(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】状態監視装置および状態監視方法
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20230904BHJP
【FI】
G05B23/02 T
(21)【出願番号】P 2019070046
(22)【出願日】2019-04-01
【審査請求日】2022-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下山 陽太
【審査官】田中 友章
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/133002(WO,A1)
【文献】特開2014-049916(JP,A)
【文献】実開平06-069855(JP,U)
【文献】特開平08-330959(JP,A)
【文献】特開平06-061855(JP,A)
【文献】特開2016-174444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器の状態を監視する状態監視装置であって、
各々が、入力されるアナログ信号をAD変換する複数個の変換回路と、
複数個のセンサの出力信号を受ける複数個の第1の入力ポートと、少なくとも1つの基準電圧を受ける少なくとも1つの第2の入力ポートと、前記複数個の変換回路と接続される複数個の出力ポートとを有するクロスポイントスイッチと、
前記変換回路の故障診断時に、前記第2の入力ポートと、前記出力ポートとを接続させることによって、前記変換回路へ試験信号を供給させて、前記変換回路から出力される前記試験信号のAD変換信号と前記試験信号の理想的なデジタル信号とを比較することによって、前記変換回路の故障を判断するプロセッサとを備え
、
前記クロスポイントスイッチは、複数個の前記基準電圧を受ける複数個の前記第2の入力ポートを備え、
前記プロセッサは、前記変換回路の故障診断時に、複数個の前記第2の入力ポートのうち、前記出力ポートと接続される前記第2の入力ポートを時間的に切り替え、
前記プロセッサは、前記出力ポートと接続される前記第2の入力ポートの切り替え周期を変化させる、状態監視装置。
【請求項2】
前記プロセッサは、前記機器の状態監視時に、前記複数個の第1の入力ポートと、前記複数個の変換回路のうち故障と判断された変換回路を除く複数個の変換回路と接続する複数個の前記出力ポートとを1対1で接続する、請求項1記載の状態監視装置。
【請求項3】
前記プロセッサは、前記機器の状態監視時に、前記複数個の変換回路のうち故障と判断された変換回路以外の変換回路と接続する1つの出力ポートと、前記複数個の前記第1の入力ポートのうちの2個以上とを時間的に切り替えて接続する、請求項1記載の状態監視装置。
【請求項4】
前記プロセッサは、前記変換回路の故障診断時に、前記試験信号のAD変換信号と前記試験信号の理想的なデジタル信号との類似度に基づいて、前記変換回路の故障を判断し、前記類似度は、差分二乗和、正規化された差分二乗和、差分絶対値和、正規化された差分絶対値和、正規化相互相関、および零平均正規化相互相関のうちのいずれかによって表される、請求項1記載の状態監視装置。
【請求項5】
前記プロセッサは、前記試験信号の理想的なデジタル信号を異なる時間量だけずらすことによって得られる複数個の前記類似度のうち最も高い類似度に基づいて、前記変換回路の故障を判断する、請求項
4記載の状態監視装置。
【請求項6】
前記プロセッサは、さらに、前記複数個の類似度のうち最も高い類似度に対応する前記時間量に基づいて、前記変換回路の故障を判断する、請求項
5記載の状態監視装置。
【請求項7】
機器の状態を監視する状態監視装置による状態監視方法であって、
前記状態監視装置は、
各々が、入力されるアナログ信号をAD変換する複数個の変換回路と、
複数個のセンサの出力信号を受ける複数個の第1の入力ポートと、少なくとも1つの基準電圧を受ける少なくとも1つの第2の入力ポートと、前記複数個の変換回路と接続される複数個の出力ポートとを有するクロスポイントスイッチとを備え、
前記状態監視方法は、
前記変換回路の故障診断時に、前記第2の入力ポートと、前記出力ポートとを接続させることによって、前記変換回路へ試験信号を供給するステップと、
前記変換回路から出力される前記試験信号のAD変換信号と前記試験信号の理想的なデジタル信号とを比較することによって、前記変換回路の故障を判断するステップとを備え
、
前記クロスポイントスイッチは、複数個の前記基準電圧を受ける複数個の前記第2の入力ポートを備え、
前記変換回路へ試験信号を供給するステップは、前記変換回路の故障診断時に、複数個の前記第2の入力ポートのうち、前記出力ポートと接続される前記第2の入力ポートを時間的に切り替えるステップと、前記出力ポートと接続される前記第2の入力ポートの切り替え周期を変化させるステップと、を含む、状態監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、状態監視装置および状態監視方法に関し、たとえば風力発電装置内の機器の状態を監視する状態監視装置および状態監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
風力発電装置に設けられた機器の異常を診断する状態監視システムが知られている。たとえば、特許文献1に記載の状態監視システムは、機器の状態を測定する複数のセンサと、センサの測定データから診断パラメータを算出するモニタ装置と、診断パラメータに基づいて機器の異常を診断する監視側制御装置とを含む。
【0003】
特許文献2には、風力発電装置に設けられた機器の状態を測定するセンサの異常を検出することができる状態監視システムが記載されている。特許文献2に記載の状態監視システムは、設備に生じる加速度を検知することによって検出される振動をバイアス電圧からの電圧変化として出力する振動検出部と、動検出部の出力電圧からバイアス電圧を除去するように構成された電圧処理回路と、電圧処理回路の出力に基づいて設備の状態を監視するように構成された監視装置と、電圧処理回路を介さずに振動検出部の出力を監視装置に接続するように構成された接続回路とを備える。監視装置は、接続回路を通じて受ける出力電圧がバイアス電圧を含む所定範囲に含まれない場合に、振動検出部を異常であると診断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-185507号公報
【文献】特開2018-179753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
センサの出力信号をデジタル信号に変換する変換回路が落雷などの影響で故障することがある。特許文献1および特許文献2のシステムは、変換回路が故障すると、センサの出力信号をデジタル信号に正常に変換できなくなる。変換回路が故障したのにも係わらず、状態監視を継続した場合、風力発電設備の異常を見逃す場合がある。
【0006】
それゆえに、本発明の目的は、センサの出力信号をデジタルデータに変換する変換回路の故障を検出することができる状態監視装置および状態監視方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、機器の状態を監視する状態監視装置であって、各々が、入力されるアナログ信号をAD変換する複数個の変換回路と、複数個のセンサの出力信号を受ける複数個の第1の入力ポートと、少なくとも1つの基準電圧を受ける少なくとも1つの第2の入力ポートと、複数個の変換回路と接続される複数個の出力ポートとを有するクロスポイントスイッチと、変換回路の故障診断時に、第2の入力ポートと、出力ポートとを接続させることによって、変換回路へ試験信号を供給させて、変換回路から出力される試験信号のAD変換信号と試験信号の理想的なデジタル信号とを比較することによって、変換回路の故障を判断するプロセッサとを備える。
【0008】
好ましくは、クロスポイントスイッチは、複数個の基準電圧を受ける複数個の第2の入力ポートを備える。プロセッサは、変換回路の故障診断時に、複数個の第2の入力ポートのうち、出力ポートと接続される第2の入力ポートを時間的に切り替える。
【0009】
好ましくは、プロセッサは、出力ポートと接続される第2の入力ポートの切り替え周期を変化させる。
【0010】
好ましくは、プロセッサは、機器の状態監視時に、複数個の第1の入力ポートと、複数個の変換回路のうち故障と判断された変換回路を除く複数個の変換回路と接続する複数個の出力ポートとを1対1で接続する。
【0011】
好ましくは、プロセッサは、機器の状態監視時に、複数個の変換回路のうち故障と判断された変換回路以外の変換回路と接続する1つの出力ポートと、複数個の第1の入力ポートのうちの2個以上とを時間的に切り替えて接続する。
【0012】
好ましくは、プロセッサは、変換回路の故障診断時に、試験信号のAD変換信号と試験信号の理想的なデジタル信号との類似度に基づいて、変換回路の故障を判断する。類似度は、差分二乗和、正規化された差分二乗和、差分絶対値和、正規化された差分絶対値和、正規化相互相関、および零平均正規化相互相関のうちのいずれかによって表される。
【0013】
好ましくは、プロセッサは、試験信号の理想的なデジタル信号を異なる時間量だけずらすことによって得られる複数個の類似度のうち最も高い類似度に基づいて、変換回路の故障を判断する。
【0014】
好ましくは、プロセッサは、さらに、複数個の類似度のうち最も高い類似度に対応する時間量に基づいて、変換回路の故障を判断する。
【0015】
本発明は、機器の状態を監視する状態監視装置による状態監視方法であって、状態監視装置は、各々が、入力されるアナログ信号をAD変換する複数個の変換回路と、複数個のセンサの出力信号を受ける複数個の第1の入力ポートと、少なくとも1つの基準電圧を受ける少なくとも1つの第2の入力ポートと、複数個の変換回路と接続される複数個の出力ポートとを有するクロスポイントスイッチとを備える。状態監視方法は、変換回路の故障診断時に、第2の入力ポートと、出力ポートとを接続させることによって、変換回路へ試験信号を供給するステップと、変換回路から出力される試験信号のAD変換信号と試験信号の理想的なデジタル信号とを比較することによって、変換回路の故障を判断するステップとを備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、センサの出力信号をデジタル信号に変換する変換回路の故障を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施の形態の状態監視システムの全体構成を概略的に示す図である。
【
図2】風力発電装置の構成を概略的に示す図である。
【
図3】参考例の状態監視装置の構成を表わす図である。
【
図4】実施の形態の状態監視装置の構成を表わす図である。
【
図5】クロスポイントスイッチの構成の一例を表わす図である。
【
図6】実施の形態の状態監視装置の基本的な動作手順を表わすフローチャートである。
【
図7】試験信号R(x)の第1例を表わす図である。
【
図8】試験信号R(x)の第2例を表わす図である。
【
図9】試験信号R(x)の第3例を表わす図である。
【
図10】実施の形態の状態監視装置による変換回路chの故障診断および状態監視の手順の第1例を表わすフローチャートである。
【
図11】実施の形態の状態監視装置による変換回路chの故障診断および状態監視の手順の第2例を表わすフローチャートである。
【
図12】実施の形態の状態監視装置80による変換回路chの故障診断および状態監視の手順の第2例を表わすフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について図面を参照して詳しく説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一の符号を付してその説明は繰り返さない。
【0019】
<状態監視システムの全体構成>
図1は、実施の形態の状態監視システムの全体構成を概略的に示す図である。
図1を参照して、状態監視システムは、状態監視装置80と、データサーバ(監視側制御装置)330と、監視用端末340とを備える。
【0020】
状態監視装置80は、センサS1~Snの検出信号から実効値、ピーク値、クレストファクター、エンベロープ処理後の実効値、およびエンベロープ処理後のピーク値等を算出し、インターネット320を介してデータサーバ330へ送信する。
【0021】
ここでは、状態監視装置80とデータサーバ330との通信は有線によって行われるとして説明したが、これに限定されることなく、無線によって通信が行われてもよい。
【0022】
データサーバ330と監視用端末340とは、たとえば社内LAN(Local Area Network)によって接続される。監視用端末340は、データサーバ330が受信した測定データを閲覧、測定データの詳細な解析、モニタ装置の設定変更、風力発電装置の各機器の状態を表示させる。
【0023】
<風力発電装置の構成>
図2は、風力発電装置10の構成を概略的に示す図である。
図2を参照して、風力発電装置10は、主軸20と、ブレード30と、増速機40と、発電機50と、主軸受60を備える。風力発電装置10は、センサS1~Snと、状態監視装置80とを備える。増速機40、発電機50、主軸受60、センサS1~Snおよび状態監視装置80は、ナセル90に格納される。ナセル90は、タワー100によって支持される。
【0024】
主軸20は、ナセル90内に進入して増速機40の入力軸に接続され、主軸受60によって回転自在に支持される。主軸20は、風力を受けたブレード30により発生する回転トルクを増速機40の入力軸へ伝達する。ブレード30は、主軸20の先端に設けられ、風力を回転トルクに変換して主軸20に伝達する。
【0025】
主軸受60は、ナセル90内において固設され、主軸20を回転自在に支持する。主軸受60は、転がり軸受によって構成される。主軸受60は、たとえば、自動調芯ころ軸受、円すいころ軸受、円筒ころ軸受、または玉軸受等によって構成される。なお、これらの軸受は、単列のものでも複列のものでもよい。
【0026】
センサS1~Snは、ナセル90の内部の各機器に固設される。たとえば、センサS1は、主軸受60の上面に固設され、主軸受60の状態を監視する。センサS2~S4は、増速機40の上面に固設され、増速機40の状態を監視する。センサS5、S6は、発電機50の上面に固設され、発電機50の状態を監視する。センサS7は、主軸受60に固設され、ミスアライメントとナセルの異常振動を監視する。センサSnは、主軸受60に固設され、アンバランスとナセルの異常振動を監視する。
【0027】
増速機40は、主軸20と発電機50との間に設けられ、主軸20の回転速度を増速して発電機50へ出力する。一例として、増速機40は、遊星ギヤおよび中間軸、高速軸等を含む歯車増速機構によって構成される。なお、特に図示しないが、この増速機40内にも、複数の軸を回転自在に支持する複数の軸受が設けられている。発電機50は、増速機40の出力軸に接続され、増速機40から受ける回転トルクによって発電する。発電機50は、たとえば、誘導発電機によって構成される。なお、この発電機50内にも、ロータを回転自在に支持する軸受が設けられている。
【0028】
状態監視装置80は、風力発電装置10の各機器の状態を監視する。状態監視装置80は、ナセル90の内部に設けられ、センサS1~Snが検出した各機器の振動、音、AE(Acoustic Emission)等の信号を受ける。なお、図示はしていないが、センサS1~Snと状態監視装置80とは、有線ケーブルで接続されている。
【0029】
監視用端末340には、少なくとも、データサーバ330に格納されている測定データを閲覧、詳細な解析、モニタ装置の設定変更、風力発電装置10の各機器の状態について表示させるプログラムが予め格納されている。監視用端末340には風力発電装置10の専門家が判断するのに役立つ風力発電装置10の各機器についてのデータが表示される。
【0030】
なお、監視用端末340を構成する各構成要素は、一般的なものである。したがって、本発明の本質的な部分は、記憶媒体に格納された上述したソフトウエア(プログラム)であるともいえる。
【0031】
<状態監視装置の構成>
図3は、参考例の状態監視装置80の構成を表わす図である。
【0032】
参考例の状態監視装置80は、センサS1~Snと接続される。参考例の状態監視装置80は、変換回路ch1~chnと、コンピュータ41とを備える。コンピュータ41は、CPU(Central Processing Unit)42と、メモリ43とを備える。
【0033】
センサSi(i=1~n)は、監視対象の振動または温度などを検出して、検出値を表わす信号を出力する。
【0034】
変換回路Chi(i=1~n)と、センサSi(i=1~n)とが1対1で接続する。
変換回路chi(i=1~n)は、センサSi(i=1~n)の出力信号をデジタル信号に変換する。変換回路chi(i=1~n)は、アナログ回路Agi(i=1~n)と、AD変換回路ADCi(i=1~n)とを備える。アナログ回路Agi(i=1~n)は、増幅回路、保護回路、フィルタ回路、および安定化回路などを備える。
【0035】
メモリ43は、状態監視プログラム、状態監視に必要なデータ、および状態監視の結果を表わすセンサS1~Snの出力信号のデジタル信号を記憶する。
【0036】
CPU42は、メモリ43に記憶されている状態監視プログラムを実行する。CPU42は、変換回路ch1~chnから出力されるデジタル信号を受けて、所定の処理を実行する。
【0037】
状態監視装置80において、変換回路chi(i=1~n)は、コンピュータ41に比べて、落雷などの影響で故障しやすい。参考例の状態監視装置80では、変換回路chi(i=1~n)が故障すると、変換回路chi(i=1~n)に接続されるセンサSi(i=1~n)の出力信号は正常なデジタル信号に変換されず、正常なデータ収集および監視ができなくなる。
【0038】
変換回路chi(i=1~n)の故障を検知するためには、変換回路chi(i=1~n)の入力と出力とを比較する必要がある。しかしながら、参考例の状態監視装置80では、CPU42は、変換回路chi(i=1~n)の入力であるセンサSi(i=1~n)の出力信号を取得できないため、変換回路chi(i=1~n)の入力と変換回路chi(i=1~n)の出力とを比較できず、変換回路chi(i=1~n)の故障を検知できない。
【0039】
したがって、参考例の状態監視装置80を使用する場合には、変換回路chi(i=1~n)に故障が発生している可能性がある場合に、専門家を現地に派遣しなければ変換回路chi(i=1~n)の故障を診断できない。更に、変換回路chi(i=1~n)の故障の復旧のために現地での作業が必須であり、多くの工数が要求されるととともに、復旧作業中の風車の停止が必要となる。
【0040】
図4は、実施の形態の状態監視装置80の構成を表わす図である。
実施の形態の状態監視装置80は、変換回路ch1~chmと、クロスポイントスイッチCSWと、コンピュータ41とを備える。コンピュータ41は、CPU42と、メモリ43とを備える。
【0041】
nとmの大きさについては、n<mが望ましい。ただし、n>mであっても、同じ変換回路chが別個のタイミングで複数のセンサSの出力信号をAD変換するようにすることができる。
【0042】
センサSi(i=1~n)は、監視対象の振動または温度などを検出して、検出値を表わす信号を出力する。
【0043】
変換回路chi(i=1~m)は、風力発電装置10内の機器の状態監視時には、クロスポイントスイッチCSWによるスイッチングに従って伝送されるセンサSi(i=1~n)の出力信号(アナログ信号)のいずれかをAD変換する。変換回路chiは、変換回路chiの故障診断時には、クロスポイントスイッチCSWによるスイッチングに従って伝送される、基準電圧VrefまたはGNDの大きさを有する試験信号R(x)をAD変換する。
【0044】
変換回路chi(i=1~m)は、アナログ回路Agi(i=1~m)と、AD変換回路ADCi(i=1~m)とを備える。アナログ回路Agi(i=1~m)は、増幅回路、保護回路、フィルタ回路、および安定化回路などを備える。ADCi(i=1~m)は、アナログ回路Agi(i=1~m)の出力信号をAD変換して、AD変換信号を出力する。
【0045】
メモリ43は、状態監視プログラム、状態監視に必要なデータ、変換回路chの故障判定に必要なデータ、および状態監視の結果を表わすセンサS1~Snの出力信号のデジタル信号などを記憶する。
【0046】
CPU42は、メモリ43に記憶されている状態監視プログラムを実行する。CPU42は、変換回路ch1~chmから出力されるデジタル信号を受けて、所定の処理を実行する。CPU42は、制御信号CTによって、クロスポイントスイッチCSWのスイッチングを制御する。CPU42は、変換回路ch1~chmの故障診断の結果を表わす信号をインターネット320を介してデータサーバ330へ送信する。
【0047】
クロスポイントスイッチCSWは、接続先を電気的に任意に設定可能なスイッチである。クロスポイントスイッチCSWは、マトリクススイッチ、マルチプレクサ、デマルチプレクサ、またはそれらの組み合わせによって構成される。
【0048】
<クロスポイントスイッチ>
図5は、クロスポイントスイッチCSWの構成の一例を表わす図である。
【0049】
クロスポイントスイッチCSWは、n個の第1の入力ポートIn(1)~In(n)と、2個の第2の入力ポートIn(n+1)、In(n+2)と、m個の出力ポートOut(1)~Out(m)とを備える。
【0050】
第1の入力ポートIn(i)は、センサSiの出力と接続され、センサSiの出力信号を受ける。ただし、i=1~nである。
【0051】
第2の入力ポートIn(n+1)は、第1の基準電圧Vrefを受ける。第2の入力ポートIn(n+2)は、第2の基準電圧GNDを受ける。
【0052】
第1の基準電圧Vrefは、たとえばアナログ回路Ag1~Agmの電源電圧である。第1の基準電圧Vrefは、状態監視装置80内の図示しない基準電圧回路によって生成される電圧、またはそれらの電圧を分圧した電圧であってもよい。第2の基準電圧GNDは、アナログ回路Ag1~Agmのグランド電圧として利用される。
【0053】
出力ポートOut(j)は、変換回路chjと接続される。ただし、j=1~mである。
【0054】
スイッチS(i,j)は、入力ポートIn(i)と、出力ポートOut(j)とを接続する。ただし、i=1~n+2、j=1~mである。たとえば、スイッチS(1,1)がオンのときには、第1の入力ポートIn(1)と出力ポートOut(1)とが接続されて、センサS1の出力信号が、変換回路ch1に送られる。スイッチS(1,2)がオンのときには、第1の入力ポートIn(1)と出力ポートOut(2)とが接続されて、センサS1の出力信号が、変換回路ch2に送られる。スイッチ(n+1,1)がオンのときには、第2の入力ポートIn(n+1)と出力ポートOut(1)とが接続されて、第1の基準電圧Vrefが変換回路ch1に送られる。スイッチ(n+2,1)がオンのときには、第2の入力ポートIn(n+2)と出力ポートOut(1)とが接続されて、第2の基準電圧GNDが変換回路ch1に送られる。
【0055】
m個のスイッチS(k1,1)、S(k2,2)、・・・S(km,m)を同時にオンとすることができる。ただし、k1、k2、・・・kmは、互いに異なる数である。
【0056】
第1の基準電圧Vrefは、変換回路chが正常な場合に、変換回路chによってデジタル信号「1」に変換される。第2の基準電圧GNDは、変換回路chが正常な場合に、変換回路chによってデジタル信号「0」に変換される。
【0057】
<状態監視装置の基本的な動作>
図6は、実施の形態の状態監視装置80の基本的な動作手順を表わすフローチャートである。
【0058】
ステップS100において、i=1に設定される。
ステップS101において、クロスポイントスイッチCSWによって、変換回路chiへ試験信号R(x)が送られる。クロスポイントスイッチCSWが、変換回路chiが接続される出力ポートOut(i)と、第1の基準電圧Vrefを受ける第1の入力ポートIn(n+1)または第2の基準電圧GNDを受ける第2の入力ポートIn(n+2)とを接続する。これによって、Vrefまたは0の大きさを有する試験信号R(x)が変換回路chiへ供給される。
【0059】
ステップS102において、変換回路chiが、試験信号R(x)をAD変換して、AD変換信号B(x)をCPU42に送る。CPU42は、AD変換信号B(x)をメモリ43に格納する。
【0060】
ステップS103において、CPU42が、メモリ43から試験信号R(x)の理想デジタル信号A(x)と、AD変換信号B(x)とを読出す。
【0061】
ステップS104において、CPU42が、試験信号R(x)の理想デジタル信号A(x)と、試験信号R(x)のAD変換信号B(x)とが類似しているか否かを判定する。類似している場合には、処理がステップS105に進み、類似していない場合には、処理がステップS106に進む。
【0062】
ステップS105において、CPU42が、変換回路chiが正常であると判定する。CPU42は、変換回路chiが正常である旨を表わす信号をインターネット320を介してデータサーバ330へ送信する。
【0063】
ステップS106において、CPU42が、変換回路chiが故障であると判定する。CPU42は、変換回路chiが故障である旨を表わす信号をインターネット320を介してデータサーバ330へ送信する。
【0064】
ステップS107において、i=mのときには、処理がステップS109に進む。i=mでないときには、処理がステップS108に進む。
【0065】
ステップS108において、iがインクリメントされる。その後、処理がステップS101に戻る。
【0066】
ステップS109およびS110において、風力発電装置10内の機器の状態監視が実行される。
【0067】
ステップS109において、CPU42は、クロスポイントスイッチCSW内のスイッチを設定する。クロスポイントスイッチCSWは、n個のセンサS1~Snと接続される第1の入力ポートIn(1)~In(n)と、変換回路ch1~chmのうちの正常なn個の変換回路chと接続されるn個の出力ポートOutを1対1で接続する。
【0068】
ステップS110において、正常な変換回路chが、センサSの出力信号のデジタル信号への変換を実行する。たとえば、正常な変換回路chjが、接続されるセンサSkの出力信号をAD変換して、AD変換信号DGjをCPU42へ出力する。CPU42は、センサSkの識別番号と、AD変換信号DGjとを対応づけてメモリ43に記憶する。
【0069】
<試験信号>
次に、試験信号R(x)について説明する。
【0070】
クロスポイントスイッチCSWによって、変換回路chと、第1の基準電圧Vrefまたは第2の基準電圧GNDとを接続することによって、変換回路chへ試験信号R(x)を供給することができる。
【0071】
図7は、試験信号R(x)の第1例を表わす図である。
CPU42は、クロスポイントスイッチCSWのスイッチS(n+1,j)をオンとすることによって、第2の入力ポートIn(n+1)と、出力ポートOut(j)とを接続する。これによって、一定値(Vref)を大きさとする試験信号R(x)が変換回路chjへ送られる。jは、1~mのうちのいずれか1つである。この場合には、試験信号R(x)が1つの変換回路chに供給される。あるいは、jは、1~mのうちの複数個としてもよい。この場合には、試験信号R(x)が複数個の変換回路chに同時に供給される。クロスポイントスイッチCSWとしてリレーなどを用いた場合、スイッチング速度が遅くて、所望の周期でスイッチの切り替えができなかったり、スイッチングによって寿命が短くなる場合がある。第1例では、スイッチを周期的に切り替えないので、このようなクロスポイントスイッチCSWを用いた場合にも、試験信号R(x)を生成することができる。
【0072】
図8は、試験信号R(x)の第2例を表わす図である。
CPU42は、クロスポイントスイッチCSWのスイッチS(n+2,j)をオンとすることによって、第2の入力ポートIn(n+2)と、出力ポートOut(j)とを接続する。これによって、一定値(GND)を大きさとする試験信号R(x)が変換回路chjへ送られる。jは、1~mのうちのいずれか1つである。この場合には、試験信号R(x)が1つの変換回路chに供給される。あるいは、jは、1~mのうちの複数個としてもよい。この場合には、試験信号R(x)が複数個の変換回路chに同時に供給される。第2例では、第1例と同様に、クロスポイントスイッチCSWとしてリレーなどを用いた場合でも、試験信号R(x)を生成することができる。
【0073】
図9は、試験信号R(x)の第3例を表わす図である。
CPU42は、クロスポイントスイッチCSWのスイッチS(n+1,j)とスイッチS(n+2,j)とをT/2の間隔でオン/オフを切り替えることによって、第2の入力ポートIn(n+1)と出力ポートOut(j)との接続状態と、第2の入力ポートIn(n+2)と出力ポートOut(j)との接続状態とがT/2の周期で時間的に切り替わる。これによって、第2の入力ポートIn(n+1)とIn(n+2)のうち、出力ポートOut(j)と接続される第2の入力ポートがT/2の周期で切り替わる。その結果、周期Tの矩形波の試験信号R(x)が変換回路chjへ送られる。jは、1~mのうちのいずれか1つである。この場合には、試験信号R(x)が1つの変換回路chに供給される。あるいは、jは、1~mのうちの複数個としてもよい。この場合には、試験信号R(x)が複数個の変換回路chに同時に供給される。
【0074】
矩形波の周波数f(=1/T)は、クロスポイントスイッチCSWの動作周波数以下に設定することが必要である。変換回路chの周波数特性を検証するためには、矩形波の周波数fの範囲は、高調波の入力を考慮して、AD変換器ADC~ADCmのサンプリング周波数の1/20~1/5程度であることが望ましい。
【0075】
図9に示すような矩形波によって、一定値を入力しただけでは分からないような変換回路chの周波数特性の評価が可能となる。また、直流成分を除いたデジタル信号を出力するような変換回路chの評価も可能となる。
【0076】
さらに、クロスポイントスイッチCSWの切り替え周期(T/2)を変動させることによって、さまざまな周波数成分の試験信号を変換回路chに入力することができ、変換回路chの周波数特性をより精密および広範囲に検査することができる。
【0077】
<類似度>
試験信号R(x)として矩形波を用いた場合、試験信号R(x)のAD変換信号B(x)と、試験信号R(x)の理想デジタル信号A(x)とは、時間的に変化する。本実施の形態では、時間的に変化するA(x)とB(x)との類似度SRを算出して、類似度SRと閾値とを比較することによって、故障の有無を判断する。類似度SRとして、差分二乗和、正規化された差分二乗和、差分絶対値和、正規化された差分絶対値和、正規化相互相関、または零平均正規化相互相関などを用いることができる。
【0078】
試験対象の変換回路chが、試験信号R(x)をAD変換する時間(以下、測定時間)をtとする。つまり、変換回路chが、時刻0から時刻tまで試験信号R(x)をAD変換する。時刻xにおける、変換回路chから出力される試験信号R(x)のAD変換信号をB(x)とする。時刻xにおける、変換回路chに入力される試験信号R(x)の理想デジタル信号をA(x)とする。
【0079】
理想デジタル信号A(x)は、試験信号R(x)の論理的なデジタル値を表わす信号である。つまり、理想デジタル信号A(x)は、R(x)の大きさがGNDのときには、「0」となり、R(x)の大きさがVrefのときには、「1」となる。理想デジタル信号A(x)は、事前に正常な変換回路に試験信号R(x)を入力することによって得られたAD変換信号(実測値)であってもよい。理想デジタル信号A(x)は、メモリ43に記憶されていてもよいし、CPU42が故障診断時に生成してもよい。
【0080】
(1)差分二乗和SSD
差分二乗和SSDによって類似度SRを表わすことができる。差分二乗和SSDが小さいほど類似度SRが大きい。差分二乗和SSDを用いると、正常な変換回路chからの出力へのノイズの重畳が少なくなり、外れ値がない場合に、変換回路chの故障検出の感度がよくなる。
【0081】
CPU42は、以下の式に従って、差分二乗和SSDを算出する。
【0082】
【0083】
さらに、CPU42は、次のように測定時間tで除算して正規化することによって、正規化差分二乗和SSDを算出する。正規化差分二乗和SSDを用いると、測定時間tが変化しても、同じ閾値で評価することができる。
【0084】
【0085】
さらに、次のように処理することで、理想デジタル信号A(x)が周期T(T<t)の繰り返し信号の場合に、以下の効果がある。
【0086】
試験信号R(x)の測定の開始のタイミング(CPU42に取り込まれて保存されるAD変換信号B(x)の最も早い時刻)が試験信号R(x)の位相に対して一定でない測定系(変換回路ch+CPU42)での診断が可能となる。つまり、CPU42の最大応答時間が決まっていないなどの理由により、試験信号R(x)の生成のタイミングと、試験信号R(x)の測定の開始タイミングとが一定ではない測定系(変換回路ch+CPU42)での故障診断が可能となる。また、変換回路ch内の増幅回路の劣化、またはキャパシタの短絡などによって、アナログ回路Agの特性が変化して、測定信号である試験信号R(x)の立上がりおよび立下り時間が変化することによって生じる変換回路chにおける試験信号R(x)の位相遅れの増減の診断が可能となる。
【0087】
CPU42は、t<x<2tの区間の理想デジタル信号をA(x+t)=A(x)として拡張する。CPU42は、時間量d(0≦d<t)だけ進めた理想デジタル信号A(x+d)と、B(x)とを比較する。CPU42は、以下の式に従って、時間量dを変化させたときのSSD(d)を算出する。
【0088】
【0089】
CPU42は、複数個のSSD(d)のうち、類似度SRが最も高いSSD(d)の最小値SSDminを用いて、変換回路chの故障を判断する。これによって、試験信号R(x)の測定の開始のタイミングが試験信号R(x)の位相に対して一定でない測定系の診断が可能となる。
【0090】
また、CPU42は、SSD(d)が最小となるときの時間量d(すなわち、SSDminに対応する時間量d)が所定の範囲内か否かによって、変換回路chの位相遅れによる故障を診断することができる。
【0091】
(2)差分絶対値和SAD
差分絶対値和SADによって類似度SRを表わすことができる。差分絶対値和SADが小さいほど類似度SRが大きい。差分絶対値和SADを用いると、正常な変換回路chからの出力に外れ値が含まれる場合であっても、外れ値による異常の誤検出を抑制できる。
【0092】
CPU42は、以下の式に従って、差分絶対値和SADを算出する。
【0093】
【0094】
さらに、CPU42は、次のように測定時間tで除算して正規化することによって、正規化差分絶対値和SADを算出する。正規化差分絶対値和SADを用いると、測定時間tが変化しても、同じ閾値で評価することができる。
【0095】
【0096】
さらに、次のように処理することで、理想デジタル信号A(x)が周期T(T<t)の繰り返し信号の場合に、差分二乗和SSDの場合と同様の効果がある。
【0097】
CPU42は、t<x<2tの区間の理想デジタル信号をA(x+t)=A(x)として拡張する。CPU42は、時間量d(0≦d<t)だけ進めた理想デジタル信号A(x+d)と、B(x)とを比較する。CPU42は、以下の式に従って、時間量dを変化させたときのSAD(d)を算出する。
【0098】
【0099】
CPU42は、複数個のSAD(d)のうち、類似度SRが最も高いSAD(d)の最小値SADminを用いて、変換回路chの故障を判断する。これによって、試験信号R(x)の測定の開始のタイミングが試験信号R(x)の位相に対して一定でない測定系の診断が可能となる。
【0100】
また、CPU42は、SAD(d)が最小となるときの時間量d(すなわち、SADminに対応する時間量d)が所定の範囲内か否かによって、変換回路chの位相遅れによる故障を診断することができる。
【0101】
(3)正規化相互相関NCC
正規化相互相関NCCによって類似度SRを表わすことができる。正規化相互相関NCCが大きい(1に近い)ほど、類似度SRが大きい。次のような場合に、利点がある。
【0102】
変換回路chの入力に対するデジタル値の比率が、温度変化などで変化した場合の故障の誤検出を抑制できる。A(x)=αB(x)のように、CPU42またはアナログ回路Agの設定により、変換回路chの出力に一定の係数が乗算されている場合の診断を、係数に関わらず行うことができる。また、測定時間tが変化した場合でも、同じ閾値で評価ですることができる。
【0103】
CPU42は、以下の式に従って、正規化相互相関NCCを算出する。
【0104】
【0105】
さらに、次のように処理することで、理想デジタル信号A(x)が周期T(T<t)の繰り返し信号の場合に、差分二乗和SSDの場合と同様の効果がある。
【0106】
CPU42は、t<x<2tの区間の理想デジタル信号をA(x+t)=A(x)として拡張する。CPU42は、時間量d(0≦d<t)だけ進めた理想デジタル信号A(x+d)と、B(x)とを比較する。CPU42は、以下の式に従って、時間量dを変化させたときのNCC(d)を算出する。
【0107】
【0108】
CPU42は、複数個のNCC(d)のうち、類似度SRが最も高いNCC(d)の最大値NCCmaxを用いて、変換回路chの故障を判断する。これによって、試験信号R(x)の測定の開始のタイミングが試験信号R(x)の位相に対して一定でない測定系の診断が可能となる。
【0109】
また、CPU42は、NCC(d)が最大となるときの時間量d(すなわち、NCCmaxに対応する時間量d)が所定の範囲内か否かによって、変換回路chの位相遅れによる故障を診断することができる。
【0110】
(4)零平均正規化相互相関ZNCC
零平均正規化相互相関ZNCCによって類似度SRを表わすことができる。零平均正規化相互相関ZNCCが大きい(1に近い)ほど、類似度SRが大きい。零平均正規化相互相関ZNCCを類似度SRに用いると、正規化相互相関NCCの利点に加えて、変換回路chにACカップリングがある場合などにおいて、A(x)とB(x)のDC成分に差異があったとしても、DC成分を無視して診断を行うことができる。
【0111】
A(x)の平均値をAave、B(x)の平均値をBaveとしたときに、CPU42は、以下の式に従って零平均正規化相互相関ZNCCを算出する。
【0112】
【0113】
さらに、次のように処理することで、理想デジタル信号A(x)が周期T(T<t)の繰り返し信号の場合に、差分二乗和SSDの場合と同様の効果がある。
【0114】
CPU42は、t<x<2tの区間の理想デジタル信号をA(x+t)=A(x)として拡張する。CPU42は、d(0≦d<t)だけ進めた理想デジタル信号A(x+d)と、B(x)とを比較する。CPU42は、以下の式に従って、時間量dを変化させたときのZNCC(d)を算出する。
【0115】
【0116】
CPU42は、複数個のZNCC(d)のうち、類似度SRが最も高いZNCC(d)の最大値ZNCCmaxを用いて、変換回路chの故障を判断する。これによって、試験信号R(x)の測定の開始のタイミングが試験信号R(x)の位相に対して一定でない測定系の診断が可能となる。
【0117】
また、CPU42は、ZNCC(d)が最大となるときの時間量d(すなわち、ZNCCmaxに対応する時間量d)が所定の範囲内か否かによって、変換回路chの位相遅れによる故障を診断することができる。
【0118】
<センサと変換回路の対応づけ>
センサSに対して順番に変換回路chを割り当てることができる。つまり、センサSi(i=1~n)を変換回路chi(i=1~n)を割り当てることができる。
【0119】
あるいは、センサSに対して、割り当てられる変換回路chの優先順位が定められているものとしてもよい。複数のセンサSの出力信号の振幅の間に差があり、かつ複数の変換回路ch内のアナログ回路Agの増幅回路のゲインの間に差がある場合に、出力信号の振幅が小さいセンサSに対しては、ゲインが大きい増幅回路が含まれる変換回路chを優先的に割り当てるようにすることができる。
【0120】
あるいは、特定のセンサSに対して、特定の変換回路chを固定的に割り振るものとしてもよい。変換回路chまたはセンサSにおいて、ゲインなどの特性の違いがある場合に、変換回路chのゲインが高すぎて変換されたデジタル値がオーバフローするなどの特性による不具合を抑止できる。
【0121】
変換回路の故障判定の結果、センサSに通常割り当てる変換回路chが故障した場合には、そのセンサSを他の正常な変換回路chに割り当てることとしてもよい。すなわち、CPU42は、故障と判断された変換回路ch以外のn個の変換回路chと接続するn個の出力ポートOutと、センサS1~Snと接続されるn個の第1の入力ポートIn(1)~In(n)とを1対1で接続するようにすることができる。
【0122】
あるいは、CPU42は、センサSに通常割り当てる変換回路chが故障した場合に、そのセンサSからの信号の取得を停止するようにしてもよい。
【0123】
CPU42は、センサSに対して、正常な変換回路chの数が少ない場合は、状態監視装置80が故障したものとして状態監視を停止してもよい。あるいは、サンプリングの同時性を問題としない場合は、CPU42は、正常な変換回路chに接続するセンサSを時間的に切り替えて、複数回に分けて測定することによって、状態監視を継続するものとしてもよい。すなわち、CPU42は、故障と判断された変換回路ch以外の1つの変換回路chkと接続する1つの出力ポートOut(k)と、センサS1~Snと接続されるn個の第1の入力ポートIn(1)~In(n)のうち2個以上とを時間的に切り替えて接続する。1つのセンサの出力信号のAD変換が終了した後に、スイッチを切り替えるものとしてもよいし、1つのセンサの出力信号のAD変換に要する時間よりも短い時間間隔でスイッチを切り替えることによって、見かけ上、複数のセンサの出力信号のAD変換を同時に実行しているようにしてもよい。
【0124】
たとえば、センサSの数が10個で、16個の変換回路chのうち8個が故障した場合に、CPU42は、次のようにクロスポイントスイッチCSWを設定することができる。
【0125】
CPU42は、8個の正常な変換回路のうち7個の正常な変換回路と接続される7個の出力ポートと、7個のセンサS1~S7と接続される7個の第1の入力ポートとを1対1で接続し、残りの1個の正常な変換回路と接続される1個の出力ポートと、3個のセンサS8~S10と接続される3個の第1の入力ポートとを時間的に切り替えて接続するものとしてもよい。あるいは、CPU42は、8個の正常な変換回路のうち6個の正常な変換回路と接続される6個の出力ポートと、6個のセンサS1~S6と接続される6個の第1の入力ポートとを1対1で接続し、残りの2個のうち一方の正常な変換回路chと接続される1個の出力ポートと、2個のセンサS7、S8と接続される2個の第1の入力ポートとを時間的に切り替えて接続し、残りの2個のうち他方の正常な変換回路chと接続される1個の出力ポートと、2個のセンサS9、S10と接続される2個の第1の入力ポートとを時間的に切り替えて接続するものとしてもよい。
【0126】
<具体的な動作>
次に、実施の形態の状態監視装置における測定および診断の動作の具体例を説明する。
【0127】
図10は、実施の形態の状態監視装置80による変換回路chの故障診断および状態監視の手順の第1例を表わすフローチャートである。このフローチャートは、試験信号R(x)の測定の開始タイミングが、試験信号R(x)の位相に対して変化しない場合を対象としている。もしも、試験信号R(x)の測定の開始タイミングが、試験信号R(x)の位相に対して変化する場合には、全変換回路chj(j=1~m)が故障と判断される。
【0128】
ステップS201において、現在時刻が、状態監視装置80による風力発電装置10内の機器の状態監視実行時刻の直前になった場合に、処理がステップS202に進む。
【0129】
ステップS202~S209の処理が、前回の故障診断において正常と判定された全変換回路chについて実行される。すなわち、正常と判断された変換回路chが1つずつ順番に選択されて、選択された変換回路chについて、ステップS203~S208の処理が実行される。
【0130】
ステップS203において、CPU42が、クロスポイントスイッチCSWの設定を変更することによって、
図9に示すような矩形波の試験信号R(x)を選択した変換回路chに供給する。すなわち、CPU42は、第1の基準電圧Vrefを受ける第2の入力ポートIn(n+1)と、第2の基準電圧GNDを受ける第2の入力ポートIn(n+2)のうち、出力ポートOut(i)と接続される第2の入力ポートがT/2の周期で交互に切り替わるように制御する。
【0131】
ステップS204において、試験信号R(x)のt秒間の測定が実行される。選択した変換回路chが、試験信号R(x)をAD変換して、AD変換信号B(x)をCPU42に出力する。CPU42は、メモリ43にAD変換信号B(x)を記憶する。測定時間tは、矩形波である試験信号R(x)の周期Tの2倍以上に設定することができる。
【0132】
ステップS205において、CPU42が、メモリ43から試験信号R(x)の理想デジタル信号A(x)と、AD変換信号B(x)とを読出す。
【0133】
ステップS206において、CPU42が、式(1)に従って、理想デジタル信号A(x)と、AD変換信号B(x)との差分二乗和SSDを算出する。
【0134】
ステップS207において、差分二乗和SSDが閾値TH未満の場合に、処理がステップS209に進み、差分二乗和SSDが閾値TH以上の場合に、処理がステップS207に進む。閾値THは、事前に設定されている。閾値THは、選択した変換回路chの特性などを考慮して設定される。
【0135】
ステップS207において、CPU42は、選択した変換回路chを故障と判定して、その旨を通知するアラームを出力する。CPU42は、さらに、選択した変換回路chが故障である旨を表わす信号をインターネット320を介してデータサーバ330へ送信する。
【0136】
ステップS208において、正常な変換回路を定めたリストから選択した変換回路chを除外する。
【0137】
ステップS210において、正常な変換回路chの数がセンサS1~Snの総数n以上の場合に、処理がステップS212に進み、正常な変換回路chの数がセンサS1~Snの総数n未満の場合に、処理がステップS211に進む。
【0138】
ステップS211において、CPU42は、正常な変換回路chが不足している旨のアラームを出力する。
【0139】
ステップS213~S214において、状態監視装置80による風力発電装置10内の機器の状態監視が実行される。
【0140】
ステップS212において、CPU42は、クロスポイントスイッチCSW内のスイッチを設定する。クロスポイントスイッチCSWは、n個のセンサS1~Snと接続される第1の入力ポートIn(1)~In(n)と、変換回路ch1~chmのうちの正常なn個の変換回路chと接続されるn個の出力ポートOutとを1対1で接続する。
【0141】
ステップS213において、正常な変換回路chが、センサSの出力信号をAD変換する。たとえば、正常な変換回路chjが、接続されるセンサSkの出力信号をAD変換して、AD変換信号DGjを出力する。
【0142】
ステップS214において、CPU42は、センサSkの識別番号と、AD変換信号DGjとを対応づけてメモリ43に格納する。
【0143】
図11および
図12は、実施の形態の状態監視装置80による変換回路chの故障診断および状態監視の手順の第2例を表わすフローチャートである。このフローチャートは、試験信号R(x)の測定の開始タイミングが、試験信号R(x)の位相に対して変化する場合も対象としている。第2例では、変換回路chの故障診断と、状態監視装置80による風力発電装置10内の機器の状態監視とは、別個に設定された時刻に実施される。また、第2例では、センサSの総数よりも正常な変換回路chの総数が少ない場合には、状態監視装置80は、複数回に分けて状態監視を実行する。
【0144】
ステップS301において、現在時刻が、状態監視装置80の変換回路chの故障診断時刻になった場合に、処理がステップS302に進む。
【0145】
ステップS302において、CPU42が、クロスポイントスイッチCSWの設定を変更することによって、以下の式(13)で表される試験信号R(x)を全変換回路chj(j=1~m)に供給する。試験信号R(x)は、式(13)で示されるように、矩形波の周期が変化する。fは、AD変換器ADC1~ADCmのサンプリング周波数である。試験信号R(x)は、周期が3120/fの信号である。
【0146】
【0147】
ステップS303において、全変換回路chj(j=1~m)において試験信号R(x)のt秒間の測定が実行される。全変換回路chj(j=1~m)が、試験信号R(x)のAD変換信号Bj(x)(j=1~m)をCPU42に出力する。CPU42がメモリ43にAD変換信号Bj(x)(j=1~m)を記憶する。測定時間tは、矩形波である試験信号R(x)の周期Tの2倍以上に設定することができる。
【0148】
ステップS304において、CPU42が、全変換回路chj(j=1~m)について、メモリ43から試験信号R(x)の理想デジタル信号Aj(x)(j=1~m)と、AD変換信号Bj(x)(j=1~m)とを読出す。
【0149】
ステップS305において、CPU42が、全変換回路chj(j=1~m)について、理想デジタル信号Aj(x)を時間量dだけずらした信号(j=1~m)と、AD変換信号Bj(x)(j=1~m)との正規化相互相関関数NCCj(d)を算出する。正規化相互相関関数NCCj(d)は、式(14)によって算出することが可能である。ここで、時間量dは、0~tの範囲で変化させる。
【0150】
【0151】
ステップS306において、CPU42が、全変換回路chj(j~1~m)について、時間量dを変化させたときに得られる複数個の正規化相互相関関数NCCj(d)うち最大となるときの時間量dを位相遅れDjとして特定するとともに、正規化相互相関関数NCCj(d)の最大値をMAX_NCCjとして特定する。
【0152】
ステップS307において、CPU42は、全変換回路chj(j=1~m)のMAX_NCCj(j=1~m)と比較するための閾値αj(j=1~m)、位相遅れDj(j=1~m)と比較するための下限閾値βj(j=1~m)および上限閾値γj(j=1~m)を設定する。閾値αj(j=1~m)、下限閾値βj(j=1~m)および上限閾値γj(j=1~m)は、変換回路chj(j=1~m)の特性、CPU42の応答時間などを考慮して設定される。
【0153】
ステップS308において、変換回路chj(j=1~m)について、MAX_NCCj(j=1~m)が閾値αj(j=1~m)以上の場合に、処理がステップS309に進み、MAX_NCCj(j=1~m)が閾値αj(j=1~m)未満の場合に、処理がステップS310に進む。
【0154】
ステップS309において、変換回路chj(j=1~m)について、βj≦Dj≦γj(j=1~m)の場合に、処理がステップS311に進み、βj>Dj、またはDj>γj(j=1~m)の場合に、処理がステップS310に進む。
【0155】
ステップS310において、CPU42は、該当する変換回路chjを故障と判定して、その旨を通知するアラームを出力する。CPU42は、該当する変換回路chjが故障である旨を表わす信号をインターネット320を介してデータサーバ330へ送信する。
【0156】
ステップS311において、正常な変換回路を定めたリストから該当する変換回路chjを除外する。
【0157】
ステップS312において、正常な変換回路chが存在しない場合には、処理がステップS314に進む。正常な変換回路chが存在する場合には、処理がステップS313に進む。
【0158】
ステップS314において、CPU42は、全変換回路chj(j=1~m)が故障である旨のアラームを出力する。CPU42は、全変換回路chj(j=1~m)が故障である旨を表わす信号をインターネット320を介してデータサーバ330へ送信する。
【0159】
ステップS313において、現在時刻が、状態監視装置80による風力発電装置10内の機器の状態監視時刻になった場合に、処理がステップS315に進む。
【0160】
ステップS315~S318において、状態監視装置80による風力発電装置10内の機器の状態監視が実行される。
【0161】
ステップS315において、CPU42は、クロスポイントスイッチCSW内のスイッチを設定する。クロスポイントスイッチCSWは、n個のセンサS1~Snのうち未測定のセンサと接続される1個以上の第1の入力ポートInをできるだけ多く、変換回路ch1~chmのうちの1個以上の正常な変換回路と接続される1個以上の出力ポートOutに1対1で接続する。
【0162】
ステップS316において、正常な変換回路chが、接続されるセンサの出力信号のAD変換を実行する。たとえば、正常な変換回路chjが、接続されるセンサSkの出力信号をAD変換して、AD変換信号DGjを出力する。
【0163】
ステップS317において、CPU42は、センサSkの識別番号と、AD変換信号DGjとを対応づけてメモリ43に格納する。
【0164】
ステップS318において、未測定のセンサがない場合には、処理を終了し、未測定のセンサがある場合には、処理がステップS315に戻る。
【0165】
以上のような実施の形態によって、以下の効果が得られる。
(1)クロスポイントスイッチCSWが変換回路chへ試験信号R(x)を供給することによって、変換回路chの入力と出力とが比較できるようになり、変換回路chの故障を検出できる。
【0166】
(2)変換回路chの故障を検出することによって、不正確なデータに基づいて、風力発電設備などの状態監視が実行されることを回避できるので、風力発電設備などの状態監視の正確さが向上する。
【0167】
(3)従来は、変換回路の故障は、状態監視装置の他の部分(例えばセンサ)の故障、および風力発電装置の機器の状態変化と区別できない場合があった。状態監視装置の故障した場所が特定できないと、専門家を現地に派遣して調査する必要があり、適切な修理を行うまでに時間がかかってしまう。本実施の形態によれば、クロスポイントスイッチCSWが変換回路chへ試験信号を直接供給することによって、専門家が現地に行かなくとも、変換回路chの故障を検出することができる。
【0168】
(4)クロスポイントスイッチCSWを利用して、矩形波を生成し、故障診断用の試験信号を変換回路に供給することができる。これにより、一定電圧を入力しただけでは分からない故障モード(たとえば増幅回路の周波数特性の劣化)の検出、DC成分を除去するフィルタ(ACカップリングなど)を有するアナログ回路の診断が可能となる。
【0169】
(5)基準電圧VrefとGNDは、状態監視装置80内の既存の回路において利用されているものを利用できる。また、変換回路chの診断およびクロスポイントスイッチCSWのスイッチの切り替えの制御は、ソフトウエアでCPUを動作させることによって実現することができる。そのため、状態監視装置80内に追加する構成部品は、クロスポイントスイッチCSWのみである。よって、正確な状態監視を安価に実現できる。
【0170】
(6)ある変換回路chが故障した場合でも、クロスポイントスイッチCSWによって、センサSと正常な変換回路chとを接続することによって、状態監視を継続できる。
【0171】
(7)一般的に、風力発電装置は居住地区から離れた場所、特に山地や洋上に建設されるため、アクセスが悪く、現地でのメンテナンスを頻繁に実施できない。更に、風車内でのメンテナンス作業は、風車の停止が要求されるため、メンテナンス時期を選ばなければならない。本実施の形態では、クロスポイントスイッチCSWを電気的に制御できるため、遠隔地から状態監視装置80を復旧させること、および自動的に状態監視装置80を復旧させることができる。
【0172】
(8)正常な変換回路chが残っている限り状態監視を継続できるため、メンテナンス回数が低減できると同時に、メンテナンス時期の選定の自由度が向上する。
【0173】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0174】
10 風力発電装置、20 主軸、30 ブレード、40 増速機、41 コンピュータ、42 CPU、43 メモリ、50 発電機、60 主軸受、80 状態監視装置、90 ナセル、100 タワー、320 インターネット、330 データサーバ(監視側制御装置)、340 監視用端末、S1~Sn センサ、ch1~chn,chm 変換回路、CSW クロスポイントスイッチ、Ag1~AGn,Agm アナログ回路、ADC1~ADCn,ADCn AD変換回路、In(1)~In(n) 第1の入力ポート、In(n+1),In(n+2) 第2の入力ポート、Out(1)~Out(m) 出力ポート、S(1,1)~S(n+2,m) スイッチ。