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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】車両用空気調和システム
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/00 20060101AFI20230904BHJP
【FI】
B60H1/00 102M
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018173736
(22)【出願日】2018-09-18
(65)【公開番号】P2020044924
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-08-25
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516299338
【氏名又は名称】三菱重工サーマルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】山下 翼
【審査官】奈須 リサ
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-275015(JP,A)
【文献】特開2002-029242(JP,A)
【文献】特開2001-199222(JP,A)
【文献】実開平03-084208(JP,U)
【文献】特開平05-024428(JP,A)
【文献】特開平04-135915(JP,A)
【文献】特開2006-248283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/00-3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車内空間に供給される空気が流れる空気流路部と、
前記空気流路部内に設けられ、前記車内空間に前記空気を送るブロワと、
前記空気流路部内に設けられ、車両で用いられる液媒を熱源として前記空気を加熱する熱交換器と、
前記熱交換器を経た前記空気を前記車内空間に吹き出す吹出口と、
前記熱交換器よりも前記空気の流れ方向下流側に設けられ、前記熱交換器を経た前記空気の一部を前記空気流路部から取り込む空気取込口、及び前記熱交換器よりも前記空気の流れ方向上流側に設けられ、前記空気取込口から取り込んだ前記空気を前記空気流路部に吐出する空気吐出口を有した空気循環路と、
前記空気流路部内で前記熱交換器よりも前記空気の流れ方向上流側に設けられ、前記空気を除湿する除湿部と、
記空気吐出口に設けられ、前記熱交換器よりも上流側への前記空気の吐出を断続する流路開閉部と、
前記流路開閉部を制御する制御部と、
を備え、
前記空気吐出口は、前記空気の流れ方向において前記除湿部と前記熱交換器との間に設けられている熱交換器上流側吐出口を有し、
前記空気吐出口は、前記空気の流れ方向において前記除湿部よりも上流側に設けられている除湿部上流側吐出口を有し、
前記流路開閉部は、前記熱交換器上流側吐出口から前記空気流路部への前記空気の吐出を断続する熱交換器上流側流路開閉部と、前記除湿部上流側吐出口から前記空気流路部への前記空気の吐出を断続する除湿部上流側流路開閉部と、を有し、
前記制御部は、外気温が予め定めた温度基準値よりも低いときに、前記熱交換器上流側流路開閉部を開くとともに前記除湿部上流側流路開閉部を閉じて、前記空気循環路を通して前記熱交換器上流側吐出口から前記熱交換器の上流側に前記空気を吐出させ、
前記制御部は、前記空気の湿度が予め定めた湿度基準値よりも高いときに、前記除湿部上流側流路開閉部を開くとともに前記熱交換器上流側流路開閉部を閉じて、前記空気を除湿する前記除湿部よりも上流側に前記空気を吐出させることを特徴とする車両用空気調和システム。
【請求項2】
前記空気吐出口は、前記空気の流れ方向において前記ブロワよりも下流側に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の車両用空気調和システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記液媒の温度が予め定めた液媒温度基準値よりも低いときに、前記ブロワの作動を停止させることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用空気調和システム。
【請求項4】
前記制御部は、前記空気循環路を通して前記空気を前記空気流路部内に吐出するとき、前記ブロワにおける前記空気の風量を増大させることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の車両用空気調和システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空気調和システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用空気調和システムにおいては、車内の乗員の快適性を高めるため、様々な工夫がなされている。
例えば、特許文献1には、外気導入口と曇り止め用吹出口との間にバイパス路を設け、暖房時の車両室内温度が設定温度に接近した領域では、外気導入口から導入した外気の一部を、ヒータコアを通さず、バイパス路を介して曇り止め用吹出口から車両室内へ供給する構成が開示されている。このような構成により、車両室内温度の設定温度以上の上昇を防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-55923号公報(段落[0010]~[0011],及び図1図3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、暖房運転時に車内に供給される空気は、ヒータコアによって加熱される。ヒータコアは、車両のエンジンを冷却することで加熱された冷却水を熱源とする。車両に搭載されるエンジンの効率向上、及び低排気量化にともない、ヒータコアに送り込まれる冷却水の水温は上昇化しにくく、低温化する傾向にある。すると、例えば冬期や寒冷地等において、外気温が低く、しかも冷却水の温度が低い状態で暖房運転を行っても、暖房運転の開始直後は、車内に供給される空気の温度がなかなか上昇しない。
また、車両が電気自動車である場合、ヒートポンプの熱により、車内に供給される空気が加熱されるが、外気温が低い状態では、ヒートポンプは十分に性能を発揮しにくい。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、外気温が低い状態であっても、効率良く暖房運転を行って乗員の快適性を高めることができる車両用空気調和システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の車両用空気調和システムは以下の手段を採用する。
すなわち、本発明に係る車両用空気調和システムは、車内空間に供給される空気が流れる空気流路部と、前記空気流路部内に設けられ、車内空間に空気を送るブロワと、前記空気流路部内に設けられ、車両で用いられる液媒を熱源として前記空気を加熱する熱交換器と、前記熱交換器を経た前記空気を前記車内空間に吹き出す吹出口と、前記熱交換器よりも前記空気の流れ方向下流側に設けられ、前記熱交換器を経た前記空気の一部を前記空気流路部から取り込む空気取込口、及び前記熱交換器よりも前記空気の流れ方向上流側に設けられ、前記空気取込口から取り込んだ前記空気を前記空気流路部に吐出する空気吐出口を有した空気循環路と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る車両用空気調和システムによれば、熱交換器を経た空気の一部を、空気取込口から空気循環路に取り込む。空気循環路に取り込まれた空気は、熱交換器よりも上流側に設けられた空気吐出口から空気流路部に吐出される。これにより、熱交換器を経て加熱された空気が、空気循環路を介して熱交換器の上流側に供給され、熱交換器の入口側の空気温度が上昇する。この空気を熱交換器で加熱すると、熱交換器の出口の空気温度も上昇する。その結果、熱交換器を経て吹出口から車内空間に吹き出される空気の温度が効率良く上昇する。したがって、外気温が低い状態であっても、効率良く暖房運転を行って乗員の快適性を高めることが可能となる。
【0008】
上記車両用空気調和システムにおいて、前記空気吐出口は、前記空気の流れ方向において前記ブロワよりも下流側に設けられているとさらに好適である。
【0009】
このような車両用空気調和システムによれば、ブロワよりも下流側の、より熱交換器に近い位置で、空気吐出口から空気流路部に空気を吐出することができる。これにより、空気吐出口から吐出された空気は、ブロワを経ずに熱交換器に到達する。したがって、空気吐出口から吐出された空気の温度が、熱交換器に到達するまでに低下してしまうのを抑えることができる。
【0010】
上記車両用空気調和システムにおいて、前記空気流路部内で前記熱交換器よりも前記空気の流れ方向上流側に設けられ、前記空気を除湿する除湿部をさらに備え、前記空気吐出口は、前記空気の流れ方向において前記除湿部と前記熱交換器との間に設けられているとさらに好適である。
【0011】
このような車両用空気調和システムによれば、除湿部よりも下流側の、より熱交換器に近い位置で、空気循環路の空気吐出口から空気を吐出することができる。これにより、空気吐出口から吐出された空気は、除湿部を経ずに熱交換器に到達する。したがって、熱交換器を経て空気吐出口から吐出された空気の温度が、熱交換器に到達するまでに低下してしまうのを抑えることができる。
【0012】
上記車両用空気調和システムにおいて、前記空気吐出口は、前記空気の流れ方向において前記除湿部よりも上流側に設けられているとさらに好適である。
【0013】
このような車両用空気調和システムによれば、熱交換器を経て加熱された空気が、空気循環路を介して除湿部の上流側に供給される。この空気が除湿部を経ることで、車内空間に供給される空気の除湿が図られる。これによって、車両に備えられたウィンドウの曇り等を抑え、乗員の快適性を高めることができる。
【0014】
上記車両用空気調和システムにおいて、前記空気取込口及び前記空気吐出口の少なくとも一方に設けられ、前記熱交換器よりも上流側への前記空気の吐出を断続する流路開閉部と、前記流路開閉部を制御する制御部と、を備えているとさらに好適である。
【0015】
このような車両用空気調和システムによれば、様々な条件に基づいて制御部で流路開閉部を制御することで、外気温が低い状態にあるときであっても、効率良く暖房運転を自動的に行って、乗員の快適性を適切に高めることが可能となる。
【0016】
上記車両用空気調和システムにおいて、前記制御部は、外気温が予め定めた温度基準値よりも低いときに、前記流路開閉部を開き、前記空気循環路を通して前記熱交換器の上流側に前記空気を吐出させるとさらに好適である。
【0017】
このような車両用空気調和システムによれば、外気温が温度基準値よりも低い場合に、熱交換器を経て加熱された空気を、空気循環路を通して熱交換器の上流側に自動的に循環させることができる。
【0018】
上記車両用空気調和システムにおいて、前記制御部は、前記空気の湿度が予め定めた湿度基準値よりも高いときに、前記流路開閉部を開き、前記空気を除湿する除湿部よりも上流側に前記空気を吐出させるとさらに好適である。
【0019】
このような車両用空気調和システムによれば、空気の湿度が湿度基準値よりも高い場合、熱交換器を経て加熱された空気が自動的に除湿部を経ることになる。これにより、車内空間に供給される空気の除湿を適切に行うことができる。
【0020】
上記車両用空気調和システムにおいて、前記制御部は、前記液媒の温度が予め定めた液媒温度基準値よりも低いときに、前記ブロワの作動を停止させるとさらに好適である。
【0021】
このような車両用空気調和システムによれば、液媒の温度が過度に低い状態では、空気が熱交換器を経ても、空気の加熱が十分になされない。このような場合、ブロワを作動させて空気を吹出口から車内空間に供給すると、車内空間の温度が低下してしまうことがある。そこで、このような状態のときに、ブロワの作動を停止させることで、車内空間の温度低下を抑えることができる。
【0022】
上記車両用空気調和システムにおいて、前記制御部は、前記空気循環路を通して前記空気を前記空気流路部内に吐出するとき、前記ブロワにおける前記空気の風量を増大させるとさらに好適である。
【0023】
このような車両用空気調和システムによれば、空気を空気循環路に通さない場合に比較して、熱交換器を経た空気の一部を空気循環路に通すと吹出口から車内区間に吹き出される空気の風量が減るのを、ブロワにおける空気の風量の増大によって補うことができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の車両用空気調和システムによれば、外気温が低い状態であっても、効率良く暖房運転を行って乗員の快適性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態に係る車両用空気調和システムの概略構成を示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る車両用空気調和システムにおいて、空気循環路を通してヒータコアの上流側に空気を循環させている状態を示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係る車両用空気調和システムにおいて、空気循環路を通してエバポレータの上流側に空気を循環させている状態を示す図である。
図4】本発明の一実施形態に係る車両用空気調和システムの制御方法の流れを示す図である。
図5】本発明の一実施形態に係る車両用空気調和システムの制御方法における、内気循環運転の流れを示す図である。
図6】本発明の一実施形態に係る車両用空気調和システムの制御方法における、除湿循環運転の流れを示す図である。
図7】本発明の一実施形態に係る車両用空気調和システムにおいて、外気導入モードにおいて、空気循環路を通してヒータコアの上流側に空気を循環させている状態を示す図である。
図8】本発明の一実施形態に係る車両用空気調和システムの制御方法における、外気循環運転の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明に係る実施形態について、図面を参照して説明する。
図1に示すように、車両用空気調和システム10は、自動車等の車両1に設けられる。車両用空気調和システム10は、車両1の外部の車外空間2や車両1内の車内空間3から取り込んだ空気の温度や湿度を調整し、車内空間3に供給する。
車両用空気調和システム10は、空気流路部11と、ブロワ20と、エバポレータ(除湿部)30と、ヒータコア(熱交換器)40と、空気循環路50と、制御部60と、を主に備えている。
【0027】
空気流路部11は、車内空間3に供給される空気が流れる流路を形成する。空気流路部11は、車外空間2から空気を取り込む外気取込口12と、車内空間3から空気を取り込む内気取込口13と、車内空間3に空気を吹き出す吹出口14と、を備えている。
【0028】
外気取込口12には、ダクト12dが開閉可能に設けられている。ダクト12dを開閉することで、外気取込口12における車外空間2からの空気の取込を断続できるようになっている。ダクト12dで外気取込口12を開いた状態では、空気流路部11内には、外気取込口12から取り込まれる車外空間2の空気(外気)と、内気取込口13から取り込まれる車内空間3の空気(内気)とが取り込まれる。ダクト12dで外気取込口12を閉じると、空気流路部11内には、内気取込口13を通して車内空間3からの空気が取り込まれる。
【0029】
吹出口14は、車両1のウィンドウに向けて空気を吹き出すデフロスター吹出口14Aと、車両1内のシート(図示無し)に着座した乗員の主に上肢に向けて空気を吹き出すメイン吹出口14Bと、シートに着座した乗員の足元に向けて空気を吹き出すフット吹出口14Cと、を備えている。もちろん、吹出口14は、これ以外の部位に向けて空気を吹き出すように適宜設けることができる。
【0030】
ブロワ20は、空気流路部11内に設けられ、車内空間3に空気を送る。ブロワ20は、外気取込口12及び内気取込口13側から、吹出口14側に向かって空気を送る。
【0031】
エバポレータ30は、コンプレッサ31で圧縮された冷媒と熱交換することで、空気流路部11を流れる空気の冷却、除湿を図る。エバポレータ30は、空気流路部11内に設けられ、ブロワ20よりも、空気流路部11内における空気の流れ方向の下流側に設けられている。エバポレータ30は、ヒータコア40よりも空気の流れ方向上流側に設けられている。
【0032】
ヒータコア40は、車両1で用いられるエンジン(図示無し)の冷却水(液媒)等を熱源として、空気流路部11を流れる空気を加熱する。ヒータコア40は、空気流路部11内に設けられ、エバポレータ30よりも、空気流路部11内における空気の流れ方向の下流側に設けられている。
【0033】
空気流路部11内には、ヒータコア40に隣接して、ミクスチャーバルブ15が開閉可能に設けられている。ミクスチャーバルブ15の開度を調整することで、ヒータコア40を流れる空気の風量を調整する。
【0034】
空気循環路50は、ヒータコア40を経た空気の一部を、ヒータコア40よりも空気の流れ方向上流側で空気流路部11に循環させる。空気循環路50は、空気取込口51と、ヒータ上流側吐出口(空気吐出口)52と、エバポレータ上流側吐出口(空気吐出口)53と、を備えている。
空気取込口51は、ヒータコア40よりも空気の流れ方向下流側に設けられ、ヒータコア40を経た空気の一部を空気流路部11から空気循環路50に取り込む。
【0035】
ヒータ上流側吐出口52、エバポレータ上流側吐出口53は、空気の流れ方向においてブロワ20よりも下流側に設けられている。ヒータ上流側吐出口52、エバポレータ上流側吐出口53は、空気循環路50内の空気を、空気流路部11に吐出する。
ヒータ上流側吐出口52は、ヒータコア40よりも空気の流れ方向上流側に設けられている。ヒータ上流側吐出口52は、空気の流れ方向においてエバポレータ30とヒータコア40との間に設けられている。
エバポレータ上流側吐出口53は、空気の流れ方向においてエバポレータ30よりも上流側に設けられている。
【0036】
ヒータ上流側吐出口52、エバポレータ上流側吐出口53には、それぞれ空気流路部11内に吐出される空気の流れをガードするフード52f、53fが設けられている。
【0037】
空気取込口51、ヒータ上流側吐出口52、エバポレータ上流側吐出口53には、それぞれ入口扉(空気吐出口)54、ヒータ出口扉(空気吐出口)55、エバポレータ出口扉(空気吐出口)56が開閉可能に設けられている。入口扉54は、開閉することで、空気取込口51から空気循環路50への空気の取込を断続する。ヒータ出口扉55は、開閉することで、ヒータ上流側吐出口52から空気流路部11への空気の吐出を断続する。エバポレータ出口扉56は、開閉することで、エバポレータ上流側吐出口53から空気流路部11への空気の吐出を断続する。
【0038】
これらの入口扉54、ヒータ出口扉55、エバポレータ出口扉56は、ヒータコア40よりも上流側への空気の吐出を断続する。具体的には、図2に示すように、入口扉54とヒータ出口扉55とを開くと、ヒータコア40で加熱された空気の一部が、空気取込口51から空気循環路50に取り込まれ、ヒータ上流側吐出口52からヒータコア40の上流側に吐出される。吐出された空気は、ヒータコア40を経ることで、さらに加熱される。
また、図3に示すように、入口扉54とエバポレータ出口扉56とを開くと、ヒータコア40で加熱された空気の一部が、空気取込口51から空気循環路50に取り込まれ、エバポレータ上流側吐出口53からエバポレータ30の上流側に吐出される。吐出された空気は、エバポレータ30を経ることで除湿された後、さらにヒータコア40を経ることで加熱される。
【0039】
制御部60は、空気循環路50における空気の循環を制御する。制御部60は、外気温が低く、しかも冷却水の温度が低い状態で暖房運転を行うときに、ヒータコア40で加熱された空気を空気循環路50を通してヒータコア40の上流側に循環させる。このため、制御部60は、例えば空気流路部11の入口側に設けられた湿度センサ61で検出される車内の湿度、車両1のコントローラ等から取得される外気温度、車内温度、冷却水温度等に基づいて、予め設定されたコンピュータプログラムの処理に応じた制御を行う。制御部60は、外気取込口12のダクト12d、ブロワ20、入口扉54、ヒータ出口扉55、エバポレータ出口扉56、コンプレッサ31等の動作を制御する。
【0040】
以下、制御部60における車両用空気調和システム10の制御方法について説明する。
制御部60は、例えば、車両1に設けられた「温感優先スイッチ」等を操作し、乗員が吹出口14から速やかに温風が吹き出されることを要求した場合や、車両1に設けられた温度検出センサ等によって、乗員の手等が冷えていることを検出した場合等に、以下のような制御を実行する。もちろん、制御部60は、これ以外の場合に、同様の制御を実行してもよい。また、以下に示す制御部60における一連の制御は、所定時間毎に繰り返し実行される。
【0041】
図4に示すように、制御部60は、エンジンの冷却水の温度が、所定の温度W1以上であるか否かを判断する(ステップS1)。その結果、冷却水の温度がW1以上であり、十分に暖まっている場合、通常運転を実行する(ステップS2)。通常運転では、入口扉54、ヒータ出口扉55、エバポレータ出口扉56を全て閉じ、空気流路部11内の空気を空気循環路50に流入させない。冷却水が十分に暖まっている状態であれば、空気流路部11を流れる空気は、ヒータコア40で十分に加熱された後、吹出口14から車内空間3に吹き出される。
【0042】
ステップS1において、冷却水の温度が、W1未満であった場合、制御部60は、外気温度が、予め定めた設定値(温度基準値)T1未満であるか否かを判断する(ステップS3)。その結果、外気温度がT1未満のように温度が低い状態であれば、制御部60は、外気取込口12のダクト12dを閉じ、内気取込口13からのみ車内空間3の空気を取り込む内気循環モードに切り替える(ステップS4)。
【0043】
内気循環モードへの切替後、制御部60は、湿度センサ61で検出される車内空間3の空気の湿度が、予め定めた湿度基準値H以上であるか否かを判断する(ステップS5)。その結果、湿度が、湿度基準値H未満であり、低湿度であった場合には、内気循環運転S10に移行する。内気循環運転S10では、車内空間3から取り込んだ車内空間3の空気をヒータコア40で加熱した後、その一部を空気循環路50に取り込み、ヒータコア40の上流側に循環させる。
【0044】
図5に示すように、内気循環運転S10では、まず、制御部60は、エンジンの冷却水の温度が、所定の温度(液媒温度基準値)W2(W2<W1)未満であるか否かを判断する(ステップS11)。ステップS11において、冷却水の温度が、W2未満である場合、外気温も0℃未満で、冷却水の温度も極端に低い状態となっている。このような状態では、ヒータコア40に空気を通しても空気はほとんど加熱されない。したがって、制御部60は、ブロワ20の作動を停止させて空気流路部11内の風量をゼロ(0)とし、入口扉54、ヒータ出口扉55、エバポレータ出口扉56を全て閉じる(ステップS12)。これにより、吹出口14から車内空間3に低温の空気が吹き出されるのを抑える。
【0045】
ステップS11において、冷却水の温度がW2以上であった場合、制御部60は、エンジンの冷却水の温度が、所定の温度W3(W3>W2)未満であるか否かを判断する(ステップS13)。その結果、冷却水の温度がW3未満(つまり、W2以上W3未満)である場合、ブロワ20を作動させるとともに、図2に示すように、入口扉54とヒータ出口扉55とを開く(ステップS14)。すると、ヒータコア40で加熱された空気の一部が、空気取込口51から空気循環路50に取り込まれ、ヒータ上流側吐出口52からヒータコア40の上流側に吐出される。吐出された空気は、ヒータコア40を経ることで、さらに加熱される。
このとき、ブロワ20による風量は、例えば、「小」、「中」、「大」の3段階が設定されている場合、風量「中」と設定する。このときのブロワ20による風量は、空気循環路50に空気を取り込まない場合に比較し、1段階多く設定されている。これにより、空気循環路50に空気を取り込むことによって吹出口14から車内空間3に吹き出される空気の風量が減るのを補う。
【0046】
ステップS13において、冷却水の温度がW3以上であった場合、冷却水の温度は、W3以上W1未満と比較的高温である。この場合、ブロワ20を作動させ、ステップS14のときより空気の風量を増加させる(風量「大」)とともに、図2に示すように、入口扉54と、ヒータ出口扉55とを開く(ステップS15)。すると、ヒータコア40で加熱された空気の一部が、空気取込口51から空気循環路50に取り込まれ、ヒータ上流側吐出口52からヒータコア40の上流側に吐出される。吐出された空気は、ヒータコア40を経ることで、さらに加熱される。
【0047】
また、図4のステップS5において、検出された車内空間3の湿度が湿度基準値H以上の高湿状態であった場合、除湿循環運転S20に移行する。除湿循環運転S20では、ヒータコア40を経た空気を空気循環路50に取り込み、エバポレータ30の上流側に循環させる。
【0048】
図6に示すように、除湿循環運転S20では、制御部60は、コンプレッサ31を作動させ、エバポレータ30に冷媒を流す(ステップS21)。
次に、制御部60は、エンジンの冷却水の温度が、所定の温度W2以上W3未満であるか否かを判断する(ステップS22)。ステップS22において、冷却水の温度が、W2以上W3未満である場合、ブロワ20を作動させる(風量「中」)とともに、図3に示すように、入口扉54とエバポレータ出口扉56とを開く(ステップS23)。すると、ヒータコア40で加熱された空気の一部が、空気取込口51から空気循環路50に取り込まれ、エバポレータ出口扉56からエバポレータ30の上流側に吐出される。吐出された空気は、エバポレータ30を経ることで除湿された後、さらにヒータコア40を経ることで加熱される。
【0049】
ステップS22において、冷却水の温度がW2以上W3未満ではなかった場合、冷却水の温度は、W3以上W1未満と比較的高温であることになる。この場合、ブロワ20を作動させ、ステップS23のときより空気の風量を増加させる(風量「大」)とともに、図3に示すように、入口扉54とエバポレータ出口扉56とを開く(ステップS25)。すると、ヒータコア40で加熱された空気の一部が、空気取込口51から空気循環路50に取り込まれ、エバポレータ出口扉56からエバポレータ30の上流側に吐出される。吐出された空気は、エバポレータ30を経ることで除湿された後、さらにヒータコア40を経ることで加熱される。
【0050】
また、図4のステップS3において、外気温度が、予め定めた設定値T1以上であった場合、制御部60は、外気温度が、予め定めた設定値T2(T2>T1)未満であるか否かを判断する(ステップS6)。その結果、外気温度がT2未満の比較的低温の状態であれば、制御部60は、図7に示すように、外気取込口12のダクト12dを開き、外気取込口12から空気を取り込む外気導入モードに切り替える(ステップS7)。次いで、制御部60は、外気循環運転S30に移行する。外気循環運転S30では、車外から取り込んだ車外空間2の空気をヒータコア40で加熱した後、その一部を空気循環路50に取り込み、ヒータコア40の上流側に循環させる。
【0051】
図8に示すように、外気循環運転S30では、エンジンの冷却水の温度が、所定の温度W3未満であるか否かを判断する(ステップS31)。ステップS31において、冷却水の温度が、W3未満である場合、ブロワ20を作動させる(風量「中」)とともに、図7に示すように、入口扉54とヒータ出口扉55とを開く(ステップS32)。すると、ヒータコア40で加熱された空気の一部が、空気取込口51から空気循環路50に取り込まれ、ヒータ出口扉55からヒータコア40の上流側に吐出される。吐出された空気は、ヒータコア40を経ることで、さらに加熱される。
【0052】
ステップS31において、冷却水の温度がW3未満ではなかった場合、冷却水の温度は、W3以上W1未満と比較的高温であることになる。この場合、ブロワ20を作動させ、ステップS32のときより空気の風量を増加させる(風量「大」)とともに、図7に示すように、入口扉54とヒータ出口扉55とを開く(ステップS33)。すると、ヒータコア40で加熱された空気の一部が、空気取込口51から空気循環路50に取り込まれ、ヒータ出口扉55からヒータコア40の上流側に吐出される。吐出された空気は、ヒータコア40を経ることで、さらに加熱される。
【0053】
また、図4のステップS6において、外気温度が、予め定めた設定値T2以上であった場合、ステップS2と同様の通常運転に移行する(ステップS8)。
【0054】
上記したような制御部60の制御における、各部の状態を、表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
上述したような車両用空気調和システム10は、車内空間3に供給される空気が流れる空気流路部11と、空気流路部11内に設けられ、車内空間3に空気を送るブロワ20と、空気流路部11内に設けられ、車両1で用いられる液媒を熱源として空気を加熱するヒータコア40と、ヒータコア40を経た空気を車内空間3に吹き出す吹出口14と、ヒータコア40よりも空気の流れ方向下流側に設けられ、ヒータコア40を経た空気の一部を空気流路部11から取り込む空気取込口51、及びヒータコア40よりも空気の流れ方向上流側に設けられ、空気取込口51から取り込んだ空気を空気流路部11に吐出するヒータ上流側吐出口52、エバポレータ上流側吐出口53を有した空気循環路50と、を備える。
このような車両用空気調和システム10によれば、ヒータコア40を経た空気の一部を、空気流路部11から空気取込口51から空気循環路50に取り込む。取り込まれた空気は、ヒータコア40よりも上流側に設けられたヒータ上流側吐出口52、エバポレータ上流側吐出口53から空気流路部11に吐出される。これにより、ヒータコア40を経て加熱された空気が、空気循環路50を介してヒータコア40の上流側に供給され、ヒータコア40の入口の空気温度が上昇する。この空気をヒータコア40で加熱すると、ヒータコア40の出口の空気温度も上昇する。その結果、ヒータコア40を経て吹出口14から車内空間3に吹き出される空気の温度が、効率良く上昇する。したがって、外気温が低い状態であっても、効率良く暖房運転を行って乗員の快適性を高めることが可能となる。
【0057】
また、ヒータ上流側吐出口52、エバポレータ上流側吐出口53は、空気の流れ方向においてブロワ20よりも下流側に設けられている。
このような構成によれば、ブロワ20よりも下流側の、よりヒータコア40に近い位置で、ヒータ上流側吐出口52、エバポレータ上流側吐出口53から空気を吐出することができる。これにより、ヒータ上流側吐出口52、エバポレータ上流側吐出口53から吐出された空気は、ブロワ20を経ずにヒータコア40に到達する。したがって、ヒータコア40を経てヒータ上流側吐出口52、エバポレータ上流側吐出口53から吐出された空気の温度が、ヒータコア40に到達するまでに低下してしまうのを抑えることができる。これにより、効率良く暖房運転を行って乗員の快適性を高めることが可能となる。
【0058】
また、空気流路部11内において、ヒータコア40よりも空気の流れ方向上流側に設けられ、空気を除湿するエバポレータ30をさらに備え、ヒータ上流側吐出口52は、空気の流れ方向においてエバポレータ30とヒータコア40との間に設けられている。
このような構成によれば、エバポレータ30よりも下流側の、よりヒータコア40に近い位置で、ヒータ上流側吐出口52から空気を吐出することができる。これにより、ヒータ上流側吐出口52から吐出された空気は、エバポレータ30を経ずにヒータコア40に到達する。したがって、ヒータコア40を経てヒータ上流側吐出口52から吐出された空気の温度が、ヒータコア40に到達するまでに低下してしまうのを抑えることができる。これにより、効率良く暖房運転を行って乗員の快適性を高めることが可能となる。
【0059】
また、エバポレータ上流側吐出口53は、空気の流れ方向においてエバポレータ30よりも上流側に設けられている。
このような構成によれば、ヒータコア40を経て加熱された空気が、空気循環路50を介してエバポレータ30の上流側に供給される。この空気がエバポレータ30を経ることで、車内空間3に供給される空気の除湿が図られる。これによって、ウィンドウの曇りを抑え、乗員の快適性を高めることができる。
【0060】
また、車両用空気調和システム10は、空気取込口51及びヒータ上流側吐出口52、エバポレータ上流側吐出口53に設けられ、ヒータコア40よりも上流側への空気の吐出を断続する入口扉54、ヒータ出口扉55、エバポレータ出口扉56と、入口扉54、ヒータ出口扉55、エバポレータ出口扉56を制御する制御部60と、を備えている。
このような構成によれば、様々な条件に基づいて制御部60で入口扉54、ヒータ出口扉55、エバポレータ出口扉56を制御することで、外気温が低い状態であっても、効率良く暖房運転を行って乗員の快適性を適切に高めることが可能となる。
【0061】
また、制御部60は、外気温が予め定めた設定値T2よりも低いときに、ヒータ出口扉55又はエバポレータ出口扉56を開き、空気循環路50を通してヒータコア40の上流側に空気を吐出させる。
このような構成によれば、外気温が設定値T2よりも低い場合に、ヒータコア40を経て加熱された空気を、空気循環路50を通してヒータコア40の上流側に、自動的に循環させることができる。
【0062】
また、制御部60は、空気の湿度が予め定めた湿度基準値Hよりも高いときに、エバポレータ出口扉56を開き、空気を除湿するエバポレータ30よりも上流側に空気を吐出させる。
このような構成によれば、空気の湿度が湿度基準値Hよりも高い場合、ヒータコア40を経て加熱された空気が、エバポレータ30を経ることで、車内空間3に供給される空気の除湿を自動的に行うことができる。
【0063】
また、制御部60は、冷却水の温度が予め定めた温度W2よりも低いときに、ブロワ20の作動を停止させる。
このような構成によれば、冷却水の温度が過度に低い状態では、空気がヒータコア40を経ても、空気の加熱が十分になされない。このような場合、ブロワ20を作動させて空気を吹出口14から車内空間3に供給すると、車内空間3の温度が低下してしまうことがある。そこで、このような状態のときに、ブロワ20の作動を停止させることで、車内空間3の温度低下を抑えることができる。
【0064】
また、制御部60は、空気循環路50を通して空気を空気流路部11内に吐出するとき、ブロワ20における空気の風量を増大させる。
このような構成によれば、ヒータコア40を経た空気の一部を空気循環路50に通すと、空気の一部を空気循環路50に通さない場合に比較して、吹出口14から車内区間に吹き出される空気の風量が減る。これに対し、ブロワ20における空気の風量を増大させることによって、風量を補うことができる。
【0065】
なお、上記実施形態において、制御部60における制御の流れや、各種の判断基準となる数値を例示したが、もちろん、その処理の順序、数値等は適宜変更してもよい。さらに、湿度、車外温度、車内温度、冷却水の温度等の様々な条件に応じて、ブロワ20の風量、空気循環路50の入口扉54、ヒータ出口扉55、エバポレータ出口扉56、コンプレッサ31等の各部の状態を上記した以外に設定してもよい。
【0066】
また、上記実施形態において、ヒータ上流側吐出口52と、エバポレータ上流側吐出口53と、を備えるようにしたが、いずれか一方のみを備えるようにしてもよい。
また、ヒータ上流側吐出口52、エバポレータ上流側吐出口53に、フード52f、53fを備えるようにしたが、ヒータ上流側吐出口52、エバポレータ上流側吐出口53から空気流路部11内に空気を効率良く吐出させることができるのであれば、例えば、ファン等を設けてもよい。
【0067】
また、上記実施形態において、ヒータコア40の熱源として、車両1のエンジンの冷却水を用いるようにしたが、これ以外のものを用いてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 車両
3 車内空間
10 車両用空気調和システム
11 空気流路部
14 吹出口
20 ブロワ
30 エバポレータ(除湿部)
40 ヒータコア(熱交換器)
50 空気循環路
51 空気取込口
52 ヒータ上流側吐出口(空気吐出口)
53 エバポレータ上流側吐出口(空気吐出口)
54 入口扉(流路開閉部)
55 ヒータ出口扉(流路開閉部)
56 エバポレータ出口扉(流路開閉部)
60 制御部
H 湿度基準値
T1 設定値(温度基準値)
W2 温度(液媒温度基準値)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8