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特許7341906画像表示素子、画像表示装置および画像表示方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】画像表示素子、画像表示装置および画像表示方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/02 20060101AFI20230904BHJP
   G02B 27/42 20060101ALI20230904BHJP
   G02B 5/18 20060101ALI20230904BHJP
   H04N 5/64 20060101ALI20230904BHJP
【FI】
G02B27/02 Z
G02B27/42
G02B5/18
H04N5/64 511A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020002824
(22)【出願日】2020-01-10
(65)【公開番号】P2021110837
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】501009849
【氏名又は名称】株式会社日立エルジーデータストレージ
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】峯邑 浩行
(72)【発明者】
【氏名】安齋 由美子
【審査官】山本 貴一
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-072422(JP,A)
【文献】特開2017-156388(JP,A)
【文献】特開2008-090956(JP,A)
【文献】特表2018-507428(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0277803(US,A1)
【文献】特開2006-065312(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/01,27/02
G02B 5/18
H04N 5/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製の基板と、
入射した光を回折する入射回折格子と、
前記光を出射する出射回折格子と、
を備え、
前記基板の第1の面に、前記入射回折格子が形成され、
前記基板の前記第1の面と反対側の第2の面に、前記出射回折格子が形成され、
前記出射回折格子は一つの面に形成され、なす角が120度の2つの波数ベクトルを持つメッシュ状の回折格子で構成されており
前記メッシュ状の回折格子は±60度の矩形回折格子を重ね合わせたものである、
画像表示素子。
【請求項2】
前記基板の第1の面に、前記基板と同じ材料で前記入射回折格子が形成され、
前記基板の前記第1の面と反対側の第2の面に、前記基板と同じ材料で前記出射回折格子が形成される、
請求項1記載の画像表示素子。
【請求項3】
前記入射回折格子および前記出射回折格子のアスペクト比は、1以下である、
請求項2記載の画像表示素子。
【請求項4】
前記出射回折格子のアスペクト比は、2/3以下である、
請求項3記載の画像表示素子。
【請求項5】
前記基板は導光板を構成し、
前記入射回折格子から入射した光は、前記導光板の内部で反射を繰り返して前記出射回折格子に伝搬される、
請求項1記載の画像表示素子。
【請求項6】
前記出射回折格子は凹凸パターンにより形成され、該凹凸パターンは、第1の平行な直線群と、前記第1の平行な直線群と交わる第2の平行な直線群から構成され、
前記第1の平行な直線群と前記第2の平行な直線群のピッチは等しくPであり、
前記第1の平行な直線群と前記第2の平行な直線群のピッチPと、前記凹凸パターンの幅Wの関係として、W/Pが0.15以上0.85以下となる、
請求項1記載の画像表示素子。
【請求項7】
前記出射回折格子は凹凸パターンにより形成され、該凹凸パターンのパターン高さは、100nm以下である、
請求項2記載の画像表示素子。
【請求項8】
前記出射回折格子は凹凸パターンにより形成され、該凹凸パターンのパターン高さは、40nm以上90nm以下である、
請求項7記載の画像表示素子。
【請求項9】
前記入射回折格子は、反射型のブレーズド回折格子である、
請求項2記載の画像表示素子。
【請求項10】
画像を形成するための光源であるプロジェクタと、
前記プロジェクタから出射された画像情報をもつ入射光を回折する、樹脂製の基板の第1の面に形成された入射回折格子と、
前記第1の面と反対側の第2の面に形成された出射回折格子とを有し、
前記出射回折格子は前記基板の1つの面に形成され、なす角が120度の2つの波数ベクトルを持つメッシュ状の回折格子で構成されており、
前記メッシュ状の回折格子は±60度の矩形回折格子を重ね合わせたものであり、
前記基板は、前記光源の波長ごとに複数枚設けられていることを特徴とする画像表示装置。
【請求項11】
請求項10記載の画像表示装置であって、
前記プロジェクタは前記第2の面側に設けられている
画像表示装置。
【請求項12】
前記入射光は460~635nmの波長を含む、
請求項11記載の画像表示装置。
【請求項13】
樹脂製の基板と、前記基板の第1の面に形成された入射回折格子と、前記基板の前記第1の面と反対側の第2の面に形成された出射回折格子を備え、前記出射回折格子は一つの面に形成されている画像表示素子を用い、
前記出射回折格子は、なす角が120度の2つの波数ベクトルを持つメッシュ状の回折格子で構成されており、
前記メッシュ状の回折格子は±60度の矩形回折格子を重ね合わせたものであり、
前記入射回折格子に映像光を入射し、
前記入射回折格子で反射回折した前記映像光を前記基板内に伝搬させ、
前記出射回折格子で前記映像光を反射回折して前記第1の面から出射させた前記映像光をユーザに視認させることにより画像を表示する、
画像表示方法。
【請求項14】
前記出射回折格子のアスペクト比は、2/3以下である、
請求項13記載の画像表示方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導光板と回折素子とを組み合わせた技術に関し、特に小型・軽量で拡張現実の表示が可能な画像表示技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
拡張現実の画像表示装置では、ユーザは投影されるイメージだけでなく、周囲を見ることも同時にできる。投影されたイメージは、ユーザによって知覚される現実世界に重なり得る。これらのディスプレイの用途として、ビデオゲーム、および、眼鏡のようなウェアラブルデバイスなどが挙げられる。ユーザは半透明な導光板とプロジェクタが一体となった眼鏡もしくはゴーグル状の画像表示装置を装着することで、現実世界に重ねてプロジェクタから供給される画像を視認することが可能である。
【0003】
こうした画像表示装置の1つに「特許文献1」~「特許文献3」に記載されているものがある。これらの特許文献の中では導光板はガラス製の基板に形成された複数の凹凸形状の回折格子から構成されている。プロジェクタから出射した光線は、入射用の回折格子によって導光板へと結合され、全反射しながら導光板内部を伝搬する。光線はさらに別の回折格子によって複製された複数の光線に変換されながら、導光板内を全反射伝搬し、最終的に導光板から出射する。出射した光線の一部はユーザの瞳を介して網膜に結像され、現実世界の画像に重なった拡張現実画像として認識される。
【0004】
こうした凹凸型の回折格子を用いた導光板では,プロジェクタから出射した光線の波数ベクトルKは,導光板の中に屈折してスネル法則により波数ベクトルがK0となる。さらに入射用の回折格子によって導光板内部を全反射伝搬が可能な波数ベクトルK1に変換される。導光板に設けられた別の1つまたは複数の回折格子により回折作用を受け,K2,K3,・・・のように回折を繰り返すごとに波数ベクトルが変化する。
【0005】
最終的に導光板を出射した光線の波数ベクトルをK’とすると,|K’|=|K|であり,プロジェクタが導光板を介して,目と反対側にある場合には,K’=Kとなる。一方,プロジェクタが導光板を介して,目と反対側にある場合には,波数ベクトルに関して導光板は反射ミラーと同じ作用となり,導光板の法線ベクトルをz方向にとり,波数ベクトルのx,y,z成分を比較すると,Kx’=Kx,Ky’=Ky,Kz’=-Kzと表すことができる。
【0006】
導光板の機能は,プロジェクタから出射した光線を複数に複製しながら導波し,出射した複数の光線は元の画像と等価な画像情報としてユーザに認識されるようにするものである。このとき,複製された光線群はプロジェクタから出射した映像情報をもつ光線と等価な波数ベクトルをもちながら,空間的な広がりもっている。複製された光線群のうち一部は瞳に入り,外界の情報と共に網膜に結像されることにより視認され,ユーザに外界の情報に加えた拡張現実の情報を提供することができる。
【0007】
映像情報をもつ光線はその波長によって波数ベクトルの大きさが異なる。凹凸型の回折格子は一定の波数ベクトルを有するため,入射する光線の波長によって,回折された波数ベクトルK1が異なり,異なる角度で導光板内を伝搬する。導光板を構成するガラス基板の屈折率は波長に対して概略一定であり,全反射しながら導光する条件の範囲は,入射する光線の波長によって異なる。このため,広い視野角の画像をユーザに認識させるためには,波長ごとに異なる導光板を複数枚かさねる必要がある。一般的に導光板の数は赤色光(R),緑色光(G),青色光(B)それぞれに対応した枚数,もしくは±1枚した2枚から4枚程度が適当であると考えられる。
【0008】
「特許文献1」に記載されている画像表示装置は二次元内で入力光を拡大するための画像表示装置であって,3つの直線状回折格子を備える。1つは入射用の回折格子であり,他の2つの出射用の回折格子は,代表的には導光板の表面と裏面に互いに重なって配置され,複製用と出射用の回折格子の機能を果たす。また,「特許文献1」には,円柱状のフォトニック結晶の周期構造により,出射用の回折格子を1面に形成する例が記載されている。
【0009】
「特許文献2」に記載されている画像表示装置は「特許文献1」におけるフォトニック結晶により投影された像が視野中央部で輝度が高い問題を解決するため,光学的な構造の形状を複数の直線状の側面で構成する技術が開示されている。
【0010】
「特許文献3」,「特許文献4」に記載されている画像表示装置では,入射回折格子,偏向用回折格子,および出射回折格子を兼ねる3つの回折格子が,導光板内で領域が重なることなく配置されている。「特許文献3」では入射回折格子の回折効率を高くするために,オーバハングされた三角形状の回折格子が開示されている。
【0011】
「特許文献5」と「特許文献6」には,導光板に形成される回折格子として,入射用と出射用の2つの反射型体積ホログラムを用いる技術が開示されている。これらにおいて,反射型体積ホログラムは,複数の波長に対応した回折格子を空間内に多重に形成したものであり,「特許文献1」~「特許文献3」の凹凸型回折格子と異なり,複数の波長の光線を同じ角度で回折する。したがって,1枚の導光板でRGB画像をユーザに認識させることができる。一方,凹凸型回折格子では光線を導光板内で2次元方向に複製するため広い視野角を実現しうるのに対して,反射型体積ホログラムは1次元複製の機能のみ提供されるため,視野角が相対的に狭いという特徴がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特表2017-528739号公報
【文献】WO 2018/178626A1
【文献】WO 2016/130342A1
【文献】WO 99/52002A1
【文献】特開2007-94175号公報
【文献】特開2013-200467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
以下,導光板として凹凸型回折格子を有する導光板について説明を進める。また,理解の容易のため,目のレンズ作用による画像の反転と網膜に投影されたイメージを脳で処理してさらに反転させて認知する効果を割愛し,導光板に対して目と同じ側に配置した映像光源から前方のスクリーンに投影した投影像について,ピクセル位置と輝度の関係を議論する。実際に視認される像は,これに対して上下反転したものとなる。
【0014】
「特許文献1」では導光板に基板材料に関し,その図15Aの説明にあるように,ガラス材料を用いる技術を開示している。回折格子に関しては,その0017項にあるように、導波路(=ガラスプレート)表面をエッチングによって加工して形成する技術を開示している。また、「特許文献1」ではその0039項にあるように、フォトニック結晶を用いて導波路より高い屈折率を示す円柱構造を、格子として形成する技術が開示されている。「特許文献1」の円柱状のフォトニック結晶を,後述するように射出成型法等で導光板表面に形成する場合,円柱の屈折率は導波路(もしくは基板)と等しくなる。この場合,円柱の直径と高さの比であるアスペクト比が2程度以上に大きくないと,投影像の輝度が不十分となる。
【0015】
「特許文献2」に記載の投影像中央部が高輝度になることを改善したフォトニック結晶は,円柱状ではなく直線状のフォトニック結晶により投影された像が視野中央部で輝度が高い問題を解決するため,光学的な構造の形状を複数の直線状の側面で構成するものである。「特許文献2」では、その1ページ34行や2ページ8行にあるように,中央部のストライプ状の高輝度部分を改善するものである。なお,「特許文献2」で引用するWO2016/020643の内容は,「特許文献1」と同じものである。「特許文献2」では課題とする中央部のストライプ状の高輝度部分を明示的に図等で開示してはいない。
【0016】
「特許文献3」のFIG.5Cに開示されている入射回折格子の断面形状は,オーバハングした三角形状の断面をもち,図中上方向(空気側)から入射した映像光線をハッチングされた導光板の内部に効率よくカップリングすることが可能である。
【0017】
一般に画像表示素子においては、映像情報を有する光線は,導光板内に設けられた入射回折格子により導光板内を全反射導光が可能な波数を有するようにカップリングされ,導光板内を伝播する。出射回折格子と交差した光線の一部は回折され,元の映像光線と等価な波数をもって導光板から出射される。ユーザに提供される映像情報は,元の映像情報のピクセル位置に応じた進行角情報,すなわち波数を有している。1つのピクセルの映像情報が導光板から出射してユーザの瞳に達するためには,進行角,導光板とユーザの瞳の間の距離,およびユーザの瞳の大きさによって定められる導光板内の特定の位置から出射する必要がある。
【0018】
前述のように,導光板内では,光線が複製され空間的に広がって出射するため,ユーザに視認される光線は,空間的広がりが大きいほど少なくなり,視認される輝度が小さくなる。一方,元の映像情報のピクセル位置によって,ユーザに視認される出射位置が変化することから,導光板を用いた画像表示装置では,ピクセル位置によって輝度が変化することが不可避となっている。
【0019】
先行技術では,導光板の作成にガラス基板を直接エッチングする方法,もしくは高アスペクト比のパターン形成に適したナノインプリント法等を利用することが適していた。「特許文献1」とそれに基づく「特許文献2」のフォトニック結晶で、基板とフォトニック結晶の屈折率が同じ場合には、底面の直径等の代表的な長さとその高さの比であるアスペクト比が2程度以上にすることが必要となる。
【0020】
ここで、「特許文献1」等が開示するように導光板にガラスを用いる場合、加工のコストとユーザの装着時の重量に課題がある。そこで、導光板にプラスチックを用いることで、この課題を解決することができる。なお、本明細書等では「樹脂」と「プラスチック」の語は同義で用いる。プラスチックは高分子化合物からなる材料を意味し、ガラスを含まず、レジン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、光硬化樹脂を含む概念である。
【0021】
導光板にプラスチックを用いる場合、光ディスク媒体の製法として実績のある射出成型技術等で回折格子を形成することができる。射出成型技術等で形成される表面凹凸パターンのアスペクト比は1を超えることがないため,2以上のアスペクト比を得ようとした場合、パターン転写の精度が低下し適用することが困難である。これは,溶融したポリカーボネート樹脂,アクリル樹脂,ポリオレフィン樹脂等は粘性が高く,ナノメータ周期で構成された高アスペクト比の凹凸に精度よく樹脂が入らないという本質的な製造方法の原理に起因した問題である。また,「特許文献3」の入射回折格子は,オーバハングされた三角形状の回折格子を利用するため,射出成型技術等では母型(スタンパ)と導光板が剥離できないため適用することができない。
【0022】
また、従来のガラス製の導光板に比較してプラスチック製の導光板は機械強度(ヤング率)が小さいため,環境温度や気圧による変形が大きくなる。詳細については後述するが,変形の画像情報への影響を低減するためには、導光板を挟んで映像源とユーザが反対側に位置するような透過型の光学構成にすることが有効である。そこで、透過型の光学構成でもユーザが視認する画像情報の輝度の低下を避けることができる構成が望ましい。
【0023】
このように、プラスチック製の導光板を画像表示素子に適用するためには、製造方法や画像情報の輝度を考慮した構成が必要である。そこで本発明の課題は、導光板にプラスチックを用いつつ、ユーザが視認する画像情報の輝度を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の好ましい一側面は、樹脂製の基板と、入射した光を回折する入射回折格子と、光を出射する出射回折格子と、を備え、基板の第1の面に入射回折格子が形成され、基板の第1の面と反対側の第2の面に出射回折格子が形成され、出射回折格子は一つの面に形成されている、画像表示素子である。
【0025】
本発明の好ましい他の一側面は、上記の画像表示素子を搭載した画像表示装置であって、基板の第2の面側から映像光を入射し、基板の第1の面側から映像光を視認できるように構成した、画像表示装置である。
【0026】
本発明の好ましい他の一側面は、樹脂製の基板と、基板の第1の面に形成された入射回折格子と、基板の第1の面と反対側の第2の面に形成された出射回折格子を備え、出射回折格子は一つの面に形成されている画像表示素子を用いる映像表示方法である。この方法では、入射回折格子に映像光を入射し、入射回折格子で反射回折した映像光を基板内に伝搬させ、出射回折格子で映像光を反射回折して第1の面から出射させた映像光をユーザに視認させることにより画像を表示する。
【発明の効果】
【0027】
導光板にプラスチックを用いつつ、ユーザが視認する画像情報の輝度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】出射回折格子による回折を表す摸式断面図。
図2】出射回折格子の位相関数の例を示すイメージ図。
図3】実施例のメッシュ型回折格子の斜視図。
図4】シミュレーションの基本となる出射円の定義を示す概念図。
図5】導光板内部を伝播する光線の強度分布のシミュレーション結果を示すイメージ図。
図6】実施例の導光板を示す模式断面図。
図7】導光板の回折格子と波数ベクトルの関係を示す摸式平面図
図8】投影像のシミュレーション結果を示すイメージ図。
図9】入射回折格子の回折光線を示すシミュレーション結果のイメージ図。
図10】画像表示装置の構成例を示す模式断面図。
図11A】回折格子のパターンの高さと反射および透過の1次回折効率の関係を示すグラフ図。
図11B】回折格子のパターンの高さとゼロ次反射回折効率の関係を示すグラフ図。
図11C】回折格子のパターンの高さとユーザが視認する550nmの光強度の関係を示すグラフ図。
図11D】回折格子のパターンの高さとユーザが視認する635nmの光強度の関係を示すグラフ図。
図11E】回折格子のパターンの高さとユーザが視認する460nmの光強度の関係を示すグラフ図。
図12A】プロジェクタとユーザの瞳が導光板の同じ側に配置された例の摸式断面図。
図12B】プロジェクタとユーザの瞳が導光板の反対側に配置された例の摸式断面図。
図13】実施例の導光板の形成方法を示す摸式断面図。
図14】実施例の画像表示装置の構成を示す摸式断面図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。ただし、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。本発明の思想ないし趣旨から逸脱しない範囲で、その具体的構成を変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。
【0030】
以下に説明する発明の構成において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を異なる図面間で共通して用い、重複する説明は省略することがある。
【0031】
同一あるいは同様な機能を有する要素が複数ある場合には、同一の符号に異なる添字を付して説明する場合がある。ただし、複数の要素を区別する必要がない場合には、添字を省略して説明する場合がある。
【0032】
本明細書等における「第1」、「第2」、「第3」などの表記は、構成要素を識別するために付するものであり、必ずしも、数、順序、もしくはその内容を限定するものではない。また、構成要素の識別のための番号は文脈毎に用いられ、一つの文脈で用いた番号が、他の文脈で必ずしも同一の構成を示すとは限らない。また、ある番号で識別された構成要素が、他の番号で識別された構成要素の機能を兼ねることを妨げるものではない。
【0033】
図面等において示す各構成の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面等に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0034】
本明細書で引用した刊行物、特許および特許出願は、そのまま本明細書の説明の一部を構成する。
【0035】
本明細書において単数形で表される構成要素は、特段文脈で明らかに示されない限り、複数形を含むものとする。
【0036】
以下で説明する実施例では,プラスチック製の導光板を適用するに際して、入射回折格子と反対側の面に出射回折格子を形成する。この構成により,ユーザ目の方向への回折は,効率の高い反射回折を使うことができるようになるため,画像情報の輝度が向上する。
【0037】
図1は導光板内部を伝搬する光線が出射回折格子の作用で外部に出射する状況を表す摸式図である。図中,100は導光板,102は出射回折格子,内部を伝搬する光線の波数ベクトルはkprop,反射回折により出射する光線の波数ベクトルはk,透過回折により出射する光線の波数ベクトルはkT,出射回折格子の波数ベクトルはKで,それぞれ表している。なお、図1では出射回折格子102として矩形型を例示するが、必ずしも限定するものではない。矩形型の回折格子では、回折効率が対称になる効果がある。
【0038】
回折の原理により,伝播する光線kpropに対して,Kを作用させることにより,波数ベクトルkとkが得られる。このため,kとkは図中のz方向のベクトル成分の符号のみ反転したものとなる。したがって,ユーザは反射回折と透過回折のどちらの光線を見ても,映像情報を視認することができる。ただし,両者はx,y方向に対して反転した像となるため,図示しない映像源で必要に応じて像の反転処理をしておくことが必要である。
【0039】
出射回折格子102の構造周期をPとすると波数ベクトルKの大きさは2π/Pとなる。出射回折格子102の凸部の幅をw,高さをhとすると,アスペクト比はh/wで表される。射出成型法等により作成された導光板100の場合,アスペクト比h/wが概略1を超えると良好な成型が困難になる。こうした場合,反射回折効率の方が,透過回折効率よりも大きくなる。導光板100の内部を伝搬する光線の出射回折格子102への入射角θは40~80度程度となる。
【0040】
導光板100の表面に転写される凹凸パターンのアスペクト比は小さいほうが,射出成型法等の実績のあるプラスチック成型技術では形成が容易である。このため、本実施例の好ましい形態では、出射回折格子102として2次元のメッシュ状のパターンの回折格子を提案する。これにより,導光板の表面に転写される凹凸パターンのアスペクト比が1以下となり,射出成型法等のプラスチック成型技術を用いるのに適した導光板100を提供することができる。
【0041】
特許文献1記載のフォトニック結晶や回折格子は,表面凹凸により入射光に対して空間的に位相変調を及ぼすものである。位相変調の大きさは,表面構造と空気の屈折率の差および表面凹凸の高さに比例して大きくなる。
【0042】
図2は出射射回折格子の波数を摸式的に示すものである。Y軸に対して±60度の方位角をもつ波数K1,K2をもつ回折格子の位相関数はそれぞれ図2(a)、図2(b)に示され,それぞれは正弦波状の位相分布をもつ。位相変調量は1に規格化している。これらを合成すると図2(c)が得られる。特許文献1のフォトニック結晶は,これをピラー等に近似して高屈折率の材料で導光板の表面に形成したものと言える。図2(c)に見られるようにK1+K2の位相変調量の最大値は2となり,孤立した円柱等でこれを近似すると,図2(a)、図2(b)の単一の正弦波回折格子に比較して2倍の高さ(アスペクト比)が必要となることが判る。
【0043】
図3は実施例におけるメッシュ状の出射回折格子102の一例である。図2(c)に比較して,正弦波構造ではないため,フーリエ変換すると高次の波数成分をもつが,導光板として利用する場合,周期を適切に選択することにより2次以上の波数成分は,入射光に対して回折不能(波数が虚数)となるようにできる。その上で,メッシュ状の回折格子は±60度の矩形回折格子を重ね合わせたものであり,円柱等に比較して,基本波K1,K2の方向以外の波数成分をもたないため回折効率が高くできる。よって、アスペクト比を小さくした2次元の出射回折格子が提供できる。
【0044】
後に説明するように、本実施例の入射回折格子に関しては,「特許文献3」の透過型回折格子でなく,反射型回折格子とすることにより,屈折に対して偏向作用の大きな反射を利用することにより,低アスペクト比化に寄与することができる。
【0045】
これらにより,アスペクト比を小さくした回折格子が提供でき,射出成型法等のプラスチック成型技術で実現でき,安全で軽量で画像輝度の高い導光板を提供できるようになった。
【0046】
なお本明細書の説明では,光軸方向をZ軸にとり,導光板の表面にXY面をとる座標系で説明を進める。また,ユーザの瞳を円形に近似すると,ピクセル位置に応じてユーザに視認される導光板内の出射位置も円形となる。以下,これを出射円と呼ぶことにする。
【0047】
図4は出射円を説明するための摸式図である。ここでは画像を形成するための光源であるプロジェクタ300とユーザの瞳400が、導光板100に対して反対側に配置される場合を示している。入射回折格子101の波数ベクトルがy方向を向くとして,図4中の矢印はx-z面内の光線を表す。ここでは入射回折格子101がx方向の波数ベクトル成分を持たないとする。
【0048】
ユーザの瞳400に視認される映像光線のうち,視野(表示像)の中央に対応する光線301は図に示すように,x-z面内を直進してユーザの瞳400に届けられる。導光板100の作用であるy方向への回折は明示的には表現されていないが,入射回折格子101と出射回折格子102で少なくとも各1回は回折されている。
【0049】
一方,ユーザの瞳400に視認される映像光線のうち,視野(表示像)周辺に対応する光線302はx方向の回折がない場合には図中,右側の方向に進行する。一方で,ユーザがこの光線を投影像として認識するためには,図中,視認される光線304として示した経路を通って,同じ角度の光線がユーザの瞳400に届く必要がある。出射円303は,出射回折格子102上にあって,視認される光線の方向にユーザの瞳400を平行移動した仮想的な円である。出射回折格子102上の出射円303から出射した光線304のみがユーザに投影像として認識され,それ以外の光線は認識されない。このように,出射回折格子102にはx方向の回折作用が必要である。
【0050】
図5は後述するシミュレーション方法を用いて計算した導光板100内部を伝播する光線の強度分布である。ここでは,導光板の回折格子を含む面内x-y面で強度分布を示していることに注意されたい。図中,入射回折格子101は上側に配置され,その下にユーザの目に相当する瞳400が配置される。図5(a)はピクセル位置が,投影される像の中央の場合であり、像の中央における光線の強度分布を示す。図中の出射円は瞳に到達する光線が出射回折格子102上で最後に回折した領域を示す。入射回折格子101からy方向に向かう直線上の輝度の高い領域は,入射回折格子101で回折され導光板100内部を伝搬する主たる光線群(以下,主光線群)を示している。図に見られるように,主光線群の伝搬によって強度が次第に減衰する特性をもつ。主光線群の周辺に広がる輝度の低い光線群は,出射回折格子102により回折されx-y面内で進行方向が偏向された光線群である。この条件では,投影される光線がz軸方向にあることから,x-y面内で出射円と瞳は一致していることが判る。したがって,瞳に到達して画像として認識されるのは,強度の強い主光線群の一部である。
【0051】
図5(b)は投影像の右上コーナのピクセル位置の場合であり、像の周辺における光線の強度分布を示す。図に見られるように,主光線群は入射回折格子101から右下方向に向って進行する。瞳の位置は一定であるが,出射円は瞳に向って右上に進行する光線群の出射位置であるから,x-y面内で瞳に対して左下にシフトする。この場合,出射円が主光線群から離れた位置にあるため,瞳に至って画像として認識される光線群は上の場合に比較して輝度が低くなる。以上が,導光板を用いて像を投影する場合の輝度ムラが発生する理由の主因である。
【0052】
図1で述べたように、格子ピッチをPとすると回折格子の波数ベクトルの大きさは、K=2π/Pで表される。光軸方向をz軸に取る座標系で表すと、入射回折格子101の波数ベクトルはK1=(0,-K,0)である。出射回折格子102は、なす角が120度の2つの波数ベクトルを持ち、それらはK2=(+K/√3,K/2,0)、K3=(-K/√3,K/2,0)である。導光板100に入射する光線の波数ベクトルをki=(ki x,ki y,ki z)とし、出射する光線の波数ベクトルをko=(ko x,ko y,ko z)とし、kiにK1、K2、K3を順次作用させると、以下のようにko=kiとなり、入射光線と同じ波数ベクトルの光線、すなわち同じ映像情報を有する光線が出射されることがわかる。
【0053】
ko=ki
ko x=ki x+0+(K/√3)-(K/√3)=ki x
ko y=ki y+K-(K/2)-(K/2)=ki
ko z=ki z
【0054】
次に,実施例の画像表示素子の解析のためのシミュレーション方法について簡単に述べる。1962年にG. H. Spencerらにより提唱された光線追跡法[G. H. Spencer and M. B. T. K. Murty, “General Ray-Tracing Procedure”, J. Opt. Soc. Am. 52, p.672 (1962).]は,光の粒子性に着目して経路を追跡することで,ある点において観測される像などを計算する手法であり,コンピュータグラフィックス分野を中心に精力的に改良が続けられている。光線追跡法に基づくモンテカルロ光線追跡法[I. Powell “Ray Tracing through sysytems containing holographic optical elements”, Appl. Opt. 31, pp.2259-2264 (1992).]は,回折や反射等による経路の分離を確率的に扱うことで,演算量の指数関数的な増大を防ぐ手法であり,回折と全反射伝搬を繰り返す導光板のシミュレーションに適している。モンテカルロ光線追跡法では反射や屈折を忠実に再現することができるが,回折に関しては適したモデルの開発が必須である。
【0055】
ヘッドマウントディスプレイ向けの導光板では,可視光全域に亘る波長範囲(約400-700nm)と,投影イメージの視野角(約40°)に対応した入射角範囲に対応する回折モデルが必須となり,市販シミュレータでは演算量が膨大になる。ここでは,視認される光線が全光線の一部であることに鑑みて,予め視認されない領域に導波する光線の計算を停止するアルゴリズムにより,演算量を1/1000以下に削減したアルゴリズムを用いる。回折格子による回折効率の角度および波長依存性は,予めFDTD(Finite Differential Time Domain)法による計算結果をテーブル化して参照する方式としている。
【実施例1】
【0056】
以下、実施例の画像表示素子の構成を説明する。
【0057】
<1.画像表示素子の全体構成>
図6は、本実施例の画像表示素子の構成を示している。ここでは映像表示素子10は2枚の導光板100a,100bから構成されており,それぞれ入射回折格子101a,101b,出射回折格子102a,102bが形成される。入射回折格子101a,101bは,直線状の表面凹凸型の回折格子である。出射回折格子102a,102bは,それぞれパターン周期が入射回折格子101a,101bと同じである。入射回折格子101としては、回折効率が高いブレーズド回折格子(blazed grating)を例示しているが、種類は特に限定するものではない。
【0058】
導光板100a,100bはそれぞれ異なるパターン周期P1,P2をもち,対応する波長範囲が異なる。P1は例えば360nmであり、P2は例えば460nmである。なお、導光板100の数は任意であり、取り扱う光の波長に応じて一つあるいは3以上の複数でもよい。各導光板のパターン周期は、取り扱う波長に応じて変えることが望ましい。
【0059】
図6の構成によって,プロジェクタ300から出射した映像光線はユーザにより視認が可能である。プロジェクタ300は映像表示素子10に対してユーザの瞳400と反対側に配置される。この配置はいわゆる透過型の光学構成であるが、この構成を採用した理由は、後に図12Bで詳細に説明する。なお、透過型の光学構成とするためには、プロジェクタ300が物理的にユーザの瞳400と反対側にある必要はなく、任意の位置に配置したプロジェクタ300からの光線をミラーなどで進路を変え、ユーザの瞳400と反対側から導光板100に入射するようにすればよい(以下同様)。
【0060】
入射回折格子101は、反射型の回折格子を用いている。入射した光が反射回折して,すなわち,光源側に反射して導光板100の内部を伝播するものを反射型の回折格子と呼んでいる。このため、入射回折格子101の位置は,導光板100のプロジェクタ300から遠い面に形成される。この構成を採用した理由は、後に図9で詳細に説明する。
【0061】
出射回折格子102は、導光板100の入射回折格子101のある面とは反対側の面に形成される。この構成を採用した理由は、後に図10図11Cで詳細に説明する。出射回折格子102の形状は、入射回折格子101と同様の直線ストライプ形状でもよいし、図3に示したメッシュ形状でもよい。メッシュ形状にすると、さらに回折効率が高くできる等の効果があるが、他の回折格子の形状を排除するものではない。
【0062】
本実施例では、出射回折格子102は基本的に導光板100の一つの面にのみ形成されている。すなわち、図6の例では、導光板100の出射回折格子102と反対側の面は、パターンがなく基本的に平坦である。出射回折格子102と反対側の面は、実質的に回折が起こらず光線は理想的には全反射する。導光板100の両面に一つの出射回折格子を分散して配置すると、導光板の熱膨張等で両方の回折格子の位置ずれが生じる可能性がある。
【0063】
図7は1枚の導光板100の平面概略図であり、形成された入射回折格子101と出射回折格子102の波数ベクトルの関係の一例を示している。前述のように,導光板100が画像表示素子として機能するためには,図において波数K1,K2,K3の大きさが等しく,K1+K2+K3=0となる関係を満たすようにすればよい。
【0064】
<2.出射回折構成の構成>
図8を用いて,出射回折格子102について述べる。同じアスペクト比0.8の場合のフォトニック結晶とメッシュ型回折格子の投影像の比較をした。図8(a)は「特許文献1」に記載の円柱型フォトニック結晶とその投影像のシミュレーション結果である。図8(b)は図3記載のメッシュ型回折格子とその投影像のシミュレーション結果である。回折格子の形状以外の条件は同じである。図に見られるように,アスペクト比1以下の場合,フォトニック結晶では,投影像の中央部の輝度が高く視認性が悪いことがわかる。それに比較して,図3の構成のメッシュ型回折格子は低アスペクト比のパターンで良好な投影像を得ることができる。
【0065】
メッシュ型回折格子において、パターンのデューティと回折効率およびアスペクト比の関係をシミュレーションした。回折格子のパターンのピッチをp,パターンの幅をwとすると、デューティはw/pで表される。シミュレーションでは,パターンピッチP=460nm,パターン高さ=70nm,光線の波長=550nm,導光板の厚さ=1.0mm,導光板の屈折率=1.58とした。投影像の視野角は40度である。
【0066】
シミュレーション結果によると、1次回折効率η1はw/p=0.5で最大値約4.2%となり,w/pが0または1に近づくにつれて低下する特性となっていることが判った。0.6%程度の回折効率を得る場合、本実施例のメッシュ型回折格子のw/pは0.15以上0.85以下の範囲に定める必要がある。また効率が良いのはw/pが0.3以上0.7以下の範囲、効率が最も良いのはw/pが0.4以上0.6以下の範囲であった。
【0067】
パターンのアスペクト比に関しては、パターン高さ=70nmで固定としているため、w/pが1または0に近づくと、アスペクト比が増加する。パターンのアスペクト比を1以下にすることを射出成型法等の適応の基準とすると,本実施例のメッシュ型回折格子のw/pは0.15から0.85の範囲に定める必要がある。また、アスペクト比最小で最も製造が容易となるのは、w/p=0.5である。
【0068】
以上から、原理的にはw/p=0.5、すなわちw=p-wのとき、メッシュ型回折格子の回折効率が最大かつ、パターンのアスペクト比最小ということがいえる。
【0069】
<3.入射回折格子の構成>
図9を用いて,入射回折格子101について述べる。ここでは、入射回折格子101としてブレーズド回折格子を例にしている。図9(a)は「特許文献3」と同じ透過型の回折格子のシミュレーション結果である。透過型回折格子は,入射した光が透過回折して,導光板(基板)内部を伝搬する。入射回折格子の位置は,導光板の光源に近い面に形成される。
【0070】
図9(a)において、映像光線900は左から入射する構成であり,図の右半分が基板(Sub)を表している。透過型の回折格子では,ブレーズ面による屈折と周期構造による回折が位相同調する条件で最大の回折効率が得られる。図に示すように,これを実現するには入射回折格子101の凹凸パターンの高さが大きい必要があり,パターンの角度は70度から80度,パターンの高さを周期で割ったアスペクト比は10以上が必要である。射出成型等の一般のプラスチック成型法では,アスペクト比が1を超えると転写性の悪化等の問題が生じて,量産時の歩留りが低下する。ここに示した透過型の回折格子は本実施例の入射回折格子としては適していないことが判る。
【0071】
図9(b)は反射型の回折格子のシミュレーション結果である。反射型の回折格子では、入射した光が反射回折して,すなわち,光源側に反射して導光板(基板)の内部を伝播する。入射回折格子101は,導光板の光源から遠い面に形成される。
【0072】
映像光線は同様に左から入射する構成であり,図の左半分が基板(Sub)を表している。反射型の回折格子では,ブレーズ面による反射と周期構造による回折による位相同調する条件で最大の回折効率が得られる。図に見られるように,透過型に比較して,低いアスペクト比の凹凸パターンでこの条件が満たされることが判る。このときの凹凸パターンの高さは約250nmであり,アスペクト比は約0.57である。前述の試作素子では,パターン高さが374nmの三角形状の凹凸パターンを良好に転写可能であった。本実施例のプラスチック形成の導光板に好適な入射回折格子は、反射型の入射回折格子であると言える。
【0073】
<4.導光板の回折効率の検討>
図10は,導光板100を介してユーザが視認する光線の経路を示す摸式図である。導光板100の出射回折格子102と同じ側にあるユーザの瞳400Tと、出射回折格子102と反対側にあるユーザの瞳400Rで、それぞれ視認される光強度を比較検討する。
【0074】
図中,プロジェクタ300から出射した映像光線501は入射回折格子101で回折されて導光板100を全反射伝搬し,出射回折格子102上の図示しない出射円内の点131で回折されてユーザに視認される。導光板100に対してユーザの瞳400Tが出射回折格子102と同じ側にあるとき,視認される映像光線は,点131において透過回折される。よって、視認される光強度は透過回折効率が支配的となる。一方,導光板100に対してユーザの瞳400Rが出射回折格子102と反対側にあるとき,視認される映像光線は,点131において反射回折される。よって、視認される光強度は反射回折効率が支配的となる。
【0075】
導光板100内部の全反射伝搬のピッチPpropは,入射回折格子101のピッチ,導光板100の屈折率と厚さ,映像光線501の波長および入射角度で一意に定まる。映像光線が点131に至るまで出射回折格子とN回(=ΔY/Pprop)の交差をすることになるので,ユーザの瞳400Tが視認する光強度Iは,映像光線501の光強度をI0,出射回折格子102のゼロ次反射回折効率をηR0,1次透過回折効率をηTとすると
=I・(ηRN-1・(ηT) …(1)
で近似される。同様にユーザの瞳400Rが視認する光強度Iは,出射回折格子の1次反射回折効率をηRとすると
=I・(ηRN-1・(ηR) …(2)
で近似される。
【0076】
図11A図11Cは近似計算による視認輝度の計算結果である。ここでは導光板100の回折効率をFDTD法で計算した。波長550nm,導光板100の屈折率1.58,厚さ1mm,入射回折格子101からユーザの視線中央までの距離ΔY=17mm,回折格子のパターン周期460nm,凸部の幅150nmとして,投影像の中央画素に相当する映像光線について計算した。この条件において,全反射伝搬のピッチPpropは2.32mm,出射回折格子102と映像光線の交差回数N=7.3回である。
【0077】
図11Aは、図13の点131における、出射回折格子102の凸部のパターンの高さと反射および透過の1次回折効率の関係を示す。図に見られるように,凸部の高さが100nm以下の領域(凸部の幅150nmなのでアスペクト比<2/3)で1次回折効率はηR>ηTである。すなわち、アスペクト比が2/3より小さい回折格子パターンを用いる場合には、反射回折の方が効率がよい。また、凸部の高さが50nm以上の領域(1/3<アスペクト比)で、2%以上の回折効率を得られる。
【0078】
図11Bは、図13の点131における、出射回折格子102の凸部のパターンの高さとゼロ次反射回折効率の関係を示す。図に見られるように,凸部の高さの増加に従って,ηRが減少する。
【0079】
以上の回折効率の議論は、図13の点131における回折効率に関する。導光板においては、光線が点131に至るまでの間、導光板内で複数回反射を行う。よって、複数回の反射による損失を、上式(1)および(2)ではηR N-1で表している。実際にユーザが視認できる光強度については、式(1)および(2)を考慮する必要がある。
【0080】
図11Cは、式(1)および(2)に基づき、出射回折格子の凸部のパターンの高さとユーザが視認する光強度の関係を示す。図に見られるように,1次反射回折を利用したIの方が,1次透過回折を利用したIに比較して最大値が大きいことが判る。また、アスペクト比が小さい回折格子パターンを用いる場合には、1次反射回折を利用したIのほうが強度が高い。凸部の高さが低いほど射出成型法等による転写性が優れるため,導光板100としては,1次反射回折を利用する方がユーザの視認輝度を高くすることができる。
【0081】
以上の検討から、図10に示す導光板100、出射回折格子102の配置に対して、導光板100の出射回折格子102と反対側にユーザの瞳400Rが位置する位置関係が、ユーザの視認輝度の上から望ましいということが言える。
【0082】
図11Dおよび図11Eは、出射回折格子の凸部のパターンの高さとユーザが視認する光強度の関係を示す。近似計算による視認輝度の他の光波長に対する計算結果である。
【0083】
図11Dは上と同じ導光板に対して,波長635nmの光線を入射した場合の結果である。図11Cと同様に,1次反射回折を利用したIの方が,1次透過回折を利用したIに比較して最大値が大きいことが判る。凸部の高さが低いほど射出成型法等による転写性が優れるため,導光板としては,1次反射回折を利用する方がユーザの視認輝度を高くすることができる。
【0084】
図11Eは波長460nmの光線を入射した場合の結果である。ここでは,波長460nmに対応して,回折格子のパターン周期を360nmとしており,図1における導光板100に相当する条件の例である。同様に,1次反射回折を利用したIの方が,1次透過回折を利用したIに比較して最大値が大きいことが判る。凸部の高さが低いほど射出成型法等による転写性が優れるため,導光板としては,1次反射回折を利用する方がユーザの視認輝度を高くすることができる。
【0085】
図11C図11Eの例からは、可視光線の領域であれば回折格子のパターン高さがおよそ100nm以下で、1次反射回折の効率が1次透過回折より優れているということがわかる。パターン高さは最低でも30nm以上あることが望ましい。さらに好ましくは、図示するパターン高さ40nm以上90nm以下の範囲で、反射回折により強い可視光強度が得られることがわかる。
【0086】
<5.導光板の傾きの影響の検討>
次に,出射回折格子102で1次反射回折をさせて映像光をユーザが視認する場合を考える。この場合、出射回折格子102は、導光板100のユーザの瞳400と反対側の面に配置される。
図12Aは,プロジェクタ300とユーザの瞳400の関係が,導光板100に対して,同じ側にある摸式図である。
図12Bは,プロジェクタ300とユーザの瞳400の関係が,導光板100に対して,反対側にある摸式図である。
【0087】
図12Aおよび図12Bにより、2枚の導光板100aと100bの相対傾きの影響を説明している。図12Aおよび図12Bにおいて,導光板100はそれぞれ対応波長が異なる導光板100aと100bで構成される。また,300は映像投影用のプロジェクタ,400はユーザの瞳,501および502は投影される映像光線を表している。
【0088】
図12Aはプロジェクタ300とユーザの瞳400が導光板100に対して同じ側に配置される場合である。反射型の入射回折格子101は,導光板100のプロジェクタ300から遠い面(図中では右面)に形成される。図に示すように,導光板100は最終的に映像光線501と502を反射してユーザの瞳400に届ける。このため,導光板100a(または100b)に対して導光板100b(または100a)が傾いていると、投影される光線の波長によって,ユーザの視野像1200に図示するように、視認される映像光線501,502の画素位置501P,502Pがシフトして,画質が低下する。視力1.0のユーザの光線角度の分解能力は1/60度であるから,これを基準とすると2枚の導光板100aと100bの相対傾きは1/60度よりも十分に小さくする必要があり,従来のガラス製に比較して機械強度(ヤング率)の小さなプラスチック導光板ではヘッドマウントディスプレイとしての実装が難しい。
【0089】
図12Bはプロジェクタ300とユーザの瞳400が導光板100に対して反対側に配置される場合である。反射型の入射回折格子101は,導光板100のプロジェクタ300に近い面(図中では左面)に形成される。図に示すように,導光板100は最終的に映像光線501,502を透過してユーザの瞳400に届ける。入射光と出射光の角度は基本的に同じため,導光板100aと100bの相対傾きがあっても原理的に波長による投影像の画素位置501P,502Pにシフトは発生しない。したがって,本実施例のプラスチック製導光板をヘッドマウントディスプレイに実装する場合には,プロジェクタ300の光源を導光板100に対してユーザの瞳400と反対側(透過型の光学構成)にすることが望ましい。この場合,出射回折格子102は,入射回折格子101に対して,導光板100の反対側の表面に形成する必要がある。
【0090】
実際には,導光板100内部を全反射導光する光線角度条件が影響を受けるため,導光板100aと100bの相対傾きは3度程度以下に抑えることが望ましいことを付記しておく。この場合,出射回折格子102の透過回折効率が高いほど,輝度の高い映像情報をユーザに提供することができる。
【0091】
なお、図12A図12Bではプロジェクタ300が、導光板100の左側に配置されているが、導光板100へ左側から光線が入射すればよく、プロジェクタ300の位置を制限するものではない。例えば、プロジェクタ300を導光板100の右側に配置して、ミラー等で光線の方向を変えて導光板100の左側から入射させてもよい。
【0092】
導光板100を伝搬中の光が出射回折格子102で回折して,導光板100から出射する際の回折効率をFDTD法で計算した。波長550nm,導光板100の屈折率1.58,回折格子のパターン周期460nm,凸部の幅150nm,凸部の高さ70nmとして,投影像の中央画素に相当する光が入射回折でカップリングして導光板100内部を全反射伝搬している条件において,反射回折効率が3.5%,透過回折効率が2.8%となった。凹凸パターンのアスペクト比は0.47である。
【0093】
当然ではあるが、導光板100の片面のみに入射回折格子101と出射回折格子102を同時に射出形成するほうが製造プロセスは簡単である。図12Bの構成で、仮に出射回折格子102が入射回折格子101と同じ面に形成されている場合,ユーザに視認される光線は出射回折格子102で透過回折したものになる。したがって,図12Bに示した透過型の光学構成で入射回折格子101と出射回折格子102を同一面に形成した場合には,図12Aの反射型の光学構成に比較して,ユーザに視認される投影像の輝度が低下してしまう。
【0094】
本実施例では、図6および図12Bにおいて示したように,出射回折格子102aと102bはそれぞれ入射回折格子101aと101bと反対側の面に形成している。このとき,図12Bの透過型光学構成であっても,反射回折によって光線がユーザに視認されるため,輝度の高い映像情報を提供することが可能である。
【0095】
<6.理想的な画像表示素子の検討>
以上の実施例で示した知見を整理し、望ましい画像表示素子の構成を検討する。
【0096】
図9で説明したように、プラスチックを導光板として使う場合、回折効率の高い入射回折格子では、アスペクト比の高いパターンは作りにくいので、アスペクト比の低くできる反射型の回折格子が好ましい。
【0097】
そして、反射型の入射回折格子101は、導光板100内部に光を反射するので、図10のように導光板の映像光線の入射面(第1面)の反対側の面(第2面)に配置される。
【0098】
また、図12A図12Bで説明したように、導光板100を複数用いる場合、視認される画素位置のずれを小さくするためには、光線の入射面(第1面)と反対側(第2面)に光が射出する透過型の光学構成が望ましい。
【0099】
また、図11A図11Eで説明したように、導光板100としては,1次反射回折が支配的な光をユーザが視認する構成により、低いアスペクト比で視認輝度を高くすることができる。よって、出射回折格子102は1次反射回折光が第2面に射出するように、第1面に配置するのがよい。以上から、入射回折格子101は第2面、出射回折格子102は第1面の構成が推奨される。
【0100】
本実施例によれば、表面凹凸型の回折格子を有する導光板(画像表示素子)において,入射回折格子と反対側の面に出射回折格子を形成することにより,出射回折効率を4%以上に増加させることが可能となる。また、図3に示すメッシュ型の出射回折格子を用いれば,射出成型法等により導光板のプラスチック化が容易であり,安全で軽量で輝度の高い導光板を実現することができる。
【実施例2】
【0101】
図13はプラスチック成型技術で,図6に示した導光板100の両面に入射回折格子101と出射回折格子102を一体成型する方法の摸式図である。
【0102】
ナノインプリント法やエッチング等の従来用いられている導光板の作成は半導体加工技術に基づく,表面加工技術である。一方,射出成型法等のプラスチック成型技術は,金型の内部に樹脂を導入して固めることによる立体成型技術であるため,導光板の両面に回折格子を形成することが容易である。
【0103】
図中,形成すべき回折格子の表面形状を凹凸反転した形で表面にもつスタンパ700,および701をそれぞれ金型の固定部710と可動部720に固定する。このような金型を用いて,樹脂流路730から溶融した樹脂740を注入するとともに,金型の可動部720を図中の右方向に移動させることにより,圧力を印加することで,樹脂740をキャビティ750の形状に沿った形状にするとともに,冷却過程を経て所望の導光板を作成することが可能である。本方法は一般的なものであって,スタンパを2つ用いることにより,両面に回折格子が凹凸形状として形成された導光板をプラスチックで作成することができる。
【実施例3】
【0104】
図14は、実施例の画像表示装置の構成を示す摸式図である。図中のプロジェクタ300から出射した画像情報をもつ光は,導光板100の作用によりユーザの瞳400に届けられ,拡張現実を実現する。各導光板100では,形成される回折格子のピッチと深さは,各色に応じて最適化されたものである。導光板100の数は任意でよいが、一般に赤、青、緑のそれぞれの光のために3枚用いられる。
【0105】
図中,本実施例の画像表示装置は導光板100,プロジェクタ300,および表示画像制御部1400からなる。また,画像形成の方法としては,例えば、反射型または透過型の空間光変調器と光源とレンズから構成された画像形成装置,有機および無機EL(Electro Luminescence)素子アレイとレンズによる画像形成装置、発光ダイオードアレイとレンズによる画像形成装置,光源と半導体MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラーアレイとレンズを組み合わせた画像形成装置等,広く公知の画像形成装置を用いることができる。
【0106】
また,LED(Light Emitting Diode)やレーザ光源と光ファイバの先端をMEMS技術やチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等により共振運動させたものを用いることもできる。これらの中で,最も一般的なものは、反射型または透過型の空間光変調器と光源とレンズから構成された画像形成装置である。ここで、空間光変調装置として、LCOS(Liquid Crystal On Silicon)等の透過型あるいは反射型の液晶表示装置、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)を挙げることができ、光源としては白色光源をRGB分離して用いることも,各色対応のLEDやレーザを用いることもできる。
【0107】
更には、反射型空間光変調装置は、液晶表示装置、及び、光源からの光の一部を反射して液晶表示装置へと導き、且つ、液晶表示装置によって反射された光の一部を通過させてレンズを用いたコリメート光学系へと導く偏光ビームスプリッターから成る構成とすることができる。光源を構成する発光素子として、赤色発光素子、緑色発光素子、青色発光素子、白色発光素子を挙げることができる。画素の数は、画像表示装置に要求される仕様に基づき決定すればよく、画素の数の具体的な値として、上で示した1280x720のほかに,320×240、432×240、640×480、1024×768、1920×1080を例示することができる。
【0108】
本実施例の画像表示装置では,プロジェクタ300から出射した映像情報を含む光線が,導光板100の各入射回折格子101に照射されるように,位置決めして,導光板100と一体化されて形成される。
【0109】
また,図示しない表示画像制御部は,プロジェクタ300の動作を制御して,ユーザの瞳400に適宜,画像情報を提供する機能を果たす。
【0110】
以上説明した実施例では、表面凹凸型の回折格子を有する導光板(画像表示素子)において,入射出射回折格子や出射回折格子を射出成型法等により導波路と同じ屈折率の材料で一体成型することにより,導光板のプラスチック化を実現し,安全で軽量な導光板を実現することができる。すなわち、アスペクト比1以下の表面凹凸で良好な性能を有する導光板を射出成型法で作成可能となり,導光板のプラスチック化による安全性の向上と軽量化を実現することができた。
【0111】
また、入射回折格子101と出射回折格子102とは、導光板100の対向する面に形成されており、反射回折を用いて回折効率を向上することにより視認像の輝度を向上することができる。本実施例では,ユーザに画像情報を提供する場合について示したが,本実施例の画像表示装置は,このほかにユーザや外界の情報を取得するためのタッチセンサ,温度センサ,加速度センサ等の各種センサや,ユーザの目の動きを計測するためのアイ・トラッキング機構を備えることが可能である。
【符号の説明】
【0112】
100:導光板、101:入射回折格子、102:出射回折格子、300:プロジェクタ、400:ユーザの瞳
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図12B
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図14