(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】メタン発酵用原料の生成方法
(51)【国際特許分類】
C12P 5/02 20060101AFI20230904BHJP
【FI】
C12P5/02
(21)【出願番号】P 2020123551
(22)【出願日】2020-07-20
【審査請求日】2022-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】北垣 剛
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-167705(JP,A)
【文献】特開2010-227876(JP,A)
【文献】特開2002-066507(JP,A)
【文献】特開2018-130697(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 茶粕を含む第1の原料を準備するステップと、
(b) ビール粕を含む第2の原料を準備するステップと、
(c) 前記第1の原料と前記第2の原料とを混合して混合原料を得るステップとを備え
、
前記混合原料に対し所定の加工処理を施して得られる加工原料がメタン発酵用原料とされ
、
(d) 前記混合原料を粉砕して前記メタン発酵用原料を得るステップをさらに備え、
前記所定の加工処理は、前記ステップ(d)を含み、
前記ステップ(d)は、
(d-1) 前記混合原料に希釈水を供給するステップと、
(d-2) 前記ステップ(d-1)後に実行され、湿式ミルにて前記混合原料を100μm以下に粉砕して前記メタン発酵用原料を得るステップとを含む、
メタン発酵用原料の生成方法。
【請求項2】
請求項
1記載のメタン発酵用原料の生成方法であって、
前記ステップ(c)は、ビール粕の茶粕に対する混合比が“1”以上になるように、前記第1の原料と前記第2の原料とを混合する、
メタン発酵用原料の生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、茶粕を含む原料からメタン発酵用原料を生成するメタン発酵用原料の生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
緑茶飲料製造工場から飲料抽出残渣として多量に排出されている茶粕は、未利用バイオマス資源、特にメタン発酵の原料として利用が期待されている。
【0003】
茶粕からメタンガスを得るメタン発酵技術は、例えば、特許文献1で開示されている。また、茶葉のリサイクル方法は、例えば、特許文献2で開示されている。
【0004】
一方、茶粕は、タンパク質(蛋白質)やアンモニアなどに対する強い吸着・固定化作用をもつタンニンと総称される茶ポリフェノール成分を10~15%程度含んでいる。茶ポリフェノール成分は、原料中のタンパク質や消化液(発酵液)中のメタン菌・アンモニウムイオン等と結合し、メタン発酵の阻害を生じさせる発酵抑制機能を有している。上記理由から、茶粕はメタン発酵用原料として期待される一方、処理困難物としての一面も有している。なお、本明細書において、「処理困難物」とは、「メタン発酵の処理を困難にしている物」を意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-184107号公報
【文献】特開2009-51797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、茶粕を含む原料は処理困難物であるため、そのままでは、メタン発酵用原料として有効活用することができない。
【0007】
一方、特許文献2では、茶葉のリサイクル方法として、茶葉を蒸熱処理することによって熱水抽出で一段抽出を行い、次に残存するカテキン類を有機溶媒(エタノール)抽出において抽出する第1の方法が開示されている。さらに、特許文献2では、は第1の方法に粉砕処理を加えて抽出効率を高める第2の方法が開示されている。
【0008】
しかしながら、上述した第1及び第2の方法は、茶ポリフェノール類の抽出を目的にしたものであり、他の成分も含めて茶粕をメタン発酵用原料として有効活用するという考えは全くなされていない。
【0009】
また、特許文献1では、茶粕を含む原料に対するメタン発酵処理として、酵素を用いて茶粕の硬質成分を可溶化する方法が開示されている。この方法は茶粕の生分解性の向上を目的としているが、上述した処理困難物の性質を有する茶粕に対し、具体的な対策を講じていない。
【0010】
従来の茶粕に関連するメタン発酵技術は、特許文献1に開示されたように行われており、茶粕をメタン発酵用原料として有効活用できていないという問題点があった。
【0011】
本開示は上記問題点を解決するためになされたもので、メタン発酵処理に適した、茶粕を含むメタン発酵用原料を生成する、メタン発酵用原料の生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示に係るメタン発酵用原料の生成方法は、(a) 茶粕を含む第1の原料を準備するステップと、(b) ビール粕を含む第2の原料を準備するステップと、(c) 前記第1の原料と前記第2の原料とを混合して混合原料を得るステップとを備え、前記混合原料あるいは前記混合原料に対し所定の加工処理を施して得られる加工原料がメタン発酵用原料とされる。
【発明の効果】
【0013】
本開示のメタン発酵用原料の生成方法は、ステップ(c)を実行することにより、茶粕とビール粕とが混合した混合原料を得ている。混合原料に含まれるビール粕は、茶粕が有する発酵阻害要因を効果的に抑制する発酵阻害抑制機能を有している。
【0014】
したがって、混合原料あるいは混合原料に対し所定の加工処理を施して得られる加工原料であるメタン発酵用原料に対し、所定のメタン発酵処理を行うことにより、安定してメタンガスを生成させることができる。
【0015】
その結果、本開示のメタン発酵用原料の生成方法は、メタン発酵処理に適したメタン発酵用原料となり得る混合原料を生成する効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施の形態のメタン発酵用原料の生成方法を示す説明図である。
【
図2】粉砕処理前後の4種の茶ポリフェノール成分の割合を示す説明図である。
【
図3】本実施の形態の効果を示すグラフ(その1)である。
【
図4】本実施の形態の効果を示すグラフ(その2)である。
【
図5】茶粕からメタンを得るまでの過程を模式的に示す説明図である。
【
図6】茶粕に含まれる4種の茶ポリフェノール成分の化学構造を示す説明図である。
【
図7】茶粕に含まれる4つの茶ポリフェノール成分の割合を表形式で示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<本開示の原理>
(メタン発酵過程)
図5は茶粕からメタン(ガス)を得るまでの過程を模式的に示す説明図である。茶粕を含む原料をメタン発酵用原料としたメタン発酵は、メタン発酵槽内に茶粕を含む原料を収容して行われるのが一般的である。
図5に示すように、茶粕に含まれる有機物グループ5はタンパク質1、脂質2及び炭水化物3に分類される。
【0018】
タンパク質1はタンパク質分解微生物31によって、「アンモニア+硫化水素」11、アミノ酸12及び「炭酸ガス+脂肪酸類」13に分解される。
【0019】
脂質2は、脂肪分解菌32、酵母33、大腸菌34、プロピオン酸菌35、及び酪酸菌36の総合作用によって、「炭酸ガス+脂肪酸類」13、「水素+アルコール類」14及び「乳酸+コハク酸」15に分解される。
【0020】
炭水化物3は乳酸菌37によって、「炭酸ガス+脂肪酸類」13、「水素+アルコール類」14及び「乳酸+コハク酸」15に分解される。
【0021】
「アンモニア+硫化水素」11はアンモニア11aと硫化水素11bとの混合物であり、「炭酸ガス+脂肪酸類」13は炭酸ガス13aと脂肪酸類13bとの混合物であり、「水素+アルコール類」14は水素14aとアルコール類14bとの混合物であり、「乳酸+コハク酸」15は乳酸15aとコハク酸15bとの混合物である。
【0022】
上述した「アンモニア+硫化水素」11、アミノ酸12、「炭酸ガス+脂肪酸類」13、「水素+アルコール類」14及び「乳酸+コハク酸」15が中間体グループ10に分類される。
【0023】
アミノ酸12は、メタン菌41によって、アンモニア21及び「メタン+炭酸ガス」22に分解される。「メタン+炭酸ガス」22は、メタン22aと炭酸ガス22bとの混合物である。
【0024】
「炭酸ガス+脂肪酸類」13、「水素+アルコール類」14及び「乳酸+コハク酸」15に対し、メタン菌41、脱窒素菌42及び硫酸塩還元菌43が総合的に作用することによっても「メタン+炭酸ガス」22を得ることができる。
【0025】
メタン菌41、脱窒素菌42及び硫酸塩還元菌43は生物分解用微細物グループ40に分類され、アンモニア21及び「メタン+炭酸ガス」22は最終生成物グループ20に分類される。
【0026】
このように、タンパク質1、脂質2及び炭水化物3を主要成分として含む茶粕から、最終生成物グループ20の「メタン+炭酸ガス」22に含まれるメタン(ガス)22aを得ることができる。
【0027】
図5に示すように、メタン発酵技術は、嫌気性状態下において有機物(有機物グループ5)を微生物(生物分解用微細物グループ30,生物分解用微細物グループ40)により分解し、さまざまな中間体(中間体グループ10)を経てメタンガス(メタン22a)を回収する方法である。
【0028】
生物分解用微細物グループ30あるいは生物分解用微細物グループ40に分類されるメタン生成菌(メタン菌41)の至適活動域はpH6~8にあると言われており、メタン発酵槽のpHがこの範囲から外れた場合、発酵阻害が生じ、メタンガスが発生しない失活状態に陥ると考えられている。
【0029】
メタン発酵過程で、有機物が加水分解されると、中間体であるギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの有機酸が蓄積されることになる。なお、
図5において、「有機酸」は、脂肪酸類13bが該当し、加水分解された中間物は、中間体グループ10に含まれる「炭酸ガス+脂肪酸類」13が該当する。
【0030】
一方、タンパク質1の分解物であるアンモニウムイオンによって酸に対する緩衝作用が働き、pHが上記の至適活動域に維持しようとする。なお、アンモニウムイオンは、アンモニア11a及びアンモニア21に含まれている。
【0031】
(第1及び第2の発酵阻害対策)
茶粕は、メタン発酵における発酵阻害を生じさせる処理困難物として経験的に知られている。茶粕は成分として、タンパク質やアンモニウムイオン等に対し、強い吸着・固定化作用をもつタンニンと総称される茶ポリフェノール成分を10~15%と比較的多く含んでいる。
【0032】
これら茶ポリフェノール成分がメタン発酵槽中でタンパク質やアンモニウムイオン等と結合・固定化すると、上述した酸に対する緩衝作用が失われ、pH低下による発酵阻害が生じると推測される。なお、茶ポリフェノール成分は
図5で示した炭水化物3に分類される。
【0033】
実際に、発明者が過去に茶粕を原料とした試験を行ったところ、メタン発酵槽のアンモニウムイオンが低下し、それに伴いpH低下による発酵阻害が発生し、メタン発酵処理がほとんど行われない失活状態になることを確認した。
【0034】
以上の事実から、タンパク質及びその分解物であるアミノ酸、並びにアンモニアは、酸に対する緩衝作用によって、メタン発酵を安定化させ、茶ポリフェノール成分はメタン発酵を抑制する性質があることを認識することができる。
【0035】
発明者は、上述したタンパク質のメタン発酵安定化に着目して、茶粕に対して、タンパク質が豊富な他の副産物であるビール粕を一定の割合で添加することを創出した。
【0036】
すなわち、発明者は、メタン発酵安定性の向上を図るべく、第1の発酵阻害対策として、茶粕とビール粕との混合物をメタン発酵用原料とする方策を採用した。
【0037】
一方、緑茶における茶ポリフェノール成分として、エピカテキン(EC)、エピガロカテキン(EGC)、エピカテキンガレート(ECg)、エピガロカテキンガレート(EGCg)の4種が主に含まれる。
【0038】
図6は茶粕に含まれる4種の茶ポリフェノール成分の化学構造を示す説明図である。同図(a)はエピカテキンECの化学構造を示し、同図(b)はエピカテキンガレートECgの化学構造を示し、同図(c)はエピガロカテキンEGCの化学構造を示し、同図(d)はエピガロカテキンガレートEGCgの化学構造を示している。
【0039】
これら4種の茶ポリフェノール成分の含有量は、茶種、品質等により差があるが、合計量で茶葉乾燥重量の10~15%程度が一般的であるとされている。(文献:Goto,T., Y.Yoshida, I.Amano and H.Horie:Foods and Food Ingradients J.Japan,170,46-52(1996)参照)。
【0040】
図7は茶粕に含まれる4つの茶ポリフェノール成分の割合を表形式で示す説明図である。同図に示すように、エピカテキンECの割合は8.3%、エピカテキンガレートの割合ECgは13/5%、エピガロカテキンEGCの割合は26.0%、エピガロカテキンガレートの割合EGCgは52.1%となっている。
【0041】
上述した4種の茶ポリフェノール成分のうち、エピカテキンEC及びエピガロカテキンEGCが遊離型カテキンに分類され、エピカテキンガレートECg及びエピガロカテキンガレートEGCgがガレート型カテキンに分類される。
【0042】
ガレート型カテキンであるエピカテキンガレートECg及びエピガロカテキンガレートEGCgの方が、タンパク質等に対し高い吸着力を有していることが一般的に知られている。
【0043】
このため、発明者は、第2の発酵阻害対策として、茶ポリフェノール成分におけるガレート型カテキンの割合を低減化する方策を採用した。
【0044】
上述した第1及び第2の発酵阻害対策に基づいた方法が、以下に述べる実施の形態のメタン発酵用原料の生成方法である。
【0045】
<実施の形態>
図1は本実施の形態のメタン発酵用原料の生成方法を示す説明図である。以下、同図を参照して、メタン発酵用原料の生成内容を説明する。
【0046】
まず、ステップS1に先がけて、茶粕51を含む第1の原料を準備するステップと、ビール粕52を含む第2の原料を準備するステップとが実行される。
【0047】
以下では、説明の都合上、第1の原料は全て茶粕51であり、第2の原料は全てビール粕52であるとして説明する。
【0048】
ステップS1において、茶粕51を含む第1の原料とビール粕52を含む第2の原料とを茶粕51とビール粕52とが所定の比率となるように混合して混合原料56を得る。所定の比率として、例えば、「茶粕:ビール粕」=1:1が考えられる。
【0049】
次に、ステップS2において、湿式ミルで処理可能な含水率になるよう希釈水55を混合原料56に添加する前処理を実行する。ステップS2の実行により混合原料56に水分が添加され、含水率調整処理が施された希釈混合原料57が得られる。
【0050】
その後、ステップS3において、希釈混合原料57に対し、湿式ミルによる微粉砕処理を行い、希釈混合原料57に含まれる混合原料56を100μm以下に粉砕したメタン発酵用原料58を得る。
【0051】
なお、「湿式ミル」とは、「処理対象物を微粉砕する湿式の媒体撹拌粉砕機」を意味する。
【0052】
このように、本実施の形態のメタン発酵用原料の生成方法は、ステップS1~S3を実行することにより、茶粕51を含む第1の原料からメタン発酵用原料58を生成している。
【0053】
ステップS1の混合処理が上述した第1の発酵阻害対策となり、ステップS2,S3による微粉砕処理が上述した第2の発酵阻害対策となる。
【0054】
ステップS1,S2を経て、ステップS3で最終的に生成されたメタン発酵用原料58は、ステップS4のメタン発酵処理に用いられる。
【0055】
ステップS4で実行されるメタン発酵処理は、容積負荷率「5kg-COD/m3/day」の処理条件で、37℃付近で行う中温方式にて実行される。上記処理条件は、1日の当たりの処理量を、メタン発酵槽の1m3当たり5kg-CODを満足するメタン発酵用原料58を投入することを示している。なお、メタン発酵用原料58にはステップS3の実行後の茶粕、ビール粕及び水分のみが存在し、他の不純物は含んでいないものとする。
【0056】
また、「COD」は、化学的酸素要求量(Chemical Oxygen Demand)を意味する。具体的には、「COD」は有機物(メタン発酵用原料58)を分解する際に消費される酸素量を意味する。したがってCOD値が2倍になると、メタン発酵に用いられた有機物、すなわちメタン発酵用原料58の量も2倍になる。
【0057】
ステップS4のメタン発酵処理によりバイオガス60が得ることができる。バイオガス60中には、メタンガス(メタン22a)が6割程度、炭酸ガス(炭酸ガス22b)が4割程度含まれる。
【0058】
ステップS4の実行後、ステップS5において、膜による水処理(ろ過処理)が行われる。すなわち、ステップS5において、メタン発酵槽内の消化液等の残存水分が膜を用いたフィルタリング処理によって分離され、処理水65として外部に排出される。
【0059】
また、ステップS4の実行後、ステップS5と並行してステップS6にて脱水処理が行われる。すなわち、ステップS6において、メタン発酵槽内の残存廃棄物に対し脱水処理を施され、その結果、余剰汚泥66として外部に排出される。
【0060】
(メタン発酵用原料58の特性)
図2はステップS3の粉砕処理前後の4種の茶ポリフェノール成分の割合を示す説明図である。
【0061】
同図(a)に示すように、ステップS3の実行前は、エピカテキン比率P1は8.3%、エピカテキンガレート比率P2は13/5%、エピガロカテキン比率P3は26.0%、エピガロカテキンガレート比率P4は52.1%となっている。
【0062】
一方、同図(b)に示すように、ステップS3の実行後は、エピカテキン比率P1は6.1%、エピカテキンガレート比率P2は2.7%、エピガロカテキン比率P3は69.5%、エピガロカテキンガレート比率P4は21.7%に変化した。
【0063】
図2から明らかなように、ステップS3の微粉砕処理の実行によって、ガレート型カテキンの比率(P2+P4)が減少し、その分、遊離型カテキンの比率(P1+P3)が増加したことが判る。
【0064】
図2に示すように、ステップS3の微分債処理の実行によって、茶粕に含まれる茶ポリフェノール成分をメタン発酵処理に適した割合に変換する成分比率変換効果を発揮している。すなわち、本実施の形態では、第2の発酵阻害対策として、ステップS3の微粉砕処理を採用している。
【0065】
このように、ステップS3の微粉砕処理の実行によって、吸着力が比較的低いエピカテキンEC及びエピガロカテキンEGCの存在割合を増加させることに成功した。
【0066】
図3は本実施の形態の効果を示すグラフ(その1)である。同図において、COD消化率変化L11は、本実施の形態で生成されたメタン発酵用原料58に対しステップS4のメタン発酵処理を行った場合のCOD消化率の経時変化を示している。
図3で示す試験で使用した発酵槽の有効容量は、5(L:リットル)であり、試験期間中の日発酵槽投入量の平均値は、243.6(g/日)であった。
【0067】
一方、COD消化率変化L12は、単純に茶粕のみを成分としたメタン発酵用原料に対し、ステップS4のメタン発酵処理を行った場合のCOD消化率の経時変化を示している。なお、上述した茶粕は、粉砕処理等の加工処理も行われていない。
【0068】
「COD」は、前述したように、有機物を分解する際に消費される酸素量を意味する。したがって、COD消化率から、バイオガス60に変換された有機物の割合を認識することができる。すなわち、COD消化率はメタンガス量を反映した数値となる。
【0069】
図3に示すように、COD消化率変化L11のCOD消化率は35~53%内で比較的安定しており、試験日数が98日に達しても安定してメタン発酵が継続されていることが認識される。通常、COD消化率が40%程度あれば。安定性良くメタン発酵が行えていると理解される。
【0070】
図3のCOD消化率変化L11に示すように、試験日数がHRTの4倍程度以上の期間に達しても安定運転されていることが理解できる。なお、「HRT(Hydraulic retention time)」は、「水理学的滞留時間」を意味し、投入した原料がメタン発酵槽内で滞留している平均的な時間(日数)を示している。
【0071】
HRT(日)は、「HRT(日)=発酵槽内の有効容量(m
3)÷日発酵槽投入量(m
3/日)」で算出される。前述したように、
図3で示した試験では、発酵槽の有効容量=5(L)であり、試験期間中の日発酵槽投入量の平均値=243.6(g/日)であった。したがって、水分を含む原料の比重をおおよそ「1.0」とした演算「HRT=5,000/243.6=20.5」によって、HRT(日)は、「20.5(日)」と求められる。
【0072】
一方、
図3のCOD消化率変化L11に示すように、試験日数が98日に達しても安定してメタン発酵が継続されている。したがって、本実施の形態で生成されたメタン発酵用原料58を用いることにより、HRTの4倍以上の期間(98/20.5≒4.78)、メタン発酵の安定運転を行えていることになる。
【0073】
一方、
図3のCOD消化率変化L12に示すように、茶粕のみをメタン発酵用原料とした場合のCOD消化率は37%から徐々に減少し、試験日数が77日に達すると、失活していることが認識される。
【0074】
図4は本実施の形態の効果を示すグラフ(その2)である。同図において、アンモニア態窒素濃度変化L1は、メタン発酵用原料58を用いてメタン発酵槽内でメタン発酵処理を行った後に生成される消化液内のアンモニア態窒素濃度(NH
4-N)の経時変化を示している。すなわち、アンモニア態窒素濃度変化L1は、
図1で示したステップS1~S3を経て得られたメタン発酵用原料58に対しメタン発酵処理を行った場合のアンモニア態窒素濃度の経時変化を示している。
【0075】
一方、アンモニア態窒素濃度変化L2は、単純に茶粕のみを含むメタン発酵用原料を用いてメタン発酵槽内でメタン発酵処理を行った後に生成される消化液内のアンモニア態窒素濃度の経時変化を示している。すなわち、アンモニア態窒素濃度変化L2は、粉砕処理等の加工処理が施されていない茶粕に対しメタン発酵処理を行った場合のアンモニア態窒素濃度の経時変化を示している。
【0076】
なお、「消化液」は、メタン発酵槽内に存在する液の総称を意味し、「発酵液」とも呼ばれている。
【0077】
アンモニア態窒素濃度(ppm)は酸に対する緩衝能を検知する指標であり、以下の性質が認識できる。
0~50(ppm):NG領域
50~200(ppm):中間領域(NG領域ではない有効領域)
200~1000(ppm):好ましい領域
1500~3000(ppm):pH値によっては不適な領域(pH7.4~7.6以上)
3000(ppm)以上:アンモニア過多により強く発酵阻害を受ける領域
【0078】
なお、「NG領域」は、メタン発酵処理には不適な領域を示し、この領域では多くの量のメタンを発酵させることができない。「好ましい領域」とは、メタン発酵処理に適した領域を示し、この領域では比較的多量のメタンを発酵させることができる。
【0079】
「pH値によっては不適な領域」は、アンモニアによる発酵阻害があるため、不適な領域とされている。
【0080】
図4に示すように、アンモニア態窒素濃度変化L1の大部分は好ましい領域内で安定しており、試験日数が98日に達しても安定してメタン発酵が継続されていることが認識される。
【0081】
一方、アンモニア態窒素濃度変化L2は常にNG領域となっており、試験日数が70日に達すると、アンモニア態窒素濃度が16(ppm)まで低下しほぼ失活状態となる。
【0082】
このように、
図3及び
図4から、ステップS1~S3を経て得られたメタン発酵用原料58は、ステップS4で実行されるメタン発酵処理に適した原料となっていることがわかる。
【0083】
(効果等)
発明者は、上記第1の発酵阻害対策に基づき、茶粕51とビール粕52との混合原料56を得ることを採用した。混合原料56あるいは混合原料56に対し所定の加工処理(S2,S3)を施して得られる加工原料をメタン発酵用原料とすることができる。
【0084】
混合原料56を生成する実施の形態は以下のステップ(a)~(c)を有している。
(a) 茶粕51を含む第1の原料を準備するステップ
(b) ビール粕52を含む第2の原料を準備するステップ
(c) 第1の原料と第2の原料とを混合して混合原料56を得るステップ(
図1のステップS1が対応)
【0085】
本実施の形態のメタン発酵用原料の生成方法は、ステップS1(ステップ(c))を実行することにより、茶粕51とビール粕52とが混合した混合原料56を得ている。
【0086】
したがって、混合原料56あるいは混合原料56に対し所定の加工処理を施して得られる加工原料をメタン発酵用原料とすることができる。
【0087】
本実施の形態では、混合原料56に対し、ステップS2及びS3を含む加工処理を施して、最終的にメタン発酵用原料58を得ている。すなわち、混合原料56に基づく加工原料としてメタン発酵用原料58を得ている。
【0088】
上述した第1の発酵阻害対策に基づき考察すると、混合原料56またはメタン発酵用原料58において、茶粕51が有する発酵阻害機能をビール粕52(に含まれるタンパク質のメタン発酵安定性)によって効果的に抑制することができる。
【0089】
したがって、ステップS1~S3の実行後のメタン発酵用原料58に対し、所定のメタン発酵処理を行うことにより、安定してメタンガスを生成させることができる。
【0090】
その結果、本実施の形態のメタン発酵用原料の生成方法は、メタン発酵処理に適した、茶粕を含むメタン発酵用原料58を生成する効果を奏する。
【0091】
実施の形態の処理に代えて、混合原料56をそのままメタン発酵用原料として用いる第1の変形例が考えられる。すなわち、ステップS1で得られた混合原料56を、ステップS4用のメタン発酵用原料としたのが第1の変形例である。第1の変形例の混合原料56は上述したステップ(a)~(c)によって生成されている。
【0092】
したがって、第1の変形例においても、上述した第1の発酵阻害対策がなされているため、メタン発酵処理に適した、茶粕を含む混合原料56をメタン発酵用原料として生成する効果が十分期待できる。
【0093】
なお、混合原料56におけるビール粕52の茶粕51に対する混合比が“1”以上になる混合条件を満足するように、ステップS1を実行することが望ましい。すなわち、「(茶粕51+ビール粕52)の全体量の50%以上をビール粕52が占めること」が混合条件となる。
【0094】
混合原料56あるいはメタン発酵用原料58が上記混合条件を満足することにより、ビール粕52は、茶粕51が有する発酵阻害機能を効果的に抑制することができるからである。
【0095】
茶粕51に対するビール粕52の比率が高いほど茶粕51による発酵阻害機能を抑制することができる。ただし、ビール粕52は飼料原料として有価リサイクルされているため、比率が高まると調達に伴うコストが上昇し、事業性が低下することになる。このため、ビール粕52に関するコストを必要最小限に抑えて上記混合条件を満足させることが望ましい。
【0096】
さらに、発明者は、上記第2の発酵阻害対策として、茶粕51に含まれる茶ポリフェノール成分におけるガレート型カテキンの割合を低減化する処理として、茶粕51に対する湿式ミルを用いた微粉砕処理(S2,S3)を採用した。すなわち、本実施の形態は以下のステップ(d)をさらに有している。
(d) 混合原料を粉砕するステップS2,S3
【0097】
このステップ(d)は、以下のステップ(d-1),(d-2)を含んでいる。
(d-1) 混合原料56に希釈水を供給するステップ(
図1のステップS2が対応)
(d-2) ステップ(d-1)後に実行され、湿式ミルにて混合原料56を粉砕する微粉砕処理(
図1のステップS3が対応)
【0098】
本実施の形態のメタン発酵用原料の生成方法は、ステップS2及びS3(ステップ(d))を実行することにより、茶粕51に含まれるガレート型カテキンの割合を減少させ、その分、遊離型カテキンの割合を増加させる成分比率変換効果を発揮することができる。ガレート型カテキン(エピカテキンガレート及びエピガロカテキンガレート)はタンパク質等に対し比較的強い吸着力を持っているため、減少させることが望ましい。
【0099】
このように、本実施の形態のメタン発酵用原料の生成方法は、第1の発酵阻害対策に加え、茶粕51の茶ポリフェノール成分におけるガレート型カテキンの割合を低減化する第2の発酵阻害対策(ステップS2,S3)を施している。
【0100】
したがって、
図3及び
図4で示したように、本実施の形態のメタン発酵用原料の生成方法で得られたメタン発酵用原料58に対しステップS4のメタン発酵処理を行うことにより、より安定してメタンガスを生成させることができる。
【0101】
さらに、本実施の形態メタン発酵用原料の生成方法は、ステップS2,S3を実行して、混合原料56を100μm以下に微粉砕してメタン発酵用原料58を得ることにより、上記成分比率変換効果をより高めることができる。
【0102】
(その他)
本実施の形態では、混合原料56に対し、ステップS2及びS3を含む加工処理を施して、最終的にメタン発酵用原料58を得ている。
【0103】
ここで、混合原料56に代えて、茶粕51を含む第1の原料のみに対してステップS2及びS3の処理を実行し、得られた粉砕原料をメタン発酵用原料とする第2の変形例が考えられる。すなわち、第2の変形例において、ビール粕52を有する第2の原料は存在せず、ステップS1の混合処理も実行されない。
【0104】
第2の変形例においても、上述した第2の発酵阻害対策が施されているため、メタン発酵処理に適した、茶粕を含む粉砕原料をメタン発酵用原料として生成する効果が十分期待できる。
【0105】
本実施の形態では、第2の原料に含まれる材料としてビール粕52を示した。ビール粕52に代えて、おから、廃乳、魚あら、厨芥等の候補材料を第2の原料に含ませることも考えられる。なぜなら、おから、廃乳、魚あら、厨芥等の候補材料もタンパク質含有量が比較的多い性質を有しているからである。
【0106】
なお、本開示の範囲内において、実施の形態を適宜、変形、省略することが可能である。
【符号の説明】
【0107】
51 茶粕
52 ビール粕
56 混合原料
58 メタン発酵用原料