(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】変位測定装置
(51)【国際特許分類】
B60N 2/90 20180101AFI20230904BHJP
G01S 7/03 20060101ALI20230904BHJP
【FI】
B60N2/90
G01S7/03 200
(21)【出願番号】P 2020050334
(22)【出願日】2020-03-20
【審査請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000101732
【氏名又は名称】アルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103171
【氏名又は名称】雨貝 正彦
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【氏名又は名称】橘 和之
(74)【代理人】
【識別番号】100098497
【氏名又は名称】片寄 恭三
(74)【代理人】
【識別番号】100099748
【氏名又は名称】佐藤 克志
(72)【発明者】
【氏名】坂本 秀樹
【審査官】大橋 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-082147(JP,A)
【文献】特開平8-127264(JP,A)
【文献】特開2003-194922(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/90
G01S 7/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象物に配置された複数の反射部材と、
前記複数の反射部材のそれぞれに向けて、人体を通過可能な所定周波数の電波を送信する送信部と、
前記複数の反射部材のそれぞれによって反射されて戻ってくる前記所定周波数の電波を受信する受信部と、
前記送信部から送信された電波が前記受信部に戻ってくるまでの時間情報に基づいて前記複数の反射部材までの距離情報を算出する距離算出部と、
前記距離情報に基づいて、前記複数の反射部材のそれぞれの変位量を算出する変位算出部と、
を備えることを特徴とする変位測定装置。
【請求項2】
前記複数の反射部材は、等間隔に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の変位測定装置。
【請求項3】
前記複数の反射部材の全体が、シート状の柔軟性を有する材料で覆われていることを特徴とする請求項1または2に記載の変位測定装置。
【請求項4】
前記複数の反射部材のそれぞれの間を埋める前記材料のポアソン比は所定値以上であることを特徴とする請求項3に記載の変位測定装置。
【請求項5】
前記所定周波数の電波はミリ波であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の変位測定装置。
【請求項6】
前記所定周波数の電波は、27GHz帯あるいは60GHz帯の電波であることを特徴とする請求項5に記載の変位測定装置。
【請求項7】
前記反射部材は、導電率が所定値以上の導電性材料であることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の変位測定装置。
【請求項8】
前記反射部材は、透磁率が所定値以上の磁性体材料であることを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の変位測定装置。
【請求項9】
前記検出対象物は、車両の座席シートであり、
前記送信部と前記受信部は、車両の天井に設けられていることを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の変位測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数箇所の変位を測定する変位測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、シート全面を覆うように感圧セルや圧力センサを配置し、人が座ったときの加圧状態(荷重分布や圧力分布)を測定するようにしたシート装置(例えば、特許文献1参照)や乗物用シート(例えば、特許文献2参照)が知られている。これらのシート装置や乗物用シートでは、二次元的な広がりを有する感圧セルや圧力センサを用いることにより、着座面に作用する荷重等を広範囲にわたって検出することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-102830号公報
【文献】特開2018-165135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した特許文献1、2に開示されたシート装置や乗物用シートに用いられている感圧セルや圧力センサの出力は、ケーブルを介して取り出されるため、それらの出力を処理する装置との間の煩雑な配線の引き回しが必要になるという問題があった。特に、感圧セルや圧力センサの個数が多い場合には、それぞれの検出信号を取り出すための配線が多くなるため、感圧セルや圧力センサのそれぞれとケーブルとの間の配線も必要になるため、配線の複雑さが増すことになる。
【0005】
本発明は、このような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、荷重に応じた複数箇所の加圧状態(変位)を測定するための煩雑な配線の引き回しが不要な変位測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明の変位測定装置は、検出対象物に配置された複数の反射部材と、複数の反射部材のそれぞれに向けて、人体を通過可能な所定周波数の電波を送信する送信部と、複数の反射部材のそれぞれによって反射されて戻ってくる所定周波数の電波を受信する受信部と、送信部から送信された電波が受信部に戻ってくるまでの時間情報に基づいて複数の反射部材までの距離情報を算出する距離算出部と、距離情報に基づいて、複数の反射部材のそれぞれの変位量を算出する変位算出部とを備えている。
【0007】
検出対象物に配置された複数の反射部材との間で電波の送受信を行うことにより、各反射部材までの距離を検出して変位を算出することにより、検出対象物に作用する荷重に応じた複数箇所の変位(加圧状態)を測定することができ、しかも、検出対象物側からケーブルを介して信号を取り出す必要がないため、煩雑な配線の引き回しが不要となる。
【0008】
また、上述した複数の反射部材は、等間隔に配置されていることが望ましい。これにより、測定箇所の間隔が不均一になることによる測定品質の低下を防止することができる。
【0009】
また、上述した複数の反射部材の全体が、シート状の柔軟性を有する材料で覆われていることが望ましい。また、上述した複数の反射部材のそれぞれの間を埋める材料のポアソン比は所定値以上であることが望ましい。これにより、各反射部材の変位が他の反射部材の変位に影響を与えることを抑制することができ、各反射部材の独立した変位を実現することによる変位測定の精度向上が可能となる。
【0010】
また、上述した所定周波数の電波はミリ波であることが望ましい。また、上述した所定周波数の電波は、27GHz帯あるいは60GHz帯の電波であることが望ましい。これにより、検出対象物に人が乗った状態で変位測定を行うことが可能となる。
【0011】
また、上述した反射部材は、導電率が所定値以上の導電性材料であることが望ましい。また、上述した反射部材は、透磁率が所定値以上の磁性体材料であることが望ましい。反射部材の表面における電波の透過深さLは、材料の透磁率をμ、導電率をσ、電波の周波数をωとすると√(2/μσω)で表すことができる。したがって、反射部材の導電率や透磁率を高くすることにより、透過深さLを浅くして電波を反射しやすくすることができる。
【0012】
また、上述した検出対象物は、車両の座席シートであり、送信部と受信部は、車両の天井に設けられていることが望ましい。このような形態で用いることにより、複雑な形状を有する車両の座席シートに着座した場合の変位分布を、煩雑な配線と引き回しを行うことなく、容易に測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】一実施形態の変位測定装置の構成を示す図である。
【
図4】レーダーと反射シートの配置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を適用した一実施形態の変位測定装置について、図面を参照しながら説明する。
【0015】
図1は、一実施形態の変位測定装置の構成を示す図である。
図1に示す本実施形態の変位測定装置1は、例えば、車両の座席シートを検出対象物として、運転者等の搭乗者が着座した状態でその変位分布を測定するためのものである。このために、変位測定装置1は、複数の反射部材12が埋め込まれた反射シート10と、レーダー20と、変位分布測定部30とを備えている。
【0016】
反射シート10は、ポアソン比が所定値以上の柔軟性を有するシート状の材料が用いられ、互いに等間隔に配置された複数の反射部材12を内包している。
【0017】
図2は、反射シート10の一例を示す図である。
図2(A)は平面図、
図2(B)は断面図である。これらの図に示すように、反射シート10には、規則正しく配置された5行5列で合計25個の反射部材12がインサートされている。各反射部材12は、例えば1辺が11mmの矩形形状を有する導電性材料および/または磁性体材料によって形成されている。
【0018】
一般に、反射部材12の表面における電波の透過深さLは、材料の透磁率をμ、導電率をσ、電波の周波数をωとすると√(2/μσω)で表すことができる。したがって、反射部材12の導電率σや透磁率μを高くすることにより、透過深さLを浅くして電波を反射しやすくすることができる。本実施形態では、導電率がσ1以上の導電性材料であって、透磁率がμ1以上の磁性体材料によって反射部材12が形成されている。なお、σ1やμ1の具体的な値は、使用する電波の周波数や強度、レーダー20と各反射部材12の距離などに基づいて製品設計時に決めればよい。
【0019】
レーダー20は、所定周波数の電波を用いて複数の反射部材12までの距離を検出する。
図3は、レーダー20の具体的な構成を示す図である。
図3に示すように、レーダー20は、所定周波数の信号を生成する信号源21と、この信号に対応する電波を反射シート10の各反射部材12に向けて送信する送信アンテナ(TX)22と、この電波に対する各反射部材12による反射波を受信する受信アンテナ(RX)23と、送信信号と受信信号を混合するミキサ24と、ミキサ24の出力に基づいてレーダー20から送信された電波が各反射部材12で反射されて戻ってくるまでの時間を検出して各反射部材12までの距離を算出する距離算出部25とを含んで構成されている。信号源21と送信アンテナ22が電波を送信する送信部に、受信アンテナ23とミキサ24が電波を受信する受信部にそれぞれ対応する。
【0020】
また、レーダー20によって送受信される電波は、人体を通過可能な所定周波数の電波、例えばミリ波が用いられる。具体的には、27GHz帯あるいは60GHz帯の電波を用いることが望ましい。
【0021】
図4は、レーダー20と反射シート10の配置の一例を示す図である。
図4には、車両の座席シート100のシートクッション110とシートバック120のそれぞれの内部に反射シート10が配置されている。また、車両の天井200に、これら2つの反射シート10に対して電波の送受信を行う共通のレーダー20が設置されている。なお、2つの反射シート10に対して電波の送受信を行うレーダー20を別々に設けるようにしてもよい。
【0022】
変位分布測定部30は、レーダー20から出力される各反射部材12までの距離を所定周期で取得し、各反射部材12の変位量(変位分布)を測定する。各反射部材12について、前回の距離と今回の距離の差分が測定1周期分の変位量であり、その累積値が各反射部材12の全体の変位量となる。なお、本実施形態では、変位量を求めているが、シートクッション110やシートバック120および反射シート10のヤング率Eを用いて変位量から圧力(圧力分布)を求めるようにしてもよい。
【0023】
このように、本実施形態の変位測定装置1では、検出対象物に配置された複数の反射部材12との間で電波の送受信を行うことにより、各反射部材12までの距離を検出して変位を算出することにより、検出対象物に作用する荷重に応じた複数箇所の変位(加圧状態)を測定することができ、しかも、検出対象物側からケーブルを介して信号を取り出す必要がないため、煩雑な配線の引き回しが不要となる。
【0024】
また、複数の反射部材12を等間隔に配置することにより、測定箇所の間隔が不均一になることによる測定品質の低下を防止することができる。
【0025】
また、複数の反射部材12の全体をシート状の柔軟性を有する材料で覆った反射シート10を用い、複数の反射部材12のそれぞれの間を埋める材料のポアソン比を所定値以上としている。これにより、各反射部材12の変位が他の反射部材12の変位に影響を与えることを抑制することができ、各反射部材12の独立した変位を実現することによる変位測定の精度向上が可能となる。
【0026】
また、レーダー20から送受信する所定周波数の電波をミリ波、具体的には27GHz帯あるいは60GHz帯の電波とすることにより、検出対象物に人が乗った状態で変位測定を行うことが可能となる。
【0027】
また、反射部材12として、導電率が所定値以上の導電性材料や透磁率が所定値以上の磁性体材料を用いている。反射部材12の表面における電波の透過深さLは、材料の透磁率をμ、導電率をσ、電波の周波数をωとすると√(2/μσω)で表すことができる。したがって、反射部材12の導電率や透磁率を高くすることにより、透過深さLを浅くして電波を反射しやすくすることができる。
【0028】
また、検出対象物を車両の座席シート100(
図4)とし、レーダー20を車両の天井200(
図4)に設置する場合には、複雑な形状を有する車両の座席シート100に着座した場合の変位分布を、煩雑な配線と引き回しを行うことなく、容易に測定することが可能となる。
【0029】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々の変形実施が可能である。上述した実施形態(
図4)では、車両の座席シート100の変位量を測定する場合について説明したが、変位分布や圧力分布を測定するものであれば座席シート以外について本発明を適用することができる。例えば、ベッドやアームレストなどについて荷重が加わる領域の変位分布や圧力分布を測定する場合について本発明を適用することができる。また、足裏などの変位分布や圧力分布を測定して重心位置を決定する用途に用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
上述したように、本発明によれば、検出対象物に配置された複数の反射部材との間で電波の送受信を行うことにより、各反射部材までの距離を検出して変位を算出することにより、検出対象物に作用する荷重に応じた複数箇所の変位(加圧状態)を測定することができ、しかも、検出対象物側からケーブルを介して信号を取り出す必要がないため、煩雑な配線の引き回しが不要となる。
【符号の説明】
【0031】
1 変位測定装置
10 反射シート
12 反射部材
20 レーダー
21 信号源
22 送信アンテナ(TX)
23 受信アンテナ(RX)
24 ミキサ
25 距離算出部
30 変位分布測定部
100 座席シート
110 シートクッション
120 シートバック
200 天井