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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】不溶化材
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/70 20220101AFI20230904BHJP
   B09B 3/20 20220101ALI20230904BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20230904BHJP
   C02F 11/00 20060101ALI20230904BHJP
【FI】
B09B3/70
B09B3/20
C09K3/00 S ZAB
C02F11/00 101Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019236271
(22)【出願日】2019-12-26
(65)【公開番号】P2021104480
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【弁理士】
【氏名又は名称】村地 俊弥
(72)【発明者】
【氏名】森 喜彦
(72)【発明者】
【氏名】七尾 舞
(72)【発明者】
【氏名】松山 祐介
(72)【発明者】
【氏名】肥後 康秀
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-49330(JP,A)
【文献】特開2018-158306(JP,A)
【文献】特開平10-128273(JP,A)
【文献】特開2003-175370(JP,A)
【文献】特開2016-169494(JP,A)
【文献】特開2021-53534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 1/00-5/00
B09C 1/00-1/10
C09K 3/00
C02F 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃棄物に含まれている重金属類を不溶化するための不溶化材であって、
上記不溶化材は、塩化鉄含有物質を含むものであり、
上記塩化鉄含有物質は、塩化鉄を主成分として含み、かつ、20℃の条件下で、蒸留水と、質量比(塩化鉄含有物質/蒸留水)が1/10となる量で混合し攪拌した後、3時間経過した時のpHが2.0~2.6であることを特徴とする不溶化材。
【請求項2】
上記塩化鉄含有物質中のMnの含有率が0.05~0.4質量%である請求項1に記載の不溶化材。
【請求項3】
上記塩化鉄含有物質中のZnの含有率が0.01~0.4質量%である請求項1又は2に記載の不溶化材。
【請求項4】
上記塩化鉄が塩化第一鉄である請求項1~3のいずれか1項に記載の不溶化材。
【請求項5】
上記塩化鉄含有物質中、目開き500μmの篩を通過する上記塩化鉄含有物質の割合が50質量%以上である請求項1~4のいずれか1項に記載の不溶化材。
【請求項6】
さらに、酸化マグネシウム含有物質を含む請求項1~5のいずれか1項に記載の不溶化材。
【請求項7】
さらに、セメント、生石灰、消石灰、及び高炉スラグ微粉末から選ばれる1種以上を含む請求項1~6のいずれか1項に記載の不溶化材。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の不溶化材と、重金属類を含む廃棄物を混合して、上記廃棄物に含まれている重金属類を不溶化するための方法であって、上記廃棄物に含まれているCaOとAlの質量比(CaO/Al)が0.10~20.0であることを特徴とする、廃棄物に含まれている重金属類の不溶化処理方法。
【請求項9】
上記廃棄物に含まれているSOとCaOの質量比(SO/CaO)が0.03~0.6である請求項8に記載の不溶化処理方法。
【請求項10】
上記重金属類が、セレン及びその化合物、六価クロム化合物、並びに、ひ素及びその化合物から選ばれる少なくとも1種を含むものである、請求項8又は9に記載の不溶化処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物に含まれている重金属類を不溶化するための不溶化材に関する。
【背景技術】
【0002】
廃棄物から、有害物質である重金属類の溶出を抑制する処理方法として、廃棄物に不溶化材を添加して混合し、重金属類を不溶化する方法が知られている。
例えば、特許文献1には、Se含有灰に第一鉄塩を添加、混練することにより、該Se含有灰からのSeの溶出を防止するSe含有灰の処理方法において、該Se含有灰にアルカリを添加して該Se含有灰をpH11以上とした後、pH11以上を維持した状態で第一鉄塩の添加、混練を行うことを特徴とするSe含有灰の処理方法が記載されている。
また、特許文献2には、重金属類を含む焼却灰、酸化マグネシウム含有物質、鉄化合物、及び水を含むことを特徴とする固化不溶化体が記載されている。該固化不溶化体は、重金属類を含む焼却灰を含むにもかかわらず、重金属類の溶出量が低く、土工資材として使用しても、土壌が重金属類によって汚染されるおそれがないものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3831832号公報
【文献】特開2018-158306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、廃棄物に含まれている重金属類を不溶化することができる不溶化材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、不溶化材であって、該不溶化材は、塩化鉄含有物質を含むものであり、該塩化鉄含有物質は、塩化鉄を主成分として含み、かつ、20℃の条件下で、蒸留水と、質量比(塩化鉄含有物質/蒸留水)が1/10となる量で混合し攪拌した後、3時間経過した時のpHが2.0~2.6である不溶化材によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[10]を提供するものである。
[1] 廃棄物に含まれている重金属類を不溶化するための不溶化材であって、上記不溶化材は、塩化鉄含有物質を含むものであり、上記塩化鉄含有物質は、塩化鉄を主成分として含み、かつ、20℃の条件下で、蒸留水と、質量比(塩化鉄含有物質/蒸留水)が1/10となる量で混合し攪拌した後、3時間経過した時のpHが2.0~2.6であることを特徴とする不溶化材。
[2] 上記塩化鉄含有物質中のMnの含有率が0.05~0.4質量%である前記[1]に記載の不溶化材。
[3] 上記塩化鉄含有物質中のZnの含有率が0.01~0.4質量%である前記[1]又は[2]に記載の不溶化材。
【0006】
[4] 上記塩化鉄が塩化第一鉄である前記[1]~[3]のいずれかに記載の不溶化材。
[5] 上記塩化鉄含有物質中、目開き500μmの篩を通過する上記塩化鉄含有物質の割合が50質量%以上である前記[1]~[4]のいずれかに記載の不溶化材。
[6] さらに、酸化マグネシウム含有物質を含む前記[1]~[5]のいずれかに記載の不溶化材。
[7] さらに、セメント、生石灰、消石灰、及び高炉スラグ微粉末から選ばれる1種以上を含む前記[1]~[6]のいずれかに記載の不溶化材。
[8] 前記[1]~[7]のいずれかに記載の不溶化材と、重金属類を含む廃棄物を混合して、上記廃棄物に含まれている重金属類を不溶化するための方法であって、上記廃棄物に含まれているCaOとAlの質量比(CaO/Al)が0.10~20.0であることを特徴とする、廃棄物に含まれている重金属類の不溶化処理方法。
[9] 上記廃棄物に含まれているSOとCaOの質量比(SO/CaO)が0.03~0.6である前記[8]に記載の不溶化処理方法。
[10] 上記重金属類が、セレン及びその化合物、六価クロム化合物、並びに、ひ素及びその化合物から選ばれる少なくとも1種を含むものである、前記[8]又は[9]に記載の不溶化処理方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の不溶化材によれば、廃棄物に含まれている重金属類を不溶化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の不溶化材は、廃棄物に含まれている重金属類を不溶化するための不溶化材であって、不溶化材は、塩化鉄含有物質を含むものであり、塩化鉄含有物質は、塩化鉄を主成分として含み、かつ、20℃の条件下で、蒸留水と、質量比(塩化鉄含有物質/蒸留水)が1/10となる量で混合し攪拌した後、3時間経過した時のpHが2.0~2.6であるものである。以下、詳しく説明する。
塩化鉄を主成分として含む塩化鉄含有物質とは、塩化鉄含有物質中の塩化鉄の含有率が、無水物換算で、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上であるものである。該含有率が90質量%以上であれば、廃棄物からの重金属類の溶出量をより小さくすることができる。
【0009】
塩化鉄含有物質は、20℃の条件下で、蒸留水と、質量比(塩化鉄含有物質/蒸留水)が1/10となる量で混合し攪拌した後、3時間経過した時のpHが2.0~2.6(好ましくは2.1~2.5、より好ましくは2.2~2.4)であるものである。上記pHが2.0未満の塩化鉄含有物質の粉粒体は入手が困難である。また、不溶化処理にあたり、使用する設備に制約や制限が生じる場合がある。上記pHが2.6以下であれば、廃棄物からの重金属類の溶出量をより小さくすることができる。
また、塩化鉄含有物質に含まれる塩化物は、塩化第一鉄(塩化鉄(II))及び塩化第二鉄(塩化鉄(III))のいずれでもよい。一般に、塩化第一鉄は塩化第二鉄に比べて高価ではあるが、不純物を多く含むもの(低品質であるもの)であれば、安価に入手できる観点から、本発明において、このような低品質の塩化第一鉄を用いてもよい。
また、塩化鉄含有物質に含まれる塩化鉄は、無水物であっても水和物(例えば、塩化第一鉄2水和物、塩化第一鉄4水和物)であってもよい。
【0010】
塩化鉄含有物質中のMnの含有率は、好ましくは0.05~0.4質量%、より好ましくは0.08~0.35質量%、特に好ましくは0.10~0.3質量%である。該含有率が0.05質量%未満の塩化鉄含有物質は入手が困難である。該含有率が0.4質量%以下であれば、廃棄物からの重金属類の溶出量をより小さくすることができる。
また、塩化鉄含有物質中のZnの含有率は、好ましくは0.01~0.4質量%、より好ましくは0.02~0.35質量%、特に好ましくは0.03~0.3質量%である。該含有率が0.01質量%未満の塩化鉄含有物質は入手が困難である。該含有率が0.4質量%以下であれば、周辺環境への悪影響を及ぼすZnの溶出量を小さくすることができる。
【0011】
塩化鉄含有物質中、目開き500μmの篩を通過する塩化鉄含有物質の量は、50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、特に好ましくは70質量%以上である。該量が50質量%以上であれば、廃棄物からの重金属類の溶出量をより小さくすることができる。
【0012】
不溶化材中の塩化鉄含有物質の含有率は、廃棄物からの重金属類の溶出量をより小さくする観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは8質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは25質量%以上、さらに好ましくは35質量%以上、特に好ましくは40質量%以上である。
【0013】
本発明の不溶化材は、さらに、酸化マグネシウム含有物質を含んでいてもよい。酸化マグネシウム含有物質を含むことによって、廃棄物からの重金属類の溶出量をより小さくすることができる。
酸化マグネシウム含有物質の例としては、軽焼マグネシア、軽焼マグネシアの部分水和物、軽焼ドロマイト、及び軽焼ドロマイトの部分水和物等が挙げられる。
不溶化材中の酸化マグネシウム含有物質の含有率は、廃棄物からの重金属類の溶出量をより小さくする観点から、好ましくは30~95質量%、より好ましくは40~92質量%、特に好ましくは45~85質量%である。
また、不溶化材が酸化マグネシウム含有物質を含む場合、不溶化材中の塩化鉄含有物質の含有率は、酸化マグネシウム含有物質の量を大きくすることで、廃棄物からの重金属類の溶出量をより小さくする観点から、好ましくは5~70質量%、より好ましくは8~60質量%、特に好ましくは15~55質量%である。
【0014】
酸化マグネシウム含有物質のブレーン比表面積は、好ましくは2,000~10,000cm/g、より好ましくは3,000~9,000cm/g、特に好ましくは4,000~8,000cm/gである。該比表面積が2,000cm/g以上であれば、重金属類の溶出量をより小さくすることができる。該比表面積が10,000cm/g以下であれば、材料の入手が容易となる。
【0015】
本発明の不溶化材は、さらに、セメント、生石灰、消石灰、及び高炉スラグ微粉末から選ばれる1種以上(以下、「アルカリ性材料」ともいう。)を含んでいてもよい。アルカリ性材料を含むことによって、不溶化処理後の廃棄物のpHを中性領域(例えば、5.8~8.6)とし、該廃棄物を、土工資材等としての再利用する際に、その用途に制限が生じないようにしたり、不溶化処理後の廃棄物を造粒する(粒度を大きくする)ことができる。
セメントの例としては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメントや、高炉セメント、フライアッシュセメント等の混合セメントや、エコセメント等が挙げられる。
【0016】
不溶化材中のアルカリ性材料の含有率は、好ましくは10~90質量%、より好ましくは15~80質量%、特に好ましくは20~75質量%である。該含有率が10質量%以上であれば、不溶化処理後の廃棄物のpHを中性領域とする効果や、不溶化処理後の廃棄物の粒度を大きくする効果をより大きくすることができる。該含有率が90質量%以下であれば、廃棄物からの重金属類の溶出量をより小さくすることができる。
また、不溶化材がアルカリ性材料を含む場合、不溶化材中の塩化鉄含有物質の含有率は、好ましくは10~90質量%、より好ましくは20~85質量%、特に好ましくは25~80質量%である。該含有率が5質量%以上であれば、廃棄物からの重金属類の溶出量をより小さくすることができる。該含有率が70質量%以下であれば、不溶化処理後の廃棄物のpHを中性領域とする効果や、不溶化処理後の廃棄物の粒度を大きくする効果をより大きくすることができる。
【0017】
アルカリ性材料のブレーン比表面積は、好ましくは2,000~10,000cm/g、より好ましくは2,500~9,000cm/g、特に好ましくは3,000~8,000cm/gである。該比表面積が2,000cm/g以上であれば、重金属類の溶出量をより小さくすることができる。該比表面積が10,000cm/g以下であれば、材料の入手が容易となる。
【0018】
本発明の不溶化材は、廃棄物からの重金属類の溶出量がより小さくなる観点から、粉粒状物であることが好ましい。
ここで、本明細書中、「粉粒状」とは、粉状の材料(0.1mm未満の粒度を有するもの;粉体)の集合体、粒状の材料(0.1mm以上の粒度を有するもの;粒体)の集合体、または、粉状の材料および粒状の材料を含む集合体の形態を有することを意味する。また、「粉粒状物」とは、粉体の集合体、粒体の集合体、または、粉体および粒体を含む集合体を意味する。さらに、「粒度」とは、粉体または粒体における最大寸法(例えば、断面がだ円である粒体においては、長軸の寸法をいう。)
【0019】
本発明の廃棄物の不溶化処理方法は、上述の不溶化材と、重金属類を含む廃棄物を混合して、上記廃棄物に含まれている重金属類を不溶化する方法であって、上記廃棄物に含まれているCaOとAlの質量比(CaO/Al)が0.10~20.0であるものである。
不溶化処理の対象となる重金属類は、土壌汚染対策法(平成15年)に規定されている第二種特定有害物質である。具体的には、カドミウム及びその化合物、シアン化合物、六価クロム化合物、水銀及びその化合物、セレン及びその化合物、鉛及びその化合物、ひ素及びその化合物、ふっ素及びその化合物、並びに、ほう素及びその化合物である。
これらは、廃棄物中に、1種含まれていてもよく、2種以上含まれていてもよい。
なお、ふっ素、及びほう素は、重金属元素ではないが、これらの元素及びその化合物は重金属類に含まれるものとする。
重金属類の中でも、不溶化処理が難しく、比較的に問題となりやすい金属元素であるにもかかわらず、不溶化することができる観点から、セレン及びその化合物、六価クロム化合物、並びに、ひ素及びその化合物から選ばれる少なくとも1種が、本発明における不溶化の対象物として好適である。
【0020】
本明細書中、廃棄物とは、産業廃棄物または一般廃棄物をいう。
産業廃棄物とは、事業活動に伴って生じた廃棄物をいう。
産業廃棄物の例としては、生コンスラッジ、各種汚泥(例えば、下水汚泥、浄水汚泥、製鉄汚泥等)、建築廃材、コンクリート廃材、各種焼却灰(例えば、石炭灰、鶏糞灰、家畜糞灰、バイオマス灰、汚泥焼却灰)、鋳物砂、ロックウール、廃ガラス、高炉2次灰、各種副産物、未利用資源(使用されずに残存した材料等)等が挙げられる。
一般廃棄物とは、産業廃棄物以外の廃棄物をいう。
一般廃棄物の例としては、下水汚泥乾粉、都市ごみ焼却灰、貝殻等が挙げられる。
中でも、重金属類をより不溶化することができる観点から、廃棄物の生成前の材料(例えば、廃棄物が石炭灰であれば、石炭)を600~1,300℃(好ましくは620~1250℃、より好ましくは650~1,100℃、特に好ましくは650~1,000℃)で加熱したことによって生成された廃棄物が好適である。
【0021】
廃棄物に含まれているCaOとAlの質量比(CaO/Al)は、好ましくは0.10~20.0、より好ましくは0.11~18.0、さらに好ましくは0.12~15.0、さらに好ましくは0.12~14.0質量%、特に好ましくは0.12~13.0質量%である。上記質量比が0.1以上であれば、廃棄物からの重金属類の溶出量をより小さくすることができる。上記質量比が20.0以下であれば、不溶化処理後の廃棄物に含まれるCaOの量をより小さくして、発熱や反応性等の問題から、不溶化処理後の廃棄物を、土工資材等としての再利用する際に、その用途に制限が生じにくくすることができる。
【0022】
また、廃棄物に含まれているSOとCaOの質量比(SO/CaO)は、好ましくは0.03~0.60、より好ましくは0.04~0.57、さらに好ましくは0.05~0.54、特に好ましくは0.06~0.50である。上記質量比が0.03以上であれば、廃棄物からの重金属類の溶出量をより小さくすることができる。上記質量比が0.6以下であれば、不溶化処理後の廃棄物に含まれるSOの量が少なくなるため、保管時に硫化水素が発生するリスクが低くなり、土工資材等としての再利用する際に、その用途に制限が生じにくくなる。
【0023】
重金属類を含む廃棄物100質量部に対する、不溶化材の量(無水物換算)は、好ましくは0.1~20質量部、より好ましくは0.5~15質量部、特に好ましくは1~12質量部である。該量が0.1質量部以上であれば、廃棄物からの重金属類の溶出量をより小さくすることができる。該量が20質量部以下であれば、不溶化材にかかるコストの過度の上昇を防ぐことができる。
不溶化材と重金属類を含む廃棄物を混合する方法の例としては、粉粒体のままの不溶化材と、重金属類を含む廃棄物を混合する方法や、不溶化材に水を加えてスラリーとし、該スラリーと、重金属類を含む廃棄物を混合する方法が挙げられる。
【0024】
上述した廃棄物の不溶化処理方法を行う前に、後述するpH測定工程と判定工程を含む廃棄物の処理の適否の評価方法を行ってもよい。該評価方法を予め行うことで、重金属類を含む廃棄物の効率的な不溶化処理を行うことができる。
[pH算出工程]
本工程は、20℃の条件下で、塩化鉄含有物質と蒸留水を、質量比(塩化鉄含有物質/蒸留水)が1/10となる量で混合し攪拌した後、3時間経過した際のpHを測定する工程である。
[判定工程]
本工程は、塩化鉄含有物質が、pH算出工程で得られたpHが2.0~2.6の範囲内であるという条件を満たしているかを調べて、上記塩化鉄含有物質が上記条件を満たしている場合に、上記塩化鉄含有物質を含む不溶化材を、該不溶化材と重金属類を含む廃棄物との混合による不溶化処理に用いられる不溶化材とし、上記塩化鉄含有物質が上記条件を満たしていない場合に、上記塩化鉄含有物質を含む不溶化材を用いて、上記不溶化処理を行わないと判定する工程である。
【実施例
【0025】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[使用材料]
(1)廃棄物A;焼却灰(セレン及びその化合物の溶出量:0.046mg/リットル、CaO/Al:0.13、SO/CaO:0.08)
(2)廃棄物B;焼却灰(セレン及びその化合物の溶出量:0.02mg/リットル、六価クロム化合物の溶出量:0.7mg/リットル、CaO/Al:3.21、SO/CaO:0.15)
(3)廃棄物C;掘削ずり(ひ素及びその化合物の溶出量:0.012mg/リットル、ふっ素及びその化合物の溶出量:0.11mg/リットル、CaO/Al:0.58、SO/CaO:0.06)
(4)廃棄物D;汚泥(セレン及びその化合物の溶出量:0.038mg/リットル、CaO/Al:12.82、SO/CaO:0.06)
(5)廃棄物E;汚泥(六価クロム化合物の溶出量:0.1mg/リットル、CaO/Al:2.1、SO/CaO:0.49)
なお、廃棄物A~Eの重金属類の溶出量は、環境省告示第18号に準拠して測定した値である。
【0026】
(6)塩化鉄含有物質A;塩化鉄:98質量%以上(塩化第一鉄2水和物:80質量%、塩化第二鉄6水和物:18質量%、酸化鉄:1質量%)
(7)塩化鉄含有物質B;塩化鉄:98質量%以上(塩化第一鉄2水和物:1質量%、塩化第一鉄4水和物:98質量%)
(8)塩化鉄含有物質C;塩化鉄:98質量%以上(塩化第一鉄4水和物:99質量%)
(9)塩化鉄含有物質D;塩化鉄:98質量%以上(塩化第一鉄4水和物:98質量%)
なお、塩化鉄含有物質A~DのpH等の物性を以下の方法等に従って測定した。
(i)pH及びORP(酸化還元電位)の測定
20℃の条件下で、塩化鉄含有物質と蒸留水を、質量比(塩化鉄含有物質/蒸留水)が1/10となる量で混合し攪拌した後、3時間経過した際のpH、及び、ORPを、「JIS K 0102:2013(工業排水試験方法)」12.1ガラス電極法を用いて測定した。
(ii) 篩通過量の測定
目開き500μmの篩を通過する塩化鉄含有物質の割合(表1中、「篩通過量」と示す。)を、「JIS Z 8815:1995(ふるい分け試験方法通則)」に準拠して測定した。
(iii) ゆるみ密度及び固め密度の測定
塩化鉄含有物質のゆるみ密度及び固め密度を測定した。
(iv) Mn及びZnの含有率の測定
塩化鉄含有物質中、Mn及びZnの含有率を測定した。
以上の(i)~(iv)の測定の結果を表1に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
(10)軽焼マグネシア;ブレーン比表面積:6,040cm/g
(11)軽焼ドロマイト;ブレーン比表面積:7,260cm/g
(12)高炉セメント;太平洋セメント社製、ブレーン比表面積:3,750cm/g
(13)高炉スラグ微粉末(表3中、「高炉スラグ」と示す。);ブレーン比表面積:4,050cm/g
(14)生石灰;ブレーン比表面積:6,800cm/g
(15)普通ポルトランドセメント;太平洋セメント社製、ブレーン比表面積:3,350cm/g
【0029】
[実施例1~2、比較例1]
表2に示す種類及び配合割合で、塩化鉄含有物質と酸化マグネシウム含有物質からなる粉粒状の不溶化材と、廃棄物Aを、同時にホバート社製の縦型ミキサに投入した後、3分間混合して不溶化処理を行った。なお、不溶化材の量は、廃棄物A100質量部に対して、10質量部となる量(無水物換算)とした。
不溶化処理後の廃棄物からのセレン及びその化合物の溶出量(表2~3中、「セレン溶出量」と示す。)を、環境省告示第18号に準拠して測定した。結果を表2に示す。
【0030】
【表2】
【0031】
表2から、実施例1~2(塩化鉄含有物質における上記pHが2.2~2.4であるもの)では、不溶化処理後の廃棄物からのセレン及びその化合物の溶出量が、環境省告示第18号で規定されたセレン及びその化合物の溶出基準値(0.01mg/リットル以下)を満たしていることがわかる。
一方、比較例1(塩化鉄含有物質における上記pHが3.2であるもの)では、不溶化処理後の廃棄物からのセレン及びその化合物の溶出量は、環境省告示第18号で規定されたセレン及びその化合物の溶出基準値(0.01mg/リットル以下)を満たしていないことがわかる。
【0032】
[実施例3~7、比較例2~6]
表3に示す種類及び配合割合で、塩化鉄含有物質とアルカリ性材料からなる粉粒状の不溶化材と、廃棄物Bを、同時にホバート社製の縦型ミキサに投入した後、3分間混合して不溶化処理を行った。なお、不溶化材の量は、廃棄物B100質量部に対して、表3に示す量(無水物換算)とした。
不溶化処理後の廃棄物からのセレン及びその化合物の溶出量、並びに、六価クロム化合物の溶出量(表3中、「六価クロム溶出量」と示す。)を、環境省告示第18号に準拠して測定した。結果を表3に示す。
【0033】
【表3】
【0034】
表3から、実施例3~7(塩化鉄含有物質における上記pHが2.2~2.4であるもの)では、不溶化処理後の廃棄物からのセレン及びその化合物の溶出量が、環境省告示第18号で規定されたセレン及びその化合物の溶出基準値(0.01mg/リットル以下)を満たし、かつ、不溶化処理後の廃棄物からの六価クロム化合物の溶出量が、環境省告示第18号で規定された六価クロム化合物の溶出基準値(0.05mg/リットル以下)を満たしていることがわかる。
一方、比較例2及び6(塩化鉄含有物質における上記pHが3.2であるもの)では、不溶化処理後の廃棄物からのセレン及びその化合物の溶出量が、環境省告示第18号で規定されたセレン及びその化合物の溶出基準値(0.01mg/リットル以下)を満たしていないことがわかる。また、比較例6では、不溶化処理後の廃棄物からの六価クロム化合物の溶出量は、環境省告示第18号で規定された六価クロム化合物の溶出基準値(0.05mg/リットル以下)を満たしていないことがわかる。
また、比較例3~5(塩化鉄含有物質における上記pHが2.7であるもの)では、不溶化処理後の廃棄物からの六価クロム化合物の溶出量は、環境省告示第18号で規定された六価クロム化合物の溶出基準値(0.05mg/リットル以下)を満たしていないことがわかる。
【0035】
[実施例8~9、比較例7]
表4に示す種類及び配合割合で、塩化鉄含有物質と酸化マグネシウム含有物質からなる粉粒状の不溶化材と、廃棄物Cを、同時にホバート社製の縦型ミキサに投入した後、3分間混合して不溶化処理を行った。なお、不溶化材の量は、廃棄物C100質量部に対して、1質量部となる量(無水物換算)とした。
不溶化処理後の廃棄物からのひ素及びその化合物の溶出量(表4中、「ひ素溶出量」と示す。)を、環境省告示第18号に準拠して測定した。結果を表4に示す。
【0036】
【表4】
【0037】
表4から、実施例8~9(塩化鉄含有物質における上記pHが2.2~2.4であるもの)では、不溶化処理後の廃棄物からのひ素及びその化合物の溶出量が、環境省告示第18号で規定されたひ素及びその化合物の溶出基準値(0.01mg/リットル以下)を満たしていることがわかる。
一方、比較例7(塩化鉄含有物質における上記pHが3.2であるもの)では、不溶化処理後の廃棄物からのひ素及びその化合物の溶出量が、環境省告示第18号で規定されたひ素及びその化合物の溶出基準値(0.01mg/リットル以下)を満たしていないことがわかる。
【0038】
[実施例10、比較例8]
表5に示す種類及び配合割合で、塩化鉄含有物質とアルカリ性材料からなる粉粒状の不溶化材と、廃棄物Dを、同時にホバート社製の縦型ミキサに投入した後、3分間混合して不溶化処理を行った。なお、不溶化材の量は、廃棄物D100質量部に対して、9質量部となる量(無水物換算)とした。
不溶化処理後の廃棄物からのセレン及びその化合物の溶出量(表5中、「セレン溶出量」と示す。)を、環境省告示第18号に準拠して測定した。結果を表5に示す。
【0039】
【表5】
【0040】
表5から、実施例10(塩化鉄含有物質における上記pHが2.4であるもの)では、不溶化処理後の廃棄物からのセレン及びその化合物の溶出量が、環境省告示第18号で規定されたセレン及びその化合物の溶出基準値(0.01mg/リットル以下)を満たしていることがわかる。
一方、比較例8(塩化鉄含有物質における上記pHが3.2であるもの)では、不溶化処理後の廃棄物からのセレン及びその化合物の溶出量が、環境省告示第18号で規定されたセレン及びその化合物の溶出基準値(0.01mg/リットル以下)を満たしていないことがわかる。
【0041】
[実施例11、比較例9]
表6に示す種類の塩化鉄含有物質からなる粉粒状の不溶化材と、廃棄物Eを、同時にホバート社製の縦型ミキサに投入した後、3分間混合して不溶化処理を行った。なお、不溶化材の量は、廃棄物E100質量部に対して、1質量部となる量(無水物換算)とした。
不溶化処理後の廃棄物からの六価クロム化合物の溶出量(表6中、「六価クロム溶出量」と示す。)を、環境省告示第18号に準拠して測定した。結果を表6に示す。
【0042】
【表6】
【0043】
表6から、実施例11(塩化鉄含有物質における上記pHが2.4であるもの)では、不溶化処理後の廃棄物からの六価クロム及びその化合物の溶出量が、環境省告示第18号で規定された六価クロム及びその化合物の溶出基準値(0.05mg/リットル以下)を満たしていることがわかる。
一方、比較例9(塩化鉄含有物質における上記pHが2.7であるもの)では、不溶化処理後の廃棄物からの六価クロム及びその化合物の溶出量が、環境省告示第18号で規定された六価クロム及びその化合物の溶出基準値(0.05mg/リットル以下)を満たしていないことがわかる。