IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ゴーフォトンの特許一覧

特許7341558反応処理方法、反応処理装置および反応処理容器
<>
  • 特許-反応処理方法、反応処理装置および反応処理容器 図1
  • 特許-反応処理方法、反応処理装置および反応処理容器 図2
  • 特許-反応処理方法、反応処理装置および反応処理容器 図3
  • 特許-反応処理方法、反応処理装置および反応処理容器 図4
  • 特許-反応処理方法、反応処理装置および反応処理容器 図5
  • 特許-反応処理方法、反応処理装置および反応処理容器 図6
  • 特許-反応処理方法、反応処理装置および反応処理容器 図7
  • 特許-反応処理方法、反応処理装置および反応処理容器 図8
  • 特許-反応処理方法、反応処理装置および反応処理容器 図9
  • 特許-反応処理方法、反応処理装置および反応処理容器 図10
  • 特許-反応処理方法、反応処理装置および反応処理容器 図11
  • 特許-反応処理方法、反応処理装置および反応処理容器 図12
  • 特許-反応処理方法、反応処理装置および反応処理容器 図13
  • 特許-反応処理方法、反応処理装置および反応処理容器 図14
  • 特許-反応処理方法、反応処理装置および反応処理容器 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】反応処理方法、反応処理装置および反応処理容器
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20230904BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20230904BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20230904BHJP
   G01N 35/10 20060101ALI20230904BHJP
   G01N 35/00 20060101ALI20230904BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20230904BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12Q1/686 Z
G01N37/00 101
G01N35/10 A
G01N35/00 B
G01N33/50 P
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022105622
(22)【出願日】2022-06-30
(62)【分割の表示】P 2018554918の分割
【原出願日】2017-11-22
(65)【公開番号】P2022128495
(43)【公開日】2022-09-01
【審査請求日】2022-07-26
(31)【優先権主張番号】P 2016236597
(32)【優先日】2016-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 JASIS 2016、平成28年9月7日~9日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、独立行政法人科学技術振興機構、研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)「環境中病原性微生物の迅速定量装置の実用化開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】509233699
【氏名又は名称】株式会社ゴーフォトン
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】福澤 隆
【審査官】井関 めぐみ
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-531064(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
C12Q 1/686
G01N 37/00
G01N 35/10
G01N 35/00
G01N 33/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーマルサイクルを与えてDNAを含む試料に反応を起こさせる反応処理方法であって、
前記試料が移動する流路と、前記流路の両端に設けられた空気連通口と、を備える反応処理容器を準備するステップと、
筐体本体と、前記筐体本体に対して開閉可能な蓋部と、前記反応処理容器を設置するための容器設置部と、ヒータを含み前記流路の一部を複数の温度領域に維持するための温度制御システムと、ポンプを含み前記試料を前記流路内で移動および停止させるための送液システムと、を備え、前記蓋部を前記筐体本体に対して開状態にすることで前記反応処理容器を前記容器設置部に設置することができる、反応処理装置を準備するステップと、
前記反応処理容器の前記流路内に前記試料を導入するステップと、
前記反応処理装置の前記蓋部を開状態にして、前記反応処理容器を前記容器設置部に導入するステップと、
前記蓋部を閉状態にするステップであって、当該ステップと連動して、前記ヒータが前記反応処理容器の所定の面に密着して、前記温度制御システムにより流路の一部を第1温度と第2温度に加熱可能な状態となるとともに、前記ポンプと前記反応処理容器の前記空気連通口とが接続して、前記送液システムにより前記流路内に送風可能な状態となるステップと、
を備える、反応処理方法。
【請求項2】
前記第1温度は、前記試料内に含まれるDNAに熱変性反応を生じさせる温度であり、 前記第2温度は、前記試料内に含まれるDNAにアニーリング・伸長反応を生じさせる温度であり、
前記送液システムにより、前記第1温度に維持された第1温度領域と前記第2温度に維持された第2温度領域とを、前記試料を繰り返し往復移動させることを特徴とする、請求項1に記載の反応処理方法。
【請求項3】
前記反応処理装置は、前記反応処理容器の前記所定の面を、前記温度制御システムに含まれる前記ヒータに密着させるための弾性部材を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の反応処理方法。
【請求項4】
前記反応処理装置は、前記試料からの蛍光を検出するための蛍光検出器を備え、
前記蓋部を閉状態にするステップと連動して、前記流路の所定の位置を通過する前記試料からの蛍光を検出可能な状態となるステップを含むことを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の反応処理方法。
【請求項5】
DNAを含む試料が移動する流路と、前記流路の両端に設けられた空気連通口と、を備える反応処理容器を設置するための容器設置部と、
筐体本体と、
前記筐体本体に対し開閉可能な蓋部と、
ヒータを含み、前記流路の一部を複数の温度領域に維持するための温度制御システムと、
ポンプを含み、前記試料を前記流路内で移動および停止させるための送液システムと、 を備え、
前記蓋部を前記筐体本体に対して開状態にすることで、前記反応処理容器を前記容器設置部に設置することが可能となり、
前記蓋部を閉状態にすることと連動して、前記ヒータが前記反応処理容器の所定の面に密着して、前記温度制御システムにより流路の一部を第1温度と第2温度に加熱可能な状態となるとともに、前記ポンプと前記反応処理容器の前記空気連通口とが接続して、前記送液システムにより前記流路内に送風可能な状態となる、反応処理装置。
【請求項6】
前記第1温度は、前記試料内に含まれるDNAに熱変性反応を生じさせる温度であり、 前記第2温度は、前記試料内に含まれるDNAにアニーリング・伸長反応を生じさせる温度であり、
前記送液システムにより、前記第1温度に維持された第1温度領域と前記第2温度に維持された第2温度領域とを、前記試料を繰り返し往復移動させることを特徴とする、請求項5に記載の反応処理装置。
【請求項7】
前記反応処理装置は、前記試料からの蛍光を検出するための蛍光検出器を備え、
前記蓋部を閉状態にすることと連動して、前記流路の所定の位置を通過する前記試料からの蛍光を検出可能な状態となることを特徴とする請求項5または6に記載の反応処理装置。
【請求項8】
前記蛍光検出器は、レンズを含み、前記試料に励起光を照射して前記試料からの蛍光を集光せしめる光学ヘッドを含み、
前記反応処理装置の前記蓋部を閉状態にすることと連動して、前記光学ヘッドが前記流路に対向するように配置されることを特徴とする請求項7に記載の反応処理装置。
【請求項9】
前記送液システムは、前記蛍光検出器によって検出された前記試料からの蛍光信号の変化に基づいて、前記ポンプの作動と停止を制御することによって、前記試料の前記流路内における移動と停止を制御することを特徴とする請求項7または8に記載の反応処理装置。
【請求項10】
DNAを含む試料が移動する流路と、前記流路の両端に設けられた空気連通口と、を備え、反応処理装置に導入することによって、前記流路内において前記試料にサーマルサイクルを与えて、前記試料に反応を起こさせるために使用する反応処理容器であって、
前記反応処理装置は、
前記反応処理容器を設置するための容器設置部と、
筐体本体と、
前記筐体本体に対し開閉可能な蓋部と、
ヒータを含み、前記流路の一部を複数の温度領域に維持するための温度制御システムと、
ポンプを含み、前記試料を前記流路内で移動および停止させるための送液システムと、 を備え、
前記蓋部を前記筐体本体に対して開状態にすることで、前記反応処理容器を前記容器設置部に設置することが可能となり、
前記蓋部を閉状態にすることと連動して、前記ヒータが前記反応処理容器の所定の面に密着して、前記温度制御システムにより流路の一部を第1温度と第2温度に加熱可能な状態となるとともに、前記ポンプと前記反応処理容器の前記空気連通口とが接続して、前記送液システムにより前記流路内に送風可能な状態となる、反応処理容器。
【請求項11】
前記第1温度は、前記試料内に含まれるDNAに熱変性反応を生じさせる温度であり、 前記第2温度は、前記試料内に含まれるDNAにアニーリング・伸長反応を生じさせる温度であり、
前記送液システムにより、前記第1温度に維持された第1温度領域と前記第2温度に維持された第2温度領域とを、前記試料を繰り返し往復移動させることを特徴とする、請求項10に記載の反応処理容器。
【請求項12】
前記反応処理装置は、前記試料からの蛍光を検出するための蛍光検出器を備え、
前記蓋部を閉状態にすることと連動して、前記流路の所定の位置を通過する前記試料からの蛍光を検出可能な状態となることを特徴とする、請求項10または11に記載の反応処理容器。
【請求項13】
前記送液システムは、前記蛍光検出器によって検出された前記試料からの蛍光信号の変化に基づいて、前記ポンプの作動と停止を制御することによって、前記試料の流路内における移動と停止を制御することを特徴とする、請求項12に記載の反応処理容器。
【請求項14】
前記反応処理容器は、
前記流路と前記空気連通口とが設けられた基板と、
前記流路を封止するための流路封止フィルムと、
前記空気連通口を封止するための空気連通口封止フィルムと、
を備えることを特徴とする、請求項10から13のいずれかに記載の反応処理容器。
【請求項15】
前記基板には、前記流路に前記試料を導入するための試料導入口が設けられており、
前記試料導入口を封止するための試料導入口封止フィルムをさらに備えることを特徴とする、請求項14に記載の反応処理容器。
【請求項16】
前記第1温度領域および前記第2温度領域は、平面視で略矩形状に対応し、
前記第1温度領域と前記第2温度領域との間隔は、前記第1温度領域および前記第2温度領域に対応する前記略矩形の一辺の長さより大きいことを特徴とする、請求項11に記載の反応処理容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR:Polymerase Chain Reaction)に使用される反応処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子検査は、各種医学分野における検査、農作物や病原性微生物の同定、食品の安全性評価、さらには病原性ウィルスや各種感染症の検査にも広く活用されている。遺伝子である微小量のDNAを高感度に検出するために、DNAの一部を増幅して得られたものを分析する方法が知られている。中でもPCRを用いた方法は、生体等から採取されたごく微量のDNAのある部分を選択的に増幅する注目の技術である。
【0003】
PCRは、DNAを含む生体サンプルと、プライマーや酵素などからなるPCR試薬とを混合した試料に、所定のサーマルサイクルを与え、変性、アニーリングおよび伸長反応を繰り返し起こさせて、DNAの特定の部分を選択的に増幅させるものである。
【0004】
PCRにおいては、対象の試料をPCRチューブ又は複数の穴が形成されたマイクロプレート(マイクロウェル)などの反応処理容器に所定量入れて行うことが一般的であるが、近年、基板に形成された微細な流路を備える反応処理容器(チップとも呼ばれる)を用いて行うことが実用化されてきている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-232700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような反応処理容器を用いる反応処理装置では、ヒータやポンプなどの構成要素を収容する筐体内に反応処理容器を短時間でセットし、PCRをはじめとした反応処理を開始できることが作業性の観点から好ましい。
【0007】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、PCRをはじめとした反応処理の作業性を向上することのできる反応処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の反応処理装置は、基板に形成された流路を備える反応処理容器を設置するための容器設置部と、反応処理容器の流路の温度を調節するためのヒータと、反応処理容器の位置を調整するための容器アライメント機構と、筐体本体と、筐体本体に対して開閉可能な蓋部とを有し、容器設置部、ヒータおよび容器アライメント機構を収容する筐体とを備える。容器アライメント機構は、蓋部が開状態から閉状態にされるのと連動して、反応処理容器をヒータで加熱可能となるよう位置合わせする。
【0009】
蓋部が閉状態のとき、反応処理容器をヒータに密着させる弾性部材をさらに備えてもよい。
【0010】
流路は、試料にサーマルサイクルを与えるために第1温度に維持される第1温度領域と、第1温度よりも高い第2温度に維持される第2温度領域とを含んでもよい。ヒータは、流路の第1温度領域を加熱するための第1ヒータと、流路の第2温度領域を加熱するための第2ヒータとを含んでもよい。
【0011】
試料を流路内で移動および停止させるために、反応処理容器の流路内の圧力を調整するポンプをさらに筐体本体内に備えてもよい。蓋部が開状態から閉状態とされるとき、ポンプから延びるチューブと反応処理容器の流路とが連通されてもよい。
【0012】
ポンプは、第1チューブを有する第1ポンプと、第2チューブを有する第2ポンプとを含んでもよい。蓋部が開状態から閉状態とされるとき、第1チューブは流路の一端に形成された第1空気連通口に接続され、第2チューブは流路の他端に形成された第2空気連通口に接続されてもよい。
【0013】
流路内の試料から発せられる蛍光を検出するための蛍光検出器をさらに筐体本体内に備えてもよい。蓋部が開状態から閉状態とされるとき、反応処理容器の所定の蛍光検出点が蛍光検出器に対して位置合わせされてもよい。
【0014】
蛍光検出器は、光学ヘッドと、励起光用光源、合分波器および光電変換素子を含むドライバとが光ファイバで接続された光ファイバ型蛍光検出器であってもよい。
【0015】
上記の反応処理装置は、携帯可能に構成されてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、PCRをはじめとした反応処理の作業性を向上することのできる反応処理装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1(a)および図1(b)は、本発明の実施形態に係る反応処理装置で使用可能な反応処理容器を説明するための図である。
図2図1(a)に示す反応処理容器のA-A断面図である。
図3】反応処理容器が備える基板の平面図である。
図4】試料が反応処理容器内に導入された様子を模式的に示す図である。
図5】本発明の実施形態に係る反応処理装置を説明するための模式図である。
図6】反応処理容器の流路内の試料にサーマルサイクルを与えている様子を示す図である。
図7】本発明の実施形態に係る反応処理装置の外観を示す図である。
図8】本発明の実施形態に係る反応処理装置において、筐体本体に対して蓋部を開いた状態を示す図である。
図9】本発明の実施形態に係る反応処理装置の内部構成を説明するための透視図である。
図10】蓋部が開状態のときの反応処理装置を説明するための図である。
図11】本発明の実施形態に係る反応処理装置のスライド機構を説明するための図である。
図12】蓋部が閉状態のときの反応処理装置を説明するための図である。
図13】本発明の別の実施形態に係る反応処理装置の外観を示す図である。
図14】本発明の別の実施形態に係る反応処理装置において、筐体本体に対して蓋部を開いた状態を示す図である。
図15】本発明の別の実施形態に係る反応処理装置を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係る反応処理容器および反応処理装置について説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0019】
図1(a)および図1(b)は、本発明の実施形態に係る反応処理装置で使用可能な反応処理容器10を説明するための図である。図1(a)は、反応処理容器10の平面図であり、図1(b)は、反応処理容器10の正面図である。図2は、図1(a)に示す反応処理容器10のA-A断面図である。図3は、反応処理容器10が備える基板14の平面図である。
【0020】
反応処理容器10は、下面14aに溝状の流路12が形成された樹脂性の基板14と、基板14の下面14a上に貼られた、流路12を封止するための流路封止フィルム16と、基板14の上面14b上に貼られた2枚の封止フィルム(第1封止フィルム18および第2封止フィルム20)とから成る。
【0021】
基板14は、温度変化に対して安定で、使用される試料溶液に対して侵されにくい材質から形成されることが好ましい。さらに、基板14は、成形性がよく、透明性やバリア性が良好で、且つ、低い自家蛍光性を有する材質から形成されることが好ましい。このような材質としては、ガラス、シリコン(Si)等の無機材料をはじめ、アクリル、ポリエステル、シリコーンなどの樹脂、中でもシクロオレフィンポリマー樹脂(COP)が好適である。基板14の寸法の一例は、長辺76mm、短辺26mm、厚み4mmである。
【0022】
基板14の下面14aには溝状の流路12が形成されている。反応処理容器10において、流路12の大部分は基板14の下面14aに露出した溝状に形成されている。金型等を用いた射出成形により容易に成形できるようにするためである。この溝を封止して流路として活用するために、基板14の下面14a上に流路封止フィルム16が貼られる。流路12の寸法の一例は、幅0.7mm、深さ0.7mmである。
【0023】
流路封止フィルム16は、一方の主面が粘着性を備えていてもよいし、押圧や紫外線などのエネルギー照射、加熱等により粘着性や接着性を発揮する機能層が一方の主面に形成されていてもよく、容易に基板14の下面14aと密着して一体化できる機能を備える。流路封止フィルム16は、粘着剤も含めて低い自家蛍光性を有する材質から形成されることが望ましい。この点でシクロオレフィンポリマー、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンまたはアクリルなどの樹脂からなる透明フィルムが適しているが、これらに限定されない。また、流路封止フィルム16は、板状のガラスや樹脂から形成されてもよい。この場合はリジッド性が期待できることから、反応処理容器10の反りや変形防止に役立つ。
【0024】
基板14における流路12の一端12aの位置には、第1空気連通口24が形成されている。基板14における流路12の他端12bの位置には、第2空気連通口26が形成されている。一対の第1空気連通口24および第2空気連通口26は、基板14の上面14bに露出するように形成されている。
【0025】
基板14中における第1空気連通口24と流路12の一端12aとの間には、第1フィルタ28が設けられている。基板14中における第2空気連通口26と流路12の他端12bとの間には、第2フィルタ30が設けられている。流路12の両端に設けられた一対の第1フィルタ28および第2フィルタ30は、低不純物特性が良好であるほか、空気のみを通し、PCRによって目的のDNAの増幅やその検出を妨げないように、または目的のDNAの品質が劣化しないようにコンタミネーションを防止する。フィルタ材料としては、例としてポリエチレンを撥水処理したものを用いることができるが、上記の機能を備えるようなものであれば公知の材料から選択できる。第1フィルタ28および第2フィルタ30の寸法は、基板14に形成されたフィルタ設置スペースに隙間なく収まるような寸法に形成され、例えば直径4mm、厚さ2mmであってよい。
【0026】
図1(a)に示すように、流路12は、一対の第1空気連通口24および第2空気連通口26の間に、試料にサーマルサイクルを与えるためのサーマルサイクル領域32と、所定量の試料を抽出する所謂分注を行うための分注領域34とを備える。サーマルサイクル領域32は、流路12における第1空気連通口24側に位置している。分注領域34は、流路12における第2空気連通口26側に位置している。サーマルサイクル領域32と分注領域34は連通している。分注領域34で分注した試料をサーマルサイクル領域32に移動させて、サーマルサイクル領域32に含まれる所定の温度に維持された反応領域間を連続的に往復移動させることにより、試料にサーマルサイクルを与えることができる。
【0027】
流路12のサーマルサイクル領域32は、後述の反応処理装置に反応処理容器10が搭載された際に、比較的低温(約60℃)に維持される反応領域(以下「中温領域38」と称する)と、それより高温(約95℃)に維持される反応領域(以下、「高温領域36」と称する)と、高温領域36と中温領域38を接続する接続領域40とを含む。高温領域36は第1空気連通口24側に位置しており、中温領域38は第2空気連通口26側(言い換えると分注領域34側)に位置している。
【0028】
高温領域36および中温領域38はそれぞれ、曲線部と直線部とを組み合わせた連続的に折り返す蛇行状の流路を含んでいる。このように蛇行状の流路とした場合、後述の温度制御手段を構成するヒータ等の限られた実効面積を有効に使うことができ、反応領域内での温度のばらつきを低減することが容易であるとともに、反応処理容器の実体的な大きさを小さくでき、反応処理装置の小型化に貢献できるという利点がある。接続領域40は、直線状の流路であってよい。
【0029】
流路12の分注領域34は、サーマルサイクル領域32の中温領域38と第2フィルタ30との間に位置している。上述したように、分注領域34は、PCRに供される所定量の試料を抽出する分注機能を有する。分注領域34は、所定量の試料を規定するための分注流路42と、分注流路42から分岐する2つの支流路(第1支流路43および第2支流路44)と、第1支流路43の端に配置された第1試料導入口45と、第2支流路44の端に配置された第2試料導入口46とを備える。第1試料導入口45は、第1支流路43を介して分注流路42と連通している。第2試料導入口46は、第2支流路44を介して分注流路42と連通している。分注流路42は、最小限の面積で所定量の試料を分注するために蛇行状の流路とされている。第1試料導入口45および第2試料導入口46は、基板14の上面14bに露出するように形成されている。第1試料導入口45は比較的小径に形成され、第2試料導入口46は比較的大径に形成されている。第1支流路43が分注流路42から分岐する分岐点を第1分岐点431とし、第2支流路44が分注流路42から分岐する分岐点を第2分岐点441としたとき、PCRに供される試料の体積は第1分岐点431と第2分岐点441の間の分注流路42内の体積によってほぼ決まる。
【0030】
反応処理容器10においては、サーマルサイクル領域32と第2フィルタ30との間に分注領域34を設けたが、分注領域34の位置はこれに限定されず、サーマルサイクル領域32と第1フィルタ28の間に設けられてもよい。また、正確にピペット等で分注できるのであれば、分注領域34は設けずに流路を構成してもよいし、サーマルサイクル領域32等に直接試料を導入することができるように構成してもよい。
【0031】
第1空気連通口24、第2空気連通口26、第1フィルタ28、第2フィルタ30、第1試料導入口45および第2試料導入口46は、基板14の上面14bに露出している。そこで、第1空気連通口24、第2空気連通口26、第1フィルタ28および第2フィルタ30を封止するために第1封止フィルム18が基板14の上面14bに貼り付けられる。第1試料導入口45および第2試料導入口46を封止するために第2封止フィルム20が基板14の上面14bに貼り付けられる。第1封止フィルム18および第2封止フィルム20を貼った状態では、全流路は閉空間となっている。
【0032】
第1封止フィルム18は、第1空気連通口24、第2空気連通口26、第1フィルタ28および第2フィルタ30を同時に封止可能なサイズのものが用いられる。第1空気連通口24、第2空気連通口26への加圧式ポンプ(後述する)の接続は、ポンプ先端に備わった中空のニードル(先端がとがった注射針)で第1空気連通口24、第2空気連通口26のそれぞれに対応する第1封止フィルム18の一部分に穿孔することにより行う。そのため、第1封止フィルム18は、ニードルによる穿孔が容易な材質や厚みから成るフィルムが好ましい。反応処理容器10では、第1空気連通口24、第2空気連通口26、第1フィルタ28および第2フィルタ30を同時に封止するサイズの封止フィルムについて記載したが、これらを別個に封止する態様でもよい。また、第1空気連通口24、第2空気連通口26を封止しているフィルムを剥がして加圧式ポンプと接続してもよい。
【0033】
第2封止フィルム20は、第1試料導入口45および第2試料導入口46を封止可能なサイズのものが用いられる。第1試料導入口45および第2試料導入口46を通じての試料の流路12内への導入は、第2封止フィルム20を一旦、基板14から剥がして行い、所定量の試料の導入後には第2封止フィルム20を再び基板14の上面14bに戻し貼り付ける。そのため、第2封止フィルム20としては、数サイクルの貼り付け/剥がしに耐久するような粘着性を備えるフィルムが望ましい。また第2封止フィルム20は、試料導入後には新しいフィルムを貼り付ける態様であってもよく、この場合は繰り返しの貼り付け/剥がしに関する特性の重要性は緩和されうる。
【0034】
第1封止フィルム18および第2封止フィルム20は、流路封止フィルム16と同様に、一方の主面に粘着剤層が形成され、または押圧により粘着性や接着性を発揮する機能層が形成されていてもよい。この点でシクロオレフィンポリマー、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン又はアクリルなどの樹脂からなる透明フィルムが適しているが、これらに限定されない。また上述したように複数回の貼り付け/剥離によっても、その粘着性等の特性が使用に影響をきたす程度に劣化しないことが望ましいが、剥離して試料等の導入後や加圧式ポンプとの接続後に、新たなフィルムを貼り付ける態様である場合は、この貼り付け/剥がしに関する特性の重要性は緩和されうる。
【0035】
次に、以上のように構成された反応処理容器10の使用方法について説明する。まず、サーマルサイクルにより増幅すべき試料を準備する。試料としては、例えば、一または二以上の種類のDNAを含む混合物に、PCR試薬として蛍光プローブ、耐熱性酵素および4種類のデオキシリボヌクレオシド三リン酸(dATP、dCTP、dGTP、dTTP)を添加したものがあげられる。さらに反応処理対象のDNAに特異的に反応するプライマーを混合する。市販されているリアルタイムPCR用試薬キット等も使用することができる。
【0036】
次に、第2封止フィルム20を基板14から剥がし、第1試料導入口45および第2試料導入口46を開放する。
【0037】
次に、試料導入口に試料をスポイトやシリンジ等で導入する。図4は、試料50が反応処理容器10内に導入された様子を模式的に示す。試料50は、第1試料導入口45および第2試料導入口46のいずれか一方から分注流路42に導入される。導入の方法はこれらに限られないが、例えばピペットやスポイトで適量の試料50を直接導入してよい。ピペットで導入する場合、比較的小径の第1試料導入口45から試料50を導入する。この場合、試料50は、分注流路42内を第2試料導入口46に向かって充填される。スポイトで導入する場合、比較的大径の第2試料導入口46から試料50を導入する。この場合、試料50は、分注流路42内を第1試料導入口45に向かって充填される。いずれか一方の試料導入口から導入された試料のうち、支流路の体積を超えて余剰なものはもう一方の試料導入口に溜まる。それ故試料導入口部分を一種のサーバーとして活用する目的で、ある一定のスペースを有するように作製してもよい。後述するように、第1空気連通口24、第2空気連通口26からの加圧により、第1分岐点431および第2分岐点441間の分注流路42に充填された試料50がPCRに供されることになる。このように、反応処理容器10の分注領域34は、所定量の試料を抽出する分注機能を果たす。
【0038】
次に、第2封止フィルム20を再び基板14に貼り戻し、第1試料導入口45および第2試料導入口46を封止する。剥がした第2封止フィルム20に代えて、新たな第2封止フィルム20を貼ってもよい。以上で反応処理容器10への試料50の導入は完了である。
【0039】
上記の反応処理容器における分注機能は、ピペット単体で試料を精密に分注しながら導入することを妨げるものではない。
【0040】
図5は、本発明の実施形態に係る反応処理装置100を説明するための模式図である。
【0041】
本実施形態に係る反応処理装置100は、反応処理容器10が設置される容器設置部(図示せず)と、温度制御システム102と、CPU105とを備える。温度制御システム102は、図5に示すように、容器設置部に設置される反応処理容器10に対して、反応処理容器10の流路12における高温領域36を約95℃(高温領域)、中温領域38を約60℃に精度よく維持、制御できるように構成されている。
【0042】
温度制御システム102は、サーマルサイクル領域の各温度領域の温度を調節するものであって、具体的には、流路12の高温領域36を加熱するための高温用ヒータ104と、流路12の中温領域38を加熱するための中温用ヒータ106と、各温度領域の実温度を計測するための例えば熱電対等の温度センサ(図示せず)と、高温用ヒータ104の温度を制御する高温用ヒータドライバ108と、中温用ヒータ106の温度を制御する中温用ヒータドライバ110とを備える。さらに、本実施形態に係る反応処理装置100は、流路12の分注領域34を加熱するための分注用ヒータ112と、分注用ヒータ112の温度を制御する分注用ヒータドライバ114とを備える。温度センサによって計測された実温度情報は、CPU105に送られる。CPU105は、各温度領域の実温度情報に基づいて、各ヒータの温度が所定の温度となるよう各ヒータドライバを制御する。各ヒータは例えば抵抗加熱素子やペルチェ素子等であってよい。温度制御システム102はさらに、各温度領域の温度制御性を向上させるための他の要素部品を備えてもよい。
【0043】
本実施形態に係る反応処理装置100は、さらに、試料50を反応処理容器10の流路12内で移動および停止させるための送液システム120を備える。送液システム120は、第1ポンプ122と、第2ポンプ124と、第1ポンプ122を駆動するための第1ポンプドライバ126と、第2ポンプ124を駆動するための第2ポンプドライバ128と、第1チューブ130と、第2チューブ132とを備える。
【0044】
反応処理容器10の第1空気連通口24には、第1チューブ130の一端が接続される。第1空気連通口24と第1チューブ130の一端の接続部には、気密性を確保するためのパッキン134やシールが配置されることが好ましい。第1チューブ130の他端は、第1ポンプ122の出力に接続される。同様に、反応処理容器10の第2空気連通口26には、第2チューブ132の一端が接続される。第2空気連通口26と第2チューブ132の一端の接続部には、気密性を確保するためのパッキン136やシールが配置されることが好ましい。第2チューブ132の他端は、第2ポンプ124の出力に接続される。
【0045】
第1ポンプ122、第2ポンプ124は、例えばダイアフラムポンプからなるマイクロブロアポンプであってよい。第1ポンプ122、第2ポンプ124としては、例えば株式会社村田製作所製のマイクロブロアポンプ(型式MZB1001T02)などを使用することができる。このマイクロブロアポンプは、動作時に一次側より二次側の圧力を高めることができるが、停止した瞬間または停止時には一次側と二次側の圧力が等しくなる。
【0046】
CPU105は、第1ポンプドライバ126、第2ポンプドライバ128を介して、第1ポンプ122、第2ポンプ124からの送風や加圧を制御する。第1ポンプ122、第2ポンプ124からの送風や加圧は、第1空気連通口24、第2空気連通口26を通じて流路12内の試料50に作用し、推進力となって試料50を移動させる。より詳細には、第1ポンプ122、第2ポンプ124を交互に動作させることにより、試料50のいずれかの端面にかかる圧力が他端にかかる圧力より大きくなるため、試料50の移動に係る推進力が得られる。第1ポンプ122、第2ポンプ124を交互に動作させることによって、試料50を流路内で往復式に移動させて、反応処理容器10の流路12の各温度領域に繰り返し曝すことができ、その結果、試料50にサーマルサイクルを与えることが可能となる。より具体的には、高温領域において変性、中温領域においてアニーリング・伸長の各工程を繰り返し与えることにより、試料50中の目的のDNAを選択的に増幅させる。言い換えれば高温領域は変性温度域、中温領域はアニーリング・伸長温度域とみなすことができる。また各温度領域に滞留する時間は、試料50が各温度領域の所定の位置で停止する時間を変えることによって適宜設定することができる。
【0047】
本実施形態に係る反応処理装置100は、さらに、蛍光検出器140を備える。上述したように、試料50には所定の蛍光プローブが添加されている。DNAの増幅が進むにつれ試料50から発せられる蛍光信号の強度が増加するので、その蛍光信号の強度値をPCRの進捗や反応の終端の判定材料としての指標とすることができる。
【0048】
蛍光検出器140としては、非常にコンパクトな光学系で、迅速に測定でき、かつ明るい場所か暗い場所かにもかかわらず、蛍光を検出することができる日本板硝子株式会社製の光ファイバ型蛍光検出器FLE-510を使用することができる。この光ファイバ型蛍光検出器は、その励起光/蛍光の波長特性を試料50の発する蛍光特性に適するようにチューニングしておくことができ、様々な特性を有する試料について最適な光学・検出系を提供することが可能であり、さらに光ファイバ型蛍光検出器によってもたらされる光線の径の小ささから、流路などの小さいまたは細い領域に存在する試料からの蛍光を検出するのに適している。
【0049】
光ファイバ型の蛍光検出器140は、光学ヘッド142と、蛍光検出器ドライバ144と、光学ヘッド142と蛍光検出器ドライバ144とを接続する光ファイバ146とを備える。蛍光検出器ドライバ144には励起光用光源(LED、レーザその他特定の波長を出射するように調整された光源)、光ファイバ型合分波器および光電変換素子(PD,APD又はフォトマル等の光検出器)(いずれも図示せず)等が含まれており、これらを制御するためのドライバ等からなる。光学ヘッド142はレンズ等の光学系からなり、励起光の試料への指向性照射と試料から発せられる蛍光の集光の機能を担う。集光された蛍光は光ファイバ146を通じて蛍光検出器ドライバ144内の光ファイバ型合分波器により励起光と分けられ、光電変換素子によって電気信号に変換される。
【0050】
本実施形態に係る反応処理装置100においては、高温領域と中温領域とを接続する流路内の試料50からの蛍光を検出することができるように光学ヘッド142が配置される。試料50は流路内を繰り返し往復移動させられることで反応が進み、試料50に含まれる所定のDNAが増幅するので、検出された蛍光の量の変動をモニタリングすることで、DNAの増幅の進度をリアルタイムで知ることができる。また、本実施形態に係る反応処理装置100においては、後述するように、蛍光検出器140からの出力値を利用して、試料50の移動制御に活用する。蛍光検出器は、試料からの蛍光を検出する機能を発揮するものであれば光ファイバ型蛍光検出器に限定されない。
【0051】
図6は、反応処理容器の流路内の試料にサーマルサイクルを与えている様子を示す図である。図6に示す反応処理容器10では、分注領域34の第1分岐点431および第2分岐点441間の分注流路42に充填された試料50が、サーマルサイクル領域32に移動されている。具体的には、試料50が充填された反応処理容器10を反応処理装置100にセットし、第2ポンプ124のみを作動させることにより、分注領域34内の試料50をサーマルサイクル領域32に推進させる。その後、上述したように、第1ポンプ122、第2ポンプ124(図5参照)を交互に動作させることによって、試料50を流路12内で往復式に移動させて、高温領域36と中温領域38とを連続的に往復移動させることにより、試料50にサーマルサイクルを与えることができる。
【0052】
図7は、本発明の実施形態に係る反応処理装置100の外観を示す図である。本実施形態に係る反応処理装置100は、使用者が携帯可能に構成されている。図7に示すように、反応処理装置100は、その上面の一部に開口部を有する略直方体状の筐体本体70と、該筐体本体70の開口部を覆う蓋部71とから成る筐体72を備える。蓋部71は、筐体本体70に対して開閉可能である。筐体72内には、図5で説明した反応処理容器10の構成要素の多くが収容される。また、反応処理装置100の上面には、反応処理装置100の動作状態やコマンドの入力表示、PCRの進捗や結果を表示するための表示部75や、操作ボタン76が配置されている。またこれに限られるものではないが、反応処理装置100の一部の形状は、使用者が把持しやすいように細幅に形成されている。
【0053】
図8は、本発明の実施形態に係る反応処理装置100において、筐体本体70に対して蓋部71を開いた状態を示す図である。蓋部71は、筐体本体70の側面に設けられたロックボタン73を押しながら筐体72の長手方向(図8における矢印の方向、以下この方向を「筐体72の下方向」、逆の方向を「筐体72の上方向」と呼ぶ)にスライドさせることにより開くことができる。図8に示すように、蓋部71を開状態とすると容器設置部74が露出するため、容器設置部74に反応処理容器10を設置したり、容器設置部74から反応処理容器10を取り外したりすることができる。
【0054】
図9は、本発明の実施形態に係る反応処理装置100の内部構成を説明するための透視図である。図9に示すように、筐体本体70内には、反応処理容器10、高温用ヒータ104、中温用ヒータ106、光学ヘッド142などが収容されている。
【0055】
図10は、蓋部71が開状態のときの反応処理装置100を説明するための図であり、反応処理容器10や容器設置部74と他の構成部品との関係をよりわかりやすく表した図である。
【0056】
図9および図10に示すように、反応処理容器10は、筐体本体70の長手方向に対して、主面が直交するように容器設置部74に設置される。また、反応処理容器10の一方の主面側には、高温用ヒータ104、中温用ヒータ106および分注用ヒータ112が配置される。また、反応処理容器10の他方の主面側には、反応処理容器10の位置を調整するための容器アライメント機構80が配置される。
【0057】
図10に示すように、容器アライメント機構80は、反応処理容器10の他方の主面と対向して配置される押さえ部材81と、支持体82と、スライド機構とを備える。図11は、該スライド機構300を説明するための模式的な断面図であり、後述するレール302に垂直な面におけるスライド機構300の上方向に見たときの断面図を表している。スライド機構300は、筐体本体70に固定されたベース板301と、ベース板301上に形成され、筐体本体70の長手方向に伸長するレール302と、レール302上を移動するスライド板303とを含む。スライド板303上には、押さえ部材81、支持体82等が固定されている。さらに、蓋部71がスライド板303に固定されているので、蓋部71は筐体本体70に対してスライド移動して筐体72の開閉をすることができ、押さえ部材81や支持体82等も、蓋部71の開閉とともに筐体本体70に対して長手方向に移動することができる。
【0058】
図12は、蓋部71が閉状態のときの反応処理装置100を説明するための図である。図10に示すように、蓋部71が開状態とされると、押さえ部材81や支持体82が下方(すなわち反応処理容器10から離れる方向)に移動する。このとき、反応処理容器10の一方の主面は、高温用ヒータ104、中温用ヒータ106および分注用ヒータ112から離れている。一方、図12に示すように、蓋部71が開状態から閉状態とされると、押さえ部材81や支持体82が上方(すなわち反応処理容器10に近づく方向)に移動する。反応処理容器10は、容器設置部74とともに押さえ部材81により押されて上方に変位し、図10で図示されるところの高温用ヒータ104、中温用ヒータ106および分注用ヒータ112(容器設置部74の変位により図12では現れない)に略面接触する。これにより、反応処理容器10が高温用ヒータ104、中温用ヒータ106および分注用ヒータ112により加熱可能となる。
【0059】
容器アライメント機構80はさらに、蓋部71が閉状態のときに押さえ部材81を反応処理容器10に押し付ける弾性部材(例えばバネ)83を備える。弾性部材83で反応処理容器10と高温用ヒータ104、中温用ヒータ106および分注用ヒータ112とを密着させることにより、確実に反応処理容器10の流路を所定の温度に維持することができる。
【0060】
図10および図12に示すように、容器アライメント機構80には、第1ポンプ122、第2ポンプ124、第1チューブ130、第2チューブ132を含む送液システムが支持体82を介して装着されている。第1ポンプ122および第2ポンプ124は、蓋部71や押さえ部材81、支持体82と連動してスライドするように配置されており、該第1ポンプ122および第2ポンプ124からそれぞれ第1チューブ130および第2チューブ132が筐体72の上方向に延びている。第1チューブ130および第2チューブ132の先端にはそれぞれ、中空の第1ニードル85および第2ニードル86が設けられている。第1ニードル85および第2ニードル86は、押さえ部材81を突き抜けて反応処理容器10側に露出している。反応処理容器10側に露出した第1ニードル85および第2ニードル86の周囲には、上述した気密性を確保するためのパッキン134、136が設けられている。
【0061】
上述したように、蓋部71が開状態から閉状態にされると、押さえ部材81や支持体82等が反応処理容器10に近づく方向に移動し、最終的に、第1ポンプ122から延びる第1チューブ130と第2ポンプ124から延びる第2チューブ132は、反応処理容器10の流路12と連通する。より具体的には、押さえ部材81が反応処理容器10を押圧したときに、第1ニードル85および第2ニードル86により反応処理容器10の第1封止フィルム18の一部分が穿孔され、第1ニードル85が反応処理容器10の第1空気連通口24に接続され、第2ニードル86が反応処理容器10の第2空気連通口26に接続される。
【0062】
図9、10および12に示すように、筐体本体70内の高温用ヒータ104と中温用ヒータ106の間には、蛍光検出器の光学ヘッド142が配置されている。高温領域と中温領域との間の接続領域を通過する試料からの蛍光を検出するためである。本実施形態においては、蓋部71が開状態から閉状態にされて、反応処理容器10が高温用ヒータ104、中温用ヒータ106および分注用ヒータ112に接触したときに、反応処理容器10の接続領域に位置する所定の蛍光検出点が、光学ヘッド142にとって最適に位置合わせされる。
【0063】
以上、本実施形態に係る反応処理装置100について説明した。本実施形態に係る反応処理装置100では、容器アライメント機構80を設け、蓋部71が開状態から閉状態にされるのと連動して、反応処理容器10が高温用ヒータ104、中温用ヒータ106および分注用ヒータ112に自動的に位置合わせ(すなわち接触)されるようにした。これにより、反応処理容器10を位置合わせする手間を省くことができるので、PCRによる反応処理の作業性を向上することができる。
【0064】
また、本実施形態に係る反応処理装置100では、蓋部71が開状態から閉状態にされるのと連動して、第1ポンプ122から延びる第1チューブ130と第2ポンプ124から延びる第2チューブ132が反応処理容器10の流路12に自動的に連通するようにした。これにより、第1チューブ130および第2チューブ132を反応処理容器10に接続する手間を省くことができるので、PCRによる反応処理の作業性をさらに向上することができる。
【0065】
さらに、本実施形態に係る反応処理装置100では、蓋部71が開状態から閉状態にされるのと連動して、反応処理容器10の所定の蛍光検出点が蛍光検出器の光学ヘッド142に対して自動的に位置合わせされるようにした。これにより、反応処理容器10に対して光学ヘッド142を位置合わせする手間を省くことができるので、PCRによる反応処理の作業性をよりさらに向上することができる。さらに、反応処理容器10に位置決め穴を設け、反応処理装置100にそれに対応する位置決めピンを設けることで、一連の位置合わせの精度を向上させることも可能である。このような位置決め穴/ピンのセットは複数設けてもよい。
【0066】
作業者は、以上のような機構を備える反応処理装置100に試料を充填した反応処理容器10を装着し、蓋部71を閉めることによって各ヒータや各ポンプに接続されたチューブ等を反応処理容器10に連結させて、PCRによる反応処理の準備を完了することができる。その後、作業者は操作ボタン76を操作して反応処理を開始し、表示部75に表示された反応処理の進捗や結果をリアルタイムで確認しながら監視等を継続する。表示部75には蛍光検出器140で検出された蛍光量を表示してもよい。例えば、ある特定の試料に対して、予め蛍光量の閾値を決めておき、その閾値を超えた時点で反応処理を停止させてもよい。またそのようにプログラムがなされていてもよい。
【0067】
図13および図14は、本発明の別の実施形態に係る反応処理装置200の外観を示す図である。先の実施形態に係る反応処理装置100と同様の機能や構成については説明を省略する。本実施形態に係る反応処理装置200もまた、使用者が携帯可能に構成されている。図13および図14に示すように、反応処理装置200は、その長手方向の一方の端面に開口部を有する略直方体状の筐体本体270と、該筐体本体270の開口部を覆い、開閉可能な蓋部271とから成る筐体272を備える。反応処理装置200の上面には、表示部275や操作ボタン276が配置されている。
【0068】
図13は蓋部271が閉状態のときの反応処理装置200を、図14は開状態のときの反応処理装置200を表している。蓋部271は、例えばロック機構(図示せず)により閉状態を維持でき、スライド式ロックスイッチ273をスライドさせてロック機構のロックを解除することで開状態とすることができる。また開状態のとき、反応処理容器取り出し用スライドスイッチ278を上面方向にスライドさせることによって、反応処理装置200から反応処理容器10を容易に脱着させることが可能である。
【0069】
図15は、反応処理装置200の蓋部271近傍の構成をわかりやすく透視的に表した図である。蓋部271は、後述するヒンジ機構により筐体本体270に対して開閉可能となっている。図15に示すように、筐体本体270の開口部の筐体本体270側には、高温用ヒータ204、中温用ヒータ206、分注用ヒータ212、光学ヘッド242、第1ポンプ(図示せず)から延びる第1チューブ230の先端部、第2ポンプ(図示せず)から延びる第2チューブ232の先端部が配置されている。また、上記ヒータと相対するように、蓋部271には容器アライメント機構280が配置される。
【0070】
容器アライメント機構280は、蓋部271が開状態から閉状態にされるのと連動して反応処理容器10を高温用ヒータ204、中温用ヒータ206および分注用ヒータ212で加熱可能となるよう位置合わせする。容器アライメント機構280は、反応処理容器10を蓋部271内側に配置するための容器設置部274と、蓋部271を開閉可能にするヒンジ機構210とを備える。
【0071】
図15に示す反応処理装置200において、容器設置部274に反応処理容器10を設置した状態で、ヒンジ機構210によって蓋部271が開状態から閉状態にされ、ロック機構(図示せず)により、その閉状態が維持される。このとき、反応処理容器10が高温用ヒータ204、中温用ヒータ206および分注用ヒータ212に自動的に位置合わせされる。このときに反応処理容器10が各ヒータに密着するように弾性部材(図示せず)が容器アライメント機構280に備わっている。また、これと同時に、第1チューブ230の先端部および第2チューブ232の先端部が反応処理容器10の流路12に自動的に連通し、さらに反応処理容器10の所定の蛍光検出点が蛍光検出器の光学ヘッド242に対して自動的に位置合わせされる。さらに反応処理容器10に位置決め穴を設け、反応処理装置200にそれに対応する位置決めピン277を設けることで、一連の位置合わせの精度を向上させている。このように、本実施形態に係る反応処理装置200もまた、PCRによる反応処理の作業性をさらに向上することができる。このようなヒンジ機構を備えるアライメント機構によれば、動く箇所やその範囲を少なくすることができ、装置の信頼性向上を図ることができる。
【0072】
さらにこの実施形態においては、高温用ヒータ204、中温用ヒータ206、分注用ヒータ212、第1チューブ230の先端部、第2チューブ232の先端部および蛍光検出器の光学ヘッド242等の機能部品(要素)が反応処理容器10の一方の主面に偏って配置されている。このことにより反応処理装置200の機構部品等を反応処理容器10の片側にまとめて配置させることができ、機構設計の簡略化や装置の小型化を図ることができる。
【0073】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0074】
10 反応処理容器、 12 流路、 14 基板、 16 流路封止フィルム、 18 第1封止フィルム、 20 第2封止フィルム、 24 第1空気連通口、 26 第2空気連通口、 28 第1フィルタ、 30 第2フィルタ、 32 サーマルサイクル領域、 34 分注領域、 36 高温領域、 38 中温領域、 40 接続領域、 42 分注流路、 43 第1支流路、 44 第2支流路、 45 第1試料導入口、 46 第2試料導入口、 50 試料、 70,270 筐体本体、 71,271 蓋部、 72,272 筐体、 73 ロックボタン、 74,274 容器設置部、 75,275 表示部、 76,276 操作ボタン、 80,280 容器アライメント機構、 81 押さえ部材、 82 支持体、 83 弾性部材、 85 第1ニードル、 86 第2ニードル、 100,200 反応処理装置、 102 温度制御システム、 104,204 高温用ヒータ、 105 CPU、 106,206 中温用ヒータ、 108 高温用ヒータドライバ、 110 中温用ヒータドライバ、 112,212 分注用ヒータ、 114 分注用ヒータドライバ、 120 送液システム、 122 第1ポンプ、 124 第2ポンプ、 126 第1ポンプドライバ、 128 第2ポンプドライバ、 130,230 第1チューブ、 132,232 第2チューブ、 134,136 パッキン、 140 蛍光検出器、 142,242 光学ヘッド、 144 蛍光検出器ドライバ、 146 光ファイバ、 210 ヒンジ機構、 273 スライド式ロックスイッチ、 277 位置決めピン、 278 反応処理容器取り出し用スライドスイッチ、 300 スライド機構、 301 ベース板、 302 レール、 303 スライド板、 277 位置決めピン、 431 第1分岐点、 441 第2分岐点。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15