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  • 特許-塗装ブース用の空調装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】塗装ブース用の空調装置
(51)【国際特許分類】
   F24F 3/153 20060101AFI20230904BHJP
【FI】
F24F3/153
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019143733
(22)【出願日】2019-08-05
(65)【公開番号】P2021025697
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000149790
【氏名又は名称】株式会社大気社
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】石田 浩三
(72)【発明者】
【氏名】贄 宏充
(72)【発明者】
【氏名】迫田 耕二
【審査官】森山 拓哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-122671(JP,A)
【文献】特開昭57-165063(JP,A)
【文献】特開昭55-114368(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 3/153
F24F 6/00
B05C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗物に塗装を行う塗装ブースに空気を供給する供給口が設けられた筐体と、
前記筐体に空気を取り込む取込口と、
前記取込口から取り込まれた空気に対して加湿ミストを噴霧する加湿手段と、
前記加湿手段と前記供給口との間に配され、加湿ミストの粒子径よりも小さい空孔が設けられた多孔質体からなる複数枚の板状のエレメントと、を備え、
前記複数枚の板状のエレメントは、上下方向に互いに離間して前記取込口から前記供給口へ向かって上向きとなるように傾斜して配置され、かつ、上下に隣り合うエレメントどうしにおいて、上側の前記エレメントの下縁が、下側の前記エレメントの上縁よりも下方に位置するように配置され、
前記加湿ミストが噴霧された空気は、前記複数枚の板状のエレメントを通過することによって未気化の加湿ミストが空気と接触して気化することを特徴とする空調装置。
【請求項2】
前記エレメントは、水平に対して45~85度の範囲の傾斜姿勢で配置されている請求項に記載の空調装置。
【請求項3】
前記エレメントは、セラミックボード又は金属焼結体の多孔質体を有する請求項1または2に記載の空調装置。
【請求項4】
前記取込口と前記加湿手段との間に配され、前記取込口から取り込まれた空を加温する加温手段を備える請求項1からのいずれか一項に記載の空調装置。
【請求項5】
前記複数枚の板状のエレメントと前記供給口との間に配され、前記複数枚の板状のエレメントを通過した空気を温湿度調節する温湿度調節手段を備える請求項1からのいずれか一項に記載の空調装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被塗物に塗装を行う塗装ブースに加湿された空気を供給する空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車車体、自動車部品、その他一般被塗物などの各種被塗物に塗装を行う塗装ブースには空調装置から空気が供給されるように構成されている。
【0003】
当該空調装置から塗装ブースに供給される空気は、被塗物に対する塗装品質に影響を与えるため、その温湿度は制御されている必要がある。
【0004】
空気の温湿度の制御を可能とするために、空調装置の筐体の内部には塗装ブースへ供給されるべき空気の加温手段や加湿手段等が設けられている。
【0005】
例えば、特許文献1には、筐体の内部に塗装ブースへ供給されるべき空気の通風方向上流側からプレヒータ23、ワッシャ24、クーリングコイル26及びレヒータ27が設けられた塗装ブース用空調装置1(以下、従来の空調装置と記す。)が開示されている。なお、符号は特許文献1におけるものである。
【0006】
当該ワッシャ24は、水貯留部24a、循環用配管24b、ポンプ24c、電磁弁24d、水噴霧部24eを備え、プレヒータ23を経た外気に対する水の噴霧により外気の湿度を上げるように構成されている。
【0007】
しかし、従来の空調装置は、ワッシャ24に備えられた水噴霧部24eから大量の水を噴霧する構成である。ワッシャ24から噴霧される水は粒子径が440μm程度と大きい。このような水によって空気を加湿するためには、水と空気との接触時間を確保する必要があり、そのため通風路を長くする必要があった。さらに、粒子径の大きな水によって効率的な加湿をするためには、水噴霧部24eにおけるノズルの配列や循環用配管24bの取り回しを考慮する必要があった。
【0008】
また、ポンプ24cは、大量の水を噴霧可能とするために充分な性能を有する必要があり、設備コストや、ランニングコストが高くなる原因となっていた。さらに、噴霧した水を循環させるために回収する水槽や、水槽内の水質の維持管理のための構成が必要であり、そのスペースを筐体の内部に設ける必要があった。
【0009】
また、空気中の未気化の水分はワッシャ24の下流側において結露を生じさせるため、これを回避するためには、空気中から未気化の水分を分離回収するエリミネータが必要となる場合がある。しかし、エリミネータを筐体に設けると、筐体の内部における圧力損失が高くなってしまい、筐体の内部における通風速度を高めることができない。そのため、塗装ブースにおいて必要な空気量を充分確保するためには、筐体の通風断面積を大きくする必要があった。
【0010】
以上のように、従来の空調装置は、高効率化、省エネルギー化及び小型化の観点において改善の余地があった。
【0011】
さらに、ワッシャを用いる構成以外にも、特許文献2に開示されるような蒸気噴霧加湿、特許文献3に開示されるような充填材等を用いた加湿、特許文献4に開示されるような高圧霧化を利用した霧化スプレー、従来から公知のドライミスト加湿等がある。
【0012】
しかし、特許文献2に開示されるような蒸気噴霧加湿については、蒸気コストが大きく、ランニングコストが増大したり、蒸気エネルギー効率が悪く、省エネにならなかったり、局所的に過飽和となるため下流側装置内で結露が発生しやすい、といった問題がある。
【0013】
特許文献3に開示されるような充填材等を用いた加湿については、充填材に保有水ができるため制御応答性が悪かったり、充填材種類によっては気液接触面積を大きくとろうとすると加湿器部分に大きなスペースが必要となる、といった問題がある。
【0014】
特許文献4に開示されるような高圧霧化スプレーについては、水受け槽を有する場合には空調器を小さくすることができなかったり、噴霧ノズルの下流側に噴霧ミストの気化距離が必要であるため、空調器を小型化することができない、といった問題がある。
【0015】
従来から公知のドライミスト加湿については、噴霧ノズルの下流側に噴霧ミストの気化距離が必要であるため、空調器を小型化することができなかったり、局所的に過飽和や噴霧ミストの気化が不十分なポイントができやすく、下流側装置内に結露が発生しやすい、といった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特開2013-245928号公報
【文献】特開2011-127812号公報
【文献】特開2018-162909号公報
【文献】国際公開第2018/108746号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、高効率化、省エネルギー化及び小型化が図られた空調装置を提供することを目的とする
【課題を解決するための手段】
【0018】
上述の目的を達成するための本発明に係る空調装置の特徴構成は、被塗物に塗装を行う塗装ブースに空気を供給する供給口が設けられた筐体と、前記筐体に空気を取り込む取込口と、前記取込口から取り込まれた空気に対して加湿ミストを噴霧する加湿手段と、前記加湿手段と前記供給口との間に配され、加湿ミストの粒子径よりも小さい空孔が設けられた多孔質体からなる複数枚の板状のエレメントと、を備え、前記複数枚の板状のエレメントは、上下方向に互いに離間して前記取込口から前記供給口へ向かって上向きとなるように傾斜して配置され、かつ、上下に隣り合うエレメントどうしにおいて、上側の前記エレメントの下縁が、下側の前記エレメント上縁よりも下方に位置するように配置され、前記加湿ミストが噴霧された空気は、前記複数枚の板状のエレメントを通過することによって未気化の加湿ミストが空気と接触して気化することにある。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明に係る空調装置の説明図
図2】加湿手段及び気化手段の説明図
図3】空調装置の要部説明図
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下に、本発明に係る空調装置の実施形態について、図面を参照しながら説明をする。
【0039】
図1に示すように、自動車車体、自動車部品、その他一般被塗物などの各種被塗物に塗装を行う塗装ブース60においては、塗装機61から塗料を噴霧することで被塗物62の塗装が行われる。
【0040】
塗装ブース60においては、被塗物62に対する塗装品質を確保するために、空調装置10によって温湿度が制御された空気が供給されている。
【0041】
当該供給された空気は、塗装機61からオーバースプレーされ飛散した塗料ミストを捕捉する役目も果たしている。
【0042】
空調装置10は、当該空調装置10の外部の空気の取込口11及び吐出口12を有する筐体13の内部に、加温手段20、加湿手段30、気化手段40及び温湿度調節手段50が設けられている。
【0043】
加温手段20は、取込口11を介して取り込まれた空気の温度を、加湿手段30による加湿に適した温度にまで加温するために設けられている。
【0044】
加湿手段30は、ミストノズル31及びミストノズル31に水を供給するポンプ32等を有し、ポンプ32から供給された水をミストノズル31から粒子径が30μm程度以下の加湿ミストの態様によって噴霧することによって、加温手段20によって適温に調節された空気を加湿するように構成されている。ミストノズル31は、一流体型高圧ノズルから構成されている。本実施形態においては、ミストノズル31は、当該空気の通風方向の下流側に向けて加湿ミストを噴霧するように配置されている。
【0045】
気化手段40は、複数枚の板状のエレメント41を備えて構成される。各エレメント41は多孔質体の一例であるセラミックボードから構成される。セラミックボードが有する空孔は、ミストノズル31から噴霧される加湿ミストの粒子径よりも小さい。
【0046】
図2に示すように、各エレメント41は、上下方向に互いに離間して設置されるとともに、下縁41bが上縁41aよりも取込口11から吐出口12へ向かう空気の通風方向の上流側に位置するように傾斜姿勢で配置されている。本実施形態においては、各エレメント41は、その表裏面が水平に対して例えば60度の角度をなすように設置される。当該角度は、45~85度程度の範囲内にあればよいが、空調装置10の設計風速に対して確実に未気化の加湿ミストを捕捉でき、かつ、圧力損失が最も小さくなる状態に調節できる構造を有する。
【0047】
また、各エレメント41は、上下に隣り合うエレメント41(図2において、一部のエレメントを説明の便宜のため41A、41Bで示す。)どうしにおいて、上側のエレメント41(41A)の下縁41bが、下側のエレメント41(41B)の上縁41aよりも下方に位置するように配置されている。
【0048】
この構成によって、上側のエレメント41(41A)と下側のエレメント41(41B)との間に、取込口11から吐出口12へと直線的に至る通風路が存在しないため、未気化の加湿ミストが、エレメント41に接触することなく吐出口12に至ってしまう虞が低減されている。
【0049】
各エレメント41は、上下に隣り合うエレメント41(41A、41B)どうしの間に十分な大きさの通風路を設けることができるため、気化手段40を通過させる際の圧力損失は、従来の塗装ブース用空調装置に設けられるエリミネータの圧力損失に比べて小さい。そのため、従来の塗装ブース用空調装置における通風速度より速い速度であっても、通風断面積を大きくする必要がない。
【0050】
図3において、太い破線矢印で流れを示すように、未気化の加湿ミストを含んだ空気のうち大部分は、上下に隣り合うエレメント41(41A、41B)どうしの間の通風路を介してエレメント41の下流側に流れるうちに、エレメント41を構成する多孔質体の表面に当該加湿ミスト自身の慣性力によって衝突したり、当該加湿ミスト自身や多孔質体自身の静電気力等によって、当該表面において捕捉される。なお、図3において、エレメント41の右側において示される丸い物体は加湿ミストであって、エレメント41の表面に捕捉されている様子を表す。
【0051】
また、図3において、細い破線矢印で流れを示すように、未気化の加湿ミストを含んだ空気のうち一部は、エレメント41を構成する多孔質体の空孔を通過するのであるが、当該未気化の加湿ミストは、当該未気化の加湿ミストを含んだ空気がエレメント41を構成する多孔質体の空孔を通過する際に、当該空孔の表面に当該加湿ミスト自身の慣性力によって衝突したり、当該加湿ミスト自身や多孔質体自身の静電気力等によって、当該表面において捕捉される。当該空孔の表面に捕捉された加湿ミストは、当該空孔を通過する空気との接触が促されるため、十分に気化される。
【0052】
温湿度調節手段50は、気化手段40を経た空気を冷却する冷却手段51と、冷却手段51によって冷却された当該空気を加熱する加熱手段52を備えている。加湿手段30によって加湿された空気を、冷却手段51及び加熱手段52によって、塗装ブース60で用いるのに最適な温湿度となるように調節することができる。
【0053】
上述した実施形態においては、エレメント41を構成する多孔質体がセラミックボードである場合について説明したが、この限りではない。例えば、多孔質体は、金属焼結体であってもよく、当該多孔質体の表面において、未気化の加湿ミストを当該物体の空孔を通過する空気と接触をさせることができるものであればよい。
【0054】
上述した実施形態においては、ミストノズル31が一流体型高圧ノズルである場合について説明したが、この限りではない。ミストノズル31は二流体型ノズルであってもよいし、超音波式微粒化ノズルであってもよい。
【0055】
上述した実施形態においては、空調装置10が、筐体13の内部に、加温手段20、加湿手段30、気化手段40及び温湿度調節手段50を有する場合について説明したが、この限りではない。空調装置10は、筐体13の内部に加温手段20や温湿度調節手段50を有していない構成であってもよい。この場合は、加温手段20や温湿度調節手段50を筐体13の外部に有してもよい。
【0056】
上述した実施形態は、いずれも本発明の一例であり、当該記載により本発明が限定されるものではなく、各部の具体的構成は本発明の作用効果が奏される範囲において適宜変更設計可能である。
【符号の説明】
【0057】
10 :空調装置
11 :取込口
12 :吐出口
13 :筐体
20 :加温手段
30 :加湿手段
31 :ミストノズル
40 :気化手段
41 :エレメント
41a :上縁
41b :下縁
50 :温湿度調節手段
60 :塗装ブース
62 :被塗物
図1
図2
図3