(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】中間体である高被覆率正極活物質粒子の製造方法及びLPO層付き正極活物質粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20230904BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230904BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20230904BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M4/505
(21)【出願番号】P 2020203921
(22)【出願日】2020-12-09
【審査請求日】2021-12-10
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】石垣 有基
(72)【発明者】
【氏名】横山 友宏
(72)【発明者】
【氏名】上田 将史
(72)【発明者】
【氏名】高木 英一
(72)【発明者】
【氏名】北吉 雅則
【審査官】森 透
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/072359(WO,A1)
【文献】特開2006-344523(JP,A)
【文献】特開2006-073482(JP,A)
【文献】特表2013-537356(JP,A)
【文献】特開2020-113377(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵及び放出可能で、粒子表面にLiOH及びLi
2Oのうち少なくともLiOHからなるLi化合物層を有し、nano-SIMSで測定した場合の上記粒子表面における上記Li化合物層の被覆率CVが、20%以上である
、
中間体である高被覆率正極活物質粒子の製造方法であって、
上記Li化合物層の上記被覆率CVが20%未満である低被覆率正極活物質粒子を、462~923℃の温度範囲内で加熱し、上記被覆率CVを20%以上に増やす加熱工程を備える
中間体である高被覆率正極活物質粒子の製造方法。
【請求項2】
リチウムイオンを吸蔵及び放出可能で、粒子表面にLi、P及びOを含む非晶質の非晶質LPO層を有する
LPO層付き正極活物質粒子の製造方法であって、
請求項1に記載の製造方法で製造した前記高被覆率正極活物質粒子と、Pを含む処理液とを混合して、前記Li化合物層から上記非晶質LPO層を生成するLPO層生成工程を備える
LPO層付き正極活物質粒子の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のLPO層付き正極活物質粒子の製造方法であって、
前記処理液は、五酸化二リン(P
2O
5)を2-プロパノール(IPA)に溶解させた処理液である
LPO層付き正極活物質粒子の製造方法。
【請求項4】
請求項2に記載のLPO層付き正極活物質粒子の製造方法であって、
前記処理液は、オルトリン酸(H
3PO
4)を含むリン化合物と、N-メチルピロリドン(NMP)とを混合した処理液である
LPO層付き正極活物質粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極活物質粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池(以下、単に「電池」ともいう)の正極板に用いられる正極活物質粒子として、Li(リチウム)、P(リン)及びO(酸素)を含む非晶質の非晶質LPO層を粒子表面に有するLPO層付き正極活物質粒子が知られている。このようなLPO層付き正極活物質粒子を用いて製造した電池では、非晶質LPO層の無い正極活物質粒子を用いた電池に比べて、電池抵抗を低くできる。
【0003】
このLPO層付き正極活物質粒子は、例えば以下の手法により製造する。即ち、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能で、粒子表面にLiOH及びLi2OからなるLi化合物層を有する正極活物質粒子を用意する。また別途、オルトリン酸(H3PO4)等のリン化合物を水に溶解させた処理液を作製しておく。そして、正極活物質粒子と処理液とを混合し、その後、この混合物を乾燥させて、非晶質LPO層が粒子表面に形成されたLPO層付き正極活物質粒子を得る。なお、この手法に関連する従来技術として、特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のように、非晶質LPO層を有するLPO層付き正極活物質粒子を用いた電池は、非晶質LPO層の無い正極活物質粒子を用いた電池に比べて、電池抵抗を低くできるが、電池抵抗を更に低くすることが望まれていた。
【0006】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、粒子表面に高い被覆率CVでLi化合物層を有しており、このLi化合物層から非晶質LPO層を生成した場合に電池抵抗を低くできる中間体である高被覆率正極活物質粒子の製造方法、及び、非晶質LPO層を有するLPO層付き正極活物質粒子の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能で、粒子表面にLiOH及びLi2Oのうち少なくともLiOHからなるLi化合物層を有し、nano-SIMSで測定した場合の上記粒子表面における上記Li化合物層の被覆率CVが、20%以上である、中間体である高被覆率正極活物質粒子が好ましい。
【0008】
上述の中間体である高被覆率正極活物質粒子(以下、単に高被覆率正極活物質粒子ともいう)は、粒子表面におけるLi化合物層の被覆率CVが20%以上(被覆率CV≧20%)である。このため、この高被覆率正極活物質粒子のLi化合物層から非晶質LPO層を生成すれば、Li化合物層の被覆率CVが20%未満の従来の低被覆率正極活物質粒子を用いてLPO層付き正極活物質粒子を製造する場合に比べて、粒子表面に広く非晶質LPO層を生成したLPO層付き正極活物質粒子を製造できる。非晶質LPO層はリチウムイオン(Li+)の伝導性が高いため、非晶質LPO層が粒子表面に広く存在するほど、この粒子表面における粒子と電解液との間のリチウムイオンの移動がスムーズに行えるようになる。従って、Li化合物層の被覆率CVが20%未満の低被覆率正極活物質粒子を用いる場合に比べて、Li化合物層の被覆率CVが20%以上の高被覆率正極活物質粒子を用いてLPO層付き正極活物質粒子を製造し、更にこれを用いて電池を製造すれば、電池抵抗を低くできる。
【0009】
なお、「高被覆率正極活物質粒子」の粒子本体としては、例えば、リチウム遷移金属酸化物からなる粒子本体が挙げられる。このリチウム遷移金属酸化物としては、例えば、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLiNiO2)、リチウムコバルト複合酸化物(例えばLiCoO2)、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLiMn2O4)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(例えばLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)のような三元系のリチウム遷移金属酸化物などが挙げられる。更に、リチウム遷移金属酸化物として、リン酸マンガンリチウム(例えばLiMnPO4)、リン酸鉄リチウム(例えばLiFePO4)等の、リチウム及び遷移金属元素を含むリン酸塩なども挙げられる。
【0010】
「Li化合物層」としては、LiOHのみからなるLi化合物層や、LiOH及びLi2OからなるLi化合物層が挙げられる。
nano-SIMSでLi化合物層の被覆率CVを測定する具体的な手法は、以下の通りである。即ち、例えばCAMECA社のNanoSIMS 50Lを用いて、真空中で正極活物質粒子の粒子表面にCs+やO2
+などの一次イオンを照射し、粒子表面から弾き出された二次イオンの質量を分析して、粒子表面におけるLiの分布及び濃度を調査する。そして、粒子表面においてLiが存在する部分(Li化合物層が存在する部分)とLiが存在しない部分(Li化合物層が存在しない部分)とを特定し、粒子表面におけるLi化合物層の被覆率CVを求める。
【0011】
また、他の態様は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能で、粒子表面にLiOH及びLi2Oのうち少なくともLiOHからなるLi化合物層を有し、nano-SIMSで測定した場合の上記粒子表面における上記Li化合物層の被覆率CVが、20%以上である、中間体である高被覆率正極活物質粒子の製造方法であって、上記Li化合物層の上記被覆率CVが20%未満である低被覆率正極活物質粒子を、462~923℃の温度範囲内で加熱し、上記被覆率CVを20%以上に増やす加熱工程を備える中間体である高被覆率正極活物質粒子の製造方法である。
【0012】
上述の中間体である高被覆率正極活物質粒子の製造方法では、加熱工程において、Li化合物層の被覆率CVが20%未満の低被覆率正極活物質粒子を、462~923℃の温度範囲内で加熱し、この被覆率CVを20%以上に増やす。このようにして製造される高被覆率正極活物質粒子は、Li化合物層の被覆率CVが20%以上であるため、前述のように、この高被覆率正極活物質粒子を用いてLPO層付き正極活物質粒子を製造し、更にこれを用いて電池を製造すれば、電池抵抗を低くできる。
【0013】
なお、加熱工程で462℃以上に加熱する理由は、462℃以上ではLiOHが軟化して粒子表面に拡がって被覆率CVが高くなると考えられるからである。一方、923℃以下で加熱する理由は、LiOHの沸点が924℃であることから、924℃以上ではLiOHが蒸発して粒子表面から無くなってしまうと考えられるからである。
なお、上述の加熱温度は、525℃以上とするのが好ましい。Li化合物層がより拡がり易くなってLi化合物層の被覆率CVが高くなり易いからである。一方で、加熱温度は、875℃以下とするのが好ましい。LiOHが蒸発するのを抑制するためである。
【0014】
また、他の態様は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能で、粒子表面にLi、P及びOを含む非晶質の非晶質LPO層を有するLPO層付き正極活物質粒子の製造方法であって、前述の製造方法で製造した前記高被覆率正極活物質粒子と、Pを含む処理液とを混合して、前記Li化合物層から上記非晶質LPO層を生成するLPO層生成工程を備えるLPO層付き正極活物質粒子の製造方法である。
【0015】
上述のLPO層付き正極活物質粒子の製造方法では、Li化合物層の被覆率CVが20%以上の高被覆率正極活物質粒子を用いて、そのLi化合物層から非晶質LPO層を生成する。このため、製造されるLPO層付き正極活物質粒子は、粒子表面に広く非晶質LPO層を有しているので、このLPO層付き正極活物質粒子を用いて電池を製造すれば、電池抵抗を低くできる。
【0016】
なお、「非晶質LPO層」としては、例えば、リン酸リチウム(Li3PO4)、リン酸水素二リチウム(Li2HPO4)、リン酸二水素リチウム(LiH2PO4)などの組成で示されるLi、P及びOを含む非晶質の層が挙げられる。
「Pを含む処理液」としては、例えば、五酸化二リン(P2O5)(十酸化四リン (P4O10))、オルトリン酸(H3PO4)、ピロリン酸(H4P2O7)、三リン酸(H5P3O10)、ポリリン酸(HO(HPO3)nH)、リン酸リチウム(Li3PO4)、リン酸水素リチウム(Li2HPO4)の等のリン化合物を、2-プロパノール(イソプロピルアルコール,IPA)等のアルコール、N-メチルピロリドン(NMP)、水等の溶媒に溶解または分散させた処理液が挙げられる。
【0017】
更に、上記のLPO層付き正極活物質粒子の製造方法であって、前記処理液は、五酸化二リン(P2O5)を2-プロパノール(IPA)に溶解させた処理液であるLPO層付き正極活物質粒子の製造方法とすると良い。
【0018】
Pを含む処理液として、P2O5をIPAに溶解させた処理液を用いることにより、より適切に非晶質LPO層を生成できるため、このLPO層付き正極活物質粒子を用いて電池を製造すれば、電池抵抗を適切に低くできる。
【0019】
更に、前記のLPO層付き正極活物質粒子の製造方法であって、前記処理液は、オルトリン酸(H3PO4)を含むリン化合物と、N-メチルピロリドン(NMP)とを混合した処理液であるLPO層付き正極活物質粒子の製造方法とすると良い。
【0020】
H3PO4及びNMPは、入手及び取り扱いが容易であるため、これらを用いることで容易に非晶質LPO層を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施形態1,2に係る高被覆率正極活物質粒子の模式的な断面図である。
【
図2】実施形態1,2に係るLPO層付き正極活物質粒子の模式的な断面図である。
【
図3】実施形態1,2に係り、高被覆率正極活物質粒子の製造方法を含むLPO層付き正極活物質粒子の製造方法のフローチャートである。
【
図4】LPO層付き正極活物質粒子の製造を模式的に示す説明図であり、(a)は加熱前の低被覆率正極活物質粒子を示す説明図であり、(b)は加熱により粒子表面のLi化合物層が拡がった状態(高被覆率正極活物質粒子)を示す説明図であり、(c)はPを含む処理液により粒子表面に非晶質LPO層が生成された様子(LPO層付き正極活物質粒子)を示す説明図である。
【
図5】実施例1,3及び比較例の各正極活物質粒子について、粒子表面におけるLi化合物層の被覆率CVを示すグラフである。
【
図6】実施例1~4及び比較例の各正極活物質粒子について、粒子表面に存在する余剰のLiOH量を示すグラフである。
【
図7】実施例1~4及び比較例に係る各電池の電池抵抗比を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(実施形態1)
以下、本発明の第1の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
図1に高被覆率正極活物質粒子10の断面図を、
図2にLPO層付き正極活物質粒子1の断面図をそれぞれ模式的に示す。高被覆率正極活物質粒子10(
図1参照)は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な粒子であり、粒子本体11と、この粒子本体11の粒子表面11mに存在するLi化合物層15とを備える。
【0023】
このうち粒子本体11は、リチウム遷移金属酸化物、具体的には、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(詳細にはLiNi0.2Co0.5Mn0.3O2)からなる。
一方、Li化合物層15は、粒子本体11に含まれていた余剰のLiを起源としており、LiOH及びLi2Oからなる。Li化合物層15は、粒子本体11の粒子表面11mのうちエッジ面11maに、海島状に複数存在している。
【0024】
本実施形態1の高被覆率正極活物質粒子10は、nano-SIMSで測定した場合の粒子表面10mにおけるLi化合物層15の被覆率CVが、
図5に比較例として示す従来の低被覆率正極活物質粒子(被覆率CV=12%)よりも高く、被覆率CVが20%以上、具体的には、
図5に実施例3として示すように、CV=32%である。なお、被覆率CVの測定手法は、前述の通りである。
【0025】
次いで、LPO層付き正極活物質粒子1について説明する(
図2参照)。このLPO層付き正極活物質粒子1は、後述するように、上述の高被覆率正極活物質粒子10を用いて形成されたものである。LPO層付き正極活物質粒子1は、リチウムイオン二次電池を構成する正極板の正極活物質層に用いられる。
LPO層付き正極活物質粒子1は、前述の粒子本体11と、粒子本体11の粒子表面11mに形成された非晶質LPO層20とを備える。このうち非晶質LPO層20は、Li、P及びOを含む非晶質のLPO層、具体的には、主としてLi
3PO
4の組成で示される非晶質の層であると考えられる。この非晶質LPO層20は、前述のLi化合物層15から生成されるため、粒子本体11の粒子表面11mのうちエッジ面11maに、海島状に複数存在していると考えられる。各非晶質LPO層20の厚みは、0.2nm程度である。
【0026】
次いで、上記高被覆率正極活物質粒子10の製造方法を含む上記LPO層付き正極活物質粒子1の製造方法について説明する(
図3及び
図4参照)。まず「高被覆率正極活物質粒子の製造工程S1」のうち「加熱工程S11」において、低被覆率正極活物質粒子10Zを高温加熱する。具体的には、低被覆率正極活物質粒子10Zとして、メディアン径D
50が5μm程度のLiNi
0.2Co
0.5Mn
0.3O
2粒子を用意する(
図4(a)参照)。この低被覆率正極活物質粒子10Zの粒子表面10m(粒子本体11の粒子表面11m)には、詳細には粒子表面11mのうちエッジ面11maには、余剰のLiを起源とするLiOHやLi
2OからなるLi化合物層15Zが海島状に存在している。但し、この低被覆率正極活物質粒子10Zは、前述のnano-SIMSで測定した場合の粒子表面10mにおけるLi化合物層15Zの被覆率CVが低く、被覆率CVが20%未満、具体的にはCV=12%しかない(
図5の比較例参照)。
【0027】
加熱工程S11では、この低被覆率正極活物質粒子10Zを、462~923℃の温度範囲内(本実施形態1では850℃)で加熱する。具体的には、低被覆率正極活物質粒子10Zを加熱装置内に収容して、加熱装置内の温度を20℃から850℃まで60分間かけて徐々に上昇させ、続いて850℃を30分間にわたり維持する。その後、850℃から20℃まで自然冷却する。これにより、粒子表面10mのLi化合物層15ZをなすLiOHがそれぞれ軟化して薄く拡がり(
図4(b)、
図1参照)、粒子表面10mにおけるLi化合物層15の被覆率CVが、加熱前の12%から20%以上に、具体的には、前述のようにCV=32%に増える(
図5の実施例3参照)。かくして、本実施形態1の高被覆率正極活物質粒子10が得られる。
なお、この加熱工程S11における加熱温度を550℃(
図5における実施例1)とした場合も、加熱後のLi化合物層15の被覆率CVは20%以上、具体的にはCV=21%となった。また、加熱工程S11における加熱温度を750℃(実施例2)または900℃(実施例4)とした場合も、加熱後のLi化合物層15の被覆率CVは20%以上になると考えられる。
【0028】
更に、上述の実施例1~4及び比較例の高被覆率正極活物質粒子10及び低被覆率正極活物質粒子10Z(以下、単に「正極活物質粒子10,10Z」ともいう)について、それぞれ粒子表面10mに存在する余剰のLiOH量を調査した(
図6参照)。具体的には、ビーカに100mlの水を入れ、これに10gの正極活物質粒子10,10Zを加えて、マグネチックスターラを用いて1分間にわたり攪拌混合する。その後、この混合液をろ過する。その後、ろ液について、塩酸(HCl)を用いて中和滴定(LiOH+HCl→LiCl+H
2O)を行って、LiOH量をそれぞれ測定した。なお、
図6では、LiOH量を正極活物質粒子10,10ZにおけるLiOHの重量割合(wt%)で示してある。
【0029】
図6から明らかなように、比較例及び実施例1~3の正極活物質粒子10,10Zでは、LiOH量に殆ど差がない。一方、これらに比べて実施例4の高被覆率正極活物質粒子10では、LiOH量が少ない。このことから、少なくとも850℃以下の温度で加熱工程S11を行えば、
図5に示したようにLi化合物層15の被覆率CVを高くできる一方、Li化合物層15の総量は殆ど減少しないと考えられる。一方、900℃で加熱工程S11を行った実施例4では、Li化合物層15の被覆率CVを比較例よりは高くできるものの(
図5参照)、Li化合物層15をなすLiOHの蒸発量が増加し、Li化合物層15の総量が減少したと考えられる。
【0030】
次に、「LPO層生成工程S2」(
図3参照)において、Pを含む処理液100を用いて、粒子表面10mに非晶質LPO層20を生成する。
具体的には、100重量部のIPAに対し、0.033重量部のP
2O
5を溶解させて、Pを含む処理液100(
図4(c)参照)を得ておく。そして、100重量部の処理液100に対し、100重量部の高被覆率正極活物質粒子10を加える。これらをプラネタリーミキサ等を用いて3分間にわたり混合し、高被覆率正極活物質粒子10の粒子表面の10mに存在するLi化合物層15と、処理液100中のリン酸イオンとを反応させて、Li化合物層15に代えてLi、P及びOを含む非晶質の非晶質LPO層20を生成する(
図4(c)参照)。この非晶質LPO層20は、前述のように、主としてLi
3PO
4の組成で示される非晶質層であると考えられる。
【0031】
次に、「乾燥工程S3」(
図3参照)において、LPO層生成工程S2で得た混合物を80℃に加熱して乾燥させる。かくして、
図2に示したLPO層付き正極活物質粒子1を得る。
なお、この乾燥工程S3に代えて、
図3中に破線で示すように、「ろ過回収工程S23」において、LPO層生成工程S2で得た混合物をろ過して、LPO層付き正極活物質粒子1を回収し自然乾燥してもよい。
【0032】
(実施形態2)
次いで、第2の実施形態について説明する。実施形態1では、LPO層生成工程S2において、P2O5をIPAに溶解させた処理液100を用いて、非晶質LPO層20を生成した。これに対し、本実施形態2では、LPO層生成工程S22において、H3PO4を含むリン化合物とNMPとを混合した処理液150を用いて、非晶質LPO層20を生成する点が異なる。
【0033】
具体的には、NMPにH3PO4を溶解させて、Pを含む処理液150を作製し、この処理液150に高被覆率正極活物質粒子10を加える。これらを実施形態1と同様に混合して、Li化合物層15に代えて非晶質LPO層20を生成する。本実施形態2でも、非晶質LPO層20を適切に生成できる。その後は、実施形態1と同様に乾燥工程S3を行って、LPO層付き正極活物質粒子1を得る。
【0034】
(試験結果)
次いで、本発明の効果を検証するために行った試験結果について説明する(
図7参照)。前述した実施例1~4及び比較例の正極活物質粒子10,10Zを用い、実施形態1と同様にLPO層生成工程S2及び乾燥工程S3を行って、LPO層付き正極活物質粒子1をそれぞれ得た。
次に、これらのLPO層付き正極活物質粒子1を用いて、それぞれラミネートセル型のリチウムイオン電池(不図示)を作製した。即ち、LPO層付き正極活物質粒子1を用いて、それぞれ正極板を作製する。具体的には、LPO層付き正極活物質粒子1等と、導電粒子(アセチレンブラック粒子)と、結着剤(ポリフッ化ビニリデン)と、分散媒(NMP)とを混合して、正極活物質ペーストを作製する。そして、この正極活物質ペーストをアルミニウム箔からなる正極集電箔上に塗布し、乾燥させて、正極集電箔上に正極活物質層を形成する。その後、これをプレスして正極活物質層の密度を高めて、正極板を形成した。
【0035】
また別途、負極板を作製する。具体的には、負極活物質粒子(黒鉛粒子)と、結着剤(スチレンブタジエンゴム)と、増粘剤(カルボキシメチルセルロース)と、分散媒(水)とを混合して、負極活物質ペーストを作製する。そして、この負極活物質ペーストを銅箔からなる負極集電箔上に塗布し、乾燥させて、負極集電箔上に負極活物質層を形成する。その後、これをプレスして負極活物質層の密度を高めて、負極板を形成した。
次に、実施例1~4及び比較例の各正極板と、負極板とをセパレータを介して対向させて、電解液と共にラミネートフィルムからなる外装体内に収容し、電池をそれぞれ作製した。
【0036】
次に、実施例1~4及び比較例の各電池について、それぞれ電池抵抗Rを測定した。具体的には、環境温度-10℃下において、SOCを56%(電池電圧3.70V)に調整する。その後、1Cの定電流Iで2秒間放電を行い、放電前後の電池電圧Vを測定し、電池電圧Vの変化量ΔVを求める。更に、R=ΔV/Iにより各電池の電池抵抗(IV抵抗)Rをそれぞれ求める。そして、比較例の電池抵抗Rを基準(=1.00)として、実施例1~4の各電池の「電池抵抗比」をそれぞれ算出した。その結果を
図7に示す。
図7から明らかなように、比較例の電池に比べて、実施例1~4の各電池では、電池抵抗比(電池抵抗R)が小さい。更に、実施例1,3の各電池で比較すると、実施例1の電池よりも実施例3の電池で電池抵抗比(電池抵抗R)が小さい。
【0037】
前述したように、LPO層生成工程S2前の正極活物質粒子10,10Z(
図4(a),(b)参照)におけるLi化合物層15の被覆率CV(
図5参照)は、比較例の低被覆率正極活物質粒子10Z(CV=12%)に比べて、実施例1の高被覆率正極活物質粒子10(CV=21%)で高く、更に実施例3の高被覆率正極活物質粒子10(CV=32%)で高い。
また、非晶質LPO層20はLi化合物層15から生成されることから、LPO層付き正極活物質粒子1における非晶質LPO層20の被覆率CWも、Li化合物層15の被覆率CVと同様の関係にあると考えられる。即ち、非晶質LPO層20の被覆率CWも、比較例のLPO層付き正極活物質粒子1に比べて、実施例1のLPO層付き正極活物質粒子1で高く、更に実施例3のLPO層付き正極活物質粒子1で高いと考えられる。
【0038】
非晶質LPO層20はリチウムイオン伝導性が高いため、非晶質LPO層20が粒子表面1mに薄くても広く存在しているほど、放電の際に電解液中のリチウムイオンが非晶質LPO層20を通じて粒子表面1mに移動し易くなる。このため、電池抵抗比(電池抵抗R)は、比較例の電池よりも実施例1の電池で小さく、更に実施例3の電池で小さくなったと考えられる。なお、充電の場合は、リチウムイオンが粒子表面1mから電解液中への移動がし易くなる。
【0039】
以上で説明したように、高被覆率正極活物質粒子10は、粒子表面10mにおけるLi化合物層15の被覆率CVが20%以上である。このため、この高被覆率正極活物質粒子10のLi化合物層15から非晶質LPO層20を生成すれば、Li化合物層15の被覆率CVが20%未満の低被覆率正極活物質粒子を用いてLPO層付き正極活物質粒子を製造する場合に比べて、粒子表面10mに広く非晶質LPO層20を生成したLPO層付き正極活物質粒子1を製造できる。非晶質LPO層20はリチウムイオンの伝導性が高いため、非晶質LPO層20が粒子表面10mに広く存在するほど、この粒子表面10mにおける粒子と電解液との間のリチウムイオンの移動がスムーズに行えるようになる。従って、Li化合物層15の被覆率CVが20%未満の低被覆率正極活物質粒子を用いる場合に比べて、Li化合物層15の被覆率CVが20%以上の高被覆率正極活物質粒子10を用いて、LPO層付き正極活物質粒子1を製造し、更にこれを用いて電池を製造すれば、電池抵抗Rを低くできる。
【0040】
また、高被覆率正極活物質粒子10の製造方法では、加熱工程S11において、Li化合物層15の被覆率CVが20%未満である低被覆率正極活物質粒子10Zを、462~923℃の温度範囲内で加熱し、Li化合物層15の被覆率CVを20%以上に増やしている。このようにして製造される高被覆率正極活物質粒子10は、Li化合物層15の被覆率CVが20%以上であるため、この高被覆率正極活物質粒子10を用いてLPO層付き正極活物質粒子1を製造し、更にこれを用いて電池を製造すれば、電池抵抗Rを低くできる。
【0041】
また、LPO層付き正極活物質粒子1の製造方法では、Li化合物層15の被覆率CVが20%以上の高被覆率正極活物質粒子10を用いて、そのLi化合物層15から非晶質LPO層20を生成している。このため、製造されるLPO層付き正極活物質粒子1は、粒子表面1mに広く非晶質LPO層20を有しているので、このLPO層付き正極活物質粒子1を用いて電池を製造すれば、電池抵抗Rを低くできる。
【0042】
更に、実施形態1では、Pを含む処理液100として、P2O5をIPAに溶解させた処理液を用いているので、より適切に非晶質LPO層20を生成でき、このLPO層付き正極活物質粒子1を用いて電池を製造すれば、電池抵抗Rを適切に低くできる。
また、実施形態2では、Pを含む処理液150として、H3PO4を含むリン化合物とNMPとを混合した処理液を用いている。H3PO4及びNMPは、入手及び取り扱いが容易であるため、これらを用いることで容易に非晶質LPO層20を形成できる。
【0043】
以上において、本発明を実施形態1,2に即して説明したが、本発明は実施形態1,2に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0044】
1 LPO層付き正極活物質粒子
1m (LPO層付き正極活物質粒子の)粒子表面
10 (中間体である)高被覆率正極活物質粒子
10Z 低被覆率正極活物質粒子
10m (正極活物質粒子の)粒子表面
11 粒子本体
15 (加熱後の)Li化合物層
15Z (加熱前の)Li化合物層
20 非晶質LPO層
100,150 (Pを含む)処理液
S11 加熱工程
S2,S22 LPO層生成工程
S3 乾燥工程