(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】ヒドロキシクエン酸および/またはその塩を使用してT細胞集団を産生する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0783 20100101AFI20230904BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230904BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20230904BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230904BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20230904BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20230904BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20230904BHJP
【FI】
C12N5/0783 ZNA
C12N5/10
A61K35/17
A61P35/00
C12N15/12
C12N15/62 Z
C12N15/13
(21)【出願番号】P 2020559481
(86)(22)【出願日】2019-04-22
(86)【国際出願番号】 US2019028513
(87)【国際公開番号】W WO2019209715
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2022-04-21
(32)【優先日】2018-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ▲1▼2018年(平成30年)10月15日 https://techtransfer.cancer.gov/availabletechnologies/e-094-2018 https://techtransfer.cancer.gov/pdf/e-094-2018.pdfを通じて発表 ▲2▼2019年(平成31年)3月29日 https://doi.org/10.1126/science.aau0135を通じて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】510002280
【氏名又は名称】アメリカ合衆国
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】ヴォドゥナラ、スマン クマール
(72)【発明者】
【氏名】レスティフォ、ニコラス ピー.
(72)【発明者】
【氏名】キシュトン、リゲル ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】エイル、ロバート エル.
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/053233(WO,A1)
【文献】Ghosh, I. et al.,"In Vitro Cyto-genotoxicity of Hydroxycitric Acid: A Weight-loss Dietary Supplement",Journal of Exploratory Research in Pharmacology,2017年,Vol. 2,pp. 41-48
【文献】Pietrocola, F. et al.,"Caloric Restriction Mimetics Enhance Anticancer Immunosurveillance",Cancer Cell,2016年,Vol. 30,pp. 147-160, Supplemental Information
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00-7/08
C12Q 1/00-3/00
A61P 35/00-35/768
A61K 39/00-39/44
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離T細胞集団を産生する方法であって、ヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で、単離T細胞をインビトロで培養することを含み、前記塩はヒドロキシクエン酸カリウムまたはヒドロキシクエン酸ナトリウム
であって、該T細胞は、がんを有する哺乳動物から得られたものである、方法。
【請求項2】
前記方法が
、1.0mMか
ら10.0mMのヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下でT細胞を培養することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記塩がヒドロキシクエン酸カリウムである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記T細胞ががん抗原に対して抗原特異性を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
細胞が外因性TCRを発現する条件下で、外因性TCRをコードする核酸を細胞に導入することをさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
細胞がキメラ抗原受容体(CAR)を発現する条件下で、CARをコードする核酸を細胞に導入することをさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記方法が
、2.0mMか
ら6.0mMのヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下でT細胞を培養することを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記方法が、ヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下でT細胞を非特異的に刺激することを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記方法が、ヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下でT細胞を特異的に刺激することを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記方法が、(i)ヒドロキシクエン酸および/またはその塩、ならびに(ii)一方または両方の(a)1以上のサイトカインおよび(b)1以上の非特異的T細胞刺激の存在下で、細胞数を増加させることを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で細胞を培養すると、対照細胞に比べて、T細胞によるCD62L、インターロイキン(IL)-2、および腫瘍壊死因子(TNF)の1以上の発現が増加し、対照細胞をヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で培養しないことを除いて、対照細胞がヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で培養した細胞と同一である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で培養した細胞が、対照細胞と比べて、より大きな持続性およびより大きな抗腫瘍活性の一方または両方を提供し、対照細胞をヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で培養しないことを除いて、対照細胞がヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で培養した細胞と同一である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で培養した細胞が、対照細胞と比べて、アポトーシスが減少することを提供し、対照細胞をヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で培養しないことを除いて、対照細胞がヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で培養した細胞と同一である、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記T細胞ががん新生抗原に対して抗原特異性を有し、ならびに前記方法が、
がん新生抗原に対して抗原特異性を有するT細胞について、哺乳動物から得られた細胞をスクリーニングすること、および
哺乳動物から得られた細胞から、がん新生抗原に対して抗原特異性を有するT細胞を単離すること、
により単離T細胞を取得することをさらに含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
哺乳動物のがんを治療または予防するための医薬組成物
を製造する方法であって、
該方法が、
請求項1~14のいずれか一項に記載の方法によって単離T細胞集団を産生すること、及び、
単離T細胞集団と薬学的に許容される担体を組み合わせること、
とを含む、
方法。
【請求項16】
前記単離T細胞集団が哺乳動物に対して自家である、請求項
15に記載の
方法。
【請求項17】
前記単離T細胞集団が、哺乳動物に対して同種異系である、請求項
15に記載の
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本特許出願は、2018年4月24日に出願された同時係属中の米国仮特許出願番号第62/661,941号(参照によりその全体が本明細書に取り込まれる)についての利益を主張する。
【0002】
連邦支援研究開発に関連する陳述
本発明は、国立衛生研究所、国立がん研究所によりプロジェクト番号Z01ZIA BC010763-07の下での政府の支援を受けてなされた。政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0003】
電子的に提出された資料の参照による取り込み
本明細書と同時に提出され、以下のように識別される、コンピュータで読み取り可能なヌクレオチド/アミノ酸の配列表は、参照により、その全体が本明細書に取り込まれる:2019年4月22日付け作成の「742111_ST25.txt」という名前の1つの739バイトのASCII(テキスト)ファイルである。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
がん反応性T細胞を使用する養子細胞療法(adoptive cell therapy (ACT))は、一部のがん患者において利益を伴う臨床反応を生み出す可能性がある。しかし、がんおよび他の状態の治療のためのACTの使用の成功にはいくつかの障害も残っている。たとえば、インビボ(in vivo)におけるT細胞の持続性、生存、および抗腫瘍活性の1以上が、養子移入後に減少する場合がある。代替的または追加的に、場合によっては、T細胞のアポトーシスの増加は、がんおよび他の状態の治療に障害をもたらす可能性があり得る。したがって、ACTのための単離細胞集団を得るより良い方法が求められている。
【発明の概要】
【0005】
発明の要約
本発明の一実施形態では、単離T細胞集団を産生する方法であって、ヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で、単離T細胞をインビトロ(in vitro)で培養することを含み、前記塩はヒドロキシクエン酸カリウムまたはヒドロキシクエン酸ナトリウムである、方法を提供する。
【0006】
本発明の別の実施形態は、T細胞を哺乳動物に投与する方法であって、ヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で、単離T細胞をインビトロで培養することを含み、ここで、前記塩はヒドロキシクエン酸カリウムまたはヒドロキシクエン酸ナトリウムであり、さらに、ヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で細胞を培養した後、T細胞を哺乳動物に投与することを含む、方法を提供する。
【0007】
本発明のさらなる実施形態は、本方法によって産生した単離T細胞集団、関連する医薬組成物、および関連する哺乳動物のがんを治療または予防する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、ミトコンドリアおよび細胞質のAcCoAプールの生成に関与する分子経路、基質、および関連する酵素の概略図である。ACLY(ATP-クエン酸リアーゼ)、ACSS1(アシル-CoAシンテターゼ短鎖ファミリーメンバー1)、ACSS2(アシル-CoAシンテターゼ短鎖ファミリーメンバー2)、CTP-クエン酸トランスポーター、ヒドロキシクエン酸カリウム(ヒドロキシクエン酸-5mM)、酢酸塩(5mM)。
【
図2】
図2Aおよび2Bは、陰性対照(a)またはヒドロキシクエン酸カリウム(2-HC)(b)で処理した細胞で測定された細胞質クエン酸塩(
図2A)および細胞質AcCoA(
図2B)の定量化(相対的存在量)を示すグラフである。* * P <0.01; * * * *選択した関連する比較間でP <0.0001。
図2Cは、陰性対照(a)またはヒドロキシクエン酸カリウム(2-HC)(b)で処理した細胞におけるIFN-γ遺伝子座でのH3K9Ac沈着のChIP-PCR定量化(%エンハンサー濃縮)を示すグラフである。 * P <0.05。
【
図3】
図3Aは、陰性対照)(a)、ヒドロキシクエン酸カリウム(2-HC)(b)、またはヒドロキシクエン酸カリウムと酢酸塩(c)による処理後のCD62Lを発現する細胞の割合(最大値の%)を示すグラフである。
図3Bは、陰性対照(a)、ヒドロキシクエン酸カリウム(2-HC)(b)、またはヒドロキシクエン酸カリウムと酢酸塩(c)による処理後のCD62L陽性細胞(×10
3)で測定した平均蛍光強度(MFI)を示すグラフである。 * * * * P <0.0001。
【
図4】
図4は、腫瘍を有するマウスに、陰性対照(a)またはヒドロキシクエン酸カリウム(2-HC)(b)で処理したT細胞を移入後7日目における、移入したLy5.1+CD8+T細胞の絶対数(脾臓あたり×10
6)を示すグラフである。 * * P <0.01。
【
図5】
図5は、腫瘍を有するマウスに、陰性対照(a)またはヒドロキシクエン酸カリウム(2-HC)(b)で処理したT細胞を移入した後に測定した腫瘍面積(mm
2)を示すグラフである。T細胞で処理しなかったマウス(×)がさらなる対照として機能した。 * P <0.05。
【
図6】
図6は、陰性対照(a)またはヒドロキシクエン酸カリウム(2-HC)(b)で処理したT細胞を移入した後の、腫瘍を有するマウスの生存率(%)を示すグラフである。T細胞で処理しなかったマウス(点線)がさらなる対照として機能した。
【
図7】
図7Aは、対照またはヒドロキシクエン酸カリウム(2-HC)T細胞の培養条件の概略図である。
図7B-7Cは、対照(a)またはヒドロキシクエン酸カリウム(2-HC)(5mM)(b)で培養したT細胞における、CD62L陽性細胞(CD8+細胞の%)(
図7B)およびIFN-γ
+産生(CD8+細胞の%)(
図7C)の定量化を示すグラフである。中央値とエラーバーは平均±標準誤差(s.e.m)を表す。 * * * P <0.001。
【
図8】
図8は、対照またはヒドロキシクエン酸カリウム(2-HC)で培養した生集団(アネキシンV-PI-)(a)、アポトーシス集団(アネキシンV+PI-)(b)およびネクローシス集団(アネキシンV+PI+)(c)の割合(%サブセット組成)を示すグラフである。中央値とエラーバーは平均±標準誤差(s.e.m)を表す。 * * * P <0.001。
【
図9】
図9は、対照(a)またはヒドロキシクエン酸カリウム(2-HC)(b)における培養の過程(培養日数)にわたって定量化したCD8
+T細胞の絶対数(10
6/ml)を示すグラフである。中央値とエラーバーは平均±標準誤差(s.e.m)を表す。 * * P <0.01; * * * P <0.001。
【
図10】
図10は、CD8+Ly5.1+でゲート制御した、養子移入した対照(a)またはヒドロキシクエン酸カリウム(2-HC)(b) T細胞の定量化(細胞×10
5 mL
-1)を示すグラフである。中央値とエラーバーは平均±標準誤差(s.e.m)を表す。* * * P <0.001。
【
図11】
図11は、対照(n=10)(a)またはヒドロキシクエン酸カリウム(2-HC)(n=10)(b)で処理したT細胞で処理した後14日目に定量化した、肺あたりのB16-F10肺転移性結節の数を示すグラフである。中央値とエラーバーは平均±標準誤差(s.e.m)を表す。* * P <0.01。
【
図12A】
図12Aは、示された条件でフローサイトメトリーを使用してGFPシグナルの低下およびmCherryの蓄積を測定することによる、オートファジーフラックスの代表的なフローサイトメトリープロットを示す。2-HC =ヒドロキシクエン酸カリウム。
【
図12B】
図12Bは、対照(a)、ヒドロキシクエン酸カリウム(2-HC)(b)、対照-G120A(c)、またはヒドロキシクエン酸カリウムG120A(d)による処理のフローサイトメトリーを使用して、GFPシグナルの低下およびmCherryの蓄積を測定することによるオートファジーフラックスの定量化を示すグラフである。中央値とエラーバーは平均±標準誤差(s.e.m)を表す。 * * * * P <0.0001。
【
図13】
図13は、ヒドロキシクエン酸カリウム(2-HC)と酢酸塩の組み合わせ、ヒドロキシクエン酸カリウム単独、または対照(ヒドロキシクエン酸カリウムも酢酸塩もない)による処理後にIFN-γ陽性であったCD8陽性細胞の割合を示すグラフである。中央値とエラーバーは平均±標準誤差(s.e.m)を表す。 * * * * P <0.0001。
【
図14】
図14は、ヒドロキシクエン酸カリウム(2-HC)と酢酸塩の組み合わせ、ヒドロキシクエン酸カリウム単独、または対照(ヒドロキシクエン酸カリウムも酢酸塩もない)で処理した後の細胞質AcCoAの定量化を示すグラフである。中央値とエラーバーは平均±標準誤差(s.e.m)を表す。* * * P <0.001; * * * * P <0.0001。
【
図15】
図15は、対照/ヒドロキシクエン酸カリウム/クエン酸塩のT細胞培養条件とB16-mhgp 100腫瘍を有するマウスへの養子T細胞移入の概略図である。
【
図16】
図16は、対照(a)、クエン酸塩(b)、またはヒドロキシクエン酸カリウム(2-HC)(c)で培養したT細胞の養子移入10日後に、脾臓に存続するCD8+45.1+細胞(×10
6)の定量化を示すグラフである。中央値とエラーバーは平均±標準誤差(s.e.m)を表す。 * * P <0.01。 * * P <0.01。
【
図17】
図17A-17Cは、対照(n=10)((ii);
図17A)またはヒドロキシクエン酸カリウム(2-HC)(n=10)((ii);
図17B)またはクエン酸塩(n=10)((ii);
図17C)で培養したPmel-1 T細胞で処理した後の示された日数でのB16-mhgp 100を有するマウスにおける腫瘍サイズ(mm
2)を示すグラフである。未処理のマウス(i)が対照として機能した。
【
図18】
図18A-18Bは、刺激なしで(No-Stim)(
図18A)、ビヒクル(Veh)(
図18A)、またはヒドロキシクエン酸カリウム(2-HC)(2.5または5mM)(
図18B)で培養したドナー1-3由来のヒトTILの代表的な蛍光活性化セルソーティング(FACS)データを提示する。腫瘍壊死因子(TNF)およびIL-2の発現について細胞を分析した。象限の数字は、次の表現型を有する細胞の数を表す:IL-2+/TNF+(右上の象限)、IL-2-/TNF-(左下の象限)、IL-2+/TNF-(左上の象限)、およびIL-2-/TNF+(右下の象限)。
【
図19】
図19A-19Bは、刺激なしで(No-Stim)(
図19A)、ビヒクル(Veh)(
図19A)、またはヒドロキシクエン酸カリウム(2-HC)(2.5または5mM)(
図19B)で培養したドナー1-3由来のヒトTILの代表的なFACSデータを提示する。TNFおよびIL-2の発現について細胞を分析した。象限の数字は、次の表現型を有する細胞の数を表す:IL-2+/TNF+(右上の象限)、IL-2-/TNF-(左下の象限)、IL-2+/TNF-(左上の象限)、およびIL-2-/TNF+(右下の象限)。
【
図20】
図20は、対照TILと比較して、ヒドロキシクエン酸培養TILの、TIL増殖中のリンパ系ホーミングマーカーCD62Lの比較的高い発現を示す、ヒトTILの代表的なFACSデータを提示する。
【
図21】
図21は、陰性対照またはヒドロキシクエン酸カリウムで処理した後のCD62Lを発現する細胞の割合(最大値の%)を示すグラフである。
【
図22】
図22Aと22Bは、CD45RO
+CD62L
+ について
図21に示したデータの定量化を示す。陰性対照とヒドロキシクエン酸カリウムのバーは、患者Aについて
図22A、患者Bについて
図22Bに示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で培養されたT細胞が、1つ以上の様々な利点を提供し得ることが見出された。これらの利点には、例えば、対照T細胞と比較して、より大きな持続性、より大きな抗腫瘍活性、アポトーシスの減少、および分化の減少のいずれか1以上が含まれ、ここで、対照T細胞がヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で培養されないことを除いて、対照T細胞はヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で培養されたT細胞と同一である。
【0010】
本発明の一実施形態では、単離T細胞集団を産生する方法を提供する。本方法は、ヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で、単離T細胞をインビトロで培養することを含み得る。ヒドロキシクエン酸塩は、例えば、ヒドロキシクエン酸カリウムまたはヒドロキシクエン酸ナトリウムであり得る。好ましい実施形態では、ヒドロキシクエン酸塩はヒドロキシクエン酸カリウムである。T細胞を培養することは、ヒドロキシクエン酸および/またはその塩を含む任意の細胞培養培地中でT細胞を培養することを含み得る。本発明の方法において有用であり得る細胞培養培地の例には、T細胞を培養するために典型的に使用されるものが含まれ、以下のものを含み得る。例えば、:Roswell Park Memorial Institute(RPMI)1640培地、AIM V培地(ThermoFisher Scientific、Waltham、MA)、またはそれらの組み合わせ(例えば、Aim V:RPMI(50:50)培地)。そのような市販の細胞培養培地(すなわち、「既製の」培地)は、ヒドロキシクエン酸およびヒドロキシクエン酸塩を欠いている場合がある。本方法は、本発明の方法で使用するために、ヒドロキシクエン酸とヒドロキシクエン酸塩(複数可)を欠く細胞培養培地に、ヒドロキシクエン酸および/またはヒドロキシクエン酸塩(複数可)を添加することを含み得る。ヒドロキシクエン酸およびヒドロキシクエン酸塩を欠く細胞培養培地は、本明細書において「対照細胞培養培地(control cell culture medium)」または「対照細胞培養培地(control cell culture media)」と呼ばれる。
【0011】
本発明の一実施形態では、本方法は、約1.0mMから約10.0mMのヒドロキシクエン酸塩の存在下でT細胞を培養することを含む。例えば、T細胞は、約1.0mM、約1.5mM、約2.0mM、約2.5mM、約3.0mM、約3.5mM、約4.0mM、約4.5mM、約5.0mM、約5.5mM、約6.0mM、約6.5mM、約7.0mM、約7.5mM、約8.0mM、約8.5mM、約9.0mM、約9.5mM、約10.0mM、または、上記の端点のいずれか2つによって制限されるいずれの濃度の存在下で培養してもよい。好ましい実施形態では、本方法は、約2.0mMから約6.0mMのヒドロキシクエン酸塩の存在下でT細胞を培養することを含む。
【0012】
本発明の一実施形態では、本方法は、約1.0mMから約10.0mMのヒドロキシクエン酸の存在下でT細胞を培養することを含む。例えば、T細胞は、約1.0mM、約1.5mM、約2.0mM、約2.5mM、約3.0mM、約3.5mM、約4.0mM、約4.5mM、約5.0mM、約5.5mM、約6.0mM、約6.5mM、約7.0mM、約7.5mM、約8.0mM、約8.5mM、約9.0mM、約9.5mM、約10.0mM、または、上記の端点のいずれか2つによって制限されるいずれの濃度の存在下で培養してもよい。好ましい実施形態では、本方法は、約2.0mMから約6.0mMのヒドロキシクエン酸の存在下でT細胞を培養することを含む。
【0013】
T細胞は、ヒドロキシクエン酸および/またはその塩(すなわち、ナトリウム塩またはカリウム塩)の存在下で培養することができる。ヒドロキシクエン酸塩は、一塩基性塩、二塩基性塩、または三塩基性塩として存在することができる。例えば、ヒドロキシクエン酸塩は、ヒドロキシクエン酸一カリウム塩、ヒドロキシクエン酸二カリウム塩、ヒドロキシクエン酸三カリウム塩、ヒドロキシクエン酸一ナトリウム塩、ヒドロキシクエン酸二ナトリウム塩、またはヒドロキシクエン酸三ナトリウム塩であり得る。特定の実施形態において、ヒドロキシクエン酸塩は、その水和物である。
【0014】
細胞培養培地は、様々な添加物のいずれかをさらに含んでもよい。例えば、細胞培養培地は、1つ以上の抗体および/または1つ以上のサイトカインをさらに含み得る。
【0015】
本方法は、当技術分野で知られている任意の適切な方法によって哺乳動物から細胞を単離することをさらに含み得る。例えば、採血または白血球アフェレーシス(leukapheresis)によって、細胞を哺乳動物から取得することができる。本発明の一実施形態では、細胞は、末梢血単核細胞(PBMC)を含む。好ましくは、細胞はT細胞を含む。その際、本方法は哺乳動物からT細胞を単離することをさらに含む。代替的または追加的に、T細胞は、哺乳動物から採取された腫瘍サンプルから得ることができる。その際、T細胞は腫瘍浸潤リンパ球(TIL)であってもよい。
【0016】
T細胞集団は、任意のタイプのT細胞を含み得る。例えば、T細胞は、培養T細胞、例えば、初代T細胞、または培養T細胞株、例えば、ジャーカット(Jurkat)、SupT1などからのT細胞、または哺乳動物から得られたT細胞であってもよい。 哺乳動物から取得する場合、T細胞は、血液、骨髄、リンパ節、胸腺、腫瘍、または他の組織もしくは体液を含むがこれらに限定されない多くの供給源から得ることができる。T細胞は濃縮または精製してもよい。T細胞は、ヒトT細胞であってもよい。T細胞は、任意のタイプのT細胞であり、CD4+/CD8+ 二重陽性T細胞、CD4+ T細胞、例えば、Th1およびTh2細胞、CD8+ T細胞(例えば、細胞傷害性T細胞)、Th9細胞、TIL、メモリーT細胞、ナイーブT細胞などを含むがこれらに限定されない任意の発達段階のものであり得る。T細胞は、CD8+ T細胞またはCD4+ T細胞であってもよい。好ましい実施形態では、T細胞はTILである。
【0017】
本明細書で使用される場合、特に明記しない限り、「哺乳動物」という用語は、ウサギなどのウサギ目の哺乳動物;ネコ科(ネコ)とイヌ科(イヌ)を含む食肉目;ウシ科(ウシ)とイノシシ科(ブタ)を含む偶蹄目;またはウマ科(ウマ)を含む奇蹄目を含むが、これらに限定されない任意の哺乳動物を指す。哺乳動物は、たとえば、霊長目(Primates)、セボイド目(Ceboids)、シモイド目(Simoids)(サル)または類人猿目(Anthropoids)(ヒトおよび類人猿)の非ヒト霊長類であることが好ましい。いくつかの実施形態では、哺乳動物は、マウスおよびハムスターなどの齧歯目の哺乳動物であってもよい。他の実施形態では、哺乳動物はマウスではない。好ましくは、哺乳動物は、非ヒト霊長類またはヒトである。特に好ましい哺乳動物はヒトである。
【0018】
本発明の一実施形態では、本方法は、(a)ヒドロキシクエン酸および/またはその塩、ならびに(b)例えば、インターロイキン-2(IL-2)、インターロイキン-7(IL-7)、インターロイキン-15(IL-15)、インターロイキン-12(IL-12)のようなサイトカイン、または前述のサイトカインの2つ以上の組み合わせの存在下で細胞を培養することを含む。
【0019】
本発明の一実施形態では、T細胞は、がん抗原に対して抗原特異性を有する。本明細書で使用する場合、「がん抗原」という用語は、抗原が腫瘍またはがんに関連するような、腫瘍細胞またはがん細胞によってもっぱらまたは主に発現または過剰発現される任意の分子(例えば、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、脂質、炭水化物など)を指す。がん抗原はさらに、正常細胞、非腫瘍細胞、または非がん細胞によって発現され得る。しかしながら、そのような場合、正常、非腫瘍、または非がん性細胞によるがん抗原の発現は、腫瘍またはがん細胞による発現ほど頑強ではない。その際、腫瘍またはがん細胞は、正常、非腫瘍、または非がん性細胞による抗原の発現と比較して、抗原を過剰発現するか、または著しく高いレベルで抗原を発現することができる。また、がん抗原は、さらに異なる発達または成熟状態の細胞によって発現され得る。例えば、がん抗原は、さらに胚期または胎児期の細胞によって発現され得るが、これらの細胞は、通常、成体宿主には見られない。あるいは、がん抗原は、さらに幹細胞または前駆細胞によって発現され得るが、これらの細胞は、通常、成体宿主には見られない。
【0020】
がん抗原は、本明細書に記載のがんおよび腫瘍を含む、任意のがんまたは腫瘍の任意の細胞によって発現される抗原であり得る。がん抗原は、1つのタイプのがんまたは腫瘍のみのがん抗原であってもよく、その結果、がん抗原は、1つのタイプのがんまたは腫瘍のみに関連するか、またはそれに特徴的である。あるいは、がん抗原は、1超のタイプのがんまたは腫瘍の(例えば、特徴的であり得る)がん抗原であってもよい。例えば、がん抗原は、乳がん細胞と前立腺がん細胞の両方によって発現されてもよく、正常、非腫瘍、または非がん細胞によって全く発現されなくてもよい。がん抗原は当技術分野で知られており、例えば、CXorf61、メソセリン、CD19、CD22、CD276(B7H3)、gp100、MART-1、上皮成長因子受容体変異体III(EGFRVIII)、TRP-1、TRP-2、チロシナーゼ、NY-ESO-1(CAG-3としても知られている)、MAGE-1、MAGE-3などを含む。
【0021】
がんは、急性リンパ球性がん、急性骨髄性白血病、肺胞横紋筋肉腫、骨がん、脳がん、乳がん、肛門、肛門管または肛門直腸のがん、眼のがん、肝内胆管のがん、関節のがん、首、胆嚢、または胸膜のがん、鼻、鼻腔、または中耳のがん、口腔のがん、外陰部のがん、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性がん、胆管がん、結腸がん、食道がん、子宮頸がん、胃腸カルチノイド腫瘍、ホジキンリンパ腫、下咽頭がん、腎臓がん、喉頭がん、肝臓がん、肺がん、悪性中皮腫、黒色腫、多発性骨髄腫、鼻咽頭がん、非ホジキンリンパ腫、卵巣がん、膵臓がん、腹膜、大網、および腸間膜のがん、咽頭がん、前立腺がん、直腸がん、腎がん(例えば、腎細胞がん(RCC))、小腸がん、軟部組織がん、胃がん、精巣がん、甲状腺がん、尿管がん、ならびに膀胱がんのいずれかを含む任意のがんであってよい。特定の好ましい実施形態において、抗原特異的受容体は、黒色腫抗原に対して特異性を有する。特定の好ましい実施形態において、抗原特異的受容体は、乳がん抗原に対して特異性を有する。
【0022】
本発明の一実施形態では、がん抗原はがん新生抗原である。がん新生抗原は、がん特異的変異によってコードされる免疫原性変異アミノ酸配列である。がん新生抗原は、正常な非がん性の細胞では発現せず、患者に固有であってもよい。がん新生抗原に対して抗原特異性を有するT細胞を用いたACTは、患者に「個別化された」療法を提供する可能性がある。
【0023】
したがって、本発明の一実施形態では、本方法は、がん新生抗原に対する抗原特異性を有するT細胞について、哺乳動物から得られたT細胞をスクリーニングすることによって、単離T細胞を得ることをさらに含み得る。スクリーニングは、ヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下または非存在下で実施してもよい。本方法は、哺乳動物から得られた細胞から、がん新生抗原に対して抗原特異性を有するT細胞を単離することをさらに含み得る。T細胞の単離は、ヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下または非存在下で実施してもよい。次に、このようにして得られたT細胞は、本発明の他の態様に関して本明細書に記載されるように、ヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で培養してもよい。がん新生抗原に対して抗原特異性を有するT細胞をスクリーニングおよび単離する方法は、例えば、米国特許出願公開番号第2017/0218042号および第2017/0224800号およびTran et al., Science, 344(9): 641-645 (2014)に記載されている。
【0024】
T細胞は、抗原特異的受容体を含み、発現し得る。本明細書で使用される場合、「抗原特異的」および「抗原特異性」というフレーズは、抗原特異的受容体が抗原またはそのエピトープに特異的に結合し、免疫学的に認識できて、抗原またはそのエピトープへの抗原特異的受容体の結合が免疫応答を誘発することを意味する。好ましくは、抗原特異的受容体は、がん抗原(腫瘍抗原または腫瘍関連抗原とも呼ばれる)に対して抗原特異性を有する。
【0025】
本発明の一実施形態では、抗原特異的受容体は、T細胞受容体(TCR)である。TCRは、一般に、TCRのα鎖、TCRのβ鎖、TCRのγ鎖、TCRのδ鎖、またはそれらの組み合わせなどの、2つのポリペプチド(すなわち、ポリペプチド鎖)を含む。TCRのそのようなポリペプチド鎖は当技術分野で知られている。TCRががん抗原またはそのエピトープなどの抗原に特異的に結合し、免疫学的に認識できるという条件で、抗原特異的TCRは任意のアミノ酸配列を含むことができる。
【0026】
T細胞は、内因性TCR、すなわち、内因性のまたはT細胞に固有の(天然に存在する)TCRを含み、発現し得る。このような場合、内因性TCRを含むT細胞は、特定のがん抗原を発現することが知られている哺乳動物から単離されたT細胞であり得る。特定の実施形態において、T細胞は、がんに罹患している哺乳動物から単離された初代T細胞である。いくつかの実施形態では、細胞は、ヒトがん患者から単離されたTILまたはT細胞である。
【0027】
いくつかの実施形態において、細胞が単離される哺乳動物は、がんの抗原またはがんに特異的な抗原で免疫される。哺乳動物から細胞を取得する前に、哺乳動物を免疫してもよい。このようにして、単離された細胞は、治療されるがんに特異性を有するように誘導されたT細胞を含むことができ、またはがんに特異的な細胞を、より高い割合で含み得る。
【0028】
あるいは、内因性抗原特異的TCRを含み、発現するT細胞は、哺乳動物から単離された細胞の混合集団内のT細胞であり得、この混合集団を、内因性TCRによって認識される抗原に、インビトロで培養しながら曝露してもよい。このように、がん抗原を認識するTCRを含むT細胞は、インビトロで増殖または繁殖し、それにより、内因性抗原特異的TCRを有するT細胞の数を増加させる。
【0029】
内因性抗原特異的TCRを含む細胞はまた、外因性の(例えば、組換えの)抗原特異的受容体をコードする1つ以上の核酸を発現するように改変され得る。そのような外因性抗原特異的受容体、例えば、外因性TCRおよびキメラ抗原受容体(CAR)(以下により詳細に記載される)は、内因性TCRが自然に特異的である抗原を超えて、T細胞に追加の抗原に対する特異性を与えることができる。これは、二重の抗原特異性を有するT細胞の産生をもたらすことができるが、必ずそうなるわけではない。
【0030】
本発明の一実施形態では、本方法は、細胞が外因性TCRを発現する条件下で、外因性TCRをコードする核酸を細胞に導入することをさらに含む。「外因性」とは、TCRが細胞に固有(天然に存在する)ではないことを意味する。外因性TCRは組換えTCRであってもよい。組換えTCRは、1以上の外因性TCR α-、β-、γ-、および/またはδ-鎖をコードする遺伝子の組換え発現によって生成されたTCRである。組換えTCRは、もっぱら単一の哺乳動物種に由来するポリペプチド鎖を含むことができ、または抗原特異的TCRは、2つの異なる哺乳動物種に由来するTCRに由来するアミノ酸配列を含むキメラまたはハイブリッドTCRであり得る。例えば、外因性抗原特異的TCRは、TCRが「マウス化する」ように、ヒトTCRに由来する可変領域とマウスTCRの定常領域を含むことができる。組換えTCRおよびそれらを作製する方法は当技術分野で知られている。例えば、米国特許第7,820,174号; 第7,915,036号; 第8,088,379号; 第8,216,565号; 第8,785,601号; 第9,345,748号; 第9,487,573号; 第9,879,065号; 第9,822,162号;米国特許出願公開番号第2014/0378389号および第2017/0145070号を参照されたい。
【0031】
本発明の一実施形態では、本方法は、細胞がCARを発現する条件下で、CARをコードする核酸を細胞に導入することをさらに含む。典型的には、CARは、抗体の抗原結合ドメイン、例えば、TCRの膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインに融合した一本鎖可変フラグメント(scFv)を含む。したがって、CARの抗原特異性は、抗原またはそのエピトープに特異的に結合するscFvによってコードされ得る。CAR、およびそれらを作製する方法は、当技術分野で知られている。例えば、米国特許第8,465,743号; 第9,266,960号; 第9,868,774号; 第9,765,342号; 第9,359,447号; 第9,790,282号; ならびに米国特許出願公開番号第2015/0299317号および第2016/0333422号を参照されたい。
【0032】
抗原特異的受容体をコードする任意の適切な核酸を使用することができる。核酸によってコードされる抗原特異的受容体は、例えば、一本鎖TCR、一本鎖CAR、または他のタンパク質もしくはポリペプチドとの融合体(例えば、共刺激分子に限定しない)を含む任意の適切な形のものであり得る。抗原特異的受容体をコードする核酸の細胞への導入は、対照細胞培養培地で実施し得るが、好ましい実施形態では、抗原特異的受容体をコードする核酸の細胞への導入は、ヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で実施される。
【0033】
核酸を、例えば、トランスフェクション、形質導入、またはエレクトロポレーションなどの任意の適切な方法を使用して細胞に導入してもよい。例えば、細胞は、ウイルス(例えば、レトロウイルスまたはレンチウイルス)を使用してウイルスベクターで形質導入することができ、細胞は、エレクトロポレーションを使用してトランスポゾンベクターで形質導入することができる。
【0034】
本明細書で使用される場合、「核酸」および「ポリヌクレオチド」という用語は、リボヌクレオチド(RNA)またはデオキシリボヌクレオチド(DNA)のいずれかの任意の長さのヌクレオチドのポリマー形態を指す。これらの用語は分子の一次構造を指し、したがって、二本鎖および一本鎖DNA、二本鎖および一本鎖RNA、および二本鎖DNA-RNAハイブリッドを含む。これらの用語は、均等物として、ヌクレオチド類似体および改変ポリヌクレオチド、例えば、これらに限定されないが、メチル化および/またはキャップされたポリヌクレオチドから作製されたRNAまたはDNAのいずれかの類似体を含む。本発明の一実施形態では、核酸は相補的DNA(cDNA)である。
【0035】
本明細書で使用される場合、「ヌクレオチド」という用語は、複素環塩基、糖、および1以上のリン酸基からなるポリヌクレオチドの単量体サブユニットを指す。天然に存在する塩基(グアニン(G)、アデニン(A)、シトシン(C)、チミン(T)、およびウラシル(U))は、典型的にはプリンまたはピリミジンの誘導体であるが、本発明は天然および非天然に存在する塩基類似体の使用を含む。天然に存在する糖は、ペントース(5炭糖)デオキシリボース(DNAを形成する)またはリボース(RNAを形成する)であるが、本発明は、天然および非天然に存在する糖類似体の使用を含む。核酸は通常、リン酸結合を介して連結して、核酸またはポリヌクレオチドを形成するが、他の多くの結合が当技術分野で知られている(例えば、ホスホロチオエート、ボラノホスフェートなど)。ポリヌクレオチドを調製する方法は、当該技術分野における通常の技術の範囲内である(Green and Sambrook, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, (4th Ed.) Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York (2012))。
【0036】
本明細書に記載の核酸は、組換え発現ベクターに組み込むことができる。本明細書の目的のために、「組換え発現ベクター」という用語は、宿主細胞によるmRNA、タンパク質、ポリペプチド、またはペプチドの発現を可能にする遺伝子改変オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドコンストラクトを意味し、コンストラクトはmRNA、タンパク質、ポリペプチド、またはペプチドをコードするヌクレオチド配列を含み、ベクターは、mRNA、タンパク質、ポリペプチド、またはペプチドを細胞内で発現させるのに十分な条件下で細胞と接触する。ベクターは、全体として天然に存在するものではなくてもよい。ただし、ベクターの一部は天然に存在し得る。組換え発現ベクターは、一本鎖または二本鎖であり、合成され、または部分的に天然源から得られることができ、そして天然、非天然、または改変されたヌクレオチドを含み得る、DNAおよびRNAを含むがこれらに限定されない任意のタイプのヌクレオチドを含み得る。組換え発現ベクターは、天然に存在するもしくは天然に存在しないヌクレオチド間結合、または両方のタイプの結合を含み得る。好ましくは、天然に存在しないまたは改変されたヌクレオチドまたはヌクレオチド間結合は、ベクターの転写または複製を妨げない。本発明の方法において有用であり得る組換え発現ベクターの例には、プラスミド、ウイルスベクター(レトロウイルスベクター、ガンマレトロウイルスベクター、またはレンチウイルスベクター)、およびトランスポゾンが含まれるが、これらに限定されない。次に、ベクターを、例えば、Green and Sambrook, Molecular Cloning: A Laboratory Manual (4th Ed.), Cold Spring Harbor Laboratory Press (2012) に記載されているように、例えば、遺伝子編集、トランスフェクション、形質転換、または形質導入などの任意の適切な技術によって細胞に導入してもよい。多くのトランスフェクション技術が当技術分野で知られており、例えば、リン酸カルシウムDNA共沈;DEAE-デキストラン;エレクトロポレーション;カチオン性リポソームを介したトランスフェクション;タングステン粒子促進微粒子衝撃;およびリン酸ストロンチウムDNA共沈を含む。ファージまたはウイルスベクターは、適切なパッケージング細胞で感染性粒子を増殖させた後、宿主細胞に導入することができ、その多くは市販されている。
【0037】
ヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で、細胞をインビトロで断続的に培養してもよく、本発明の好ましい実施形態では、細胞数の増加中、および抗原特異的T細胞受容体またはキメラ抗原受容体をコードする核酸の細胞への任意の導入中を含む、インビトロ培養の全期間にわたって、ヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で細胞を培養する。
【0038】
本発明の一実施形態では、本方法は、(i)ヒドロキシクエン酸および/またはその塩、ならびに(ii)一方または両方の(a)1以上のサイトカインおよび(b)1以上の非特異的T細胞刺激の存在下で、細胞数を増加させることをさらに含む。非特異的T細胞刺激の例には、放射線照射同種異系フィーダー細胞、放射線照射自家フィーダー細胞、抗CD3抗体(例えば、OKT3抗体)、抗4-1BB抗体、および抗CD28抗体の1つ以上が含まれるが、これらに限定されない。好ましい実施形態では、非特異的T細胞刺激は、ビーズに結合した抗CD3抗体および抗CD28抗体であってもよい。本発明の方法では、任意の1以上のサイトカインを使用してもよい。細胞数を増やすのに有用である可能性のある例示的なサイトカインには、インターロイキン(IL)-2、IL-7、IL-21、およびIL-15が含まれる。
【0039】
細胞数の増加は、例えば、米国特許第8,034,334号;米国特許第8,383,099号;および米国特許出願公開番号第2012/0244133号に記載されているように、当技術分野で知られているいくつかの方法のいずれかによって達成し得る。本発明の一実施形態では、ヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で、1以上の非特異的T細胞刺激および1以上のサイトカインと細胞を物理的に接触させることによって、細胞数が増加する。例えば、細胞数の増加は、ヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で、OKT3抗体、IL-2、およびフィーダーPBMC(例えば、放射線照射同種異系PBMC)と共に細胞を培養することによって、実施され得る。本発明の一実施形態では、ヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で細胞数を増加させることは、ヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で少なくとも約14日間細胞を培養することを含む。
【0040】
本発明の一実施形態では、本方法は、ヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下でT細胞を非特異的に刺激することを含む。非特異的刺激は、本発明の他の態様に関して本明細書に記載の非特異的T細胞刺激のいずれか1以上とT細胞を接触させることによって実施してもよい。
【0041】
本発明の一実施形態では、本方法は、ヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下でT細胞を特異的に刺激することを含む。特異的刺激は、T細胞が抗原特異性を有するがん抗原と、T細胞を接触させることによって実施してもよい。例えば、がん抗原を発現する抗原提示細胞(APC)、例えば、(i)がん抗原でパルスしたAPC、または(ii)がん抗原をコードするヌクレオチド配列を導入したAPCと、T細胞を共培養してもよい。
【0042】
本発明の一実施形態は、本明細書に記載の本発明の方法のいずれかによって産生したT細胞の単離または精製集団をさらに提供する。本発明の方法によって産生したT細胞集団は、多くの利点を提供し得る。例えば、ヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で培養したT細胞を哺乳動物に投与することは、対照細胞を投与することに比べて、より大きな持続性、より大きな抗腫瘍活性、アポトーシスの減少、および分化の減少のいずれか1つ以上を提供し得、ここで、対照細胞をヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で培養しないことを除いて、対照細胞はヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で培養した細胞と同一である。
【0043】
本発明の一実施形態では、ヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下でT細胞を培養すると、対照細胞に比べて、T細胞によるCD62L、IL-2、および腫瘍壊死因子(TNF)の1以上の発現が増加し、ここで、対照細胞をヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で培養しないことを除いて、対照細胞はヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で培養した細胞と同一である。
【0044】
本発明の一実施形態では、ヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で培養した細胞は、対照細胞に比べて、分化がより減少し得、ここで、対照細胞をヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で培養しないことを除いて、対照細胞はヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で培養した細胞と同一である。本発明の方法に従って産生したヒドロキシクエン酸および/またはその塩で培養したT細胞の、分化の程度が低い集団は、好都合にも、最終の分化表現型を有するT細胞の産生を低減または回避し得、抗腫瘍活性の減少およびインビボにおける長期持続性能力の欠乏に関連する。
【0045】
本発明の一実施形態では、ヒドロキシクエン酸および/またはその塩で培養したT細胞は、ナイーブT細胞(TN)、Tメモリー幹細胞(TSCM)、またはセントラルメモリーT細胞(TCM)表現型を有する。代替的にまたは追加的に、ヒドロキシクエン酸、および/またはその塩で培養したT細胞は、エフェクターメモリーT細胞(TEM)表現型を欠いている。たとえば、CCR7とCD62Lは、TN、TSCM、およびTCM細胞において発現するが、TEM細胞には発現しない。転写因子LEF1、FOXP1、およびKLF7は、TN、TSCM、およびTCM細胞において発現するが、TEM細胞には発現しない。CD45ROとKLRG1は、TNまたはTSCM細胞では発現しないが、TEM細胞では発現する。Gattinoni et al., Nat. Rev. Cancer, 12: 671-84 (2012)。本発明の一実施形態では、ヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で培養したT細胞は、CD62L+、KLRG1-、LEF1+、FOXP1+、およびKLF7+、CCR7+、CD57+、およびCD45RO-のいずれか1以上であってもよい。T細胞はCD62L+であってもよい。代替的にまたは追加的に、T細胞はCD8+であってもよい。特に好ましい実施形態において、ヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で培養したT細胞は、CD62L+とCD8+の両方である、分化の程度が低いT細胞であってもよい。
【0046】
本発明の一実施形態では、本発明の方法に従って産生したT細胞は、TN、TSCM、またはTCM表現型に関連する遺伝子の発現が増加している。例えば、本発明の方法に従ってヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で培養したT細胞は、対照T細胞に比べて、CD27および/またはCD28の発現が高くてもよく、ここで、対照T細胞をヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で培養しないことを除いて、対照T細胞はヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で培養したT細胞と同一である。特定の理論やメカニズムに縛られることなく、CD27とCD28は、増殖、インビボ持続性、およびT細胞の分化の程度が低い状態に関連していると考えられている(T細胞の分化の増加は、インビボで機能するT細胞の能力に悪影響を与えると考えられている)。より高レベルのCD27を発現するT細胞は、CD27が低い細胞よりも優れた抗腫瘍活性を有すると考えられている。
【0047】
本明細書で使用される場合、「単離」という用語は、その自然環境から取り出されていることを意味する。本明細書で使用される場合、「精製」という用語は、純度が増加していることを意味し、ここで「純度」は相対的な用語であり、必ずしも絶対的な純度として解釈されない。例えば、純度は、少なくとも約50%であり得、約60%、約70%もしくは約80%、約90%超であり得、または約100%であり得る。
【0048】
本発明の方法に従ってヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で細胞を培養することによって産生する細胞集団は、少なくとも1つの他の細胞、例えば、T細胞以外の細胞、例えば、B細胞、マクロファージ、好中球、赤血球、肝細胞、内皮細胞、上皮細胞、筋肉細胞、脳細胞などに加えて、本明細書に記載の細胞を含む不均一な集団であり得る。あるいは、本発明の方法によって生成した細胞集団は、実質的に均質な集団であり得、ここで、集団は主に細胞、例えば、本明細書に記載のT細胞を含む。集団はまた、細胞のクローン集団であり得、集団のすべての細胞は、単一の細胞、例えば、T細胞のクローンである。本発明の一実施形態では、細胞集団は、細胞、例えば、本明細書に記載の抗原特異的受容体をコードする組換え発現ベクターを含むT細胞を含むクローン集団である。
【0049】
本発明の方法に従って生成した、本発明の単離または精製細胞集団は、医薬組成物などの組成物に含まれてもよい。その際、本発明の実施形態は、本明細書に記載の単離または精製細胞集団および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
【0050】
好ましくは、担体は、薬学的に許容される担体である。医薬組成物に関して、担体は、細胞の投与に従来使用されているもののいずれかであり得る。そのような薬学的に許容される担体は、当業者に周知であり、公に容易に入手可能である。薬学的に許容される担体は、使用条件下で有害な副作用または毒性を有さないものであることが好ましい。
【0051】
担体の選択は、細胞集団を投与するために使用される特定の方法によって部分的に決定されるであろう。したがって、本発明の医薬組成物には様々な適切な製剤が存在する。適切な製剤には、非経口、皮下、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、腫瘍内、または腹腔内投与用のもののいずれかを含んでもよい。細胞集団を投与するために1超の経路を使用することができ、特定の例では、特定の経路が別の経路よりもより迅速かつより効果的な応答を提供し得る。
【0052】
好ましくは、細胞集団を、注射によって、例えば、静脈内に投与する。注射用の細胞に適した薬学的に許容される担体は、たとえば、通常の生理食塩水(水中約0.90%w/vのNaCl、水中約300 mOsm/L NaCl、または水1リットルあたり約9.0g NaCl)、NORMOSOL R電解質溶液(Abbott, Chicago, IL)、PLASMA -LYTE A(Baxter, Deerfield, IL)、水中約5%デキストロース、またはリンガーの乳酸などの、任意の等張性担体を含んでもよい。一実施形態では、薬学的に許容される担体には、ヒト血清アルブミンが補充される。
【0053】
本発明の一実施形態は、T細胞を哺乳動物に投与する方法を提供し、本方法は、ヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で、インビトロで単離T細胞を培養すること(ここで、塩はヒドロキシクエン酸カリウムまたはヒドロキシクエン酸ナトリウムである)、および、ヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で細胞を培養した後、T細胞を哺乳動物に投与することを含む。ヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下でのT細胞の培養は、本発明の他の態様に関して本明細書に記載されるように実施してもよい。ヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で、単離細胞集団をエクスビボで培養し、次いで、がんに冒された哺乳動物(好ましくはヒト)に直接移入することができる。このような細胞移入法は、当技術分野では「養子細胞移入」または「養子細胞療法」(ACT)と呼ばれる。本発明の一実施形態では、ヒドロキシクエン酸および/またはその塩を、細胞を哺乳動物に投与する前に細胞から除去する(例えば、洗浄する)。本発明の別の実施形態では、ヒドロキシクエン酸および/またはその塩を、細胞を哺乳動物に投与する前に細胞から除去しない。本発明の一実施形態では、本方法は、T細胞を含む医薬組成物を哺乳動物に投与することを含み、ここで、医薬組成物は、本発明の他の態様に関して本明細書に記載されている通りである。
【0054】
哺乳動物に投与するT細胞は、哺乳動物に対して同種異系または自家であり得る。「自家」投与方法では、細胞を哺乳動物から取り出し、保存し(そして任意選択で改変し)、そして同じ哺乳動物に戻す。「同種異系」投与方法では、哺乳動物は、遺伝的に類似しているが同一ではないドナーから細胞を受け取る。好ましくは、T細胞は哺乳動物に対して自家である。自家細胞は、好都合なことに、例えば、移植片対宿主病などの同種異系細胞を標的とし得る望ましくない免疫応答を、低減または回避し得る。
【0055】
T細胞(複数可)が哺乳動物に対して自家である場合、哺乳動物から細胞(複数可)を単離する前に、哺乳動物は免疫学的にナイーブ、免疫、罹患、または別の状態であり得る。場合によっては、哺乳動物からT細胞(複数可)を単離する前に、がんの抗原で哺乳動物を免疫し、細胞(複数可)に核酸を導入し、そしてT細胞(複数可)またはその組成物を投与することを、本方法が含むことが好ましい。本明細書で論じられるように、がんの抗原による哺乳動物の免疫は、がん抗原と反応する内因性TCRを有するT細胞集団の数を増加させることを可能にし、これによって、ヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下で培養するために得られたT細胞が、所望の抗原特異的TCRを有する可能性が高まるであろう。
【0056】
本発明の実施形態によれば、がんを有する哺乳動物を、ワクチンを介した免疫を含む、そのがんからの、またはそのがんに関連する抗原で治療的に免疫化し得る。いかなる特定の理論またはメカニズムにも拘束されることを望まないが、がん性組織に存在するがん抗原に対する哺乳動物の免疫応答を増強するために、ワクチンまたは免疫原が提供される。そのような治療的免疫化には、組換えまたは天然のがんタンパク質、ペプチド、またはそれらの類似体、または改変されたがんペプチド、または養子免疫療法の一部として治療的にワクチンとして使用できるそれらの類似体の使用が含まれるが、これらに限定されない。ワクチンまたは免疫原は、細胞、(例えば、組換え発現ベクターでトランスフェクトした細胞由来の)細胞溶解物、組換え発現ベクター、または抗原性タンパク質もしくはポリペプチドであり得る。あるいは、ワクチンまたは免疫原は、部分的または実質的に精製した組換えがんタンパク質、ポリペプチド、ペプチドもしくはそれらの類似体、または改変タンパク質、ポリペプチド、ペプチドもしくはそれらの類似体であり得る。タンパク質、ポリペプチド、またはペプチドは、リポタンパク質と結合させるか、またはリポソームの形でもしくはアジュバントとともに投与してもよい。好ましくは、ワクチンは、(i)抗原特異的受容体が抗原特異性を有するがん抗原、(ii)抗原のエピトープ、および(iii)抗原またはエピトープをコードするベクターのうちの1以上を含む。
【0057】
本発明の目的のために、用量、例えば、投与する細胞の数は、合理的な時間枠にわたって哺乳動物において、例えば、治療的または予防的応答をもたらすのに十分でなければならない。例えば、投与される細胞の数は、がん抗原に結合するか、又は投与時から、約2時間以上、例えば、12~24時間以上からの期間で、がんを治療若しくは予防するために十分であるべきである。特定の実施形態では、期間はさらに長くなる可能性がある。投与する細胞の数は、治療する動物(例えば、ヒト)の体重はもちろん、例えば、投与する細胞の特定の集団の有効性および動物(例えば、ヒト)の状態によって決定されるであろう。
【0058】
投与した細胞数を決定するための多くのアッセイが当技術分野で知られている。本発明の目的のために、細胞、例えば、T細胞の種々の数がそれぞれ与えられる1組の哺乳動物間で、哺乳動物にかかる細胞のある特定の数が投与される際に、標的細胞が溶解され又は例えばIFN-γおよびIL-2などの1以上のサイトカインが分泌される程度を比較することを含むアッセイが、哺乳動物に投与する開始数を決定するために用いられ得る。標的細胞が溶解する程度、または例えばIFN-γおよびIL-2などのサイトカインが特定の数の投与時に分泌する程度は、当技術分野で知られている方法によってアッセイし得る。例えば、IL-2などのサイトカインの分泌はまた、T細胞調製物の品質(例えば、表現型および/または有効性)の指標を提供してもよい。
【0059】
投与する細胞の数はまた、特定の細胞集団の投与に伴う可能性のあるあらゆる有害な副作用の存在、性質および程度によって決定されるであろう。通常、主治医は、年齢、体重、一般的な健康状態、食事、性別、投与経路、および治療される状態の重症度などのさまざまな要因を考慮して、個々の患者を治療するための細胞の数を決定するであろう。例として、本発明を限定することを意図しないが、投与する細胞、例えば、T細胞の数は、注入あたり約10×106から約10×1011細胞、注入あたり約10×109細胞から約10×1011、または注入あたり10×107から約10×109細胞であり得る。
【0060】
ヒドロキシクエン酸および/またはその塩の存在下でT細胞を培養することにより産生したT細胞集団は、哺乳動物のがんを治療または予防する方法で使用できることが企図される。その際、本発明の実施形態は、哺乳動物のがんを治療または予防する方法を提供し、哺乳類のがんを治療または予防するために効果的な量で、(i)本明細書に記載の方法のいずれかに従って哺乳動物に細胞を投与すること、(ii)本明細書に記載の方法のいずれかに従って産生した細胞を哺乳動物に投与すること、または(iii)本明細書に記載の細胞もしくは医薬組成物の単離集団のいずれかを哺乳動物に投与することを含む。
【0061】
本発明の一実施形態では、がんを治療または予防する方法は、哺乳動物における転移を低減するために有効な量の細胞または医薬組成物を哺乳動物に投与することを含んでもよい。例えば、本発明の方法は、哺乳動物の転移性結節を減少させてもよい。
【0062】
1以上の追加の治療薬を哺乳動物に同時投与し得る。「同時投与」とは、単離細胞集団が1以上の追加の治療薬の効果を増強できるように、またはその逆に、1以上の追加の治療薬および単離細胞集団を、時間的に十分に接近して投与することを意味する。その際、単離細胞集団を最初に投与し、1以上の追加の治療薬を次に投与することが可能であり、またはその逆も可能である。あるいは、単離細胞集団および1以上の追加の治療薬を同時に投与し得る。単離細胞集団の機能を増強し得る追加の治療薬には、例えば、1以上のサイトカインまたは1以上の抗体(例えば、PD-1機能を阻害する抗体)を含んでもよい。単離細胞集団と同時投与できる例示的な治療薬は、IL-2である。特定の理論またはメカニズムに拘束されるものではないが、IL-2は、細胞、例えばT細胞の単離集団の治療効果を増強し得ると考えられている。
【0063】
本発明の一実施形態は、単離細胞集団を投与する前に、リンパ球枯渇(lymphodepleting)を哺乳動物に行うことをさらに含む。リンパ球枯渇の例には、骨髄非破壊的リンパ球枯渇化学療法(nonmyeloablative lymphodepleting chemotherapy)、骨髄破壊的リンパ球枯渇化学療法(myeloablative lymphodepleting chemotherapy)、全身照射などが含まれるが、これらに限定されない場合がある。
【0064】
本明細書で使用される場合、「治療する」および「予防する」という用語、ならびにそれらに由来する単語は、必ずしも100%または完全な治療または予防を意味するものではない。むしろ、当業者が潜在的な効果または治療効果があると認識する治療または予防の程度はさまざまである。この点で、本発明の方法は、哺乳動物における、任意の量の任意のレベルのがんの治療又は予防を提供し得る。さらに、本発明の方法によって提供する治療または予防は、治療または予防する疾患、例えば、がんの1以上の状態または症状の治療または予防を含み得る。また、本明細書の目的のために、「予防」は、疾患の発症もしくは再発、またはその症状もしくは状態を遅らせることを包含し得る。
【0065】
本発明の方法に関して、がんは、本発明の他の態様に関して本明細書に記載のがんのいずれかを含む、任意のがんであり得る。
【0066】
以下の実施例は本発明をさらに説明するが、もちろん、決してその範囲を限定的に解釈してはならない。
【実施例】
【0067】
以下の材料および方法を、実施例1~9に記載の実験で使用した。
(研究の承認)
【0068】
動物実験は、国立がん研究所(NCI)および国立関節炎、骨格筋、皮膚疾患研究所(National Institute of Arthritis and Musculoskeletal and Skin Diseases)(NIAMS)の動物使用管理委員会の承認を得て実施した。
(T細胞のインビトロ活性化)
【0069】
Pmel-1マウス由来のCD8
+ T細胞を、1μMのhgp100
25-33ペプチドで5日間インビトロで刺激し、二次再刺激をプレート結合抗CD3(1μg/ml;BD Bioscience、Franklin Lakes、NJ)および可溶性抗CD28(1μg/ml;BD Bioscience)で実施し、60IUのIL-2を含む培養培地で増殖させた。上記の条件を合計10日間、対照/ヒドロキシクエン酸カリウムの条件で活性化した(
図7)。T細胞のエフェクター機能を測定するために、これらの細胞を、ブレフェルジンAおよびモネンシン(monesin)(BD Biosciences)の存在下で、IL-2を含まない抗CD3および-CD28で、示された条件で10日目に5時間刺激した。
(マウスおよび細胞株)
【0070】
6~8週齢のC57BL/6マウス(Charles River、Frederick、MDから入手)を、特に明記しない限り、養子移入のためのレシピエント宿主として使用した。Pmel-1 Ly5.1トランスジェニックマウスを養子細胞移入に使用した。Pmel-1 Ly5.1マウスを得るために、Pmel-1(B6.Cg-/Cy Tg [TcraTcrb] 8Rest/J)マウスをLy5.1マウス(B6.SJL-PtprcaPepcb/BoyJ)と交配した。すべてのマウスは特定病原体除去条件下で維持した。25-27位にヒト残基(EGS→KVP残基)を持つ糖タンパク質100(gp100)を発現するように、前述の通り形質導入したマウスメラノーマ細胞株である改変B16-mhgp100(H-2Db)を腫瘍モデルとして使用した。細胞株を、10%FBS、1%グルタミン、1%ペニシリン-ストレプトマイシンを含む完全培地DMEM(Gibco, Waltham, MA)で維持した。
細胞内サイトカイン染色、ホスホフローサイトメトリーおよびフローサイトメトリー
【0071】
すべてのフローサイトメトリー実験について、T細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で固定可能な生/死染色(Invitrogen、Waltham、MA)で染色し、続いてFACS緩衝液(0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)および0.1%アジ化ナトリウムを含むPBS)中で表面抗体染色を行った。細胞内サイトカイン染色では、細胞を最初に表面マーカーについて染色し、その後、固定および透過処理後に細胞内分子について染色した(BD CYTOFIX/CYTOPERM固定/透過処理溶液キット)。リン酸化染色には、BD PHOSFLOW試薬(BD Biosciences)を使用して製造業者のプロトコルに従ってプロトコルを実施した。洗浄後、Cell Signaling(Danvers、MA)から購入したリン酸化抗体で細胞を染色した。表面染色および細胞内サイトカイン染色用の抗体は、BD Biosciencesおよびe Biosciences(San Diego、CA)から購入した。すべての実験は、BD FORTESSAフローサイトメーター(Becton Dickinson、Downers Grove、IL)で実施し、FLOWJOソフトウェア(TreeStar、Ashland、OR)で分析した。
(養子細胞移入(ACT)と腫瘍免疫療法)
【0072】
免疫療法研究のために、C57BL/6マウスに、皮下黒色腫株B16-mhgp100 (5×105 細胞)を移植した。腫瘍移植の10日後、マウス(すべての群でn = 10)に致死量未満の照射(600 cGy)を行い、無作為化し、対照/ヒドロキシクエン酸カリウムで形質導入した5×105 Pmel-1 Ly5.1T細胞を静脈内注射した。T細胞移入後、マウスに、細胞移入の日から始めて3日間、PBS(0.5mlあたり18×104IU)中のIL-2の腹腔内注射を一日一回実施した。T細胞の移入と腫瘍の測定を暗号化し、盲検法で実施した。移入後2~3日ごとに腫瘍を測定し、腫瘍の長さ×幅によって腫瘍面積を計算した。400mm2超に達する腫瘍を有するマウスを安楽死させた。腫瘍の測定値は、ACT後の示された時間における平均±標準誤差(mean ± s.e.m)として提示した。移入後、ワクシニアrhgp100 の1×107プラーク形成単位(PFU)をマウスにワクチン接種した。CD62L表現型のためおよび絶対数の定量化のために、示された時点において顎下静脈穿刺によってマウスの血液を取得した。
(実験的転移)
【0073】
既定の肺腫瘍結節を治癒するため、またはさらなるコロニー形成を防止するために、養子移入されたT細胞の有効性を理解するために、-mhgp100を組換え発現するB16-F10黒色腫細胞を使用した。B16-F10 -mhgp100(2x105)を、致死量未満の放射線照射(600 cGy)マウスに静脈内注射した。マウスを無作為化し、対照(n=10)またはヒドロキシクエン酸カリウム(n=10)条件で処理した1×105 Pmel-1 Ly5.1 T細胞を10日目に静脈内注射した。2週間後、マウスを安楽死させ、肺を集めて肺結節を数えた。
(レトロウイルス形質導入)
【0074】
プラチナ-Eエコトロピック(PlatE)パッケージング細胞(Cell Biolabs、San Diego、CA)を、トランスフェクションの1日前に、ポリ-d-リジンでコーティングした10cmプレート(Corning、Corning、N)上に、完全培地中プレートあたり6×106細胞の濃度でプレーティングした。トランスフェクションの日に、完全培地を、抗生物質を含まない培地と交換した。パッケージング細胞を、MSGV-LC3-mcherry-eGFP-Thy1.1、MSGV-LC3G120A-mcherry-eGFP-Thy1.1(G120A-オートファジー非効率コンストラクト)をコードする20μgのレトロウイルスプラスミドDNAで、60μlのLIPOFECTAMINE 2000トランスフェクション試薬を使用したOPTIMEM還元血清培地(Invitrogen)中12μgのpCL-Ecoプラスミドとともに、8時間トランスフェクトした。トランスフェクションの8時間後に培地を交換し、完全培地でさらに48時間細胞をインキュベートした。ウイルス粒子を捕獲して効率的な形質導入を行うために、24ウェルのRETRONECTIN試薬(タカラバイオ、滋賀、日本)でコーティングした非組織培養処理プレートで、レトロウイルス上清を32℃で2時間、2,000gで遠心した。
(AcCoAとクエン酸塩の定量化)
【0075】
対照またはヒドロキシクエン酸カリウムの条件で培養したT細胞(n = 3)を集め、PBSで洗浄し、AcCoAとクエン酸塩の総レベルおよび細胞質レベルを測定した。サンプルを、キットに記載されている指示に従って、氷上で10分間、1% TRITON X-100非イオン性界面活性剤、20mM Tris-HCl、pH = 7.4、150mM NaCl中(Sigma Acetyl-Coenzyme A アッセイキット-MAK039)、またはクエン酸緩衝液(Sigma Citrateアッセイキット--MAK057)(Sigma、St. Louis、MO)中で、ホモジナイズした。総AcCoAを定量化するために、50μMのDTTを添加した5%スルホサリチル酸または80%メタノールを使用して、ペレット化した細胞を抽出した。細胞溶解後、アッセイの前に、サンプルを10 kDaの分子量カットオフ(MWCO)スピンフィルターで除タンパクした。蛍光定量アッセイ(Ex = 535、Em = 587)を使用してまたは質量分析により、AcCoA濃度を標準AcCoAで内挿した。クエン酸塩濃度は、比色分析(570 nm)を使用して標準クエン酸塩で内挿した。
(ChIP-seq および ChIP-PCR)
【0076】
以前の文献(Gray et al., Immunity, 46(4): 596-608 (2017); Peng et al., Science, 354(6311): 481-484 (2016))により確認された抗体を用いて、クロマチン免疫沈降を実施し、CHIP-ITエクスプレスシアリングキット(Active Motif、Carlsbad、CA)が提供する製造説明書に従ってプロトコルを行った。簡単に説明すると、CD8+ Pmel-1細胞をロッキングプラットフォーム上で、7分間ホルムアルデヒドで固定し、1Xのグリシンで停止した。細胞をフェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)とタンパク質阻害カクテルとともにペレット化し、細胞溶解前に-80で保存した。解凍した細胞を、氷冷溶解緩衝液に懸濁して細胞核物質を得た。37oCで15分間酵素カクテルとインキュベートすることにより、細胞核物質をせん断した。合計7.5μg/サンプルのせん断クロマチンを、抗H3K27Ac(Abcamカタログ番号ab4729)、H3k9Ac(Abcamカタログ番号ab4441)(Abcam、Cambridge、UK)および抗IgGを含むプロテインG磁気ビーズと、4oCで一晩インキュベートした。磁気ビーズを緩衝液で洗浄して非結合の免疫複合体を除去し、150μlの溶出緩衝液で溶出した。得られたDNAを逆架橋し、フェノールクロロホルムで精製した。ChIP DNAの濃度は、DNAを正規化するための磁気テープ装置で高感度DNAアッセイプロトコルを使用して測定した。サンプルを、イルミナNext seqシステム(Illumina、San Diego、CA)によりシングルエンドモードで75 bpのリードでシーケンスした(サンプルあたり約40Mのリード(reads))。チップシーケンシングの結果を検証するために、ChIP-PCRをIfng遺伝子座で実施した。Ifng遺伝子座におけるさまざまな処理条件でのチップ(Chip)の濃縮と効力を、ABI SYBR Green PCRマスターミックス増幅キット(Thermo Fischer Scientific、Waltham、MA)を使用したqPCRによって測定した。さまざまな処理条件でのクロマチン濃縮を、インプットしたDNAを希釈したものから作成した検量線で推定した。以下のプライマーをqPCRに使用した:Ifngプロモーター F:5'-GGAGCCTTCGATCAGGTATAAA-3'(配列番号1)Ifngプロモーター R:5'-CTCAAGTCAGAGGGTCCAAAG-3'(配列番号2)。
(ChIP-Seqおよびピークコール分析(peak calling analysis))
【0077】
イルミナパイプラインソフトウェア(イルミナ)を使用して、シングルエンド75bpのシークエンスリード(Sequenced reads)を得た。シークエンスリードをアダプター用にトリミングし、Bowtie v2でマウスゲノム(NCBI37 / mm9)にアラインし、特異的にマップされたリードのみを維持した。Bowtieのアウトプット(output)を、各リードのゲノム座標(genomic coordinates)を表すBAMファイルに変換した。RPKMを使用してBamファイルを正規化し、ディープツール(deeptools)(Command #BamCoverage -b Bam_File --normalizeUsingRPKM --binSize 10 --smoothLength 30 -bl mm9.blacklist.bed --centerReads --minMappingQuality 30 -o Output_File.bw)を使用して、ビッグウイッグ形式(big wig format)でカバレッジトラック(coverage tracks)に変換した。生成したトラックを、IGV(Integrative Genomics Viewer)を使用して表示した。ピークを、Homerソフトウェアを使用して(# findPeaks Tag_directory -i Input -region -size 1000 -minDist 2500 >Output.txt)により呼び出し、コントロール条件とテスト条件間の濃縮の統計的有意性を、Deseq2を用いた2つの生物学的複製物で計算した。ログ倍数の変化(Log fold change)とDesq2アウトプットファイルから得られたP値を使用して、ボルケノプロット(Volcano plots)を行った。
(統計分析)
【0078】
養子移入の実験のために、レシピエントマウスを細胞移入の前に無作為化した。腫瘍測定値を、各データポイントについて平均±標準誤差(mean ± s.e.m)としてプロットし、ウィルコクソン順位和検定を使用して腫瘍治療グラフを比較し、ログランク検定を使用して動物の生存分析を評価した。すべての場合において、0.05未満のP値は有意であるとみなした。統計は、GraphPad Prism 7ソフトウェア(GraphPad Software Inc.、La Jolla、CA)を使用して計算した。
【0079】
実施例1
本実施例は、ヒドロキシクエン酸カリウムの曝露により、T細胞に、クエン酸塩の蓄積および細胞質AcCoAの欠乏が生じることを実証する。
【0080】
T細胞表現型における細胞質アセチル-CoA(AcCoA)存在量の影響を評価するために、AcCoA代謝と相対的存在量の操作を使用した。細胞質AcCoAは、酵素アデノシン三リン酸(ATP)クエン酸リアーゼ(ACLY)による、クエン酸のAcCoAおよびオキサロ酢酸への変換によって生成し得る。ACLYの阻害剤である2-ヒドロキシクエン酸(ヒドロキシクエン酸カリウム)が、T細胞の成熟と機能に及ぼす影響を調べた(
図1)。
【0081】
細胞をヒドロキシクエン酸カリウムまたは陰性対照で処理した後に、細胞質クエン酸塩および細胞質AcCoAを定量化した。ヒドロキシクエン酸カリウムを含まない細胞培地を陰性対照とした。結果を
図2A-2Bに示す。核-細胞質AcCoA濃度がT細胞機能を決定するモデルと一致して、ヒドロキシクエン酸カリウムの曝露により、クエン酸塩の蓄積と細胞質AcCoAの欠乏が生じることを見出した(
図2A-2B)。
【0082】
実施例2
本実施例は、ヒドロキシクエン酸カリウム処理によって、T細胞においてIFN-γプロモーターでの活性化ヒストンマーク(activating histone marks)が減少することを実証する。
【0083】
ヒストンアセチル化は、DNA-ヒストン塩橋を破壊するように作用し、ユークロマチン構造の組織化および局所遺伝子転写の増加を可能にする(Garcia-Ramirez et al., J. Biol. Chem., 270: 17923-17928 (1995))。転写誘導に関連するヒストンマークである残基9および27のリジンでのヒストンH3タンパク質アセチル化の、クロマチン免疫沈降シーケンシングおよびPCR(ChIP-SeqおよびChIP-PCR)を、T細胞をヒドロキシクエン酸カリウムまたは陰性対照で処理した後に実施した。
【0084】
結果を
図2Cに示す。ChIP-PCRの定量化により、ヒドロキシクエン酸カリウムで処理した細胞においてIFN-γ遺伝子座でのH3K9Acの沈着が減少することが示された。したがって、ヒドロキシクエン酸カリウムでの処理後に、IFN-γプロモーターでの活性化ヒストンマークの減少(
図2C)を観察した。
【0085】
実施例3
本実施例は、T細胞をヒドロキシクエン酸カリウムで処理すると、オートファジーが増強することを実証する。
【0086】
T細胞をヒドロキシクエン酸カリウムまたは陰性対照で処理した。mCherry+集団における緑色蛍光タンパク質(GFP)の低下を測定することにより、オートファジーフラックス(autophagy flux)を決定した。生細胞のオートファジーフラックスを評価するために、動的蛍光GFP-mCherry-LC3b融合レポーターシステム(Xu et al., Nat. Immunol., 15: 1152-1161 (2014))を使用した。このコンストラクトを使用して、オートファゴソームがリソソームと融合する際のmCherry+集団内のGFPの低下によってオートファジーフラックスを測定し、これは、オートファジー分解によるGFP-LC3bの消費、または低オルガネラ内pHによるGFP強度の低下を示す。120位でのグリシンからアラニンへの置換(G120A)を伴うオートファジー機能不全コンストラクトは、GFP低下の陰性対照として機能した。
【0087】
GFPについて陽性または陰性であるmCherry陽性細胞の割合をフローサイトメトリーによって測定し、表Aおよび
図12A-12Bに示す。ヒドロキシクエン酸カリウム処理後に増強したオートファジーを観察した。
【0088】
【0089】
実施例4
本実施例は、T細胞をヒドロキシクエン酸カリウムで処理すると、エフェクター分化が遮断されてアポトーシスが減少することを実証する。
【0090】
CD8+ Pmel-1 T細胞を、5mMヒドロキシクエン酸カリウムの存在下で5日間、mhgp100ペプチドで活性化し、続いて抗CD3(1μg/ml)および抗CD28(1μg/ml)で二次刺激した(
図7A)。10日目に、細胞を、表面マーカーまたは細胞内サイトカインについて分析した。
【0091】
対照または2-ヒドロキシクエン酸(ヒドロキシクエン酸カリウム(5mM))で培養したT細胞における、CD62L対CD44陽性細胞およびIFN-γ+産生の代表的なフローサイトメトリー分析と定量化を、表Bおよび
図7Aと7Bに示す。CD62L(L-セレクチンとも呼ばれる)は、リンパ系ホーミングマーカーであり、持続性を備えるT
Mem集団の証である。示された表現型を有する細胞の割合を表Bに示す。
【0092】
【0093】
対照またはヒドロキシクエン酸カリウムで培養した、生集団(アネキシンV-PI-)、アポトーシス集団(アネキシンV+PI-)およびネクローシス集団(アネキシンV+PI+)の割合を決める代表的なFACSデータを表Cおよび
図8に提供する。示された表現型を有する細胞の割合を表Cに示す。
【0094】
【0095】
CD8+ T細胞の絶対数を、培養の過程にわたって定量化した。結果を
図9に示す。
【0096】
結果は、ヒドロキシクエン酸カリウムの存在下におけるエフェクター分化の遮断(表Bおよび
図7B-7C)および細胞アポトーシスの減少(表Cおよび
図8-9)を示す。
【0097】
実施例5
本実施例は、T細胞をヒドロキシクエン酸カリウム処理することにより、TMemマーカーの獲得を元に戻すことを実証する。
【0098】
ヒドロキシクエン酸カリウムと酢酸塩の組み合わせ、ヒドロキシクエン酸カリウム単独、または陰性対照で、T細胞を処理した。CD62Lの発現を、蛍光活性化セルソーティング(FACS)によって測定した。結果を
図3A-3Bに示す。FACSデータは、ヒドロキシクエン酸カリウムで処理した細胞に外部酢酸塩を供給することにより、CD62L表現型が元に戻ることを示した。
【0099】
IFN-γ分泌もまたFACS(表D)によって測定し(表D)、対照、ヒドロキシクエン酸カリウム単独、またはヒドロキシクエン酸カリウムと酢酸塩の組み合わせで処理した後、定量化した(
図13)。IFN-γ陽性細胞の割合を表Dに示す。
【0100】
【0101】
細胞質AcCoAを、ヒドロキシクエン酸カリウムと5mM酢酸塩の組み合わせ、ヒドロキシクエン酸カリウム単独、または対照(ヒドロキシクエン酸カリウムも酢酸塩もない)で処理した後、定量化した(
図14)。
【0102】
オートファジーの消失を、ヒドロキシクエン酸カリウムと5mMの酢酸塩の組み合わせ、ヒドロキシクエン酸カリウム単独、または対照(ヒドロキシクエン酸カリウムも酢酸塩もない)で処理した後、イムノブロットによって測定した。ベータアクチンを対照として使用した。オートファジーフラックスの定量化は、LC3II/LC3I強度の比率で表した。結果を表Eに示す。
【0103】
【0104】
外因性酢酸塩の提供は、ヒドロキシクエン酸カリウム処理を受けた細胞質AcCoAレベルを回復させ(
図14)、やはりT
MemマーカーCD62Lの獲得も元に戻し、オートファジーも減少させ、エフェクター機能も促進した(
図3A-3Bおよび表D-E)。
【0105】
実施例6
本実施例は、T細胞をヒドロキシクエン酸カリウムで処理することにより、養子移入後のインビボ持続性が増強し、抗腫瘍効果が改善することを実証する。
【0106】
Pmel-1 T細胞を、陰性対照(n=10)またはヒドロキシクエン酸カリウム(n=10)中で培養した。処理細胞を、B16-mhgp100腫瘍を有するマウスに移入した。腫瘍を有するマウスの脾臓に移入したLy5.1+CD8+T細胞の、フローサイトメトリー分析および絶対数の定量化を移入後7日目に実施した。代表的なフローサイトメトリーの結果(Ly5.1+CD8+T細胞の割合)を表Fに示す。移入したLy5.1+CD8+T細胞の絶対数の定量化の結果を
図4に示す。
【0107】
【0108】
抗腫瘍効果および生存率を測定した。結果を
図5(抗腫瘍効果)および
図6(生存)に示す。
【0109】
養子移入した対照またはヒドロキシクエン酸カリウムT細胞を、CD8+Ly5.1+でゲートし、FACSによって分析し(表G)、定量化した(
図10)。ワクシニアrhgp100 の1×10
7プラーク形成ユニット(PFU)をマウスに接種することにより、リコール応答(recall responses)を測定した。代表的なFACSデータ(示された表現型を持つ細胞の%)を表Gに示す。
【0110】
【0111】
対照(n=10)またはヒドロキシクエン酸カリウム(n=10)で処理したT細胞で処理した後14日目の、肺あたりのB16-F10肺転移性結節の数を定量化した。結果を
図11に示す。
【0112】
機能的に、ヒドロキシクエン酸カリウム処理によって、養子移入後のインビボ持続性が増強し、抗腫瘍効果が改善した(
図4-6、表F-G、および
図10-11)。
【0113】
実施例7
本実施例は、T細胞をヒドロキシクエン酸カリウムで処理することにより、B16黒色腫モデルにおける抗腫瘍効果が改善するが、クエン酸塩ではしないことを実証する。
【0114】
脾細胞を単離し、対照(ビヒクル)、クエン酸塩、またはヒドロキシクエン酸カリウム中で培養し、再刺激し、
図15に示すようにB16-mhgp100腫瘍を有するマウスに移入した。移入したT細胞の持続性を、脾臓で10日目に分析した。養子移入した対照または処理細胞を、FACSによってCD45.2およびCD45.1の発現について分析し、定量化した(CD8+Ly5.1でゲートした)(表Hおよび
図16)。代表的なFACSデータ(CD45.1陽性/CD45.2陰性細胞の割合)を表Hに示す。
【0115】
【0116】
養子細胞移入後の抗腫瘍効果も測定した。結果を
図17A-17Cに示す。
【0117】
表H、
図16、および
図17A-17Cに示すように、T細胞をヒドロキシクエン酸カリウムで処理すると、B16黒色腫モデルにおける抗腫瘍効果が改善するが、クエン酸塩ではしない。
【0118】
実施例8
本実施例は、ヒドロキシクエン酸カリウム処理がヒト腫瘍浸潤リンパ球(tumor infiltrating lymphocytes)の多機能性を改善することを実証する。
【0119】
ヒトTILを、刺激なしで、ビヒクル中で、またはヒドロキシクエン酸カリウム(2.5または5mM)中で培養した。細胞を、腫瘍壊死因子(TNF)およびIL-2の発現について分析した。代表的なデータを
図18A-18Bおよび19A-19Bに示す。
図18A-18Bおよび19A-19Bに示すように、ヒドロキシクエン酸カリウム処理はヒトTILの多機能性を改善する。
【0120】
実施例9
本実施例は、T細胞をヒドロキシクエン酸カリウムで処理すると、CD62Lの発現が増加することを実証する。
【0121】
様々な組織由来のヒトCD8+ TILを、ヒドロキシクエン酸カリウム(5mM)の存在下または非存在下(対照)で培養した。簡単に説明すると、新鮮な腫瘍消化物由来のTILを、5%インハウスヒト血清(100μg ml-1ストレプトマイシンおよび100μg ml-1ペニシリン、2mM l-グルタミン、10μg ml-1ゲンタマイシン)を補充した、RPMI 1640・AIM-V中、3,000 IU ml-1 IL-2で約14日間培養して増殖させた照射末梢血単核細胞(PBMC)を使用した急速増殖プロトコル(rapid expansion protocol)(REP)に、30ng ml-1 OKT3とともに供した。
【0122】
CD62Lの発現はFACSによって測定した。結果を
図20-22Bに示す。TILにヒドロキシクエン酸カリウムを供給することにより、TIL増殖中のリンパ系ホーミングマーカーCD62Lが比較的高い発現を維持した。具体的には、
図20は、対照TILと比較したヒドロキシクエン酸カリウム培養TILの、TIL増殖中のリンパ系ホーミングマーカーCD62Lが比較的高い発現を示す(56.2対66.6、14%増加)、ヒトTILの代表的なFACSデータを提示する。
図21は、陰性対照またはヒドロキシクエン酸カリウムで処理した後のCD62Lを発現する細胞の割合(最大値の%)を示すグラフである。
図22Aおよび22Bは、2つの患者サンプル(患者Aおよび患者B)のCD45RO
+CD62L
+ について
図21に示したデータの定量化を示す。
【0123】
本明細書において引用した刊行物、特許出願、および特許を含むすべての参考文献は、各参考文献が個別に、具体的に、参照により取り込まれることが示されているのと同程度に、かつ全体が本明細書に記載されているのと同程度まで、参照することにより本明細書に取り込まれる。
【0124】
本発明を説明する文脈(特に、以下の特許請求の範囲の文脈)における用語「a」および「an」および「the」および「少なくとも1つ」ならびに同様の指示対象の使用は、本明細書に別段の指示がない限り、または文脈によって明確に矛盾しない限り、単数形と複数形の両方を含むものとして解釈される。1以上の項目の列記が続く、用語「少なくとも1つ」の使用(例えば、「少なくとも1つのAおよびB」)は、本明細書に別段の記載がない限り、または文脈によって明確に矛盾しない限り、列記された項目(AまたはB)から選択された1つの項目、または列記された項目(AおよびB)の2以上の任意の組み合わせを意味するものとして解釈される。「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」、および「含む(containing)」という用語は、特に明記しない限り、制限のない用語(open-ended terms)(すなわち、「含むが、これに限定されない(including, but not limited to)」を意味する)として解釈される。本明細書における値の範囲の列挙は、本明細書に別段の指示がない限り、単に範囲内の各別個の値を個別に指す簡略方法として役立つことを意図しており、本明細書において個々の値はそれぞれ個別に列挙されているかのように、明細書に取り込まれる。本明細書中に記載されたすべての方法は、本明細書中で別段の指示がない限り、または特に文脈によって明確に矛盾しない限り、任意の適切な順序で実施することができる。本明細書で提供される任意のおよびすべての例、または例示的な言語(例えば、「等(such as)」)の使用は、単に本発明をよりよく説明することを意図しており、特段特許請求されない限り、本発明の範囲を制限するものではない。本明細書中のいかなる言葉も、本発明の実施に不可欠であるとして、特許請求されていない任意の要素を示すものと解釈するべきではない。
【0125】
本発明を実施するための発明者が知るベストモードを含む、本発明の好ましい実施形態は、本明細書に記載される。これらの好ましい実施形態の変形は、前述の記載を読むことで当業者に明らかになり得る。本発明者らは、当業者がこのような変形を適宜使用することを予測し、本発明者らは本発明が本明細書に具体的に記載されたものとは別の方法で実施されることを意図する。したがって、本発明は適用法によって許容されるように、本明細書に添付した特許請求の範囲に記載された主題のすべての改変および均等物を含む。さらに、本明細書中で別段の指示がない限り、または特に文脈により明確に矛盾しない限り、それらのすべての可能な変形における上記要素の任意の組み合わせが本発明に包含される。
【配列表】