(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】油性インクジェットインク、油性インクジェットインクの製造方法及び分散剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/36 20140101AFI20230904BHJP
C09D 11/326 20140101ALI20230904BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20230904BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20230904BHJP
【FI】
C09D11/36
C09D11/326
B41M5/00 120
B41J2/01 501
(21)【出願番号】P 2019198312
(22)【出願日】2019-10-31
【審査請求日】2022-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】北ノ原 光子
(72)【発明者】
【氏名】志村 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】江▲崎▼ 直史
(72)【発明者】
【氏名】大澤 信介
(72)【発明者】
【氏名】白石 哲也
(72)【発明者】
【氏名】浜田 司
【審査官】本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-172956(JP,A)
【文献】特開2008-025023(JP,A)
【文献】特開2020-122072(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-11/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と、
酸性樹脂、低分子アミン化合物、及び、下記一般式(1)で表される基及び下記一般式(2)で表される基からなる群から選択される少なくとも1つの基を含む(メタ)アクリル系樹脂によって形成される分散剤と、
非水系溶剤とを含む、油性インクジェットインク。
【化1】
(一般式(1)において、R
1及びR
2はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、R
1とR
2とは互いに結合して環を形成していてもよい。一般式(2)において、R
3は置換基を表し、R
4は水素原子又は置換基を表し、R
3とR
4とは互いに結合して環を形成していてもよい。)
【請求項2】
前記低分子アミン化合物は、アルカノールアミンを含む、請求項1に記載の油性インクジェットインク。
【請求項3】
前記酸性樹脂は、酸性(メタ)アクリル系樹脂及び酸性ウレタン系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の油性インクジェットインク。
【請求項4】
前記酸性樹脂は、酸性ウレタンウレア系樹脂を含む、請求項3に記載の油性インクジェットインク。
【請求項5】
非水系溶剤、及び下記一般式(1)で表される基及び下記一般式(2)で表される基からなる群から選択される少なくとも1つの基を含む(メタ)アクリル系樹脂を含む連続相と、水、酸性水分散性樹脂及び低分子アミン化合物を含む分散相とを含む油中水型エマルションを得る工程と、
前記油中水型エマルションから水を除去し、分散剤分散体を得る工程と、
前記分散剤分散体と顔料とを混合し、顔料を分散する工程とを含む、
油性インクジェットインクの製造方法。
【化2】
(一般式(1)において、R
1及びR
2はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、R
1とR
2とは互いに結合して環を形成していてもよい。一般式(2)において、R
3は置換基を表し、R
4は水素原子又は置換基を表し、R
3とR
4とは互いに結合して環を形成していてもよい。)
【請求項6】
非水系溶剤、及び下記一般式(1)で表される基及び下記一般式(2)で表される基からなる群から選択される少なくとも1つの基を含む(メタ)アクリル系樹脂を含む連続相と、水、酸性水分散性樹脂及び低分子アミン化合物を含む分散相とを含む油中水型エマルションを得る工程と、
前記油中水型エマルションから水を除去する工程とを含む、
分散剤の製造方法。
【化3】
(一般式(1)において、R
1及びR
2はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、R
1とR
2とは互いに結合して環を形成していてもよい。一般式(2)において、R
3は置換基を表し、R
4は水素原子又は置換基を表し、R
3とR
4とは互いに結合して環を形成していてもよい。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、油性インクジェットインク、油性インクジェットインクの製造方法及び分散剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、流動性の高いインクジェットインクを微細なノズルから液滴として噴射し、ノズルに対向して置かれた記録媒体に画像を記録するものであり、低騒音で高速印字が可能であることから、近年急速に普及している。このようなインクジェット記録方式に用いられるインクとして、水を主溶媒として含有する水性インク、重合性モノマーを主成分として高い含有量で含有する紫外線硬化型インク(UVインク)、ワックスを主成分として高い含有量で含有するホットメルトインク(固体インク)とともに、非水系溶剤を主溶媒として含有する、いわゆる非水系インクが知られている。非水系インクは、主溶媒が揮発性有機溶剤であるソルベントインク(溶剤系インク)と、主溶媒が低揮発性あるいは不揮発性の有機溶剤である油性インク(オイル系インク)に分類できる。ソルベントインクは主に有機溶剤の蒸発によって記録媒体上で乾燥するのに対して、油性インクは記録媒体への浸透が主となって乾燥する。
【0003】
特許文献1には、リン酸エステル化固体樹脂及び/または硝酸エステル化固体樹脂を含む着色樹脂粒子を含む着色樹脂粒子分散体、及びそれを含むインクジェットインクが開示されている。
特許文献2には、固体樹脂と酸性基を有する液体有機化合物とを含む着色樹脂粒子を含む着色樹脂粒子分散体、及びこれを含むインクジェットインクが開示されている。
特許文献3には、ウレタン化合物を含むカプセル化顔料、及び非水系溶剤を含み、ウレタン化合物は、ウレタン骨格及びカルボキシ基等を含む側鎖を有し、前記非水系溶剤に不溶性の化合物である、油性インクジェットインクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-134850号公報
【文献】特開2015-134852号公報
【文献】特開2018-48293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インク経路中のインクに送液ポンプにより摺動がかかった場合等、インクが外部から力を受けた場合に凝集物が発生することがある。
本発明の実施形態は、凝集物を生じにくい油性インクジェットインクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態は、顔料と、酸性樹脂、低分子アミン化合物、及び下記一般式(1)で表される基及び下記一般式(2)で表される基からなる群から選択される少なくとも1つの基を含む(メタ)アクリル系樹脂によって形成される分散剤と、非水系溶剤とを含む、油性インクジェットインクに関する。
【0007】
【0008】
一般式(1)において、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、R1とR2とは互いに結合して環を形成していてもよい。一般式(2)において、R3は置換基を表し、R4は水素原子又は置換基を表し、R3とR4とは互いに結合して環を形成していてもよい。
【0009】
本発明の他の実施形態は、非水系溶剤、及び下記一般式(1)で表される基及び下記一般式(2)で表される基からなる群から選択される少なくとも1つの基を含む(メタ)アクリル系樹脂を含む連続相と、水、酸性水分散性樹脂及び低分子アミン化合物を含む分散相とを含む油中水型エマルションを得る工程と、前記油中水型エマルションから水を除去し、分散剤分散体を得る工程と、前記分散剤分散体と顔料とを混合し、顔料を分散する工程とを含む、油性インクジェットインクの製造方法に関する。
【化2】
(一般式(1)において、R
1及びR
2はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、R
1とR
2とは互いに結合して環を形成していてもよい。一般式(2)において、R
3は置換基を表し、R
4は水素原子又は置換基を表し、R
3とR
4とは互いに結合して環を形成していてもよい。)
【0010】
本発明の他の実施形態は、非水系溶剤、及び下記一般式(1)で表される基及び下記一般式(2)で表される基からなる群から選択される少なくとも1つの基を含む(メタ)アクリル系樹脂を含む連続相と、水、酸性水分散性樹脂及び低分子アミン化合物を含む分散相とを含む油中水型エマルションを得る工程と、前記油中水型エマルションから水を除去する工程とを含む、分散剤の製造方法に関する。
【0011】
【0012】
一般式(1)において、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、R1とR2とは互いに結合して環を形成していてもよい。一般式(2)において、R3は置換基を表し、R4は水素原子又は置換基を表し、R3とR4とは互いに結合して環を形成していてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の実施形態によれば、凝集物を生じにくい油性インクジェットインクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を説明するが、以下の実施形態が本発明を限定することはない。
以下、油性インクジェットインクを、「インク」又は「油性インク」という場合がある。
【0015】
本発明の一実施形態の油性インクジェットインクは、顔料と、酸性樹脂、低分子アミン化合物、及び下記一般式(1)で表される基及び下記一般式(2)で表される基からなる群から選択される少なくとも1つの基を含む(メタ)アクリル系樹脂によって形成される分散剤(以下、単に「分散剤」という場合もある。)と、非水系溶剤とを含む、油性インクジェットインクである。
【0016】
【0017】
一般式(1)において、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、R1とR2とは互いに結合して環を形成していてもよい。一般式(2)において、R3は置換基を表し、R4は水素原子又は置換基を表し、R3とR4とは互いに結合して環を形成していてもよい。
以下、下記一般式(1)で表される基及び下記一般式(2)で表される基からなる群から選択される少なくとも1つの基を含む(メタ)アクリル系樹脂を、「(メタ)アクリル系樹脂A」という場合がある。
【0018】
インクにおいて、遊離の酸性基を有する化合物が顔料周辺に存在すると、顔料の凝集力が高まる傾向があり、このようなインクは、摺動等の外部からの力を受けると、凝集物を生じやすい傾向がある。本実施形態の油性インクジェットインクは、酸性樹脂、低分子アミン化合物、及び(メタ)アクリル系樹脂Aによって形成される分散剤を用いることで、摺動等の外部からの力を受けても凝集物を生じにくいインクとすることができる。特定の理論に拘束されるものではないが、この理由は、この分散剤では、酸性樹脂の酸性基に、低分子アミン化合物の塩基性基が結合するか、又は、一般式(1)で表される基及び一般式(2)で表される基からなる群から選択される少なくとも1つの基が酸性基と親和することで、遊離の酸性基の量を低減し、顔料を凝集させにくくすることができるためであると推測される。
【0019】
本実施形態の油性インクジェットインクの製造方法はとくに限定されないが、例えば、後述する、油中水(W/O)型エマルションの油中乾燥法を用いた方法で製造することができる。
【0020】
油性インクジェットインクは、顔料を含むことができる。
【0021】
顔料としては、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、多環式顔料、染付レーキ顔料等の有機顔料、及び、カーボンブラック、金属酸化物等の無機顔料を用いることができる。
アゾ顔料としては、溶性アゾレーキ顔料、不溶性アゾ顔料及び縮合アゾ顔料等が挙げられる。フタロシアニン顔料としては、金属フタロシアニン顔料及び無金属フタロシアニン顔料等が挙げられる。多環式顔料としては、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキサジン系顔料、チオインジゴ系顔料、アンスラキノン系顔料、キノフタロン系顔料、金属錯体顔料及びジケトピロロピロール(DPP)等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスカーボンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。金属酸化物としては、酸化チタン、酸化亜鉛等が挙げられる。これらの顔料は単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
高彩度の印刷物を得ることができる観点から、シアンインクは、銅フタロシアニンブルーを含むことが好ましい。イエローインクは、モノアゾイエロー、ジスアゾイエロー、ベンズイミダゾロンイエローのうちいずれかを含むことが好ましく、ジスアゾイエローを含むことがより好ましい。マゼンタインクは、アゾレーキレッド、ナフトールAS、ベンズイミダゾロンレッド、キナクリドンマゼンタのうちいずれかを含むことが好ましく、アゾレーキレッドを含むことがより好ましい。
【0022】
顔料の分散形態は、例えば、顔料と分散剤とを含む着色樹脂粒子が形成されて、この着色樹脂粒子が分散した形態であってよい。顔料と分散剤とを含む着色樹脂粒子は、例えば、顔料が分散剤で被覆された、いわゆるカプセル顔料であってもよい。
【0023】
顔料の平均粒子径としては、吐出安定性と貯蔵安定性の観点から、300nm以下であることが好ましく、より好ましくは200nm以下である。
顔料は、インク全量に対し、通常0.01~20質量%であり、画像濃度とインク粘度の観点から、1~15質量%であることが好ましい。
【0024】
油性インクジェットインクは、酸性樹脂、低分子アミン化合物、及び(メタ)アクリル系樹脂Aによって形成される分散剤を含むことができる。この分散剤は、少なくとも酸性樹脂、低分子アミン化合物、及び(メタ)アクリル系樹脂Aを用いて形成されるものであればよく、酸性樹脂、低分子アミン化合物、及び(メタ)アクリル系樹脂Aに加えて、その他の成分がさらに用いられて形成されるものであってもよい。
分散剤は、油性インクジェットインクの製造工程において、樹脂粒子の形態で使用することが好ましい。例えば、油中水(W/O)型エマルションの油中乾燥法を用いた方法で分散剤を製造する場合は、分散剤は、好ましくは樹脂粒子の形態で製造することができる。
油性インクジェットインク中では、例えば、分散剤と顔料とが、着色樹脂粒子中に含まれることが好ましい。このような着色樹脂粒子の例として、顔料が分散剤に被覆されているもの等が挙げられる。
【0025】
酸性樹脂は、特に限定されないが、例えば、酸性ウレタン系樹脂、酸性ポリエステル系樹脂、酸性(メタ)アクリル系樹脂、酸性ウレタン(メタ)アクリル系樹脂、酸性(メタ)アクリルシリコーン系樹脂、酸性塩化ビニル系樹脂、酸性スチレン(メタ)アクリル系樹脂等が挙げられる。酸性樹脂としては、耐擦過性向上の観点から、酸性ウレタン系樹脂、酸性(メタ)アクリル系樹脂が好ましく、酸性ウレタン系樹脂がより好ましい。
【0026】
ウレタン系樹脂は、ウレタン基を有する。一般にウレタン系樹脂のウレタン基は、ポリオールとポリイソシアネートとの反応により得ることができるが、酸性ウレタン系樹脂は、貯蔵安定性の観点から、ポリイソシアネートとして脂肪族ポリイソシアネートを用いたものが好ましい。
【0027】
酸性ウレタン系樹脂としては、耐擦過性向上の観点から、ウレタン基のほかにウレア基をさらに有する酸性ウレタンウレア系樹脂が好ましい。ウレタンウレア系樹脂は、例えば、ポリオールとポリイソシアネートとを含む材料により得られたウレタンプレポリマーを、水及び/又はポリアミン化合物と反応させることにより、ウレタンプレポリマーのイソシアネート基と水及び/又はポリアミン化合物が反応することでウレア基を生成させて鎖延長することで得ることができる。
【0028】
酸性ウレタン系樹脂の例には、酸性ウレタン(メタ)アクリル系樹脂も含まれるが、これは、酸性(メタ)アクリル系樹脂の例にも含まれる。
(メタ)アクリルは、メタクリル、アクリル、またはこれらの組み合わせを含むことを意味し、(メタ)アクリル系樹脂は、メタクリル単位を含む樹脂、アクリル単位を含む樹脂、またはこれらの単位をともに含む樹脂を意味する。
【0029】
酸性樹脂としては、酸性基を有する樹脂であってもよいし、インクの製造において、原料として、酸性水分散性樹脂を用いることでもよい。酸性樹脂としては、酸性基を有する樹脂が好ましく、酸性基としては、カルボキシ基、スルホ基、リン酸基等が好ましい。
【0030】
酸性樹脂は、23℃で固体の樹脂が好ましい。
酸性樹脂は、裏抜け低減、及び画像濃度の向上の観点から、インクの非水系溶剤への溶解性が、23℃においてインクの非水系溶剤100gに対して溶解できる樹脂の量として、1g以下であることが好ましい。さらに、非水系溶剤中に酸性樹脂が溶けにくいことで、インクの低粘度化にも寄与しうる。
【0031】
酸性樹脂の重量平均分子量は、樹脂の種類によっても異なるが、例えば、5,000~200,000が好ましく、10,000~150,000がより好ましい。例えば、酸性ウレタン系樹脂の重量平均分子量は、5,000~50,000が好ましく、10,000~30,000がより好ましい。酸性(メタ)アクリル系樹脂の重量平均分子量は、10,000~200,000が好ましく、30,000~150,000がより好ましい。
樹脂の重量平均分子量は、GPC法で標準ポリスチレン換算で求めた値である。以下で述べる樹脂等における重量平均分子量についても同様である。
【0032】
例えば、油中水(W/O)型エマルションの油中乾燥法を用いた方法で、分散剤を製造する場合等では、酸性樹脂とするために、酸性水分散性樹脂を用いることが好ましい。酸性水分散性樹脂は、インクの製造において、例えば水などの液体に予め分散された分散体(水中油型(O/W)の樹脂エマルション)の形態で加えることが望ましい。水分散体を用いた場合、水分散体に含まれる水は、インクの製造工程で除去されることが好ましい。
【0033】
酸性水分散性樹脂は、自己乳化型樹脂のように、樹脂が有する酸性基が粒子表面に存在するものでもよいし、樹脂粒子表面が酸性の分散剤を付着させる等の表面処理されたものでもよい。酸性樹脂は、これらのいずれから得られたものでもよい。酸性基は、代表的にはカルボキシ基、スルホ基、リン酸基等である。酸性の分散剤は、陰イオン界面活性剤等である。
【0034】
酸性ウレタン系樹脂の合成方法は特に限定されない。酸性ウレタン系樹脂は、例えば、ポリオールと、ポリイソシアネートとを反応させて得ることができる。
ポリオールとしては、例えば、ポリテトラメチレングリコール、2、2-ジメチロールブタン酸、1,4-ブタンジオール、ジエタノールアミン等が挙げられる。また、ポリオールとしては、例えば、ジエタノールアミン等のジアルカノールアミンとアクリル酸等のアクリロイルオキシ基を有する化合物とをマイケル付加反応させて得られたジオールを用いてもよい。これらのポリオールは、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。用いられるポリオールの少なくとも1種が、酸性基を有することが好ましい。
ポリイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート等のジイソシアネート等を用いることができる。ポリイソシアネートは、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
酸性ウレタンウレア系樹脂は、例えば、ポリオールとポリイソシアネートとを反応させてウレタンプレポリマーを得たのち、得られたウレタンプレポリマーと、水及び/又はポリアミン化合物とを反応させて得ることができる。ポリオール及びポリイソシアネートについては、上述の通りである。ポリアミン化合物としては、例えば、ヘキサンジアミン等を用いることができる。
【0036】
酸性(メタ)アクリル系樹脂の合成方法は特に限定されない。例えば、アルキル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸等の1または2以上のモノマーを用いて重合することで得ることができる。酸性(メタ)アクリル系樹脂の合成に用いるモノマーのうちの少なくとも1種が、酸性基を有することが好ましい。
【0037】
酸性水分散性樹脂の水分散体は、樹脂をイオン交換水等の水中に分散させたものであるが、樹脂を水に分散させて水分散体を製造する際に、後述する低分子アミン化合物を加えることが好ましい。市販されている酸性水分散性樹脂の水分散体に低分子アミン化合物を加えてもよい。
【0038】
酸性水分散性ウレタン系樹脂の水分散体の市販品としては、例えば、三井化学株式会社製「WS5984」(商品名)、「WS4022」(商品名)、第一工業製薬株式会社製「スーパーフレックス740」(商品名)、「スーパーフレックス150H」(商品名)、三洋化成工業株式会社製「ユーコートUWS-145」(商品名)、ダイセル・オルネクス株式会社製「DAOTAN TW-6493」(商品名)、「DAOTAN TW-6490」(商品名)等が挙げられる。
酸性水分散性ウレタン(メタ)アクリル系樹脂の水分散体の市販品としては、例えば、ダイセル・オルネクス株式会社製「DAOTAN VTW-1262」(商品名)等が挙げられる。
「WS5984」、「WS4022」、「スーパーフレックス740」、「スーパーフレックス150H」、「ユーコートUWS-145」、「DAOTAN TW-6493」、「DAOTAN TW-6490」、「DAOTAN VTW-1262」のウレタン系樹脂は、ウレア基を有するウレタンウレア系樹脂である。
酸性水分散性(メタ)アクリル系樹脂の水分散体の市販品としては、例えば、ジャパンコーティングレジン株式会社製「モビニール6750」(商品名)、「モビニール6969D」(商品名)等が挙げられる。
【0039】
分散剤には、酸性樹脂を、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
低分子アミン化合物としては、分子量1000以下のアミン化合物が好ましく、分子量700以下のアミン化合物がより好ましく、分子量400以下のアミン化合物がより好ましく、分子量300以下のアミン化合物がさらに好ましい。
低分子アミン化合物は、繰り返し単位を有していないことが好ましい。
低分子アミン化合物の分子量は、一般式(1)で表される基及び一般式(2)で表される基からなる群から選択される少なくとも1つの基を含む(メタ)アクリル系樹脂((メタ)アクリル系樹脂A)の重量平均分子量よりも小さいことが好ましい。
【0041】
低分子アミン化合物としては、アンモニア、第1級アミン化合物、第2級アミン化合物、第3級アミン化合物等を用いることができる。
第1級アミン化合物としては、例えば、モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノブチルアミン、モノエタノールアミン等が挙げられる。
第2級アミン化合物としては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、メチルプロパノールアミン等が挙げられる。
第3級アミン化合物としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエチルアミン等に例示される炭素数1~4のアルキル基を有するトリアルキルアミン等のトリアルキルアミン;ジメチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等のアルカノールアミン;N-アルキルモルホリン等に例示されるN-置換モルホリン化合物等のモルホリン化合物等の複素環式アミン等を用いることができる。
【0042】
長期にわたって凝集物を生じにくくする観点から、低分子アミン化合物は揮発性が低いものが好ましい。この観点から、低分子アミン化合物としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、メチルプロパノールアミン、ジメチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等のアルカノールアミンが好ましい。
【0043】
分散剤には、低分子アミン化合物を、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
一般式(1)で表される基及び一般式(2)で表される基からなる群から選択される少なくとも1つの基を含む(メタ)アクリル系樹脂((メタ)アクリル系樹脂A)は、一般式(1)で表される基、一般式(2)で表される基、又はこれらの両方を含んでよい。(メタ)アクリル系樹脂Aは、例えば、単独重合体又は共重合体のいずれであってもよく、共重合体であることが好ましい。
【0045】
(メタ)アクリル系樹脂Aの重量平均分子量は、5,000以上が好ましく、7,000以上がより好ましい。(メタ)アクリル系樹脂Aの重量平均分子量は、50,000以下が好ましく、30,000以下がより好ましい。
(メタ)アクリル系樹脂Aの重量平均分子量は、例えば、5,000~50,0000が好ましく、7,000~30,000がより好ましい。
【0046】
(メタ)アクリル系樹脂Aは、インクに含まれる非水系溶剤に溶解することが好ましく、具体的には、1気圧20℃において(メタ)アクリル系樹脂Aとインクに含まれる非水系溶剤とを同容量で混合した場合に、二相に分かれることなく均一に溶解することが好ましい。
【0047】
(メタ)アクリル系樹脂Aは、一般式(1)で表される基及び一般式(2)で表される基からなる群から選択される少なくとも1つの基を含むことが好ましい。
【化5】
【0048】
一般式(1)において、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、R1とR2とは互いに結合して環を形成していてもよい。
【0049】
一般式(1)において、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子、若しくは置換基を有していてもよい炭化水素基を表すか、又は、R1とR2とは互いに結合して環を形成していることが好ましい。
【0050】
炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等の脂肪族炭化水素基等が挙げられ、直鎖であっても、分岐鎖であってもよい。炭化水素基の炭素数は、1~8が好ましく、1~4がより好ましい。炭化水素基としては、アルキル基が好ましく、炭素数1~8のアルキル基が好ましく、炭素数1~4のアルキル基がより好ましい。炭化水素基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基等が挙げられる。例えば、R1及びR2は、好ましくは、それぞれ独立に、水素原子、又は、置換基を有していてもよい炭素数1~8、より好ましくは炭素数1~4のアルキル基であってよい。
【0051】
R1とR2とが互いに結合して環を形成している場合の環としては、3~8員環が好ましく、5~7員環がより好ましく、4~6員環がさらに好ましい。R1とR2とが互いに結合して形成する環としては、例えば、窒素原子をヘテロ原子として含む複素環、窒素原子と酸素原子とをヘテロ原子として含む複素環等が挙げられる。R1とR2とが互いに結合して形成する環としては、例えば、置換基を有していてもよい、モルホリン、ピぺリジン、ピロリジン等が挙げられる。
【0052】
一般式(2)において、R3は置換基を表し、R4は水素原子又は置換基を表し、R3とR4とは互いに結合して環を形成していてもよい。
【0053】
一般式(2)において、R3は、置換基を有していてもよい炭化水素基を表し、かつ、R4は水素原子、若しくは置換基を有していてもよい炭化水素基を表すか、又は、R3とR4とは互いに結合して環を形成していていることが好ましい。
【0054】
炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等の脂肪族炭化水素基等が挙げられ、直鎖であっても、分岐鎖であってもよい。炭化水素基の炭素数は、1~8が好ましく、1~4がより好ましい。炭化水素基としては、アルキル基が好ましく、炭素数1~8のアルキル基が好ましく、炭素数1~4のアルキル基がより好ましい。炭化水素基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基等が挙げられる。例えば、R3は、好ましくは、置換基を有していてもよい炭素数1~8、より好ましくは炭素数1~4のアルキル基であってよく、R4は、好ましくは、水素原子、又は、置換基を有していてもよい炭素数1~8、より好ましくは炭素数1~4のアルキル基であってよい。
【0055】
R3とR4とが互いに結合して環を形成していている場合の環としては、3~8員環が好ましく、5~7員環がより好ましく、4~6員環がさらに好ましい。R3とR4とが互いに結合して形成する環としては、例えば、窒素原子をヘテロ原子として含む複素環、窒素原子と酸素原子とをヘテロ原子として含む複素環等が挙げられる。R3とR4とが互いに結合して形成する環としては、例えば、置換基を有していてもよいピロリドン環等が挙げられる。
【0056】
(メタ)アクリル系樹脂Aは、一般式(1)で表される基及び一般式(2)で表される基からなる群から選択される基を1種のみ、または2種以上を組み合わせて含んでよい。例えば、(メタ)アクリル系樹脂Aは、一般式(1)で表される基を1種のみ、又は2種以上を組み合わせて含んでよい。例えば、(メタ)アクリル系樹脂Aは、一般式(2)で表される基を1種のみ、又は2種以上を組み合わせて含んでよい。例えば、(メタ)アクリル系樹脂Aは、一般式(1)で表される基を1種以上、及び/又は、一般式(2)で表される基を1種以上含んでよい。
【0057】
(メタ)アクリル系樹脂Aは、一般式(1)で表される基及び一般式(2)で表される基からなる群から選択される2個以上の基を有することが好ましい。
【0058】
一般式(1)で表される基及び/又は一般式(2)で表される基は、(メタ)アクリル系樹脂Aの主鎖の炭素原子に、直接又は二価の連結基を介して結合していることが好ましく、(メタ)アクリル系樹脂Aの主鎖の炭素原子に、直接結合していることがより好ましい。二価の連結基としては、例えば、アルキレン基、アルキニレン基、アルケニレン基、アリーレン基、ヘテロアリーレン基、-O-、カルボニル基(-(C=O)-)、カルボニルオキシ基(-(C=O)-O-)等の二価の基、及び、そのような二価の基を2個以上組み合わせた基等が挙げられる。
【0059】
(メタ)アクリル系樹脂Aは、例えば、画像濃度の向上、発色の向上及び画像裏抜けの低減の観点から、β-ジカルボニル基及び/又はアルキル基を有することが好ましく、β-ジカルボニル基及びアルキル基を有することがより好ましい。一般式(1)で表される基及び下記一般式(2)で表される基からなる群から選択される少なくとも1つの基、β-ジカルボニル基、及びアルキル基は、例えば、そのうちの2つまたは3つが同じ単位に含まれてもよいが、一般式(1)で表される基及び下記一般式(2)で表される基からなる群から選択される少なくとも1つの基、β-ジカルボニル基、及びアルキル基が互いに異なる単位に含まれることが好ましい。
【0060】
β-ジカルボニル基としては、アセトアセチル基、プロピオンアセチル基等のβ-ジケトン基、アセトアセトキシ基、プロピオンアセトキシ基等のβ-ケト酸エステル基が挙げられる。(メタ)アクリル系樹脂Aは、これらβ-ジカルボニル基を1種のみ又は複数種含んでよい。
【0061】
アルキル基としては、炭素数8~22のアルキル基が好ましく、炭素数12~22のアルキル基がより好ましい。炭素数8~22のアルキル基は、直鎖であっても分岐鎖であってもよい。具体的には、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基、ドコシル基等が挙げられる。(メタ)アクリル系樹脂Aは、これらアルキル基を1種のみ又は複数種含んでよい。
【0062】
(メタ)アクリル系樹脂Aは、スルホ基、カルボキシ基等の酸性基を含んでもよい。
【0063】
(メタ)アクリル系樹脂Aは、一般式(1)で表される基及び一般式(2)で表される基からなる群から選択される少なくとも1つの基を有する単位(以下、「単位Ya」という場合がある)を含むことが好ましい。
(メタ)アクリル系樹脂Aは、例えば、一般式(1)で表される基及び一般式(2)で表される基からなる群から選択される少なくとも1つの基を有する単位(「単位Ya」)と、β-ジカルボニル基を有する単位(以下、「単位Yb」という場合がある)及び/又はアルキル基を有する単位(以下、「単位Yc」という場合がある)とを含むことがより好ましく、単位Ya、単位Yb、及び単位Ycを含むことがさらに好ましい。
【0064】
一般式(1)で表される基及び一般式(2)で表される基からなる群から選択される少なくとも1つの基を有する単位(単位Ya)としては、例えば、(メタ)アクリル系樹脂Aの主鎖の炭素原子に、直接又は連結基を介して一般式(1)で表される基及び一般式(2)で表される基からなる群から選択される少なくとも1つの基が結合している単位が挙げられる。このような単位として、例えば、下記一般式(3)で表される単位、及び下記一般式(4)で表される単位等が挙げられる。
【0065】
【0066】
一般式(3)において、R1及びR2は、それぞれ一般式(1)におけるR1及びR2と同様であり、その好ましい範囲も同様である。R5は、水素原子またはメチル基を表す。L1は、二価の連結基又は単結合を表す。
一般式(4)において、R3及びR4は、それぞれ一般式(2)におけるR3及びR4と同様であり、その好ましい範囲も同様である。R6は、水素原子またはメチル基を表す。L2は、二価の連結基又は単結合を表す。
二価の連結基としては、例えば、アルキレン基、アルキニレン基、アルケニレン基、アリーレン基、ヘテロアリーレン基、-O-、カルボニル基(-(C=O)-)、カルボニルオキシ基(-(C=O)-O-)等の二価の基、及び、そのような二価の基を2個以上組み合わせた基等が挙げられる。
【0067】
単位Yaとしては、例えば、後述する一般式(1)で表される基及び一般式(2)で表される基からなる群から選択される少なくとも1つの基を有するモノマー(以下、「モノマーYa」という場合がある)に由来する単位を用いることができる。
【0068】
(メタ)アクリル系樹脂Aは、単位Yaを1種のみ又は2種以上含んでよい。(メタ)アクリル系樹脂Aは、例えば、一般式(3)で表される単位を1種又は2種以上、及び/又は、一般式(4)で表される単位を1種又は2種以上含んでよい。
【0069】
β-ジカルボニル基を有する単位(単位Yb)は、例えば、アクリル単位又はメタクリル単位であってよい。
単位Ybの例としては、例えば、主鎖の炭素原子にカルボニル基が結合し、そのカルボニル基の炭素原子に直接または連結基を介してβ-ジカルボニル基が結合している単位が挙げられる。
単位Ybとしては、β-ジカルボニル基を有する(メタ)アクリレートに由来する単位、β-ジカルボニル基を有する(メタ)アクリルアミドに由来する単位等が好ましい。β-ジカルボニル基を有する(メタ)アクリレートとしては、たとえば、アクリロイル基又はメタクリロイル基のカルボニル(CO)の炭素原子に間接的に結合したβ-ジケトン基またはβ-ケト酸エステル基を有する(メタ)アクリレートが好ましい例として挙げられる。β-ジカルボニル基を有する(メタ)アクリルアミドとしては、例えば、アクリロイル基又はメタクリロイル基のカルボニル(CO)の炭素原子に間接的に結合したβ-ジケトン基またはβ-ケト酸エステル基を有する(メタ)アクリルアミドが好ましい例として挙げられる。単位Ybとしては、例えば、後述するβ-ジカルボニル基を有するモノマー(以下、「モノマーYb」という場合がある。)に由来する単位を用いることができる。
(メタ)アクリル系樹脂Aは、単位Ybを1種のみ又は2種以上含んでよい。
【0070】
アルキル基を有する単位(単位Yc)は、例えば、アルキル基を有するアクリル単位又はメタクリル単位であってよい。
単位Ycの例としては、例えば、(メタ)アクリル系樹脂Aの主鎖の炭素原子に、-COOReで表される基が結合した単位であって、Reが、アルキル基(好ましくは炭素数8~22、より好ましくは炭素数12~22のアルキル基)である単位が挙げられる。単位Ycとしては、例えば、後述するアルキル基を有するモノマー(以下、「モノマーYc」という場合がある。)に由来する単位を用いることができる。
(メタ)アクリル系樹脂Aは、単位Ycを、1種のみ又は2種以上含んでよい。
【0071】
(メタ)アクリル系樹脂Aは、他の単位を含んでよい。
【0072】
一般式(1)で表される基及び一般式(2)で表される基からなる群から選択される少なくとも1つの基を有する単位(単位Ya)は、重合体全体に対し、5~30質量%であることが好ましく、10~25質量%以上がより好ましい。
β-ジカルボニル基を有する単位(単位Yb)は、重合体全体に対し、5~30質量%であることが好ましく、10~20質量%であることがより好ましい。
アルキル基を有する単位(単位Yc)は、重合体全体に対し40~90質量%であることが好ましく、50~90質量%がより好ましく、60~80質量%以上がさらに好ましい。
ここで、重合体全体は、(メタ)アクリル系樹脂Aを構成する全単位を基準とする。
【0073】
(メタ)アクリル系樹脂Aは、例えば、一般式(1)で表される基及び一般式(2)で表される基からなる群から選択される少なくとも1つの基を有するモノマー(モノマーYa)を重合した単独重合体、モノマーYaを含むモノマー混合物を重合した共重合体、または、そのような単独重合体又は共重合体の誘導体等であってよい。モノマー混合物は、モノマーYaと、β-ジカルボニル基を有するモノマー(モノマーYb)及び/又はアルキル基を有するモノマー(モノマーYc)とを含むことが好ましく、モノマーYaと、モノマーYbと、モノマーYcとを含むことがより好ましい。
【0074】
一般式(1)で表される基及び一般式(2)で表される基からなる群から選択される少なくとも1つの基を有するモノマー(モノマーYa)の例として、例えば、下記一般式(5)で表されるモノマー、及び下記一般式(6)で表されるモノマー等が挙げられる。
【0075】
【0076】
一般式(5)において、R1及びR2は、それぞれ一般式(1)におけるR1及びR2と同様であり、その好ましい範囲も同様である。R5は、水素原子またはメチル基を表す。L1は、二価の連結基又は単結合を表す。
一般式(6)において、R3及びR4は、それぞれ一般式(2)におけるR3及びR4と同様であり、その好ましい範囲も同様である。R6は、水素原子またはメチル基を表す。L2は、二価の連結基又は単結合を表す。
二価の連結基としては、例えば、アルキレン基、アルキニレン基、アルケニレン基、アリーレン基、ヘテロアリーレン基、-O-、カルボニル基(-(C=O)-)、カルボニルオキシ基(-(C=O)-O-)等の二価の基、及び、そのような二価の基を2個以上組み合わせた基等が挙げられる。
【0077】
一般式(5)又は(6)で表されるモノマーの具体例としては、ジメチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N-ビニル-2-ピロリドン等が挙げられる。
【0078】
β-ジカルボニル基を有するモノマー(モノマーYb)は、例えば、アクリロイル基又はメタクリロイル基とβ-ジカルボニル基とを有するモノマーが好ましい。モノマーYbとしては、β-ジカルボニル基を有する(メタ)アクリレート、β-ジカルボニル基を有する(メタ)アクリルアミド等が好ましい例として挙げられる。モノマーYbの具体例として、例えば、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等のアセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレート、ヘキサジオン(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリルアミド等のアセトアセトキシアルキル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0079】
アルキル基を有するモノマー(モノマーYc)は、例えば、アクリロイル基又はメタクリロイル基とアルキル基とを有するモノマーが好ましい。モノマーYcの例として、例えば、アルキル(メタ)アクリレート等が挙げられ、炭素数8~22のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、炭素数12~22のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートがより好ましい。モノマーYcの具体例として、例えば、ベヘニル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート(ドデシル(メタ)アクリレート)等が挙げられる。
【0080】
モノマー混合物は、その他のモノマーを含んでよい。
モノマー混合物中の各モノマーの配合量は、例えば、上記の各単位の好ましい割合となるように、調整することができる。
【0081】
これらのモノマーは、例えば、公知のラジカル重合により、重合させることができる。反応系としては、溶液重合または分散重合で行うことが好ましい。重合反応に際し、例えば、重合開始剤、連鎖移動剤、重合禁止剤、重合促進剤、分散剤等を反応系に適宜添加することができる。重合開始剤としては、例えば、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート等を使用することができる。溶液重合に用いる重合溶媒(反応溶媒)は、特に限定されないが、重合によって得られる樹脂を分散ないし溶解可能であるものが好ましい。
【0082】
分散剤には、(メタ)アクリル系樹脂Aを、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0083】
酸性樹脂、低分子アミン化合物及び(メタ)アクリル系樹脂Aの合計量に対する酸性樹脂及び低分子アミン化合物の合計量は、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましい。一方、酸性樹脂、低分子アミン化合物及び(メタ)アクリル系樹脂Aの合計量に対する酸性樹脂及び低分子アミン化合物の合計量は、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましい。酸性樹脂、低分子アミン化合物及び(メタ)アクリル系樹脂Aの合計量に対する酸性樹脂及び低分子アミン化合物の合計量は、例えば、10~90質量%が好ましく、20~80質量%がより好ましく、30~70質量%がさらに好ましい。
【0084】
酸性樹脂、低分子アミン化合物及び(メタ)アクリル系樹脂Aの合計量に対する(メタ)アクリル系樹脂Aの量は、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましい。一方、酸性樹脂、低分子アミン化合物及び(メタ)アクリル系樹脂Aの合計量に対する(メタ)アクリル系樹脂Aの量は、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましい。酸性樹脂、低分子アミン化合物及び(メタ)アクリル系樹脂Aの合計量に対する(メタ)アクリル系樹脂Aの量は、例えば、10~90質量%が好ましく、20~80質量%がより好ましく、30~70質量%がさらに好ましい。
【0085】
低分子アミン化合物は、低分子アミン化合物の塩基性基の、酸性樹脂の酸性基に対するモル比(塩基性基/酸性基)が0.5~1.5となる量であることが好ましく、0.8~1.2となる量であることがより好ましい。ここで、樹脂粒子表面が酸性の樹脂粒子分散剤を付着させる等の表面処理された酸性水分散性樹脂が用いられた場合は、酸性樹脂の酸性基は、酸性の樹脂粒子分散剤の酸性基も含む。
【0086】
酸性樹脂と(メタ)アクリル系樹脂Aの質量比(酸性樹脂:(メタ)アクリル系樹脂A)は、10:90~90:10が好ましく、20:80~80:20がより好ましく、30:70~70:30がさらに好ましい。
【0087】
酸性樹脂は、インク全量に対して0.1~20質量%が好ましく、0.1~10質量%がより好ましく、0.5~10質量%がさらに好ましい。
【0088】
(メタ)アクリル系樹脂Aは、インク全量に対して、0.1~10質量%が好ましく、0.5~10質量%がより好ましく、1~5質量%が好ましく、1.5~5質量%がさらに好ましい。
【0089】
分散剤の含有量は、顔料の分散性を確保する観点から、酸性樹脂、低分子アミン化合物及び(メタ)アクリル系樹脂Aの合計量として、インク全量に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、2質量%以上がさらに好ましい。一方、分散剤の含有量は、インクの粘度及び高温環境下での貯蔵安定性の観点から、酸性樹脂、低分子アミン化合物及び(メタ)アクリル系樹脂Aの合計量として、インク全量に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、8質量%以下がさらに好ましい。分散剤の含有量は、酸性樹脂、低分子アミン化合物及び(メタ)アクリル系樹脂Aの合計量として、インク全量に対して、例えば、0.1~20質量%が好ましく、1~10質量%であることがより好ましく、2~8質量%であることがさらに好ましい。
【0090】
分散剤の量は、酸性樹脂、低分子アミン化合物及び(メタ)アクリル系樹脂Aの合計量として、質量比で、顔料1に対し分散剤0.1~5となるような量であることが好ましく、0.1~1となる量であることがより好ましい。
【0091】
インクには、非水系溶剤としては、非極性有機溶剤及び極性有機溶剤のいずれも使用できる。これらは、単独で使用してもよく、単一の相を形成する限り、2種以上を組み合わせて使用することもできる。なお、本実施形態において、非水系溶剤には、1気圧20℃において同容量の水と均一に混合しない非水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。
【0092】
非極性有機溶剤としては、脂肪族炭化水素溶剤、脂環式炭化水素溶剤、芳香族炭化水素溶剤等の石油系炭化水素溶剤を好ましく挙げることができる。
脂肪族炭化水素溶剤及び脂環式炭化水素溶剤としては、パラフィン系、イソパラフィン系、ナフテン系等の非水系溶剤を挙げることができる。市販品としては、0号ソルベントL、0号ソルベントM、0号ソルベントH、カクタスノルマルパラフィンN-10、カクタスノルマルパラフィンN-11、カクタスノルマルパラフィンN-12、カクタスノルマルパラフィンN-13、カクタスノルマルパラフィンN-14、カクタスノルマルパラフィンN-15H、カクタスノルマルパラフィンYHNP、カクタスノルマルパラフィンSHNP、アイソゾール300、アイソゾール400、テクリーンN-16、テクリーンN-20、テクリーンN-22、AFソルベント4号、AFソルベント5号、AFソルベント6号、AFソルベント7号、ナフテゾール160、ナフテゾール200、ナフテゾール220(いずれもJXTGエネルギー株式会社製);アイソパーG、アイソパーH、アイソパーL、アイソパーM、エクソールD40、エクソールD60、エクソールD80、エクソールD95、エクソールD110、エクソールD130(いずれもエクソンモービル社製);モレスコホワイトP-40、モレスコホワイトP-60、モレスコホワイトP-70、モレスコホワイトP-80、モレスコホワイトP-100、モレスコホワイトP-120、モレスコホワイトP-150、モレスコホワイトP-200、モレスコホワイトP-260、モレスコホワイトP-350P(いずれも株式会社MORESCO製)等を好ましく挙げることができる。
芳香族炭化水素溶剤としては、グレードアルケンL、グレードアルケン200P(いずれもJXTGエネルギー株式会社製)、ソルベッソ100、ソルベッソ150、ソルベッソ200、ソルベッソ200ND(いずれもエクソンモービル社製)等を好ましく挙げることができる。
石油系炭化水素溶剤の蒸留初留点は、100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることがいっそう好ましい。蒸留初留点はJIS K0066「化学製品の蒸留試験方法」に従って測定することができる。
【0093】
極性有機溶剤としては、脂肪酸エステル系溶剤、高級アルコール系溶剤、高級脂肪酸系溶剤等を好ましく挙げることができる。
例えば、イソノナン酸イソノニル、イソノナン酸イソデシル、イソノナン酸イソトリデシル、ラウリン酸メチル、ラウリン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸ヘキシル、パルミチン酸イソオクチル、パルミチン酸イソステアリル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸イソプロピル、オレイン酸ブチル、オレイン酸ヘキシル、リノール酸メチル、リノール酸エチル、リノール酸イソブチル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸ヘキシル、ステアリン酸イソオクチル、イソステアリン酸イソプロピル、ピバリン酸2-オクチルデシル、大豆油メチル、大豆油イソブチル、トール油メチル、トール油イソブチル等の1分子中の炭素数が13以上、好ましくは16~30の脂肪酸エステル系溶剤;イソミリスチルアルコール、イソパルミチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、イソエイコシルアルコール、デシルテトラデカノール等の1分子中の炭素数が6以上、好ましくは12~20の高級アルコール系溶剤;ラウリン酸、イソミリスチン酸、パルミチン酸、イソパルミチン酸、α-リノレン酸、リノール酸、オレイン酸、イソステアリン酸等の1分子中の炭素数が12以上、好ましくは14~20の高級脂肪酸系溶剤等が挙げられる。
脂肪酸エステル系溶剤、高級アルコール系溶剤、高級脂肪酸系溶剤等の極性有機溶剤の沸点は、150℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましく、250℃以上であることがさらに好ましい。なお、沸点が250℃以上の非水系溶剤には、沸点を示さない非水系溶剤も含まれる。
【0094】
非水系溶剤の量は、適宜調整できる。非水系溶剤は、インク全量に対して、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。一方、非水系溶剤の量は、インク全量に対して、99質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましい。非水系溶剤の量は、インク全量に対して、例えば、60~99質量%が好ましく、70~95質量%がより好ましい。
【0095】
上記各成分に加えて、油性インクには、各種添加剤が含まれていてよい。添加剤としては、ノズルの目詰まり防止剤、酸化防止剤、導電率調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、酸素吸収剤、染料等を適宜添加することができる。これらの種類は、特に限定されることはなく、当該分野で使用されているものを用いることができる。
【0096】
インク中の水の量は、インク全量に対して1質量%以下が好ましく、1質量%未満がより好ましく、0.5質量%以下がさらに好ましく、0.1質量%以下がさらに好ましい。
インク中の分散剤と顔料との合計量は、インク全量に対する、顔料と酸性樹脂と低分子アミン化合物と(メタ)アクリル系樹脂Aとの合計量として、1~40質量%が好ましく、5~30質量%がより好ましい。
【0097】
上述の油性インクジェットインクの製造方法はとくに限定されない。上述の油性インクジェットインクの製造には、例えば、液中乾燥法を好ましく用いることができ、油中水(W/O)型エマルションの油中乾燥法を特に好ましく用いることができる。
【0098】
油中水型エマルションの油中乾燥法を用いた油性インクジェットインクの製造方法の例としては、例えば、油中水型エマルションの油中乾燥法を用いた方法で分散剤を製造することを含む方法が挙げられる。このような方法としては、例えば、非水系溶剤及び(メタ)アクリル系樹脂Aを含む連続相と、水、酸性水分散性樹脂及び低分子アミン化合物を含む分散相とを含む油中水型エマルションを得る工程(以下、「工程1」という場合もある。)と、油中水型エマルションから水を除去し、酸性樹脂、低分子アミン化合物、及び(メタ)アクリル系樹脂Aによって形成される分散剤を含む分散剤分散体を得る工程(以下、「工程2」という場合もある。)と、分散剤分散体と顔料とを混合し、顔料を分散する工程(以下、「工程3」という場合もある。)とを含む方法が挙げられる。この方法では、工程2において、分散剤分散体を、分散剤が樹脂粒子として分散した樹脂粒子分散体として得ることができる。しかし、インクの製造方法はこの方法に限定されない。分散剤の形態も樹脂粒子に限定されない。
油中水型エマルションの油中乾燥法を用いたこの方法は、揮発性の有機溶剤を使用する必要がなく、安全性に優れている。
【0099】
(メタ)アクリル系樹脂Aは、一般式(1)又は(2)で表される基を有するため、水相と油相の界面に配向しやすく、エマルションを形成させやすいため、この観点からも、このような油中水(W/O)型エマルションの油中乾燥法を用いた製造方法が好ましい。
【0100】
非水系溶剤、(メタ)アクリル系樹脂A、酸性水分散性樹脂、低分子アミン化合物及び顔料については、インクの成分の説明において説明したものをそれぞれ用いることができる。例えば、酸性水分散性樹脂としては、インクの成分の説明において説明した酸性樹脂の水分散性樹脂のなかでも、酸性水分散性(メタ)アクリル系樹脂、酸性水分散性ウレタン系樹脂等が好ましく、酸性ウレタンウレア系水分散性樹脂がより好ましい。
水としては、水道水、イオン交換水、脱イオン水等を使用することができる。
【0101】
工程1において作製される油中水型エマルションにおいて、連続相及び分散相は、他の成分を含んでよい。
【0102】
酸性水分散性樹脂の量(固形分量)は、分散相全量に対して、1~60質量%が好ましく、10~50質量%がより好ましく、20~40質量%がさらに好ましい。酸性水分散性樹脂の量(固形分量)は、油中水型エマルション全量に対して、0.1~30質量%が好ましく、1~20質量%がより好ましく、5~15質量%がさらに好ましい。
【0103】
酸性水分散性樹脂の量(固形分量)は、工程2で得られる分散剤分散体全量に対して、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、14質量%以上がさらに好ましい。酸性水分散性樹脂の量(固形分量)は、工程2で得られる分散剤分散体全量に対して、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。酸性水分散性樹脂の量(固形分量)は、工程2で得られる分散剤分散体全量に対して、5~40質量%が好ましく、10~40質量%がより好ましく、14~30質量%がさらに好ましい。
【0104】
油中水型エマルションにおいて、低分子アミン化合物の量は、その塩基性基の量が酸性水分散性樹脂の酸性基に対して上記の好ましいモル範囲となるような量で用いることが好ましい。
油中水型エマルションにおいて、水の量は、分散相全量に対して、40~99質量%が好ましく、50~90質量%がより好ましく、60~80質量%がさらに好ましい。水の量は、油中水型エマルション全量に対して、1~50質量%が好ましく、5~50質量%がより好ましく、10~40質量%がさらに好ましい。
【0105】
油中水型エマルションにおいて、水の量は、工程1での油中水型エマルションの安定性を保つ観点から、分散相の酸性水分散性樹脂の量(固形分量)が、水の量に対して、20質量%以上となる量であることが好ましく、30質量%以上となる量であることがより好ましく、35質量%以上となる量であることがさらに好ましく、40質量%以上となる量であることがさらに好ましい。一方、水の量は、分散相の酸性水分散性樹脂の量(固形分量)が、水の量に対して、80質量%以下となる量であることが好ましく、75質量%以下となる量であることがより好ましい。油中水型エマルションにおいて、水の量は、例えば、分散相の酸性水分散性樹脂の量(固形分量)が、水の量に対して、20~80質量%となる量であることが好ましく、30~80質量%となる量であることよりが好ましく、35~80質量%となる量であることさらに好ましく、40~75質量%となる量であることがさらに好ましい。
【0106】
(メタ)アクリル系樹脂Aは、インクに用いる全量を、工程1で得られる油中水型エマルションに含ませても用いてもよいが、一部のみを工程1で得られる油中水型エマルションに含ませ、残りを、例えば、工程3において、顔料と分散剤分散体とを混合する際に顔料及び分散剤分散体等とともに混合してもよい。工程3等において加える(メタ)アクリル系樹脂Aは、工程1の油中水型エマルションに含まれる(メタ)アクリル系樹脂Aと同じであってもよく、異なってもよい。
【0107】
油中水型エマルションにおいて、(メタ)アクリル系樹脂Aの量は、連続相全量に対して、1~60質量%が好ましく、5~50質量%がより好ましく、10~40質量%がさらに好ましい。
油中水型エマルションにおいて、(メタ)アクリル系樹脂Aの量は、油中水型エマルション全量に対して1~40質量%が好ましく、5~30質量%がより好ましく、10~20質量%がさらに好ましい。
【0108】
非水系溶剤は、インクに用いる全量を、工程1で得られる油中水型エマルションに含ませても用いてもよいが、一部のみを工程1で得られる油中水型エマルションに含ませ、残りを、例えば、工程3において、顔料と分散剤分散体とを混合する際に顔料及び分散剤分散体等とともに混合してもよい。工程3等において加える非水系溶剤は、工程1の油中水型エマルションに含まれる非水系溶剤と同じであってもよく、異なってもよい。
【0109】
油中水型エマルションにおいて、非水系溶剤の量は、連続相全量に対して、40~99質量%が好ましく、50~95質量%がより好ましく、60~90質量%がさらに好ましい。
油中水型エマルションにおいて、非水系溶剤の量は、油中水型エマルション全量に対して、30~90質量%が好ましく、40~80質量%がより好ましい。
【0110】
工程1において、油中水型エマルションを得る方法は、特に限定されない。
油中水型エマルションは、例えば、分散相の成分と連続相の成分とを混合、乳化させることにより製造することができる。
インクの分散安定性の向上とそれによる耐擦過性向上の観点から、連続相の成分を含む連続相用混合物と分散相の成分を含む分散相用混合物とを、あらかじめ別々に調製することが好ましい。次いで、連続相用混合物に分散相用混合物を添加し、乳化処理することが好ましい。乳化処理は、例えば、超音波ホモジナイザー等の乳化機を用いて行ってもよい。乳化処理は、例えば、連続相用混合物に分散相用混合物を添加しながら行ってもよく、また、例えば、連続相用混合物に分散相用混合物を添加後に行ってもよい。
【0111】
エマルション粒子径を小さくすること、及びそれによる、得られたインクの分散安定性の向上とそれによる耐擦過性向上の観点から、例えば、工程1は、 酸性水分散性樹脂、低分子アミン化合物及び水を含む分散相用混合物を得る工程(以下「工程a-1」という場合もある。)と、(メタ)アクリル系樹脂A及び非水系溶剤を含む連続相用混合物を得る工程(以下、「工程a-2」という場合もある。)と、分散相用混合物を連続相用混合物に添加し、乳化を行う工程(以下、「工程a-3」という場合もある。)とを含むことが好ましい。工程a-1では、例えば、酸性水分散性樹脂と、低分子アミン化合物と、水と、必要に応じて他の成分とを混合して分散相用混合物を得ることができる。工程a-2では、例えば、(メタ)アクリル系樹脂Aと、非水系溶剤と、必要に応じて他の成分とを混合して連続相用混合物を得ることができる。工程a-3では、工程a-1で得られた分散相用混合物を工程a-2で得られた連続相用混合物に添加し、乳化を行う。工程a-3において、乳化処理は、例えば、連続相用混合物に分散相用混合物を添加しながら行ってもよく、例えば、連続相用混合物に分散相用混合物を添加した後に行ってもよい。乳化処理は、例えば、超音波ホモジナイザー等の乳化機を用いて行ってもよい。
【0112】
油中水型エマルションは、生産効率向上の観点からは、連続相用混合物と分散相用混合物とをあらかじめ別々に用意するのではなく、例えば、連続相の成分と分散相の成分とを一度に混合し、得られた混合物を乳化機等により乳化することが好ましい。
生産効率向上の観点からは、工程1は、例えば、酸性水分散性樹脂、低分子アミン化合物、水、(メタ)アクリル系樹脂A、及び非水系溶剤を混合して混合物を得る工程(以下、工程「b-1」という場合もある。)と、得られた混合物を乳化する工程(以下、工程「b-2」という場合もある。)とを含む工程であることが好ましい。分散相及び/又は連続相がその他の成分を含む場合、工程b-1では、酸性水分散性樹脂、低分子アミン化合物、水、(メタ)アクリル系樹脂A、及び非水系溶剤とともにその他の成分を混合してもよい。工程b-2では、乳化処理は、例えば、超音波ホモジナイザー等の乳化機を用いて行ってもよい。
【0113】
工程1において、油中水型エマルションは、水を除去する前の状態の質量比として、油中水型エマルション全量に対して、分散相20~50質量%及び連続相80~50質量%であることが好ましい。
【0114】
工程2において、油中水型エマルションの分散相の水が除去される。これにより、残りの分散相成分と連続相成分の(メタ)アクリル系樹脂Aとにより樹脂粒子が形成され、酸性樹脂、低分子アミン化合物、及び(メタ)アクリル系樹脂Aによって形成される分散剤を、この樹脂粒子として含有する分散剤分散体を得ることができる。このようにして、工程2では、分散剤と非水系溶剤とを含む分散剤分散体を得ることができる。また、工程2で得られる分散剤に、さらに、工程3で(メタ)アクリル系樹脂Aを加えてもよい。
【0115】
水を除去する方法としては、例えば、減圧、加熱、バブリング、吸湿剤添加またはそれらの組み合わせ等を用いることができる。減圧及び/または加熱の条件としては、水が除去されるが、連続相の非水系溶剤は残るような条件を採用することができる。減圧には、例えばエバポレーターを用いることができる。加熱温度としては、30℃以上が好ましく、40~100℃がより好ましく、60℃~90℃がさらに好ましい。例えば、常圧で加熱することも好ましい。バブリングとしては、液体に気体を吹き込みバブリングすることで、蒸発を促進することが好ましい。吸湿剤としては、例えばゼオライト等が挙げられる。
【0116】
工程2では、分散相の水は除去前の量に対して80質量%以上除去されることが好ましく、90質量%以上除去されることが好ましく、95質量%以上除去されることがさらに好ましく、99質量%以上除去されることがさらに好ましい。
【0117】
工程2で得られる分散剤分散体において、分散剤分散体全量に対する油中水型エマルションの分散相成分の固形分の量は、1~40質量%が好ましく、5~30質量%がより好ましい。
工程2で得られる分散剤分散体において、分散剤の量は、油中水型エマルションの分散相成分の固形分の量及び連続相成分の固形分の量の合計として、20~60質量%が好ましく、30~50質量%がより好ましい。
【0118】
工程3では、分散剤分散体と顔料とを混合し、顔料を分散する。
工程3では、分散剤分散体と顔料とを混合するが、必要に応じて、上述のように、分散剤分散体及び顔料とともに、(メタ)アクリル系樹脂A及び/又は非水系溶剤等を混合してもよい。工程3等において加える(メタ)アクリル系樹脂Aは、工程1の油中水型エマルションに含まれる(メタ)アクリル系樹脂Aと同じであってもよく、異なってもよい。工程3等において加える非水系溶剤は、工程1の油中水型エマルションに含まれる非水系溶剤と同じであってもよく、異なってもよい。
工程3で用いる各材料の量はとくに限定されないが、インク中の各成分の量を考慮して適宜決定することができる。
【0119】
工程3では、顔料の分散は、例えば、分散剤分散体と顔料と、必要に応じて(メタ)アクリル系樹脂A及び/又は非水系溶剤等とを混合しながら行ってもよく、例えば、分散剤分散体と顔料と、必要に応じて(メタ)アクリル系樹脂A及び/又は非水系溶剤等とを混合した後に行ってもよい。分散にはビーズミル等を用いることができる。
【0120】
この油性インクジェットの製造方法は、他の工程をさらに含んでもよい。
分散剤分散体と、顔料と、必要に応じて(メタ)アクリル系樹脂A及び/又は非水系溶剤等とを混合し、顔料を分散し、必要に応じて他の工程を行うことで、油性インクジェットインクを得ることができる。油性インクジェットインク中では、顔料と分散剤とが、着色樹脂粒子を形成していてもよく、このような着色樹脂粒子の例として、顔料が分散剤に被覆されているもの等が挙げられる。
【0121】
インク中の着色樹脂粒子の平均粒子径は、50~300nmが好ましく、80~200nmがより好ましい。インク中の着色樹脂粒子の平均粒子径は、動的散乱方式による体積基準の平均粒子径であり、例えば、株式会社堀場製作所製の動的光散乱式粒子径分布測定装置「ナノ粒子解析装置nanoPartica SZ-100」等を用いて測定することができる。
【0122】
油性インクジェットインクを用いた印刷方法としては、特に限定されず、ピエゾ方式、静電方式、サーマル方式など、いずれの方式のものであってもよい。インクジェット記録装置を用いる場合は、デジタル信号に基づいてインクジェットヘッドから本実施形態によるインクを吐出させ、吐出されたインク液滴を記録媒体に付着させるようにすることが好ましい。
【0123】
油性インクジェットインクの粘度は、インクジェット記録システムの吐出ヘッドのノズル径や吐出環境等によってその適性範囲は異なるが、一般に、23℃において5~30mPa・sであることが好ましく、5~15mPa・sであることがより好ましく、約10mPa・s程度であることが、一層好ましい。
【0124】
本実施形態において、記録媒体は、特に限定されるものではなく、普通紙、コート紙、特殊紙等の印刷用紙、布、無機質シート、フィルム、OHPシート等、これらを基材として裏面に粘着層を設けた粘着シート等を用いることができる。これらの中でも、インクの浸透性の観点から、普通紙、コート紙等の印刷用紙を好ましく用いることができる。
【0125】
ここで、普通紙とは、通常の紙の上にインクの受容層やフィルム層等が形成されていない紙である。普通紙の一例としては、上質紙、中質紙、PPC用紙、更紙、再生紙等を挙げることができる。普通紙は、数μm~数十μmの太さの紙繊維が数十から数百μmの空隙を形成しているため、インクが浸透しやすい紙となっている。
【0126】
また、コート紙としては、マット紙、光沢紙、半光沢紙等のインクジェット用コート紙や、いわゆる塗工印刷用紙を好ましく用いることができる。ここで、塗工印刷用紙とは、従来から凸版印刷、オフセット印刷、グラビア印刷等で使用されている印刷用紙であって、上質紙や中質紙の表面にクレーや炭酸カルシウム等の無機顔料と、澱粉等のバインダーを含む塗料により塗工層を設けた印刷用紙である。塗工印刷用紙は、塗料の塗工量や塗工方法により、微塗工紙、上質軽量コート紙、中質軽量コート紙、上質コート紙、中質コート紙、アート紙、キャストコート紙等に分類される。
【0127】
本発明の1つの実施形態の分散剤の製造方法は、非水系溶剤及び(メタ)アクリル系樹脂Aを含む連続相と、水、酸性水分散性樹脂及び低分子アミン化合物を含む分散相とを含む油中水型エマルションを得る工程(以下、「工程A」という場合もある。)と、油中水型エマルションから水を除去する工程(以下、「工程B」という場合もある。)とを含む、分散剤の製造方法である。
この分散剤の製造方法により、上記の油性インクジェットインクに用いることができる分散剤を得ることができる。しかし、上記の油性インクジェットインクの分散剤の製造方法はこの方法に限定されない。
【0128】
工程Aは、上述の油性インクジェットインクの製造方法の例において説明した工程1と同様である。工程Bにおいて、水を除去する方法及び、除去される水の量は、上述の油性インクジェットインクの製造方法の例において説明した工程2における水を除去する方法及び除去される水の量と同様である。
【0129】
工程Bにおいて、油中水型エマルションの分散相の水が除去され、これにより、残りの分散相成分と連続相成分の(メタ)アクリル系樹脂Aとにより樹脂粒子が形成され、酸性樹脂、低分子アミン化合物、及び(メタ)アクリル系樹脂Aによって形成される分散剤を、この樹脂粒子として含有する分散剤分散体を得ることができる。
【0130】
分散剤の製造方法は、さらに(メタ)アクリル系樹脂Aを添加する工程等の他の工程を含んでもよい。
【実施例】
【0131】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。
以下の実施例及び比較例を通して、特に説明のない限り、共通する成分は同一のものである。特に説明のない限り、「%」は「質量%」を示す。
表1~3に記載の各材料の配合量は質量部で表す。表4及び5に記載の各材料の配合量は質量%で表す。表1~5中の各材料の配合量は、揮発分が含まれる材料については、揮発分を含めた量である。
【0132】
<インクの材料>
実施例及び比較例のインクの原材料を下記に示す。
【0133】
銅フタロシアニンブルー:Heliogen Blue D7115F(BASF製)
アゾレーキレッド:Permanent Rubine P-L5b01(クラリアントジャパン株式会社製)
カーボンブラック:MOGUL L(キャボットスペシャリティーケミカルズ製)
【0134】
ウレタンウレア系樹脂水分散体1:下記記載の方法で製造(酸性ウレタンウレア系樹脂及びトリエタノールアミンを含む水分散体、有効成分30%)
ウレタンウレア系樹脂水分散体2:下記記載の方法で製造(酸性ウレタンウレア系樹脂及びジメチルエタノールアミンを含む水分散体、有効成分30%)
ウレタンウレア系樹脂水分散体3:下記記載の方法で製造(酸性ウレタンウレア系樹脂及びトリエチルアミンを含む水分散体、有効成分30%)
【0135】
(メタ)アクリル系樹脂水分散体1:下記記載の方法で製造(酸性(メタ)アクリル系樹脂及びジメチルエタノールアミンを含む水分散体、有効成分30%)
【0136】
ウレタン系樹脂水分散体1:下記記載の方法で製造(酸性ウレタン系樹脂及びジメチルエタノールアミンを含む水分散体、有効成分30%)
【0137】
ウレタン系樹脂溶液1:下記記載の方法で製造(酸性ウレタン系樹脂の溶液、有効成分50%)
塩基性ウレタンウレア系樹脂水分散体1:スーパーフレックス620(第一工業製薬株式会社製、塩基性ウレタンウレア系樹脂の水分散体、有効成分30%)
【0138】
(メタ)アクリル系樹脂溶液a:下記記載の方法で製造((メタ)アクリル系樹脂の溶液、有効成分40%、溶媒は脂肪酸エステル系溶剤)
(メタ)アクリル系樹脂溶液b:下記記載の方法で製造((メタ)アクリル系樹脂の溶液、有効成分40%、溶媒は脂肪酸エステル系溶剤)
(メタ)アクリル系樹脂溶液c:下記記載の方法で製造((メタ)アクリル系樹脂の溶液、有効成分40%、溶媒は脂肪酸エステル系溶剤)
(メタ)アクリル系樹脂溶液d:下記記載の方法で製造((メタ)アクリル系樹脂の溶液、有効成分40%、溶媒は脂肪酸エステル系溶剤)
(メタ)アクリル系樹脂溶液e:下記記載の方法で製造((メタ)アクリル系樹脂の溶液、有効成分40%、溶媒は石油系炭化水素溶剤)
【0139】
酸性ポリマー1:ソルスパース21000(日本ルーブリゾール株式会社製)(有効成分100%)
【0140】
脂肪酸エステル系溶剤1:ミリスチン酸イソプロピル(富士フイルム和光純薬株式会社製)
石油系炭化水素溶剤1:エクソールD130(エクソンモービル社製)
高級アルコール系溶剤1:オレイルアルコール(富士フイルム和光純薬株式会社製)
【0141】
<ウレタンウレア系樹脂水分散体1~3の製造>
四つ口フラスコに、ポリテトラメチレングリコール(三菱ケミカル株式会社製)を767.6質量部、2、2-ジメチロールブタン酸(ハイケム株式会社製)55.5質量部、1,4-ブタンジオール(三菱ケミカル株式会社製)23.7質量部、およびヘキサメチレンジイソシアネート(東京化成工業株式会社製)203.2質量部をメチルエチルケトン(東京化成工業株式会社製)724.4質量部中で80℃で6時間反応させた。その後、そこにヘキサンジアミン(東京化成工業株式会社製)21.8質量部を添加した。この溶液に50℃のイオン交換水を2000質量部添加し、さらに、トリエタノールアミン(東京化成工業株式会社製)でpHを8に調整した。その後、50℃及び減圧下にてメチルエチルケトンを除去した。そこにイオン交換水を追加して固形分を30質量%に調整し、酸性ウレタンウレア系樹脂、及び、低分子アミン化合物としてトリエタノールアミンを含む水分散体(有効成分30%)を得た。これをウレタンウレア系樹脂水分散体1とする。
【0142】
トリエタノールアミンの代わりに、ジメチルエタノールアミン(東京化成工業株式会社製)を用いるほかは、ウレタンウレア系樹脂水分散体1の製造と同様にして、酸性ウレタンウレア系樹脂、及び、低分子アミン化合物としてジメチルエタノールアミンを含む水分散体(有効成分30%)を得た。これをウレタンウレア系樹脂水分散体2とする。
【0143】
トリエタノールアミンの代わりに、トリエチルアミン(東京化成工業株式会社製)を用いるほかは、ウレタンウレア系樹脂水分散体1の製造と同様にして、酸性ウレタンウレア系樹脂、及び、低分子アミン化合物としてトリエチルアミンを含む水分散体(有効成分30%)を得た。これをウレタンウレア系樹脂水分散体3とする。
【0144】
<(メタ)アクリル系樹脂水分散体1の製造>
メチルメタクリレート(東京化成工業株式会社製)95質量部及びブチルアクリレート(東京化成工業株式会社製)5質量部からなるモノマー混合物Aを、イオン交換水40質量部にエマルゲン 1135S-70(花王株式会社製、ノニオン性非反応性界面活性剤)を2質量部、Emulsogen EPA073(クラリアントジャパン株式会社製、アニオン性非反応性界面活性剤)を1.5質量部溶解した水溶液中に添加し、撹拌することで乳化モノマー組成物を作製した。次いで、四つ口フラスコにイオン交換水を173質量部、及びEmulsogen EPA073を1質量部仕込み、撹拌して溶解させ、73℃まで昇温した。そこに上記の乳化モノマー組成物の5%を投入して撹拌し、過硫酸カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)の3%水溶液(以下「3%過硫酸カリウム」という場合もある)を1.3質量部添加し、初期重合を行った。その後、80℃に温度を保ちつつ3%過硫酸カリウム5.3質量部と残りの乳化モノマー組成物を3時間30分かけて滴下しながら重合反応を進行させた。滴下終了後、60分間反応を行ない1段目の重合を終了した。次いで、メチルメタクリレート2.8質量部及びメタクリル酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)2.4質量部からなるモノマー混合物Bを3%過硫酸カリウム0.87質量部と同時に添加し2段目の重合を開始させた。滴下終了後、ジメチルエタノールアミン(東京化成工業株式会社製)を用いてpH8に調整した後1時間反応を熟成した。その後50℃に冷却し更に1時間撹拌を続けた後、イオン交換水を追加して固形分を30質量%に調整し、酸性(メタ)アクリル系樹脂、及び低分子アミン化合物としてジメチルエタノールアミンを含む水分散体(有効成分30%)を得た。これを(メタ)アクリル系樹脂水分散体1とする。
【0145】
<ウレタン系樹脂溶液1及びウレタン系樹脂水分散体1の製造>
四つ口フラスコにジエタノールアミン(富士フイルム和光純薬株式会社製)を105.1質量部仕込み、窒素ガスを通気し撹拌しながら、110℃まで昇温した。これに、アクリル酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)72.1質量部を30分かけて滴下した。110℃に2時間保ちマイケル付加反応を完結させ、液状のジオールを得た。別の四つ口フラスコに、上記で得られたジオール溶液35.4質量部と、他のジオール成分としてプロピレングリコール(富士フイルム和光純薬株式会社製)を15.2質量部仕込み、錫触媒としてジブチル錫ジラウレート(東京ファインケミカル株式会社製)を0.15質量部添加し、窒素ガスを通気し撹拌しながら、78℃まで昇温した。そして、ヘキサメチレンジイソシアネート(東京化成工業株式会社製)67.3質量部とメチルエチルケトン(東京化成工業株式会社製)118.1質量部との混合物を30分かけて滴下した。滴下後、温度78℃から80℃の還流下で24時間反応させた後、冷却して、固形分50質量%の酸性ウレタン系樹脂の溶液を得た。これをウレタン系樹脂溶液1とする。
【0146】
上記酸性ウレタン系樹脂の溶液(ウレタン系樹脂溶液1)100質量部にイオン交換水を80質量部添加し、さらに、ジメチルエタノールアミン(東京化成工業株式会社製)でpHを8に調整した。その後、50℃及び減圧下にてメチルエチルケトンを除去した。そこにイオン交換水を追加して固形分を30質量%に調整し、酸性ウレタン系樹脂、及び、低分子アミン化合物としてジメチルエタノールアミンを含む水分散体(有効成分30%)を得た。これをウレタン系樹脂水分散体1とする。
【0147】
<(メタ)アクリル系樹脂溶液a~fの製造>
下記のようにして(メタ)アクリル系樹脂溶液a~fを製造した。
【0148】
(メタ)アクリル系樹脂溶液aの製造
四つ口フラスコに、エキセパールM-OL(花王株式会社製、オレイン酸メチル)200質量部を仕込み、窒素ガスを通気し撹拌しながら、110℃まで昇温した。次に、温度を110℃に保ちながら、ベヘニルメタクリレート(日油株式会社製)50質量部、ドデシルメタクリレート(花王株式会社製)20質量部、アセトアセトキシエチルメタクリレート(日本合成化学工業株式会社製)15質量部、及びジメチルアクリルアミド(KJケミカルズ株式会社製)15質量部を混合したモノマー混合物100質量部にエキセパールM-OL 50質量部とパーブチルO(日本油脂株式会社製、t-ブチルパーオキシ2- エチルヘキサノエート)を混合した混合物を3時間かけて滴下した。その後、110℃に保ちながら1時間撹拌した後、パーブチルOを添加し更に110℃に保ちながら1時間撹拌した。固形分40質量%になるようエキセパールM-OLを追加し、(メタ)アクリル系樹脂溶液aを得た。
【0149】
(メタ)アクリル系樹脂溶液bの製造
ジメチルアクリルアミド15質量部の代わりにN-ビニルピロリドン(株式会社日本触媒製)15質量部を用いたほかは、メタクリル系樹脂溶液aの製造と同様にして、固形分40質量%の(メタ)アクリル系樹脂溶液bを得た。
【0150】
(メタ)アクリル系樹脂溶液cの製造
ジメチルアクリルアミド15質量部の代わりにアクリロイルモルホリン(KJケミカルズ株式会社製)15質量部を用いたほかは、メタクリル系樹脂溶液aの製造と同様にして、固形分40質量%の(メタ)アクリル系樹脂溶液cを得た。
【0151】
(メタ)アクリル系樹脂溶液dの製造
ジメチルアクリルアミド15質量部の代わりにM-90G(新中村化学工業株式会社製、メトキシポリエチレングリコール#400メタクリレート)15質量部を用いたほかは、メタクリル系樹脂溶液aの製造と同様にして、固形分40質量%の(メタ)アクリル系樹脂溶液dを得た。
【0152】
(メタ)アクリル系樹脂溶液eの製造
エキセパールM-OLの代りにエクソールD130(エクソンモービル社製、石油系炭化水素溶剤)を用いたほかは、メタクリル系樹脂溶液aの製造と同様にして、固形分40質量%の(メタ)アクリル系樹脂溶液eを得た。
【0153】
(メタ)アクリル系樹脂溶液fの製造
ジメチルアクリルアミド15質量部を用いず、かつ、アセトアセトキシエチルメタクリレートの量を15質量部から30質量部に変更したほかは、メタクリル系樹脂溶液aの製造と同様にして、固形分40質量%の(メタ)アクリル系樹脂溶液fを得た。
【0154】
<インクの製造>
実施例1~11及び比較例1~4のインクを下記のように製造した。
【0155】
1.分散剤含有液1~8、11~13の製造
表1~3のEM1~EM9、EM11~EM13に示す配合量で、非水系溶剤と、(メタ)アクリル系樹脂溶液又は酸性ポリマーとを混合して連続相(油相)用混合物を調製した。このようにして調製した連続相用混合物に、分散相(水相)用混合物として、表1~3のEM1~EM9、EM11~EM13に記載する酸性樹脂及び低分子アミン化合物を含む水分散体(ウレタンウレア系樹脂水分散体1~3、(メタ)アクリル系樹脂水分散体1、又はウレタン系樹脂水分散体1)を滴下しながら、氷冷下、超音波ホモジナイザー「Ultrasonic processor VC-750」(ソニックス社製)を10分間照射し、油中水(W/O)型エマルション(EM1~9、11~13)を得た。
EM9では、水相と油相が分離して油中水型エマルションを得ることができなかったため、以下の操作を行わなかった。
得られた油中水型エマルション(EM1~8、11~13)のそれぞれを、ロータリーエバポレーター「RE601」(ヤマト化学株式会社製)を用い、80℃の水浴で、真空度100hPaで減圧し、エマルション100gあたり1時間処理し、エマルション中の水を除去して、固形分40%の樹脂粒子分散体として、分散剤分散体を得た。水の除去率は、ほぼ100質量%であった。EM1~8、11~13を用いて、このように水を除去して得られた分散剤分散体を、それぞれ分散剤含有液1~8、11~13(いずれも固形分40%)(以下、それぞれ、分散剤1~8、11~13という場合もある。)とする。
【0156】
2.分散剤含有液10の製造
表3のML10に示す配合量で、非水系溶剤と(メタ)アクリル系樹脂溶液aとを混合した。ここに、表3のML10に示す量で酸性樹脂の溶液(ウレタン系樹脂溶液1)を添加し、混合液を得た。この混合液をML10とする。このML10について、ロータリーエバポレーター「RE601」(ヤマト化学株式会社製)にて、60℃の水浴で、真空度100hPaで減圧し、メチルエチルケトンを除去して、分散剤含有液10(固形分40%)(以下、分散剤10という場合もある。)を得た。なお、表2及び3の「油中水型エマルション中の水の量」は、ML10については、混合液ML10中の水の量を示す。
【0157】
【0158】
【0159】
【0160】
3.インクの製造
表4及び5に示す配合量で、顔料を、分散剤含有液及び非水系溶剤と混合し、ビーズミル「ダイノーミル Multi LAB」(株式会社シンマルエンタープライゼス製)にて分散し、実施例1~11及び比較例1、3及び4のインクを得た。なお、比較例2は、顔料が凝集し、インクを得ることができなかったため、比較例2については、下記の評価は行われなかった。
【0161】
<評価>
上記のようにして得られた実施例1~11及び比較例1、3及び4のインクについて、以下の評価方法に従って評価を行った。結果を表4及び5に示す。
【0162】
1.凝集物
インクジェットプリンタ「オルフィスGD9630」(理想科学工業株式会社製)にインクを導入し、インク経路内にインクを循環させた状態で2週間放置した。インク経路からインクを1ml抜き出して光学顕微鏡で観察し、下記の評価基準により凝集物の評価を行った。
【0163】
(評価基準)
A:凝集物が観察されない
B:凝集物が観察される
【0164】
2.貯蔵安定性
まず、インク作製直後のインクの粘度を測定した。
次に、インクを密閉容器に入れて、70℃で4週間放置した。その後、インクをサンプリングし、インク粘度を測定した。
インク粘度は23℃における粘度であり、レオメーターAR-G2(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製)を用いて、コーン角度2°、直径40mmで測定した。
作製直後のインク粘度及び4週間放置前後のインク粘度から、次式により粘度変化率を求め、以下の基準で貯蔵安定性を評価した。
粘度変化率(%)=[(4週間放置後のインク粘度×100)/(作製直後の粘度)]-100(%)
(評価基準)
A:粘度変化率の絶対値が5%未満
B:粘度変化率の絶対値が5%以上
【0165】
3.耐擦過性
各インクをインクジェットプリンタ「オルフィスGD9630」(理想科学工業株式会社製)に装填し、普通紙「理想用紙マルチ」(理想科学工業株式会社製)にベタ画像を印刷した。印刷から24時間後に、印刷物のベタ画像を有する表面のベタ画像部を含む領域を、クロックメーター(アトラスエレクトリック デバイス社製「CM-1」)を用い白綿布で5秒間に5回擦って、画像周辺の汚染を以下の基準で評価した。
【0166】
(評価基準)
AA:画像周辺の汚染がほとんど見られない
A:画像周辺の汚染がわずかに見られる
B:画像周辺の汚染が見られる
【0167】
【0168】
【0169】
各表に示す通り、各実施例のインクでは、凝集物の評価において、いずれも凝集物は観察されなかった。これに対して、低分子アミン化合物を用いていない分散剤10が用いられた比較例1、一般式(1)で表される基及び一般式(2)で表される基からなる群から選択される少なくとも1つの基を含む(メタ)アクリル系樹脂ではなく酸性ポリマー1を用いた分散剤11が用いられた比較例3、及び、一般式(1)で表される基及び一般式(2)で表される基のいずれも含まない(メタ)アクリル系樹脂を用いた分散剤13が用いられた比較例4では、いずれも凝集物の評価において凝集物が観察された。
酸性樹脂として、酸性ウレタンウレア系樹脂が用いられた分散剤1~3及び6~8のいずれかを用いた実施例1~3及び6~11では、耐擦過性が向上していた。
実施例1~11のインクは、いずれも良好な貯蔵安定性を示した。