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特許7341755局所的音場支援用音響反射体及び局所的音場支援装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】局所的音場支援用音響反射体及び局所的音場支援装置
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/34 20060101AFI20230904BHJP
   G10K 11/28 20060101ALN20230904BHJP
   G10K 15/00 20060101ALN20230904BHJP
   H04R 3/00 20060101ALN20230904BHJP
【FI】
H04R1/34 310
G10K11/28
G10K15/00 M
H04R3/00 320
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019126013
(22)【出願日】2019-07-05
(65)【公開番号】P2021013089
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】谷川 将規
【審査官】中嶋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-161604(JP,A)
【文献】特開2018-142878(JP,A)
【文献】特開平03-128599(JP,A)
【文献】特開2007-274132(JP,A)
【文献】特開2011-211396(JP,A)
【文献】特開2005-333270(JP,A)
【文献】特表2017-536001(JP,A)
【文献】特開2012-231448(JP,A)
【文献】特開2018-006822(JP,A)
【文献】特開2013-162212(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/34
G10K 11/28
G10K 15/00
H04R 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オープンスペース内のエリアの音を収集してターゲット音を抽出し、前記ターゲット音を所定の条件で強調した強調音を強調音出力器から出力することによって前記エリアの音場を支援する局所的音場支援装置に用いられる局所的音場支援用音響反射体であって、
前記強調音出力器から出力される前記強調音を正反射させる反射面を有し、
前記反射面は、正反射した前記強調音の進路上に、前記エリアにいるユーザが位置するように配置されており、
底面と、前記底面の外周縁から中心に向かうに従って線形的に上昇又は下降する側面とを有する反射本体で構成され、
前記側面が前記反射面として構成されている、
局所的音場支援用音響反射体。
【請求項2】
前記強調音出力器と前記ユーザとの相対位置に合わせて前記反射面の姿勢を調節する反射面調節器をさらに備える、
請求項1に記載の局所的音場支援用音響反射体。
【請求項3】
前記反射面調節器は、前記反射面を前記局所的音場支援用音響反射体が設けられている設置面と面一にすること、及び前記反射面を前記設置面に対してなす角度が変わるように回動させること、の一方又は双方を行う、
請求項に記載の局所的音場支援用音響反射体。
【請求項4】
請求項1からのいずれか一項に記載の局所的音場支援用音響反射体を備える、
局所的音場支援装置。
【請求項5】
前記エリアに机が設けられ、
前記局所的音場支援用音響反射体が前記机の卓上の平面視中央に設置されている、
請求項に記載の局所的音場支援装置。
【請求項6】
前記エリアに机が設けられ、
前記局所的音場支援用音響反射体が前記机の平面視中央の上方の空間に設置されている、
請求項に記載の局所的音場支援装置。
【請求項7】
前記エリア内の前記ユーザの位置を推定するユーザ位置推定器をさらに備え、
前記ユーザ位置推定器で推定された前記位置に合わせて前記反射面の姿勢が調節される、
請求項からのいずれか一項に記載の局所的音場支援装置。
【請求項8】
オープンスペース内のエリアの音を収集してターゲット音を抽出し、前記ターゲット音を所定の条件で強調した強調音を強調音出力器から出力することによって前記エリアの音場を支援する局所的音場支援装置に用いられ、前記強調音出力器から出力される前記強調音を正反射させる反射面を有し、前記反射面は、正反射した前記強調音の進路上に、前記エリアにいるユーザが位置するように配置されている局所的音場支援用音響反射体を備え、
前記エリア内の前記ユーザの位置を推定するユーザ位置推定器をさらに備え、
前記ユーザ位置推定器で推定された前記位置に合わせて前記反射面の姿勢が調節される、
局所的音場支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、局所的音場支援用音響反射体及び局所的音場支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、劇場やホールには、反響板又は音響反射板をはじめとする残響処理装置が設置されている。劇場等に比べて小スペースのオフィスには、吸音構造や吸音材料を有する壁、天井、仕切り板等が設置されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、オフィスや居住空間等でノイズ音に加えてターゲット音が同一空間に存在する場合においても、ノイズ音のみを聞こえにくくして、効果的にターゲット音を聞き取りやすくするための音環境制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-52049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、店舗や公共空間等に、オープンスペースや所謂「ワイガヤ」環境が多く設けられている。各エリア内の作業効率の向上と良好なコミュニケーションの確保のためには、使用目的毎のエリア内でターゲット音を聞き取りやすい音環境が求められる。しかしながら、オープンスペースでは、エリアと時間によって使用目的及び音源、音量が変わる。そのため、ノイズ音や他のエリアの音を制御して対象エリアの音環境を制御する従来の技術では、エリア毎に好適な音環境を確保しにくい、又は好適な音環境の確保に時間がかかる。
【0006】
上述の事情を鑑み、各エリアの音場をアクティブに支援する局所的音場支援装置が検討されている。この局所的音場支援装置は、エリアの音を収音し、収音した音からユーザが聞き取る対象の会話音声等のターゲット音を抽出し、ターゲット音を所定の条件で強調した強調音をエリアに出力する。このような局所的音場支援装置において、周囲にノイズ音があるエリアでユーザがターゲット音を聞き取りやすくするためには、スピーカー等の強調音出力器から出力された強調音が遮られず、ユーザに届くことが重要である。しかしながら、ユーザとスピーカーとの相対位置関係によってはユーザに届く強調音が弱くなり、ユーザがターゲット音を聞き取りやすくなるという効果が十分に得られない場合が考えられる。そのため、強調音をユーザに良好に到達させる仕組みが求められていた。
【0007】
本発明は、オープンスペースの各エリアにおいて強調音をユーザに良好に到達させることが可能な局所的音場支援用音響反射体及び局所的音場支援装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の局所的音場支援用音響反射体は、オープンスペース内のエリアの音を収集してターゲット音を抽出し、前記ターゲット音を所定の条件で強調した強調音を強調音出力器から出力することによって前記エリアの音場を支援する局所的音場支援装置に用いられる局所的音場支援用音響反射体であって、前記強調音出力器から出力される前記強調音を正反射させる反射面を有し、前記反射面は、正反射した前記強調音の進路上に、前記エリアにいるユーザが位置するように配置されており、底面と、前記底面の外周縁から中心に向かうに従って線形的に上昇又は下降する側面とを有する反射本体で構成され、前記側面が前記反射面として構成されている。
【0009】
上述の局所的音場支援用音響反射体によれば、オープンスペース内のエリアに出力された強調音の進路がユーザに向けられるので、強調音がユーザに良好に到達する。
【0011】
上述の局所的音場支援用音響反射体によれば、簡易な形状で構成されると共に、強調音出力器から出力された強調音が側面で反射し、ユーザに良好に到達する。
【0012】
本発明の局所的音場支援用音響反射体は、前記強調音出力器と前記ユーザとの相対位置に合わせて前記反射面の姿勢を調節する反射面調節器をさらに備えてもよい。
【0013】
上述の局所的音場支援用音響反射体によれば、強調音出力器とユーザとの相対位置が変更されても、変更後の相対位置に合わせて反射面の姿勢が調節され、強調音がユーザに良好に到達する。
【0014】
本発明の局所的音場支援用音響反射体では、前記反射面調節器は、前記反射面を前記局所的音場支援用音響反射体が設けられている設置面と面一にすること、及び前記反射面を前記設置面に対してなす角度が変わるように回動させること、の一方又は双方を行ってもよい。
【0015】
上述の局所的音場支援用音響反射体では、反射面調節器によって反射面の姿勢が設置面と面一になるように調節されれば、反射面上を設置面上と同様に取り扱い可能になる。また、反射面調節器によって反射面が回動可能であれば、不要時に局所的音場支援用音響反射体を収納可能になる。例えば、局所的音場支援用音響反射体が机の卓上に設けられていれば、卓上面より下方の机の内部に不要時の局所的音場支援用音響反射体を収容可能になる。
【0016】
本発明の局所的音場支援装置は、上述の局所的音場支援用音響反射体を備える。
上述の構成により、オープンスペース内のエリアに強調音出力器から出力される強調音の出射方向がユーザ(の頭部)に向くので、強調音がユーザに良好に到達する。
【0017】
本発明の局所的音場支援装置では、前記エリアに机が設けられ、前記局所的音場支援用音響反射体が前記机の卓上の平面視中央に設置されていてもよい。
【0018】
上述の局所的音場支援装置によれば、机の上方に配置された強調音出力器から机の卓上の平面視中央に向けて強調音が出力されると、強調音が反射面で反射され、ユーザに良好に到達する。
【0019】
本発明の局所的音場支援装置では、前記エリアに机が設けられ、前記局所的音場支援用音響反射体が前記机の平面視中央の上方の空間に設置されていてもよい。
【0020】
上述の局所的音場支援装置によれば、机の上方に配置された強調音出力器から机の卓上に向けて強調音が出力されると、強調音が机の表面や他の什器等の表面、加えて反射面で反射され、ユーザに良好に到達する。
【0021】
本発明の局所的音場支援装置は、前記エリア内の前記ユーザの位置を推定するユーザ位置推定器をさらに備え、前記ユーザ位置推定器で推定された前記位置に合わせて前記反射面の姿勢が調節されてもよい。
【0022】
上述の局所的音場支援装置によれば、ユーザの移動やユーザの増減が生じても、ユーザ位置推定器でエリア内のユーザの位置が推定され、ユーザの位置に合わせて反射面の姿勢が調節される。このことによって、強調音がユーザに良好に到達する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の局所的音場支援用音響反射体及び局所的音場支援装置によれば、オープンスペースの各エリアに好適な音環境を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1実施形態の局所的音場支援用音響反射体及び局所的音場支援装置が設けられたオープンスペースのエリアの平面図である。
図2図1に示すエリアをX方向から見た側面図である。
図3図2に示すエリアをY方向から見た側面図である。
図4図1に示す局所的音場支援装置のブロック図である。
図5】本発明の第2実施形態の局所的音場支援用音響反射体及び局所的音場支援装置が設けられたオープンスペースのエリアの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の局所的音場支援用音響反射体及び局所的音場支援装置の好ましい実施形態について、図面を参照して説明する。
【0026】
(第1実施形態)
図1及び図2に示すように、本発明の第1実施形態の局所的音場支援装置10は、建築物の床202と天井200との間のオープンスペース100の局所的音場を支援するための装置である。オープンスペース100は、水平方向において壁や仕切り板等で仕切られないエリア110を複数有する。つまり、「局所的音場」とは、オープンスペース100を全体としたときに、オープンスペース100の一部であって空間的に互いに隣り合うエリア110の音場を意味する。オープンスペース100は、エリア110毎に会議や個別の作業、歓談等の個別の目的で同時に使用可能となるように構成された1つの空間である。
【0027】
本実施形態のオープンスペース100では、各エリア110に、机121と椅子122が設けられている。エリア110では、少なくとも1人のユーザ130(図3参照)が椅子122に座り、使用目的に合わせて過ごすことができる。図1及び図2では、ユーザ130は省略されている。例えば、図1には、複数のエリア110のうち1つのエリア111が図示されている。エリア110では、複数のユーザ130が机121を囲んでそれぞれ椅子122に座り、互いにコミュニケーションを取りつつ、会議を行っている。
【0028】
局所的音場支援装置10は各エリア110に1つ設けられている。各エリア110の局所的音場支援装置10は互いに同様の構成を備えている。
【0029】
局所的音場支援装置10は、収音器20、強調音生成器55、強調音出力器60、音響反射体(局所的音場支援用音響反射体)1、ユーザ位置推定器85を備えている。
【0030】
収音器20は、エリア111の平面視中央部の天井200からエリア111の上部の空間に垂下されている。収音器20は、円筒形のホルダ24と、複数の収音マイク22を有する。図2に示すように、本実施形態の収音器20は、8個の収音マイク22を有する。8個の収音マイク22は、ホルダ24の側面に、周方向において互いに等しい間隔をあけて配置されている。なお、図1及び図2では、ユーザ130は省略されている。
【0031】
収音マイク22は、エリア111の音を収音する。8個の収音マイク22の初期状態の収音方向は、ホルダ24の平面視中心から径方向の外側に向かって放射状に向いている。収音マイク22の種類は、特に限定されないが、例えば市販の収音マイク(製品名;CSMIC-S1R0、販売元;株式会社システムインフロンティア)等である。
【0032】
強調音生成器55は、エリア111の音を収集してターゲット音を抽出し、ターゲット音を所定の条件で強調した強調音を生成する。図2に示すように、強調音生成器55は、天井空間210に配置されている。音制御機構70は、例えば平面視における収音器20と重なる天井空間210に設置されている。
【0033】
強調音生成器55は、収音器20に接続され、収音器20で収音された音に含まれるターゲット音を抽出する。ターゲット音は、各エリア110においてユーザ130が使用目的に応じて聞き取る対象の音を意味する。エリア111のターゲット音は、エリア111内にいる全てのユーザ130の会話音声である。強調音生成器55は、8個の収音マイク22によって収音された音から、複数のユーザ130の会話音声を抽出する。
【0034】
強調音生成器55は、上述のように抽出したターゲット音を強調して強調音を生成する。強調音は、ターゲット音をユーザ130が聞き取りやすくなるように所定の条件で強調した音を意味する。所定の条件として、例えば、ターゲット音の周波数成分から母音成分が多く含まれる2kHz未満の周波数成分を削除し、子音成分が多く含まれる2kHz以上の周波数成分を残す、又は2kHz以上の周波数成分を増幅する方法が挙げられる。ターゲット音から強調音を生成する他の条件としては、例えば、ターゲット音の音量を、ターゲット音のピーク周波数に対しラウドネス曲線に基づいてユーザ130がターゲット音の音量を所定の音量[dB]であると感じることができる物理音量[dB]に増幅する方法が挙げられる。強調音生成器55は、生成した強調音を強調音出力器60に出力する。
【0035】
強調音出力器60は、強調音生成器55に接続されている。高さ方向において、強調音出力器60は、エリア111の外周部の天井200からエリア111の上部の空間に複数垂下されている。水平方向において、強調音出力器60は、椅子122及び椅子122に座った状態のユーザ130を挟んで机121の中央部(平面視中央)又は中央部近傍とは反対側の空間に配置されている。
【0036】
強調音出力器60は、スピーカー62を有する。図1に示すように、本実施形態では、エリア111の椅子122と同数の6個のスピーカー62が設けられている。図1及び図3に示すように、強調音出力器60の出力面64は、椅子122に座った状態のユーザ130の眼前を通って机121の中央部を臨むように向けられている。
【0037】
6個のスピーカー62は、それぞれ指向性を有する。スピーカー62の指向性、即ちスピーカー62から強調音が出力される方向は、概ね机121の中央部に向いている。図3に示すように、強調音出力器60は、強調音生成器55から入力された強調音500をエリア111に向かって出力する。図3の矢印は、波である音の進路502を示している。スピーカー62の種類は、特に限定されないが、例えば市販の超指向性スピーカー(製品名;PS-60E、販売元;三菱電機エンジニアリング株式会社)等である。
【0038】
第1実施形態の音響反射体1は、机121の平面視中央又は平面視中央近傍に配置されている。音響反射体1は、強調音出力器60から出力される強調音500を正反射させる反射面5を有する。反射面5は、正反射した強調音500の進路502上に、エリア111にいるユーザ130の頭部が位置するように配置されている。
【0039】
第1実施形態では、音響反射体1は、底面6と、底面6の外周縁から中心に向かうに従って線形的に上昇する側面7とを有する反射本体8で構成されている。底面6は、エリア111の椅子122の数と同数の角をもつ正6角形である。つまり、反射本体8は、角錐であって、正6角錘で構成されている。
【0040】
側面7は、反射面5として構成されている。側面7は、机121の上面(机の卓上の設置面)125に対して所定の角度で傾斜している。所定の角度は、反射面5に入射した強調音500が正反射した後、ユーザ130の頭部に直接到達することができる角度になっている。前述のように底面6は正6角形になっているので、反射本体8は、エリア111の椅子122の数と同数の側面7を有する。底面6の周方向において、1つの側面7は、エリア111の各椅子122及び各椅子122に座るユーザ130と対向している。
【0041】
反射面5の大きさや形状は、ユーザ130と強調音出力器60との相対位置に基づいて例えば幾何音響解析法による数値シミュレーションによって決定される。エリア111の椅子122及びユーザ130の位置と強調音出力器60反射本体8の素材は、吸音性がない又は吸音性が極めて低いものであれば特に限定されず、例えば木や樹脂であることが好ましい。第1実施形態の反射面5は机121の卓上に設けられてユーザ130に対向しているので、反射本体8は会議用の資料を表示するディスプレイで構成されていてもよい。
【0042】
音響反射体1は、反射面調節器11をさらに備える。反射面調節器11は、強調音出力器60とユーザ130との相対位置に合わせて反射面5の姿勢を調節する。第1実施形態では、反射面5を構成する側面7が上面125に対してなす角度が調整できるように、側面7が移動可能且つ回動可能になっている。反射面調節器11は、反射面5を上面(局所的音場支援用音響反射体が設けられている設置面)125と面一にすること、及び反射面5を上面125に対してなす角度が変わるように回動させること、の一方又は双方を行う。第1実施形態の反射面調節器11は、反射面5を上面125と面一にすることができ、反射面5を前述のように回動させることもできる。
【0043】
ユーザ位置推定器85は、エリア111内のユーザ130の位置を推定する。例えば、ユーザ位置推定器85は、収音器20、強調音生成器55及び反射面調節器11と接続され、収音器20における収音方向及び収音時間、強調音生成器55が得ているユーザ130の会話音声等の情報に基づいてエリア111内のユーザ130の位置を推定し、反射面調節器11にユーザ130の位置の情報を出力する。反射面調節器11は、ユーザ位置推定器85で推定されたユーザ130の位置に合わせて反射面5の姿勢を調節する。
【0044】
反射面調節器11及びユーザ位置推定器85は、音制御機構70に収められている。音制御機構70は、例えばコンピュータで構成されている。強調音生成器55は、上述のように収音器20で収音された音に含まれるターゲット音を強調して強調音を生成するプログラムで構成され、前述のコンピュータに内蔵されている。反射面調節器11は、上述のように強調音出力器60とユーザ130との相対位置に合わせて反射面5の姿勢を調節するプログラムで構成され、前述のコンピュータに内蔵されている。ユーザ位置推定器85は、上述のようにエリア111内のユーザ130の位置を推定するプログラムで構成され、前述のコンピュータに内蔵されている。
【0045】
音制御機構70には、強調音生成器55、反射面調節器11及びユーザ位置推定器85に加えて、収音マイク22の指向性を制御する収音器調整器、緊急事態発生時には緊急事態発生を知らせる内容を強調音として生成する各種調整器、制御器が収められている。つまり、音制御機構70は、局所的音場支援装置10の動作を総合的に制御する制御機構として機能する。
【0046】
次に、局所的音場支援装置10によるエリア111の音場支援の流れの一例を説明する。エリア111でユーザ130同士の会話が開始されると、収音器20はエリア111内の音を収音する。収音された音は、収音器20から強調音生成器55に伝送される。
【0047】
強調音生成器55は、入力された音からエリア111のターゲット音である会話音声を抽出し、会話音声を強調して強調音500を生成する。強調音500は、強調音生成器55から強調音出力器60に伝送される。強調音出力器60は、強調音生成器55から入力された強調音を音響反射体1の反射面5に向かって出力する。
【0048】
図4に示すように、収音器20によって収音されたエリア111内の音は、収音器20からユーザ位置推定器85にも伝送される。ユーザ位置推定器85は、入力されたエリア111内の音の成分の情報、音制御機構70が把握しているエリア111内の音が収音された時間の情報等に基づいて、エリア111におけるユーザ130の位置を推定する。エリア111内のユーザ130の位置情報には、例えば図2に示す6つの椅子122のいずれにユーザ130が座っているのかという情報や、エリア111内で椅子122に座っていないユーザ130の有無等が広く含まれる。
【0049】
ユーザ位置推定器85で推定されたユーザ130の位置は、反射面調節器11に出力される。反射面調節器11は、入力されたユーザ130の位置情報に合わせて反射面5の上面125に対する角度や反射面5がユーザ130に対してとる姿勢を調節する。
【0050】
上述の流れにより、エリア111の音場は、ユーザ130がターゲット音を聞き取りやすくなるように支援される。つまり、エリア111では、ユーザ130が同じエリア111内にいるユーザ130とのリアルな会話音声と背後上方から届く強調会話音声の両方を聞き取る。
【0051】
エリア111以外のオープンスペース100内の各エリア110では、上述の流れと同様の流れで音場が支援される。各エリア110の強調音生成器55は、各エリア110の使用目的に合ったターゲット音を強調して、各エリア110の使用目的に合う強調音500を生成する。例えばエリア110がユーザ130の休憩に使用される場合は、強調音生成器55からリラックス効果のある音楽を出力し、その音楽を含むエリア110内の音を収音器20で収音してもよい。その場合、ターゲット音をリラックス効果のある音楽として、強調音500はこの音楽の低音部を増幅した重低音音楽であってもよい。
【0052】
以上説明した第1実施形態の音響反射体1は、強調音出力器60から出力される強調音500を正反射させる反射面5を有する。反射面5は、正反射した強調音500の進路上に、音響反射体1が設けられている各エリア110にいるユーザ130が位置するように配置されている。音響反射体1によれば、各エリア110に出力された強調音500の進路をユーザ(の頭部)に向けることができ、強調音500をユーザに良好に到達させることができる。
【0053】
第1実施形態の音響反射体1は、上述の底面6及び側面7を有する反射本体8で構成されている。側面7は、音響反射体1の反射面5として構成されている。このように構成された音響反射体1によれば、簡易な形状で音響反射体1を構成し且つ、強調音出力器60から出力された強調音500を側面7で反射させ、ユーザ130に良好に到達させることができる。
【0054】
第1実施形態の音響反射体1は、強調音出力器60とユーザ130との相対位置に合わせて反射面5の姿勢を調節する反射面調節器11をさらに備えている。このように構成された音響反射体1によれば、強調音出力器60とユーザ130との相対位置が変更されても、変更後の相対位置に合わせて反射面5の姿勢を調節し、引き続き強調音500をユーザ130に良好に到達させることができる。
【0055】
第1実施形態の音響反射体1では、反射面調節器11は、反射面5を机121の上面125と面一にすること、及び反射面5を上面125に対してなす角度が変わるように回動させることができる。このように構成された音響反射体1によれば、不使用時には反射面調節器11によって反射面5を上面125と面一になるように調節し、反射面5上を卓上領域として使用できる。また、音響反射体1の不使用時には、反射面調節器11によって反射面5を回動させ、上面125より下方の机121内に音響反射体1を収納できる。
【0056】
以上説明した第1実施形態の局所的音場支援装置10は、上述の音響反射体1を備えることにより、各エリア110に強調音出力器60から出力される強調音500の進路をユーザに向けるので、音響反射体1を備えない局所的音場支援装置に比べて強調音500をユーザ130に良好に到達させることができる。その結果、局所的音場支援装置10は、周囲のエリア110のノイズ等がある中で、ユーザ130に対して自身のいるエリア110の使用目的に合ったターゲット音を強調して届け、アクティブ且つ効果的に音場を支援できる。このことによって、局所的音場支援装置10は、オープンスペース100において使用目的に合わせて各エリア110に従来の局所的音場支援装置よりも好適な音環境を提供できる。
【0057】
第1実施形態の局所的音場支援装置10では、エリア111に机121が設けられ、音響反射体1が机121の上面(卓上)125の平面視中央に設置されている。このように構成された局所的音場支援装置10によれば、机121の上方に配置された強調音出力器60から上面125の平面視中央に向けて強調音500が出力されたとき、図3に示すように強調音500を反射面5で反射させ、ユーザ130に良好に且つ直接到達させることができる。
【0058】
第1実施形態の局所的音場支援装置10は、ユーザ位置推定器85をさらに備える。反射面5の姿勢がユーザ位置推定器85で推定されたユーザ130の位置に合わせて調節される。このように構成された局所的音場支援装置10によれば、エリア110内のユーザ130の移動やユーザ130の増減が生じても、ユーザ位置推定器85でエリア110内のユーザ130の位置を推定し、ユーザ130の位置に合わせて反射面5の姿勢を調節できる。このことによって、強調音500をユーザ130に良好に到達させることができる。
【0059】
(第2実施形態)
次いで、本発明の第2実施形態の音響反射体及び局所的音場支援装置について説明する。以下では、第1実施形態の音響反射体1及び局所的音場支援装置10と共通する第2実施形態の音響反射体及び局所的音場支援装置の各構成要素には、第1実施形態と同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0060】
図5に示すように、第2実施形態の局所的音場支援装置12は、第1実施形態の局所的音場支援装置10において音響反射体1を音響反射体2に置き換えたものである。音響反射体2は、天井200から垂下され、机121の平面視中央の上方の空間に設置されている。
【0061】
音響反射体2は音響反射体1と同様の構成を備えている。但し、音響反射体2の反射本体8は、底面6と底面6の外周縁から中心に向かうに従って線形的に下降する側面7とを有する。底面6と天井200との離間高さ、及び側面7が底面6及び机121の上面125に対してなす角度は、強調音500が反射面で正反射した後、ユーザ130の頭部に到達することができる角度になっている。但し、第2実施形態では、強調音出力器60から出力された強調音500は、反射面5に直接入射せず、上面125で正反射された後に反射面5に入射する。
【0062】
第2実施形態の反射面5は机121の平面視中央の上方の空間に設けられてユーザ130に対向しているので、反射本体8は、エリア111の照明機器や装飾品で構成されていてもよい。
【0063】
局所的音場支援装置12によるエリア111の音場支援の流れは、局所的音場支援装置10によるエリア111の音場支援の流れと同様である。
【0064】
以上説明した第2実施形態の音響反射体2は、第1実施形態と同様に、強調音出力器60から出力される強調音500を正反射させる反射面5、反射本体8、を有する。したがって、第2実施形態の音響反射体2によれば、第1実施形態の音響反射体1と同様の作用効果が得られる。
【0065】
第2実施形態の局所的音場支援装置12は、上述の音響反射体2を備えている。第2実施形態の局所的音場支援装置12によれば、第1実施形態の局所的音場支援装置10と同様の作用効果が得られる。
【0066】
また、第2実施形態の局所的音場支援装置12では、エリア111に机121が設けられ、音響反射体2が机121の平面視中央の上方の空間に設置されている。このように構成された局所的音場支援装置12によれば、机121の上方に配置された強調音出力器60から上面125に向けて出力された後に上面125で正反射された強調音500をユーザ130に良好に到達させることができる。また、音響反射体2が上面125の上方に配置されているので、上面125の活用スペースを拡げることができる。
【0067】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は特定の実施形態に限定されない。本発明は、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、変更可能である。
【0068】
例えば、本発明の音響反射体の形状は、各実施形態で例示したような角錐状に限定されない。本発明の音響反射体は、反射面5で正反射した強調音500の進路上に当該エリア110にいるユーザ130を位置させることができれば、任意の形状を有して構成されていてもよい。
【0069】
収音器20の構成は、上述したようにホルダ24の側面に等間隔に8個の収音マイク22が配置されている構成に限定されない。収音器20は、指向性の方向を音制御機構からの制御信号に応じて適宜変更可能な1つ以上の収音マイクを備えていてもよい。
【0070】
また、エリア110の構成は、机121及び椅子122が設けられている構成に限定されない。エリア110には、机121のみが設けられてもよく、椅子122のみが設けられてもよく、これら以外の什器等が設けられてもよく、何ら設置されていなくてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1,2 局所的音場支援用音響反射体
5 反射面
6 底面
7 側面
8 反射本体
10,12 局所的音場支援装置
11 反射面調節器
60 強調音出力器
85 ユーザ位置推定器
100 オープンスペース
110,111 エリア
121 机
125 上面(局所的音場支援用音響反射体が設けられている設置面)
130 ユーザ
500 強調音
502 進路
図1
図2
図3
図4
図5