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特許7341504骨関節炎の関節の為の、生理活性潤滑剤としての脊索細胞マトリックス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】骨関節炎の関節の為の、生理活性潤滑剤としての脊索細胞マトリックス
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/28 20150101AFI20230904BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20230904BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230904BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P19/02
A61P29/00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020540742
(86)(22)【出願日】2019-01-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-06
(86)【国際出願番号】 EP2019052304
(87)【国際公開番号】W WO2019149787
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2022-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】504276668
【氏名又は名称】テクニシェ ユニベルシテイト アイントホーフェン
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(72)【発明者】
【氏名】イトー,ケイタ
(72)【発明者】
【氏名】デ フリース,ステファン アントニウス ヘンリクス
【審査官】伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/121736(WO,A1)
【文献】MULLER, S. et al.,Arthritis Res Ther,2016年,Vol. 18, Article No. 125,pp. 1-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨関節炎(OA)の処置において使用される剤であって、脊索細胞マトリックス(NCM)溶液を含む前記剤
【請求項2】
前記が、OAを患う患者の関節炎の関節における痛みを処置する為に使用される、請求項1に記載の
【請求項3】
処置されることが出来る関節炎が、OAを患う患者の膝、肘、足関節、指、及び/又は股関節である、請求項1又は2に記載の剤
【請求項4】
前記が潤滑剤として使用される、請求項1~3のいずれか1項に記載の
【請求項5】
前記が、関節内補充療法における生理活性潤滑剤として使用される、請求項1~4のいずれか1項に記載の
【請求項6】
前記NCM溶液が、1~100mg/mlのNCマトリックス粉末の濃度を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の剤。
【請求項7】
前記NCM溶液が、1~50mg/mlのNCマトリックス粉末の濃度を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の剤。
【請求項8】
前記NCM溶液が、ヒアルロン酸を更に含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の剤。
【請求項9】
前記NCM溶液水性溶液である、請求項1~のいずれか1項に記載の
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載の剤を調製する方法であって、該方法が該NCM溶液を調製する工程を含み、該NCM溶液が、
動物ドナーの椎間板から脊索細胞(NC:notochordal cell)に富んだ脊索髄性(NP:nucleus pulposus)組織を採取すること;
該NCに富んだNP組織を凍結乾燥して該組織内の細胞を破壊し、それによって、乾燥した且つもろいマトリックスを得ること;
該乾燥した且つもろいマトリックスを粉砕して、乾燥した且つもろいNCマトリックス粉末を得ること;及び
該NCマトリックス粉末を水性溶液中に溶解して、NCM溶液を得ること
の工程を含む方法によって得られうる、前記方法
【請求項11】
請求項1~のいずれか1項に記載の剤を調製する方法であって、該方法が該NCM溶液を調製する工程を含み、該NCM溶液が、
動物ドナーの椎間板から脊索細胞(NC)に富んだ脊索髄性(NP)組織を採取すること;
該NCに富んだNP組織を凍結乾燥して組織内の細胞を破壊し、それによって、乾燥した且つもろい第1のマトリックスを得ること;
該乾燥した且つもろいマトリックスを溶媒で戻し、そして、該戻されたマトリックスを脱細胞して細胞及び核酸残存物を取り除くこと;
該脱細胞されたマトリックスを凍結乾燥して、乾燥した且つもろい第2のマトリックスを得ること;
該乾燥した且つもろい第2のマトリックスを粉砕して、乾燥した且つもろいNCマトリックス粉末を得ること;及び
該NCマトリックス粉末を水性溶液に溶解して、NCM溶液を得ること
の工程を含む方法によって得られうる、前記方法
【請求項12】
前記椎間板が、ブタの椎間板である、請求項10又は11に記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨関節炎の処置における、生理活性潤滑剤としての脊索細胞マトリックスの方法及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
椎間板(IVD:intervertebral disc)再生の分野において、脊索細胞(NC:notochordal cell)は、かなりの注目を浴びてきている。それらは、髄核細胞(NPC:nucleus pulposus cell)マトリックスの生成及び増殖12~15、並びに骨髄由来幹細胞(BMSC:bone marrow-derived stem cell)の軟骨形成性の表現型への分化16、17を刺激する能力を有する可溶性因子を産生する。NC分泌因子に対する代替は、凍結乾燥及び粉砕されたブタNCマトリックス(NCM:NC matrix)の直接使用である。この物質は、ウシNPCのイン・ビトロ(in vitro)培養で適用されたが(de Vries, Stefan; van D, MeijBjorn; Tryfonidou, Marianna; Ito, Keita. Notochordal Cell Matrix As a Therapeutic Agent for Intervertebral Disc Regeneration. Tissue Engineering Part A. June 2018:ten.tea.2018.0026.)、ここで、それは、NC分泌可溶性因子と比較してはるかに強力な同化作用を発揮した。その上、イヌのイン・ビボ(in vivo)試験においてNCMの椎間板内注射は、同化作用及び抗炎症作用を有し、且つIVDの水分供給を増加した(Bach FC, Tellegen AR, Beukers M, et al. Biologic canine and human Intervertebral Disc repair by notochordal cell-derived matrix: from bench towards bedside. Oncotarget. 2018;9(41):26507-26526)。NPCは関節軟骨細胞に酷似するので、NCMはまた、これらの細胞を刺激する潜在能力を有しうる。その上、水性媒体中に低濃度で溶解された場合に、NCMは、HAと類似した潤滑特性を有しうる粘稠な流体を形成する。
【0003】
脊索細胞マトリックス(NCM:Notochordal cell matrix)は、イン・ビトロ(in vitro)及びイン・ビボ(in vivo)において、椎間板の髄核細胞において再生する能力を有する。NCはヒト軟骨細胞において同化能力及び抗炎症能力を有する因子を分泌することがまた実証されている。その上、低濃度で溶解される場合に、NCMが、潤滑特性を有しうる粘稠な流体を形成する。それ故に、本発明は、骨関節炎(OA:osteoarthritic)の関節に施与する為の再生潤滑剤としてNCMを使用する為の新規なアプローチを記載する。NCMの再生能力を試験する為に、ウシ軟骨細胞が播種されたアルギン酸ビーズが、NCMが補充された媒体中で培養された。加えて、炎症性の環境におけるNCMの効果を調査する為に、アルギン酸ビーズがまたIL-1βで刺激されたNCM中で培養された。最後に、ヒアルロン酸(HA:hyaluronic acid)に対して且つヒアルロン酸と組み合わせてNCMの潤滑特性を試験する為に、ガラス上の軟骨のレシプロ式のスライディング摩擦試験(reciprocating sliding friction test)が実施された。NCMは、GAGの沈着及び細胞増殖、並びにDNAに対するGAGの比及びヒドロキシプロリン含有量を増加させた。これらの効果は、IL-1βの存在下で維持された。NCMはまた、IL-1β誘発性のIL-6、IL-8、ADAMTS-5及びMMP-13の発現も緩和した。その上、NCMは、6の試験スピード並びに60mm/sで、HAと類似して、摩擦係数(CoF:coefficient of friction)の用量依存性の低下を誘発した。本発明に由来する結果は、NCMが、軟骨細胞に対して同化作用及び抗炎症効果を有すること、並びに好ましい潤滑特性を有することを示す。それ故に、関節内NCM注射は、OA関節内の罹患した軟骨組織を修復しながら、痛みを最小限に抑える処置としての可能性を有しうるが、また更なる調査を請け負う。
【0004】
関節軟骨(AC:articular cartilage)は、流体で満たされた滑膜関節内で骨の関節面を覆う、平滑な含水組織の層である。滑液と共に、それは、運動中のこれらの関節において低摩擦を実現する。変性関節疾患である骨関節炎(OA:osteoarthritis)は、AC並びに滑膜及び軟骨下骨組織に影響を及ぼし、痛みを伴う関節運動障害を引き起こす。膝のOAは、全世界における痛み及び能力障害に対する主原因の1つであり、推計は米国内だけでも930万人の罹患者を示唆する
【0005】
OAは、運動及び痛み薬物療法を用いて当初保守的に処置される。後期段階において、非ステロイド系抗炎症薬又は関節内ステロイド注射が処方される(2)。別の処置選択肢は、関節内補充療法(3)、すなわち滑液中に天然に見られる大きな多糖類であるヒアルロン酸(HA:hyaluronic acid)の関節内注射、である(4)。HAは、粘弾性の提供に加えて、滑液の粘度(5)を増加させ、それによって関節の流体潤滑に寄与する(6、7)。その上、軟骨表面でおの分子相互作用に起因して、それは境界潤滑にもやはり寄与する(8)。OAにより、HAは分解し、その結果、濃度の低下及び低分子量断片を引き起こすが、それは滑液の潤滑特性に影響を及ぼす(9)。HAの関節への注射は、滑液粘度を増加させ、そして痛みを最小限に抑えて、人工膝関節全置換を遅延させることを目的とする。メタ分析は、HA関節内補充療法の有効性に関して矛盾する結果を提供するが(10)、それは痛みを伴う膝OAに対する安全且つ有効な処置であると一般的に考えられている(11)。HAのプラスの効果にもかかわらず、それは症状緩和を提供のみを提供し、罹患した軟骨を健康な状態まで修復しない。それ故に、他の選択肢が検討されるべきである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
関節内補充療法において使用されることができる潤滑特性を用いた解決策、すなわちOAに患う患者の関節炎の関節において滑液の潤滑特性を増加させる為の処置を提供すること、が本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
NCM溶液はHA溶液と同様の潤滑特性を有し、且つ摩擦係数(CoF)を低下させることが判った。CoFの低下は関節内の痛み低下に寄与し、従って痛みを最低限に抑え且つOAに患う患者に救済をもたらす。
【0008】
従って、本発明は、骨関節炎(OA)の処置におけるNCM溶液の使用、より特にはOAの処置における関節内補充療法の使用、を提供する。本発明の目的の為の関節内補充療法は、関節内に潤滑剤を直接関節内注射することによるOAの処置であると理解される。好ましくは、本発明は、OAに患う患者の骨関節炎の関節における痛みの処置におけるNCM溶液の使用を提供する。より好ましくは、該NCM溶液は、OAの処置における、より具体的にはOAを患う患者の関節炎の関節における痛みの処置における、潤滑剤として使用される。該NCM溶液は、OAの処置における生理活性な関節内補充療法において、潤滑剤として使用されることができる。
【0009】
NP組織は潤滑機能を有さないので、NPマトリックスコンポーネントから単に構成されるNCMは、境界又は流体潤滑剤として作用することは予想されなかった。更に、関節軟骨の関節面に結合した重要な糖タンパク質であるラブリシン(lubricin)(PRG4)は、NCに富んだ媒体のタンパク質含有物中には存在しなかったので、潤滑特性が、PRG4の存在に寄与できなかった。それ故に、NCM溶液が境界及び流体潤滑を生み出すことができたことは、さらに驚くことであった。
【0010】
本発明は、骨関節炎(OA)を処置する方法、好ましくはOAに冒された関節内の痛みを処置する方法、においてNCM溶液の使用を提供する。該NCM溶液は、上記関節内の痛みを低下させる為に、OAに患う対象の関節内に潤滑剤として投与される。該NCM溶液は好ましくは、関節内注射により関節中に直接投与される。該NCM溶液は、未処置の関節炎の関節内のCoFと比較して、罹患した関節炎の関節内の軟骨摩擦係数(CoF)について、その低下を実現する為に、有効量で投与される。CoFを低下させることにより、罹患した関節炎の関節内の痛みは低下し、従ってOAに患う患者において、痛みの緩和を実現する。該NCM溶液の有効量は、NCMの濃度、並びに他の因子、例えば疾患の状態、患者の年齢及び重量、に従って変化しうる。
【0011】
潤滑剤としての使用に好適なNCM溶液は、当技術分野において共通する一般的な調製方法、例えば国際公開第2017/121736号パンフレット、de Vries、Stefan等(2018年6月)、前出;Bach FC等(2018年)、前出;Vries SAH, Doeselaar M, Kaper HJ, Sharma PK, Ito K. Notochordal cell matrix as a bioactive lubricant for the osteoarthritic joint. Sci Rep. 2018;8(1):1-11.; Notochordal cell matrix: An inhibitor of neurite and blood vessel growth? J Orthop Res. 2018;36(12):3188-3195、に記載されている方法、を使用して得ることができる。該NCM溶液を調製する好適な方法は、下記の工程を含む:
動物ドナーの椎間板から脊索細胞(NC)に富んだ髄核(NP)組織を採取すること;
該NCに富んだNP組織を凍結乾燥して組織内の細胞を破壊し、それによって、乾燥した且つもろいNCマトリックスを得ること;
該乾燥した且つもろいマトリックスを粉砕して、乾燥した且つもろいNCマトリックス粉末を得ること;及び
該NCマトリックス粉末を溶媒中に溶解して、NCM溶液を得ること。
【0012】
本発明に従う動物ドナーは、その脊索細胞(NC:notochordal cell)を保持し、それ故に変性椎間板症を発症しない任意の動物であることができる。それ故に、これらの動物は、それらの成体期全体を通じてさえも、長年にわたり椎間板のNP組織内にそれらの脊索細胞を維持する。本発明に従う好適な動物ドナーは、非軟骨形成異常性のイヌ、ネコ、ブタ等である。好ましくは、該動物ドナーはブタ種であり、且つ椎間板はブタ椎間板である。
【0013】
凍結乾燥は、当技術分野において公知の標準方法、例えばRemington: The Science and Practice of Pharmacy, 21st Edition. Ed David B Troy. Lippincott Williams & Wilkins, Baltimore, 2006において記載されている方法、を使用して行われることができる。凍結乾燥は、NP組織内の細胞を破壊し且つ断片化する為に行われる。乾燥し且つもろいマトリックスが得られ、次にそれは、粉砕されて、乾燥した且つもろいNCマトリックス粉末を形成する。
【0014】
乾燥した且つもろいNCマトリックスの粉砕は、当技術分野において公知の標準方法を使用し、且つ当技術分野において周知の標準的な機器を使用して行われることができる。生物材料の粉砕の為の好適な方法及び機器は例えば、de Vries、Stefan等(2018年6月)、前出、に記載されている。
【0015】
乾燥した且つもろいNCマトリックス粉末を溶媒に溶解して、本発明のNCM溶液が得られる。好ましくは、該溶媒は、水性溶媒、より好ましくは緩衝化された水性溶媒、である。好適な水性溶媒は、薬学的に許容される水性担体溶媒、例えば水、PBSバッファー溶液、通常の生理食塩溶液等、として周知である任意の標準的な水性溶液であることができる。
【0016】
凍結乾燥工程及び粉砕工程に加えて、該組織は脱細胞工程に付されて、細胞及び核酸の残存物を除去しうる。椎間板を提供する動物は、それらのゲノム内に、ヒト細胞に感染するおそれのある内因性のウィルス、例えばレトロウィルス、を宿しうる。該NCマトリックスを脱細胞工程に付して核酸含有物を除去することによって、ウィルス核酸による感染症が予防されることができる。NCマトリックスの脱細胞は、当技術分野において周知である標準的な脱細胞法を使用して行われることができる。好適な脱細胞法は例えば、国際公開第2015/048317号パンフレット及び国際公開第第2017/121736号パンフレットに記載されている。脱細胞の前に、凍結乾燥工程で得られた乾燥した且つもろいNCマトリックスが、溶媒、好ましくは生理学的水性溶液、例えば通常の生理食塩溶液、PBS溶液等で戻される。好ましくは、脱細胞は、ヌクレアーゼ若しくは界面活性剤で又は両者の組み合わせで、該戻されたNCマトリックス組織を処理することによって行われる。そのような処理は、脱細胞されていないNCマトリックスと比較して、できる限り多くのタンパク質含有物を維持しながら、NCマトリックスからの核酸含有物の実質的な除去を結果として生じる。ヌクレアーゼ若しくは界面活性剤で又は両者の組み合わせでの処理は、処理されていないNP組織と比較して、NCマトリックス組織から、核酸の少なくとも80%の除去を結果として生じる。従って、核酸の残留含有量は、処理されていないマトリックスと比較して、処理されたNCマトリックスにおいて20%未満である。
【0017】
好適なヌクレアーゼは、DNAse、RNAse、Bensonase(登録商標)等である。好適な界面活性剤は、トリトン(Triton)-X(登録商標)界面活性剤、例えばトリトン(Triton)-X(登録商標)100等、である。好ましくは、脱細胞は、Bensonaseでの、より好ましくはBensonase(登録商標)とトリトン-X(登録商標)-100との組み合わせでの、処理によって行われる。ヌクレアーゼ及び界面活性剤は、用量に依存した様式で核酸を除去する。ヌクレアーゼ及び界面活性剤での処理は周知である技術であり、且つ当業者は、ルーチン技能及び当業者の一般的な知識を使用して必要とされる投薬量及び時間を決定することができる。投薬量及び反応時間に依存して、80%~99%の任意のレベルの核酸除去が達成されることができる。ヌクレアーゼ及び/又は界面活性剤での処理後、脱細胞されたNCマトリックス組織が、幾つかの洗浄工程に付されて核酸残存物が除去される。次に、脱細胞されたNCマトリックス組織は、再度凍結乾燥されて乾燥した且つもろいNCマトリックス粉末を得て、それは粉砕され、溶解されて、本発明に従うNCM溶液を得ることができる。
【0018】
従って、特別な観点において、本発明のNCM溶液が、下記の工程を含む方法によって調製されうる:
動物ドナーの椎間板から脊索細胞(NC:notochordal cell)に富んだ脊索髄性(NP:nucleus pulposus)組織を採取すること;
該NCに富んだNP組織を凍結乾燥して組織内の細胞を破壊し、それによって、乾燥した且つもろい第1のマトリックスを得ること;
該乾燥した且つもろいマトリックスを溶媒で戻し、そして、該戻されたマトリックスを脱細胞して細胞及び核酸残存物を取り除くこと;
該脱細胞されたマトリックスを凍結乾燥して、乾燥した且つもろい第2のマトリックスを得ること;
該乾燥した且つもろい第2のマトリックスを粉砕して、乾燥した且つもろいNCマトリックス粉末を得ること;及び
該NCマトリックス粉末を水性溶液に溶解して、NCM溶液を得ること。
【0019】
動物ドナーは、上述されている通り任意の動物であることができる。凍結乾燥工程、粉砕工程、及び脱細胞工程、及び溶解工程は、上述されている通りに行われる。
【0020】
該NCM溶液は、追加の成分、例えば抗生物質、BSA、ヒアルロン酸(HA)、又は持続放出型ヒドロゲルさえも含みうる。
【0021】
本発明のNCM溶液は好ましくは、1~200mg/ml、好ましくは1~100mg/ml、より好ましくは1~50mg/ml、のNCマトリックス粉末の濃度を有する。
【0022】
該NCM溶液は、関節炎の関節における痛みを最小限に抑える為に、OAの処置、好ましくはOAに患う患者を対象に、関節炎の関節における痛みの処置、より好ましくは関節内補充療法によるOAの処置、における生理活性潤滑剤として使用されることができる。処置されることができる関節は、膝、肘、足関節、指、股関節部の関節、及びOAに罹患している可能性のある他の全ての滑膜関節である。
【0023】
更なる観点において、該NCM溶液は、
脊索細胞を含有するブタ髄核組織を凍結乾燥して、組織内の細胞を破壊し、乾燥した且つもろい組織を作製すること;
乾燥した且つもろい組織を処理して、細胞及び核酸残存物を除去すること、ここで、該処理が、ブタ髄核組織内のブタのタンパク質含有物を実質的に維持しながら、ブタ髄核組織からブタ核酸の少なくとも80%除去を結果として生じる;
該処理された材料を更に凍結乾燥し、処理された材料を脊索細胞マトリックス粉末に粉砕すること;及び
該脊索細胞マトリックス粉末を溶液又はゲルに溶解することによって、該脊索細胞マトリックス粉末を可溶化すること
の工程を含む方法
を含む、骨関節炎の関節用の生理活性潤滑剤として脊索細胞マトリックスを作製する方法
によって得ることができる。
【0024】
更なる観点において、本発明は、生理活性潤滑剤として使用する為のNCM溶液を提供する。好ましくは、該NCM溶液を含む生理活性潤滑剤が、本明細書に記載されている方法のいずれかで得られる。より好ましくは、該NCM溶液を含む生理活性潤滑剤が、本明細書に記載されている方法のいずれかを使用してブタ椎間板から得られる。
【0025】
1つの観点において、本発明は、OAの処置において使用する為の生理活性潤滑剤を提供し、ここで、該潤滑剤は、可溶化された脊索細胞マトリックス粉末を含む。好ましくは、該脊索細胞マトリックス粉末は、脊索細胞を含有する凍結乾燥され処理されたブタ髄核組織に由来し、ここで、該粉末は20%未満のブタ核酸を含有し、該粉末は、その起源とするブタ髄核組織と比較して、実質的に不変量のブタタンパク質含有物を含有し、且つ該可溶化された脊索細胞マトリックス粉末は、担体溶媒中に溶解されるか、又はゲルとして形成される。
【0026】
本発明は、下記の実施例により更に説明されるが、該実施例に又はそれによって限定されることはない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、ブタのNCに富んだNPマトリックス(NCM)が、ウシ軟骨細胞の同化応答を誘発したことを示す。ウシ軟骨細胞が播種された1アルギン酸ビーズ当たりの(a)グリコサミノグリカン(GAG)及び(b)DNA含有量、(c)DNA当たりのGAG、及び(d)1ビーズ当たりのヒドロキシプロリン含有量。数値は平均値+標準偏差を表し、1群当たりn=5である。は、他の全ての群と比較してp<0.05を示す、#は、基本媒体(BM:base medium)と比較してp<0.05を示す。(e)アルシアンブルー染色は、BMと比較して、NCM及び10ng/mlのTGF-β1(TGF)が補充されたBMで、増加されたGAG沈着を確認する。コラーゲン免疫組織化学は、ビーズの端部でのII型コラーゲンの増加、且つTGFでのより拡散性のII型コラーゲンの沈着を示す。I型コラーゲン染色強度は、NCMで増加されるように見える。
図2図2は、NCに富んだ髄核マトリックス(NCM)が、軟骨細胞が播種されたアルギン酸ビーズにおいて、顕著な同化作用を有することを示す。ACAN:アグリカン;COL-2:II型コラーゲンα1;COL-1:I型コラーゲンα1。発現レベルは、60Sリボソームタンパク質L13(RPL13)に比例する。数値は平均値+標準偏差であり、1群当たりn=5である。は、同時点での他の全ての群と比較してp<0.05を示す。#は、基本媒体(BM)と比較してp<0.05を示す。
図3図3は、炎症性の刺激を追加が、NCMの再生能力に影響を及ぼさなかったことを示す。ウシ軟骨細胞が播種された1アルギン酸ビーズ当たりの(a)グリコサミノグリカン(GAG)及び(b)DNA含有物、(c)単位DNA当たりのGAG、及び(d)1ビーズ当たりのヒドロキシプロリン含有物。数値は、平均値+標準偏差を表し、1群当たりn=5である。#は両基本媒体(BM)群からp<0.05を示す。(e)アルシアンブルー染色は、両BM群と比較して、両NCM群についてGAG沈降の増加を確認する。II型コラーゲン染色は、BM単独と比較して、BMにIL-1βを添加した場合、強度はより低かったが、それはNCMにIL-1βを添加したときも、程度はより低いもののやはり認められる。I型コラーゲンの沈着は、BMにIL-1βを添加すると増加するように見えたが、しかしながらNCMにIL-1βを添加してもこれは認められない。
図4図4は、NCに富んだ髄核マトリックス(NCM)が、抗炎症能力及び抗異化能力を有しうることを示す。IL-1β/6/8:インターロイキン-1β/6/8;TNFα:腫瘍壊死因子α;ADAMTS-5:トロンボスポンジンモチーフ5を有するディスインテグリン及びメタロプロテイナーゼ;MMP-13:マトリックスメタロプロテイナーゼ13;ACAN:アグリカン;COL-2:II型コラーゲンα1。COL-1:I型コラーゲンα1。発現レベルは、60Sリボソームタンパク質L13(RPL13)に対する。数値は平均値+標準偏差であり、1群当たりn=4~5である。は、同時点に由来する他の全ての群と比較してp<0.05を示す、$は、基本媒体(BM)と比較してp<0.05を示し、#は、BM+IL-1βと比較してp<0.05を示す。
図5図5は、NCに富んだ髄核マトリックス(NCM)が、軟骨潤滑において潜在能力を有することを示す。PBS単独における20サイクル目のCOFに標準化された、異なる潤滑剤における20サイクル目の摩擦係数(COF)であって、(a)6mm/秒s及び(b)60mm/s秒における摩擦係数(COF)。BSA:5mg/mlのウシ血清アルブミン、HA:4mg/mlのヒアルロン酸、NCMl:4mg/mlのNCM、NCMh:10mg/mlのNCM。数値は平均値+標準誤差であり、6mm/秒s測定につきn=5、60mm/s測定の場合n=3である。は、BSAと比較してp<0.05を示し、#は、BSA+HAと比較してp<0.05を示し、$は、BSA+NCMlと比較してp<0.05を示す。
図6図6は、PBS中で軟骨をガラスに対してレシプロ式でスライディングさせるラウンドを反復しても、摩擦係数(CoF)に影響を及ぼさないことを示す。(a)6mm/秒s及び(b)60mm/秒sにおいて軟骨をガラス上でスライディングさせる4回連続したラウンド(PBS1~PBS4、n=4)の各サイクルについてのCoF。個々の測定について、試験スピードのいずれかでスライディングさせる複数のラウンド間で、有意差が観察された。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0028】
当試験の目的は、潤滑特性を有し、同時に軟骨細胞を刺激して、OA関節内の罹患した軟骨を修復することができるバイオマテリアルとしてNCMを使用することに実現性があるか調査することであった。第1に、ウシ軟骨細胞上でのNCMの再生能力がイン・ビトロ(in vitro)でのアルギン酸ビーズ培養において調査された。第2に、NCMは、炎症性刺激の存在下で軟骨細胞を刺激することも可能であるか調査した。最後に、ヒアルロン酸(HA)に対して、及びヒアルロン酸(HA)との組み合わせに対してNCMの潤滑特性を試験する為に、ガラス摩擦試験において軟骨のレシプロ式のスライディングが実施された。
【0029】
材料及び方法
ブタNCMの製造
NCに富んだNP組織が、ブタドナーのIVDから採取された(n=5、生後約3カ月)。該組織は、一晩、凍結乾燥され(Labconco社、Kansas City、MO、米国)、乾燥した且つもろいマトリックスを結果として生じ、引き続き、それはマイクロディスメンブレーター(Sartorius社、Goetingen、ドイツ)を使用して粉砕された。該NCM粉末は、一定分量に小分けされ、そして更なる使用まで-80℃で保管された。
【0030】
軟骨細胞の単離及びアルギン酸ビーズの製造
関節軟骨のフルデプススライス(Full-depth slices)が、ウシドナー(n=5、約3歳)の中手指節関節から収集され、そして15%ペニシリン-ストレプトマイシン(P/S)を含むリン酸緩衝化生理食塩水(PBS:phosphate-buffered saline)中に集められた。引き続き、軟骨フレークが、0.1%アンホテリシンBの存在下、37℃及び5%のCOにおいて20分間インキュベートされた。その後、PBS-P/S-アンホテリシン混合物が吸引され、そして軟骨フレークは、消化媒体(10%ウシ胎仔血清(FBS)、1%P/S、0.1%アンホテリシンB、及び0.5%コラゲナーゼII型が補充されたhgDMEM)中、37℃及び5%COにおいて一晩で消化された。翌日、細胞懸濁物は70μmセルストレーナーを使用して濾し分けられ、そして軟骨細胞が新鮮なhgDMEM中で2回洗浄された。該軟骨細胞は、1.2%アルギネート(Sigma社、180947、Zwijndrecht、オランダ)中、細胞10百万個/mlで再懸濁され、そしてアルギン酸ビーズがこれまでのプロトコールに従い製造された(Guo等、1989年)。要するに、細胞10百万個が、18G混合針を使用して1mlのアルギネートと混合され、その後、該懸濁物はシリンジ内に吸引された。アルギン酸ビーズは、102mMの塩化カルシウム(Merck社、102378)溶液中に細胞懸濁物を滴下することによって製造された。引き続き、ビーズが0.9%塩化ナトリウム(Merck社、106404)溶液を用いて3回洗浄された後、培養培地に移された。
【0031】
アルギン酸ビーズ培養
NCMの同化効果を試験する為に、軟骨細胞が播種されたアルギン酸ビーズが、基本媒体(BM:1%のP/S、1%のITS-1+(Corning社、354352、Lasne、ベルギー)、50mg/mlのアスコルビン酸-2-リン酸塩(Sigma社、A8960)、1.25mg/mlのウシ血清アルブミン(Roche社、10735078001)、及び40mg/mlのL-プロリン(Sigma社、P5607)が補充されたhgDMEM)、NCM(2mg/mlのNCMがBMに添加された)又は陽性対照としての10ng/mlのTGF-β1が添加されたBM中で培養された。更に、NCMが炎症性の環境において再生効果を有するか試験する為に、アルギン酸ビーズがまた5ng/mlのIL-1βの存在下、BM及びNCM中で培養された。アルギン酸ビーズは、1週間に2回、媒体を交換しながら、37℃及び5%COにおいて3週間培養された。媒体を交換する毎に、NCM、TGF-β1及びIL-1βが添加された。培養後、アルギン酸ビーズは、生化学アッセイ(0日目及び21日目)若しくは遺伝子発現分析(3日目及び21日目)用として-80℃で保管され、又は(免疫)組織化学的染色(28日目)用としてパラフィン中に包埋された。
【0032】
生化学的含有量及び(免疫)組織化学的染色
生化学的含有量を決定する為に、アルギン酸ビーズが、60℃で、パパイン消化バッファー(100mMのリン酸バッファー(Sigma社、P5244)、5mMのL-システイン(Sigma社、200-157-7)、5mMのエチレンジアミン四酢酸(Sigma社、03620)、及び140mg/mLのパパイン(Sigma社、P4762))中、一晩、消化された。該消化されたサンプルから、GAG含有量が、サメ軟骨コンドロイチン硫酸(Sigma社、C4384)が参照物質として使用された従前のプロトコール18から改変が施されたジメチルメチレンブルー(DMMB:dimethyl-methylene blue)アッセイ法を用いて決定された。ヒドロキシプロリン含有量が、トランス-4-ヒドロキシプロリン(Sigma社、H54409)参照物質を用いたChloramin-Tアッセイ19を使用して測定された。DNA含有量が、Qubit定量プラットフォーム(Invitrogen社)を使用して測定された。
【0033】
パラフィン包埋アルギン酸ビーズが切片化され、そしてプロテオグリカンの沈着及び細胞核を可視化する為にアルシアンブルー及びヘマトキシリンで染色された。コラーゲン免疫染色について、最初に、切片が、エタノール濃度を一連で減少させたキシレンを使用して脱ワックスされた。切片は、PBS中で5分間洗浄され、そしてI型コラーゲン染色について、クエン酸バッファーを用いて96℃で20分間、及びII型コラーゲンについて、10mMのHClに溶解された0.05%ペプシンを用いて37℃で5分間、抗原回復が実施された。サンプルが、再度0.1%ツイーンを含むPBSを用いて2回洗浄され、その後10%のヤギ正常血清で30分間ブロックされた。次に、サンプルは、1%のNGSを含むPBS(I型コラーゲン用としてAbcam社、Ab34710、1:200希釈、及びII型コラーゲン用としてAbcam社、Ab180697、1:200希釈)中で、一次抗体と共に4℃、一晩、インキュベーションされた。翌日、サンプルは、0.1%ツイーン(tween)を含むPBS中で5分間、2回洗浄され、その後二次抗体(I型コラーゲン用として分子プローブ抗ウサギIgG、A21428、1:200希釈、及びII型コラーゲン用として分子プローブ抗マウスIgG2a、A21137、1:300希釈)及びDAPI(PBS中1:500)と共にインキュベーションされた。その後、サンプルは、再度0.1%ツイーンを含むPBS中で2回洗浄され、そしてmowiolを使用して包埋された。画像が、蛍光顕微鏡(Zeiss Axiovert 200M、Zeiss社、Sliedrecht、オランダ)を使用して取得された。陽性対照サンプル(I型コラーゲン用としてウシ腱、及びII型コラーゲン用として関節軟骨)、並びに各サンプルに対する陰性対照(すなわち、一次抗体の省略)が含まれた。陰性対照は、非特異的陽性染色を示さなかった。
【0034】
遺伝子発現
遺伝子発現分析が、1群毎にプールされた3つのアルギン酸ビーズにおいて実施された。アルギン酸ビーズは、クエン酸ナトリウムバッファー(RNAseを含まない水に溶解された55mMのクエン酸三ナトリウム二水和物(Merck社、1064480500)、0.15Mの塩化ナトリウム、25mMのHEPES(Sigma社、H3375)、7.4にpH調整)中に、室温で5分間、溶解された。遠心分離後、細胞ペレットが、1%のβ-メルカプトエタノールを含む300μlのRLTバッファー(Qiagen社、74104、Venlo、オランダ)中に溶解された。RNAが抽出され、そしてオンカラムDNAse消化工程を含むQiagenミニキット(Qiagen社、74104)を使用して精製された。分光光度計(ND-1000、Isogen、de Meern、オランダ)が、単離されたRNAの量及び純度を試験するのに使用された。ゲノムDNAが存在しないことが、マイナス-RT反応(iCycler;Bio-Rad社、Veenendaal、オランダ)を用いて検証された。cDNAが、VILO-kit(Invitrogen社、11754050)を使用して合成された。試験された遺伝子及びその対応するプライマー対が表1に掲載されている。リボソームタンパク質L-13(RPL-13)が、その発現が全ての培養条件全体を通じて最も安定であったので参照遺伝子として選択された。遺伝子発現がリアルタイムqPCR(CFX384、Bio-Rad社)を使用して調査され、そして発現が、2-Ct法に従って報告される。統計比較が可能となるように、シグナルが得られなかったサンプルについてCt数値は40に設定された。
【0035】
【表1】
表1:RT-qPCRアッセイで使用された標的遺伝子及び参照遺伝子についてのプライマー配列。RPL13:60Sリボソームタンパク質L13;IL-1β/6/8:インターロイキン-1β/6/8;TNFα:腫瘍壊死因子α;ADAMTS-5:トロンボスポンジンモチーフ5を有するディスインテグリン及びメタロプロテイナーゼ;MMP-13:マトリックスメタロプロテイナーゼ13;ACAN:アグリカン;COL2A1:II型コラーゲンα1。全てのプライマー対のアニーリング温度は60℃であった。
【0036】
ウシ骨軟骨プラグの調製
ウシ後膝関節(n=4、2歳、オス)が、Kroon Vlees b.v.,Groningen,オランダから得られた。過剰の皮膚が除去され、且つ関節が軟骨表面に損傷を与えないように慎重に開放された。直径12mmの骨軟骨プラグ合計14個が、中空のドリルビットを使用して大腿顆から穿孔された。穿孔期間中、軟骨は、サンプルの過熱を防止する為に、PBSを用いて継続的に保湿された。関節から骨軟骨プラグを除去した後、それらは、摩擦学試験(tribological tests)で使用されるまで氷上のPBS中に2時間を超えずに保管された。
【0037】
摩擦学試験
摩擦学試験が、UMT-3(ユニバーサル・メカニカル・テスター、Bruker Corporation社、米国)を使用してレシプロ式スライディング法で実施された。ガラス表面は、加温した水盤(33℃、膝関節の温度)中に固定され、液体/潤滑剤のフィルムが表面を被覆するに任せた。骨軟骨プラグがロードセル上に取り付けられ、そしてレシプロ式の構成でガラス表面に対してスライドさせた。この試験では、骨軟骨プラグは、3群に分割された。第1群(n=5)の場合、ガラス表面は、最初PBS中に浸漬され、その後プラグは、正常負荷である4Nが測定されるまでガラスに押し付けられたが、それは最近の試験20で使用されたように、<0.25MPaの低い接触圧をもたらす。次にレシプロ式のスライディングが、一定した通常負荷の下、6mm/秒において20サイクル(55mm一方向)実施され、その直後に60mm/秒において20サイクルが続いた。その後、該プラグは、負荷解除され、そしてPBSが吸引され、及び5mg/mlのウシ血清アルブミンを含むPBS(PBS+BSA)により置換され、試験が反復された。その後、この手順は、4mg/mlのヒアルロン酸を含むPBS+BSA(PBS+BSA+HA)を用いて、及び4mg/mlのNCMを含むPBS+BSA+HA(PBS+BSA+HA+NCM)を用いてやはり反復された。第2群(n=5)の場合、同一の試験が、異なる媒体群:PBS、PBS+BSA、4mg/mlのNCMを含むPBS+BSA(PBS+BSA+NCMl)、及び10mg/mlのNCMを含むPBS+BSA(PBS+BSA+NCMh)を用いて実施された。試験期間中に、通常の力及び摩擦力がモニタリングされ、そしてデータをフィルターにかけて、試験スピードが設定スピードに近いデータポイントのみを取り込み(10%の誤差は許容された)、及び摩擦係数(CoF)を計算する為に、特注のMatlabスクリプトが使用された。測定毎に20回目のサイクルにおいて取得されたCoFが、接触面積の差異について補正する為に、PBS単独でのその各測定に対して標準化された。第3群(n=4)の骨軟骨プラグの場合、2つのスピードにおいて反復されたスライディングが、軟骨表面、従って測定されたCoF値に影響を及ぼさなかったことを検証する為に、同一の手順が、但し各ラウンド新鮮なPBS中で実施された。
【0038】
統計学
社会科学用の統計パッケージを用いて統計解析が実施された(SPSS、バージョン22;IBM社、Armonk、NY)。正規性がシャピロウィルク検定を使用して検定された。生化学データ及び遺伝子発現データでは、一元配置分散分析(ANOVA)が実施され、そしてボンフェローニ補正を含め事後検定を行う独立したt検定が後続した。遺伝子発現データでは、時間的要因ではなく媒体群間の差異のみが興味の対象であったので、各時点において二元配置分散分析よりはむしろ一元配置分散分析が実施された。摩擦学的なデータの場合、異なる潤滑剤群に由来する標準化されたCoF値が、ボンフェローニ補正を含む事後的な方式で、対応のあるt検定(プラグ内比較の場合)又は独立t検定(プラグ間比較の場合)を用いて比較された。PBS対照測定の場合、反復測定分散分析が、それぞれ6及び60mm/秒において20サイクルからなる4つの連続的な試験から得られたCoF値を比較する為に使用された。
【0039】
結果
NCMの再生能力
NCM及びTGFの両方の添加は、BMと比較してGAG含有量の増加を結果として生じた(図1a)。その上、NCMを用いた場合のGAG含有量は、TGFと比較してそれより有意に高かった。類似したパターンがDNA含有量について認められ、BMと比較してTGFでは増加したが、しかしながらNCMを用いた場合よりも更に増加した(図1b)。これらのデータは、BMと比較して、NCM及びTGFにおいて、DNAに対するGAGの比について類似した増加に帰結する(図1c)。また、コラーゲン含有量に対する尺度としてのヒドロキシプロリンは、BMと比較してNCM及びTGFの両方について増加した(図1d)。アルシアンブルー染色は、NCM及びTGFについてGAG含有量の増加を確認した(図1e)。コラーゲン免疫染色から、II型コラーゲンの沈着は、BMと比較して、主にビーズの端部においてNCMによって、しかしながら特にTGFによって刺激を受けているようである。I型コラーゲンの沈着は、TGFによって影響を受けないように見えたが、NCM内で培養されたビーズはより強く染色された。
【0040】
遺伝子レベルでNCMの同化作用を決定する為に、ACAN、COL-2及びCOL-1の遺伝子発現分析が実施された(図2)。3日目において、ACAN発現の差異は培養群間で認められなかった。しかしながら、21日目においては、ACANの発現が、BMと比較してNCM及びTGFの両方、及びNCMと比較してTGFについて増加した。COL-2の発現は、3日目及び21日目において、BMと比較してNCMについて有意に異ならなかったが、しかしながら3日目においてNCMと比較して、及び21日目においてBM及びNCMと比較してそれらよりも、TGFについて有意に高かった。3日目において、COL-1発現における有意差は培養群間で認められなかったが、しかしながらCOL-1発現は、21日目では、BM及びTGFと比較してそれらよりもNCMにおいて有意に高かった。
【0041】
炎症性の環境におけるNCMの潜在能力
NCMもまた、炎症性刺激の存在下で再生能力を有するか決定する為に、軟骨細胞が播種されたアルギン酸ビーズが、IL-1βの添加有り及び添加無しで、BM及びNCMにおいて培養された。しかしながら、BM及びNCMにIL-1βを添加しても、IL-1βを含まないそのカウンターパートと比較して、GAG、DNA、DNAに対するGAG、及びヒドロキシプロリン含有量に影響を及ぼさなかった(図3a~図3d)。アルシアンブルー染色は、IL-1βを含む、及び含まないBMと比較して、IL-1βを含む、及び含まないNCMについて、GAG含有量の増加を確認した(図3e)。興味深いことに、免疫染色は、IL-1βをBMに添加すると、II型コラーゲンが減少することを示唆したが、一方、IL-1βをNCMに添加した場合には、これは明確に観測されなかった。更に、IL-1βを添加すると、BMにおいてI型コラーゲンの生成が増加するように思われたが、しかしながらNCMには当てはまらない。
【0042】
3日目において、培養群間で、IL-1βの発現に差異は認められなかった一方、21日目においては、両BM群と比較して両NCM群において、IL-1β発現は有意に低かった(図4)。更に、IL-1βを添加しても、その未処置の対照と比較して、BM又はNCMのいずれにおいてもIL-1β発現を増加させなかった。IL-6の発現は、3日目において他の全ての群と比較してそれよりも、IL-1βを含むNCMにおいて有意に高かった。しかしながら、21日目において、その発現は、BM単独及び両NCM群と比較してそれよりも、IL-1βを含むBMにおいて有意に高かった。3日目において、IL-8の発現に差異は認められなかったが、その発現は、他の全ての培養群と比較してそれよりも、IL-1βを含むBMにおいて有意に高かった。培養群間の有意差は、TNFαについて、3日目又は21日目のいずれにおいても認められなかった。3日目において、MMP-13の発現に有意差は認められなかったが、しかしながら21日目におけるその発現は、BM単独及びNCM群と比較してそれよりも、IL-1βを含むBMでは有意に高かった。3日目におけるADAMTS-5発現は、両BM群と比較してそれよりも、IL-1βを含む及び含まないNCMにおいて有意に高かった。しかしながら、21日目において、その発現は、他の群と比較してそれよりも、IL-1βを含むBMにおいて有意に高かった。3日目において、ACAN発現に差異は認められなかった。しかしながら、21日目において、NCM内のACAN発現は、BM単独と比較してそれよりも有意に高かったが、またIL-1βを含むNCMでは、両BM群と比較してそれよりも有意に高かった。3日目において、IL-1βを添加すると、COL-2の発現がBM単独と比較して有意に減少したが、21日目において有意差は認められなかった。3日目において、COL-1発現について差異は認められなかったが、しかしながら21日目において、IL-1βを含むNCMにおけるその発現は、他の全ての培養群と比較してそれよりも有意に高かった。
【0043】
NCM潤滑
6mm/秒及び60mm/秒の両方において(図5a及び図5b)、BSAのPBSへの添加は、相違をもたらさなかった、又はCoFに若干の増加をもたらした。6mm/秒では、HA及びより少量のNCM(NCMl)の添加は、20サイクルスライディングした後、BSAを含むPBSと比較して、CoFにおいて有意な減少(約27%)を結果として生じた(図5a)。NCMlとHAとの組み合わせの添加は、CoFにおいてより強い低下(45%)を結果として生じ、それはBSA単独と及びHAを含むBSAと比較して有意に低かったが、しかしながらNCMlを含むBSAと比較した場合には有意に低くなかった。CoFにおける最強の低下(53%)がNCMhの添加で観察されたが、その場合CoFは、BSAと、並びにHAを含むBSAとNCMlを含むBSAとの両方と比較して有意に低かった。
【0044】
60mm/秒では、HAの添加は、20サイクルのスライディングの後、CoFについて、BSAを含むPBSと比較してそれよりも92%の減少を結果として生じ、HA及びNCMlの添加がまた類似した減少を示した。NCMl及びNCMhの添加は、BSAを含むPBSと比較して、それぞれ55及び70%の有意な減少を結果として生じた(図5b)。同一のプラグを反復してスライディングさせても、CoF測定に影響を及ぼさなかったことを検証する為に、20サイクルからなる4ラウンド、但し各ラウンド新鮮なPBS中において、骨軟骨プラグがガラス表面に対してスライディングさせる工程に付された。CoFは、6mm/秒(図6a)又は60mm/秒(図6b)のいずれにおいても、複数ラウンドのスライディングの結果として有意に変化しなかった。それ故に、図5a及び図5bに提示されているデータに補正は適用されなかった。
【0045】
考察
馴化培地の形態で適用されるNC分泌型因子は、NPC及びBMSCに対して同化作用性、増殖性、及び軟骨形成性の潜在能力を示した(12~17)。NPCと軟骨細胞との間の類似性に起因して、NC分泌型因子のIVD用途から軟骨細胞/軟骨の分野への置き換えは論理的と思われる。実際、NC馴化培地は、最近ヒトOA軟骨細胞に対する同化作用及び抗炎症効果も示した。NCMの直接適用は、NPCに対して、NC馴化培地と比較してそれよりも強い同化作用さえも有したので(de Vries、投稿済み)、NCMは軟骨細胞に対しても刺激性の効果をやはり有することは妥当と思われた。従って、本試験は、OA関節内に注射する際の関節痛みを最小限に抑えると同時に、常在性軟骨細胞に再生刺激を提供する、生理活性関節内補充療法用の潤滑剤としての新規NCMアプローチのフィージビリティーについて試験した。
【0046】
NCMは、ウシ軟骨細胞に対して強力な同化作用を発揮する
BMと比較して、NCMの場合、GAG、DNA、単位DNA当たりのGAG、及びヒドロキシプロリン含有量の増加によって示されるように、NCMはウシ軟骨細胞に対して強力な同化作用を発揮したので、NC馴化培地及びNCMに関するこれまでの知見は最新の結果と整合している。NCMは、10ng/mlのTGF-β1の添加と比較して、単位ビーズ含有量当たりいっそうより高いGAG及びDNAを結果として生じた。しかしながら、コラーゲン免疫組織化学は、BM及びTGFと比較して、NCMについてI型コラーゲンの沈着の増加を明らかにしたが、それは21日目におけるNCMでのCOL-1の発現増加と整合する。培養群間のII型コラーゲン沈着における相違は、それほど識別可能ではなかったが、II型コラーゲンは主にNCMを含むビーズの端部に一貫して存在した一方、TGF-β1を添加すると、ビーズ全体を通じて沈着した。これは、TGF-β1は、NCMの1以上の活性成分よりも小さく、ビーズ中により容易に拡散することができることを示しうる。従って、TGF-β1は、その効果をより多数の細胞に対して発揮するものであり、NCMと比較してTGF-β1において、ACAN及びCOL-2遺伝子についてより高い発現レベルが観測されることを説明する。これと整合して、NCMの再生能力が、NPCが播種されたアルギン酸ビーズにおいて試験されたこれまでの試験成績において、NCMは、アルギン酸ビーズ全体を通じて、I型コラーゲンよりはむしろII型コラーゲンの沈着を増強するように思われた(De Vries、Stefan等(2018年6月)、前出)。当該試験では、細胞3百万個/mlの密度でNPCが播種されたが、本試験では軟骨細胞は細胞10百万個/mlで播種され、NCMの生理活性因子の限定された拡散が、本試験においてより大きな役割を演じうることを示している。代替的には、NPC及び軟骨細胞は、その類似性にもかかわらず、コラーゲンの沈着に関してNCM刺激に対して異なる応答を示す可能性、又はこれまでの試験で使用されたNPCは、本試験における軟骨細胞と比較してそれよりも健康な状態にある可能性がある。それにもかかわらず、NCMの刺激はII型コラーゲンではなくI型コラーゲンの刺激であるにもかかわらず、強いマトリックス同化作用を示し、そして疾患状態下でのそれらの効果について、より踏み込んだ特徴づけを行う為に、更なる試験が必要とされる。
【0047】
NCMは炎症性刺激の存在下で再生能力を有する
炎症性サイトカインは、次に異化作用性の因子、例えばMMP及びADAMTS、の放出を刺激し、OAの発現及び進行において中心的役割を演ずる。それ故に、この試験は、NCMは炎症性刺激の存在下で軟骨細胞の再生応答も誘発することができるか試験した。遺伝子発現結果は、主に21日目において、IL-6及びIL-8発現レベルの増加によって明らかにされるように、BMにIL-1βを添加することで、実際、炎症性の環境を結果として生じたことを示唆する。その上、IL-1βは、BMにおいて21日目にMMP-13及びADAMTS-5発現レベルが増加したことによって明らかにされるように、遺伝子レベルで異化作用を誘発した。しかしながら、IL-1βを用いてNCM群を処置しても、BM又はNCM単独と比較してこれらの遺伝子の発現レベルの増加を引き起こさず、NPC上でNCMの効果について試験している、これまでのイン・ビトロ(in vitro)及びイン・ビボ(in vivo)での試験においても認められたように、NCMは抗炎症能力及び抗異化作用能力を有することを示唆する(de Vries、Stefan等(2018年6月)、前出;Bach FC等(2018年)、前出)。興味深いことに、IL-1βをBM又はNCMに添加しても、IL-1β及びTNFαはそれに応答しなかったが、それはこれまでの知見と整合しない(21)。これまでの実験は、炎症性刺激に対してより敏感である可能性がある比較的高齢のヒトドナーから得られた軟骨細胞を使用したので、これは、種及び/又は年齢の差異に起因しうる。それにもかかわらず、IL-1β遺伝子発現は、両BM群と比較して両方NCM群において有意に低く、それはNCMの抗炎症能力を際立たせる。
【0048】
培養中に適用される炎症性刺激は、GAG、DNA、及びヒドロキシプロリン含有量に有意に影響を及ぼさず、それはNCMの同化作用及び増殖効果は、炎症性の環境において維持されることを示す。これはまた、NCM単独と比較して、IL-1βで処置されたNCMにおいて有意に異ならなかったACAN遺伝子発現レベルによって検証される。しかしながら、IL-1βと組み合わせたNCMは、IL-1βを用いて処置されたNCMについて、3日目でのII型コラーゲン染色強度及びCOL-2遺伝子発現の減少、並びに21日目でのCOL-1遺伝子発現の増加によって観察されるように、不都合なコラーゲン生成を更に誘発すると思われる。しかしながら、21日目において、COL-2発現レベルにおいて有意差は認められず、IL-1βが継続して存在したにもかかわらず、II型コラーゲンの生成は培養時間全体にわたり回復したことを示唆する。その上、IL-1βの超生理学的濃度が適用され、炎症性の環境におけるNCMの潜在能力がさらに、より生理学的な状況、例えば、イン・ビボ(in vivo)、で調査されるべきである。
【0049】
NCMは軟骨潤滑特性を有する
軟骨細胞に対するその再生効果に加えて、本試験は、低濃度(4及び10mg/ml)のNCM溶液は、軟骨CoFを低下させることができることを示す。従って、NCMは、HAを有し又は有しないで、OA関節潤滑剤として適用されうる。
【0050】
摩擦学的対照測定(すなわち、毎回新鮮なPBS中で、同一の骨軟骨プラグをレシプロ式でスライディングさせる、4回の反復したラウンド)は、測定間で有意差は認められないことを実証し、従って他の実験に対して補正は適用されなかった。軟骨特性において関節間で生物学的に変動することから接触面積も異なるが、これを回避する際に、同一のプラグを反復して使用することのこの戦略が、従って功を奏する。
【0051】
6mm/秒及び60mm/秒の両方において、BSAのPBSへの添加は、いずれにおいても、差異は生じない又はCoFの若干の増加をもたらした。これは、予期されないことではなかった。BSAは、グリコシル化されていない球形のタンパク質であり、且つ境界潤滑又は流体潤滑のいずれも提供しないと予想された。その上、アルブミンは、ラブリシン(PRG4)が天然の軟骨(22)及びバイオマテリアル(23)表面に吸着するのを妨げることに関与していた。BSAは豊富な滑液タンパク質であり、従ってその効果は、本測定においてモニターする必要があった(PBS対照を除き、全ての潤滑剤溶液は、5mg/mlのBSAを含有した)。
【0052】
低スピード、例えば6mm/秒、では、軟骨潤滑の流体力学的機構(6、7)及び摩擦水和機構20のいずれも適用されないと予想される。天然の軟骨においてこのスピードのとき、軟骨表面上の吸着された分子は境界潤滑を提供する。ラブリシン(PRG4)は、ACの関節面、すなわち輝板、に結合された重要な糖タンパク質である。ラブリシンは、ループ化した方式又は一方の端部が解放された方式で係留され、境界潤滑を提供する。PRG4に加えて、界面活性のリン脂質(SAPL:surface active phospholipids)は最も研究されている境界潤滑剤に属する(24~26)。NP組織は潤滑機能を有しないので、NPマトリックスコンポーネントから単に構成されているNCMは、境界潤滑剤として作用するとは予想されなかった。ブタNC馴化培地のプロテオミック含有量を調査するこれまでの試験では、PRG4の存在は明らかにされていなかった(27)。また、脊索細胞の液胞も脂質を含有するものと推測される(28)が、しかしながら、その界面活性は、これまでに報告されていない。最後に、NCマトリックス中に存在するムコ多糖がまたやはり界面活性であり得、且つ境界潤滑を誘発しうる。しかしながら、過去の試験成績は、100mg/mlという高濃度のコンドロイチン硫酸が、摩擦係数を減少させるのに必要であったことを報告し(29)、一方、本試験では、使用されたNCMの濃度は、1.5mg/ml及び4mg/mlのGAGを結果として生じたにすぎない。従って、境界潤滑は、NCMのより強力な作用機序であったこと、すなわちより速いスピードであること以上に、PRG4以外のいくつかの成分が、このようなより低いスピードにおいて、軟骨に対して境界潤滑を提供するであろうことは、驚くべきことであった。NCMの添加がCoFの用量依存性の減少を誘発したという事実は、その境界潤滑剤の機構と整合する。4mg/mlでは、この効果は、関節内補充療法の為に臨床的に使用された濃度と類似した濃度のHAと類似した。最後に、HAに添加された場合に、NCMはCoFを更に減少させたが、それは、HAとNCMとの間に何らかの拮抗性の相互作用は存在しないこと、及びおそらく異なる作用機序を示す。
【0053】
より速いスピード、例えば60mm/秒、では、向かい合う軟骨表面が相互にスライドする場合に(6、7、30)、流体のウェッジ(wedge)が形成される流体潤滑が役割を演ずることとなり、更には、摩擦水和(20)が活性となる。この種の潤滑は、とりわけ、トラップされた流体の粘度に依存する。NCMはムコ多糖中に豊富に存在するので(27)、このような様式で若干の潤滑効果を有すると期待されうる。しかしながら、実験中に、4mg/mlのHA溶液は、NCMl(4mg/ml)と比較して、及びNCMh(10mg/ml)溶液と比較したときでさえもそれよりも粘稠性であることが目視的に観測され、NCMが有効であろうことは疑わしかった。それにもかかわらず、NCMは、PBS+BSAと比較して、CoFを4mg/mlにおいて約55%、及び10mg/mlにおいて約70%低下させた(たとえ、HAを用いたときの減少よりもCoFの減少は少なかったとしても)ので、NCMはこの試験スピードにおいて潤滑効果を有した。これは、より高スピードにおけるNCMの潤滑機構が、純粋にその粘性によるだけでなく、他の不明な効果にも起因しうることを示唆する可能性がある。再び、このスピードで、NCMlのHAとの組み合わせは、HA単独に対して類似したCoFの低下を誘発し、それは、拮抗作用が存在しないこと、及びこの組み合わせは、NCMの再生能力からなおも利益を得つつ、最終的には、潤滑特性を最大化する為に臨床的に適用されうることを示す。
【0054】
結論
結論として、この試験は、NCMがウシ軟骨細胞に対して再生効果を発揮し、且つ関節軟骨に対して強い潤滑特性を有することを実証する。それ故に、NCMはOAに対する療法として有望であり、ここで、NCMは、痛みを最小限に抑える為に、関節中に注射する際に直接適用されうる一方、同時に、常在性軟骨細胞に対して再生刺激(罹患した軟骨組織を健康な状態に向けて修復しうる)を誘発する。更なる試験が、より生理学的モデルにおけるNCMの再生効果、及びNCMを臨床的に応用する為の処置法に重点が置かれるべきである。
【0055】
参考文献


図1
図2
図3
図4
図5
図6