(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】高温保護用NiCrBSi-ZrB2サーメット粉末、複合コーティング及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 4/06 20160101AFI20230904BHJP
C23C 4/129 20160101ALI20230904BHJP
C23C 4/02 20060101ALI20230904BHJP
C22C 19/05 20060101ALI20230904BHJP
C23C 4/10 20160101ALI20230904BHJP
C22C 29/14 20060101ALN20230904BHJP
【FI】
C23C4/06
C23C4/129
C23C4/02
C22C19/05 B
C23C4/10
C22C29/14 C
(21)【出願番号】P 2023501662
(86)(22)【出願日】2022-01-14
(86)【国際出願番号】 CN2022072124
(87)【国際公開番号】W WO2022152264
(87)【国際公開日】2022-07-21
【審査請求日】2023-01-11
(31)【優先権主張番号】202110062825.6
(32)【優先日】2021-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520137305
【氏名又は名称】安徽工業大学
【氏名又は名称原語表記】ANHUI UNIVERSITY OF TECHNOLOGY
【住所又は居所原語表記】59 Hudong Road Maanshan,Anhui 243032 China
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】張 世宏
(72)【発明者】
【氏名】劉 侠
(72)【発明者】
【氏名】胡 凱
(72)【発明者】
【氏名】薛 召露
(72)【発明者】
【氏名】楊 陽
(72)【発明者】
【氏名】楊 康
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-507604(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110643926(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107914005(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/06
C23C 4/129
C23C 4/02
C22C 19/05
C23C 4/10
C22C 29/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温保護用NiCrBSi-ZrB
2サーメット粉末の製造方法であって、
NiCrBSi、ZrB
2、アルコール及び酸化ジルコニウムボールを割合に応じてボールミル缶に投入し、ボールミリング速度を300~350r/minに設定して30~40h運転してアルコール含有混合粉末溶液を得る機械的ボールミリングステップaと、
アルコール含有混合粉末溶液を送風定温乾燥器に入れ、加熱温度を50℃に設定し、12h保温する粉末蒸発乾涸ステップbと、
乾燥後の混合粉末にバインダーのポリビニルアルコール、消泡剤のノルマルオクタノール及び脱イオン水を添加し、撹拌し、静置して水系複合スラリーを得るスラリー配合ステップcと、
水系複合スラリーを撹拌しながら定流量ポンプによって高速遠心噴霧乾燥機に送入し、噴霧して球形粉末粒子を形成し、遠心噴霧乾燥機の入口温度は200~240℃、出口温度は100~130℃であり、遠心機の噴霧回転盤の周波数は36Hzであり、定流量ポンプの速度は26r/minである噴霧造粒ステップdと、
真空焼結炉を使用して噴霧後の粉末粒子に対して真空焼結処理を行う真空焼結ステップeと、
焼結したサーメット粉末に対して振動篩及び超音波発振器を使用して篩分け・分級処理を行い、超音波発振器の周波数を2~3Hzのパルス周波数とし、NiCrBSi-ZrB
2サーメット粉末を得る篩分け・分級ステップfと、を含む、ことを特徴とする高温保護用NiCrBSi-ZrB
2サーメット粉末の製造方法。
【請求項2】
前記ステップaでは、NiCrBSi粉末の粒径は20~50μmであり、元素の質量%は、C 0.3~1.0%、Cr 8~18%、Si 2.5~5.5%、B 1.8~4.5%、Ni 65~85%、Fe≦5%であり、ZrB
2粉末の粒径は1~3μmであり、純度≧99.85%である、ことを特徴とする請求項1に記載の高温保護用NiCrBSi-ZrB
2サーメット粉末の製造方法。
【請求項3】
前記ステップaでは、NiCrBSiとZrB
2との質量比は6~8:4~2であり、粉末100gあたりのアルコールの添加量は55.5mlであり、直径15mm、13mm、11mm、10mm、6mmの酸化ジルコニウムボールを選択して割合1:3:3:2:1で配合して混合ボールを得て、ボールと粉末との質量比を2:1にする、ことを特徴とする請求項1に記載の高温保護用NiCrBSi-ZrB
2サーメット粉末の製造方法。
【請求項4】
前記ステップcでは、バインダーのポリビニルアルコールの添加量は粉末の全質量の3~3.5%であり、消泡剤のノルマルオクタノールの添加量は粉末の全質量の0.4~0.5%であり、脱イオン水の添加量はスラリー中の粉末固形分が40%となるように設定される、ことを特徴とする請求項1に記載の高温保護用NiCrBSi-ZrB
2サーメット粉末の製造方法。
【請求項5】
前記ステップeでは、真空焼結は温度傾斜焼結法を使用し、粉末を室温から300℃まで40min加熱し、30min保温し、次に300℃から900~1100℃まで80min加熱し、6h保温し、加熱を停止し、粉末を室温に炉冷する、ことを特徴とする請求項1に記載の高温保護用NiCrBSi-ZrB
2サーメット粉末の製造方法。
【請求項6】
高温保護用NiCrBSi-ZrB
2複合コーティングの製造方法であって、
請求項
1~5のいずれか一項に記載の
製造方法により高温保護用NiCrBSi-ZrB
2サーメット粉末を製造するステップS1と、
溶射前、ボイラの鋼基材の表面に対して油抜き浄化処理を行い、次に、表面に対してブラスト処理を行い、ブラスト処理後の基材に対して予熱処理を行うステップS2と、
酸素-プロパンを燃料とした高速フレーム溶射技術を使用し、酸素ガスを助燃剤、プロパンを燃料、窒素ガスを粉末供給キャリアガス、空気を冷却媒体とし、ステップS1で得たサーメット粉末をボイラの鋼基材の表面に溶射し、NiCrBSi-ZrB
2複合コーティングを形成するステップS3と、を含む、ことを特徴とする高温保護用NiCrBSi-ZrB
2複合コーティングの製造方法。
【請求項7】
前記ステップS2では、ブラスト材料は粒度が25メッシュの金剛砂であり、ブラスト圧力は3~5MPaであり、ブラスト後の基材の表面粗度は2.5~3μmに達し、基材の予熱温度は80~120℃に達する、ことを特徴とする請求項
6に記載の高温保護用NiCrBSi-ZrB
2複合コーティングの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はサーメットコーティングの技術分野に関し、具体的には、高温保護用NiCrBSi-ZrB2サーメット粉末、複合コーティング及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高温環境下での腐食や摩耗の問題はエネルギー、化学工業分野で主な課題となっており、溶射技術を用いて重要な施設やスペアパーツの表面に高温保護コーティングを堆積させることで材料の耐腐食性、耐摩耗性を高めることは経済的かつ実用的な方法となっている。現在、中国国内外では高温保護コーティングの研究は主に合金コーティング、セラミックコーティング及びサーメット複合コーティングに焦点を当てており、単一の合金コーティングは優れた耐高温腐食性を有するが、硬度がやや低く、高温摩耗環境での使用要件を満たすことができない。セラミックコーティングは硬度が高く、且つ良好な耐高温腐食性及び耐摩耗性を有するが、脆性が大きく、耐衝撃性が低く、使用中に脆く破断しやすい。サーメット複合コーティングは合金の強靭性とセラミックの高温特性を兼ね備え、優れた耐高温腐食性及び耐摩耗性を有するため、過酷な環境下で好ましい高温保護コーティングとなる。高速フレーム溶射(HVOF)技術を用いて製造されたサーメットコーティングは気孔率が小さく、密着強度が高い等の特徴を有し、プロパン、プロピレン等の炭化水素系燃料又はジェット燃料等の液体燃料と高圧酸素ガスとを燃焼室で燃焼させて高温高圧炎を発生させ、粒子を基材に高速で衝突させて緻密なコーティングを形成し、低い堆積温度もコーティングの酸化を軽減させるとともに、そのコストが低く、装置が持ち運びやすく、現場での修復作業に適し、これらはいずれもプラズマ溶射やアーク溶射等のほかの溶射技術にない利点である。
【0003】
WC-Co、NiCr-Cr3C2、NiCrBSi(Fe)-WC等は現在使用量が大きいサーメットコーティングであり、コーティングに添加された炭化物硬質相によって、合金コーティングよりも高い硬度及び優れた耐摩耗性を有するが、WC-Coコーティング中のWC相は高温下で不安定で分解しやすい(一般的には500℃以下とする)。NiCr-Cr3C2コーティングは使用温度が900℃に達し得るが、Cr3C2相の固有硬度がやや低いため、コーティングの耐摩耗性や耐浸食性は好ましくない。NiCrBSi(Fe)-WCコーティングは耐高温摩耗性が優れるが、500℃下での金属相とセラミック相との熱膨張不整合及びWC相の低耐酸化性により、その耐熱腐食性が低い。従って、コーティングの耐高温腐食性及び耐摩耗性を向上させ、エネルギー、化学工業等の高温腐食及び摩耗環境に適用できるように炭化物を代替するセラミック相を見つける必要がある。
【0004】
ZrB2は超高温材料として、高融点(3246℃)、高熱伝導率(39W/mK)、低密度(6.12g/cm3)、低熱膨張係数(6.88×10-6K-1)、高硬度及び優れた耐酸化性、耐熱衝撃性及び耐食性を有する。しかし、ZrB2は靭性が低く、非常に高い温度でしか緻密化できず、NiCrBSi自己融着性合金コーティングは優れた耐高温腐食性を有するが、その硬度が低く、耐高温摩耗性が低く、NiCrBSiにZrB2相を添加することで、ニッケル系合金の金属結合相の低融点、及びSi、Bから高温下で形成されたSiO2、B2O3によって、ZrB2の緻密性が低いという欠陥を補うことができ、製造されたサーメット粉末は一定の緻密度と流動性を兼ね備え、溶射等の表面処理方法に適用してコーティングを製造し、コーティングの硬度及び高温耐腐食、耐摩耗性を向上させる。現在、サーメット粉末を製造する主な方法は溶融法、焼結破砕法、被覆法である。溶融法及び焼結破砕法によって製造された粉末は形態が不規則であり、球形度が低く、流動性が低く、高速フレーム溶射に適しない。被覆法によって製造された粉末は成分が不均一であり、構造強度が低い。本発明は、従来のサーメット粉末の製造方法の利点と組み合わせて、機械的ボールミリング、噴霧造粒、真空焼結を組み合わせた方法を革新的に使用して、球形度が高く、流動性が良好で、緻密度が高いサーメット粉末を製造するとともに、該方法によって製造された粉末に対して高速フレーム溶射プロセスのパラメータを適切に最適化することで、気孔率が低く、密着強度が高い複合コーティングを得る。
【0005】
上記欠陥に鑑みて、本発明の発明者は長期間にわたる研究や実践を経て本発明を完成するに至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ZrB2セラミックの高温緻密性が低いこと、エネルギー・化学工業分野での高温使用部材の腐食や摩耗の問題を解決し、高温保護用NiCrBSi-ZrB2サーメット粉末、複合コーティング及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を実現するために、本発明は高温保護用NiCrBSi-ZrB2サーメット粉末の製造方法を開示し、
a、NiCrBSi、ZrB2、アルコール及び酸化ジルコニウムボールを割合に応じてボールミル缶に投入し、ボールミリング速度を300~350r/minに設定して30~40h運転してアルコール含有混合粉末溶液を得る機械的ボールミリングステップと、
b、アルコール含有混合粉末溶液を送風定温乾燥器に入れ、加熱温度を50℃に設定し、12h保温する粉末蒸発乾涸ステップと、
c、乾燥後の混合粉末にバインダーのポリビニルアルコール、消泡剤のノルマルオクタノール及び脱イオン水を添加し、撹拌し、静置して水系複合スラリーを得るスラリー配合ステップと、
d、水系複合スラリーを撹拌しながら定流量ポンプによって高速遠心噴霧乾燥機に送入し、噴霧して球形粉末粒子を形成し、遠心噴霧乾燥機の入口温度は200~240℃、出口温度は100~130℃であり、遠心機の噴霧回転盤の周波数は36Hzであり、定流量ポンプの速度は26r/minである噴霧造粒ステップと、
e、真空焼結炉を使用して噴霧後の粉末粒子に対して真空焼結処理を行う真空焼結ステップと、
f、焼結したサーメット粉末に対して振動篩及び超音波発振器を使用して篩分け・分級処理を行い、超音波発振器の周波数を2~3Hzのパルス周波数とし、粒度分布15~45μmのNiCrBSi-ZrB2サーメット粉末を得る篩分け・分級ステップと、を含む。
【0008】
前記ステップaでは、NiCrBSi粉末の粒径は20~50μmであり、元素の質量%は、C 0.3~1.0%、Cr 8~18%、Si 2.5~5.5%、B 1.8~4.5%、Ni 65~85%、Fe≦5%である。ZrB2粉末の粒径は1~3μmであり、純度≧99.85%であり、NiCrBSiとZrB2との質量比は6~8:4~2であり、粉末100gあたりのアルコールの添加量は55.5mlであり、直径15mm、13mm、11mm、10mm、6mmの酸化ジルコニウムボールを選択して割合1:3:3:2:1で配合して混合ボールを得て、ボールと粉末との質量比を2:1にする。
【0009】
前記ステップcでは、バインダーのポリビニルアルコールの添加量は粉末の全質量の3~3.5%であり、消泡剤のノルマルオクタノールの添加量は粉末の全質量の0.4~0.5%であり、脱イオン水の添加量はスラリー中の粉末固形分が40%となるように設定される。
【0010】
前記ステップeでは、真空焼結は温度傾斜焼結法を使用し、粉末を室温から300℃まで40min加熱し、30min保温し、次に300℃から900~1100℃まで80min加熱し、6h保温し、加熱を停止して粉末を室温に炉冷する。
【0011】
本発明は上記製造方法によって製造された高温保護用NiCrBSi-ZrB2サーメット粉末をさらに開示し、NiCrBSi-ZrB2サーメット粉末の粒径は15~45μm、嵩密度は1.51~2.13g/cm2、流動性は69.8~98.3s/50gである。
【0012】
本発明は高温保護用NiCrBSi-ZrB2複合コーティングの製造方法をさらに開示し、
S1、前記高温保護用NiCrBSi-ZrB2サーメット粉末を製造するステップと、
S2、溶射前、ボイラの鋼基材の表面に対して油抜き浄化処理を行い、次に、表面に対してブラスト処理を行い、ブラスト処理後の基材に対して予熱処理を行うステップと、
S3、酸素-プロパンを燃料とした高速フレーム溶射技術を使用し、酸素ガスを助燃剤、プロパンを燃料、窒素ガスを粉末供給キャリアガス、空気を冷却媒体とし、ステップS1で得たサーメット粉末をボイラの鋼基材の表面に溶射し、NiCrBSi-ZrB2複合コーティングを形成するステップと、を含む。
【0013】
前記ステップS2では、ブラスト材料は粒度が25メッシュの金剛砂であり、ブラスト圧力は3~5MPaであり、ブラスト後の基材の表面粗度は2.5~3μmに達し、基材の予熱温度は80~120℃に達する。
【0014】
前記ステップS3では、プロパンの流速は60~70L/min、酸素ガスの流速は230~250L/min、空気の流速は320~350L/minであり、溶射距離は230~250mm、溶射ステップは3mm、溶射速度は800mm/sであり、粉末供給電圧は5~5.5V、粉末供給率は50~60g/minである。
【0015】
本発明は高温保護用NiCrBSi-ZrB2複合コーティングをさらに開示し、上記製造方法によって製造され、コーティングの厚さは200~300μmに達し、硬度は700~1000HVであり、コーティングと基材との密着強度は75MPaを超え、コーティングの気孔率は0.4~0.5%に達する。
【発明の効果】
【0016】
従来技術と比較して本発明の有益な効果は以下の通りである。
【0017】
(1)機械的ボールミリング、噴霧造粒及び真空焼結を組み合わせた方法を使用して製造されたサーメット粉末は良い球形度、良好な嵩密度及び流動性を有し、粉末の成分分布が均一であり、従来の機械的ボールミリング法及び焼結法によって製造された粉末の球形度が低く、流動性が低く、成分が不均一であるという欠点を克服するとともに、ニッケル系合金の金属結合相の低融点、及び高温下でSiO2及びB2O3を形成するSi、Bの流動性の特徴によってZrB2の高温焼結緻密性が低いという欠陥を補う。
【0018】
(2)製造されたNiCrBSi-ZrB2複合コーティングの厚さは200~300μmであり、硬度は1000HVに達し、コーティングと基材との密着強度は75MPaよりも大きく、コーティングの気孔率は0.4~0.5%に達する。
【0019】
(3)本発明で製造された複合コーティングは高温腐食環境下で表面にm-ZrO2及びSiO2が形成され、コーティングの耐高温腐食性を向上させ、溶射中にZrB2損失が少ないことで、複合コーティングは高硬度及び良好な耐高温摩耗性を有する。また、NiCrBSi-ZrB2複合コーティングの製造方法は簡単であり、原料のコストが低く、適用範囲を拡大する。
【0020】
(4)本発明で使用される高速フレーム溶射技術は、酸素-プロパンを燃料とすることで、酸素-灯油燃料を使用する技術と比較して、酸素-プロパン高速フレーム溶射技術はコストが低く、装置が持ち運びやすく、現場での修復作業や工業生産に適する等の特徴を有し、プロセスパラメータを調整することによって、酸素-灯油溶射コーティングに近い特性を付与する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明におけるNiCrBSi-ZrB
2サーメット粉末の水系複合スラリーの製造プロセスである。
【
図2】本発明の実施例1、2、3におけるNiCrBSi-ZrB
2粉末の表面形態及びEDS結果であり、(a) NiCrBSi-20ZrB
2;(b) NiCrBSi-30ZrB
2;(c) NiCrBSi-40ZrB
2である。
【
図3】ホール流速計を使用してNiCrBSi-ZrB
2粉末の嵩密度及び流動性をテストしたマクロ写真である。
【
図4】本発明の実施例1、2、3におけるNiCrBSi-ZrB
2複合コーティングの断面形態及びEDS結果であり、(a) NiCrBSi-20ZrB
2;(b) NiCrBSi-30ZrB
2;(c) NiCrBSi-40ZrB
2である。
【
図5】本発明の実施例1、2、3におけるNiCrBSi-ZrB
2複合コーティングの溶射状態及び熱腐食後の表面のXRDスペクトルであり、(a)(d) NiCrBSi-20ZrB
2;(b)(e) NiCrBSi-30ZrB
2;(c)(f) NiCrBSi-40ZrB
2である。
【
図6】本発明の実施例1、2、3におけるNiCrBSi-ZrB
2複合コーティングとNi60-40TiB
2コーティングとの熱腐食増量及び熱腐食動力学定数の比較図である。
【
図7】本発明の実施例1、2、3におけるNiCrBSi-ZrB
2複合コーティングとNiCrBSiコーティングとの高温摩耗体積及び摩耗率の比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明の上記及び別の技術的特徴と利点をより詳細に説明する。
【0023】
実施例1
それぞれ質量%で80%のNiCrBSi及び20%のZrB2粉末を混合してボールミル缶に投入し、ボールミル缶に質量が粉末の質量の2倍となる酸化ジルコニウムボールを投入し、直径15mm、13mm、11mm、10mm、6mmの酸化ジルコニウムボールを選択して割合1:3:3:2:1で配合した。粉末100gあたりに55.5mLのアルコールを添加する割合でボールミル缶にアルコールを投入した。40hボールミリングし、回転速度を320r/minに設定した。
【0024】
ボールミリングが終了した後、アルコール含有混合粉末溶液を送風定温乾燥器に入れ、加熱温度を50℃に設定し、12h保温した。粉末が乾燥した後、粉末の全質量に対して3.5%のバインダーのポリビニルアルコール及び0.5%の消泡剤のノルマルオクタノールを添加し、且つ脱イオン水を添加し、粉末固形分を40%にし、配合した水系複合スラリーを撹拌し続けて粉末粒子及びバインダーをスラリーに均一に分散させた。
【0025】
水系複合スラリーを撹拌しながら定流量ポンプによって高速遠心噴霧乾燥機に送入し、噴霧して球形粉末粒子を形成し、遠心噴霧乾燥機の入口温度を240℃、出口温度を100℃、遠心機の噴霧回転盤の周波数を36Hz、定流量ポンプの速度を26r/minに設定した。
【0026】
噴霧造粒後のサーメット粉末を収集して酸化アルミニウム坩堝に入れて真空焼結処理を行った。真空焼結プログラムを設定し、粉末を室温から300℃まで40min加熱し、30min保温し、次に300℃から1000℃まで80min加熱し、6h保温し、加熱を停止して粉末を室温に炉冷した。
【0027】
真空焼結されたサーメット粉末に対して篩分け・分級処理を行い、それぞれメッシュ数が15μmと45μmの金属篩網を使用して粉末を篩分けし、メッシュ数の小さい篩網を使用する場合、篩網フレームのエッジに超音波発振器を搭載して粉末の篩分けを補助し、超音波発振器の周波数を3Hzのパルス周波数とし、異なるメッシュ数の篩網によって篩分けを行って粒度分布15~45μmのNiCrBSi-ZrB2サーメット粉末を得た。
【0028】
クレンザー、アルコール、アセトンを使用してボイラの鋼基材の表面に対して油抜き浄化処理を行い、次に、油抜き後の表面に対してブラスト処理を行い、ブラスト材料は粒度が25メッシュの金剛砂(Al2O3)であり、空気弁を調整してブラスト圧力を3MPaにした。ブラスト後、基材の表面粗度Raは2.5μmに達した。溶射装置の電源、ガススイッチ及び冷却水スイッチをオンにし、酸素ガスを助燃剤、プロパンを燃料、窒素ガスを粉末供給キャリアガス、空気を冷却媒体として使用し、試料を作業台に固定し、マニピュレータ運転プログラムを変更して溶射距離を250mm、溶射速度を800mm/s、溶射ステップを3mmにし、プロパン、酸素ガス、空気流量弁をオンにし、プロパンの流速を65L/min、酸素ガスの流速を240L/min、空気の流速を350L/minに調整し、プロパン炎を点火して基材の表面を予熱し、表面温度を80~120℃にし、粉末供給器のスイッチをオンにし、粉末供給電圧を5Vに調整し、粉末供給率を50g/minに維持した。5回溶射するごとに、エアガンを使用してコーティングの表面に対してパージ降温を行い、且つねじマイクロメータを使用してコーティングの厚さを測定し、コーティングの温度が80℃程度に低下すると、溶射装置を起動して溶射を継続し、最終的にコーティングの厚さが250μm程度に達するまで繰り返した。
【0029】
実施例2
それぞれ質量%で70%のNiCrBSi及び30%のZrB2粉末を混合してボールミル缶に投入し、ボールミル缶に質量が粉末の質量の2倍となる酸化ジルコニウムボールを投入し、直径15mm、13mm、11mm、10mm、6mmの酸化ジルコニウムボールを選択して割合1:3:3:2:1で配合した。粉末100gあたりに55.5mLのアルコールを添加する割合でボールミル缶にアルコールを投入した。30hボールミリングし、回転速度を300r/minに設定した。
【0030】
ボールミリングが終了した後、アルコール含有混合粉末溶液を送風定温乾燥器に入れ、加熱温度を50℃に設定し、12h保温した。粉末が乾燥した後、粉末の全質量に対して3%のバインダーのポリビニルアルコール及び0.4%の消泡剤のノルマルオクタノールを添加し、且つ脱イオン水を添加し、粉末固形分を40%にし、配合した水系複合スラリーを撹拌し続けて粉末粒子及びバインダーをスラリーに均一に分散させた。
【0031】
水系複合スラリーを撹拌しながら定流量ポンプによって高速遠心噴霧乾燥機に送入し、噴霧して球形粉末粒子を形成し、遠心噴霧乾燥機の入口温度を240℃、出口温度を110℃、遠心機の噴霧回転盤の周波数を36Hz、定流量ポンプの速度を26r/minに設定した。
【0032】
噴霧造粒後のサーメット粉末を収集して酸化アルミニウム坩堝に入れて真空焼結処理を行った。真空焼結プログラムを設定し、粉末を室温から300℃まで40min加熱し、30min保温し、次に300℃から900℃まで80min加熱し、6h保温し、加熱を停止し、粉末を室温に炉冷した。
【0033】
真空焼結されたサーメット粉末に対して篩分け・分級処理を行い、それぞれメッシュ数が15μmと45μmの金属篩網を使用して粉末を篩分けし、メッシュ数の小さい篩網を使用する場合、篩網フレームのエッジに超音波発振器を搭載して粉末の篩分けを補助し、超音波発振器の周波数を2.5Hzのパルス周波数とし、異なるメッシュ数の篩網によって篩分けを行って粒度分布15~45μmのNiCrBSi-ZrB2サーメット粉末を得た。
【0034】
クレンザー、アルコール、アセトンを使用してボイラの鋼基材の表面に対して油抜き浄化処理を行い、次に、油抜き後の表面に対してブラスト処理を行い、ブラスト材料は粒度が25メッシュの金剛砂(Al2O3)であり、空気弁を調整してブラスト圧力を3MPaにした。ブラスト後、基材の表面粗度Raは2.5μmに達した。溶射装置の電源、ガススイッチ及び冷却水スイッチをオンにし、酸素ガスを助燃剤、プロパンを燃料、窒素ガスを粉末供給キャリアガス、空気を冷却媒体として使用し、試料を作業台に固定し、マニピュレータ運転プログラムを変更して溶射距離を230mm、溶射速度を800mm/s、溶射ステップを3mmにし、プロパン、酸素ガス、空気流量弁をオンにし、プロパンの流速を60L/min、酸素ガスの流速を230L/min、空気の流速を320L/minに調整し、プロパン炎を点火して基材の表面を予熱し、表面温度を80~120℃にし、粉末供給器のスイッチをオンにし、粉末供給電圧を5Vに調整し、粉末供給率を50g/minに維持した。5回溶射するごとに、エアガンを使用してコーティングの表面に対してパージ降温を行い、且つねじマイクロメータを使用してコーティングの厚さを測定し、コーティングの温度が80℃程度に低下すると、溶射装置を起動して溶射を継続し、最終的にコーティングの厚さが250μm程度に達するまで繰り返した。
【0035】
実施例3
それぞれ質量%で60%のNiCrBSi及び40%のZrB2粉末を混合してボールミル缶に投入し、ボールミル缶に質量が粉末の質量の2倍となる酸化ジルコニウムボールを投入し、直径15mm、13mm、11mm、10mm、6mmの酸化ジルコニウムボールを選択して割合1:3:3:2:1で配合した。粉末100gあたりに55.5mLのアルコールを添加する割合でボールミル缶にアルコールを投入した。40hボールミリングし、回転速度を320r/minに設定した。
【0036】
ボールミリングが終了した後、アルコール含有混合粉末溶液を送風定温乾燥器に入れ、加熱温度を50℃に設定し、12h保温した。粉末が乾燥した後、粉末の全質量に対して3.5%のバインダーのポリビニルアルコール及び0.5%の消泡剤のノルマルオクタノールを添加し、且つ脱イオン水を添加し、粉末固形分を40%にし、配合した水系複合スラリーを撹拌し続けて粉末粒子及びバインダーをスラリーに均一に分散させた。
【0037】
水系複合スラリーを撹拌しながら定流量ポンプによって高速遠心噴霧乾燥機に送入し、噴霧して球形粉末粒子を形成し、遠心噴霧乾燥機の入口温度を240℃、出口温度を100℃、遠心機の噴霧回転盤の周波数を36Hz、定流量ポンプの速度を26r/minに設定した。
【0038】
噴霧造粒後のサーメット粉末を収集して酸化アルミニウム坩堝に入れて真空焼結処理を行った。真空焼結プログラムを設定し、粉末を室温から300℃まで40min加熱し、30min保温し、次に300℃から1000℃まで80min加熱し、6h保温し、加熱を停止して粉末を室温に炉冷した。
【0039】
真空焼結されたサーメット粉末に対して篩分け・分級処理を行い、それぞれメッシュ数が15μmと45μmの金属篩網を使用して粉末を篩分けし、メッシュ数の小さい篩網を使用する場合、篩網フレームのエッジに超音波発振器を搭載して粉末の篩分けを補助し、超音波発振器の周波数を3Hzのパルス周波数とし、異なるメッシュ数の篩網によって篩分けを行って粒度分布15~45μmのNiCrBSi-ZrB2サーメット粉末を得た。
【0040】
クレンザー、アルコール、アセトンを使用してボイラの鋼基材の表面に対して油抜き浄化処理を行い、次に、油抜き後の表面に対してブラスト処理を行い、ブラスト材料は粒度が25メッシュの金剛砂(Al2O3)であり、空気弁を調整してブラスト圧力を3MPaにした。ブラスト後、基材の表面粗度Raは2.5μmに達した。溶射装置の電源、ガススイッチ及び冷却水スイッチをオンにし、酸素ガスを助燃剤、プロパンを燃料、窒素ガスを粉末供給キャリアガス、空気を冷却媒体として使用し、試料を作業台に固定し、マニピュレータ運転プログラムを変更して溶射距離を250mm、溶射速度を800mm/s、溶射ステップを3mmにし、プロパン、酸素ガス、空気流量弁をオンにし、プロパンの流速を70L/min、酸素ガスの流速を250L/min、空気の流速を350L/minに調整し、プロパン炎を点火して基材の表面を予熱し、表面温度を80~120℃にし、粉末供給器のスイッチをオンにし、粉末供給電圧を5Vに調整し、粉末供給率を50g/minに維持した。5回溶射するごとに、エアガンを使用してコーティングの表面に対してパージ降温を行い、且つねじマイクロメータを使用してコーティングの厚さを測定し、コーティングの温度が80℃程度に低下すると、溶射装置を起動して溶射を継続し、最終的にコーティングの厚さが250μm程度に達するまで繰り返した。
【0041】
1、本発明の実施例1~3で製造されたNiCrBSi-ZrB2サーメット粉末の特性テスト
ホール流速計を用いて粉末の流動性及び嵩密度をテストし、粉末試料の種類ごとに3回テストし、その平均値を該粉末試料の流動性指標及び嵩密度とし、テスト結果は表1に示された。
【0042】
【0043】
2、本発明の実施例1~3で製造されたNiCrBSi-ZrB2複合コーティングの特性テスト
ビッカース硬度計を用いてコーティングの微小硬度をテストし、荷重は300gf、荷重時間は5sであり、コーティングの種類ごとに10個の点をテストし、その平均値を該コーティングの微小硬度値とし、テスト結果は表2に示された。
【0044】
【0045】
NiCrBSi-ZrB
2複合コーティングの耐KCl溶融塩熱腐食性のテストはパイプファーネス内で行われ、コーティングの種類ごとに3組とし、実験温度は700℃、実験時間は100hであり、10hおきに試料を取り出して秤量し、コーティングの熱腐食増量分を記録し、コーティングの平均熱腐食動力学定数を計算し、テスト結果は
図6に示され、Ni60-40TiB
2コーティングと比較して、実施例3で製造されたNiCrBSi-40ZrB
2コーティングは熱腐食中にSiO
2及びm-ZrO
2相を形成し、且つm-ZrO
2からt-ZrO
2への顕著な転化がなく、コーティングの表面における連続的かつ緻密な酸化膜によって塩化物溶融塩のコーティング内への腐食拡散を効果的に阻止でき、コーティングにより優れた耐熱腐食性を付与した。
【0046】
NiCrBSi-ZrB
2複合コーティングの高温摩耗性のテストはHT-1000高温摩擦摩耗機内で行われ、摩耗荷重は10N、摩耗温度は700℃、周波数は5.7Hz、摩擦半径は3.5mm、摩耗時間は60minであった。ボールとして直径5mmのAl
2O
3セラミック球を使用し、KLA-P7触針式プロファイラーを用いてコーティングの摩耗体積を計算し、テスト結果は
図7に示され、NiCrBSiコーティングと比較して、実施例4で製造されたNiCrBSi-40ZrB
2コーティングは多くのZrB
2硬質相を含有するため高硬度及び最適な耐高温摩耗性を有することをテスト結果が示した。
【0047】
以上のように、本発明で製造された高温保護用NiCrBSi-ZrB2複合コーティングはエネルギー・化学工業装置の鋼基材表面の耐高温腐食性、耐高温摩耗性等の要件を満たし、方法及びプロセスを改良することで、最適な粉末及びコーティング製造プロセスを得る。機械的ボールミリング、噴霧造粒及び真空焼結を組み合わせた方法を用いて、NiCrBSi粉末とZrB2粉末との質量比を6:4とし、1000℃で真空焼結することで製造されたサーメット粉末は最適な流動性及び嵩密度を有し、溶射プロセスパラメータを最適化することで、最適な溶射プロセスパラメータを得て、すなわち、プロパンの流速は70L/min、酸素ガスの流速は250L/min、空気の流速は350L/min、溶射距離は250mm、溶射ステップは3mm、溶射速度は800mm/s、粉末供給電圧は5V、粉末供給率は50g/minであり、該パラメータで製造された複合コーティングにSiO2及びm-ZrO2相が存在することで、複合コーティングに最適な耐高温腐食性を付与するとともに、該複合コーティング中の多くのZrB2相によって最適な耐高温摩耗性を付与する。
【0048】
以上、本発明の好適実施例を説明したが、本発明に対して制限的ではなく例示的なものである。当業者が理解できるように、本発明の特許請求の範囲によって限定される趣旨及び範囲内を逸脱せずに種々の変化、変更や同等置き換えを行うことができ、これらはすべて本発明の保護範囲に属する。