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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】混合物、水分散液及び酸化防止剤
(51)【国際特許分類】
   C07C 323/52 20060101AFI20230904BHJP
   C09K 15/12 20060101ALI20230904BHJP
【FI】
C07C323/52 CSP
C09K15/12
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019058423
(22)【出願日】2019-03-26
(65)【公開番号】P2020158426
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-03-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】396020464
【氏名又は名称】株式会社エーピーアイ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 耕太郎
(72)【発明者】
【氏名】伊勢 道隆
【審査官】安藤 倫世
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-244339(JP,A)
【文献】特開昭62-220534(JP,A)
【文献】特開平05-065481(JP,A)
【文献】特開2003-327883(JP,A)
【文献】特開2010-121098(JP,A)
【文献】特開2010-006950(JP,A)
【文献】特開平05-098571(JP,A)
【文献】特表平02-503674(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C09K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるジエステル、下記式(2)で表されるモノエステル及び水を含む混合物であって、
[式(2)で表されるモノエステルの重量]/[式(1)で表されるジエステルの重量]が0.01以上0.60以下である、混合物。
【化1】

(上記式(1)において、R~Rは水素であり、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数12以上18以下のアルキル基であり、m及びnはいずれも2である。上記式(2)において、R~R10は水素であり、R11は炭素数12以上18以下のアルキル基
であり、R12は金属であり、k及びlはいずれも2である。)
【請求項2】
前記式(2)で表されるモノエステルのR12の金属は1族金属又は2族金属である請求項1記載の混合物。
【請求項3】
前期式(1)で表されるジエステル濃度が10重量%以上60重量%以下である、請求項1又は2のいずれか一項に記載の混合物。
【請求項4】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の混合物を含む水分散液。
【請求項5】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の混合物又は請求項に記載の水分散液からなる酸化防止剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存安定性及び取扱い性に優れた混合物及び水分散液に関する。また、本発明は、この混合物又は水分散液を用いた酸化防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル樹脂、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂、MBS(メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン)等の水媒体中で懸濁重合法又は乳化重合法により重合する樹脂は、空気中の酸素や光により酸化されるため、これらを製造する際には酸化防止剤や光安定剤が用いられる。これらの添加剤を樹脂中に均一に分散するために、重合時に重合体が溶液状態又はスラリー状態の間に添加するのが好ましい方法とされている。
【0003】
以前より、酸化防止剤と、乳化剤あるいは懸濁剤をそれぞれ単独で、又は乳化剤および懸濁剤を併用して水中に分散させる方法が提案されている。しかしながら、一般に分散液は不安定な状態であり、凝集や分離等の経時変化が発生しにくいことが求められる。そのため、乳化剤の選定や量比に関する検討が多くなされているが、いまだこれを満足するものはない。
【0004】
上記のような乳化剤を用いて分散する方法のうち、ジアルキルチオジプロピオネートを用いる方法が提案されている。例えば、特許文献1において、ジアルキルチオジプロピオネートの分散液作成において、高級アルコールの硫酸塩等を乳化剤として使用されている
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平5-65481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されているジアルキルチオジプロピオネート系酸化防止剤の分散液は保存安定性の点で、いまだ満足できる分散製剤ができていないのが現状である。そこで、本発明の目的は、ジアルキルチオジプロピオネート系化合物を用いながらも、保存安定性に優れた水分散液、並びにこれを用いた酸化防止剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者が上記課題を解決するために詳細な検討を行った結果、特定のジエステルと特定のモノエステルを含む水分散液により、上記課題を解決することを見出した。即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0008】
[1] 下記式(1)で表されるジエステル、下記式(2)で表されるモノエステル及び水を含む混合物。
【0009】
【化1】
【0010】
(上記式(1)において、R~Rはそれぞれ独立して、水素又は炭素数が1以上12以下のアルキル基であり、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数1以上34以下のアルキル基又は炭素数3以上34以下のアルケニル基であり、m及びnはそれぞれ独立して、1以上8以下の整数である。上記式(2)において、R~R10はそれぞれ独立して、水素又は炭素数が1以上12以下のアルキル基であり、R11は炭素数1以上34以下のアルキル基又は炭素数3以上34以下のアルケニル基であり、R12は金属であり、k及びlはそれぞれ独立して、1以上8以下の整数である。)
【0011】
[2] 前記式(1)において、m及びnがいずれも1以上3以下の整数であり、かつ前記式(2)において、k及びlがいずれも1以上3以下の整数である、[1]に記載の混合物。
[3] 前記式(1)及び前記式(2)において、m=n=k=lである、[1]又は[2]に記載の混合物。
[4] 前記式(2)で表されるモノエステルのR12の金属は1族金属又は2族金属である[1]乃至[3]のいずれか一つに記載の混合物。
【0012】
[5] 前記式(1)で表されるジエステル濃度が10重量%以上60重量%以下である、[1]乃至[4]のいずれか一つに記載の混合物。
[6] [式(2)で表されるモノエステルの重量]/[式(1)で表されるジエステルの重量]が0.01以上0.60以下である、[1]乃至[5]のいずれか一つに記載の混合物。
【0013】
[7] [1]乃至[6]のいずれか一つに記載の混合物を含む水分散液。
[8] [1]乃至[6]のいずれか一つに記載の混合物又は[7]に記載の水分散液からなる酸化防止剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明の混合物によれば、保存安定性に優れ、かつ取扱いが容易な混合物、並びにこれを用いた水分散液及び酸化防止剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
【0016】
〔混合物〕
本発明の混合物は、下記式(1)で表されるジエステル、下記式(2)で表されるモノエステル及び水を含むものである。なお、以下において、式(1)で表されるジエステルを「ジエステル(1)」と称し、式(2)で表されるモノエステルを「モノエステル(2)」と称することがある。
【0017】
【化2】
【0018】
本発明の混合物は水分散液の状態であることが好ましい。即ち、本発明の水分散液は、本発明の混合物を含むものである。
【0019】
本発明の混合物及び本発明の水分散液は、水媒中に分散されたジエステル(1)の粒径の保存安定性に優れるという効果を奏する。本発明がこのような効果を奏する理由はモノエステル(2)には親水基と疎水基が共存し、良好な乳化性を発現することと、後掲の比較例に示すようなオレイン酸と比較して分散質であるジエステル(1)に類似の構造を有しているため、ジエステル(1)表面での吸着安定性が高いことに起因するものと考えられる。
【0020】
<ジエステル(1)>
前記式(1)において、R~Rはそれぞれ独立して、水素又は炭素数が1以上12以下のアルキル基である。R~Rが以上のものであると、酸化防止能に優れたものとなり、特にこの観点から水素又は炭素数が8以下のアルキル基であることが好ましく、水素であることが最も好ましい。
【0021】
前記式(1)において、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数1以上34以下のアルキル基又は炭素数3以上34以下のアルケニル基である。R及びRが以上のものであると、本発明の混合物を樹脂に添加した際に酸化防止能が高められる。樹脂に添加した際にジエステル(1)の揮発性を抑制する観点からアルキル基又はアルケニル基の炭素数は、8以上であることが好ましく、12以上であることがより好ましい。また、酸化防止能の観点からアルキル基又はアルケニル基の炭素数は、22以下であることが好ましく、18以下であることがより好ましい。
【0022】
前記式(1)において、m及びnはそれぞれ独立して、1以上8以下の整数である。m及びnが以上の範囲であると、酸化防止能が高くなり、この観点からm及びnは、それぞれ独立して、1以上3以下の整数であることが好ましく、2であることが最も好ましい。
また、合成のし易さの観点から、m及びnは同一であることが好ましい。
【0023】
<モノエステル(2)>
前記式(2)において、R~R10はそれぞれ独立して、水素又は炭素数が1以上12以下のアルキル基である。R~R10が以上のものであると、酸化防止能が高められ、この観点から、水素又は炭素数が8以下のアルキル基であることが好ましく、水素であることが最も好ましい。
【0024】
前記式(2)において、R11は炭素数1以上34以下のアルキル基又は炭素数3以上34以下のアルケニル基である。R11が以上のものであることで酸化防止能を高めることができる。樹脂に添加後のモノエステル(2)の揮発性を抑制する観点からアルキル基又はアルケニル基の炭素数は、8以上であることが好ましく、12以上であることがより好ましい。また、酸化防止能の観点からアルキル基又はアルケニル基炭素数は、22以下であることが好ましく、18以下であることがより好ましい。
【0025】
前記式(2)において、k及びlはそれぞれ独立して1以上8以下の整数である。酸化防止能の観点からk及びlは1以上3以下の整数であることが好ましく、2であることが最も好ましい。合成のし易さの観点から、kとlは同一の値であることが好ましい。更に、ジエステル(1)のm、nと、モノエステル(2)のk、lはいずれも同じ値であること、即ちm=n=k=lであることが特に好ましい。
【0026】
前記式(2)において、R12は金属である。アルカリ原料の入手しやすさの観点で金属はリチウム、ナトリウム、カリウム等の1族金属又はマグネシウム、カルシウム、バリウム等の2族金属である。さらにナトリウム、カリウムから選ばれるものが好ましい。
【0027】
尚、混合物の入手及び本発明の効果の点から、RとR、RとR、RとR、RとR10がそれぞれ同一の基を表し、R、R及びR11が同一であるのが好ましい。
【0028】
本発明の混合物及び本発明の水分散液を使用した樹脂の製造効率の観点から、ジエステル(1)の濃度は混合物全体に対し、好ましくは10重量%以上であり、より好ましくは13重量%以上であり、更に好ましくは15重量%以上であり、一方、水分散液の保存安定性の観点から好ましくは60重量%以下であり、より好ましくは55重量%以下であり、更に好ましくは53重量%以下である。ジエステル(1)濃度が高すぎると粒子が凝集しやすくなる場合がある。
【0029】
本発明の混合物及び本発明の水分散液において、分散時間を短くする観点から、モノエステル(2)の濃度は混合物全体に対し、好ましくは0.1重量%以上であり、より好ましくは1重量%以上であり、更に好ましくは2重量%以上であり、一方、好ましくは36重量%以下であり、より好ましくは25重量%以下であり、更に好ましくは10重量%以下である。モノエステル(2)の濃度が低すぎると、分散質に対して分散剤として機能するモノエステルの量が不足して、分散液を分散しにくくなる場合がある。モノエステル(2)濃度が高すぎると、分散工程中に泡立ち、分散しにくくなる場合がある。
【0030】
本発明の混合物において、[モノエステルの重量]/[ジエステルの重量]は、混合物を水分散液としたときの分散時間を短くする観点から、好ましくは0.01以上であり、より好ましくは0.02以上であり、更に好ましくは0.03以上であり、一方、好ましくは0.60以下であり、より好ましくは0.40以下であり、更に好ましくは0.20以下である。[モノエステルの重量]/[ジエステルの重量]が低すぎると、分散質であるジエステル(1)に対して分散剤として機能するモノエステルの量が不足して、分散し
にくくなる場合がある。[モノエステルの重量]/[ジエステルの重量]が高すぎると、分散工程中に泡立ち、分散しにくくなる場合がある。
【0031】
<その他の成分>
本発明の混合物には他の添加剤も使用することができる。他の添加剤については次に例示するが、これらに限定されるものではない。他の添加剤とはフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤である。フェノール系酸化防止剤とは、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、エチレンビス(オキシエチレン)ビス(3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート)、チオジエチレンビス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオンアミド))、オクチル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロ肉桂酸、2,4,6-トリス(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)メシチレン、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、ヘキサメチレンビス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、オクタデシル-3-(3,5 -ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ポリ(ジシクロペンタジエン-co-p-クレゾール)等が挙げられる。また、リン系酸化防止剤とは亜りん酸トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)等が挙げられる。また、アミン系酸化防止剤とは2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール等が挙げられる。
【0032】
<製造方法>
以下により、本発明の混合物の製造方法の例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
[エステル混合物の合成処方A]
含硫黄ジカルボン酸を仕込み、長鎖アルキル基を有する高級アルコールを仕込む。原料が均一になるまで加熱し、撹拌する。系内を脱水しながら、水の留出がなくなるまで反応させる。このとき、酸触媒を添加してもよい。反応完了後、水と混合し、撹拌、静置し、水層を排出する。この操作を数回繰り返すことが好ましい。そののち油層中の水分を除去し、得られた油層を冷却してエステル混合物を得ることができる。
【0034】
高級アルコールの仕込み量は含硫黄ジカルボン酸のモル数に対して、0.5倍モル以上2倍モル未満から選択することができる。反応温度、圧力、時間は原料である高級アルコールの種類により適宜設定できるが、反応温度は20~200℃、反応時圧力は10~300hPa、反応時間は1~6時間程度が好ましい。
【0035】
前記の酸触媒は酸と水を混合又は溶解したものであり、仕込み量は含硫黄ジカルボン酸のモル数に対して、0.01倍モル以上2倍モル未満から選択することができる。酸は無機酸でも有機酸でも使用することができ、コスト等の観点から無機酸では硫酸、硝酸が好ましく、有機酸ではp-トルエンスルホン酸1水和物、メタンスルホン酸、10-カンファースルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸が好ましい。これらは組み合わせて用いることもできる。
【0036】
[エステル混合物の合成処方B]
ジエステル(1)を仕込み、均一になるまで加熱し、撹拌する。塩基性水溶液と混合し
、加水分解する。反応完了後に水と混合し、撹拌、静置し、水層を排出する操作を数回繰り返すことで中和、洗浄する。そののち、油層中の水分を脱水し、得られた油層を冷却して、エステル混合物を得ることができる。
【0037】
反応温度、時間は原料であるジエステル(1)の種類により適宜設定できるが、反応温度は20~200℃、反応時間は1~6時間程度が好ましい。
【0038】
ここで用いられる塩基性化合物としては無機塩基が好ましく、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等が挙げられる。これらは組み合わせて用いることもできる。その仕込み量はジエステル(1)のモル数に対して、0.01倍モル以上2モル未満から選択することができる。
【0039】
[混合物(水分散液)の作製]
前記の処方A又は処方Bで製造したエステル混合物とジエステル(1)、金属水和物水溶液、水を混合して加熱し、エステル混合物中のモノエステル(2)を金属水和物で中和する。これに対して固形物が全て溶けた時から分散機で撹拌することにより、混合物及び水分散液を作製することができる。
【0040】
金属水和物は無機塩基が好ましく、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等が挙げられる。これらは組み合わせて用いることもできる。その仕込み量はエステル混合物中のモノアルキルチオジプロピオネートのモル数に対して通常、0.5倍モル以上2.0倍モル以下とする。
【0041】
エステル混合物とジエステル(1)の配合は配合後の[(2)で表されるモノエステル塩の重量]/[式(1)で表されるジエステルの重量]が好ましくは0.01以上であり、より好ましくは0.02以上であり、更に好ましくは0.03以上であり、一方、好ましくは0.60以下であり、より好ましくは0.40以下であり、更に好ましくは0.20以下である。水の仕込み量は混合物全体に対して、5重量%以上であることが好ましく、10重量%以上であることがより好ましく、一方、95重量%以下であることが好ましく、90重量%以下であることがより好ましい。
【0042】
<用途>
本発明の混合物及び本発明の水分散液は、凝集や分離等の経時変化が発生しにくいという効果を奏する。このため、水媒体中で重合して製造する樹脂に対しての酸化防止剤等の用途に好適に用いることができる。具体的には、懸濁重合法や乳化重合法によって製造される塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、MBS樹脂等に用いる酸化防止剤として用いることができる。
【実施例
【0043】
以下の実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
(酸触媒の調製)
p-トルエンスルホン酸1水和物(東京化成工業(株)製)6.8g、イオン交換水4.6gを混合、溶解し、酸触媒とした。
【0045】
(エステル混合物の合成)
ラウリルアルコール(富士フイルム和光純薬(株)製)330g(1.8モル)、チオジプロピオン酸(東京化成工業(株)製)237g(1.3モル)を1Lセパラブルフラスコに仕込み、内温が127℃になるまで加熱した。原料が溶解してから撹拌を開始し、
調製した酸触媒を1mL添加した。内温を維持したまま徐々に減圧度を高めていき、最終的には20hPaで水の留出がなくなるまで反応を続けた。そののち、内温を90℃に調整し、イオン交換水142gを添加し、30分間撹拌し、30分間静置し、水層を排出した。再度、イオン交換水142gを添加し、30分間撹拌し、30分間静置し、水層を排出した。内温を100℃にして、ダイヤフラムポンプを使い、267hPaで1時間、53hPaで1時間、13hPaで1時間と段階的に減圧度を上げ、油層中の水分を除去した。水分を除去した油層をSUSバットに排出し、冷却して、エステル混合物を397g得た。このエステル混合物のジエステル組成率をジエステル単体のHPLC分析データから定量し、エステル混合物の組成がジラウリルチオジプロピオネート/モノラウリルチオジプロピオネート(重量比)=63/37であることを確認した。
【0046】
実施例1]
エステル混合物24gとジラウリルチオジプロピオネート(三菱ケミカル(株)製DLTP「ヨシトミ」 以下、DLTPと記す) 244g、30%水酸化カリウム水溶液4.6g、イオン交換水184gを容器にいれ、80℃に加熱し、エステル混合物中のモノラウリルチオジプロピオネートを水酸化カリウムで中和し、モノエステル塩を生成した。固形物が全て溶けた時からホモミキサーで撹拌回転数3000rpmの撹拌を240分間実施し、分散液413gを作製した。製造直後の分散液の平均粒径(D50)は12.2μmであり、2週間後の平均粒径(D50)は12.2μmであった。
【0047】
[実施例2]
エステル混合物47gとDLTP220g、30重量%水酸化カリウム水溶液9g、イオン交換水179gを容器にいれ、80℃に加熱した。固形物が全て溶けた時からホモミキサーで撹拌回転数3000rpmの撹拌を240分間実施し、分散液394gを作製した。製造直後の分散液の平均粒径(D50)は4.8μmであり、2週間後の平均粒径(D50)は4.7μmであった。
【0048】
[実施例3]
エステル混合物83gとDLTP183g、30重量%水酸化カリウム水溶液17g、イオン交換水174gを容器にいれ、80℃に加熱した。固形物が全て溶けた時からホモミキサーで撹拌回転数3000rpmの撹拌を240分間実施し、分散液408gを作製した。製造直後の分散液の平均粒径(D50)は3.6μmでああり、2週間後の平均粒径(D50)は3.5μmであった。
【0049】
[実施例4]
エステル混合物114gと30重量%水酸化カリウム水溶液22g、イオン交換水319gを容器にいれ、80℃に加熱した。固形物が全て溶けた時からホモミキサーで撹拌回転数3000rpmの撹拌を240分間実施し、分散液400gを作製した。製造直後の分散液の平均粒径(D50)は4.2μmであり、2週間後の平均粒径(D50)は4.1μmであった。
【0050】
[比較例1]
DLTP260g、オレイン酸8.3g、30重量%水酸化カリウム水溶液5.5g、イオン交換水183gを容器にいれ、80℃に加熱した。固形物が全て溶けた時からホモミキサーで撹拌回転数3000rpmの撹拌を240分間実施し、分散液433gを作製した。製造直後の分散液の平均粒径(D50)は8.0μmであり、2週間後の平均粒径(D50)は8.9μmであった。
【0051】
[比較例2]
DLTP110g、オレイン酸7.1g、30重量%水酸化カリウム水溶液4.7g、
イオン交換水332gを容器にいれ、80℃に加熱した。固形物が全て溶けた時からホモミキサーで撹拌回転数3000rpmの撹拌を240分間実施し、分散液409gを作製した。製造直後の分散液の平均粒径(D50)は13.5μmであり、2週間後の平均粒径(D50)は14.4μmであった。
【0052】
[比較例3]
DLTP235g、オレイン酸30.1g、30重量%水酸化カリウム水溶液20g、イオン交換水171gを容器にいれ、80℃に加熱した。固形物が全て溶けた時からホモミキサーで撹拌回転数3000rpmの撹拌を240分間実施し、分散させたが、常温に冷却すると固化した。
【0053】
(保存性試験)
前述の手順で作製した分散液を25℃の条件で保存した。初期、2週間後の分散液の平均粒径(D50)の測定を実施し、経時変化の有無を以下の基準で評価した。
◎:保存性試験の初期と2週間後との間で平均粒径の増加が0.2μm未満
○:保存性試験の初期と2週間後との間で平均粒径の増加が0.2μm以上0.5μm未満
△:保存性試験の初期と2週間後との間で平均粒径の増加が0.5μm以上
×:分散液が固化
【0054】
【表1】