(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】半透膜支持体
(51)【国際特許分類】
B01D 69/10 20060101AFI20230904BHJP
D21H 13/10 20060101ALI20230904BHJP
【FI】
B01D69/10
D21H13/10
(21)【出願番号】P 2020002738
(22)【出願日】2020-01-10
【審査請求日】2022-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2019180432
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉田 光男
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-159197(JP,A)
【文献】特開2014-180639(JP,A)
【文献】特開2017-104840(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
D21H 13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主体合成繊維とバインダー合成繊維とを含有してなる不織布からなる半透膜支持体において、
不織布が湿式不織布であり、湿式抄紙法において、抄紙網に接した面が半透膜支持体の半透膜が設けられる面であることを特徴とする半透膜支持体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半透膜支持体に関する。
【背景技術】
【0002】
海水の淡水化、浄水器、食品の濃縮、廃水処理、血液濾過に代表される医療用、半導体洗浄用の超純水製造等の分野で、半透膜が広く用いられている。半透膜は、セルロース系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリエステル系樹脂等の合成樹脂で構成されている。しかしながら、半透膜単体では機械的強度に劣るため、不織布や織布等の繊維基材からなる半透膜支持体の片面に半透膜が設けられた複合体の形態である分離膜として使用されている。半透膜支持体の半透膜が設けられる面を「塗布面」と称し、反対側の面を「非塗布面」と称す。
【0003】
主に、半透膜支持体としては、合成繊維を含有する不織布が用いられる。半透膜支持体に要求される性能としては、半透膜と半透膜支持体との接着性が良好であること、半透膜を設けるために、半透膜溶液が半透膜支持体に塗布された際に、半透膜溶液が非塗布面に裏抜けしないこと、半透膜に欠点が少ないこと等が挙げられる。
【0004】
半透膜溶液が裏抜けしないように、半透膜支持体の均一性を高めることを目的として、合成繊維を水に分散した繊維スラリーを湿式抄紙して不織布とする工程において、抄紙時における該繊維スラリーの繊維分濃度を0.01~0.1質量%とし、かつ、該繊維スラリーに、高分子粘剤として、分子量500万以上の水溶性高分子を、繊維分質量を基準として3~15質量%含有させて抄紙する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、高分子粘剤が過剰に添加されているため、均一性は高まるが、抄紙網上での繊維スラリー粘度が高まって、抄紙網からの脱水性が低下して、生産速度が上げられないという問題が起こる可能性があった。また、抄紙後の半透膜支持体を形成する繊維表面に高分子粘剤が残留するという問題もあった。
【0005】
また、太い繊維を使用した表面粗度の大きな表面層(太い繊維層)と細い繊維を使用した緻密な構造の裏面層(細い繊維層)との二重構造を基本とした多層構造の不織布よりなる半透膜支持体が提案されている(例えば、特許文献2参照)。具体的には、太い繊維層を塗布面とし、細い繊維層を非塗布面とした半透膜支持体、細い繊維層を太い繊維層で挟み込み、塗布面と非塗布面の両方を太い繊維層とした半透膜支持体が記載されている。しかしながら、塗布面において、太い繊維を使用しているため、半透膜と半透膜支持体との接着性は向上するものの、平滑性が低く半透膜に欠点が生じやすいという問題があった。また、太い繊維を使用しているため、半透膜溶液が半透膜支持体の内部にまで入り込んでしまい、所望の半透膜の厚みを得るためには、大量の半透膜溶液が必要となるという問題があった。
【0006】
また、半透膜溶液が塗布された際に、半透膜支持体が幅方向に湾曲することによって、不均一な半透膜が製造されるという課題を解決するために、抄紙流れ方向と幅方向の引張強度比が2:1~1:1にあり、繊維の配向がばらけた状態である半透膜支持体が提案されている(例えば、特許文献3参照)。さらに、特許文献3では、半透膜と半透膜支持体の接着性を良くすること及び裏抜け防止を目的として、半透膜支持体の通気度やポアサイズを調整する方法が提案されている。しかしながら、このJIS L1096に準拠した通気度は、半透膜支持体の片面から半透膜支持体内部を通過して別の片面へ透過する空気の量を基に算出されており、塗布面の表面に塗布された半透膜溶液の非塗布面への裏抜けを正確に反映しているものではない。そのため、特許文献3で示された範囲の通気度を有する半透膜支持体に半透膜溶液を塗布した場合、半透膜溶液が裏抜けしてしまう場合があった。
【0007】
また、特許文献4では、半透膜支持体である湿式不織布シート上に局所スポット的に存在する欠点部分に半透膜溶液が塗布された場合、半透膜溶液の浸透性が部分的に変わって浸透しにくくなることによって、この部分の半透膜の厚みが極端に薄くなる場合や、半透膜表面がしわ状になる場合があるという課題を解決するために、湿式不織布を構成する合成繊維が疎な状態でシート密度が低くなっている箇所である低密度欠点を発生しにくくすることを目的として、湿式不織布の熱圧加工処理の回数、温度、ロールの種類を最適化する方法が提案されている。そして、特許文献4では、低密度欠点が無く、均一で、半透膜と半透膜支持体の接着性が良く、半透膜溶液が湿式不織布に浸透しすぎて半透膜が不均一になることを防ぐことができる半透膜支持体として、シート密度及び圧力損失を調整した半透膜支持体が提案されている。しかし、特許文献4で示された範囲のシート密度や圧力損失を有する半透膜支持体であっても、半透膜支持体の凸部による半透膜の欠点が発生する場合があった。
【0008】
また、特許文献5では、半透膜の成膜工程で発生する欠点が少なく、半透膜を保持する樹脂フレームとの接着性が良好な膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体を得るために、延伸ポリエステル繊維と未延伸ポリエステル繊維とを含有してなる不織布であり、密度が0.50~0.70g/cm3であり、内部結合強度が490mJ以上であることを特徴とする膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体が提案されている。そして、実施例では、半透膜用支持体の面強度の評価を行っている。具体的には、半透膜用支持体の表面に、透明粘着テープを空気が入らないように均一に貼り、充分に押し付けた後に、透明粘着テープをゆっくりと剥がし、透明粘着テープの粘着剤面に残った繊維の様子を目視によって評価を行い、粘着テープに繊維が貼り付くか否かを評価し、半透膜を設ける際の繊維脱落の指標としているが、半透膜の欠点は評価されていない。
【0009】
また、特許文献6では、半透膜支持体にバインダー合成繊維の溶融髭が存在することにより、溶融髭と半透膜とのアンカー効果によって、半透膜が半透膜支持体から剥離しにくくなり、半透膜と半透膜支持体との接着性が良好になるという効果を達成でき、溶融髭が存在することによって、半透膜溶液の裏抜けを防止する効果を達成できるとしている。半透膜表面観察においては、繊維や溶融髭を観察している。溶融髭は半透膜と半透膜支持体との接着性や半透膜溶液の裏抜けには効果があるものの、半透膜の欠点がすべて解消されるわけではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2008-238147号公報
【文献】特公平4-21526号公報
【文献】特開2002-95937号公報
【文献】国際公開第2012/090874号パンフレット
【文献】特開2016-159197号公報
【文献】特開2017-104840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、半透膜の欠点の少ない半透膜支持体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は、下記手段によって解決された。
【0013】
(1)主体合成繊維とバインダー合成繊維とを含有してなる不織布からなる半透膜支持体において、不織布が湿式不織布であり、湿式抄紙法において、抄紙網に接した面が半透膜支持体の半透膜が設けられる面であることを特徴とする半透膜支持体。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、欠点が少ない半透膜が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】線状の欠点が発生している半透膜表面のマイクロスコープ写真である。
【
図2】
図1と同一箇所を偏光で撮影したマイクロスコープ写真である。
【
図3】繊維束が発生している半透膜支持体表面のマイクロスコープ写真である。
【
図4】繊維束が発生しているが、バインダー合成繊維で繊維束を覆っている半透膜支持体のマイクロスコープ写真である。
【
図5】テープ剥離試験で、3本以上の繊維束が離脱したセロハン粘着テープのマイクロスコープ写真である。
【
図6】テープ剥離試験で、3本以上の繊維束の離脱が無いセロハン粘着テープのマイクロスコープ写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の半透膜支持体は、主体合成繊維とバインダー合成繊維とを含有してなる不織布からなる半透膜支持体において、不織布が湿式不織布であり、湿式抄紙法において、抄紙網に接した面が半透膜支持体の半透膜が設けられる面であることを特徴とする。本明細書において、特に断りの無い限り、「3本以上の繊維束」とは「3本以上の繊維の側面同士が密着して平行に束状で存在する繊維束」を意味する。
【0017】
本発明において、半透膜支持体は、3本以上の繊維束の離脱が無い半透膜支持体であることが好ましく、特に塗布面において3本以上の繊維束の離脱が無い半透膜支持体であることが好ましい。繊維束とは、主体合成繊維やバインダー合成繊維の側面同士が密着して平行に束状で存在する状態のことである。本発明の半透膜支持体は、特に主体合成繊維同士からなる3本以上の繊維束の離脱が無い半透膜支持体であることが好ましい。3本以上の繊維束の離脱を少なくする方法について、半透膜支持体を湿式抄紙法によって製造した場合を例として説明する。3本以上の繊維束の離脱を無くすためには、主体合成繊維とバインダー合成繊維を繊維分散装置(パルパー)内で水に分散して繊維束を単繊維に解きほぐすことが重要となる。単繊維に解きほぐす方法としては、分散剤の添加、パルパーの羽根の形状・パルパー底面と羽根のクリアランスの最適化、パルパータンクの壁面への堰板の設置等が挙げられる。また、パルパーに繊維を投入する際にバインダー合成繊維を先に投入して分散した後に、主体合成繊維を投入して分散することにより、主体合成繊維の単繊維化が仮に不十分であっても、バインダー合成繊維が主体合成繊維を覆うことが可能となり、半透膜支持体からの3本以上の繊維束の離脱を抑制できると考えられる。次に、単繊維に解繊後、白水(希釈水)で繊維分散液を希釈して抄紙網に送液する工程においては、希釈された繊維分散液を攪拌装置で分散することにより、単繊維化の度合いを高められる。また、パルパーでの繊維分散後及び/又は繊維分散液希釈後に高分子粘剤として、分子量500万以上の水溶性高分子の水溶液を添加することでさらに単繊維化の度合いが高まる。
【0018】
また、湿式抄紙法では、抄紙網上に繊維分散液が供給され、余分な水を搾水してシートを得る工程では、金属糸やプラスチック糸を編み込んだ抄紙網の上でシートが形成されながら、抄紙網下に徐々に搾水される。抄紙網上でのシートの形成は、抄紙網表面に繊維が堆積して進行し、搾水の完了と共にシート形成が完了する。シート形成開始時は、抄紙網上に供給された繊維分散液の分散状態のまま繊維が堆積するために、シートの抄紙網に接する面(以下、「抄紙網に接する面」を「抄紙網面」と称する場合がある)の繊維のほぐれ状態は均一になる。一方、抄紙網上に形成中のシート上には未だ繊維分散液が存在しており、サクションによる搾水の位置、サクションの強度、抄紙網速度、繊維分散液の流速等によって、シート形成完了時におけるシートの抄紙網面と反対の面(以下、「抄紙網面と反対の面」を「抄紙フェルト面」と称する場合がある)の繊維のほぐれ状態を調整することができる。しかし、抄紙網面と比較すると、抄紙フェルト面では、繊維のほぐれ状態における均一性は低下する。また、シート形成の中盤から後半には、主体合成繊維とバインダー合成繊維の太さや長さが異なっている場合に、サクションによって同種繊維が寄り集まり、均一性がより低下する場合がある。バインダー合成繊維が寄り集まることによって、部分的にバインダー合成繊維が不足する箇所を招くことがある。そのため、湿式不織布の抄紙網面の表面強度が抄紙フェルト面の表面強度よりも高くなることから、抄紙網面が塗布面である場合、より欠点が少ない半透膜が得られる。
【0019】
湿式抄紙機で得たシートは、熱ロールによる熱圧加工を行う。熱圧加工装置(熱カレンダー装置)において、ニップされているロール間にシートが通されることによって、シートが熱圧加工することでバインダー合成繊維を溶融・軟化して主体合成繊維を固定する。シートに主体合成繊維が束状に存在して3本以上の繊維束となり、バインダー合成繊維が存在しない箇所があると、半透膜に線状の欠点が発生することから、湿式抄紙でのシート内でのバインダー合成繊維の単繊維化と、バインダー合成繊維の主体合成繊維との分散性が重要となる。
【0020】
上記の対策を行うことにより、3本以上の繊維束の離脱を抑制することができる。
【0021】
図1は、半透膜支持体に半透膜を設けた後に、染料を含有する液を圧入したときに発生した線状の着色部分を、垂直方向の上方から同軸落射光を当てて、キーエンス社製デジタルマイクロスコープ(装置名:VHX-5000)で撮影したマイクロスコープ写真である。着色部分では、半透膜の内部に染料が縦方向に線状に浸み込んでおり、この着色部分が半透膜の欠点である。マイクロスコープ写真の倍率は100倍であり、スケールバーは100μmを示している。
【0022】
図2は、
図1と同じ箇所に、垂直方向の上方から同軸落射光を当てて、偏光で撮影したマイクロスコープ写真である。実線円内の矢印で示した箇所には、縦方向に2束の繊維束が存在しており、左の繊維束の幅は約50μmであり、点線円内の矢印箇所の単繊維幅の3倍以上であることから、左の繊維束は3本以上の繊維束であることが分かる。マイクロスコープ写真の倍率は100倍であり、スケールバーは100μmを示している。これにより、線状の染色箇所には垂直方向の上方から同軸落射光を当てて撮影しただけでは確認できず、偏光で撮影することによって確認できる繊維束が半透膜の表層付近に存在しており、3本以上の繊維束のある箇所の半透膜が薄くなって欠点となり、染料が浸透したと考えられる。
【0023】
図3は、半透膜を設けた後に染料を含有する液を圧入したときに、線状の欠点が発生した半透膜支持体をN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に24時間浸漬して半透膜支持体に浸透した半透膜を溶出除去し、水洗して乾燥した後、希釈したマジックインキ(登録商標)で染色し、その後塗布面に斜光を当てて撮影したマイクロスコープ写真である。実線円内において矢印で示した4箇所を含めて、多数の繊維束が存在しており、繊維束の幅は約50μm以上である。点線円内の矢印箇所が単繊維である。単繊維の幅と繊維束の幅を比較すると、繊維束の幅は単繊維の幅の3倍以上であることから、繊維束は3本以上の繊維束であることが分かる。マイクロスコープ写真の倍率は100倍であり、スケールバーは100μmを示している。
【0024】
図4は
、半透膜支持体を希釈したマジックインキで染色した後に塗布面に斜光を当てて撮影したマイクロスコープ写真である。実線円内において矢印で示した2箇所には、3本以上の繊維束が存在しているが、溶融して変形したバインダー繊維で覆われており、表面には3本以上の繊維束が出ていない様子が分かる。点線円内の矢印箇所が単繊維である。マイクロスコープ写真の倍率は100倍であり、スケールバーは100μmを示している。
【0025】
図5は、線状の欠点が発生した半透膜支持体のテープ剥離試験を行い、セロハン粘着テープに貼り付いた繊維の状態を撮影したマイクロスコープ写真であり、実線円内の矢印で示した箇所には、3本以上の繊維束が存在することが分かる。マイクロスコープ写真の倍率は100倍であり、スケールバーは100μmを示している。
【0026】
図6は
、半透膜支持体のテープ剥離試験を行い、セロハン粘着テープに貼り付いた繊維の状態を撮影したマイクロスコープ写真であり、3本以上の繊維束の離脱が無いことが分かる。マイクロスコープ写真の倍率は100倍であり、スケールバーは100μmを示している。
【0027】
本発明において、主体合成繊維は、半透膜支持体の骨格を形成する繊維である。主体合成繊維としては、例えば、ポリオレフィン系、ポリアミド系、ポリアクリル系、ビニロン系、ビニリデン系、ポリ塩化ビニル系、ポリエステル系、ベンゾエート系、ポリクラール系、フェノール系等の繊維が挙げられるが、耐熱性の高いポリエステル系の繊維がより好ましい。また、半合成繊維のアセテート、トリアセテート、プロミックスや、再生繊維のレーヨン、キュプラ、リヨセル繊維等は性能を阻害しない範囲で含有しても良い。
【0028】
主体合成繊維の直径は、特に限定しないが、30μm以下であることが好ましい。主体合成繊維の直径が30μmを超えると、所望の半透膜の厚みを得るためには、大量の半透膜溶液が必要となるという問題が発生する場合や、半透膜溶液の裏抜けが発生する場合がある。また、不織布の表面の主体合成繊維が立ちやすくなり、半透膜を貫通して半透膜の性能が低下する場合がある。より好ましくは2~20μmであり、さらに好ましくは4~20μm、特に好ましくは6~20μmである。2μm未満の場合、半透膜溶液が半透膜支持体に浸透しにくくなり、半透膜と半透膜支持体との接着性が悪くなる場合がある。
【0029】
主体合成繊維の繊維長は、特に限定しないが、好ましくは1~12mmであり、より好ましくは3~10mmであり、さらに好ましくは4~6mmである。主体合成繊維の断面形状は円形が好ましく、抄紙工程における水への分散前の繊維における断面アスペクト比(繊維断面長径/繊維断面短径)は、1.0~1.2未満であることが好ましい。繊維断面アスペクト比が1.2以上になると、繊維分散性が低下する場合や、繊維の絡まりやもつれの発生によって、半透膜支持体の均一性や塗布面の平滑性に悪影響を及ぼす場合がある。ただし、T型、Y型、三角等の異形断面を有する繊維も、裏抜け防止、表面平滑性のために、繊維分散性等の他の特性を阻害しない範囲内で含有できる。
【0030】
主体合成繊維のアスペクト比(繊維長/直径)は、200~1000であることが好ましく、より好ましくは220~900であり、さらに好ましくは280~800である。アスペクト比が200未満の場合は、繊維の分散性は良好となるが、抄紙の際に繊維が抄紙網から脱落する場合や、抄紙網に繊維が刺さって、抄紙網からの剥離性が悪化する場合がある。一方、1000を超えた場合、繊維の三次元ネットワーク形成に寄与はするものの、繊維の絡まりやもつれの発生によって、半透膜支持体の均一性や塗布面の平滑性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0031】
本発明の半透膜支持体に係わる不織布に対して、主体合成繊維の含有量は、40~90質量%が好ましく、50~80質量%がより好ましく、60~75質量%がさらに好ましい。主体合成繊維の含有量が40質量%未満の場合、通液性が低下する恐れがある。また、90質量%を超えた場合、強度不足によって破れる恐れがある。
【0032】
本発明の半透膜支持体は、バインダー合成繊維を含有している。バインダー合成繊維の軟化点又は溶融温度(融点)以上まで温度を上げる工程を半透膜支持体の製造工程に組み入れることで、バインダー合成繊維が半透膜支持体の機械的強度を向上させる。例えば、半透膜支持体を湿式抄紙法で製造し、その後の乾燥工程でバインダー合成繊維を軟化又は溶融させることができる。
【0033】
バインダー合成繊維としては、芯鞘繊維(コアシェルタイプ)、並列繊維(サイドバイサイドタイプ)、放射状分割繊維等の複合繊維、未延伸繊維等が挙げられる。複合繊維は、皮膜を形成しにくいので、半透膜支持体の空間を保持したまま、機械的強度を向上させることができる。より具体的には、ポリプロピレン(芯)とポリエチレン(鞘)の組み合わせ、ポリプロピレン(芯)とエチレンビニルアルコール(鞘)の組み合わせ、高融点ポリエステル(芯)と低融点ポリエステル(鞘)の組み合わせ、ポリエステル等の未延伸繊維が挙げられる。また、ポリエチレンやポリプロピレン等の低融点樹脂のみで構成される単繊維(全融タイプ)や、ポリビニルアルコール系のような熱水可溶性バインダーは、半透膜支持体の乾燥工程で皮膜を形成しやすいが、特性を阻害しない範囲で使用することができる。本発明においては、高融点ポリエステル(芯)と低融点ポリエステル(鞘)の組み合わせ、ポリエステルの未延伸繊維を好ましく用いることができる。
【0034】
バインダー合成繊維の直径は特に限定されないが、好ましくは2~20μmであり、より好ましくは5~15μmであり、さらに好ましくは7~12μmである。また、主体合成繊維と異なる直径であることが好ましい。主体合成繊維と直径が異なることで、主体合成繊維と共に均一な三次元ネットワークを形成する役割も果たす。
【0035】
バインダー合成繊維の繊維長は、特に限定しないが、好ましくは1~12mmであり、より好ましくは3~10mmであり、さらに好ましくは4~6mmである。バインダー合成繊維の断面形状は円形が好ましいが、T型、Y型、三角等の異形断面を有する繊維も、裏抜け防止、塗布面の平滑性、非塗布面同士の接着性のために、他の特性を阻害しない範囲内で含有できる。
【0036】
バインダー合成繊維のアスペクト比(繊維長/直径)は、200~1000であることが好ましく、より好ましくは300~800であり、さらに好ましくは400~700である。アスペクト比が200未満の場合は、繊維の分散性は良好となるが、抄紙の際に繊維が抄紙網から脱落する恐れや、抄紙網に繊維が刺さって、抄紙網からの剥離性が悪化する恐れがある。一方、1000を超えた場合、バインダー合成繊維は三次元ネットワーク形成に寄与はするものの、繊維が絡まる恐れや、もつれの発生によって、不織布の均一性や塗布面の平滑性に悪影響を及ぼす恐れがある。
【0037】
本発明の半透膜支持体に係わる不織布に対して、バインダー合成繊維の含有量は、10~60質量%が好ましく、20~50質量%がより好ましく、25~40質量%がさらに好ましい。上記範囲において、バインダー合成繊維の含有量を高めることによって、主体合成繊維の脱落や毛羽立ちを抑制することができる。バインダー合成繊維の含有量が10質量%未満の場合、強度不足により破れる恐れがあり、主体合成繊維を覆うための本数が不足し繊維脱落が発生する場合がある。また、60質量%を超えた場合、通液性が低下する恐れがある。
【0038】
本発明の半透膜支持体の製造方法について説明する。本発明の半透膜支持体は、湿式抄紙法によってシートが作製された後に、このシートが熱ロールによって熱圧加工される。
【0039】
湿式抄紙法では、まず、主体合成繊維、バインダー合成繊維等をパルパー等の分散装置で均一に水中に分散させる。その際に、バインダー合成繊維を先に投入して分散した後に主体合成繊維を投入して分散することにより、主体合成繊維を覆うためのバインダー合成繊維が均一に主体合成繊維と混合し好ましい。その後、スクリーン(異物、塊等除去)等の工程を経て、白水(希釈水)で希釈し最終の繊維濃度を0.01~0.50質量%に調成されたスラリーが抄紙機で抄き上げられ、湿紙が得られる。希釈したスラリーを攪拌機にて攪拌することは繊維束の単繊維化が促進し好ましい。繊維の分散性を均一にするために、工程中で分散剤、消泡剤、親水剤、帯電防止剤、高分子粘剤、離型剤、抗菌剤、殺菌剤等の薬品を添加する場合もある。
【0040】
抄紙方式としては、例えば、長網、円網、傾斜ワイヤー式等の抄紙方式を用いることができる。これらの抄紙方式の群から選ばれる一機の抄紙方式を有する抄紙機、これらの抄紙方式の群から選ばれる同種又は異種の2機以上の抄紙方式がオンラインで設置されているコンビネーション抄紙機を使用することができる。また、2層以上の多層構造の不織布を製造する場合には、各々の抄紙機で抄き上げた湿紙を積層する「抄き合わせ法」や、一方のシートを形成した後に、該シートの上に繊維を分散したスラリーを流延する「流延法」等を用いることができる。
【0041】
抄紙機で製造された湿紙を、ヤンキードライヤー、エアードライヤー、シリンダードライヤー、サクションドラム式ドライヤー、赤外方式ドライヤー等で乾燥することによって、シートを得る。湿紙の乾燥の際に、ヤンキードライヤー等の熱ロールに密着させて熱圧乾燥させることによって、密着させた面の平滑性が向上する。熱圧乾燥とは、タッチロール等で熱ロールに湿紙を押し付けて乾燥させることを言う。熱ロールの表面温度は、100~180℃が好ましく、100~160℃がより好ましく、110~160℃がさらに好ましい。圧力は、好ましくは50~1000N/cm、より好ましくは100~800N/cmである。
【0042】
次に、熱ロールによる熱圧加工について説明するが、本発明は下記説明に限定されない。熱圧加工装置(熱カレンダー装置)において、ニップされているロール間にシートが通されることによって、シートが熱圧加工される。ロールの組み合わせとしては、2本の金属ロール、金属ロールと樹脂ロール、金属ロールとコットンロール等が挙げられる。2本のロールのうち、少なくとも一方のロールが加熱されて、熱ロールとして使用される。主に、金属ロールが熱ロールとして使用される。熱ロールによる熱圧加工は2回以上行うことも可能であり、その場合、直列に配置された2組以上の上記のロール組み合わせを使用しても良いし、1組のロール組み合わせを用いて、2回加工しても良い。必要に応じて、シートの表裏を逆にしても良い。熱ロールの表面温度、ロール間のニップ圧力、シートの加工速度を制御することによって、所望の半透膜支持体が得られる。
【0043】
抄紙段階でのシートに3本以上の繊維束が発生した場合であっても、熱ロールによる熱圧加工時にバインダー合成繊維を最適に溶融・軟化させて3本以上の繊維束をホールドすることによって膜塗布後の欠点になることを防ぐことができる。そのためには、熱ロール温度をバインダー合成繊維の融点付近まで高めること、ニップ圧力を高めることが重要となる。また、加工速度をコントロールすることによって、バインダー合成繊維による3本以上の繊維束のホールドをある程度調整することができる。また、バインダー合成繊維の含有量を高めることによって、3本以上の繊維束のバインダー合成繊維によるホールド度合いを高めることができる。
【0044】
熱ロールの温度はバインダー合成繊維の融点に対して-50℃~-10℃の範囲内であることが好ましい。より好ましくは、-40℃~-15℃の範囲内であり、さらに好ましくは、-30℃~-15℃の範囲である。
【0045】
熱圧加工におけるロールのニップ圧力は、好ましくは250~1700N/cmであり、より好ましくは450~1400N/cmである。ニップ圧力が190N/cm未満の場合、熱ロールとシートの密着が低くなり繊維の毛羽立ちが起こる場合がある。一方、1700N/cmを超えた場合、1700N/cmの場合と比較して、ロールへの過剰な負荷が増すことによって、ロール寿命を短くする場合がある。
【0046】
熱圧加工における加工速度は、好ましくは4~100m/minであり、より好ましくは10~80m/minである。速度が4m/min未満の場合、生産性が劣ると共にシートの密度が高まり通気性が低下し、膜溶液が浸透しにくくなり膜と支持体の接着性が低下する場合がある。一方、100m/minを超えた場合、シートへの熱の伝達が不十分となり、繊維の毛羽立ちが発生する場合がある。
【0047】
半透膜支持体の坪量は、特に限定しないが、20~150g/m2が好ましく、より好ましくは50~100g/m2である。20g/m2未満の場合は、十分な引張強度が得られない場合がある。また、150g/m2を超えた場合、通液抵抗が高くなる場合や厚みが増してユニットやモジュール内に規定量の半透膜を収納できない場合がある。
【0048】
また、半透膜支持体の密度は、0.5~1.0g/cm3であることが好ましく、より好ましくは0.6~0.9g/cm3である。半透膜支持体の密度が0.5g/cm3未満の場合は、厚みが厚くなるため、ユニットに組み込める半透膜の面積が小さくなってしまい、結果として、半透膜の寿命が短くなってしまうことがある。一方、1.0g/cm3を超える場合は、通液性が低くなることがあり、半透膜の寿命が短くなる場合がある。
【0049】
半透膜支持体の厚みは、50~150μmであることが好ましく、60~130μmであることがより好ましく、70~120μmであることがさらに好ましい。半透膜支持体の厚みが150μmを超えると、ユニットに組み込める半透膜の面積が小さくなってしまい、結果として、半透膜の寿命が短くなってしまうことがある。一方、50μm未満の場合、十分な引張強度が得られない場合や通液性が低くなって、半透膜の寿命が短くなる場合がある。
【実施例】
【0050】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。以下、特に断りの無い限り、実施例に記載される部及び比率は質量を基準とする。
【0051】
(参考例1-1)
主体合成繊維(延伸ポリエステル系繊維、直径7.5μm、繊維長5mm)、バインダー合成繊維(未延伸ポリエステル系繊維、直径10.5μm、繊維長5mm、融点260℃)を70:30の配合比率で繊維固形分10kgを1m3の水と共にパルパー(繊維分散タンク)に投入し10分間混合分散し、希釈槽で白水(希釈水)を加えて0.1%に希釈して円網抄紙機で湿紙を形成した後、表面温度130℃のヤンキードライヤーにて熱圧乾燥し、坪量78g/m2のシートを得た。
【0052】
得られたシートを、第1ステージの加熱金属ロールと樹脂ロールの組み合わせの熱カレンダー装置を用いて、加熱金属ロール表面温度225℃、圧力850N/cm、加工速度40m/minの条件でシートの抄紙フェルト面を加熱金属ロールに接するように熱圧加工し、連続してシートの加熱金属ロールに接した面が、樹脂ロールに接するように第2ステージの樹脂ロールと加熱金属ロールの組み合わせの熱カレンダー装置を用いて、加熱金属ロール表面温度230℃、圧力850N/cm、加工速度40m/minの条件で熱圧加工を行い、半透膜支持体を得た。なお、最初に加熱金属ロールに接した面である抄紙フェルト面を塗布面とした。
【0053】
(参考例1-2)
第1ステージの加熱金属ロール、第2ステージの加熱金属ロールの温度をそれぞれ230℃、235℃に変えた以外は、参考例1-1と同じ方法で半透膜支持体を得た。なお、最初に加熱金属ロールに接した面である抄紙フェルト面を塗布面とした。
【0054】
(参考例1-3)
第1ステージの加熱金属ロール、第2ステージの加熱金属ロールの温度をそれぞれ235℃、240℃に変えた以外は、参考例1-1と同じ方法で半透膜支持体を得た。なお、最初に加熱金属ロールに接した面である抄紙フェルト面を塗布面とした。
【0055】
(実施例1-4)
第1ステージの加熱金属ロール、第2ステージの加熱金属ロールの温度をそれぞれ235℃、240℃に変えた以外は、参考例1-1と同じ方法で半透膜支持体を得た。なお、最初に樹脂ロールに接した面である抄紙網面を塗布面とした。
【0056】
(参考例1-5)
主体合成繊維(延伸ポリエステル系繊維、直径7.5μm、繊維長5mm)とバインダー合成繊維(未延伸ポリエステル系繊維、直径10.5μm、繊維長5mm、融点260℃)の配合比率を75:25に変えた以外は、参考例1-2と同じ方法で半透膜支持体を得た。なお、最初に加熱金属ロールに接した面である抄紙フェルト面を塗布面とした。
【0057】
(参考例1-6)
主体合成繊維(延伸ポリエステル系繊維、直径7.5μm、繊維長5mm)とバインダー合成繊維(未延伸ポリエステル系繊維、直径10.5μm、繊維長5mm、融点260℃)の配合比率を60:40に変えた以外は、参考例1-2と同じ方法で半透膜支持体を得た。なお、最初に加熱金属ロールに接した面である抄紙フェルト面を塗布面とした。
【0058】
(比較例1-1)
第1ステージの加熱金属ロール、第2ステージの加熱金属ロールの温度をそれぞれ210℃、210℃に変えた以外は、参考例1-1と同じ方法で半透膜支持体を得た。なお、最初に加熱金属ロールに接した面である抄紙フェルト面を塗布面とした。
【0059】
(比較例1-2)
第1ステージの加熱金属ロール、第2ステージの加熱金属ロールの温度をそれぞれ220℃、225℃に変えた以外は、参考例1-1と同じ方法で半透膜支持体を得た。なお、最初に加熱金属ロールに接した面である抄紙フェルト面を塗布面とした。
【0060】
表1に、バインダー合成繊維含有量(%)、バインダー合成繊維の融点(℃)、熱圧加工(第1ステージ)及び熱圧加工(第2ステージ)におけるロールの組み合わせ、熱ロールの種類、半透膜支持体の表面温度(℃)、ニップ圧力(N/cm)、加工速度(m/min)を示した。
【0061】
なお、本発明において、融点は、PERKIN ELMER社製示差走査熱分析装置DSC7を用いて、25~300℃まで、毎分10℃の昇温条件で測定したときの最大点の温度である。
【0062】
【0063】
実施例、参考例及び比較例で得られた半透膜支持体に対して、テープ剥離試験並びに半透膜裏抜け及び半透膜表面観察の評価を行い、結果を表2に示した。
【0064】
(テープ剥離試験)
半透膜支持体を幅45mm×長さ60mmに断裁して試料とする。断裁した半透膜支持体の塗布面に幅24mm、長さ100mmに切ったセロハン粘着テープ(ニチバン社製、商品名:エルパック(登録商標)LP24)を試料の中央部に長さ方向にテープ両端がはみ出すようゴムマット上で貼り付ける。テープを貼った試料の上で表面が平滑な金属ロール(直径4cm、長さ30cm、重さ3kg)を3回転がし、テープを試料に均一に貼り付ける。貼り付けたテープの試料からはみ出した部分を持ち、試料からテープをゆっくりと剥がし、テープに貼り付いた繊維を観察する。試料を5枚準備して、5回のテストを行った。試料から剥がしたテープの中央部(20mm×50mm)に存在する、3本以上の繊維束の数を計測し、5回のテストの平均数を算出した。
【0065】
(半透膜裏抜け)
一定のクリアランスを有する定速塗工装置(商品名:Automatic Film Applicator、安田精機製作所社製)を用いて、台紙の上に半透膜支持体をセットし、半透膜支持体の塗布面に黒色の油性インキを混合したポリスルホン樹脂のDMF溶液(濃度:19%)を塗工し、塗工後に半透膜支持体を貫通して台紙に写ったポリスルホン樹脂の量を目視で観察し、半透膜の裏抜け評価を行った。
【0066】
1:全く裏抜けしていない。非常に良好なレベル。
2:小さな点状で、ごくわずかに裏抜けしている。良好なレベル。
3:小さな点状で、裏抜けしている。実用上、使用可能レベル。
4:大きな点状で、多く裏抜けしている。実用上、使用不可レベル。
【0067】
(半透膜表面観察)
一定のクリアランスを有する定速塗工装置(商品名:TQC全自動フィルムアプリケーター、コーテック社製)を用いて、半透膜支持体の塗布面にポリスルホン樹脂のDMF溶液(濃度:19%)を塗工し、水洗、乾燥を行い、半透膜支持体の塗布面にポリスルホン樹脂からなる半透膜を作製した。作製した半透膜に、平膜テストユニットFTU-1(昇圧ポンプ)とメンブレンマスターC10-T(薄層流式平膜テストセル)を組み合わせた装置(メンブレン・ソルテック社製)を用いて、青色染料ダイレクトブルー1(200ppm水溶液)を200kPaの圧力で通水(圧入)した後に半透膜を乾燥させ、半透膜表面をランダムに5箇所、垂直方向の上方から同軸落射光を当てて、偏光でマイクロスコープ写真(半透膜の面積:9mm2)を撮影し、半透膜表面及び半透膜表面付近に存在する欠点数(5箇所の合計数)を計測した。なお、上述したように、着色部分が半透膜の欠点である。
【0068】
0~1箇所は非常に良好なレベルであり、2~3箇所は良好なレベルであり、4~6箇所は使用可能なレベルであり、7箇所以上は膜性能が劣り使用不可レベルである。
【0069】
【0070】
参考例1-1~1-3、1-5~1-6、実施例1-4の半透膜支持体は、塗布面のテープ剥離試験において、離脱する3本以上の繊維束の数が0であり、半透膜が裏抜けし難く、半透膜表面観察において、欠点が少なかった。特に、第1ステージの加熱金属ロール、第2ステージの加熱金属ロールの温度がそれぞれ235℃、240℃である参考例1-3及び実施例1-4の半透膜支持体は、半透膜がより裏抜けし難く、半透膜表面観察での欠点数がより少なく、良好であった。また、バインダー合成繊維の含有量が25質量%である参考例1-5の半透膜支持体は、参考例1-2及び1-6の半透膜支持体と比較して半透膜表面観察において、欠点が多かったが、使用可能なレベルであった。
【0071】
塗布面が抄紙フェルト面である参考例1-3の半透膜支持体と比較して、塗布面が抄紙網面である実施例1-4の半透膜支持体は、半透膜表面観察の結果が良好であった。
【0072】
参考例1-1~1-3、1-5~1-6、実施例1-4の半透膜支持体に対し、第1ステージの加熱金属ロール、第2ステージの加熱金属ロールの温度が低かった比較例1-1及び比較例1-2の半透膜支持体は、テープ剥離試験で3本以上の繊維束の離脱が見られ、半透膜表面観察では欠点数が7箇所以上あり、使用不可レベルであった。
【0073】
(実施例2-1)
主体合成繊維(延伸ポリエステル系繊維、直径7.5μm、繊維長5mm)、バインダー合成繊維(未延伸ポリエステル系繊維、直径10.5μm、繊維長5mm、融点260℃)を70:30の配合比率で繊維固形分10kgを1m3の水と共にパルパー(繊維分散タンク)に投入し10分間混合分散し、希釈槽で白水(希釈水)を加えて0.1%に希釈したスラリーを希釈槽にて攪拌しながら送液し円網抄紙機で湿紙を形成した後、表面温度130℃のヤンキードライヤーにて熱圧乾燥し、坪量78g/m2のシートを得た。
【0074】
得られたシートを、第1ステージの加熱金属ロールと樹脂ロールの組み合わせの熱カレンダー装置を用いて、加熱金属ロール表面温度225℃、圧力850N/cm、加工速度40m/minの条件でシートの抄紙網面を加熱金属ロールに接するように熱圧加工し、連続してシートの加熱金属ロールに接した面が、樹脂ロールに接するように第2ステージの樹脂ロールと加熱金属ロールの組み合わせの熱カレンダー装置を用いて、加熱金属ロール表面温度230℃、圧力850N/cm、加工速度40m/minの条件で熱圧加工を行い、半透膜支持体を得た。なお、最初に加熱金属ロールに接した面である抄紙網面を塗布面とした。
【0075】
(実施例2-2)
第1ステージの加熱金属ロール、第2ステージの加熱金属ロールの温度をそれぞれ230℃、235℃に変えた以外は、実施例2-1と同じ方法で半透膜支持体を得た。なお、最初に加熱金属ロールに接した面である抄紙網面を塗布面とした。
【0076】
(実施例2-3)
第1ステージの加熱金属ロール、第2ステージの加熱金属ロールの温度をそれぞれ235℃、240℃に変えた以外は、実施例2-1と同じ方法で半透膜支持体を得た。なお、最初に加熱金属ロールに接した面である抄紙網面を塗布面とした。
【0077】
(参考例2-4)
第1ステージの加熱金属ロール、第2ステージの加熱金属ロールの温度をそれぞれ235℃、240℃に変えた以外は、実施例2-1と同じ方法で半透膜支持体を得た。なお、最初に樹脂ロールに接した面である抄紙フェルト面を塗布面とした。
【0078】
(実施例2-5)
主体合成繊維(延伸ポリエステル系繊維、直径7.5μm、繊維長5mm)とバインダー合成繊維(未延伸ポリエステル系繊維、直径10.5μm、繊維長5mm、融点260℃)の配合比率を75:25に変えた以外は、実施例2-2と同じ方法で半透膜支持体を得た。なお、最初に加熱金属ロールに接した面である抄紙網面を塗布面とした。
【0079】
(実施例2-6)
主体合成繊維(延伸ポリエステル系繊維、直径7.5μm、繊維長5mm)とバインダー合成繊維(未延伸ポリエステル系繊維、直径10.5μm、繊維長5mm、融点260℃)の配合比率を60:40に変えた以外は、実施例2-2と同じ方法で半透膜支持体を得た。なお、最初に加熱金属ロールに接した面である抄紙網面を塗布面とした。
【0080】
(実施例2-7)
第1ステージの加熱金属ロール、第2ステージの加熱金属ロールの温度をそれぞれ210℃、210℃に変えた以外は、実施例2-1と同じ方法で半透膜支持体を得た。なお、最初に加熱金属ロールに接した面である抄紙網面を塗布面とした。
【0081】
(実施例2-8)
第1ステージの加熱金属ロール、第2ステージの加熱金属ロールの温度をそれぞれ220℃、225℃に変えた以外は、実施例2-1と同じ方法で半透膜支持体を得た。なお、最初に加熱金属ロールに接した面である抄紙網面を塗布面とした。
【0082】
表3に、バインダー合成繊維含有量(%)、バインダー合成繊維の融点(℃)、熱圧加工(第1ステージ)及び熱圧加工(第2ステージ)におけるロールの組み合わせ、熱ロールの種類、半透膜支持体の表面温度(℃)、ニップ圧力(N/cm)、加工速度(m/min)を示した。
【0083】
【0084】
実施例、参考例及び比較例で得られた半透膜支持体に対して、テープ剥離試験並びに半透膜裏抜け及び半透膜表面観察の評価を行い、結果を表4に示した。
【0085】
【0086】
実施例2-1~実施例2-3、実施例2-5、実施例2-6、実施例2-8の半透膜支持体は、湿式抄紙機でシートを形成した後に、熱カレンダー装置によって、第1ステージの加熱金属ロールに抄紙網面が接するように加工し、抄紙網面を塗布面にしたことから、膜塗布面の繊維ほぐれ状態が均一で表面強度が良好となり、参考例1-1~参考例1-3、参考例1-5、参考例1-6、比較例1-2の半透膜支持体と比較して半透膜の裏抜けの結果が同等又は良好となり、半透膜表面観察の結果が良好となった。
【0087】
塗布面が抄紙フェルト面である参考例2-4の半透膜支持体と比較して、塗布面が抄紙網面である実施例2-3の半透膜支持体は、半透膜表面観察結果が良好であった。
【0088】
比較例1-1に対して、実施例2-7の半透膜支持体は、テープ剥離試験で3本以上の繊維束の数は減少したが、半透膜表面観察での欠点数が4箇所であり、小さな点状ではあるものの、裏抜けも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の半透膜支持体は、海水の淡水化、浄水器、食品の濃縮、廃水処理、血液濾過に代表される医療用、半導体洗浄用の超純水製造等の分野で利用することができる。