(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】無機酸化物粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 13/34 20060101AFI20230904BHJP
B01J 2/04 20060101ALI20230904BHJP
B01J 19/00 20060101ALI20230904BHJP
C01B 35/12 20060101ALI20230904BHJP
【FI】
C01B13/34
B01J2/04
B01J19/00 N
C01B35/12 D
(21)【出願番号】P 2019171327
(22)【出願日】2019-09-20
【審査請求日】2022-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三崎 紀彦
(72)【発明者】
【氏名】館山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】山崎 広樹
(72)【発明者】
【氏名】末松 諒一
(72)【発明者】
【氏名】増田 賢太
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-293521(JP,A)
【文献】特表2018-502808(JP,A)
【文献】特開2008-194637(JP,A)
【文献】特開2010-208917(JP,A)
【文献】特開2019-025385(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 2/00 - 2/30
B01J 10/00 - 12/02
B01J 14/00 - 19/32
C01B 13/00 - 23/00
C01B 33/00 - 39/54
C01F 1/00 - 17/38
C01G 1/00 - 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料無機化合物含有溶液のミストを噴霧するための噴霧装置と、
ミストを燃焼ガスにより熱分解するための燃焼バーナーと
を備える円筒状熱分解炉内に、噴霧装置を、熱分解炉の軸を中心とする同心円であって、熱分解炉の内径よりも1/2小さい半径の円と、熱分解炉の内径よりも7/8小さい半径の円とから形成される領域内に設置し、該噴霧装置から燃焼ガスの流速に対して30~200%の相対速度でミストを噴霧し、熱分解する工程を含
み、
原料無機化合物含有溶液が、アルミニウム塩、チタン塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ホウ酸塩、アルミノケイ酸塩、アルミニウムアルコキシド及びケイ酸アルコキシドから選ばれる1種又は2種以上である原料無機化合物を含む溶液である、
無機酸化物粒子の製造方法。
【請求項2】
噴霧装置が流体ノズルである、請求項1記載の無機酸化物粒子の製造方法。
【請求項3】
溶液が水溶液である、請求項1
又は2記載の無機酸化物粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機酸化物粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無機酸化物粒子の製造装置として、例えば、内燃式の噴霧熱分解装置が使用されている(特許文献1、2)。この噴霧熱分解装置は、熱分解炉内に、原料溶液のミストを噴霧するための流体ノズルと、燃焼ガスを発生させるための燃焼バーナーが設置されており、熱分解炉の下方に鉛直に設置された流体ノズルから上方に向けてミストを噴霧し、燃焼ガスを熱源としてミストを加熱処理することで無機酸化物粒子が製造される。そして、無機酸化物粒子は、誘引ファンによってバグフィルターに移動し、製品として回収される。流体ノズルとして、通常2流体ノズルや3流体ノズルが使用されており、大量製造においては、複数の流体ノズル、又は単数の大型ノズルが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-17857号公報
【文献】特開2019-25385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者らの検討により、従来の噴霧熱分解装置を用いた無機酸化物粒子の製造においては、次の課題があることが判明した。すなわち、複数の流体ノズルを使用する場合、隣接する流体ノズルから噴霧されたミスト同士が干渉(衝突)してミスト径が増大し、ミストの中心と外側で熱履歴に差異を生ずる結果、熱分解反応が不十分となりやすい。このような問題を解決するために、隣接する流体ノズルから噴霧されたミストの広がりを抑えることが考えられるが、ミストの広がりを抑えると、ミストが縦方向(噴霧の直線方向)に伸びるため、炉内での滞留時間が短くなり、熱処理にばらつきを生じ、熱分解反応が不十分となりやすい。また、所定の間隔を保って複数の流体ノズルを設置することが考えられるが、炉の大径化が避けられない。炉を大径化すると、必要な熱量が増加するため、製造コストの高騰が懸念されるだけでなく、均一に熱処理することが難しいため、熱分解反応が不十分となりやすい。更に、炉を大径化した場合に大型ノズルを設置することが考えられるが、ミストが炉の内径付近まで拡散するまでに高い炉長を要し、それによりミストの加熱時間が短くなるため、熱分解反応が不十分となりやすい。加えて、従来の噴霧熱分解装置により無機酸化物粒子を製造すると、ミストが熱風に煽られて傾き、熱分解炉壁面に付着して固着物が発生することがある。
本発明の課題は、熱分解炉壁面での固着物の発生を防止し、かつ熱分解反応を十分に進行させることができる無機酸化物粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討した結果、円筒状熱分解炉の軸を中心とする2つの同心円により画定される所定の領域内に噴霧装置を設置し、該噴霧装置から燃焼ガスの流速に対して所定の相対速度でミストを噴霧し、熱分解することで、熱分解炉壁面での固着物の発生を防止しつつ、熱分解反応を十分に進行させることができることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔4〕を提供するものである。
〔1〕原料無機化合物含有溶液のミストを噴霧するための噴霧装置と、ミストを燃焼ガスにより熱分解するための燃焼バーナーとを備える円筒状熱分解炉内に、噴霧装置を、熱分解炉の軸を中心とする同心円であって、熱分解炉の内径よりも1/2小さい半径の円と、熱分解炉の内径よりも7/8小さい半径の円とから形成される領域内に設置し、該噴霧装置から燃焼ガスの流速に対して30~200%の相対速度でミストを噴霧し、熱分解する工程を含む、無機酸化物粒子の製造方法。
〔2〕噴霧装置が流体ノズルである、前記〔1〕記載の無機酸化物粒子の製造方法。
〔3〕原料無機化合物がアルミニウム塩、チタン塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ホウ酸塩、アルミノケイ酸塩、アルミニウムアルコキシド及びケイ酸アルコキシドから選ばれる1種又は2種以上である、前記〔1〕又は〔2〕記載の無機酸化物粒子の製造方法。
〔4〕溶液が水溶液である、前記〔1〕~〔3〕のいずれか一に記載の無機酸化物粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、熱分解炉壁面での固着物の発生を防止し、かつ熱処理が十分に確保され熱分解反応を十分に進行させることができるため、均一な無機酸化物粒子を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の製造方法に適用可能な噴霧熱分解装置の一例を示す概略図(側面図、断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図示の便宜上、図面の寸法比率は説明のものと必ずしも一致しない。
図1は、本発明の製造方法に適用可能な噴霧熱分解装置の一例を示す概略図である。噴霧熱分解装置10は、内燃焼式であり、
図1に示されるように、熱分解炉1の下方には、原料無機化合物含有溶液のミスト2を噴霧するための噴霧装置3と、燃焼ガス4を発生させ、ミスト2を熱分解するための燃焼バーナー5とが配置されている。
【0010】
先ず、噴霧熱分解装置の構成について説明する。
円筒状熱分解炉は、炉材として使用されている材質であれば何れも用いることができ、加熱温度等を考慮して選定すればよい。また、金属製のシェルの内壁に、耐火レンガ、断熱レンガ、キャスタブル等を単体、層状、又はこれらを組み合わせて用いるのが一般的である。
円筒状熱分解炉の形状は、熱分解炉内に旋回流を発生させることができる点で、堅型が好ましい。熱分解炉の大きさは、製造スケールにより適宜選択することができる。
【0011】
噴霧装置は、円筒状熱分解炉の軸を中心とする同心円であって、円筒状熱分解炉の内径よりも1/2小さい半径の円と、円筒状熱分解炉の内径よりも7/8小さい半径の円とから形成される領域内に設置される。
図1に示される噴霧熱分解装置においては、円筒状熱分解炉の中心軸0を中心とする、熱分解炉内径の半径よりも1/2小さい半径の同心円と、熱分解炉内径の半径よりも7/8小さい半径の同心円とから画定される領域6を、鉛直方向及び水平方向で均等に4区画に区分した、ゾーンA、ゾーンB、ゾーンC及びゾーンDの中で、ゾーンAに噴霧装置3が設置されている。本発明においては、領域6内であれば、ゾーンA、ゾーンB、ゾーンC及びゾーンDの中から適宜選択して噴霧装置を設置することができる。中でも、熱分解炉壁面への固着物の発生を防止しつつ、熱分解反応を十分に進行させる観点から、円筒状熱分解炉の軸を中心とする同心円であって、円筒状熱分解炉の内径よりも2/3小さい半径の円と、円筒状熱分解炉の内径よりも4/5小さい半径の円とから形成される領域内に噴霧装置を設置することが好ましい。また、ゾーンA~Dの中では、ゾーンAが好ましい。
【0012】
また、噴霧装置の設置位置は、熱分解炉の上方及び下方のいずれでも構わないが、熱分解炉壁面への固着物の発生を防止しつつ、熱分解反応を十分に進行させる観点から、熱分解炉の下方に設置することが好ましい。なお、噴霧装置は、1基又は2基以上設置することができる。
【0013】
噴霧装置としては特に限定されないが、例えば、流体ノズルを挙げることができる。流体ノズルとしては、例えば、1流体ノズル、2流体ノズル、3流体ノズル、4流体ノズルが挙げられる。中でも、2流体ノズル、3流体ノズル、4流体ノズルが好ましく、3流体ノズル、4流体ノズルが更に好ましい。なお、
図1に示される噴霧熱分解装置は、流体ノズルが噴霧熱分解炉の下方に1基設置されている。
【0014】
流体ノズルの方式には、気体と原料無機化合物含有溶液とをノズル内部で混合する内部混合方式と、ノズル外部で気体と原料無機化合物含有溶液を混合する外部混合方式があるが、いずれも採用することができる。ノズルに供給する気体としては、例えば、空気や、窒素、アルゴン等の不活性ガス等を使用することができる。中でも、経済性の観点から、空気が好ましい。
【0015】
燃焼バーナーは、一般的に販売されているものであれば、いずれも使用することができる。熱分解炉の容積、仕様等を考慮し、これにあった型式の燃焼バーナーを選択すればよい。また、熱分解炉の仕様に応じたものを製作しても構わない。
【0016】
燃焼バーナーに用いる燃料は特に限定されないが、例えば、気体燃料、液体燃料、固体燃料を挙げられ、これら燃料の2種以上を混焼してもよい。気体燃料としては、例えば、LPG、都市ガス、気化した有機物が挙げられる。また、液体燃料としては、例えば、灯油、軽油、重油や再生油など液化した有機物を挙げることができる。固体燃料としては、例えば、石炭、木炭、木材などを粉末状にしたものを挙げられる。
【0017】
燃焼バーナーは、1基又は2基以上設置することが可能であり、好ましくは1~4基である。燃焼バーナーを複数基設置する場合、燃焼バーナーの設置位置は、同じ高さとすることを要しない。なお、
図1に示される噴霧熱分解装置は、燃焼バーナーが1基設置されている。
【0018】
燃焼バーナーは、熱分解炉の中心軸よりずらして設置することが好ましい。このように燃焼バーナーを配置することで、燃焼バーナーから生じた燃焼ガスにより、熱分解炉内に強力な旋回流を発生させることができる。旋回流を発生させることで、熱分解炉壁面での固着物の発生を防止しやすくなるとともに、熱分解炉の長さよりも長い距離をミストが熱分解炉内に滞留できるため、長時間熱処理され、熱分解反応を十分進行させることができる。
図1に示される噴霧熱分解装置においては、旋回流が熱分解炉の下方から上方に進行するため、噴霧装置から噴霧されたミストは旋回流により旋回しながら上昇する。
【0019】
また、燃焼バーナーは、燃焼バーナーの火炎がミストに直接接触しないように設置することが好ましい。このようにするには、燃焼バーナーの火炎が熱分解炉内に入らないように設置すればよく、例えば、前後方向に燃焼バーナーを可動できる機構を設け、必要に応じて調整すればよい。これにより,燃焼バーナーから生じた火炎に直接接触することなく、熱分解炉の長さよりも長い距離、熱分解炉内に滞留し、長時間の熱分解反応を受けることができる。
【0020】
熱分解炉には、補助熱源を設置してもよい。補助熱源は、熱分解炉体の燃焼バーナーの上部に1基以上設置することができる。補助熱源としては、例えば、燃焼補助バーナー、熱風ヒーター、電気ヒーターが挙げられる。これにより、熱分解反応に必要な温度と保持時間を再現性よく安定して確保できる。
【0021】
次に、本発明の製造方法について説明する。
先ず、原料無機化合物含有溶液を調製する。
原料無機化合物としては、無機酸化物を構成する元素を含有し、水等の溶媒に溶解する化合物であれば特に限定されないが、例えば、無機塩、金属アルコキシド等を挙げることができる。無機塩としては、例えば、アルミニウム塩、チタン塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ホウ酸塩、亜鉛塩、ジルコニウム塩、バリウム塩、セシウム塩、イットリウム塩、アルミノケイ酸塩が挙げられる。また、金属アルコキシドとしては、アルミニウムアルコキシド、ケイ酸アルコキシドを挙げることができる。原料無機化合物は、1種又は2種以上を使用することができる。
【0022】
アルミニウム塩としては、例えば、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、燐酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、酢酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウムが挙げられる。マグネシウム塩としては、例えば、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、燐酸マグネシウム、水酸化マグネシウムを挙げることができる。カルシウム塩としては、例えば、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、蟻酸カルシウム、酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウムが挙げられる。ホウ酸塩としては、例えば、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム等のメタホウ酸塩、四ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸カリウム等の四ホウ酸塩、五ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸カリウム等の五ホウ酸塩を挙げることができる。ケイ酸アルコキシドとしては、例えば、オルトケイ酸テトラメチル(TMOS)、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、オルトケイ酸テトラプロピル(TPOS)、テトラブトキシシランを挙げることができる。また、アルミニウム酸化物、ケイ素酸化物を溶媒に分散した溶液、アルミニウム酸化物、ケイ素酸化物のゾル溶液も原料溶液として用いることができる。
中でも、原料無機化合物としては、本発明の効果を享受しやすい点で、アルミニウム塩、チタン塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ホウ酸塩、アルミノケイ酸塩、アルミニウムアルコキシド及びケイ酸アルコキシドから選ばれる1種又は2種以上が好ましく、アルミニウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ホウ酸塩及びケイ酸アルコキシドから選ばれる1種又は2種以上が更に好ましい。
【0023】
原料無機化合物から得られる酸化物としては、例えば、金属酸化物、アルミナ、シリカ、アルミニウム及びケイ素からなる酸化物等が挙げられる。より具体的には、アルミナ、シリカ、アルミニウム及びケイ素からなる酸化物、チタン酸化物、マグネシウム酸化物、亜鉛酸化物、ジルコニウム酸化物、バリウム酸化物、セリウム酸化物、イットリウム酸化物等が挙げられ、これら酸化物を組みあわせた複合酸化物も挙げることができる。
【0024】
原料無機化合物含有溶液の調製は、原料無機化合物と溶媒とを混合すればよい。原料無機化合物と溶媒との混合方法は、両者を同時に添加して混合しても、他方を一方に添加して混合してもよく、混合方法は特に限定されない。
溶媒としては、水、有機溶媒が挙げられる。中でも、環境への影響、製造コストの点から、水が好ましい。
【0025】
原料無機化合物含有溶液中の原料無機化合物の濃度は、得られる無機酸化物粒子の粒度分布、密度、強度等を考慮し、0.01mol/L~飽和濃度が好ましく、0.1~1.0mol/Lが更に好ましい。
【0026】
次に、噴霧装置から熱分解炉内に原料無機化合物含有溶液のミストを噴霧する。
噴霧装置の設置位置は、円筒状熱分解炉の軸を中心とし、円筒状熱分解炉内径の半径を基準とする2つの同心円によって画定される所定の領域内であり、その詳細は、上記において説明したとおりである。
噴霧装置としては、流体ノズルが好ましく、2流体ノズル、3流体ノズル、4流体ノズルがより好ましく、3流体ノズル、4流体ノズルが更に好ましい。
【0027】
燃焼ガスの速度をミストの噴出速度に対して遅くしすぎると、ミストが熱分解炉内の気流に巻き込まれず、ミスト同士が干渉(衝突)してミスト径が増大し、ミストの中心と外側で熱履歴に差異を生ずる結果、熱分解反応が不十分となる。他方、燃焼ガスの速度をミストの噴出速度に対して速くしすぎると、ミストが熱分解炉内での滞留時間が短くなり、熱処理にばらつきを生じて熱分解反応が不十分となり、またミストが熱風に煽られて傾き、熱分解炉壁面で固着物が発生しやすくなる。そのため、本発明においては、噴霧装置からのミストの噴出速度を、燃焼ガスの流速に対して30~200%の相対速度となるように制御する。ここで、燃焼ガスの流速に対して30~200%の相対速度とは、例えば、燃焼ガスの流速が10m/sである場合、3~20m/sの範囲内にあることを意味する。燃焼ガスの流速に対するミストの噴出相対速度は、熱分解炉壁面への固着物の発生を防止しつつ、熱分解反応を十分に進行させる観点から、50~150%が好ましく、80~120%が更に好ましい。なお、燃焼バーナーから発生した燃焼ガスの流速は、下記式(1)により算出することができる。
【0028】
燃焼ガス流速(m/s)=X/Y (1)
【0029】
〔式中、Xは熱分解内のガス量(m3/s)を示し、Yは熱分解炉の断面積(m2)を示す。〕
【0030】
なお、熱分解炉内のガス量Xは、下記式(2)により算出される値である。
【0031】
熱分解炉内のガス量=焚き量×空気比×理論燃焼ガス量×体積膨張率(2)
【0032】
式(2)中、焚き量(m3/s)とは、気体燃料の量であり、空気比とは、理論空気量と実際に供給する空気量の比率である。また、理論燃焼ガス量[(m3/s)/(m
3
/s)]とは、燃料に理論空気量を与えて完全燃焼させた場合に生じるガス量であり、燃料組成より算出することができる。更に、体積膨張率は、対象のガス温度と標準状態のガス温度との比率であり、熱分解炉内に熱電対を設置することで計測できる炉内温度(K)より求められる。
【0033】
ミストの噴出速度は、通常1~50m/sであるが、熱分解反応の促進、熱分解炉壁面の固着物発生防止の観点から、5~35m/sが好ましく、10~20m/sが更に好ましい。
燃焼ガスの流速は、通常1~40m/sであるが、熱分解反応の促進、熱分解炉壁面の固着物発生防止の観点から、3~25m/sが好ましく、4~13m/sが更に好ましい。
【0034】
ミストの平均粒子径は、好ましくは0.5~60μm、より好ましくは1~20μm、更に好ましくは1~15μmである。なお、ミストの平均粒子径は、噴霧装置の噴出口の形状や噴霧装置へ供給するガスの圧力によって調整することが可能である。
【0035】
燃焼ガスの流れに巻き込まれたミストは、溶媒が蒸発してミスト表面に無機塩を析出する。そして、ミスト表面に析出した無機塩は、熱が加えられて熱分解し、無機塩が酸化され無機酸化物粒子を生成する。
【0036】
熱分解炉の加熱温度は、400~1800℃が好ましく、600~1500℃がより好ましく、700~1400℃が更に好ましく、900~1200℃がより更に好ましい。400℃未満であると、熱分解反応が不十分となりやすく、1800℃を超えると、粒子が熱分解炉外に排出されたときに十分冷却され難く、粒子同士が凝集しやすくなる。
【0037】
次に、熱分解反応によって生じた無機酸化物粒子を回収するが、例えば、
図1に示される噴霧熱分解装置においては、熱分解炉上方から無機酸化物粒子が回収される。ここで、無機酸化物粒子を効率的に回収するには、熱分解炉頂部に冷却エアーを導入可能な空間を設け、ここに冷却エアーを導入することにより、冷却回収するのが好ましい。冷却エアーの導入手段としては、冷却エアーの吸入部の設置、ファンやブロアから冷却エアーを送り込む手段等を採用することができ、これらは複数の箇所から行なってもよい。また、冷却エアーの変わりに、水冷してもよく、イオン交換水や上水等を用いることができる。無機酸化物粒子の回収には、バグフィルター等を用いることができる。また、無機酸化物粒子の回収にあたっては、フィルターを通過させることにより、粒子径の調整をしてもよい。
【0038】
本発明の方法により製造される無機酸化物粒子は、中実粒子、多孔質粒子、中空粒子のいずれでも、これら2以上の混合物でも構わない。ここで、本明細書において「中実粒子」とは、内部に空洞を有さない構造の粒子をいい、例えば、単一の層からなる粒子、及び、コア(内核とも言われる)とシェル層(外殻とも言われる)を有する粒子を挙げることができる。また、「中空粒子」とは、内部に空洞(中空部)を有する構造のものであり、外殻に包囲された空洞を有する粒子をいう。空洞の数は、単数でも複数でもよい。更に、「多孔質粒子」とは、粒子表面から内部まで連結した貫通孔を多数有する粒子をいう。貫通孔の大きさや形状は、特に限定されない。また、粒子内部に閉気孔を有していてもよい。
【0039】
無機酸化物中空粒子を製造する場合、熱分解後の無機酸化物粒子の表面を溶融してもよい。これにより、無機酸化物粒子の表面に存在する孔が閉塞され、粒子外殻に孔がなく、粒子強度の高い無機酸化物中空粒子が得られる。無機酸化物粒子の表面を溶融させるには、例えば、補助熱源の温度を無機酸化物粒子の溶融温度以上に制御すればよい。
【0040】
また、無機酸化物粒子は、形状がほぼ球状(平均円形度0.85以上)であって、平均粒子径が通常0.1~100μmであり、好ましくは0.5~50μmであり、更に好ましくは1~30μmである。ここで、本明細書において「平均粒子径」とは、JIS R 1629に準拠して試料の粒度分布を体積基準で作成したときに積算分布曲線の50%に相当する粒子径(d50)を意味する。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。但し、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0042】
1.炉壁面の固着物発生の有無の評価
無機酸化物粒子の製造後に熱分解炉壁面を目視で観察し、固着物の有無を判断した。
【0043】
2.950℃揮発分の有無の評価
マッフル炉にて予め1000℃で加熱し、デシケーター内で冷却したアルミナ性坩堝に、試料5.000gを投入し、マッフル炉にて5℃/minの昇温速度で950±5℃とし、3時間保持した後、ヒーター電源を落とし試料を常温まで炉冷した。そして、試料の重量を測定し、加熱前後の試料の重量から重量減少率を算出した。重量減少率の測定は、50個の試料について行い、重量減少率の平均値を求めた。重量減少率の平均値が2質量%以上である場合を揮発分「有」、重量減少率の平均値が2質量%未満である場合を揮発分「無」と評価した。なお、重量減少率の平均値が2質量%以上である場合は、未反応物が多いため、熱分解反応が不十分であるといえる。
【0044】
実施例1
図1に示す内燃焼式噴霧熱分解装置を用いて無機酸化物粒子を製造した。なお、噴霧熱分解装置の円筒状熱分解炉の反応部のサイズは、φ1000mm×5000mmであった。噴霧装置は、
図1において円筒状熱分解炉の軸Oを中心とし、該熱分解炉内径の半径よりも7/8小さい半径の同心円上であって、かつゾーンAに設置した。また、ミストの噴出速度は、霧化エアー量で調整し、燃焼バーナーから発生した燃焼ガスの流速は、燃焼バーナーの焚き量にて調整した。燃焼バーナーは、熱分解炉内に旋回流が発生するように熱分解炉の中心軸とずらし、火炎がミストと直接接触しないように設置した。
【0045】
先ず、溶液タンク内に、蒸留水240kg、四ホウ酸ナトリウム十水和物2.5kg、硝酸カルシウム1.5kg、硝酸マグネシウム1.5kg、硝酸アルミニウム5.0kg、オルトケイ酸テトラエチル8.5kgをそれぞれ投入・攪拌することで、原料溶液を作製した。
次いで、原料溶液を送液ポンプで熱分解炉内に固定した3流体ノズルに圧縮空気とともに送液し、ノズル噴出口から原料溶液のミストを、燃焼ガスの流速に対して30%の相対速度で噴霧し、ミストを燃焼ガスの旋回流により旋回させながら上昇させ、熱分解炉内(内部温度950℃)を通過させて熱分解した。その後、バグフィルターにて無機酸化物粒子を回収した。そして、950℃揮発分の有無、炉壁面の固着物発生の有無について評価した。その結果を表1に示す。
【0046】
実施例2~11及び比較例1~5
表1に示す、原料溶液の噴霧量、ノズルの設置位置、燃焼ガス速度に対するミストの噴出相対速度に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作により無機酸化物粒子を製造した。そして、950℃揮発分の有無、炉壁面の固着物発生の有無について評価した。その結果を表1に示す。なお、表1において、ノズルを円筒状熱分解炉の軸Oに設置した場合の「ノズル設置位置」を「O」と表記した。
【0047】
【0048】
比較例1は、燃焼ガス速度に対するミストの噴出相対速度が低いため、ミストが熱分解炉内の旋回流に巻き込まれず、ミスト同士が干渉(衝突)してミスト径が増大し、ミストの中心と外側で熱履歴に差異を生じた結果、熱分解反応が不十分となったものと考えられる。
比較例2は、燃焼ガス速度に対するミストの噴出相対速度が高いため、熱分解炉内でのミストの滞留時間が短く、熱処理にばらつきを生じた結果、熱分解反応が不十分となったものを考えられる。
比較例3は、所定の領域から僅かに外れて噴霧装置を設置したため、ミストの一部が炉壁に接触し固着物が発生したものと考えられる。
比較例4は、所定の領域から大きく外れて噴霧装置を設置したため、ミストが熱分解炉内の燃焼ガスの旋回流に巻き込まれ難く、熱分解反応が不十分となったものと考えられる。
比較例5は、所定の領域から大きく外れて噴霧装置を設置し、しかも燃焼ガス速度に対するミストの噴出相対速度が高いため、熱分解炉内でのミストの滞留時間が短く、熱処理にばらつきを生じた結果、熱分解反応が不十分となったものと考えられる。
これに対し、実施例1~11は、所定の領域内に噴霧装置を設置し、かつ燃焼ガス速度に対するミストの噴出相対速度が所定範囲内となるように制御されているため、ミストが熱分解炉内の燃焼ガスの旋回流に巻き込まれ、熱分解炉壁面への固着物の発生が抑制されるとともに、熱処理が十分に確保され熱分解反応が十分進行したものと考えられる。
【符号の説明】
【0049】
1 熱分解炉
2 ミスト(液滴)
3 噴霧装置
4 燃焼ガス
5 燃焼バーナー
6 噴霧装置が設置される領域
O 熱分解炉の中心軸
10 噴霧熱分解装置