(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】複動式摩擦攪拌点接合装置及び複動式摩擦攪拌点接合装置の運転方法
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20230904BHJP
【FI】
B23K20/12 344
B23K20/12 310
B23K20/12 364
(21)【出願番号】P 2019177610
(22)【出願日】2019-09-27
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三宅 将弘
(72)【発明者】
【氏名】吉川 脩平
(72)【発明者】
【氏名】吉田 友祐
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/024474(WO,A1)
【文献】特開2005-305486(JP,A)
【文献】特開平11-320128(JP,A)
【文献】特開2005-319484(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1833294(KR,B1)
【文献】国際公開第2012/060439(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0045694(US,A1)
【文献】米国特許第08056793(US,B2)
【文献】米国特許出願公開第2010/0147925(US,A1)
【文献】特開2005-074520(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/00 - 20/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱状に形成されているピン部材と、
円筒状に形成され、前記ピン部材が内部に挿通されているショルダ部材と、
円筒状に形成され、前記ショルダ部材が内部に挿通されているクランプ部材と、
前記ピン部材及び前記ショルダ部材を、前記ピン部材の軸心に一致する軸線周りに回転させる回転駆動器と、
前記ピン部材及び前記ショルダ部材を、それぞれ前記軸線に沿って進退移動させる進退駆動器と、を備え、
前記ピン部材の外周面、前記ショルダ部材の内周面、前記ショルダ部材の外周面、及び前記クランプ部材の内周面のうち、少なくとも1つの周面には、油剤が配置され
、
前記ピン部材の外周面、前記ショルダ部材の内周面、前記ショルダ部材の外周面、及び前記クランプ部材の内周面のうち、少なくとも1つの周面には、凹部が形成され、
前記凹部が前記周面から凹む窪み又は溝である、複動式摩擦攪拌点接合装置。
【請求項2】
前記油剤は、液体状又は半固体状の油剤で構成されている、
請求項1に記載の複動式摩擦攪拌点接合装置。
【請求項3】
前記油剤を前記周面に供給するように構成されている、油剤供給機構をさらに備える、
請求項1又は2に記載の複動式摩擦攪拌点接合装置。
【請求項4】
制御器をさらに備え、
前記制御器は、摩擦攪拌点接合動作が、予め設定されている所定の第1回数以上になると、前記油剤供給機構により、前記油剤を前記周面に供給するように構成されている、
請求項3に記載の複動式摩擦攪拌点接合装置。
【請求項5】
円柱状に形成されているピン部材と、
円筒状に形成され、前記ピン部材が内部に挿通されているショルダ部材と、
円筒状に形成され、前記ショルダ部材が内部に挿通されているクランプ部材と、
前記ピン部材及び前記ショルダ部材を、前記ピン部材の軸心に一致する軸線周りに回転させる回転駆動器と、
前記ピン部材及び前記ショルダ部材を、それぞれ前記軸線に沿って進退移動させる進退駆動器と、を備え、
前記ピン部材の外周面、前記ショルダ部材の内周面、前記ショルダ部材の外周面、及び前記クランプ部材の内周面のうち、少なくとも1つの周面には、油剤が配置され、
前記油剤を前記周面に供給するように構成されている、油剤供給機構をさらに備え、
制御器をさらに備え、
前記制御器は、摩擦攪拌点接合動作が、予め設定されている所定の第1回数以上になると、前記油剤供給機構により、前記油剤を前記周面に供給するように構成されている、複動式摩擦攪拌点接合装置。
【請求項6】
複動式摩擦攪拌点接合装置の運転方法であって、
前記複動式摩擦攪拌点接合装置は、
円柱状に形成されているピン部材と、
円筒状に形成され、前記ピン部材が内部に挿通されているショルダ部材と、
円筒状に形成され、前記ショルダ部材が内部に挿通されているクランプ部材と、
前記ピン部材及び前記ショルダ部材を、前記ピン部材の軸心に一致する軸線周りに回転させる回転駆動器と、
前記ピン部材及び前記ショルダ部材を、それぞれ前記軸線に沿って進退移動させる進退駆動器と、を備え、
前記ピン部材の外周面、前記ショルダ部材の内周面、前記ショルダ部材の外周面、及び前記クランプ部材の内周面のうち、少なくとも1つの周面に、油剤を供給する(A)が実行され
、
前記ピン部材の外周面、前記ショルダ部材の内周面、前記ショルダ部材の外周面、及び前記クランプ部材の内周面のうち、少なくとも1つの周面には、凹部が形成され、
前記凹部が前記周面から凹む窪み又は溝である、複動式摩擦攪拌点接合装置の運転方法。
【請求項7】
前記複動式摩擦攪拌点接合装置は、油剤供給機構をさらに備え、
前記(A)では、前記油剤供給機構により、前記油剤が前記周面に供給される、請求項6に記載の複動式摩擦攪拌点接合装置の運転方法。
【請求項8】
前記(A)では、摩擦攪拌点接合動作が、予め設定されている所定の第1回数以上になると、前記油剤供給機構により、前記油剤が前記周面に供給される、請求項7に記載の複動式摩擦攪拌点接合装置の運転方法。
【請求項9】
前記(A)では、摩擦攪拌点接合動作を実行する前、及び/又は前記摩擦攪拌点接合動
作を実行した後に、前記油剤供給機構により、前記油剤が前記周面に供給される、請求項7又は8に記載の複動式摩擦攪拌点接合装置の運転方法。
【請求項10】
複動式摩擦攪拌点接合装置の運転方法であって、
前記複動式摩擦攪拌点接合装置は、
円柱状に形成されているピン部材と、
円筒状に形成され、前記ピン部材が内部に挿通されているショルダ部材と、
円筒状に形成され、前記ショルダ部材が内部に挿通されているクランプ部材と、
前記ピン部材及び前記ショルダ部材を、前記ピン部材の軸心に一致する軸線周りに回転させる回転駆動器と、
前記ピン部材及び前記ショルダ部材を、それぞれ前記軸線に沿って進退移動させる進退駆動器と、を備え、
前記ピン部材の外周面、前記ショルダ部材の内周面、前記ショルダ部材の外周面、及び前記クランプ部材の内周面のうち、少なくとも1つの周面に、油剤を供給する(A)が実行され、
前記複動式摩擦攪拌点接合装置は、油剤供給機構をさらに備え、
前記(A)では、前記油剤供給機構により、前記油剤が前記周面に供給され、
前記(A)では、摩擦攪拌点接合動作が、予め設定されている所定の第1回数以上になると、前記油剤供給機構により、前記油剤が前記周面に供給される、複動式摩擦攪拌点接合装置の運転方法。
【請求項11】
前記油剤は、液体状又は半固体状の油剤で構成されている、請求項6~10のいずれか1項に記載の複動式摩擦攪拌点接合装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複動式摩擦攪拌点接合装置及び複動式摩擦攪拌点接合装置の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プローブとショルダ部材との間の隙間に侵入した材料を外部に排出して、それらの隙間に凝着しないようにした摩擦攪拌点接合用複動式回転工具が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に開示されている摩擦攪拌点接合用複動式回転工具では、凝着防止/解消手段として、プローブの先端部と基部との段差部分にて構成している。そして、摩擦攪拌点接合操作の後において、プローブをショルダ部材に対して、相対的に突き出すことにより、侵入部材を外部に排出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示されている摩擦攪拌点接合用複動式回転工具であっても、段差部分の外周面と、ショルダ部材の内周面と、の間に隙間が形成される。このため、当該隙間まで材料が侵入した場合には、上記段差部分で侵入した材料を外部に排出することはできない。また、上記段差部分では、プローブの外周面及び/又はショルダ部材の内周面の表面に凝着した材料を排出することは困難である。
【0006】
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、従来の複動式摩擦攪拌点接合装置に比して、ピン部材(プローブ)の外周面、ショルダ部材の内周面、ショルダ部材の外周面、及びクランプ部材の内周面のうち、少なくとも1つの周面に対して、被接合物由来の材料の凝着を抑制することができる、複動式摩擦攪拌点接合装置及び複動式摩擦攪拌点接合装置の運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る複動式摩擦攪拌点接合装置は、円柱状に形成されているピン部材と、円筒状に形成され、前記ピン部材が内部に挿通されているショルダ部材と、円筒状に形成され、前記ショルダ部材が内部に挿通されているクランプ部材と、前記ピン部材及び前記ショルダ部材を、前記ピン部材の軸心に一致する軸線周りに回転させる回転駆動器と、前記ピン部材及び前記ショルダ部材を、それぞれ前記軸線に沿って進退移動させる進退駆動器と、を備え、前記ピン部材の外周面、前記ショルダ部材の内周面、前記ショルダ部材の外周面、及び前記クランプ部材の内周面のうち、少なくとも1つの周面には、油剤が配置されている。
【0008】
これにより、ピン部材の外周面、ショルダ部材の内周面、ショルダ部材の外周面、及びクランプ部材の内周面のうち、少なくとも1つの周面に油膜が形成されるので、従来の摩擦攪拌点接合装置に比して、周面に被接合物由来の材料の凝着を抑制することができる。
【0009】
また、本発明に係る摩擦攪拌点接合装置の運転方法は、複動式摩擦攪拌点接合装置の運転方法であって、前記複動式摩擦攪拌点接合装置が、円柱状に形成されているピン部材と、円筒状に形成され、前記ピン部材が内部に挿通されているショルダ部材と、円筒状に形成され、前記ショルダ部材が内部に挿通されているクランプ部材と、前記ピン部材及び前記ショルダ部材を、前記ピン部材の軸心に一致する軸線周りに回転させる回転駆動器と、前記ピン部材及び前記ショルダ部材を、それぞれ前記軸線に沿って進退移動させる進退駆動器と、を備え、前記ピン部材の外周面、前記ショルダ部材の内周面、前記ショルダ部材の外周面、及び前記クランプ部材の内周面のうち、少なくとも1つの周面に、油剤を供給する(A)が実行される。
【0010】
これにより、ピン部材の外周面、ショルダ部材の内周面、ショルダ部材の外周面、及びクランプ部材の内周面のうち、少なくとも1つの周面に油膜が形成されるので、従来の摩擦攪拌点接合装置に比して、周面に被接合物由来の材料の凝着を抑制することができる。
【0011】
本発明の上記目的、他の目的、特徴、及び利点は、添付図面参照の下、以下の好適な実施形態の詳細な説明から明らかにされる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る摩擦攪拌点接合装置及び複動式摩擦攪拌点接合装置の運転方法によれば、従来の摩擦攪拌点接合装置に比して、周面に被接合物由来の材料の凝着を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置の概略構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す摩擦攪拌点接合装置における要部を拡大した模式図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す摩擦攪拌点接合装置における要部を拡大した模式図である。
【
図4】
図4は、
図1に示す摩擦攪拌点接合装置における要部を拡大した模式図である。
【
図5】
図5は、
図1に示す摩擦攪拌点接合装置の制御構成を模式的に示すブロック図である。
【
図6】
図6は、本実施の形態2に係る摩擦攪拌点接合装置の要部の概略構成を示す模式図である。
【
図7】
図7は、本実施の形態2に係る摩擦攪拌点接合装置の要部の概略構成を示す模式図である。
【
図8】
図8は、本実施の形態2に係る摩擦攪拌点接合装置の要部の概略構成を示す模式図である。
【
図9】
図9は、本実施の形態3に係る摩擦攪拌点接合装置の要部の概略構成を示す模式図である。
【
図10】
図10は、本実施の形態3に係る摩擦攪拌点接合装置の要部の概略構成を示す模式図である。
【
図11】
図11は、本実施の形態3に係る摩擦攪拌点接合装置の要部の概略構成を示す模式図である。
【
図12】
図12は、本実施の形態3に係る摩擦攪拌点接合装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図13】
図13は、打点数に対するピン駆動器を構成するモータの電流値の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。また、全ての図面において、本発明を説明するために必要となる構成要素を抜粋して図示しており、その他の構成要素については図示を省略している場合がある。さらに、本発明は以下の実施の形態に限定されない。
【0015】
(実施の形態1)
本実施の形態1に係る複動式摩擦攪拌点接合装置は、円柱状に形成されているピン部材と、円筒状に形成され、前記ピン部材が内部に挿通されているショルダ部材と、円筒状に形成され、前記ショルダ部材が内部に挿通されているクランプ部材と、前記ピン部材及び前記ショルダ部材を、前記ピン部材の軸心に一致する軸線周りに回転させる回転駆動器と、前記ピン部材及び前記ショルダ部材を、それぞれ前記軸線に沿って進退移動させる進退駆動器と、を備え、前記ピン部材の外周面、前記ショルダ部材の内周面、前記ショルダ部材の外周面、及び前記クランプ部材の内周面のうち、少なくとも1つの周面には、油剤が配置されている。
【0016】
また、本実施の形態1に係る複動式摩擦攪拌点接合装置では、油剤は、液体状又は半固体状の油剤で構成されていてもよい。
【0017】
本実施の形態1に係る複動式摩擦攪拌点接合装置の運転方法は、複動式摩擦攪拌点接合装置が、円柱状に形成されているピン部材と、円筒状に形成され、ピン部材が内部に挿通されているショルダ部材と、円筒状に形成され、ショルダ部材が内部に挿通されているクランプ部材と、ピン部材及びショルダ部材を、ピン部材の軸心に一致する軸線周りに回転させる回転駆動器と、ピン部材及びショルダ部材を、それぞれ軸線に沿って進退移動させる進退駆動器と、を備え、ピン部材の外周面、ショルダ部材の内周面、ショルダ部材の外周面、及びクランプ部材の内周面のうち、少なくとも1つの周面に、油剤を供給する(A)が実行される。
【0018】
この場合、油剤の供給は、作業者が手作業で実行してもよく、後述するように、油剤供給機構により実行されてもよい。
【0019】
また、本実施の形態1に係る複動式摩擦攪拌点接合装置の運転方法では、(A)では、摩擦攪拌点接合動作を実行する前、及び/又は摩擦攪拌点接合動作を実行した後に、油剤供給機構により、油剤が周面に供給されてもよい。
【0020】
以下、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置の一例について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
[摩擦攪拌点接合装置の構成]
図1は、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置の概略構成を示す模式図である。
図2~
図4は、
図1に示す摩擦攪拌点接合装置における要部を拡大した模式図である。なお、
図1においては、図における上下方向を摩擦攪拌点接合装置における上下方向として表している。
【0022】
図1に示すように、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50は、ピン部材11、ショルダ部材12、工具固定器52、進退駆動器53、クランプ部材13、裏当て支持部55、裏当て部材56、及び回転駆動器57を備えている。
【0023】
ピン部材11、ショルダ部材12、工具固定器52、進退駆動器53、クランプ部材13、及び回転駆動器57は、C型ガン(C型フレーム)で構成される裏当て支持部55の上端部に設けられている。また、裏当て支持部55の下端部には、裏当て部材56が設けられている。ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13と、裏当て部材56と、は互いに対向する位置で裏当て支持部55に取り付けられている。なお、ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13と、裏当て部材56と、の間には、被接合物60が配置される。
【0024】
被接合物60は、2枚の板状の第1部材61及び第2部材62を有する。第1部材61及び第2部材62としては、金属材料(例えば、アルミニウム、鋼等)、又は繊維強化プラスチック(例えば、炭素繊維強化プラスチック)で構成されていてもよい。
【0025】
なお、本実施の形態1においては、被接合物60を板状の第1部材61と板状の第2部材62で構成されている形態を採用したが、これに限定されず、被接合物60(第1部材61及び第2部材62)の形状は任意であり、例えば、直方体状であってもよく、円弧状に形成されていてもよい。また、被接合物60は、3つ以上の部材を有していてもよい。
【0026】
ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13は、回転工具固定器521及びクランプ固定器522から構成される工具固定器52に固定されている。具体的には、ピン部材11及びショルダ部材12は、回転工具固定器521に固定されていて、クランプ部材13は、クランプ駆動器41を介して、クランプ固定器522に固定されている。そして、回転工具固定器521は、回転駆動器57を介して、クランプ固定器522に支持されている。なお、クランプ駆動器41は、スプリングにより構成されている。
【0027】
また、ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13は、ピン駆動器531及びショルダ駆動器532から構成される進退駆動器53によって、上下方向に進退駆動される。なお、以下においては、ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13のうち、少なくとも1つの部材について、ツールと称する場合がある。
【0028】
ピン部材11は、円柱状に形成されていて、
図1には、詳細に図示されないが、回転工具固定器521により支持されている。また、ピン部材11は、回転駆動器57により、ピン部材11の軸心に一致する軸線Xr(回転軸)周りに回転し、ピン駆動器531により、矢印P1方向、すなわち軸線Xr方向(
図1では上下方向)に沿って、進退移動可能に構成されている。ピン駆動器531は、ピン部材11に加圧力を与える構成であればよく、例えば、ガス圧、油圧、サーボモータ等を用いた機構を好適に用いることができる。
【0029】
ショルダ部材12は、中空を有する円筒状に形成されていて、回転工具固定器521により支持されている。ショルダ部材12の中空内には、ピン部材11が内挿されている。換言すると、ショルダ部材12は、ピン部材11の外周面を囲むように配置されている。
【0030】
また、ショルダ部材12は、回転駆動器57により、ピン部材11と同一の軸線Xr周りに回転し、ショルダ駆動器532により、矢印P2方向、すなわち軸線Xr方向に沿って進退移動可能に構成されている。ショルダ駆動器532は、ショルダ部材12に加圧力を与える構成であればよく、例えば、ガス圧、油圧、サーボモータ等を用いた機構を好適に用いることができる。
【0031】
ピン部材11及びショルダ部材12は、本実施の形態では、いずれも同一の回転工具固定器521によって支持され、いずれも回転駆動器57により軸線Xr周りに一体的に回転する。さらに、ピン部材11及びショルダ部材12は、ピン駆動器531及びショルダ駆動器532により、それぞれ軸線Xr方向に沿って進退移動可能に構成されている。
【0032】
なお、本実施の形態1においては、ピン部材11は単独で進退移動可能であるとともに、ショルダ部材12の進退移動に伴っても進退移動可能となっているが、ピン部材11及びショルダ部材12がそれぞれ独立して進退移動可能に構成されてもよい。
【0033】
クランプ部材13は、ショルダ部材12と同様に、中空を有する円筒状に形成されていて、その軸心が軸線Xrと一致するように設けられている。クランプ部材13の中空内には、ショルダ部材12が内挿されている。
【0034】
すなわち、ピン部材11の外周面を囲むように、円筒状のショルダ部材12が配置されていて、ショルダ部材12の外周面を囲むように円筒状のクランプ部材13が配置されている。換言すれば、クランプ部材13、ショルダ部材12及びピン部材11が、それぞれ同軸心状の入れ子構造となっている。
【0035】
また、クランプ部材13は、被接合物60を一方の面(表面)から押圧するように構成されている。クランプ部材13は、上述したように、本実施の形態1においては、クランプ駆動器41を介してクランプ固定器522に支持されている。クランプ駆動器41は、クランプ部材13を裏当て部材56側に付勢するように構成されている。そして、クランプ部材13(クランプ駆動器41及びクランプ固定器522を含む)は、ショルダ駆動器532によって、矢印P3方向(矢印P1及び矢印P2と同方向)に進退可能に構成されている。
【0036】
なお、クランプ駆動器41は、本実施の形態1においては、スプリングで構成したが、これに限定されるものではない。クランプ駆動器41は、クランプ部材13に付勢を与えたり加圧力を与えたりする構成であればよく、例えば、ガス圧、油圧、サーボモータ等を用いた機構も好適に用いることができる。
【0037】
ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13は、それぞれ先端面11a、先端面12a、及び先端面13aを備えている。また、ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13は、進退駆動器53により進退移動することで、先端面11a、先端面12a、及び先端面13aは、それぞれ、被接合物60の表面(被接合物60の被接合部)に当接し、被接合物60を押圧する。
【0038】
また、
図2~
図4に示すように、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50では、ピン部材11の外周面11c、ショルダ部材12の内周面12b、ショルダ部材12の外周面12c、及びクランプ部材13の内周面13bのうち、少なくとも1つの周面には、油剤70が配置(塗布)されている。
【0039】
なお、
図2及び
図4に示す摩擦攪拌点接合装置50では、ピン部材11の外周面11c及びショルダ部材12の内周面12bの両周面に油剤70が配置されているが、いずれか一方の周面に油剤70が配置されていればよい。同様に、
図3及び
図4に示す摩擦攪拌点接合装置50では、ショルダ部材12の外周面12c及びクランプ部材13の内周面13bの両周面に油剤70が配置されているが、いずれか一方の周面に油剤70が配置されていればよい。
【0040】
また、油剤70は、被接合物60由来の材料の凝着が起こりやすい、ツールの先端部の周面に配置する観点から、ピン部材11の先端部11d、ショルダ部材12の先端部12d、及びクランプ部材13の先端部13dのうち、少なくとも1つの先端部の周面に配置されていてもよい。
【0041】
また、油剤70は、ツールの先端部の周面に供給する観点から、ピン部材11の基端部11e、ショルダ部材12の基端部12e、及びクランプ部材13の基端部13eのうち、少なくとも1つの基端部の周面に配置されていてもよい。
【0042】
ここで、ツールの先端部は、先端面からツールの軸線Xr方向の長さの1/2以下の部分までであってもよい。また、ツールの基端部は、ツールの基端面からツールの軸線Xr方向の長さの1/2以下の部分までであってもよい。
【0043】
さらに、油剤70は、ツールの先端面に被接合物60由来の材料の凝着を抑制する観点から、ピン部材11の先端面11a、ショルダ部材12の先端面12a、及びクランプ部材13の先端面13aのいずれかの先端面に配置されていてもよい。特に、ピン部材11の先端面11a及びショルダ部材12の先端面12aに油剤70が配置されていると、被接合物60由来の材料の凝着が抑制されるため、接合部表面をより平滑化することができる。
【0044】
なお、油剤70が、ピン部材11の先端面11a、ショルダ部材12の先端面12a、及びクランプ部材13の先端面13aのいずれかの先端面に配置されている場合、油剤70が、ツールの周面に配置されていない形態を採用してもよい。
【0045】
油剤70は、液体状又は半固体(グリース)状の油剤で構成されていてもよい。また、油剤70は、高温用耐熱性を有する油剤で構成されていてもよい。油剤70としては、例えば、ハイテンプオイルG(商品名)、スミコーSN-Bグリース(商品名)、又はモリペーストS(商品名)を使用してもよい。
【0046】
なお、油剤70は、作業者により、ツールの周面に配置(塗布)されてもよい。また、油剤70は、油剤を染み込ませた布、又は油剤を付着させたブラシ等をロボットに保持させて、当該ロボットにより、ツールの周面に配置(塗布)されてもよい。さらに、油剤70は、油剤70を付着させたブラシ、綿棒等を基台に固定させて、摩擦攪拌点接合装置50を保持しているロボットを動作させることにより、ツールの周面に配置(塗布)されてもよい。
【0047】
また、油剤70は、摩擦攪拌点接合動作を実行する前に、ツールの周面に配置(塗布)されてもよく、及び/又は摩擦攪拌点接合動作を実行した後に、ツールの周面に配置(塗布)されてもよい。
【0048】
裏当て部材56は、本実施の形態1においては、平板状の被接合物60の裏面を当接するように平坦な面(支持面56a)により、支持するように構成されている。裏当て部材56は、摩擦攪拌点接合を実施できるように被接合物60を適切に支持することができるものであれば、その構成は特に限定されない。裏当て部材56は、例えば、複数の種類の形状を有する裏当て部材56が別途準備され、被接合物60の種類に応じて、裏当て支持部55から外して交換できるように構成されてもよい。
【0049】
なお、本実施の形態1におけるピン部材11、ショルダ部材12、工具固定器52、進退駆動器53、クランプ部材13、裏当て支持部55、及び回転駆動器57の具体的な構成は、前述した構成に限定されず、広く摩擦攪拌接合の分野で公知の構成を好適に用いることができる。例えば、ピン駆動器531及びショルダ駆動器532は、摩擦攪拌接合の分野で公知のモータ及びギア機構等で構成されていてもよい。
【0050】
また、裏当て支持部55は、本実施の形態1においては、C型ガンで構成されているが、これに限定されない。裏当て支持部55は、ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13を進退移動可能に支持するとともに、ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13に対向する位置に裏当て部材56を支持することができれば、どのように構成されていてもよい。
【0051】
さらに、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50は、摩擦攪拌点接合用ロボット装置(図示せず)に配設される形態を採用している。具体的には、裏当て支持部55が、ロボット装置のアームの先端に取り付けられている。このため、裏当て支持部55も摩擦攪拌点接合用ロボット装置に含まれるとみなすことができる。裏当て支持部55及びアームを含めて、摩擦攪拌点接合用ロボット装置の具体的な構成は特に限定されず、多関節ロボット等、摩擦攪拌接合の分野で公知の構成を好適に用いることができる。
【0052】
なお、摩擦攪拌点接合装置50(裏当て支持部55を含む)は、摩擦攪拌点接合用ロボット装置に適用される場合に限定されるものではなく、例えば、NC工作機械、大型のCフレーム、及びオートリベッター等の公知の加工用機器にも好適に適用することができる。
【0053】
また、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50は、二対以上のロボットが、摩擦攪拌点接合装置50における裏当て部材56以外の部分と、裏当て部材56と、を正対させるように構成されていてもよい。さらに、摩擦攪拌点接合装置50は、被接合物60に対して安定して摩擦攪拌点接合を行うことが可能であれば、被接合物60を手持ち型にする形態を採用してもよく、ロボットを被接合物60のポジショナーとして用いる形態を採用してもよい。
【0054】
[摩擦攪拌点接合装置の制御構成]
次に、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50の制御構成について、
図5を参照して具体的に説明する。
【0055】
図5は、
図1に示す摩擦攪拌点接合装置の制御構成を模式的に示すブロック図である。
【0056】
図5に示すように、摩擦攪拌点接合装置50は、制御器51、記憶器31、入力器32、及び位置検出器33を備えている。
【0057】
制御器51は、摩擦攪拌点接合装置50を構成する各部材(各機器)を制御するように構成されている。具体的には、制御器51は、記憶器に記憶された基本プログラム等のソフトウェアを読み出して実行することにより、進退駆動器53を構成するピン駆動器531及びショルダ駆動器532と、回転駆動器57と、を制御する。
【0058】
これにより、ピン部材11及びショルダ部材12の進出移動又は後退移動の切り替え、進退移動時のピン部材11及びショルダ部材12における、先端位置の制御、移動速度、及び移動方向等を制御することができる。また、ピン部材11、ショルダ部材12及びクランプ部材13の被接合物60を押圧する押圧力を制御することができる。さらに、ピン部材11及びショルダ部材12の回転数を制御することができる。
【0059】
なお、制御器51は、集中制御する単独の制御器51によって構成されていてもよいし、互いに協働して分散制御する複数の制御器51によって構成されていてもよい。また、制御器51は、マイクロコンピュータで構成されていてもよく、MPU、PLC(Programmable Logic Controller)、論理回路等によって構成されていてもよい。
【0060】
記憶器31は、基本プログラム、各種データを読み出し可能に記憶するものであり、記憶器31としては、公知のメモリ、ハードディスク等の記憶装置等で構成される。記憶器31は、単一である必要はなく、複数の記憶装置(例えば、ランダムアクセスメモリ及びハードディスクドライブ)として構成されてもよい。制御器51等がマイクロコンピュータで構成されている場合には、記憶器31の少なくとも一部がマイクロコンピュータの内部メモリとして構成されてもよいし、独立したメモリとして構成されてもよい。
【0061】
なお、記憶器31には、データが記憶され、制御器51以外からデータの読み出しが可能となっていてもよいし、制御器51等からデータの書き込みが可能になっていてもよいことはいうまでもない。
【0062】
入力器32は、制御器51に対して、摩擦攪拌点接合の制御に関する各種パラメータ、あるいはその他のデータ等を入力可能とするものであり、キーボード、タッチパネル、ボタンスイッチ群等の公知の入力装置で構成されている。本実施の形態1では、少なくとも、被接合物60の接合条件、例えば、被接合物60の厚み、材質等のデータが入力器32により入力可能となっている。
【0063】
位置検出器33は、ショルダ部材12の先端部(先端面12a)の位置情報を検出して、検出した位置情報を制御器51に出力するように構成されている。位置検出器33としては、例えば、LVDT、エンコーダー等を用いてもよい。
【0064】
このように構成された、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50では、ピン部材11の外周面11c、ショルダ部材12の内周面12b、ショルダ部材12の外周面12c、及びクランプ部材13の内周面13bのうち、少なくとも1つの周面には、油剤70が配置(塗布)されている。
【0065】
これにより、油剤70の潤滑作用によって、ツールの移動(進退方向及び/又は回転方向)が抑制されないために、ツール間の隙間に被接合物60由来の材料の侵入(付着)を抑制することができる。また、ツールの周面に油膜が形成されるため、ツール間の隙間に被接合物60由来の材料の侵入(付着)を抑制することができる。さらに、ツールの周面に油膜が形成されるため、ツールの周面に被接合物60由来の材料の凝着を抑制することができる。
【0066】
したがって、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50では、従来の摩擦攪拌点接合装置に比して、摩擦攪拌点接合動作を連続して実行する回数を増加させることができる。
【0067】
(実施の形態2)
本実施の形態2に係る摩擦攪拌点接合装置は、実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置において、ピン部材の外周面、ショルダ部材の内周面、ショルダ部材の外周面、及びクランプ部材の内周面のうち、少なくとも1つの周面には、凹部が形成されている。
【0068】
以下、本実施の形態2に係る摩擦攪拌点接合装置の一例について、
図6~
図8を参照しながら詳細に説明する。
【0069】
[摩擦攪拌点接合装置の構成]
図6~
図8は、本実施の形態2に係る摩擦攪拌点接合装置の要部の概略構成を示す模式図である。
【0070】
図6~
図8に示すように、本実施の形態2に係る摩擦攪拌点接合装置50は、実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50と基本的構成は同じであるが、ピン部材11の外周面11c、ショルダ部材12の内周面12b、ショルダ部材12の外周面12c、及びクランプ部材13の内周面13bのうち、少なくとも1つの周面に凹部が形成されている点が異なる。
【0071】
具体的には、
図6及び
図8に示す摩擦攪拌点接合装置50では、ピン部材11の外周面11cに凹部80aが形成されていて、ショルダ部材12の内周面12bに凹部80bが形成されている。また、
図7及び
図8に示す摩擦攪拌点接合装置50では、ショルダ部材12の外周面12cに凹部80cが形成されていて、クランプ部材13の内周面13bに凹部80dが形成されている。なお、以下においては、凹部80a~80dを区別しない場合には、凹部80と称する場合がある。
【0072】
凹部80は、ツールの先端部の周面に油剤70を供給する観点から、ツールの基端部に形成されていてもよい。また、凹部80は、油剤70を保持(貯留)することができれば、どのような形状であってもよい。凹部80は、例えば、凹部80a及び凹部80cのように、窪みで構成されていてもよく、例えば、凹部80b及び凹部80dのように、溝で構成されていてもよい。
【0073】
凹部80が溝で構成されている場合、当該溝は、軸線Xrに沿って延びるように形成されていてもよく、軸線Xrに対して、斜め方向に延びるように形成されていてもよく、円周に沿うように円弧(円環)状に形成されていてもよく、らせん状に形成されていてもよい。
【0074】
なお、
図6及び
図8に示す摩擦攪拌点接合装置50では、ピン部材11の外周面11c及びショルダ部材12の内周面12bの両周面に凹部80が形成されているが、いずれか一方の周面に凹部80が形成されていればよい。同様に、
図7及び
図8に示す摩擦攪拌点接合装置50では、ショルダ部材12の外周面12c及びクランプ部材13の内周面13bの両周面に凹部80が形成されているが、いずれか一方の周面に凹部80が形成されていればよい。また、凹部80は、いずれかの周面に1つの凹部が形成されていてもよく、複数の凹部が形成されていてもよい。
【0075】
このように構成された、本実施の形態2に係る摩擦攪拌点接合装置50であっても、実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50と同様の作用効果を奏する。
【0076】
また、本実施の形態2に係る摩擦攪拌点接合装置50では、ツールの周面に凹部80が形成されていて、当該凹部80には、油剤70が保持されている。このため、ツールの先端部の周面に油剤70を供給することができるため、摩擦攪拌点接合動作を連続して実行する回数をより増加させることができ得る。
【0077】
(実施の形態3)
本実施の形態3に係る摩擦攪拌点接合装置は、実施の形態1又は2に係る摩擦攪拌点接合装置において、油剤を周面に供給するように構成されている、油剤供給機構をさらに備える。
【0078】
また、本実施の形態3に係る摩擦攪拌点接合装置では、制御器をさらに備え、制御器は、摩擦攪拌点接合動作が、予め設定されている所定の第1回数以上になると、油剤供給機構により、油剤を周面に供給するように構成されていてもよい。
【0079】
以下、本実施の形態3に係る摩擦攪拌点接合装置の一例について、
図9~
図11を参照しながら詳細に説明する。
【0080】
[摩擦攪拌点接合装置の構成]
図9~
図11は、本実施の形態3に係る摩擦攪拌点接合装置の要部の概略構成を示す模式図である。
【0081】
図9~
図11に示すように、本実施の形態3に係る摩擦攪拌点接合装置50は、実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50と基本的構成は同じであるが、油剤供給機構100をさらに備える点が異なる。
【0082】
油剤供給機構100は、油剤70を摩擦攪拌点接合装置50に供給することができれば、どのような態様であってもよく、例えば、油剤70を貯留する容器と、容器内の油剤70を送出するポンプ(ピストン)で構成されていてもよい。
【0083】
また、油剤供給機構100は、油剤70を貯留する容器と、ピン部材11及び/又はショルダ部材12の先端部をクランプ部材13の先端部よりも突出させた状態で、摩擦攪拌点接合装置50を保持し、容器内にピン部材11及び/又はショルダ部材12の先端部を侵入させるロボットで構成されていてもよい。なお、当該ロボットは、ピン部材11及び/又はショルダ部材12を摩擦攪拌点接合装置50から取り外して、保持してもよい。
【0084】
また、油剤供給機構100は、油剤70を付着させたブラシ、綿棒等で構成されていてもよい。この場合、ロボットが、ピン部材11及び/又はショルダ部材12の先端部をクランプ部材13の先端部よりも突出させた状態で、摩擦攪拌点接合装置50を保持し、ピン部材11及び/又はショルダ部材12の先端部をブラシ等に当接させることで、ツールの周面に油剤70を供給させてもよい。
【0085】
さらに、油剤供給機構100は、被接合物60の上面(ツールと当接する面)に油剤70を配置するように構成されていてもよい。この場合、摩擦攪拌点接合装置50が、当該被接合物60の油剤70が配置されている部分を摩擦攪拌点接合することにより、ツールの周面に油剤70が供給されることになる。
【0086】
なお、作業者又はロボットに布等を保持させて、ツールの先端面に付着した油剤70を除去してもよい。
【0087】
図9及び
図11に示す摩擦攪拌点接合装置50では、ショルダ部材12の基端部12eの周面に貫通孔90aが設けられている。貫通孔90aは、流路91aを介して、油剤供給機構100に接続されている。これにより、油剤供給機構100から、貫通孔90aを介して、ピン部材11の外周面11c、及び/又はショルダ部材12の内周面12bに油剤70を供給することができる。
【0088】
なお、流路91aは、適宜な配管等で構成されていて、摩擦攪拌点接合装置50に常に配置されている必要はない。流路91aは、油剤供給機構100から油剤70を供給するときに、油剤供給機構100と貫通孔90aを接続するように構成されていてもよい。
【0089】
また、
図10及び
図11に示す摩擦攪拌点接合装置50では、クランプ部材13の周面に貫通孔90bが設けられている。貫通孔90bは、流路91bを介して、油剤供給機構100に接続されている。これにより、油剤供給機構100から、貫通孔90bを介して、ショルダ部材12の外周面12c、及び/又はクランプ部材13の内周面13bに油剤70を供給することができる。
【0090】
なお、流路91bは、適宜な配管等で構成されていて、摩擦攪拌点接合装置50に常に配置されている必要はない。流路91bは、油剤供給機構100から油剤70を供給するときに、油剤供給機構100と貫通孔90bを接続するように構成されていてもよい。
【0091】
また、
図11において、貫通孔90aと貫通孔90bは、水平方向から見て、重ならないように配置されているが、これに限定されず、重なるように配置されていてもよい。
【0092】
[摩擦攪拌点接合装置の動作及び作用効果]
次に、本実施の形態3に係る摩擦攪拌点接合装置50の動作について、
図12を参照して具体的に説明する。なお、以下の動作については、制御器51が、記憶器31に格納されているプログラムを読み出すことにより実行される。
【0093】
図12は、本実施の形態3に係る摩擦攪拌点接合装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【0094】
図12に示すように、制御器51は、作業者が入力器32を操作して、被接合物60の摩擦攪拌点接合動作の実行指令が入力されたか否かを判定する(ステップS101)。
【0095】
制御器51は、摩擦攪拌点接合動作の実行指令が入力されていないと判定した場合(ステップS101でNo)には、例えば、50msec後に再び、ステップS101の処理を実行する。一方、制御器51は、摩擦攪拌点接合動作の実行指令が入力されたと判定した場合(ステップS101でYes)には、ステップS102の処理を実行する。
【0096】
ステップS102では、制御器51は、摩擦攪拌点接合装置50に被接合物60の摩擦攪拌点接合動作を実行させる。なお、摩擦攪拌点接合装置50による摩擦攪拌点接合動作は、公知の摩擦攪拌点接合動作と同様に実行されるので、その詳細な説明は省略する。
【0097】
次に、制御器51は、記憶器31に摩擦攪拌点接合動作の回数Nを記憶させる(ステップS103)。具体的には、例えば、制御器51は、記憶器31に記憶されている回数Nkを取得する。ついで、制御器51は、摩擦攪拌点接合動作を1回実行する(1か所の被接合部を接合する)毎に、回数Nkに1回分の回数を和算させて、回数Nk+1として、記憶器31に記憶させてもよい。
【0098】
次に、制御器51は、ステップS03で記憶させた回数Nが、予め設定されている所定の第1回数以上であるか否かを判定する(ステップS104)。ここで、第1回数は、予め実験等により設定することができる。第1回数は、例えば、ツールの周面に油膜を形成させている状態を維持する観点から、液状の油剤70を用いた場合には、100回であってもよく、150回であってもよく、200回であってもよい。また、第1回数は、例えば、ツールの周面に油膜を形成させている状態を維持する観点から、半固体状の油剤70を用いた場合には、1000回であってもよく、1500回であってもよく、2000回であってもよい。
【0099】
制御器51は、ステップS103で記憶させた回数Nが、第1回数未満であると判定した場合(ステップS104でNo)には、本プログラムを終了し、例えば、50msec後に再び、ステップS101の処理を実行する。一方、制御器51は、ステップS103で記憶させた回数Nが、第1回数以上であると判定した場合(ステップS104でYes)には、ステップS105の処理を実行する。
【0100】
ステップS105では、制御器51は、油剤70を油剤供給機構100から摩擦攪拌点接合装置50に供給させる。ついで、制御器51は、記憶器31に記憶されている回数Nk+1をリセットさせ(回数Nk+1を0にさせ;ステップS106)、本プログラムを終了する。
【0101】
このように構成された、本実施の形態3に係るに係る摩擦攪拌点接合装置50であっても、実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50と同様の作用効果を奏する。
【0102】
なお、本実施の形態3に係る摩擦攪拌点接合装置50では、制御器51が、第1回数以上になると、油剤70を油剤供給機構100から摩擦攪拌点接合装置50に供給させる形態を採用したが、これに限定されない。
【0103】
例えば、制御器51は、摩擦攪拌点接合装置50のメンテナンス作業を実行した後に、油剤70を油剤供給機構100から摩擦攪拌点接合装置50に供給させる形態を採用してもよい。また、制御器51は、摩擦攪拌点接合装置50により、摩擦攪拌点接合動作を実行する前(ステップS101で、摩擦攪拌点接合動作の実行指令が入力されたと判定した後)に、油剤70を油剤供給機構100から摩擦攪拌点接合装置50に供給させる形態を採用してもよい。
【0104】
また、本実施の形態3に係る摩擦攪拌点接合装置50では、実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50の構成を採用したが、実施の形態2に係る摩擦攪拌点接合装置50の構成を採用してもよい。
【0105】
[試験例]
次に、実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50の試験例について説明する。
【0106】
(試験例1)
試験例1では、ピン部材11の外周面11c及びショルダ部材12の内周面12bに、油剤70を配置させた、摩擦攪拌点接合装置50(
図2参照)を用いて、被接合物60を連続して接合した。
【0107】
なお、油剤70として、モリペーストS(商品名)を用い、被接合物60を連続して接合する前に、ピン部材11の外周面11c及びショルダ部材12の内周面12bに、油剤70を塗布した。また、以下においては、被接合物60を接合した回数を打点数と称する場合がある。
【0108】
(試験例2)
試験例2では、試験例1と同様に、ピン部材11の外周面11c及びショルダ部材12の内周面12bに、油剤70を配置させた、摩擦攪拌点接合装置50(
図2参照)を用いて、被接合物60を連続して接合した。油剤70として、スミコーハイテンプオイルG(商品名)を用い、112打点毎に、油剤70を供給した。作業者が、油剤70を付着させた綿棒をショルダ部材12の内周面12bに当接させることにより、油剤70の供給を実行した。
【0109】
(比較例)
比較例では、ツールに油剤70が配置されていない、従来の摩擦攪拌点接合装置を用いて、被接合物60を連続して接合した。
(試験結果)
被接合物60である、第1部材61、第2部材62として、厚み寸法が1.0mmのアルミニウム合金板(A6061)を用い、試験例1、試験例2、及び比較例の摩擦攪拌点接合装置50により、連続して摩擦攪拌点接合を行い、ピン駆動器を構成するモータの電流値を検出した。
【0110】
図13は、打点数に対するピン駆動器を構成するモータの電流値の変化を示すグラフである。
図13の横軸は、摩擦攪拌点接合装置50により、被接合物60の被接合部を接合した回数である、打点数を示す。また、
図13の縦軸は、モータの各打点時における、ピン部11の先端をショルダ部材12の先端に対して退行させるときの最大電流値(以下、ピン軸最大電流値と称する)を示す。
【0111】
さらに、
図13において、菱形(破線)は、比較例の摩擦攪拌点接合装置50を用いて、連続して接合した時の各打点時におけるピン軸最大電流値を示し、三角形(一点鎖線)は、試験例1の摩擦攪拌点接合装置50を用いて、連続して接合した時の各打点時におけるピン軸最大電流値を示し、四角形(実線)は、試験例2の摩擦攪拌点接合装置50を用いて、連続して接合した時の各打点時におけるピン軸最大電流値を示す。
【0112】
図13に示すように、比較例の摩擦攪拌点接合装置50を用いて、連続して接合した場合には、ピン軸最大電流値が急激に上昇することが示された。これは、ピン部材11の外周面11c及び/又はショルダ部材12の内周面12bに被接合物60由来の材料が凝着した結果、ピン部材11を進退移動させるためのトルクが大きくなり、ピン駆動器531に流れる電流値が増加したためである。
【0113】
一方、試験例1の摩擦攪拌点接合装置50を用いて、連続して接合した場合には、ピン軸最大電流値は、2000打点を超えても、3アンペア程度の低い電流値を保つことができることが示された。さらに、試験例2の摩擦攪拌点接合装置50を用いて、連続して接合した場合には、ピン軸最大電流値は、8000打点を超えても、3アンペア程度の低い電流値を保つことができることが示された。
【0114】
これにより、ピン部材11の外周面11c及びショルダ部材12の内周面12bに、油剤70を配置させると、これらの周面に被接合物60由来の材料の凝着が抑制され(図示せず)、その結果、従来の摩擦攪拌点接合装置に比して、摩擦攪拌点接合動作を連続して実行する回数を増加させることができることが示された。
【0115】
また、試験例2の結果から、所定の打点数(第1回数)毎に、油剤70をツールの周面に供給することにより、摩擦攪拌点接合動作を連続して実行する回数をより増加させることができることが示された。このため、ツールの周面に油剤70が配置されている状態を維持させることにより、摩擦攪拌点接合動作を連続して実行する回数をより増加させることができることが示唆された。
【0116】
さらに、試験例2において、2000打点を超えるまで、ピン軸最大電流値が0.1~0.3アンペア程度だったのに対して、2000打点を超えると、0.6~1アンペアにまで急激に増加している。このため、発明者らは、2000打点を超えたところで、ツールの清掃(ツールに凝着した材料の除去)を実行することにより、ピン軸最大電流値の急激な増加を抑制できるものと考察している。
【0117】
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良又は他の実施形態が明らかである。したがって、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の形態を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組合せにより種々の発明を形成できる。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の摩擦攪拌点接合装置及び複動式摩擦攪拌点接合装置の運転方法は、従来の摩擦攪拌点接合装置に比して、ツールの周面に被接合物由来の材料の凝着を抑制することができるため、有用である。
【符号の説明】
【0119】
11 ピン部材
11a 先端面
11c 外周面
11d 先端部
11e 基端部
12 ショルダ部材
12a 先端面
12b 内周面
12c 外周面
12d 先端部
12e 基端部
13 クランプ部材
13a 先端面
13b 内周面
13d 先端部
13e 基端部
31 記憶器
32 入力器
33 位置検出器
41 クランプ駆動器
50 摩擦攪拌点接合装置
51 制御器
52 工具固定器
53 進退駆動器
55 支持部
56 裏当て部材
56a 支持面
57 回転駆動器
60 被接合物
61 第1部材
62 第2部材
70 油剤
80 凹部
80a 凹部
80b 凹部
80c 凹部
80d 凹部
90a 貫通孔
90b 貫通孔
91a 流路
91b 流路
100 油剤供給機構
521 回転工具固定器
522 クランプ固定器
531 ピン駆動器
532 ショルダ駆動器
P1 矢印
P2 矢印
P3 矢印
Xr 軸線