(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】醤油調味料または醤油調味料含有組成物及びそれらの醤油感増強方法
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20230904BHJP
A23L 27/50 20160101ALI20230904BHJP
A23G 3/34 20060101ALN20230904BHJP
A23L 17/60 20160101ALN20230904BHJP
A23L 23/00 20160101ALN20230904BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23L27/00 101A
A23L27/00 101Z
A23L27/50 A
A23L27/50 Z
A23G3/34 104
A23L17/60 Z
A23L23/00
(21)【出願番号】P 2019125351
(22)【出願日】2019-07-04
【審査請求日】2022-05-11
(31)【優先権主張番号】P 2018131073
(32)【優先日】2018-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 千尋
(72)【発明者】
【氏名】近藤 茜
【審査官】川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-205100(JP,A)
【文献】特開2011-115142(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105410860(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107373603(CN,A)
【文献】特開2015-208247(JP,A)
【文献】特表2010-535022(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00-27/60
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レバウディオサイドAとモグロシドVとを質量比で70:30~99:1の割合で、レバウディオサイドA及びモグロシドVの総濃度が1~50ppmとなるように含む醤油調味料または醤油調味料含有組成物。
【請求項2】
レバウディオサイドAとモグロシドとを、70:30~99:1の質量比で、且つ両者の総濃度が1~50ppmとなる割合で、醤油調味料または醤油調味料含有組成物に配合することを特徴とする、醤油調味料または醤油調味料含有組成物の醤油感増強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は醤油感増強剤に関する。また本発明は醤油感増強剤を含有する醤油調味料または醤油調味料含有組成物に関する。さらに本発明は醤油感が増強されてなる醤油調味料または醤油調味料含有組成物の製造方法、並びに醤油調味料または醤油調味料含有組成物について醤油感を増強する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本の伝統的な醤油は、蒸煮した大豆と炒った小麦の混合物に麹菌を接種して醤油麹とし、これを高濃度の食塩水とともに仕込んで諸味とし、数カ月~1年という長期間にかけて発酵、熟成して製造される。醤油にみられる複雑な味わいと風味(醤油感、醤油らしさ)は、こうした長期間にわたる醸造期間を経て製造されることによって得られるものである。最近は、健康志向から、調理時や食事に際して醤油の使用量を減らしたり、また塩化ナトリウムの含有量を減らした減塩醤油を使用するなど、低塩化の方向に消費者の嗜好が変化している。
【0003】
しかし、減塩醤油については、塩化ナトリウムの減量により味のバランスが崩れて醤油らしさが低下するといった問題が指摘されており、それを解消する方法も複数提案されている(例えば、特許文献1~5等参照)。また、減塩の有無に関わらず、醤油にこくや厚みを付与して醤油の呈味を改善する方法もいくつか提案されている(特許文献6~8等参照)。
【0004】
一方、従来、飲食品や医薬品などに甘味を付与したり、それら自体の味を調節するために、甘味料が広く用いられている。なかでも近年の健康志向の高まりから、ノンカロリーや低カロリー、または低う蝕性の高甘味度甘味料が広く用いられるようになっている。高甘味度甘味料には、アスパルテーム、スクラロース、アセスルファムカリウム、ネオテーム、及びアドバンテームなどの合成甘味料、並びにステビア抽出物、ラカンカ抽出物、及びソーマチンなどの天然甘味料がある。
【0005】
しかしながら、これらの合成甘味料、並びにラカンカ抽出物やソーマチンといった天然甘味料に、醤油の醤油らしさ(醤油感)を増強する作用があることについては従来知られていない。ステビア抽出物については、前記特許文献1に、塩味代替物質として塩化アンモニウムを配合し、アンモニウムイオンを0.2~4%(w/v)濃度で含む減塩醤油様調味料に対して、ステビア甘味料がアンモニウムイオンの異味を抑制し、塩味増強感と呈味の濃厚感を付与するうえで有用であることが記載されているものの、このステビア甘味料の効果は醤油中に所定量のアンモニウムイオンが存在していることが前提となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-115142号公報
【文献】特開2014-132842号公報
【文献】特開2016-59339号公報
【文献】特許第5836466号公報
【文献】特開2017-143767号公報
【文献】特開2002-142715号公報
【文献】特許第5920959号公報
【文献】特開2016-59382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来より高甘味度甘味料として使用されている成分を用いて、醤油調味料または醤油調味料を含む飲食組成物について醤油感を増強するための技術を提供することを目的とする。より詳細には、第1に、本発明は醤油感増強剤を提供することを目的とする。第2に醤油感が増強されてなる醤油調味料または醤油調味料含有組成物を提供することを目的とする。第3に、醤油感が増強されてなる醤油調味料または醤油調味料含有組成物を製造する方法、換言すれば、醤油調味料または醤油調味料含有組成物について醤油感を増強させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねていたところ、ラカンカ抽出物、及びステビア抽出物よりなる群から選択される少なくとも1種の高甘味度甘味料が、甘味を呈するか否かに関わらず、醤油調味料または醤油調味料を含む組成物に対して醤油感を増強する作用を発揮することを見出した。なかでもステビア抽出物及びラカンカ抽出物に関しては、ステビア抽出物の甘味主成分であるレバウディオサイドAとラカンカ抽出物の甘味主成分であるモグロシドVとを、両者の配合比がレバウディオサイドA:モグロシドV=50:50~99:1(質量比)となるように併用することで、醤油調味料または醤油調味料を含む組成物の醤油感を増強する効果が著しく高まることを見出した。これらの知見から、本発明者らは、前記高甘味度甘味料を1種または2種以上組み合わせたものが醤油感増強剤として、醤油調味料またはこれを含む組成物に配合することで、醤油感が増強された醤油調味料または醤油調味料含有組成物が得られることを確認して本発明を完成した。
【0009】
本発明はかかる知見に基づいて、さらに研究を重ねて完成したものであり、下記の実施形態を有するものである。
(I)醤油感増強剤
(I-1)ラカンカ抽出物、及びステビア抽出物よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する醤油感増強剤。
(I-2)レバウディオサイドAとモグロシドVとを、質量比で50:50~99:1、好ましくは60:40~99:1、より好ましくは70:30~99:1、特に好ましくは70:30~98:2の割合で含有する醤油感増強剤。
(I-3)レバウディオサイドAを90質量%以上含有するステビア抽出物、及びモグロシドVを含有するラカンカ抽出物を含む醤油感増強剤であって、醤油感増強剤中のレバウディオサイドAとモグロシドVの配合比(質量比)が、レバウディオサイドA:モグロシドV=50:50~99:1、好ましくは60:40~99:1、より好ましくは70:30~99:1であることを特徴とする(I-1)または(I-2)に記載する醤油感増強剤。
(I-4)醤油調味料または醤油調味料含有組成物に対して、レバウディオサイドA及びモグロシドVの合計量が1ppm以上となる範囲で用いられる(I-1)~(I-3)のいずれかに記載する醤油感増強剤。
【0010】
(II)醤油感が増強されてなる醤油調味料または醤油調味料含有組成物、及びその製造方法
(II-1)(I-1)乃至(I-4)のいずれかに記載する醤油感増強剤を含有する醤油調味料または醤油調味料含有組成物。
(II-2)レバウディオサイドA及びモグロシドVの合計含量が1ppm以上である、(II-1)に記載する醤油調味料または醤油調味料含有組成物。
(II-3)ラカンカ抽出物、及びステビア抽出物よりなる群から選択される少なくとも1種を、醤油調味料または醤油調味料含有組成物に配合する工程を有する、醤油感が増強した醤油調味料または醤油調味料含有組成物の製造方法。
(II-4)レバウディオサイドAとモグロシドVとを、質量比で50:50~99:1、好ましくは60:40~99:1、より好ましくは70:30~99:1の割合になるように醤油調味料または醤油調味料含有組成物に配合することを特徴とする、醤油感が増強した醤油調味料または醤油調味料含有組成物の製造方法。
(II-5)レバウディオサイドAを90量%以上含有するステビア抽出物及びモグロシドVを含有するラカンカ抽出物を、レバウディオサイドAとモグロシドVの配合比が、レバウディオサイドA:モグロシドV=50:50~99:1、好ましくは60:40~99:1、より好ましくは70:30~99:1(以上、質量比)となるように、醤油調味料または醤油調味料含有組成物に配合する工程を有する、(II-3)または(II-4)に記載する製造方法。
(II-6)レバウディオサイドA及びモグロシドVの合計量が1ppm以上となる範囲でラカンカ抽出物及びステビア抽出物の少なくとも1種を醤油調味料または醤油調味料含有組成物に配合する工程を有する、(II-3)~(II-5)のいずれかに記載する製造方法。
【0011】
(III)醤油調味料または醤油調味料含有組成物の醤油感増強方法
(III-1)ラカンカ抽出物、及びステビア抽出物よりなる群から選択される少なくとも1種を醤油調味料または醤油調味料含有組成物に配合することを特徴とする、醤油調味料または醤油調味料含有組成物の醤油感増強方法。
(III-2)レバウディオサイドAとモグロシドVとを、その配合比(質量比)が50:50~99:1、好ましくは60:40~99:1、より好ましくは70:30~99:1となるように、醤油調味料または醤油調味料含有組成物に配合することを特徴とする、醤油調味料または醤油調味料含有組成物の醤油感増強方法。
(III-3)レバウディオサイドAを90量%以上含有するステビア抽出物及びモグロシドVを含有するラカンカ抽出物を、レバウディオサイドAとモグロシドVの配合比(質量比)が、レバウディオサイドA:モグロシドV=50:50~99:1、好ましくは60:40~99:1、より好ましくは70:30~99:1となるように、醤油調味料または醤油調味料含有組成物に配合することを特徴とする、醤油調味料または醤油調味料含有組成物の醤油感増強方法。
(III-4)レバウディオサイドA及びモグロシドVの合計量が1ppm以上となる範囲でラカンカ抽出物及びステビア抽出物の少なくとも1種を醤油調味料または醤油調味料含有組成物に配合する、(III-1)~(III-3)のいずれかに記載する醤油感増強方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の醤油感増感剤は、醤油調味料または醤油調味料を含有する飲食組成物に対して用いられることで、これらの醤油感を増強することができる。つまり、本発明の醤油感増感剤によれば、醤油調味料そのものや醤油調味料を含有する飲食組成物に対して醤油感増強効果を発揮し、醤油感が増強されてなる醤油調味料または醤油調味料を含む飲食組成物を調製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(I)醤油感増強剤
本発明の醤油感増強剤(以下、「本醤油感増強剤」と称する)は、ラカンカ抽出物、及びステビア抽出物よりなる群から選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする。
【0014】
(ラカンカ抽出物)
羅漢果(学名:Siraitia
grosvenorii)は、中国を原産地とするウリ科ラカンカ属のつる性の多年生植物である。本発明が対象とするラカンカ抽出物は、産地の別を問わず、羅漢果の果実、好ましくは羅漢果の生果実から、水またはエタノール等の有機溶媒を用いて抽出されたモグロシドVを含有する抽出物である。モグロシドVは、ラカンカ抽出物に含まれているトリテルペン系配糖体であり、砂糖の約300倍の甘味度を有していることが知られている甘味成分でもある。
【0015】
本醤油感増強剤で用いられるラカンカ抽出物のモグロシドV含有量は、本発明の効果を奏することを限度として、特に制限されない。言い換えれば、本醤油感増強剤において、モグロシドVは、ラカンカ抽出物から精製された状態で使用することもできるし、また、ラカンカ抽出物に含まれるモグロシドV以外のトリテルペン系配糖体(モグロール、モグロシドIE1、モグロシドIA1、モグロシドIIE、モグロシドIII、モグロシドIVa、モグロシドIVE、シメノシド、11-オキソモゴロシド、5α,6α-エポキシモグロシド)と混合した状態で使用することもできる。本発明において「ラカンカ抽出物」の用語には、これらの両方の意味が包含される。ラカンカ抽出物中のモグロシドVの含有量は、全体の10質量%以上であることが好ましい。より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、よりさらに好ましくは40質量%以上であり、とりわけ好ましくは50質量%以上である。ラカンカ抽出物中におけるモグロシドV以外の成分の含有量が増えると、当該成分による本醤油感増強剤の味質に対する影響が無視できなく傾向があるからである。
【0016】
こうしたラカンカ抽出物は、羅漢果の果実から抽出し、さらに必要に応じて精製処理することで調製することも可能であるが、簡便には商業的に入手することができる。例えば、市販されているラカンカ抽出物として「FD羅漢果濃縮エキスパウダー」(7質量%又は15質量%モグロシドV含有物)、「サンナチュレ(登録商標) M30」(30質量%モグロシドV含有物)、「サンナチュレ M50」(50質量%モグロシドV含有品)[以上、いずれも三栄源エフ・エフ・アイ(株)製];並びに高純度ラカンカ抽出物(サラヤ株式会社製)等を例示することができる。
【0017】
(ステビア抽出物)
ステビアレバウディアナ・ベルトニ(Stevia
Rebaudiana
Bertoni)(本発明では「ステビア」と略称する)は、南米パラグアイを原産地とするキク科ステビア属に属する植物である。本発明が対象とするステビア抽出物は、産地の別を問わず、ステビアの葉又は茎などから、水またはエタノール等の有機溶媒を用いて抽出されたレバウディオサイドAを含有する抽出物である。レバウディオサイドAは、ステビア抽出物に含まれているステビオール配糖体であり、砂糖の300~450倍の甘味度を有していることが知られている甘味成分でもある。
【0018】
本醤油感増強剤で用いられるステビア抽出物のレバウディオサイドA含有量は、本発明の効果を奏することを限度として、特に制限されない。言い換えれば、本醤油感増強剤において、レバウディオサイドAは、ステビア抽出物から精製された状態で使用することもできるし、また、ステビア抽出物に含まれるレバウディオサイドA以外のステビオール配糖体(ステビオサイド、レバウディオサイドB、レバウディオサイドC、レバウディオサイドD、レバウディオサイドE、レバウディオサイドM、ズルコサイドA、レブソサイド、ステビオールビオサイドなど)と混合した状態で使用することもできる。本発明において「ステビア抽出物」の用語には、これらの両方の意味が包含される。ステビア抽出物中のレバウディオサイドAの含有量は、全体の90質量%以上であることが好ましい。より好ましくは95質量%以上である。ステビア抽出物中におけるレバウディオサイドA以外の成分の含有量が5質量%、特に10質量%を超えて増えると、当該成分による本醤油感増強剤の味質に対する影響が無視できなく傾向があるからである。なお、本発明が対象とするステビア抽出物には、α-グルコシルトランスフェラーゼ等を用いて、上記ステビア抽出物にグルコースやフルクトース等の糖を転移した酵素処理ステビア抽出物も含まれる。また、本発明で対象とするレバウディオサイドAには、α-グルコシルトランスフェラーゼ等を用いてレバウディオサイドAにグルコースやフルクトース等の糖を転移した酵素処理レバウディオサイドAも含まれる。好ましくは酵素非処理ステビア抽出物であり、また好ましくは酵素非処理ステビア抽出物レバウディオサイドAである。
【0019】
こうしたステビア抽出物は、ステビアの葉や茎等を原料として抽出し、さらに必要に応じて精製処理することで調製することも可能であるが、簡便には商業的に入手することができる。例えば、市販されているステビア抽出物として、「レバウディオJ-100」、及び「レバウディオAD」(以上、いずれも守田化学工業(株)製)などを挙げることができる。これらの製品はレバウディオサイドAを90質量%以上の割合で含有する製品(ステビア抽出物)である。
【0020】
(本醤油感増強剤)
本醤油感増強剤は、前述するラカンカ抽出物、及びステビア抽出物よりなる群から選択される少なくとも1種を含有するものであればよく、1種単独で含有するものであっても、また2種以上を組み合わせて含有するものであってもよい。なお、本醤油感増強剤に含まれるラカンカ抽出物、又は/及びステビア抽出物の割合は、醤油調味料または醤油調味料含有組成物に添加配合するというその使用態様に則して、100質量%を限度として適宜設定することができる。
【0021】
2種以上を組み合わせる態様として、好ましくは少なくともステビア抽出物とラカンカ抽出物とが含まれる組み合わせを例示することができる。この場合、より好ましくは本醤油感増強剤に含まれるレバウディオサイドAとモグロシドVとの含有比が質量比(以下、同じ)で50:50~99:1となるような組み合わせを挙げることができる。レバウディオサイドAとモグロシドVとの好ましい配合比は60:40~99:1であり、より好ましくは70:30~99:1である。ステビア抽出物とラカンカ抽出物との併用に用いるステビア抽出物及びラカンカ抽出物は、前述の通りである。ラカンカ抽出物として、好ましくはモグロシドVの含有量が30質量%以上、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上のものを用い、またステビア抽出物として好ましくは、レバウディオサイドAの含有量が90質量%以上、好ましくは95質量%以上のものである。このように、ステビア抽出物にラカンカ抽出物を併用することで、ステビア抽出物を単独で使用する場合に生じ得るステビア抽出物特有の味質(苦味、後引き感、コク味のなさ、甘味発現が遅い)を抑えながらも、醤油感増強作用を有する組成物を得ることができる。
【0022】
本醤油感増強剤は、醤油調味料または醤油調味料含有組成物の醤油感を増強するために用いられる。その形態を問わないが、粉末状、顆粒状、タブレット状、およびカプセル剤状などの固体の形態、ならびにシロップ状、乳液状、液状、およびジェル状などの半固体または液体の形態を有することができる。また一剤の形態のほか、二剤の形態(例えば、ラカンカ抽出物を含有する製剤とステビア抽出物を含有する製剤との組み合わせ物など)を有するものであってもよい。
【0023】
本醤油感増強剤は、本発明の効果を妨げないことを限度として、ラカンカ抽出物、及びステビア抽出物よりなる群から選択される少なくとも1種を製剤形態に調製する際に、その形態に応じて、飲食品に配合可能な担体(基剤)や添加剤を適宜配合することもできる。かかる担体や添加剤としては、本醤油感増強剤の作用効果に影響を与えない範囲で、イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖などのオリゴ糖類;デキストリン、セルロース、アラビアガム、およびでん粉(コーンスターチ等)などの多糖類;および水などの溶媒を挙げることができる。また本醤油感増強剤の作用効果に影響を与えないことを限度として、乳糖、ブドウ糖、果糖、砂糖、果糖ブドウ糖液糖などの糖類;ソルビトール、エリスリトール、ラクチトール、マルチトール、マンニトール、キシリトール、還元パラチノースなどの糖アルコール類などの配合も排除するものではない。さらに本醤油感増強剤の作用効果に影響を与えない範囲で、飲食品に通常使用されるような香料、色素、または防腐剤などを配合することもできる。
【0024】
本醤油感増強剤中のモグロシドV、及びレバウディオサイドAの合計含有量(モグロシドV、及びレバウディオサイドAの少なくとも1つを含まない場合を包含する。以下、同じ。)は、本醤油感増強剤の使用態様、味や味質、及び他の成分の有無等に応じて、0.005~100質量%の範囲から適宜設定することができる。前述するように、モグロシドVの甘味度は砂糖の300倍、レバウディオサイドAの甘味度は砂糖の300~450倍であり、また配合比が50:50~99:1のレバウディオサイドAとモグロシドVの混合物の甘味度は砂糖の300~450倍であることから、例えば、本醤油感増強剤を適用する醤油調味料または醤油調味料含有組成物の甘味を考慮して適宜設定することができる。例えば、本醤油感増強剤を、醤油調味料または醤油調味料含有組成物に対して、醤油感を増強するとともに、甘味付与を目的として配合する場合、最終の醤油調味料または醤油調味料含有組成物中に含まれるモグロシドVの配合量としては0.002質量%以上、レバウディオサイドAの配合量としては0.002質量%以上となるような範囲で適宜調整することができる。また本醤油感増強剤がレバウディオサイドAとモグロシドVとの配合比が50:50~99:1のラカンカ抽出物とステビア抽出物の混合物である場合、レバウディオサイドAとモグロシドVの合計量が全体の0.002質量%以上になるように、最終の醤油調味料または醤油調味料含有組成物中に配合することができる。
【0025】
本発明において「醤油感」とは各醤油独特の風味(味と芳香)であり、これらは、通常、醤油を含有する飲食物を口に含んだとき、また飲み込んだときに、口腔内で感じる味覚による味、及び喉の奥から鼻腔内で感じる嗅覚による香りとが複合して感知される特性を意味し、「醤油風味」、「醤油らしさ」、「醤油の味わい」等とも称することができる。また本発明において「醤油感増強」とは、醤油調味料含有組成物に、第三成分(本醤油感増強剤)を添加することにより、醤油調味料含有組成物に配合している実際の醤油の量よりも多く配合していると感じさせる感覚(増強された感覚)である。こうした効果(感覚)は、通常、訓練された専門パネラーによる官能試験によって評価判定することができる。具体的には、対象とする醤油調味料含有組成物に醤油感増強剤(候補物を含む)を添加した場合に、添加する前の醤油調味料含有組成物の醤油感と比較して醤油感が上記のように増強していると感じられる場合には、当該醤油感増強剤(候補物)は、本発明の醤油感増強剤に該当すると判断することができる。
【0026】
(II)醤油調味料または醤油調味料含有組成物
本発明の醤油調味料または醤油調味料含有組成物は、前述する本醤油感増強剤を含有する醤油調味料または醤油調味料含有組成物である。当該本発明の醤油調味料または醤油調味料含有組成物は、対象とする醤油調味料または醤油調味料含有組成物に前述する本醤油感増強剤を添加配合することで調製することができる。以下、本醤油感増強剤を配合する対象の醤油調味料を「被調味料」、及び本醤油感増強剤を配合する対象の醤油調味料含有組成物を「被調味料含有組成物」と略称し、両者を総称する場合は「被対象組成物」と総称する。また、本醤油感増強剤を含有する醤油調味料を「本調味料」、本醤油感増強剤を含有する醤油調味料含有組成物を「本調味料含有組成物」と略称し、両者を総称する場合は「本発明組成物」と総称する。
【0027】
本発明が被調味料として対象とする「醤油調味料」には醤油、及び醤油様調味料が含まれる。ここで醤油とは、日本農林規格(平成27年12月3日農林水産省告示第2596号)に規定される「しょうゆ」を意味し、こいくちしょうゆ、うすくちしょうゆ、たまりしょうゆ、さいしこみしょうゆ、及びしろしょうゆがいずれも特級、上級及び標準の基準の別なく含まれる。また醤油様調味料とは、上記「しょうゆ」と同様の用途で使用される醤油加工調味料をいい、食塩濃度が上記規定の「しょうゆ」の食塩濃度よりも低い醤油、例えば食塩濃度が10%(w/v)以下である減塩醤油が含まれる。なお、通常の醤油の食塩濃度は、醤油の種類によっても異なり、制限されないものの、日本食品標準成分表2015年版(七訂)「17調味料及び香辛料類」に規定されている。その他、当該醤油様調味料には、醤油または減塩醤油に加えて、魚介類や海草類のエキス、野菜や果物等の植物エキス、だし類、果汁・野菜汁、糖類、酒類、発酵調味料、酸味料、ミネラル、塩味代替物質(例えば塩化カリウム等)、塩味増強物質(例えば、アルギニンなどのアミノ酸類)または香料等の副原料が含まれていてもよい。かかる醤油様調味料としては、めんつゆ・なべつゆ・だしつゆ・天つゆ・おでんつゆ等のつゆ類;焼き肉のたれ・焼き鳥のたれ・すき焼きの割りした・納豆のたれ等のたれ類:ドレッシング等の調味料:天丼・カツ丼などドンブリのかけ汁;煮物料理用の調味料:みたらしソースなど和菓子関係のお菓子の調味料;唐揚げの素などの調理下味付け用の調味料等を例示することができる。なお、本発明が対象とする被調味料(醤油、醤油様調味料)に含まれる食塩濃度は、特に限定されるものではないが1.0~20.0%(w/v)の範囲を例示することができる。また、本発明が被調味料含有組成物として対象にする「調味料含有組成物」は、前記醤油調味料(醤油、醤油様調味料)を含む飲食物(または味付けがされた飲食物)であればよく、特に制限されない。好ましくは、醤油の風味(醤油感)が飲食物の風味(味や香り)を構成する要素になっている飲食物であり、制限はされないものの、煮物などの総菜;磯辺焼き、せんべい、おかき、スナック菓子等の菓子及び軽食類を例示することができる。
【0028】
かかる被対象組成物(被調味料及び被調味料含有組成物)に配合する本醤油感増強剤は(I)で説明した通りであるが、被対象組成物が醤油である場合、これに配合するステビア抽出物は、レバウディオサイドAを90質量%以上、好ましくは95質量%以上含有するステビア抽出物であることが好ましい。また、この場合、本醤油感増強剤は、ステビア抽出物単独でなく、ステビア抽出物に少なくともラカンカ抽出物を併用したものであることが好ましい。ステビア抽出物とラカンカ抽出物の組み合わせの態様は前記(I)にて説明した通りである。
【0029】
前記被調味料(醤油、醤油様調味料)に本醤油感増強剤を配合して調製される本発明の醤油調味料の形状は、特に制限されず、液状であっても、フォーム状(泡状)であっても、またフリーズドライまたはスプレードライ等で乾燥された粉末または顆粒状の形態を有するものであることができる。
【0030】
被対象組成物に対する、前述するラカンカ抽出物、及びステビア抽出物よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する本醤油感増強剤の配合割合は、これらを配合することによって調製される本発明組成物が、本発明の効果を奏するものであればよく、その限りにおいて特に制限されない。被対象組成物に何を配合するかによって異なるが、例えば被対象組成物にラカンカ抽出物または/およびステビア抽出物を配合して本発明組成物を調製する場合、ラカンカ抽出物または/およびステビア抽出物は、本発明組成物中にそれらの最終濃度が総量で1ppm以上となるような割合で配合されることが好ましい。好ましくは3ppm以上、より好ましくは5ppm以上である。また上限値としては200ppm以下、好ましくは100ppm以下、より好ましくは50ppm以下である。具体的には、対象とする被対象組成物の種類に応じて、レバウディオサイドA及びモグロシドVの総濃度が、1~200ppmの範囲で、例えば1~100ppm、好ましくは1~50ppm、より好ましくは3~20ppmの範囲になるように配合することもできる。なお、ラカンカ抽出物およびステビア抽出物を配合する場合は、前述の通り、レバウディオサイドA及びモグロシドVの配合比が50:50~99:1となるように調整することが好ましい。なお、ラカンカ抽出物、又は/及び、ステビア抽出物は、本発明組成物の製造過程の任意の段階で添加することができる。
【0031】
斯くして調製される本発明組成物は、醤油調味料または醤油調味料含有組成物中にラカンカ抽出物、及びステビア抽出物よりなる群から選択される少なくとも1種を含む本醤油感増強剤を含有することで、これらをいずれも含有しない醤油調味料または醤油調味料含有組成物と比較して醤油感が増強されてなることを特徴とする。
【0032】
醤油調味料または醤油調味料含有組成物について醤油感が増強されているか否かは、醤油感増強剤が配合された醤油調味料または醤油調味料含有組成物(被験組成物)の風味(醤油感)を、本醤油感増強剤が配合されていない以外は前記被験組成物と同じ組成の醤油調味料または醤油調味料含有組成物(比較組成物)の風味(醤油感)と比較することで評価することができる。この評価において、比較組成物と比較して被験組成物のほうが醤油感が上昇している場合に、被験組成物について醤油感増強剤の配合により醤油感が増強されていると判断することができる。制限されないものの、具体的には、後述する実施例の記載に従って評価することができる。本醤油感増強剤の配合により醤油調味料または醤油調味料含有組成物の醤油感が増強されることで、実際よりも多くの醤油を配合した醤油調味料または醤油調味料含有組成物と同様の醤油感を有する本発明組成物を調製することができる。
【0033】
このように、本発明を用いることにより、醤油の配合量の増大や質の改善を要することなく、醤油調味料または醤油調味料含有組成物の醤油感を増強することができる。すなわち、本発明の製造方法により、簡便かつ安価に醤油感が増強された醤油調味料または醤油調味料含有組成物を製造することができる。また、醤油の配合が少ないと薄い(頼りない、ボディ感のない)単調な味になり易いが、本発明を用いることにより、薄い単調な味が醤油感が増強されることで補なわれ、醤油固有の風味を増強することができる。
【0034】
(III)醤油調味料または醤油調味料含有組成物の醤油感増強方法
本発明の醤油調味料または醤油調味料含有組成物の醤油感増強方法は、上記(II)で説明した被対象組成物(被調味料または被調味料含有組成物)に、前述するラカンカ抽出物、及びステビア抽出物よりなる群から選択される少なくとも1種を添加することによって実施することができる。ラカンカ抽出物、及びステビア抽出物は、被対象組成物に対するそれらの配合割合を含めて、前記(I)及び(II)で説明した通りであり、前記の記載はここに援用することができる。また被対象組成物も前記(I)で説明した通りであり、前記の記載はここに援用することができる。
【0035】
被対象組成物について、それにラカンカ抽出物、又は/及びステビア抽出物(ラカンカ抽出物等)を配合することで醤油感が増強されたか否かは、ラカンカ抽出物等が配合された醤油調味料または醤油調味料含有組成物(被験組成物)の風味(醤油感)を、ラカンカ抽出物等が配合されていない以外は前記被験組成物と同じ組成の醤油調味料または醤油調味料含有組成物(比較組成物)の風味(醤油感)と比較することで評価することができる。この評価において、比較組成物と比較して被験組成物のほうが醤油感が上昇している場合に、被験組成物についてラカンカ抽出物等の配合により醤油感が増強されていると判断することができる。制限されないものの、具体的には、後述する実施例の記載に従って評価することができる。ラカンカ抽出物等の配合により醤油調味料または醤油調味料含有組成物の醤油感が増強されることで、実際よりも多くの醤油を配合した醤油調味料または醤油調味料含有組成物と同様の醤油感を有する本発明組成物を調製することができる。
【0036】
このように、本発明の方法を用いることにより、醤油の配合量の増大や質の改善を要することなく、醤油調味料または醤油調味料含有組成物の醤油感を増強することができる。すなわち、本発明の方法により、簡便かつ安価に醤油感が増強された醤油調味料または醤油調味料含有組成物を調製することができる。また、醤油の配合が少ないと薄い(頼りない、ボディ感のない)単調な味になり易いが、本発明を用いることにより、薄い単調な味が醤油感が増強されることで補なわれ、醤油固有の風味を増強することができる。
【0037】
なお、本明細書において、「含む」や「含有する」という用語には、「から実質的になる」及び「からなる」の意味が包含される。
【実施例】
【0038】
本発明の内容を以下の実験例や実施例を用いて具体的に説明する。しかし、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。下記において、特に言及する場合を除いて、実験は大気圧及び常温条件下で行っている。また特に言及する場合を除いて、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を意味する。
【0039】
以下の実験例に使用した原料は下記の通りである。
(1)ラカンカ抽出物:
サンナチュレM50(乾燥粉末製品、三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)。羅漢果の生果実(未乾燥果実)を水で抽出した後、濾過して回収した水抽出液を脱色及び濃縮した後、スプレードライにより乾燥粉末としてモグロシドVを50%の割合で含むように調製された、ショ糖の約300倍の甘味を有する高甘味度甘味料。
【0040】
(2)ステビア抽出物:
レバウディオJ-100(乾燥粉末製品、守田化学工業(株)製)。レバウディオサイドAを95%以上含有品、ショ糖の約300倍の甘味を有する高甘味度甘味料。
【0041】
(3)ステビア抽出物とラカンカ抽出物の混合物:
ステビア抽出物としてレバウディオJ-100(守田化学工業(株)製)、ラカンカ抽出物としてサンナチュレM50(三栄源エフ・エフ・アイ(株)製))を95:5(質量比)の割合で混合した組成物。ショ糖の約300倍の甘味を有する。
【0042】
(4)スクラロース:三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製
(5)アスパルテーム:味の素株式会社製
(6)醤油:キッコーマン特選丸大豆醤油(Na量から換算した食塩相当量2.5g/15mL)。
【0043】
実験例1 醤油感増強剤の醤油感増強作用の評価(その1)
(1)評価方法
飲食品の味質の官能評価に従事し訓練して社内試験に合格したパネル3名(以下の実験例においても同じ)を用いて、候補の各種醤油感増強剤(被験増強剤)を配合した醤油含有飲食物の醤油感を評価した。また比較として候補の醤油感増強剤に代えて、高感度甘味料であるスクラロースまたはアスパルテームを配合した醤油含有飲食物についても、同様に醤油感を評価した。ここで醤油感は、醤油含有飲食物を口に含んだ際に口腔及び鼻腔内で感じられる醤油特有の風味を意味する。
【0044】
(醤油含有飲食物I)
醤油 10.0
醤油感増強剤または高甘味度甘味料(下記参照) 表1参照
水 残 部
合計 100.00%
【0045】
具体的には、評価基準とする醤油含有飲食物として、前記醤油含有飲食物Iの処方において、醤油感増強剤及び高甘味度甘味料のいずれも配合しない醤油含有飲食物を「対照飲食物」;醤油の配合量を1.05倍に増やし(醤油配合10.5%)、且つ醤油感増強剤及び高甘味度甘味料のいずれも配合しない醤油含有飲食物を「陽性対照飲食物」として、これらの醤油感の評価スコアをそれぞれ「0点」及び「2点」とした。
【0046】
パネル3名に下記の評価スコアに従って、醤油感増強剤1~3(実施例1~3)及び高甘味度甘味料1~2(比較例1~2)をそれぞれ添加した各種の醤油含有飲食物Iの醤油感を評価してもらい、パネル3名の評価スコアの平均値を求めた。なお、これらの醤油含有飲食物Iの醤油感の評価はいずれもそれらの品温を約25℃に調整したうえで実施した(以下の実験例においても同じ)。
【0047】
[醤油感の評価スコア]
3点:陽性対照飲食物よりも強い醤油感が感じられる(強い醤油感増強効果あり)
2点:陽性対照飲食物とほぼ同じ醤油感が感じられる(醤油感増強効果あり)
1点:対照飲食物よりも強いが、陽性対照飲食物よりは弱い醤油感が感じられる(醤油感増強効果ややあり)
0点:対照飲食物と同程度の醤油感(醤油感増強効果なし)
【0048】
(2)評価結果
被験飲食物Iについてパネル3名の評価スコアとその平均値を表1に示す。表中「甘味倍率」は、ショ糖の甘さに換算した甘味度を意味する。添加量を調節することで、最終の飲食物の甘味度が等しくショ糖0.15%相当になるように調整している。なお、ショ糖0.15%相当量とは甘味を呈しない量である。
【0049】
【0050】
表1に示す結果から、ラカンカ抽出物、及びステビア抽出物を、甘味を呈さない量で醤油を含む組成物に添加配合することで、その醤油感が有意に増強することが確認された(実施例1、及び2)。またラカンカ抽出物とステビア抽出物を併用することで醤油感増強効果が格段に高まることが確認された(実施例3)。一方、ラカンカ抽出物、及びステビア抽出物と同じく高甘味度甘味料であるスクラロース及びアスパルテームにはいずれも、醤油含有飲食物に対して醤油感を増強する作用は認められなかった(比較例1及び2)。
【0051】
実験例2 醤油感増強剤の醤油感増強作用の評価(その2)
前記実験例1の結果から、ラカンカ抽出物とステビア抽出物の混合物に高い醤油感増強効果が認められたため、表2に示すように、ラカンカ抽出物とステビア抽出物の配合比率を変えて種々の醤油感増強剤(実施例3~7)を調製し、実験例1と同様の試験を行って、各醤油感増
強剤の醤油含有組成物に対する醤油感増強効果を評価した。
【0052】
(1)被験試料(醤油感増強剤1~5)の調製
ステビア抽出物及びラカンカ抽出物を用いて、レバウディオサイドAとモグロシドVの配合比(質量比)が表2に記載する割合になるように混合して、5種類の醤油感増強剤1~5(実施例4、3、5~7)を調製した。表2に記載するレバウディオサイドAとモグロシドVの配合比は、レバウディオサイドAとモグロシドVの総量を100部とした場合における各成分の配合比(質量比)を意味する。
【0053】
【0054】
(2)評価方法
実験例1と同様に、パネル3名を用いて、醤油感増強剤1~5(実施例4、3、5~7)を配合して調製した醤油含有飲食物IIの醤油感を評価した。
【0055】
(醤油含有飲食物II)
醤油 10.00
醤油感増強剤1~5 表3参照
水 残 部
合計 100.00%
【0056】
具体的には、前記醤油含有飲食物IIの処方において、醤油感増強剤を配合しない醤油含有飲食物を「対照飲食物」;醤油の配合量を1.05倍に増やし、且つ醤油感増強剤のいずれも配合しない醤油含有飲食物を「陽性対照飲食物」として、実験例1と同じ評価スコア(基準)に従って、パネル3名に醤油含有飲食物IIの醤油感を評価してもらった。
【0057】
(3)評価結果
醤油含有飲食物IIについてパネル3名の評価スコアとその平均値を表3に示す。表中「甘味倍率」は、ショ糖の甘さに換算した甘味度を意味する。添加量を調節することで、最終の飲食物の甘味度が等しくショ糖0.15%相当になるように調整している。
【表3】
【0058】
表3に示す結果から、醤油含有飲食物に対して、レバウディオサイドAとモグロシドVを種々の割合で併用した組成物(醤油感増強剤1~5)を配合することで、醤油含有飲食物の醤油感を有意に増強することができることが確認された。具体的には、レバウディオサイドAとモグロシドVとを50:50~99:1、好ましくは60:40~99:1、より好ましくは70:30~99:1の割合(質量比)で併用することで、醤油を含有する飲食物に対して醤油感増強作用を発揮することが確認された。また、醤油または醤油含有組成物を冷蔵して品温を10℃に調整したものについても同様に評価したところ、25℃で評価した前記評価スコアと有意な相違は認められなかった。
【0059】
実験例3 醤油感増強剤の醤油感増強作用の評価(その3)
(1)評価方法
パネル3名を用いて、前記醤油感増強剤2(実施例3)を各種濃度(0.0001~0.02質量%:表4参照)になるように配合した醤油含有飲食物IIIの醤油感を評価した。
【0060】
具体的には、評価基準とする醤油含有飲食物として、上記各醤油含有飲食物IIIについて醤油感増強剤を配合しない醤油含有飲食物を「対照飲食物III」;上記各醤油含有飲食物IIIについて各醤油の配合量を1.05倍量とし、且つ醤油感増強剤を配合しない醤油含有飲食物を「陽性対照飲食物III」とし、これらの醤油感の評価スコアをそれぞれ「0点」及び「2点」とした。パネル3名に実験例1と同じ評価スコアに従って、各種濃度の醤油感増強剤を添加した評価試験用の醤油含有飲食物III(表4)の醤油感を評価してもらい、パネル3名の評価スコアの平均値を求めた。
【0061】
【0062】
表4に示す結果から、醤油含有飲食物に対して醤油感増強剤2(実施例3)を少なくとも1ppm以上、好ましくは1~100ppm、より好ましくは1~50ppmの割合で配合することで醤油含有組成物の醤油感が増強されることが確認された。なお、醤油感増強剤2(実施例3)の甘味閾値は0.002%(20ppm)であることから、本発明の醤油感増強剤が発揮する醤油感増強効果はその甘味の有無とは無関係であると考えられる。つまり、本発明の醤油感増強剤は甘味を呈さない量でも有意に醤油感成分の醤油感を増強することができる。
【0063】
実験例4 醤油感増強剤を含む醤油調味料(みたらしソース)の調製とその評価
(1)調製方法
下記表5の処方に従って、陽性対照醤油調味料、対照醤油調味料、及び本発明の醤油調味料(みたらしソース)を調製した。
【表5】
【0064】
(a)水と成分3を撹拌しながら、成分4を添加し、分散させる。
(b)80℃で10分間加熱しながら撹拌し溶解する。
(c)それに成分1、2および5を添加し、93℃まで加熱する。
(d)調製した醤油調味料(みたらしソース)を容器に充填して、冷却する。
【0065】
(2)評価
パネル3名を用いて、調製した本醤油調味料(みたらしソース)の醤油感を、実験例1と同じ方法と基準に基づいて評価した。その結果、パネル3名とも本醤油調味料の醤油感の評価スコアは3であり、本発明の醤油感増強剤を配合することで、濃口醤油を多く添加した陽性対照醤油調味料よりも醤油感が増強していることが確認された
【0066】
実験例5 醤油感増強剤を含む醤油調味料(焼き肉のたれ)の調製とその評価
(1)調製方法
下記表6の処方に従って、陽性対照醤油調味料、対照醤油調味料、及び本発明の醤油調味料(焼き肉のたれ)を調製した。
【表6】
【0067】
(a)水と成分1に、成分2及び19の粉体混合物を加え、80℃で10分間、加熱撹拌しながら溶解する。
(b)これに成分3~18を加えて溶解させた後、成分20を加えて、水で全量を補正する。
(c)調製した醤油調味料(焼き肉のたれ)を容器に充填して、85℃で30分間加熱殺菌する。
【0068】
(2)評価
パネル3名を用いて、調製した本醤油調味料(焼き肉のたれ)の醤油感を、実験例1と同じ方法と基準に基づいて評価した。その結果、パネル3名の評価スコアの平均は1.3であり、本発明の醤油感増強剤を配合することで、濃口醤油を多く添加した陽性対照醤油調味料よりは弱いものの対照醤油調味料よりも醤油感が増強していることが確認された。
【0069】
実験例6 醤油感増強剤を含む醤油調味料及びそれを含む食品(あられ)の調製とその評価
(1)調製方法
下記表7の処方に従って、陽性対照醤油調味料、対照醤油調味料、及び本発明の醤油調味料(焼き肉のたれ)を調製した。次いで、これを素焼きあられに絡めて、調味料付きあられを調製した
【表7】
【0070】
(a)成分1~6を、水に混合溶解し、水で全量を調整して、これを醤油調味料とする。
(b)素焼きあられ100gに、上記の醤油調味料15gを絡める。
(c)これを100℃で20分間焼く。
(d)表裏をひっくり返して、さらに20分間焼く。
(e)これに再度調味液15gを絡める。
(f)再度、前記(c)と(d)を行い、調味料付きあられを調製する。
【0071】
(2)評価
パネル3名を用いて、調製したあられの醤油感を、実験例1と同じ方法と基準に基づいて評価した。その結果、パネル3名の評価スコアの平均は2.7であり、本発明の醤油感増強剤を配合した醤油調味料を用いることで、濃口醤油を多く添加した陽性対照醤油調味料を用いたあられと同等以上に醤油感が増強していることが確認された。
【0072】
実験例7 醤油感増強剤を含む醤油調味料(牛丼のたれ)の調製とその評価
(1)調製方法
下記表8の処方に従って、対照醤油調味料、及び本発明の醤油調味料(牛丼の素)を調製した。
【表8】
【0073】
(a)水に成分3~5、14及び15を加え、85℃で10分間加熱する。
(b)これに、残りの全原料を加えて、撹拌溶解する。
【0074】
本醤油調味料と対照醤油調味料(牛丼の素)の醤油感から、本発明の醤油感増強剤を配合することで、醤油感が増強することが確認された。また醤油感増強剤を配合することで、コクやボディ感を付与しながら、塩味をエンハンスできることが確認された。なお、本醤油調味料は、対照醤油調味料と比べて、糖質が53%カットされている。
【0075】
実験例8 醤油感増強剤を含む醤油調味料を含む食品(ひじき)の調製とその評価
(1)調製方法
下記表9の処方に従って、陽性対照醤油調味料含有食品(陽性対照食品)、及び本発明の醤油調味料含有食品(本食品)(ひじき)を調製した。
【表9】
【0076】
(a)成分1を水洗いし、水に20~30分間浸けてもどし、水気を切る。
(b)成分3と4を線切りにする。
(c)鍋に成分6を入れて熱し、成分1~4を1分間炒める。
(d)これに成分5及び7~10を加えて、落とし蓋をして中火で5分間煮る。
(e)これに成分7を加えて、弱火で120gになるまで煮る
【0077】
本食品と陽性対照食品(ひじき)の醤油感から、本発明の醤油感増強剤を配合することで、醤油感が増強することが確認された。