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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】油中水型乳化化粧料
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/894 20060101AFI20230904BHJP
   A61K 8/31 20060101ALI20230904BHJP
   A61K 8/891 20060101ALI20230904BHJP
   A61K 8/06 20060101ALI20230904BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230904BHJP
【FI】
A61K8/894
A61K8/31
A61K8/891
A61K8/06
A61Q19/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020531372
(86)(22)【出願日】2019-07-19
(86)【国際出願番号】 JP2019028378
(87)【国際公開番号】W WO2020017618
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2018136276
(32)【優先日】2018-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100149294
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 直人
(72)【発明者】
【氏名】北島 正樹
(72)【発明者】
【氏名】駒井 亮太
【審査官】田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-012351(JP,A)
【文献】国際公開第2012/043614(WO,A1)
【文献】特開平08-268831(JP,A)
【文献】特開2000-239119(JP,A)
【文献】国際公開第2018/117172(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/001781(WO,A1)
【文献】特表2016-535002(JP,A)
【文献】国際公開第2017/126252(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/086579(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)0.5~1.5質量%の下記式(1):
【化1】
[式(1)中、Aはメチル基、フェニル基及び一般式:-CO(CO)(CO)R’(但し、R’は水素原子、アシル基、および炭素数1~4のアルキル基からなる群から選択される基であり、aは5~50の整数であり、bは5~50の整数である)で示されるポリオキシアルキレン基からなる群から選択される基であり、3つのAのうち少なくとも1つはポリオキシアルキレン基であり、
Rはメチル基またはフェニル基であり、
mは50~1000の整数であり、
nは1~40の整数であり、
分子中にポリオキシアルキレン基を40質量%以上含有し、且つ分子量は30000以上である]
で示される高分子量ポリエーテル変性シリコーンから選択される少なくとも1種;
(B)0.5~1.5質量%のHLBが2~5のシリコーン界面活性剤(ただし、前記(A)に該当するものは除く);
(C)1.0~2.0質量%の有機変性粘土鉱物;
(D)72~83質量%の水相;及び
(E)15~24質量%の油剤、を含有し、
前記(E)油剤が、(e1)非極性炭化水素油及び低極性炭化水素油から選択される少なくとも1種の炭化水素油と、(e2)少なくとも1種のシリコーン油とを含み、
前記(e1)炭化水素油と前記(e2)シリコーン油の合計配合量に対する(e1)炭化水素油の配合量の比率[(e1)/{(e1)+(e2)}]が0.3~0.65の範囲内であることを特徴とする、油中水型乳化化粧料。
【請求項2】
(e1)非極性炭化水素油及び低極性炭化水素油から選択される少なくとも1種の炭化水素油が、常温で液状でありIOB値が0.15以下の炭化水素油である、請求項1に記載の化粧料。
【請求項3】
常温で液状でありIOB値が0.15以下の炭化水素油が、ステアリン酸ステアリル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸オクチル、2-エチルヘキサン酸セチル、オクタン酸セチル、トリイソステアリン酸トリメチロ-ルプロパン、イソノナン酸イソトリデシル、軽質イソパラフィン、軽質流動イソパラフィン、流動イソパラフィン、流動パラフィン、及びα-オレフィンオリゴマーからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項2に記載の化粧料。
【請求項4】
(e1)炭化水素油及び(e2)シリコーン油の合計配合量が、(E)油剤の全質量に対して80質量%以上である、請求項1から3のいずれか一項に記載の化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油中水型乳化化粧料に関する。より詳しくは、コク感がありながら、塗布時に水があふれ出すようなみずみずしい感触を与えることのできる油中水型乳化化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
油相を連続相(外相)、水相を分散相(内相)とする油中水型乳化組成物は、油溶性の有効成分、例えばエモリエント剤、油溶性薬剤、紫外線吸収剤等を効率的に皮膚上に展開できることから、皮膚外用剤に適した剤型であり、化粧品分野ではスキンケアクリーム又は乳液、あるいはヘアケア用クリーム等に広く活用されている。
【0003】
一般に、油中水型乳化化粧料においては、肌への塗布時のコク感を与え、皮膚への柔軟性を付与する等の目的でワックス等の固形油や半固形油が配合されていた。しかし、固形油等の配合でコク感は得られるが、同時にみずみずしい使用感を満足させることは極めて困難であった。
【0004】
特許文献1では、(a)水溶性エチレン性不飽和モノマーを逆相マイクロエマルション重合により製造した合成高分子電解質(アクリルアミド系コポリマー)からなるミクロゲルを増粘剤とし、それと同時に(b)硬化ヒマシ油と高級脂肪酸とのエステルを配合した皮膚外用剤は、みずみずしさとコク感を併せ持つ使用感を有するとされている。しかし、特許文献1におけるみずみずしさは単に親水性増粘剤ミクロゲルに包含される水分に起因するものと考えられ、塗布時に水があふれ出すような感触を与えるものではない。
【0005】
一方、みずみずしさに優れた油中水型乳化化粧料としては、特許文献2に、グルコマンナンと、特定構造のポリエーテル変性シリコーンからなる乳化剤と、50.0重量%以上の水を含有する高内水相乳化化粧料が開示されている。また、特許文献3には、特許文献2と同様のポリエーテル変性シリコーンと、シリコーン油及び/又は非極性油と、水を配合する乳化化粧料が開示されている。
【0006】
前記特許文献2に記載されている高内水相乳化化粧料は、油中水型乳化物でありながら、肌に塗布した際に瞬時に転相して水があふれ出すような感触を与えるとされ、特許文献3に記載されている乳化化粧料は、のびが軽く、しっとりしてべたつきが無いことを特徴としている。しかしながら、これらの化粧料はコク感に欠け、コク感を付与するために固形油を配合すると本来のみずみずしさが失われてしまう。さらに、ポリエーテル変性シリコーンを唯一の乳化剤としているので、油分量を増やすと乳化安定性が低下する傾向があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-39360号公報
【文献】特開2001-58937号公報
【文献】特開平8-268831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来技術の欠点に鑑みてなされたものであり、コク感がありながら、転相して水があふれ出すようなみずみずしい使用感触を併せ持ち、なおかつ乳化安定性にも優れた油中水型乳化化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討を行ったところ、多量の水相を含有する高内水相油中水型乳化化粧料において、特定構造のポリエーテル変性シリコーン、有機変性粘土鉱物、さらに特定のシリコーン界面活性剤を組み合わせて配合し、油剤として非極性又は低極性の炭化水素油とシリコーン油を配合することにより、コク感、みずみずしさ、及び乳化安定性のすべてを満足することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
(A)下記式(1):
【化1】
[式(1)中、Aはメチル基、フェニル基及び一般式:-CO(CO)(CO)R’(但し、R’は水素原子、アシル基、および炭素数1~4のアルキル基からなる群から選択される基であり、aは5~50の整数であり、bは5~50の整数である)で示されるポリオキシアルキレン基からなる群から選択される基であり、3つのAのうち少なくとも1つはポリオキシアルキレン基であり、
Rはメチル基またはフェニル基であり、
mは50~1000の整数であり、
nは1~40の整数であり、
分子中にポリオキシアルキレン基を40質量%以上含有し、且つ分子量は30000以上である]
で示される高分子量ポリエーテル変性シリコーンから選択される少なくとも1種;
(B)HLBが2~5のシリコーン界面活性剤(ただし、前記(A)に該当するものは除く);
(C)有機変性粘土鉱物;
(D)72~83質量%の水相;及び
(E)油剤、を含有し、
前記(E)油剤が、(e1)非極性炭化水素油及び低極性炭化水素油から選択される少なくとも1種の炭化水素油と、(e2)少なくとも1種のシリコーン油とを含むことを特徴とする、油中水型乳化化粧料を提供する。
なお、本発明は、上記の(A)高分子量ポリエーテル変性シリコーンに代えて又はそれに加えて、下記式(2)で表される架橋型ポリエーテル変性シリコーンの少なくとも1種を配合した油中水型乳化化粧料も含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明の油中水型乳化化粧料によれば、肌への塗布時にコク感を与え、なおかつ水があふれ出すようなみずみずしさがあるのみならず、乳化安定性に優れ、べたつかず、のびが良好でさっぱりした使用感触を付与することができる。しかも、従来の化粧料でコク感を付与するために用いられていたワックス等の固形油を配合する必要がないので、加熱工程を含まない簡便な方法で製造することができる。
本明細書における「コク感」とは、製剤を肌に馴染ませた後、製剤が肌を覆うような後残り感があることを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の油中水型乳化化粧料(以下、単に「乳化化粧料」とも称する)は、(A)特定構造の高分子量ポリエーテル変性シリコーン及び特定構造の架橋型ポリエーテル変性シリコーンから選択される少なくとも1種のポリエーテル変性シリコーン、(B)HLBが2~5のシリコーン界面活性剤、(C)有機変性粘土鉱物、(D)水相;及び(E)油剤を含有する。以下、各成分について詳細に説明する。
【0013】
(A)ポリエーテル変性シリコーン
本発明の乳化化粧料に配合されるポリエーテル変性シリコーンは、下記式(1)で表される高分子量ポリエーテル変性シリコーンから選択される少なくとも1種、及び/又は、下記式(2)で表される架橋型ポリエーテル変性シリコーンから選択される少なくとも1種(本明細書では、「特定構造のポリエーテル変性シリコーン」又は「A成分」とも称する)である。
【0014】
【化2】
[式(1)中、Aはメチル基、フェニル基及び一般式:-CO(CO)(CO)R’(但し、R’は水素原子、アシル基、および炭素数1~4のアルキル基からなる群から選択される基であり、aは5~50の整数であり、bは5~50の整数である)で示されるポリオキシアルキレン基からなる群から選択される基であり、3つのAのうち少なくとも1つはポリオキシアルキレン基であり、
Rはメチル基またはフェニル基であり、
mは50~1000の整数であり、
nは1~40の整数であり、
分子中にポリオキシアルキレン基を40質量%以上含有し、且つ分子量は30000以上である。]
【0015】
【化3】
[式(2)中、lは3~20、mは10~200、nは1.0~10.0の数値である。]
【0016】
上記式(1)の高分子量ポリエーテル変性シリコーンについて、式(1)におけるR’のアシル基の具体例として、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチロイル基、アクリロイル基、ベンゾイル基、トルオイル基、炭素数1~4のアルキル基等が挙げられ、アルキル基の具体例には、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n-プロピル基、t-ブチル基、n-ブチル基等が含まれる。
【0017】
なお、式(1)におけるポリオキシアルキレン基の数について、aまたはbが5未満である場合には、ポリエーテル変性シリコーンが十分な増粘効果を示さなくなり、またaまたはbが50を超える場合には、得られた乳化化粧料がべとつき感を有するようになる。
また、1分子中のポリオキシアルキレン基の含有量は40質量%以上が好ましく、特に好ましくは40~70質量%の範囲である。ポリオキシアルキレン基の含有量が40質量%未満の場合には、シリコーン油以外の非極性油に対する乳化能が低下し、70質量%を超える場合には、得られた乳化化粧料にべたつきを生ずる場合がある。
式(1)における、mが50未満であり、かつnが1未満である場合には、増粘効果が不十分になり、mが1000を超え、かつnが40を超える場合には、得られた乳化化粧料がべたついた感触を有するようになる。
【0018】
本発明に用いられる高分子量ポリエーテル変性シリコーン(式(1))の分子量は30000以上であり、50000以上であるのが好ましい。これは、ポリエーテル変性シリコーンの分子量が30000未満であると、シリコーン油以外の非極性油分に対する乳化能が低下するためである。
【0019】
上記式(1)に該当する高分子量ポリエーテル変性シリコーンとして特に好ましい具体例としては、PEG/PPG-19/19、即ち、ジメチコンのメチル基の一部をポリオキシアルキレン基で置換した構造を有し、オキシエチレン基及びオキシプロピレン基の平均重合度が各々19である化合物、を挙げることができる。当該化合物は、上記式(1)において、Rがメチル基であり、a=19かつb=19である化合物に相当する(ただし、ポリオキシアルキレン基におけるオキシエチレン基とオキシプロピレン基の結合順序は限定されず、交互に結合していてもよく、少なくとも一部がポリオキシエチレンブロック及び/又はポリオキシプロピレンブロックを形成していてもよい。また、R’は水素原子であるのが好ましい)。
【0020】
式(2)で表される架橋型ポリエーテル変性シリコーンは、メチルハイドロジェンポリシロキサンを、両末端ジアリルポリエーテルで架橋した架橋高分子である。実使用においては、前記架橋高分子100重量部に対して、25℃における粘度が100mPa・s以下である低粘度シリコーン油10~1000重量部、好ましくは20~500重量部を剪断力下で混練処理してペースト状組成物として配合するのが好ましい。ペースト状組成物を調製する際に用いられる低粘度シリコーン油は、直鎖状、分岐状のいずれであってもよく、例えば、メチルポリシロキサン(ジメチコン)、メチルフェニルポリシロキサン(ジフェニルジメチコン)、エチルポリシロキサン、エチルメチルポリシロキサン、エチルフェニルポリシロキサン、またオクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等の環状ジメチルポリシロキサンなどが挙げられ、これらは単独でも2種以上の混合物であってもよい。
【0021】
本発明の乳化化粧料は、上記の式(1)で表される高分子量ポリエーテル変性シリコーン及び上記の式(2)で表される架橋型ポリエーテル変性シリコーンのいずれか一方または両方(即ち、特定構造のポリエーテル変性シリコーン)を1種又は2種以上を組み合わせて含有できる。特に、式(1)で表される高分子量ポリエーテル変性シリコーンを少なくとも1種含有するのが好ましい。
【0022】
本発明の乳化化粧料における特定構造のポリエーテル変性シリコーン(A成分)の配合量は、実分で、0.3質量%以上とするのが好ましい。配合量が0.3質量%未満であると乳化安定性が低下する場合がある。好ましい配合量範囲は0.4~1.8質量%であり、0.5~1.5質量%が特に好ましい。
【0023】
(B)HLBが2~5のシリコーン界面活性剤
本発明の乳化化粧料におけるB成分はシリコーン界面活性剤であり、そのHLB値が2~5の範囲内にあるものである。本発明における「シリコーン界面活性剤」とは、分子内にシリコーン構造(疎水性部分)と親水性部分とを有する非イオン性の界面活性剤である。
【0024】
本発明で好ましく用いられるシリコーン界面活性剤の具体例としては、ポリ(オキシエチレン・オキシプロピレン)メチルポリシロキサン共重合体、ポリオキシエチレンメチルポリシロキサン共重合体、シリコーン鎖分岐型メチルポリシロキサン共重合体、アルキル鎖分岐型ポリオキシエチレンメチルポリシロキサン共重合体、アルキル鎖・シリコーン鎖分岐型ポリオキシエチレンメチルポリシロキサン共重合体、架橋型ポリオキシエチレンメチルポリシロキサン、アルキル基含有架橋型ポリオキシエチレンメチルポリシロキサン、分岐型ポリグリセリン変性シリコーン、架橋型ポリグリセリン変性シリコーン、アルキル基含有架橋型ポリグリセリン変性シリコーン、アルキル基分岐型ポリグリセリン変性シリコーン等が挙げられるが、これらに限定されない。
なお、上記式(1)又は(2)で表される特定構造のポリエーテル変性シリコーンの中に、そのHLB値が2~5であるものが存在し得るが、本発明においては、式(1)又は(2)に該当するものは特定構造のポリエーテル変性シリコーン(A成分)とし、シリコーン界面活性剤(B成分)からは除外する。
【0025】
より具体的な例として、PEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン、ラウリルPEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン、セチルPEG/PPG-10/1ジメチコン、PEG-9メチルエーテルジメチコン、PEG-10ジメチコン、PEG-3ジメチコン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
本発明の乳化化粧料におけるシリコーン界面活性剤(B成分)の配合量は、0.3質量%以上とするのが好ましい。配合量が0.3質量%未満であると乳化安定性が低下する場合がある。好ましい配合量範囲は0.4~1.8質量%であり、0.5~1.5質量%が特に好ましい。
【0027】
(C)有機変性粘土鉱物
本発明の乳化化粧料に用いられる有機変性粘土鉱物(C成分)は、三層構造を有するコロイド性含水ケイ酸アルミニウムの一種で、一般に下記一般式(3)で表される粘土鉱物を第四級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤で変性したものである。
(X,Y)2―3(Si,Al)10(OH)1/3・nHO (3)
(但し、X=Al、Fe(III)、Mn(III)又はCr(III)、Y=Mg、Fe(II)、Ni、Zn又はLi、Z=K、Na又はCa)
【0028】
具体的にはモンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト等の天然または合成(この場合、式中の(OH)基がフッ素で置換されたもの)のモンモリロナイト群(市販品ではビーガム、クニピア、ラポナイト等がある。)およびナトリウムシリシックマイカやナトリウムまたはリチウムテニオライトの名で知られる合成雲母(市販品ではダイモナイト:トピー工業(株)等がある。)等の粘土鉱物を第四級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤で処理して得られる。
【0029】
ここで用いられる第四級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤は、下記一般式(3)で表されるものである。
【0030】
【化4】
(式中、Rは炭素数10~22のアルキル基またはベンジル基、Rはメチル基または炭素数10~22のアルキル基、RおよびRは炭素数1~3のアルキル基またはヒドロキシアルキル基、Xはハロゲン原子またはメチルサルフェート残基を表す。)
【0031】
かかる第四級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤としては、例えばドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ミリスチルトリメチルアンモニウムクロリド、セチルトリメチルアンモニウムクロリド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロリド、アラキルトリメチルアンモニウムクロリド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロリド、ミリスチルジメチルエチルアンモニウムクロリド、セチルジメチルエチルアンモニウムクロリド、ステアリルジメチルエチルアンモニウムクロリド、アラキルジメチルエチルアンモニウムクロリド、ベヘニルジメチルエチルアンモニウムクロリド、ミリスチルジエチルメチルアンモニウムクロリド、セチルジエチルメチルアンモニウムクロリド、ステアリルジエチルメチルアンモニウムクロリド、アラキルジエチルメチルアンモニウムクロリド、ベヘニルジエチルメチルアンモニウムクロリド、ベンジルジメチルミリスチルアンモニウムクロリド、ベンジルジメチルセチルアンモニウムクロリド、ベンジルジメチルステアリルアンモニウムクロリド、ベンジルジメチルベヘニルアンモニウムクロリド、ベジルメチルエチルセチルアンモニウムクロリド、ベンジルメチルエチルステアリルアンモニウムクロリド、ジベヘニルジヒドロキシエチルアンモニウムクロリド、および相当するブロミド等、更にはジパルミチルプロピルエチルアンモニウムメチルサルフェート等が挙げられる。本発明の実施にあたっては、これらのうち1種または2種以上が任意に選択される。
【0032】
有機変性粘土鉱物の代表的なものとしては、ジメチルアルキルアンモニウムヘクトライト、ベンジルジメチルステアリルアンモニウムヘクトライト、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム処理ケイ酸アルミニウムマグネシウム等が挙げられる。市販品としては、ベントン27(ベンジルジメチルステアリルアンモニウムクロライド処理ヘクトライト:ナショナルレッド社製)およびベントン38(ジメチルジステアリルアンモニウム変性ヘクトライト:ナショナルレッド社製)が好ましい。
【0033】
本発明の乳化化粧料における有機変性粘土鉱物(C成分)の配合量は、0.5質量%より大きく、かつ2.5質量%未満とするのが好ましい。配合量が0.5質量%以下又は2.5質量%以上であると乳化安定性が低下する傾向がある。好ましい配合量範囲は0.8~2.2質量%であり、1.0~2.0質量%が特に好ましい。
【0034】
(D)水相
本発明の乳化化粧料における水相(D成分)は、水及び水溶性成分を含む。水は、イオン交換水、精製水、自然水等、化粧料に通常使用されているものでよい。水溶性成分は、水と混和可能な物質であり、典型例として、低級アルコール及び多価アルコールを挙げることができる。
【0035】
低級アルコールとは、炭素数5以下のアルコールを指し、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール等が例示される。
【0036】
多価アルコールとしては、例えば、2価のアルコール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2-ブチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、テトラメチレングリコール、2,3-ブチレングリコール、ペンタメチレングリコール、2-ブテン-1,4-ジオール、ヘキシレングリコール、オクチレングリコール等);3価のアルコール(例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン等);4価アルコール(例えば、1,2,6-へキサントリオール等のペンタエリスリトール等);5価アルコール(例えば、キシリトール(糖アルコールにも属する)等);6価アルコール(例えば、ソルビトール、マンニトール(いずれも糖アルコールにも属する)等);多価アルコール重合体(例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、ジグリセリン、ポリエチレングリコール、トリグリセリン、テトラグリセリン、ポリグリセリン等);2価アルコールアルキルエーテル類(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル(フェノキシエタノール)、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2-メチルヘキシルエーテル、エチレングリコールイソアミルエーテル、エチレングリコールベンジルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル等);2価アルコール縮合体アルキルエーテル類(例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコールブチルエーテル等);2価アルコールエーテルエステル(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノフェニルエーテルアセテート、エチレングリコールジアジベート、エチレングリコールジサクシネート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノフェニルエーテルアセテート等);グリセリンモノアルキルエーテル(例えば、キシルアルコール、セラキルアルコール、バチルアルコール等);糖アルコール(例えば、ソルビトール、マルチトール、マルトトリオース、マンニトール、ショ糖、エリトリトール、グルコース、フルクトース、デンプン分解糖、マルトース、キシリトール、デンプン分解等還元アルコール等);グリソリッド;テトラハイドロフルフリルアルコール;POE-テトラハイドロフルフリルアルコール、POP-ブチルエーテル;POP・POE-ブチルエーテル;トリポリオキシプロピレングリセリンエーテル;POP-グリセリンエーテル;POP-グリセリンエーテルリン酸;POP・POE-ペンタンエリスリトールエーテル、ポリグリセリン等が挙げられる。
【0037】
その他の水溶性成分には、各種塩類、各種水溶性薬剤(例えば、保湿剤、防腐剤、増粘剤など)が含まれ、特に限定されない。但し、その配合量は本発明の効果を阻害しない範囲とする。また、本発明の乳化化粧料は、上記の特許文献2で必須とされているグルコマンナン(水溶性増粘剤の1種)を配合しなくても安定で、転相して水があふれ出すような使用感(転相感)が得られるので、本発明はグルコマンナンを配合しない態様も包含する。
【0038】
本発明の乳化化粧料における水相(D成分)の配合量は72~83質量%であることを必要とする。水相の配合量を前記範囲外とすると転相感が得られないか、安定して乳化することができない。水相の配合量範囲は、好ましくは72.5~82質量%、さらに好ましくは73~81質量%である。
また、水相(D成分)の少なくとも80質量%、好ましくは少なくとも90質量%、より好ましくは少なくとも95質量%を、水と多価アルコールと保湿剤が占めるようにするのが好ましい。
【0039】
本発明における油剤(E成分)は、(e1)非極性炭化水素油及び低極性炭化水素油から選択される少なくとも1種の炭化水素油と、(e2)少なくとも1種のシリコーン油とを含む。
【0040】
(e1)非極性炭化水素油及び低極性炭化水素油から選択される少なくとも1種の炭化水素油
本発明における(e1成分)は、常温(25℃)において液状の炭化水素油であって、一般に非極性油又は低極性油として知られたものでよい。化粧料分野では、例えば、水添ポリデセン、ミネラルオイル、流動パラフィン、イソパラフィン、イソヘキサデカン、イソドデカン、スクワラン、スクワレン、水添ポリイソブテン等が非極性又は低極性の液状油として知られている。
【0041】
本発明においては、非極性炭化水素油及び低極性炭化水素油から選択される少なくとも1種の炭化水素油(e1成分)を、以下では包括的に「非極性炭化水素油」とも称し、便宜的に、「常温で液状でありIOB値が0.15以下の炭化水素油」と定義する。IOB値とは、有機概念図(甲田善生ら著、「新版 有機概念図-基礎と応用-」、三共出版、2008年発行)における有機性値(Organic Value = OV)と無機性値(Inorganic Value = IV)との比から求めた値(IV / OV = IOB(Inorganic Organic Balance))である。
【0042】
上記で定義した「非極性炭化水素油」(e1成分)には、前記の液状油に加えて、ステアリン酸ステアリル(IOB=0.08)、ミリスチン酸オクチルドデシル(IOB=0.09)、パルミチン酸オクチル(IOB=0.13)、2-エチルヘキサン酸セチル(IOB=0.13)、オクタン酸セチル(IOB=0.13)、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン(IOB=0.14)、イソノナン酸イソトリデシル(IOB=0.14)等のエステル油;軽質イソパラフィン、軽質流動イソパラフィン、流動イソパラフィン、流動パラフィン等のパラフィン系油剤;α-オレフィンオリゴマー等の炭化水素系油剤等が含まれる。
【0043】
(e2)シリコーン油
シリコーン油(e2成分)は、常温で液状のシリコーン油であり、例えば、ジメチルポリシロキサン(ジメチコン)、メチルフェニルポリシロキサン(ジフェニルジメチコン)、メチルハイドロジェンポリシロキサンなどの鎖状シリコーン油、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサンなどの環状シリコーン油等が挙げられる。
【0044】
本発明の乳化化粧料では、前記(e1)非極性炭化水素油と前記(e2)シリコーン油の合計配合量に対する(e1)炭化水素油の配合量の比率[(e1)/{(e1)+(e2)}]を0.3~0.65の範囲に調整するのが好ましく、0.32~0.64の範囲にするのがより好ましく、0.34~0.62の範囲内にするのが特に好ましい。比率[(e1)/{(e1)+(e2)}]は、0.3~0.65の範囲内であれば如何なる数値(範囲)も取り得るが、中でも、0.4~0.5の範囲にするのが最も好ましい。
【0045】
本発明における油剤(E成分)には、必須成分である(e1)非極性炭化水素油及び(e2)シリコーン油以外に、油脂、ロウ類、高級脂肪酸、高級アルコール、高極性炭化水素油(IOB値が0.15を超える液状炭化水素油)等から選ばれる任意の油性成分を、本発明の効果を損なわない限りに配合することが可能である。
【0046】
本発明の乳化化粧料における油剤(E成分)の配合量は、通常は10~30質量%、好ましくは12~28質量%、より好ましくは15~24質量%である。
また、(e1)非極性炭化水素及び(e2)シリコーン油の合計配合量が、油剤(E成分)の全質量に対して、80質量%以上を占めるのが好ましく、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上を占め、油剤(E成分)が(e1)非極性炭化水素及び(e2)シリコーン油のみからなることもある。
【0047】
本発明の乳化化粧料には、本発明の効果を損なわない範囲内で、化粧料に通常用いられる他の任意成分、例えば、限定されないが、金属イオン封鎖剤、粉末成分、pH調整剤、紫外線吸収剤、皮膚栄養剤、ビタミン、酸化防止剤、酸化防止助剤、香料等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0048】
本発明の乳化化粧料は、油中水型乳化化粧料の常法を用いて製造することができ、乳化の方法は特に限定されるものでない。例えば、水相と油相を、必要に応じて加温し、水相を油相に徐々に添加して乳化機で乳化し、加熱した場合には室温まで放冷する等の方法がある。特に、本発明の乳化化粧料で固形油分を含まない態様では、加熱工程が不要となるため工程が簡略化できる。
【0049】
本発明に係る乳化化粧料は、様々な形態の化粧料に広く応用することが可能であり、例えば、みずみずしい使用感触を持った乳液、クリーム、化粧下地、乳化ファンデーション等の形態として提供するのに適している。
【実施例
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。配合量については特に断りのない限り質量%を示す。
【0051】
下記の表1~5に示す処方にて油中水型乳化化粧料(試料)を調製し、各試料について評価した。評価項目、評価方法、及び評価基準は以下の通りである。評価結果を表1~5に併せて示す。
【0052】
評価項目(1):転相感
評価方法:専門パネル10名が顔に試料を塗布し、塗布時の水が溢れ出す感触の有無(転相感)を評価した。
評価基準:
A*:パネル10名中9名以上が転相感があると回答した。
A:パネル10名中7名以上9名未満が転相感があると回答した。
B:パネル10名中5名以上7名未満が転相感があると回答した。
C:パネル10名中5名未満が転相感があると回答した。
【0053】
評価項目(2):乳化安定性
評価方法:25℃および40℃で1ヶ月保存した試料の硬度および外観を、調製直後と比較し安定性を評価した。
評価基準:
A*:どの保存条件でも、硬度の低下が10%以下であり、外観の変化は認められなかった。
A:どの保存条件でも、外観の変化は認められなかったが、40℃で保存したもののみ10%以上の硬度低下が認められた。
B*:どの保存条件でも、外観の変化は認められなかったが、10%以上の硬度低下が認められた。
B:外観において、水または油の分離が若干認められた。
C:1ヶ月以内に、外観において水または油の分離が認められた。
【0054】
評価項目(3):べたつきのなさ
評価方法:専門パネル10名が顔に試料を塗布し、塗布時の使用感を評価した。
評価基準:
A*:パネル10名中9名以上がべたつきがないと回答した。
A:パネル10名中7名以上9名未満がべたつきがないと回答した。
B:パネル10名中5名以上7名未満がべたつきがないと回答した。
C:パネル10名中5名未満がべたつきがないと回答した。
【0055】
評価項目(4):やわらかさ
評価方法:専門パネル10名が顔に試料を塗布し、塗布時の使用感を評価した。
評価基準:
A*:パネル10名中9名以上が肌がやわらかいと回答した。
A:パネル10名中7名以上9名未満が肌がやわらかいと回答した。
B:パネル10名中5名以上7名未満が肌がやわらかいと回答した。
C:パネル10名中5名未満が肌がやわらかいと回答した。
【0056】
評価項目(5):保湿効果
評価方法:専門パネル10名が顔に試料を塗布し、塗布時の使用感を評価した。
評価基準:
A*:パネル10名中9名以上が保湿効果があると回答した。
A:パネル10名中7名以上9名未満が保湿効果があると回答した。
B:パネル10名中5名以上7名未満が保湿効果があると回答した。
C:パネル10名中5名未満が保湿効果があると回答した。
【0057】
評価項目(6):コク感
評価方法:専門パネル10名が顔に試料を塗布し、塗布時の使用感を評価した。
評価基準:
A*:パネル10名中9名以上がコク感があると回答した。
A:パネル10名中7名以上9名未満がコク感があると回答した。
B:パネル10名中5名以上7名未満がコク感があると回答した。
C:パネル10名中5名未満がコク感があると回答した。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
【表5】
【0063】
次いで、上記表1の試料「1-3」の処方において、式(1)の高分子量ポリエーテル変性シリコーンを、式(2)に該当しない構造を有する架橋型ポリエーテル変性シリコーン((ジメチコン/(PEG-10/15))クロスポリマー;商品名:KSG210;信越化学工業株式会社製)に置換した処方で試料を調製し、上記と同様の評価を実施した。
【0064】
下記の表6に示すように、式(1)にも式(2)にも該当しない構造のポリエーテル変性シリコーンを用いた試料「6-1」は安定に乳化することができなかった。また、試料「6-1」における油分量と水分量を調整して乳化可能とした試料「6-2」では、本発明の特徴である転送して水があふれ出すような感触(転相感)を得ることができなかった。すなわち、本発明は、ポリエーテル変性シリコーンの中でも、式(1)又は(2)で表される特定構造のポリエーテル変性シリコーンを選択したことによって得られる特有の効果であることが裏付けられた。
【0065】
【表6】