(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】半導体装置、デジタル制御発振器、周波数シンセサイザ、及び半導体装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
H03L 7/099 20060101AFI20230904BHJP
【FI】
H03L7/099
(21)【出願番号】P 2020051592
(22)【出願日】2020-03-23
【審査請求日】2021-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317011920
【氏名又は名称】東芝デバイス&ストレージ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【氏名又は名称】赤岡 明
(74)【代理人】
【識別番号】100125151
【氏名又は名称】新畠 弘之
(72)【発明者】
【氏名】丸山 龍彦
【審査官】志津木 康
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0001784(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0057738(US,A1)
【文献】特開2009-189002(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03B5/30-5/42
H03L1/00-9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1制御端子と第2制御端子との間に直列に接続され、前記第1制御端子と前記第2制御端子とには複数種類の容量制御信号が供給可能である複数のスイッチング素子と、
前記複数のスイッチング素子それぞれの対応する一端に容量制御端子が接続される複数の可変容量素子と、
を備え、
前記複数のスイッチング素子同士において、スイッチング素子が有する一端と他端が、当該スイッチング素子とは異なるスイッチング素子が有する端子と直列接続される、半導体装置。
【請求項2】
前記複数のスイッチング素子のうちの一つのスイッチング素子に非導通状態にする第1接続信号が供給され、残りのスイッチング素子に導通状態にする第2接続信号が供給される、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記第1制御端子及び前記第2制御端子の一方に前記可変容量素子を第1容量にする第1容量信号が供給され、他方に前記可変容量素子を前記第1容量と異なる第2容量にする第2容量信号が供給される、請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記複数のスイッチング素子と前記複数の可変容量素子は、前記可変容量素子と前記スイッチング素子を有する素子を列状に配置させた列状の複数素子で構成され、
前記列状の複数素子を複数並べ、前記素子を行列状に配置した請求項2又は3に記載の半導体装置。
【請求項5】
対応する行にそれぞれ配置される複数のスイッチング素子の制御端子は共通の制御線に直列に接続され、前記制御線には前記第1接続信号又は前記第2接続信号が供給される、請求項4に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記可変容量素子は、NMOSトランジスタのゲート容量である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記スイッチング素子は、トランジスタである、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記複数の可変容量素子は、並列に接続される、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項9】
第1制御端子と第2制御端子との間に直列に接続される複数のスイッチング
素子であって、前記複数のスイッチング素子同士において、スイッチング素子が有する一端と他端が、当該スイッチング素子とは異なるスイッチング素子が有する端子と直列接続され、前記第1制御端子と前記第2制御端子とには複数種類の容量制御信号が供給可能である複数のスイッチング素子と、前記複数のスイッチング素子それぞれの対応する一端に容量制御端子が接続される複数の可変容量素子と、を備える半導体装置の制御方法であって、
前記複数のスイッチング素子の少なくとも一つを非導通状態にする工程と、
前記第1制御端子及び前記第2制御端子の一方に、前記可変容量素子を第1容量にする第1容量信号を供給し、他方に前記可変容量素子を前記第1容量と異なる第2容量にする第2容量信号を供給する工程と、
を備える半導体装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、半導体装置、デジタル制御発振器、周波数シンセサイザ、及び半導体装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタル制御発振器は、インダクタと複数の可変容量素子とが並列接続され、LC発振回路として一般に構成される。そして、デジタル制御信号で各可変容量素子を高容量値および低容量値のいずれか一方になるように制御することで、デジタル制御発振器を所定の周波数で発振させる。
【0003】
このデジタル制御発振器において、単位制御信号に対する周波数変化を小さくかつ一定にしつつ発振周波数レンジを広くするには、制御ビット数を増やすとともに可変容量素子の個数も増やす必要がある。ところが、制御ビット数および可変容量素子の個数の増加により、各可変容量素子を制御する制御線の占有面積が増大し、さらに制御線の寄生容量も増大してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、制御線の占有面積及び寄生容量を抑制しつつ、可変容量素子の個数の増加が可能な半導体装置、デジタル制御発振器、周波数シンセサイザ、及び半導体装置の制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態に係る半導体装置は、複数のスイッチング素子と、複数の可変容量素子とを備える。複数のスイッチング素子は、第1制御端子と第2御端子との間に直列に接続され、第1制御端子と第2御端子とには複数種類の容量制御信号が供給可能である。複数の可変容量素子は、複数のスイッチング素子それぞれの対応する一端に容量制御端子が接続される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】周波数シンセサイザの構成を示すブロック図。
【
図3】周波数シンセサイザで使用可能な周波数帯域を示すバンド図。
【
図4】Bluetooth規格に準拠した通信における周波数ホッピング型スペクトラム拡散方式の概念図。
【
図8】
図7のNMOSトランジスタの電圧と容量の関係を示す図。
【
図9】可変容量素子が高容量となる範囲例を示す図。
【
図10】周波数シンセサイザの発振周波数の過渡変化例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態に係る半導体装置、デジタル制御発振器、周波数シンセサイザ、及び半導体装置の制御方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態は、本発明の実施形態の一例であって、本発明はこれらの実施形態に限定して解釈されるものではない。また、本実施形態で参照する図面において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号又は類似の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。また、図面の寸法比率は説明の都合上実際の比率とは異なる場合や、構成の一部が図面から省略される場合がある。
【0009】
(第1実施形態)
図1は、無線通信装置1のブロック図である。
図1に示すように、無線通信装置1は、周波数シンセサイザ100と、アンテナ200と、スイッチ201と、低雑音増幅器202と、ミキサ203と、フィルタ204と、可変利得増幅器(VGA:Variable Gain Amplifier)205と、A/D変換器(Analog/Digital変換器)206と、信号処理部207と、D/A変換器(Digital/Analog変換器)208と、フィルタ209と、ミキサ210と、電力増幅器211と、を有する。
【0010】
周波数シンセサイザ100は、例えば周波数帯域信号に基づいてローカル信号LOを生成する。周波数シンセサイザ100の詳細は
図2を用いて後述する。
【0011】
アンテナ200は、無線周波数の受信信号を受信し、無線周波数の送信信号を送信する。スイッチ201は、受信時に、アンテナ200で受信された受信信号を低雑音増幅器202に供給する。低雑音増幅器202は、スイッチ201から供給された受信信号を低雑音で増幅する。ミキサ203は、低雑音増幅器202の出力信号をローカル信号LOにより周波数変換して、受信信号より周波数を低くする。フィルタ204は、ミキサ203の出力信号を帯域制限する。可変利得増幅器205は、フィルタ204の出力信号を増幅する。可変利得増幅器205の利得は可変であり、可変利得増幅器205の出力信号の振幅がほぼ一定となるように調整される。A/D変換器206は、可変利得増幅器205の出力信号をデジタル信号に変換する。信号処理部207は、A/D変換器206から供給されたデジタル信号を信号処理して受信データを得る。
【0012】
また、信号処理部207は、送信データを信号処理したデジタル信号を出力する。D/A変換器208は、信号処理部207から出力されたデジタル信号をアナログ信号に変換する。フィルタ209は、D/A変換器208から出力されたアナログ信号を帯域制限する。ミキサ210は、フィルタ209の出力信号をローカル信号LOにより周波数変換して、無線周波数の信号として出力する。電力増幅器211は、ミキサ210の出力信号を電力増幅した送信信号をスイッチ201に供給する。スイッチ201は、送信時に、電力増幅器211から供給された送信信号をアンテナ200に供給する。
【0013】
ここで、
図2に基づき、周波数シンセサイザ100の詳細な構成を説明する。
図2は、本実施形態に係る周波数シンセサイザ100の構成を示すブロック図である。本実施形態に係る周波数シンセサイザ100は、制御回路110と、
デジタル制御発振器120と、を備える。例えば、周波数シンセサイザ100は、デジタル制御発振器120の発振周波数を制御回路110によりループ制御するフェーズドロックループ(PLL)回路である。
【0014】
制御回路110は、基準信号生成部112と、比較信号生成部114と、比較部116と、位相-周波数制御回路118とを有する。また、デジタル制御発振器120は、インダクタ122と、可変容量部124と、負性抵抗生成部126と、出力アンプ132と、を有するLC発振回路として構成される。
【0015】
このデジタル制御発振器120は、可変容量部124の容量値を変化させることによりデジタル制御発振器120の発振周波数を変化させることが可能である。可変容量部124は、第1素子群128と、第2素子群130と、を有する。可変容量部124は、は、例えばSOI(Silicon On Insulator)基板上に配置される半導体装置である。
【0016】
第1素子群128は、粗調整用の可変容量であり、デジタル制御発振器120の発振周波数を大まかに決定するために用いられる。一方で、第2素子群130は、微調整用の可変容量であり、デジタル制御発振器120の発振周波数を微調整するために用いられる。デジタル制御発振器120に対する単位制御信号に対する周波数変化は、第2素子群130の単位容量の変化に対応する。例えば、第2素子群130は、例えば合計容量を1024段階で段階的に変化可能である。本実施形態では、1段階の変化で離散的に変化する第2素子群130の合計容量の変化量を単位容量と称する。また、第2素子群130の合計容量を離散的に変化させることが可能な段階数を制御ビット数と称する。すなわち、第2素子群130の制御ビット数は、例えば1024ビットである。第2素子群130の詳細は後述する。
【0017】
制御回路110において、基準信号生成部112は、例えば周波数帯域信号に基づき、基準信号REFを生成する。例えば、周波数帯域信号は、Bluetooth(登録商標)に準拠している。
図3は、本実施形態に係る周波数シンセサイザ100で使用可能な周波数帯域を示すバンド図である。
図3に示すように、本実施形態に係るマスター1とスレーブ2、3との間で使用する周波数帯域は、Bluetooth規格で予め決められた、2.4[GHz]帯域である。詳しくは、2.402~2.480[GHz]の周波数が79分割される。つまり、2.402[GHz]、2.403[GHz]、2.404[GHz]、・・・、2.480[GHz]のいずれかの周波数を用いて通信が行われる。
【0018】
図4は、Bluetooth規格に準拠した通信における周波数ホッピング型スペクトラム拡散方式の概念図であり、縦軸に時刻の経過と、横軸にその時刻における使用される周波数との関係を示す。
図4は、周波数シンセサイザ100が使用する周波数帯域を時間毎に切り替えて(ホッピング)いる様子を示している。Bluetooth規格に準拠した通信では、使用する周波数を1秒間に1600回変化させていることから、周波数を一定に保ちながらデータ転送をする時間は625[μsec]となる。つまり、
図4中に示すαの値とは625[μsec]となる。またこの625[μsec]毎の区間は1スロットと称される。
【0019】
再び
図2を参照し、比較信号生成部114は、デジタル制御発振器120の出力LOに対して分周および積分などの処理を施して比較信号を生成する。比較部116は、比較信号および基準信号REFを受け、デジタル制御発振器120の位相が速いか遅いかを比較結果として出力する。
【0020】
位相-周波数制御回路118は、比較部116の比較結果に基づいて、可変容量部124の容量値を調整する。より詳細には、位相-周波数制御回路118は、デジタル制御発振器120の位相が速い場合には、周波数を下げるように変容量部124の容量値を設定する。一方で、デジタル制御発振器120の位相が遅い場合は、周波数を上げるように容量値を設定する。すなわち、位相-周波数制御回路118は、第1素子群128を制御する粗調整制御信号と、第2素子群130を制御する微調整制御信号とを生成し、容量部124の容量値を設定することで、最終的に所望の発振周波数でデジタル制御発振器120を発振させることが可能である。この微調整制御信号には発振周波数に対する第2素子群130の制御ビット数の情報が含まれる。すなわち、微調整制御信号は、第2素子群130の合計容量の情報を有する。
【0021】
このように、粗調整制御信号によりデジタル制御発振器120の発振周波数を大まかに決定し、微調整制御信号によりデジタル制御発振器120の発振周波数を目標値に追従させる。これにより、周波数シンセサイザは所望の発振周波数信号を安定的に供給する。微調整制御信号の詳細も後述する。
【0022】
ここで、
図5及び
図6に基づき、第2素子群130の詳細な構成を説明する。
図5は、第2素子群130の構成例を示す図である。
図5に示すように、第2素子群130は、32×32個の素子E(1、1)~E(32、32)を有する。これらの32×32個の素子E(1、1)~E(32、32)は、2次元の行列状に配置される。ここで、n行、m列を(n、m)で示すこととする。例えばn、mは1以上32以下の整数である。これにより、例えば素子E(12、15)は、12行15列に配置される素子を意味する。また、第2素子群130は、列状に配置された制御端子130aと、行状に配置された上側の制御端子130bと、行状に配置された下側の制御端子130cと、を有する。なお、本実施形態では、説明を簡単にするために、素子Eの数を32×32個としているが、これに限定されない。
【0023】
図5を参照にしつつ、
図6に基づき、第2素子群130の詳細な構成を説明する。
図6は、
図5の容量素子E(1、1)~E(32、32)の一部を詳細に示す図である。
図6に示すように各容量素子E(1、1)~E(32、32)は、可変容量素子C(1、1)~C(32、32)と、スイッチング素子S(1、1)~S(32、32)と、を有する。各可変容量素子C(1、1)~C(32、32)は、容量制御端子に供給される複数種類の容量制御信号により第1容量と、第1容量よりも容量が小さい第2容量に容量が変化する。より詳細には、各可変容量素子C(1、1)~C(32、32)は、第1容量信号が容量制御端子に供給されると第1容量となり、第2容量信号が容量制御端子に供給されると第2容量となる。
【0024】
各可変容量素子C(1、1)~C(32、32)は、例えば2つのNMOSトランジスタのゲート容量からなるコンデンサである。すなわち、各可変容量素子C(1、1)~C(32、32)は、例えば2つのNMOSトランジスタが並列に接続されている。例えば、各可変容量素子C(1、1)~C(32、32)は、2つのNMOSトランジスタのドレインとソースを接合して構成される。この場合、レインとソースを接合した端子が容量制御端子となる。また、各可変容量素子C(1、1)~C(32、32)は、デジタル制御発振器120(
図1)の端子T1、T2間に並列に接続される。
【0025】
スイッチング素子S(1、1)~S(32、32)は、例えばNMOSトランジスタである。スイッチング素子S(1、1)~S(32、32)は、ゲートに供給される制御信号により、ON/OFF動作する。例えば、制御信号がHレベル(高電圧)である場合に導通状態(ON)となり、Lレベル(低電圧)である場合に非導通状態(OFF)となる。なお、本実施形態に係るLレベルの制御信号が第1接続信号に対応し、Hレベルの制御信号が第2接続信号に対応する。また、本実施形態に係るスイッチング素子S(1、1)~S(32、32)は、制御信号がHレベルである場合に導通状態(ON)となり、Lレベルである場合に非導通状態(OFF)となるが、これに限定されない。例えば、制御信号がLレベルである場合に導通状態(ON)となり、Hレベルである場合に非導通状態(OFF)となるように構成してもよい。また、スイッチング素子S(1、1)~S(32、32)の構成は、NMOSトランジスタに限定されない。
【0026】
上側の制御端子Otnと、対向する下側の制御端子Obnに接続される列制御線Ltnには、スイッチング素子S(1、n)~S(32、n)が直列に接続される。また、スイッチング素子S(1、n)~S(32、n)それぞれの対応する一端に各可変容量素子C(1、n)~C(32、n)の容量制御端子が接続される。制御端子Otn、及び制御端子Obnには、第1容量信号又は第2容量信号が供給される。
【0027】
また、制御端子Ogmに接続される行制御線Lgmには、は、スイッチング素子S(m、1)~S(m、32)の制御端子であるゲートが直列に接続される。制御端子Ogmの信号が、例えばHレベルであれば、スイッチング素子S(m、1)~S(m、32)は導通状態(ON)となり、Lレベルであれば、スイッチング素子S(m、1)~S(m、32)は非導通状態(OFF)となる。このように、対応する行mにそれぞれ配置される複数のスイッチング素子S(m、1)~S(m、32)の制御端子は、共通の行制御線Lgmに直列に接続され、行制御線Lgmには第1接続信号又は第2接続信号が供給される。
【0028】
このように、複数のスイッチング素子S(1、n)~S(32、n)と複数の可変容量素子C(1、n)~C(32、n)は、可変容量素子Cとスイッチング素子Sを有する素子Eを列状に配置させた列状の複数素子E(1、n)~E(32、n)で構成される。そして、第2素子群130は、列状の複数素子E(1、n)~E(32、n)をm列分並べて配置される。これにより、素子Eは行列状E(1、1)~E(32、32)に配置される。
【0029】
これにより、後述するように、可変容量素子C(1、1)~C(32、32)の合計容量は、32本の列制御線Ltnと32本の行制御線Lgmにより制御可能となる。このように、従来であれば、可変容量素子C(1、1)~C(32、32)のそれぞれに個別の制御線が位相-周波数制御回路118(
図2)から接続されていたため、n×m(32×32=1024)本の制御線が必要であったが、n+m(32+32=64)本の制御線で済むので、容量素子E(1、1)~E(32、32)の小型化と寄生容量の低減化とが可能となる。これにより、SOI基板内の限られたスペース内で容量素子E(1、1)~E(32、32)の数を増加させることもより容易となる。すなわち、SOI基板内の限られたスペース内で第2素子群130のビット数をより容易に増加させることが可能となる。
【0030】
ここで、
図7及び
図8を用いて、各可変容量素子C(1、1)~C(32、32)を構成するNMOSトランジスタの特性を説明する。
図7は、NMOSトランジスタのゲート(Gate)に電圧VDDを印加し、ソース(Source)とドレイン(Drain)に可変電圧Vを印加する可変容量素子Cの等価回路例を示す。
図8は、
図7のNMOSトランジスタの電圧と容量の関係を示す図である。横軸は可変電圧Vを示し、縦軸はNMOSトランジスタのゲート容量Cを示す。
【0031】
図8に示すようにNMOSトランジスタは、低電圧レベルLでは高容量値CH1を示し、高電圧レベルHでは低容量値CH1を示す。すなわち、各可変容量素子C(1、1)~C(32、32)は、低電圧Lが印加されると高容量となり、高電圧Hが印加されると低容量となる。
【0032】
すなわち、各可変容量素子C(1、1)~C(32、32)は、上側の制御端子Otn又は下側の制御端子Obnから出力される第1容量信号が低電圧レベルLに対応する場合に高容量となり、第2容量信号が、高電圧レベルHに対応する場合に低容量となる。
【0033】
上述の単位容量は、高容量と低容量との差分となる。このように、本実施形態では可変容量素子Cに、NMOSトランジスタのゲート容量を用いる。このため、高電圧レベルH、低電圧レベルLを適宜設定することで、単位容量を自在に設定することが可能となる。これにより、例えば、高電圧レベルH、低電圧レベルLを適宜設定することで、デジタル制御発振器100における単位制御信号に対する周波数変化を、より簡易に調整可能となる。
【0034】
ここで、
図5及び
図6を参照にしつつ
図9に基づき、可変容量素子C(1、1)~C(32、32)の合計容量の制御について説明する。
図9は、可変容量素子C(1、1)~C(32、32)が高容量となる範囲例A130を示す図である。図中のLは、低電圧レベルLである第1容量信号を示し、Hは、高電圧レベルHである第2容量信号を示す。また、Open信号が、スイッチング素子S(1、1)~S(32、32)を非道通状態にする第1接続信号に対応し、Short信号が、スイッチング素子S(1、1)~S(32、32)を道通状態にする第2接続信号に対応する。
【0035】
図9に示すように、制御端子Og1からOg32の内の一つの制御端子Ognには、スイッチング素子を非道通状態にするOpen信号(第1接続信号)が出力される。一方で他の制御端子Og1からOg32の内の制御端子Ognを除く制御端子には、Short信号(第2接続信号)が出力される。
【0036】
これにより、Open信号が出力されたスイッチング素子S(n、1)~S(n、32)が非道通状態となる。このため、制御端子Ot1~Ot32、及び制御端子Ob1~Ob32、のそれぞれには、第1容量信号(L)、第2容量信号(H)のいずれも出力可能となり、可変容量素子C(1、1)~C(32、32)には、第1容量信号(L)、第2容量信号(H)のいずれかが出力される。
換言すると、全てのスイッチング素子S(n、1)~S(n、32)が道通状態であれば、制御端子Ot1~Ot32と、対応する制御端子Ob1~Ob32間は同電位となるので、第1容量信号(L)、第2容量信号(H)のいずれか一方しか印加できなくなる。これに対して、本実施形態では、Open信号が出力されたスイッチング素子S(n、1)~S(n、32)が非道通状態となるので、制御端子Ot1~Ot32と、対応する制御端子Ob1~Ob32間は同電位、又は異なる電位にすることが可能である。これにより、上述のように、制御端子Ot1~Ot32、及び制御端子Ob1~Ob32、のそれぞれには、第1容量信号(L)、第2容量信号(H)のいずれも印加可能となる。
【0037】
例えば、可変容量素子C(1、1)のみを高容量とし、他の可変容量素子Cを低容量とする場合には、Open信号を制御端子Og1に出力し、制御端子Ot1にのみ第1容量信号(L)を出力する。すなわち、制御端子Ot1~Ot32、及び制御端子Ob1~Ob32のうちの制御端子Ot1を除く制御端子には、第2容量信号(H)を出力する。
【0038】
次に、可変容量素子C(1、1)、C(2、1)のみを高容量とし、他の可変容量素子Cを低容量とする場合には、Open信号を制御端子Og2に出力し、制御端子Ot1にのみ第1容量信号(L)を出力する。このように、制御端子Ot1~Ot32、及び制御端子Ob1~Ob32のうちの制御端子Ot1を除く制御端子には、第2容量信号(H)を出力すると、Open信号を出力するOgnを変更することにより、高容量の可変容量素子Cの数を32個まで一個ずつ増加できる。
【0039】
可変容量素子Cを32個高容量とし、33個目を高容量とする場合には、Open信号を制御端子Og1に出力し、制御端子Ot1、Ob1、Ot2にのみ第1容量信号(L)を出力する。そして、Open信号を出力するOgnを変更することにより、高容量の可変容量素子Cの数を33個から64個まで一個ずつ増加できる。
【0040】
可変容量素子Cを64個高容量とし、65個目を高容量とする場合には、Open信号を制御端子Og1に出力し、制御端子Ot1、Ob1、Ot2、Ob2、Ot3にのみ第1容量信号(L)を出力する。そして、Open信号を出力するOgnを変更することにより、高容量の可変容量素子Cの数を65個から96個まで一個ずつ増加できる。
図9では、Open信号を制御端子Og3に出力しているので、可変容量素子Cを67個高容量とし、残りの可変容量素子Cを低容量としている。
このような処理を行うことにより、可変容量素子C(1、1)~C(32、32)の合計容量値を32×32段階で変更可能となる。すなわち、素子群130は、1024ビットの可変容量を有する。
【0041】
再び
図2に戻り、微調整制御信号の詳細を説明する。周波数シンセサイザ100の位相-周波数制御回路118は、例えばN個を高容量とする場合には、32×32をNで除算し、解nに相当する列の制御端子Ot1~Otn、Ob1~Obnに第1容量信号(L)を出力し、余りが0でない場合には、Ot(n+1)にも第1容量信号(L)を出力する。この場合、あまりの数mに相当する制御端子OgmにOpen信号を出力する。
【0042】
例えば、67個を高容量とする場合には、67を32で除算する。解が2で余りが3となるので、制御端子Ot1~Ot2と、Ob1からOb2と、Ot3=Ot(2+1)に第1容量信号(L)を出力し、制御端子Og3にOpen信号を出力する。
【0043】
また、例えば、64個を高容量とする場合には、64を32で除算する。解が2で余りが0となるので、制御端子Ot1~Ot2と、Ob1からOb2に第1容量信号(L)を出力し、制御端子Og32にOpen信号を出力する。例えば、位相-周波数制御回路118は、現在の発振周波数の設定値と比較部116による位相比較結果に基づき、制御端子Ot1~Otn、Ob1~Obn、制御端子Og1~Obnの制御信号を微調整制御信号として第2素子群130に印加する。このように、可変容量素子C(1、1)~C(32、32)の合計容量値を32×32=1024段階で変更することが可能である。
【0044】
図10は、周波数シンセサイザ100の発振周波数の過渡変化例を示す図である。横軸は時間を示し、縦軸は発振周波数を示す。
図10中のラインL10は、本実施形態に係る周波数シンセサイザ100の発振周波数の過渡変化例を示し、ラインL20は、比較例の発振周波数の過渡変化例を示す。周波数変換点を時間0とする。
【0045】
比較例は、Nを基数とする異なる容量の容量素子により総容量を変更する例である。例えば、N=16を基数とし、単位容量を1fFとする。これにより、例えば256fFの容量素子を3個、16fFの容量素子を15個、1fFの容量素子を15個で1024階調を実現することが可能である。ここで、256fFから255fFに容量を切替えることを想定する。この場合、比較例では、256fFの容量素子をONからOFF、同時に16fFの容量素子15個をOFFからON、1fFの容量素子をOFFからONとする必要がある。ところが、有限の時間で切替えが行われるため、各容量を同時に切替えることは実現困難である。そのため、容量の切り替えの際に、容量値が256fFと比べて大きい値となったり、255fFと比べて小さい値となったりしてしまう。この切替え時の容量値変動は、ラインL20に示すように、周波数が瞬時的に大きい値や小さい値をとる原因となる。
【0046】
これに対して、本実施形態に係る周波数シンセサイザ100では、ラインL10に示すように、このような現象は生じることがない。すなわち、可変容量素子C(1、1)~C(32、32)の合計容量値の変更は、可変容量素子C1個ずつの容量を変更することで可能となる。これにより、ビット変更の際に、容量素子の入れ替え動作は不要であり、発振周波数のずれが発生することが抑制される。
【0047】
なお、本実施形態に係る第2素子群130は、周波数シンセサイザ100に用いたが、これに限定されない。第2素子群130は、可変容量を必要とする全ての電子機器に用いることが可能である。
【0048】
以上説明したように、本実施形態形によれば、第2素子群130は、列制御端子(Otn)と列御端子(Obn)との間の列制御線Otnに、直列に複数のスイッチング素子S(1、n)~S(32、n)を接続し、複数のスイッチング素子S(1、n)~S(32、n)それぞれの対応する一端に容量制御端子が接続される複数の可変容量素子C(1、n)~C(32、n)を備えるように構成した。これにより、列制御端子(Otn)と対向する列御端子(Obn)には、第1容量信号又は第2容量信号が供給可能となり、各可変容量素子C(1、n)~C(32、n)に、位相-周波数制御回路118から個別に制御線を接続せずとも、列制御線Otnにより可変容量素子C(1、n)~C(32、n)の合計容量を32段階に変更できる。このように、制御線数を低減することにより、限られたスペース内においても、制御線の占有面積及び寄生容量を抑制しつつ可変容量素子C(1、n)~C(32、n)の個数の増加が可能となる。
【0049】
以上、いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例としてのみ提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図したものではない。本明細書で説明した新規な装置、方法及びプログラムは、その他の様々な形態で実施することができる。また、本明細書で説明した装置、方法及びプログラムの形態に対し、発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の省略、置換、変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0050】
1:無線通信装置、100:周波数シンセサイザ、110:制御回路、120:デジタル制御発振器、130:第2素子群(半導体装置)、S(1、1)~S(32、32):可変容量素子、S(1、1)~S(32、32):スイッチング素子、Ot1~Ot32、Ob1~Ob32:列制御端子、Og1~Og32:行制御端子。