の臨床的手順でしばしば使用されるという理由で、選択された。播種のためのスキャフォールドを創出するために、
図3Aに示したものなどの大きい5×5cmのシートを、交互に0~90°、0.7mm(支柱の中心から中心までの距離)パターンで、先行してプリントされた平行な層から一つおきの支柱を0.35mmオフセットして、3Dプリントした。このデザインの断面を
図4Aに示す。各時点で、各群から1つの試料を可視化して細胞の生存能力について、生死細胞染色および走査レーザー共焦点顕微鏡法を使用して検査した(
図6A)。加えて、各材料群について、二本鎖DNA(dsDNA)の平均合計含有量を、各時点で定量した(
図6B);ここで、dsDNA含有量は、細胞数と直接対応しており、付近の時点と比較して、細胞数が増大するかまたは減少するかを示すことができる。
【0056】
生死撮像の結果ならびにdsDNA定量の両方から、25%F-PLGAは、0%の既存対照と同様に、hMSCの生存能力または増殖を支持しないことが明らかであった。1日目に、最少数の生命力があるhMSCが存在したが、時間が経過するにつれて、この数はさらに減少した。逆に、50%および70%F-PLGAは両方とも、経時的にhMSC接着および増殖を支持して、細胞の数は14日目にピークとなり、次の2週間の経過で有意の変化はなかった(
図6B)。この増殖は、生死像(
図6A)で明確に見ることができ、14日目の試料で高い細胞密度で見られるように、スキャフォールド体積を殆ど満たすようであり、28日目までのさらなる増殖を妨げたようである。
【0057】
走査電子顕微鏡写真(
図7)は、hMSCと基底にあるF-PLGA材料との相互作用をさらに明らかにする。ここで引き出される結論は、これらの顕微鏡写真、ならびに先の材料の特徴づけの結果(
図3Aおよび3Bおよび
図4B)に基づく。明確なコントラストで、hMSCは、4週間の経過にわたって広がり、50%および70%F-PLGAのスキャフォールドを完全にコーティングし、厚く、未だ生命力がある細胞壁を形成していることを見ることができた。一部の細胞が、70%F-PLGAの多孔性のフレームワーク中に広がっていることさえ観察された。
【0058】
これらの結果は、25%F-PLGAは、hMSCがそれと積極的に相互作用しなかったので、最適のバイオマテリアルではないことを仮に示す。データの初期検査およびこの研究からの結果で、細胞接着をこのように欠く理由は、最初は、材料中におけるCuSO
4有意の量の存在であるように思われるであろう(
図3B)。しかしながら、25%F-PLGAについて、hMSCのインビトロにおける培養結果は、歴史的対照の0%、すなわち、製作プロセス中のいかなる点でもCuSO
4を含有することも接触することもなく空孔率を殆どないし全く有せず非常に平滑な表面を有する歴史的対照の0%、と非常に類似していた(
図2B)。これらの組み合わされた観察に基づいて、hMSCが25%F-PLGAに接着しなかった理由は、それらが、あまりに多くの残存CuSO
4を含有したから(390.2μg/dL;
図3B)、それらが十分多孔性でなかったから(
図4B)のいずれか、またはこれらの因子の組合せであった。したがって、空孔率および伸長により、材料の加工処理は、F-PLGAの成功において主要な役割を演じることが明らかである。0および25%F-PLGA材料は、50および70%F-PLGA材料と厳密に同じ最終の組成物(純粋にPLGA)を有したが;それでも、50および70%F-PLGAが、実質的により優れた性能を発揮して、幹細胞の接着、増殖、および機能を促進したので、これらの結果は、バイオマテリアルにおける加工処理および空孔率の重要性を際立たせる。
【0059】
弱いヒドロゲルのための物理的スキャフォールドとしてのF-PLGA
したがって、材料中心の3D塗装プロセスが、塩溶脱手法と組み合わされて利用され、3D-プリントされた、物理的、機械的、および生物学的特性の優れた高度に多孔性の、医学的規格のPLGA構造を創出することができることが、さらに立証された。しかしながら、50または70%F-PLGA材料およびスキャフォールドが、いかにインビトロで幹細胞とうまく性能を発揮するかにかかわらず、それらは、やはり純粋に合成された、機能化されていない、非組織特異的ポリエステルである。しかしながら、F-PLGA材料は、高度に吸収性であり、機械的に堅牢であり、取り扱いに関して外科的に使いやすいので、それらは、高い、組織特異的生物活性を有するが、機械的および取り扱い特性が劣る、例えば、液体溶液およびゲルなどの材料のための物理的スキャフォールドとして役立ち得る。これらの材料は、成長因子、薬剤、および細胞を装荷する溶液およびゲルを含み、該ゲルは、天然の、合成の、またはハイブリッドの材料、例えば、なかんずく、ゼラチン、コラーゲンまたはアテロコラーゲン、細胞外マトリックス、アルギン酸塩、キトサン、またはペプチド両親媒性物質などからなり得る。
【0060】
F-PLGAが、機械的に弱い、局在化困難な材料のためのスキャフォールドまたは担体として働く可能性を簡単に立証するために、2つの別個のタイプの弱いゲル:0.25%のアテロコラーゲン(天然由来)および0.25%のペプチド両親媒性物質(PA)を創出した。こうした低固体含有量のゲルのタイプは、それらが注入され得るために有益であり得るが、インビボにおいて局在化することが困難で、長い期間にわたって移動して、しばしば補助的な組織浮動閉鎖物が必要になる。このことが、最終的に、それらの有効性および臨床的転用を阻止する。
図8は、はるかにより大きい3Dプリントされたシートから切り出された直径1cmの70%F-PLGAスキャフォールド中に注入されたアテロコラーゲンおよびPAゲルを示す。最大の飽和を確実にするために、プレゲル溶液を、スキャフォールドが溢れ始まるまで注入して、その時点で、適切なゲル化プロセス(アテロコラーゲンに対しては熱;PAに対しては2価イオン架橋)を利用して、スキャフォールド内の材料をゲル化した。ゲルを装荷されたF-PLGAは、ピンセットで摘まみ上げるか他の方法で取り扱うことができた。走査電子顕微鏡法により、F-PLGAスキャフォールドの内部は、ナノ腓骨アテロコラーゲンまたはペプチド両親媒性物質ネットワークで装荷されていることが明らかになった。この非常に簡単な実験が、約95%多孔性であるF-PLGAなどの材料が、性質において固体であるよりも液体であるバイオマテリアルのための担体として働き得ることを立証する。F-PLGAは、特異的機能性を含有しない単純なバイオメディカルポリエステルであるから、生物活性ゲルは、埋め込まれたら生物学的応答を支配するであろうが、一方、F-PLGAの存在は、外科医が:1)ゲルを取り扱って埋め込むこと;および2)ゲルを局在化して目標位置にとどめ、短期および長期の移動を軽減することを可能にするであろうという仮説が立てられる。
【0061】
F-PLGAは殆ど完全に多孔性であり、身体内の機械的特性により緊密に付合する機械的特性を有し、大きい体積の液体を保持することができ、すでに頻繁に、臨床的に利用されて認められている基本的な医学的規格材料で完全に作製されているので、本明細書で記載された手法は、ゲルおよび細胞を保持するために非常に適している。
【0062】
該手法の、多孔性の3Dプリントされたグラフェン、金属、およびセラミック材料の創出への拡張
最終的に、本実施例で記載されたこの空孔を形成する手法を、他の材料系に拡張して、この手法の用途を、医学および組織工学を超えて押し進めることが可能である。この手法が、空孔率を種々の材料系中に導入することに適用され得ることを立証するために、複合体組成物を、CuSO4と以下のもので創出した:ニッケル(Ni)金属、イットリアで安定化されたジルコニア(YSZ)セラミック、およびグラフェン(Gr)、これらは、金属、イオン性、および共有結合固体系の代表的なものである。各化合物の組成物は、30体積%のPLGA、35体積%のCuSO4、および35体積%のNi、YSZ、またはGrからなった。これらの組成物は、最終的に、F-Ni、F-YSZ、またはF-Gr(洗浄後)を製造するために使用された。
【0063】
正方形の各材料を、CuSO
4組成物と同じ直接室温押出しにより3Dプリントして、それから直径6mmの試料を打ち抜いた(
図9A)。これらの試料は、CuSO
4のみの試料と同じ洗浄および凍結乾燥手順を経ており;残存銅イオン含有量の定量を
図9Bに示す(F-PLGAについての3Bと同様)。YSZセラミックおよびNi金属の最終の使用用途は、焼結された状態であるであろうから、F-YSZおよびF-Niは、洗浄後に焼結された(F-YSZは空気中で、F-Niは水素ガス中で)。3DプリントされたF-Gr、F-Ni、およびF-YSZの全ての加工処理状態における内部の微細構造の走査電子顕微鏡写真を
図9Cに示す。F-YSZは、70%F-PLGAと同様に、残存銅イオンを殆ど完全に含まないが、一方、F-GrおよびF-Niはそうではない(
図9B)。グラフェンの非常に高い表面積ゆえに、解離した銅イオンがF-Gr内のグラフェン薄片に吸着して、それらが周囲の媒体中に溶脱されることを妨げたらしいと考えられる。F-Niの場合には、溶液中のCuSO
4は、Ni金属と自発的に反応して置き換わることが知られている(CuおよびNiの完全な固体-固体溶解性)。CuのNiに対するこの高い親和性は、洗浄中における銅イオンの完全な除去を抑制するようである。実際、塩の結晶を、洗浄されたF-GrおよびF-Ni試料の顕微鏡写真で見ることができる(
図9C;鮮明な結晶)。
【0064】
元のCuSO
4の3Dプリントされた材料と同様に、エタノール洗浄に続く水洗浄は、全ての材料について僅かな直線状の寸法増大(2~6%)を生じさせる(
図9E)。このサイズの増大は、50%CuSO
4からF-PLGAへの場合より僅かに小さく、そのことは、以前の系は50体積%CuSO
4固体を有したが、現行のF-Gr、F-Ni、およびF-YSZ材料は35体積%のCuSO
4固体を有するので、以前の観察と一致する。高い空孔率にも拘らず、F-NiおよびF-YSZは、それぞれ、水素および空気雰囲気中で、効果的に焼結され得た。上昇した空孔率ゆえに、焼結された材料の最終のサイズは、それらの元のプリントされたまま、または洗浄されたままの形態よりも劇的に小さかった。サイズにおけるこの明らかな変化は、F-Niについて、
図9Dに劇的に示されており、その場合、最終の物体は、そのプリントされたままの対応物に対して、全ての方向で40%小さく、実質的内部空孔率を保持した(
図9C)。同様に、F-YSZは、焼結の結果として実質的な寸法減少を受けたが(約30%)、微細構造の空孔率は維持した(
図9C)。3DプリントされたままのCuSO
4+YSZおよび生じた焼結されたF-YSZの間で起こった変換を立証するために、各状態の試料を高温のトーチランプに曝露した。予想されたように、焼結されなかった試料は焼かれてばらばらになったが、それに対して、焼結されたYSZはその形状を維持した。ここで示したF-Gr、F-Ni、およびF-YSZは、広範囲の用途のために、多種多様な3Dプリントされた材料系に空孔率を追加する能力を表す。
【0065】
材料および方法:
3D-プリンティング組成物の合成
CuSO4組成物を、前に確立された方法に基づいて合成した。(エー、イー、ジェイクス、エス、エル、テイラー、エヌ、アール、ゲイセンドルファー、ディー、シー、デュナンド、アール、エヌ、シャー(A.E.Jakus,S.L.Taylor,N.R. Geisendorfer,D.C.Dunand,R.N.Shah)Advanced Functional Materials 2015,25,6985を参照されたい)。簡単に説明すると、作製されるべき組成物の比に基づいた適切な量のPLGA(82:18 ラクチド:グリコリド;密度=1.15g/cm3)コポリマー(Evonik Cyro、米国)を、ジクロロメタン(DCM;Macron Fine Chemicals、米国;1グラムPLGA当たり10mL DCM)に完全に溶解した。別に、DCM、2-ブトキシエタノール(2-Bu;Sigma Aldrich、米国)、およびジブチルフタレート(DBP;Sigma Aldrich、米国)の混合物を20:2:1の比で調製して、それに、予め篩って-325メッシュの粉末にしておいた適切な体積のCuSO4(Alfa Aesar、米国;密度=3.6g/cm3)を懸濁して、数分間混合した。使用されるCuSO4の3.6g毎に0.9gの2-Buおよび0.45gのDBPを利用して、組成物を創出した(使用される3.6gのCuSO4当たり約9gDCMに対応する)。溶解されたPLGAおよびCuSO4粉末懸濁液を、次に物理的に組み合わせて、混合物が均一に見えるまで数分間手動的に撹拌して混合した。生じた予備的組成物を、30から35Pa・sの適切な低剪断粘度に達するまで、定期的な撹拌と合わせて、数時間にわたる周囲条件のDCM蒸発により、化学ドラフトチャンバー中において濃縮した。この粘度の値が、3D-プリンティングのために理想的であり、溶媒トラップを備えたクエット型設備(MCR Rheometer、Paar Physica)を使用して、0から100Paの間の間隔をおいた応力で回転剪断下において測定した。このプロセスを、この研究で使用された全てのCuSO4組成物(固体体積で25、50、および70%、ならびに63.6および35.6%のCuSO4組成物)、ならびに混合されたCuSO4+グラフェン、CuSO4+Ni金属、およびCuSO4+YSZ混合組成物のために利用した。混合された組成物の固体体積含有量は、30%PLGA、35%CuSO4、および、35%のグラフェン粉末(Graphene Labs、米国;横方向の寸法が5~25μm)、ニッケル金属粉末(Alfa Aesar、米国;3~7μm)、またはYSZ(Fuel Cell Materials Inc.、米国;0.9~1.2μm)であった。純粋なPLGA組成物は、この研究のために製作されたのではなく、Jakusらにより記載されたように(エー、イー、ジェイクスら(A.E.Jakus,et al),ACS Nano 2015,9,4636を参照されたい)、以前製作され、3D-プリントされて特徴づけられたものである。最終のCuSO4および化合物の組成物は、直ちに3Dプリントされるかまたは密封されたガラスのジャー中4℃で必要になるまで貯蔵されるかのいずれかであった。
【0066】
3D-プリンティング
全てのプリントされた構造は、3D-Bioplotter(EnvisionTEC GmbH、ドイツ)を使用して、室温における空気式の注入器押出しにより製作した。CuSO4組成物を、30ccカートリッジ(Nordson EFD、米国)中に注いで、3D-Bioplotterに搭載した。円錐形のプラスチックまたはステンレス鋼の直径が250μmのノズル(Nordson EFD、米国)を、この研究全体を通して利用された試料の大部分を創出するために使用した。410、500、および600μmのノズルを、追加の、非定量的に特徴づけられた試料のために利用した。5層(200μm/層)の5×5cmの正方形を、25、50、および70%CuSO4組成物の各々から、250μmノズルおよび20~40mm/sの直線状のプリント速さを使用して3Dプリントした。前に記載された0~90°オフセットしたデザインを、これらのシートの各々のために内部プリントパターンとして利用した(エー、イー、ジェイクスら(A.E.Jakus,et al.)、Science translational medicine 2016,8,358ral27;エー、イー、ジェイクスら(A.E.Jakus,et al.),ACS Nano 2015,9,4636;およびエー、イー、ジェイクスら(A.E.Jakus,et al.),Journal of Biomedical Materials Research Part A 2017,105Aを参照されたい)。簡単に説明すると、単一の層内で平行な繊維を0.8mm離して(繊維の中心から繊維の中心までの距離)押し出して、所与の層内における繊維間で200~300μmの距離を生じさせた。次の層を同様にプリントしたが、最初の層と直交させた。一つおきの層を、X-Y平面で、前にプリントされた平行な層に対して400μmオフセットしてプリントした。これで、最終的に、細胞の播種およびインビトロにおける研究のために理想的である、ジグザグ配置の、交互に0~90°のパターンを生じた。
【0067】
洗浄/溶脱および凍結乾燥
3DプリントされたCuSO4の5×5cmシート、ならびに引張り「ドッグボーン(dog bone)」検体を、500mLのビーカー中で200~300mLの70%エタノール中に個々の検体を漬けることにより、洗浄して溶脱した。ビーカーを磁気撹拌プレートに置き、低速で撹拌して、確実に試料を動かし続けた。これを1時間行い、その時点で70%エタノールを新鮮エタノールと交換して、試料をさらに30分間洗浄した。滅菌組織培養フード中で、70%エタノールを滅菌水と置き換えて、滅菌フォイルで覆い、磁気撹拌プレート上でさらに30分間洗浄した。生じた試料を次に数時間、-80℃で凍結して、約24時間凍結乾燥して乾燥試料を得た。CuSO4+グラフェン、CuSO4+Ni、およびCuSO4+YSZも、このプロセスに従って、洗浄し、溶脱して、凍結乾燥した。この研究で記載されたように、エタノール工程の前に水洗工程を用いるこのプロセスの変形を、幾つかの試料について利用して、洗浄プロトコルの材料に対する影響を観た。
【0068】
空孔率
プリントされたままのCuSO4材料の空孔率は、前に記載した方法によって決定した(エー、イー、ジェイクスら(A.E.Jakus、et al.),Science translational medicine 2016,8,358ral27;エス、エル、テイラー エー、イー、ジェイクスら(S.L.Taylor,A.E.Jakus et al.),Advanced Engineering Materials 2016,n/a;およびエー、イー、ジェイクスら(A.E.Jakus,et al.),Journal of Biomedical Materials Research Part A 2017,105Aを参照されたい)。簡単に説明すると、各CuSO4タイプの約1mの繊維(250μmノズルで押し出された)を押し出して、捕集し、凍結乾燥した(洗浄されない)。次に繊維を知られた長さの切片に切って質量を測定した。それらの測定された質量とともに、繊維の知られた組成および寸法に基づいて、それらの密度を決定した。この測定された密度を、理論的な固体密度(繊維が空孔率を有しなかったとして所与の材料内におけるCuSO4とPLGAの比に基づく)と比較して、空孔率値を出した。同様なプロセスを、洗浄されたおよび溶脱されたF-PLGA繊維について利用して、全てのCuSO4が除去されたと仮定した(データに基づく妥当な近似)。
【0069】
機械的試験
1mmの厚さ(5層)、20mmのゲージ長さの「ドッグボーン」検体を各材料から3Dプリントした(前に記載した)。全ての機械的試験はLF Plus機械的試験機(Lloyed Instruments、米国)を使用して実施した。全ての試料は2mm/分の引張り変位の速さで測定した。プリントされたままのCuSO4試料は、機械的試験の前に密封された50mL遠心分離管中で貯蔵した。乾燥試料は凍結乾燥した後直ちに評価した。機械的試験(水和した)の前に、追加の凍結乾燥された試料を水中に30分間漬けた。3つの試料を、各組成物および試料条件について試験した。各試料の弾性モジュラスを、0%の歪みから2%の歪みでずれた直線状勾配に基づいて決定した。3Dプリントされた50%CuSO4/F-PLGA試料に対する圧縮試験は、プリントされたままのもの、洗浄および凍結乾燥されたもの、ならびに洗浄、凍結乾燥されて水和したものの、より大きい1cm3のブロックから打ち抜いた高さ1cm、直径5mmの円柱(前に記載された)に対して実施した。
【0070】
hMSCの播種および培養
継代培養2回のヒト女性骨髄由来の間葉系幹細胞(Lonza、Walkersville、メリーランド州、米国)を、製造業者の使用説明書に従ってMSC基礎培地および増殖キット(Lonza)を使用して、継代培養5回まで増殖させた。直径5mmのスキャフォールドを、25、50、および70%のF-PLGAの5×5×0.1cm(前に記載されたように、初期プリントサイズ;5層、0~90°オフセット)のシート(各材料のスキャフォールドn=32枚;4時点の各々について8枚)の各々から打ち抜いた。スキャフォールドは、70%エタノール中で1時間滅菌し、続いて滅菌水中で5分洗浄を3回行ってエタノールを除去した。スキャフォールドを48ウェルのプレートの個々のウェル中に入れた。細胞の播種に先立って、過剰の水を各スキャフォールドから吸引した。各スキャフォールドに、5μLの培地(10%胎児骨血清で改変された1×低グルコースダルベッコ改変イーグル培地)、HEPES緩衝液、l-グルタミン、および10単位の抗生物質(Invitrogen、米国)中に懸濁された20,000個のhMSCを静的に播種した。200μLのこの培地を、各ウェルに対して初期播種の45分後に加えた。全ての細胞が播種された試料を、5%CO2中37℃でインキュベートした。指定された時点で(1、7、14、28日)、各材料群から、撮像(共焦点および走査電子顕微鏡法)のために1試料、dsDNA定量のために4試料、および今後必要な場合に使用するために-80℃で凍結されるべき3試料を取り出した。
【0071】
生/死撮像
共焦点蛍光撮像のために保存された試料を、最初に滅菌リン酸緩衝食塩水(PBS)ですすいで、5×10-3mのカルセインAMおよび5×10-3mの臭化エチジウムホモダイマー(Invitrogen、米国)のPBS溶液中で30分間インキュベートした後、撮像した。Nikon C2+蛍光走査共焦点顕微鏡(Nikon、米国)を使用して、各試料の上部約500μmを通して一連の像を得た。像を、Image Jソフトウェア(NIH)を使用して3D表示に再構成した。
【0072】
dsDNA定量
最初にDNAを含まない水中0.02wt%のトリトン-X100(Bio-Rad、米国)溶液1mL中で、45分間室温で超音波処理して細胞を溶解することにより、1、7、14、および28日の時点での各々で特定された試料をDNA定量測定のために調製した。溶解物は、定量を実施するまで-80℃で貯蔵した。細胞溶解物内の二本鎖DNA(dsDNA)を、Quanti-iTTM Picogreen VR dsDNAアッセイキット(Invitrogen、米国)を、製造業者の使用説明書に従って使用して蛍光アッセイにより定量した。
【0073】
走査電子顕微鏡法
細胞を含まない試料を、走査電子顕微鏡法(SEM;LEO Gemini 1525;3kVの加速電圧)のために、オスミウムプラズマ(Osmium Coater、SPI Supplies)により15nmのオスミウム金属でコーティングすることにより調製した後、撮像した。インビトロ研究からの細胞を含む試料を、生/死染色で撮像した試料から直接調製して、共焦点顕微鏡法を使用して撮像した。共焦点蛍光撮像後直ちに、試料を、滅菌ナノ濾過水中の3wt%のスクロース(Sigma Aldrich、米国)および2wt%のグルタルアルデヒド(Sigma Aldrich、米国)の溶液中で30分間固定して、続いて50%から出発して100%までの規格化されたエタノールで洗浄し、その後試料を、臨界点乾燥させた(Critical Point Dryer、Tousimis Samdri、米国)。次に、試料を15nmのオスミウムでコーティングした後、撮像した(LEO Gemini 1525、米国)。アテロコラーゲンおよびペプチド両親媒性物質ゲルを含有するF-PLGA試料を、規格化されたエタノール洗浄を使用して脱水して、臨界点乾燥させ、上で記載したようにオスミウムでコーティングした後、撮像した。
【0074】
(実施例2)
この実施例では、「超弾性の骨(hyperelastic bone)」(HB)の骨再生能力を、ラットの臨界サイズの頭蓋冠欠損における臨床標準の自家骨と比較する。この実施例では、CuSO4が溶脱された多孔性のF-PLGAスキャフォールドを対照として使用するが、この実施例は、CuSO4が溶脱された多孔性のF-PLGAスキャフォールドが、宿主組織と急速に一体化して、血管新生し、組織形成を助長することができ、埋め込みのために一般的に安全であることを立証する。その上、この実施例から、CuSO4が溶脱された多孔性のF-PLGAスキャフォールドは、改変されてヒドロキシアパタイトなどの生物活性セラミック粒子を含むことができ、その組織成長促進特性が強化されることが理解され得る。
【0075】
材料および3Dプリントされたスキャフォールドの調製:
HBを、前に記載されたように、良質な医学のための原則(good medical practices)(GMP)グレードのヒドロキシアパタイト(HA)(Merz North America)およびPLGA(Evonik Cyro)を使用して合成し、特徴づけた(ジェイクスら(Jakus,et al),Sci Transl Med 2016;8:358ral27)。F-PLGAは、硫酸銅(Alfa Aesar)/PLGA(Evonik Cyro)インクから3Dプリントして塩を溶脱除去した製作した。F-PLGAは、3D-プリントされた、ヒドロキシアパタイトを含まない対照として役立った。3D-BioPlotter(Envision TEC、GmbH)を使用して、全ての試料を3Dプリントした。120°で進む空孔パターンを有する、5層厚さ(1層当たり120μm、合計0.6mm)の、各材料の5×5-cmのシートを、200μmのノズルを使用して隣接の平行な繊維間の間隔を250μmにして製造した。5×5cmのシートから、埋め込むための直径8mmのスキャフォールドを、生検パンチを使用して打ち抜き、洗浄して、前に記載されたプロトコル(ジェイクス(Jakus)、2016)に従って滅菌した。
【0076】
手術手順:
体重が各々約500gの成体の雄のSprague Dawleyラットを、Charles River Laboratories International、Inc.(Wilmington、マサチューセッツ州)から得た。全ての動物の手術手順は、Chicago Animal Care and Use Committeeにおいてイリノイ大学により承認され、確立された指針に従って実施した。ラットは、手順中、一般的麻酔(2%イソフラン/100%O2)下で維持された。定型的滅菌条件下で、冠状縫合とラムダ縫合の間の頭蓋冠を、1.5cmの矢状切開により曝露させた。滅菌正常食塩水を灌水しながら、穿頭器を備えた手持ちのドリルを低速度で使用して、全層の直径8mmの頭蓋冠欠損を創出した(スパイサー、ピー、ピー、 クレトロウ、ジェイ、ディー、 ヤング、エス、 ジャンセン、ジェイ、エー、 カスパー、エフ、ケー、 ミコス、エー、ジー(Spicer,P.P.,Kretlow,J.D.,Young,S.,Jansen,J.A.,Kasper,F.K.,Mikos,A.G.)ラットの臨界サイズの頭蓋冠欠損を使用する骨再生の評価(Evaluation of bone regeneration using the rat critical size calvarial defect.)Nat Protoc 2012;7:1918-1929)。欠損を無作為に以下の研究群に割り振った:(1)空いた欠損(陰性対照)(n=7);(2)自家頭蓋冠骨を埋め込まれた欠損(陽性対照)(n=6);(3)F-PLGAスキャフォールドを埋め込まれた欠損(n=6);および(4)HBスキャフォールドを埋め込まれた欠損(n=10)。骨膜および皮膚を、連続吸収性縫合糸を使用して閉じて、鎮痛のためにブプレノルフィンSR LAB(0.1mg/kg)を皮下投与した。動物を、1ケージ当たり2匹収容して、水および食品に随意に近づけるようにした。ラットを、手術後8週間(n=16)および12週間(n=13)に屠殺した。欠損部位を含有する頭蓋試料を回収して、分析のために10%の中性に緩衝されたホルマリン中で固定した。
【0077】
結果は、PLGAおよびそのスキャフォールド内にHA微粒子を含むHBスキャフォールドを使用することにより、骨伝導性が増大して臨界サイズの頭蓋冠欠損における骨再生を加速したことを立証した。自家移植の臨床標準に正規化すると、埋め込み後8および12週間における骨形成のCBCTおよびミクロCT分析は、HBスキャフォールドを用いた新しい骨形成のより大きい体積を示した。しかしながら、新しい骨形成は、塩が溶脱されたHAを含まないPLGAスキャフォールドにおいても観察された。
【0078】
「例示の」という用語は、本明細書では、例、事例、または例示として役立つことを意味するために使用される。「例示の」と本明細書で記載される任意の態様またはデザインは、必ずしも他の態様またはデザインよりも好ましいかまたは有利と解釈されるべきではない。さらに、この開示の目的のためにおよび特に断りのない限り、「a」または「an」は、「1つまたは複数」を意味する。
【0079】
本発明の例示の実施形態の前述の記載は、例示および記載の目的のために提示した。それは、網羅的であること、または本発明を、開示された正確な形態に限定することを意図されず、改変および変形は上の教示に照らして可能でありまたは本発明の実行から獲得することもできる。実施形態は、本発明の原理を説明するために、ならびに当業者が本発明を種々の実施形態で、および考えられる特定の使用に適した種々の改変をして利用することを可能にするために、本発明の実用的用途として選択し記載した。本発明の範囲は、本明細書に添付された特許請求の範囲およびそれらの均等物により規定されることが意図される。
(付記)
好ましい実施形態として、上記実施形態から把握できる技術的思想について、以下に記載する。
[項目1]
多孔性材料を形成する方法であって、
(a)材料を形成する工程であって、前記材料が、
ポリマー結合剤、および
固体粒子
を含み、組成物がその固体含有物に基づいて少なくとも約20体積%の固体粒子を含み、前記固体粒子の少なくとも一部が水溶性塩粒子である、工程;
(b)前記材料をアルコール水溶液に曝露する工程であって、前記水溶性塩粒子が水和して体積が増大する、工程;および
(c)前記水和した水溶性塩粒子の少なくとも一部を水に溶解させて、それにより空孔を前記材料中に残す工程を備える方法。
[項目2]
前記水和した水溶性塩粒子の溶解前に、前記材料が、その固体含有物に基づいて少なくとも60体積%の前記固体粒子を含む、項目1に記載の方法。
[項目3]
前記水和した水溶性塩粒子の溶解前に、前記材料が、その固体含有物に基づいて少なくとも60体積%の前記水溶性塩粒子を含む、項目1に記載の方法。
[項目4]
前記多孔性材料が、少なくとも80%の空孔率を有する、項目1に記載の方法。
[項目5]
前記水溶性塩粒子が、銅を含有する無機塩を含む、項目1に記載の方法。
[項目6]
前記水溶性塩粒子がCuSO
4
を含む、項目5に記載の方法。
[項目7]
前記アルコール水溶液が、エタノール、イソプロピルアルコール、またはそれらの混合物を含む、項目1に記載の方法。
[項目8]
前記水溶性塩粒子がCuSO
4
を含む、項目7に記載の方法。
[項目9]
ポリエステルがポリ乳酸-co-グリコール酸である、項目8に記載の方法。
[項目10]
前記ポリマー結合剤がポリエステルを含む、項目1に記載の方法。
[項目11]
前記ポリエステルがポリ乳酸-co-グリコール酸である、項目10に記載の方法。
[項目12]
前記多孔性材料を焼結する工程をさらに含む、項目1に記載の方法。
[項目13]
前記材料を形成する工程が、
組成物を、ノズルを通して押し出して繊維を形成する工程を含み、
前記組成物が、
溶媒、
前記溶媒に可溶であるポリマー結合剤、および
前記溶媒に不溶性である固体粒子を含み、
前記組成物が、その固体含有物に基づいて少なくとも約20体積%の固体粒子を含み、前記固体粒子の少なくとも一部が水溶性塩粒子である、項目1に記載の方法。
[項目14]
前記アルコール水溶液が、エタノール、イソプロピルアルコール、またはそれらの混合物を含む、項目13に記載の方法。
[項目15]
前記水溶性塩粒子がCuSO
4
を含む、項目14に記載の方法。
[項目16]
ポリエステルがポリ乳酸-co-グリコール酸である、項目15に記載の方法。
[項目17]
前記多孔性材料に生体細胞を播種する工程と、前記生体細胞が播種された多孔性材料を、細胞培養培地中で培養する工程とをさらに含む、項目1に記載の方法。
[項目18]
前記多孔性材料中の空孔を液体溶液またはヒドロゲルで埋め戻す工程をさらに含み、前記液体溶液または前記ヒドロゲルが、その中に分散された生体細胞、生物活性因子、またはそれらの組合せを有する、項目1に記載の方法。
[項目19]
多孔性の組織または器官成長材料であって、
少なくとも70%の繊維空孔率を有する1種または複数の多孔性繊維を含む少なくとも1つの層であって、前記1種または複数の多孔性繊維が、生体適合性ポリマー結合剤および銅イオンを含む、少なくとも1つの層;および
前記材料の空孔内の液体溶液またはヒドロゲルであって、前記液体溶液または合成もしくは天然に由来する前記ヒドロゲルが、その中に分散された生体細胞、生物活性因子、ペプチド、タンパク質、またはそれらの組合せを有する、液体溶液またはヒドロゲルを含む材料。
[項目20]
前記多孔性繊維が約1μg/dLから約100μg/dLの範囲内の銅イオン含有量を有する、項目19に記載の材料。
[項目21]
前記多孔性繊維が、前記ポリマー結合剤内に生物活性セラミック粒子をさらに含む、項目19に記載の材料。
[項目22]
前記多孔性繊維が、少なくとも90%の空孔率を有する、項目19に記載の材料。