(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】ケイ素と酸素を含有する薄膜
(51)【国際特許分類】
C23C 14/08 20060101AFI20230904BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20230904BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20230904BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20230904BHJP
【FI】
C23C14/08 G
C23C14/34 A
C23C14/08 K
C23C14/08 N
B32B9/00 A
B32B27/30 D
(21)【出願番号】P 2023509523
(86)(22)【出願日】2022-11-11
(86)【国際出願番号】 JP2022042088
【審査請求日】2023-02-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390007216
【氏名又は名称】株式会社シンクロン
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 勝久
(72)【発明者】
【氏名】重田 勇輝
(72)【発明者】
【氏名】冨樫 靖久
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼▲浜▼ 吉隆
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-103888(JP,A)
【文献】特開2005-301208(JP,A)
【文献】特開2010-174378(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素、酸素及びニオブ
のみからなり、X線光電子分光法を用いた原子数測定による前記ニオブと前記ケイ素との原子数比(Nb/Si)が、0%~25%(両端を含まず)であるケイ素と酸素を含有する薄膜において、
フッ素含有化合物からなる薄膜と基板との間に形成されるケイ素と酸素を含有する薄膜。
【請求項2】
ケイ素、酸素及びニオブ
のみからなり、X線光電子分光法を用いた原子数測定による前記ニオブと前記ケイ素との原子数比(Nb/Si)が、0%~25%(両端を含まず)であるケイ素と酸素を含有する薄膜において、
フッ素含有化合物からなる薄膜と光学膜との間に形成されるケイ素と酸素を含有する薄膜。
【請求項3】
膜厚が0.1nm~5nmである請求項
1に記載のケイ素と酸素を含有する薄膜。
【請求項4】
膜厚が0.1nm~5nmである請求項
2に記載のケイ素と酸素を含有する薄膜。
【請求項5】
前記基板の表面に形成された請求項
1に記載のケイ素と酸素を含有する薄膜と、
前記ケイ素と酸素を含有する薄膜の表面に形成されたフッ素含有化合物からなる薄膜と、を含む基板被覆膜。
【請求項6】
基板の表面に形成された光学膜と、
前記光学膜の表面に形成された請求項
2に記載のケイ素と酸素を含有する薄膜と、
前記ケイ素と酸素を含有する薄膜の表面に形成されたフッ素含有化合物からなる薄膜と、を含む基板被覆膜。
【請求項7】
第1のターゲットをケイ素又は酸化ケイ素とし、第2のターゲットをニオブ又は酸化ニオブとし、酸素をラジカル源とし、ラジカルアシストスパッタリング法により請求項1~
4のいずれか一項に記載のケイ素と酸素を含有する薄膜を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくともケイ素と酸素を含有する薄膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガラスやプラスチックなどの基材表面の撥水性、撥油性又は滑り性を改善するため、フッ素含有化合物の薄膜を基材表面に形成することが行われている。基材表面の水酸基OHとフッ素含有化合物に含まれたシランカップリング剤とが、縮合反応により結合することで、密着性を高めることができるとされている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】日本接着学会誌 2016年 第52巻第1号 第9~15頁「シランカップリング剤処理における加水分解および縮合反応のコントロール」中村 吉伸,嘉流 望,野田 昌代,藤井 秀司
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記シランカップリング剤処理の加水分解及び縮合反応により十分な密着性を得るには、数十時間に及ぶ反応時間を要するため、生産性に問題がある。また、フッ素含有化合物の薄膜を形成した後に、加熱や加湿などの後処理をすれば反応を促進することはできるが、加熱や加湿などの後処理のための工程を追加したり、専用の設備を設置したりする必要がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、短時間でフッ素含有化合物の薄膜の密着性を高めることができるケイ素と酸素を含有する薄膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ケイ素、酸素及びニオブのみからなり、X線光電子分光法を用いた原子数測定による前記ニオブと前記ケイ素との原子数比(Nb/Si)が、0%~25%(両端を含まず)であるケイ素と酸素を含有する薄膜であって、フッ素含有化合物からなる薄膜と基板との間又はフッ素含有化合物からなる薄膜と光学膜との間に形成される薄膜によって上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、短時間でフッ素含有化合物の薄膜の密着性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に係る基板被覆膜の一実施の形態を示す断面図である。
【
図2】本発明に係る基板被覆膜の他の実施の形態を示す断面図である。
【
図3】本発明に係る薄膜の製造方法を用いるスパッタ装置の一例を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、ケイ素、酸素及びニオブを元素として含有する薄膜に係る第1発明と、この第1発明に係る薄膜とフッ素含有化合物からなる薄膜とを含む基板被覆膜に係る第2発明と、この第2発明に係る基板被覆膜に光学膜をさらに含む基板被覆膜に係る第3発明と、第1発明に係る薄膜を製造する方法に係る第4発明とを含む。
【0010】
上記第1発明に係る薄膜は、ケイ素、酸素及びニオブを含有し、X線光電子分光法を用いた原子数測定による前記ニオブと前記ケイ素との原子数比(Nb/Si)が、0%~25%(両端を含まず)である。すなわち、0%<原子数比(Nb/Si)<25%である。後述する実施例及び比較例の結果のとおり、ニオブとケイ素との原子数比Nb/Siが0%、つまりニオブを含まないと、フッ素含有化合物からなる薄膜の密着性が低くなる。また、ニオブとケイ素との原子数比Nb/Siが25%以上になると、フッ素含有化合物からなる薄膜の密着性が低くなる。これに対して、ニオブとケイ素との原子数比Nb/Siが0%~25%(両端を含まず)であると、フッ素含有化合物からなる薄膜の密着性が高くなり、フッ素含有化合物の薄膜が有する撥水性、撥油性又は滑り性といった性能を長時間にわたって維持することができる。
【0011】
上記第1発明に係るケイ素と酸素を含有する薄膜は、フッ素含有化合物からなる薄膜の主面に形成することができる。また、上記第1発明に係るケイ素と酸素を含有する薄膜は、フッ素含有化合物からなる薄膜と基板との間に形成することができる。これにより、基板の表面に形成された第1発明に係るケイ素と酸素を含有する薄膜と、この第1発明に係るケイ素と酸素を含有する薄膜の表面に形成されたフッ素含有化合物からなる薄膜と、を含む基板被覆膜、すなわち第2発明に係る基板被覆膜を構成することができる。この第2発明は、
図1に示す実施形態により説明する。
【0012】
さらに、上記第1発明に係るケイ素と酸素を含有する薄膜は、フッ素含有化合物からなる薄膜と光学膜との間に形成することができる。これにより、基板の表面に形成された光学膜と、この光学膜の表面に形成された第1発明に係るケイ素と酸素を含有する薄膜と、この第1発明に係るケイ素と酸素を含有する薄膜の表面に形成されたフッ素含有化合物からなる薄膜と、を含む基板被覆膜、すなわち第3発明に係る基板被覆膜を構成することができる。この第3発明は、
図2に示す実施形態により説明する。
【0013】
上記第1発明に係るケイ素と酸素を含有する薄膜は、特に限定はされないが、膜厚が0.1nm~5nmとすることができる。
【0014】
上記第1発明に係るケイ素と酸素を含有する薄膜は、第1のターゲットをケイ素又は酸化ケイ素とし、第2のターゲットをニオブ又は酸化ニオブとし、酸素をラジカル源とし、ラジカルアシストスパッタリング法により成膜する、上記第4発明によって製造することができる。この第4発明は、
図3に示す実施形態により説明する。
【0015】
以下、上述した本発明の一実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る基板被覆膜の一実施の形態を示す断面図であり、基板1の表面に基板被覆膜2が形成されている。基板1は、有機ガラス基板その他のプラスチック基板、無機ガラス基板その他の無機基板、ステンレスその他の金属基板など、特に限定することなく種々の材質の基板を用いることができる。
【0016】
本例の基板被覆膜2は、基板1の表面に形成されたケイ素と酸素を含有する薄膜21と、このケイ素と酸素を含有する薄膜21の表面に形成されたフッ素含有化合物からなる薄膜22と、を含んで構成されている。ケイ素と酸素とを含有する薄膜21は、上述した第1発明に係る薄膜であり、ケイ素、酸素及びニオブを含有し、X線光電子分光法を用いた原子数測定によるニオブとケイ素との原子数比(Nb/Si)が、0%~25%(両端を含まず)である。
【0017】
このケイ素と酸素とを含有する薄膜21は、
図3に示すスパッタ装置3を用い、第1のターゲットをケイ素又は酸化ケイ素とし、第2のターゲットをニオブ又は酸化ニオブとし、酸素をラジカル源とし、ラジカルアシストスパッタリング法により成膜することができる。ここで、
図3に示すスパッタ装置の概要を説明するが、第1発明に係るケイ素と酸素を含有する薄膜は、
図3に示すスパッタ装置3を用いたスパッタ法にのみに限定されることなく、他のたとえばCVD(Chemical Vapor Deposition)法、ALD(Atomic Layer Deposition)法、PLD(Palsed Laser Deposition)法、真空蒸着法などによって成膜してもよい。
【0018】
図3は、本発明に係る薄膜の製造方法を用いるスパッタ装置の一例を示す横断面図である。本例のスパッタ装置3は、ラジカルアシストスパッタリング(RAS)法が実現可能な装置であり、略直方体状の中空体である真空チャンバ31を備える。真空チャンバ31には、図示を省略する排気用配管と真空ポンプが接続され、真空チャンバ31の内部を所定の真空度に維持することができる。また、真空チャンバ31の内部には円筒状の基板ホルダ32が回転可能に設けられ、その外周面に成膜対象としての基板1が保持される。
【0019】
真空チャンバ31の内部に設けられた基板ホルダ32の周りには、2つのスパッタ源33,34と、1つのプラズマ源35とが設けられている。それぞれのスパッタ源33,34は、たとえばマグネトロンスパッタ電極などの電極を備え、成膜する際には、各電極の表面に、ターゲットが装着される。各電極には、電力量を調整するトランスを介して交流電源331,341が接続され、例えば1k~100kHz程度の交流電圧が印加される。本例のプラズマ源35は、真空チャンバ31の壁面に形成された開口を塞ぐように固定されたケース体351と、このケース体351に固定されたアンテナを含む誘電体モジュール352とを有する。アンテナを含む誘電体モジュール352は高周波電源353に接続されている。そして、アンテナは、高周波電源353から電力の供給を受けて真空チャンバ31の内部に誘導電界を発生させ、プラズマを発生させる。
【0020】
スパッタ源33の前面には成膜プロセス領域332が形成され、スパッタ源34の前面には成膜プロセス領域342が形成されている。一方の成膜プロセス領域332は、真空チャンバ31の内壁面から基板ホルダ32に向けて突出する仕切壁333により上下左右の四方が取り囲まれ、真空チャンバ31の内部で独立した空間が確保できるように区画されている。他方の成膜プロセス領域342も同様に、真空チャンバ31の内壁面から基板ホルダ32に向けて突出する仕切壁343により上下左右の四方が取り囲まれ、真空チャンバ31の内部で独立した空間が確保できるように区画されている。
【0021】
同じく、プラズマ源35の前面には、反応プロセス領域354が形成されている。この反応プロセス領域354も成膜プロセス領域332,342と同様に、真空チャンバ31の内壁面から基板ホルダ32に向けて突出する仕切壁355により上下左右の四方が取り囲まれ、真空チャンバ31の内部で成膜プロセス領域332,342とは独立した空間が確保される。本例のスパッタ装置3においては、成膜プロセス領域332,342及び反応プロセス領域354での処理は、それぞれが独立して制御可能に構成されている。
【0022】
なお、それぞれのスパッタ源33,34には、スパッタ用ガス供給系が接続され、供給されるスパッタ用ガスの流量はマスフローコントローラで調整され、配管を介してそれぞれの成膜プロセス領域332,342に導入される。また、プラズマ源35には、反応処理用ガス供給系356が接続され、供給される反応処理用ガスの流量はマスフローコントローラで調整され、配管を通じて反応プロセス領域354に導入される。
図3において、符号36は、真空チャンバ31に隣接して設けられ、処理前の基板及び処理後の基板の搬入及び搬出を行うために雰囲気圧を切り換えるためのロードロックチャンバである。
【0023】
このような構成のスパッタ装置3を用い、
図1に示す基板1の表面に形成されたケイ素と酸素を含有する薄膜21を形成するには、まず一方のスパッタ源33の電極に第1のターゲットとしてのケイ素又は酸化ケイ素を装着し、他方のスパッタ源34の電極に第2のターゲットとしてのニオブ又は酸化ニオブを装着する。そして、真空チャンバ31の内部を、たとえば10
-1~10
-5Pa程度の高真空にし、基板1が保持された基板ホルダ32を定速回転させながら、2つの成膜プロセス領域332,342にはスパッタ用ガスとしての不活性ガスを供給し、反応プロセス領域354には反応用ガスとしての酸素ガスを供給する。そして、2つのスパッタ源33,34に交流電源からの電力を供給するとともに、プラズマ源35に高周波電源からの電力を供給する。
【0024】
これにより、連続した2つの成膜プロセス領域332,342におけるスパッタリング処理により基板1の表面に、ケイ素とニオブを含む中間薄膜が形成され、その後の反応プロセス領域354におけるプラズマ曝露処理により、この中間薄膜が膜変換して超薄膜となる。そして、2つのスパッタリング処理とプラズマ曝露処理とを繰り返し行うことで、超薄膜の上に次の超薄膜が堆積し、最終的な薄膜2となるまでこのような処理が繰り返される。なお、本例のケイ素と酸素を含有する薄膜21は、特に限定されないが、0.1nm~5nm程度の膜厚とすることができる。
【0025】
図1に戻り、本例の基板被覆膜2は、ケイ素と酸素を含有する薄膜21の表面にフッ素含有化合物からなる薄膜22が形成されている。このフッ素含有化合物からなる薄膜2は、基板1の表面の撥水性、撥油性又は滑り性を改善し、手脂などの汚染物質の付着を抑制する機能や、付着した汚染物質を除去しやすくする機能などを司る。本例のフッ素含有化合物からなる薄膜2は、目的に応じて適宜の膜厚とすることができ、たとえば0.1nm~20nm程度の膜厚とすることができる。
【0026】
本例のフッ素含有化合物としては、特に限定はされないが、たとえばパーフルオロポリエーテル基を有するアルコキシシラン化合物などのフッ素基含有の有機化合物を例示することができる。パーフルオロポリエーテル基を有するアルコキシシラン化合物としては、例えば、R1-R2-(CH2)m-Si(OR3)3で表される化合物を挙げることができる。
【0027】
ここで、R1は、アルキル基における一つ以上の水素原子がフッ素原子に置換された、直鎖状または分岐状のフッ化アルキル基(炭素数は例えば1以上20以下)を表し、好ましくは、アルキル基の水素原子のすべてがフッ素原子に置換されたパーフルオロアルキル基を表す。R2は、パーフルオロポリエーテル(PFPE)基の繰り返し構造を少なくとも一つ含む構造を表し、好ましくは、PFPE基の繰り返し構造を二つ含む構造を表す。PFPE基の繰り返し構造としては、例えば、直鎖状PFPE基の繰り返し構造、および、分岐状PFPE基の繰り返し構造が挙げられる。直鎖状PFPE基の繰り返し構造としては、例えば、-(OCnF2n)p-で表される構造(nは、1以上20以下の整数を表し、pは、1以上50以下の整数を表す。以下同じ)が挙げられる。分岐状PFPE基の繰り返し構造としては、例えば、-(OC(CF3)2)p-で表される構造、および、-(OCF2CF(CF3)CF2)p-で表される構造が挙げられる。PFPE基の繰り返し構造としては、好ましくは、直鎖状PFPE基の繰り返し構造が挙げられ、より好ましくは、-(OCF2)p-および-(OC2F4)p-が挙げられる。R3は、炭素数1以上4以下アルキル基を表し、好ましくはメチル基を表す。mは、1以上の整数を表す。また、mは、好ましくは20以下、より好ましくは10以下、さらに好ましくは5以下の整数を表す。
【0028】
このようなパーフルオロポリエーテル基を有するアルコキシシラン化合物のうち、好ましくは、CF3-(OCF2)q-(OC2F4)r-O-(CH2)3-Si(OCH3)3で示される化合物が用いられる。ここで、qは、1以上50以下の整数を表し、rは、1以上50以下の整数を表す。パーフルオロポリエーテル基を有するアルコキシシラン化合物としては、市販品を用いてもよい。同市販品としては、例えば、オプツールUD509(上記CF3-(OCF2)q-(OC2F4)r-O-(CH2)3-Si(OCH3)3で表される化合物,ダイキン工業社製)が挙げられる。また、パーフルオロポリエーテル基を有するアルコキシシラン化合物は、単独で用いられてもよいし、二種類以上が併用されてもよい。なお、本例のフッ素含有化合物からなる薄膜22の形成方法は、特に限定されず、スプレー法、真空蒸着法、CVD法などで形成することができ、真空蒸着法で形成することがより好ましい。
【0029】
このように、基板1の表面にケイ素と酸素を含有する薄膜21を形成し、さらに薄膜21の表面にフッ素含有化合物からなる薄膜22を形成することで、フッ素含有化合物からなる薄膜22の基板1に対する密着性が高くなり、その結果、フッ素含有化合物からなる薄膜22が奏する撥水性、撥油性又は滑り性を長期間にわたって維持することができる。
【0030】
図2は、本発明に係る基板被覆膜の他の実施の形態を示す断面図であり、基板1の表面に基板被覆膜2が形成されている。基板1は、
図1に示す実施形態と同様、有機ガラス基板その他のプラスチック基板、無機ガラス基板その他の無機基板、ステンレスその他の金属基板など、特に限定することなく種々の材質の基板を用いることができる。
【0031】
本例の基板被覆膜2は、基板1の表面に形成された光学膜23と、この光学膜23の表面に形成されたケイ素と酸素を含有する薄膜21と、このケイ素と酸素を含有する薄膜21の表面に形成されたフッ素含有化合物からなる薄膜22と、を含んで構成されている。
図1に示す実施形態の基板被覆膜2との相違点は、基板1と薄膜21との間に光学膜23が形成されている点である。これ以外のケイ素と酸素を含有する薄膜21及びフッ素含有化合物からなる薄膜22の構成は、上述した
図1に示す実施形態と同じであるため、その説明をここに援用する。
【0032】
本例の光学膜23は、膜の干渉や吸収を利用して特定波長範囲を反射、透過又は吸収する薄膜を意味する。特に限定はされないが、バンドパスフィルタ、反射防止膜などの光学フィルタのほか、可視光の色味を調整した加飾膜などがある。たとえば、反射防止膜としての光学膜23は、酸化ケイ素からなる薄膜と、酸化ニオブや窒化ケイ素からなる薄膜とを複数積層することで、製造することができる。
【0033】
このように、基板1の表面に光学膜23を形成し、この光学膜23の表面にケイ素と酸素を含有する薄膜21を形成し、さらに薄膜21の表面にフッ素含有化合物からなる薄膜22を形成することで、フッ素含有化合物からなる薄膜22の光学膜23に対する密着性が高くなり、その結果、フッ素含有化合物からなる薄膜22が奏する撥水性、撥油性又は滑り性を長期間にわたって維持することができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明をさらに具体化した実施例を挙げ、本発明を説明する。ただし、以下に示す数値や構成の具体例は本発明を限定するものではない。
【0035】
《実施例1》
ガラス製の基板1(コーニング社製gorira3)の表面に、スパッタ装置(シンクロン社製RAS-2200,蒸着機能付き)を用いて表1の膜構成の反射防止膜(光学膜23)を、表2に示す成膜条件で成膜した。
【0036】
【0037】
【0038】
次いで、この反射防止膜(光学膜23)の表面に、同じくスパッタ装置(シンクロン社製RAS-2200,蒸着機能付き)を用いて表3に示す条件でケイ素と酸素を含有する薄膜21を0.25nmの膜厚で成膜した。次いで、その表面に、同じくスパッタ装置(シンクロン社製RAS-2200,蒸着機能付き)を用い、フッ素含有化合物(ダイキン社製オプツールUD509)を収容した抵抗ボートを加熱することで、蒸着によりフッ素含有化合物からなる薄膜22を約7nmの膜厚で成膜した。
【0039】
成膜後1時間以内に、ガラス製の基板1に形成された基板被覆膜2に対して摩擦試験を行い、密着性の評価項目としての接触角を測定した。摩擦試験では、摩擦試験機(シンクロン社製Three ream abrasion tester)を用い、1000kgの荷重を加えたスチールウール(日本スチールウール社ボンスター#0000)を、薄膜表面の1cm角に対して40mmのストロークで毎分60往復の速度で2000往復させた。接触角は、接触角計(協和界面科学社製DM-500)を用い、その摩擦した面の接触角を測定した。
【0040】
この摩擦試験と並行して、ケイ素と酸素を含有する薄膜21に含まれるケイ素とニオブと酸素の原子数を計測した。まず、X線光電子分光分析装置(アルバックファイ社製PHI5000Versa ProbeIII)を用い、ガラス製の基板1に形成された基板被覆膜2に対し、フッ素の原子数%が10%以下になるまで、アルゴンガスによるエッチング処理を数秒間行うことで薄膜21の上に形成された薄膜22をおおかた除去し、フッ素の原子数%が10%以下になったところで、ケイ素とニオブと酸素の原子数を計測した。表3に薄膜21を形成する際に、2つのスパッタ源(
図3のスパッタ装置3の33,34に相当)の電極へ供給した電力(kW)、スパッタ用アルゴンガスの流量、反応用酸素ガスの流量、成膜時間とともに、摩擦後の接触角と、ニオブとケイ素との原子数比(Nb/Si)及びニオブとケイ素の原子数の和に対する酸素の原子数比(O/(Nb+Si))を示す。
【0041】
《実施例2~5》
表3に示すように、2つのスパッタ源の電極へ供給した電力(kW)、反応用酸素ガスの流量、成膜時間を適宜変更することで、ニオブとケイ素との原子数比(Nb/Si)を変えた実施例2~5とし、実施例1と同様に摩擦後の接触角を計測した。
【0042】
《比較例1,2》
表3に示すように、2つのスパッタ源の電極へ供給した電力(kW)、反応用酸素ガスの流量、成膜時間を適宜変更することで、ニオブとケイ素との原子数比(Nb/Si)を0%として比較例1と、25.0%とした比較例2を作製し、実施例1と同様に摩擦後の接触角を計測した。
【0043】
【0044】
《考 察》
上記表3の結果のとおり、比較例1及び比較例2のように、ニオブとケイ素との原子数比(Nb/Si)が0%及び25%の場合、摩擦試験後の接触角が100°より小さくなった。接触角が小さいということは、フッ素含有化合物からなる薄膜22が本来的に有する撥水性、撥油性又は滑り性が低下したという意味であり、当該薄膜22が摩擦試験で剥がれたことを意味する。したがって、ニオブとケイ素との原子数比(Nb/Si)が0%及び25%の場合、フッ素含有化合物からなる薄膜22の反射防止膜(光学膜23)に対する密着性は低い。これに対し、実施例1~5のように、ニオブとケイ素との原子数比(Nb/Si)が0%~25%(0%及び25%の両端は含まず)の場合、摩擦試験後の接触角が100°より大きくなったことから、フッ素含有化合物からなる薄膜22の反射防止膜(光学膜23)に対する密着性が高いことが確認された。
【0045】
なお、上述した実施形態及び実施例では、ケイ素と酸素とを含有する薄膜にニオブを加えた例を挙げたが、上記ニオブに代えて、バナジウム(V)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、イットリウム(Y)、スカンジウム(Sc)、スズ(Sn)、ビスマス(Bi)、ニッケル(Ni)(これらをM群とする)のいずれか一つの元素、又はM群の中から二以上の元素を加えることもできる。この場合の好適な原子数比M/Siの値の範囲は、上述した実施例及び比較例を参考に実験すれば容易に求めることができる。
【符号の説明】
【0046】
1…基板
2…基板被覆膜
21…ケイ素と酸素を含有する薄膜
22…フッ素含有化合物からなる薄膜
23…光学膜
3…スパッタ装置
31…真空チャンバ
32…基板ホルダ
33,34…スパッタ源
331,341…交流電源
332,342…成膜プロセス領域
333,343…仕切壁
35…プラズマ源
351…ケース体
352…誘電体モジュール
353…高周波電源
354…反応プロセス領域
355…仕切壁
356…反応処理用ガス供給系
【要約】
短時間でフッ素含有化合物の薄膜の密着性を高めることができるケイ素と酸素を含有する薄膜を提供する。ケイ素、酸素及びニオブを含有し、X線光電子分光法を用いた原子数測定による前記ニオブと前記ケイ素との原子数比(Nb/Si)が、0%~25%(両端を含まず)であるケイ素と酸素を含有する薄膜。