(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】フェノール臭抑制用鋳型造型用組成物
(51)【国際特許分類】
B22C 1/02 20060101AFI20230904BHJP
B22C 1/22 20060101ALI20230904BHJP
【FI】
B22C1/02 B
B22C1/22 B
(21)【出願番号】P 2019191980
(22)【出願日】2019-10-21
【審査請求日】2022-09-07
(31)【優先権主張番号】P 2018220459
(32)【優先日】2018-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鍵谷 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】中畑 優
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-225736(JP,A)
【文献】特開2003-062638(JP,A)
【文献】特開昭60-145239(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 1/02,1/16,1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火性粒子、フェノール樹脂を含有する鋳型造型用粘結剤組成物、及び鋳型造型用硬化剤組成物を混合して鋳型用組成物を得る混合工程、前記鋳型用組成物を所望の形状に成形する成形工程、当該鋳型用組成物を硬化させて鋳型を得る鋳型製造工程、及び鋳型に溶湯を注ぐ鋳造工程を有する鋳物を製造する方法であって、
前記フェノール樹脂100質量部に対して
、水酸化マグネシウ
ムを8質量部以上120質量部以下添加する、添加工程を有する、鋳物の製造方法。
【請求項2】
前記添加工程が、前記混合工程においてなされる、請求項
1に記載の鋳物の製造方法。
【請求項3】
水酸化マグネシウム
を用いて、フェノール樹脂を含有する鋳型を使用して鋳物を製造する際に発生するフェノール臭を抑制する、フェノール臭抑制方法。
【請求項4】
水酸化マグネシウムの添加量が、前記フェノール樹脂100質量部に対して1質量部以上、300質量部以下である、請求項
3に記載のフェノール臭抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノール臭抑制用鋳型造型用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂は高い耐熱性を持つことから鋳型用の粘結剤として広く用いられており、自硬性では、フェノール樹脂にアルカリを添加し水溶液としたエステル硬化型のフェノール樹脂や、イソシアネートで硬化させるフェノールウレタン法に用いられるフェノール樹脂、加熱硬化型ではシェルモールド法に用いられるフェノール樹脂の一種である固形のノボラックやレゾールが用いられている。また、ガス硬化型では、炭酸ガスを用いて硬化させる水溶性フェノール樹脂やアミンガスを用いて硬化させるコールドボックス用のフェノール樹脂がある。
【0003】
これらのフェノール樹脂の中でも、水溶性フェノール樹脂を粘結剤とし、エステル化合物を硬化剤として用いた鋳型造型法は、高い耐熱性を有し、粘結剤中に鋳物品質を低下させるような硫黄、リン等の元素を含まないため、品質の高い鋳物を製造することができる(例えば、特許文献1)。
【0004】
しかし、水溶性フェノール樹脂を鋳型の粘結剤として用いると、鋳造時に比較的強い臭気を伴う熱分解ガスが発生し、作業環境を悪化させる場合がある。その為の一手段として金属酸化物を添加することが知られている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平3-291124号公報
【文献】特開2003-62638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、金属酸化物をフェノール樹脂中に分散性良く配合することは難しく、鋳造時に比較的強い臭気を伴う熱分解ガスを簡便に抑える点に関しては不充分である。
【0007】
本発明は、フェノール樹脂を含有する鋳型を用いた鋳造時のフェノール臭を簡便に抑制することができるフェノール臭抑制用鋳型造型用組成物、鋳物の製造方法、フェノール臭抑制方法、及びフェノール樹脂含有鋳型用消臭剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のフェノール臭抑制用鋳型造型用組成物は、耐火性粒子と、フェノール樹脂と、酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムから選ばれる少なくとも1つのマグネシウム化合物と、を含有する。
【0009】
本発明の鋳物の製造方法は、耐火性粒子、フェノール樹脂を含有する鋳型造型用粘結剤組成物、及び鋳型造型用硬化剤組成物を混合して鋳型用組成物を得る混合工程、前記鋳型用組成物を所望の形状に成形する成形工程、当該鋳型用組成物を硬化させて鋳型を得る鋳型製造工程、及び鋳型に溶湯を注ぐ鋳造工程を有する鋳物を製造する方法であって、
前記フェノール樹脂100質量部に対して、酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムから選ばれる少なくとも1つのマグネシウム化合物を8質量部以上120質量部以下添加する、添加工程を有する。
【0010】
本発明のフェノール臭抑制方法は、酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムから選ばれる少なくとも1つのマグネシウム化合物を用いて、フェノール樹脂を含有する鋳型を用いて鋳物を製造する際に発生するフェノール臭を抑制する。
【0011】
本発明のフェノール樹脂含有鋳型用消臭剤は、酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムから選ばれる少なくとも1つのマグネシウム化合物を含有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、フェノール樹脂を含有する鋳型を用いた鋳造時のフェノール臭を簡便に抑制することができるフェノール臭抑制用鋳型造型用組成物、鋳物の製造方法、フェノール臭抑制方法、及びフェノール樹脂含有鋳型用消臭剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<フェノール臭抑制用鋳型造型用組成物>
本実施形態のフェノール臭抑制用鋳型造型用組成物(以下、鋳型造型用組成物ともいう)は、耐火性粒子と、フェノール樹脂と、酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムから選ばれる少なくとも1つのマグネシウム化合物と、を含有する。本実施形態のフェノール臭抑制用鋳型造型用組成物によれば、フェノール樹脂を含有する鋳型を用いた鋳造時のフェノール臭を簡便に抑制することができる。
【0014】
〔耐火性粒子〕
前記耐火性粒子としては、珪砂、クロマイト砂、ジルコン砂、オリビン砂、アルミナ砂、ムライト砂、合成ムライト砂等の従来公知のものを使用でき、また、使用済みの耐火性粒子を回収して再生処理した再生砂も使用できるが、経済性の観点、及び当該鋳型の製造方法の効果発現の観点から再生砂が好ましい。なお、耐火性粒子は、単独で使用又は2種以上を併用することができる。
【0015】
〔フェノール樹脂〕
フェノール樹脂としては、レゾール樹脂、ノボラック樹脂などそれぞれの硬化システムに応じた従来公知のフェノール樹脂が用いられる。レゾール樹脂は、アルカリ条件下でフェノール化合物とアルデヒド化合物とを重縮合させることによって得られ、ノボラック樹脂は、酸条件下でフェノール化合物とアルデヒド化合物とを重縮合させることによって得られる。前記フェノール化合物としては、フェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、クレゾール、3,5-キシレノール、レゾルシン、カテコール、ノニルフェノール、p-tert-ブチルフェノール、イソプロペニルフェノール、フェニルフェノール、その他の置換フェノールを含めたフェノール類や、カシューナット殻液のような各種のフェノール化合物の混合物等を1種又は2種以上混合して使用することができる。前記アルデヒド化合物としては、ホルムアルデヒド、フルフラール、グリオキザール等を1種又は2種以上混合して使用することができる。これらの化合物は必要に応じて水溶液として用いることができる。また、これらに、尿素、メラミン、シクロヘキサノン等のアルデヒド化合物と縮合が可能なモノマーや、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、ブチルアルコール等の1価の脂肪族アルコールや、水溶性高分子のポリアクリル酸塩や、セルロース誘導体高分子、ポリビニルアルコール、リグニン誘導体などを混合しても差し支えない。
【0016】
レゾール樹脂の合成に用いられるアルカリ触媒としては、LiOH、NaOH、KOHなどのアルカリ金属の水酸化物が挙げられるが、特にNaOH、KOHが好ましい。また、これらのアルカリ触媒を混合して用いてもよい。
【0017】
ノボラック樹脂の合成に用いられる酸触媒としては、蓚酸、マレイン酸等の有機酸や塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸が挙げられる。
【0018】
前記鋳型造型用組成物中の前記フェノール樹脂の含有量は、鋳型強度を向上させる観点から、前記耐火性粒子100質量部に対し0.2質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、0.8質量部以上が更に好ましい。前記鋳型造型用組成物中の前記フェノール樹脂の含有量は、前記耐火性粒子100質量部に対し、作業性を向上させる観点及び経済性の観点から、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましく、3質量部以下が更に好ましい。また、前記鋳型造型用組成物中の前記フェノール樹脂の含有量は、鋳型強度を向上させる観点、作業性を向上させる観点、及び経済性の観点から、前記耐火性粒子100質量部に対し0.2~10質量部が好ましく、0.5~5質量部がより好ましく、0.8~3質量部が更に好ましい。
【0019】
〔マグネシウム化合物〕
前記マグネシウム化合物は、酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムから選ばれる少なくとも1つである。
【0020】
また、前記鋳型造型用組成物中の前記マグネシウム化合物の含有量は、鋳造時のフェノール臭を簡便に抑制する観点から、前記フェノール樹脂100質量部に対して1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、8質量部以上が更に好ましく、35質量部以上がより更に好ましい。前記鋳型造型用組成物中の前記マグネシウム化合物の含有量は、鋳型強度低下抑制の観点及び経済性の観点から、前記フェノール樹脂100質量部に対して300質量部以下が好ましく、200質量部以下がより好ましく、120質量部以下が更に好ましく、60質量部以下がより更に好ましく、20質量部以下がより更に好ましい。また、前記鋳型造型用組成物中の前記マグネシウム化合物の含有量は、鋳造時のフェノール臭を簡便に抑制する観点、鋳型強度低下抑制の観点、及び経済性の観点から、前記フェノール樹脂100質量部に対して、1~300質量部が好ましく、3~200質量部がより好ましく、3~120質量部が更に好ましく、8~120質量部がより更に好ましく、35~120質量部がより更に好ましい。また、鋳型強度低下抑制の観点、及び経済性の観点をより重視する場合、前記鋳型造型用組成物中の前記マグネシウム化合物の含有量は、前記フェノール樹脂100質量部に対して、8~60質量部が好ましく、8~20質量部がより好ましい。
【0021】
前記マグネシウム化合物は、その形態は問わない。前記マグネシウム化合物は、粉体、水性媒体など液分を用いたスラリーや溶液として用いることができる。また、前記マグネシウム化合物で前記耐火性粒子を被覆し、コーテッドサンドにして用いてもよい。
【0022】
前記マグネシウム化合物の平均粒子径は、鋳造時のフェノール臭を簡便に抑制する観点及び鋳物表面の粗さ品質の観点からは、粒径が小さいほど効果を発揮し、その粒径は1000μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、50μm以下が更に好ましく、20μm以下がより更に好ましい。前記マグネシウム化合物の平均粒子径は、飛散を抑制し鋳型に安定的に含有させる観点から、0.01μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましく、0.5μm以上が更に好ましく、1.0μm以上がより更に好ましい。また、前記マグネシウム化合物の平均粒子径は、鋳造時のフェノール臭を簡便に抑制する観点、鋳物表面の粗さ品質の観点、及び飛散を抑制し鋳型に安定的に含有させる観点から、0.01~1000μmが好ましく、0.1~100μmがより好ましく、0.5~50μmが更に好ましく、1.0~20μmがより更に好ましい。なお、本明細書において、平均粒子径は実施例に記載の方法により測定する。
【0023】
前記マグネシウム化合物の比表面積は、飛散を抑制し鋳型に安定的に含有させる観点からは、100m3/g以下が好ましく、50m3/g以下がより好ましく、30m3/g以下が更に好ましい。前記マグネシウム化合物の比表面積は、鋳造時のフェノール臭を簡便に抑制する観点及び鋳物表面の粗さ品質の観点から、0.5m3/g以上が好ましく、1m3/g以上がより好ましく、2m3/g以上が更に好ましい。また、前記マグネシウム成分の比表面積は、飛散を抑制し鋳型に安定的に含有させる観点、鋳造時のフェノール臭を簡便に抑制する観点及び鋳物表面の粗さ品質の観点から、0.5~100m3/gが好ましく、1~50m3/gがより好ましく、2~30m3/gが更に好ましい。なお、本明細書において、マグネシウム化合物の比表面積は実施例に記載の方法により測定する。
【0024】
[他のマグネシウム成分]
前記鋳型造型用組成物は酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウム以外のマグネシウム元素を含む成分を含有していてもよい。酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウム以外のマグネシウム元素を含む成分としては、鋳造時の臭気を簡便に抑制する観点から、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、及びリン酸水素マグネシウムからなる群より選ばれる1種以上が例示できる。
【0025】
〔その他の成分〕
前記鋳型造型用組成物は、本実施形態の効果を阻害しない程度に水、シランカップリング剤、尿素、界面活性剤、アルコール類等の添加剤が含まれていてもよい。
【0026】
<鋳物の製造方法>
本実施形態の鋳物の製造方法は、前記耐火性粒子、前記フェノール樹脂を含有する鋳型造型用粘結剤組成物(以下、粘結剤組成物ともいう)、及び鋳型造型用硬化剤組成物(以下、硬化剤組成物ともいう)を混合して鋳型用組成物を得る混合工程、前記鋳型用組成物を所望の形状に成形する成形工程、当該鋳型用組成物を硬化させて鋳型を得る鋳型製造工程、及び鋳型に溶湯を注ぐ鋳造工程を有する鋳物を製造する方法であって、前記フェノール樹脂100質量部に対して、酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムから選ばれる少なくとも1つのマグネシウム化合物を8質量部以上120質量部以下添加する添加工程を有する。本実施形態の鋳物の製造方法によれば、フェノール樹脂を含有する鋳型を用いた鋳造時のフェノール臭を簡便に抑制することができる鋳物の製造方法を提供することができる。
【0027】
本実施形態の鋳物の製造方法は、前記添加工程以外は従来の鋳物の製造プロセスをそのまま利用することができる。
【0028】
〔混合工程〕
[鋳型造型用粘結剤組成物]
前記粘結剤組成物は前記フェノール樹脂を含有する。前記粘結剤組成物は前記フェノール樹脂以外の、鋳型造型用に用いられる樹脂を含有してもよい。また、前記粘結剤組成物は、本実施形態の効果を阻害しない程度に水、シランカップリング剤、尿素、界面活性剤、アルコール類等の添加剤を含有していてもよい。
【0029】
[鋳型造型用硬化剤組成物]
前記硬化剤組成物は、前記粘結剤組成物を硬化させる硬化剤を含有する。前記硬化剤は前記粘結剤組成物を硬化させるものであれば特に限定なく用いることができる。
【0030】
例えば、前記粘結剤組成物に含有される前記フェノール樹脂がレゾール樹脂の場合、前記硬化剤として酸やエステル化合物を用いることができる。当該エステル化合物としては、ラクトン類或いは炭素数1~10の一価又は多価アルコールと炭素数1~10の有機カルボン酸より導かれる有機エステル化合物の単独もしくは混合物が挙げられる。前記エステル化合物の具体例としては、特開2018-118311に記載されているものが挙げられる。なかでも、レゾール樹脂の硬化時間をより適切な範囲に調整できることから、2-エチルコハク酸ジメチル、2-メチルグルタル酸ジメチル、2-メチルアジピン酸ジメチル、及びトリアセチンが好ましい。
【0031】
また、前記フェノール樹脂がレゾール樹脂の場合で前記硬化剤として酸を用いる場合、当該酸としては、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸やフェノールスルホン酸等の芳香族有機酸が例示できる。これらの中でも、鋳型強度の観点から、トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸が好ましい。芳香族有機スルホン酸は1種の物質を単独で使用してもよいし、2種以上の物質を混合して用いてもよい。さらに、芳香族有機スルホン酸の各種異性体および製造時の不純物を含有していてもよい。
【0032】
前記粘結剤組成物に含有される前記フェノール樹脂がノボラック樹脂の場合、熱硬化が可能であるが、この場合は硬化剤としてヘキサメチレンテトラミンを用いるのが好ましい。
【0033】
前記耐火性粒子と前記粘結剤組成物と前記硬化剤組成物中の硬化剤との含有量の比率は適宜設定できる。例えば、前記粘結剤組成物がレゾール樹脂を含有し、硬化剤としてエステル化合物を用いる場合、前記粘結剤組成物の含有量は、鋳型強度を向上させる観点から、前記耐火性粒子10000質量部に対して50質量部以上が好ましく、1000質量部以下が好ましい。また、同様の場合、前記硬化剤組成物の含有量は、鋳型の最終強度を向上させる観点から、前記耐火性粒子10000質量部に対して、10質量部以上が好ましく、300質量部以下が好ましい。前記耐火性粒子と前記粘結剤組成物と前記硬化剤組成物中の硬化剤との含有量の比率が上記の範囲内になるように、当該混合工程で各原料を添加するのが好ましい。
【0034】
前記混合工程において、各原料を混合する方法としては、公知一般の手法を用いることが出来、例えば、バッチミキサーにより各原料を添加して混練する方法や、連続ミキサーに各原料を供給して混練する方法が挙げられる。
【0035】
〔成形工程〕
前記成形工程の一例としては、前記鋳型用組成物を所望の型枠に詰める充填工程、前記鋳型用組成物を積層させる工程、前記鋳型用組成物を押し固めた後、硬化前に押し固めた前記鋳型用組成物から一部を掻き取って成形工程を挙げることができる。
【0036】
〔鋳型製造工程〕
前記鋳型製造工程で前記鋳型用組成物を硬化させる方法としては、公知一般の手法を用いることが出来る。
【0037】
〔鋳造工程〕
前記鋳造工程において、鋳型に溶湯を注いで鋳造する方法としては公知一般の手法を用いることが出来る。例えば、キューポラ、低周波炉や高周波炉の様な電気炉、またアーク炉などで溶解させた金属を鋳型に流し込む方法が挙げられる。
【0038】
〔添加工程〕
前記添加工程は、前記マグネシウム化合物を添加する工程である。当該添加工程において前記マグネシウム化合物を添加する方法は特に限定されない。当該添加工程において前記マグネシウム化合物を添加する方法としては、前記粘結剤組成物に含有させて添加する方法、前記硬化剤組成物に含有させて添加する方法、前記耐火性粒子を前記マグネシウム化合物で被覆してコーテッドサンドとし、当該コーテッドサンドを添加する方法、及び前記マグネシウム化合物を別添する方法等が例示できる。これらの方法は単独で、又は組み合わせて用いてもよい。
【0039】
前記マグネシウム化合物を別添する場合、すなわち、前記マグネシウム化合物を前記粘結剤組成物や前記硬化剤組成物とは別に添加する場合、前記マグネシウム化合物は、前記混合工程で一括添加してもよいし、分割添加してもよいし、連続添加してもよい。また、前記マグネシウム化合物を前記混合工程にて別添する場合、粉体の状態で添加してもよいし、液体に分散させてスラリーの状態で添加してもよいが、鋳造時のフェノール臭低減の観点から、スラリーの状態で添加するのが好ましい。
【0040】
前記スラリー状態で添加する場合、当該スラリー中の前記マグネシウム化合物の濃度は、取り扱いの観点から、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、また、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。
【0041】
また、前記マグネシウム化合物を別添する方法として、鋳型硬化後に前記マグネシウム化合物を鋳型に塗布・含浸等の手段を用いて鋳型に含ませることができる。例えば、一旦硬化した鋳型に対して、液体に分散させたスラリーの状態にして塗布、含浸等の処理により添加したり、粉体の状態で添加することもできる。前記スラリー状態で添加する場合、スラリー中のマグネシウム化合物の濃度は、上記に記載した濃度が好ましい。
【0042】
前記マグネシウム化合物を添加する方法としては、鋳造時のフェノール臭低減の観点から、前記混合工程において添加すること、すなわち、前記添加工程が前記混合工程においてなされるのが好ましい。また、前記混合工程において前記マグネシウム化合物を添加する場合、前記粘結剤組成物及び前記硬化剤組成物の安定性から、前記マグネシウム化合物を前記粘結剤組成物や前記硬化剤組成物とは別に添加する方法が好ましい。
【0043】
前記添加工程において、前記マグネシウム化合物の添加量は、鋳造時のフェノール臭を簡便に抑制する観点から、前記フェノール樹脂100質量部に対して前記フェノール樹脂100質量部に対して、8質量部以上120質量部以下であり、鋳型強度低下抑制の観点及び経済性の観点をより重視する場合は、8~60質量部が好ましく、8~20質量部がより好ましい。
【0044】
<フェノール臭抑制方法>
本実施形態のフェノール臭抑制方法は、前記マグネシウム化合物を用いて、前記フェノール樹脂を含有する鋳型を用いて鋳物を製造する際に発生するフェノール臭を抑制する。本実施形態のフェノール臭抑制方法によれば、フェノール樹脂を含有する鋳型を用いた鋳造時のフェノール臭を簡便に抑制することができる。
【0045】
前記フェノール臭抑制方法の例としては、前記鋳物の製造方法に係る前記添加工程で前記マグネシウム化合物を添加する方法や、鋳型硬化後に前記マグネシウム化合物を塗布・含浸等の手段を用いて鋳型に含ませる方法が挙げられる。
【0046】
前記鋳物の製造方法に係る前記添加工程で前記マグネシウム化合物を添加する方法としては、前記粘結剤組成物に含有させて添加する方法、前記硬化剤組成物に含有させて添加する方法、前記耐火性粒子を前記マグネシウム化合物で被覆してコーテッドサンドとし、当該コーテッドサンドを添加する方法、及び前記マグネシウム化合物を別添する方法等が例示できる。これらの方法は単独で、又は組み合わせて用いてもよい。
【0047】
前記マグネシウム化合物を別添する場合、すなわち、前記マグネシウム化合物を前記粘結剤組成物や前記硬化剤組成物とは別に添加する場合、前記マグネシウム化合物は、前記混合工程で一括添加してもよいし、分割添加してもよいし、連続添加してもよい。また、前記マグネシウム化合物を前記混合工程にて別添する場合、粉体の状態で添加してもよいし、液体に分散させてスラリーの状態で添加してもよいが、鋳造時のフェノール臭低減の観点から、スラリーの状態で添加するのが好ましい。
【0048】
鋳型硬化後に前記マグネシウム化合物を塗布・含浸等の手段を用いて鋳型に含ませる方法は、具体的には、一旦硬化した鋳型に対して、液体に分散させたスラリーの状態にして塗布、含浸等の処理により添加したり、粉体の状態で添加することもできる。
【0049】
前記フェノール臭抑制方法において、前記マグネシウム化合物の添加量は、鋳造時のフェノール臭を簡便に抑制する観点から、前記フェノール樹脂100質量部に対して1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、8質量部以上が更に好ましく、35質量部以上がより更に好ましい。前記フェノール臭抑制方法において、前記マグネシウム化合物の添加量は、鋳型強度低下抑制の観点及び経済性の観点から、前記フェノール樹脂100質量部に対して300質量部以下が好ましく、200質量部以下がより好ましく、120質量部以下が更に好ましく、60質量部以下がより更に好ましく、20質量部以下がより更に好ましい。また、前記フェノール臭抑制方法において、前記マグネシウム化合物の添加量は、鋳造時のフェノール臭を簡便に抑制する観点、鋳型強度低下抑制の観点、及び経済性の観点から、前記フェノール樹脂100質量部に対して、1~300質量部が好ましく、3~200質量部がより好ましく、3~120質量部が更に好ましく、8~120質量部がより更に好ましく、35~120質量部がより更に好ましい。また、鋳型強度低下抑制の観点、及び経済性の観点をより重視する場合、前記フェノール臭抑制方法において、前記マグネシウム化合物の添加量は、前記フェノール樹脂100質量部に対して、8~60質量部が好ましく、8~20質量部がより好ましい。
【0050】
<フェノール樹脂含有鋳型用消臭剤>
本実施形態のフェノール樹脂含有鋳型用消臭剤(以下、鋳型用消臭剤ともいう)は、前記マグネシウム化合物を含有する。本実施形態のフェノール樹脂含有鋳型用消臭剤によれば、フェノール樹脂を含有する鋳型を用いた鋳造時のフェノール臭を簡便に抑制することができる。
【0051】
前記鋳型用消臭剤は、前記マグネシウム化合物を含有していれば形態は問わない、前記鋳型用消臭剤は、粉体、水性媒体など液分を含有するスラリーや溶液であってもよく、前記耐火性粒子を前記マグネシウム化合物で被覆したコーテッドサンドであってもよい。
【0052】
前記鋳型造型用組成物、鋳物の製造方法、及びフェノール臭抑制方法において用いられる前記マグネシウム化合物は当該鋳型用消臭剤の形態で用いることができる。
【0053】
なお、本発明は、フェノール樹脂の鋳造時の熱分解したフェノール臭を低減できるため、フェノール樹脂として水溶性フェノール樹脂を用い、エステル化合物で硬化させる鋳型造型法やシェルモールド法、コールドボックス法などでフェノール樹脂を鋳型用粘結剤に使用している鋳型造型法においても用いる事ができる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を具体的に示す実施例等について説明する。
<評価方法>
〔平均粒子径〕
平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製LA-920)を用いて測定された体積累積50%の平均粒子径である。分析条件は下記の通りである。
・測定方法:フロー法
・分散媒:メタノール
・分散方法:攪拌、内蔵超音波3分
・試料濃度:2mg/100cc
【0055】
〔比表面積〕
比表面積は、株式会社島津製作所製フローソーブIII2310を用いてガス吸着法によって下記条件で測定した。
・使用ガス:窒素
・サンプル量:1g
・測定温度:25℃
【0056】
〔臭気評価1(官能評価)〕
φ45×36の磁性坩堝に下記方法により調製した鋳型造型用組成物を50.0g入れ磁性蓋で蓋をし、鋳型造型用組成物が入った坩堝を500℃に加熱した光洋サーモシステム株式会社製の小型電気炉KBF794N1の中に入れ、表示温度が500℃到達後10分間加熱した。電気炉から坩堝を取出し、2分以内に坩堝と蓋の隙間から出ている臭気を嗅ぐことにより蓋開放前の臭気の評価をした(官能評価1段階)。その後、坩堝取出し2分後に蓋を開放し、坩堝取出し後5分後までに坩堝内の鋳型造型用組成物から漂う臭いを嗅いで評価を行った(官能評価2段階)。その後、取出し5分後に坩堝を反転させて鋳型造型用組成物を取り出し後に鋳型造型用組成物から漂う臭いの評価を行った(官能評価3段階)。官能評価1~3それぞれの段階についてパネラー5名によって臭気の強さを感覚で相対比較して下記基準で5段階で評価し、当該評価の平均値を出して臭気評価1の評価結果とした。評価基準を以下に示す。
・官能評価基準1:極端に強く感じる
・官能評価基準2:非常に強く感じる
・官能評価基準3:強く感じる
・官能評価基準4:やや強く感じる
・官能評価基準5:かすかに感じる
【0057】
〔臭気評価2〕
φ45×36の磁性坩堝に下記方法により調製した鋳型造型用組成物を50.0g入れ磁性蓋で蓋をし、該坩堝を500℃に加熱した小型電気炉KBF794N1(光洋サーモシステム株式会社製)の中に入れ、表示温度が500℃到達後10分間加熱した。その後、電気炉から坩堝を取出し、蓋を開けた直上で検知管No.60(株式会社ガステック製)にてフェノール成分を測定し、臭気評価2とした。フェノール成分の発生濃度から、測定基準通り吸引回数は2回とした。
【0058】
<フェノール樹脂の製造>
〔水溶性フェノール樹脂〕
カオーステップSH-8000(花王クエーカー株式会社製)を用いた。
【0059】
〔ノボラック樹脂〕
SP610(旭有機材株式会社製)を用いた。
【0060】
<鋳型造型用組成物の調製>
〔実施例1~10、16~20〕
耐火性粒子「フリーマントル」(山川産業株式会社製)100質量部に対し、硬化剤(トリアセチン)0.2質量部を添加・混合した後、水溶性フェノール樹脂を耐火性粒子100質量部に対して1質量部、及び表1のマグネシウム化合物を水溶性フェノール樹脂100質量部に対して表1に記載の量を添加・混合して鋳型造型用組成物を調製した。得られた鋳型造型用組成物に対して、臭気評価1を行った。結果を表1に示す。
【0061】
〔実施例11~14〕
表1に記載の量のマグネシウム化合物を35%水溶液スラリーにして添加した以外は実施例1と同様にして鋳型造型用組成物を調製し、臭気評価1を行った。結果を表1に示す。
【0062】
〔実施例15〕
表1に記載の量のマグネシウム化合物を35%水溶液スラリーにして、予め水溶性フェノール樹脂に分散させて粘結剤組成物を調整し、この粘結剤組成物を添加した以外は実施例1と同様にして鋳型造型用組成物を調製し、臭気評価1を行った。結果を表1に示す。
【0063】
〔比較例1〕
水酸化マグネシウムを添加しない以外は実施例1と同様にして鋳型造型用組成物を調製し、臭気評価1を行った。結果を表1に示す。
【0064】
〔比較例2、3〕
水酸化マグネシウムを表1に示す化合物に変更した以外は実施例1と同様にして鋳型造型用組成物を調製し、臭気評価1を行った。結果を表1に示す。
【0065】
〔比較例4、5〕
水酸化マグネシウムを表1に示す化合物に変更した以外は実施例3と同様にして鋳型造型用組成物を調製し、臭気評価1を行った。結果を表1に示す。
【0066】
【0067】
〔実施例21、22〕
150℃に加熱した耐火性粒子「三河珪砂R6号」(三河珪石株式会社製)100質量部に対し、ノボラック樹脂を2質量部添加して混練した。次に耐火性粒子の温度が120℃にてノボラック樹脂100重量部に対し、18%ヘキサテトラミン水溶液を83.3%添加して混練した。更に耐火性粒子100重量部に対し、ステアリン酸カルシウムを0.1質量部添加し混練してシェル砂を得た。シェル砂と表2に記載の量の水酸化マグネシウムを混合し、鋳型造型用組成物(コーテッドサンド)を調製した。得られた鋳型造型用組成物に対して、臭気評価2を行った。結果を表2に示す。
【0068】
〔実施例23〕
表2に記載の量の水酸化マグネシウムを35%水溶液スラリーにして混合した以外は実施例21と同様にして鋳型造型用組成物を調製し、臭気評価2を行った。結果を表2に示す。
【0069】
〔比較例6〕
水酸化マグネシウムを添加しないこと以外は実施例21と同様にして鋳型造型用組成物を調製し、臭気評価2を行った。結果を表2に示す。
【0070】