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特許7341922ワイヤー検査システム及びワイヤー検査装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】ワイヤー検査システム及びワイヤー検査装置
(51)【国際特許分類】
   B66B 31/00 20060101AFI20230904BHJP
   B66B 7/12 20060101ALI20230904BHJP
   G01N 27/82 20060101ALI20230904BHJP
【FI】
B66B31/00 D
B66B7/12 Z
G01N27/82
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020034410
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021134081
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】溝口 崇子
(72)【発明者】
【氏名】馬場 理香
(72)【発明者】
【氏名】小平 法美
(72)【発明者】
【氏名】大西 友治
【審査官】八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-13974(JP,A)
【文献】特開2018-100942(JP,A)
【文献】特開2018-71983(JP,A)
【文献】特開2017-67743(JP,A)
【文献】特開昭60-17351(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0033049(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 1/00-31/02
G01N 27/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降機に内蔵された磁性金属ワイヤーの状態を検査するワイヤー検査システムであって、
検査対象の前記磁性金属ワイヤーと対向する面に、前記磁性金属ワイヤーの伸長方向に沿って配置された、互いに逆向きの交流磁場を発生する第1発振コイル及び第2発振コイルと、前記第1発振コイルと前記第2発振コイルの中間またはその近傍に位置し、前記第1発振コイル及び前記第2発振コイルから受けた漏洩磁場に基づく磁場信号波形を検査データとして出力する磁気センサーと、をそれぞれが含む複数のコイル・磁気センサーユニットと、
前記複数のコイル・磁気センサーユニットに対応付けて設けられ、互いに異なる信号周波数の交流電流を発生する複数の信号発生器と、
前記信号発生器が発生した前記交流電流を、対応するコイル・磁気センサーユニットの前記第1発振コイル及び前記第2発振コイルに供給する電流出力回路と、
前記磁気センサーから出力された前記検査データを、対応する前記信号発生器の信号周波数で検波する検波部と、
を備えたことを特徴とするワイヤー検査システム。
【請求項2】
前記複数のコイル・磁気センサーユニットの前記磁気センサーからそれぞれ得られた複数の検波結果を用い、前記磁性金属ワイヤーの状態を評価する評価部をさらに備え、
前記評価部は、前記複数の検波結果の信号対雑音比に基づいて前記評価に用いる検波結果を決定する
ことを特徴とする請求項1に記載のワイヤー検査システム。
【請求項3】
前記磁性金属ワイヤーは、乗客コンベアに設けられたハンドレール内部のスチールコードであることを特徴とする請求項1に記載のワイヤー検査システム。
【請求項4】
前記磁性金属ワイヤーは、エレベーターの乗カゴを吊り下げるワイヤロープであることを特徴とする請求項1に記載のワイヤー検査システム。
【請求項5】
前記複数の信号発生器は、前記信号周波数の交流電流に加えて搬送周波数の交流電流をさらに発生し、
複数の前記コイル・磁気センサーユニットは、前記搬送周波数の振幅を前記信号周波数の周期で変動させる振幅変調を行って前記第1発振コイル及び前記第2発振コイルを励磁することを特徴とする請求項1に記載のワイヤー検査システム。
【請求項6】
前記複数の信号発生器は、前記信号周波数の交流電流に加えて第1の搬送周波数の交流電流と第2の搬送周波数の交流電流とをさらに発生し、
複数の前記コイル・磁気センサーユニットは、前記第1の搬送周波数と前記第2の搬送周波数とを前記信号周波数の周期で切り替える周波数変調を行って前記第1発振コイル及び前記第2発振コイルを励磁することを特徴とする請求項1に記載のワイヤー検査システム。
【請求項7】
前記複数の信号発生器は、前記信号周波数の交流電流に加えて搬送周波数の交流電流をさらに発生し、
複数の前記コイル・磁気センサーユニットは、前記搬送周波数の位相を前記信号周波数の周期で切り替える位相変調を行って前記第1発振コイル及び前記第2発振コイルを励磁することを特徴とする請求項1に記載のワイヤー検査システム。
【請求項8】
前記磁性金属ワイヤーの駆動量を検知する駆動量検知部をさらに備え、前記検波部は、前記磁性金属ワイヤーの駆動中に検波を行い、検波結果と前記駆動量を関連付けることで、前記磁性金属ワイヤーの伸長方向の各位置について検査結果を出力することを特徴とする請求項1に記載のワイヤー検査システム。
【請求項9】
昇降機に内蔵された磁性金属ワイヤーの状態を検査するワイヤー検査装置であって、
検査対象の前記磁性金属ワイヤーと対向する面に、前記磁性金属ワイヤーの伸長方向に沿って配置された、互いに逆向きの交流磁場を発生する第1発振コイル及び第2発振コイルと、前記第1発振コイルと前記第2発振コイルの中間またはその近傍に位置し、前記第1発振コイル及び前記第2発振コイルから受けた漏洩磁場に基づく磁場信号波形を検査データとして出力する磁気センサーと、をそれぞれが含む複数のコイル・磁気センサーユニットと、
前記複数のコイル・磁気センサーユニットに対応付けて設けられ、互いに異なる信号周波数の交流電流を発生する複数の信号発生器と、
前記信号発生器が発生した前記交流電流を、対応するコイル・磁気センサーユニットの前記第1発振コイル及び前記第2発振コイルに供給する電流出力回路と、
前記磁気センサーから出力された前記検査データを、対応する前記信号発生器の信号周波数で検波する検波部と、
を備えたことを特徴とするワイヤー検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇降機に内蔵された磁性金属ワイヤーの状態を検査するワイヤー検査システム及びワイヤー検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、昇降機に内蔵された磁性金属ワイヤーの状態を検査するため、特許第6211166号(特許文献1)に記載の技術がある。この公報には、「底面に、互いに逆向きの交流磁場を発生する発振コイル(1)、発振コイル(2)と、それらの中間またはその近傍に位置する受信コイルと、を長手方向に一列に配置したコイルセットを複数、スチールコード3の幅方向にずらして設けたことで、永久磁石を用いることなく(その分、サイズ、コストをダウン可能)、高SN比で、乗客コンベアのハンドレール1に内蔵されたスチールコード3の劣化に関する検査データを生成することができる。」という記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6211166号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、所定周波数で交流磁場を発生させ、ハンドレールに内蔵されたスチールコードの劣化に関する検査データを生成している。しかし、周囲に同一周波数の磁場を生ずる装置が存在すると、周囲の磁場がノイズとして混入し、検査の精度が低下するという課題がある。
【0005】
例えば、商品管理や万引き防止を目的としたシステム(EAS Electronic Article Surveillance)では、店舗の出入り口に定常的に磁場を発生する装置が設置される場合がある。そして、店舗の出入り口は、エスカレーターの近傍となるケースが少なくないため、かかるシステムからの影響をいかに低減するかは重要である。
【0006】
このような課題は、エスカレーターのみならず、エレベーターのような他の昇降機においても同様に生ずる。エレベーターでは、乗カゴを吊り下げるワイヤロープが、昇降機に内蔵された磁性金属ワイヤーに該当することになる。なお、昇降機の機構を利用して水平移動する装置は、昇降機に含めるものとする。例えば、エスカレーターと同様の機構により乗客を水平方向に運ぶ乗客コンベアは、昇降機の一種として扱う。
【0007】
これらのことから、本発明では、ノイズの影響を抑制し、昇降機に内蔵された磁性金属ワイヤーの状態を精度よく検査することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、代表的な本発明のワイヤー検査システム及びワイヤー検査装置の一つは、検査対象の磁性金属ワイヤーと対向する面に、前記磁性金属ワイヤーの伸長方向に沿って配置された、互いに逆向きの交流磁場を発生する第1発振コイル及び第2発振コイルと、前記第1発振コイルと前記第2発振コイルの中間またはその近傍に位置し、前記第1発振コイル及び前記第2発振コイルから受けた漏洩磁場に基づく磁場信号波形を検査データとして出力する磁気センサーと、をそれぞれが含む複数のコイル・磁気センサーユニットと、前記複数のコイル・磁気センサーユニットに対応付けて設けられ、互いに異なる信号周波数の交流電流を発生する複数の信号発生器と、前記信号発生器が発生した前記交流電流を、対応するコイル・磁気センサーユニットの前記第1発振コイル及び前記第2発振コイルに供給する電流出力回路と、前記磁気センサーから出力された前記検査データを、対応する前記信号発生器の信号周波数で検波する検波部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ノイズの影響を抑制し、昇降機に内蔵された磁性金属ワイヤーの状態を精度よく検査することができる。上記した以外の課題、構成及び効果は以下の実施の形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1に係るワイヤー検査システムの構成を示す構成図。
図2】コイルユニットについての説明図。
図3】検査の原理についての説明図。
図4】ワイヤー検査装置の制御回路の回路構成を示す回路構成図。
図5】ワイヤー検査システムの処理手順を示すフローチャート。
図6】評価処理の詳細を示すフローチャート。
図7】評価結果の表示画面の具体例。
図8】実施例2に係るワイヤー検査装置の制御回路の回路構成図。
図9】ワイヤー検査システムが使用可能な変調の具体例。
図10】変調を行う場合の設定画面の具体例。
図11】実施例2におけるワイヤー検査システムの処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施例を図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は、本実施例1に係るワイヤー検査システムの構成を示す構成図である。図1に示すように、ワイヤー検査システム10は、ワイヤー検査装置20及び評価装置30を有する。ワイヤー検査装置20は、複数のコイルユニット22と、複数のコイルユニット22に対応する複数の信号発生器21と、複数のコイルユニット22に対応する複数の検波部23とを有する。
【0013】
コイルユニット22の詳細については後述するが、その内部に第1発振コイル、第2発振コイル及び受信コイルを有する。受信コイルは、第1発振コイル及び第2発振コイルから受けた漏洩磁場を検知する磁気センサーとして機能する。したがって、コイルユニット22は、特許請求の範囲におけるコイル・磁気センサーユニットに相当する。
【0014】
複数の信号発生器21は、互いに異なる信号周波数の交流電流を発生し、対応するコイルユニット22の第1発振コイル及び第2発振コイルに供給する。この信号発生器21からコイルユニット22までの経路が電流出力回路である。
【0015】
コイルユニット22の第1発振コイル及び第2発振コイルは、信号発生器21から供給された交流電流で発振し、交流磁場を生ずる。コイルユニット22をエスカレーターのハンドレールに対向させれば、コイルユニット22は、ハンドレールに内蔵されたスチールコード(磁性金属ワイヤー)と対向した状態となり、発生した磁場はスチールコードの影響を受ける。このため、磁場を受信コイルで受信した検査データは、スチールコードの状態を示すことになる。
【0016】
受信コイルで受信した検査データは、検波部23によって検波され、評価装置30に出力される。評価装置30は、複数の検波部23から出力される複数の検査データをスチールコードの評価に用いることができる。
【0017】
例えば、エスカレーターの近傍にEASが存在し、EASが発生する磁場の周波数がいずれかの信号発生器21が発生する信号周波数と近いならば、この周波数での検査データにはノイズが混入し、SN比(信号対雑音比)が低下する。しかし、ワイヤー検査装置20は、複数の信号周波数を生成し、信号周波数ごとに検査データを生成しているため、ノイズの影響が比較的小さい検査データを選択することで、ノイズの影響を低減して磁性金属ワイヤーの状態を精度よく評価することができる。
【0018】
図2は、コイルユニット22についての説明図である。図2では、ワイヤー検査装置20は、コイルユニット22a、コイルユニット22b及びコイルユニット22cの3つのコイルユニット22を有している。各コイルユニット22は、第1発振コイルL1と、第2発振コイルL2と、受信コイルL3とを含む。
【0019】
第1発振コイルL1と第2発振コイルL2とは、ハンドレールと対向する面に、ハンドレールの伸長方向に沿って配置され、互いに逆向きの交流磁場を発生する。ハンドレールの伸長方向は、内蔵されたスチールコードの伸長方向と同一である。
【0020】
受信コイルL3は、第1発振コイルL1と第2発振コイルL2の中間に位置し、第1発振コイルL1及び第2発振コイルL2から受けた漏洩磁場に基づく磁場信号波形を検査データとして出力する。なお、受信コイルL3は、第1発振コイルL1と第2発振コイルL2の中間ではなく、その近傍に配置してもよい。
【0021】
また、図2では、コイルユニット22aとコイルユニット22bをハンドレールの幅方向に並べて配置し、コイルユニット22cをハンドレールの幅方向中央に配置することで、ハンドレールの幅全体が、いずれかの発振コイルの内側に入るよう構成している。したがって、ハンドレールを駆動して1周させれば、ハンドレール全体を検査することができる。
【0022】
図3は、検査の原理についての説明図である。まず、図3に示すように、検査対象Mと対向する位置に、コイルユニット22の第1発振コイルL1、受信コイルL3、第2発振コイルL2を、検査対象Mの伸長方向(図3の横方向)に一列に配置する。
【0023】
第1発振コイルL1と第2発振コイルL2は、互いに逆向きの交流磁場を発生する。
受信コイルL3は、第1発振コイルL1と第2発振コイルL2の中間に位置し、第1発振コイルL1及び第2発振コイルL2から受けた磁場に基づく磁場波形を検査データとして出力する。
【0024】
第1発振コイルL1から発生した磁力線B1,B2,B3は、検査対象Mを通過するが、検査対象Mから漏れて第1発振コイルL1に戻る。このとき、第1発振コイルL1に戻る磁力線B1,B2,B3の大きさは、検査対象Mの断面積や、高さh(検査対象Mから第1発振コイルL1までの距離)に依存する。また、第1発振コイルL1から近いほど磁力は強いので、磁力線B1,B2,B3の強さの大小関係は、B1>B2>B3となる。
【0025】
同様に、第2発振コイルL2から発生した磁力線B11,B12,B13は、検査対象Mを通過するが、検査対象Mから漏れて第2発振コイルL2に戻る。また、磁力線B11,B12,B13の強さの大小関係は、B11>B12>B13となる。
【0026】
ここで、図1の上向きの方向を磁力のプラスの方向とする。また、第1発振コイルL1と第2発振コイルL2が発生する交流磁場の強さは同等であるものとする。また、以下では、ある瞬間に、第1発振コイルL1から発生する磁場は自身の内部を下向きに通過する方向に発生し、第2発振コイルL2から発生する磁場は自身の内部を上向きに通過する方向に発生する場合を考える。
【0027】
このとき、第1発振コイルL1と受信コイルの間の位置では、磁力線B1と磁力線B
13が相殺し合うが、磁力線B1のほうが強いので(B1+B13>0)、上向きの磁力線が残る。
また、第2発振コイルL2と受信コイルの間の位置では、磁力線B3と磁力線B11が相殺し合うが、磁力線B11のほうが強いので(B3+B11<0)、下向きの磁力線が残る。
【0028】
また、受信コイルでは、磁力線B2と磁力線B12が相殺し合い、磁力線B2と磁力線B12の強さは同等なので(B2+B12=0)、磁力線は残らない。したがって、検査対象Mが正常であれば(破断等の劣化がなければ)、受信コイルには電流が発生しない。
【0029】
ここで、検査対象Mに破断がある場合について説明する。以下では、受信コイルに鎖交する磁束「B2+B12」をΦと表す。
【0030】
検査対象Mにおいて第1発振コイルL1と受信コイルの間の位置に破断があると、第1発振コイルL1から発生して検査対象M内を通過している磁力線は破断箇所から多く上向きに出てしまうので、磁束Φ<0となる。
また、検査対象Mにおいてと受信コイルの真下の位置に破断があると、磁束Φ=0となる。
また、検査対象Mにおいて受信コイルと第2発振コイルL2の間の位置に破断があると、磁束Φ>0となる。
【0031】
このため、破断がある検査対象を第1発振コイルL1側から第2発振コイルL2側に移動させて検査すれば、磁束Φがゼロ、負、ゼロ、正、ゼロの順で推移する波形が得られるのである。
【0032】
したがって、受信コイルから出力される電流(磁場波形)の経時的変化に基づいて、検査対象Mにおける破断等の劣化箇所を特定することができる。つまり、検査対象Mの劣化箇所では、受信コイルから出力される磁場波形が大きく上下する。よって、このような構成および原理に基づくことにより、特に永久磁石を用いることなく、高SN比で、検査対象Mの劣化に関する検査データを生成することができる。
【0033】
なお、第1発振コイルL1と第2発振コイルL2が発生する交流磁場の強さが同等であるものとすると、受信コイルの位置がそれらの中間からどちらかにずれると、検査対象M
が正常であっても(破断等の劣化がなくても)、受信コイルに鎖交する磁束Φは0にならない。しかし、受信コイルの位置がそれらの中間からどちらかにずれている場合であっても、受信コイルから出力される電流の増幅や処理の限界の範囲内であれば、第1発振コイルL1と第2発振コイルL2が発生する交流磁場の一方が他方よりも強くなるように調整して対応する(磁束Φ=0にする)ことができる。したがって、受信コイルは、必ずしも第1発振コイルL1と第2発振コイルL2の厳密な中間に配置されていなくてもよく、中間の近傍に配置されていてもよい。また、受信コイルの位置のそれらの中間からのずれが微少である場合は、第1発振コイルL1と第2発振コイルL2に発生する交流磁場の強さが同等なまま(磁束Φ≒0)でも、有効な検査データを得ることができる。
【0034】
図4は、ワイヤー検査装置20の制御回路の回路構成を示す回路構成図である。図4に示すように、制御回路25は、コントローラ、バッファ、DDS(Direct Digital Synthesizer)、ハイパスフィルター(HPF)、ローパスフィルター(LPF)、増幅器、ロックインアンプ、アナログデジタル変換機(ADC)などにより構成される。
【0035】
バッファは、ハンドレールに対するワイヤー検査装置20の相対移動距離を測定するエンコーダから測定結果を示す信号を受信して保持し、コントローラに提供する。ハンドレールに対する相対移動距離は、検波の結果と関連付けることで、ハンドレールの伸長方向のどの位置に対する検査データであるかを示すことができる。すなわち、エンコーダは、特許請求の範囲における駆動量検知部に相当する。
【0036】
DDSは、コントローラから指定された周波数の信号を出力する信号発生器21として動作する。図4では、3つのDDSがコントローラに接続されている。各DDSは、HPFと2つの増幅器を介して対応するコイルユニット22の発振コイル(第1発振コイル及び第2発振コイル)に接続され、該発振コイルに交流電流を供給する。
【0037】
一方、受信コイルが受信した磁場信号波形は、増幅器、HPF、増幅器、ロックインアンプ、LPFを順次経由してADCに入力され、ADCでデジタル信号に変換されてコントローラに入力される。増幅器、HPF、増幅器、ロックインアンプ、LPFは、受信コイルごとに設けられている。そして、この経路では、ロックインアンプが検波部23として動作する。
【0038】
コントローラは、各DDSに対して周波数の指定を行い、発振の開始と終了を指示する。また、ADCからデジタル信号として入力された各受信コイルの検査データを、エンコーダから取得したハンドレールに対する相対移動距離に関連付けて評価装置30に出力する。
【0039】
図5は、ワイヤー検査システム10の処理手順を示すフローチャートである。まず、ワイヤー検査装置20は、励磁出力及びエンコーダ動作の開始を行う(ステップS101)。励磁出力の開始は、具体的には、信号発生器21の動作開始である。エンコーダ動作の開始は、エンコーダによる相対移動距離の測定開始である。
【0040】
次に、ハンドレールの駆動を開始し(ステップS102)、ステップS103に移行する。ハンドレールの駆動の開始は、例えば評価装置30などから制御指示を送信すればよい。なお、ハンドレールの駆動が他のシステム等の制御下で行われるのであれば、ステップS102の処理は、ハンドレールの駆動開始を検知する処理としてもよい。もしくは、ステップS102を省略してステップS103に移行してもよい。
【0041】
ステップS103では、各コイルユニット22の受信コイルL3が磁場信号波形を検査データとして取得し、検波部23により検波する信号取得が行われる。評価装置30は、検波された検査データの評価処理を行い(ステップS104)、評価結果を表示出力して(ステップS105)、処理を終了する。
【0042】
図6は、評価処理の詳細を示すフローチャートである。図5に示すように、評価装置30は、複数の受信コイルL3に由来する複数の検査データから信号を検出し(ステップS201)、SN比を判定する(ステップS202)。SN比が基準未満の検査データが存在するならば(ステップS203;Yes)、評価装置30は、該当の検査データを評価対象から除外する(ステップS204)。
【0043】
ステップS204の後、若しくはSN比が基準未満の検査データが存在しない場合(ステップS203;No)、評価装置30は、信号における振幅の波高率を算出する(ステップS205)。
【0044】
波高率が閾値を超えなければ(ステップS206;No)、評価装置30は、ハンドレールに異常なしと判定し(ステップS207)、元の処理に戻る。一方、波高率が閾値を超えるならば(ステップS206;Yes)、評価装置30は、ハンドレールの該当箇所に異常ありと判定し(ステップS208)、元の処理に戻る。
【0045】
図7は、評価結果の表示画面の具体例である。図7では、検査日時、製品番号、判定、異常位置、検査データが表示されている。具体的には、ハンドレールの8mの箇所で検査データの振幅が変動しており、判定は「異常あり」となっている。
【0046】
上述してきたように、実施例1に係るワイヤー検査装置20は、検査対象の磁性金属ワイヤーと対向する面に、磁性金属ワイヤーの伸長方向に沿って配置された、互いに逆向きの交流磁場を発生する第1発振コイル及び第2発振コイルと、第1発振コイルと第2発振コイルの中間またはその近傍に位置し、第1発振コイル及び第2発振コイルから受けた漏洩磁場に基づく磁場信号波形を検査データとして出力する磁気センサーと、をそれぞれが含む複数のコイル・磁気センサーユニットを有する。さらに、ワイヤー検査装置20は、複数のコイル・磁気センサーユニットに対応付けて設けられ、互いに異なる信号周波数の交流電流を発生する複数の信号発生器と、信号発生器が発生した交流電流を、対応するコイル・磁気センサーユニットの第1発振コイル及び第2発振コイルに供給する電流出力回路と、磁気センサーから出力された検査データを、対応する信号発生器の信号周波数で検波する検波部とを備える。
かかる構成により、ワイヤー検査装置20は、ノイズの影響を抑制し、昇降機に内蔵された磁性金属ワイヤーの状態を精度よく検査することができる。
【0047】
また、ワイヤー検査装置20に接続されてワイヤー検査システム10を構成する評価部としての評価装置30は、複数のコイル・磁気センサーユニットの磁気センサーからそれぞれ得られた複数の検波結果を用い、磁性金属ワイヤーの状態を評価する。さらに、評価装置30は、複数の検波結果の信号対雑音比に基づいて評価に用いる検波結果を決定するので、ノイズの影響を受けていない評価結果を用いて評価を行うことができる。
【0048】
また、ワイヤー検査装置20は、磁性金属ワイヤーの駆動量を検知する駆動量検知部としてのエンコーダをさらに備え、磁性金属ワイヤーの駆動中に検波を行い、検波結果と駆動量を関連付けることで、磁性金属ワイヤーの伸長方向の各位置について検査結果を出力することができる。
【実施例2】
【0049】
本実施例2では、信号周波数に変調を適用する構成について説明を行う。
図8は、本実施例2に係るワイヤー検査装置の制御回路の回路構成図である。図8に示す制御回路125は、搬送周波数用のDDSをさらに備え、信号周波数用のDDSの出力と搬送周波数用のDDSの出力とが変調回路に入力されている。そして、変調回路の出力がHPFと2つの増幅器を介し、対応するコイルユニット22の発振コイル(第1発振コイル及び第2発振コイル)に交流電流を供給する構成となっている。
【0050】
また、受信コイルが受信した磁場信号波形は、増幅器、HPF、増幅器、復調回路、LPF、HPF、増幅器、ロックインアンプ、LPFを順次経由してADCに入力される構成となっている。
その他の構成については図4と同一であるので、説明を省略する。
【0051】
図9は、ワイヤー検査システム10が使用可能な変調の具体例である。図9では、振幅変調(AM:Amplitude Modulation)、周波数変調(FSK:frequency shift keying)、位相変調(PSK:Phase Shift Keying)を示している。
【0052】
振幅変調では、信号発生器21は、信号周波数と、搬送波1の周波数を生成し、搬送波1の周波数の振幅を信号周波数の周期で変動させることで、振幅変調波形を得る。
FSKでは、信号発生器21は、信号周波数と、搬送波1の周波数と、搬送波2の周波数とを生成し、搬送波1と搬送波2を信号周波数の周期で切り替えることでFSK波形を得る。
PSKでは、信号発生器21は、信号周波数と、搬送波1の周波数を生成し、搬送波1の位相を信号周波数の周期で切り替えることでPSK波形を得る。
【0053】
図10は、変調を行う場合の設定画面の具体例である。図10に示した設定画面では、励磁方式として、AM、FSK、PSK、単一を選択可能である。ここで単一が選択されると、搬送波の生成や変調は行われず、実施例1と同様の動作となる。
【0054】
また、図10に示した設定画面では、コイルユニット22ごとに搬送波1周波数、搬送波2周波数、搬送波1位相、搬送波2位相、信号周波数、信号位相、励磁出力が設定可能である。なお、搬送波2周波数の設定は、周波数変調を行う場合に使用される。同様に、搬送波位相の設定は位相変調を行う場合に使用される。
また、図10に示した設定画面では、全体設定として入力ゲイン、ロックインゲイン、出力ゲインを設定可能としている。
【0055】
図11は、実施例2におけるワイヤー検査システムの処理手順を示すフローチャートである。この処理フローでは、まず、ワイヤー検査システムは、図10に示した設定画面で励磁方式の選択を受け付けて(ステップS301)、各励磁方式について数値を設定する(ステップS302)。その後のステップS303~ステップS307は、図5に示したステップS101~ステップS105と同様である。すなわち、実施例2では、変調に係る各種設定を行い、設定に従って信号波を変調して発振コイルを励磁することになる。
【0056】
上述してきたように、本実施例2では、信号周波数に変調を加えることで、EASなどに由来するノイズの影響を抑制し、昇降機に内蔵された磁性金属ワイヤーの状態を精度よく検査することができる。
【0057】
具体的には、本実施例2では、信号発生器21が信号周波数の交流電流に加えて搬送周波数の交流電流をさらに発生し、搬送周波数の振幅を信号周波数の周期で変動させる振幅変調を行って第1発振コイル及び第2発振コイルを励磁することができる。
【0058】
また、信号発生器21が信号周波数の交流電流に加えて第1の搬送周波数の交流電流と第2の搬送周波数の交流電流とをさらに発生し、第1の搬送周波数と第2の搬送周波数とを信号周波数の周期で切り替える周波数変調を行って第1発振コイル及び第2発振コイルを励磁することができる。
【0059】
また、信号発生器21が信号周波数の交流電流に加えて搬送周波数の交流電流をさらに発生し、搬送周波数の位相を信号周波数の周期で切り替える位相変調を行って第1発振コイル及び第2発振コイルを励磁することができる。
【0060】
このように、本実施例2に係るワイヤー検査システムは、信号周波数に対する変調に任意の方式を用いることができ、また、複数の変調方式から適宜選択可能に構成されている。さらに、信号周波数や搬送周波数をはじめとする各種パラメータを適宜変更して磁性金属ワイヤーの検査を行うことができる。
【0061】
上述の実施例では、3つのコイルユニットを設ける場合を例に説明を行ったが、コイルユニットの数及び配置は上述の実施例に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0062】
また、上述の実施例では、エレベーターに設けられたハンドレール内部のスチールコードの検査を行う場合を例に説明を行ったが、本発明は乗客を水平方向に運ぶ乗客コンベアに用いることも可能である。また、エレベーターの乗カゴを吊り下げるワイヤロープの検査に適用してもよい。
【0063】
なお、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、かかる構成の削除に限らず、構成の置き換えや追加も可能である。
【符号の説明】
【0064】
10:ワイヤー検査システム、20:ワイヤー検査装置、21:信号発生器、22:コイルユニット、23:検波部、25、制御回路、30:評価装置、L1:第1発振コイル、L2:第2発振コイル、L3:受信コイル
図1
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図10
図11