(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】化粧料組成物及びその製造方法、並びに化粧料
(51)【国際特許分類】
A61K 8/19 20060101AFI20230904BHJP
A61K 8/04 20060101ALI20230904BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20230904BHJP
【FI】
A61K8/19
A61K8/04
A61Q19/00
(21)【出願番号】P 2019183516
(22)【出願日】2019-10-04
【審査請求日】2022-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2018190009
(32)【優先日】2018-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】貴傳名 甲
(72)【発明者】
【氏名】大北 正信
(72)【発明者】
【氏名】呉 楠
(72)【発明者】
【氏名】南 聡史
(72)【発明者】
【氏名】草刈 剛
【審査官】松元 麻紀子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0157676(US,A1)
【文献】国際公開第2018/088488(WO,A1)
【文献】特開2003-012962(JP,A)
【文献】特開2008-063295(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/19
A61K 8/04
A61Q 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金
粒子及び銀
粒子を含む複合粒子を含有
し、
前記複合粒子の全質量のうち白金及び銀の総量が80質量%以上であり、
前記複合粒子は、前記白金粒子及び前記銀粒子を含有する凝集粒子である、化粧料組成物。
【請求項2】
前記白金粒子及び前記銀粒子の合計質量100質量部に対し、前記白金粒子が10~90質量部含まれる、請求項
1に記載の化粧料組成物。
【請求項3】
前記複合粒子は、10~500nmの平均粒子径を有する、請求項1
又は2に記載の化粧料組成物。
【請求項4】
前記複合粒子は、水系溶媒に分散している、請求項1~
3のいずれか1項に記載の化粧料組成物。
【請求項5】
前記複合粒子は、前記水系溶媒の全質量に対して1~500質量ppm含まれる、請求項
4に記載の化粧料組成物。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の化粧料組成物を含む化粧料。
【請求項7】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の化粧料組成物の製造方法であって、
複合粒子を調製する工程を備え、
前記複合粒子は、白金粒子の前駆体と銀粒子の前駆体とを混合することで得られる、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧料組成物及びその製造方法、並びに化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧料には、種々の化学成分及び天然成分等の添加剤が含まれており、ヒトの肌等の表面に塗布して、様々な効能をもたらすことができる。同時に、化粧料はヒトの皮膚に直接触れることから、かぶれ、炎症、肌荒れ、色素沈着等を防止すべく、多種にわたる有効成分が添加されていることも知られている。このように化粧品分野では、化粧品本来の効果を発揮させることに加えて、皮膚等への悪影響及び負担等を低減させるべく、種々の有効成分の検討が盛んに進められている。
【0003】
一方で、このような効能をもたらすべく有効成分を化粧品に配合する場合、化粧品中の成分どうしの相溶性が低いと、配合自体が困難であったり、あるいは、成分どうしが互いに反応を起こしたりすることもある。このため、添加した有効成分の本来発揮させるべき効能が得られないこともあるので、皮膚の保護効果を十分に発揮させるべく、有効成分の種類の選定も重要となる。
【0004】
例えば、特許文献1等には、化粧品において、皮膚を保護し、角質層を活性化させるべく、白金コロイドを化粧品に含有させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年の化粧品分野においては、紫外線等の影響による皮膚の炎症を抑制することが強く求められているところ、特許文献1に記載されるような技術では、十分な抗炎症作用を得ることができず、さらなる改善が望まれていた。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、抗酸化性及び防腐性能に優れ、しかも、優れた抗炎症作用も有する化粧料組成物及びその製造方法、並びに該化粧料組成物を含む化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、白金及び銀を含む複合粒子を有効成分として含ませることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
白金及び銀を含む複合粒子を含有する、化粧料組成物。
項2
前記複合粒子は、白金粒子及び銀粒子が凝集して形成される凝集粒子である、項1に記載の化粧料組成物。
項3
前記白金粒子及び前記銀粒子の合計質量100質量部に対し、前記白金粒子が10~90質量部含まれる、項2に記載の化粧料組成物。
項4
前記複合粒子は、10~500nmの平均粒子径を有する、項1~3のいずれか1項に記載の化粧料組成物。
項5
前記複合粒子は、水系溶媒に分散している、項1~4のいずれか1項に記載の化粧料組成物。
項6
前記複合粒子は、前記水系溶媒の全質量に対して1~500質量ppm含まれる、項5に記載の化粧料組成物。
項7
項1~6のいずれか1項に記載の化粧料組成物を含む化粧料。
項8
項1~6のいずれか1項に記載の化粧料組成物の製造方法であって、
複合粒子を調製する工程を備え、
前記複合粒子は、白金粒子の前駆体と銀粒子の前駆体とを混合することで得られる、製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る化粧料組成物によれば、白金及び銀を含む複合粒子を含むことで、抗酸化性及び防腐性能に優れ、しかも、優れた抗炎症作用をもたらすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の化粧料組成物に含まれる複合粒子のTEM画像である。
【
図2】抗炎症作用の評価試験の結果を示すグラフである。
【
図3】三次元培養表皮に対する抗炎症性試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0013】
本発明の化粧料組成物は、少なくとも白金及び銀を含む複合粒子を含有する。以下、該複合粒子を「複合粒子A」と表記する。
【0014】
複合粒子Aは、白金及び銀を含む限り、その種類及び形態等は特に限定されない。例えば、複合粒子Aとしては、多数の粒子が凝集して形成される粒子(以下、「凝集粒子」と表記する)を挙げることができる。
【0015】
より具体的には、複合粒子Aは、白金粒子及び銀粒子が凝集して形成される凝集粒子、白金と銀とを含有する粒子が凝集して形成される凝集粒子、白金及び銀の合金粒子が凝集して形成される凝集粒子を挙げることができる。
【0016】
これらの凝集粒子のうち、複合粒子Aは、白金粒子及び銀粒子が凝集して形成される凝集粒子であることが好ましい。この場合、複合粒子Aの製造が容易である上、化粧料組成物は、より優れた抗酸化性、防腐性能及び抗炎症作用を発揮することができる。
【0017】
前記白金粒子は、白金(Pt)を構成成分とする。白金粒子としては、通常は、白金元素で形成されるが、白金の酸化物等の白金化合物が含まれていてもよい。その他、白金粒子は、白金と他の金属元素との合金が含まれていてもよい。
【0018】
前記銀粒子は、銀(Ag)を構成成分とする。銀粒子としては、通常は、銀元素で形成されるが、銀の酸化物等の銀酸化物が含まれていてもよい。その他、銀粒子は、銀と他の金属元素との合金が含まれていてもよい。
【0019】
複合粒子Aの形態が前記凝集粒子である場合、その凝集形態は特に限定されない。例えば、凝集粒子は、多数の粒子(一次粒子)それぞれが規則的又は不規則的に凝集して、いわゆる二次粒子を形成し得る。
【0020】
凝集粒子は、例えば、同じような形状の粒子どうしが互いに凝集することで形成されてもよいし、あるいは、コア粒子の表面を他の粒子が覆った構造を有する、いわゆるコアシェル構造を有することもできる。この場合、コア粒子は一つの粒子のみで形成されてもよいし、あるいは、複数の粒子の集合体であってよい。製造が容易で、かつ、優れた抗酸化性、防腐性能及び抗炎症作用を発揮しやすいという点で、凝集粒子は、コアシェル構造を有していることが好ましい。
【0021】
凝集粒子がコアシェル構造を有する場合、コアを形成する粒子(コア粒子)は、白金粒子及び銀粒子のいずれであってもよいし、コア粒子は白金粒子及び銀粒子の両方を含むこともできる。シェルを形成する粒子(シェル粒子)も、白金粒子及び銀粒子のいずれであってもよいし、シェル粒子は白金粒子及び銀粒子の両方を含むこともできる。凝集粒子がコアシェル構造を有する場合においてコア粒子が一つの粒子のみで形成される場合は、通常、コア粒子のサイズの方がシェル粒子のサイズよりも大きい。
【0022】
コアシェル構造を有する凝集粒子は、一例として、コア粒子を銀粒子、シェル粒子を白金粒子とすることができ、もちろん、その逆とすることも可能である。
【0023】
複合粒子Aの平均粒子径は特に限定されない。例えば、複合粒子Aが後記する水系溶媒に分散しやすく、また、より優れた抗酸化性、防腐性能及び抗炎症作用を発揮しやすくなるという点で、複合粒子Aの平均粒子径は10~500nmであることが好ましい。複合粒子Aの平均粒子径の下限は20nmであることがより好ましく、30nmであることが特に好ましい。また、複合粒子Aの平均粒子径の上限は300nmであることがより好ましく、200nmであることが特に好ましい。なお、本明細書でいう複合粒子Aの平均粒子径とは、ゼータ電位測定装置(ゼータサイザーナノZS90、Malvern社製)で測定した値をいう。
【0024】
複合粒子Aが、白金粒子と銀粒子とを含む場合、白金粒子と銀粒子それぞれの平均粒子径も特に限定されない。例えば、白金粒子の平均粒子径は、10~200nmとすることができ、銀粒子の平均粒子径は、20~480nmとすることができる。なお、本明細書でいう白金粒子及び銀粒子の平均粒子径とは、透過型電子顕微鏡(TEM)による直接観察によって無作為に50個の粒子を選択し、これらの円相当径を計測して算術平均した値をいう。
【0025】
複合粒子Aの形状(平面視形状)は特に限定的ではなく、球状粒子、楕円球状粒子、不定形粒子、多角状粒子、繊維状粒子、針状粒子、フレーク状粒子、多孔質粒子等が例示される。なお、白金粒子及び銀粒子は、凝集した状態であってもよい。
【0026】
また、複合粒子Aが、白金粒子と銀粒子とを含む場合、白金粒子及び銀粒子の形状は特に限定的ではなく、球状粒子、楕円球状粒子、不定形粒子、多角状粒子、繊維状粒子、針状粒子、フレーク状粒子、多孔質粒子等が例示される。なお、白金粒子及び銀粒子は、凝集した状態であってもよい。
【0027】
複合粒子Aにおいて、白金と銀との含有割合は特に限定されず、種々の含有割合にて白金と銀とを含むことができる。例えば、化粧料組成物が優れた抗酸化性、防腐性能及び抗炎症作用を発揮しやすくなるという点で、複合粒子Aにおける白金と銀との質量合計を100とした場合、白金は、5以上、好ましくは10以上、更に好ましくは20以上、特に好ましくは30以上とすることができ、また、複合粒子Aにおける白金と銀との質量合計を100とした場合、白金は、95以下、好ましくは90以下、更に好ましくは80以下、特に好ましくは70以下とすることができる。
【0028】
複合粒子Aは、白金と銀のみで形成することがき、必要に応じて他の金属等の成分が含むこともできる。複合粒子Aの全質量のうち白金及び銀の総量が80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが特に好ましい。
【0029】
複合粒子Aが、白金粒子と銀粒子とを含む場合、白金粒子と銀粒子との含有割合は特に限定されず、種々の含有割合にて白金粒子と銀粒子とを含むことができる。例えば、化粧料組成物が優れた抗酸化性、防腐性能及び抗炎症作用を発揮しやすくなるという点で、複合粒子Aに含まれる白金粒子と銀粒子との質量合計を100とした場合、白金粒子は、5以上、好ましくは10以上、更に好ましくは20以上、特に好ましくは30以上とすることができ、また、複合粒子Aにおける白金粒子と銀粒子との質量合計を100とした場合、白金粒子は、95以下、好ましくは90以下、更に好ましくは80以下、特に好ましくは70以下とすることができる。
【0030】
化粧料組成物は、複合粒子Aの他、水系溶媒を含むことができる。この場合、化粧料組成物は、例えば、複合粒子Aが水系溶媒に分散した分散液である。
【0031】
水系溶媒としては特に限定されず、例えば、水、炭素数1~3等の低級アルコール、あるいは、これらの混合溶媒が挙げられる。水は、蒸留水、水道水、工業用水、イオン交換水、脱イオン水、純水、電解水などの各種の水を用いることができる。複合粒子Aの分散安定性が良好であり、化粧品としての安全性も高いという観点から、水系溶媒は水を90質量%以上含むことが好ましく、水を99質量%以上含むことが特に好ましい。
【0032】
化粧料組成物が分散液である場合、分散液中に含まれる複合粒子Aの含有量は、本発明の効果が阻害されない限り、特に限定されない。例えば、複合粒子Aは、水系溶媒の全質量に対して1~500質量ppm含まれることが好ましい。この場合、化粧料組成物が優れた抗酸化性、防腐性能及び抗炎症作用を発揮しやすくなる。複合粒子Aは、水系溶媒の全質量に対して10質量ppm以上含まれることが特に好ましく、また、複合粒子Aは、水系溶媒の全質量に対して200質量ppm以下含まれることが特に好ましい。
【0033】
化粧料組成物が分散液である場合、分散液のpHは特に限定されない。複合粒子Aの分散安定性が良好となりやすいという点で、分散液のpHは3~7であることが好ましく、3.5~6であることがさらに好ましく、3.5~4.5であることが特に好ましい。
【0034】
化粧料組成物は、必要に応じて、各種添加剤を含むことができる。添加剤の種類は特に限定されず、本発明の効果が阻害されない限り、公知の化粧料組成物において使用されている添加剤を広く適用することができる。添加剤としては、例えば、pH調整剤、酸化防止剤、光安定剤、消泡剤、分散安定剤、滑剤等が例示される。
【0035】
pH調整剤としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、乳酸、酢酸、クエン酸等の酸、及び、これらの酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等を挙げることができる。また、pH調整剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、トリエチルアミン、トリメチルアミン、アンモニア等の塩基であってもよい。これらのpH調整剤は、1種を単独で使用でき、又は必要に応じて2種以上を混合して使用することができる。
【0036】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤等が挙げられる。フェノール系酸化防止剤としては、具体的には、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)等が挙げられる。また、アミン系酸化防止剤としては、具体的には、アルキルジフェニルアミン、N,N’-ジ-s-ブチル-p-フェニレンジアミン等が挙げられる。これらの酸化防止剤は、1種を単独で使用でき、又は必要に応じて2種以上を混合して使用することができる。
【0037】
光安定剤としては、例えば、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート等のヒンダードアミン系光安定剤等が挙げられる。光安定剤は、1種を単独で使用でき、又は必要に応じて2種以上を混合して使用することができる。
【0038】
消泡剤としては、例えば、シリコーン系消泡剤、有機系消泡剤等が挙げられる。有機系消泡剤としては、具体的には、界面活性剤、ポリエーテル、高級アルコール等が挙げられる。消泡剤は、1種を単独で使用でき、又は必要に応じて2種以上を混合して使用することができる。
【0039】
化粧料組成物が複合粒子A以外に添加剤を含む場合、添加剤の含有量は、複合粒子Aと水系溶媒の全質量に対して5質量%以下、好ましくは1質量%以下、より好ましくは、0.1質量%以下、特に好ましくは0.05質量%以下とすることができる。
【0040】
本発明の化粧料組成物の製造方法は特に限定されない。具体的に化粧料組成物は、複合粒子Aを調製する工程を備える方法により、製造することができる。
【0041】
複合粒子Aを調製する方法は特に限定されない。例えば、白金粒子と銀粒子とを含む複合粒子Aは、白金粒子と銀粒子とを準備し、これらを混合して凝集させる方法(以下、「製造方法1」という)により製造することができる。製造方法1においては、原料として使用する白金粒子及び銀粒子はいずれも公知の方法で製造することができ、また、混合方法及び凝集方法も公知の方法を広く採用することができる。製造方法1では、複合粒子Aは前記凝集粒子として得られる。
【0042】
あるいは、白金粒子と銀粒子とを含む複合粒子Aは、白金粒子の前駆体と銀粒子の前駆体とを混合する方法(以下、「製造方法2」という)により製造することもできる。製造方法2においても、複合粒子Aは前記凝集粒子として得られる。
【0043】
得られる化粧料組成物が優れた抗酸化性、防腐性能及び抗炎症作用を発揮しやすくなるという観点から、複合粒子Aは、製造方法2によって製造することが好ましい。
【0044】
製造方法2において、白金粒子の前駆体とは、例えば、白金を含む化合物であり、化学処理をすることで、白金粒子を形成することができる化合物を意味する。同様に、銀粒子の前駆体とは、例えば、銀を含む化合物であり、化学処理をすることで、銀粒子を形成することができる化合物を意味する。
【0045】
白金粒子の前駆体としては、例えば、白金錯体を挙げることができる。
【0046】
白金錯体は、例えば、白金源を錯化することで得ることができる。白金源としては、例えば、白金の酸化物、水酸化物、塩化物、炭酸塩、酢酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、リン酸塩、クロリド錯体等が例示される。白金源の錯化処理は、例えば、各種有機塩を使用し、該有機塩を白金源と反応させることで行うことができる。中でも、有機塩としてはクエン酸三ナトリウムを使用することが好ましい。クエン酸三ナトリウムは水和物であってもよい。白金源の錯化は、例えば、水中で行うことができる。
【0047】
白金源を錯化処理するにあたり、白金源と有機塩との使用割合は特に限定されない。例えば、白金源に含まれる白金1モルに対し、有機塩1~5モル用いて白金源を錯化処理することができる。
【0048】
銀粒子の前駆体としては、例えば、銀錯体を挙げることができる。
【0049】
銀錯体は、例えば、銀源を錯化することで得ることができる。銀源としては、例えば、銀の酸化物、水酸化物、塩化物、炭酸塩、酢酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、リン酸塩等が例示される。銀源の錯化処理は、例えば、各種有機塩を使用し、該有機塩を銀源と反応させることで行うことができる。中でも、有機塩としてはクエン酸三ナトリウムを使用することが好ましい。クエン酸三ナトリウムは水和物であってもよい。銀源の錯化は、例えば、水中で行うことができる。
【0050】
銀源を錯化処理するにあたり、銀源と有機塩との使用割合は特に限定されない。例えば、銀源に含まれる白金1モルに対し、有機塩1~5モル用いて銀源を錯化処理することができる。
【0051】
製造方法2において、白金粒子の前駆体と銀粒子の前駆体とを混合する方法は特に限定されない。例えば、白金粒子の前駆体の水溶液と、銀粒子の前駆体の水溶液とを混合する方法を挙げることができる。水溶液どうしを混合する場合、例えば、一方の水溶液に他方の水溶液を滴下する滴下方式を採用することができる。この滴下方式の場合、例えば、前述のコアシェル構造を有する凝集粒子が形成されやすい。滴下の方法は特に限定されず、例えば、市販の滴下用器具、滴下ポンプ等を使用することができる。
【0052】
白金粒子の前駆体と銀粒子の前駆体とを混合するにあたって、混合時の温度も特に限定されず、例えば、室温、具体的には15~35℃とすることができる。
【0053】
白金粒子の前駆体と銀粒子の前駆体とを混合するにあたって、両者の混合割合も特に限定されず、得られる複合粒子Aにおいて、白金粒子と銀粒子とが所望の含有割合になるように、白金粒子の前駆体の使用量と銀粒子の前駆体の使用量を適宜調節することができる。
【0054】
製造方法2において、白金粒子の前駆体と銀粒子の前駆体とを混合することで、白金粒子と銀粒子がそれぞれ生成し、互いの粒子が凝集して凝集粒子が形成され、複合粒子Aが得られる。
【0055】
また、白金粒子の前駆体と銀粒子の前駆体とを混合して混合液を得た後、さらに該混合液に酸を添加することもできる。この酸の添加によって、混合液のpHが適切に調節され、これにより粒子の生成が促進されて複合粒子Aを容易、かつ、速やかに得ることができる。
【0056】
前記混合液に加える酸としては、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸;酢酸、クエン酸、コハク酸等の有機酸等を挙げることができる。これらの中でも、生成後の複合粒子Aの分散安定性が良好であるという観点から、有機酸を使用することが好ましく、クエン酸を使用することが特に好ましい。
【0057】
酸を添加することにより、前記混合液のpHを3~7に、好ましくは3.5~6に、より好ましくは3.5~4.5に調節することが好ましい。この場合、複合粒子Aが生成しやすく、生成後の複合粒子Aは分散安定性にも優れる。酸の添加方法は特に制限されず、例えば、酸を水溶液にして前記混合液に添加することができる。
【0058】
本発明の化粧料組成物は、白金及び銀を含む複合粒子を含むことで、抗酸化性及び防腐性能に優れ、しかも、優れた抗炎症作用をもたらすことができる。特に本発明では、白金単独あるいは銀単独と比較しても優れた抗酸化性、防腐性能及び抗炎症作用を発揮することができ、白金及び銀を含む複合粒子によって、それぞれ単独で使用した場合よりも相乗的に効能が向上する。また、単に白金粒子と銀粒子とを混合した混合物(つまり、複合化されていない白金粒子及び銀粒子の組合せ)に比べても、本発明の化粧料組成物は、優れた抗酸化性、防腐性能及び抗炎症作用を発揮することができる。従って、単純な粒子どうしの混合(例えば、白金粒子及び銀粒子が互いに凝集して複合化せずに、単独で存在した状態)では発現できない作用を、本発明の化粧料組成物は発揮することができる。
【0059】
本発明の化粧料組成物は、各種化粧品に含まれる化粧料に使用することができる。化粧料は、本発明の化粧料組成物が含まれることにより、抗酸化性及び防腐性能に優れ、しかも、優れた抗炎症作用をもたらすことができる。
【0060】
化粧料において、化粧料組成物の含有量は特に限定されず、化粧料が使用される用途に応じて適宜の割合で配合することができる。
【0061】
化粧料は、抗酸化性、防腐性能及び抗炎症作用に優れる本発明の化粧料組成物を含有することから、各種化粧品に応用することができ、特にヒトの皮膚に塗布するような用途への使用に好適である。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0063】
(実施例1)
硝酸銀0.104gと、クエン酸三ナトリウム二水和物0.130gとを980mLのイオン交換水(25℃)に溶解させ、30分間撹拌し、銀錯体を含む水溶液を調製した。このように得られた銀錯体を銀粒子の前駆体とした。
【0064】
また、塩化白金(II)酸カリウム0.213gと、クエン酸三ナトリウム二水和物0.130gとを、20mLのイオン交換水(25℃)に溶解させ、30分間撹拌し、白金錯体を含む水溶液を調製した。このように得られた白金錯体を白金粒子の前駆体とした。
【0065】
次いで、白金錯体を含む水溶液の全量を、60分かけて銀錯体を含む水溶液に攪拌しながら滴下し、滴下終了後、さらに60分間撹拌を続け、混合液を得た。得られた混合液に、50%クエン酸水溶液を約0.6mL滴下することで混合液のpHを4に調整し、さらに60分間撹拌することで、白金粒子と銀粒子とを含む複合粒子の水分散液を得た。得られた複合粒子の平均粒子径をゼータ電位測定装置(ゼータサイザーナノZS90、Malvern社製)で測定したところ、100nmであり、白金粒子と銀粒子の質量比率は6:4であった。また、水分散液において、水に対する複合粒子の含有量は、ICP-MS(パーキンエルマー社製ElanDRCII)で確認したところ、166質量ppmであった。
【0066】
(比較例1)
0.354gの塩化白金酸カリウム(K2PtCl4)を50mLの純水に溶解して、塩化白金酸カリウム水溶液を調製した。別途、0.215gのクエン酸ナトリウムを50mLの純水に溶解し、クエン酸ナトリウム水溶液を調製した。上記の塩化白金酸カリウム水溶液50mLを900mLの純水に加えた後、上記のクエン酸ナトリウム水溶液50mLを加え、約5分間100rpmで撹拌して反応させた。その後、50%クエン酸水溶液約1.0mL滴下することで液のpHを4に調整し、さらに60分間撹拌することで、白金粒子を含む水分散液を得た。ゼータ電位測定装置で測定した白金粒子の粒子径は100nmであった。また、TEM/EDS(HITACHI H-7100、加速電圧100kV)にて測定した白金粒子中の白金の純度は100%であった。上記方法で得られた分散液の白金濃度をICP-MSで確認したところ、白金粒子濃度は166質量ppmであった。この分散液を用いた各種試験においては、水で希釈して白金粒子濃度を100ppmとした分散液を用いた。
【0067】
(比較例2)
0.262gの硝酸銀(AgNO3)を50mLの純水に溶解して硝酸銀水溶液を調製した。別途、0.215gのクエン酸ナトリウムを50mLの純水に溶解し、クエン酸ナトリウム水溶液を調製した。上記の硝酸銀水溶液50mLを900mLの純水に加えた後、上記のクエン酸ナトリウム水溶液を50mL加え、約5分間100rpmで撹拌して反応させた。その後、50%クエン酸水溶液約1.0mL滴下することで液のpHを4に調整し、さらに60分間撹拌することで、銀粒子を含む水分散液を得た。ゼータ電位測定装置で測定した粒子径は100nmであった。また、TEM/EDSにて測定した銀粒子中の銀の純度は100%であった。上記方法で得られた分散液の銀粒子濃度をICP-MSで確認したところ、銀粒子濃度は166質量ppmであった。この分散液を用いた各種試験においては、水で希釈して銀粒子濃度を66ppmとした分散液を用いた。
【0068】
(比較例3)
比較例1の白金粒子の水分散液と、比較例2の銀粒子の水分散液とを、白金粒子と銀粒子の質量比率が6:4となるように混合した。この場合、白金濃度は100ppm、銀濃度は66ppmとなった。
【0069】
<評価方法>
(抗酸化性)
50μmol/Lの2,6-ジクロロフェノールインドフェノール(DCIP)水溶液と、35mmol/Lのクエン酸三ナトリウム水溶液とを等量混合してブランク液を準備した。このブランク液に、各実施例及び比較例で得た分散液を任意の量で滴下してサンプル液を調整し、該サンプル液の600nmにおける吸光度を測定した。この吸光度測定は、日本分光株式会社製の紫外可視分光光度計「V-650」を使用した。得られた吸光度から、前記ブランク液の吸光度(0.16)を基準とした低下率を計算し、この計算値から抗酸化性を評価した。
【0070】
(抗炎症性)
(1)正常ヒト表皮細胞をHuMedia-KG2培地を用いて、マイクロプレートに5.0×104の細胞密度にて播種した。
(2)播種24時間後、培地を、各実施例及び比較例で調製した分散液を所定量(2.5質量%及び5質量%のいずれか)含むHuMedia-KG2培地に交換し、引き続き24時間培養を続けた。
(3)この培養後、培地をHank’s緩衝液に交換し、UVBを25mJ/cm2にて細胞に照射した。
(4)この照射後、培地を、各実施例及び比較例で調製した分散液を所定量(2.5質量%及び5質量%のいずれか)含むHuMedia-KG2培地に交換し、さらに24時間培養した。
(5)培養後の培地中のマーカー物質(IL-1α)を市販のキット(IL-1α、Human,ELISA,kit(R&Dsystems))を用いて定量し、抗炎症性を評価した。
【0071】
(抗菌性)
(1)綿100%の標準白布0.4gに対し、各実施例及び比較例で調製した分散液0.2mLを含浸した。
(2)次いで、1/10濃度ニュートリエントブロスにて調製した黄色ブドウ球菌懸濁液0.2mLを接種し、菌数を計数した。
(3)その後、18時間培養し、菌数を計数した。各実施例及び比較例で調製した分散液の代わりに蒸留水を含浸したものを対照試料として、(3)の菌数について対照試料との差を抗菌活性値とした。
【0072】
<評価結果>
図1(a)は、実施例1で得られた分散液中の複合粒子のTEM画像を示している。また、比較として、
図1(b)及び(c)にはそれぞれ、比較例1の白金粒子及び比較例2の銀粒子のTEM画像を示している。
【0073】
図1(a)に示すTEM画像から、実施例1で得られた分散液中の複合粒子は、凝集粒子を形成していることがわかり、特に、複合粒子は、コアシェル構造を有する粒子であることがわかった。TEM画像に示されている各粒子の成分分析をエネルギー分散形X線分光法(EDS)によって行ったところ、コアシェル構造において、コアが銀粒子、シェルが白金粒子で形成されていることもわかった。なお、この成分分析では、TEM/EDS(HITACHI H-7100、加速電圧100kV)を使用した。
【0074】
表1は抗酸化性及び抗菌性評価の結果を示している。
【0075】
【0076】
表1に示すように、実施例1で得られた分散液は、比較例1~3で得られた分散液よりも吸光度減少率が大きいことから、高い抗酸化性を有していることがわかった。特に、実施例1のように白金粒子と銀粒子とが複合化されている複合粒子では、比較例3の白金粒子と銀粒子との混合物に比べても優れた抗酸化性を有していることがわかった。
【0077】
また、表1に示すように、実施例1で得られた分散液は、比較例1~3で得られた分散液よりも抗菌活性値が大きいことから、高い抗菌性を有していることがわかった。特に、実施例1のように白金粒子と銀粒子とが複合化されている複合粒子では、比較例3の白金粒子と銀粒子との混合物に比べても優れた抗菌性を有していることがわかった。
【0078】
図2は、抗炎症作用の評価試験の結果を示している。まず、実施例1の分散液を使用せずに細胞を培養した場合、マーカー物質(IL-1α)は約0.5(pg/μg-タンパク)であり、さらに紫外線を照射すると約1.3(pg/μg-タンパク)まで上昇した。これは、紫外線照射により、さらに炎症が起こりやすいことを示している。
【0079】
これに対し、実施例1で得られた分散液を2.5%添加した場合、UV照射したにもかかわらず、マーカー物質は約0.35(pg/μg-タンパク)であった。また、実施例1で得られた分散液を5%添加した場合、UV照射したにもかかわらず、マーカー物質は約0.1(pg/μg-タンパク)であった。いずれも実施例1の分散液を使用せずに細胞を培養した場合に比べて低い値を示した。しかも、いずれの添加量においても、UV未照射である場合の値0.5(pg/μg-タンパク)よりも小さい値を示すことがわかった。この結果から、実施例1で得られた分散液が優れた抗炎症性を有していることが明らかとなった。
【0080】
(三次元培養表皮に対する抗炎症性試験)
三次元培養表皮を対象基材として、白金及び銀を含む複合粒子を含有する化粧料組成物(以下、試験用サンプルと表記)の抗炎症作用を以下の手順で評価した。
(1)PBS(-)(Ca及びMg非含有リン酸緩衝生理食塩水)を用いて、実施例1で得られた分散液の濃度が1質量%及び10質量%になるように希釈した。次いで、0.45μmフィルターを通して滅菌することにより、分散液濃度が1質量%及び10質量%である試験用サンプルを準備した。
(2)三次元培養表皮(LabCyte EPI-MODEL 24、6.4mmφ)の角層側から1%または10%の濃度に調製した試験用サンプルを50μL添加し、24時間培養した(表皮モデル付属のアッセイ培地を使用し、500μLとした)。
(3)試験用サンプルを除去した後、PBS(-)を用いて角層表面を洗浄し、600mJ/cm2のUV-Bを角層表面に照射した。
(4)再度、角層側から1質量%または10質量%の濃度に調製した試験用サンプルを50μL添加し、新鮮な培地500μLのもとで24時間培養した。
(5)培養上清を回収し、ELISA法(市販キット(IL-1α、Human、ELISA kit(R&Dsystems))によってIL-1α量を定量した。なお、Alamar blue assayによって細胞生存率を評価し、UV-B照射及び試験用サンプル添加によって細胞数に影響がないことは事前に確認した。
【0081】
【0082】
表2及び
図2には、三次元培養表皮に対する抗炎症性試験の結果を示している。また、比較として、複合粒子を含まない試験用サンプル(つまり、複合粒子濃度が0%であるサンプル)の結果も表2に示している。
【0083】
表2及び
図2から、三次元培養表皮の角層上に1%質量ないし10質量%の試験用サンプルを添加することで、1L-1αを有意に減少させることができた。
【0084】
以上の三次元培養表皮に対する抗炎症性試験結果から、実使用により近い皮膚に化粧料組成物を塗布した場合であっても、表皮細胞における炎症因子の抑制作用が発揮されるものと認められる。